説明

紅斑又は浮腫の改善剤

【課題】本発明の目的は、生体内にも存在している安全な成分を使用して、皮膚の紅斑又は浮腫の改善剤を提供することである。
【解決手段】アデノシン一リン酸等のプリン系リン酸エステル及びその塩は、紅斑及び浮腫の軽減や改善に有効であり、紅斑又は浮腫の改善剤の有効成分として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紅斑又は浮腫の改善に関する。より詳細には、本発明は、紅斑や浮腫の発症を予防でき、またそれらの治療にも有効な紅斑又は浮腫の改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
紅斑とは、表在性真皮において血流の増加によって引き起こされる皮膚の赤色化症状である。紅斑は、熱や放射線等の物理的要因、薬品や有害物質等による化学的要因、細菌や真菌等による感染的要因、ストレス等による心理的要因によって引き起こされたり、薬剤の副作用、ビタミン欠乏症、内分泌機能障害等によって引き起こされることもある。紅斑は美容上の問題になるばかりか、血流の過剰な増加により湿疹反応をおし進め、湿疹を悪化させる原因となりうる。
【0003】
また、浮腫は、体液又はリンパ液が皮下組織に貯留した症状であり、局所的に生じる場合と全身的に生じる場合がある。浮腫は、薬剤の副作用、腎臓疾患、腎臓機能の低下、心不全、肝硬変等に伴って発症する内因性のものと、日常生活での長時間の立位、座位等によって自然発生的に発症したり、ストレスや外的要因によっても引き起こされる。特には、自然発生的に発現する浮腫や外的要因によって生じる浮腫は美容上の問題のみならず、皮膚組織の機能低下を招き、他の皮膚疾患を誘発することも懸念される。
【0004】
このように、紅斑及び浮腫は、たとえ軽症であったとしても、深刻な皮膚疾患を誘発するおそれがあり、更には美容上の問題にもなる。とりわけ、現代社会では、美容に多くの関心が持たれており、美容上の観点から、紅斑や浮腫を有効に改善することが要望されている。
【0005】
従来、紅斑や外的要因に起因する浮腫の改善には、主として局所用ステロイド剤が使用されている。しかしながら、ステロイド剤の使用には、皮膚萎縮等の副作用を伴うため、長期間の使用が許容できないという問題点がある。
【0006】
このような従来技術を背景として、生体内にも存在している成分を使用して、紅班又は浮腫に対し適度な効果を示すとともに、安全に日常的に使用することが可能な紅斑又は浮腫の改善剤の開発が望まれている(特許文献1−2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2008/129066号パンフレット
【特許文献2】特開2006-290782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生体内にも存在している安全な成分を使用して、紅斑又は浮腫の改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、生体内成分であるアデノシン一リン酸等のプリン系リン酸エステルは、紅斑及び浮腫を効果的に予防又は治療する作用があることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. プリン系リン酸エステル及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする、紅斑又は浮腫の改善剤。
項2. プリン系リン酸エステルが、アデノシン一リン酸である、項1に記載の紅斑又は浮腫の改善剤。
項3. プリン系リン酸エステル及び/又はその塩を0.1〜20重量%の割合で含有する、項1又は2に記載の紅斑又は浮腫の改善剤。
項4. 更に美白剤を含む、項1乃至3のいずれかに記載の紅斑又は浮腫の改善剤。
項5. 美白剤が、アルブチン、マグノリグナン、メトキシサリチル酸、ヒドロキシフェニルブタノール、ニコチン酸アミド、トラネキサム酸、コウジ酸、プラセンタエキス、アスコルビン酸誘導体、ルシノール、カモミラエキス、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、項4に記載の紅斑又は浮腫の改善剤。
項6. プリン系リン酸エステル及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種、並びに美白剤を含有することを特徴とする、外用組成物。
項7. 美白剤が、アルブチン、マグノリグナン、メトキシサリチル酸、ヒドロキシフェニルブタノール、ニコチン酸アミド、トラネキサム酸、コウジ酸、プラセンタエキス、アスコルビン酸誘導体、ルシノール、カモミラエキス、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、項6に記載の外用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紅斑又は浮腫を効果的に改善でき、紅斑又は浮腫の発症予防、更には紅斑又は浮腫の治療に著効を発揮することができる。そのため、本発明の紅斑又は浮腫の改善剤は、紅斑又は浮腫から誘発される深刻な皮膚疾患の発症の予防にも有効である。更に、本発明の紅斑又は浮腫の改善剤は、紅斑又は浮腫を改善することにより、外観も良好で健常な皮膚状態を維持させることができるので、美容の観点からも有益である。
【0012】
また、本発明の紅斑又は浮腫の改善剤は、生体内にも存在しているプリン系リン酸エステル及びその塩を有効成分として使用しているため、安全性が高く、日常的に継続して使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1において、アデノシン一リン酸が、界面活性剤(SDS)塗布による紅斑発症モルモット皮膚に及ぼす影響を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の紅斑又は浮腫の改善剤(以下、単に、改善剤と表記することもある)は、プリン系リン酸エステル及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0015】
本発明において、プリン系リン酸エステルとは、プリン核を骨格とした化合物とリン酸がエステル化して結合している化合物、及びその塩の総称である。本発明において有効成分として使用されるプリン系リン酸エステルとしては、薬学的又は香粧学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、アデノシンリン酸エステル(アデノシン2'−一リン酸、アデノシン3'−一リン酸、アデノシン5'−一リン酸等のアデノシン一リン酸;アデノシン5'−二リン酸等のアデノシン二リン酸;アデノシン5'−三リン酸等のアデノシン三リン酸)、グアノシンリン酸エステル(グアノシン3'−一リン酸、グアノシン5'−一リン酸等のグアノシン一リン酸;グアノシン5'−二リン酸等のグアノシン二リン酸;グアノシン5'−三リン酸等のグアノシン三リン酸)、イノシンリン酸エステル(イノシン3'−一リン酸、イノシン5'−一リン酸等のイノシン一リン酸;イノシン5'−二リン酸等のイノシン二リン酸;イノシン5'−三リン酸等のイノシン三リン酸)、等が挙げられる。これらの中でも、紅斑又は浮腫の改善効果を一層有効に奏し得るものとして、好ましくはアデノシンリン酸エステル、更に好ましくはアデノシン一リン酸、特に好ましくはアデノシン5'−一リン酸(AMP)が例示される。
【0016】
また、プリン系リン酸エステルの塩としては、薬学的又は香粧学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸塩;アンモニウム塩、トリシクロヘキシルアンモニウム塩等のアンモニウム塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、モノイソプロパノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩等の各種のアルカノールアミン塩等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはナトリウム塩が例示される。
【0017】
これらのプリン系リン酸エステル及びその塩は、本発明の改善剤の有効成分として1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本発明の改善剤において、上記有効成分の配合割合としては、プリン系リン酸エステルの種類、その製剤形態、期待する効果等に応じて適宜設定することができる。具体的には、本発明の改善剤における上記有効成分の配合割合としては、該剤の総量当たり、0.5〜10重量%、好ましくは1〜7重量%、さらに好ましくは2〜5重量%、特に好ましくは2〜3重量%が挙げられる。このような配合割合を充足することによって、紅斑又は浮腫の改善効果を一層有効に奏させることが可能になる。
【0019】
本発明の改善剤には、プリン系リン酸エスエル及び/又はその塩の他に、薬学的又は香粧的に許容される基剤や担体を組み合わせて各種の形態に調製される。薬学的又は香粧的に許容される基剤や担体については、従来、皮膚外用剤に使用されている公知のものを用いることができる。
【0020】
更に、本発明の改善剤には、必要に応じて皮膚外用剤に配合される各種の添加剤を配合することができる。このような添加剤として、例えば、界面活性剤、乳化剤、色素(染料、顔料)、香料、防腐剤、殺菌剤(抗菌剤)、増粘剤、酸化防止剤、金属封鎖剤、清涼化剤、防臭剤、保湿剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、ビタミン類、植物エキス、皮膚収斂剤、抗炎症剤、美白剤、細胞賦活剤、血管拡張剤、血行促進剤、皮膚機能亢進剤等が挙げられる。
【0021】
これらの添加剤の中でも、上記有効成分と美白剤とを併用することにより、紅班及び浮腫の改善効果に止まらず、他の香粧的又は薬学的効果を高めることが期待され、様々な薬学的又は香粧的に有益をもたらす外用組成物を提供することが可能になる。美白剤の種類としては、アルブチン;アスコルビン酸、その誘導体(アスコルビン酸の配糖体やエステル体等)等のアスコルビン酸類;ルシノール;リノール酸、その誘導体等のリノール酸類;トラネキサム酸、その塩、その誘導体(トラネキサム酸のエステル体等)等のトラネキサム酸類;エラグ酸、その誘導体等のエラグ酸類;カモミラエキス等のカモミラ由来成分;マグノリグナン;メトキシサリチル酸及びその塩;ヒドロキシフェニルブタノール;コウジ酸;プラセンタエキス等が例示される。これらの美白剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本発明の改善剤に、美白剤を配合する場合、その配合割合については、特に制限されるものではないが、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜8重量%が挙げられる。
【0023】
本発明の改善剤は、化粧料、外用医薬品又は外用医薬部外品等の皮膚に経皮適用される組成物として調製される限り、その製剤形態については特に制限されない。本発明の改善剤の製剤形態として、具体的には、ペースト状、ムース状、ジェル状、液状、乳液状、懸濁液状、クリーム状、軟膏状、ゲル状、シート状、エアゾール状、スプレー状、リニメント剤状等が例示される。これらの製剤形態の中でも、好ましくは、液状、乳液状、ゲル状が挙げられる。これらの製剤形態は、当業界の通常の方法に従って調製される。
【0024】
本発明の改善剤は、紅斑又は浮腫の発症予防が求められている皮膚、或いは紅斑又は浮腫が発症している皮膚に対して、経皮適用することにより使用される。本発明の改善剤は、様々な要因により生じる紅班又は浮腫に対して改善効果を奏することができるが、とりわけ、汚染物質、薬品等の化学物質との接触;紫外線、放射線等の光暴露;心理的ストレス;炎症起因物質に起因して生じる紅班又は浮腫に対して一層有効に改善効果を奏することができる。
【0025】
本発明の改善剤を皮膚に適用する量及び回数については、プリン系リン酸エステルの種類や濃度、適用対象者の年齢、性別、適用される皮膚部位に応じて、1日に1回若しくは2〜5回の頻度で適当量を皮膚に適用すればよい。また、本発明の改善剤の1回当たりの適用量については、例えば、皮膚1cm2当たり、プリン系リン酸エステルの量に換算して0.01〜10mg、好ましくは0.1〜5mg程度となる量に設定すればよい。
【0026】
本発明の改善剤は、紅斑又は浮腫の発症予防、症状緩和、症状治癒等に効果があるので、紅斑又は浮腫の予防又は治療剤として有用である。
【実施例】
【0027】
以下、試験例及び実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例等において「%」と表示され、かつ配合量を示すものは、特段記載のない限り、重量%を意味する。
【0028】
実施例1:紅斑に対するアデノシンリン酸エステルの抑制効果
本実施例では、モルモットの皮膚にSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を塗布することにより発症する紅斑に対して、アデノシンリン酸エステルの塗布が、モルモット皮膚の紅斑に対して及ぼす影響について検討した。
【0029】
<試験方法>
第1日目に雌11週齢のHartleyモルモット(日本SLCより購入)8匹の背部4箇所を被験液塗布部位とし、その部分を含む背部全体を剃毛した。その4箇所に5%のSDSを12μL塗布した後、被験液を24μL塗布した。被験液は、20%エタノール水溶液(基剤)、1%、3%又は5%のAMP2Na(アデノシン一リン酸二ナトリウム(ヤマサ醤油製))を含む20%エタノール水溶液を使用した。SDS及び被験液の塗布は、1日1回、3日間実施した。
【0030】
3日目の塗布終了の翌日に、各塗布部位と、SDS及び被験液を全く塗布していない無処置部位について、紅斑指数を指標に測定することにより紅班の程度を評価した。紅斑指数は、Mexameter MX18(Courage+Khazaka社製)を用いて測定した。測定は、添付の手順書に従い行なった。
【0031】
<結果>
得られた結果を図1に示す。この結果から、SDS塗布により発症する紅斑に対してアデノシン一リン酸塩を塗布することにより、抑制できることが示された。また、その効果は濃度依存的に示されることも明らかとなった。このことから、アデノシンリン酸エステルには、紅斑を予防及び治療する効果があることが確認された。また、本結果から、当該成分には、接触性の皮膚炎にも効果が期待される。
【0032】
実施例2:浮腫に対するアデノシンリン酸エステルの抑制効果
本実施例では、感作後に誘発させたマウスの耳介の肥厚(浮腫)に対して、アデノシンリン酸エステルが及ぼす影響について検討した。
【0033】
<試験方法>
被験液として、20%エタノール水溶液(基剤)、3%のアデノシン一リン酸二ナトリウムを含む20%エタノール水溶液を準備した。7週齢雌BALB/cマウス(日本SLCより購入)を1群6匹の3群に分け、その内、2群を感作群、1群を非感作群とした。感作群では、1日目及び2日目にマウスの腹部に0.5%オキサゾロンを含むエタノール溶液を、塗布した。次に、5〜7日目に非感作群には基剤を、感作群には各被験液を1日1回、10μL耳介に塗布した。7日目の被験液塗布後に、0.5%オキサゾロン溶液を耳介に塗布し、惹起させて浮腫を引き起こさせた。各群のマウスについて、惹起前(7日目)と惹起48時間後(9日目)に耳介の厚さを測定し、耳介の厚さの差を求めた。
【0034】
<結果>
惹起前と惹起48時間後の耳介の厚さの差の平均値を算出した結果を表1に示す。感作群において、3%AMP2Naを塗布した群では、基剤を塗布した群に比して、耳介の厚さの増加が抑制されており、浮腫を軽減する効果が認められた。非感作群では、耳介厚さに変化はなかった。このことから、アデノシンリン酸エステルは、アレルギー性皮膚炎に有用であると考えられる。
【0035】
【表1】

【0036】
処方例
処方例1(化粧水)
(重量%)
AMP 2.0
ニコチン酸アミド 2.0
1,3−ブチレングリコール 3.0
濃グリセリン 2.0
ポリオキシエチレン・
メチルポリシロキサン共重合体 0.3
エタノール 7.0
防腐剤 適量
着香剤 適量
pH調製剤 適量
精製水 残余
合計 100重量%
【0037】
処方例2(美容液)
(重量%)
AMP2Na 3.0
コウジ酸 1.0
ジプロピレングリコール 5.0
濃グリセリン 3.0
ヒアルロン酸ナトリウム 0.2
キサンタンガム 0.2
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.3
エタノール 5.0
防腐剤 適量
着香剤 適量
pH調製剤 適量
精製水 残余
合計 100重量%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリン系リン酸エステル及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする、紅斑又は浮腫の改善剤。
【請求項2】
プリン系リン酸エステルが、アデノシン一リン酸である、請求項1に記載の紅斑又は浮腫の改善剤。
【請求項3】
プリン系リン酸エステル及び/又はその塩を0.5〜10重量%の割合で含有する、請求項1又は2に記載の紅斑又は浮腫の改善剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−111729(P2012−111729A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263674(P2010−263674)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】