説明

等方圧加圧装置及び等方圧加圧装置の加圧方法

【課題】等方圧加圧装置において低圧域の昇圧速度を増大し、目標圧力に到達する時間を短縮する。
【解決手段】本発明に係る等方圧加圧装置1は、高圧容器2、圧媒ガスを供給するガスボンベ5、供給配管6、第1圧縮機7及び第2圧縮機8を備えていて、ガスボンベ5から送られてきた圧媒ガスを第1圧縮機7で圧縮し、この圧媒ガスをさらに第2圧縮機8で圧縮する高圧圧縮ライン15を有しており、圧媒ガスを第1圧縮機7の上流側で分岐し、分岐された圧媒ガスを第1圧縮機7に送ると共に第2圧縮機8に送り、第1圧縮機7と第2圧縮機8とのそれぞれで圧縮された圧媒ガスを合流させて高圧容器2内に送る低圧圧縮ライン34も有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等方圧加圧装置及び等方圧加圧装置の加圧方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
HIP法(熱間等方圧加圧法)は、数10〜数100MPaの高圧圧媒ガス雰囲気のもと被処理物を高温にして処理するものであり、今日では広く工業的に使用されるに至っている。このように高圧圧媒ガス雰囲気のもと被処理物に加圧処理を行う等方圧加圧法には、HIP法以外にも、WIP法(温間等方圧加圧法)やCIP法(冷間等方圧加圧法)がある。
【0003】
ところで、前述したようにHIP法に代表される等方圧加圧法では処理に高圧の圧媒ガスを用いる関係から、ガス圧縮機により圧媒ガスを圧縮、加圧して圧力容器内に強制的に送り込むことで昇圧作業を行う必要がある。
例えば、特許文献1には、低圧用と高圧用との2つの圧縮機を別個に設けておいて、低圧用の圧縮機で一旦中間圧力まで昇圧したガスを冷却器に通して冷却した後、高圧用の圧縮機で再び高圧まで昇圧することで、温度上昇を抑えつつ昇圧を行うHIP装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、油圧機構で往復動するプランジャを有し、このプランジャの一方端で低圧用のガス圧縮を行うと共に、他方端で高圧用のガス圧縮を行うことにより、圧媒ガスを2段階に分けて圧縮する昇圧機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−288158号公報
【特許文献2】特公昭63−45920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のHIP装置の場合、ヒータの加熱によるガスの熱膨張によっても圧媒ガスは昇圧され、圧力容器内の圧力はガス量の増大とガスの熱膨張との双方の影響を受けて上昇する。このときガス圧縮機のガス吐出量が一定で且つ昇温速度が一定であっても、ガス物性の影響によりその昇圧速度は一定とはならない。つまり、圧力容器内が高圧のときには、圧媒ガスのガス圧縮性も小さくなるので、昇圧速度は速くなる。しかし、圧力容器内が低圧のときにはガス圧縮性が大きいので、ガス吐出量の一部がガス圧縮に使われて昇圧速度はどうしても遅くなってしまう。
【0007】
つまり、低圧域と高圧域とに分けて2段階で圧媒ガスを圧縮する方式(2段階圧縮方式)を採用する特許文献1のHIP装置では、2段のうちでも低圧までの昇圧に長い時間が必要となり、低圧域の昇圧に時間がかかる分だけ作業性が良くないという問題がある。
一方、特許文献2の往復動方式の昇圧機構は、左右のプランジャのそれぞれを低圧用の圧縮機と高圧用の圧縮機とに用いて圧媒ガスを短時間に加圧するものである。しかし、特許文献2の昇圧機構は、100MPaを超えるような高圧まで圧媒ガスを昇圧する用途に用いられるものではないし、特に時間のかかる低圧時の圧縮を効率的に行える構造にもなっていない。それゆえ、特許文献1と同様に昇圧の作業性は良くない。
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、高圧容器内の圧媒ガスを低圧域と高圧域とに分けて2段階で圧縮する際に、低圧域でのガス吐出量を増大することによって低圧域の昇圧速度を増大し、目標圧力に到達する時間を短縮することができる等方圧加圧装置及び等方圧加圧装置の加圧方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の等方圧加圧装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の等方圧加圧装置は、被処理物を収容する高圧容器と、この高圧容器内に供給されて被処理物に対して等方圧加圧処理を行う圧媒ガスを供給する圧媒ガス供給源と、この圧媒ガス供給源から前記高圧容器内に圧媒ガスを供給する供給配管と、前記供給配管上に設けられて前記圧媒ガス供給源から送られてきた圧媒ガスを圧縮する第1圧縮機及び第2圧縮機とを備えていて、前記圧媒ガス供給源から送られてきた圧媒ガスを第1圧縮機で圧縮し、前記第1圧縮機で圧縮された圧媒ガスをさらに第2圧縮機で圧縮する高圧圧縮ラインを有する等方圧加圧装置であって、前記圧媒ガス供給源から送られてきた圧媒ガスを第1圧縮機の上流側で分岐し、分岐された圧媒ガスの一部を第1圧縮機に送ると共に分岐された圧媒ガスの残りを第2圧縮機に送り、第1圧縮機と第2圧縮機とのそれぞれで圧縮された圧媒ガスを第2圧縮機の下流側で合流させて高圧容器内に送る低圧圧縮ラインも有することを特徴とする。
【0010】
なお、好ましくは、前記高圧圧縮ラインは、前記圧媒ガス供給源から第1圧縮機を経由し、この第1圧縮機の次に第2圧縮機を経由して前記高圧容器内に圧媒ガスを供給する主配管に沿って、圧媒ガスを流通させる構成とされているとよい。
また、好ましくは、前記低圧圧縮ラインは、前記第1圧縮機の上流側の主配管と、第2圧縮機の上流側の主配管との間を直接結ぶ第1バイパス配管と、前記第1圧縮機と第2圧縮機との間であって、第1バイパス配管の合流位置(A)よりも上流側の主配管と、第2圧縮機よりも下流側の主配管との間を直接結ぶ第2バイパス配管と、を備えているとよい。
【0011】
また、好ましくは、前記圧媒ガスの流路を、前記高圧圧縮ラインと低圧圧縮ラインとの間で切り替える切替弁が、前記第1圧縮機と第2圧縮機との間に設けられているとよい。
また、好ましくは、前記切替弁が、主配管に第1バイパス配管が合流する合流位置(A)より上流側であって、前記主配管から第2バイパス配管が分岐する分岐位置(B)より下流側に設けられているとよい。
【0012】
また、好ましくは、前記第1圧縮機及び第2圧縮機は、それぞれのシリンダ内に導入された圧媒ガスを1本のピストンを往復移動させることで圧縮する方式とされているとよい。
一方、本発明の等方圧加圧装置の加圧方法は、被処理物を収容する高圧容器と、この高圧容器内に供給されて被処理物に対して等方圧加圧処理を行う圧媒ガスを供給する圧媒ガス供給源と、この圧媒ガス供給源から前記高圧容器内に圧媒ガスを送る供給配管と、前記供給配管上に設けられて前記圧媒ガス供給源から送られてきた圧媒ガスを圧縮する第1圧縮機及び第2圧縮機とを備えた等方圧加圧装置の加圧方法であって、高圧圧縮時には、前記圧媒ガス供給源から送られてきた圧媒ガスを第1圧縮機で圧縮し、前記第1圧縮機で圧縮された圧媒ガスをさらに第2圧縮機で圧縮して前記高圧容器に供給し、低圧圧縮時には、前記圧媒ガス供給源から送られてきた圧媒ガスを第1圧縮機の上流側で分岐し、分岐された圧媒ガスの一部を第1圧縮機に送ると共に分岐された圧媒ガスの残りを第2圧縮機に送り、第1圧縮機と第2圧縮機とのそれぞれで圧媒ガスを圧縮し、それぞれで圧縮された圧媒ガスを第2圧縮機の下流側で合流させて前記高圧容器に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の等方圧加圧装置及び等方圧加圧装置の加圧方法によれば、高圧容器内の圧媒ガスを低圧域と高圧域とに分けて2段階で圧縮する際に、低圧域でのガス吐出量を増大することによって低圧域の昇圧速度を増大し、目標圧力に到達する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の等方圧加圧装置の配管全体を示す配管図である。
【図2】図1内の破線で囲まれた部分を拡大した図であり、(a)は本発明の配管図であり、(b)は(a)に対応する従来の配管図である。
【図3】本発明の等方圧加圧装置における昇圧方法を示した図であり、(a)は低圧域〜中圧域まで昇圧を行う際の昇圧方法を示し、(b)は中圧域〜高圧域まで昇圧を行う際の昇圧方法を示している。
【図4】高圧容器の内圧の変化とガス吐出量の変化との関係を示す図である。
【図5】(a)は加圧時間に対する容器内圧の変化を示す図であり、(b)は容器内圧に対する加圧速度の変化を示す図である((a),(b)とも昇圧と加熱が同時の場合)。
【図6】(a)は加圧時間に対する容器内圧の変化を示す図であり、(b)は容器内圧に対する加圧速度の変化を示す図である((a),(b)とも加熱せず昇圧した場合)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の等方圧加圧装置を、図面に基づき詳しく説明する。
図1は、本発明の等方圧加圧装置1の装置全体を図示している。この等方圧加圧装置1は、被処理物Wを収容する高圧容器2(図1の右上側に配備された容器)と、この高圧容器2内に圧媒ガスを圧縮して圧力容器2内に強制的に送り込むガス供給機構3とを有している。
【0016】
本発明の等方圧加圧装置1はこのガス供給機構3に特徴を備えているが、ガス供給機構3の説明に先立って、ガス供給機構3により圧媒ガスが供給される高圧容器2について説明する。
高圧容器2は、ガス不透過性の材料(ステンレス、ニッケル合金、またはモリブデン合金など)を用いて、被処理物Wを収容できるように内部が空洞な形状に形成されており、高圧容器2の内部は外部から気密的に隔離されている。また、本実施形態の高圧容器2の内部には断熱層4(図1において網掛けで示される部分)が設けられており、この断熱層4により高圧容器2の内部は外部から断熱的に隔離されている。そして、断熱層4の内側には、ガス供給機構3により供給された圧媒ガスを加熱する加熱手段(図示略)が設けられている。
【0017】
つまり、等方圧加圧装置1では、ガス供給機構3を用いて高圧容器2の内部に昇圧された圧媒ガスを送り、この圧媒ガスを加熱手段でさらに加熱することで被処理物Wの周囲を高温高圧の雰囲気にして、被処理物Wに熱間等方圧加圧処理を行えるようになっている。
なお、上述した圧媒ガスは、等方圧加圧が可能なように10MPa〜300MPaに昇圧可能なガスであって、被処理物Wとの間に反応を起こしにくいような不活性のガス、例えばアルゴンガスや窒素ガスなどが用いられる。
【0018】
また、以降に示す本実施形態の等方圧加圧装置1は熱間等方圧加圧装置(HIP)であるが、本発明の等方圧加圧装置1には熱間等方圧加圧装置以外にも、冷間等方圧加圧装置(CIP)や温間等方圧加圧(WIP)などを用いることができる。
ガス供給機構3は、被処理物Wに対して等方圧加圧処理を行う圧媒ガスを所定の圧力まで圧縮、加圧しつつ高圧容器2内に強制的に送り込むものである。ガス供給機構3は、圧媒ガスを貯蔵するガスボンベ5(ガス供給源)と、このガスボンベ5から高圧容器2内に圧媒ガスを供給する供給配管と、この供給配管の中途に設けられて圧媒ガスを圧縮する第1圧縮機7及び第2圧縮機8とを有している。
【0019】
ガスボンベ5は、圧媒ガス(図例ではアルゴンガス)を貯留可能な容器であり、高圧容器2とは反対側に位置する供給配管の端部(図1の装置レイアウトでは左下側)に接続されている。ガスボンベ5の出側には、供給配管に対する圧媒ガスの供給と遮断とを制御する供給バルブ9が設けられている。この実施形態では、圧媒ガス供給源としてガスボンベ5を用いているが、工場内の配管から圧媒ガスを供給するようにしてもよい。
【0020】
この供給バルブ9を介してガスボンベ5から供給配管6に供給された圧媒ガスは、圧力計10と安全弁11を経由して、ガスボンベ5の下流側に配備された第1圧縮機7に送られる。
供給配管は、高い耐圧性・耐熱性を有するチューブ(管材)から形成されており、空洞とされた内部に圧媒ガスを流通できるようになっている。供給配管は順次接合され、ガスボンベ5から最初に第1圧縮機7、次に第2圧縮機8を経由して高圧容器2内に圧媒ガスを供給する主配管12を構成し、この主配管12によってガスボンベ5と高圧容器2とは連結されている。また、主配管12には、後述する第1バイパス配管13や第2バイパス配管14が設けられている。
【0021】
この主配管12に沿って圧媒ガスを供給する配管系統、言い換えればガスボンベ5から送られてきた圧媒ガスを第1圧縮機7で圧縮し、この第1圧縮機7で圧縮された圧媒ガスをさらに第2圧縮機8で2段階に圧縮して高圧容器2に送る配管系統が高圧圧縮ライン15である。
高圧圧縮ライン15は、図1に太線で示すように、「ガスボンベ5→第1圧縮機7→第2圧縮機8→高圧容器2」の順にそれぞれを結ぶ主配管12に沿って圧媒ガスを流通させるものである。この高圧圧縮ライン15を構成する主配管12には、ガスボンベ5から高圧容器2に向かう経路上に第1逆止弁16(CH1)と第2逆止弁17(CH2)とが隣接して配備されている。そして、第1逆止弁16と第2逆止弁17との間の主配管12には、第1圧縮機7(第1シリンダ18)が連通状態で接続されており、このガスボンベ5から第1逆止弁16までの配管系統が低圧ライン15aとされている(図3(b)参照)。
【0022】
また、第1圧縮機7(第2逆止弁17)より下流側の主配管12には、第3逆止弁19(CH3)と第4逆止弁20(CH4)とが主配管12に沿って隣接して配備されている。そして、第3逆止弁19と第4逆止弁20との間には、第2圧縮機8(第2シリンダ21)が連通状態で接続されており、図3(bに示す如く、第1逆止弁16から第2逆止弁19までの配管系統が中圧ライン15bとされ、また第2逆止弁19から高圧容器2までの配管系統が高圧ライン15cとされている。これらの第1逆止弁16〜第4逆止弁20は、いずれも上流側から下流側に向かう圧媒ガスの流通は許容するが、下流側から上流側に逆流する圧媒ガスの流通は規制する構成となっている。それゆえ、この第1圧縮機7や第2圧縮機8で圧縮した圧媒ガスが上流側に向かって逆流することはない。
【0023】
さらに、第1圧縮機7の下流側の主配管12には、第1圧縮機7で発生した熱を除去する第1熱交換器22が設けられており、第2圧縮機8の下流側の主配管12には、第2圧縮機8で発生した熱を除去する第2熱交換器23が設けられている。そして、主配管12には、上述したもの以外にもフィルタ、安全弁、圧力計が適宜設けられており、圧媒ガスから異物を除去したり、過大な圧力が加わることを予防したりできるようになっている。
【0024】
第1圧縮機7は、ガスボンベ5から供給された圧媒ガスを5MPa〜120MPaの圧力(低圧域〜中圧域)まで圧縮するピストン式のガス圧縮機であり、後述する往復動式のガス圧縮機の一方側が当該第1圧縮機7とされている。また、往復動式のガス圧縮機の他方側が後述する第2圧縮機8とされている。なお、この往復動式のガス圧縮機の構成、動作については後ほど詳述する。
【0025】
このようにして第1圧縮機7で圧縮された圧媒ガスは第1熱交換器22で冷却された後、第2圧縮機8に送られる。
第2圧縮機8は、第1圧縮機7で圧縮された圧媒ガスをさらに10MPa〜300MPaの圧力(中圧域〜高圧域)まで圧縮するピストン式のガス圧縮機であり、上述したように第1圧縮機7と組み合わせて往復動式のガス圧縮機24を構成している。第2圧縮機8で圧縮された圧媒ガスは第2熱交換器23で冷却された後、高圧容器2に送られる。
【0026】
上述した第1圧縮機7及び第2圧縮機8は、単一の往復動式のガス圧縮機24により実現されている。この往復動式のガス圧縮機24は、左右方向に並んでそれぞれにシリンダを備えており、それぞれのシリンダ内に導入された圧媒ガスを1本のピストンロッドを往復移動させることで圧縮する方式(往復動式、ダブルアクション式)とされている。
具体的には、往復動式のガス圧縮機24は、一方側(図1の装置レイアウトでは左側)が第1圧縮機7とされ、有蓋円筒状(有底円筒状)の第1シリンダ18を水平方向に軸心を向けて備えている。また、往復動式のガス圧縮機24は、他方側(図1の装置レイアウトでは右側)が第2圧縮機8とされ、第1シリンダ18より小さな断面積を備えた有蓋円筒状の第2シリンダ21を同じく水平方向に軸心を向けて備えている。
【0027】
図2(a)に示すように、これらの第1シリンダ18と第2シリンダ21とは、互いに開口した側を対面させるようにして配備されており、第1シリンダ18の内部には第1ピストン25が、また第2シリンダ21の内部には第2ピストン26が左右方向にスライド自在に挿入されている。そして、第1ピストン25と第2ピストン26とは左右方向に沿って往復動する1本のピストンロッド27で互いに連結されており、第1ピストン25が左右の一方向に移動すれば第1ピストン25とピストンロッド27で連結された第2ピストン26もこれに連動して同じ方向に移動する構成とされている。
【0028】
一方、ピストンロッド27の左右方向中途側には作動油が充填されたシリンダ室28が設けられており、このシリンダ室28をピストンロッド27が左右方向に貫通する構成となっている。そして、このシリンダ室28を左側空間29と右側空間30との2室に仕切る仕切板31がピストンロッド27に取り付けられている。そして、シリンダ室28の左側空間29には作動油を供給したり排出したりする左油圧ライン32が設けられており、シリンダ室28の右側空間30には同じく作動油を供給したり排出したりする右油圧ライン33が設けられている。
【0029】
上述した往復動式のガス圧縮機24では、次のような手順で圧媒ガスが圧縮される。
例えば、右油圧ライン33を介して、シリンダ室28の右側空間30へ高圧の作動油が供給されたとする。その場合、ピストンロッド27が左方に移動してゆき、第1シリンダ18内に第1ピストン25が入り込んでゆき、第1シリンダ18内の圧媒ガスが圧縮されるようになる。すなわち、第1圧縮機7がガスボンベ5から低圧ライン15aを介して供給された圧媒ガスを圧縮する。このとき、第2シリンダ21内では第2ピストン26が膨張方向に移動するのに合わせて、既に第1圧縮機7で低圧域〜中圧域へと昇圧された圧媒ガスが中圧ライン15bを通じて第2シリンダ21内に供給される。
【0030】
その後、左油圧ライン32を介してシリンダ室28の左側空間29へ高圧の作動油を供給すると共に、シリンダ室28の右側空間30の作動油を右油圧ライン33を介して排出する。すると、ピストンロッド27が右方に移動してゆき、第2シリンダ21内に第2ピストン26が入り込んでゆき、第2シリンダ21内の圧媒ガスが圧縮されるようになる。すなわち、第2圧縮機8が、第1圧縮機7で低圧域〜中圧域へと昇圧された圧媒ガスをさらに圧縮し、中圧域〜高圧域へと昇圧する。そして、第2圧縮機8で昇圧された圧媒ガスが高圧ライン15cを介して、高圧容器2内に送られる。このとき、第1シリンダ18内では第1ピストン25が膨張方向に移動するのに合わせて、圧媒ガスがガスボンベ5から第1シリンダ18内に供給される。
【0031】
つまり、上述した往復動式の圧縮機24では、ピストンロッド27が往動に合わせて第1シリンダ18での圧媒ガスの圧縮(低圧域〜中圧域へと昇圧)と、複動に合わせて第2シリンダ21での圧媒ガスの圧縮(中圧域〜高圧域へと昇圧)とが交互に行われることになる。
ところで、上述したような圧媒ガスは、ガス密度との関係から、高圧状態では圧縮性が小さいものの、低圧状態では高い圧縮性を備えている。つまり、ガス吐出量が一定で且つ昇温速度が一定であっても、ガス圧縮性が大きい低圧状態とガス圧縮性が小さい高圧状態とでは、圧縮機によって昇圧される速度にも大きな違いが生じてしまう。当然、ガス圧縮性が大きな低圧状態では、圧縮機から加わるエネルギの多くが圧媒ガス自体の圧縮に使われてしまうので、低圧な状態での昇圧の方が効率(昇圧速度)が悪くなるのである。
【0032】
そこで、図2に示す如く、本発明の等方圧加圧装置1では、ガスボンベから送られてきた圧媒ガスを第1圧縮機7の上流側(低圧ライン15aの中途側)で分岐し、分岐された圧媒ガスの一部を第1圧縮機7に送ると共に分岐された圧媒ガスの残りを第2圧縮機8に送り、第1圧縮機7と第2圧縮機8とのそれぞれで圧縮された圧媒ガスを第2圧縮機8の下流側(高圧ライン15cの中途側)で合流させて高圧容器2内に送る低圧圧縮ライン34が、上述した高圧圧縮ライン15とは別に設けられている。そして、これらの第1圧縮機7と第2圧縮機8との間(中圧ライン15bの中途側)には、圧媒ガスの流路を高圧圧縮ライン15と低圧圧縮ライン34との間で切り替える切替弁35が設けられている。
【0033】
このような低圧圧縮ライン34を設ければ、第1圧縮機7だけでは昇圧速度が十分でない低圧域に対しては、第2圧縮機8も用いることにより2つの圧縮機を利用してガス圧縮を効率的に行うことができる。そして、圧媒ガスの圧力がある程度上昇した後に、通常の高圧圧縮ライン15を用いてガス圧縮を行えば、最も時間のかかる中低圧域でのガス圧縮を短時間で行うことができ、昇圧作業の効率を全体的に向上させることが可能となるのである。
【0034】
次に、低圧圧縮ライン34について、詳しく説明する。
図2(a)に示すように、低圧圧縮ライン34は、第1圧縮機7を迂回する第1バイパス配管13と、第2圧縮機8を迂回する第2バイパス配管14と、を備えている。
第1バイパス配管13は、ガスボンベ5から供給された圧媒ガスを、第1圧縮機7を迂回して直接第2圧縮機8に送る配管であり、第1圧縮機7の上流側と下流側との主配管12間を結んでいる。具体的には、第1バイパス配管13は、第1圧縮機7の上流側の分岐点(図2(a)の位置C)で主配管12から分岐している。そして、第1バイパス配管13は、第2圧縮機8の上流側(図2(a)の位置A)で主配管12に合流している。
【0035】
第2バイパス配管14は、第1圧縮機7で圧縮された中圧ライン15bの圧媒ガスを、第2圧縮機8を迂回して直接、高圧容器2側(高圧ライン15c)に送る配管である。第2バイパス配管14は、第1圧縮機7と第2圧縮機8との間であって、第1バイパス配管13が主配管12へ合流する位置A(合流位置A)よりも上流側の分岐点(図2(a)の位置B)で主配管12から分岐している。そして、第2バイパス配管14は、第2圧縮機8よりも下流側(図2(a)の位置D)で主配管12に合流している。
【0036】
切替弁35は、第1圧縮機7と第2圧縮機8との間の主配管12に設けられて、圧媒ガスが流通する流路を高圧圧縮ライン15と低圧圧縮ライン34との間で切り替えるものである。詳しくは、切替弁35が、主配管12に第1バイパス配管13が合流する合流位置Aより上流側であって、主配管12から第2バイパス配管14が分岐する分岐位置Bより下流側に設けられている。
【0037】
本実施形態の切替弁35には、所定の圧力までの圧媒ガスの流通を塞止する高圧塞止弁が設けられている。具体的には、切替弁35は、図示しないシーケンサなどにより制御された外部動力を用いて開閉されることにより、圧媒ガスの流通を許容したり規制したりする弁であり、圧媒ガスの圧力が所定値(所定の中間段圧力)以下の場合には圧媒ガスの流通が規制(塞止)されるが、圧力が所定値を超えた際には流通が許容されるようになっている。
【0038】
次に、本発明の等方圧加圧装置1を用いて高圧容器2内を昇圧する方法、言い換えれば本発明の昇圧方法について説明する。
図3(a)に示すように、圧媒ガスの圧力が低い場合は、切替弁35を塞止状態としておく。そうすると、第1圧縮機7で圧縮された圧媒ガスは切替弁35を通じて第2圧縮機8に流れることはない。それゆえ、第1圧縮機7で低圧域〜中圧域へと圧縮された圧媒ガスは、第2圧縮機8側に流れず第2バイパス配管14を通じて直接、高圧容器2内に流れる。また、第1バイパス配管13を通じてガスボンベ5から供給された圧媒ガスも、同じく切替弁35が塞止状態とされているので、切替弁35を通じて第1圧縮機7側に逆流することはない。それゆえ、第1バイパス配管13を通じて第1圧縮機7を経由することなく位置Aまで流れてきた圧媒ガスは、この第2圧縮機8で低圧域〜中圧域へと圧縮された後、直接、高圧容器2内に流れる。
【0039】
つまり、圧媒ガスの圧力が低い場合は、図3(a)の黒塗りの矢印で示されるように「ガスボンベ5→第1圧縮機7→第2バイパス配管14→高圧容器2」という流通経路と、同図に白塗りの矢印で示されるように「ガスボンベ5→第1バイパス配管13→第2圧縮機8→高圧容器2」という流通経路との2系統に分かれて圧媒ガスが流れる。その結果、第1圧縮機7と第2圧縮機8との双方を中低圧域でのガス圧縮に利用して、圧縮ガス量を増やして、中低圧域でのガス圧縮を効率的に行うことができるのである。
【0040】
やがて、図3(b)に示すように、圧媒ガスの圧力が十分に高くなったら、圧媒ガスの流通を許容する方向に切替弁35を切り替える。そうすると、図3(b)のグレー塗りの矢印で示されるように「ガスボンベ5→第1圧縮機7→第2圧縮機8→高圧容器2」という直列的な配管系統(高圧圧縮ライン15)を経由して圧媒ガスが流れる。その結果、第1圧縮機7を低中圧域のガス圧縮に用いると共に、第2圧縮機8を中高圧域でのガス圧縮に用いるというように、2つの圧縮機を分担して用いて、高圧域でのガス圧縮を行うことができるのである。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の等方圧加圧装置1の作用効果を、実施例を用いてさらに詳しく説明する。
実施例の等方圧加圧装置1は図1に示す等方圧加圧装置1のうち、点線で囲まれた部分を図2(a)に示す配管で構成したものである。この等方圧加圧装置1には高圧容器2(一例として容積約3m)が設けられており、この高圧容器2に対してはガスボンベ5からアルゴンガスが161Nm/hrで供給されている。また、比較例は、図1の点線で囲まれた部分を図2(b)に示す配管で構成したものである。この比較例の高圧容器に対してはガスボンベからアルゴンガスが116Nm/hrで供給されている。
【0042】
言い換えれば、実施例の等方圧加圧装置1は、低圧圧縮ライン34と高圧圧縮ライン15とを双方備えたものであり、比較例の等方圧加圧装置は、高圧圧縮ラインのみを備えたものである。
図4に実線で示すように、実施例の等方圧加圧装置1(昇圧機構3)では0〜75MPaまで低圧圧縮ライン34を用いて昇圧を行い、高圧容器2内が75MPaになった時点でガスの流路を低圧圧縮ライン34から高圧圧縮ライン15に切り替え、75MPa〜200MPaまでは高圧圧縮ライン15を用いて昇圧を行った。また、同じく図4に点線で示す比較例では、0〜200MPaまで高圧圧縮ラインだけを用いて昇圧している。図4から明らかなように、高圧圧縮ライン15に加えて低圧圧縮ライン34を併用した実施例では低圧域での昇圧時にガス吐出量が161Nm/hrと、比較例の116Nm/hrより大きくなっており、昇圧速度が向上していることが分かる。
【0043】
また、図5(a)は、高圧容器2内の圧媒ガスが200MPaまで昇圧するのに必要な時間を、実施例の装置1を用いた場合と、比較例の装置を用いた場合とで比較して示したものである。なお、図の横軸は、比較例の装置を用いた場合に200MPaまで昇圧する時間を基準とする相対時間となっている。
図5(a)から明らかなように、最終圧力である200MPaまで到達するのに必要な時間(図中に実線で示す実施例の昇圧時間)は、比較例(図中に点線で示すもの)に比べて83%と短くなっている。このことから実施例のように高圧圧縮ライン15に加えて低圧圧縮ライン34を用いれば、昇圧に必要な時間を17%程度短縮できるものと判断される。また、この低圧圧縮ライン34を用いた場合の昇圧時間の短縮効果は、加熱を行わない図6(a)を合わせて考えれば10〜17%となると判断される。
【0044】
一方、図5(b)は、高圧容器内2の圧媒ガスの圧力がどのように変化するか(高圧容器2内の加圧速度)を、高圧容器2内の圧力を横軸にとって示したものである。
図5(b)から明らかなように、圧媒ガスの圧力が75〜200MPaの高圧域においては、実施例の装置1であっても高圧圧縮ライン15のみを用いており、この場合の加圧速度は比較例と殆ど同一である。しかし、0〜75MPaの低圧域においては、低圧圧縮ライン34を用いている実施例の装置は比較例より40%程度加圧速度が大きくなっている。このことから、実施例のように低圧圧縮ライン34を用いれば、昇圧に必要な時間を高圧圧縮ライン15を用いた場合に比べて40%程度短縮できるものと判断される。
【0045】
なお、図5(a)及び図5(b)は、圧媒ガスの昇圧と同時に加熱を行う場合における高圧容器2内の圧力の変化及び加圧速度(昇圧速度)を示したものである。しかし、加熱を行わない場合、図6(a)及び図6(b)の場合にも同様な効果が発揮されることを出願人は確認している。
以上の実施例から明らかなように、本実施形態の等方圧加圧装置1(昇圧機構)を用いることで、高圧容器2内の圧媒ガスを低圧と高圧とに分けて2段階で圧縮する際に、低圧時のガス吐出量を増大することによって低圧域の昇圧速度を増大し、目標圧力に到達する時間を短縮することが可能となる。
【0046】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0047】
1 等方圧加圧装置
2 高圧容器
3 ガス供給機構
4 断熱層
5 ガスボンベ(圧媒ガス供給源)
7 第1圧縮機
8 第2圧縮機
9 供給バルブ
10 圧力計
11 ガス圧調整弁
12 主配管
13 第1バイパス配管
14 第2バイパス配管
15 高圧圧縮ライン
15a 低圧ライン
15b 中圧ライン
15c 高圧ライン
16 第1逆止弁
17 第2逆止弁
18 第1シリンダ
19 第3逆止弁
20 第4逆止弁
21 第2シリンダ
22 第1熱交換器
23 第2熱交換器
24 往復動式のガス圧縮機
25 第1ピストン
26 第2ピストン
27 ピストンロッド
28 シリンダ室
29 左側空間
30 右側空間
31 仕切板
32 左油圧ライン
33 右油圧ライン
34 低圧圧縮ライン
35 切替弁
W 被処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を収容する高圧容器と、この高圧容器内に供給されて被処理物に対して等方圧加圧処理を行う圧媒ガスを供給する圧媒ガス供給源と、この圧媒ガス供給源から前記高圧容器内に圧媒ガスを供給する供給配管と、前記供給配管上に設けられて前記圧媒ガス供給源から送られてきた圧媒ガスを圧縮する第1圧縮機及び第2圧縮機とを備えていて、前記圧媒ガス供給源から送られてきた圧媒ガスを第1圧縮機で圧縮し、前記第1圧縮機で圧縮された圧媒ガスをさらに第2圧縮機で圧縮する高圧圧縮ラインを有する等方圧加圧装置であって、
前記圧媒ガス供給源から送られてきた圧媒ガスを第1圧縮機の上流側で分岐し、分岐された圧媒ガスの一部を第1圧縮機に送ると共に分岐された圧媒ガスの残りを第2圧縮機に送り、第1圧縮機と第2圧縮機とのそれぞれで圧縮された圧媒ガスを第2圧縮機の下流側で合流させて高圧容器内に送る低圧圧縮ラインも有することを特徴とする等方圧加圧装置。
【請求項2】
前記高圧圧縮ラインは、前記圧媒ガス供給源から第1圧縮機を経由し、この第1圧縮機の次に第2圧縮機を経由して前記高圧容器内に圧媒ガスを供給する主配管に沿って、圧媒ガスを流通させる構成とされていることを特徴とする請求項1に記載の等方圧加圧装置。
【請求項3】
前記低圧圧縮ラインは、
前記第1圧縮機の上流側の主配管と、第2圧縮機の上流側の主配管との間を直接結ぶ第1バイパス配管と、
前記第1圧縮機と第2圧縮機との間であって、第1バイパス配管の合流位置(A)よりも上流側の主配管と、第2圧縮機よりも下流側の主配管との間を直接結ぶ第2バイパス配管と、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の等方圧加圧装置。
【請求項4】
前記圧媒ガスの流路を、前記高圧圧縮ラインと低圧圧縮ラインとの間で切り替える切替弁が、前記第1圧縮機と第2圧縮機との間に設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載の等方圧加圧装置。
【請求項5】
前記切替弁が、主配管に第1バイパス配管が合流する合流位置(A)より上流側であって、前記主配管から第2バイパス配管が分岐する分岐位置(B)より下流側に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の等方圧加圧装置。
【請求項6】
前記第1圧縮機及び第2圧縮機は、それぞれのシリンダ内に導入された圧媒ガスを1本のピストンを往復移動させることで圧縮する方式とされていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の等方圧加圧装置。
【請求項7】
被処理物を収容する高圧容器と、この高圧容器内に供給されて被処理物に対して等方圧加圧処理を行う圧媒ガスを供給する圧媒ガス供給源と、この圧媒ガス供給源から前記高圧容器内に圧媒ガスを送る供給配管と、前記供給配管上に設けられて前記圧媒ガス供給源から送られてきた圧媒ガスを圧縮する第1圧縮機及び第2圧縮機とを備えた等方圧加圧装置の加圧方法であって、
高圧圧縮時には、前記圧媒ガス供給源から送られてきた圧媒ガスを第1圧縮機で圧縮し、前記第1圧縮機で圧縮された圧媒ガスをさらに第2圧縮機で圧縮して前記高圧容器に供給し、
低圧圧縮時には、前記圧媒ガス供給源から送られてきた圧媒ガスを第1圧縮機の上流側で分岐し、分岐された圧媒ガスの一部を第1圧縮機に送ると共に分岐された圧媒ガスの残りを第2圧縮機に送り、第1圧縮機と第2圧縮機とのそれぞれで圧媒ガスを圧縮し、それぞれで圧縮された圧媒ガスを第2圧縮機の下流側で合流させて前記高圧容器に供給することを特徴とする等方圧加圧装置の加圧方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−113538(P2013−113538A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261934(P2011−261934)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】