説明

紙カード基材

【課題】本発明は、紙カード基材等の表面平滑性が低く、熱転写シートからの転写層が接着しにくい被転写体に対し、熱転写の際の転写性、再現性に優れ、かつ廃棄における環境上の問題も解消すると共に、耐性の向上を図り得るようにした紙カード基材を提供すること目的とする。
【解決手段】昇華染料間接転写方式カードプリンターにより印刷される紙コアカード基材2の表面にコート層1を設けて紙カード基材5を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華染料間接転写方式カードプリンター用基材であって、高品質な印刷を可能とする紙カード基材に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、昇華染料間接転写方式カードプリンターによる人物写真画像入りカード及び画像入りカード製造方法、さらに詳しくはキャッシュカード、クレジットカードあるいは運転免許証、社員証、学生証等の各種証明証において人物写真により本人を確認できる画像入りカード及び画像入りカード製造方法がある。
【0003】
従来、この種のカード製造においては、顔料や染料等の着色剤を熱溶融性のワックスや樹脂等のバインダーに分散させた染料受像層を、プラスチックフィルム等の基材シートに担持させた熱転写シートを用いて、サーマルヘッド等の加熱デバイスにより画像情報に応じたエネルギーを印加し、プラスチックカードなどの受像シート上に着色剤をバインダーとともに転写する昇華染料間接転写方式カードプリンターが知られている(特許文献1参照)。この昇華染料間接転写方式カードプリンターによって形成される印字画像は、高濃度で鮮鋭性に優れ、文字、線画等の2値画像の記録に適している。
【0004】
また、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック等の着色層を有する熱転写シートを用いて、受像シート上に各着色層を重ねて印字記録することで、減色混合により多色ないしフルカラー画像の形成も可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4―232784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の紙カード基材では、プラスチックカードに、塩素が含まれているので、焼却時に塩化水素ガスが発生し、酸性雨やダイオキシンの生じる要因になる恐れがあり、環境上、問題になっている。
【0007】
そこで、上記のような課題を解決するために、本発明は、紙カード基材等の表面平滑性が低く、熱転写シートからの転写層が接着しにくい被転写体に対し、熱転写の際の転写性、再現性に優れ、かつ廃棄における環境上の
問題も解消した紙カード基材を提供することを目的とする。また、紙カード基材にカードプリンターで印字後、表面にセロテープ(登録商標)を密着させ剥離を行なった際、紙剥けが起こってしまう。このような耐性面の改良が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、紙コアカード基材の表面にコート層を具備して紙カード基材を構成した。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記コート層を、印刷される紙コアカード基材の体積に対して、1%〜3%の範囲内に設けることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記コート層中に、少なくとも質量平均分子量15000以上20000以下であり、かつガラス転移温度が60℃以上90℃以下であるポリエステル樹脂で構成したことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記コート層を設けるために、インキの固形成分が25%から35%の範囲内に設定されて製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、煩雑な製造工程をせずに、高品質な印刷を可能とするカード基材を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る紙カード基材の要部を示した断面図である。
【図2】図1のコート層上に熱転写シートを転写する過程を説明するために示した断面図である。
【図3】図1のコート層上に熱転写シートを転写した状態を示した断面図である。
【図4】図3の熱転写シート上をセロテープを用いて剥離させたときの紙剥け状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態を示すもので、紙カード基材5は、コート層1と、紙コアカード基材2が積層されて形成される。コート層1は、例えば塗工機によって設けられ、紙コアカード基材2にコート層1のインキが浸透し表面を平滑にさせる効果と含浸させる効果を持たせている。
【0016】
印刷機は、グラビア印刷機、スクリーン印刷機、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーターなどを用いて塗工することができ、コート層1は、紙コアカード基材5の体積に対して、1%〜3%(8.8μ〜2.4μ)の範囲内に設けられていること。固形分が25%〜35%の範囲内のインキが設けられていること。コート層1の材料は、ポリエステルを含む樹脂であることを特徴としている。
【0017】
紙コアカード基材2の体積に対して、1%未満のコート層1を設けた場合、紙コアカード基材2の紙の内部までインキが浸透せず、紙を含浸させる効果が足りない。一方、3%を越えてコート層1を設けた場合、接触式IDカードの磁気テープ出力を著しく低下させてしまう。
【0018】
固形分が36%以上の場合には、インキ粘度が高すぎるため、紙コアカード基材2に浸透せず紙目を含浸させることができない。また、固形分が24%以下の場合には、インキ粘度が低すぎることによって、紙コアカード基材2の紙目を潰して平滑にすることができない。
【0019】
コート層1の材料であるポリエステルを含む樹脂は、後述する染料受像層4(図4及び図3参照)とコート層1との密着および紙コアカード基材2の紙の繊維を含浸させる効果がある。また、少なくとも質量平均分子量15000以上20000以下であり、かつガラス転移温度が60℃以上90℃以下であるポリエステル樹脂から構成したことを特徴とする。
【0020】
染料受像層4は、サーマルヘッド等からの加熱により、溶融あるいは軟化して、被転写体へ転写して着色された文字や画像等を再現させるものである。着色インキ層は、着色剤とバインダーと、必要に応じて可塑剤、界面活性剤、滑剤、流動性調整剤等の助剤を加え、溶媒に溶解または分散させた塗工液を、従来公知のホットメルトコート、ホットラッカーコート、グラビアダイレクトコート、グラビアリバースコート、ナイフコート、エアコート、ロールコート等の方法により、基材上に乾燥状態で厚さ0.1〜5g/m2程度、好ましくは0.3〜1.5g/m2を設けるものである。乾燥塗膜の厚さが、0.1g/m2未満の場合、成膜性の問題で均一な着色インキ層が得られず、また、厚さが5g/m2を越えた場合、印字転写の際に、高エネルギーが必要となり、特殊な熱転写プリンターでしか印字できない問題がある。
【0021】
着色剤としては、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、ホワイトなどの各着色剤が、従来公知の染料、顔料より適宜選択可能である。着色層に用いるバインダーは、樹脂を主体として構成することが好ましく、樹脂として具体的には、セルロース系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエンゴム等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。バインダーとして用いられる樹脂のなかでも、特に転写性、耐擦過性、耐熱性等の点で、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が、好ましく用いられる。その他、必要に応じて、耐熱性等を阻害しない程度に、ワックス成分を混合し使用することができる。
【0022】
ワックスとしては、例えば、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス等がある。更に、フィッシャートロプシュワックス、各種低分子量ポリエチレン、木ロウ、ミツロウ、鯨ロウ、イボタロウ、羊毛ロウ、セラックワックス、キャンデリラワックス、ペトロラクタム、ポリエステルワックス、一部変性ワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等、種々のワックスが挙げられる。このなかで、特に融点が50〜85℃であるものが好ましい。50℃以下であると、保存性に問題が生じ、又85℃以上であると印字の感度不足になる。上記の着色インキ層は、着色剤20〜70質量%、バインダー80〜30質量%の割合で混合したインキ組成物を使用することが好ましい。着色剤が上記の範囲より少ない場合、濃度を得るために、塗布量を多くしなくてはならず、印字感度が不足する。また、着色剤が上記の範囲より多い場合、成膜性が得られず、印字後に、耐擦過性の低下の原因になる。
【0023】
また、図2及び図3に示すように、主に、IDカード向けに鮮明なカラー画像および顔写真の印刷を目的とし、昇華染料間接転写方式カードプリンターを用いて、熱転写シート6を紙カード基材5に転写したとき、熱転写シート6と紙カード基材5が密着しているCP印字紙カード基材7である。オーバーコート3は、昇華染料間接転写方式を利用し、予め形成した熱転写画像の上に、透明な保護層を転写して、耐擦過性や耐溶剤性等の耐久性を向上させている。
【0024】
オーバーコート3は、熱転写シート6の基材上に設ける転写層の一部として、透明な保護層であり、耐水性等の耐久性向上に寄与するものである。このオーバーコート3は、従来から保護層形成用樹脂として知られている各種の樹脂で形成することができる。保護層形成用樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂として、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、これらの各樹脂をシリコーン変性させた樹脂、これらの各樹脂の混合物や、電離放射線硬化性樹脂、紫外線遮断性樹脂等を例示することができる。このほかに必要に応じて、紫外線吸収剤、有機フィラー及び/又は無機フィラーを適宜添加することができる。
【0025】
例えば図4に示すように、CP印字紙カード基材7の表面にセロテープ8を密着させ剥離させたとき、コート層1が紙コアカード基材2に十分浸透しないことによって、紙コアカード基材2の紙の繊維部を凝集破壊させて紙剥け9が生じている。
【0026】
この剥離に使用したセロテープ8は、ニチバン(株)製の24mm幅のCT―24を使用している。
【0027】
次に、実施例をあげて本発明について具体的に説明する。
【0028】
(実施例1)
厚紙(北越製紙(株)製)を紙コアカード基材2として、紙コアカード基材2にバーコーターで塗工厚み3μm、6μm、12μmの水準のコート層1を塗工し、紙カード基材5を設けた。
【0029】
<1コート層(固形分37%)>
バイロン245(東洋紡(株)製) 27部
ST200(エボニック デグサ ジャパン(株)製) 3部
トルエン 74部
シクロヘキサノン 7部
<2コート層(固形分30%)>
バイロン245(東洋紡(株)製) 27部
ST200(エボニック デグサ ジャパン(株)製) 3部
トルエン 63部
シクロヘキサノン 7部
<3コート層(固形分20%)>
バイロン245(東洋紡(株)製) 27部
ST200(エボニック デグサ ジャパン(株)製) 3部
トルエン 143部
シクロヘキサノン 7部
<4コート層(固形分10%)>
バイロン245(東洋紡(株)製) 27部
ST200(エボニック デグサ ジャパン(株)製) 3部
トルエン 293部
シクロヘキサノン 7部
昇華染料間接転写方式カードプリンター(CP400、凸版印刷(株)製)を用いて、紙コアカード基材2に転写を行なった後、表面にセロテープ8を密着させ剥離試験を行った。
【0030】
<面状態評価>
3:印刷した面の紙目が目視にて認められない。
【0031】
2:印刷した面の紙目が目視にて一部認められる。
【0032】
1:印刷した面の紙目が目視にて認められる。
【0033】
<セロテープ剥離強度評価>
3:剥がしたテープ側には、紙剥けがあるとは目視にて認められない
2:剥がしたテープ側には、紙剥けが有ることが、一部目視にて認められる。
【0034】
1:剥がしたテープ側には、紙剥けが有ることが、目視にて認められる。
【0035】
上記実施例1の1〜4コート層の評価結果を、表1に示す。
【表1】

【0036】
この表1により、NV30%の6μm、12μmの塗工厚みの実施例は、面状態評価及びセロテープ剥離強度評価において剥がしたテープ側には、紙剥けがあるとは目視にて認められなく、熱転写シートが紙カード基材に優れた転写性を示し、紙を含浸させ、紙剥けを防止した。
【0037】
(比較例1)
表1により、NV30%の6μm、12μmの塗工厚み以外の比較例は、面状態評価では、印刷した面の紙目が目視にて認められる。または、印刷した面の紙目が目視にて一部認められる結果を示していた。セロテープ剥離強度評価では、剥がしたテープ側には、紙剥けが有ることが、目視にて認められる。または、剥がしたテープ側には、紙剥けが有ることが、一部目視にて認められる結果を示していた。
【0038】
(実施例2)
厚紙(北越製紙(株)製)を紙コアカード基材2として、紙コアカード基材2にスクリーン印刷機でインキ固形分30%、塗工厚み4.4μm、8.8μm、12.4μmの水準のコート層1を塗工し、紙カード基材5を設けた。
【0039】
昇華染料間接転写方式カードプリンター(CP400、凸版印刷(株)製)を用いて、紙コアカード基材2に転写を行なった後、表面にセロテープ8を密着させ剥離試験を行った。
【0040】
この面状態評価は、表2に示す。
【表2】

【0041】
表2により、8.8μm以上の塗工厚みの実施例は、面状態評価及びセロテープ剥離強度評価において剥がしたテープ側には、紙剥けがあるとは目視にて認められなく、熱転写シート6が紙カード基材5に優れた転写性を示し、紙を含浸させ、紙剥けを防止した。
【0042】
(比較例2)
表2により、8.8μm以下の塗工厚みの実施例は、面状態評価では、印刷した面の紙目が目視にて認められる。または、印刷した面の紙目が目視にて一部認められる結果を示していた。セロテープ剥離強度評価では、剥がしたテープ側には、紙剥けが有ることが、目視にて認められる。または剥がしたテープ側には、紙剥け9が有ることが、一部目視にて認められる結果を示していた。
【0043】
本発明は、上記実施形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記実施形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより、種々の発明が抽出され得る。
【0044】
例えば実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0045】
1…コート層
2…紙コアカード基材
3…オーバーコート
4…染料受像層
5…紙カード基材
6…熱転写シート
7…CP印字紙カード基材
8…セロテープ
9…紙剥け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙コアカード基材の表面にコート層を具備することを特徴とする紙カード基材。
【請求項2】
前記コート層は、印刷される紙コアカード基材の体積に対して、1%〜3%の範囲内に設けることを特徴とする請求項1に記載の紙カード基材。
【請求項3】
前記コート層中に、少なくとも質量平均分子量15000以上20000以下であり、かつガラス転移温度が60℃以上90℃以下であるポリエステル樹脂で構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の紙カード基材。
【請求項4】
前記コート層を設けるために、インキの固形成分が25%から35%の範囲内に設定されて製造されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の紙カード基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−107262(P2013−107262A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253675(P2011−253675)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】