説明

空気調和機

【課題】空気調和機の熱交換器の伝熱管において、非破壊で蟻の巣状腐食を検知する方法はなく、銅管の切断面を埋め込み、研磨した上で断面観察を行うほかなかった。そこで、蟻の巣状腐食の原因である有機酸(例えば、酢酸、蟻酸、その他の有機酸。)の発生を簡単に非破壊で確認でき、事前に冷媒ガス漏れを防ぐ検知方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る空気調和機は、熱交換器の伝熱管として銅製配管を用いた空気調和機において、吸気雰囲気中の有機酸を検知する検知手段を有することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気調和機に関するもので、特に熱交換器として用いられる銅伝熱管における有機酸起因の腐食の検知を色変化で表示する検知器を備えた空気調和機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅は、優れた耐食性を有し熱伝導性や加工性にも優れているため、空気調和機の熱交換器の伝熱管に使用されている。図4は、従来の熱交換器の一例を示した図であるが、図において、熱交換器200は銅伝熱管102にプレ‐トフィン101が装着されてなる。銅伝熱管102は直管部102a、102b、及び、ヘアピン部103で構成されており、これらの部分に局部腐食が発生した場合、冷媒ガスが漏れるという不具合が生じる。このような不具合を生じる局部腐食として、蟻の巣状腐食や応力腐食割れ等が知られている。
【0003】
このうち蟻の巣状腐食は、蟻酸や酢酸等の有機酸雰囲気中で生じ、腐食形状が蟻の巣状の微細孔であることから蟻の巣状腐食と呼ばれている。
熱交換器が有機酸雰囲気に曝される原因としては、熱交換器の製造時に使用する潤滑油や加工油が銅伝熱管に付着したまま残留し、それが劣化して有機酸が発生する場合、空気調和機を設置した建物の建材や内装材に含まれる有機酸が揮発する場合、あるいは空気調和機の内部に貼り付けた有機材料やその貼り付けのために用いる接着剤から放出される場合等、様々な原因が考えられる。
【0004】
従来、局部腐食の検知方法としては応力腐食割れに関する方法が主で、蟻の巣状腐食に対応する検知方法はほとんど知られていない。応力腐食割れに対応する検知方法としては、例えば、応力腐食割れに起因する構造物の破壊リスクを定量的に予測し長期的な寿命管理を行うために開発された検知方法として、割れ発生のごく初期(割れ萌芽形成期)の小規模かつ確率論的性格の強い段階での現象を感度良く観測する技術を開発・金属材料の主要成分の陽イオンと発色反応する金属陽イオン反応性発色剤を使用して金属材料の応力腐食割れ及び/又は孔食の発生過程を視覚化することを特徴とする応力腐食割れ又は孔食の発生検知方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、有機酸雰囲気であるか否かを検査する場合、アクティブサンプリング法が一般的に用いられている。アクティブサンプリング法は、吸引ポンプを用いて強制的に空気を捕集管に通過させ、物質を採集する方法で、厚生労働省が定めた「室内空気測定のガイドライン」において標準的な方法として選定されている。
このアクティブサンプリング法は数分間から30分間程度の短時間で現状の空気質を評価することはできるが、製品の出荷からの長期間にわたる経時変化を知ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008‐216232号公報(4頁19行〜44行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記説明したように、局部腐食を予測する方法として、蟻の巣状腐食に対応する検知方法はほとんど知られていない。非破壊で蟻の巣状腐食を検知する方法はなく、銅管の切断面を埋め込み、研磨した上で断面観察を行うほかなかった。
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、蟻の巣状腐食の原因である有機酸(例えば、酢酸、蟻酸、その他の有機酸。以下、有機酸とのみ記載する)の発生を簡単に非破壊で確認でき、事前に冷媒ガス漏れを防ぐ検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る空気調和機は、熱交換器の伝熱管として銅製配管を用いた空気調和機において、吸気雰囲気中の有機酸を検知する検知手段を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る空気調和機によれば、変色度合いを確認することで空気中の有機酸量を積算的に検知し、蟻の巣状腐食によるガス漏れを事前に予測することができ、熱交換器の交換を適切な時期に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に係る空気調和機の室内機の正面断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る検知器の略示的な断面図である。
【図3】この発明の実施の形態3に係る検知器の空気調和機の正面視の断面図である。
【図4】従来の熱交換器の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
次に、この発明の実施の形態1を図に基づいて説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似する部分には、同一又は類似の符号を用いる。なお、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を参酌した上で判断するとともに、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が実際の場合とは異なることもある。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態1に係る空気調和機における室内機の正面断面図である。図において、空気調和機の室内機(以下、室内機とのみ記載する場合がある)100は、主として天井に設置される。筐体9の下面には吸込み口10および吹出口11が設けられ、筐体9内には送風機4が設置されている。
【0014】
筐体9内には、吸込み口10から送風機4に至る吸込風路1(以下、上流側と記載する場合がある)、及び、送風機4から吹出口11に至る吹出風路5(以下、下流側と記載する場合がある)が形成されている。吸込み口10から吸い込まれた空気は、吸込風路1に設けられた空気清浄フィルタ‐2により塵埃が除去され、熱交換器3により冷却または加熱され、送風機4に送られる。
【0015】
熱交換器3は正面視で斜めに傾斜して配置され、これに付着した水分(着露水等)が滴下した際、それを受け止めるためにドレンパン6が下方に設けられている。また、空気清浄フィルタ‐2とドレンパン6との間に温度センサ7が配置され、この温度センサ7と並べて検知器8が配置されている。このように配置することで、圧損がなく、冷暖房効率に影響を及ぼさない空気調和機の提供が可能である。
【0016】
図2は、この発明の実施の形態1に係る検知器の断面の模式図である。図において、検知器8は空気中の有機酸等から発生する特定のガスを検知するための検知部20と、該検知部20を支持する支持体23と、ガス透過孔24と、観察用窓部25とから構成される。ガス透過孔24を通過した有機酸が検知部材20に吸着されることによりガス量を検知し、その量を観察用窓部25から視覚的に観察できる。
【0017】
検知部20は、担体26として不織布やシリカゲル等の多孔質なシ‐トを使用し、この担体26に酸化触媒としての銅粉21を混在させるとともに、有機酸と反応して呈色反応を示す有機酸検知剤22を含漬し乾燥させたものである。
【0018】
ここで、有機酸検知剤22は、酸‐塩基指示薬、酸化還元指示薬、または、金属塩・金属酸化物の検知試薬による変色域の変化を利用するものである。例えば、酢酸または蟻酸が存在すると反応する酸‐塩基指示薬をグリセリン等の湿潤剤に溶かした発色剤を使用し、この薬剤をシリカゲルやアルミニウム、二酸化ケイ素等の基体粒子の表面に吸着させる。特に、基体粒子は二酸化ケイ素を破砕し分級したものを用いることで、空気が粒子の隙間をスム‐ズに流れ、変色を明瞭に把握することができる。
【0019】
酸‐塩基指示薬には、pH4付近に変色範囲をもつものを使用するのが望ましい。例えば、ジアゾ系のメチルオレンジやサルトン系のブロモクレゾ‐ルグリ‐ン等が好ましい。
メチルオレンジは、pH3.2〜4.2にかけて橙色から赤色に変色し、ブロモクレゾ‐ルグリ‐ンではカルボン酸に反応し青色から黄色に変色する。これより、pH4付近での変色が確認でき、蟻の巣状腐食の可能性を検知することができる。
なお、上記実施の形態では、「検知試薬」とは変色の有無のみで判断できるものを指し、一方「指示薬」とは変色の有無だけでなくpH値などで定量化して判断できるものを指すものとして区別して用いているが、その境界は明確ではなく特にこれに限られるものではない。
【0020】
また、検知剤として、酢酸または蟻酸と反応するアルカリと酸‐塩基指示薬を使用することもできる。これにより変色の効率を向上させることができる。この場合は、酢酸または蟻酸がアルカリと反応し、酸‐塩基指示薬が変色する。アルカリとしては種々のものが使用できる。この場合の反応原理の一例としては、下式のように表され、
CHCOOH+NaSiO・nHO → CHCONa+H
このときの酸‐塩基指示薬には中性付近で変色範囲をもつものを使用することが好ましい。例えば、トリフェニルメタン系のクレゾ‐ルレッドやサルトン系のフェノ‐ルレッド等が良い。中性付近でクレゾ‐ルレッドは淡桃色から黄色に、フェノ‐ルレッドは赤色から黄色に変色する。これにより、有機酸の発生を確認することができる。
【0021】
この構成によれば、空気中の有機酸量を検知し、変色度合いを確認することで、蟻の巣状腐食によるガス漏れを事前に予測し、熱交換器の交換時期を明確にできる。
【0022】
有機酸濃度またはpHと蟻の巣状腐食との関係を下表1または下表2に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
表1より、有機酸濃度は0.5ppmでは明確な相関が認められない場合もあるが、1.0ppm以上になると、蟻の巣状腐食が発生することがわかる。一方表2より、pH4以上においては蟻の巣状腐食は発生しないことが確認できる。
【0026】
ここで、銅粉21を混在させることにより、銅が酸化触媒として作用し、有機酸を生成し蟻の巣状腐食を加速し、検知を容易にすることが可能となる。
銅粉21の量は酸化触媒として適量を添加する。この量が少ない場合は有機酸の生成が十分に行われない問題があり、逆に量が多い場合は着色剤の変化がわかり難い問題がある。
【0027】
銅粉21の量の添加量として0%、0.01%、0.1%、0.5%、1.0%とし、120時間、240時間、480時間放置した際の変色度合いを調べた結果を下記3に示す。変色度合いは色差計を用いて測定し、色差:0〜1.5は◎、1.5〜3.0は○、3.0〜6.0は△、6.0〜12.0は×とし、12.0以上は××とした。
【0028】
【表3】

【0029】
これより、銅の添加量は0.1%〜0.5%が望ましい。この量が0.01%と少ない場合は、変色がせず有機酸の生成が十分行われていないことがわかる。また、1.0%以上と量が多い場合は、変色の度合い大きく着色剤の変化が分かり難い問題がある。
【0030】
なお、触媒金属としては銅粉のほかに白金、パラジウム等の貴金属系や、マンガン、ニッケル等の卑金属系が使用できる。
【0031】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、有機酸検知剤は、酸‐塩基指示薬、酸化還元指示薬、または、金属塩・金属酸化物の検知試薬による変色域の変化を利用するものであり、有機酸と反応して比較的速やかに呈色反応を示すものであるが、有機酸検知剤を有機酸の発生量により、色彩または濃淡が徐々に変化するものを用いることにより有機酸発生量の経時変化を知ることができるとともに、熱交換器の交換時期も予測することが可能となる。特に、ガス漏れを事前に予知できることで、ガス漏れによる温室効果ガス排出量を抑制することができる。
なお、構成は図2に示したものと同様であるため図示は省略する。
【0032】
本発明の実施の形態2に係る有機酸検知剤としては、例えば検知試薬として酢酸または蟻酸と反応するアルカリにメタ珪酸ナトリウムを使用し、酸‐塩基指示薬にクレゾ‐ルレッドを使用し、整粒された二酸化ケイ素の表面に、前記検知試薬をコ‐ティングしたものである。これに銅粉を0.1%添加した系を用いて放置時間と変色度合いにより蟻の巣状腐食の有無を調べた結果を下表4に示す。変色度合いは色差計を用いて測定し、色差:0〜1.5は◎、1.5〜3.0は○、3.0〜6.0は△、6.0〜12.0は×とし、12.0以上は××とした。
【0033】
【表4】

【0034】
これより、変色度合いが12.0以上を超えた場合には、蟻の巣状腐食が発生することが明らかになるとともに、熱交換器の交換時期も予測することが可能となる。特に、ガス漏れを事前に予知できることで、ガス漏れによる温室効果ガス排出量を抑制することができる。
【0035】
実施の形態3.
図3は、本発明の実施形態3である空気調和機の室内機を概念的に示した正面視の断面図である。この空気調和機の室内機は、実施の形態1と同様の構成を有したもので、違いは検知器の位置と設置数が相違している。室内機100には、本発明の実施の形態3に係る検知器15a〜15cが、図3の通り吸込み空気と吹出空気が通過する直後ならびに室内機の内部の3箇所に配置されている。
【0036】
ここで、吸込み空気通過直後に設置することで、空気調和機が設置されている室内空気の有機酸量を、また吹出空気直後に設置することで、室内機で拡散した空気の有機酸量を確認することができる。これにより、吸込み、吹出し箇所における有機酸量の経時変化の違いを把握できる。さらに室内機内部の通風路外に設置することで熱交換器3を通過する気流に影響を及ぼすことがないため、冷暖房効率が損なわれることなく室内機内で発生する有機酸量をモニタリングすることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 吸込風路、2 空気清浄フィルタ‐、3 熱交換器、4 送風機、5 吹出風路、6 ドレンパン、7 温度センサ、8、15a、15b、15c 検知器、9 筐体、10 吸込み口、11 吹出口、20 検知部材 21 銅粉、22 有機酸検知剤、23 支持体、24 ガス透過孔、25 観察用窓部、26 担体、100 室内機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器の伝熱管として銅製配管を用いた空気調和機において、吸気雰囲気中の有機酸を検知する検知手段を有することを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
前記検知手段は、酸−塩基指示薬、酸化還元指示薬、または、金属塩−金属酸化物の検知試薬による変色域の変化を利用したものであることを特徴とする請求項1記載の空気調和機。
【請求項3】
前記検知手段は、空気中の有機酸を検知するための検知部材と、該検知部材を支持するための支持体と、前記検知部材上部に設けられた窓部とからなり、前記窓部により前記検知部材の変色度合いにより吸気雰囲気中の有機酸の検知を行うことを特徴とする請求項2記載の空気調和機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−220251(P2012−220251A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83726(P2011−83726)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】