説明

粗面を有するアルミニウム箔

【課題】 蓄電デバイスの正極集電体などとして用いることができる、粗面を有するアルミニウム箔を提供すること。
【解決手段】 アルミニウム箔を基材として用い、その表面の少なくとも一部に、含水量が10〜2000ppmの電解アルミニウムめっき液を用いた電解法によってアルミニウム被膜が形成されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池やスーパーキャパシター(電気二重層キャパシター、レドックスキャパシター、リチウムイオンキャパシターなど)といった蓄電デバイスの正極集電体などとして用いることができる、粗面を有するアルミニウム箔に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノートパソコンなどのモバイルツールの電源に、大きなエネルギー密度を持ち、かつ、放電容量の著しい減少が無いリチウムイオン二次電池が用いられていることは周知の事実であるが、近年、モバイルツールの小型化に伴い、そこに装着されるリチウムイオン二次電池にも小型化の要請がなされている。また、地球温暖化防止対策などの観点からのハイブリッド自動車や太陽光発電などの技術の進展に伴い、電気二重層キャパシター、レドックスキャパシター、リチウムイオンキャパシターなどの大きなエネルギー密度を持つスーパーキャパシターの新しい用途展開が加速しつつあり、これらのさらなる高エネルギー密度化が要求されている。
リチウムイオン二次電池やスーパーキャパシターといった蓄電デバイスは、例えば、電解質としてLiPFやNR・BF(Rはアルキル基)などの含フッ素化合物を含んだ有機電解液中に、正極と負極がポリオレフィンなどからなるセパレータを介して配された構造を持つ。正極はLiCoO(コバルト酸リチウム)や活性炭などの正極活物質と正極集電体からなるとともに、負極はグラファイトや活性炭などの負極活物質と負極集電体からなり、それぞれの形状は集電体の表面に活物質を塗布してシート状に成型したものが一般的である。各電極とも、大きな電圧がかかることに加え、腐食性が高い含フッ素化合物を含んだ有機電解液に浸漬されることから、特に、正極集電体の材料は、電気伝導性に優れるとともに、耐腐食性に優れることが求められる。このような事情から、現在、正極集電体の材料としては、ほぼ100%に、電気良導体であり、かつ、表面に不働態膜を形成することで優れた耐腐食性を有するアルミニウムが採用されている(負極集電体の材料としては銅やニッケルなどが挙げられる)。
【0003】
蓄電デバイスの製造において、集電体の表面への活物質の塗布は、高い密着性でもって行う必要があり、また、蓄電デバイスの高エネルギー密度化のためには、可能な限り厚く行うことが望ましい。集電体と活物質の密着性が不十分であると、充放電の際に活物質が自身の体積膨張などによって集電体から剥離するといった問題があるからであり、このような問題は、活物質の塗布を厚くすればするほど発生しやすくなる。とりわけ、近年、LiCoOに代わる新たな正極活物質として注目されているLiMn(マンガン酸リチウム)やLiFePO(リン酸鉄リチウム)などは、LiCoOよりも粒子径が小さいため、正極集電体として用いるアルミニウム箔に何らの表面処理や表面加工も行わなかった場合、その表面に高い密着性でもって塗布することが困難である。
そこでアルミニウム箔と正極活物質の密着性を高める方法として、アルミニウム箔の表面をエッチングすることによって粗面化する方法が特許文献1において提案されている。しかしながら、この方法には、箔の厚みの均一性を確保することが困難であるといった問題や、エッチングによって箔が痩せ細ることで強度の低下を招くといった問題がある。アルミニウム箔の表面を粗面化する方法としては、アルミニウム箔に対してブラスト処理などを行う方法も考えられるが、正極集電体として用いるアルミニウム箔の厚みは、通常、厚くても50μmであるので、このような薄い箔にこうした機械加工を行うと箔が破壊されてしまう恐れが高く、従って採用は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−189238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、蓄電デバイスの正極集電体などとして用いることができる、粗面を有するアルミニウム箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ところで、本発明者らは、これまでアルミニウムの電気めっき技術について精力的に研究を行ってきている。アルミニウムの電析電位は水素発生の電位よりも卑であるため、水溶液からアルミニウムを電析することは不可能である。従って、電解アルミニウムめっき液は、非水系のもの(溶媒として水を用いないもの)であって、めっき液中に含まれる水分はアルミニウムの析出を阻害する要因となり、均一なアルミニウム被膜を基材の表面に形成することができなくなることから極力排除されるべきものとして取り扱われている。本発明者らは、めっき液中に含まれる水分が均一なアルミニウム被膜の形成に及ぼす悪影響を巧みに利用すれば、表面が粗いアルミニウム被膜を基材の表面に形成することができるのではないかと考え、鋭意検討を重ねた結果、めっき液中に含まれる水分を適量に制御することで、目的を達成することができることを見出した。
【0007】
上記の知見に基づいてなされた本発明の粗面を有するアルミニウム箔は、請求項1記載の通り、アルミニウム箔を基材として用い、その表面の少なくとも一部に、含水量が10〜2000ppmの電解アルミニウムめっき液を用いた電解法によってアルミニウム被膜が形成されてなることを特徴とする。
また、請求項2記載の粗面を有するアルミニウム箔は、請求項1記載の粗面を有するアルミニウム箔において、基材として用いるアルミニウム箔が圧延法によって製造されたものであることを特徴とする。
また、請求項3記載の粗面を有するアルミニウム箔は、請求項1または2記載の粗面を有するアルミニウム箔において、電解アルミニウムめっき液が(1)ジアルキルスルホン、(2)アルミニウムハロゲン化物、および、(3)ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、一般式:RN・X(R〜Rは同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される第四アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つの含窒素化合物を少なくとも含むものであることを特徴とする。
また、請求項4記載の粗面を有するアルミニウム箔は、請求項3記載の粗面を有するアルミニウム箔において、ジアルキルスルホンがジメチルスルホンであることを特徴とする。
また、請求項5記載の粗面を有するアルミニウム箔は、請求項1乃至4のいずれかに記載の粗面を有するアルミニウム箔において、アルミニウム被膜の表面粗さRaが2.5μm以上であることを特徴とする。
また、請求項6記載の粗面を有するアルミニウム箔は、請求項1乃至5のいずれかに記載の粗面を有するアルミニウム箔において、アルミニウム被膜の表面粗さRaが基材として用いるアルミニウム箔の表面粗さRaの3倍以上であることを特徴とする。
また、請求項7記載の粗面を有するアルミニウム箔は、請求項1乃至6のいずれかに記載の粗面を有するアルミニウム箔において、アルミニウム被膜の膜厚が1〜50μmであることを特徴とする。
また、本発明の蓄電デバイス用正極集電体は、請求項8記載の通り、請求項1乃至7のいずれかに記載の粗面を有するアルミニウム箔からなることを特徴とする。
また、本発明の蓄電デバイス用電極は、請求項9記載の通り、請求項1乃至7のいずれかに記載の粗面を有するアルミニウム箔に電極活物質を担持させてなることを特徴とする。
また、本発明の蓄電デバイスは、請求項10記載の通り、請求項9記載の蓄電デバイス用電極を用いて構成されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蓄電デバイスの正極集電体などとして用いることができる、粗面を有するアルミニウム箔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】参考例1における市販の圧延アルミニウム箔の表面写真である。
【図2】実施例1における本発明の粗面を有するアルミニウム箔の表面写真である。
【図3】実施例4における本発明の粗面を有するアルミニウム箔の表面写真である。
【図4】比較例1における表面が平坦なアルミニウム箔の表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の粗面を有するアルミニウム箔は、アルミニウム箔を基材として用い、その表面の少なくとも一部に、含水量が10〜2000ppmの電解アルミニウムめっき液を用いた電解法によってアルミニウム被膜が形成されてなることを特徴とするものである。即ち、本発明の粗面を有するアルミニウム箔は、非水系のめっき液中に含まれる適量の水分を利用して、意図して表面が粗いアルミニウム被膜を基材としてのアルミニウム箔の表面に形成することで得られるものである。
【0011】
本発明において基材として用いるアルミニウム箔は、例えば圧延法によって製造された市販のものであってよいが、電解法によって製造されたものでもよい。電解法によるアルミニウム箔の製造は、例えば電解アルミニウムめっき液を用いた電解法によって所定の基材の表面にアルミニウム被膜を形成した後、当該被膜を基材から剥離して行うことができる。アルミニウム箔の厚みは、例えば5〜50μmであってよい。
【0012】
基材としてのアルミニウム箔の表面に形成するアルミニウム被膜は、例えば、表面粗さRaが2.5μm以上、および/または、表面粗さRaがアルミニウム被膜を表面に形成するアルミニウム箔のRaの3倍以上の凹凸を表面に有する被膜であり、デンドライト状に結晶成長した被膜や、無数の陥没を伴って結晶成長した被膜などであってよい。こうした表面が粗いアルミニウム被膜は、めっき液中に含まれる水分がアルミニウム被膜の形成過程における均一な結晶成長を阻害することによって形成されるものであり、一般的には回避されるべきものであるが、本発明において意図するものである。めっき液の含水量を10〜2000ppmと規定するのは、含水量が10ppmを下回ると、めっき液中に含まれる水分が少なすぎて、アルミニウム被膜の形成過程における均一な結晶成長を阻害しないことによって表面が平坦(例えばRaが2.5μm未満)なアルミニウム被膜が形成される恐れがある一方、含水量が2000ppmを超えると、めっき液中に含まれる水分が多すぎて、形成されるアルミニウム被膜が不純物を多量に含んでしまう現象や、被膜が黒ずんでしまう現象(焼けと呼ばれる現象)が発生する恐れがあるからである。なお、めっき液の含水量の調整方法は特段限定されるものではなく、めっき液に対して所定量の水を添加することによって行ってもよいし、めっき液の構成成分となる物質が水和物である場合には、当該物質が保持する水分子を利用して行ってもよい。また、これらの方法を組み合わせて行ってもよい。
【0013】
本発明の粗面を有するアルミニウム箔を蓄電デバイス用正極集電体として用いることを想定した場合、基材として用いるアルミニウム箔の表面に形成する表面が粗いアルミニウム被膜の膜厚は、例えば1〜50μmが望ましいが、基材として用いるアルミニウム箔の厚みと合わせた粗面を有するアルミニウム箔の厚みが50μm以下となる膜厚がより望ましく、30μm以下となる膜厚がさらに望ましい。膜厚が1μmを下回ると十分な凹凸が形成されない恐れがある一方、膜厚が50μmを超えるといったん凹凸が形成されてもさらなる結晶成長によって凹凸が消失する方向に進む恐れがある。なお、表面が粗いアルミニウム被膜は、基材として用いるアルミニウム箔の表面全体を被覆するように形成される必要は必ずしもなく、箔の表面に被膜が形成されない部分があってもよい。また、ピンホールを有するものであってもよい。被膜が形成されない部分や被膜にピンホールが存在しても、アルミニウム箔を基材として用いているので、有機電解液中において安定に存在し、電池特性に悪影響を及ぼすことはない(アルミニウム箔を基材として用いるのはこの理由による)。
【0014】
本発明において用いる電解アルミニウムめっき液は、めっき液中に適量の水分を含むことで、電解法によってアルミニウム箔の表面に表面が粗いアルミニウム被膜を形成することができるものであれば特段限定されるものではなく、例えば塩化アルミニウムとエチルメチルイミダゾリウムクロリドからなるめっき液をはじめとする公知のものであってよい。しかしながら、好適な電解アルミニウムめっき液としては、本発明者らが開発した、(1)ジアルキルスルホン、(2)アルミニウムハロゲン化物、および、(3)ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、一般式:RN・X(R〜Rは同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される第四アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つの含窒素化合物を少なくとも含むものが挙げられる。このめっき液を用いれば、速い成膜速度で延性に富む高純度のアルミニウム被膜を基材としてのアルミニウム箔の表面に形成することができる。
【0015】
上記の電解アルミニウムめっき液に含ませるジアルキルスルホンとしては、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジプロピルスルホン、ジヘキシルスルホン、メチルエチルスルホンなどのアルキル基の炭素数が1〜6のもの(直鎖状でも分岐状でもよい)を例示することができるが、良好な電気伝導性や入手の容易性などの観点からはジメチルスルホンを好適に採用することができる。
【0016】
アルミニウムハロゲン化物としては、塩化アルミニウムや臭化アルミニウムなどを例示することができる。一般的には、アルミニウムの析出を阻害する要因となるめっき液に含まれる水分の量を可能な限り少なくするという観点から、用いるアルミニウムハロゲン化物は無水物であることが望ましいが、本発明においては水和物を用いることで、当該物質が保持する水分子をめっき液に含まれる水分として利用してもよい。
【0017】
含窒素化合物として採用することができるハロゲン化アンモニウムとしては、塩化アンモニウムや臭化アンモニウムなどを例示することができる。また、第一アミン〜第三アミンとしては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ヘキシルアミン、メチルエチルアミンなどのアルキル基の炭素数が1〜6のもの(直鎖状でも分岐状でもよい)を例示することができる。ハロゲン化水素としては、塩化水素や臭化水素などを例示することができる。一般式:RN・X(R〜Rは同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される第四アンモニウム塩におけるR〜Rで示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基などの炭素数が1〜6のもの(直鎖状でも分岐状でもよい)を例示することができる。Xとしては塩素イオンや臭素イオンやヨウ素イオンなどのハロゲン化物イオンの他、BFやPFなどを例示することができる。具体的な化合物としては、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、四フッ化ホウ素テトラエチルアンモニウムなどを例示することができる。好適な含窒素化合物としては、速い成膜速度で延性に富む高純度のアルミニウム被膜の形成を容易にする点において第三アミンの塩酸塩、例えばトリメチルアミン塩酸塩を挙げることができる。
【0018】
ジアルキルスルホン、アルミニウムハロゲン化物、含窒素化合物の配合割合は、例えば、ジアルキルスルホン10モルに対し、アルミニウムハロゲン化物は1.5〜4.0モルが望ましく、2.0〜3.5モルがより望ましい。含窒素化合物は0.01〜2.0モルが望ましく、0.05〜1.5モルがより望ましい。アルミニウムハロゲン化物の配合量がジアルキルスルホン10モルに対し1.5モルを下回ると形成されるアルミニウム被膜が黒ずんでしまう現象(焼けと呼ばれる現象)が発生する恐れや成膜効率が低下する恐れがある一方、4.0モルを超えるとめっき液の液抵抗が高くなりすぎることでめっき液が発熱して分解する恐れがある。また、含窒素化合物の配合量がジアルキルスルホン10モルに対し0.01モルを下回ると配合することの効果、即ち、めっき液の電気伝導性の改善に基づく高電流密度印加でのめっき処理の実現による成膜速度の向上、アルミニウム被膜の高純度化や延性の向上などの効果が得られにくくなる恐れがある一方、2.0モルを超えるとめっき液の組成が本質的に変わってしまうことでアルミニウムが析出しなくなってしまう恐れがある。
【0019】
上記の電解アルミニウムめっき液を用いためっき処理は、例えば、めっき液の温度が80〜110℃、印加電流密度が0.05〜20A/dmの条件下、基材としてのアルミニウム箔を陰極として行えばよい(陽極の材質としては例えばアルミニウムを例示することができる)。めっき液の温度の下限はめっき液の融点を考慮して決定されるべきものであり、望ましくは85℃、より望ましくは95℃である(めっき液の融点を下回るとめっき液が固化するのでめっき処理がもはや行えなくなる)。一方、めっき液の温度が110℃を超えると基材としてのアルミニウム箔の表面に形成されたアルミニウム被膜とめっき液の間での反応が活発化し、アルミニウム被膜中に不純物が多く取り込まれることでその純度が低下する恐れがある。また、印加電流密度が0.05A/dmを下回ると成膜効率が低下する恐れがある一方、20A/dmを超えると含窒素化合物の分解などが原因で安定なめっき処理が行えなくなったり延性に富む高純度のアルミニウム被膜が得られなくなったりする恐れがある。上記の電解アルミニウムめっき液の特筆すべき利点は、10A/dm以上の電流密度を印加しても安定なめっき処理が可能なため、成膜速度の向上を図ることができる点にある。なお、めっき処理の時間は、アルミニウム被膜の所望する膜厚、めっき液の温度や印加電流密度などにも依存するが、通常、1〜90分間である(生産効率を考慮すると1〜60分間が望ましい)。
【0020】
以上のようにして製造される本発明の粗面を有するアルミニウム箔は、例えば蓄電デバイスの製造において、基材として用いたアルミニウム箔の表面に形成したアルミニウム被膜の表面の凹凸を利用して、正極活物質を高い密着性でもって塗布することができるので、正極集電体として有用である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0022】
参考例1:
以下の実施例と比較例においてアルミニウム被膜を形成するための基材として用いた、厚みが15μmの市販の圧延アルミニウム箔(日本製箔社製)の表面写真を図1に示す。この圧延アルミニウム箔の表面粗さRaを測定したところ、0.8μmであった(KEYENCE社製の超深度形状測定顕微鏡:VK−8510を用いて測定、以下同じ)。
【0023】
実施例1:
ジメチルスルホン:塩化アルミニウム:トリメチルアミン塩酸塩をモル比で10:3:0.01の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製した。この際、めっき液に水を添加してその含水量を300ppmに調整した(めっき液の含水量は三菱化学社製の微量水分測定装置:CA−100を用いて測定、以下同じ)。この含水めっき液を用いて、陽極に純度99.99mass%のアルミニウム板、陰極に厚みが15μmの圧延アルミニウム箔を用い、1.5A/dmの印加電流密度で、めっき液を95℃に保って300rpmの攪拌速度で攪拌しながら電気めっき処理を60分間行い、圧延アルミニウム箔の表面全体にアルミニウム被膜を形成した。こうして圧延アルミニウム箔の表面に形成されたアルミニウム被膜は、デンドライト状に結晶成長した膜厚が約15μmの被膜であり(表面写真を図2に示す)、表面粗さRaは13.4μmであった(基材として用いたアルミニウム箔の表面粗さRaの16.8倍)。よって、この方法によれば、粗面を有するアルミニウム箔を得ることができることがわかった。
【0024】
実施例2:
ジメチルスルホン:塩化アルミニウム:トリメチルアミン塩酸塩をモル比で10:3:1.5の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製した。この際、めっき液に水を添加してその含水量を500ppmに調整した。この含水めっき液を用いて、陽極に純度99.99mass%のアルミニウム板、陰極に厚みが15μmの圧延アルミニウム箔を用い、3A/dmの印加電流密度で、めっき液を95℃に保って300rpmの攪拌速度で攪拌しながら電気めっき処理を10分間行い、圧延アルミニウム箔の表面全体にアルミニウム被膜を形成した。こうして圧延アルミニウム箔の表面に形成されたアルミニウム被膜は、デンドライト状に結晶成長した膜厚が約5μmの被膜であり、表面粗さRaは4.4μmであった(基材として用いたアルミニウム箔の表面粗さRaの5.5倍)。よって、この方法によれば、粗面を有するアルミニウム箔を得ることができることがわかった。
【0025】
実施例3:
ジメチルスルホン:塩化アルミニウム:トリメチルアミン塩酸塩をモル比で10:3:0.5の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製した。この際、めっき液に水を添加してその含水量を20ppmに調整した。この含水めっき液を用いて、陽極に純度99.99mass%のアルミニウム板、陰極に厚みが15μmの圧延アルミニウム箔を用い、0.1A/dmの印加電流密度で、めっき液を95℃に保って300rpmの攪拌速度で攪拌しながら電気めっき処理を50分間行い、圧延アルミニウム箔の表面全体にアルミニウム被膜を形成した。こうして圧延アルミニウム箔の表面に形成されたアルミニウム被膜は、デンドライト状に結晶成長した膜厚が約2μmの被膜であり、表面粗さRaは2.8μmであった(基材として用いたアルミニウム箔の表面粗さRaの3.5倍)。よって、この方法によれば、粗面を有するアルミニウム箔を得ることができることがわかった。
【0026】
実施例4:
ジメチルスルホン:塩化アルミニウム:トリメチルアミン塩酸塩をモル比で10:3:0.01の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製した。この際、めっき液に水を添加してその含水量を2000ppmに調整した。この含水めっき液を用いて、陽極に純度99.99mass%のアルミニウム板、陰極に厚みが15μmの圧延アルミニウム箔を用い、5A/dmの印加電流密度で、めっき液を95℃に保って300rpmの攪拌速度で攪拌しながら電気めっき処理を15分間行い、圧延アルミニウム箔の表面全体にアルミニウム被膜を形成した。こうして圧延アルミニウム箔の表面に形成されたアルミニウム被膜は、無数の陥没を伴って結晶成長した膜厚が約15μmの被膜であり(表面写真を図3に示す。陥没はめっき液に含まれる水分の分解によって発生した気泡の跡でありそのほとんどの最深部にピンホールが認められる)、表面粗さRaは10.8μmであった(基材として用いたアルミニウム箔の表面粗さRaの13.5倍)。よって、この方法によれば、粗面を有するアルミニウム箔を得ることができることがわかった。
【0027】
実施例5:
ジメチルスルホン:塩化アルミニウム:トリメチルアミン塩酸塩をモル比で10:3:0.05の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製した。この際、めっき液に水を添加してその含水量を1000ppmに調整した。この含水めっき液を用いて、陽極に純度99.99mass%のアルミニウム板、陰極に厚みが15μmの圧延アルミニウム箔を用い、20A/dmの印加電流密度で、めっき液を95℃に保って300rpmの攪拌速度で攪拌しながら電気めっき処理を1分間行い、圧延アルミニウム箔の表面全体にアルミニウム被膜を形成した。こうして圧延アルミニウム箔の表面に形成されたアルミニウム被膜は、無数の陥没を伴って結晶成長した膜厚が約4μmの被膜であり、表面粗さRaは3.1μmであった(基材として用いたアルミニウム箔の表面粗さRaの3.9倍)。よって、この方法によれば、粗面を有するアルミニウム箔を得ることができることがわかった。
【0028】
実施例6:
8A/dmの印加電流密度で電気めっき処理を30分間行うこと以外は実施例4と同様にして、圧延アルミニウム箔の表面全体にアルミニウム被膜を形成した。こうして圧延アルミニウム箔の表面に形成されたアルミニウム被膜は、無数の陥没を伴って結晶成長した膜厚が約48μmの被膜であり、表面粗さRaは14.8μmであった(基材として用いたアルミニウム箔の表面粗さRaの11.8倍)。よって、この方法によれば、粗面を有するアルミニウム箔を得ることができることがわかった。
【0029】
実施例7:
塩化アルミニウム:エチルメチルイミダゾリウムクロリドをモル比で67:33の割合で混合し、80℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製した。この際、めっき液に水を添加してその含水量を500ppmに調整した。この含水めっき液を用いて、陽極に純度99.99mass%のアルミニウム板、陰極に厚みが15μmの圧延アルミニウム箔を用い、1.5A/dmの印加電流密度で、めっき液を95℃に保って300rpmの攪拌速度で攪拌しながら電気めっき処理を60分間行い、圧延アルミニウム箔の表面全体にアルミニウム被膜を形成した。こうして圧延アルミニウム箔の表面に形成されたアルミニウム被膜は、デンドライト状に結晶成長した膜厚が約15μmの被膜であり、表面粗さRaは10.4μmであった(基材として用いたアルミニウム箔の表面粗さRaの13倍)。よって、この方法によれば、粗面を有するアルミニウム箔を得ることができることがわかった。
【0030】
比較例1:
めっき液の含水量を4ppmに調整すること以外は実施例1と同様にして、圧延アルミニウム箔の表面全体に膜厚が約15μmのアルミニウム被膜を形成した。こうして圧延アルミニウム箔の表面に形成されたアルミニウム被膜の表面粗さRaは1.1μmであった(基材として用いたアルミニウム箔の表面粗さRaの1.4倍:表面写真を図4に示す)。よって、この方法では、表面が平坦なアルミニウム箔しか得ることができず、粗面を有するアルミニウム箔は得られないことがわかった。
【0031】
比較例2:
めっき液の含水量を8ppmに調整すること以外は実施例3と同様にして、圧延アルミニウム箔の表面全体に膜厚が約2μmのアルミニウム被膜を形成した。こうして圧延アルミニウム箔の表面に形成されたアルミニウム被膜の表面粗さRaは1.4μmであった(基材として用いたアルミニウム箔の表面粗さRaの1.8倍)。よって、この方法では、表面が平坦なアルミニウム箔しか得ることができず、粗面を有するアルミニウム箔は得られないことがわかった。
【0032】
比較例3:
めっき液の含水量を2500ppmに調整すること以外は実施例2と同様にして、圧延アルミニウム箔の表面全体にアルミニウム被膜を形成しようとしたが、圧延アルミニウム箔の表面には水洗によって容易に溶出してしまう黒色の被膜が形成されてしまい、アルミニウム被膜を形成することができなかった。
【0033】
応用例1:本発明の粗面を有するアルミニウム箔を蓄電デバイス用正極集電体として利用した蓄電デバイスの作製
実施例1で得た粗面を有するアルミニウム箔を正極集電体として利用し、その表面に正極活物質を塗布したものを正極として、自体公知の構成を有する蓄電デバイスを作製した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、蓄電デバイスの正極集電体などとして用いることができる、粗面を有するアルミニウム箔を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔を基材として用い、その表面の少なくとも一部に、含水量が10〜2000ppmの電解アルミニウムめっき液を用いた電解法によってアルミニウム被膜が形成されてなることを特徴とする粗面を有するアルミニウム箔。
【請求項2】
基材として用いるアルミニウム箔が圧延法によって製造されたものであることを特徴とする請求項1記載の粗面を有するアルミニウム箔。
【請求項3】
電解アルミニウムめっき液が(1)ジアルキルスルホン、(2)アルミニウムハロゲン化物、および、(3)ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、一般式:RN・X(R〜Rは同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される第四アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つの含窒素化合物を少なくとも含むものであることを特徴とする請求項1または2記載の粗面を有するアルミニウム箔。
【請求項4】
ジアルキルスルホンがジメチルスルホンであることを特徴とする請求項3記載の粗面を有するアルミニウム箔。
【請求項5】
アルミニウム被膜の表面粗さRaが2.5μm以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の粗面を有するアルミニウム箔。
【請求項6】
アルミニウム被膜の表面粗さRaが基材として用いるアルミニウム箔の表面粗さRaの3倍以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の粗面を有するアルミニウム箔。
【請求項7】
アルミニウム被膜の膜厚が1〜50μmであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の粗面を有するアルミニウム箔。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の粗面を有するアルミニウム箔からなることを特徴とする蓄電デバイス用正極集電体。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の粗面を有するアルミニウム箔に電極活物質を担持させてなることを特徴とする蓄電デバイス用電極。
【請求項10】
請求項9記載の蓄電デバイス用電極を用いて構成されてなることを特徴とする蓄電デバイス。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−136735(P2012−136735A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289684(P2010−289684)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】