説明

窒化炭素含有膜、その製法、及びその用途

【課題】PECVD装置に適した化合物を原料として窒化炭素膜を形成し、窒素含有量が高く、ガスバリア及び半導体用の絶縁膜として使用できる膜を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)


(式中、R,R,R,R,R,Rは、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、互いに結合していても良い。m、nは、0〜20の整数を表す。)で示される化合物を原料として用い、プラズマ励起化学気相成長法により窒化炭素含有膜を製造し、それを用いてガスバリア膜や半導体デバイスを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化炭素含有膜に関し、その製造方法及びその用途に関するものである。殊に
プラズマ励起化学気相成長法(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition:以下、PECVDとする)により成膜し、窒化炭素含有膜を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(以下、LCD)、有機ELディスプレイ(以下OLED)に代表されるフラットパネルディスプレイ(以下、FPD)では、その表示パネルの基材としてガラス基板が用いられるが、薄膜化、軽量化、耐衝撃性向上、フレキシブル化、更には、ロールツーロールプロセスへの適応の観点から、透明プラスチック基板への代替要求が高まっている。また、プラスチック基板に有機半導体を用いて有機トランジスタを形成したり、LSI、Si薄膜太陽電池、有機色素増感太陽電池、有機半導体太陽電池を形成する試みがなされている。
【0003】
通常市販されているプラスチック基板に上記素子を形成した場合、液晶素子、有機EL素子、TFT素子、半導体素子、太陽電池等、形成された素子やデバイスが水や酸素に弱い為、ディスプレイの表示にダークスポットやドット抜けが発生したり、半導体素子、太陽電池が機能しなくなり、実用に耐えない。従って、プラスチック基板に水蒸気、酸素ガスに対するガスバリア性能を付与したガスバリアプラスチック基板が必要となる。一方、ガスバリア性能を付与した透明プラスチックフィルムは、食料品、医薬品、電子材料、電子部品の包装材料用途として、今後、不透明なアルミ箔ラミネートフィルムに変わって益々使用が拡大する方向にある。
【0004】
透明プラスチック基板や透明プラスチックフィルムに透明ガスバリア性能を付与する方法としては、物理的成膜法(以下、PVD法)と化学的成膜方法(以下、CVD法)がある。
【0005】
PVD法の提案の例としては、特許文献1で酸化ケイ素膜を透明プラスチックフィルムに蒸着する方法が提案されており、特許文献2では、Siターゲットと酸素を用いてマグネトロンスパッタリング装置により酸化ケイ素膜を透明プラスチックフィルムに成膜する方法が提案されている。また、特許文献3では、SiO焼結体を用いてイオンプレーティン成膜装置により酸化ケイ素膜を透明プラスチックフィルムに成膜する方法が提案されている。
【0006】
CVD法の提案の例としては、特許文献4では、ヘキサメチルジシロキサンと酸素を用いてPECVD装置により酸化ケイ素膜を透明プラスチックフィルムに成膜する方法が提案されており、特許文献5では、モノシランガスとアンモニアガスを用いPECVD装置により窒化ケイ素膜を透明プラスチックフィルムに成膜する方法が提案されている。また、特許文献6では、ヘプタメチル(ビニル)シクロテトラシロキサンをPECVD装置で成膜し、透明プラスチック基板にSiOCH組成膜を成膜する方法が提案されている。
【0007】
透明プラスチック基板にPECVD法を用いてガスバリア層を多層に積層させ、最も水蒸気、酸素に対するガスバリア特性要求が厳しいとされるOLED用基板を製造する方法が特許文献7に提案されている。また、OLED素子を封止する目的で金属、ガラス封缶に変えて、シラザン化合物と水素からなるガスを用いて窒化珪素膜をPECVD成膜させ、封止する方法が、特許文献8に提案されている。
【0008】
窒化炭素膜を利用した提案として特許文献9があり、メタンガスと窒素ガスを用いて窒化炭素膜をPECVD成膜し、ガラス基板と樹脂フィルムの密着層としている。また、トリメチルアミン等のアミン化合物を用いた窒化炭素膜のPECVD成膜については、特許文献10に開示されている。半導体分野においては、特許文献11でエチレンやアセチレン等の不飽和炭素化合物と窒素又はアンモニアを用いて窒化炭素薄膜を薄膜トランジスタの層間絶縁膜やゲート絶縁膜として用いることを提案している。更に特許文献12では、電界効果トランジスタのゲート絶縁膜としてCVD法で形成した窒化炭素膜を用いることを提案している。
【0009】
しかしながら、これらの窒化炭素膜の製造方法は、原料が二成分系であり、できた膜の組成が一定しない。特に窒素含有量が安定しなかったり、窒素含有量が少ないという問題点を有してした。更には、ガスバリア膜として使用するには、膜が十分に緻密でない為に水蒸気や酸素に対するガスバリア性能が不十分であったり、半導体用絶縁膜として使用する為には、絶縁特性が不十分である等の課題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭53−12953号公報
【特許文献2】特開2000−192237号公報
【特許文献3】特開2006−169549号公報
【特許文献4】特開2007−144977号公報
【特許文献5】特開2006−88422号公報
【特許文献6】特開2006−502026号公報
【特許文献7】米国特許第6413645号明細書
【特許文献8】特開2005−166400号公報
【特許文献9】特開2004−66664号公報
【特許文献10】特開平9−255314号公報
【特許文献11】特開2004−277882号公報
【特許文献12】特開2002−270834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、窒素含有量が高く、ガスバリア及び半導体用の絶縁膜、エッチストップ膜、ハードマスク膜として使用できる、殊にPECVD装置に適した化合物を原料として窒化炭素膜を形成する方法を提供すること、並びにその窒化炭素膜及びこれらの膜を含んでなるガスバリア膜及び半導体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ポリアミン化合物を原料として用い、PECVDにより成膜した窒化炭素含有膜が、ガスバリア用および半導体デバイス用の緻密な膜として好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、下記一般式(1)
【0014】
【化1】

(式中、R,R,R,R,R、Rは、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、互いに結合していても良い。m、nは、0〜20の整数を表す。)で示される化合物を原料として用い、プラズマ励起化学気相成長法により窒化炭素含有膜を製造する方法である。
【0015】
また本発明は、上述の方法によって得られることを特徴とする、窒化炭素含有膜である。
【0016】
さらに本発明は、上述の窒化炭素含有膜を、熱処理、紫外線照射処理、および/または電子線処理することを特徴とする、窒化炭素含有膜の製法である。
【0017】
また本発明は、そのような製法によって得られることを特徴とする、窒化炭素含有膜である。
【0018】
さらに本発明は、上述の窒化炭素含有膜からなることを特徴とする、ガスバリア膜である。
【0019】
また本発明は、上述の窒化炭素含有膜を絶縁膜として用いることを特徴とする、半導体デバイスである。以下、本発明の詳細について説明する。
【0020】
上記一般式(1)のR、R、R、R、R、Rは、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜10の飽和または不飽和炭化水素基であり、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれの構造を有してよい。更にPECVD装置での安定的な使用を考慮した場合、一般式(1)で示される化合物の蒸気圧が低くなりすぎないよう、炭素数1〜4の飽和炭化水素基が特に好ましい。R、R、R、R、R、Rは、互いに結合していても良い。m、nは0〜20の整数を表す。
【0021】
、R、R、R、R、Rの例としては、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基であれば特に限定されるものではないが、好ましくは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、アルケニル基、アリールアルケニル基、アルケニルアリール基、アルキニル基、アリールアルキニル基、アルキニルアリール基を挙げることができる。
【0022】
具体的な例としては、水素原子、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、シクロプロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert.−ブチル、シクロブチル、n−ペンチル、tert.−アミル、シクロペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、2−エチルヘキシル等のアルキル基、
フェニル、ジフェニル、ナフチル等のアリール基、ベンジル、メチルベンジル等のアリールアルキル基、
o−トルイル、m−トルイル、p−トルイル、2,3−ジメチルフェニル、2,4−ジメチルフェニル、2,5−ジメチルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、3,4−ジメチルフェニル、3,5−ジメチルフェニル、2,4,6−トリメチルフェニル、o−エチルフェニル、m−エチルフェニル、p−エチルフェニル等のアルキルアリール基、
ビニル、アリル、1−プロペニル、1−ブテニル、1,3−ブタジエニル、1−ペンテニル、1−シクロペンテニル、2−シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、メチルシクロペンタジエニル、エチルシクロペンタジエニル、1−ヘキセニル、1−シクロヘキセニル、2,4−シクロヘキサジエニル、2,5−シクロヘキサジエニル、2,4,6−シクロヘプタトリエニル、5−ノルボルネン−2−イル等のアルケニル基、
2−フェニル−1−エテニル等のアリールアルケニル基、
o−スチリル、m−スチリル、p−スチリル等のアルケニルアリール基、
エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、4−ペンチニル、1−ヘキシニル、3−ヘキシニル、5−ヘキシニル等のアルキニル基、
2−フェニル−1−エチニル等のアリールアルキニル基、
2−エチニル−2フェニル等のアルキニルアリール基、
等を挙げることができる。
【0023】
特に好ましくは、水素原子または炭素数1〜4の飽和炭化水素基であるメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、シクロプロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert.−ブチル、シクロブチルである。
【0024】
nは0が好ましい。
【0025】
上記一般式(1)で示される化合物の具体例としては、
エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン及びヘプタエチレンオクタミン、
ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、トリエチレンジアミン、
1−メチル−4’−(ジメチルアミノエチル)ピペラジン、2−メチルピペラジン、
N−メチル−N,N’−ビス(2−ジメチルアミノエチル)エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、
N,N’−ジアリルエチレンジアミン、N,N’−ジアリルピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン
等を挙げることができる。
【0026】
本発明の一般式(1)で示される化合物は、PECVDにより成膜され、窒化炭素含有膜を製造することができる。このときのPECVDの種類及び用いる装置は、特に限定されるものではないが、例えば半導体製造分野、液晶ディスプレイ製造分野、ロールツーロール方式高分子フィルムの表面処理分野等で一般的に用いられるものが使用される。
【0027】
PECVD装置において、本発明の一般式(1)で示される化合物を気化器により気化させて、成膜チャンバー内に導入し、高周波電源により成膜チャンバー内の電極に印加し、プラズマを発生させ、成膜チャンバー内のシリコン基板等にPECVD薄膜を形成させることができる。プラズマを発生させる目的で、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、ネオン、キセノン等の不活性ガス、好ましくは窒素を、成膜時に一般式(1)で示される化合物と共存させてもよい。また、窒化炭素含有膜の窒素含有量を向上させる目的で、アンモニア、ヒドラジン等のガス、好ましくはアンモニアを成膜時に一般式(1)で示される化合物と共存させてもよい。
【0028】
PECVD装置のプラズマ発生方法については特に限定されず、上述の技術分野等で使用されている誘導結合型プラズマ、容量結合型プラズマ、ECRプラズマ等を用いることができる。また、プラズマの発生源としては、平行平板型、アンテナ型等の種々のものが使用でき、大気圧PECVD、減圧PECVD、加圧PECVD等いずれの圧力条件下のPECVDでも用いることができる。
【0029】
この際のPECVD条件としては、特に限定はないが、1.0W〜10000Wが好ましく、1.0W〜2000Wの範囲で行うことが更に好ましい。
【0030】
例えばPECVD装置として、図1の1に平行平板容量結合型PECVD装置を示す。
【0031】
図1に示す平行平板容量結合型PECVD装置は、PECVD装置チャンバー内にシャワーヘッド上部電極と基板の温度制御が可能な下部電極、上記一般式(1)で示される化合物をチャンバーに気化供給する気化器装置と高周波電源とマッチング回路から成るプラズマ発生装置、真空ポンプから成る排気系から成る。
【0032】
PECVD装置1は、PECVDチャンバー2、一般式(1)で示される化合物をチャンバー内に均一に供給する為のシャワーヘッドを有する上部電極3、Si基板等の薄膜形成用基板5を設置する為の温度制御装置8を有する下部電極4、一般式(1)で示される化合物を気化させるための気化装置9〜15、プラズマ発生源であるマッチング回路6とRF電源7、チャンバー内の未反応物及び副生物を排気する為の排気装置16から成る。17,18は、アースである。
【0033】
プラズマ発生源であるマッチング回路6とRF電源7は、上部電極3に接続され、放電によりプラズマを発生させる。RF電源7の規格については、特に限定されないが、当該技術分野で使用される電力が1W〜2000W、好ましくは10W〜1000W、周波数が50kHz〜2.5GHz、好ましくは100kHz〜100MHz、特に好ましくは200kHz〜50MHzのRF電源を用いることができる。
【0034】
基板温度は特に限定されるものでは無いが、−90〜1,000℃、好ましくは0℃〜500℃の範囲である。
【0035】
気化装置は、常温常圧で液体である一般式(1)で示される化合物13を充填し、ディップ配管と上記不活性ガスにより加圧する配管15を備えている容器12、液体である一般式(1)で示される化合物13の流量を制御する液体流量制御装置10、液体である一般式(1)で示される化合物13を気化させる気化器9、上記不活性ガスを気化器経由でPECVD装置チャンバー内に供給する為の配管14とその流量を制御する気体流量制御装置11からなる。本気化装置は、気化器9からシャワーヘッドを備えた上部電極3に配管接続されている。
【0036】
一般式(1)で示される化合物のチャンバー内への気化供給量は、特に限定されないが、0.1sccm〜10000sccm、好ましくは10sccmから5000sccmである。また、上記不活性ガスの供給量は特に限定されないが、0.1sccm〜10000sccm、好ましくは10sccmから5000sccmである。
【0037】
他の例として、図2の19に誘導結合型リモートPECVD装置を示す。図2に示す誘導結合型リモートPECVD装置は、PECVD装置チャンバー上部の石英の周りにコイル状に巻かれたプラズマ発生部、温度制御が可能な基板設置部、上記一般式(1)で示される化合物をチャンバーに気化供給する気化器装置と高周波電源とマッチング回路から成るプラズマ発生装置、真空ポンプから成る排気系から成る。
【0038】
PECVD装置19は、PECVDチャンバー20、プラズマ発生部であるコイル21と石英管22、Si基板等の薄膜形成用基板24を設置する為のヒーター部23と温度制御装置27、一般式(1)で示される化合物を気化させるための気化装置28〜35、プラズマ発生源であるマッチング回路25とRF電源26、チャンバー内の未反応物及び副生物を排気する為の排気装置36から成る。37はアースである。
【0039】
プラズマ発生部である石英周りのコイルは、マッチング回路25に接続され、石英管中にRF電流によるアンテナ電流磁界で放電させ、プラズマを発生させる。RF電源26の規格については特に限定されないが、当該技術分野で使用される電力が1W〜2000W、好ましくは10W〜1000W、周波数が50kHz〜2.5GHz、好ましくは100kHz〜100MHz、特に好ましくは200kHz〜50MHzのRF電源を用いることができる。
【0040】
基板温度は特に限定されるものでは無いが、−90〜1,000℃、好ましくは0℃〜500℃の範囲である。
【0041】
気化装置は、常温常圧で液体である一般式(1)で示される化合物33を充填し、ディップ配管と上記不活性ガスにより加圧する配管35を備えている容器32、液体である一般式(1)で示される化合物33の流量を制御する液体流量制御装置29、液体である一般式(1)で示される化合物33を気化させる気化器28、上記不活性ガスを気化器経由でPECVD装置チャンバー内に供給する為の配管34とその流量を制御する気体流量制御装置30と不活性ガスとガス化した一般式(1)で示される化合物33をチャンバー内に均一に供給する為のシャワーヘッド31から成る。
【0042】
一般式(1)で示される化合物のチャンバー内への気化供給量は、特に限定されないが、0.1sccm〜10000sccm、好ましくは10sccmから5000sccmである。また、上記不活性ガスの供給量は特に限定されないが、0.1sccm〜10000sccm、好ましくは、10sccmから5000sccmである。
【0043】
一般式(1)で示される化合物は、上で例示したPECVD装置を用いて、不活性ガスとガス化した一般式(1)で示される化合物、または、ガス化した一般式(1)で示される化合物をチャンバー内に供給し、RF電源による放電によりプラズマを発生させ、温度制御された基板上に成膜される。この際のチャンバー内の圧力は特に限定されるものではないが、0.1Pa〜10000Pa、好ましくは1Pa〜5000Paである。
【0044】
他の例として、図3の38にマイクロ波PECVD装置を示す。石英製チャンバー39、Si基板等の薄膜形成用基板40を設置する為のヒーター部41と温度制御装置42、一般式(1)で示される化合物を気化させるための気化装置43〜50、マイクロ波発生源であるマッチング回路51とマイクロ波発信器52、及びマイクロ波反射板53、チャンバー内の未反応物及び副生物を排気する為の排気装置54から成る。
【0045】
マイクロ波発生源であるマッチング回路51とマイクロ波発信器52は、石英チャンバーに接続され、マイクロ波を石英チャンバー内に照射することでプラズマを発生させる。マイクロ波の周波数については、特に限定されないが、当該技術分野で使用される周波数1MHz〜50GHz、好ましくは0.5GHz〜10GHz、特に好ましくは1GHz〜5MHzのマイクロ波を用いることができる。また、そのマイクロ波出力については0.1W〜20000W、好ましくは1W〜10000Wを用いることができる。
【0046】
基板温度は特に限定されるものではないが、−90〜1,000℃、好ましくは0℃〜500℃の範囲である。
【0047】
気化装置は、常温常圧で液体である一般式(1)で示される化合物48を充填し、ディップ配管と上記不活性ガスにより加圧する配管50を備えている容器47、液体である一般式(1)で示される化合物48の流量を制御する液体流量制御装置44、液体である一般式(1)で示される化合物48を気化させる気化器43、上記不活性ガスを気化器経由でPECVD装置チャンバー内に供給する為の配管49とその流量を制御する気体流量制御装置45と不活性ガスとガス化した一般式(1)で示される化合物48をチャンバー内に均一に供給する為のシャワーヘッド46から成る。
【0048】
一般式(1)で示される化合物のチャンバー内への気化供給量は、特に限定されないが、0.1sccm〜10000sccm、好ましくは10sccmから5000sccmである。また、上記不活性ガスの供給量は、特に限定されないが、0.1sccm〜10000sccm、好ましくは10sccmから5000sccmである。
【0049】
一般式(1)で示される化合物は、上記で例示したPECVD装置を用いて、不活性ガスとガス化した一般式(1)で示される化合物、または、ガス化した一般式(1)で示される化合物をチャンバー内に供給し、マイクロ波の照射によりプラズマを発生させ、温度制御された基板上に成膜される。この際のチャンバー内の圧力は、特に限定されるものではないが、0.1Pa〜10000Pa、好ましくは1Pa〜5000Paである。
【0050】
このようにして本発明の窒化炭素含有膜が得られるが、中でも窒素含有量が高いものが好ましく、例えば膜中に上記一般式(1)で示される化合物由来の窒素がより多く残存しているもの、および/または成膜時に共存させたアンモニアやヒドラジン等のガス由来の窒素が膜中に取り込まれたものが好ましい。当該窒化炭素含有膜は、主たる細孔径が1nm以上の細孔がない、緻密な窒化炭素膜が好ましく、高いガスバリア性、かつ高い機械的強度と高い絶縁性を有するガスバリア膜及び半導体デバイス用絶縁膜として好適な膜となる。
【0051】
また上述の窒化炭素含有膜を、熱処理、紫外線照射処理、および/または電子線処理することすることにより、さらに緻密化したまたは機械的強度が向上した膜を得ることができる場合がある。
【0052】
本発明により得られた窒化炭素含有膜、とりわけ前述の処理により得られた膜は、ガスバリア膜や半導体デバイス用絶縁膜として好適なものとなる場合がある。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、以下の顕著な効果が奏される。即ち、一般式(1)で示される化合物を窒化炭素含有膜の形成材料として用いることにより、ガスバリアフィルム、ガスバリア基板用等のガスバリア層及び半導体デバイス用等の絶縁層、ハードマスク層、エッチストップ層として緻密かつ高機械的強度の材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】平行平板容量結合型PECVD装置を示す図である。
【図2】誘導結合型リモートPECVD装置を示す図である。
【図3】マイクロ波PECVD装置を示す図である。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を示すが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0056】
膜厚測定は、堀場製作所社製 干渉式膜厚測定装置を用いた。また、生成した膜の組成をPerkin Elmer製ESCA5400MCを用いて測定した。
【0057】
実施例1
(誘導結合型リモートPECVD装置によるエチレンジアミンを用いた窒化炭素膜の製造)
図2に示した誘導結合型リモートPECVD装置を用いてエチレンジアミンをシリコン基板上に成膜した。成膜条件は、気化させたエチレンジアミンの流量50sccm、窒素ガスの流量50sccm、チャンバー内圧133Pa、基板温度室温、RF電源電力150W、RF電源周波数13.56MHzとし、60分間成膜した。
【0058】
結果は、膜厚300nmであった。窒化炭素膜の組成は、C=71atom%、N=29atom%であった。
【0059】
実施例2
(誘導結合型リモートPECVD装置によるエチレンジアミンを用いた窒化炭素膜の製造)
実施例1において、シリコン基板に代えてポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製Q65FA、フィルム厚200μm)に成膜した。ポリエチレンナフタレートフィルム上に成膜した窒化炭素膜は、ヘイズやピンホールやクラックがなく均一であり、透明であった。ガス透過性を測定したところ、酸素透過性0.95cc/m・day、水透過性0.70g/m・dayであった。
【0060】
実施例3
(マイクロ波PECVD装置によるエチレンジアミンを用いた窒化炭素膜の製造)
実施例1において、誘導結合型リモートPECVD装置に代えて図3に示したマイクロ波PECVD装置を用い、チャンバー内圧133Pa、基板温度室温、マイクロ波出力150W、マイクロ波周波数2.45GHzの条件で60分間成膜した。
【0061】
結果は、膜厚131nmであった。窒化炭素膜の組成は、C=54atom%、N=46atom%であった。
【0062】
実施例4
(マイクロ波PECVD装置によるエチレンジアミンを用いた窒化炭素膜の製造)
実施例3において、シリコン基板に代えてポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製Q65FA、フィルム厚200μm)に成膜した。ポリエチレンナフタレートフィルム上に成膜した窒化炭素膜は、ヘイズやピンホールやクラックがなく均一であり、透明であった。ガス透過性を測定したところ、酸素透過性0.94cc/m・day、水透過性0.61g/m・dayであった。
【0063】
実施例5
(マイクロ波PECVD装置によるエチレンジアミンを用いた窒化炭素膜の製造)
実施例3において、シリコン基板に代えて石英基板に成膜した。石英基板上に成膜した窒化炭素膜は、ヘイズやピンホールやクラックがなく均一であり、透明であった。
【0064】
比較例1
(マイクロ波PECVD装置によるメタンガスと窒素ガスを用いた窒化炭素膜の製造)
実施例4において、エチレンジアミンに代えてメタンガス(10sccm)と窒素ガス(100sccm)を用いて成膜した。ポリエチレンナフタレートフィルム上に成膜したこの窒化炭素膜は、黒褐色不透明であり、目視できるピンホールが存在した。
【0065】
実施例6
(平行平板容量結合型PECVD装置によるN,N’−ジアリルエチレンジアミンを用いた窒化炭素膜の製造)
図1に示した平行平板容量結合型PECVD装置を用いてN,N’−ジアリルエチレンジアミンをポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製Q65FA、フィルム厚200μm)基板上に成膜した。成膜条件は、気化させたN,N’−ジアリルエチレンジアミンの流量50sccm、ヘリウムガスの流量50sccm、チャンバー内圧133Pa、基板温度室温、RF電源電力200W、RF電源周波数13.56MHzとし、20分間成膜した。
【0066】
結果は、膜厚720nmであった。窒化炭素膜の組成は、C=95atom%、N=5atom%であった。ガス透過性を測定したところ、酸素透過性0.96cc/m・day、水透過性0.67g/m・dayであった。
【0067】
実施例7
(平行平板容量結合型PECVD装置によるN,N’−ジアリルピペラジンを用いた窒化炭素膜の製造)
図1に示した平行平板容量結合型PECVD装置を用いてN,N’−ジアリルピペラジンをポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製Q65FA、フィルム厚200μm)基板上に成膜した。成膜条件は、気化させたN,N’−ジアリルピペラジンの流量50sccm、ヘリウムガスの流量50sccm、チャンバー内圧133Pa、基板温度室温、RF電源電力200W、RF電源周波数13.56MHzとし、20分間成膜した。
【0068】
結果は、膜厚560nmであった。窒化炭素膜の組成は、C=95atom%、N=5atom%であった。ガス透過性を測定したところ、酸素透過性1.23cc/m・day、水透過性0.69g/m・dayであった。
【0069】
実施例8
(平行平板容量結合型PECVD装置によるN−(2−アミノエチル)ピペラジンを用いた窒化炭素膜の製造)
図1に示した平行平板容量結合型PECVD装置を用いてN−(2−アミノエチル)ピペラジンをポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製Q65FA、フィルム厚200μm)基板上に成膜した。成膜条件は、気化させたN−(2−アミノエチル)ピペラジンの流量50sccm、ヘリウムガスの流量50sccm、チャンバー内圧133Pa、基板温度室温、RF電源電力200W、RF電源周波数13.56MHzとし、20分間成膜した。
【0070】
結果は、膜厚786nmであった。窒化炭素膜の組成は、C=88atom%、N=12atom%であった。ガス透過性を測定したところ、酸素透過性0.35cc/m・day、水透過性0.41g/m・dayであった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により得られる窒化炭素含有膜は、ガスバリア膜や絶縁膜として用いられる。
【符号の説明】
【0072】
1.平行平板容量結合型PECVD装置
2.PECVDチャンバー
3.上部電極
4.下部電極
5.薄膜形成用基板
6.マッチング回路
7.RF電源
8.温度制御装置
9.気化器
10.液体流量制御装置
11.気体流量制御装置
12.容器
13.一般式(1)で示される化合物
14.配管
15.配管
16.排気装置
17.アース
18.アース
19.誘導結合型リモートPECVD装置
20.PECVDチャンバー
21.コイル
22.石英管
23.ヒーター部
24.薄膜形成用基板
25.マッチング回路
26.RF電源
27.温度制御装置
28.気化器
29.液体流量制御装置
30.気体流量制御装置
31.シャワーヘッド
32.容器
33.一般式(1)で示される化合物
34.配管
35.配管
36.排気装置
37.アース
38.マイクロ波PECVD装置
39.石英製チャンバー
40.薄膜形成用基板
41.ヒーター部
42.温度制御装置
43.気化器
44.液体流量制御装置
45.気体流量制御装置
46.シャワーヘッド
47.容器
48.一般式(1)で示される化合物
49.配管
50.配管
51.マッチング回路
52.マイクロ波発信器
53.マイクロ波反射板
54.排気装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R,R,R,R,R,Rは、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、互いに結合していても良い。m、nは、0〜20の整数を表す。)で示される化合物を原料として用い、プラズマ励起化学気相成長法により窒化炭素含有膜を製造する方法。
【請求項2】
n=0であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一般式(1)で示される化合物がエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン及びヘプタエチレンオクタミンからなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
一般式(1)で示される化合物が、ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジンおよびトリエチレンジアミンからなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
プラズマ励起化学気相成長法により窒化炭素含有膜を製造する際に、アンモニアを共存させることを特徴とする、請求項1乃至4いずれかに記載の方法。
【請求項6】
プラズマ励起化学気相成長法により窒化炭素含有膜を製造する際に、不活性ガスを共存させることを特徴とする、請求項1乃至4いずれかに記載の方法。
【請求項7】
不活性ガスが窒素であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載の方法によって得られることを特徴とする、窒化炭素含有膜。
【請求項9】
請求項8に記載の窒化炭素含有膜を、熱処理、紫外線照射処理、および/または電子線処理することを特徴とする、窒化炭素含有膜の製法。
【請求項10】
請求項9に記載の製法によって得られることを特徴とする、窒化炭素含有膜。
【請求項11】
請求項8または10に記載の窒化炭素含有膜からなることを特徴とする、ガスバリア膜。
【請求項12】
請求項8または10に記載の窒化炭素含有膜を絶縁膜として用いることを特徴とする、半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−283910(P2009−283910A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72074(P2009−72074)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】