説明

純水中の有機物分解装置および有機物分解方法

【課題】導電率が低い純水などを被処理水とし、光触媒と紫外線照射とを組み合わせることによって被処理水に含まれる微量のTOC成分を分解する有機物分解装置において、簡単な構造で、後段における処理負荷を小さくして、低コストで、極微量にまでTOC(全有機炭素)濃度を低減できるようにする。
【解決手段】有機物分解装置は、反応容器と、反応容器内に配置され、透水性を有するように貫通する孔部を有し、光触媒が担持された第1電極と、第1電極と対をなし前記被処理水の流れに接するように配置された第2電極と、第1電極が正となり第2電極が負となるように第1電極と第2電極との間に電圧を印加する電源装置と、第1電極に対して紫外線を照射する紫外線光源と、を備える。被処理水は、第1電極を透過して流れるように、反応容器に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水等の純水を製造する装置および方法に関し、特に、被処理水中の有機物を除去するために有機物を酸化分解する有機物分解装置および有機物分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体装置の製造工程や液晶表示装置の製造工程における洗浄水等の用途として、有機物、イオン成分、微粒子、細菌等が高度に除去された超純水等の純水が使用されている。特に、半導体装置を含む電子部品を製造する際には、その洗浄工程において多量の純水が使用されており、その水質に対する要求も年々高まっている。電子部品製造の洗浄工程等において使用される純水では、純水中に含まれる有機物がその後の熱処理工程において炭化して絶縁不良等を引き起こすことを防止するため、水質管理項目の一つである全有機炭素(TOC;Total Organic Carbon)濃度を極めて低いレベルとすることが求められるようになってきている。
【0003】
このような純水水質への高度な要求が顕在化するに伴って、近年、純水中に含まれる微量の有機物を分解し除去する様々な方法の検討がなされている。そのような方法の代表的なものとして、紫外線酸化処理による有機物の分解除去工程が導入されるようになってきている。
【0004】
一般的には、紫外線酸化処理によって有機物の分解除去を行う場合には、例えばステンレス製の反応槽とその反応槽内に設置された管状の紫外線ランプとを備える紫外線酸化装置を用い、反応槽内に被処理水を導入して被処理水に紫外線を照射する。紫外線ランプとしては、例えば、254nmと185nmの各波長を有する紫外線を発生する低圧紫外線ランプ、あるいは、254nmと194nmと185nmの各波長を有する紫外線を発生する低圧紫外線ランプが使用される。被処理水としては、例えば、原水に対して濾過、活性炭処理、イオン交換処理などを行って、あらかじめ、イオン濃度と有機物濃度とを低下させた水が用いられる。被処理水に185nmの波長を含む紫外線が照射されると、被処理水内にヒドロキシルラジカル(・OH)等の酸化種が生成し、この酸化種の酸化力により被処理水中の微量有機物が二酸化炭素や有機酸に分解する。被処理水に対してこのように紫外線酸化分解処理を施して得られた処理水は、次に、イオン交換装置に送られ、二酸化炭素や有機酸が除去され、高度に有機物が除去された純水となる。
【0005】
しかしながら、一般的な紫外線酸化装置による有機物の酸化分解方法では、185nmといった短波長の紫外線を発生する紫外線ランプを必要とするが、このような紫外線ランプは非常に高価であるにもかかわらず、使用期間の経過とともに紫外線強度が低下するために、例えば1年に1回程度の交換が必要である。また、紫外線酸化装置における有機物の分解効率は、被処理水中の有機物濃度が低いほど低下するため、純水や超純水製造のように、TOC濃度がもともと低い被処理水を対象としてその被処理水中の有機物をさらに酸化分解するためには、被処理水におけるTOC濃度あたりの必要電力量が非常に大きくなる。したがって、一般的な紫外線酸化装置による有機物の酸化分解は、装置のランニングコストが極めて大きくなるという問題点を有する。
【0006】
上述の問題点を解決するために、近年では、被処理水中の有機物を酸化分解する方法として、紫外線と光触媒とを組み合わせた技術も数多く報告されている。光触媒としては、一般的に、酸化チタン(TiO2)光触媒が用いられている。光触媒は、自身のバンドギャップを超えるエネルギーに相当する光が照射されることにより、ホール(h+;正孔)と電子(e-)を生じる。そしてホールと、ホールが有する強力な酸化力により生成したヒドロキシルラジカル(・OH)が、被処理水中の有機物を強力に酸化分解する。光触媒を用いる場合には、光触媒の作用によって、光触媒を用いないで紫外線酸化処理を行う場合よりも、より小さな紫外線照射量で、かつ、より長波長(可視光に近い)紫外線を用いてヒドロキシルラジカルを生成することができ、その分、紫外線照射に要するコストを削減できるという利点が得られる。
【0007】
特許文献1には、排水や導電率が高い水を被処理水として、被処理水中の有機物を酸化分解するバッチ式の水処理装置であって、チタン板の表面に陽極酸化処理を施すことによって表面に酸化チタン光触媒が担持された第1電極を用い、光触媒に紫外線を照射しつつ第1電極とグラファイトなどからなる第2電極との間に電圧を印加するようにした水処理装置が開示されている。特許文献1の水処理装置では、光触媒に電解を併用することによって、有機物の酸化分解反応を促進させるようにしており、被処理水の電解条件としては、第1電極側が正になるようにして第1電極及び第2電極の間に5V程度の電圧を印加するようにしている。
【0008】
しかしながら、純水あるいは超純水の製造では、被処理水中の微量の有機物を極限にまで分解・除去する必要があるが、特許文献1に記載のものは、バッチ式・開放式の処理槽を用いて比較的導電率が高い被処理水を処理するので、純水中のような導電率が極めて低い被処理水を対象とするのには適さない。また特許文献1は、被処理水中の電解質濃度がある程度大きいことを前提としているが、半導体装置製造などで洗浄水として用いられる純水、超純水では、微量のイオンの存在さえも大きな問題となるため、電解質濃度が大きいことを前提とすることは好ましくない。
【0009】
特許文献2は、超純水製造装置に組み込まれ紫外線と光触媒とを組み合わせて有機物の分解を行う有機物分解装置において、紫外線光源として、低圧紫外線ランプではなく発光ダイオード(LED)を使用することを開示している。発光ダイオードは、低圧紫外線ランプに比べて高効率であり、かつ、その動作寿命が長い、という特徴を有するので、特許文献2の有機物分解装置は、光源の交換作業の削減や全体としての消費電力の削減を達成することができる。しかしながら、発光ダイオードは、低圧紫外線ランプに比べて、サイズが小さくかつ1個当たりの発光量も小さいので、光触媒の全体にわたって均一に紫外線を照射するためには、多数個の発光ダイオードを分散して設置する必要があり、特許文献2に記載のものでは、イニシャルコストが増大し、かつ、装置自体の構造が複雑なものとなる、という問題点が生じる。
【0010】
特許文献3には、紫外線と光触媒とを組み合わせて純水中の有機物の分解除去を行う際に、TOC成分の除去処理時間等を短くすることを目的として、超純水等の被処理水に対し過酸化水素(H22)及びオゾン(O3)を添加するとともに、アナタース型酸化チタン光触媒などの光触媒の存在下において紫外線ランプ等からの紫外線照射によりTOC成分を分解する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3に記載のものは、過酸化水素及びオゾンの添加を必要とするためにランニングコストの上昇を伴い、また、紫外線酸化処理を行った後に処理水から残存している過酸化水素及びオゾンを除去する操作を行わなければならず、装置が複雑化するという問題点を有する。
【0011】
被処理水中の有機物を分解除去する技術として、紫外線を用いないものもある。特許文献4には、水道水や井戸水を被処理水として純水を製造する純水製造装置において、カチオン交換樹脂塔と電解酸化装置とアニオン交換樹脂塔とを直列に配置して、被処理水をカチオン交換樹脂塔にまず供給する構成が開示されている。この構成では、カチオン交換樹脂塔からの、水素イオンを多量に含んだ被処理水が次に電解酸化装置に供給されて被処理水中のTOC成分が電解酸化により分解され、その後、アニオン交換樹脂塔において、被処理水に最初から含まれていたアニオン成分とともに、TOC成分の電解酸化によって生成された二酸化炭素及び有機酸が除去される。電解酸化装置の前段にカチオン交換樹脂塔を配置するのは、カチオン交換によって被処理水中の水素イオン濃度を高め、この水素イオンを電解酸化時の電解キャリアとして用いて数ボルト程度の低電圧でも数アンペア程度の電流で電解酸化を行うことができるようにするためである。しかしながら特許文献4に示したものは、イオン交換樹脂を用いた純水製造装置の中間部に電解酸化装置を設ける構成となっているため、後段のアニオン交換樹脂塔から溶出するTOC成分を分解することができず、純水中のTOCを微量域にまで低減することができない問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−302328号公報
【特許文献2】特開2007−136372号公報
【特許文献3】特開平10−151450号公報
【特許文献4】特開平11−000659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、被処理水中の有機物を分解除去する場合に、単純に紫外線酸化処理を行った場合には、極微量にまでTOCを削減する場合には多大の電力量を必要とし、また、光源の交換などのランニングコストも大きい、という問題を生じる。光触媒と紫外線照射とを組み合わせることによって被処理水中の有機物を分解除去する従来の方法においても、電解質や過酸化物を加えるなど導電率が低い純水などを被処理水とするのには不適切なものであったり、装置として構造が複雑なものを使用したり、ランニングコストが高いものであったり、さらには、後段における処理負荷が大きいものであったりする、という問題点を有する。
【0014】
本発明の目的は、導電率が低い純水などを被処理水とし、光触媒と紫外線照射とを組み合わせることによって被処理水に含まれる微量のTOC成分を分解する有機物分解装置および有機物分解方法であって、構造が複雑ではなく、後段における処理負荷が小さく、低コストで、かつ、極微量にまでTOC濃度を低減することができる装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の有機物分解装置は、被処理水中に含まれる有機物を酸化分解する有機物分解装置であって、反応容器と、反応容器内に配置され、透水性を有するように貫通する孔部を有し、光触媒が担持された第1電極と、第1電極に対をなし被処理水の流れに接するように配置された第2電極と、第1電極と第2電極との間に電圧を印加する電圧印加手段と、第1電極に対して紫外線を照射する紫外線照射手段と、を備え、被処理水が第1電極を透過するように反応容器内を被処理水が流れるようにしたものである。
【0016】
本発明の有機物分解方法は、被処理水中に含まれる有機物を酸化分解する有機物分解方法であって、反応容器内に配置され透水性を有するように貫通する孔部を有し光触媒が担持された第1電極と、第1電極に対をなし被処理水の流れに接するように配置された第2電極とを使用し、被処理水が第1電極を透過して反応容器内を流れるように反応容器に被処理水を供給しつつ、第1電極に紫外線を照射する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来技術では非常に困難と考えられていた電気伝導度が極めて低い純水を被処理水とする場合であっても、電解質等の電気伝導体を添加する必要なしに、非常に低い電力量で、連続反応により有機物を分解させることができる。また、透水性を有するように貫通する孔部を有し光触媒が担持された第1電極を用い、被処理水が第1電極を透過するようにしていることにより、被処理水と光触媒との接触面積を大幅に増加させることができる。これらのことから、TOC濃度が極微量にまで低減された高品質な純水を連続して得ることができ、また、TOC成分の分解除去時間を短縮し、消費電力等のランニングコストを低減できる。
【0018】
本発明において通水方向を第2電極から第1電極に向かう方向とした場合には、一旦酸化分解された物質の再還元を防止することができるため、TOC成分の分解除去効率とエネルギーの利用効率とをさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の各実施の形態に基づく有機物分解装置を有する水処理装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の有機物分解装置の構成を示す模式断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態の有機物分解装置の構成を示す模式断面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態の有機物分解装置の構成を示す模式断面図である。
【図5】(a)は本発明の第4の実施形態の有機物分解装置の構成を示す模式断面図であり、(b)は図5(a)のB−B’線での模式断面図である。
【図6】(a)は本発明の第5の実施形態の有機物分解装置の構成を示す模式断面図であり、(b)は図6(a)のB−B’線での模式断面図であり、(c)は図6(a)のC−C’線での模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して説明する。
【0021】
最初に、後述する本発明の各実施形態の有機物分解装置を備えて構成される水処理装置について説明する。図1に示す水処理装置は、被処理水中の有機物を酸化分解する有機物分解装置1と、有機物分解装置1の後段に配置されたイオン交換装置2とを備えている。被処理水は有機物分解装置1に供給され、被処理水を有機物分解装置1で処理して得られる処理水は次にイオン交換装置2に供給され、イオン交換装置2から、この水処理装置からの最終的な処理水であるイオン交換処理水が得られるようになっている。被処理水としては、原水に対してあらかじめ濾過、活性炭処理、イオン交換処理などを施して得られる、例えば、電気抵抗率が1MΩ・cm以上であってTOC濃度が100ppb未満である水が用いられる。また、被処理水の電気抵抗率は10MΩ・cm以上であってTOC濃度が50ppb未満であることが好ましく、さらに好ましくは15MΩ・cm以上であってTOC濃度が20ppb未満の範囲である。図1に示す水処理装置は、このように導電率が低くかつTOC濃度が小さい被処理水をさらに処理して、TOCを極微量、例えば10ppb未満に減少させるものである。
【0022】
本発明のいずれかの実施形態に基づいて構成された有機物分解装置1は、光触媒と紫外線とを組み合わせた酸化処理により被処理水中の有機物を二酸化炭素と有機酸に分解するものであり、その意味で光触媒装置とも呼ばれる。有機物分解装置1からの処理水には、酸化処理によって生成した二酸化炭素と有機酸とが含まれている。イオン交換装置2は、イオン交換樹脂によって処理水中の二酸化炭素と有機酸とを除去して、導電率が極めて小さく、TOCが極微量にまで低減されたイオン交換処理水を外部に供給する。
【0023】
図2は、本発明の第1の実施形態の有機物分解装置の構成を示している。有機物分解装置は、光触媒を備え被処理水が供給されるフローセル10と、フローセル10の外部に設けられてフローセル10内の光触媒に紫外線を照射する紫外線光源11と、フローセル10内に設けられた第1電極12及び第2電極13と、フローセル10の外部に設けられ第1電極12と第2電極13に電気的に接続してこれらの電極12,13間に直流電圧を印加する電源装置14と、を備えている。紫外線光源11は紫外線照射手段として設けられており、電源装置14は電圧印加手段として設けられている。第1電極12は、透水性を有するように多数の貫通する微細孔が形成された板状の導電性部材からなり、微細孔の側壁部分も含めて表面に光触媒が担持されているものである。光触媒は例えば酸化チタン光触媒であり、光触媒として酸化チタン光触媒を用いる場合には、多孔性の金属チタン板の表面に例えばCVD(化学気相成長)などの手法によって光触媒層を形成することによって、光触媒が担持された透水性の第1電極12を形成することができる。第2電極13は、導電性部材からなるものであり、例えば、多数の貫通する微細孔が形成された板状の導電性部材やメッシュ状の導電性部材からなる。一例として、多孔性のステンレス鋼板などによって第2電極13を構成することができる。第2電極13は、常に被処理水と接していればよく、被処理水が通過するように透水性を有するものであっても、あるいは、その表面に常に被処理水の流れが形成されるようなものであってもよい。
【0024】
フローセル10は、例えば円筒状または直方体状の反応容器として構成されており、ここで示した例ではフローセル10内で一方向に液体が流れるように、その下端部と上端部には、接続口15,16がそれぞれ設けられている。接続口15,16は、被処理水及び処理水のフローセル10への出入口として用いられるものである。第1電極12が紫外線光源11側となって第2電極13が紫外線光源11とは反対側となり、かつ、接続口15,16の一方から他方に流れる水が第1電極12及び第2電極13の両方を通過するように、フローセル10の内部において第1電極12及び第2電極13が配置している。特に第1電極12は、流れる水の全量が透水性の第1電極を透過するように、フローセル10の横断面の全面に設けられている。なお、フローセル10内での流れの向きは、被処理水が第1電極12を通過するのであれば、必ずしも一方向でなくてもよい。
【0025】
フローセル10の上面は、紫外線光源11からの紫外線が第1電極12を照射するように、紫外線に対して透明な石英ガラス窓17によって構成されている。しかし、紫外線光源11から照射された紫外線が第一電極12に照射される位置であれば、紫外線光源11の配置位置はこれに限定されるものではない。例えば、後述の実施形態に示されるように、フローセル10あるいは反応容器内に紫外線光源11を配置してもよく、これにより石英ガラス窓17なしでも通水が可能となる(ただし水中で利用する場合には、紫外線光源を保護する目的で紫外線光源の外側に石英管を設ける必要がある)。第1電極12及び第2電極13は、それぞれ、導線18,19によって電源装置14に接続しており、電源装置14は、第1電極12の側が正になるように、第1電極12と第2電極13の間に直流電圧を印加する。なお後述するように、直流電圧の印加は必ずしも必要ない。直流電圧の大きさは、例えば150V程度と従来の電解酸化で用いられる電圧に比べてかなり大きな値とすることもできる。本実施形態の場合、被処理水の導電率が低いので、このように大きな電圧を印加したからといって、第1電極12及び第2電極13を介して被処理水に大きな電流が流れるわけではない。もちろん、直流電圧は、150Vよりも大きな例えば200Vとしてよいし、あるいは150Vよりも小さな例えば50Vや10Vとすることもできる。
【0026】
紫外線光源11は、有機物を分解し、かつ光触媒を活性化するために必要な波長領域の光を放出するランプであれば特に制限はなく、少なくとも100nm〜380nmの紫外線を放出するランプであることが好ましい。例えば、波長254nmの紫外線を発する低圧紫外線ランプ、波長254nmと185nmの紫外線を発する低圧紫外線ランプ、発光ダイオード等を1本または複数本使用することができる。
【0027】
次に、本実施形態の水処理装置の作用について説明する。
【0028】
有機物分解装置1に被処理水を通水し、紫外線光源11からの紫外線を第1電極12に照射することにより、第1電極12の光触媒の表面にホール(h+)と電子(e-)が生じる。ここで第1電極12側が正になるように第1電極12と第2電極13の間に直流電圧を印加すると、光触媒の表面のホールと電子とが分離し、電子は外部回路(電源装置14)を介して第2電極13に到達する。光触媒で生じたホールは、被処理水中に、強力な酸化力を有するヒドロキシルラジカルを生じさせる。またホール自身も強い酸化力を有するため、これらのホールおよびヒドロキシルラジカルによって被処理水中の有機物が酸化されて二酸化炭素及び有機酸となる。一方、第2電極13に到達した電子は、被処理水中に存在する酸素や過酸化物もしくは水素イオン等の物質を還元することで消費され、これにより、光触媒上でのホールと電子との再結合が防止される。第1電極の光触媒により有機物が酸化されて生成された二酸化炭素及び有機酸は、処理水とともに有機物分解装置1から排出されてイオン交換装置2に供給され、イオン交換によって除去される。
【0029】
本実施形態においては、被処理水は電解質をほとんど含まなくて導電率が非常に小さく、また、TOCも低濃度であるとしている。このような系では、従来技術によれば、導電率が非常に小さいため電圧を印加しても電流は流れず、したがって電解酸化反応を含めて有機物の酸化反応は促進されない、と考えられてきた。しかしながら本発明者が検討したところによれば、電解質濃度が極めて低い純水中の場合であっても、電極表面での酸化還元反応によって電流が流れ、有機物の酸化分解反応が進行するものと考えられる。
【0030】
本実施形態では、透水性を有するように貫通する孔部を有して光触媒が担持された第1電極12を用い、被処理水の全量が第1電極12を透過するように構成しているので、従来のバッチ式あるいは循環式の酸化処理装置と比べ、被処理水と光触媒との接触面積を大幅に増加させることができ、その結果、TOC成分が極微量にまで低減された高品質な純水を連続して得られるようになる。また以下の実施例から明らかになるように、有機物分解装置1のフローセル10内での通水方向を第2電極13から第1電極12への方向とするにより、一旦は酸化分解された物質の再還元を防止することができるため、TOCの分解除去効率とエネルギーの利用効率とを向上させることができる。
【0031】
以上、本発明の第1の実施形態の有機物分解装置を説明したが、本発明に基づく有機物分解装置としては、さまざまな形態のものが考えられる。
【0032】
図3は、本発明の第2の実施形態の有機物分解装置を示している。図3に示すものは、図2に示す第1の実施形態のものと同様のものであるが、紫外線光源11および紫外線光源11を保護するための石英管30をフローセル10内に設けている点で、図2に示したものと相違する。紫外線光源11および石英管30をフローセル10内に設けたことにより、フローセル10の一部を石英ガラス窓で構成する必要はない。図3に示したものでは、第1電極12を挟んで第2電極13とは反対側になる位置に紫外線光源11を設け、紫外線光源11からの紫外線が第1電極12に担持された光触媒に照射されるようにしている。紫外線光源11の位置はこれに限られるものではなく、例えば、第1電極12と第2電極13とに挟まれた領域内とすることもできる。
【0033】
図4は、本発明の第3の実施形態の有機物分解装置を示している。図4に示した有機物分解装置は、図3に示した有機物分解装置において第2電極が配置されている位置に仕切板21が設けられた反応容器20を使用したものである。仕切板21には、接続口15と接続口16との間で被処理水が流通するように、開口部22が設けられている。開口部22は、仕切板21において接続口15から最も遠くなる位置に設けられている。また、開口部22と接続口16との間で被処理水が一様に第1電極12を通過するように、接続口16の位置は、図3に示したものと比べ、開口部22から最も遠くなるように変更されている。接続口15から仕切板21の開口部までの領域は被処理水が流れる流路部となっており、この流路部の側壁に第2電極13が設けられている。この構成では、第2電極13の表面に常に被処理水の流れが生じており、第1乃至第2の実施形態の場合と同様に、被処理水中の有機物を分解する反応が進行する。なお図4に示したものでは、反応容器20内に仕切板21を配置して第1電極12の配置領域と第2電極13の配置領域を分離しているが、第1電極12と第2電極13とを同一の反応容器内に設ける必要はなく、例えば、第1電極12を設ける反応容器と第2電極13を設ける反応容器とを独立して設け、両方の反応容器間を配管で接続するようにしてもよい。
【0034】
図5(a),(b)は本発明の第4の実施形態の有機物分解装置を示している。第4の実施形態の有機物分解装置は、円筒形状の反応容器23を用いるものである。反応容器23内において、その中心軸に沿って紫外線光源11および紫外線光源11を保護するための石英管30が配置され、紫外線光源11および石英管30を取り囲むように、円筒形に形成された透水性の第1電極12が配置されている。紫外線光源11からの紫外線は、第1電極12に照射される。第2電極13は、反応容器23の内側面に設けられている。この構成では、例えば反応容器23の一端側P1から反応容器23内に入った被処理水は、第2電極13の表面に沿って流れて第1電極12を通過し、他端側P2から排出されることになる。この構成においても第1乃至第3の実施形態の場合と同様に、被処理水中の有機物を分解する反応が進行する。
【0035】
図6(a)〜(c)は、本発明の第5の実施形態の有機物分解装置を示している。第4の実施形態では反応容器内で同軸に第1電極12及び第2電極13を配置しているが、この第5の実施形態では、円筒形状の反応容器24内において、その長手方向に沿って第1電極12と第2電極13とを配置している。反応容器24がその長手方向に沿って第1部分Q1及び第2部分Q2からなるとすると、第1部分Q1での断面が図6(b)に示され、第2部分Q2での断面が図6(c)に示されている。第1部分Q1においては、非通水性の材料からなる円筒形状あるいは円柱形状の第2電極13が設けられている。また第2部分Q2においては、その中心軸に沿って紫外線光源11および紫外線光源11を保護するための石英管30が配置され、紫外線光源11および石英管30を取り囲むように、円筒形に形成された透水性の第1電極12が配置されている。紫外線光源11からの紫外線は、第1電極12に照射される。この構成では、例えば反応容器24の第1部分Q1側の端部から反応容器24内に入った被処理水は、第2電極13と反応容器24の内側面との間に形成される流路を経て、第2部分Q2に入り、第1電極12を通過して中心軸側に移行し、第2部分Q2側の端部から排出されることになる。このとき、被処理水は第2電極13の表面を流れることになる。この構成においても第1乃至第4の実施形態の場合と同様に、被処理水中の有機物を分解する反応が進行する。なお図6(a)〜(c)に示したものでは、反応容器24の第1部分Q1と第2部分Q2とが連続して配置されているが、第2電極13を有する第1部分Q1と第1電極12を有する第2部分Q2とが離れて配置されるようにしてもよい。
【実施例】
【0036】
次に、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0037】
〈実施例1〉
図1に示す構成の水処理装置を組み立てた。有機物分解装置1としては、第1の実施形態に示したものであって、上面の石英ガラス窓を除いてPFA(四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体)からなる角型のものを用いた。その内径は35×35mmであり、高さは40mmであった。第1電極12として、板状のチタン多孔質体に、CVD法によって酸化チタン(TiO2)触媒を担持させたものを用い、第2電極13として、透水性のステンレス鋼(SUS316)製フィルタを用いた。有機物分解装置1において、上部から1cmの位置に第1電極12を配置し、上部から2cmの位置に第2電極13を配置した。
【0038】
イオン交換装置2としては、PFA製の円筒容器(内径12mm、高さ100mm)を有し、この容器内に混床のイオン交換樹脂を5ml(層高44mm)充填したものを用いた。紫外線光源11としては、波長254nm、光出力6mW/cm2の低圧紫外線ランプ(消費電力18W)を使用した。
【0039】
被処理水として、初期TOC濃度が10μg/Lとなるようにメタノールを超純水で希釈したものを用いた。この被処理水の抵抗率は17MΩ・cmであった。ここで使用した超純水の品質は、抵抗率が18MΩ・cm以上、TOCが1μg/L以下、溶存酸素(DO)が10μg/L、過酸化水素(H22)濃度が15μg/Lであった。ここで過酸化水素は、純水を製造する過程で生成したものである。
【0040】
有機物分解装置1のフローセル10内で被処理水が第2電極13から第1電極12に向かって流れるように(図2において実線の矢印の向き)、有機物分解装置1に被処理水を供給し、紫外線光源11から紫外線を照射した。被処理水の通水量は、イオン交換装置2における処理量がSV35hr-1(SVは、単位時間当たり、体積基準でイオン交換樹脂に対して何倍の水が流れるかを示す)となるようにした。その結果、処理水量は、0.18L/hrとなる。このような条件において、第1電極12と第2電極13との間に印加電圧を0Vと150Vとし、それぞれの場合においてイオン交換装置2の直後のイオン交換処理水のTOC濃度を測定した。あわせて、電源装置14から電極に供給される電流も測定した。結果を表1に示す。表1において、電流と印加電圧との積を消費電力とした。
【0041】
表1に示されるように、電圧を印加しない場合においても処理水のTOC濃度の低下が見られたが、電圧を印加することにより、TOC分解がより促進されることが分かった。
【0042】
〈実施例2〉
有機物分解装置1のフローセル10における被処理水の通水方向が第1電極12から第2電極13に向かうようにしたことを除いて、実施例1と同様の条件で実験を行った。このときの通水方向は、図2において破線の矢印で示す方向である。結果を表1に示す。
【0043】
この結果より、通水方向を第1電極12から第2電極13に向かう方向としても、電圧を印加することにより、光触媒を用いたTOCの分解が促進されることが分かった。ただし、実施例1の結果と比較すると、イオン交換処理水に残存するTOC量が多く、TOCの分解率が低下している。また、消費電力も増加しており、加えられたエネルギーが有効に利用されていないことになる。これらは、被処理水の流れが第1電極12から第2電極13に向かっているために、第1電極12で一旦酸化された有機物が第2電極13において再び還元されることで、この再還元に伴う酸化還元電流が流れるとともに、TOCの分解率の低下につながっているためと考えられる。
【0044】
〈比較例1〉
実施例1での第1電極12の代わりに表面に光触媒が担持されていないチタン多孔質体を用いることを除いて、実施例1と同様の条件で実験を行った。結果を表1に示す。
【0045】
この結果より、光触媒を担持していないチタン多孔質体を用いた場合には、TOCの分解反応が進行しないことが分かった。
【0046】
〈比較例2〉
光触媒を担持した第1電極12に対して紫外線を照射しないことを除いて、実施例1と同様の条件で実験を行った。結果を表1に示す。
【0047】
この結果より、導電率が低くそもそものTOC濃度も低い純水においては、電圧を印加しても紫外線の照射なしにはTOCの分解反応が進行しないことが分かった。
【0048】
【表1】

【0049】
以上の結果により、本発明に基づく実施例によれば、抵抗率が17MΩ・cmといった非常に導電性の低い純水中であっても、光触媒に紫外線を照射することによって、電解質等を注入することなしにTOC成分の分解除去効率を大幅に向上できることが分かった。従来は、非常に導電性の低い純水では、電流がほとんど流れないために電圧を印加してもTOCの除去が促進されることはない、と考えられていたが、上述の結果からは、紫外線を照射しつつ光触媒を担持した電極が正になるようにして電圧を印加することにより、純水であってもTOC成分の分解除去効率がさらに向上することが分かった。
【0050】
実施例1と実施例2を比較すると、有機物分解装置1のフローセル10内での通水方向を第2電極13から光触媒が担持された第1電極12への方向とするにより、一旦は酸化分解された物質の再還元を防止することができるため、TOCの分解除去効率とエネルギーの利用効率とが向上することが分かる。
【符号の説明】
【0051】
1 有機物分解装置
2 イオン交換装置
10 フローセル
11 紫外線光源
12 第1電極
13 第2電極
14 電源装置
15,16 接続口
17 石英ガラス窓
18,19 導線
20,23,24 反応容器
21 仕切板
22 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中に含まれる有機物を酸化分解する有機物分解装置であって、
反応容器と、
前記反応容器内に配置され、透水性を有するように貫通する孔部を有し、光触媒が担持された第1電極と、
前記第1電極に対をなし前記被処理水の流れに接するように配置された第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記第1電極に対して紫外線を照射する紫外線照射手段と、
を備え、前記被処理水が前記第1電極を透過するように前記反応容器内を前記被処理水が流れるようにした、有機物分解装置。
【請求項2】
前記光触媒は酸化チタン光触媒であり、前記第1電極はチタンによって形成されている、請求項1に記載の有機物分解装置。
【請求項3】
電気抵抗率が1MΩ・cm以上でありかつ全有機炭素濃度が100ppb未満である被処理水が前記反応容器に供給される、請求項1または2に記載の有機物分解装置。
【請求項4】
前記反応容器における前記被処理水の流れの方向を前記第2電極が設けられている位置から前記第1電極に向かう方向とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機物分解装置。
【請求項5】
前記第2電極は前記反応容器内に配置され、
前記電圧印加手段は、前記第1電極が正、前記第2電極が負となるように前記電圧を印加する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機物分解装置。
【請求項6】
被処理水中に含まれる有機物を酸化分解する有機物分解方法であって、
反応容器内に配置され透水性を有するように貫通する孔部を有し光触媒が担持された第1電極と、前記第1電極に対をなし前記被処理水の流れに接するように配置された第2電極とを使用することと、
前記被処理水が前記第1電極を透過して前記反応容器内を流れるように前記反応容器に前記被処理水を供給しつつ、前記第1電極に紫外線を照射することと、
を有する有機物分解方法。
【請求項7】
前記第1電極が正、前記第2電極が負となるように、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加することを有し、前記第2電極は前記反応容器内配置されている、請求項5に記載の有機物分解方法。
【請求項8】
前記光触媒は酸化チタン光触媒であり、前記第1電極はチタンによって形成されている、請求項6または7に記載の有機物分解方法。
【請求項9】
電気抵抗率が1MΩ・cm以上でありかつ全有機炭素濃度が100ppb未満である被処理水を前記反応容器に供給する、請求項6乃至8のいずれか1項に記載の有機物分解方法。
【請求項10】
前記反応容器における前記被処理水の流れの方向を前記第2電極が設けられている位置から前記第1電極に向かう方向とする、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の有機物分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−120967(P2011−120967A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278401(P2009−278401)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】