説明

積層体、チューブ、絶縁電線、及びこれらの製造方法

【課題】機械的強度、耐熱性、耐油性、柔軟性に優れるとともに、安価で、層間が良好に接着されている積層体、チューブ、及び、絶縁電線、並びに、これらの製造方法を得ること。
【解決手段】フッ素非含有エラストマー材料と無機充填剤とが配合されたエラストマー組成物からなる第一層と、放射線架橋性フッ素樹脂からなる第二層とからなり、上記第一層と上記第二層とが、接着処理を施されることなく接着しているとともに、上記第一層及び上記第二層がともに架橋されている積層体、チューブ、絶縁電線。無機充填剤は、ケイ素、アルミニウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1つを成分として含有している。無機充填剤は、ケイ酸塩を含有する。上記第一層上に、上記第二層を溶融状態で形成し、上記第一層のエラストマー組成物及び上記第二層の放射線架橋性フッ素樹脂を一括して架橋する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度、耐熱性、耐油性、柔軟性に優れるとともに、層間が良好に接着されている積層体、チューブ、及び、絶縁電線、並びに、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、機械的強度、耐熱性、耐油性、耐薬品性、難燃性に特に優れていることから、例えば自動車の高温部分やオイル浸漬部分といった過酷な条件下で使用される各種材料、例えば、電線・ケーブルの被覆材料として幅広く使用されている。しかしながら、フッ素樹脂は固く柔軟性に劣ることから、例えば、エラストマー材料など柔軟な材料と組合せて複合材料とし、全体として柔軟性を付与させることが考えられる。
【0003】
例えば、特許文献1,2には、導体周上にフッ素ゴムを被覆して内層とし、その外周にフッ素樹脂を被覆して外層とした電線が開示されている。また、当該出願人による発明として、特許文献3が挙げられる。また、本発明に関連する技術として、例えば、特許文献4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−288914号公報:日立電線
【特許文献2】実用新案第2561072号公報:日星電気
【特許文献3】特開2009−9744公報:クラベ
【特許文献4】特表平8−506780号公報:エルフ アトケム
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、この特許文献1,2による電線はフッ素ゴムとフッ素樹脂が接着していないものである。そのため、次に示すような別の問題が生じることになる。電線を加工、配線する際には、電線端末を機械にてストリップし、電線をゴムブッシュに通して配線が行われる。この際には、上記した可撓性に加え、ストリップ加工性やゴムブッシュへの挿入のし易さといった点についても必要となる。上記したようなフッ素樹脂で被覆したものの場合、フッ素ゴムの被覆とフッ素樹脂の被覆が容易にずれてしまうため、ストリップ加工時にストリップ寸法が安定せず加工性に劣り、ゴムブッシュへの挿入も困難極まるものとなり作業性に劣るものとなる。
【0006】
更に、上記の特許文献1,2のように内層と外層が接着されていないと、電線を端子圧着加工した後、インシュレーションバレルから外層が抜けて端子圧着強度が大きく低下し、断線に至る恐れがある。又、電線の片端から内層と外層の隙間に毛細管現象によって油等が入りこみ、逆の端に達してしまい、周辺装置に悪影響を与えてしまうことも考えられる。更に、小さい曲げ半径で曲げた際や、屈曲を繰り返した際には、外層にしわが発生し、そのしわを基点にクラック等が発生する恐れがある。そのために、電線の加工時や配線時には、制約が加わることになり、加工性や作業性が低下してしまうことになる。このしわの発生をおさえるためには、内層と外層との硬さの差を減少させることも考えられるが、その場合は、外層の機械的強度が低下して内層の保護機能が低下するし、それであっても、しわ発生を完全に抑えられるわけではなく、抜本的な対策にはなり得ない。
【0007】
また、内層と外層とを接着剤によって接着することは容易に考えられるが、AT装置の近傍などに配置されると、ATフルードの影響により、接着剤が膨潤や溶解を起こしてしまう。接着剤が膨潤を起こすと、電線の外形が変形してしまい、又、接着剤が溶解を起こすと、内層と外層が剥離してしまうとともに、溶解した接着剤が周辺の機器に悪影響を及ぼすため、好ましくない。
【0008】
このような問題に対して発明されたのが上記特許文献3であるが、特許文献3の内層として使用されているフッ素ゴムは高価であるため、コストダウンの要求より他材料への変更が要請されている。フッ素樹脂は元々接着しにくい材料である。特許文献3の場合は同系の材料であるフッ素ゴムとの接着であったが、他材料へ変更となると、更に接着しにくくなるため、更なる知見が必要となっていた。
【0009】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、機械的強度、耐熱性、耐油性、柔軟性に優れるとともに、安価で、層間が良好に接着されている積層体、チューブ、及び、絶縁電線、並びに、これらの製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するべく、本発明の請求項1による積層体は、フッ素非含有エラストマー材料と無機充填剤とが配合されたエラストマー組成物からなる第一層と、放射線架橋性フッ素樹脂からなる第二層とからなり、上記第一層と上記第二層とが、接着処理を施されることなく接着しているとともに、上記第一層及び上記第二層がともに架橋されていることを特徴とするものである。
また、請求項2記載の積層体は、上記無機充填剤は、ケイ素、アルミニウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1つを成分として含有していることを特徴とするものである。
また、請求項3記載の積層体は、上記無機充填剤は、ケイ酸塩を含有することを特徴とするものである。
また、請求項4記載のチューブは、上記の積層体が、上記第二層の外周に上記第一層が形成されるようにして円筒形状に成型されているものである。
また、請求項5記載の絶縁電線は、導体周上に、フッ素非含有エラストマー材料と無機充填剤とを配合したエラストマー組成物からなる第一層が被覆され、該第一層の外周に放射線架橋性フッ素樹脂からなる第二層が被覆され、上記第一層と上記第二層とが、接着処理を施されることなく接着しているとともに、上記第一層及び上記第二層がともに架橋されていることを特徴とするものである。
また、請求項6記載の積層体の製造方法は、フッ素非含有エラストマーと無機充填剤とを配合したエラストマー組成物からなる第一層上に、放射線架橋性フッ素樹脂からなる第二層を溶融状態で形成し、上記第一層のエラストマー組成物及び上記第二層の放射線架橋性フッ素樹脂を一括して架橋することを特徴とするものである。
また、請求項7記載の絶縁電線の製造方法は、導体周上に、フッ素非含有エラストマー材料と無機充填剤とを配合したエラストマー組成物からなる第一層を押出被覆し、上記第一層を押出被覆した後又は上記第一層を押出被覆すると同時に、上記第一層の外周に放射線架橋性フッ素樹脂からなる第二層を押出被覆し、上記第一層のエラストマー組成物及び上記第二層の放射線架橋性フッ素樹脂を一括して架橋することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明による積層体、チューブ及び絶縁電線は、第一層が柔軟なエラストマー組成物、第二層が機械的強度、耐熱性、耐油性に優れたフッ素樹脂で構成されていることから、積層体、チューブ及び絶縁電線としても、機械的強度、耐熱性、耐油性に優れるとともに、十分な柔軟性があるものとなる。また、高価なフッ素ゴムを使用していないので、安価に積層体、チューブ及び絶縁電線が得られる。更に、第一層と第二層とが接着されているため、絶縁電線として使用した際には、端子圧着強度を保持しつつ、ストリップ時の加工性や、ブッシュへの挿入時の作業性について優れたものとなる。又、本願のように、第一層が柔軟なエラストマー、第二層が固いフッ素樹脂と、層ごとの固さが大きく異なる場合や、例えば、第二層の厚さを薄くした際などは、第二層にしわが発生し易くなる。しかし、この接着により、小さい曲げ半径で曲げたり屈曲を繰り返したりした場合でも、第二層にしわが発生することは無い。そのため、しわを起点としたクラックの発生がなく、材料として耐久性を向上させることができる。又、接着は接着剤を介していないため、接着剤の膨潤や溶解による影響もない。
又、フッ素樹脂は元来接着し難い材料であるが、本発明の製造方法によれば、エラストマーからなる第一層と、フッ素樹脂からなる第二層とを容易に接着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例による電線の構成を示す一部切欠斜視図である。
【図2】本発明の他の実施例による電線の構成を示す一部切欠斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明ではエラストマー組成物が未架橋の状態で、その上にフッ素樹脂を被覆することにより、接着剤を使用することなく優れた接着性を得ることができる。エラストマー組成物がフッ素樹脂被覆を行う前に架橋されている場合はエラストマー組成物とフッ素樹脂との接着性が十分に得られない。
【0014】
以下、本発明を絶縁電線に適用した際の各構成について説明する。
【0015】
導体としては、従来公知のものが使用できる。材料としては、例えば、銅、銅合金、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等やこれらの表面に、ニッケル、スズ、銅、銀等がコーティングされたものなどが考えられる。又、その構成についても、1本の線材からなるものでも良いし、複数本を引き揃え又は撚り合せたものなどを使用しても良い。
【0016】
本発明で第一層として使用されるエラストマー組成物は、フッ素非含有エラストマー材料と無機充填剤とを配合したものである。
【0017】
フッ素非含有エラストマー材料は、架橋によりゴム弾性を有すものであり、分子構造中にフッ素を含まないものである。例えば、架橋によって、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、クロロプレンゴムとなるような合成ゴム材料、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、となるような熱可塑性エラストマー材料、などが挙げられ、これらを混合して使用しても良い。これらの中でも、燃焼時の有毒ガス発生を防止する観点より、ハロゲン非含有のものが好ましい。また、エチレンプロピレンジエンゴムは、無機充填剤を配合することで特に優れた接着性を発揮するため好ましい。
【0018】
無機充填剤としては、金属酸化物粉末、金属水酸化物粉末、金属炭酸塩粉末、ケイ酸塩(含水ケイ酸塩を含む)粉末などが挙げられる。金属酸化物粉末としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などが挙げられ、金属水酸化物粉末としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、などが挙げられ、金属炭酸塩粉末としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、などが挙げられ、ケイ酸塩粉末としては、例えば、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、などが挙げられる。これらを配合することによって、押出成形をする際の成形性を向上させることができるが、最も期待される効果は第2層との接着性を向上させることである。上記した無機充填剤の中でも、ケイ素、アルミニウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1つを成分として含有しているものは、接着性向上の効果が高く好ましい。特にケイ酸塩粉末が好ましく、ケイ酸マグネシウム及びケイ酸アルミニウムが最も好ましい。無機充填剤の合計の添加量は、フッ素非含有エラストマー材料100重量部に対し、1〜200重量部が好ましい。1重量部以下だと十分な接着性や押出成形性が得られず、又、200重量部を超える添加量だと機械的強度や耐熱性といった特性が悪化してしまう。接着性、押出成形性、機械的強度及び耐熱性のバランスを得るには、10〜150重量部とすることが好ましく、特に、50〜130重量部とすることが好ましい。
【0019】
また、エラストマー組成物には、必要とする特性に応じて、適宜他のポリマー材料を配合しても良い。好適に使用される材料の一つとしてポリオレフィンが挙げられ、ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−プロピレン熱可塑性エラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらは単一及び2種類以上を混合して使用することもできる。このポリオレフィンを混和していれば、エラストマー組成物に補強効果をもたらし、型崩れや変形等を防止することができる。
【0020】
上記エラストマー組成物においては、本発明の目的を阻害しない範囲内で、一般的に使用されている各種の添加剤を配合しても良い。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、増量剤、難燃剤、老化防止剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、軟化剤、分散剤、着色剤などが挙げられる。
【0021】
上記の各構成材料を適宜に配合したものを、ロール、ニーダー、バンバリー、一軸混練機、二軸混練機などの公知の混練機を使用して充分に混練りすることによって本発明のエラストマー組成物を得ることができる。
【0022】
本発明で第二層として使用されるフッ素樹脂は、放射線架橋性フッ素樹脂が使用される。ここで、放射線架橋性フッ素樹脂とは、X線、γ線、電子線、陽子線、重陽子線、α線、β線などの電離性放射線の照射によって架橋するフッ素樹脂のことである。具体的には、例えば、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体などが挙げられる。このような放射線架橋性フッ素樹脂であれば、上記した第一層と一括して架橋することで接着性を向上させることができ、また、それ自身の耐熱性も向上させることができる。
【0023】
上記エラストマー組成物或いは上記フッ素樹脂を架橋させる際の架橋方法は、特に限定されず、例えば、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物や、ポリオール、アミンなどを架橋剤として使用した化学架橋法、X線、γ線、電子線、陽子線、重陽子線、α線、β線などの電離性放射線を使用した照射架橋法などが挙げられる。本発明においては、異なる材料からなる第一層と第二層とを一括で架橋する必要がある。上記の化学架橋法であると、加熱温度や圧力といった架橋条件が第一層と第二層とで異なってくるので、一括で架橋することが困難である。これに対し、照射架橋であれば、第一層と第二層とを一括で架橋することが非常に容易であるので好ましい。勿論、架橋条件等を調整して化学架橋法により架橋しても良いし、化学架橋法と照射架橋法を併用しても良い。
【0024】
架橋させる際には、上記のエラストマー組成物を公知の方法によって導体周上に押出被覆して第一層とし、このエラストマー組成物が未架橋の状態で、第一層の周上に上記フッ素樹脂を公知の方法によって押出被覆して第二層とし、この第一層と第二層を一括して架橋を施すことが生産性の面で好ましい。尚、押出被覆の際は、第一層の押出被覆と第二層の押出被覆を別の工程で行っても良いし、所謂、二層押出等の手法で第一層と第二層を同時に押出被覆しても良い。
【0025】
尚、本発明においては、第一層或いは第二層という表現をしているが、第一層や第二層が単層であるものに限定されるわけではない。例えば、エラストマー組成物を複数層に積層したものを総じて第一層としても良いし、フッ素樹脂を複数層に積層したものを総じて第二層としても良い。又、第二層の外周に別の第三層を被覆しても構わない。また、上記実施の形態においては、エラストマー組成物からなる第一層を内層とし放射線架橋性フッ素樹脂からなる第二層を外層としているが、第二層を内層とし第一層を外層とすることも考えられる。
【0026】
以上、絶縁電線への適用について説明したが、その他の態様においても、上記と同様の手法により得ることができる。例えば、第一層と第二層からなるシート形状の積層体を得る場合、上記説明した材料によってシート形状に第一層を成形し、この第一層の上面に、上記説明した材料を押出成形や溶融塗布することで第二層を形成し、第一層と第二層を一括して架橋すれば得ることができる。勿論、第一層と第二層とを同時に押出成形しても良い。また、2つの第二層により第一層を挟み込んだ態様や、2つの第一層により第二層を挟み込んだ態様としても良いし、第一層や第二層の他に、別の第三層を形成しても良い。形状としても、第一層と第二層が存在する態様であるなら、シート形状のほかに、チューブ形状やその他の形状に押出成形しても良いし、射出成形やモールド成形などにより立体形状としても良い。尚、チューブ形状に成形する場合、第一層を内層としても良いし、第二層を内層としても良い。この場合、耐薬品性の高いフッ素樹脂からなる第二層を内層とすれば、長時間安定して種々の液体を移送するチューブとして使用することができる。具体的には、例えば、耐薬品性(耐塩素性)が優れることを利用して、水道水の移送に用いる給水・給湯ホースへの適用などが考えられる。
【実施例】
【0027】
以下に図1を参照して本発明の実施例を比較例と併せて説明する。この実施例で使用した各材料の詳細は表2に示す通りである。
【0028】
表2に示した配合材料を表1に示した配合部数により2軸混練機で十分に混練し、得られたエラストマー組成物を素線径0.18mmのスズメッキ軟銅線を19本撚り合わせてなる外径約0.9mmの導体3の周上に厚さ約0.3mmにて被覆して第一層1とし、更にその周上にフッ素樹脂を被覆して第二層2とし、仕上がり外径1.9mmの電線サンプルを作製した。また、図2に示すように、実施例1において、第二層2の外周に第一層1を形成したものを実施例7とした。尚、架橋については、電離放射線による照射架橋として、実施例1〜7及び比較例1については、第一層1及び第二層2を一括して架橋し、比較例2については、第一層1を被覆した後に架橋し、その後、第二層2を被覆した後に更に架橋した。
【0029】
ここで、この様にして得られた合計9種類の電線サンプルについて、機械的強度、耐油性、可撓性、耐熱性、第一層1と第二層2の接着性について、それぞれ評価を行った。結果は各配合材料の配合部数と共に表1に併せて示した。
【0030】
評価方法は以下の通りである。
(ブレード磨耗性)
JASO D 608に準拠して、荷重510g、R=0.125にてブレード摩耗性を測定し、これを機械的強度として評価する。
(耐油性)
市販されているATフルードに165℃×5日浸漬後、JIS3005に準拠して引張強度、伸びを測定する。
(可撓性)
長さ500mmの電線サンプルの中心と中心より100mmの部位に印をつけ、両端を繋ぎ円弧状にしたものを2φのマンドレルに中心があたるようにセットする。次いで、つなぎ目に100gの錘をつるし、30秒後中心より100mmの印をつけた部位の距離を測定する。
(耐熱性)
電線を自己径に巻きつけ、280℃×1時間で保持をする。その後、表面にクラックや溶融が発生しなかったものを○(合格)、クラックや溶融が発生したものを×(不合格)として評価する。
(接着性)
長さ5mm、幅25mmの電線サンプルにおいて、第一層1と第二層2の接着部位を速度50mm/minにて剥離試験を行う。合否の基準としては、第一層1と第二層2がきれいに剥がれず材料破壊したものを○、接着はしていたものの第一層1と第二層2の界面にて剥がれが生じたものを△、全く接着しなかったものを×とする。
尚、上記評価の内、ブレード磨耗性、耐油性、可撓性、耐熱性については、参考として、フッ素樹脂(エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、架橋あり)のみの層からなる参考例1についても、同様に試験を行った。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
実施例1〜7によるサンプルは、耐熱性、耐油性及び接着性について合格する値を示しており、機械的強度、耐熱性、耐油性及び接着性に優れたものであることが確認された。
【0034】
実施例3,4と比較例1を比較すると、第一層1が無機充填剤を含んでいない比較例1は、実施例3,4と比べて接着性が劣る。また、実施例3,4と比較例2を比較すると、第二層2の被覆時に第一層1が架橋されている比較例1は、実施例3,4と比べて接着性が劣る。そのため、電線の加工性や配線の作業性が悪くなる懸念がある。検証のため、実際に、実施例3と比較例1,2について、ストリップ加工、及び、ブッシュへの挿入作業を行った。実施例3は、ストリップ寸法が一定し、ブッシュへの挿入も非常に容易だったが、比較例1,2は、ストリップ寸法が当初設定したものと異なってしまった上、ブッシュへの挿入は第二層がずれてしまうことにより非常に困難なものとなってしまった。又、比較例1,2は、端子圧着強度も十分ではないことが確認された。
【0035】
又、実施例1〜7と参考例1とを比べると、実施例1〜7の方が可撓性に優れ、配線の作業性にも優れていた。
【0036】
このように、本発明による実施例1〜7によるサンプルは、機械的強度、耐熱性、耐油性及び接着性に優れたものであることが確認される。ここで、上記した特許文献4は、所定の熱可塑性樹脂上に成形されたエラストマー層を有し、このエラストマーが接着剤を介することなく直接熱可塑性樹脂に接着している多層物品が記載されている。しかし、この特許文献4には、熱可塑性樹脂の側を架橋することについて何ら記載がないため、本発明のような優れた接着を得ることはできない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上詳述したように本発明によれば、機械的強度、耐熱性、耐油性、柔軟性に優れるとともに、安価で、層間が良好に接着されている積層体、チューブ、及び、絶縁電線を得ることができる。その為、この電線は、例えば、電気機器内配線、自動車用ハーネスなどのような電線・ケーブルとして好適である。特に、自動車のAT装置内に配置されるような電線として最適なものである。又、使用用途としてはこれらに限定されることはなく、例えば、他の耐熱要求のある用途、耐油性・耐薬品性の要求のある用途としても使用可能である。また、耐薬品性(耐塩素性)に優れることを利用して、長時間安定して種々の液体を移送するチューブ(ホース)に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 第一層
2 第二層
3 導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素非含有エラストマー材料と無機充填剤とが配合されたエラストマー組成物からなる第一層と、放射線架橋性フッ素樹脂からなる第二層とからなり、上記第一層と上記第二層とが、接着処理を施されることなく接着しているとともに、上記第一層及び上記第二層がともに架橋されていることを特徴とする積層体。
【請求項2】
上記無機充填剤は、ケイ素、アルミニウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1つを成分として含有していることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
上記無機充填剤は、ケイ酸塩を含有することを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項4】
上記請求項1〜3記載の積層体が、上記第二層の外周に上記第一層が形成されるようにして円筒形状に成型されているチューブ。
【請求項5】
導体周上に、フッ素非含有エラストマー材料と無機充填剤とを配合したエラストマー組成物からなる第一層が被覆され、該第一層の外周に放射線架橋性フッ素樹脂からなる第二層が被覆され、上記第一層と上記第二層とが、接着処理を施されることなく接着しているとともに、上記第一層及び上記第二層がともに架橋されていることを特徴とする絶縁電線。
【請求項6】
フッ素非含有エラストマーと無機充填剤とを配合したエラストマー組成物からなる第一層上に、放射線架橋性フッ素樹脂からなる第二層を溶融状態で形成し、上記第一層のエラストマー組成物及び上記第二層の放射線架橋性フッ素樹脂を一括して架橋することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項7】
導体周上に、フッ素非含有エラストマー材料と無機充填剤とを配合したエラストマー組成物からなる第一層を押出被覆し、上記第一層を押出被覆した後又は上記第一層を押出被覆すると同時に、上記第一層の外周に放射線架橋性フッ素樹脂からなる第二層を押出被覆し、上記第一層のエラストマー組成物及び上記第二層の放射線架橋性フッ素樹脂を一括して架橋することを特徴とする絶縁電線の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−284894(P2010−284894A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140537(P2009−140537)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000129529)株式会社クラベ (125)
【Fターム(参考)】