説明

粗製テレフタル酸の精製方法

【課題】粗製テレフタル酸の精製方法において、使用済み水媒体を簡便な構成で再利用を可能にするシステムを提供し、新たな水媒体の使用量を削減する。
【解決手段】前記放圧冷却時に発生した蒸気を冷却して生成した凝縮水と、該凝縮水から分離したガス及び固体分離器等の機器類、母液等の貯槽類の循環・封止ガスからの排出ガスを、水媒体により洗浄して生成したスクラバ処理排水と、前記固液分離において得られた固体を洗浄して分別回収した洗浄排水と、からなる処理排出水のうち、少なくとも1つの前記処理排出水にテレフタル酸結晶を添加して懸濁液とした後、固液分離を行って分離結晶と分離水とを回収し、該分離結晶を、前記粗製テレフタル酸製造時の原料の一部として用いるとともに、該分離水を、前記粗製テレフタル酸を溶解する水媒体の少なくとも一部として用いる粗製テレフタル酸の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粗製テレフタル酸の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精製テレフタル酸(Purified Terephtalic Acid;PTA)の製造方法として、例えば以下の方法が知られている。即ち、パラキシレン(p−キシレン)を原料として酢酸溶媒中、触媒の存在下に酸素含有ガスにより液相酸化して粗製テレフタル酸(Crude Terephtalic Acid;CTA)を製造する。そして、この工程において製造された粗製テレフタル酸は、高温、高圧の水媒体に溶解されて水素化精製が行われる。その後、水素化精製後の精製水溶液を放圧冷却することにより精製した結晶を析出させ、結晶スラリーから固液分離を行って精製テレフタル酸結晶を回収することにより、高純度の精製テレフタル酸(高純度テレフタル酸)を製造することができる。
【0003】
このような方法では、様々な工程において多量の水媒体が必要とされるとともに、使用済みの水媒体が外部へ排出される。具体的な工程としては、粗製テレフタル酸を溶解する水溶媒、精製水溶液からの精製テレフタル酸を結晶化(晶析)する工程、前記結晶を分離回収する固液分離工程、回収した結晶を乾燥粉末として製品化するための乾燥工程等が挙げられる。
【0004】
前記精製テレフタル酸の製造工程に使用される水媒体としては、粗製テレフタル酸を溶解する水溶媒としての水媒体(供給粗製テレフタル酸に対し2〜5倍量)が最も多く必要とされ、次いで精製テレフタル酸を回収するに当たって精製テレフタル酸の洗浄を行う洗浄水(精製テレフタル酸に対し0.5〜2倍量)として供給される水媒体が多く必要とされる。
【0005】
さらには、前記製造工程の各機器、各塔及び各槽の加圧及び封止用ガスの排出ガス及び循環ガスを洗浄するためのスクラバ(ガス吸収搭)に供給される洗浄水(精製テレフタル酸に対し0.5〜2倍量)が必要とされる。そして、それらの使用される水媒体は、高純度の精製テレフタル酸を製造する目的から通常の工業用水とは異なり、脱イオン水、ボイラー凝縮水等の純度の高い水が必要とされる。そして、このような水は、通常調達コストが高い。
【0006】
従って、それら各処理工程に供給される水媒体を一処理工程で製造設備外部へ排出することなく、処理排出水を浄化、再利用することができれば、繰り返し使用すること及び他の形態での処理に使用することができる。そのため、新しく供給される水媒体の節約になるとともに、廃水処理の量の低減及び負荷の軽減が図れることになる。そして高純度テレフタル酸を製造するコストの低減に繋がる。
【0007】
そこで、このような純度の高い水媒体の使用量を削減する技術として、例えば特許文献1には、水性の母液(一次母液)を処理してテレフタル酸から成る純度の低い沈澱と第二の母液を製造し、そして以下の段階:(a)より純度の低い沈澱を直接または間接に反応媒体に戻す;(b)該第二の母液の少なくとも一部分を直接その侭で、又は処理してから間接に粗製の固体を溶解する為に使用する;及び(c)該第二の母液を分別蒸留に送り、該分別蒸留から処理された水を回収し、そして還元段階の後に溶液から回収された沈澱を洗浄する為に該水を使用する;の少なくとも一つを使用するテレフタル酸の製造方法に関する技術が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、晶析槽での晶析工程において放圧冷却することにより発生する蒸気及び/又はその凝縮液を、第1固液分離で得られる1次分離母液中のパラトルイル酸濃度が800〜2000ppmとなるように、水系媒体の一部として用いる高純度テレフタル酸の製造方法が記載されている。
【0009】
さらに、本発明者らは、前記水性の母液(一次母液)に対して冷却等の処理を行って純度の低いテレフタル酸結晶と第二の母液(二次母液)を製造するに際して、該一次母液にテレフタル酸結晶を添加してパラトルイル酸含有量の低下した二次母液を回収する一次母液の処理方法について、国際特許出願PCT/JP2011/0530701号に提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−58948号公報
【特許文献2】国際公開第2004/63136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
パラキシレンを酸化させてテレフタル酸を製造する場合、テレフタル酸は逐次反応で生成する。従って、その製造工程で発生し、粗製テレフタル酸に残存する4−カルボキシベンズアルデヒドの除去が大きな課題である。特に、テレフタル酸はポリエステル等の重合反応物における原料として汎用されるため、このような重合反応を停止させうる副生成物の混入は好ましくない。
【0012】
しかしながら、粗製テレフタル酸に混入している4−カルボキシベンズアルデヒドは、テレフタル酸に対する化学的親和性の高さから、除去が通常難しい。そこで、例えば前記特許文献2に記載のように、4−カルボキシベンズアルデヒドを選択的に還元してパラトルイル酸(p−トルイル酸)とし、生成したパラトルイル酸の溶解除去を行うことで粗製テレフタル酸の精製を図っている。
【0013】
そのため、精製テレフタル酸の結晶を回収した後の水性の母液(一次母液)にはパラトルイル酸等の副生成物が含有されているので、このような副生成物の除去は、新しく用いる水媒体(脱イオン水等)を削減するにあたっては重要となる。そのため、該一次母液を冷却等の処理を行って、パラトルイル酸等を含有した純度の低いテレフタル酸結晶(沈殿)を回収したのち、第二の母液(二次母液)を生成する。そしてパラトルイル酸が低減された該二次母液の少なくとも一部分を直接そのままで、又は処理して間接に粗製のテレフタル酸結晶を溶解する水媒体に使用することが特許文献1(特開平5−58948号公報)に提案されている。
【0014】
従って、新しく用いる水媒体を削減するために使用済みの水媒体を再利用するにあたって、再利用しようとする水媒体中の副生成物(具体的には、パラトルイル酸)をできるだけ除去することが好ましい。そして、このようにして該二次母液を処理して副生成物が最大限除去された水媒体の使用は、新しく用いる水媒体の削減につながるため、特許文献1及び特許文献2に記載の技術が提案されている。
【0015】
即ち、特許文献1に記載の技術においては、具体的には、二次母液を還流比2〜10、理論段数25段〜125段の蒸留カラムを用いて分別蒸留を行って、パラトルイル酸等の大幅な低減を行っているが、パラトルイル酸の除去に多大なエネルギを要するという課題がある。さらに、蒸留カラムを設置するためのコスト及び設置場所を要するという課題もある。
【0016】
また、特許文献2に記載の技術においては、前記精製水溶液からの精製テレフタル酸の結晶化(晶析)工程で発生する蒸気及び/又はその凝縮液と二次母液とのいずれか一方を蒸留や膜分離、合成吸着材を用いパラトルイル酸の除去が行われている。そのため、パラトルイル酸の除去コストが増加したり、分離膜の選択及び使用、合成吸着材の使用、吸着後の合成吸着材の廃棄等によってパラトルイル酸の除去に新たなコストが掛かる。
【0017】
前記課題及び二次母液を対象とした各技術に鑑み、本発明は粗製テレフタルの精製方法において排出される一次母液及び二次母液以外の使用済み水媒体(処理排出水)、即ち、1)前記精製水溶液からの結晶化(晶析)工程における放圧冷却により発生した蒸気を冷却した凝縮水、2)該凝縮水からの分離ガス、固液分離器、乾燥器の封止、循環ガスからの排出ガスそして固液分離器からの分離母液(一次母液)、洗浄排水の貯槽封止ガスからの排出ガスを洗浄するスクラバ処理排出水、3)固液分離器からの洗浄排水からなる処理排出水を対象としてパラトルイル酸含有量を低減するための簡便な処理構成で、新たな水媒体の使用量を削減することができる粗製テレフタル酸の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、対象とする使用済み水媒体(処理排出水)にテレフタル酸結晶を添加し、懸濁液としたのち、固液分離を行って、分離結晶と分離水を回収する簡便な処理方法を提供し、該分離結晶は粗製テレフタル酸製造原料の一部として供給する。そして該分離水は粗製テレフタル酸を溶解する水媒体の一部に再利用され、新たな水媒体の供給を削減する方法となる。また、対象とするそれぞれの処理排出水中のパラトルイル酸の含有量に応じて上記のテレフタル酸結晶を添加処理する系統を複数に分岐して、分離水の合理的な再利用システムを提供することにより前記課題をより効果のあるものにできることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0019】
本発明に拠れば、簡便な処理構成で新たな水媒体の使用量を削減することができる粗製テレフタル酸の精製方法を提供することができる。そして回収された分離結晶を酸化反応に循環することにより、添加したテレフタル酸結晶を損失することなく、付着パラトルイル酸をテレフタル酸として回収されることになり、テレフタル酸の製造収量の増量に寄与する。
また、処理排出水の循環使用により、廃水処理工程の処理負荷が軽減されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】粗製テレフタル酸(CTA)製造工程と粗製テレフタル酸精製工程からなる高純度テレフタル酸(PTA)製造プロセスに付加した水媒体再利用システムの概略流れ図である。
【図2】実施例において使用した濾過試験器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図1を参照しながら、本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明する。
【0022】
[1.高純度テレフタル酸の製造フロー]
図1に示すように、高純度テレフタル酸製造プロセス100においては、(i)粗製テレフタル酸製造工程と、(ii)粗製テレフタル酸精製工程と、の2つの工程を主に含んで精製テレフタル酸(高純度テレフタル酸)が製造される。そして、図1中、太実線は、原料であるパラキシレンから最終生成物である精製テレフタル酸(PTA)へ至るフローである。以下、各工程を詳細に説明する。
【0023】
(i)粗製テレフタル酸製造工程
本工程では、パラキシレンを液相酸化して、粗製テレフタル酸の結晶粉末を製造する。具体的には、パラキシレン(原料)、酢酸(溶媒)、触媒等を酸化反応槽1に供給して、酸素含有ガスによりパラキシレンを液相酸化させ、晶析槽(図示せず)にて冷却し、十分にテレフタル酸の結晶を析出させる。ただし、パラキシレンを酸化してテレフタル酸を製造する反応は逐次反応であるため、中間生成物である4−カルボキシベンズアルデヒド等が残存され、粗製テレフタル酸の結晶には、その中間生成物である4−カルボキシベンズアルデヒド等が微量であるが含まれることになる。
【0024】
その後、晶析槽(図示せず)でテレフタル酸結晶の析出した反応生成スラリーは、固液分離器2に供給される。そして、固液分離器2において、結晶からなる粗製テレフタル酸(CTA;固相)と、触媒を含む酢酸溶媒(液相)とが分離される。分離された粗製テレフタル酸結晶は乾燥されたのち、後記する粗製テレフタル酸精製工程に供される。一方、分離された酢酸溶媒は、図1に示すように直接及び酢酸回収セクション(図示せず)を通して循環され、酸化反応槽1で再利用される。
【0025】
なお、図1に示すように、酸化反応槽1には、前記した原料パラキシレンの他にも分離結晶も合わせて供給される。分離結晶については、後記する。
【0026】
(ii)粗製テレフタル酸精製工程
本工程では、粗製テレフタル酸(CTA)が精製され、精製された高純度テレフタル酸(PTA)が製造される。詳細に説明する。
【0027】
粗製テレフタル酸製造工程で得られた粗製テレフタル酸(CTA)は、2〜5重量倍の水媒体(脱イオン水)とともにCTAスラリー調製槽3に供給され、CTA結晶スラリーが調製される。そして、調製されたCTA結晶スラリーは加熱器4により260℃〜300℃(この時の圧力は、約50〜90Kg/cmG (なお、「G」はゲージ圧を示す。以下同様である。))に加熱されて、結晶は溶解し、テレフタル酸水溶液となる。なお、このテレフタル酸水溶液には、4−カルボキシベンズアルデヒドも溶解含有されている。
【0028】
なお、CTAスラリー調製槽3に供給される水媒体には、後記する工程において発生した使用済みの処理排出水(即ち、パラトルイル酸等を含む水媒体)が直接或いは浄化処理して再利用されるものも含まれる。この点については後記する。
【0029】
テレフタル酸水溶液は、水素(H)とともに水素化反応器5に供給される。水素化反応器5には、パラジウム坦持活性炭触媒が充填されている。そのため、テレフタル酸水溶液が水素化反応器5に供給されると、テレフタル酸水溶液中の4−カルボキシベンズアルデヒドが有するアルデヒド基が還元され、パラトルイル酸に還元される。即ち、その後の工程には、パラトルイル酸を含むテレフタル酸水溶液として供されることになる。
【0030】
水素化反応器5にて還元されたテレフタル酸水溶液は、晶析槽6に供される。晶析槽6は、段階的に圧力を低下させた多段直列晶析槽(4〜6槽、即ち、複数の晶析槽からなる。)である。そして、晶析槽6において、段階的に放圧してテレフタル酸水溶液を冷却(温度降下)して結晶を析出(晶析)させ、約120℃〜170℃の精製テレフタル酸スラリー(結晶スラリー)を生成する。
【0031】
生成した結晶スラリーはこの温度を保持したまま固液分離器7(例えば加圧濾過器等)に供され、高温高圧にて生成テレフタル酸結晶(固相)が分離回収される。なお、パラトルイル酸はこの温度で溶解しているため、大部分のパラトルイル酸は液相に含まれることになる。
【0032】
そして、固液分離器7(例えば固液分離域と洗浄域の一体型の濾過器等)において得られたテレフタル酸結晶を水媒体で十分に洗浄した後、精製テレフタル酸結晶を湿潤ケーキとして回収する。そして、当該湿潤ケーキを乾燥器8に供し、十分に乾燥させる。乾燥後、精製テレフタル酸(PTA)が得られる。なお、固液分離器7においては、精製テレフタル酸結晶から分離された水性の母液(一次母液)が排出される(図示せず)と共に、洗浄に用いた水媒体は洗浄排水として排出される。該一次母液の一部は例えば特許文献1に提案されているような処理を行って、水媒体として再使用され、残りは廃水処理工程に排出される。また、分別回収された洗浄排水は、一旦洗浄排水槽11に貯蔵されるが、図1に示すように、直接及び/又は処理したのち粗製テレフタル酸を溶解する水媒体の一部として再利用される。詳細な処理については後記する。
【0033】
また、固液分離器7(例えば洗浄域を伴わない固液分離器であるデカンタ等)で分離回収された湿潤ケーキは洗浄のため水媒体で再びスラリーとされたのち、再び固液分離器(図示せず)で精製テレフタル酸結晶の湿潤ケーキと洗浄排水とに分離回収される。そのため、湿潤ケーキは乾燥器8へ、洗浄排水は洗浄排水槽11に移送排出される。
【0034】
[2.水媒体の再利用システム]
次に、前記した図1の粗製テレフタル酸精製工程(ii)の各処理において排出される処理排出水(使用済み水媒体)の再利用システムのフローについて説明する。
例えば、晶析槽6から排出される蒸気の凝縮水、また該凝縮水を分離したガス、固液分離器7及び分離された水性母液(一次母液)(図示せず)、洗浄排水の貯槽11、乾燥器8等の循環・封止ガスから排出される各排出ガスを洗浄するスクラバ13からの処理排出水等の処理済み水媒体が排出される。そして、固液分離器7から排出される水性母液(一次母液)を除いて、晶析槽6からの前記凝縮(排出)水は勿論、前記各機器・貯槽の循環・封止ガス(窒素等の不活性ガス、但し、前記凝縮水を分離したガスは精製余剰の水素ガスを含有)に蒸発・同伴する微量の不純物(パラトルイル酸等)を含有した排出ガスを洗浄するスクラバ処理の排出水は、通常ほぼ透明のものである(温度・圧力降下によって結晶の析出しない水媒体)。前記のように、粗製テレフタル酸精製工程(ii)において必要とされる水媒体は高純度なものであるため、調達コストが高い。また、使用済み水媒体(処理排出水)は有機化合物を含むため、環境負荷のいっそうの低減という観点からも、できるだけ外部へ排出せず、再利用することが好ましい。
【0035】
本発明が対象とする処理排出水は、一次母液以外のほぼ透明な前記使用済み水媒体である。使用済み水媒体を再利用するには、含有されるパラトルイル酸を低減、浄化するため、凝縮水懸濁槽10及び懸濁槽14でテレフタル酸結晶を添加し、結晶を分散、懸濁液としたのち、それぞれ固液分離器12,15で分離することになる。そしてそれぞれの分離結晶はパラキシレンとともに酸化反応槽1に供給され、分離水は、粗製テレフタル酸(CTA)と水媒体とでスラリーを調製する水媒体の一部として、CTAスラリー調整槽3に供給される。
なお、使用済み水媒体に含まれる不純物(パラトルイル酸)の量が排出場所に拠って異なるため、懸濁槽/固液分離器の10/12と14/15の二系統のフローに分岐して浄化処理することが、再利用にあたってより好ましい。
【0036】
例えば晶析槽6から排出される蒸気の凝縮水中にはパラトルイル酸が500ppm〜600ppm程度含まれている。一方で、図1に示すように、スクラバ13には固液分離器7、分離母液槽(図示せず)及び洗浄排水槽11等の封止用ガスや乾燥器8の循環ガスからの排出ベントガスが供給されるが、このスクラバ13(後記する)から排出される使用済み水媒体には、約100ppm以下のパラトルイル酸が含まれている。従って、これらの使用済み水媒体を同様に取り扱って再利用するには合理的ではない。
【0037】
そこで、水媒体再利用システムでは含まれるパラトルイル酸の含有レベルに拠って、2系統の水媒体再利用フローを設けている。このように、含まれるパラトルイル酸の量に応じた水媒体再利用フローを複数系統設けることにより、再利用される水媒体を有効に活用でき、新たに導入される水媒体をより削減することができる。
【0038】
以下、改めて図1を参照しながら、水媒体再利用システムのフローについて説明する。図1中の太破線は、使用済み水媒体(分離水及び洗浄排水)の再利用フローを示している。また、図1中、ハッチングを施した設備が再利用に直接関与する処理設備である。
【0039】
はじめに、分離凝縮水を用いる凝縮水再利用フローについて説明する。
晶析槽6から排出された蒸気は凝縮器9によって冷却され、凝縮水媒体と水素を含んだガスに分離される。そして、この凝縮水媒体には高いレベルのパラトルイル酸(約500ppm〜600ppm)が含まれている。冷却後、凝縮水媒体は、凝縮水懸濁槽10に供給される。なお、凝縮器9で分離された前記排出ガスはスクラバ13に供給され、洗浄されて排出される。また、凝縮器9において生じた熱(具体的には、蒸気から奪われた熱)は、前記した加熱器4における結晶スラリーの加熱に用いられている。
【0040】
凝縮水懸濁槽10には、また、洗浄排水槽11からの使用済み水媒体も供給される。具体的には、詳細は後記するが、パラトルイル酸の含有量が少ない使用済み水媒体(即ち、スクラバ13から排出される使用済み水媒体)は固液分離器7における精製テレフタル酸結晶の洗浄水の一部に使用される。分別回収された洗浄排水には固液分離器7から分離母液(一次母液)の幾らかの混入があるため、結果として高いレベルのパラトルイル酸が含まれることがあるためである。
【0041】
凝縮水懸濁槽10においては、テレフタル酸(TA)が添加される。本発明者らの検討に拠れば、パラトルイル酸を含む使用済み水媒体に対してテレフタル酸を添加すると、添加されたテレフタル酸に対してパラトルイル酸が吸着されることがわかった。従って、水媒体に溶解しにくいテレフタル酸を添加することで、使用済み水媒体中のパラトルイル酸をテレフタル酸に吸着させて除去することができる。
【0042】
凝縮水懸濁層10に添加されるテレフタル酸は、乾燥した粗製テレフタル酸、乾燥した精製テレフタル酸、又は、湿潤した精製テレフタル酸のケーキ等である。ただし、使用済み水媒体中のパラトルイル酸含有量をより低減させる観点から、湿潤したテレフタル酸より乾燥したテレフタル酸の方が好ましいことがわかった。また、粗製テレフタル酸よりも精製テレフタル酸を用いる方が、低減効果はよりいっそう良好なものとなる。即ち、添加するテレフタル酸としては、乾燥した精製テレフタル酸が特に好ましい。
【0043】
なお、乾燥した粗製テレフタル酸や乾燥した精製テレフタル酸、湿潤した精製テレフタル酸のケーキ等としては、高純度テレフタル酸製造プロセス100における各設備から排出されるテレフタル酸を適宜用いることができる。例えば、乾燥した精製テレフタル酸を用いる場合、乾燥器8にて乾燥して得られた精製テレフタル酸を用いればよい。また、これらとして、外部から供給されたものを用いることもできる。
【0044】
本発明者らが検討したところに拠ると、テレフタル酸の乾燥時、テレフタル酸結晶の表面及び内部から溶媒水(水分子)が蒸発する際に、テレフタル酸結晶の表面構造に変化が起こりパラトルイル酸の吸着活性が向上することが見出された。即ち、前記したように、乾燥したテレフタル酸を用いることにより、パラトルイル酸の除去効率がより向上したものとなる。
【0045】
添加の形態としては特に制限されず、凝縮水懸濁槽10中の使用済み水媒体にテレフタル酸結晶を直接添加して懸濁させてもよく、予めテレフタル酸を懸濁させた水媒体をスラリーとして供給することもできる。
【0046】
また、テレフタル酸の添加量も特に制限されない。ただ、本発明者らが検討したところに拠ると、パラトルイル酸含有量を晶析槽6からの蒸気での濃度と比較して半減(約250ppm〜300ppm)させることができれば、晶析槽6から凝縮水懸濁槽10に供給された全ての凝縮水を、粗製テレフタル酸を溶解する水媒体の一部として再使用できることがわかった。この観点から、凝縮水懸濁槽10において添加するテレフタル酸量は、添加対象の使用済み水媒体に対して0.2重量%以上とすることが好ましい。この範囲で添加することで、パラトルイル酸の含有量を少なくとも半分程度まで好適に減少させることができる。
【0047】
ただし、添加するテレフタル酸として粗製テレフタル酸を用いる場合には、0.4重量%以上とすることが好ましい。さらに、湿潤した精製テレフタル酸のケーキを用いる場合には、0.5重量%以上とすることが好ましい。
【0048】
また、テレフタル酸の添加量の上限値としては、添加するテレフタル酸の量を増加させるほどパラトルイル酸の吸着量は増加するものの、高純度テレフタル酸製造工程全体への循環量の増加となり、テレフタル酸製造コストに影響を与えることがある。従って、添加するテレフタル酸量は、添加対象の使用済み水媒体に対して2重量%以下とすることが好ましい。
【0049】
凝縮水懸濁槽10において前記の濃度のテレフタル酸結晶が添加され、十分に懸濁された後、懸濁液は固液分離器12に供給される。そして、固液分離器12において、分離凝縮水と分離結晶とに分離される。この分離結晶には、パラトルイル酸が吸着したテレフタル酸が含まれている。固液分離器12としては、例えば回転濾過機、デカンタ等を用いることができる。中でも、連続的に分離することができる観点から、ディスク型或いはスクリュウボール型のデカンタ(遠心沈降機)を用いることが好ましい。
【0050】
そして、得られた分離結晶は(i)粗製テレフタル酸製造工程に供され、原料の一部分となる。即ち、パラトルイル酸が有するメチル基が酸化反応槽1において酸化されて、テレフタル酸になる。分離結晶には、前記したように、テレフタル酸に吸着したパラトルイル酸が多く含まれるため、パラトルイル酸を含有したテレフタル酸結晶を酸化反応の原料の一部として利用することで、テレフタル酸の生産効率(収率)を増大させることができる。ひいては、より無駄無くテレフタル酸を生産することができるため、原料コストの削減を図ることができる。
【0051】
また、分離凝縮水は、CTAスラリー調製槽3に水媒体の一部として供給される。なお、余剰分は、廃水処理工程に供されることになる。従って、水媒体の新たな使用量を削減することができ、廃水処理における負荷量の低減となる。その結果、テレフタル酸製造コストの削減を図ることができる。
【0052】
次に、パラトルイル酸の含有レベルの低いスクラバ処理排出水に対する水媒体再利用システムのフローについて説明する。
固液分離槽7や乾燥器8の封止、循環ガスからの排出ガス、凝縮器9の分離ガスそして固液分離7からの分離母液(図示せず)、洗浄排水槽11の封止ガスからの排出ガスを洗浄するため、これらはスクラバ13に供給される。そして、当該ガス中に揮発性のパラトルイル酸等が含まれるため、スクラバ13において水媒体を用いてそれらは洗浄除去され、その後に洗浄ガスが外部に排出されている。そのため、スクラバ13から排出された使用済み水媒体には、低レベルのパラトルイル酸が含まれる。その含有量は、前記した晶析槽6からの蒸気中の含有量よりも少ない。具体的には、スクラバ13から排出された使用済み水媒体中のパラトルイル酸含有量は、通常は約100ppm或いはそれ以下である。
【0053】
そして、スクラバ13からの使用済み水媒体は、懸濁槽14に供給される。懸濁槽14においては、前記した凝縮水懸濁槽10と同様にテレフタル酸結晶が添加される。添加されるテレフタル酸量、テレフタル酸の形態等は特に制限されず、凝縮水懸濁槽10の場合と同様に設定すればよい。
【0054】
懸濁槽14においてテレフタル酸が添加された使用済み水媒体は、固液分離器12と同様に、固液分離器15において分離結晶と分離水とに分離回収される。そして、得られた分離結晶は、粗製テレフタル酸の製造の酸化反応槽1に供される。
一方、得られた分離水は固液分離器7における精製テレフタル酸の洗浄水の一部に用いたり、或いは粗製テレフタル酸の溶解する水の一部に使用するためCTAスラリー調製槽3に供給される。即ち、パラトルイル酸の含有量が少ないスクラバ13からの使用済み水媒体には、懸濁層14においてテレフタル酸結晶が添加されて懸濁液とされたのち、固液分離器15からの分離水は固液分離器7において精製テレフタル酸結晶の洗浄水として用いられる。そして、この洗浄排水は、洗浄排水槽11に回収され、粗製テレフタル酸を溶解する水媒体の一部として使用される。また、固液分離器7における分離母液(一次母液)との分別回収が不十分なため、パラトルイル酸の含有レベルの高くなった洗浄排水は、凝縮水懸濁槽10に供給し、前記凝縮器9から凝縮水と混合して浄化処理され、再利用されることができる。
【0055】
[3.水媒体の再利用システムの変更例]
図1に示すように、高純度テレフタル酸製造プロセス100においては、スクラバ13からの使用済み水媒体は懸濁槽14に供給され、テレフタル酸結晶が添加される。ただし、前記したように、スクラバ13から排出される使用済み水媒体に含まれるパラトルイル酸量は低レベルなものである。
【0056】
従って、スクラバ13からの使用済み水媒体は、テレフタル酸結晶が添加されることなく、粗製テレフタル酸を溶解するための水媒体としてそのまま用いられてもよい。このように高純度テレフタル酸製造プロセスを構成しても、簡便な処理構成で新たな水媒体の使用量を削減することができる粗製テレフタル酸の精製方法を提供することができる。また、懸濁槽14及び固液分離器15を設ける必要が無いため、設置場所の削減や、処理設備のよりいっそうの簡素化を図ることができる。
【0057】
また、使用済み水媒体へのテレフタル酸の添加は、パラトルイル酸濃度に応じた2系統の水媒体に対してそれぞれ1回ずつとしているが、複数回に分けて行ってもよい。
【0058】
さらに、スクラバ13に使用される水媒体として、図1では新たな水媒体を用いているが、固液分離器12,15において得られた浄化分離水(分離水)を用いてもよい。
【0059】
[4.高純度テレフタル酸の製造フローの変更例]
本実施形態に係る精製方法が適用される高純度テレフタル酸製造プロセス100は、図1に示すプロセス構成に何ら限定されるものではない。例えば、固液分離器7は1段分離に限定されず、複数段設けられていてもよい。
【0060】
また、該プロセス内のスクラバ13の数も1つに限定されることなく、2つ以上設けられていてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0062】
<実施例1〜3、比較例1>
本実施例では、図1に示す高純度テレフタル酸製造プロセス100による実製造装置における、晶析槽6からの蒸気を凝縮した凝縮水をサンプル採取して用いた。そして、その凝縮水を遠心分離用コニカルチューブ4本に各々50mlを採取した。これらの4本のコニカルチューブに精製テレフタル酸粉末(結晶粉末)を、添加しないもの(0重量%)、0.05g(0.1重量%)、0.1g(0.2重量%)、0.25g(0.5重量%)を添加したもののそれぞれをよく振り混ぜ、結晶粉末を十分分散させた後、遠心分離器にセットした。
【0063】
遠心分離器では回転数7500rpm(6200G)で5分間遠心処理した後、コニカルチューブ中の上清液を採取し、各々のパラトルイル酸含有量を測定した。その結果を表1に示す。なお、パラトルイル酸低減率は、比較例1のパラトルイル酸含有量に対し、パラトルイル酸含有量の低減割合を示す。
【0064】
【表1】

【0065】
この結果から、パラトルイル酸の含有量を半減させるためには、凝縮水50mlに対して少なくとも0.1g程度(0.2重量%程度)を添加することが好ましいことがわかった。
【0066】
<実施例4〜6>
実施例1〜3と同様に凝縮水をコニカルチューブ4本に採取した。そして、それらのコニカルチューブの1本に、精製テレフタル酸粉末(結晶粉末)を0.5g(1重量%)添加し、よく振り混ぜ、結晶粉末を十分分散させた後、遠心分離器にセットした(実施例4)。
別のコニカルチューブの1本に精製テレフタル酸の乾燥前の湿潤(約11%)精製テレフタル酸ケーキを0.28g(0.5重量%)添加し、よく振り混ぜ、結晶を十分分散させた後、遠心分離器にセットした(実施例5)。
また、さらに別のコニカルチューブの1本に粗製テレフタル酸粉末を0.2g(0.4重量%)添加し、よく振り混ぜ、結晶粉末を充分分散させた後、遠心分離器にセットした(実施例6)。
そして、残りのコニカルチューブの1本に何も加えず遠心分離器にセットした(バランス用)。
【0067】
実施例1〜3と同様の条件で遠心分離を行い、上清液についてのパラトルイル酸含有量及びパラトルイル酸の低減率を算出した。その結果を、比較例1と併せて表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に示すように、添加するテレフタル酸の形態が異なると、パラトルイル酸の低減率も異なることがわかった。中でも、精製テレフタル酸の乾燥粉末を用いると(実施例4)、低減率が特に向上することがわかった。
【0070】
なお、粗製テレフタル酸粉末に含まれる4−カルボキシベンズアルデヒド(精製テレフタル酸中の不純物の一種)の上清液への溶出量は微量であった(5ppm以下)。
【0071】
<実施例7、比較例2>
図1に示す高純度テレフタル酸製造プロセス100による実製造装置におけるスクラバ13から排出された使用済み水媒体を2本のコニカルチューブに50mlずつ採取した。そして、このコニカルチューブに対して精製テレフタル酸粉末を0.8g(0.8重量%)を添加して、よく振り混ぜ、結晶粉末を十分分散させた後、遠心分離器にセットした(実施例7)。また、何も添加しないものも比較例2として準備した。
【0072】
そして、実施例1〜6と同様の条件にて遠心し、固液分離後の上清液についてのパラトルイル酸含有量を測定、及びパラトルイル酸の低減率を算出した。その結果を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
この結果から、スクラバ13からの使用済み水媒体についても、テレフタル酸を添加することにより有意にパラトルイル酸を除去できることがわかった。
【0075】
<実施例8、比較例3>
高純度テレフタル酸製造プロセス100による実製造装置における晶析槽6は、前記のように複数の晶析槽からなる。即ち、水素化反応器5において水素化精製されたテレフタル酸水溶液を、複数の晶析槽に供して段階的に放圧冷却し、最終晶析槽(4Kg/cmG、150℃)で精製テレフタル酸スラリーの生成を行っている。そして、この精製テレフタル酸スラリーは、前記のように固液分離器7に供され、精製テレフタル結晶と母液とに分離される。そして、当該結晶は、水媒体(新たな水媒体或いは再利用水媒体)によって洗浄され、精製テレフタル酸結晶が回収されている。
【0076】
そこで、固液分離器7における結晶の洗浄水として、スクラバ13処理排出水のテレフタル酸結晶添加処理による分離水(スクラバ13処理排水→懸濁槽14→固液分離器15→分離水)を使用する際の効果を確認するため、固液分離器7として、図2に示す濾過試験器200をSUS304製で製作した。
【0077】
濾過試験器200は、高圧、高温に調整可能な下記デバイスを備え、濾過面積82.2cmの濾過器201と、受器202と、洗浄水注入器203と、により構成される。
【0078】
なお、各部における流通量及び圧力の制御は、ボールバルブ204a〜204fの開閉を制御することにより行うことができるようになっている。また、濾過試験器200は2つの圧力計206a,206bを備え、弁207a,207bにより不活性ガス圧を制御し、濾過試験器200内部の圧力が制御可能になっている。さらに、濾過試験器200は温度計205を備え、濾過試験器200内部の温度を測定可能になっている。そして、濾過試験器200は、弁207c,207dにより加熱蒸気の流通量を制御して洗浄水の温度を調整可能になっている。また、濾過試験器200内部の温度は、外周を電気加熱リボンヒータ(図示しない)によって制御可能になっている。
【0079】
また、濾過器201には、フランジに狭持されたステンレス多孔板(図示しない)上に支持されるポリエステル製の濾布(中尾フィルター社製 TR9B)201aを備える。なお、図2においては濾過後の様子を示しており、濾過層(結晶層)201bは濾布201aによって濾過され、濾過ケーキとなる。
【0080】
濾過器201は、その上部から結晶スラリー(精製テレフタル酸結晶スラリー)が投入されるようになっている。そして、投入された結晶スラリーは濾布201aによって濾過され、母液(液相)のみが受器202を通じて下部へ排出されるようになっている。一方、濾過層は、濾布201a上に堆積される(図2に示す濾過層201b)。そして、堆積した濾過層201bは、洗浄水注入器203に加熱準備された洗浄水が不活性ガスとともに噴霧され、洗浄されることになる。
【0081】
以下、実施例における濾過試験器200の動作を具体的に説明する。
本実施例では、図1の製造装置における晶析槽6と固液分離槽7との間の配管の途中に分岐して設けられた短管に、濾過試験器200を取り付けて検討を行った。濾過試験器200内部を前記配管(晶析槽6と固液分離槽7との間の配管)と同等の圧力、温度(5Kg/cmG、150℃)に調整した後、上部から結晶スラリーを200〜300ml供給した。供給後、圧力計206a、206bの差圧0.5Kg/cmに調整(弁204b及び弁207bで調整)し、結晶スラリーを濾布201aにより濾過する。分離母液は一旦受器202に貯め、外部へ排出(弁204b閉→弁204c開により濾過器内201圧力を保持)される。結晶は図2に示すように濾布201a上に層状(結晶層201b)に堆積した。
【0082】
次いで、洗浄水注入器203に予め供給され、不活性ガスと加熱蒸気を用いて加圧下(約5.5Kg/cmG)、約110℃の温度に調節された洗浄水100mlを、不活性ガスの圧力により濾過器201に供給した。ここで、洗浄水は、前記の実施例7の条件で採取した上清液(100ml)と、比較例2の条件で採取した上清液(100ml)とを用い、それぞれについて検討を行った(それぞれは実施例8及び比較例3)。そして、圧力206a、206bの差圧0.5Kg/cmに調整(弁204b及び弁207bで調製)して結晶層201bを洗浄した。前記母液同様、洗浄排水を受器202に採取、回収し、洗浄排水中のパラトルイル酸含有量を測定した。
【0083】
さらに、濾過試験器200を冷却後分解して、結晶層201b取り出し、乾燥させた後、乾燥後の結晶(精製テレフタル酸結晶)についての重量及びパラトルイル酸含有量を測定した。
以上の結果を表4に示す。なお、表4中、「洗浄水比」とは、乾燥後の結晶重量あたりの洗浄水量を表す値である。また、参考例として、洗浄水として脱イオン水を用いた場合も併せて示している。
【0084】
【表4】

【0085】
表4に示す結果から、テレフタル酸を予め添加した実施例8を用いた場合、パラトルイル酸の含有量は、添加しない比較例3と比べて、乾燥後の結晶及び洗浄排水のいずれにおいても少なかった。また、実施例8の場合、脱イオン水を用いた参考例とパラトルイル酸量の含有量が同程度であり、脱イオン水を用いた場合と同程度の結果であった。即ち、従来使用していた脱イオン水に代えて、テレフタル酸を添加してパラトルイル酸を除去した水媒体を好適に再利用可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0086】
1 酸化反応槽
2 固液分離槽
3 CTAスラリー調製槽
4 加熱器
5 水素化反応器
6 晶析槽
7 固液分離器
8 乾燥器
9 凝縮器
10 凝縮水懸濁槽
11 洗浄排水槽
12 固液分離器
13 スクラバ
14 懸濁槽
15 固液分離器
100 製造設備
200 濾過試験器
201 濾過器
202 受器
203 洗浄水注入器
TA テレフタル酸結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラキシレンを原料として酢酸溶媒中、液相酸化して粗製テレフタル酸を製造した後、前記粗製テレフタル酸を高温、高圧の水媒体に溶解後に、水素化精製して得られた水溶液を放圧冷却させて結晶を析出させ、精製テレフタル酸結晶スラリーを得た後、該精製テレフタル酸結晶スラリーを固液分離する粗製テレフタル酸の精製方法において、
前記放圧冷却時に発生した蒸気を冷却して生成した凝縮水と、
該凝縮水を分離したガス及び固液分離器、乾燥器、水性母液の貯槽等の循環・封止ガスからの排出ガスを、水媒体により洗浄して生成したスクラバ処理排水と、
前記固液分離において得られた固体を洗浄して分別回収した洗浄排水と、
からなる処理排出水のうち、
少なくとも1つの前記処理排出水にテレフタル酸結晶を添加して懸濁液とした後、固液分離を行って分離結晶と分離水とを回収し、
該分離結晶を、前記粗製テレフタル酸製造時の原料の一部として用いるとともに、
該分離水を、前記粗製テレフタル酸を溶解する水媒体の少なくとも一部として用いる
ことを特徴とする、粗製テレフタル酸の精製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の粗製テレフタル酸の精製方法において、
前記凝縮水及び前記洗浄排水の少なくとも一方にテレフタル酸結晶を添加して分離水を得、
該分離水と前記スクラバ処理排水をそのままとを、前記粗製テレフタル酸を溶解する水媒体の少なくとも一部として用いる
ことを特徴とする、粗製テレフタル酸の精製方法。
【請求項3】
請求項1に記載の粗製テレフタル酸の精製方法において、
前記凝縮水及び前記洗浄排水の少なくとも一方にテレフタル酸結晶を添加して分離水を得るとともに、前記スクラバ処理排水にもテレフタル酸結晶を添加して分離水を得、
前記凝縮水及び/又は前記洗浄排水を用いて得られた該分離水を、前記粗製テレフタル酸を溶解する水媒体の少なくとも一部として用いるとともに、
前記スクラバ処理排水を用いて得られた該分離水を、前記精製テレフタル酸結晶を洗浄する洗浄水の少なくとも一部として用いる
ことを特徴とする、粗製テレフタル酸の精製方法。
【請求項4】
請求項3に記載の粗製テレフタル酸の精製方法において、
前記精製テレフタル酸結晶を洗浄した洗浄排水を、前記粗製テレフタル酸を溶解する水媒体の少なくとも一部として用いる
ことを特徴とする、粗製テレフタル酸の精製方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の粗製テレフタル酸の精製方法において、
前記テレフタル酸結晶が、前記処理排出水に対してそれぞれ、0.2重量%以上2重量%以下の比率となるように添加される
ことを特徴とする、粗製テレフタル酸の精製方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の粗製テレフタル酸の精製方法において、
前記テレフタル酸結晶は、乾燥した前記粗製テレフタル酸、乾燥した前記精製テレフタル酸、及び、湿潤した前記精製テレフタル酸のケーキからなる群より選ばれる少なくとも一種の結晶である
ことを特徴とする、粗製テレフタル酸の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−107835(P2013−107835A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252149(P2011−252149)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】