説明

粘膜DTPaワクチン

【課題】有効な粘膜DTP組合せワクチンの提供。
【解決手段】粘膜DTPaワクチン、特に鼻内ワクチンであって、(a)ジフテリア抗原、破傷風抗原および無細胞百日咳抗原;ならびに(b)コレラ毒素(CT)またはE.coli熱不安定性毒素(LT)のいずれかの無毒化形態、を含むワクチン。成分(b)は、粘膜アジュバントとして作用する。無細胞百日咳抗原は、好ましくは、百日咳完全毒素(PT)および糸状赤血球凝集素(FHA)ならびに必要に応じてペルタクチンを含む。粘膜送達される、組合せDTPa処方物は、ミョウバンアジュバント化された非経口投与により観察されるレベルに等価な、B.pertussis感染に対する保護のレベルを生成し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において引用されるすべての文献は、その全体が参考として本明細書
において援用される。
【0002】
(発明の分野)
本願は、粘膜DTPワクチン、特に鼻内ワクチンに関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
Bordetella pertussisは、百日咳の原因因子である。高
度に有効な不活化された細胞全体のワクチンは、1940年代から利用可能であ
ったが、毒性の細胞成分の存在に起因して、その安全性についての問題により、
その接種が制限されている(1)。従って、規定されたB.pertussis
抗原を少数含む無細胞百日咳ワクチン(Pa)が生産されてきており、そしてヒ
トにおける使用について承認されている(2)。
【0004】
百日咳ワクチンは、通常、ミョウバンアジュバントで三種DTP混合(ジフテ
リア、破傷風、百日咳)の形態で小児に筋肉内投与されている。しかし、筋肉内
のワクチン接種は、理想的な投与経路とはいえない。粘膜ワクチン(経口、鼻内
など)は、2つの理由で好ましい(3)。第一に、粘膜ワクチンは、大規模での
投与がより容易であり、特殊な装置の必要が回避され、そして針に関連する問題
も回避される。第二に、粘膜ワクチンは、分泌性IgAによって媒介される粘膜
免疫を刺激する。ほとんどの病原体は、粘膜を通じて身体に侵入することから、
粘膜免疫が所望される。
【0005】
無細胞粘膜百日咳ワクチンを作成する試みが記載されている(例えば、4、5
、6、7、8、9)が、報告された保護のレベルは、従来のワクチンと比較され
なかったか、または非経口的に与えられたミョウバンアジュバント化された抗原
で観察されたものには及ばなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、有効な粘膜DTP組合せワクチンについての必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の開示)
本発明は、(a)ジフテリア抗原(D)、破傷風抗原(T)、無細胞百日抗原
(Pa)、および(b)コレラ毒素(CT)またはE.coli熱不安定性毒素
(LT)のいずれかの無毒化形態、を含む粘膜DTPaワクチンを提供する。
【0008】
無毒化形態のコレラ毒素(CT)またはE.coli熱不安定性毒素(LT)
は、粘膜アジュバントとして作用する(10)。CTおよびLTは相同であり、
そして代表的には互換性である。
【0009】
CTまたはLTの無毒化は、化学的手段または好ましくは遺伝的手段によるも
のであり得る。適切な例としては、アミノ酸63にリジン残基を有するLT(「
LT−K63」参考文献11)、およびアミノ酸72にアルギニン残基を有する
LT(「LT−R72」、参考文献12)が挙げられ、これらの両方は、抗原特
異的血清IgG、sIgA、ならびにDTPaに対する局所的および全身性のT
細胞応答を増強することが見出されている。LT−K63が好ましい。なぜなら
、LT−K63は、B.pertussis感染の信頼ある動物モデルにおいて
、ミョウバンで処方された、経口送達されるDTPaワクチンで生成されるレベ
ルと等価の、高いレベルの保護を生じることが見出されているからである。他の
適切な変異体としては、残基63においてチロシンを有するLT(「Y63」、
参考文献13)、および参考文献14において開示されている種々の変異体(す
なわち、D53、K97、K104およびS106)、ならびにその組合せ(例
えば、D53およびK63の両方の変異を有するLT)が挙げられる。
【0010】
本発明の粘膜ワクチンは、好ましくは、鼻内ワクチンである。そのような実施
形態において、本発明の粘膜ワクチンは、好ましくは、粘膜投与に適合されてお
り、例えば、鼻噴霧、鼻滴剤、ゲルまたは粉末による(例えば、15)。
【0011】
無細胞百日咳抗原は、好ましくは、百日咳完全毒素(PT)および糸状赤血球
凝集素(FHA)を含む。その無細胞百日咳抗原はさらに、ペルタクチン(pe
rtactin)、および必要に応じて、凝集原2および凝集原3を含み得る(
16,17)。
【0012】
PTは、毒性タンパク質であり、そして百日咳抗原中に存在する場合、PTは
好ましくは無毒化されている。無毒化は、化学的手段および/または遺伝的手段
によるものであり得る。好ましい無毒化変異体は、9K/129G二重変異体(
2)であり、これは本明細書において「rPT」と呼ぶ。
【0013】
ジフテリア抗原(D)は、好ましくはジフテリアトキソイドであり、より好ま
しくはCRM197変異体(10)である。破傷風抗原(T)は、好ましくは破
傷風トキソイド(18)である。
【0014】
非DTP抗原、好ましくは、DTP成分に対して免疫応答を減少しない非DT
P抗原もまた、含有され得る(例えば、参考文献19(これは、HBV抗原を含
む)および参考文献20)。
【0015】
本発明はまた、患者において免疫応答を惹起する方法を提供する。この方法は
、本発明に従うワクチンを患者に投与する工程を包含する。この免疫応答は、好
ましくは、百日咳、ジフテリアおよび破傷風に対して保護性である。この患者は
、好ましくは小児である。
【0016】
この方法は、B.pertussisに対して既に初回刺激された患者におい
て、追加免疫応答を惹起し得る。この初回刺激ワクチン接種は、粘膜または非経
口の経路によってであり得た。
【0017】
本発明はまた、百日咳、ジフテリアおよび破傷風に対して、患者においてワク
チン接種するため、またはB.pertussisに対して既に惹起された初回
刺激免疫応答を追加免役するための鼻内医薬の製造における、コレラ毒素(CT
)またはE.coli熱不安定性毒素(LT)の無毒化された変異体の使用を提
供する。
【0018】
本発明はまた、(a)ジフテリア抗原(D)、破傷風抗原(T)、無細胞百日
抗原(Pa)、および(b)コレラ毒素(CT)またはE.coli熱不安定性
毒素(LT)のいずれかの無毒化形態、を含む免疫原性組成物を提供する。
【0019】
特定のタンパク質(例えば、ペルタクチン、PTなど)についての上記の本文
における参考文献は、それらの対立遺伝子変異体および機能的変異体を包含する
と理解される。それらはまた、野生型タンパク質に対して有意な配列同一性を有
するタンパク質を包含する。同一性の程度は、好ましくは、例えば、MPSRC
Hプログラム(Oxford Molecular)において実行されるSmi
th−Waterman相同性検索アルゴリズムを用いるか、gap open
penalty=12およびgap extension penalty=
1のパラメータでのアフィンギャップ検索を用いて算出すると、50%を超える
(例えば、65%、80%、90%、またはそれを超える)。これらのタンパク
質の免疫原性フラグメントもまた使用され得、同様にそのタンパク質を組み込む
より長いタンパク質、変異体またはフラグメント(例えば、融合タンパク質)も
使用され得る。しかし、全ての場合において、そのタンパク質(野生型、改変体
、変異体、フラグメントまたは融合物)は、実質的に、野生型免疫原性を保持す
る。
【0020】
当然、そのタンパク質は、種々の手段(例えば、組換え発現、細胞培養物から
の精製、化学的合成など)により、および種々の形態(例えば、ネイティブ、融
合物など)で調製され得る。これらのタンパク質は、好ましくは、実質的に純粋
または単離された(すなわち、そのタンパク質が天然において通常付随する他の
細菌タンパク質または宿主細胞タンパク質を実質的に含まない)形態で調製され
る。
【0021】
本発明のワクチンは、「遺伝的免疫」のための核酸を含み得る(例えば、21
)。核酸は、そのワクチンのタンパク質成分をコードし、そして個々のタンパク
質成分を置換し得るか、またはそれらを補い得る。例として、そのワクチンは、
破傷風毒素をコードするDNAを含み得る。
【0022】
本発明に従うワクチンは、代表的に、予防的(すなわち、感染を防ぐ)である
が、治療性(すなわち、感染後の疾患を処置する)でもあり得る。
【0023】
本発明のワクチンは、成分(a)および(b)に加えて、代表的に、「薬学的
に受容可能なキャリア」を含む。このキャリアは、その組成物を受ける個体に対
して有毒な抗体の産生をそれ自体が誘発しない任意のキャリアを包含する。適切
なキャリアは、代表的に、大きく、ゆっくり代謝される高分子(例えば、タンパ
ク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合性アミノ酸、アミノ酸コポリマ
ー、脂質凝集物(例えば、油小滴またはリポソーム)、および不活化ウイルス粒
子)である。そのようなキャリアは、当業者に周知である。そのワクチンはまた
、希釈剤(例えば、水、生理食塩水、グリセロールなど)を含み得る。さらに、
補助物質(例えば、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝化物質など)が存在し得る。
【0024】
ワクチンとして使用される免疫原性組成物は、免疫学的に有効な量の抗原、お
よび必要に応じて他の任意の上記の成分を含む。「免疫学的に有効な量」とは、
単回用量においてまたは一連の部分としてのいずれかとして、個体に対してその
量を投与することが、処置または予防について有効であることを意味する。この
量は、処置される個体の健康状態および身体状態、年齢、処置される個体の分類
学的群(例えば、非ヒト霊長類、霊長類など)、その個体の免疫系が抗体を合成
する能力、所望される保護の程度、ワクチンの処方、処置医の医療的状況の評価
、および他の関連する因子に依存して変動する。その量は、慣用的な試験を通じ
て決定され得る比較的広汎な範囲に入ると予測される。投薬処置は、単回用量ス
ケジュールまたは多数回用量スケジュールであり得る。そのワクチンは、他の免
疫調節因子と組み合わせて投与され得る。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1) 粘膜DTPaワクチンであって、以下:
(a)ジフテリア抗原、破傷風抗原および無細胞百日咳抗原;ならびに
(b)コレラ毒素またはE.coli熱不安定性毒素のいずれかの無毒化形態

を含む、DTPaワクチン。
(項目2) 前記化合物(b)は、LT−K63またはLT−R72であ
る、項目1に記載のDTPaワクチン。
(項目3) 鼻内投与に適合された、項目1または項目2に記載のD
TPaワクチン。
(項目4) 前記無細胞百日咳抗原は、無毒化百日咳完全毒素および糸状
赤血球凝着素、ならびに必要に応じてペルタクチンを含む、項目1〜3のいず
れか1項に記載のDTPaワクチン。
(項目5) 前記無毒化百日咳完全毒素は、9K/129G二重変異体で
ある、項目4に記載のDTPaワクチン。
(項目6) 前記ジフテリア抗原は、CRM197変異体であり、そして
前記破傷風抗原は、破傷風トキソイドである、項目1〜5のいずれか1項に記
載のDTPaワクチン。
(項目7) 非DTPa抗原をさらに含む、項目1〜6のいずれか1項
に記載のDTPaワクチン。
(項目8) 患者において免疫応答を惹起する方法であって、項目1
〜7のいずれか1項に記載のワクチンを患者に投与する工程を包含する、方法。
(項目9) 前記患者は小児である、項目8に記載の方法。
(項目10) 前記ワクチンは、追加免疫として与えられる、項目8に
記載の方法。
(項目11) 以下:
(a)ジフテリア抗原、破傷風抗原および無細胞百日咳抗原;ならびに
(b)ワクチンとしての使用のための、コレラ毒素またはE.coli熱不安
定性毒素のいずれかの無毒化形態、
を含む、組成物。
(項目12) 百日咳、ジフテリアおよび破傷風に対して、患者をワクチ
ン接種するための鼻内医薬を製造するにおける、コレラ毒素またはE.coli
熱不安定性毒素の無毒化変異体の使用。
(項目13) 百日咳、ジフテリアおよび破傷風に対する患者の追加免疫
ワクチン接種のための鼻内医薬の製造における、コレラ毒素またはE.coli
熱不安定性毒素の無毒化変異体の使用。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、LT−K63でアジュバント化された鼻内Paワクチンに対する脾臓内でのT細胞応答を示す。このアッセイにおいて使用されるそのT細胞刺激は、PT(充填された)、FHA(診断シェード)、またはB.pertussis細菌(水平線)であった。Paワクチン(FHA+rPT)は、LT−K63アジュバントのあるなしで、軽いハロセン麻酔のあるなしで送達された。PBSはコントロールであった。
【図2−1】図2は、(A)脾臓、(B)胸部リンパ節(C)表面頸部リンパ節における、LT−R72アジュバントについて類似のデータを示す。PMA/CD3(陰なし)を、陽性コントロールとして使用した。
【図2−2】図2は、(A)脾臓、(B)胸部リンパ節(C)表面頸部リンパ節における、LT−R72アジュバントについて類似のデータを示す。PMA/CD3(陰なし)を、陽性コントロールとして使用した。
【図3】図3は、同じワクチンに対する抗体応答を示す。3Aは、LT−K63アジュバントを用いた結果を示し、そして3Bは、LT−R72アジュバントを用いた結果を示す。黒棒は、抗PT応答を示し、白棒は、抗FHA応答を示す。
【図4】図4は、変異体LTアジュバントのアジュバント効果に対する毒素用量の効果を示す。
【図5】図5は、図1および2と同じワクチンでの免疫の後のB.pertussis消失の反応速度論を示す。5Aは、LT−K63を用いた結果を示し、そして5Bは、LT−R72を用いた結果を示す。結果は、1回の実験群当たり、1時点当たり4匹のマウスからの個々の肺についての平均の生B.pertussisである。
【図6】図6は、(i)ミョウバンアジュバントおよび筋肉内投与(白棒)および(ii)LT−K63アジュバントおよび鼻内投与(黒棒)を比較する、DTPaワクチンにおける5個の抗原に対する、IgAおよびIgG応答を示す。
【図7】図7は、同じワクチンについてのT細胞応答を比較する。
【図8】図8は、消失反応速度論を示す。
【図9】図9は、5つの異なる初回刺激レジメンおよび追加免疫レジメンを用いて投与した、D(下)、T(中)、およびPa(上)のDTPaワクチン成分に対する、T細胞増殖(3H−CPMで測定した)を示す。
【図10】このT細胞サイトカインは、Pa成分に対して応答する。
【図11】このT細胞サイトカインは、D成分に対して応答する。
【図12】このT細胞サイトカインは、T成分に対して応答する。
【図13】図13は、DTPa混合物における5つの規定される抗原に対する血清IgG(上)および肺ホモジネートIgA(下)の力価(log10)を示す。
【図14】図14は、機能的に重要な抗DT中和抗体を示す。
【図15】図15は、5つのレジメンについての消失反応速度を示す。ここで、算出される場合、Pa単独に対する統計学的有意(ステューデントのt検定)は、*(p<0.05)または**(p<0.01)のいずれかによって表す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(発明の実施の形態)
(背景の材料および方法)
以下の実施例で使用したマウスは、雌性BALB/cマウス(6−8週齢、H
arlan UK由来)であり、そしてIrish Department o
f Healthの規制に従って収容した。
【0027】
T細胞応答。マウスを、0週目および4週目で免役した。6週目で、脾臓、上
部頸部リンパ節および後部縦壁(胸部)リンパ節を取り出し、そして免疫応答を
評価した。個々のマウスからの脾臓細胞または未刺激もしくは免役したマウスか
らのプールされたリンパ節細胞(2×106細胞/ml)を、熱殺傷した(80
℃で30分間)B.pertussis細菌(106細胞または107細胞/ml
)、熱不活化rPT(1−5μg/ml)またはFHA(1−5μg/ml)を
有する、8%FCSを補充したRPMI中で37℃で三連にて培養した。ホルボ
ール(phorbal)ミリステートアセテート(PMA)+抗マウスCD3を
陽性コントロールとして用い;培地のみを陰性コントロールとして用いた。DT
Paを用いた実験において、PRN、TTまたはCRM197(1−5μg/m
l)に対する応答もまた試験した。上清を72時間後に取り出し、そしてIFN
−γ(Th1応答の指標である)ならびにIL−4およびIL−5(両方ともT
h2応答の指標である)の濃度を、参考文献22に記載されるような免疫アッセ
イによって決定した。T細胞増殖を、これもまた参考文献22において記載され
るように、3Hチミジン取り込みにより培養の4日後に評価した。結果を、4−
5匹のマウスからの個々の脾臓細胞またはプールしたリンパ節細胞に対して、三
連にて行ったアッセイにおいて、抗原の最適濃度について、1分当たりの平均計
数または平均サイトカイン濃度として表現する。
【0028】
抗体アッセイ。コントロールおよび免役したマウスの血清における抗原特異的
IgGのレベルをELISAにより決定した。精製した抗原(FHA、PT、T
TおよびDT;1.0μg/ml)を用いてELISAプレートをコーティング
した。このプレートを乳汁タンパク質でブロッキングし、次いで連続希釈した血
清サンプルを加え、結合した抗体を抗マウスIgG(Fc特異的)アルカリホス
ファターゼ結合体によって検出した。肺中の抗原特異的なIgAをELISAに
より検出した。肺を、0.1mM PMSFプロテアーゼインヒビターを含む、
8%FCSを補充したRPMI中でホモジナイズした。ELISAプレートを、
IgGアッセイについては抗原でコーティングし、そして連続希釈した肺ホモジ
ネートを加えた。結合した抗体をヒツジ抗マウスIgA、続いてロバ抗ヒツジI
gGアルカリホスファターゼ結合体を用いて検出した。結果を、未刺激マウスか
らの血清または肺ホモジネートについてのバックグラウンドコントロール値より
2標準偏差上のカットオフに対して、光学密度対血清もしくは肺のホモジネート
希釈の曲線の直線部分の回帰によって算出した、末端点力価として表現する。
【0029】
(1:LT変異体は、Paのための鼻内アジュバントである)
2つのPaワクチンを調製した。各ワクチンにおける抗原成分は、参考文献2
3において記載されるように調製した抗原を伴う、FHA(2.5μg/用量)
+rPT(5.0μg/用量)であった。
【0030】
第一のワクチン(図1)をLT−K63(10μg/用量)を用いてアジュバ
ント化したが、他方第二のワクチン(図2)をLT−R72(1μg/用量)で
アジュバント化した。コントロールワクチンは、FHA+rPTのみからなる。
このアジュバントを、参考文献24および25に記載されるように調製した。
【0031】
25μl中に再懸濁し、そしてマイクロピペットで外鼻孔に対して適用される
ワクチン用量でか、または軽いハロセン麻酔後に、50μlに再懸濁し、そして
ミクロピペットで外鼻孔に適用されるワクチン用量を用いて、0週目および4週
目にマウスを免役した。殺傷したB.pertussis、熱不活化PTおよび
FHAに対するT細胞応答を、6週目に、脾臓ならびに胸部リンパ節および頸部
リンパ節において測定した(図1および2)。
【0032】
強いT細胞増殖およびサイトカイン産生が、アジュバント化されたPaワクチ
ンについて検出された。対照的に、コントロールで鼻内免役されたマウスからの
脾臓および局所的なリンパ節は、有意なB.pertussis特異的T細胞応
答を生成しなかった。ポリクローナル刺激(PMA+抗CD3)に対する陽性応
答により、これらのT細胞がインビトロで応答し得たことが確認された。
【0033】
図3は、変異体LTアジュバントもまた、Paの鼻内送達の後に、局所および
全身性の抗体産生を増強したことを示す。コントロールでの免疫は、弱く、かつ
不一致の抗PTおよび抗FHAの血清IgGおよび肺IgA応答を生成した。対
照的に、LT−R72またはLT−K63での同じ抗原の処方物は、一致して、
PTおよびFHAに対して特異的な強力な血清IgGおよび肺IgAを生じ、そ
してまた、特にワクチンを麻酔状態で投与した場合、有意にIgA応答を増強し
た。
【0034】
従って、LT変異体の存在は、より良好なT細胞応答および抗体応答を生じた
。それらは、鼻内送達されるPaの保護効力を増強し得、それゆえ無細胞ワクチ
ンのために有効な鼻内アジュバントである。
【0035】
(2:アジュバント性に対する、酵素活性および毒素用量の効果)
毒素のADPリボシル化活性が免疫応答の調節において重要な役割を果たして
いるというサイトカインプロファイルが実施例1において得られた。K63アジ
ュバント(これは、何らの毒性酵素活性を有しない)は、IL−4、IL−5お
よびIFN−γの産生を増強した。これは、混合Th1−Th2(すなわちTh
0)プロファイルの特徴である。対照的に、1.0μgのR72アジュバント(
これは、部分的に毒性の酵素活性を保持する)は、Th2細胞を選択的に増強す
るようであった。
【0036】
インビボで毒素のアジュバント性を直接比較した実験において、BALB/c
マウスを、1μgまたは10μgのLTK63またはLTR72をアジュバント
として処方されたPaで免役し、そして得られた免疫応答を評価した(図4)。
コントロールPaでの鼻内免疫は、弱いT細胞応答を生成したが、他方、1μg
LTK63の添加は、FHAまたは殺傷したB.pertussisに対して応
答した脾臓細胞およびリンパ節により、増殖ならびにIFN−γおよびIL−5
の産生を増強した。その用量を10μgのLTK63へと増やすと、増殖および
IFN−γの産生の穏和なさらなる増強が生じた。1.0μgのLTR72は、
選択的にTh2応答を増強し、抗原誘導されたIL−4およびIL−5の産生の
レベルは、Pa単独で観察されたものに比較して増強していた。野生型LT(1
.0μg)もまた、選択的にIL−4およびIL−5の産生を増強したが、その
効果は、LTR72で観察された効果ほどは劇的ではなかった。さらに、1.0
μgのLTR72を受けたマウスは、LTK63または野生型LTを用いて免疫
されたマウスよりも、有意に高い抗FHAならびに抗PTIgGおよびIgAの
抗体力価を有した(データは示さず)。LTR72の用量を1.0μgから10
μgに増やすと、IFN−γレベルの増強ならびにIL−4およびIL−5のレ
ベルの減少が生じた。
【0037】
従って、この毒素の酵素活性および用量は、誘導される抗原特異的T細胞のサ
イトカインプロファイルに影響を与えるようである。低用量のLTR72に存在
する微量のADPリボシル化活性は、Th2のサイトカインプロファイルを調節
するに十分であり、そして抗体応答について強力なアジュバントとして作用する
。逆に、AB複合体の結合効果によって媒介される、LTK63のアジュバント
効果は、Th1サブタイプに向けてさらに押される。さらに、より高い用量のL
TR72では、AB結合活性は、酵素活性を凌駕し得、Th1の増強およびTh
2細胞の誘導を生じる。
【0038】
(3:百日咳感染に対する保護)
ヒト臨床試験におけるワクチン効力を、参考文献22において記載される呼吸
チャレンジモデルにおいて免役されたマウスの保護と相関付けした。従って、こ
のモデルを用いて、LTアジュバントを用いて処方された、鼻内送達されるPa
を評価して、ヒト効力を予測した。
【0039】
B.pertussis W28 I相を、Stainer−Scholte
液体媒体中で37℃での攪拌条件のもとで増殖させた。48時間の培養物からの
細菌を、1%カゼインを含む生理食塩水中に約2×1010細胞/mlの濃度で再
懸濁した。チャレンジ接種を、ネブライザ手段により15分の期間にわたってマ
ウスに投与し、続いてさらに15分間にわたってチャンバ中で安静にさせた。4
匹のマウスの群を、0日目、3日目、7日目、10日目および14日目に屠殺し
、そして肺中の生存するB.pertussisの数を、評価した。肺を無菌的
に感染したマウスから取りだし、そして氷上で1mlの、1%カゼインを含む無
菌の生理食塩水中にホモジナイズした。個々の肺からの希釈していないかまたは
系列希釈したホモジネートの100μlのアリコートを、Bordet−Gen
ou寒天プレート上で三連でスポットし、そして5日のインキュベーション後に
コロニー数を評価した(図5)。
【0040】
アジュバント化したPa処方物は、可溶性抗原単独で達成される保護レベルよ
りも有意に高い、保護レベルを提供した。LT−K63アジュバントは、LT−
R72よりわずかによい保護を生成した。25μl(麻酔なし)中でのLT−R
72でのPaの鼻送達は、50μl中の同じワクチン(麻酔有り)よりもわずか
によい保護を与えた。これらの2つの相違はいずれも有意ではなかった。
【0041】
図5において示される保護レベルは、従来のように非経口送達された2成分P
a(ミョウバンにおいて25μg FHA+25μg化学的に無毒化されたPT
(16,22))で以前に観察されたレベルを超える。相関曲線の外挿により、
より良好な強度指標を示し、これは、ヒトにおける優れた臨床効力を示唆する。
【0042】
(4:LT−K63を用いたDTPa効力)
百日咳ワクチンは、通常、ミョウバンアジュバントにおける三種DTP組合せ
の形態で小児に筋肉内に投与される。従って、鼻内ワクチン接種の効力を評価す
るために、DTPaワクチンを、筋肉投与のためにミョウバンでアジュバント化
し(300μg/用量、300μl容量)、直接比較のために、LT−K63ア
ジュバント化した鼻内ワクチンを用いた(10μgアジュバント/用量、40μ
l容量)。このワクチンのPa成分は、5μgrPT、2.5μg FHAおよ
び2.5μgペルタクチンを含み;T成分は、10μg破傷風トキソイドであり
;D成分は10μgのCRM197であった。
【0043】
鼻内ワクチンは、破傷風およびジフテリアならびに百日咳抗原に対する細胞性
および体液性免疫応答を増強した(図6および図7)。鼻内ワクチンを用いた血
清IgGのレベルは、筋肉内ワクチンを用いて観察されたレベルと等価であった
が、粘膜免疫は、局所的IgA応答を有利に増強した。
【0044】
顕著なことに、LT−K63アジュバント化されたワクチンの保護効力は、「
標準的な」ミョウバンアジュバント化されたワクチンの効力に一致したが、消失
反応速度論は、わずかに異なっていた(図8)。これは、ミョウバン上に吸着さ
れ、そして非経口的に投与される同じ抗原で観察される保護レベルに等価な、B
.pertussis感染に対する保護レベルを生成し得る粘膜送達される組合
せDTPa処方物の初めての開示である。
【0045】
(5:筋肉内初回刺激および鼻内追加免疫)
このDTPaワクチンは、初回刺激−追加免疫実験においてもまた使用される

【0046】
2群の22匹のマウスを、0週目および4週目でミョウバンにおけるDTPa
またはPBS(コントロール)のいずれかで筋肉内免疫した。さらなる群の22
匹のマウスを、0週目および4週目で、LT−K63アジュバント化されたワク
チンで、鼻内免疫した。2つのさらなる群の22匹のマウスを、0週目で筋肉内
でのミョウバン処方物で免疫し、そして4週目で鼻内処方物(LT−K63アジ
ュバントとともにまたはそれなしで)免疫した。
【0047】
【表1】


各群から5匹のマウスを6週目に屠殺し、そして血清、肺および脾臓の細胞を
免疫応答について測定した。残りのマウスを、感染モデルに供した。各群から1
匹のマウスを、0日目に、および各群から4匹のマウスを、3日目、7日目、1
0日目および14日目に屠殺し、そしてそれらのCFU計数を、それらの肺から
測定した。
【0048】
T細胞増殖(図9)は、インビトロで百日咳抗原で刺激を受けた脾臓細胞につ
いて全ての群で弱かった。しかし、その細胞は、陽性コントロール(PMA+C
D3)に対して応答して増殖した。インビトロでの破傷風トキソイドに対する増
殖応答は、LT−K63をアジュバントとして用いたとき(筋肉内初回刺激の後
)鼻内追加免役されたマウスにおいて有意により強力であった。ジフテリア成分
に対する最も強力なインビトロ増殖は、鼻内で2回免役されたマウスにおいて見
られた。
【0049】
百日咳抗原に対するサイトカイン応答(図10)は、すべての群において、I
L−5およびIFN−γ産生の両方を示した。このことは、インビボでTh1お
よびTh2の両方の集団の初回刺激を示す。IL−4産生は、両方のときにおい
て同じ方法で免役した群において限定されていた。鼻内LT−K63処方物での
初回刺激および追加免疫は、筋肉内で初回刺激された群よりもより強いTh2応
答(より高いIL−4およびIL−5)を与えるようである。
【0050】
ジフテリア抗原に対するサイトカイン応答(図11)は、IL−4およびIL
−5に限定されており、いずれの群についてもIFN−γはほとんどまたは全く
検出されなかった。従って、DTPaでの鼻内追加免疫は、インビボでTh2細
胞の初回刺激を生じる。最も強いTh2応答は、LT−K63アジュバントで2
回鼻内免役されたマウスから生成された。対照的に、2回の筋肉内注射は、脾臓
内で検出可能なIL−4応答もIL−5応答も与えず、IFN−γもそうではな
かった。
【0051】
破傷風抗原に対するサイトカイン応答(図12)は、すべてのマウスにおいて
IL−4、IL−5の産生、および低レベルのIFN−γの産生を示した。この
ことは、混合Th1/Th2応答を示す。しかし、IL−4およびIL−5のレ
ベルは、アジュバント化されていない鼻内追加免疫または筋肉内追加免疫と比較
して、LT−K63アジュバントで鼻内追加免役した群において、有意により高
かった。
【0052】
TT、DTおよびPTNに対するIgG応答(図13)は、種々の群の間の力
価において有意な相違を示さなかった。抗PTおよび抗FHAの力価は、鼻内で
追加免疫した群におけるよりも、筋肉内でDTPaで初回刺激および追加免役し
た群においてわずかにより高かった(LT−K63アジュバントありまたはなし
)。抗FHA IgGは、検出されなかったが、これは、上記に提示された結果
とは一致しなかった。IgAレベル(図13)は、LT−K63アジュバントを
用いた筋肉内初回刺激および鼻内追加免疫が鼻内初回刺激および追加免疫に対す
るほとんどの抗原について類似の力価を生成したことを示したが、抗PTレベル
は有意により低かった。LT−K63アジュバントなしでの鼻内追加免疫は、特
にDHAおよびPTNについてより低いIgAレベルを生成した。
【0053】
マウス血清における機能的に重要な抗DT中和抗体の分析(図14)は、LT
−K63を用いた筋肉内での初回刺激および鼻内追加免疫が最も高いレベルを生
じたことを実証した。
【0054】
保護モデルは、類似のレベルの保護が、二重の鼻内免疫および二重の筋肉内免
疫において観察されたことを示した。消失曲線の反応速度論(図15)は変動す
るが、B.pertussisは、両方の場合において有効に消失し、チャレン
ジ後14日でCFU計数は1(log10)未満であった。今日のほとんどの成人
は、筋肉内百日咳ワクチンを受けている。これは、この例において筋肉内初回刺
激により表される。このデータは、LT−K63アジュバントでの鼻内追加免疫
がワクチン接種の有効方法であることを示す。
【0055】
この実施例はまた、LT−K63が1×CRM197の送達について非常に有
効なアジュバントであることも示す。この抗原に対する鼻内増強は、キトサンを
用いて報告されているが、これは、穏和なIgAおよびT細胞の応答について3
回の免疫を必要とした。対照的に、LT−K63は、2回のみの鼻内免疫後のI
gG、IgA、IL−4およびIL−5の強力な応答を誘導し得た。類似のレベ
ルの抗DT中和抗体もまた、キトサンを用いたのと同様に生成された。
【0056】
本発明は、上記において例示でのみ記載され、そして本発明の範囲および趣旨
内にとどめつつ改変がなされ得ると理解される。
【0057】
(参考文献(その内容はその全体が本明細書において参考として援用される)

【0058】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−67137(P2012−67137A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−806(P2012−806)
【出願日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【分割の表示】特願2001−526202(P2001−526202)の分割
【原出願日】平成12年9月28日(2000.9.28)
【出願人】(592243793)ノバルティス ヴァクシンズ アンド ダイアグノスティクス エスアールエル (107)
【Fターム(参考)】