説明

空調装置およびエンジン暖機促進システム

【課題】運転効率を向上できる空調装置およびエンジン暖機促進システムを提供すること。
【解決手段】暖機促進システム1の空調装置2は、溶媒の吸着により発熱すると共に溶媒の脱離により再生する吸着発熱部24を備えている。また、空調装置2は、吸着発熱部24に溶媒を供給すると共に、吸着発熱部24の発熱作用により熱エネルギーを取得して空調空気を加熱する。また、空調装置2は、溶媒の上昇温度に基づいて吸着発熱部24に対する溶媒の供給量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空調装置およびエンジン暖機促進システムに関し、さらに詳しくは、運転効率を向上できる空調装置およびこの空調装置を有するエンジン暖機促進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の空調装置では、冷媒としてエンジンの冷却水が用いられ、この冷却水と空調空気とがヒータコアにて熱交換を行うことにより、空調空気が加熱される。これにより、車室内の空調(暖房運転あるいはデフロスタ)が行われる。
【0003】
かかる構成を採用する従来の空調装置として、特許文献1に記載される技術が知られている。従来の空調装置(内燃機関の排気熱回収装置)は、内燃機関と、内燃機関の空燃比、二次空気量、点火タイミング等を制御する制御装置と、内燃機関を冷却媒体で冷却する媒体循環経路と、内燃機関の排気を導入して浄化する触媒コンバータと、前記媒体循環経路の冷却媒体を導入して空調風との間で熱交換するヒータコアを有する空気調和装置と、を備えた車両において、触媒コンバータを通過した排気ガスを導入して、前記媒体循環経路の冷却媒体との間で熱交換する冷媒排熱交換器を設け、少なくとも、前記冷却媒体の温度が所定値よりも低い場合、若しくは、前記空気調和装置の暖房能力の増加要請が有る場合に、前記制御装置の制御により前記触媒コンバータの発熱量を増加させる触媒発熱量増加制御を実行し、触媒での反応熱をもって冷却媒体を温めることを特徴とする。
【0004】
【特許文献1】特開2005−16477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の空調装置では、エンジン冷却水の温度が低い運転条件下(例えば、エンジンの暖機運転時)では、空調空気の加熱効率が低下する。このため、空調装置の運転効率(暖房運転の効率)が低いという課題がある。
【0006】
そこで、この発明は、上記に鑑みてされたものであって、運転効率を向上できる空調装置およびこの空調装置を有するエンジン暖機促進システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明にかかる空調装置は、溶媒の吸着により発熱すると共に溶媒の脱離により再生する吸着発熱部を備え、且つ、前記吸着発熱部に溶媒を供給すると共に前記吸着発熱部の発熱作用により熱エネルギーを取得して空調空気を加熱する空調装置であって、溶媒の上昇温度に基づいて前記吸着発熱部に対する溶媒の供給量が制御されることを特徴とする。
【0008】
この空調装置では、溶媒が吸着発熱部の溶質に吸着することにより熱エネルギーが発生し、吸着発熱部を通過した溶媒が加熱されて溶媒の温度が上昇する。このとき、溶媒の上昇温度は、吸着発熱部に対する溶媒の供給量に応じて変動する。したがって、吸着発熱部に対する溶媒の供給量が溶媒の上昇温度に基づいて制御されることにより、熱エネルギーが効率的に取得される。これにより、空調装置の運転効率が向上する利点がある。
【0009】
また、この発明にかかる空調装置は、所定時間における前記溶媒の上昇温度が所定の閾値以上となったときに前記吸着発熱部への溶媒の供給が停止される。
【0010】
この空調装置では、溶媒の供給量が適正に制御されるので、熱エネルギーが効率的に取得される。これにより、空調装置の運転効率が向上する利点がある。
【0011】
また、この発明にかかる空調装置は、前記溶媒の上昇温度が所定の閾値以上となるまでに、前記吸着発熱部に対する溶媒の供給速度が時間の経過と共に徐々に増加される。
【0012】
この空調装置では、吸着発熱部に対して一定の供給速度にて溶媒が供給される構成と比較して、早期に上昇温度を所定の閾値まで到達させ得る。これにより、熱エネルギーが効率的に取得されて、空調装置の運転効率が向上する利点がある。
【0013】
また、この発明にかかるエンジン暖機促進システムは、エンジンの暖機を促進するためのエンジン暖機促進システムであって、請求項1〜3のいずれか一つに記載の空調装置に用いられる溶媒と、エンジン冷却水およびエンジンオイルの少なくとも一方との熱交換を行う熱交換部を有することを特徴とする。
【0014】
このエンジン暖機促進システムでは、エンジン始動時にて、空調装置の吸着発熱部にて加熱された溶媒と、エンジン冷却水等とが熱交換部にて熱交換を行う(図1参照)。これにより、エンジン冷却水等が加温されて、エンジンの暖機が促進される利点がある。
【0015】
また、この発明にかかるエンジン暖機促進システムは、前記熱交換部が単一の蓄熱容器を有し、且つ、前記空調装置に用いられる溶媒を貯留する溶媒貯留部と、エンジン冷却水あるいはエンジンオイルを貯留する貯留部とが前記蓄熱容器内に収容される。
【0016】
このエンジン暖機促進システムでは、単一の蓄熱容器(熱交換部)内にて空調装置の溶媒と循環系のエンジン冷却水等との熱交換が行われるので、熱交換が効率的に行われる。これにより、エンジン冷却水等が効率的に加温されて、エンジンの暖機が促進される利点がある。
【0017】
また、この発明にかかるエンジン暖機促進システムは、前記熱交換部が、前記空調装置に用いられる溶媒を貯留する溶媒貯留部と、エンジン冷却水を貯留するエンジン冷却水貯留部と、エンジンオイルを貯留するエンジンオイル貯留部とを有し、且つ、前記エンジン冷却水貯留部が前記溶媒貯留部を収容すると共に前記エンジンオイル貯留部が前記エンジン冷却水貯留部を収容する。
【0018】
このエンジン暖機促進システムでは、対流し難く高い粘性を有するエンジンオイルが溶媒貯留部およびエンジン冷却水貯留部の外周に配置されるので、溶媒およびエンジン冷却水の熱エネルギーの流出が低減される。これにより、エンジン冷却水等が効率的に加温されて、エンジンの暖機が促進される利点がある。
【0019】
また、この発明にかかるエンジン暖機促進システムは、前記空調装置に用いられる溶媒と、トランスミッションに用いられるATFとの熱交換を行う熱交換部を有する。
【0020】
このエンジン暖機促進システムでは、空調装置の吸着発熱部にて加熱された溶媒とトランスミッションに用いられるATFとが熱交換部にて熱交換を行うことにより、ATFが加温される。そして、エンジンの暖機運転時にて、このATFがトランスミッションに供給されて循環する。これにより、常温のATFが用いられる構成と比較して、エンジンの円滑な動作が確保される利点がある。
【0021】
また、この発明にかかるエンジン暖機促進システムは、前記空調装置が、前記吸着発熱部にて加熱された溶媒と空調空気とを熱交換させるヒータコアと、前記ヒータコアを迂回するバイパス通路とを有すると共に、前記ヒータコア側の溶媒流路と前記バイパス通路側の溶媒流路とを切り替え可能に有し、暖房運転の中断時あるいは停止時にて、前記吸着発熱部にて加熱された溶媒が前記バイパス通路を通って前記熱交換部に供給される。
【0022】
このエンジン暖機促進システムでは、暖房運転の中断時あるいは停止時にて、吸着発熱部にて加熱された溶媒がバイパス通路を通って熱交換部に供給される。そして、この溶媒とエンジン冷却水等とが熱交換部にて熱交換を行う。これにより、エンジン冷却水等が加温されて、エンジンの暖機が促進される利点がある。
【発明の効果】
【0023】
この発明にかかる空調装置では、溶媒が吸着発熱部の溶質に吸着することにより熱エネルギーが発生し、吸着発熱部を通過した溶媒が加熱されて溶媒の温度が上昇する。このとき、溶媒の上昇温度は、吸着発熱部に対する溶媒の供給量に応じて変動する。したがって、吸着発熱部に対する溶媒の供給量が溶媒の上昇温度に基づいて制御されることにより、熱エネルギーが効率的に取得される。これにより、空調装置の運転効率が向上する利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施例の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施例に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【実施例】
【0025】
図1は、この発明の実施例にかかる空調装置およびエンジン暖機促進システムを示す構成図である。図2〜図8は、図1に記載した空調装置の作用を示すフローチャート(図2および図7)および説明図(図3〜図6および図8)である。
【0026】
[空調装置]
空調装置2は、車両に設置されて車室内の空気を調和する装置であり、例えば、車室内の暖房運転を行い得る(図1参照)。この空調装置2は、溶媒貯留部21と、ポンプ22と、溶媒噴射部23と、吸着発熱部24と、ヒータコア25とを有し、これらが溶媒用配管261、262を介して接続されて構成される。また、空調装置2は、排気導入手段27と複数の温度センサ41〜44とを有する。
【0027】
溶媒貯留部21は、溶媒を貯留するタンクである。この溶媒貯留部21は、例えば、良好な熱伝導性を有する金属容器により構成される。また、溶媒には、例えば、水、エタノール、アンモニア水、不凍液などが採用される。ポンプ22は、溶媒貯留部21内の溶媒を汲み上げて溶媒噴射部23に供給する。このポンプ22は、例えば、電動式のウォータポンプにより構成される。溶媒噴射部23は、デリバリパイプ231と、複数の噴射ノズル232とを有する。デリバリパイプ231は、供給側の溶媒用配管261を介してポンプ22および溶媒貯留部21に接続される。複数の噴射ノズル232は、デリバリパイプ231上に配列される。この溶媒噴射部23では、デリバリパイプ231が溶媒を各噴射ノズル232に分配し、この溶媒を各噴射ノズル232が吸着発熱部24に向けて噴射する。
【0028】
吸着発熱部24は、溶媒の吸着により発熱し、また、溶媒の脱離により再生する特性を有する。この吸着発熱部24は、例えば、活性炭、シリカ、アルミナ、ゼオライトなどから成る溶質により構成される。ヒータコア25は、空調空気の通路(以下、空気通路という。)R上に配置される。また、ヒータコア25は、その入口側にて吸着発熱部24に連通し、その出口側にて回収側の溶媒用配管262を介して溶媒貯留部21に接続される。このヒータコア25では、吸着発熱部24から流入した溶媒と空気通路Rの空調空気との間で熱交換が行われる。そして、熱交換後の溶媒が、回収側の溶媒用配管262を介して溶媒貯留部21に回収される。なお、空気通路Rには、ヒータコア25の上流側にブロアファンFが配置される。このブロアファンFにより空気通路R内の空調空気が送られて、車室内に吹き出される。
【0029】
排気導入手段27は、溶媒噴射部23から噴射された溶媒を加熱して蒸発させる機能と、吸着発熱部24を加熱して吸着発熱部24に吸着された溶媒を蒸発させる機能とを有する(図1参照)。この排気導入手段27は、例えば、エンジン10の排気熱を用いて発熱する。具体的には、排気導入手段27が放熱部271を有し、この放熱部271が排気用配管(排気バイパス管)272を介してエンジン10の排気通路11に接続される。また、排気用配管272に排気ON−OFF弁273が設けられる。また、エンジン10の排気通路11に排気切換バルブ12が設けられる。これらの排気ON−OFF弁273および排気切換バルブ12は、排気通路11から排気用配管272への排気の流入のON−OFFを切り替える。この排気導入手段27では、排気ON−OFF弁273および排気切換バルブ12の開閉操作により、排気通路11の排気が排気用配管272を介して排気通路11に供給される。そして、この排気熱により放熱部271が発熱する。
【0030】
温度センサ41〜44には、車室内の温度を計測する温度センサ41と、吸着発熱部24に配置されて溶媒の温度を計測する温度センサ42と、排気用配管272における排気温度を計測する温度センサ43と、溶媒貯留部21における溶媒の温度を計測する温度センサ44とがある(図1参照)。そして、これらの温度センサ41〜44の出力信号に基づいて、後述するポンプ22の駆動制御や、排気切換バルブ12および排気ON−OFF弁273の開閉制御などが行われる。なお、これらの制御は、例えば、エンジン10のECU(Engine Control Unit)が温度センサ41〜44の出力信号を取得して行う。
【0031】
[空調装置の暖房運転モード]
この空調装置2では、以下のように、車室内の暖房運転が行われる(図1〜図3参照)。まず、車室内に設置された操作スイッチ(図示省略)がONされると、排気導入手段27の放熱部271に排気が供給されて、放熱部271が発熱する(ST1)。次に、ポンプ22が駆動されて、溶媒貯留部21内の溶媒が汲み上げられる(ST2)。すると、溶媒が供給側の溶媒用配管261を介して溶媒噴射部23のデリバリパイプ231に供給される。次に、この溶媒がデリバリパイプ231から各噴射ノズル232に分配され、各噴射ノズル232から吸着発熱部24に向けて噴射される(図3参照)。すると、噴射により微粒化された溶媒が放熱部271により加熱されて蒸発し(気体となり)、この蒸気化(気体分子化)された溶媒が吸着発熱部24に吸着する。すると、この溶媒が熱エネルギーを放出して、吸着発熱部24の周囲にある溶媒が加熱される。次に、この加熱された溶媒が吸着発熱部24からヒータコア25に流入して、空気通路R内の空調空気と熱交換する。これにより、空調空気が加熱されて温風となり、この温風により車室内の暖房が行われる。また、熱交換により冷却された溶媒がヒータコア25から排出され、回収側の溶媒用配管262を介して溶媒貯留部21に回収される。
【0032】
次に、ポンプ22の駆動停止条件が判定される(ポンプ駆動停止条件判定ステップST3)。このポンプ22の駆動停止条件については、後述する。そして、所定の条件が満たされる場合には、ポンプ22の駆動が停止されて(ST4)吸着発熱部24への溶媒の供給が停止される(図4参照)。一方、このとき、排気導入手段27が排気を放熱部271に継続的に供給し、放熱部271が発熱し続ける。すると、この発熱により吸着発熱部24が加熱されて、吸着発熱部24に吸着している溶媒が蒸発(気化)する。すなわち、吸着発熱部24が加熱されると、吸着発熱部24の孔に入り込んでいる溶媒が蒸発して吸着発熱部24から脱離する。これにより、吸着発熱部24が溶媒を吸着できる状態に再生される。
【0033】
次に、ポンプ22の駆動再開条件が判定され(ST5)、所定の条件が満たされる場合には、ポンプ22の駆動が再開される(ST2)。例えば、吸着発熱部24における溶媒の温度(温度センサ42の出力値)の上昇率が所定の閾値以下の場合には、吸着発熱部24が溶媒を吸着可能な状態に再生されていると考えられる。そこで、かかる場合には、ポンプ22の駆動が再開されて、吸着発熱部24への溶媒の供給が再開される(図3参照)。これにより、熱エネルギーが再び取得されて、空調空気の加熱が行われる。
【0034】
そして、ポンプ22の駆動開始(ST2)および駆動停止(ST4)が交互に行われることにより、吸着発熱部24の発熱および再生が繰り返されて車室内の暖房運転が行われる。一方、ポンプ22の駆動再開条件が満たされない場合には、暖房運転の運転終了条件が判定される(ST6)。そして、所定の条件が満たされる場合には、吸着発熱部24への排気の導入が停止されて(ST7)、暖房運転が終了される。例えば、車室内の温度(温度センサ41の出力値)が設定温度に到達すると、暖房運転が終了される。
【0035】
[ポンプ駆動停止条件判定ステップ]
一定量の溶質(吸着発熱部を構成する溶質)に対して所定量の溶媒を反応させると、溶媒の吸着による発熱量が溶媒の混合量に応じて変化する(図5および図6参照)。例えば、図5に示す基礎実験では、200[cc]の溶質(シリカアルミナ)に対して50[cc]、100[cc]および200[cc]の溶媒(蒸留水)が混合されて、経過時間ごとの溶媒の温度が計測される。同図に示すように、溶媒の吸着による発熱量(溶媒の上昇温度)は、溶媒が100[cc]のときに最も大きい。また、図6に示す基礎実験では、200[cc]の溶質(シリカアルミナ)に対して異なる量の溶媒(蒸留水)が混合される。そして、溶媒と溶質とが混合された後1分経過したときの溶媒の上昇温度が計測される。同図に示すように、溶媒の上昇温度ΔTは、溶媒の混合量が約150[cc]のときにピーク値をとる。すなわち、溶媒の供給量が少な過ぎると十分な反応熱が得られないため、また、溶媒の供給量が多過ぎると吸着熱が溶媒に奪われるため、取得される熱エネルギーが減少すると考えられる。
【0036】
したがって、吸着発熱部24が一定量の溶質を有する構成(図1参照)では、吸着発熱部24への溶媒の供給量(吸着発熱部24の溶質に混合される溶媒の総量)が適正化されることにより、溶媒の吸着による発熱量が効率的に増加する。
【0037】
そこで、上記のポンプ駆動停止条件判定ステップST3では、以下のようにポンプ22の駆動停止条件が判定される(図7参照)。まず、温度センサ44により、溶媒の温度溶媒の温度Tが計測される(ST31)。次に、溶媒の供給開始時(ポンプ22の始動開始時)からの溶媒の上昇温度ΔTが算出される(ST32)。次に、この溶媒の上昇温度ΔTが所定の閾値aを越えた(ΔT>a)か否かが判定される(ST33)。そして、ΔT>aの場合には、ポンプ22の駆動を停止すべき判定が行われる(ST34)。
【0038】
なお、この実施例では、閾値aが、溶媒の供給開始から所定時間経過後(例えば、1分後)まで溶媒の上昇温度ΔTの最大値に設定されている。かかる上昇温度ΔTの最大値は、一般に、吸着発熱部24における溶質の量と溶媒の供給量との関係により定まる。また、閾値aは、基礎実験の結果(図5および図6参照)などに基づいて、適宜設定され得る。また、溶媒の上昇温度ΔTがこの閾値aを越えた場合には、熱エネルギーを取得するために必要な溶媒の供給量が十分に確保されており、且つ、溶媒の供給量をそれ以上増加させても熱エネルギーの効率的な増加が見込めないことを意味する。
【0039】
[効果]
以上説明したように、この空調装置2では、溶媒が吸着発熱部24の溶質に吸着することにより熱エネルギーが発生し、吸着発熱部24を通過した溶媒が加熱されて溶媒の温度Tが上昇する(図1および図3参照)。このとき、溶媒の上昇温度ΔTは、吸着発熱部24に対する溶媒の供給量に応じて変動する(図6参照)。したがって、溶媒の上昇温度ΔTに基づいて吸着発熱部24に対する溶媒の供給量が制御されることにより、熱エネルギーが効率的に取得される。これにより、空調装置の運転効率が向上する利点がある。例えば、吸着発熱部24に対する溶媒の供給量が少な過ぎると、溶媒の上昇温度ΔTが小さくなり十分な熱エネルギーが得られない。また、溶媒の供給量が多過ぎると、吸着熱が溶媒に奪われて熱エネルギーが減少する。
【0040】
また、この空調装置2では、所定時間における溶媒の上昇温度ΔTが所定の閾値a以上となったときに吸着発熱部24への溶媒の供給が停止される(ST33)(図7参照)。かかる構成では、溶媒の供給量が適正に制御されるので、熱エネルギーが効率的に取得される。これにより、空調装置2の運転効率が向上する利点がある。
【0041】
例えば、この実施例では、溶媒の温度を計測する温度センサ44が設けられ、この温度センサ44の出力結果に基づいて、溶媒の供給開始時(ポンプ22の駆動開始時)から所定時間経過後(1分後)までの溶媒の上昇温度ΔTが算出される(ST32)(図7参照)。そして、この上昇温度ΔTが所定の閾値aを越えたときに、溶媒の供給量が適正値に到達したと判定されてポンプ駆動停止判定が行われる(ST34)。これにより、ポンプ22の駆動が停止されて吸着発熱部24への溶媒の供給が停止される。
【0042】
また、この空調装置2では、溶媒の上昇温度ΔTが所定の閾値以上となるまでに、吸着発熱部24に対する溶媒の供給速度が時間の経過と共に徐々に増加されることが好ましい。かかる構成では、吸着発熱部24に対して一定の供給速度にて溶媒が供給される構成と比較して、早期に上昇温度ΔTを所定の閾値aまで到達させ得る。これにより、熱エネルギーが効率的に取得されて、空調装置2の運転効率が向上する利点がある。
【0043】
例えば、この実施例では、吸着発熱部24に溶媒を供給するためのポンプ22として、可変電動ポンプが採用されている。そして、溶媒の供給開始時(ポンプ22の駆動開始時)から所定時間経過後(1分後)までの時間にて、ポンプ22の出力が徐々に増加されている。これにより、吸着発熱部24に対する溶媒の供給速度が徐々に増加されている。
【0044】
なお、これに限らず、吸着発熱部24に溶媒を供給するためのポンプ22として、一定出力のポンプが採用されても良い。かかる構成では、空調装置を安価に構成できる利点がある。
【0045】
[エンジン暖機促進システム]
エンジン暖機促進システム1は、エンジン10の暖機を促進するためのシステムであり、空調装置2と、エンジン冷却水等の循環系3と、熱交換部5とを有する(図1参照)。循環系3は、エンジン冷却水を貯留するエンジン冷却水貯留部31と、エンジンオイルを貯留するエンジンオイル貯留部32と、ATF(Automatic Transmission Fluid)を貯留するATF貯留部33とを有し、これらの貯留部31〜33が配管35〜37を介してエンジン10あるいはトランスミッション(図示省略)に接続される。熱交換部5は、空調装置2に用いられる溶媒とエンジン冷却水等との熱交換を行う要素である。この熱交換部5は、例えば、単一の蓄熱容器により構成され、この内部に空調装置2の溶媒貯留部21と循環系3の各貯留部31〜33とを収容する。
【0046】
このエンジン暖機促進システム1では、エンジン始動時にて、空調装置2の吸着発熱部24にて加熱された溶媒と、エンジン冷却水等とが熱交換部5にて熱交換を行う(図1参照)。これにより、エンジン冷却水等が加温されて、エンジン10の暖機が促進される利点がある。
【0047】
特に、このエンジン暖機促進システム1では、熱交換部5が単一の蓄熱容器から成り、この蓄熱容器内に空調装置2の溶媒貯留部21と循環系3の各貯留部31〜33とが収容される。かかる構成では、単一の蓄熱容器(熱交換部5)内にて空調装置2の溶媒と循環系3のエンジン冷却水等との熱交換が行われるので、熱交換が効率的に行われる。これにより、エンジン冷却水等が効率的に加温されて、エンジン10の暖機が促進される利点がある。
【0048】
また、上記の構成では、エンジン冷却水貯留部31が溶媒貯留部21を収容すると共にエンジンオイル貯留部32がエンジン冷却水貯留部31を収容する構成が好ましい(図1参照)。かかる構成では、対流し難く高い粘性を有するエンジンオイルが溶媒貯留部21およびエンジン冷却水貯留部31の外周に配置されるので、溶媒およびエンジン冷却水の熱エネルギーの流出が低減される。これにより、エンジン冷却水等が効率的に加温されて、エンジン10の暖機が促進される利点がある。
【0049】
また、このエンジン暖機促進システム1では、空調装置2の吸着発熱部24にて加熱された溶媒とトランスミッションに用いられるATFとが熱交換部5にて熱交換を行うことにより、ATFが加温される(図1参照)。そして、エンジン10の暖機運転時にて、このATFがトランスミッションに供給されて循環する。これにより、常温のATFが用いられる構成と比較して、エンジン10の円滑な動作が確保される利点がある。
【0050】
[空調装置のバイパス通路]
また、空調装置2には、吸着発熱部24と回収側の溶媒用配管262とを接続するバイパス通路263が設けられる(図1、図3および図8参照)。このバイパス通路263とヒータコア25側の溶媒用配管262とは、これらの合流地点に設けられた三方弁264により切り替えられる。例えば、三方弁264がバイパス通路263側を閉止している(ヒータコア25側の溶媒用配管262を開放している)ときは、吸着発熱部24の溶媒がヒータコア25を通過し、溶媒用配管262を介して溶媒貯留部21に回収される(図3参照)。一方、三方弁264がバイパス通路263側を開放している(ヒータコア25側の溶媒用配管262を閉止している)ときは、吸着発熱部24の溶媒がバイパス通路263を通ってヒータコア25を迂回し、溶媒用配管262を介して溶媒貯留部21に回収される(図8参照)。なお、三方弁264の操作は、ECUにより行われる。
【0051】
上記の構成において、暖房運転時には、三方弁264が操作されて、バイパス通路263側が閉止される(ヒータコア25側の溶媒用配管262が開放される)(図3参照)。すると、吸着発熱部24にて加熱された溶媒がヒータコア25に流入して、空気通路R内の空調空気と熱交換する。これにより、空調空気が加熱されて温風となり、この温風により車室内の暖房が行われる。また、熱交換により冷却された溶媒がヒータコア25から排出され、回収側の溶媒用配管262を介して溶媒貯留部21に回収される。
【0052】
一方、暖房運転の中断時あるいは停止時には、三方弁264が操作されて、バイパス通路263側が開放される(ヒータコア25側の溶媒用配管262が閉止される)(図8参照)。すると、吸着発熱部24にて加熱された溶媒がバイパス通路263を通って直接的に溶媒貯留部21に回収される。このとき、ヒータコア25にて溶媒の熱交換が行われないため、高温の溶媒が溶媒貯留部21に回収される。
【0053】
上記の構成では、暖房運転の中断時あるいは停止時にて、吸着発熱部24にて加熱された溶媒がバイパス通路263を通って熱交換部5に供給される(図8参照)。そして、この溶媒とエンジン冷却水等とが熱交換部5にて熱交換を行う(図1参照)。これにより、エンジン冷却水等が加温されて、エンジン10の暖機が促進される利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、この発明にかかる空調装置は、運転効率を向上できる点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】この発明の実施例にかかる空調装置およびエンジン暖機促進システムを示す構成図である。
【図2】図1に記載した空調装置の作用を示すフローチャートである。
【図3】図1に記載した空調装置の作用を示す説明図である。
【図4】図1に記載した空調装置の作用を示す説明図である。
【図5】図1に記載した空調装置の作用を示す説明図である。
【図6】図1に記載した空調装置の作用を示す説明図である。
【図7】図1に記載した空調装置の作用を示すフローチャートである。
【図8】図1に記載した空調装置の作用を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 エンジン暖機促進システム
2 空調装置
21 溶媒貯留部
22 ポンプ
23 溶媒噴射部
231 デリバリパイプ
232 噴射ノズル
24 吸着発熱部
25 ヒータコア
261、262 溶媒用配管
263 バイパス通路
264 三方弁
27 排気導入手段
271 放熱部
272 排気用配管
273 弁
3 循環系
31 エンジン冷却水貯留部
32 エンジンオイル貯留部
33 ATF貯留部
35〜37 配管
41〜44 温度センサ
5 熱交換部
10 エンジン
11 排気通路
12 排気切換バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒の吸着により発熱すると共に溶媒の脱離により再生する吸着発熱部を備え、且つ、前記吸着発熱部に溶媒を供給すると共に前記吸着発熱部の発熱作用により熱エネルギーを取得して空調空気を加熱する空調装置であって、
溶媒の上昇温度に基づいて前記吸着発熱部に対する溶媒の供給量が制御されることを特徴とする空調装置。
【請求項2】
所定時間における前記溶媒の上昇温度が所定の閾値以上となったときに前記吸着発熱部への溶媒の供給が停止される請求項1に記載の空調装置。
【請求項3】
前記溶媒の上昇温度が所定の閾値以上となるまでに、前記吸着発熱部に対する溶媒の供給速度が時間の経過と共に徐々に増加される請求項2に記載の空調装置。
【請求項4】
エンジンの暖機を促進するためのエンジン暖機促進システムであって、
請求項1〜3のいずれか一つに記載の空調装置に用いられる溶媒と、エンジン冷却水およびエンジンオイルの少なくとも一方との熱交換を行う熱交換部を有することを特徴とするエンジン暖機促進システム。
【請求項5】
前記熱交換部が単一の蓄熱容器を有し、且つ、前記空調装置に用いられる溶媒を貯留する溶媒貯留部と、エンジン冷却水あるいはエンジンオイルを貯留する貯留部とが前記蓄熱容器内に収容される請求項4に記載のエンジン暖機促進システム。
【請求項6】
前記熱交換部が、前記空調装置に用いられる溶媒を貯留する溶媒貯留部と、エンジン冷却水を貯留するエンジン冷却水貯留部と、エンジンオイルを貯留するエンジンオイル貯留部とを有し、且つ、前記エンジン冷却水貯留部が前記溶媒貯留部を収容すると共に前記エンジンオイル貯留部が前記エンジン冷却水貯留部を収容する請求項4に記載のエンジン暖機促進システム。
【請求項7】
前記空調装置に用いられる溶媒と、トランスミッションに用いられるATFとの熱交換を行う熱交換部を有する請求項4〜6のいずれか一つに記載のエンジン暖機促進システム。
【請求項8】
前記空調装置が、前記吸着発熱部にて加熱された溶媒と空調空気とを熱交換させるヒータコアと、前記ヒータコアを迂回するバイパス通路とを有すると共に、前記ヒータコア側の溶媒流路と前記バイパス通路側の溶媒流路とを切り替え可能に有し、暖房運転の中断時あるいは停止時にて、前記吸着発熱部にて加熱された溶媒が前記バイパス通路を通って前記熱交換部に供給される請求項4〜7のいずれか一つに記載のエンジン暖機促進システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−208569(P2009−208569A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52484(P2008−52484)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】