説明

粒子状物質燃焼触媒

【課題】ディーゼルエンジン等から排出される粒子状物質を効率良く燃焼させる。
【解決手段】粒子状物質燃焼触媒を構成する触媒材は、Zrと、Y又はLaと、Srとの複酸化物12と、貴金属13とを含有してなり、その複酸化物12の主成分金属元素はZrである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質を燃焼させる粒子状物質燃焼触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン車では、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM: Particulate matter)を燃焼させるための触媒がディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF: Diesel Particulate Filter)に設けられる場合がある。また、ガソリンエンジン車においても、特に筒内直接噴射式のガソリンエンジンでは、成層リーン燃焼時に点火プラグ近傍の燃料が過濃となってスモークが発生しやすく、このスモークに伴う粒子状物質の適切な除去が望まれる。
【0003】
これに対して、特許文献1には、上記粒子状物質を燃焼させる触媒材として、Zrと、Ceを除く少なくとも一種の希土類金属と、貴金属との複酸化物を用いることが記載されている。すなわち、Zr系酸化物は、酸素濃度の濃い部分から酸素濃度の薄い部分へ酸素イオンを移動させて粒子表面から酸素を放出させる酸素イオン伝導性を有することが知られている。上記特許文献1は、Zr系酸化物を、Zrと、Ceを除く少なくとも一種の希土類金属と、貴金属との複酸化物とすることによって、その酸素イオン伝導性を高め、そのことによって、粒子状物質の燃焼性を向上させることを開示する。
【0004】
また、特許文献2には、DPFに担持する粒子状物質燃焼触媒材として、Zrを主成分金属元素とするとともにCe及びYを除く希土類金属が含まれたZr系複酸化物と、Ceを主成分金属元素とするとともにCeを除く希土類金属又はアルカリ土類金属が含まれたCe系複酸化物とを採用すること、それら複酸化物に貴金属を担持することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−69076号公報
【特許文献2】特開2007−54713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び特許文献2に記載されたZr系複酸化物も粒子状物質を燃焼させる触媒材として優れた性能を示すが、本発明は、さらに、粒子状物質の燃焼性を向上させた触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく、Zr系複酸化物に、希土類金属としてのY又はLaに加えて、さらにアルカリ土類金属としてSrをドープする構成を採用した。
【0008】
すなわち、ここに提示する粒子状物質燃焼触媒の一つの態様は、担体基材に触媒層が設けられ、その触媒層にエンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質を燃焼させるためのZrとYとSrと貴金属とを含有する触媒材が設けられており、該触媒材において、上記ZrとYとSrとが複酸化物を形成し、その複酸化物の主成分金属元素がZrであることを特徴とする。
【0009】
上記複酸化物は、主成分金属元素である4価のZrに、3価の希土類金属Yに加えて、2価のアルカリ土類金属Srがドープされているから、酸素空孔(原子空孔)が多くなり、酸素イオン伝導性が高くなる。そのため、当該複酸化物粒子表面からの酸素の放出が盛んになり、粒子状物質の燃焼速度が高くなる。すなわち、貴金属による粒子状物質の速やかな燃焼除去に有利になる。また、アルカリ土類金属Srは当該複酸化物に塩基性サイトを形成することから、排気ガス中に含まれるNOを引きつける力が強くなる。その結果、貴金属によるNOのNOへの酸化が促進され、該NOによる粒子状物質の燃焼が図れることになる。
【0010】
ここに、仮にSrをZr系複酸化物の表面に担持すると、該Srが立体障害となるため(貴金属がSrで覆われるため)、触媒の活性点が減少する。これに対して、本発明ではSrをZr系複酸化物にドープするから、上記立体障害の問題はない。
【0011】
また、上記複酸化物における酸素イオンの移動による粒子状物質の燃焼には必然的に電子の移動を伴う。上記触媒材の場合、上記貴金属が電子の移動に寄与することで酸素ないしは酸素イオンの移動を促進する。その結果、上記複酸化物からの酸素の放出が盛んになり、粒子状物質の燃焼に有利になる。また、上記複酸化物における排気ガス中の酸素を取り込んで内部の酸素を活性酸素として放出する酸素交換反応が貴金属によって促進され、粒子状物質の燃焼除去に有利になる。
【0012】
上記エンジンはディーゼルエンジンであってもガソリンエンジンであってもよく、従って、上記担体基材は、DPFに限らず、ハニカム担体であってもよい。また、上記貴金属としては、Pt、Pd、Rh等から一種又は二種以上を採用することが好ましい。
【0013】
上記触媒材の好ましい形態では、上記貴金属が上記複酸化物の表面に後担持されている。このような触媒材は、上記複酸化物に上記貴金属の溶液を接触させて焼成することによって得ることができる。例えば、ZrイオンとYイオンとSrイオンとを含む酸性溶液に塩基性溶液を添加し、得られた共沈物を焼成し、これと上記貴金属の溶液を混合し、蒸発乾固を行なうことによって触媒材を得ることができる。
【0014】
かかる形態においては、上述の如くSrのドープによって酸素イオン伝導性が高まった複酸化物表面において、高分散した貴金属が気相酸素の解離吸着と当該複酸化物へのスピルオーバーを促進する。その結果、複酸化物の酸素交換反応性が高くなり、それが粒子状物質の燃焼速度の向上に繋がると考えられる。また、複酸化物表面に高分散した貴金属によるNOのNOへの酸化が促進され、該NOによる粒子状物質の燃焼がさらに促進されると考えられる。また、上記複酸化物は貴金属が後担持されている部分の電子伝導性が高まり、それによって該複酸化物の酸素イオン伝導性が高くなることも、粒子状物質の燃焼速度の向上に繋がると考えられる。
【0015】
また、ここに提示する粒子状物質燃焼触媒の別の態様は、担体基材に触媒層が設けられ、その触媒層にエンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質を燃焼させるためのZrとLaとSrと貴金属とを含有する触媒材が設けられており、該触媒材において、上記ZrとLaとSrとが複酸化物を形成し、その複酸化物の主成分金属元素がZrであることを特徴とする。
【0016】
すなわち、本例は、希土類金属がLaであるケースである。このケースにおいても、先のYのケースと同じく、上記複酸化物は、2価のSrのドープによって、酸素空孔(原子空孔)が多くなり、酸素イオン伝導性が高くなり、その結果、粒子状物質の燃焼速度が高くなる。また、Srが当該複酸化物に塩基性サイトを形成することから、排気ガス中に含まれるNOを引きつける力が強くなる。その結果、貴金属によるNOのNOへの酸化が促進され、該NOによる粒子状物質の燃焼が図れる。
【0017】
希土類金属がLaであるケースにおいても、Yのケースと同じく、Srが立体障害となって活性点が減少する問題はない。また、貴金属が複酸化物における電子の移動に寄与することで酸素ないしは酸素イオンの移動を促進し、さらに、酸素交換反応を促進するため、粒子状物質の燃焼除去に有利になる。
【0018】
上記エンジンはディーゼルエンジンであってもガソリンエンジンであってもよく、従って、上記担体基材は、DPFに限らず、ハニカム担体であってもよい。また、上記貴金属としては、Pt、Pd、Rh等から一種又は二種以上を採用することが好ましい。
【0019】
上記触媒材の好ましい形態では、上記貴金属が上記複酸化物に後担持されている。かかる触媒材は、上記複酸化物に上記貴金属の溶液を接触させて焼成することによって得ることができる。例えば、ZrイオンとLaイオンとSrイオンとを含む酸性溶液に塩基性溶液を添加し、得られた共沈物を焼成し、これと上記貴金属の溶液を混合し、蒸発乾固を行なうことによって得ることができる。
【0020】
かかる形態においては、先のYのケースと同じく、複酸化物表面に高分散した貴金属が気相酸素の解離吸着と当該複酸化物へのスピルオーバーを促進する結果、複酸化物の酸素交換反応性が高くなり、それが粒子状物質の燃焼速度の向上に繋がると考えられる。また、複酸化物表面に高分散した貴金属によるNOのNOへの酸化が促進され、該NOによる粒子状物質の燃焼がさらに促進されると考えられる。また、上記複酸化物は貴金属が後担持されている部分の電子伝導性が高まり、それによって該複酸化物の酸素イオン伝導性が高くなることも、粒子状物質の燃焼速度の向上に繋がると考えられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、粒子状物質燃焼触媒を構成する触媒材が、Zrと、Y又はLaと、Srとの複酸化物と、貴金属とを含有してなり、その複酸化物の主成分金属元素がZrであるから、粒子状物質の速やかな燃焼除去に有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】パティキュレートフィルタをエンジンの排気ガス通路に配置した状態を示す図である。
【図2】パティキュレートフィルタを模式的に示す正面図である。
【図3】パティキュレートフィルタを模式的に示す縦断面図である。
【図4】パティキュレートフィルタの排気ガス流入路と排気ガス流出路とを隔てる壁を模式的に示す拡大断面図である。
【図5】実施形態に係る触媒材を模式的に示す図である。
【図6】希土類金属としてYを採用したケースの実施例及び比較例のカーボン燃焼速度を示すグラフ図である。
【図7】同ケースのSrドープ量とカーボン燃焼速度との関係を示すグラフ図である。
【図8】希土類金属としてLaを採用したケースの実施例及び比較例のカーボン燃焼速度を示すグラフ図である。
【図9】同ケースのSrドープ量とカーボン燃焼速度との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
本実施形態に係る粒子状物質燃焼触媒は、ディーゼルエンジンの排気ガス中の粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタに触媒材を設けたものである。もちろん、本発明は、筒内直接噴射式のガソリンエンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質の燃焼除去に利用すべく、ハニカム担体に触媒材を設けた構成とすることができる。
【0025】
<パティキュレートフィルタの構造>
図1はディーゼルエンジンの排気ガス通路11に配置されたパティキュレートフィルタ(以下、単に「フィルタ」という。)1を示す。フィルタ1よりも排気ガス流の上流側の排気ガス通路11には、活性アルミナ等のサポート材にPt、Pd等に代表される触媒金属を担持した酸化触媒(図示省略)を配置することができる。このような酸化触媒をフィルタ1の上流側に配置するときは、該酸化触媒によって排気ガス中のHC、COを酸化させ、その酸化燃焼熱でフィルタ1に流入する排気ガス温度を高めてフィルタ1を加熱することによって、パティキュレートを燃焼除去することができる。また、NOが酸化触媒でNOに酸化され、該NOがフィルタ1に粒子状物質を燃焼させる酸化剤として供給されることになる。
【0026】
図2及び図3に模式的に示すように、フィルタ1は、ハニカム構造をなしており、互いに平行に延びる多数の排気ガス通路2,3を備えている。すなわち、フィルタ1は、下流端が栓4により閉塞された排気ガス流入路2と、上流端が栓4により閉塞された排気ガス流出路3とが交互に設けられ、排気ガス流入路2と排気ガス流出路3とは薄肉の隔壁5を介して隔てられている。なお、図2においてハッチングを付した部分は排気ガス流出路3の上流端の栓4を示している。
【0027】
フィルタ1は、上記隔壁5を含むフィルタ本体がコージェライト、SiC、Si、サイアロンのような無機多孔質材料から形成されており、排気ガス流入路2内に流入した排気ガスは図3において矢印で示したように周囲の隔壁5を通って隣接する排気ガス流出路3内に流出する。すなわち、図4に示すように、隔壁5は排気ガス流入路2と排気ガス流出路3とを連通する微小な細孔(排気ガス通路)6を有し、この細孔6を排気ガスが通る。粒子状物質は主に排気ガス流入路2と細孔6の壁部に捕捉され堆積する。
【0028】
担体基材としての上記フィルタ本体の排気ガス通路(排気ガス流入路2、排気ガス流出路3及び細孔6)を形成する壁面には触媒層7が形成されている。なお、排気ガス流出路3側の壁面に触媒層を形成することは必ずしも要しない。
【0029】
上記触媒層7は、フィルタ1に堆積した粒子状物質を燃焼除去するための触媒材を含有する。触媒材は、Zrと、希土類金属としてのY又はLaと、Srとの複酸化物と、貴金属とを含有してなり、その複酸化物の主成分金属元素はZrである。
【0030】
上記触媒材の好ましい形態では、図5に模式的に示すように、上記複酸化物の一次粒子11(白丸)が凝集してなる二次粒子12に上記貴金属の一次粒子13(黒丸)が後担持されている。
【0031】
<希土類金属としてYを採用した触媒材>
−実施例1−1−
硝酸ジルコニルと硝酸イットリウムと硝酸ストロンチウムの所定量をイオン交換水に溶かし、これら水溶液を混合した。得られた混合溶液(酸性溶液)に塩基性溶液としての28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、共沈物(ZrとYとSrとの複酸化物の前駆体)を得た。この共沈物を遠心分離器にかけて上澄み液を除去する(脱水)、そこにさらにイオン交換水を加えて撹拌する(水洗)、という脱水・水洗の操作を必要回数繰り返すことで、余剰な塩基性溶液を除去した。最終的に脱水を行った後の共沈物を大気中において150℃の温度で一昼夜乾燥させ、粉砕した後、大気中において500℃の温度に2時間保持する焼成を行なった。これにより、ZrとYとSrの複酸化物の粉末を得た(共沈法による複酸化物の生成)。このZrYSr複酸化物粉末にジニトロジアミン白金硝酸溶液を添加して混合し、蒸発乾固することにより触媒材を得た。この触媒材は、ZrYSr複酸化物の一次粒子が凝集してなる二次粒子にPtの一次粒子が後担持されたものである。
【0032】
上記ZrYSr複酸化物の組成は、酸化物に換算して、SrO:ZrO:Y=1.9:86.6:11.5(モル比)である。すなわち、この複酸化物は、主成分金属元素がZrであり、ZrとYとの複酸化物にSrがドープされているということができる。この複酸化物とPtとの比率は概略、複酸化物:Pt=40:1(質量比)である。
【0033】
得られた触媒材粉末に、バインダーとイオン交換水とを混合し、スラリーを調製した。このスラリーにフィルタ本体を入口端部から浸漬させるとともに、出口端部においてアスピレータによる吸引を行なった。この吸引により除去できないスラリーは、上記混合スラリーに浸漬させた入口端面よりエアーブローを行なって除去した。これにより、フィルタ本体に触媒層を形成した。そして、これを大気中150℃で乾燥した後、同じく大気中で加熱焼成(500℃の温度に2時間保持)することにより、実施例1−1に係る触媒性能評価用サンプルを得た。
【0034】
フィルタ本体としては、直径が17mm、長さが50mm、セル密度が1平方インチ(約6.45cm)当たり178個、セルを隔てる壁厚が16ミル(約0.4mm)である炭化ケイ素(SiC)製のものを使用した。フィルタ本体1L当たりの触媒材担持量は20g/Lであり、Pt担持量は0.5g/Lとなる。
【0035】
−実施例1−2−
複酸化物の組成を、酸化物に換算して、SrO:ZrO:Y=4.8:83.8:11.4(モル比)となるようにする他は実施例1−1と同様にして、実施例1−2に係る触媒材及び触媒性能評価用サンプルを得た。
【0036】
−実施例1−3−
複酸化物の組成を、酸化物に換算して、SrO:ZrO:Y=9.5:79.6:10.9(モル比)となるようにする他は実施例1−1と同様にして、実施例1−3に係る触媒材及び触媒性能評価用サンプルを得た。
【0037】
−実施例1−4−
硝酸ジルコニルと硝酸イットリウム硝酸ストロンチウムと硝酸プラセオジムとをイオン交換水に溶かした混合溶液から上述の共沈法によってZrとYとSrとPrとの複酸化物粉末を得た。その組成は、酸化物に換算して、SrO:ZrO:Y:Pr11=1.9:78.5:13.7:5.9(モル比)である。すなわち、このZrYPrSr複酸化物は、主成分金属元素がZrであり、ZrとYとPrとの複酸化物にSrがドープされているということができる。
【0038】
上記ZrYPrSr複酸化物粉末にジニトロジアミン白金硝酸溶液を加えて混合し、蒸発乾固することにより、実施例1−4に係る触媒材を得た。この触媒材は、ZrYPrSr複酸化物の一次粒子が凝集してなる二次粒子にPtの一次粒子が後担持されたものである。複酸化物とPtとの比率は概略、複酸化物:Pt=40:1(質量比)である。
【0039】
上記触媒材を実施例1−1と同様の方法で同様のフィルタ本体に担持して触媒層を形成し、実施例1−4に係る触媒性能評価用サンプルを得た。フィルタ本体1L当たりの触媒材担持量は20g/L(Pt担持量は0.5g/L)である。
【0040】
−実施例1−5−
複酸化物の組成を、酸化物に換算して、SrO:ZrO:Y:Pr11=4.8:76.2:13.3:5.7(モル比)となるようにする他は実施例1−4と同様にして、実施例1−5に係る触媒材及び触媒性能評価用サンプルを得た。
【0041】
−実施例1−6−
複酸化物の組成を、酸化物に換算して、SrO:ZrO:Y:Pr11=9.5:72.4:12.7:5.4(モル比)となるようにする他は実施例1−4と同様にして、実施例1−6に係る触媒材及び触媒性能評価用サンプルを得た。
【0042】
−比較例1−1−
硝酸ジルコニルと硝酸イットリウムとをイオン交換水に溶かした混合溶液から上述の共沈法によってZrとYとの複酸化物粉末を得た。このZrY複酸化物粉末にジニトロジアミン白金硝酸溶液を添加して混合し、蒸発乾固することにより、比較例1−1に係る触媒材を得た。この触媒材は、ZrY複酸化物にPtが後担持されたものである(アルカリ土類金属不含)。この触媒材のPtを除く組成は、酸化物に換算して、ZrO:Y=88:12(モル比)であり、Ptを除く成分全量とPtとの比率は概略、40:1(質量比)である。
【0043】
上記触媒材粉末を実施例1−1と同様の方法で同様のフィルタ本体に担持させて比較例1−1に係る触媒性能評価用サンプルを得た。フィルタ本体1L当たりの触媒材担持量は20g/L(Pt担持量は0.5g/L)である。
【0044】
−比較例1−2−
比較例1−1と同様にしてZrY複酸化物粉末を得た。このZrY複酸化物粉末にジニトロジアミン白金硝酸溶液及び酢酸ストロンチウム溶液を添加して混合し、蒸発乾固することにより、比較例1−2に係る触媒材を得た。この触媒材は、ZrY複酸化物にPtとSrとが後担持されたものである。この触媒材のPtを除く組成は、酸化物に換算して、SrO:ZrO:Y=1.9:86.6:11.5(モル比)であり、Ptを除く成分全量とPtとの比率は概略、40:1(質量比)である。
【0045】
上記触媒材粉末を実施例1−1と同様の方法で同様のフィルタ本体に担持させて比較例1−2に係る触媒性能評価用サンプルを得た。フィルタ本体1L当たりの触媒材担持量は20g/L(Pt担持量は0.5g/L)である。
【0046】
−比較例1−3−
硝酸ジルコニルと硝酸イットリウムと硝酸プラセオジムとをイオン交換水に溶かした混合溶液から上述の共沈法によってZrとYとPrとの複酸化物粉末を得た。このZrYPr複酸化物粉末にジニトロジアミン白金硝酸溶液を添加して混合し、蒸発乾固することにより、比較例1−3に係る触媒材を得た。この触媒材は、ZrYPr複酸化物にPtが後担持されたものである。この触媒材のPtを除く組成は、酸化物に換算して、ZrO:Y:Pr11=80:14:6(モル比)であり、Ptを除く成分全量とPtとの比率は概略、40:1(質量比)である。
【0047】
上記触媒材粉末を実施例1−1と同様の方法で同様のフィルタ本体に担持させて比較例1−3に係る触媒性能評価用サンプルを得た。フィルタ本体1L当たりの触媒材担持量は20g/L(Pt担持量は0.5g/L)である。
【0048】
−比較例1−4−
比較例1−3と同様にしてZrYPr複酸化物粉末を得た。このZrYPr複酸化物粉末にジニトロジアミン白金硝酸溶液及び酢酸ストロンチウム溶液を添加して混合し、蒸発乾固することにより、比較例1−4に係る触媒材を得た。この触媒材は、ZrYPr複酸化物にPtとSrとが後担持されたものである。この触媒材のPtを除く組成は、酸化物に換算して、SrO:ZrO:Y:Pr11=1.9:78.5:13.7:5.9(モル比)であり、Ptを除く成分全量とPtとの比率は概略、40:1(質量比)である。
【0049】
上記触媒材粉末を実施例1−1と同様の方法で同様のフィルタ本体に担持させて比較例1−4に係る触媒性能評価用サンプルを得た。フィルタ本体1L当たりの触媒材担持量は20g/L(Pt担持量は0.5g/L)である。
【0050】
[触媒材のパティキュレート燃焼性能]
上記実施例1−1乃至1−6及び比較例1−1乃至1−4の各触媒材のパティキュレート燃焼性能を評価すべく、上記触媒性能評価用サンプルを用いてカーボン燃焼速度を測定した。各サンプルについては大気中で800℃の温度に24時間保持するエージングを行なった。
【0051】
まず、5g/L相当のカーボンブラックにイオン交換水を加え、スターラを用いて攪拌することによりカーボンブラックを充分に分散させた。得られたスラリーに上記エージング処理したサンプルの入口端部を浸漬させるとともに、出口端部からアスピレータによる吸引を行なった。この吸引により除去できない水分は、当該サンプルのスラリーに浸漬させた側の端面からのエアーブローで除去した。そして、150℃の温度で2時間保持することによりサンプルを乾燥させた。
【0052】
得られた各サンプルを固定床式のモデルガス流通装置に取り付け、Nガスをサンプルに流しながらサンプル入口のガス温度を常温から580℃まで上昇させた。温度が580℃で安定した後、その温度を維持した状態で、ガス組成を「7.5%O+300ppmNO+N(バランスガス)」に切り換え、当該モデルガスの空間速度を40000/hとしてサンプルに流した。そして、カーボンの燃焼により生成されるCO及びCOのモデルガス中の濃度を測定することにより、サンプルにおけるカーボン燃焼量の経時変化を測定した。そして、カーボンが50%燃焼するまでに要した時間からカーボン燃焼速度を求めた。
【0053】
[結果]
カーボン燃焼速度の測定結果を表1、図6及び図7に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
Zr系複酸化物にSrをドープした実施例はいずれも、Sr後担持或いはアルカリ土類金属(2A族)なしの比較例よりもカーボン燃焼速度が大きくなっている。比較例1−1と比較例1−2との比較から、SrをZr系複酸化物に後担持するとカーボン燃焼速度が大きくなることがわかる。しかし、実施例1−1は比較例1−2よりもさらにカーボン燃焼速度が大きくなっている。このことから、SrをZr系複酸化物にドープすることがカーボン燃焼速度の増大に有効であることがわかる。SrのドープによりZr系複酸化物の格子酸素放出量が増大することが一因と考えられる。また、実施例1−4は実施例1−1よりもカーボン燃焼速度が大きい。このことから、PrをZr系複酸化物にドープするとカーボン燃焼速度の増大にさらに有利になることがわかる。
【0056】
比較例1−1及び実施例1−1乃至1−3(Prなし)をみると、図7に示すように、Srドープ量の増大に伴ってカーボン燃焼速度が増大している。但し、Srドープ量が過剰になると、カーボン燃焼速度が低下する傾向がみられる。また、比較例1−3及び実施例1−4乃至1−6(Prあり)においても、Srドープ量とカーボン燃焼速度との関係は、上記「Prなし」と同様の傾向を示している。このSrドープ量とカーボン燃焼速度との関係から、上記複酸化物におけるSrドープ量はモル%で1%以上10%以下にすること、さらには1.9%以上6.0%以下にすることが好ましいということができる。
【0057】
<希土類金属としてLaを採用した触媒材>
−実施例2−1−
硝酸イットリウムに代えて硝酸ランタンを採用し、他は実施例1−1と同様にして、実施例2−1に係る触媒材及び触媒性能評価用サンプルを得た。この触媒材を構成するZrLaSr複酸化物の組成は、酸化物に換算して、SrO:ZrO:La=1.9:86.6:11.5(モル比)である。すなわち、この複酸化物は、主成分金属元素がZrであり、ZrとLaとの複酸化物にSrがドープされているということができる。この複酸化物とPtとの比率は概略、複酸化物:Pt=40:1(質量比)である。フィルタ本体1L当たりの触媒材担持量は20g/L(Pt担持量は0.5g/L)である。
【0058】
−実施例2−2−
複酸化物の組成を、酸化物に換算して、SrO:ZrO:La=4.8:83.8:11.4(モル比)となるようにする他は実施例2−1と同様にして、実施例2−2に係る触媒材及び触媒性能評価用サンプルを得た。
【0059】
−実施例2−3−
硝酸ジルコニルと硝酸ランタンと硝酸ストロンチウムと硝酸プラセオジムとをイオン交換水に溶かした混合溶液から上述の共沈法によってZrとLaとSrとPrとの複酸化物粉末を得た。その組成は、酸化物に換算して、SrO:ZrO:La:Pr11=1.9:78.5:13.7:5.9(モル比)である。すなわち、このZrLaPrSr複酸化物は、主成分金属元素がZrであり、ZrとLaとPrとの複酸化物にSrがドープされているということができる。
【0060】
上記ZrLaPrSr複酸化物粉末にジニトロジアミン白金硝酸溶液を加えて混合し、蒸発乾固することにより、実施例2−3に係る触媒材を得た。この触媒材は、ZrLaPrSr複酸化物の一次粒子が凝集してなる二次粒子にPtの一次粒子が後担持されたものである。複酸化物とPtとの比率は概略、複酸化物:Pt=40:1(質量比)である。
【0061】
上記触媒材を実施例2−1と同様の方法で同様のフィルタ本体に担持して触媒層を形成し、実施例2−3に係る触媒性能評価用サンプルを得た。フィルタ本体1L当たりの触媒材担持量は20g/L(Pt担持量は0.5g/L)である。
【0062】
−実施例2−4−
複酸化物の組成を、酸化物に換算して、SrO:ZrO:La:Pr11=4.8:76.2:13.3:5.7(モル比)となるようにする他は実施例2−3と同様にして、実施例2−4に係る触媒材及び触媒性能評価用サンプルを得た。
【0063】
−実施例2−5−
複酸化物の組成を、酸化物に換算して、SrO:ZrO:La:Pr11=9.5:72.4:12.7:5.4(モル比)となるようにする他は実施例2−3と同様にして、実施例2−5に係る触媒材及び触媒性能評価用サンプルを得た。
【0064】
−比較例2−1−
硝酸ジルコニルと硝酸ランタンとをイオン交換水に溶かした混合溶液から上述の共沈法によってZrとLaとの複酸化物粉末を得た。このZrLa複酸化物粉末にジニトロジアミン白金硝酸溶液を添加して混合し、蒸発乾固することにより、比較例2−1に係る触媒材を得た。この触媒材は、ZrLa複酸化物にPtが後担持されたものである(アルカリ土類金属不含)。この触媒材のPtを除く組成は、酸化物に換算して、ZrO:La=88:12(モル比)であり、Ptを除く成分全量とPtとの比率は概略、40:1(質量比)である。
【0065】
上記触媒材粉末を実施例2−1と同様の方法で同様のフィルタ本体に担持させて比較例2−1に係る触媒性能評価用サンプルを得た。フィルタ本体1L当たりの触媒材担持量は20g/L(Pt担持量は0.5g/L)である。
【0066】
−比較例2−2−
比較例2−1と同様にしてZrLa複酸化物粉末を得た。このZrLa複酸化物粉末にジニトロジアミン白金硝酸溶液及び酢酸ストロンチウム溶液を添加して混合し、蒸発乾固することにより、比較例2−2に係る触媒材を得た。この触媒材は、ZrLa複酸化物にPtとSrとが後担持されたものである。この触媒材のPtを除く組成は、酸化物に換算して、SrO:ZrO:La=1.9:86.6:11.5(モル比)であり、Ptを除く成分全量とPtとの比率は概略、40:1(質量比)である。
【0067】
上記触媒材粉末を実施例2−1と同様の方法で同様のフィルタ本体に担持させて比較例2−2に係る触媒性能評価用サンプルを得た。フィルタ本体1L当たりの触媒材担持量は20g/L(Pt担持量は0.5g/L)である。
【0068】
−比較例2−3−
硝酸ジルコニルと硝酸ランタンと硝酸プラセオジムとをイオン交換水に溶かした混合溶液から上述の共沈法によってZrとLaとPrとの複酸化物粉末を得た。このZrLaPr複酸化物粉末にジニトロジアミン白金硝酸溶液を添加して混合し、蒸発乾固することにより、比較例2−3に係る触媒材を得た。この触媒材は、ZrLaPr複酸化物にPtが後担持されたものである。この触媒材のPtを除く組成は、酸化物に換算して、ZrO:La:Pr11=80:14:6(モル比)であり、Ptを除く成分全量とPtとの比率は概略、40:1(質量比)である。
【0069】
上記触媒材粉末を実施例2−1と同様の方法で同様のフィルタ本体に担持させて比較例2−3に係る触媒性能評価用サンプルを得た。フィルタ本体1L当たりの触媒材担持量は20g/L(Pt担持量は0.5g/L)である。
【0070】
−比較例2−4−
比較例2−3と同様にしてZrLaPr複酸化物粉末を得た。このZrLaPr複酸化物粉末にジニトロジアミン白金硝酸溶液及び酢酸ストロンチウム溶液を添加して混合し、蒸発乾固することにより、比較例2−4に係る触媒材を得た。この触媒材は、ZrLaPr複酸化物にPtとSrとが後担持されたものである。この触媒材のPtを除く組成は、酸化物に換算して、SrO:ZrO:La=1.9:78.5:13.7:5.9(モル比)であり、Ptを除く成分全量とPtとの比率は概略、40:1(質量比)である。
【0071】
上記触媒材粉末を実施例2−1と同様の方法で同様のフィルタ本体に担持させて比較例2−4に係る触媒性能評価用サンプルを得た。フィルタ本体1L当たりの触媒材担持量は20g/L(Pt担持量は0.5g/L)である。
【0072】
[触媒材のパティキュレート燃焼性能]
上記実施例2−1乃至2−5及び比較例2−1乃至2−4の各触媒材のパティキュレート燃焼性能を評価すべく、上記触媒性能評価用サンプルを用いて先に説明した方法によりカーボン燃焼速度を測定した。各サンプルについては大気中で800℃の温度に24時間保持するエージングを行なった。カーボン燃焼速度の測定結果を表2、図8及び図9に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
Zr系複酸化物にSrをドープした実施例はいずれも、Sr後担持或いはアルカリ土類金属(2A族)なしの比較例よりもカーボン燃焼速度が大きくなっている。比較例2−1と比較例2−2との比較から、SrをZr系複酸化物に後担持するとカーボン燃焼速度が大きくなることがわかる。しかし、実施例2−1は比較例2−2よりもさらにカーボン燃焼速度が大きくなっている。このことから、SrをZr系複酸化物にドープすることがカーボン燃焼速度の増大に有効であることがわかる。SrのドープによりZr系複酸化物の格子酸素放出量が増大することが一因と考えられる。また、実施例2−3は実施例2−1よりもカーボン燃焼速度が大きい。このことから、PrをZr系複酸化物にドープするとカーボン燃焼速度の増大にさらに有利になることがわかる。
【0075】
比較例2−1及び実施例2−1,2−2(Prなし)をみると、図9に示すように、Srドープ量の増大に伴ってカーボン燃焼速度が増大している。また、比較例2−3及び実施例2−3乃至2−5(Prあり)においても、Srドープ量の増大に伴ってカーボン燃焼速度が増大しているが、Srドープ量が過剰になると、カーボン燃焼速度が低下する傾向がみられる。このSrドープ量とカーボン燃焼速度との関係から、上記複酸化物におけるSrドープ量はモル%で1%以上10%以下にすること、さらには1.9%以上6.0%以下にすることが好ましいということができる。
【0076】
上記実施形態では、貴金属としてのPtを複酸化物に後担持したが、貴金属を複酸化物にドープするようにしてもよい。例えば、上述の共沈法において、共沈物(複酸化物の前駆体)を遠心分離法で濾過し水洗した後、乾燥・焼成を行なう前に、当該共沈物にジニトロジアミン白金硝酸溶液を加え混合する。この混合物を大気中において150℃の温度で一昼夜乾燥させ、粉砕した後、大気中において500℃の温度に2時間保持する焼成を行なう。これにより、目的とする触媒材が得られる。この場合、共沈物(複酸化物の前駆体)とジニトロジアミン白金硝酸溶液とを混合して乾燥・焼成しているから、得られる触媒材は、複酸化物の一次粒子とPtの一次粒子とが混ざり合って凝集したものになる。このような触媒材にあっても、上記実施形態と同様に優れたカーボン燃焼性能が得られる。
【符号の説明】
【0077】
1 フィルタ
2 排気ガス流入路(排気ガス通路)
3 排気ガス流出路(排気ガス通路)
5 隔壁(担体基材)
6 細孔(排気ガス通路)
7 触媒層
11 複酸化物の一次粒子
12 複酸化物の二次粒子
13 貴金属の一次粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体基材に触媒層が設けられ、その触媒層にエンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質を燃焼させるためのZrとYとSrと貴金属とを含有する触媒材が設けられている粒子状物質燃焼触媒であって、
上記触媒材においては、上記ZrとYとSrとが複酸化物を形成し、その複酸化物の主成分金属元素がZrであることを特徴とする粒子状物質燃焼触媒。
【請求項2】
請求項1において、
上記複酸化物に上記貴金属の溶液を接触させて焼成することによって上記貴金属が上記複酸化物に後担持されていることを特徴とする粒子状物質燃焼触媒。
【請求項3】
担体基材に触媒層が設けられ、その触媒層にエンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質を燃焼させるためのZrとLaとSrと貴金属とを含有する触媒材が設けられている粒子状物質燃焼触媒であって、
上記触媒材においては、上記ZrとLaとSrとが複酸化物を形成し、その複酸化物の主成分金属元素がZrであることを特徴とする粒子状物質燃焼触媒。
【請求項4】
請求項3において、
上記複酸化物に上記貴金属の溶液を接触させて焼成することによって上記貴金属が上記複酸化物に後担持されていることを特徴とする粒子状物質燃焼触媒。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−59761(P2013−59761A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−172857(P2012−172857)
【出願日】平成24年8月3日(2012.8.3)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】