説明

積層体の製造方法

【課題】ポリオレフィン類などいわゆる難接着性と言われるプラスチック部材同士、ガラスあるいは金属などの無機材料からなる部材同士、またはプラスチック部材と、ガラスあるいは金属などの無機材料からなる部材とを、簡便な方法で、且つ強固な接着力で接着させ、積層体を得ること。
【解決手段】部材(1)と、樹脂組成物層と、部材(2)とが順に積層されてなる積層体の製造方法であって、水酸基とカルボキシル基とを、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む重合体成分(A)、および液体媒体を含む塗工液を、部材(1)の表面に塗布して塗膜を形成し、前記塗膜の表面に部材(2)を接合した後、乾燥して前記液体媒体を除去することで樹脂組成物層とすることを特徴とする、前記積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン類などいわゆる難接着性と言われるプラスチック部材同士、または、ガラスあるいは金属などの無機材料からなる部材同士、さらには、プラスチック部材と、ガラスあるいは金属などの無機材料からなる部材とが相互に接着された積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィン類はポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンなどのように焼却によって有害ガスの発生を伴うこともないことから、自動車・家電製品・食品包装などの幅広い分野でその使用量が急激に増大している。
【0003】
これらのプラスチック部材、ガラスあるいは金属は表面自由エネルギーが小さいことから、各種用途において同種または他の部材と強固な接着力を得ることが難しく、一般に溶剤系接着剤が用いられている。
【0004】
溶剤系接着剤は、部材に対する密着性や接着性が優れているため、種々の用途で用いられている。しかしながら、有機溶剤を用いているため、有機溶剤の揮散により、大気汚染、産業環境の悪化及び火災発生の危険性などの問題があった。そこで、水系接着剤への転換が図られている。
【0005】
特許文献1には、プラスチック部材同士が水系接着剤を用いて相互に接着された積層体が開示されている。また、特許文献2には、プラスチック部材と、ガラスあるいは金属が水系接着剤を用いて相互に接着された積層体が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−322428号公報
【特許文献2】特開2002−285133号公報
【0007】
これらの積層体は、強固な接着力を得るために、予め部材の表面に水系接着剤と同系の水溶性樹脂などでコーティング処理を施している。その処理面に水系接着剤を塗布して、部材を接着させることで積層体を製造している。そのため、積層体の層構成も複雑となり、接着工程が煩雑であるといった問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリオレフィン類などいわゆる難接着性と言われるプラスチック部材同士、ガラスあるいは金属などの無機材料からなる部材同士、またはプラスチック部材と、ガラスあるいは金属などの無機材料からなる部材とを、簡便な方法で、且つ強固な接着力で接着させ、積層体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、部材(1)と、樹脂組成物層と、部材(2)とが順に積層されてなる積層体の製造方法であって、水酸基とカルボキシル基とを、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む重合体成分(A)、および液体媒体を含む塗工液を、部材(1)の表面に塗布して塗膜を形成し、前記塗膜の表面に部材(2)の表面を接合した後、乾燥して前記液体媒体を除去することで樹脂組成物層とすることを特徴とする、前記積層体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、ポリオレフィン類などいわゆる難接着性と言われるプラスチック部材同士、ガラスあるいは金属などの無機材料からなる部材同士、またはプラスチック部材と、ガラスあるいは金属などの無機材料からなる部材とを、簡便な方法で、且つ強固な接着力で接着させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における部材とは、金属製、ガラス製、セラミックス製、木製、樹脂製の部材が挙げられる。また、部材の種類、形状には特に制約はなく、部材の用途や目的に応じて適宜選択される。部材は全てが樹脂から構成されていてもよく、表面のみが樹脂から構成されていてもよく、表面の一部のみが樹脂から構成されていてもよい。前記樹脂としては、ポリエチレン(低密度、高密度)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン一6、ナイロン−6,6、メタキシレンジアミン−アジピン酸縮重合体、ポリメチルメタクリルイミド等のアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル等のスチレンないしアクリロニトリル系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン含有樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース誘導体等の水素結合性樹脂;プルラン、カードラン、キチン、キトサン、等の生分解性樹脂;トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロース等の疎水化セルロース系樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリメチレンオキシド樹脂、液晶樹脂等のエンジニアリングプラスチック系樹脂等が挙げられる。
【0012】
これらの中で2軸延伸されたポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、Kコートと呼ばれるポリ塩化ビニリデンをコートした2軸延伸されたポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンおよびアルミ、シリカ、アルミナなどを蒸着した無延伸ポリプロピレン(CPP)、2軸延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン(ONy)等が部材として用いる樹脂として好ましく用いられる。部材(1)および部材(2)は、同じ部材を2つ用いてもよく、異なる部材を用いてもよい。
【0013】
前記金属としては、特に制限されず、例えば、アルミニウム、鉄、錫、銅、亜鉛、銀、金、白金、各種金属の合金、前記した金属のメッキ物等を挙げることができる。
前記ガラスとしては、特に制限されず、通常は無機ガラスであり、一般にはガラス状態にある無機物質を指す。網状高分子であり、その網目形成体(Si、B、P、Ge、As、V等の酸化物が形成しえる)と網目修飾体(網目構造のすき間に入って安定な構造をとる原子やイオンで、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の酸化物がある)から成る。両方の役割をする中間酸化物イオンとして、Al、Ti、Zr等がある。該ガラスは殆どの元素をその構造中に取り込む性質がある。ガラスの種類として、次のものを挙げる事ができる。
(1)網目構造だけからなるガラス。網目修飾体酸化物の含量(重量%)は0.0〜2.99である。例えば石英ガラスを挙げることができる。
(2)網目構造と網目修飾体から成り、該修飾体の含量(重量%)が3.0〜50であるガラス。網目構造の90〜100重量%がケイ酸塩であるガラスと、網目構造の0〜89.9重量%がケイ酸塩であるガラス。例えばソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス、ゲルマン酸塩ガラス、タングステン酸塩ガラス、モリブデン酸塩ガラス、
(3)ブッ化物ガラス。酸素の代わりにフッ素を陰イオンとするガラス。例えばZrF4を主成分とし、これにアルカリ土類金属のフッ化物とf−ブロック元素のフッ化物を加えたもの。ガラスは加熱する事により容易に変形できる為に、食器、装飾品、光ファイバー、光透過性光学材料(窓ガラス、電灯のカサやカバー、電球、ケイ光灯、メガネ、レンズ、干渉フィルター等)に加工して使われている。
【0014】
前記セラミックスとしては、特に制限されず、例えば、酸化アルミニウム系セラミックス、酸化珪素系セラミックス、酸化カルシウム系セラミックス、酸化マグネシウム系セラミックスなどの酸化物系セラミックス、窒化アルミニウム系セラミックス、窒化ケイ素系セラミックス、窒化ホウ素などの窒化物セラミックス、酸化ベリリウム、炭化珪素、ムライト、ホウケイ酸ガラス等を使用することができ、これらのセラミックス材料を焼結したセラミックス焼結体でもよい。また、これらセラミックス焼結体には、使用したセラミックスの種類に応じて、種々の焼結助剤が含有されることがある。
【0015】
本発明における水酸基とカルボキシル基とを含む重合体成分(A)とは、一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む重合体であってもよいし、水酸基を含む重合体成分とカルボキシル基を含む重合体成分とを含有する重合体成分であってもよい。
【0016】
一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む重合体成分としては、ビニルアルコール−アクリル酸共重合体やビニルアルコール−メタアクリル酸共重合体が挙げられる。共重合する比率を制御することにより、水酸基とカルボキシル基とを、水酸機:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む重合体成分(A)とすることができる。
【0017】
前記水酸基を含む重合体成分としては、水系の溶媒に溶解させることができ、取り扱いが容易であることや、得られる成形体の耐擦傷性およびガスバリア性の観点から、ポリビニルアルコール系重合体が最も好ましい。ポリビニルアルコール系重合体とは、ビニルアルコールのモノマー単位を主成分として有するポリマーである。このようなポリビニルアルコール系重合体としては、例えば、酢酸ビニル重合体や酢酸ビニル−α−オレフィン共重合体の酢酸エステル部分の全てまたは一部を加水分解して得られるポリマーや、トリフルオロ酢酸ビニル重合体、ギ酸ビニル重合体、ピバリン酸ビニル重合体、tert−ブチルビニルエーテル重合体、トリメチルシリルビニルエーテル重合体等を加水分解して得られるポリマーが挙げられる。ポリビニルアルコール系重合体のビニルアルコール単位含有量は通常50モル%を超え、好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは85モル%以上である。前記α−オレフィンとしては、エチレンやプロピレンが挙げられ、その含有量は、40モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましい(「ポリビニルアルコール」の詳細については、例えば、ポバール会編、「PVAの世界」、1992年、(株)高分子刊行会;長野ら、「ポバール」、1981年、(株)高分子刊行会を参照することができる)。ポリマーのエステル部分の「ケン化」の程度は、70モル%以上が好ましく、85モル%以上のものがより好ましく、98%モル以上のいわゆる完全ケン化品がさらに好ましい。また、使用するポリビニルアルコール系重合体の重合度は、耐擦傷性、塗工液を用いて第1の層を形成する場合のハンドリングの良さの観点から100〜5000であることが好ましく、200〜3000であることがより好ましい。
【0018】
また、ポリビニルアルコール系重合体は、水酸基以外の官能基を有していてもよく、水酸基以外の官能基として例えば、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸イオン基、燐酸イオン基、アンモニウム基、ホスホニウム基、シリル基、シロキサン基、アルキル基、アリル基、フルオロアルキル基、アルコシキ基、カルボニル基、ハロゲン基等が例示できる。
【0019】
カルボキシル基を含む重合体成分は、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物、およびポリメタアクリル酸部分中和物からなる群から選ばれる1種以上の重合体成分であることが好ましい。またアクリル酸とメタアクリル酸との共重合体も使用できる。前記カルボキシル基を含む重合体成分の平均分子量は、2000〜5000000の範囲が好ましく、より好ましくは100000〜5000000の範囲が好ましい。さらに好ましくは、1000000〜5000000の範囲が強固な接着力を得る観点から好ましい。
【0020】
ポリアクリル酸部分中和物またはポリメタアクリル酸部分中和物は、通常、ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸の水溶液に水酸化ナトリウム等のアルカリ成分を添加することにより得ることができる。ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸とアルカリ成分の量比を調節することにより、所望の中和度とすることができる。ポリアクリル酸部分中和物およびポリメタアクリル酸部分中和物は、以下の式により算出される中和度が0.1%〜20%の範囲が好ましい。
中和度=(A/B)×100
A:ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸1g中に含まれる中和されたカルボキシル基の全モル数
B:ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸1g中に含まれる中和前のカルボキシル基の全モル数
【0021】
重合体成分(A)に含まれる水酸基とカルボキシル基の個数比は、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5であり、好ましくは70:30〜95:5の範囲である。また重合体成分(A)に含まれる水酸基およびカルボキシル基の合計重量が30〜60%が好ましく、より好ましくは35〜55%の範囲である。なお、前記水酸基およびカルボキシル基の合計重量は、重合体成分(A)の重量を100重量%としたときの値である。
【0022】
重合体成分(A)に含まれる水酸基とカルボキシル基の個数比は、公知のNMR法、IR法等により求めることができる。例えばIR法であれば、水酸基とカルボキシル基の個数比が既知のサンプルを用い、検量線を求め、算出することができる。またビニルアルコール単一重合体と、アクリル単一重合体および/またはメタアクリル酸単一重合体を用いる場合は、予めその重量から水酸基およびカルボキシル基のモル数を求め、個数比を算出することができる。重合体成分(A)に含まれる水酸基およびカルボキシル基の合計重量測定については、個数比と同様、公知のNMR法、IR法等にて求めることができる。例えばIR法であれば、ポリオールユニット数が既知であるポリオール重合体および、ポリカルボン酸ユニット数が既知であるポリカルボン酸重合体について検量線を求め、算出することができる。またビニルアルコール単一重合体と、アクリル単一重合体および/またはメタアクリル酸単一重合体を用いる場合には、予めその重量から水酸基およびカルボキシル基の重量を求め、この合計量を用いることができる。
【0023】
本発明における重合体成分(A)は、ポリビニルアルコール系重合体(A−1)95〜5重量%と、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物、およびポリメタアクリル酸部分中和物からなる群から選ばれる1種以上の重合体(A−2)5〜95重量%の混合物であることが好ましい。ただし、この割合は、塗工液に含まれる重合体成分(A)の重量を100%としたときの値である。ポリビニルアルコール系重合体(A−1)と重合体(A−2)の割合は、(A−1)が50〜95%、(A−2)が5〜50%の範囲が好ましく、より好ましくは(A−1)が70〜90%、(A−2)が10〜30%の範囲が好ましい。
【0024】
本発明における塗工液は、前記した重合体成分(A)と液体媒体とを含む。液体媒体は特に限定されるものではないが、重合体成分(A)を溶解させることができる液体媒体であることが、塗工性の観点から好ましい。また該液体媒体は、最終的に得られる積層体の重合体成分(A)層には、ほとんど残存しないようにする必要がある。そのため、除去が容易な液体媒体であることが好ましい。
【0025】
本発明における液体媒体としては、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなど)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、とりわけ水、アルコール、水−アルコール混合物が好ましく用いられる。
【0026】
前記塗工液は、重合体成分(A)、液体媒体に加えて、さらにアルカリ金属イオン(B)を含むことが好ましい。このような塗工液を用いることにより、さらに耐水性に優れる積層体を得ることができる。本発明におけるアルカリ金属イオン(B)としては、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオンが挙げられる。塗工液に含まれるアルカリ金属イオン(B)の重量は特に限定されるものではないが、塗工液に含まれる重合体成分(A)の重量100重量部に対し、好ましくは0.2〜5重量部の範囲であり、より好ましくは0.2〜2重量部の範囲である。
【0027】
前記アルカリ金属イオン(B)は、アルカリ金属イオン供与化合物に由来する。すなわち塗工液は、アルカリ金属イオン供与化合物を含むことができる。アルカリ金属イオン供与化合物としては、水酸化ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等が挙げられる。また重合体成分(A)として、ポリアクリル酸水溶液に水酸化ナトリウムを添加して得られるポリアクリル酸部分中和物を使用する場合には、該ポリアクリル酸部分中和物がアルカリ金属イオン供与化合物として作用する。アルカリ金属イオン供与化合物としては、層間にアルカリ金属イオンを有する粘土鉱物(C)も挙げられる。アルカリ金属イオン供与化合物として、2種類以上を併用してもよい。得られる積層体の接着性の観点から、塗工液は、層間にアルカリ金属イオン(B)を有する粘土鉱物(C)を含んでもよい。
【0028】
粘土鉱物(C)は、通常、原料の状態で、単位結晶層が互いに積み重なって層状構造を有する化合物である。ここで層状構造とは、原子が共有結合等によって強く結合して密に配列した面が、ファン・デル・ワールス力等の弱い結合力によって略平行に積み重なった構造をいう。粘土鉱物としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、金雲母等が挙げられる。また、これら粘土鉱物を有機物でイオン交換等の処理し、分散性等を改良したもの(朝倉書店、「粘土の事典」参照)もアルカリ金属イオン含有粘土鉱物として用いることができる。
【0029】
塗工液中の分散性の観点から、液体媒体に膨潤しへき開する性質を有する粘土鉱物(C)を用いることが好ましい。このような粘土鉱物として、層間にナトリウムイオンを有するモンモリロナイトが挙げられる。粘土鉱物が溶媒に膨潤しへき開する性質の程度は以下の試験により評価することができる。該粘土鉱物の膨潤性は、下記膨潤性試験において5以上のものが好ましく、さらには20以上のものが好ましい。一方、該粘土鉱物のへき開性は、下記へき開性試験において5以上のものが好ましく、さらには20以上のものが好ましい。
【0030】
[膨潤性試験]100mlメスシリンダーに液体媒体100mlを入れ、これに粘土鉱物2gを徐々に加える。23℃にて24時間静置後、前記メスシリンダー内における粘土鉱物分散層と上澄み液との界面の目盛りから粘土鉱物分散層の体積(ml)を読む。この数値(膨潤値)が大きい程、膨潤性が高いことを示す。
【0031】
[へき開性試験]粘土鉱物30gを液体媒体1,500ml中に徐々に加え、分散機(浅田鉄工株式会社製、デスパMH−L、羽根径52mm、回転数3,100rpm、容器容量3L、底面−羽根間の距離28mm)にて、周速8.5m/分、23℃で90分間分散させた後、この分散液100mlをメスシリンダーに採取する。60分静置後、前記メスシリンダー内における粘土鉱物分散層と上澄み液との界面の目盛りから粘土鉱物分散層の体積(ml)を読む。この数値(へき開値)が大きい程、へき開性が高いことを示す。
【0032】
粘土鉱物(C)としては、塗工液中の分散性と得られる積層体の接着性の観点からアスペクト比が30〜3,000の範囲のものが好ましく、より好ましくは30〜1,500の範囲のものが好ましい。粘土鉱物のアスペクト比(Z)とは、式:Z=L/aで定義される。式中、Lは粘土鉱物の平均粒径であり、aは、粘土鉱物の単位厚さ、すなわち、粘土鉱物の単位結晶層の厚みを示し、粉末X線回析法(「機器分析の手引き(a)」(1985年、化学同人社発行、塩川二朗監修)69頁参照)により求められる。
【0033】
粘土鉱物の平均粒径とは、液体媒体中の回折/散乱法により求めた粒径(体積基準のメジアン径)である。すなわち、粘土鉱物の分散液に光を通過させたときに得られる回折/散乱パターンから、ミー散乱理論等により、前記回折/散乱パターンに最も矛盾のない粒度分布を計算することにより求めることができる。具体的には、例えば粒度分布の測定範囲を適当な区間に分け、それぞれの区間について、代表粒子径を決定し、本来連続的な量である粒度分布を離散的な量に変換させて計算する方法が挙げられる。
【0034】
塗工液に含まれる粘土鉱物(C)の量は特に限定されるものではないが、得られる積層体の接着性の観点から、水酸基とカルボキシル基とを含む重合体成分(A)と粘土鉱物(C)の体積比が、(A)/(C)=50/50〜99/1であることが好ましく、より好ましくは70/30〜99/1が好ましい。
【0035】
塗工液には、界面活性剤を添加してもよい。このような塗工液を塗布して形成される塗膜は、部材との密着性に優れるものとなる。界面活性剤の含有量は、通常、塗工液100重量%中0.001〜5重量%である。
【0036】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤など、公知の界面活性剤を用いることができる。とりわけ炭素原子数6以上24以下のアルキル鎖を有するカルボン酸のアルカリ金属塩、ポリジメチルシロキサン−ポリオキシエチレン共重合体等のエーテル型の非イオン性界面活性剤(シリコーン系非イオン性界面活性剤)や、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド化合物等のフッ素型非イオン性界面活性剤(フッ素系非イオン性界面活性剤)を使用することが密着性向上の観点から好ましい。
【0037】
塗工液には、さらに目的や用途に応じて、公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、アンチブロッキング剤等を添加して使用することができる。これらの添加剤は、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。また該塗工液中のカルボキシル基を含む重合体成分(A−2)の平均分子量が高い場合には、高圧分散処理してポリビニルアルコール系重合体(A−1)とカルボキシル基を含む重合体成分(A−2)、さらにはアルカリ金属イオン(B)とを均一に反応させて用いることが好ましい。さらに該塗工液が粘土鉱物(C)を含む場合には、高圧分散処理して該粘土鉱物(C)を均一に分散させて用いることが好ましい。
【0038】
部材に塗工液を塗布する方法としては、ディッピング法、スプレーコート法が挙げられる。部材が平板状である場合には、ダイレクトグラビア法、リバースグラビア法等のグラビア法、2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本リバースコート法等のロールコーティング法、ドクターナイフ法、ダイコート法、バーコーティング法等の方法によっても塗工液を塗布することができる。塗工液を塗布した後、乾燥して形成される膜の膜厚は、得られる積層体における樹脂組成物層として、通常0.1〜50μmが好ましい。
【0039】
部材と塗膜との膜密着性を改良する目的で、該部材に予め表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、例えばコロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、電子線放射処理、酸処理等が挙げられる。通常、部材が樹脂の場合、表面処理としてコロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、電子線放射処理を行い、部材が金属、ガラス、セラミックスの場合、酸処理を行なうが、特に限定されるものではない。これらの処理は、単独で行なっても2種類以上を併用してもよい。
【0040】
本発明における積層体の製造方法は、部材(1)の表面に塗膜を形成し、前記塗膜の表面に部材(2)を接合した後、乾燥して前記塗膜中の液体媒体を除去することで積層体を得る製造方法である。まず、部材(1)に、重合体成分(A)と液体媒体を含む塗工液を塗布することにより、前記重合体成分(A)と液体媒体とを含む塗膜を形成させる。そして、液体媒体を除去することなく、塗膜の表面に部材(2)を接合して、液体媒体を乾燥して除去する。部材(2)を接合した後の液体媒体の除去方法としては、100℃以下、通常30〜80℃程度で乾燥する方法が挙げられる。
【0041】
本発明の製造方法としては、表面に重合体成分(A)と液体媒体とを含む塗工液が塗布されてなる塗膜と、部材(2)の表面を接合して加熱するだけでなく、加圧したり、ヒートシールすることもできる。ヒートシールすることで、塗膜中の液体媒体を除去することができる。通常ヒートシールする際の条件は、温度は100℃以下、通常30〜80℃程度、時間は1秒間〜14日間、圧力は0.001kg/cm2〜100kg/cm2である。しなかしながら、前記したように、液体媒体を含んだ状態の塗膜が表面に形成されてなる部材を用いると接合面同士を合わせて液体媒体を除去するだけで、加圧することなく接合することができ、生産効率に優れるため、好ましい。
【0042】
また本発明では、表面に重合体成分(A)と液体媒体とを含む塗工液が塗布されてなる塗膜と、部材(2)の表面を接合して加熱するだけでなく、加圧したり、ヒートシールした後、さらに乾燥させるといった乾熱処理をおこなってもよい。乾熱処理は、100℃以上の温度で水蒸気濃度が50g/m3未満、好ましくは、水蒸気濃度0〜40g/m3、温度120〜200℃の雰囲気下で保持する処理である。乾熱処理することにより、塗工液を塗布して形成した塗膜に含まれる重合体成分(A)の水酸基とカルボキシル基とが反応し、樹脂組成物(接着)層となる。また塗膜に含まれる液体媒体が、乾熱処理によって該液体媒体を除去することもできる。乾熱処理する時間は、通常1秒間〜14日間である。
【0043】
部材(1)の表面に塗膜を形成した後の、前記塗膜の表面に部材(2)を接合する工程と乾熱処理する工程は同時に行なってもよい。すなわち、乾熱処理条件下で、部材同士を接合することができる。
【0044】
さらに本発明では、乾熱処理の後に、湿熱処理してもよい。湿熱処理とは、100℃以上の温度で水蒸気濃度が290g/m3超の雰囲気下または80℃以上の水中で保持する処理である。湿熱処理する時間は、通常1秒間〜14日間である。100℃以上の温度で水蒸気濃度が290g/m3超の雰囲気下での処理の場合、温度は120〜200℃の範囲内が好ましく、水蒸気濃度は500〜20000g/m3の範囲内が好ましい。湿熱処理を行なうことにより、得られる積層体を食品包装用途等に適用する場合、バリア性に優れる積層体とすることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。はじめに、以下の実施例における接着性評価方法を説明する。なお、以下の実施例では、L−LDPE製フィルム(商品名:T.U.X−FCD40;東セロ(株)製)、ガラスを用いて、幅10cm、長さ10cmの短冊状の試験片を作製し、部材とした。
【0046】
[接着性評価]部材(1)と樹脂組成物層と部材(2)からなる積層体を作製した際に、以下の剥離条件および基準で接着性を評価した。
[剥離条件]
<1>:23℃、50%RH下で剥離
<2>:60℃の水に、60min浸漬させた後に、そのまま水中で剥離
[評価基準]
×:接着できなかった
△:接着できるものの、手で曲げると曲部から剥離が生じたり、部材(1)から部材(2)をほとんど力を要せずに手で引き剥がすことができる
○:手で曲げても剥離が生じなかったり、手で剥離を試みても接着界面での剥離が困難である
[接着強度測定]23℃の雰囲気中、剥離幅25mm、ピール角度180°、剥離速度300mm/minの条件下で部材(1)から粘着フィルムを剥離させるに要する力を測定し、これを23℃における剥離強度(gf/25mm)とした。
【0047】
[塗工液の作製]
(1)塗工液(1)の作製
分散釜(商品名:デスパMH−L;浅田鉄工(株)製)に、イオン交換水(比電気伝導率0.7μs/cm以下)112.86gと、ポリビニルアルコール(AQ2117;(株)クラレ製、ケン化度;99.6%、重合度;1,700)5.94gとを混合し、低速撹拌下(1,500rpm、周速度;4.1m/分)で95℃に昇温した。該混合系を同温度で30分間撹拌してポリビニルアルコールを溶解させた後、60℃に冷却し、ポリビニルアルコール水溶液を得た。該ポリビニルアルコール水溶液(60℃)を前記同様の条件で撹拌しながら、イソプロピルアルコール212.4gおよびイオン交換水73.26gを混合してなるアルコール水溶液を5分間かけて滴下した。滴下終了後、高速撹拌(3,000rpm、周速度;8.2m/分)に切り替え、60℃で60分間撹拌を続けた。その後、該混合系を室温まで冷却し、重合体成分(A−1)溶液を得た。またさらに別の分散釜(商品名:デスパMH−L;浅田鉄工(株)製)に、イオン交換水(比電気伝導率0.7μs/cm以下)48.015と、ポリアクリル酸(平均分子量1,000,000、和光純薬工業(株)製)1.485gとを混合し、常温にて低速撹拌下(1,500rpm、周速度;4.1m/分)で重合体成分(A−2)溶液を作製した。重合体成分(A−1)溶液118.8gと重合体成分(A−2)溶液49.5gとを、低速撹拌下(1,500rpm、周速度;4.1m/分)において徐々に混合して混合液とし、さらに該混合液を高圧分散装置(商品名:超高圧ホモジナイザーM10−E/H、Microfluidics Corporation製)を用いて、1100kgf/cm2の条件で処理した後、次亜リン酸ナトリウム水溶液(固形分10wt.%)を5.76g添加することにより、塗工液(1)を得た。
【0048】
(2)塗工液(2)の作製
ポリアクリル酸(平均分子量25,000、和光純薬工業(株)製)を用いたこと以外は前記と同様にして、塗工液(2)を得た。
【0049】
(3)塗工液(3)の作製
次亜リン酸ナトリウム水溶液(固形分10wt.%)を添加しなかったこと以外は前記と同様にして、塗工液(3)を得た。
【0050】
(4)塗工液(4)の作製
高圧分散装置(商品名:超高圧ホモジナイザーM10−E/H、Microfluidics Corporation製)を用いて、1100kgf/cm2の条件で処理しなかったこと以外は前記と同様にして、塗工液(4)を得た。
【0051】
[実施例1]ガラスまたはL−LDPE製フィルムを部材(1)、L−LDPE製フィルムを部材(2)として用いた。該部材(1)の表面に前記塗工液(1)をバーコーター法を用いて塗布し、その後部材(2)を接合し、部材(1)がガラスの場合14日間、L−LDPE製フィルムの場合7日間、温度70℃で乾燥させ、積層体を作製した。その後、23℃、50%RH下で1日放置し、エージングした後に、接着性を評価した。また、接着強度を測定した。接着性評価の結果を表1、接着強度測定の結果を表2に示した。
【0052】
[比較例1]ガラスまたはL−LDPE製フィルムを部材(1)、L−LDPE製フィルムを部材(2)として用いた。部材(1)および部材(2)の表面に前記塗工液(1)を、バーコーター法を用いて塗布し、温度70℃、時間3日間で乾燥させ、部材(1)および部材(2)の表面に層を形成させた。乾燥して層を形成した部材(1)の層面に、水系接着剤としてポリビニルアルコールのみからなる水溶液(固形分:5wt.%)を塗布し、該水系接着剤からなる塗膜の表面と、部材(2)の層面とを接合させ、さらに温度70℃、時間1日間で乾燥させることで積層体を作製した。その後、23℃、50%RH下で1日放置し、エージングした後に、接着性を評価した。また、接着強度を測定した。接着性評価の結果を表1、接着強度測定の結果を表2に示した。
【0053】
[比較例2]部材(2)を貼合する前に乾燥させたこと以外は、実施例1と同様に積層体を作製し、接着性を評価した。結果を表1に示した。
【0054】
[実施例2]塗工液(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様に積層体を作製し、接着性を評価した。結果を表1に示した。
【0055】
[実施例3]塗工液(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様に積層体を作製し、接着性を評価した。結果を表1に示した。
【0056】
[実施例4]塗工液(4)を用いたこと以外は、実施例1と同様に積層体を作製し、接着性を評価した。結果を表1に示した。













【0057】
【表1】

【0058】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材(1)と、樹脂組成物層と、部材(2)とが順に積層されてなる積層体の製造方法であって、水酸基とカルボキシル基とを、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む重合体成分(A)、および液体媒体を含む塗工液を、部材(1)の表面に塗布して塗膜を形成し、前記塗膜の表面に部材(2)を接合した後、乾燥して前記液体媒体を除去することで樹脂組成物層とすることを特徴とする、前記積層体の製造方法。
【請求項2】
前記重合体成分(A)が、ポリビニルアルコール系重合体(A−1)95〜5重量%と、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物、およびポリメタアクリル酸部分中和物からなる群から選ばれる1種以上の重合体(A−2)5〜95重量%との混合物である請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記塗工液が、さらにアルカリ金属イオン(B)を含む請求項1または2に記載の積層体の製造方法。

【公開番号】特開2009−248365(P2009−248365A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95871(P2008−95871)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】