説明

細繊度ポリエステル斑糸

【課題】リサイクルポリマーを用いた、ナチュラル感、ドライ感およびスパナイズ外観に優れると共に従来にない柔軟性をも有する布帛を与えることができる細繊度ポリエステル斑糸を提供することにある。
【解決手段】繊維長さ方向に太細を有するポリエステル単繊維を含むマルチフィラメント糸条であって、下記(1)〜(6)の条件を満足することを特徴とするポリエステル斑糸。
(1)ポリエステルが、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体として、ポリアルキレンテレフタレートを解重合して得られたリサイクルされたテレフタル酸ジメチルを用い、該テレフタル酸ジメチルが全芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体の80モル%以上を占めるポリエステルからなること。
(2)太細を有するポリエステル単繊維のノーマルテストで得られるスペクトログラフ上に、周期4〜15cmと周期50〜150cmにそれぞれピーク値(Pmax1、Pmax2)が存在し、且つそのピーク値比(Pmax1/Pmax2)が1.5〜4.0であること。
(3)ポリエステルが下記一般式(1)で表されるスルホン酸金属塩を含有すること。
(4)糸条の総繊度が100dtex以下であること。
(5)糸条の単糸繊度が1〜3dtexであること。
(6)沸騰水収縮率が4〜10%であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細繊度ポリエステル斑糸に関するものである。さらに詳細にはケミカルリサイクルされた原料を用いた、柔軟性、光沢、ナチュラル感およびスパナイズ外観に優れた布帛を得るのに適した細繊度ポリエステル斑糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル未延伸糸を不完全延伸するとき斑糸が得られることはよく知られている。この斑糸は、斑が強調されればされるほど、当然のことながら風合などの特徴が強く出るが、この斑を強調しすぎるとナチュラル感が損なわれたり、低配向の未延伸部残存に起因する取扱い性や機械的特性が低下するという問題がある。
【0003】
この問題を解消するため、特公平3−77304号公報には、斑糸の太部が特殊な分散状態にあり、糸条としてノーマルテストで得られるスペクトログラフ上の周期50cmの値が最大値の1/2以下である斑糸が提案されている。確かにこの斑糸は、機械的特性や取扱い性が改善されてはいるものの、用途によっては風合が未だ不十分で、さらに改善されたナチュラル感、ドライ感及びスパナイズ外観を呈する斑糸の開発が望まれている。
【0004】
この問題を解消するため、長さ方向に太細があり、且つ太細比が2.0以上の単繊維を含むマルチフィラメント糸条であって、糸条としては、ノーマルテストで得られスペクトログラフ上の周期50cmでの値(P50)が最大値(Pmax)の1/2以下とすることにより、1.2g/dtexの一次降伏強度、33%以下の破断伸度を有するポリエステル斑糸が提案されている。(特許文献1参照)。この提案によれば、優れたナチュラル感、ドライ感、スパナイズ外観を呈すると共に、嵩高感、表面の柔軟な感触、腰及び反撥性にも優れた布帛を得るに好適なポリエステル斑糸を得ることができる。
【0005】
近年地球環境に対する関心が高まり、例えばリサイクルポリマーを使用した繊維が望まれてきた。しかし、一般的にいわれるリサイクルポリマーは回収されたPETボトルやポリエステルフィルム製品、更にはこれら製品の製造工程において発生する屑ポリマーなどを粉砕して再溶融するマテリアルリサイクルが知られているが、リサイクル後の繊維で高強度、細繊度で毛羽のない風合い良好なものを得ることは困難であった。特に細繊度の斑糸は紡糸する際には糸切れが多発し、著しく生産性が低下することで商業生産が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3−77304号公報
【特許文献2】特開昭61−152814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記背景に鑑みなされたもので、その目的は、リサイクルポリマーを用いた、ナチュラル感、ドライ感およびスパナイズ外観に優れると共に従来にない柔軟性をも有する布帛を与えることができる細繊度ポリエステル斑糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記目的を達成すべく種々検討を行った結果得られたもので、
即ち本発明によれば、
繊維長さ方向に太細を有するポリエステル糸を含むマルチフィラメント糸条であって、下記(1)〜(6)の条件を満足することを特徴とするポリエステル斑糸、
(1)ポリエステルが、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体として、ポリアルキレンテレフタレートを解重合して得られたリサイクルされたテレフタル酸ジメチルを用い、該テレフタル酸ジメチルが全芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体の80モル%以上を占めるポリエステルからなること。
(2)太細を有するポリエステル糸のノーマルテストで得られるスペクトログラフ上に、周期4〜15cmと周期50〜150cmにそれぞれピーク値(Pmax1、Pmax2)が存在し、且つそのピーク値比(Pmax1/Pmax2)が1.5〜4.0であること。
(3)ポリエステルが下記一般式(1)で表されるスルホン酸金属塩を含有すること。
(4)糸条の総繊度が100dtex以下であること。
(5)糸条の単糸繊度が1〜3dtexであること。
(6)沸騰水収縮率が4〜10%であること。
【化1】

[式中、M及びM′は金属、Rは水素原子又はエステル形成性官能基、nは1又は2を示す]
又、本発明のポリエステル斑糸中のスルホン酸金属塩の含有量が該ポリエステルの重量基準で0.5〜2.5重量%であるポリエステル斑糸、
又別の発明の態様として、該糸条を製造するにあたり紡糸速度2.000m/分以下で紡糸された複屈折率13×10−3以下、油剤付着量(OPU)0.7%以下の低紡速ポリエステル未延伸糸を、予め0.2g/dtex以上1.0g/dtex以下の張力下にしごいた後、これをその自然延伸比以下の倍率で且つ延伸中に集中的応力や集中加熱を施すことなく全体的にガラス転移点温度+55℃以上の温度加熱しつつ斑延伸してから捲き取るポリエステル斑糸の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ケミカルリサイクルされた原料を用いるため細繊度で高強度且つ毛羽のないポリエステル斑糸を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のポリエステル斑糸のスペクトログラフの1例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
一般的にポリエステル製品をリサイクルする方法として、ポリエステル製品を溶融しチップ化した後バージンポリエステルポリマーと混合する、あるいはそのまま成形して製品とする、いわゆるマテリアルリサイクル法とポリエステル製品を一旦構成成分まで解重合して原料成分までもどして再度ポリエステル重合を行い製品化する、ケミカルリサイクル法が行われている。
【0012】
本発明はケミカルリサイクル法による単糸が細繊度で強度伸度の良好なポリエステル斑糸に関するものである。
本発明のポリエステル斑糸に使用されるポリエステルは芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としてポリアルキレンテレフタレートを解重合することによって得られたケミカルリサイクルされて得られたテレフタル酸ジメチルを、ポリエステルを構成する全酸成分を基準として80重量%以上使用する必要がある。
【0013】
ここで、用いられるポリアルキレンテレフタレートとしてはポリエチレンテレフタレートが好ましく、特に回収されたボトル、回収されたポリエステル繊維製品、回収されたポリエステルフィルム製品、更にはこれら製品の製造工程において発生する屑ポリマーなど回収されたポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
【0014】
ポリアルキレンテレフタレートを解重合することによって得られたテレフタル酸ジメチルが80重量%未満の場合、最終的に得られるポリエステル、あるいはポリエステル繊維中に含まれる成分の内、回収されたテレフタル酸ジメチルに由来する成分の比率が50%を下回ってしまう為、環境にやさしい製品としての効果が少なくなり好ましくない。ポリアルキレンテレフタレートを解重合することによって得られたテレフタル酸ジメチルは好ましくは85重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0015】
ポリアルキレンテレフタレートを解重合することによって得られたテレフタル酸ジメチルの製造方法については特に限定はないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートをエチレングリコールで解重合した後、メタノールでエステル交換反応し、得られたテレフタル酸ジメチルを再結晶や蒸留で精製する方法が挙げられる。
【0016】
ポリアルキレンテレフタレートを解重合することによって得られたテレフタル酸ジメチルを構成する全酸成分を基準として80重量%以上使用するポリエステルの製造方法としては、芳香族ジカルボン酸のエステル形成誘導体として上記のテレフタル酸ジメチルをエステル交換反応触媒の存在下、アルキレングリコールとしてエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール等とエステル交換反応せしめることによって製造することが好ましい。
【0017】
又本発明のポリエステル斑糸に使用されるポリエステルは必要に応じて第3成分を少量(通常は全繰返し単位を基準として15モル%以下、好ましくは10モル%以下、特に好ましくは5モル%以下)共重合した共重合ポリエステルであってもよく、また、艶消剤、その他の添加剤を含有していてもよい。
【0018】
本発明の細繊度ポリエステル斑糸を構成するフィラメントの総繊度(長さ方向に平均したもの)は100dtex以下である必要がある。総繊度が100dtexを超えると最終的に得られる布帛の柔軟性が不充分になる。なかでも20〜90dtexの範囲が好ましい。
【0019】
単繊維繊度としては1.0〜3.0dtexである必要がある。1.0dtex未満であると布帛のスパナイズ外観が低下し、3.0dtexを超える場合は布帛の柔軟性が低下し好ましくない。
【0020】
又本発明のポリエステル斑糸の沸騰水収縮率は4〜10%、より好ましくは5〜8%である必要がある。沸騰水収縮率が4%未満であれば布帛のスパナイズ外観が得られず、10%を超える場合は布帛の柔軟性が低下し好ましくない。
【0021】
本発明の細繊度ポリエステル斑糸は下記一般式(1)で表わされるスルホン酸金属塩を含有している必要がある。このようなスルホン酸金属塩を含有することによって本発明の細繊度ポリエステル斑糸は細繊度にもかかわらず優れたナチュル感、スパナイズ外観を呈することが可能になる。含有量はポリエステル斑糸の重量基準で0.5〜2.5重量%、特に0.6〜1.2重量%の範囲が適当である。0.5%未満であると布帛のドライ感が得られず、2.5%を超える場合は紡糸工程で断糸、毛羽の発生が増加し好ましくない。
【0022】
【化2】

[式中、M及びM′は金属であり、アルカリ金属、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛が好ましく、M及びM′は同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子又はエステル形成性官能基であり、nは1又は2を示す]
【0023】
かかるスルホン酸金属塩は、例えば特公昭61−31231号公報にあげられているものが好ましく用いられ、具体的には3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム−5−カルボン酸ナトリウム、3−ヒドロキシエトキシカルボニルベンゼンスルホン酸ナトリウム−5−カルボン酸1/2マグネシウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム−3,5−ジカルボン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム−3,5−ジカルボン酸マグネシウムなどをあげることができる。
【0024】
上記スルホン酸金属塩のポリエステルへの添加時期は、ポリエステルを溶融紡糸する以前の任意の段階でよく、例えばポリエステルの原料中に添加配合しても、ポリエステルの合成中に添加してもよい。
【0025】
本発明の細繊度ポリエステル斑糸は、ポリエステル未(半)延伸糸を延伸するに当たって、分散延伸つまり延伸点を糸条全体に集束させない延伸態様を採用することによって得ることが出来る。具体的には、(A)糸条に集中応力を加えない、(B)糸条を集中的に加熱しない、(C)繊維間の摩擦を低下させる、(D)単繊維物性を異ならせる、より具体的に述べると、低速紡糸された、低配向ポリエステル未延伸糸を、斑が十分発生する低倍率で且つ従来よりも大幅に斑分散させながら低倍率延伸する必要がある。例えば、紡糸速度としては2,000m/分、好ましくは1.500m/分以下が良く、その配向度も複屈折率で13×10−3以下、好ましくは10×10−3以下にすると十分な太細比が得られる。また、紡糸中に付与するOPUは0.7%以下にするのがよく、更に出きれば単繊維間の繊度や断面形状を異ならせるのが好ましい。また延伸に先立ってこれを張力をかけてしごくのも有用である。しごく張力は少なくとも供給原糸の0.2g/dtex以上必要であるが、あまり強いとこの部分で延伸され、その延伸も斑延伸となり、しかも分散性の悪い斑点状の斑がここで予め付与されてしまってこれが最後まで残るため、ここでは延伸は行わずしごくことのみが肝要である。そのためにはその張力を1.0g/dtex以下にすると良い。また、延伸に際しては、極力集中応力や集中加熱を避け、延伸点がそろうことを排除しなければならない。加熱は出来るだけフラットな状態で延伸中の糸を長い範囲に渡り、全体的に加熱するのがよく、その温度はその原糸のガラス転移点温度+55℃以上にするのが良い。この温度が低いと、延伸中の長い範囲に渡ってネック点が散らばるという分散効果が少なくなる。原糸の予熱は延伸ラップを防止し延伸性を上げるのに有効であるが、斑発生の面では好ましくないので、予熱は行なうとしてもあまり高くないほうが良い。延伸倍率としては原糸の自然延伸比以下で延伸することにより低延伸倍率を十分残す必要がある。そうすることにより原糸の低配向性と相俟って太い斑部分が形成される。その為には2.0倍以上の太細比を含んでいなければならない。このようにしてできた斑糸は、更にこれに強い絡みを加えると、低配向部分と高配向部分がからまって一層その補完関係が増強される。
【0026】
但し、このような効果は通常糸に抱合性を与えるような程度の交絡度では不十分であり、少なくとも40ケ/m以上の交絡、好ましくは60ケ/m以上の交絡を与えることが望ましい。
【0027】
本発明の細繊度ポリエステル斑糸のスペクトログラフの一例を図1に示し、図をもって詳細に説明する。ここで図1は、後記する本発明実施例1で得た細繊度ポリエステル斑糸のスペクトログラフであってピークの数に特徴がある。つまり、本発明のポリエステル斑糸は、斑の周期が50〜150cmの長い部分と5〜15cmの短い部分との2箇所に極大値が存在するように斑が分散しているのでナチュラルなスパナイズ外観を呈することが判明したのである。
【0028】
本発明でいうスペクトログラフとは、スイスのツエルベーガ社で開発されたウスタースペクトログラフのことであり、斑内容の迅速な分析を可能とするもので、特に斑のピッチを知るのに有用である(その詳細は繊維機械学会発行の「むらの理論と実際」第255頁〜第372頁に詳述されている)。測定条件はノーマルテストとし、測定速度は400m/分とした。
【0029】
すなわち、本発明においては、ノーマルテストで得られるスペクトログラフ上に、周期4〜15cmと、周期50〜150cmの範囲に、それぞれピーク値(Pmax1、Pmax2)が存在し、且つそのピーク値比(Pmax1/Pmax2)が1.5〜4.0、好ましくは1.5〜3.0であることが必要なのである。該ピーク値が一つしかなかったり、あるいは、ピーク値の位置が前記範囲外であったり、さらには、ピーク値比(Pmax1/Pmax2)が前記範囲を外れる場合には、太部のランダム分散性が低下してナチュラル感が低下したり、又は、ドライ感やスパナイズ外観が低下して、本発明の目的を達成することができない。
【実施例】
【0030】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0031】
(1)繊度、沸騰水(100℃)収縮率
JIS L1013にしたがって測定した。
【0032】
(2)スペクトログラフ(Pmax1、Pmax2)
スイスツエルベーガ社のウスタースペクトログラフにて、測定モード:ノーマルテスト、測定速度:400m/分でポリエステル糸のスペクトログラフを記録し、周期4〜10cmと周期50〜150cmとのピーク値を各々Pmax1およびPmax2とした。
【0033】
(3)ドライ感、スパナイズ外観
製織した生機を、ボイルオフ(98℃、10sec)、リラックス(120℃、20min)、プレセット(190℃、60sec)、アルカリ減量(減量率15%)、染色(染料:カヤロンポリエステルネイビーブルー2GN−SF200(日本化薬社製))、130℃、20min)および仕上げ(170℃、60sec)処理を行い風合い評価用の織物を得た。該織物を検査員が目視および触感にてスパナイズ外観およびドライ感を下記基準で格付けした。
なお、各評価項目は、熟練した5人のパネラーによる官能評価で、全員が極めて良好と判定したものを(優)、3人以上が良好と判断したものを(良)、3人以上が不良と判定したものを(不良)と、三段階にランク付けした。
(スパナイズ外観)
優:適度に分散し、ナチュラルなカスリ状の濃淡筋が認められる。
良:カスリ状の濃淡筋の分散にやや偏りがあるが、全体として満足できるカスリ状濃淡筋となっている。
不良:一面に短すぎる濃淡筋あるいは長すぎる濃淡筋が認められる。あるいは明瞭な濃淡筋が認められない。
(ドライ感)
優:綿布帛に似たサラッとした手触りが感じられる。
良:サラッとした感覚がやや弱く感じられる。
不良:プラスチックライクなプレーンな感触である。
【0034】
[参考例]
回収テレフタル酸ジメチルの製造:エチレングリコール200部を500mlセパラブルフラスコに投入し、更に炭酸ソーダ1.5部、粉砕されたPETボトル等からなるポリエチレンテレフタレート屑50部を投入し、攪拌しながら昇温して、185℃とした。この状態を4時間保持したところ、ポリエチレンテレフタレート屑は溶解し解重合反応が完結した。得られた解重合物を減圧蒸留で濃縮し、留分としてエチレングリコール150部回収した。
この濃縮液にエステル交換反応触媒として炭酸ソーダ0.5部とMeOH100部を投入し、常圧で液温を75℃、1時間攪拌し、エステル交換反応を実施した。
得られた混合物を40℃まで冷却し、ガラス製フィルターで濾過した。フィルター上に回収できた粗テレフタル酸ジメチルを100部のMeOH中に投入し、40℃に加温・撹拌洗浄し、再度ガラス製のフィルターで濾過した。この洗浄は2回繰り返した。
【0035】
フィルター上に捕捉できた粗テレフタル酸ジメチルを蒸留装置に仕込み、圧力6.65kPa還流比0.5の条件で減圧蒸留を実施し、留分としてテレフタル酸ジメチルを得た。留分は47部回収できた。釜残を測定しテレフタル酸ジメチル量を測定すると2部であり、投入したポリエステルを基準にするとテレフタル酸ジメチルの反応率は93重量%であった。
蒸留により精製された回収テレフタル酸ジメチル中には、2−ヒドロキシテレフタル酸ジメチルが0.5重量ppm検出された。精製された回収テレフタル酸ジメチルの品質は純度99.9重量%以上であった。
【0036】
[実施例1]
参考例で得られたテレフタル酸ジメチル197部、エチレングリコール124部、酢酸カルシウム1水塩0.118部を精溜塔付ガラスフラスコに入れ、常法にしたがってエステル交換反応を行い、理論量のメタノールが留出した後反応生成物を精溜塔付重縮合用フラスコに入れ安定剤としてトリメチルホスフェート0.112部及び重縮合触媒として酸化アンチモン0.079部を加え、温度280℃で、常圧下20分、30mmHgの減圧下15分反応させた後高真空下で80分間反応させた。最終内圧は0.38mmHgであり、得られた変性ポリマーの固有粘度は0.640,軟化点は258℃であった。反応終了後変性ポリマーを常法にしたがいチップ化した。
【0037】
得られたチップを常法にしたがい乾燥して紡糸口金から溶融吐出し、該吐出糸条を冷却固化させた後に油剤を付与し、次いで、ノズル数が3のインターレース付与装置で圧力0.15MPaの空気を用いてインターレースを付与した後に1300m/分の速度で巻き取った。得られた未延伸糸を、加熱ローラー温度70℃、熱セットヒーター(接触式)温度145℃、延伸倍率2.41倍、延伸速度500m/分で延伸して巻き取り、総繊度50dtex/24フィラメント(単糸繊度2.1dtex)の糸条を得た。
得られた糸条を経糸及び緯糸に用い、羽二重に製織し、常法にしたがって精練、熱セット、アルカリ減量加工(減量率15%)、染色を施して無地の染め織物を得た。評価結果を表1に示す。
【0038】
[比較例1]
延伸倍率を2.8倍にする以外は実施例1と同様にした。結果を表1に合わせて示す。
【0039】
[比較例2]
チップをマテリアルリサイクルポリエステルを使用する以外は実施例1と同様にした。結果を表1に合わせて示す。
【0040】
[比較例3]
チップをマテリアルリサイクルポリエステルを使用したものにし、延伸倍率を2.8倍とする以外は実施例1と同様にした。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
リサイクルポリマーを用いた、ナチュラル感、ドライ感およびスパナイズ外観に優れると共に従来にない柔軟性をも有する布帛を与えることができる環境にやさしいポリエステル斑糸を提供することができ、衣料用途として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長さ方向に太細を有するポリエステル単繊維を含むマルチフィラメント糸条であって、下記(1)〜(6)の条件を満足することを特徴とするポリエステル斑糸。
(1)ポリエステルが、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体として、ポリアルキレンテレフタレートを解重合して得られたリサイクルされたテレフタル酸ジメチルを用い、該テレフタル酸ジメチルが全芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体の80モル%以上を占めるポリエステルからなること。
(2)太細を有するポリエステル単繊維のノーマルテストで得られるスペクトログラフ上に、周期4〜15cmと周期50〜150cmにそれぞれピーク値(Pmax1、Pmax2)が存在し、且つそのピーク値比(Pmax1/Pmax2)が1.5〜4.0であること。
(3)ポリエステルが下記一般式(1)で表されるスルホン酸金属塩を含有すること。
(4)糸条の総繊度が100dtex以下であること。
(5)糸条の単糸繊度が1〜3dtexであること。
(6)沸騰水収縮率が4〜10%であること。
【化1】

[式中、M及びM′は金属、Rは水素原子又はエステル形成性官能基、nは1又は2を示す]
【請求項2】
単繊維中のスルホン酸金属塩の含有量が該単繊維重量基準で0.5〜2.5重量%の範囲である請求項1に記載のポリエステル斑糸。
【請求項3】
上記請求項1のポリエステル斑糸の製造方法であって、紡糸速度2000m/分以下で紡糸された複屈折率13×10−3以下、油剤付着量(OPU)0.7%以下の低紡速ポリエステル未延伸糸を、予め0.2g/dtex以上1.0g/dtex以下の張力下にしごいた後、これをその自然延伸比以下の倍率で且つ延伸中に集中的応力や集中加熱を施すことなく、全体的にガラス転移点温度+55℃以上の温度で加熱しつつ斑延伸してから捲き取ることを特徴とするポリエステル斑糸の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−144475(P2011−144475A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5868(P2010−5868)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】