説明

積層フィルタ

【課題】通気性と対象物の捕集率とを同時に高めることが可能なフィルタを提供すること。
【解決手段】捕集層11と空間形成層12とを有する積層フィルタ10である。積層フィルタ10は、空間形成層12が、流体吸入の下流側に位置するように使用される。空間形成層12は、0.3kPa荷重下において、空間形成層12の見掛けの体積中に占める、空間形成層12の構成材料の体積の割合(%)である充填率が1〜7%であり、かつ同荷重下における厚みが1〜12mmである。捕集層11は、繊維径7〜35μmの不織布からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリスフィルタを始めとするフィルタ取り付け部材に取り付けられて用いられる積層フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
レンジフードの吸入口には、調理時に発生する油煙や埃等(以下、油煙等という。)によって排煙用のファン等が直接汚れないようにするために、これらを捕集するグリスフィルタと称される金属製のフィルタが取り付けられている。しかし、このグリスフィルタは、油煙等の捕集性が不十分でフード内部を汚してしまう上、掃除が面倒であるため、その手間を軽減するために、その外側に更に不織布等の素材からなる使い捨ての油捕集用フィルタが取り付けられて使用されている。このような油捕集用フィルタによる油煙等の捕集率を高めるための方法として、用いる繊維の繊維径を細くする、用いる繊維の量を増やすなどの方法でフィルタの目を細かくする方法が考えられる。しかし、そのようにしてフィルタの目を細かくして捕集率を高めると、フィルタ通過時の圧力損失が増大し通気性が低下する。このことは、フィルタの装着によって換気扇ファンの吸引を阻害し換気性能を低下させることにつながる。このように、風速と捕集率とはトレードオフの関係にある。したがって、フィルタの目を細かくしても風速を低下させない技術が必要とされている。
【0003】
前記の技術とは別に、特許文献1には、平均繊維径が0.5〜6.0μm、嵩密度0.05〜0.50g/cm3の極細不織布と、平均繊維径10〜60μm、嵩密度0.05〜0.50g/cm3の繊維シートとを積層し、高さ3〜100mmの凹凸状に成形したフィルタが記載されている。このフィルタは空気清浄機、掃除機、自動車、マスク等に用いられ、微細な粒子の捕集を長期間にわたり持続させることを目的とするものである。しかし、フィルタの目を細かくしても風速を低下させない技術に関しての開示はない。
【0004】
特許文献1と同様に、極細繊維不織布と、他の不織布とを積層し、全体を凹凸加工したフィルタが特許文献2にも記載されている。このフィルタにおいては、極細繊維不織布が濾過層として用いられ、他の不織布は支持体層として用いられる。この不織布としてはスパンボンド不織布が用いられている。しかし、この特許文献にも、フィルタの目を細かくしても風速を低下させない技術に関しての開示はない。
【0005】
これらの文献のほか、2層以上の不織布を積層し、吸引側(外側)に配される不織布を密なものとし、かつファン側(内側)に配される不織布を粗なものとしたフィルタとして特許文献3及び4に記載のものも知られているが、やはりフィルタの目を細かくしても風速を低下させない技術に関しての開示はない。
【0006】
【特許文献1】特開平4−180808号公報
【特許文献2】特開2000−271416号公報
【特許文献3】特開平8−24535号公報
【特許文献4】特開2000−218113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、捕集層と空間形成層とを有する積層フィルタであって、
前記積層フィルタは、前記空間形成層が、流体吸入の下流側に位置するように使用されるものであり、
前記空間形成層は、0.3kPa荷重下において、該空間形成層の見掛けの体積中に占める、該空間形成層の構成材料の体積の割合(%)である充填率が1〜7%であり、かつ同荷重下における厚みが1〜12mmであり、
前記捕集層が、繊維径7〜35μmの不織布からなる積層フィルタを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来はトレードオフの関係にあると考えられてきたフィルタの通気性と対象物の捕集率とを同時に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には本発明の積層フィルタの一実施形態の分解斜視図が示されている。本実施形態の積層フィルタ10は、捕集層11と空間形成層12とから構成されている。捕集層11と空間形成層12とは、接合一体化されているか、又は非接合状態で積層されている。捕集層11と空間形成層12とが接合一体化されている場合、両者の接合方法としては、これらの層の構成材料等に応じ、接着剤による接着や熱の作用による融着、及び超音波による融着等の公知の接合手段が採用される。
【0011】
積層フィルタ1は、図2に示すように、遮蔽部21を有するフィルタ取り付け部材20に取り付け部材に取り付けられて使用されるものである。フィルタ取り付け部材20としては、例えばレンジフードに設置されているグリスフィルタや、エアコンや排気ダクト等に備えられている格子状又はその他の形状の取り付け部材等が挙げられる。フィルタ取り付け部材20における遮蔽部21とは、フィルタ取り付け部材20におけるフィルタを支持するための部位のことである。この部位は流体の通過を遮蔽するので、本発明において遮蔽部21と呼んでいる。例えばフィルタ取り付け部材20がグリスフィルタである場合、グリスフィルタはバッフル型とメッシュ型に大別されるところ、バッフル型グリスフィルタのバッフル板が上述の遮蔽部に該当する。メッシュ型の場合、パンチングメタルやエキスパンドメタルの金属部分が遮蔽部に該当する。エアコンや排気ダクト等に備えられている取り付け部材における遮蔽部とは、例えばフィルタを支持する格子状の部位を言う。
【0012】
積層フィルタ10における捕集層11は、主として、吸引する流体中に含まれる物質を捕集する働きを有する層である。一方、空間形成層12は、積層フィルタ10がフィルタ取り付け部材20に取り付けられて使用される状態において、主として捕集層11とフィルタ取り付け部材20との間に空間を形成する働きを有する層である。積層フィルタ10は、空間形成層132が、流体吸入の下流側に位置するように配置されて使用される。
【0013】
本実施形態の積層フィルタ10は、嵩高で空間形成能の高い空間形成層12に特徴の一つを有する。詳細には、図3(a)に示すように、従来のフィルタ100においては、これを、遮蔽部21を有する取り付け部材20に取り付けると、フィルタ100のうち、遮蔽部21に対向していない部位においては、流体の流路が短いので取り付け部材20を通過するときの抵抗は小さいが(図中、Aで示す)、遮蔽部21に対向している部位においては、遮蔽部21によって流体の通過が妨げられ、遮蔽部21が存在していない部位まで迂回しないと流体が通過できない(図中、Bで示す)。その結果、流体の流路が長くなり、それに起因して通過抵抗が大きくなる。この理由により、従来のフィルタ100では、目的物を捕集するのに十分な流体の速度を確保することが容易ではなかった。これに対して、図3(b)に示すように、本実施形態の積層フィルタ10においては、これを、遮蔽部21を有する取り付け部材20に取り付けると、捕集層11と取り付け部材20の遮蔽部21との間に、空間形成層12に起因する空間Sが形成される。この空間Sの存在によって、積層フィルタ10のうち、遮蔽部21に対向している部位においても、流体は空間Sをショートカットして取り付け部材20を容易に通過できる。その結果、流体の流路長を図3(a)に示す場合よりも短くできるので(図3(b)中、B’で示す)、通過抵抗の増大を防止できる。この理由により、本実施形態の積層フィルタ10によれば、捕集層11の目を細かくしても、目的物を捕集するのに十分な流体の速度を確保することが可能となる。また、この理由から、空間形成層13は捕集層11と比較して充填率が低く通気度の高い疎な構造であることが好適である。つまり本実施形態の積層フィルタ10は、流体吸入の上流側が密(つまり繊維密度が高い)で、下流側(フィルタ取り付け部側)が疎(つまり繊維密度が低い)な層構造を持つフィルタであることが好適である。
【0014】
本実施形態における空間形成層12の空間形成能は充填率で表される。充填率とは、空間形成層12の見掛けの体積中に占める、該空間形成層12の構成材料の体積の割合(%)である。充填率はその値が小さいほど、空間形成層12の空間形成能が高いと判断される。
【0015】
空間形成層12は、その材質によっては、流体を濾過するときの吸引力によって厚み方向に圧縮され、その充填率が高くなることがある。このことは、十分な流体の速度を確保する観点からマイナスに作用する。したがって空間形成層12には、それに吸引力が作用しても十分な空間を確保できることが必要とされる。この観点から、本実施形態においては空間形成層12の充填率を0.3kPa荷重下で評価することとしている。この荷重下での充填率が1〜7%、好ましくは1〜3%であれば、積層フィルタ10の実使用において、吸引力が作用した状態でも流体の速度低下を十分に防止することが可能となる。
【0016】
上述した図3(a)及び(b)に関する説明から明らかなように、空間形成層12は、その充填率が低いことに加えて、空間S自体を十分に確保しないと、流体の速度低下を十分に防止することができない。本発明者らが検討した結果、0.3kPa荷重下での空間形成層12の厚みを1〜12mm、好ましくは1.3〜5mmに設定することで、上述した流体の流路長を十分に短くすることができることが判明した。0.3kPa荷重下での空間形成層12の厚みが1mm未満では、空間形成層12の空隙率を前記の範囲内に設定したとしても、流体の流路長を十分に短くすることができない。空間形成層12の厚みは、積層フィルタ10が装着される取り付け部材の遮蔽部の形状によっても変化するが、およそ5mm程度で流体の速度は上限に達する。それ以上厚みを上げても流体の速度にマイナスに作用することはないが、必要以上の厚みを持たせることは実用的ではなく、積層フィルタ10の厚みが無用に大きくなるので、その上限は12mmとした。
【0017】
0.3kPa荷重下での空間形成層12の充填率及び厚みは以下の方法で測定される
〔厚みの測定法〕
積層フィルタ10に0.3kPaの荷重を加えた状態で、顕微鏡を用いて積層フィルタ10の側面を観測する。空間形成層12の厚みを目視で10点測定し、それらを平均した値を空間形成層12の厚みとする。
〔充填率の測定法〕
以下の式を用いて算出する。
充填率(%)={空間形成層の坪量(g/m2)}×100/{構成繊維の密度(g/m3)×空間形成層の厚み(m)}
ここで坪量は、単位面積あたりの空間形成層12のシート重量である。厚みは前述した〔厚みの測定法〕により測定する。
【0018】
空間形成層12は、上述のとおり捕集層11とフィルタ取り付け部材20との間に空間を形成するための働きを有するものであるところ、この働きに加え、捕集層11の支持体としての働きも有することが、積層フィルタ10の取り扱い性が良好になる点から好ましい。この観点から、空間形成層12は、外力が加わったときに変形しづらい性質のものであることが好ましい。このような性質について本発明者らが検討した結果、空間形成層12はその破断強度が高いことが有利であることが判明した。また、空間形成層12はその伸度が低いことが有利であることが判明した。具体的には、空間形成層12の破断強度に関しては、この値が1〜150N/25mm、特に3〜100N/25mmであることが好ましい。伸度に関しては、0.5N/25mmの引張応力を加えたときの伸度が1〜15%、特に1〜8%であることが好ましい。破断伸強度及び伸度は、空間形成層12の機械方向(MD)及び幅方向(CD)のいずれか一方において前記の範囲を満たしていることが好ましく、両方向において前記の範囲を満たしていることが更に好ましい。MDとは、空間形成層12の製造時における流れ方向である。CDとは、MDと直交する方向である。
【0019】
空間形成層12の破断強度及び伸度は次の方法で測定される。
〔破断強度の測定法〕
積層フィルタ10から空間形成層12を剥離して、MDに100mm、該MDと直交する方向であるCDに25mmの寸法の長方形形状の測定片を切り出す。この切り出された長方形形状の測定片を測定サンプルとする。この測定サンプルを、そのMDが引張方向となるように、引張試験機のチャックに取り付ける。チャック間距離は50mmとする。測定サンプルを300mm/分で引っ張り、サンプル破断までの最大荷重点をMDの破断強度とする。また、積層フィルタ10から空間形成層12を剥離して、CDに100mm、MDに25mmの寸法の長方形形状の測定片を切り出し、これを測定サンプルとする。この測定サンプルを、そのCD方向が引張方向となるように引張試験機のチャックに取り付ける。上述したMDの破断強度の測定方法と同様の手順によってCDの破断強度を求める。
〔伸度の測定法〕
MD及びCDに関し、上述した〔破断強度の測定法〕と同様の手順で測定サンプルを用意し、その測定サンプルを引張試験機のチャックに取り付けて引っ張る。このときの条件も、上述した〔破断強度の測定法〕と同様である。荷重値が0.5Nのときにおける伸長した測定サンプルの長さを測定し、下記式から0.5N/25mm荷重時の伸度を求める。
伸度(%)={(伸長時の長さ−50)/50}×100
【0020】
空間形成層12は、それ単独で測定された通気性の程度が、400〜1000m/(kPa・s)、特に500〜1000m/(kPa・s)であることが、流体の速度を十分に高め得る点から好ましい。空間形成層12の通気度は、カトーテック(株)のKES−F8−AP1(通気性試験機)にて測定される。空間形成層12の通気度は、その坪量や厚み、あるいは空間形成層12が繊維材料からなる場合にはその構成繊維の繊維径等を調整することでコントロールできる。具体的には、繊維径が太いほど、坪量が低いほど、厚みが高いほど通気度は向上する。
【0021】
空間形成層12は、嵩高な空間を形成し得る材料から構成されていることが好ましい。この観点から、空間形成層12は、繊維シート、及び発泡体等の多孔質体から構成されていることが好ましい。空間形成層12が繊維シートから構成されている場合、該繊維シートとしては不織布、織布、編み物地、ネット材料又はこれらの複合材料等を用いることができる。積層フィルタ10は一般に使い切りされるものなので、経済性を考慮すると繊維シートとして不織布を用いることが好ましい。
【0022】
不織布は、その製造方法に応じて目の粗いものや目の詰まったものが得られる。また、強度の高いものや低いものが得られる。空間形成層12に要求される上述の種々の特性を考慮すると、繊維シートとして不織布を用いる場合には、目が粗くかつ強度の高い不織布であるスパンボンド不織布を用いることが好ましい。
【0023】
繊維シートとして不織布を用いる場合、その坪量は10〜50g/m2、特に10〜30g/m2であることが、空間形成層12の通気性を十分に高める点から好ましい。
【0024】
また、繊維シートとして不織布を用いる場合、該不織布として、立体的な二次加工が施されたものを用いることも好ましい。これによって、上述の充填率を容易に達成することが可能となる。立体的な二次加工としては、互いに噛み合い形状となっている一対のエンボスロール間で加熱下に又は非加熱下に不織布を凹凸賦形する加工であるスチールマッチエンボス加工が一例として挙げられる。また、凹凸賦形部材上に載置された不織布に、高圧水流等の高圧流体を吹き付けて、該凹凸賦形部材に対応した形状の凹凸を賦形する立体賦形方法も用いることができる。更に、本出願人の先の出願に係る特開2004−174234号公報の図2ないし図5に記載の装置を用いた立体賦形方法も用いることができる。
【0025】
空間形成層12として特に好ましく用いられる繊維シートは、スパンボンド不織布をスチールマッチエンボス加工によって立体賦形したものや、ネット材料にスチールマッチエンボス加工によって立体賦形したものである。これらのシートは、構成繊維の目が粗く、かつ充填率が低いという特徴を有している。また、このシートは破断強度が高く、かつ伸度が低いという特徴を有している。
【0026】
空間形成層12として発泡体等の多孔質体を用いる場合、該多孔質体としてはポリウレタン製の発泡体が挙げられる。かかる発泡体も、構成繊維の目が粗く、かつ充填率が低いという特徴を有している。また、破断強度が高く、かつ伸度が低いという特徴を有している。そのような発泡体の具体例としては、三次元構造の骨格組織を有するポリウレタン製の発泡体であるブリジストン製のエバーライト(登録商標)SF・HR−08やSF・HR−13等が挙げられる。
【0027】
以上のとおり、空間形成層12は、主として捕集層11とフィルタ取り付け部材20との間に空間を形成する働きを有するところ、積層フィルタ10を例えばレンジフードに取り付けて使用される油捕集用フィルタとして用いた場合には、フィルタ取り付け部材20であるグリスフィルタの汚れ防止という働きも有する。この理由は、捕集層11において捕集された油煙等が、積層フィルタ10の厚み方向に移動する場合、嵩高で毛管力の弱い空間形成層11に阻まれてグリスフィルタにまで到達しづらいからである。この観点から、本実施形態の積層フィルタ10は、レンジフードの油捕集用フィルタとして特に好適である。
【0028】
捕集層11としては、流体の通過性を低下させずに、かつ目的物を十分に捕集できる程度の目の細かさを有しているものを用いることが好ましい。この観点から、捕集層11を、構成繊維の繊維径が7〜35μm、好ましくは10〜25μmの繊維シートから構成する。かかる繊維シートとしては、不織布を用いることが好ましい。
【0029】
捕集層11として不織布を用いる場合、該不織布としては、積層フィルタの具体的な用途に応じ、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、エアスルー不織布、エアレイド不織布、レジンボンド不織布、ニードルパンチ不織布等を用いることができる。
【0030】
不織布からなる捕集層11は、その坪量が20〜150g/m2、特に20〜100g/m2であることが好ましい。またその厚み(0.3kPa荷重下)は0.5〜10mm、特に1〜5mmであることが好ましい。更に捕集層11は、その単独での通気度が、25〜400m/(kPa・s)、特に40〜400m/(kPa・s)であることが、換気扇及びレンジフードの風速を十分に確保し、同時に捕集性、防汚性を確保するために好ましい。捕集層11の通気度は、カトーテック(株)のKES−F8−AP1(通気性試験機)にて測定される。捕集層11の通気度は、その坪量や厚み、あるいは捕集層11が繊維材料からなる場合にはその構成繊維の繊維径等を調整することでコントロールできる。具体的には、繊維径が太いほど、坪量が低いほど、厚みが高いほど通気度は向上する。しかし、これらは捕集性の観点からは逆に働く。つまり、繊維径が太いほど、坪量が低いほど、厚みが高いほど捕集率は低下する。このことから、通気度が高すぎると逆に捕集性が低下するため、ここでは通気度の上限を400m/(kPa・s)とした。
【0031】
特に捕集層11は、形態保持性に優れており、長期間の使用が可能なものであることが好ましい。この観点から、図4及び図5に示すように、捕集層11は、支持体11aの両面に繊維集合体11b,11cを有しており、該繊維集合体11b,11cを構成する繊維が、該繊維間で絡合していると共に、該支持体11aを骨格とした一体的な絡合状態を形成していることが好ましい。これらの図に示す捕集層11においては、支持体11aが、捕集層11の厚み方向の内部に存在しており、支持体11aの上下面が、繊維集合体11b,11cで覆われている。
【0032】
支持体11aは、有孔フィルム等の網状素材(網目を有する素材)からなるネットである。本実施形態では、支持体11aは二軸の格子状である。しかし支持体11aとしては、これに限られず、三軸のものや、ネットではないもの、例えば不織布であっても良い。つまり、一定の孔を有し、繊維集合体を形成する繊維ウエブが絡合状態で一体化する担体であれば支持体の種類に特に限定はない。例えば、ガーゼ状の織布のように織り目空間の比較的大きな目の粗い織布、あるいは片面又は両面に繊維集合体11b,11cを重ね合わせてそれらを絡合状態で一体化し得る繊維空隙を有する不織布等も支持体11aとして用いられる。
【0033】
支持体11aの厚みは、繊維集合体11b,11cを構成する繊維径の好ましくは5〜1000倍、更に好ましくは10〜300倍、一層好ましくは15〜50倍である。この範囲の厚みにすることで、捕集層11にたるみ等が生じない程度の強度が付与される。支持体11aの線径は20〜1000μmが好ましく、更に好ましくは100〜300μmである。支持体11aの線径は部分的に異なっていても良く、その場合は太い部分の線径が前記の値に相当する。この線径が支持体11aの厚みに相当する。支持体11aの線間距離は5〜20mmが好ましく、更に好ましくは8〜15mmである。支持体11aの坪量は、0.1〜100g/m2、特に1〜30g/m2であることが好ましい。
【0034】
一方、繊維集合体11b,11cの坪量はそれぞれ、20〜150g/m2であることが、捕集層11の捕集率及び形態保持性を確保する上で好ましい。この場合、各繊維集合体11b,11cの坪量は同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0035】
図4に示す捕集層11は、支持体11aの各面に、繊維集合体11b,11cの元となる繊維ウエブを積層させ、この状態で該繊維ウエブに向けて高圧水流を噴射して、支持体11aの片面側にある繊維ウエブの繊維と他面側にある繊維ウエブの繊維、及び繊維ウエブの繊維と支持体11aを絡合一体化させるのと同時に、各繊維ウエブを絡合により不織布状の繊維集合体として支持体11aに固定することで製造される。即ち、この捕集層11は広義にはスパンレース不織布である。
【0036】
図4に示す捕集層11に代えて、捕集層11としてエアスルー不織布を用いることも好ましい。エアスルー不織布は嵩高な構造体を形成できるので、圧力損失を低減できるからである。また、嵩高ではあるものの、一般にエアスルー不織布は破断強度が弱いという性質を有するが、捕集層11とともに用いられる空間形成層12が捕集層11の支持体として働くので、捕集層11が特別な支持体を含まなくても、積層フィルタ全体としては十分な強度を保つことができる。
【0037】
空間形成層12として凹凸加工を施したスパンボンド不織布を用いる場合、捕集層11は、その各面が平面状であることが望ましい。つまり、捕集層11の各面は凹凸を有していないことが望ましい。この理由は、捕集層11の各面が平面状であることで、凹凸状のスパンボンド不織布によって形成される空間を十分に生かすことができるからである。また、捕集層11の各面が平面状である方が、該捕集層11の製造上の加工が行いやすく、また扱いが容易なので、空間形成層12との複合も容易である。更に、捕集層11の各面が平面状であると、該捕集層11に後加工を施さなくて良いので、後加工に起因する厚みの低下による通気度の低下を招かず、またコストの面でも有利である。
【0038】
積層フィルタ10を、例えばレンジフードに取り付けて使用される油捕集用フィルタとして用いる場合には、捕集層11として、外方を向く第1層と、空間形成層12の側を向く第2層とを有し、第2層の構成繊維の表面が撥油性を有しているものを用いることが、油滴の裏抜けが効果的に防止されるので好ましい。また、空間形成層12に撥油加工を施すか、その構成繊維に撥油性を有しているものを用いることが、油滴の裏抜けが効果的に防止されるので好ましい。この理由は次のとおりである。
【0039】
図6には、上述の構成の捕集層11の縦断面が模式的に示されている。この捕集層11においては、その厚み方向における片側の略半面の領域に存する繊維F1の表面が撥油性を有しており、残りの略半面の領域に存する繊維F2の表面は撥油性を有していない。この捕集層11を、繊維F2が存する側をレンジ側(外方を向く側)に位置させて使用した場合、同図に示すように、油成分Aは先ずレンジ側に位置する繊維F2に付着する。繊維F2は撥油性を有していないので、繊維F2に付着した油成分Aは、繊維F2の表面に濡れ広がり油膜Mを形成する。油膜Mを構成する油成分Aは毛細管現象によって、ファン側に向かって捕集層11の厚み方向に移行する。ファン側に向かって移行する油成分Mは繊維F1が存する領域まで到達すると、該繊維F1の有する撥油性によって油膜Mの形成が妨げられ、また毛細管現象による移行も妨げられる。その結果、繊維F1の表面において油滴の状態で存在するようになり、毛細管力が作用しづらくなる。その結果、油成分Aは捕集層11のファン側に移動しづらくなる。このような理由によって油成分Aの裏抜けが防止される。捕集層11に加え、空間形成層12の構成繊維の表面を撥油性にすると、同様の機構により油成分Aの裏抜けが一層効果的に防止される。また、捕集層11の構成繊維の表面が撥油性でなくても、空間形成層12の構成繊維の表面が撥油性であれば、同様の機構により油成分Aの裏抜けを防止することができる。
【0040】
繊維の表面が撥油性を有するようにするためには、(イ)撥油剤を有していない繊維を用いて不織布を作製し、その後に撥油剤又は撥油剤を添加した樹脂を塗工する等、繊維の表面を撥油性処理する方法、(ロ)撥油性の繊維を用いて捕集層11を作製する方法がある。(イ)の場合、例えば繊維の表面にフッ素系撥油剤をコーティング処理して撥油性を付与すればよい。
【0041】
繊維の表面をフッ素系撥油剤でコーティング処理するためには、例えば繊維の表面にフッ素樹脂のエマルジョンを付与し、これを乾燥させればよい。これによって繊維の表面にフッ素樹脂を膜状に付着させることができる。乾燥後に熱処理を施すことで、繊維の表面に付着したフッ素樹脂の密着性を高めることができる。フッ素樹脂のエマルジョンを繊維の表面に付与するには、例えば該エマルジョンをディッピング(含浸)させたり、該エマルジョンをスプレー噴霧したり、該エマルジョンを泡立て処理したりすればよい。その他の方法として、希釈フッ素ガス、低温プラズマによるもの、グロー放電によるスパッタリングによって、繊維の表面をフッ素化し撥油性を付与することができる。
【0042】
フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン樹脂、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂、ヘキサフルオロプロピレン・フッ化ビニリデン共重合体、及びポリイミド系変性フッ素樹脂、PPS系変性フッ素樹脂、エポキシ系変性フッ素樹脂、PES系変性フッ素樹脂、フェノール系変性フッ素樹脂、パーフルオロアルキルエチレン基を有するアクリレート重合体やメタクリレート共重合体等が挙げられる。また、フッ素樹脂のエマルジョンを用いることもできる。そのようなエマルジョンとしては、例えば旭硝子製のフッ素樹脂であるアサヒガード(登録商標)AG−7000を用いることができる。
【0043】
フッ素樹脂を付着させる量は、フッ素樹脂を付着させる前の繊維の重量に対して0.1〜10重量%、特に0.5〜2重量%とすることが好ましい。付着量を0.5重量%以上とすることで、繊維の表面に十分な撥油性を付与することができる。また付着量を10重量%以下とすることで、過剰付着に起因するフィルタの通気性の低下が防止される。
【0044】
繊維自体を、撥油性を有する材料から構成する場合、該材料としては、上述した各種のフッ素樹脂を用いることができる。
【0045】
撥油性処理に使用する撥油剤として、フッ素系撥油剤以外に、一部の界面活性剤を用いることもできる。そのような界面活性剤は、これを不織布に塗工し乾燥させることによって、撥油性を発現させることができる。例えば、非イオン性界面活性剤であるアルキルグルコシド、両性界面活性剤であるラウラミドプロピルベタインを不織布に塗工し乾燥させることによって、繊維に撥油性を付与できる。また、フッ素を配合した油剤を表面に塗布した繊維のなかには、加熱することにより繊維表面が撥油性を示すものがあり、そのような繊維を本発明で使用することもできる。そのような繊維の例としては、宇部日東製の超撥油不織布用原綿、UCファイバー HR−PLEが挙げられる。
【0046】
撥油性の繊維を用いて不織布を作製する場合に用いられる該繊維としては、フッ素が練り込まれた繊維、フッ素樹脂からなる繊維が挙げられる。そのような繊維の例としては、東レ製のフッ素繊維であるトヨフロン(登録商標)や、デュポン製のテフロン(登録商標)等が挙げられる。
【0047】
撥油処理した捕集層11は、次の方法で製造できる。支持体11aの各面に、繊維集合体11b,11cの元となる繊維ウエブを積層させ、この状態で該繊維ウエブに向けて高圧水流を噴射する。このとき、一方の繊維集合体として、撥油性のある繊維を用いる。また、構成繊維として熱融着性の繊維を用いた場合には、積層させたウエブに熱風を吹き付けることによって繊維どうしを融着させ、シート化することにより製造することもできる。このとき、一方の繊維集合体として、熱融着性かつ撥油性のある繊維を用いる。そのような繊維の例としては、宇部日東製の超撥油不織布用原綿、UCファイバー HR−PLEが挙げられる。
【0048】
一方、撥油処理した空間形成層12は、例えば次の方法で製造できる。すなわち、上述した撥油性繊維からなるスパンボンド不織布、又はスパンボンド不織布に撥油加工を施したものに、スチールマッチエンボス加工を施し凹凸状にすることで、撥油処理した空間形成層12を製造できる。
【0049】
以上の構成を有する本実施形態の積層フィルタ10は、上述したとおり、レンジフードの油捕集用フィルタとして特に有用であり、その他にエアコン用フィルタや排気用ダクトのフィルタ等の気体用フィルタとして有用である。また、浴室の排水溝用防汚フィルタ、浄水器用フィルタを始めとする各種の液体用のフィルタとしても用いることができる。本実施形態の積層フィルタ10においては、空間形成層12よりも捕集層11の方が低通気性なので、積層フィルタ10の通気性は捕集層11の通気性によって支配される。したがって、積層フィルタ10の通気度は、捕集層11の通気度と実質的に同じになる。
【0050】
本発明の積層フィルタを、換気扇やレンジフード用の油捕集用フィルタとして用いる場合、上述の各実施形態のいずれの場合であっても、安全性の観点から、その構成繊維は防炎性であることが好ましい。例えば、ガラス繊維、炭素繊維などの不燃性繊維、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクラール、難燃ポリエステル、難燃アクリル、難燃レーヨン、難燃ポリプロピレン、難燃ポリエチレンなどの難燃性繊維を用いることが好ましい。あるいは、不燃物繊維及び/又は難燃性繊維を混綿することが好ましい。難燃性繊維とはLOI値が26以上の繊維のことである。
【0051】
積層フィルタの構成繊維が不燃性繊維や難燃性繊維でない場合、又は不燃性繊維や難燃性繊維であっても防炎性が不十分である場合には、後加工工程でハロゲン系又はリン系の難燃剤を繊維に施したり、ポリホウ酸の難燃剤を繊維に施したりしてもよい。あるいは難燃剤を含んだ樹脂をバインダとして繊維表面に施して、その被膜を形成してもよい。
【0052】
フィルタの構成繊維が不燃性繊維や難燃性繊維でない場合には、該構成繊維として公知の繊維形成用合成樹脂からなる合成繊維、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィン系材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系材料、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系材料、ポリアクリルニトリル系材料、レーヨン、各種ゴム等からなる繊維を用いることができる。また、ポリ塩化ビニル等のビニル系材料や、ポリ塩化ビニリデン等のビニリデン系等からなる繊維を用いることもできる。更に、これらの材料の変成物、アロイ又は混合物等からなる繊維を用いることもできる。
【0053】
また、本発明の積層フィルタを構成する全ての不織布層が、上述の難燃性不織布で構成される必要はなく、積層フィルタ中の一層、特に捕集層のみが難燃性不織布で構成されていても良い。フィルタ利用時に捕集層はコンロ側に位置しており、炎や熱にさらされる危険性が高いからである。
【0054】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば図4に示す捕集層11は、支持体11aの両面に繊維集合体11b,11cを有していたが、これに代えて支持体11aの一方の面にのみ繊維集合体を積層してもよい。また、支持体を含まなくても、空間形成層が十分な強度を有している場合には、積層フィルタ全体として十分な強度を保つことができることから、支持体11aを必ずしも含む必要はない。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0056】
〔実施例1〕
(1)捕集層の製造
坪量46g/m2のエアスルー不織布を製造した。この不織布は、芯がポリエチレンテレフタレートで、鞘がポリエチレンからなる芯鞘型複合繊維(繊維径17μm)から構成されていた。この不織布の通気度は112m/(kPa・s)、0.3kPa荷重下での厚みは4mmであった。
【0057】
(2)空間形成層の製造
坪量23g/m2のスパンボンド不織布を製造した。この不織布は、ポリプロピレン繊維(繊維径6.6dtex)から構成されていた。この不織布を、スチールマッチエンボス加工に付して立体賦形した。立体賦形後の不織布の充填率は、0.3kPa荷重下において1.3%、厚みは同荷重下において1.9mmであった。また、通気度は650m/(kPa・s)であった。
【0058】
(3)積層フィルタの製造
得られた捕集層と空間形成層とを重ねて、超音波エンボスによって溶解融着し一体化した。これによって目的とする積層フィルタを得た。
【0059】
〔実施例2及び3並びに比較例1ないし5〕
捕集層及び空間形成層として表1に示すものを用いる以外は実施例1と同様にして積層フィルタを製造した。
【0060】
〔実施例4〕
図4に示す捕集層を製造した。ポリプロピレン繊維(繊維径17μm、繊維長51mm)を原料とし、常法のカード法を用い坪量25g/m2の繊維ウエブを得た。支持体としてポリプロピレン製の格子状ネット(繊維間距離8〜10mm、線径200〜300μm、坪量5g/m2)を用い、その上下に該繊維ウエブを重合した後、水圧1〜5MPaの条件で複数のノズルから噴出した高圧ジェット水流で絡合一体化させ、スパンレース不織布を得た。それ以外は実施例1と同様にして積層フィルタを製造した。
【0061】
〔実施例5〕
空間形成層として、ブリジストン製のポリウレタン発泡体であるエバーライト(登録商標)SF・HR−08を用いた。これ以外は実施例1と同様にして積層フィルタを製造した。
【0062】
〔実施例6〕
空間形成層として、ブリジストン製のポリウレタン発泡体であるエバーライト(登録商標)SF・HR−13を用いた。これ以外は実施例1と同様にして積層フィルタを製造した。
【0063】
〔実施例7〕
日本スクリーン製のポリプロピレンネットであるボンディングクロスを、スチールマッチエンボス加工に付して立体賦形した。立体賦形されたネットを空間形成層として用いた。立体賦形前のネットは線径350μm、目開き670μmであった。これ以外は実施例1と同様にして積層フィルタを製造した。
【0064】
〔実施例8〕
図4に示す捕集層を製造した。ポリプロピレン繊維(繊維径17μm、繊維長51mm)を原料とし、常法のカード法を用い坪量25g/m2の繊維ウエブを得た。支持体としてポリプロピレン製の格子状ネット(繊維間距離8〜10mm、線径200〜300μm、坪量5g/m2)を用い、その上下に該繊維ウエブを重合した後、水圧1〜5MPaの条件で複数のノズルから噴出した高圧ジェット水流で絡合一体化させ、スパンレース不織布を得た。ただし、一方の繊維ウエブにはフッ素樹脂加工を施した。フッ素樹脂加工は、次の方法で行った。旭硝子製のフッ素樹脂エマルジョンであるアサヒガード(登録商標)AG−7000(固形分20%)を水で100倍に希釈し、固形分0.05%の液とした。前記で得られた不織布の重量に対し、この液を約500%塗布した。その後、電気乾燥機で乾燥させてフッ素処理を完了させた。このようにして、フッ素樹脂として0.25%(対繊維重量)付着させた。得られた捕集層と空間形成層とを重ね合わせた。このとき、捕集層におけるフッ素処理した層を空間形成層と対向させた。この状態下に、超音波エンボスによって両者を溶解融着し一体化した。これら以外は実施例1と同様にして積層フィルタを製造した。
【0065】
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られた積層フィルタについて、これを日立レンジ用フードファングリスフィルター、VP−60GFSに取り付けた。積層フィルタを直接レンジフードに装着して風速を測定すると、ダクト内外の気圧差やフードの隙間などが原因で、測定誤差が大きくなってしまうため、図7に示すように、レンジフードを模した装置を用いて風速測定を行った。ブロアーには昭和電気製、EC−100T−R313を用いた。その前方に口径直径14cm(面積154cm)、長さ60cmの筒を取り付け、その筒の内部におけるブロアーから57cm風上にグリスフィルタ及び積層フィルタを設置した。風速の測定には、日本カノマックス株式会社製の風速測定機モデル6541を用いた。測定は、フィルタの中心から3cm風上側(ブロアーから60cm風上側)で行った。その結果を以下の表1及び表2に示す。参考例1として、積層フィルタを取り付けず、グリスフィルタのみの場合の風速も測定した。
【0066】
〔評価2〕
実施例及び比較例で得られた積層フィルタについて、グリスフィルタの防汚性を以下の方法で評価した。その結果を以下の表1及び表2に示す。なお、参考例1として、積層フィルタを取り付けず、グリスフィルタのみの場合の防汚性も評価した。
財団法人ベターリビングが公表している優良住宅部品性能試験方法書における換気ユニット(台所ファン)フィルタの油捕集効率試験(BLT VU−08)を参考にして、試験順序を以下のように行った。図8にこの試験状態を示す。
1.コンロの上にのせたフライパンに食用油12.5g入れて1分間熱する。
2.上方より、水滴を200g/25分で滴下し油煙を発生させる。
3.発生した油煙を換気扇で排気する。
4.排気する際にフィルタで油分を捕集する。
5.1回の試験時間は、30分とし、3回行う。
6.フィルタを取り除きグリスフィルタの汚れ具合を目視して、下記の3段階で評価する。
○ グリスフィルタに油が付着していない。
△ グリスフィルタに油が若干付着している。
× グリスフィルタに油が多量に付着している。
【0067】
〔評価3〕
積層フィルタは、グリスフィルタの防汚性と同時に、ある程度の風速を確保することが必要である。風速が低すぎると、排気能力が低下し、レンジフード本体が汚染される。換気扇やレンジフードがその機能を十分に発揮するためには0.4m/s以上、好ましくは0.6m/s以上の風速が必要である。防汚性及び確保できる風速のどちらか一方でも欠けていても、フィルタとしての能力は十分ではない。そこで、下記の3段階で積層フィルタの総合的な能力を評価した。その結果を以下の表1及び表2に示す。なお、参考例1として、積層フィルタを取り付けず、グリスフィルタのみの場合の総合的な能力も評価した。
◎:防汚性が高く、かつ0.6m/s以上の風速を確保できている。
○:防汚性が高く、かつ0.4m/s以上の風速が確保できている。
△:防汚性が高いが、風速が0.4m/s未満であるか、又は風速は0.4m/s以上であるが、防汚性が低い。
×:防汚性が低く、かつ風速が0.4m/s未満である。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた積層フィルタ(本発明品)は、比較例で得られたそれぞれ同様の捕集層を持つ単層又は積層フィルタよりも風速及び防汚性が高いことが判る。また、換気扇やレンジフードがその機能を十分に発揮するためには0.4m/s以上の風速が必要であるところ、捕集層の通気度が低すぎる場合には、比較例4及び5のように風速が大きく低下するため実用に適さない。上述の測定及び評価で用いたファンは、一般のレンジフードで用いられているものと同様の機構で風速を発生しており、実際のレンジフードでも同様の現象が起こる。実施例3のフィルタは、比較例1のフィルタとほぼ同様の風速を有している。これは、空間形成層が同実施例における厚み以上の厚みを有していないと効果がないことを示している。しかし実施例3はスパンボンド層を有しているのでフィルタ全体の伸度が低く、それに起因して使用時の垂れ下がりが起こりにくいので比較例1より有利である。また、捕集した油の裏抜けも起こりにくく、防汚性が高いので有利である。
【0071】
また、各実施例で得られた積層フィルタ(本発明品)は、比較例で得られた積層フィルタよりも、グリスフィルタに汚れが発生することが防止されることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、本発明の積層フィルタの一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す積層フィルタをフィルタ取り付け部材に取り付ける状態を示す説明図である。
【図3】図3(a)は、従来のフィルタにおける流体の流れを示す模式図であり、図3(b)は、本発明の積層フィルタにおける流体の流れを示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の積層フィルタに用いられる捕集層の一実施形態を示す模式図である。
【図5】図5は、図4に示す積層フィルタに用いられる支持体を示す模式図である。
【図6】図6は、捕集層の一部に撥油性の繊維を用いた場合の油滴の捕集の様子を示す模式図である。
【図7】図7は、レンジフードの風速の測定方法を示す模式図である。
【図8】図8は、グリスフィルタの防汚性の評価方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0073】
10 積層フィルタ
11 捕集層
11a 支持体
11b,11c 繊維集合体
12 空間形成層
20 フィルタ取り付け部材
21 遮蔽部
A 油成分
F1 撥油性を有する繊維
F2 撥油性を有しない繊維
M 油膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
捕集層と空間形成層とを有する積層フィルタであって、
前記積層フィルタは、前記空間形成層が、流体吸入の下流側に位置するように使用されるものであり、
前記空間形成層は、0.3kPa荷重下において、該空間形成層の見掛けの体積中に占める、該空間形成層の構成材料の体積の割合(%)である充填率が1〜7%であり、かつ同荷重下における厚みが1〜12mmであり、
前記捕集層が、繊維径7〜35μmの不織布からなる積層フィルタ。
【請求項2】
前記空間形成層が、遮蔽部を有する取り付け部材に対向するように、該取り付け部材に取り付けられて使用されるものである請求項1記載の積層フィルタ。
【請求項3】
前記空間形成層の通気度が400〜1000m/(kPa・s)未満であり、
前記捕集層の通気度が25〜400m/(kPa・s)未満である請求項1又は2記載の積層フィルタ。
【請求項4】
前記空間形成層は、その破断強度が1〜150N/25mmであるか、又は0.5N/25mmの引張応力を加えたときの伸度が1〜15%である請求項3記載の積層フィルタ。
【請求項5】
前記空間形成層が、不織布に立体的な二次加工を施したものからなる請求項3又は4記載の積層フィルタ。
【請求項6】
前記空間形成層が、スパンボンド不織布にスチールマッチエンボス加工を施したものからなる請求項5記載の積層フィルタ。
【請求項7】
前記捕集層が、外方を向く第1層と、前記空間形成層の側を向く第2層とを有し、第2層の構成繊維の表面が撥油性を有しており、
油捕集用フィルタとして用いられる請求項1ないし6のいずれかに記載の積層フィルタ。
【請求項8】
前記空間形成層の構成繊維の表面が撥油性を有しており、油捕集用フィルタとして用いられる請求項1ないし7のいずれかに記載の積層フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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