説明

紫外線発光材料薄膜の製造方法

【課題】高い強度で紫外線発光を示す酸化亜鉛系材料の薄膜を製造する方法を提供する。
【解決手段】主成分として亜鉛と酸素、ならびに副成分としてアルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む組成物の薄膜に、非酸化性雰囲気下で800℃以上1100℃以下の温度で第一段階目の熱処理を施す工程、および前記工程で熱処理した薄膜に、酸化亜鉛と酸化ガリウムおよび/または酸化リンとが共存する非酸化性雰囲気下で700℃以上1000℃以下の温度で第二段階目の熱処理を施す工程を有する紫外線発光材料薄膜の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光強度の高い、酸化亜鉛を主成分とする紫外線発光材料薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光センサー、樹脂硬化用や光触媒用励起光源、ディスプレイ、照明等に紫外線発光ダイオード(UV−LED)が広く用いられている。
【0003】
樹脂硬化用光源は、塗料、印刷インク、接着剤等の硬化用途や、電子回路をはじめとする様々な製品の保護コーティング用途に採用されつつある。以前のUV−LEDは光量不足から樹脂が充分に硬化しないと言うことで見送られる場合が多かったが、現在では光源の出力も大幅に向上しており、長寿命で光量のバラつきが少なく、温度や熱をコントロールしやすいことから、広く採用されている。
【0004】
また、光触媒反応を利用した光源では、空気清浄機や水質浄化装置向け、外壁の酸化チタンコーティング向けの光源などがある。酸化チタンにUV−LED光を照射し、酸化還元反応によって有機物を分解させることで、殺菌・浄化などの作用をもたらし、外壁などの汚れも分解する。
【0005】
そして、照明用としては、白色照明がある。現在は、青色LEDと黄色の蛍光体を組み合わせた擬似白色が主流である。しかし、赤色の成分が少ないために、自然な白色にならないという課題が残る。現在、演色性を高める方法として、UV−LEDに赤・青・緑の蛍光体を用いる方法があり、より自然の白色に近い照明が実現できる。この方法を用い、ディスプレイへの応用にも開発が進められている。
【0006】
UV−LEDの高出力化とともに、用途も拡大し、現在では、さらなる高出力・短波長化の開発が各研究機関にて行われている。
【0007】
このようなUV−LEDの材料として、窒化ガリウムを主成分とする素子が実用化されている。窒化ガリウムは、サファイア基板上にMOCVDなどの成膜方法で、まず結晶性の低いバッファ層を設け、その上にエピタキシャル成長させた単結晶層を成膜するというプロセスが有効であり、UV−LEDだけでなく、青色LEDとして広く実用化されてきた。しかし、これらを照明やディスプレイとして使用するためには、大面積化が必用であり、現状の成膜プロセスでは大面積化が難しい。大面積な成膜が比較的容易なスパッタリングプロセスでの成膜も検討されているが、窒化物のエピタキシャル成長を均一に行うことはきわめて難しい。
【0008】
一方、酸化亜鉛を主成分とする半導体は、ITOの代替材料として、各研究機関において盛んに研究開発がなされている。酸化亜鉛を主成分とする半導体は、透明導電性膜としての用途だけではなく、その広いバンドギャップから、紫外線発光の候補材料として期待されている。酸化亜鉛は、スパッタリングなどの大面積対応プロセスにも適用できる。
【0009】
例えば特許文献1には、酸化亜鉛を主成分として、亜鉛および酸素以外の添加元素種Xを1種類以上含み、添加元素種X単体であって、添加元素種Xの酸化物ではないことを特徴とするスパッタリングターゲットおよびそれを用いた薄膜が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−263709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記のスパッタリングターゲットを用いて酸化亜鉛系材料の成膜を行っただけでは、充分な紫外線発光強度が得られないという課題があった。
【0012】
そこで本発明は、高い強度で紫外線発光を示す酸化亜鉛系材料の薄膜を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、主成分として亜鉛と酸素、ならびに副成分としてアルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む組成物の薄膜に、非酸化性雰囲気下で800℃以上1100℃以下の温度で第一段階目の熱処理を施す工程、および
前記工程で熱処理した薄膜に、酸化亜鉛と酸化ガリウムおよび/または酸化リンとが共存する非酸化性雰囲気下で700℃以上1000℃以下の温度で第二段階目の熱処理を施す工程を有する紫外線発光材料薄膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、紫外線発光を大幅に増大させた酸化亜鉛系発光薄膜材料を提供することが可能となる。また、本発明によって作製した薄膜材料はn型伝導性を示し、可視光を透過させるため、発光素子や透明導電性材料としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】比較例のサンプル1、6および8ならびに実施例のサンプル11の励起波長350nmでの紫外線発光スペクトルである。
【図2】第一段階目と第二段階目の熱処理を行った実施例のサンプルと第一段階目の熱処理のみを行った比較例のサンプルの紫外線発光強度を第一段階目の熱処理温度に対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態および実施例を説明するが、本発明はこれらの形式に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲で実施することができる。
【0017】
本発明の一つの実施の形態は、主成分として亜鉛と酸素、ならびに副成分としてアルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む組成物の薄膜に、非酸化性雰囲気下で800℃以上1100℃以下の温度で第一段階目の熱処理を施す工程、および
前記工程で熱処理した薄膜に、酸化亜鉛と酸化ガリウムおよび/または酸化リンとが共存する非酸化性雰囲気下で700℃以上1000℃以下の温度で第二段階目の熱処理を施す工程を有する紫外線発光材料薄膜の製造方法である。
【0018】
当該実施の形態の好ましい一態様では、前記組成物が、副成分としてさらにリンを含む。
【0019】
当該実施の形態の好ましい一態様では、前記第一段階目の熱処理温度が、900℃以上1000℃以下である。
【0020】
当該実施の形態の好ましい一態様では、前記第二段階目の熱処理温度が、750℃以上850℃以下である。
【0021】
当該実施の形態の好ましい一態様では、前記第二段階目の熱処理の雰囲気が、還元性雰囲気である。
【0022】
当該実施の形態の好ましい一態様では、前記雰囲気が、水素濃度が0.5体積%以上4体積%未満の還元性雰囲気である。
【0023】
当該実施の形態の好ましい一態様では、前記組成物の薄膜が、スパッタリング法により形成されたものである。
【0024】
本願発明者等は、通常のZnOに、種々の元素を単独で、あるいは複合添加した薄膜を、種々の条件下で熱処理してその発光特性を評価した結果、薄膜単独でまず一度特定条件下で熱処理を行い、さらに特定の物質を共存させて特定条件下で熱処理する事により、紫外線発光(400nm以下の発光)強度が大幅に高められた酸化亜鉛系材料薄膜が得られる事を見出した。
【0025】
まず、本発明に用いられる組成物の薄膜について説明する。
【0026】
本発明に用いられる薄膜の組成物に必要とされる副成分は、アルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である。当該副成分が存在すると、酸化亜鉛の緑色発光が抑制され、紫外域発光が改善される。また、これらの副成分が存在すると、酸化亜鉛の電気抵抗率が低下し、n型導電性を示すようになる。これは、酸化亜鉛の2価の亜鉛のサイトが3価のアルミニウム、ガリウム、インジウムにより置換される事によって、伝導体直下の禁制帯中にドナーレベルが形成されるためと考えられる。従って、アルミニウム、ガリウム、インジウムは亜鉛を置換する必要があり、単なる混合物では、紫外線発光強度改善の効果も認められない。
【0027】
これらの3種類の中で、亜鉛を最も置換しやすいのはガリウムであり、アルミニウムやインジウムは置換しにくい。従って、効果の最も現れやすいのはガリウムであり、特性面からはガリウムが最も望ましい。一方、コスト面からは、アルミニウムが最も安価であり、ガリウムやインジウムは、アルミニウムに比べて希少で高価である。よってコスト面ではアルミニウムが最も望ましい。ガリウムやアルミニウムに比較すると、インジウムを用いる事は、メリットが少ない。
【0028】
以上の副成分に併用されて、さらに、紫外線発光強度を向上させるのが、第二の副成分のリンである。リンの発光強度改善のメカニズムは明らかではないが、リン単独の添加では強度改善の効果がほとんど認められないこと、リンの添加によって、アルミニウム、ガリウム、インジウムのZnサイトへの置換が促進される傾向が認められることから、アルミニウム、ガリウム、インジウムがZnのサイトを置換する事によって生じる電気的中性のくずれを、リンが陰イオンとしてZnOの酸素サイトに置換する事により防ぎ、結果として、アルミニウム、ガリウム、インジウムの置換を促進し、紫外線発光強度が向上するものと考えられる。
【0029】
本発明は、酸化亜鉛系材料の薄膜の紫外線発光強度を改善するものであるから、主成分は亜鉛と酸素である必要がある。ここで組成物が主成分として亜鉛を含むとは、亜鉛が陽イオン成分元素中の80%以上、より望ましくは90%以上である事をさし、組成物が主成分として酸素を含むとは、酸素が陰イオン成分元素中の80%以上、より望ましくは90%以上である事をさす。副成分であるアルミニウム、ガリウム、インジウムの望ましい合計量は、亜鉛に対して0.03at%以上3.0at%以下である。これは、0.03at%以下ではその効果が顕著ではなく、3.0at%以上用いても、さらなる発光強度向上が認められず、無駄となるためである。しかし、0.03at%未満でも、3.0at%を超えても、用いないよりは発光強度は高い。
【0030】
リンの望ましい量も亜鉛に対して0.03at%以上3.0at%以下であり、この範囲が好ましい理由も同様である。
【0031】
なお、本発明に用いられる薄膜の組成物は、亜鉛および酸素と、上述した1種類以上の副成分を含めば良いが、その特性を損なわない範囲内で、他の成分を含む事も可能である。例えば酸化マグネシウムは、酸化亜鉛に少量固溶し、そのバンドギャップを大きくする(すなわち、発光波長を短波長側にシフトさせる)効果があるが、この酸化亜鉛−酸化マグネシウム固溶系に対しても、上述の1種類以上の副成分を用いる事によって、緑色発光を抑制し、紫外線発光強度を改善する効果がある。したがって本発明に用いられる薄膜の組成物は、亜鉛の一部に代えてマグネシウムを含んでいてもよく、このとき、組成物は、亜鉛とマグネシウムを合わせた陽イオン成分が、主成分となる。
【0032】
本発明に用いられる薄膜の厚さは、例えば、1μm以下であり、好ましくは100nm以下である。
【0033】
本発明に用いられる薄膜の形成方法には特に制限はなく、例えば、スパッタリング法、蒸着法(例、電子ビーム蒸着法、分子線エピタキシー法)、気相成長法(例、有機金属気相成長法)等により形成することができる。中でも、薄膜を大面積で製造可能であり、ターゲットの組成と薄膜の組成とのずれが少ないことから、スパッタリング法により薄膜を形成することが有利である。
【0034】
スパッタリング法により薄膜を得る方法について以下説明する。
【0035】
ターゲットとしては、薄膜を構成する組成物の組成に応じたものを用いることができる。具体的には、主成分として亜鉛と酸素、ならびに副成分としてアルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、場合によりリンを含む組成物をターゲットに用いることができる。また、酸化亜鉛と、アルミニウム化合物、ガリウム化合物およびインジウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(特に酸化物)と、場合によりリン化合物とを含む混合物をターゲットに用いることもできる。ターゲット中の各元素の量については前述の通りである。
【0036】
ターゲットの形状は特に制限はなく、例えば、直径12mm、厚さ1mmの円盤状であってよい。
【0037】
このようなターゲットを用いて、スパッタリング装置により、基板上に薄膜を形成する。基板には、石英基板等を用いることができる。
【0038】
スパッタリング条件としては、酸化亜鉛の薄膜をスパッタリング法で形成する際の公知のスパッタリング条件を採用すればよい。
【0039】
次に第一段階目の熱処理について説明する。上記のようにして得られた酸化亜鉛を主成分とする薄膜は、酸化亜鉛単体と同様、C軸配向した柱状結晶構造をとっている。しかし、熱処理を施さない膜では、結晶粒が小さく、粒界や転位による欠陥準位が大量に存在するため、ガリウム等の副成分やリンが膜中に存在していても、紫外線発光効率はほとんど向上しない。
【0040】
これらの欠陥準位を効果的に除去するために、第一段階目の熱処理を行う。第一段階目の熱処理の条件としては、非酸化性雰囲気下で800℃以上1100℃以下である。ここで言う非酸化性雰囲気とは、酸素濃度の高い大気中などではなく、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス中であることを示す。不活性ガスであれば上記のガスのみに限定されないが、通常は窒素ガスやアルゴンガスなどの安価なガスを使用する。非酸化性雰囲気に含まれる残留酸素濃度としては100ppm以下が良く、より望ましくは10ppm以下、さらに望ましくは1ppm以下が良い。
【0041】
また、温度に関しては、温度が低すぎると結晶性の回復が充分には起こらず、紫外線の発光が大幅には向上しないおそれがあり、温度が高すぎると、酸素の脱離が顕著となり、酸素欠損による準位が形成されるため、紫外光だけではなく、可視光による発光が生じる傾向にある。そのため、熱処理温度としては900℃以上1000℃以下が好ましい。
【0042】
第一段階目の熱処理時間については、薄膜の面積や生産性等に応じて適宜決定すればよく、例えば、0.5〜5時間であり、好ましくは1〜3時間である。
【0043】
この第一段階目の熱処理を施すことにより、膜中の結晶性が向上し、結晶粒界や転位による欠陥準位が飛躍的に減少する。これは、バンドギャップ中にトラップされる電子が少なくなるため、バンド端発光(紫外線発光)する確率が上昇するためである。
【0044】
さらに、添加元素である、ガリウム等の副成分やリンの効果を向上させるために、第二段階目の熱処理工程を行う。第二段階目の熱処理は、酸化亜鉛と酸化ガリウムおよび/または酸化リンとが共存する非酸化性雰囲気下で700℃以上1000℃以下の温度で行われる。
【0045】
第二段階目の熱処理の際に共存させる物質(以下、共存物と呼ぶことがある)は、酸化亜鉛と酸化ガリウムの組み合わせ、酸化亜鉛と酸化リンの組み合わせ、および酸化亜鉛と酸化ガリウムと酸化リンの組み合わせであるが、これらのうち、発光強度の観点から酸化亜鉛と酸化ガリウムと酸化リンの組み合わせが望ましい。
【0046】
これらの共存下での熱処理によって、組成物の紫外線発光強度が向上する。その理由は必ずしも明らかではないが、
(1)組成物からのZnOの昇華・蒸発を抑制する
(2)組成物のZnOからの酸素の脱離を抑制する
(3)組成物からのP25の昇華・蒸発を抑制する
(4)系中の残留酸素の組成物への影響を低減する
などの効果が考えられる。ここで、酸化ガリウムは高価であり、酸化リンは吸湿性が高いので、酸化亜鉛を主成分として、これに少量混合して用いる事が望ましい。
【0047】
次にこれらの共存物の形態としては、粉末でも焼結体でも、どのような形態でも効果は認められるが、上記(1)〜(4)より推測できるように、その表面積が大きい事が望ましく、通常は粉末、もしくはこれを固めた成形体として用いるのが良い。
【0048】
薄膜を共存物と共に熱処理する方法としては、薄膜の近傍にこれらの共存物を置いて熱処理する、薄膜上に共存物を置いて熱処理する、共存物の粉末中に薄膜を埋設して熱処理する等が挙げられる。
【0049】
また、熱処理を周囲が開放された状態で行うと、蒸発や昇華は、より生じやすくなる。よって、熱処理は、密閉空間(例えば、気密性のある、加熱容器、加熱チャンバー、加熱炉等)内において行うことが最も効果的である。
【0050】
なお、本発明では、熱処理により酸化亜鉛、酸化ガリウム、または酸化リンに変換される化合物を使用して、熱処理中に薄膜と共存物が共存する形態であってもよい。
【0051】
次に熱処理時の非酸化性雰囲気下とは、酸素を多く含む酸化性のある大気中ではなく、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガス等の中性の雰囲気下で熱処理する事を指し、通常は安価な窒素ガス中で熱処理すれば良い。非酸化性雰囲気(特に窒素ガス)に含まれる残留酸素濃度としては100ppm以下が良く、より望ましくは10ppm以下、さらに望ましくは1ppm以下が良い。
【0052】
さらに、非酸化性雰囲気の酸素分圧を低下させるために、窒素ガス等の中性の雰囲気に水素ガスを混合して、還元性雰囲気にするのが好ましい。還元性雰囲気下で組成物を熱処理すると、より発光強度を改善する事が出来る。
【0053】
水素ガスは、窒素ガス等の中性雰囲気ガス中に残存する微量酸素の濃度を、さらに低減させるために混合する。ここで、水素ガス混合による酸素濃度の低減の度合いは、水素ガスの濃度が極端に少なくない限り、温度のみに依存するので、濃度に限定はない。しかしながら、水素ガスが大気中にもれた場合、その濃度が4体積%を越えると爆発する危険性があるため、4体積%未満とする事が望ましい。一方、水素濃度の下限は、窒素ガス等の中性雰囲気ガス中に残存する酸素量は通常僅かであるので、0.1体積%程度でも良いはずであるが、現実には、熱処理に使用する雰囲気炉内部の素材等に吸着した酸素や、炉にわずかな漏れがあって、外部から酸素が混入する場合の事を考えると、爆発限界の範囲内で、高いほうが良い。従って、好ましい酸素濃度は4%未満で出来るだけ高い方が良く、現実的には、0.5体積%以上4体積%未満が良い。
【0054】
第二段階目の熱処理温度については、700℃以上1000℃以下である。これは、熱処理温度がこの範囲外であると、その効果が顕著でなくなるためである。熱処理温度は、好ましくは750℃以上850℃以下である。
【0055】
第二段階目の熱処理時間については、薄膜の面積や生産性等に応じて適宜決定すればよく、例えば、0.5〜5時間であり、好ましくは1〜3時間である。
【0056】
このようにして得られる紫外線発光材料薄膜は、紫外線発光強度が高いものである。また、薄膜を、スパッタリング法等の大面積化が可能な成膜プロセスで形成できるため、本発明によれば、紫外線発光材料薄膜を大面積で効率良く製造することも可能である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例及び比較例においては、酸化亜鉛に原子比が亜鉛:ガリウム:リン=100:1:1となるようガリウムとリンを添加した組成物からなるターゲットを用いてスパッタリングにより石英基板上に形成した薄膜を用いた。なお、当該薄膜の組成は、ターゲットの組成と一致している。
【0059】
この薄膜に、以下に記載する熱処理を施して、実施例および比較例のサンプル(紫外線発光材料薄膜)を得た。なお、熱処理時間は、第一段階目、第二段階目共2時間であり、第二段階目の熱処理温度は775℃である。また第二段階目の熱処理は、薄膜が形成された石英基板を、酸化亜鉛、酸化ガリウムおよびリン酸水素二アンモニウムの混合粉(18g、高さ:1mm)を入れたアルミナ製坩堝(直径30mm、高さ6mm)に入れて、窒素ガス雰囲気下で、行った。なお、基板は薄膜が上を向くようにして混合粉上に置いた。
【0060】
サンプル1(比較例1): 成膜後、熱処理を施さないサンプル。
サンプル2(比較例2): 成膜後、第一段階目の熱処理を窒素ガス中で650℃で行い、第二段階目の熱処理は行わないサンプル。
サンプル3(比較例3): 成膜後、第一段階目の熱処理を窒素ガス中で800℃で行い、第二段階目の熱処理は行わないサンプル。
サンプル4(比較例4): 成膜後、第一段階目の熱処理を窒素ガス中で850℃で行い、第二段階目の熱処理は行わないサンプル。
サンプル5(比較例5): 成膜後、第一段階目の熱処理を窒素ガス中で900℃で行い、第二段階目の熱処理は行わないサンプル。
サンプル6(比較例6): 成膜後、第一段階目の熱処理を窒素ガス中で950℃で行い、第二段階目の熱処理は行わないサンプル。
サンプル7(比較例7): 成膜後、第一段階目の熱処理を窒素ガス中で1000℃で行い、第二段階目の熱処理は行わないサンプル。
サンプル8(比較例8): 成膜後、第一段階目の熱処理は行わず、第二段階目の熱処理を行ったサンプル。
サンプル9(実施例1): 成膜後、第一段階目の熱処理を窒素ガス中で800℃で行い、第二段階目の熱処理も行ったサンプル。
サンプル10(実施例2): 成膜後、第一段階目の熱処理を窒素ガス中で850℃で行い、第二段階目の熱処理も行ったサンプル。
サンプル11(実施例3): 成膜後、第一段階目の熱処理を窒素ガス中で950℃で行い、第二段階目の熱処理も行ったサンプル。
サンプル12(実施例4): 成膜後、第一段階目の熱処理を窒素ガス中で1000℃で行い、第二段階目の熱処理も行ったサンプル。
サンプル13(比較例9): ターゲットを酸化亜鉛として成膜し、熱処理を行わなかったもの。
サンプル14(比較例10): ターゲットを酸化亜鉛として成膜し、第一段階目の熱処理を950℃で行い、第二段階目の熱処理は行わないサンプル。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に熱処理温度と、励起波長を350nmとした紫外線発光(PL)測定結果を示す。また、図1に、サンプル1、6、8および11の発光スペクトルを示す。図2に、第一段階目と第二段階目の熱処理を行ったサンプルと第一段階目の熱処理のみを行ったサンプルの紫外線発光強度を第一段階目の熱処理温度に対してプロットしたグラフを示す。
【0063】
表1および図1より、第一段階目と第二段階目の熱処理を行った場合に、発光強度が顕著に向上していることがわかる。図2からは、PL測定結果から得られた紫外光のピーク強度の第一段階目の熱処理温度依存性と第二段階目の熱処理による効果が把握できる。具体的には、図2より、まず、第一段階目の熱処理のみ行った場合、800℃以上の熱処理を行わなければ、紫外光の発光の増加は見られないことが分かる。また、900℃以上の熱処理を行えば、さらに発光強度が増加していることから、第一段階目の熱処理温度は900℃以上がより好ましいことが分かる。これは、熱処理により、成膜時に生じた粒界や転移などに起因する欠陥準位が劇的に減少したためである。また、900℃以上ではそれ以上紫外光の強度は増加しない。なお、結果には示していないが900℃以上になると、可視光発光の強度が増加していく傾向が見られた。これは、高温での熱処理により、酸素の脱離が生じ、酸素欠損準位が構築されるためである。紫外光と可視光との発光強度比を考えると、熱処理温度は、1100℃以下とすべきであり、好ましくは1000℃以下である。
【0064】
次に、第二段階目の熱処理の効果について説明する。第二段階目の熱処理を行ったサンプルについては、第一段階目の熱処理の全温度域に渡って、紫外線の発光強度が高められていることが分かる。これは、第二段階の熱処理を行ったことにより、
(1)組成物からのZnOの昇華・蒸発を抑制する
(2)組成物のZnOからの酸素の脱離を抑制する
(3)組成物からのP25の昇華・蒸発を抑制する
(4)系中の残留酸素の組成物への影響を低減する
のような現象が起きていると考えることができる。しかし、有効な第一段階目の熱処理を行っていない場合は、母体となる組成物の結晶性が低いため、上記のような現象が効果的に起こっていないと考えられる。
【0065】
発明者等は、上記した以外にも、種々の薄膜組成、共存物、熱処理条件で同様の検討を行ったが、いずれの場合も同様の結果が得られた。
【0066】
以上の結果から、効率の高い紫外線発光を得るためには、主成分として亜鉛と酸素、ならびに副成分としてアルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む組成物の薄膜に、非酸化性雰囲気下で800℃以上1100℃以下の温度で第一段階目の熱処理を施し、さらに酸化亜鉛と酸化ガリウムおよび/または酸化リンとが共存する非酸化性雰囲気下で700℃以上1000℃以下の温度で第二段階目の熱処理を施すことが重要であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明により得られる紫外線発光材料薄膜は、光センサー、樹脂硬化用や光触媒用励起光源、ディスプレイ、照明などの幅広い分野に使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として亜鉛と酸素、ならびに副成分としてアルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む組成物の薄膜に、非酸化性雰囲気下で800℃以上1100℃以下の温度で第一段階目の熱処理を施す工程、および
前記工程で熱処理した薄膜に、酸化亜鉛と酸化ガリウムおよび/または酸化リンとが共存する非酸化性雰囲気下で700℃以上1000℃以下の温度で第二段階目の熱処理を施す工程を有する紫外線発光材料薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記組成物が、副成分としてさらにリンを含む請求項1に記載の紫外線発光材料薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記第一段階目の熱処理温度が、900℃以上1000℃以下である請求項1または2に記載の紫外線発光材料薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記第二段階目の熱処理温度が、750℃以上850℃以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の紫外線発光材料薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記第二段階目の熱処理の雰囲気が、還元性雰囲気である請求項1〜4のいずれか1項に記載の紫外線発光材料薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記雰囲気が、水素濃度が0.5体積%以上4体積%未満の還元性雰囲気である請求項5に記載の紫外線発光材料薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記組成物の薄膜が、スパッタリング法により形成されたものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の紫外線発光材料薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−95838(P2013−95838A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239531(P2011−239531)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】