細胞単離方法
本発明は、一般に実質的に均質な未分化細胞集団を生成するための方法に関する。より詳細には、本発明は、実質的に均質な幹細胞、特に哺乳動物幹細胞(MaSC)の集団を単離するための方法に関する。本発明のMaSCは、それらの細胞表面上に存在するタンパク質の示差的レベルに基づいて単離される。本発明のMaSCは、正常および腫瘍組織などであるがそれに限定されない罹患組織の両方におけるMaSC生存率、自己再生、増殖および/または分化を調節する物質を同定するための標的として、さらに疾患もしくは傷害後に損傷を受けたおよび/または消失した組織を再生、置換および/または増強するための組織の起源として特に有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、実質的に均質な未分化細胞集団を生成するための方法に関する。より詳細には、本発明は、実質的に均質な幹細胞、および特別には、哺乳動物幹細胞(MaSC)の集団を単離するための方法に関する。本発明のMaSCは、それらの細胞表面上に存在するタンパク質の示差的レベルに基づいて単離される。本発明のMaSCは、正常組織および腫瘍組織などを含むがそれらに限定されない罹患組織の両方におけるMaSC生存率、自己再生、増殖および/または分化を調節する物質を同定するための標的として、ならびに、疾患もしくは傷害後に損傷および/または消失した組織を再生、置換および/または増強するための組織の起源としても特に有用である。
【背景技術】
【0002】
先行技術の説明
本明細書における任意の先行技術に対する参照は、この先行技術が任意の国における共通の一般的な知識の一部を形成するという認識または任意の形態の提案ではなく、そのように見なされるべきではない。
【0003】
本文書に提供した参考文献の書誌学的詳細は、本明細書の最後に列挙する。
【0004】
乳ガンは、女性が罹患する最も一般的な悪性腫瘍であり、女性の全てのガンのほぼ4分の1を占める。最近の数年の間に乳ガンの管理は大きく改善されてきたにもかかわらず、診断を受けた女性の約25%はこの疾患が原因で死亡すると思われ、その腫瘍細胞が現代の治療戦略では難治性という固有の特性を有することが明らかになっている。乳ガンの不均質な性質は、複数の遺伝因子および細胞タイプが関与していることを示唆しているが、これらは未だ完全には理解されていない。
【0005】
乳房腫瘍形成を理解するための必須条件は、正常乳房上皮発達の調節に関する研究である。乳腺は、乳管および小葉腺胞構造の枝分かれ網状組織から構成されるが、後者は妊娠を通して発生する。筋上皮および管腔(乳管および腺胞サブタイプを含む)の2つの主要な上皮細胞系譜があり、これらは本明細書において哺乳動物幹細胞もしくはMaSCと呼ぶ共通前駆細胞から発生すると推定されている(概観については、Smalley and Ashworth, Nat Rev Cancer 3:832-844, 2003(非特許文献1)を参照)。器官特異的幹細胞という概念は、造血系、ならびに他の器官系について明確に確立されている(例えば、Rietze et al., Nature 214:736-739, 2001(非特許文献2);Li et al., Nat Med 9:1293-1299, 2003(非特許文献3);Morris et al., Nat Biotech 22:411-417, 2004(非特許文献4);Tumbar et al., Science 303:359-363, 2004(非特許文献5)参照)。幹細胞および前駆細胞(一過性増幅細胞としても知られる)は腫瘍形成中の重要な細胞標的である、そして乳腺幹細胞および前駆細胞中で正常に発現した遺伝子の脱調節された発現が乳ガンの病理発生の一因となる(Reya et al., Nature 414:105-111, 2001(非特許文献6))という仮説が立てられている。乳ガン「幹細胞」の存在は、実際に、現在ある抗ガン薬に対する耐性、および最終的な難治性疾患の発生に対する1つの説明となる可能性がある(Al-Hajj et al., PNAS 100:3983-3988, 2004(非特許文献7))。
【0006】
乳腺は、通常は出生後に(思春期に)、乳頭領域から伸長して乳腺の間質組織(「乳腺脂肪パッド」もしくはMFP)に貫通する乳管の伸長および分岐のプロセスを通して発達する。このプロセスは、主としてエストロゲンおよびプロゲステロンによって駆動され、さらにプロラクチンも必要とする。このため成人の乳腺では、乳腺は間質要素および分岐乳管から構成される。乳管は、共通先駆細胞から発生すると考えられている管腔上皮細胞および周囲筋上皮細胞から構成される。これらは、基底膜に取り囲まれている。妊娠中には、乳腺のさらなる発達および機能的成熟が、追加の乳管の成長および分岐ならびに十分に分化した乳腺内の乳汁分泌単位である小葉腺胞構造の成長を通して発生する。小葉腺胞単位は、腺胞上皮細胞および筋上皮細胞から構成され、そして同様に基底膜によって取り囲まれている。授乳の停止後、乳腺は調整された退縮のプロセスを経験し、それによって小葉腺胞単位および一部の乳管は、プログラムされた細胞死およびリモデリングのプロセスを通して退行する。この全プロセスは妊娠毎に繰り返される。幹細胞および前駆細胞は、成人の乳腺発達および各妊娠周期に伴う上皮細胞発達が連続的に発生するために不可欠である。休止幹細胞は、前管腔または前筋上皮前駆細胞への調整された系譜指定および拘束を受け、これらは順に各々機能的な乳管および腺胞の管腔細胞ならびに筋上皮細胞へ分化する(図1)。
【0007】
MaSCの存在は、マウスにおける上皮乳腺外植片を用いた連続移植試験を通して確証されている(Daniel et al., PNAS 61:53-60, 1968(非特許文献8))。この技術は、雌性思春期前レシピエントマウスの脱上皮化MFP内へのドナーの小さな乳腺外植片の移入を含んでいる。思春期前マウスの取り除かれた脂肪パッド内へ移植されたドナーマウスからの上皮組織の小さな破片は、思春期ホルモンおよび妊娠ホルモンの刺激下で完全乳腺を再構成するであろう。十分な数での上皮細胞懸濁液の移植もまた乳腺を再構成するであろう。MaSC(または拘束された前駆細胞)の同定は、どの集団が乳腺上皮を形成する最大能力を有するのかを同定するために精製された細胞集団の移送を必要とする。
【0008】
以前の試験では、造血幹細胞は、Ter119(赤血球)、CD3およびB220(TおよびBリンパ球)、Mac-1(骨髄球)などの系譜マーカーが欠如しているが、高レベルのc-kitおよびSca-1を発現することが証明されている。造血幹細胞は、フローサイトメトリー試験において、極めて重要な色素Hoechst33342(Ho)を排除して副集団(SP)を生じさせることも証明されている(Goodall et al., J Exp Med 183:1797-1806, 1996(非特許文献9))。数日間にわたりインビトロで増殖させ、次に蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって精製した乳腺上皮細胞を用いたデータでは、Sca-1+細胞が増強されたHo色素排除および富裕乳腺再構築能を示すことが見いだされており、これは乳腺幹細胞がこの集団内に所在することを示唆している(Welm et al., Dev Biol 245:42-56, 2002(非特許文献10))。さらに、SPはより新しく単離された乳腺上皮細胞標本中で同定され、それらから精製されており、MFP内へ移植されると乳腺上皮構造を生成できることが見いだされている(Alvi et al., Breast Cancer Res 5:R1-R8, 2003(非特許文献11))。しかし、これらの試験では、MFPの再構築は極めて多数(数千個)の細胞を必要とし、精製された細胞集団の匹敵する再構築能は、限界希釈率では評価できなかった。さらに、これらの試験における精製された細胞集団は、培養中に維持されていた細胞起源から入手された。これらの条件は、細胞表面マーカー表現型を修飾する可能性が高く、したがってこれらの試験における精製された細胞の特性はインビボに存在する細胞を反映するとは思われない。
【0009】
このため、新しく単離された組織の起源から実質的に均質なMaSC集団を単離する方法に対する必要がある。
【0010】
【非特許文献1】Smalley and Ashworth, Nat Rev Cancer 3:832-844, 2003
【非特許文献2】Rietze et al., Nature 214:736-739, 2001
【非特許文献3】Li et al., Nat Med 9:1293-1299, 2003
【非特許文献4】Morris et al., Nat Biotech 22:411-417, 2004
【非特許文献5】Tumbar et al., Science 303:359-363, 2004
【非特許文献6】Reya et al., Nature 414:105-111, 2001
【非特許文献7】Al-Hajj et al., PNAS 100:3983-3988, 2004
【非特許文献8】Daniel et al., PNAS 61:53-60, 1968
【非特許文献9】Goodall et al., J Exp Med 183:1797-1806, 1996
【非特許文献10】Welm et al., Dev Biol 245:42-56, 2002
【非特許文献11】Alvi et al., Breast Cancer Res 5:R1-R8, 2003
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
本明細書を通して、状況が他のことを必要としない限り、用語「含む」、および例えば「含んでいる」などの変形は、1つの記載された整数もしくは工程または整数もしくは工程群を含んでおり、任意の他の整数もしくは工程または整数もしくは工程群を除外しないことを意味すると理解されたい。
【0012】
本明細書において使用する略語は、表1に規定されている。
【0013】
本発明は、一部には、未分化細胞、特に幹細胞、およびよりいっそう特別には乳腺幹細胞(MaSC)を細胞表面上に存在するタンパク質の示差的レベルに基づいて組織起源から単離できるという同定によって予測されている。詳細には、MaSCの離散的集団が細胞表面マーカーに基づいて単離されるが、1つの亜集団(Lin-CD29hiCD24+)はインビボ移植によってアッセイするとMaSCについて高度に富裕である。実証によって、lacZ導入遺伝子でマーキングした単細胞は、インビボで完全な乳腺を再構成することができる。移植された細胞は管腔系譜および筋上皮系譜の両方に寄与し、妊娠中には機能的小葉腺胞単位を生成した。これらの細胞の自己再生能力は、クローン性上皮増殖物の連続的移植によって証明された。乳ガンにおいてMaSCが果たす潜在的役割を支持して、幹細胞が富裕な亜集団は、MMTV-Wnt-1マウス由来の前ガン状態の乳腺組織中で顕著に拡大していた。Lin-CD29hiCD24+集団内の単細胞は多分化能かつ自己再生性であるので、このためMaSCを規定している。
【0014】
そこで本発明は、実質的に均質なMaSC細胞集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきMaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なMaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法を提供する。
【0015】
用語「組織破壊」および「組織解離」は、個別細胞を遊離させるために組織を細分化することを指すために互換的に使用されることがある。
【0016】
本発明は、有益にも、MaSCが由来する組織を最初に培養中で維持する必要を伴わずにMaSCを単離するための方法を提供する。その結果として、本発明の方法によって単離されたMaSCは、MaSCが単離前に培養期間を経験すると修飾されたり消失したりする可能性があるMaSCの特性をインビボで保持する。
【0017】
本発明によって提供されるMaSCの単離は、細胞表面タンパク質のレベルによる細胞選択を促進する任意の細胞選択手段を用いて実施することができる。好ましくは、細胞選択手段は、選択すべきMaSCを連続的または同時のいずれかで、細胞選択および同定を許容するレポーター化合物にコンジュゲートしている細胞表面タンパク質と相互作用できる分子と接触させる工程を含む。最も好ましくは、分子は、それによって蛍光活性化セルソーティング(FACS)を用いた蛍光強度による細胞選択を促進できるように、蛍光レポーター化合物にコンジュゲートしている。
【0018】
好ましくは、本発明の単離されたMaSCは、低レベルの細胞表面タンパク質CD45、LinおよびCD31、ならびに高レベルの細胞表面タンパク質CD24およびCD29を生成するので、したがって本発明のMaSCは、CD45loLinloCD31loCD24hiCD29hi MaSCと称する。
【0019】
したがって本発明は、実質的に均質なCD45loLinloCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきCD45loLinloCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なCD45loLinloCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法を意図している。
【0020】
本発明の方法によるMaSCを単離する能力は、組織置換および/または増強療法において、特に乳腺組織置換および/または増強療法において使用するための方法および組成物を提供する。詳細には、本発明の方法によって単離されたMaSCは、自家細胞移植療法を促進するので、このため同種組織移植および免疫抑制剤の同時使用の必要を減少させる。
【0021】
さらに、本発明の方法によってMaSCを単離する能力は、インビトロおよび/またはインビボの正常および罹患組織両方におけるMaSC生存率、自己再生、増殖および/または分化を調節する作用因子の同定を可能にする。詳細には、MaSCのインビボ活性を調節する作用因子の同定は、組織、特に乳腺組織の再生および/または増強をインサイチューで、すなわち組織移植の必要を伴わずに誘導、またはさもなければ促進する方法を提供する。
【0022】
したがって、本発明は、組織、特に乳腺組織の再生、置換および/または増強を必要とする広範囲の疾患、状態および/または傷害を治療するための薬剤の製造においてMaSCのインビトロおよび/またはインビボ活性を調節する作用因子の使用を意図している。
【0023】
(表1)略語
【0024】
好ましい態様の詳細な説明
1つの態様では、本発明は、実質的に均質なMaSC集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきMaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なMaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法を提供する。
【0025】
本明細書において「細胞集団」とは、2個以上の細胞を意味する。「実質的に均質な集団」は、実質的に1つの細胞タイプしか含んでいない集団を意味する。「細胞タイプ」は、特定の共通特性によって他の細胞とは識別される細胞集団を意味する。好ましくは、実質的に均質な集団は、少なくとも約50%が同一タイプ、または少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%、または例えば少なくとも約100%のような少なくとも約95%以上が同一タイプである細胞集団を含んでいる。例には、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99および100%の同一タイプの細胞が含まれる。
【0026】
本発明の生物学的サンプルは、ヒト、非ヒト霊長類(例、ゴリラ、マカーク、マーモセット)、家畜動物(例、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、愛玩動物(例、イヌ、ネコ)、実験動物(例、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター)、鳥類、捕獲野生動物(例、キツネ、シカ)、爬虫類または両生類(例、オオヒキガエル)、魚(例、ゼブラフィッシュ)または任意の他の生物(例、C.エレガンス(C. elagans))などの任意の生物に由来してよい。
【0027】
好ましくは、本発明の生物学的サンプルは、ヒトまたはマウス由来である。最も好ましくは、本発明の生物学的サンプルは、ヒト由来である。
【0028】
本明細書において「生物学的サンプル」という言及は最も広い意味で使用され、例えば皮膚、筋肉、神経、肝臓、腎臓、眼、骨、脂肪、骨髄、血液および乳腺組織を含むがそれらに限定されない生物学的起源由来である組織のような任意のサンプルを意味する。好ましい態様では、本発明の生物学的サンプルは、乳腺組織である、または乳腺組織由来である。
【0029】
一般に、本発明の生物学的サンプルは、単細胞を生成するために破壊される必要がある。これを本明細書において「組織解離手段」と呼ぶ。本明細書において「組織解離手段」との言及は、機械的および/または酵素的処理を含むがそれらに限定されない、組織を単細胞へ解離させる任意の方法を意味する。そのような方法の例は、トリプシン、パパイン、中性プロテアーゼ(ディスパーゼ)、キモトリプシン、エラスターゼ、コラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼを用いた粉砕および処理である。組織の解離は、当技術分野において周知である任意の方法によって実施できる。
【0030】
本明細書において「幹細胞」という言及は、自己再生および増殖できる、そして極めて広範囲の機能的に分化した子孫を生成する能力を有する細胞を意味する。幹細胞が自身で自己再生する能力は、本明細書において使用する幹細胞の定義の必須の局面である。幹細胞は、幹細胞状態を維持する1個の娘細胞と、最初に言及した娘細胞とは別個の特異的機能および/または表現型を発現する他の娘細胞に、非対称的に分裂することがある。または、集団中の一部の幹細胞は2個の幹細胞に対照的に分裂することがあるので、したがって全体としては集団内で同一幹細胞を維持するが、集団内の他の細胞は分化した子孫だけを発生させる。幹細胞として始まる細胞は分化した表現型に向かって進行するが、その後は幹細胞表現型を逆転させて再発現することがあり得る。幹細胞は、分裂してまた別の幹細胞(すなわち、自己再生能力を有する)を生成できる細胞、ならびに複数の特異的な分化経路に沿って分化できる細胞を意味する機能的な用語である。しばしば、分化系譜を備える特定細胞が低分化親から引き出され、それでも分裂してより分化した細胞子孫を発生させるという場合がある。本明細書において幹細胞との言及は、さらにまた「先駆細胞」または「前駆細胞」または幹細胞の特性を備える任意の他の細胞を含むと見なすべきである。
【0031】
本発明の好ましい幹細胞は、MaSCである。
【0032】
したがって、本発明は、実質的に均質なMaSC集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきMaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なMaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法を提供する。
【0033】
生物学的サンプルが解離されると、MaSCは、例えば細胞表面タンパク質と相互作用できる分子、すなわち細胞表面タンパク質相互作用分子を利用する様々な方法を用いて選択される。これらの方法では、細胞表面タンパク質と相互作用できる分子は、対象となるMaSC集団を含む細胞の表面上に存在するタンパク質へ選択的に結合する。結合した細胞表面タンパク質相互作用分子は、次にMaSCの同定を信号するための旗として機能する。選択方法には、例えば、親和性カラムマトリックスもしくはプラスチック表面、または磁気ビーズなどの固体支持体を使用するFACSおよびビオチン-アビジンまたはビオチン-ストレプトアビジン分離法が含まれる。
【0034】
本発明によるMaSC選択の特に好ましい方法は、FACSである。
【0035】
本発明によって意図された細胞表面タンパク質相互作用分子は、タンパク質Sca-1、CD44、CD49、ピーナツ凝集素(PNA)、CD71、CD45、TER119(Lin)、CD31、CD24およびCD29のうちの一つまたは複数を含むがそれらに限定されない、MaSCの表面上に存在する任意のタンパク質と相互作用することができる。
【0036】
好ましい態様では、本明細書によって意図された細胞表面タンパク質相互作用分子は、MaSCの細胞表面上に存在するタンパク質CD71、CD45、TER119、CD31、CD24およびCD29のうちの一つまたは複数と相互作用する。
【0037】
1つの好ましい態様では、本発明の方法によって選択されたMaSCは、少量のCD45、TER119およびCD31、すなわちCD45loTER119loCD31lo、ならびに多量のCD24およびCD29、すなわちCD24hiCD29hiを産生する。したがって、本発明の好ましいMaSCは、便宜的にCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCと呼ばれる。用語「TER119lo」、「Lin-」および「Linlo」は、本明細書を通して互換的に使用され、低またはゼロレベルにある同一マーカーを意味する。
【0038】
したがって本発明は、実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC細胞集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法を提供する。
【0039】
細胞表面識別のために使用される細胞表面タンパク質相互作用分子は、蛍光化合物で標識することができる。選択的結合能力を備える蛍光標識抗体もしくは分子を適正な波長の光線に曝露させると、その存在は次に蛍光に起因して検出できる。特に最も一般的に使用される蛍光標識化合物は、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、フィコエリトリン(PE)、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒドおよびフルオレスカミンである。選択的結合能力を備える抗体もしくは分子は、さらにまた152Euまたは他のランタン系列などの蛍光発光金属を用いて検出可能に標識することができる。これらの金属は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの金属キレート基を用いて選択的結合能力を備える抗体もしくは分子へ結合させることができる。抗体は、さらにまたそれを化学発光化合物へ結合させることによって検出可能に標識することもできる。選択的結合能力を備えた化学発光タグ付け抗体もしくは分子の存在は、次に化学反応の進行中に発生する化学発光の存在を検出することによって決定される。特に有用な化学発光標識化合物の例は、ルミノール、イソルミノール、テロマティック(theromatic)アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩およびシュウ酸エステルである。同様に、本発明の選択的結合能力を備える抗体もしくは分子を標識するために生物発光化合物も使用できる。生物発光は、触媒性タンパク質が化学発光反応の効率を増加させる、生物系において見いだされる化学発光の1タイプである。生物発光タンパク質の存在は、ルミネセンスの存在を検出することによって決定される。標識のために重要な生物発光化合物は、ルシフェリン、ルシフェラーゼおよびエクオリンである。選択的結合能力を備える抗体もしくは分子を標識する全てのそのような方法は、本発明によって意図されている。
【0040】
このため本発明の方法は、特に疾患または傷害によって損傷した細胞を置換して組織を増強するため、ならびにMaSCの生存率、自己再生、増殖および/または分化を調節する作用因子を同定するために有用なMaSCを提供する。
【0041】
したがって、また別の態様では、本発明は、単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法によって選択された実質的に均質なMaSC集団を提供する。
【0042】
上述のように、本発明は、生物における細胞置換療法のための方法を意図しており、該方法は、単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む実質的に均質な細胞集団を提供するために生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、およびCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCの実質的に均質な集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法によって単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCの実質的に均質な集団を生成する工程、ならびに該生物もしくは該MaSCを受け入れられる生物へMaSCの該均質な集団を導入する工程、を含んでいる。
【0043】
本明細書において「細胞置換療法」という言及は、1つの形態では、未分化細胞が選択され、任意でインビトロで維持され、最終的にはそれらが入手された対象、適合する対象または免疫無防備状態の対象へ戻されるプロセスを含んでいる。インビトロであってもインビボであっても、細胞は特定細胞系譜に、または複数の細胞系譜に分化して増殖することができる。そこで、細胞置換療法は、器官または組織の置換を含む細胞機能の修復、再生または置換を提供する目的で、未分化細胞が適切に分化することを必要とする。「細胞置換療法」は、さらにまた増強療法を含んでいる。「細胞置換療法」もしくは組織修復のために精製された幹細胞もしくはそれらの子孫がその中に移植される、または幹細胞をそれらから引き出すことのできる生物は、ヒト、非ヒト霊長類(例、ゴリラ、マカーク、マーモセット)、家畜動物(例、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、愛玩動物(例、イヌ、ネコ)、実験動物(例、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター)、鳥類、捕獲野生動物(例、キツネ、シカ)、爬虫類または両生類(例、オオヒキガエル)、魚(例、ゼブラフィッシュ)または任意の他の生物(例、C.エレガンス)などの任意の生物であってよい。好ましくは、その生物はヒトまたはマウスである。最も好ましくは、その生物はヒトである。
【0044】
一般に、細胞はそれらが由来した同一生物に戻されるが、それらはまた別の適合する生物もしくは免疫無防備状態の生物へ提供することもできる。
【0045】
また別の態様では、本発明は、細胞置換療法において使用するための組成物を提供するが、該組成物は、単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法によって選択された実質的に均質なMaSC集団を含んでいる。
【0046】
細胞置換療法において使用するためのMASCおよび同一用途に有用な組成物は、さらにまた遺伝子組み換えMaSCであってよい。本明細書において「遺伝子組み換えMaSC」は、センスもしくはアンチセンスmRNAまたはリボザイムもしくはRNAiもしくはsiRNAをコードするDNAの導入などの何らかの形態の遺伝子操作を受けているMaSCを指す。導入される核酸分子は、遺伝子抑制のために内因性遺伝子もしくは遺伝子の一部を標的とすることができる、または新規な遺伝子を導入することができる。導入される核酸は、リン酸カルシウム媒介性トランスフェクション、DEAE媒介性トランスフェクション、マイクロインジェクション、レトロウイルス形質転換、プロトプラスト融合およびリポフェクションを含むがそれらに限定されない様々な技術によって導入できる。遺伝子組み換え細胞は、一過性または長期方法のどちらかで導入された核酸を発現することができる。一般に、一過性発現は、導入されたDNAがトランスフェクトされた細胞の染色体DNA内に安定性で組み込まれない場合に発生する。これとは対照的に、異種DNAの長期発現は、異種DNAがトランスフェクトされた細胞の染色体DNA内に安定性で組み込まれている場合に発生する。導入される核酸分子は、さらにまたヒトに関しては、ヒト人工染色体(HAC)などの人工染色体の形状にあってもよい。
【0047】
上述のように、本発明のMaSCは、インビトロおよび/またはインビボの両方でMaSCの生存率、自己再生、増殖および/または分化を調節する作用因子を同定するための方法を促進する。詳細には、MaSCのインビボ活性を調節する作用因子を同定することは侵襲性細胞置換療法に対する必要を完全に克服する。
【0048】
本明細書において「作用因子」という言及は、天然、組み換えまたは合成起源由来である任意のタンパク質性または非タンパク質性分子の意味として理解されたい。本明細書において使用する用語「作用因子」は、例えば化合物、作用因子、活性物質、薬物、薬理学的に活性な物質および薬剤などの他の用語および語句と、または所望の薬理学的および/または生理学的作用を誘導する物質を意味する他の用語と互換的に使用することができる。これらの用語は、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝産物、アナログなどを含むがそれらに限定されない本明細書において具体的に言及するそれらの物質の薬学的に許容される薬理学的有効成分もまた含んでいる。これらの用語の化合物、作用因子、活性物質、薬物、薬理学的活性物質および薬剤が使用される場合は、これには作用因子自体ならびに薬学的に許容される、薬理学的に活性な塩、エステル、アミド、プロドラッグ、代謝産物、アナログなどが含まれると理解されたい。用語の作用因子は、化学的化合物であると解釈すべきではなく、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質、ならびにRNA、DNAおよびそれらの化学的アナログなどの遺伝子分子にまで及ぶ。
【0049】
このため本発明は、MaSC活性を調節するために有用な作用因子のスクリーニングを可能にする。
【0050】
関係する工程は一般に、
(i)本発明のMaSCを選択する工程;
(ii)選択されたMaSCのアリコートを適切な容器内に入れる工程;
(iii)特定期間にわたり特定条件下でMaSCのアリコートを作用因子に曝露させる工程;および
(iv)MaSCの形態学的、生理学的および遺伝的変化をスクリーニングする工程、を含んでいる。
【0051】
形態学的、生理学的および遺伝的変化は、生存率、自己再生、増殖および/または分化についてのスクリーニングを含んでいる。
【0052】
分化を測定するアッセイは、例えば、組織の段階特異的発現に結び付いた細胞表面タンパク質マーカー、酵素活性、機能的活性または形態学的変化を測定する(Watt, FASEB 5:281-284, 1991;Francis, Differentiation 57:63-75, 1994;Raes, Adv Anim Cell Biol Technol Bioprocesses, Butterworths, London, pp 161-171, 1989)。細胞増殖または分化を測定するアッセイには、例えば、ニュートラルレッド色素に対する化学感受性(Cavanaugh et al., Investigational New Drugs 8:347-354. 1990)、放射標識ヌクレオチドの取り込み(Cook et al., Anal Biochem 179:1-7, 1989)、増殖細胞のDNA中への5-ブロモ-2’-デオキシウリジン(BrdU)の取り込み(Porstmann et al., J Immunol Methods 82:169-179, 1985)、およびテトラゾリウム塩の使用(Mosmann, J Immunol Methods 65:55-63, 1983;Alley et al., Cancer Res 48:589-601, 1988;Marshall et al., Growth Reg 5:69-84, 1985;and Scudiero et al., Cancer Res 48:4827-4833, 1988)ならびに3H-チジミン取り込みを使用する増殖の測定(Crowley et al. J Immunol Methods 133:55-66, 1990)が含まれる。
【0053】
タンパク質アレイは、MaSCにおける生存率、自己再生、増殖および/または分化の状態についての特に有用なスクリーニング法を提供する。
【0054】
または、作用因子は、MaSCにおける遺伝物質の変化についてスクリーニングできる。例えば、マイクロアレイもしくはマクロアレイ分析および/または連続遺伝子発現解析(SAGE)、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション、ディファレンシャルPCRおよびサブトラクティブ・ハイブリダイゼーションなどの技術を使用すると、休止MaSCに比較して増殖および/または分化細胞中に存在する転写産物をスクリーニングすることができる。同定されると、対応する遺伝子は、発現を促進する、および抑制するのどちらかのための発現調節作用因子についての特異的標的となる。または、MaSCを潜在的作用因子に曝露させ、例えば示差的発現プロトコールを使用して遺伝物質の発現における変化を監視する。その目的は、最初にMaSC中の遺伝物質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする作用因子を見いだし、次にこれがMaSCの生存率、自己再生、増殖および/または分化に影響を及ぼすかどうかを決定することである。
【0055】
本発明による調節作用因子についてのスクリーニングは、任意の適切な方法によって達成できる。例えば、上述のように、本方法は、MaSCを試験化合物(すなわち、推定調節作用因子)に接触させる工程、およびポリヌクレオチド(これにはプロテオミクスが含まれる)によってコードされるタンパク質のレベルおよび/または機能的活性の調節、またはポリヌクレオチドによってコードされる発現産物のレベルの調節、またはタンパク質もしくは発現産物の下流細胞標的の活性もしくは発現の調節、または表面抗原プロファイルにおける変化(例えば、CD抗原プロファイルにおける変化)を含む多数の生理学的、生化学的、免疫学的もしくは遺伝学的変化についてスクリーニングする工程を含むことができる。そのような調節の検出は、ELISA、セルベースELISA、フィルター結合ELISA、阻害ELISA、ウエスタンブロット、免疫沈降法、スロットもしくはドットブロットアッセイ、免疫染色法、RIA、シンチレーション近接アッセイ、フルオレセインもしくはローダミンなどの蛍光物質の抗原結合分子コンジュゲートもしくは抗原コンジュゲートを使用する蛍光免疫アッセイ、オークターロニー二重免疫拡散分析、アビジン-ビオチンもしくはストレプトアビジン-ビオチン検出系を使用する免疫アッセイ、および逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を含む核酸検出アッセイを含むがそれらに限定されない技術を利用して達成できる。
【0056】
このため本発明は、MaSCの生存率、自己再生、増殖および/または分化を誘導させる、または阻害することのできる作用因子を同定できるスクリーニング法を提供する。さらに、本アッセイは、増加もしくは減少した遺伝子発現の存在またはタンパク質の産生を増加もしくは減少したmRNA発現(例えば、核酸プローブを用いて)、増加もしくは減少したタンパク質産物のレベル(例えば、抗原結合分子を用いて)または組み換え構築物中の標的分子関連遺伝子調節領域へ機能的に連結した増加もしくは減少したレポーター遺伝子(例、GFP、β-ガラクトシダーゼもしくはルシフェラーゼ)の発現レベルに基づいて検出することができる。
【0057】
そこで、例えば、MaSCは、特定標的培地中および培地に添加された試験化合物中で培養または維持することができる。化合物に十分な期間(例えば、1〜200時間)にわたり生理学的、生化学的、免疫化学的または形態学的変化を誘導または阻害させた後に、確立されたベースライン時からの何らかの変化は上述した当技術分野において周知の広範囲の肉眼的、顕微鏡的技術のいずれかを用いて検出することができる。核酸プローブおよび/または抗原結合分子を用いると、例えば遺伝子発現または表面抗原における変化を容易に検出できる。
【0058】
さらにまた別の態様では、固相支持体へ結合したアミノ酸の可能性のある全ての組み合わせからなるランダムペプチドライブラリーを使用すると、特定MaSC表面抗原(特定発達段階の指標である)へ結合できるペプチドを同定することができる。標的抗原は、任意の適切な技術によって精製する、組み換え発現させる、または合成することができる。そのような分子は、当業者であれば、便宜的に例えばSambrook, et al. (A Molecular Cloning- A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour, New York, USA, 1989、特に第16および第17章)ならびにAusubel et al., (「Current Protocols in Molecular Biology」 John Wiley & Sons Inc, 1994-1998、特に第10および16章)に記載されているような標準プロトコールを用いて調製することができる。または、本発明による標的抗原は、例えばNicholsonによって編集されBlackwell Scientific Publicationsによって発行された「Synthetic Vaccines」と題する刊行物に含まれているAtherton and Shephardによる「Peptide Synthesis」と題する第9章およびRoberge et al. (Science 269:202, 1995)に記載されたような液相合成法または固相合成法を用いて合成することができる。
【0059】
標的抗原と相互作用して複合体を形成するペプチド/固相支持体を同定および単離するためには、標的抗原の標識または「タグ付け」が必要になることがある。標的ポリペプチドは、アルカリホスファターゼおよびホースラディッシュペルオキシダーゼなどの酵素ならびにFITC、ローダミンおよびPEなどの蛍光レポーター分子を含む、任意の適切なレポーター分子へコンジュゲートさせることができる。任意の所与のレポーター分子と標的抗原とのコンジュゲーションは、当技術分野において日常的である技術を用いて実施できる。または、標的抗原発現ベクターは、それに対して市販されている抗原結合分子が存在するエピトープを含有するキメラ標的抗原を発現するように組み換えることができる。エピトープ特異的抗原結合分子は、酵素、蛍光色素または着色ビーズもしくは磁気ビーズを用いて標識することを含む当技術分野において周知の方法を用いてタグ付けすることができる。
【0060】
例えば、「タグ付け」標的抗原コンジュゲートは、標的抗原とライブラリー内のペプチド種との間での複合体形成を可能にするように30分間から1時間にわたり22℃でランダムペプチドライブラリーと一緒にインキュベートされる。このライブラリーは、次に任意の未結合標的抗原を取り除くために洗浄される。標的抗原がアルカリホスファターゼもしくはホースラディッシュペルオキシダーゼへコンジュゲートしている場合は、全ライブラリーがアルカリホスファターゼもしくはペルオキシダーゼのいずれかに対する基質、例えば各々5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート(BCIP)もしくは3,3’,4,4”-ジアミノベンジジン(DAB)を含有するペトリ皿内へ注入される。数分間にわたりインキュベートした後、ペプチド/固相-標的ポリペプチド複合体は変色するので、そこでマイクロマニピュレーターを備えた解剖顕微鏡下で物理的に容易に同定および単離することができる。蛍光タグ付け標的ポリペプチドが使用される場合は、複合体は蛍光活性化ソーティングによって単離できる。異種エピトープを有するキメラ標的ポリペプチドが使用された場合は、ペプチド/標的ポリペプチド複合体の検出は、標識されたエピトープ特異的抗原結合分子を用いることによって遂行できる。単離されると、固相支持体に結合したペプチドの同一性は、ペプチドシーケンシングによって決定できる。
【0061】
MaSC活性を調節できる作用因子の同定は、細胞置換療法またはインビボでのMaSC活性の調節を必要とする広範囲の疾患、状態および/または傷害の治療的治療において使用するための薬学的組成物の製造を可能にする。
【0062】
本明細書において「治療」との言及は、対象において存在する状態の重症度の減少を意味することがある。用語「治療」は、さらにまた対象における状態の発生を防止するための「予防的治療」を含むと解釈されたい。用語「治療」は、対象が完全回復まで治療されることを必ずしも意味していない。同様に、「予防的治療」は、対象が最終的にある状態に罹らないことを必ずしも意味していない。
【0063】
本明細書において使用する対象は、本発明の調節剤から恩典を得ることのできるヒト、非ヒト霊長類(例、ゴリラ、マカーク、マーモセット)、家畜動物(例、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、愛玩動物(例、イヌ、ネコ)、実験動物(例、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター)、捕獲野生動物(例、キツネ、シカ)、爬虫類または両生類(例、オオヒキガエル)、魚(例、ゼブラフィッシュ)または任意の他の生物(例、C.エレガンス)を意味する。
【0064】
その中にMaSCを導入する生物を含む、現在記載の調節剤から恩典の得られる生物のタイプに制限はない。
【0065】
本発明の最も好ましい対象は、ヒトである。
【0066】
対象は、それがヒトまたは非ヒト生物のどちらであるかとは無関係に、患者、個体、動物、宿主またはレシピエントと呼ぶことができる。
【0067】
本発明のMaSC調節剤は、薬学的組成物を形成するために、一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤と結合することができる。薬学的に許容される担体は、本発明の薬学的組成物を安定化させる、または吸収もしくはクリアランス速度を増加もしくは減少させるように機能する生理学的に許容される化合物を含有することができる。生理学的に許容される化合物は、例えばグルコース、スクロース、もしくはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸もしくはグルタチオンなどの抗酸化物質、キレート剤、低分子量タンパク質、ペプチドもしくはポリペプチドのクリアランスもしくは加水分解を減少させる組成物、または賦形剤もしくは他の安定剤および/または緩衝剤を含むことができる。リポソーム担体を含む、薬学的組成物を安定させる、またはその吸収を増加もしくは減少させるために界面活性剤を使用することもできる。ペプチドおよびポリペプチドのための薬学的に許容される担体および調製物は当業者には公知であり、科学文献および特許文献に詳述されている。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, Mack Publishing Company, Easton, PA, 1990(「Remington’s」)を参照。
【0068】
その他の生理学的に許容される化合物には、湿潤剤、乳化剤、分散剤または微生物の増殖もしくは作用を防止するために特に有用である保存剤が含まれる。様々な保存剤は周知であり、例えば、フェノールおよびアスコルビン酸が含まれる。当業者は、生理学的に許容される化合物を含む薬学的に許容される担体の選択は、例えば本発明の調節剤の投与経路およびその特定の物理化学的特性に依存することを理解するであろう。
【0069】
薬学的組成物の形状にある作用因子の投与は、当業者には公知の任意の便宜的手段によって実施することができる。投与経路には、呼吸器内、気管内、鼻咽頭内、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、皮内、筋肉内、眼内、クモ膜下、大脳内、鼻腔内、注入、経口、直腸内、パッチおよびインプラントが含まれるがそれらに限定されない。
【0070】
経口投与のためには、化合物は、カプセル剤、ピル剤、錠剤、トローチ剤、散剤、懸濁剤またはエマルジョンなどの固体または液体調製物に調製することができる。経口製剤である組成物を調製する際には、経口液体調製物(例えば、懸濁剤、エリキシル剤および液剤)の場合には例えば水、グリコール、油、アルコール、矯味剤、保存剤、着色剤、懸濁剤などの任意の通常の薬学的溶媒;または経口固体調製物(例えば、散剤、カプセル剤および錠剤)の場合には例えばデンプン、糖、希釈剤、顆粒化剤、潤滑剤、結合剤、錠剤崩壊剤などを使用できる。錠剤およびカプセル剤は、投与が容易であるために、固体薬学的担体が明白に使用される最も有益な経口製剤形を表している。所望であれば、錠剤は標準技術による糖コーティング錠または腸溶コーティング錠であってよい。活性物質は、同時に血液脳関門を通過させながら消化管を安定性に通過させるためにカプセル封入することができる。例えばInternational Patent Publication Number WO96/11698を参照。
【0071】
本発明の作用因子は、経口投与された場合は、消化から保護することができる。これは、核酸、ペプチドもしくはポリペプチドを、酸性および酵素性加水分解に対して耐性にするための組成物と複合体化する工程による、または核酸、ペプチドもしくはポリペプチドをリポソームなどの適切な耐性担体中にパッケージングする工程によるどちらかで遂行できる。化合物を消化から保護する手段は周知であり、例えば、Fix, Pharm Res 13:1760-1764, 1996;Samanen et al., J Pharm Pharmacol 48:119-135, 1996;治療薬を経口送達するための脂質組成物について記載しているU.S. Patent Number 5,391,377を参照(リポソームの送達については、以下でより詳細に考察する)。
【0072】
注射剤として使用するために適合する薬剤形には、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散剤および無菌注射剤溶液もしくは分散剤の即時調合調製物用の無菌散剤が含まれる、またはクリーム剤の形状もしくは局所適用のために適合する他の形状であってよい。それは正常および貯蔵条件下で安定性でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合液、および植物油を含有する溶媒または分散媒であってよい。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用、分散剤の場合は必要とされる粒径の維持および界面活性剤の使用によって維持できる。微生物の作用の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどの様々な抗菌剤および抗真菌剤によって実現することができる。多くの場合に、例えば、糖または塩化ナトリウムなどの等張性作用因子を含むことが好ましいであろう。注射用組成物の長期間の吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる作用因子を組成物中に使用することによって実現することができる。
【0073】
無菌注射溶液は、必要に応じて上記に列挙した様々な他の成分とともに適切な溶媒中に必要な量で組み込み、その後に濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散剤は様々な滅菌済み有効成分を、塩基性分散媒および上記に列挙した成分から必要な他の成分を含有する無菌ビヒクル内に組み込むことによって調製される。無菌注射溶液を調製するための無菌散剤の場合は、好ましい調製方法は、有効成分に以前に滅菌濾過された溶液からの任意の追加の所望の成分を加えた粉末を生成する真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0074】
非経口投与のためには、作用因子は薬学的担体に溶解し、液剤または懸濁剤のいずれかとして投与することができる。適合する担体の実例は、水、食塩液、デキストロース溶液、フルクトース溶液、エタノール、または動物、植物もしくは合成起源の油である。担体は、例えば、保存剤、懸濁化剤、可溶化剤、緩衝剤などの他の成分を含有することもできる。作用因子がクモ膜下投与される場合は、それらは脳脊髄液中に溶解させることもできる。
【0075】
経粘膜または経皮投与のためには、作用因子を送達するために、浸透しなければならない障壁に適切な浸透剤を使用できる。例えば経粘膜投与のためのそのような浸透剤は、一般に当技術分野において公知であり、胆汁塩およびフシジン酸誘導体である。さらに、浸透を促進するために界面活性剤を使用できる。経粘膜投与は、鼻腔用スプレーであってよい、または坐剤を使用できる。例えばSayani and Chien, Crit Rev Ther Drug Carrier Syst 13:85-184, 1996を参照。局所的経皮投与のためには、作用因子は軟膏、クリーム剤、軟膏、散剤およびゲル剤に調製される。経皮送達系には、パッチを含めることもできる。
【0076】
吸入のためには、本発明の作用因子は、乾燥粉末エーロゾル、液体送達系、エアジェットネブライザー、噴射剤システム(例えば、Patton, Nat Biotech 16:141-143, 1998参照;例えばDura Pharmaceuticals(カリフォルニア州サンディエゴ)、Aradigm(カリフォルニア州ヘイワード)、Aerogen(カリフォルニア州サンタクララ)、Inhale Therapeutic Systems(カリフォルニア州サンカルロス)などによる製剤および吸入送達システムを含む当技術分野において公知である任意のシステム)などを用いて送達できる。例えば、薬学的調製物は、エーロゾルまたはミストの形状で投与できる。エーロゾル投与のためには、本調製物は界面活性剤および噴射剤と一緒に細粒形で供給することができる。また別の局面では、本調製物を呼吸器組織へ送達するためのデバイスは、調製物が気化する吸入器である。その他の液体送達システムには、例えばエアジェットネブライザーが含まれる。
【0077】
持続性送達が可能な生分解性ミクロスフェアもしくはカプセルまたは他の生分解性ポリマー構造を本発明の調製物中に含むことができる(例、Putney and Burke, Nat Biotech 16:153-157, 1998)。
【0078】
本発明の医薬品を調製する際には、様々な調製修飾法を使用して薬物動態および生体内分布を変化させるために操作することができる。薬物動態および生体内分布を変化させるための多数の方法は当業者には公知である。そのような方法の例には、タンパク質、脂質(例えば、リポソーム、下記参照)、炭水化物、または合成ポリマー(上記で考察した)などの物質から構成される小胞内での本発明の組成物の保護が含まれる。薬物動態についての一般的考察については、例えば、Remington’s, Chapters 37-39を参照。
【0079】
1つの局面では、本発明の作用因子を含む薬学的調製物は、リポソームなどの脂質単層または二重層内に組み込まれる。例えば、U.S. Patent Numbers 6,110,490;6,096,716;5,283,185および5,279,833を参照。本発明は、本発明の水溶性調節剤が単層または二重層の表面に結合させられている調製物もさらに提供する。例えば、ペプチドはヒドラジド-PEG-(ジステアロイルホスファチジル)エタノールアミン含有リポソームに結合させることができる(例えば、Zalipsky et al., Bioconjug Chem 6:705-708, 1995を参照)。リポソームもしくは平面脂質膜などの任意の形状の脂質膜または例えば赤血球などの無傷細胞の細胞膜を使用できる。リポソーム調製物は、静脈内、経皮的(Vutla et al., J Pharm Sci 85:5-8, 1996)、経粘膜、または経口投与を含む任意の手段によって投与することができる。本発明は、本発明の核酸、ペプチドおよび/またはポリペプチドがミセルおよび/またはリポソーム内に組み込まれる薬学的調製物をさらに提供する(Suntres and Shek, J Pharm Pharmacol 46:23-28, 1994;Woodle et al., Pharm Res 9:260-265, 1992)。リポソームおよびリポソーム調製物は、標準方法によって調製することができ、当技術分野において周知でもある。例えばRemington’s;Akimaru et al., Cytokines Mol Ther 1:197-210, 1995;Alving et al., Immunol Rev 145:5-31, 1995;Szoka and Papahadjopoulos, Ann Rev Biophys Bioeng 9:467-508, 1980,U.S. Patent Numbers 4,235,871, 4,501,728 and 4,837,028を参照。
【0080】
本発明の薬学的組成物は、投与方法に依存して様々な単位製剤で投与することができる。典型的な調節性薬学的組成物の用量は、当業者には周知である。そのような用量は、典型的には実際上推奨量であり、特定の治療状況、患者の忍容性などに依存して調整される。これを遂行するために適切な調節剤の量は、「治療有効量」として規定されている。この使用のために有効な投与スケジュールおよび用量、すなわち「投与レジメン」は、疾患もしくは状態の段階、疾患もしくは状態の重症度、患者の全身健康状態、患者の物理的状態、年齢、薬学的調製物および活性物質の濃度などを含む様々な因子に依存するであろう。患者のための投与レジメンを計算する際には、投与様式もまた考慮に入れられる。投与レジメンは、薬物動態、すなわち薬学的組成物の吸収速度、生体内利用率、代謝、クリアランスなども考慮に入れなければならない。例えば、Remington’s;Egleton and Davis, Peptides 18:1431-1439, 1997;Langer, Science 249:1527-1533, 1990を参照。
【0081】
これらの方法によって、本発明によって規定された作用因子および/または薬学的組成物は、一つまたは複数の他の作用因子と同時投与することができる。「同時投与される」は、同一調製物または同一もしくは相違する経路による2種の相違する調製物中での同時投与、または同一もしくは相違する経路による連続投与を意味する。「連続的」投与は、2つのタイプの調節性作用因子および/または薬学的組成物の投与間の秒数、分数、時間数または日数での時間差を意味する。調節性作用因子および/または薬学的組成物の同時投与は、任意の順序で発生してよい。
【0082】
または、抗体もしくは細胞特異的リガンドまたは特異的核酸分子などのターゲッティング系の使用による、所定の細胞タイプへ活性物質をより特異的に送達するために、ターゲッティング療法を使用することができる。ターゲッティングは、例えばその作用因子が許容できないほど毒性である場合、さもなければ極めて高い用量を必要とする場合、さもなければ標的細胞に進入できない場合のように、様々な理由から望ましいことがある。
【0083】
作用因子を直接的に投与する代わりに、それらは上述したようなウイルスベクター内またはU.S. Patent Number 5,550,050 and International Patent Publication Numbers WO92/19195, WO94/25503, WO95/01203, WO95/05452, WO96/02286, WO96/02646, WO96/40871, WO96/40959 and WO97/12635に記載されているような細胞に基づく送達系内のように標的細胞内で生成することができる。ベクターは、標的細胞へターゲッティングすることができる。細胞に基づく送達系は、所望の標的部位で患者の身体内に植え込まれるように設計されており、標的作用因子に対するコーディング配列を含有している。または、作用因子は治療される細胞中で生成される、またはターゲッティングされる活性剤によって活性形へ転換するための先駆体形で投与することができる。例えば、European Patent Application Number 0 425 731 A and International Patent Publication Number WO90/07936を参照。
【0084】
当業者であれば、本明細書において記載の本発明は本明細書に具体的に記載した以外の変形および修飾を受ける可能性があることを理解するであろう。本発明は、そのような変形および修飾全てを含むことを理解されたい。本発明は、さらにまた本明細書において言及した、または指示した全ての工程、特徴、組成物および化合物、ならびに該工程または特徴の任意の2つ以上の一部および全ての組み合わせを含んでいる。
【0085】
以下では、本発明を非限定的実施例によって詳細に記載する。
【0086】
実施例1:一般的実験方法
乳腺細胞の調製
Alvi et al., Breast Cancer Res 5:R1-R8, 2003に記載されたインビボ乳腺上皮細胞移植アプローチを用いて、マウス乳腺上皮幹細胞の性質を評価した。乳腺上皮細胞精製のためのプロトコールを最適化し、図2に要約した。このプロトコールは、最初に8週齢マウス由来の第3、第4(目に見えるリンパ節を最初に除去した後)および第5乳腺を採取する工程を含んでいた。採取した乳腺はMcIllwain組織チョッパーを用いて機械的に分離し、次に解離培地(DME-HAM、5%(v/v)FCS、5μg/mLインスリン、500ng/mLのヒドロコルチゾン、10ng/mLのEGFおよび20ng/mLのコレラ毒素)中で300U/mLのコラゲナーゼおよび100U/mLのヒアルロニダーゼを用いて、20分毎に強力な粉砕を行ないながら37℃で1時間にわたり酵素により破壊した。生じた類器官懸濁液は、0.25%(w/v)トリプシン/1mM EGTAを用いて37℃で1〜2分間にわたり細胞-細胞相互作用を破壊し、5mg/mLのディスパーゼおよびDNAseを用いて37℃で5分間にわたり基底膜成分を破壊して凝集したDNAを分解させ、そして0.8%(w/v)NH4Cl/1mM EDTAを用いて室温で1〜2分間にわたり赤血球汚染を減少させることで連続的に処理した。生じた懸濁液を最後に40μmフィルターに通過させて任意の残留大細胞凝集物を除去し、血球計算器上で計数することによって非赤血球数を決定した。
【0087】
細胞懸濁液は次に、ある細胞表面分子に対して特異的な他の抗体を用いる免疫染色の前に、ラット免疫グロブリンおよび抗Fc受容体抗体を用いてブロッキングした。表現型に関して別個の細胞集団の同定およびFACS精製を可能にするために、これらの抗体を蛍光マーカーへコンジュゲートさせた。免疫染色細胞集団のフローサイトメトリー分析を次に実施し、対象となる細胞集団をFACSによって精製した。選別した後、精製した細胞は、2%(v/v)FCSおよび10%(w/v)トリパンブルーを備える平衡食塩液中での所望の濃度で再懸濁させることによって、移植のために調製した。
【0088】
上述した方法の軽度の代替法において、8週齢雌性マウスから乳腺を解剖して分析した。McIlwain組織チョッパー(The Mickle Laboratory Engineering Co. Ltd.、英国ギルドフォード)を用いて機械的に分離した後、組織は、300U/mlのコラゲナーゼ(Sigma、米国セントルイス)および100U/mlのヒアルロニダーゼ(Sigma)を含有する培養培地(CM)(5%(v/v)ウシ胎児血清(BCS)を補給した1mMグルタミン、5μg/mlのインスリン、500ng/mlのヒドロコルチゾン、10ng/mlのEGFおよび20ng/mlのコレラ毒素を含有するDME HAM)中に入れ、37℃で1時間消化した。生じた類器官懸濁液を連続的に、1〜2分間にわたり0.25%(w/v)トリプシン-EGTA、5分間にわたり5mg/mlのディスパーゼ(Roche Diagnostics、米国インディアナポリス)および0.1mg/mlのDNase(Worthington、米国レークウッド)、ならびに3分間にわたり0.8%(w/v)NH4Cl中へ再懸濁させ、その後に濾過および標識化した。
【0089】
細胞標識、フローサイトメトリーおよび細胞選別
37℃で6μg/mlのHoechst33342(Sigma)を用いてHoechst染色を実施した。ブロッキングは、ラットγグロブリン(Jackson Laboratories、米国ウエストグローブ)および抗CD16/CD32 FcγIII/II受容体抗体(BD Pharmingen、米国サンディエゴ)中で10分間にわたり実施した。抗体インキュベーションは4℃で25分間実施した。他に特に規定しない限りBD Pharmingenから購入したマウス抗原に対する抗体は、CD24-PE、ビオチン化およびAPCコンジュゲート化CD31、ビオチン化およびAPCコンジュゲート化CD45、ビオチン化TER119、Sca-1-FITCおよび-PE、CD29-FITC(Chemicon Europe、英国ハンプシャー)、ならびに抗乳汁(Nordic Immunological Laboratories、オランダ国ティルブルフ)を含有していた。ストレプトアビジン-APCはBD Pharmingenから購入した。蛍光色素コンジュゲート化二次抗体は、抗ウサギIg-Alexa594および-Alexa488(Molecular Probes、米国ユージーン)を含んでいた。細胞は、分析前に0.5μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma)中に再懸濁させた。データ分析は、WEASELソフトウエア(http://www.wehi.edu.au/cytometry/WEASELv2.htm1)を用いて単一の生細胞ゲート上で実施した。細胞選別は、FACSDiVa、FACStarまたはFACS Vantageセルソーター(Becton Dickinson、カリフォルニア州マウンテンビュー)上で実施した。選別した細胞集団の純度は、日常的に95%を超えていた。
【0090】
MFP移植技術
本調査において使用したMFP移植技術は、図3に要約した。これは、DeOme et al., Cancer Res 19:515-520, 1959によって開発され、後になって細胞懸濁液を移植するために適応させられた。同系の3週齢の雌性思春期前マウスの第4乳腺を「逆Y字」切開によって露出させ、乳頭とリンパ節との間の乳腺の上皮形成部分を焼灼および切除によって取り出した。残留している脱上皮形成間質組織であるMFPを皮下組織から解離させ、背部へ付着したまま残っている腹膜上に折り返した。最後に、30G注射針を用いるHamiltonシリンジを介して容量10μLの細胞懸濁液をMFP内へ注射した。MFP内に注射された細胞懸濁液の存在は、懸濁液中に存在するトリパンブルーに起因する青色気泡の出現によって確証された。注射の技術的な質を記録し、不適切な注射は、それから上皮増殖物が生じない限り、分析から除外した。移植から5週間後にマウスを致死させ、レシピエントMFPをホールマウントし、Carnoys溶液中で固定した。それらは次にヘマトキシリンを用いて染色し、顕微鏡下で評価した。乳管および小葉両方の要素を有する上皮増殖だけを陽性と見なした。
【0091】
マウス
FVB/NJ、C57BL/6、Rosa-2615(C57BL/6 戻し交配)、MMTV-Wnt-1(BALB/c 戻し交配)、およびMMTV-neu(FVB/NJ 戻し交配)マウスを動物施設で飼育かつ飼養した。
【0092】
乳腺脂肪パッドの移植および分析
選別した細胞は、0.04%(w/v)トリパンブルー(Sigma)および50%(v/v)ウシ胎児血清(FCS)を備えるPBS中に再懸濁させ、10μLの用量で、内因性上皮が取り除かれていた3週齢の雌性マウスの鼡径腺内へ注射した。移植前の細胞の視認は、10μLのTerasakiウエル内で実施した。5〜10週間後にレシピエント乳腺を評価のために切除した。野生型乳腺増殖物はヘマトキシリンを用いて染色した。LacZ+増殖物は、36〜48時間にわたるX-gal染色によって検出した。増殖物は、小葉および/または末梢芽状突起を備える、中心点から発生した乳管を含む上皮構造であると規定した。二次移植片については、一次レシピエント乳腺からのLacZ+細胞懸濁液をゲノムDNAのPCRによって同定した。
【0093】
インビトロアッセイ
コロニーアッセイのために、10,000/cm2の照射NIH-3T3細胞の存在下で、0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)を備えるCMを含有する24ウエルプレートのウエル内へ直接的に選別した。培地は、24時間後に血清無含有培地と交換し、5日後にコロニーをメタノール:アセトン(1:1)を用いて固定し、Giemsaを用いて染色し、そして計数した。三次元分析のためには、細胞を冷却した100%(w/v)マトリゲル中に再懸濁させ、ゲルを固化させ、その後に上述のように血清無含有培地で被覆した。1週間後に、培地は1mMグルタミン、5μg/mlのインスリン、500ng/mlのヒドロコルチゾンおよび5μg/mLのプロラクチンを含有するDME-HAMへ取り替え、細胞は2週間培養した後に4%(v/v)パラホルムアルデヒド中で固定し、70%(v/v)エタノール中で脱水し、さらに切片作製のためにパラフィン中に包埋した。
【0094】
免疫染色
冷凍切片は、OCT中に包埋した組織から調製した。100%(v/v)アセトン中で固定した後、切片を再水和し、PBS中の5%(v/v)BCSを用いてブロッキングした。パラフィン包埋切片を脱ろうし、PBS中で洗浄し、20分間にわたり10mMクエン酸バッファー中での沸騰および15分間にわたる150mMグリシンを用いた処理による抗原回収を供し、その後に上述のようにブロッキングした。一次抗体染色は4℃で一晩かけて実施し、他方二次抗体染色は室温で30分間実施し、室温で5分間にわたりDAPI染色した。切片は、Leica DMIRE2倒立顕微鏡に連結したLeica TCS4 SP2スペクトル共焦点スキャナー上でイメージングした。
【0095】
実施例2:限界希釈試験
細胞集団中での乳腺幹細胞の頻度を確立するために、乳腺再構築能についての限界希釈分析を実施した。限界希釈分析は、ある特性(本発明者らの場合には、インビボで乳腺上皮構造を形成する能力)を有する特異的集団内の細胞頻度を決定するための明確に確立された方法である。これは問題の細胞が懸濁液中の他の細胞とは無関係にこの特性を有することを推測させる。本発明者らの方法では、移植された細胞数を減少させると、移植された細胞数の対数と陽性増殖物の比率との間に線形関係が存在するように、漸進的により小さな比率の陽性増殖物を生成するはずである。本発明者らの再構築データの統計的解析は、L-Calcソフトウエア(Stem Cell Technologies、カナダ国バンクーバー)を用いて実施した。
【0096】
全細胞集団中の乳腺再構築性細胞頻度は、汎白血球マーカーCD45および赤血球マーカーTER119、ならびにヨウ化プロピジウム(PI)取り込みによって決定される生育不能細胞を用いて、不純造血細胞から最初に枯渇させた後に分析した。一晩または長期間の培養を受けていない新しく調製した細胞を用いると、生育性CD45loTER119lo細胞の再構築頻度はほぼ1/3000であることが見いだされた(図4)。FVBおよびC57Bl/6動物間で類似の再構築頻度が認められた。計算限界希釈率でCD45hiTER119hi細胞を備える対照移植片は、増殖物を生成しなかった。その後の全部の分析は、ゲーティングされた生育性CD45loTER119lo細胞集団に関する。
【0097】
実施例3:Hoechst33342を用いて染色した乳腺細胞調製物のフローサイトメトリー分析
本発明者らが新しく単離した乳腺上皮細胞集団中で、Ho染色流出アッセイを用いてSP細胞を同定した。抗体染色の前に、Ho染料を3mg/mLの濃度で細胞に加え、1時間にわたり37℃でインキュベートした。SP細胞の存在は、Hoechst染料の流出の原因となるBCRP1/ABCG2膜トランスポーターポンプを阻害することが証明されているベラパミルを用いた細胞の処理によって確証された。SP細胞は、本発明者らの乳腺細胞調製物中で約1%の細胞を占めていた(図5)。
【0098】
実施例4:SPおよびMP細胞の再構築性細胞頻度
SP細胞が主集団(MP)細胞に比較して乳腺再構築能について富裕であるかどうかを決定するために、限界希釈試験において様々な比率の精製SPおよびMP細胞をマウスの切除された脂肪パッド内に移植した。SP細胞は全ゲート細胞の1%以下しか含んでいないので、乳腺を再構成するためにはMP細胞の少なくとも100分の1のSP細胞が必要とされると予測されるであろう。乳腺増殖物を生じさせたのは、SP移植の25例中1例に過ぎなかった。これとは対照的に、比例的に同等のMP細胞が移植された場合は、25回中19回で増殖物が観察された。L-Calcソフトウエアを用いて、SPおよびMP内の再構築性細胞頻度は約1/3,000であると決定された。SP細胞中では、乳腺再構築能の富裕は観察されなかった。重要なことに、この観察に対する必然の結果は、全集団からのSP細胞の枯渇はMP内に残留している細胞の再構築能を危うくしないことであった(図6)。そこで、乳腺SP細胞は、乳腺幹細胞について富裕であるとは思われない。
【0099】
実施例5:多数の細胞表面マーカーのフローサイトメトリー分析
マウス乳腺上皮細胞中の他の数種の細胞表面マーカーの存在を試験した(図7)。以前に公表された研究(Welm et al., Dev Biol 245:42-56, 2002)とは対照的に、本発明者らは、本発明者らの調製物中の細胞の大多数がSca-1を発現することを見いだした。その後の分析は、CD31を用いた内皮細胞枯渇後のSca-1hi細胞の減少したパーセンテージを証明したが、それでもまだ予想より多かった(図11)。二次元分析は、CD29/β1-インテグリン、CD49f/α6-インテグリン、およびPNAの有意な共発現を証明した(データは示していない)。造血幹細胞において以前に記載されたローダミン123loまたはc-kithi集団は、検出されなかった(データは示していない)。
【0100】
実施例6:4つの別個の集団が存在する
細胞表面マーカーCD24/HSAおよびCD29/β1-インテグリンを用いたCD45loTer119loCD31lo細胞の染色によって4つの別個の集団が明らかになった(図8)。CD24hiCD29hi細胞は、大多数(87%)の乳腺細胞を含有していたCD24loCD29loに比較して、約0.8%のCD45loTer119loCD31lo細胞を含んでいた。CD24+CD29-およびCD24-CD29+細胞は、CD45loTer119loCD31lo細胞の各々8.1および3.7%を占めていた。
【0101】
実施例7:SPおよびMP細胞の再構築性細胞頻度
限界希釈法での4つの精製集団の移植は、CD24hiCD29hi亜集団内の再構築性細胞についての実質的富裕を明らかにした(図9)。例えば、1つの実験では、100個のCD24hiCD29hi細胞は3/11のレシピエント乳腺中での乳腺増殖物を十分に生じさせることができた(図10)。また別の実験では、60個のCD24hiCD29hi細胞が移植された2/7匹の動物が乳腺増殖物を発生したが、他方残り3つの集団では何も検出されなかった。図9に示した3回の独立実験から引き出されたデータを用いると、L-Calc分析は、CD24hiCD29hi集団の再構築性細胞頻度が1/278であることを指示した。上記の分析には含まれていないが、それでも所見を支持しているまた別の実験は、Ho色素流出能力によってCD24hiCD29hi細胞を分類した。この実験では、CD24hiCD29hi MP細胞が移植された3/4のMFPは増殖物を発生した。そこで乳腺上皮細胞の1%未満を占めるCD24hiCD29hi集団(CD45loTer119loCD31lo染色によって規定される)は、全集団と比較して再構築性細胞がほぼ10倍富裕であるので、本発明者らは、乳腺幹細胞を含有すると考える。
【0102】
実施例8:CD29、CD24およびSca-1を用いて三重染色したCD45loTERloCD31lo細胞のフローサイトメトリー分析
CD24hiCD29hi細胞は、Alexa594コンジュゲート化抗体を用いた三重染色を用いて、Sca-1発現についても評価した。Sca-1発現は、再構築性細胞について富裕であると思われるCD24hiCD29hi集団中では低い(しかしゼロではない)ことが見いだされ、Sca-1loであると見いだされた(図11)。さらにSca-1hiおよびSca-1lo細胞の再構築能を比較した2つの独立移植実験はScahi細胞に由来する増殖物を産生しなかったが、Sca-1lo細胞が移植された乳腺では増殖物が発生した(図12)。そこで、このデータは、Sca-1が乳腺上皮幹細胞について富裕であることを示すマーカーではないことを示唆している。
【0103】
実施例9:短期間培養
CD24およびCD29染色によって選別されたCD45loTer119loCD31lo細胞が短期間培養において増殖する能力は、200個の細胞をコラーゲン被覆プレート上にプレーティングし、BSA、5μg/mLのインスリン、500ng/mLのヒドロコルチゾン、10ng/mLのEGFおよび20ng/mLのコレラ毒素を含有するDME-HAM中で37℃および5% CO2/5% O2大気下で培養し、5日後にコロニー数を決定することによって評価した。興味深いことに、CD24+CD29+細胞は再現性で最大数のコロニーを発生させたが(図13)、これらは一般により大きくもあった。そこでコロニー形成は、これらの細胞の増強した乳腺再構築能と相関すると思われた。
【0104】
実施例10:Lin-CD29hiCD24+ MaSC
新しく単離した乳腺細胞懸濁液中において、MaSCおよびそれらの誘導体上で発現する細胞表面マーカーを同定した。乳腺は、上皮、内皮、間質および造血細胞を含む不均質な細胞タイプ混合物を含むので、これらの細胞を枯渇させるために内皮(CD31)および造血(CD45およびTER119)抗原に対する抗体を便宜的に使用した。実質的CD45+およびCD31+集団は、CD45-CD31-TER119-(Lin-)集団上でゲーティングすることによって除外した。造血幹細胞に対して使用した分析に類似する、限界希釈分析(Fazekas de St, J Immunol Methods 49:R11-23, 1982)を使用して規定された亜集団の細胞中で乳腺再構築「単位」(MRU)の頻度を決定した。Lin-細胞は、蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって単離し、レシピエントマウスの乳腺脂肪パッド(MFP)内へ減少数で移植した。不可欠の全上皮要素を含有する特徴的な増殖物のパーセンテージ(方法の項を参照)を注入された各細胞数について確定し、Lin-集団内のMRUの頻度は1/4,900であると計算された(表2)。5,000個の移植されたLin-細胞から発生した増殖物の例は、図1bに示した。これとは対照的に、Lin+ゲートからの3,000個の細胞の22片の移植片は3回の独立実験において増殖物を生成せず、これはMRUがこのサブセット内では富裕でないことを示している(図13b)。
【0105】
4つの別個のLin-亜集団は、神経幹細胞を富裕化させるために使用されており、ヒト乳房腫瘍上で発現するCD24(熱安定性抗原)、および2つの発現プロファイリング試験において幹細胞調節において関係付けられている皮膚における幹細胞マーカーであるCD29(β1-インテグリン)の発現に基づいて規定した(図13c)。これらの4つの集団におけるMRUの頻度は、FACSによる単離およびLin-集団におけるそれらの頻度に比例する数での乳腺脂肪パッド移植後に決定した。MRUはLin-CD29hiCD24+集団内でほぼ8倍に富裕化したが、他の3つのサブセットでは有意な富裕は見いだされなかった(表3)。CD49f(α6インテグリン)発現についての共染色によって、Lin-CD29hiCD24+ゲート内のCD49f++細胞の有意な富裕が明らかになった。興味深いことに、Lin-CD29hiCD24+集団は年齢に伴って増加したが、しかし一致はしなかった。このためこれらの細胞は、妊娠によって誘導されたより大きな乳腺上皮細胞集団とは別個であると思われ、最近では幹細胞様特性を有すると報告されている。
【0106】
精製法は、移植前の細胞の二重選別、計数および生育性の決定によって精緻化した。さらに、偏在的に発現したLacZ導入遺伝子(Friedrich and Sorinao, Genes Dev 5:1513-1523, 1991)を有するRosa 26マウスから野生型レシピエント内に移植された細胞は、採取した乳腺中でのLacZ(β-ガラクトシダーゼ)活性について染色することによってドナー起源の検証を可能にした。このより定量的方法を用いると、Lin-CD29hiCD24+集団において計算されたMRU頻度は1/64へ増加したが、他の集団については有意に変化しなかった(表4)。図13dは、これらの移植片の1つから入手されたLacZ-陽性(LacZ+)上皮増殖物を示している。細胞が移植中には不可避的に消失することを前提にすると、Lin-CD29hiCD24+集団内の実際MRU頻度は1/64より高い可能性が高い。
【0107】
Sca-1\Ly6A\Eの発現をLin-CD29hiCD24+亜集団において評価した。しかし、Sca-1、CD29およびCD24についての共染色によって、Lin-CD29hiCD24+ゲート内の有意なSca-1hi集団は明らかにならなかった(図13e、左のパネル)。この観察をインビボで確証するために、Sca-1発現およびサイズに基づいて分画した細胞を移植した(図13e、右のパネル)。MRU頻度はSca-1hiまたはサイズの大きな集団に比較してサイズの小さなSca-1lo集団内では少なくとも3倍高かった(表5)。Sca-1発現は、3日間にわたり培養した乳腺上皮細胞上では実質的に上昇することが見いだされた。
【0108】
全部ではないが数種のタイプの幹細胞は、膜トランスポータータンパク質の発現に起因して、Hoechst33342などの色素を排除する上昇した能力を有する。この能力を有する細胞には、造血細胞、神経細胞および筋原細胞が含まれるが、精原幹細胞は含まれない。乳腺では、上昇した色素流出を示すHoechst副集団(SP)内の細胞は、前駆細胞活性が富裕であると報告されている。しかし、Hoechst SPは、Hoechst、CD29およびCD24を用いた共染色によってLin-CD29hiCD24+ゲート内では枯渇していることが見いだされた。このため、インビボで副集団および主集団(MP)内のMRU頻度を決定することが可能であった(図1f)。MP細胞は確実に上皮増殖物を発生させたが、SPからは上皮増殖物は発生しなかった。MP細胞の計算MRU頻度は、Lin-集団のMRU頻度に類似して1/2,900であった。Lin-集団からのSP細胞の排除は、その内部でのMRU頻度を減少させなかった。そこでSP分画内にはMaSCの富裕はないが、一部の乳腺前駆細胞がその中に存在すると結論された。
【0109】
Lin-CD29hiCD24+集団が乳腺前駆細胞については富裕であるというまた別の証拠は、上皮細胞コロニーについての細胞培養アッセイから生じた。有意なコロニーを産生したのは2つのCD24+集団だけであり、Lin-CD29hiCD24+サブセットは、実質的に大きなコロニーとともに、2倍から3倍高い頻度を示した(図14a)。細胞の分化能力を評価するために、マトリゲル内でのLin-CD29hiCD24+およびLin-CD29loCD24+細胞の増殖を乳腺刺激性条件下で比較した。Lin-CD29loCD24+集団由来の細胞は、プロラクチン刺激後に乳汁タンパク質を産生する単細胞層状の、腺胞様構造しか形成しなかった(図14b、上の列)。このため、この集団は限定された分化能力を備える前駆細胞を含有する可能性がある。これとは対照的に、Lin-CD29hiCD24+細胞は、乳管形状および多細胞性球状体、ならびにLin-CD29loCD24+集団からのそれらへ時々は腺胞様の乳汁産生構造を含む形態学的に識別可能な構造の不均質混合物を形成した(図14b、下の列)。Lin-CD29hiCD24+細胞の拡大された範囲の分化ならびにそれらの増強されたコロニー形成能力は、この集団に乳腺前駆細胞が富裕であることを示している。これらの所見と適合して、高レベルのびまん性CD29発現は、高発現が主として規定外側領域に制限されている成熟乳管に比較して、幹細胞中で富裕であると推定された末梢芽状突起のキャップ細胞領域内で明白であった(図14c)。
【0110】
乳腺内での系譜発達の「共通前駆細胞モデル」を試験するために、Lin-CD29hiCD24+ MRUが単細胞を構築するかどうかを決定した。Rosa 26マウス由来のLin-CD29hiCD24+細胞は、二重選別後に計数し、Lin-CD29hiCD24+細胞が枯渇した野生型集団からの支持細胞(5×103)を用いて、または用いずに、1回分の注射用量当たり細胞1個の濃度で再懸濁させた。68回の注射から8個のLacZ+上皮増殖物が生成した(表3)。注目すべきことに、支持細胞は増殖物またはそのサイズの可能性に影響を及ぼさなかった。8個の増殖物は2つ以上の系譜限定前駆細胞から生じた可能性があるが、計算はこれが極めてありそうもないことを証明した。統計的分析に関連して、乳腺再構築性細胞頻度は、陰性結果の比率およびポアソン統計学に基づいて、R統計ソフトウエア(R Development Core Team, 2004, http://www.R-project.org)一般化線形モデル関数およびL-Calc限界希釈分析ソフトウエア(Stem Cell Technologies、カナダ国バンクーバー)を用いて計算した。細胞懸濁液からのアリコート中の乳腺再構築性細胞数の確率は、平行実験(26%は2回ずつ、1%は3回ずつ)において実験的に観察された比率でのポアソン分布中の細胞凝集物の存在を仮定して、シミュレーションプログラムおよびR統計ソフトウエアを用いて計算した。
【0111】
「単細胞懸濁液」移植片アッセイでは、8/68例の注射が全乳腺上皮細胞系統が発達するために必要とされる2種以上の細胞を含有している確率は、上記の仮定に基づき、そしてLin-CD29hiCD24+集団内ではMRUの1/3の頻度を保存的に推定することにより、0.01であると計算された。したがってこれらのアッセイからの増殖物は、単細胞から発生した可能性が極めて高い。
【0112】
自己再生アッセイでは、25個以下の細胞の各一次増殖物が1つより多い細胞から発生した確率は、計算された1/64のMRC頻度に基づき、そして1アリコート当たりの細胞数のポアソン分布を想定して、0.05であると計算された。二次増殖物の最小数は4であったので、一次移植片中に少なくとも4個のMRCが存在する機会は0.007未満であると計算された。そこで一次増殖物はクローン性である可能性が極めて高く、そこで自己再生が主として移植されたMaSC内で発生する可能性が極めて高い。
【0113】
単細胞が除去された脂肪パッドを完全に再構築できることを明確に証明するために、10μLのTerasakiウエル中で顕微鏡下で視認されていた個別の二重選別されたLin-CD29hiCD24+ Rosa細胞を移植した。2回の個別実験を含む70個の移植片から4個のLacZ+増殖物が生成され(表6および図15a)、そして以前に観察されたように、支持細胞の存在は何の影響も及ぼさなかった。脂肪パッドの実質的移植は明白であり、増殖物の組織学的切片作製は、筋上皮細胞および管腔上皮細胞両方から構成される正常乳管構造を明らかにした(図15b)。さらに、妊娠レシピエントに由来する乳腺切片の免疫蛍光染色は、乳管管腔内の乳汁タンパク質を明らかにした(図15c)。そこで、単一Lin-CD29hiCD24+細胞は全乳腺を再構成することができ、これはその高度の増殖性および多能分化能力を証明している。
【0114】
Lin-CD29hiCD24+乳腺再構築性細胞が自己再生できるかどうかを評価するために、Lin-CD29hiCD24+細胞の一次移植片に由来する上皮増殖物をフローサイトメトリーによって分析し、再移植した。一次移植片増殖物は野生型マウスと同一のCD29およびCD24プロファイルを含んでいたが(図15d)、他方非移植乳腺脂肪パッドからの細胞懸濁液はCD24-であり(図15d)、これはCD24+細胞がドナー由来であることを示していた。二次移植のために、26個の二重選別Lin-CD29hiCD24+ Rosa細胞より少数で発生し、このために単細胞に由来した可能性が極めて高い一次移植片を使用した。LacZ遺伝子についてのPCR分析によって検証した一次増殖物各々からの細胞は、少なくとも4例のレシピエント内でLacZ+増殖物を生成した(図15eおよび表3)。そこでLin-CD29hiCD24+乳腺再構築性細胞は、幹細胞の決定的な特徴である自己再生が可能である(Weissman, Cell 100:157-168, 2000)。
【0115】
この証拠は、乳ガンについての腫瘍幹細胞の存在を支持している(Al-Hajj et al, 2004、前記)。このため、マウスの乳腺腫瘍を発生する傾向のある2つの系統における幹細胞マーカーCD29およびCD24の発現について試験した。多重産雌性MMTV-Wnt-1マウスから採取した過形成性であるが前ガン状態の乳腺組織は、Lin-CD29hiCD24+亜集団の顕著な拡大(図16a)を証明し、上皮CD24+集団内のCD29hi細胞のパーセンテージは対照マウスに比較してトランスジェニックマウスでは2倍高かった(図16b)。これらの所見は、MMTV-Wnt-1発ガン遺伝子は、未分化前駆細胞もしくは幹細胞を標的とするので、異種腫瘍を発生させるという提案と適合する。さらに、Wntシグナリング経路は、造血幹細胞における役割と平行して、MaSCの自己再生を調節することができる。これとは対照的に、管腔上皮腫瘍のために死んだMMTV-neuマウスからの新生物発生前乳腺組織は、幹細胞富裕集団の拡大を示さなかった(図16a、b)。これらのデータは、MMTV-Wnt-1マウスにおける乳腺腫瘍が幹細胞集団から発生する、そして別個の内皮細胞タイプがMMTV-neu腫瘍原性モデルにおける形質転換の標的であるという仮説を支持している。
【0116】
本試験は、単一内皮幹細胞から全器官が再構成されるという最初の説明を提供しており、他の上皮組織からの幹細胞の単離と密接な関係を有するはずである。乳腺内で、幹細胞機能を支配する遺伝子の描写および系譜拘束は、正常な前駆細胞および乳ガン幹細胞の新規なマーカーの同定を最終的には可能にするはずである。
【0117】
当業者であれば、本明細書において記載の本発明は本明細書に詳細に記載した以外の変形および修飾を受ける可能性があることを理解するであろう。本発明は、そのような変形および修飾全てを含むことを理解されたい。本発明は、さらにまた本明細書において言及した、または指示した全ての工程、特徴、組成物および化合物、ならびに該工程または特徴の任意の2つ以上の一部および全ての組み合わせを含んでいる。
【0118】
(表2)LIN-乳腺細胞中のMRU頻度
Lin-ゲート由来の野生型細胞を(機械計数に基づく)指示した数で3週齢のレシピエントの除去されたMFP内へ注射し、MFPを表1に記載したとおりに分析した。データは7回の独立実験からのものである。*注射したMFP数当たりの増殖物の数として示した。
【0119】
(表3)CD29およびCD24発現によって規定されたLIN-乳腺細胞のサブセット内のMRU頻度
CD24およびCD29発現によって規定された4つのLin-サブセット由来の野生型細胞を(機械計数に基づく)指示した数で3週齢のレシピエントの除去されたMFP内へ注射し、MFPは表1に記載したとおりに分析した。データは6回の独立実験からのものである。*注射したMFP数当たりの増殖物の数として示した。†最高数の細胞が移植された1匹のマウスが1個の増殖物を発生したと仮定して計算された。
【0120】
(表4)CD29およびCD24発現に基づいて二重選別かつ視認されたLIN-乳腺細胞の相違するサブセット内のMRU頻度
Lin-CD29loCD24+、Lin-CD29hiCD24-およびLin-CD29hiCD24+集団からのLacZ+細胞を二重選別し、計数し、指示した数で3週齢のレシピエントの除去されたMFP内へ注射した。5〜8週間後に、レシピエントを処女として致死させ、それらのMFPを上皮増殖物の存在について試験した。各細胞集団についてのMRU頻度は、移植された細胞数として上述した範囲のメジアン値を用いて、L-calソフトウエアを用いて計算した。*注射したMFP数当たりの増殖物の数として示した。†最高数の細胞が移植された1匹のマウスが1個の増殖物を発生すると仮定して計算された。
【0121】
(表5)HOECHST33342除外および高SCA-1発現はLIN-乳腺細胞中でのMRU富裕サブセットを規定しない
R3、R4、R5(図1e)、MPまたはSP(図1f)ソーティングウインドウからの野生型細胞を指示した数で3週齢のレシピエントの除去されたMFP内へ注射し、MFPを表1に記載したとおりに分析した。データは各マーカーについての3回の独立実験からのものである。*注射したMFP数当たりの増殖物の数として示した。
【0122】
(表6)単一Lin-CD29HICD24+細胞からの増殖物
Rosa 26マウスから選別された単一LacZ+細胞を3週齢のレシピエントの除去されたMFP内へ注射し、そしてMFPを表4に記載したとおりに分析した。†細胞は、10μLあたり1個の細胞を含有する単細胞懸濁液、または単細胞がその中で視認されていた個々の10μLのアリコートのいずれかから採取した。これらの単細胞移植片アプローチの各々からのデータは2回の独立実験からプールした。*注射したMFP数当たりのLacZ+増殖物の数として示した。§指示された一次移植片由来のLacZ+増殖物からの細胞は、除去されたMFP内へ二次的に移植した。5回の独立実験からデータを示した。
【0123】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】乳腺上皮細胞の発達について提案されたモデルの略図である。
【図2】乳腺上皮細胞の調製についてのプロトコールの略図である。
【図3】インビボ移植試験のための方法の略図である。
【図4】限界希釈試験の結果の表形式での表示である。
【図5】Hoechst33342を用いて染色した乳腺細胞標本についてのフローサイトメトリー分析の結果のグラフ表示である。
【図6】SPおよびMP細胞の再構築性細胞頻度を示したグラフおよび表である。これらの表は生集団データを示している。ヒストグラムは、L-Calc分析の結果を示している。エラーバーは95%信頼区間を表す。
【図7】多数の細胞表面マーカーについてのフローサイトメトリー分析を示したグラフである。影の付いていない曲線は、アイソタイプ染色した対照を表している。
【図8】CD29-FITCおよびCD24-HSAを用いて共染色したCD45loTERloCD31lo細胞のフローサイトメトリー分析を示したグラフである。
【図9】SPおよびMP細胞の再構築性細胞頻度を示したグラフおよび表である。これらの表は生集団データを示している。ヒストグラムは、L-Calc分析の結果を示している。エラーバーは95%信頼区間を表す。
【図10】レシピエントMFPのホールマウント分析を示したグラフである。このグラフは、移植されたCD24loCD29lo細胞から発生した空MFP(右上)とは対照的に、移植されたCD24hiCD29hi細胞(左上、左下に拡大図)からの典型的な増殖物を示している。
【図11】CD29、CD24およびSca-1を用いて三重染色したCD45loTERloCD31lo細胞のフローサイトメトリー分析を示したグラフである。
【図12】相違するSca-1発現レベル(Sca-1lo対Sca-1hi)を備える細胞の再構築能を比較した、MFP移植実験の結果を示したグラフおよび表である。
【図13】CD24およびCD29染色によって選別された短期間培養で増殖するCD45loTer119loCD31lo細胞を示した写真および表である。
【図14】Lin-CD29hiCD24+集団におけるMRUの富裕を示している図である。a、乳腺細胞懸濁液中での造血(CD45、Lin(TER119)および内皮(CD31)系譜の細胞表面マーカーの発現(左のパネル);限界希釈移植片分析のためにLin-(右のパネル、R2ゲート)およびLin+(右のパネル、R1ゲート)細胞を選択するために使用したゲーティング戦略。b、5,000個のLin-細胞(左のパネル)および3,000個のLin+細胞(右のパネル)が移植された妊娠レシピエントMFPの典型的なヘマトキシリン染色ホールマウント。バー:750μm。c、Lin-集団におけるCD24およびCD29の発現(左のパネル);移植のためにCD29およびCD24によって規定された4つのLin-集団由来の細胞を精製するために使用したゲーティング戦略(右のパネル、表示したパーセンテージは典型的な数値である)。d、13個の可視化して二重選別したLin-CD29hiCD24+細胞の移植から発生したLacZ+の増殖物。バー:250μm。e、Lin-CD29hiCD24+集団内のSca-1の発現(左のパネル、点線はアイソタイプによる標識を示している);移植のためのSca-1発現およびサイズによって細胞を精製するために使用したゲーティング戦略(右のパネル、R3〜5ゲート)。f、全Lin-集団(中央のパネル)と比較したLin-CD29hiCD24+亜集団(左のパネル)におけるHoechst SP細胞の欠失;Hoechst染色(中央のパネル)によって細胞を精製するために使用されたゲーティング戦略;100mMのベラパミルの添加によって誘導したLin-集団におけるSP細胞の消失(右のパネル)。
【図15】Lin-CD29hiCD24+乳腺細胞の増加した前駆細胞能力についてのインビトロの証拠を示している図である。a、CD29およびCD24発現によって規定された4つのLin-細胞集団のコロニー形成能力(ヒストグラムは平均値±SEMを示している、n=5)。b、Lin-CD29loCD24+およびLin-CD29hiCD24+細胞のMatrigel培養によって生成した代表的構造(各々、上および下のパネル);ゲルの明視野画像(左のパネル;バー:100μm)、H&E染色切片(中央のパネル;バー:10μm)、および抗乳汁抗体を用いた標識(右のパネル、矢じりは乳汁産生構造を示している;矢印は非乳汁産生構造を示している;はめ込み図はアイソタイプ標識対照切片を示している:赤色、乳汁;青色、DAPI;バー:上、40μm、下20μm)が示されている。c、末梢芽状突起(左のパネル、矢印は頂帽細胞領域を示している;バー:40μm)およびより成熟した乳管構造(右のパネル;バー:16μm)におけるCD24およびCD29の発現。はめ込み図は、アイソタイプ標識対照切片を示している:赤色、CD24;緑色、CD29;青色、DAPI。
【図16】単一の自己再生性Lin-CD29hiCD24+細胞がMFPを再構築できることを示している図である。a、単一LacZ+ Lin-CD29hiCD24+細胞の移植から発生した上皮増殖物のホールマウント分析;移植の10および8.5週間後に採取された処女レシピエントMFP(各々左上および中央上のパネル;バー:250μm)、および移植10週間後に採取された妊娠レシピエント(右上のパネル;バー:250μm)について証明された増殖物の低倍率画像;処女乳管小葉構造(左下のパネル;バー:100μm)、TEB(中央下のパネル;バー:50μm)、および妊娠レシピエントにおいて発達中の小葉腺胞構造(右下のパネル;バー:100μm)の高倍率画像。b、ヌクレアファーストレッドを用いて染色した単細胞起源のLacZ+増殖物は、処女レシピエントでは乳管管腔(左のパネル、矢じり;バー:5μm)および筋上皮(左のパネル、矢印)細胞系譜ならびに特徴的な末梢芽状突起(中央のパネル;バー:10μm)を、そして妊娠レシピエントでは小葉腺胞上皮(右のパネル、矢印は乳汁産生と関連する脂質液滴を示している;バー:10μm)を示している。c、妊娠中期のレシピエントにおける単一LacZ+ Lin-CD29hiCD24+細胞から発生した乳管の抗乳汁抗体を用いた免疫蛍光染色;はめ込み図はアイソタイプ標識対照切片を示している:緑色、乳汁;青色、DAPI。d、Lin-CD29hiCD24+細胞が移植されたMFP(左のパネル)および移植されていない除去されたMFP(対照、右のパネル)から調製した細胞懸濁液のフローサイトメトリー分析。e、25個のLin-CD29hiCD24+細胞の一次増殖物由来の細胞の二次移植から発生したLacZ+増殖物を含有する、処女および妊娠レシピエントMFPの低倍率および高倍率画像(左および中央のパネル;バー:各々250および100μm);ヌクレアファーストレッドを用いて染色した妊娠レシピエントにおける二次LacZ+増殖物の切片(右のパネル;バー:20μm)。
【図17】Lin-CD29hiCD24+集団がMMTV-Wnt-1トランスジェニックマウスにおいて拡大しているのを示した図である。a、MMTV-Wnt-1およびMMTV-neuトランスジェニック乳腺由来の細胞懸濁液中でのCD24およびCD29発現についての代表的なフローサイトメトリー分析。肉眼的に正常な乳腺組織が4月齢の経産MMTV-Wnt-1マウスおよび6月齢のMMTV-neu処女マウスから採取した(n=3)。左のパネル:同一前ガン状態過形成乳腺由来のH&E染色切片。バー:40μm。b、年齢および経産数を適合させた対照(影の付いていないヒストグラム、n=2;各々38%および40%)と比較した、MMTV-Wnt-1(左側に影付きのヒストグラム、n=3;74%)およびMMTV-neu(右側に影付きのヒストグラム、n=3;43%)トランスジェニック乳腺のLin-CD24+(上皮)集団中のCD29hi細胞のパーセンテージを示したヒストグラムである。パーセンテージは平均値±SEMである。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、実質的に均質な未分化細胞集団を生成するための方法に関する。より詳細には、本発明は、実質的に均質な幹細胞、および特別には、哺乳動物幹細胞(MaSC)の集団を単離するための方法に関する。本発明のMaSCは、それらの細胞表面上に存在するタンパク質の示差的レベルに基づいて単離される。本発明のMaSCは、正常組織および腫瘍組織などを含むがそれらに限定されない罹患組織の両方におけるMaSC生存率、自己再生、増殖および/または分化を調節する物質を同定するための標的として、ならびに、疾患もしくは傷害後に損傷および/または消失した組織を再生、置換および/または増強するための組織の起源としても特に有用である。
【背景技術】
【0002】
先行技術の説明
本明細書における任意の先行技術に対する参照は、この先行技術が任意の国における共通の一般的な知識の一部を形成するという認識または任意の形態の提案ではなく、そのように見なされるべきではない。
【0003】
本文書に提供した参考文献の書誌学的詳細は、本明細書の最後に列挙する。
【0004】
乳ガンは、女性が罹患する最も一般的な悪性腫瘍であり、女性の全てのガンのほぼ4分の1を占める。最近の数年の間に乳ガンの管理は大きく改善されてきたにもかかわらず、診断を受けた女性の約25%はこの疾患が原因で死亡すると思われ、その腫瘍細胞が現代の治療戦略では難治性という固有の特性を有することが明らかになっている。乳ガンの不均質な性質は、複数の遺伝因子および細胞タイプが関与していることを示唆しているが、これらは未だ完全には理解されていない。
【0005】
乳房腫瘍形成を理解するための必須条件は、正常乳房上皮発達の調節に関する研究である。乳腺は、乳管および小葉腺胞構造の枝分かれ網状組織から構成されるが、後者は妊娠を通して発生する。筋上皮および管腔(乳管および腺胞サブタイプを含む)の2つの主要な上皮細胞系譜があり、これらは本明細書において哺乳動物幹細胞もしくはMaSCと呼ぶ共通前駆細胞から発生すると推定されている(概観については、Smalley and Ashworth, Nat Rev Cancer 3:832-844, 2003(非特許文献1)を参照)。器官特異的幹細胞という概念は、造血系、ならびに他の器官系について明確に確立されている(例えば、Rietze et al., Nature 214:736-739, 2001(非特許文献2);Li et al., Nat Med 9:1293-1299, 2003(非特許文献3);Morris et al., Nat Biotech 22:411-417, 2004(非特許文献4);Tumbar et al., Science 303:359-363, 2004(非特許文献5)参照)。幹細胞および前駆細胞(一過性増幅細胞としても知られる)は腫瘍形成中の重要な細胞標的である、そして乳腺幹細胞および前駆細胞中で正常に発現した遺伝子の脱調節された発現が乳ガンの病理発生の一因となる(Reya et al., Nature 414:105-111, 2001(非特許文献6))という仮説が立てられている。乳ガン「幹細胞」の存在は、実際に、現在ある抗ガン薬に対する耐性、および最終的な難治性疾患の発生に対する1つの説明となる可能性がある(Al-Hajj et al., PNAS 100:3983-3988, 2004(非特許文献7))。
【0006】
乳腺は、通常は出生後に(思春期に)、乳頭領域から伸長して乳腺の間質組織(「乳腺脂肪パッド」もしくはMFP)に貫通する乳管の伸長および分岐のプロセスを通して発達する。このプロセスは、主としてエストロゲンおよびプロゲステロンによって駆動され、さらにプロラクチンも必要とする。このため成人の乳腺では、乳腺は間質要素および分岐乳管から構成される。乳管は、共通先駆細胞から発生すると考えられている管腔上皮細胞および周囲筋上皮細胞から構成される。これらは、基底膜に取り囲まれている。妊娠中には、乳腺のさらなる発達および機能的成熟が、追加の乳管の成長および分岐ならびに十分に分化した乳腺内の乳汁分泌単位である小葉腺胞構造の成長を通して発生する。小葉腺胞単位は、腺胞上皮細胞および筋上皮細胞から構成され、そして同様に基底膜によって取り囲まれている。授乳の停止後、乳腺は調整された退縮のプロセスを経験し、それによって小葉腺胞単位および一部の乳管は、プログラムされた細胞死およびリモデリングのプロセスを通して退行する。この全プロセスは妊娠毎に繰り返される。幹細胞および前駆細胞は、成人の乳腺発達および各妊娠周期に伴う上皮細胞発達が連続的に発生するために不可欠である。休止幹細胞は、前管腔または前筋上皮前駆細胞への調整された系譜指定および拘束を受け、これらは順に各々機能的な乳管および腺胞の管腔細胞ならびに筋上皮細胞へ分化する(図1)。
【0007】
MaSCの存在は、マウスにおける上皮乳腺外植片を用いた連続移植試験を通して確証されている(Daniel et al., PNAS 61:53-60, 1968(非特許文献8))。この技術は、雌性思春期前レシピエントマウスの脱上皮化MFP内へのドナーの小さな乳腺外植片の移入を含んでいる。思春期前マウスの取り除かれた脂肪パッド内へ移植されたドナーマウスからの上皮組織の小さな破片は、思春期ホルモンおよび妊娠ホルモンの刺激下で完全乳腺を再構成するであろう。十分な数での上皮細胞懸濁液の移植もまた乳腺を再構成するであろう。MaSC(または拘束された前駆細胞)の同定は、どの集団が乳腺上皮を形成する最大能力を有するのかを同定するために精製された細胞集団の移送を必要とする。
【0008】
以前の試験では、造血幹細胞は、Ter119(赤血球)、CD3およびB220(TおよびBリンパ球)、Mac-1(骨髄球)などの系譜マーカーが欠如しているが、高レベルのc-kitおよびSca-1を発現することが証明されている。造血幹細胞は、フローサイトメトリー試験において、極めて重要な色素Hoechst33342(Ho)を排除して副集団(SP)を生じさせることも証明されている(Goodall et al., J Exp Med 183:1797-1806, 1996(非特許文献9))。数日間にわたりインビトロで増殖させ、次に蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって精製した乳腺上皮細胞を用いたデータでは、Sca-1+細胞が増強されたHo色素排除および富裕乳腺再構築能を示すことが見いだされており、これは乳腺幹細胞がこの集団内に所在することを示唆している(Welm et al., Dev Biol 245:42-56, 2002(非特許文献10))。さらに、SPはより新しく単離された乳腺上皮細胞標本中で同定され、それらから精製されており、MFP内へ移植されると乳腺上皮構造を生成できることが見いだされている(Alvi et al., Breast Cancer Res 5:R1-R8, 2003(非特許文献11))。しかし、これらの試験では、MFPの再構築は極めて多数(数千個)の細胞を必要とし、精製された細胞集団の匹敵する再構築能は、限界希釈率では評価できなかった。さらに、これらの試験における精製された細胞集団は、培養中に維持されていた細胞起源から入手された。これらの条件は、細胞表面マーカー表現型を修飾する可能性が高く、したがってこれらの試験における精製された細胞の特性はインビボに存在する細胞を反映するとは思われない。
【0009】
このため、新しく単離された組織の起源から実質的に均質なMaSC集団を単離する方法に対する必要がある。
【0010】
【非特許文献1】Smalley and Ashworth, Nat Rev Cancer 3:832-844, 2003
【非特許文献2】Rietze et al., Nature 214:736-739, 2001
【非特許文献3】Li et al., Nat Med 9:1293-1299, 2003
【非特許文献4】Morris et al., Nat Biotech 22:411-417, 2004
【非特許文献5】Tumbar et al., Science 303:359-363, 2004
【非特許文献6】Reya et al., Nature 414:105-111, 2001
【非特許文献7】Al-Hajj et al., PNAS 100:3983-3988, 2004
【非特許文献8】Daniel et al., PNAS 61:53-60, 1968
【非特許文献9】Goodall et al., J Exp Med 183:1797-1806, 1996
【非特許文献10】Welm et al., Dev Biol 245:42-56, 2002
【非特許文献11】Alvi et al., Breast Cancer Res 5:R1-R8, 2003
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
本明細書を通して、状況が他のことを必要としない限り、用語「含む」、および例えば「含んでいる」などの変形は、1つの記載された整数もしくは工程または整数もしくは工程群を含んでおり、任意の他の整数もしくは工程または整数もしくは工程群を除外しないことを意味すると理解されたい。
【0012】
本明細書において使用する略語は、表1に規定されている。
【0013】
本発明は、一部には、未分化細胞、特に幹細胞、およびよりいっそう特別には乳腺幹細胞(MaSC)を細胞表面上に存在するタンパク質の示差的レベルに基づいて組織起源から単離できるという同定によって予測されている。詳細には、MaSCの離散的集団が細胞表面マーカーに基づいて単離されるが、1つの亜集団(Lin-CD29hiCD24+)はインビボ移植によってアッセイするとMaSCについて高度に富裕である。実証によって、lacZ導入遺伝子でマーキングした単細胞は、インビボで完全な乳腺を再構成することができる。移植された細胞は管腔系譜および筋上皮系譜の両方に寄与し、妊娠中には機能的小葉腺胞単位を生成した。これらの細胞の自己再生能力は、クローン性上皮増殖物の連続的移植によって証明された。乳ガンにおいてMaSCが果たす潜在的役割を支持して、幹細胞が富裕な亜集団は、MMTV-Wnt-1マウス由来の前ガン状態の乳腺組織中で顕著に拡大していた。Lin-CD29hiCD24+集団内の単細胞は多分化能かつ自己再生性であるので、このためMaSCを規定している。
【0014】
そこで本発明は、実質的に均質なMaSC細胞集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきMaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なMaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法を提供する。
【0015】
用語「組織破壊」および「組織解離」は、個別細胞を遊離させるために組織を細分化することを指すために互換的に使用されることがある。
【0016】
本発明は、有益にも、MaSCが由来する組織を最初に培養中で維持する必要を伴わずにMaSCを単離するための方法を提供する。その結果として、本発明の方法によって単離されたMaSCは、MaSCが単離前に培養期間を経験すると修飾されたり消失したりする可能性があるMaSCの特性をインビボで保持する。
【0017】
本発明によって提供されるMaSCの単離は、細胞表面タンパク質のレベルによる細胞選択を促進する任意の細胞選択手段を用いて実施することができる。好ましくは、細胞選択手段は、選択すべきMaSCを連続的または同時のいずれかで、細胞選択および同定を許容するレポーター化合物にコンジュゲートしている細胞表面タンパク質と相互作用できる分子と接触させる工程を含む。最も好ましくは、分子は、それによって蛍光活性化セルソーティング(FACS)を用いた蛍光強度による細胞選択を促進できるように、蛍光レポーター化合物にコンジュゲートしている。
【0018】
好ましくは、本発明の単離されたMaSCは、低レベルの細胞表面タンパク質CD45、LinおよびCD31、ならびに高レベルの細胞表面タンパク質CD24およびCD29を生成するので、したがって本発明のMaSCは、CD45loLinloCD31loCD24hiCD29hi MaSCと称する。
【0019】
したがって本発明は、実質的に均質なCD45loLinloCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきCD45loLinloCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なCD45loLinloCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法を意図している。
【0020】
本発明の方法によるMaSCを単離する能力は、組織置換および/または増強療法において、特に乳腺組織置換および/または増強療法において使用するための方法および組成物を提供する。詳細には、本発明の方法によって単離されたMaSCは、自家細胞移植療法を促進するので、このため同種組織移植および免疫抑制剤の同時使用の必要を減少させる。
【0021】
さらに、本発明の方法によってMaSCを単離する能力は、インビトロおよび/またはインビボの正常および罹患組織両方におけるMaSC生存率、自己再生、増殖および/または分化を調節する作用因子の同定を可能にする。詳細には、MaSCのインビボ活性を調節する作用因子の同定は、組織、特に乳腺組織の再生および/または増強をインサイチューで、すなわち組織移植の必要を伴わずに誘導、またはさもなければ促進する方法を提供する。
【0022】
したがって、本発明は、組織、特に乳腺組織の再生、置換および/または増強を必要とする広範囲の疾患、状態および/または傷害を治療するための薬剤の製造においてMaSCのインビトロおよび/またはインビボ活性を調節する作用因子の使用を意図している。
【0023】
(表1)略語
【0024】
好ましい態様の詳細な説明
1つの態様では、本発明は、実質的に均質なMaSC集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきMaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なMaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法を提供する。
【0025】
本明細書において「細胞集団」とは、2個以上の細胞を意味する。「実質的に均質な集団」は、実質的に1つの細胞タイプしか含んでいない集団を意味する。「細胞タイプ」は、特定の共通特性によって他の細胞とは識別される細胞集団を意味する。好ましくは、実質的に均質な集団は、少なくとも約50%が同一タイプ、または少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%、または例えば少なくとも約100%のような少なくとも約95%以上が同一タイプである細胞集団を含んでいる。例には、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99および100%の同一タイプの細胞が含まれる。
【0026】
本発明の生物学的サンプルは、ヒト、非ヒト霊長類(例、ゴリラ、マカーク、マーモセット)、家畜動物(例、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、愛玩動物(例、イヌ、ネコ)、実験動物(例、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター)、鳥類、捕獲野生動物(例、キツネ、シカ)、爬虫類または両生類(例、オオヒキガエル)、魚(例、ゼブラフィッシュ)または任意の他の生物(例、C.エレガンス(C. elagans))などの任意の生物に由来してよい。
【0027】
好ましくは、本発明の生物学的サンプルは、ヒトまたはマウス由来である。最も好ましくは、本発明の生物学的サンプルは、ヒト由来である。
【0028】
本明細書において「生物学的サンプル」という言及は最も広い意味で使用され、例えば皮膚、筋肉、神経、肝臓、腎臓、眼、骨、脂肪、骨髄、血液および乳腺組織を含むがそれらに限定されない生物学的起源由来である組織のような任意のサンプルを意味する。好ましい態様では、本発明の生物学的サンプルは、乳腺組織である、または乳腺組織由来である。
【0029】
一般に、本発明の生物学的サンプルは、単細胞を生成するために破壊される必要がある。これを本明細書において「組織解離手段」と呼ぶ。本明細書において「組織解離手段」との言及は、機械的および/または酵素的処理を含むがそれらに限定されない、組織を単細胞へ解離させる任意の方法を意味する。そのような方法の例は、トリプシン、パパイン、中性プロテアーゼ(ディスパーゼ)、キモトリプシン、エラスターゼ、コラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼを用いた粉砕および処理である。組織の解離は、当技術分野において周知である任意の方法によって実施できる。
【0030】
本明細書において「幹細胞」という言及は、自己再生および増殖できる、そして極めて広範囲の機能的に分化した子孫を生成する能力を有する細胞を意味する。幹細胞が自身で自己再生する能力は、本明細書において使用する幹細胞の定義の必須の局面である。幹細胞は、幹細胞状態を維持する1個の娘細胞と、最初に言及した娘細胞とは別個の特異的機能および/または表現型を発現する他の娘細胞に、非対称的に分裂することがある。または、集団中の一部の幹細胞は2個の幹細胞に対照的に分裂することがあるので、したがって全体としては集団内で同一幹細胞を維持するが、集団内の他の細胞は分化した子孫だけを発生させる。幹細胞として始まる細胞は分化した表現型に向かって進行するが、その後は幹細胞表現型を逆転させて再発現することがあり得る。幹細胞は、分裂してまた別の幹細胞(すなわち、自己再生能力を有する)を生成できる細胞、ならびに複数の特異的な分化経路に沿って分化できる細胞を意味する機能的な用語である。しばしば、分化系譜を備える特定細胞が低分化親から引き出され、それでも分裂してより分化した細胞子孫を発生させるという場合がある。本明細書において幹細胞との言及は、さらにまた「先駆細胞」または「前駆細胞」または幹細胞の特性を備える任意の他の細胞を含むと見なすべきである。
【0031】
本発明の好ましい幹細胞は、MaSCである。
【0032】
したがって、本発明は、実質的に均質なMaSC集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきMaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なMaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法を提供する。
【0033】
生物学的サンプルが解離されると、MaSCは、例えば細胞表面タンパク質と相互作用できる分子、すなわち細胞表面タンパク質相互作用分子を利用する様々な方法を用いて選択される。これらの方法では、細胞表面タンパク質と相互作用できる分子は、対象となるMaSC集団を含む細胞の表面上に存在するタンパク質へ選択的に結合する。結合した細胞表面タンパク質相互作用分子は、次にMaSCの同定を信号するための旗として機能する。選択方法には、例えば、親和性カラムマトリックスもしくはプラスチック表面、または磁気ビーズなどの固体支持体を使用するFACSおよびビオチン-アビジンまたはビオチン-ストレプトアビジン分離法が含まれる。
【0034】
本発明によるMaSC選択の特に好ましい方法は、FACSである。
【0035】
本発明によって意図された細胞表面タンパク質相互作用分子は、タンパク質Sca-1、CD44、CD49、ピーナツ凝集素(PNA)、CD71、CD45、TER119(Lin)、CD31、CD24およびCD29のうちの一つまたは複数を含むがそれらに限定されない、MaSCの表面上に存在する任意のタンパク質と相互作用することができる。
【0036】
好ましい態様では、本明細書によって意図された細胞表面タンパク質相互作用分子は、MaSCの細胞表面上に存在するタンパク質CD71、CD45、TER119、CD31、CD24およびCD29のうちの一つまたは複数と相互作用する。
【0037】
1つの好ましい態様では、本発明の方法によって選択されたMaSCは、少量のCD45、TER119およびCD31、すなわちCD45loTER119loCD31lo、ならびに多量のCD24およびCD29、すなわちCD24hiCD29hiを産生する。したがって、本発明の好ましいMaSCは、便宜的にCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCと呼ばれる。用語「TER119lo」、「Lin-」および「Linlo」は、本明細書を通して互換的に使用され、低またはゼロレベルにある同一マーカーを意味する。
【0038】
したがって本発明は、実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC細胞集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法を提供する。
【0039】
細胞表面識別のために使用される細胞表面タンパク質相互作用分子は、蛍光化合物で標識することができる。選択的結合能力を備える蛍光標識抗体もしくは分子を適正な波長の光線に曝露させると、その存在は次に蛍光に起因して検出できる。特に最も一般的に使用される蛍光標識化合物は、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、フィコエリトリン(PE)、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒドおよびフルオレスカミンである。選択的結合能力を備える抗体もしくは分子は、さらにまた152Euまたは他のランタン系列などの蛍光発光金属を用いて検出可能に標識することができる。これらの金属は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの金属キレート基を用いて選択的結合能力を備える抗体もしくは分子へ結合させることができる。抗体は、さらにまたそれを化学発光化合物へ結合させることによって検出可能に標識することもできる。選択的結合能力を備えた化学発光タグ付け抗体もしくは分子の存在は、次に化学反応の進行中に発生する化学発光の存在を検出することによって決定される。特に有用な化学発光標識化合物の例は、ルミノール、イソルミノール、テロマティック(theromatic)アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩およびシュウ酸エステルである。同様に、本発明の選択的結合能力を備える抗体もしくは分子を標識するために生物発光化合物も使用できる。生物発光は、触媒性タンパク質が化学発光反応の効率を増加させる、生物系において見いだされる化学発光の1タイプである。生物発光タンパク質の存在は、ルミネセンスの存在を検出することによって決定される。標識のために重要な生物発光化合物は、ルシフェリン、ルシフェラーゼおよびエクオリンである。選択的結合能力を備える抗体もしくは分子を標識する全てのそのような方法は、本発明によって意図されている。
【0040】
このため本発明の方法は、特に疾患または傷害によって損傷した細胞を置換して組織を増強するため、ならびにMaSCの生存率、自己再生、増殖および/または分化を調節する作用因子を同定するために有用なMaSCを提供する。
【0041】
したがって、また別の態様では、本発明は、単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法によって選択された実質的に均質なMaSC集団を提供する。
【0042】
上述のように、本発明は、生物における細胞置換療法のための方法を意図しており、該方法は、単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む実質的に均質な細胞集団を提供するために生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、およびCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCの実質的に均質な集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法によって単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCの実質的に均質な集団を生成する工程、ならびに該生物もしくは該MaSCを受け入れられる生物へMaSCの該均質な集団を導入する工程、を含んでいる。
【0043】
本明細書において「細胞置換療法」という言及は、1つの形態では、未分化細胞が選択され、任意でインビトロで維持され、最終的にはそれらが入手された対象、適合する対象または免疫無防備状態の対象へ戻されるプロセスを含んでいる。インビトロであってもインビボであっても、細胞は特定細胞系譜に、または複数の細胞系譜に分化して増殖することができる。そこで、細胞置換療法は、器官または組織の置換を含む細胞機能の修復、再生または置換を提供する目的で、未分化細胞が適切に分化することを必要とする。「細胞置換療法」は、さらにまた増強療法を含んでいる。「細胞置換療法」もしくは組織修復のために精製された幹細胞もしくはそれらの子孫がその中に移植される、または幹細胞をそれらから引き出すことのできる生物は、ヒト、非ヒト霊長類(例、ゴリラ、マカーク、マーモセット)、家畜動物(例、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、愛玩動物(例、イヌ、ネコ)、実験動物(例、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター)、鳥類、捕獲野生動物(例、キツネ、シカ)、爬虫類または両生類(例、オオヒキガエル)、魚(例、ゼブラフィッシュ)または任意の他の生物(例、C.エレガンス)などの任意の生物であってよい。好ましくは、その生物はヒトまたはマウスである。最も好ましくは、その生物はヒトである。
【0044】
一般に、細胞はそれらが由来した同一生物に戻されるが、それらはまた別の適合する生物もしくは免疫無防備状態の生物へ提供することもできる。
【0045】
また別の態様では、本発明は、細胞置換療法において使用するための組成物を提供するが、該組成物は、単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法によって選択された実質的に均質なMaSC集団を含んでいる。
【0046】
細胞置換療法において使用するためのMASCおよび同一用途に有用な組成物は、さらにまた遺伝子組み換えMaSCであってよい。本明細書において「遺伝子組み換えMaSC」は、センスもしくはアンチセンスmRNAまたはリボザイムもしくはRNAiもしくはsiRNAをコードするDNAの導入などの何らかの形態の遺伝子操作を受けているMaSCを指す。導入される核酸分子は、遺伝子抑制のために内因性遺伝子もしくは遺伝子の一部を標的とすることができる、または新規な遺伝子を導入することができる。導入される核酸は、リン酸カルシウム媒介性トランスフェクション、DEAE媒介性トランスフェクション、マイクロインジェクション、レトロウイルス形質転換、プロトプラスト融合およびリポフェクションを含むがそれらに限定されない様々な技術によって導入できる。遺伝子組み換え細胞は、一過性または長期方法のどちらかで導入された核酸を発現することができる。一般に、一過性発現は、導入されたDNAがトランスフェクトされた細胞の染色体DNA内に安定性で組み込まれない場合に発生する。これとは対照的に、異種DNAの長期発現は、異種DNAがトランスフェクトされた細胞の染色体DNA内に安定性で組み込まれている場合に発生する。導入される核酸分子は、さらにまたヒトに関しては、ヒト人工染色体(HAC)などの人工染色体の形状にあってもよい。
【0047】
上述のように、本発明のMaSCは、インビトロおよび/またはインビボの両方でMaSCの生存率、自己再生、増殖および/または分化を調節する作用因子を同定するための方法を促進する。詳細には、MaSCのインビボ活性を調節する作用因子を同定することは侵襲性細胞置換療法に対する必要を完全に克服する。
【0048】
本明細書において「作用因子」という言及は、天然、組み換えまたは合成起源由来である任意のタンパク質性または非タンパク質性分子の意味として理解されたい。本明細書において使用する用語「作用因子」は、例えば化合物、作用因子、活性物質、薬物、薬理学的に活性な物質および薬剤などの他の用語および語句と、または所望の薬理学的および/または生理学的作用を誘導する物質を意味する他の用語と互換的に使用することができる。これらの用語は、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝産物、アナログなどを含むがそれらに限定されない本明細書において具体的に言及するそれらの物質の薬学的に許容される薬理学的有効成分もまた含んでいる。これらの用語の化合物、作用因子、活性物質、薬物、薬理学的活性物質および薬剤が使用される場合は、これには作用因子自体ならびに薬学的に許容される、薬理学的に活性な塩、エステル、アミド、プロドラッグ、代謝産物、アナログなどが含まれると理解されたい。用語の作用因子は、化学的化合物であると解釈すべきではなく、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質、ならびにRNA、DNAおよびそれらの化学的アナログなどの遺伝子分子にまで及ぶ。
【0049】
このため本発明は、MaSC活性を調節するために有用な作用因子のスクリーニングを可能にする。
【0050】
関係する工程は一般に、
(i)本発明のMaSCを選択する工程;
(ii)選択されたMaSCのアリコートを適切な容器内に入れる工程;
(iii)特定期間にわたり特定条件下でMaSCのアリコートを作用因子に曝露させる工程;および
(iv)MaSCの形態学的、生理学的および遺伝的変化をスクリーニングする工程、を含んでいる。
【0051】
形態学的、生理学的および遺伝的変化は、生存率、自己再生、増殖および/または分化についてのスクリーニングを含んでいる。
【0052】
分化を測定するアッセイは、例えば、組織の段階特異的発現に結び付いた細胞表面タンパク質マーカー、酵素活性、機能的活性または形態学的変化を測定する(Watt, FASEB 5:281-284, 1991;Francis, Differentiation 57:63-75, 1994;Raes, Adv Anim Cell Biol Technol Bioprocesses, Butterworths, London, pp 161-171, 1989)。細胞増殖または分化を測定するアッセイには、例えば、ニュートラルレッド色素に対する化学感受性(Cavanaugh et al., Investigational New Drugs 8:347-354. 1990)、放射標識ヌクレオチドの取り込み(Cook et al., Anal Biochem 179:1-7, 1989)、増殖細胞のDNA中への5-ブロモ-2’-デオキシウリジン(BrdU)の取り込み(Porstmann et al., J Immunol Methods 82:169-179, 1985)、およびテトラゾリウム塩の使用(Mosmann, J Immunol Methods 65:55-63, 1983;Alley et al., Cancer Res 48:589-601, 1988;Marshall et al., Growth Reg 5:69-84, 1985;and Scudiero et al., Cancer Res 48:4827-4833, 1988)ならびに3H-チジミン取り込みを使用する増殖の測定(Crowley et al. J Immunol Methods 133:55-66, 1990)が含まれる。
【0053】
タンパク質アレイは、MaSCにおける生存率、自己再生、増殖および/または分化の状態についての特に有用なスクリーニング法を提供する。
【0054】
または、作用因子は、MaSCにおける遺伝物質の変化についてスクリーニングできる。例えば、マイクロアレイもしくはマクロアレイ分析および/または連続遺伝子発現解析(SAGE)、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション、ディファレンシャルPCRおよびサブトラクティブ・ハイブリダイゼーションなどの技術を使用すると、休止MaSCに比較して増殖および/または分化細胞中に存在する転写産物をスクリーニングすることができる。同定されると、対応する遺伝子は、発現を促進する、および抑制するのどちらかのための発現調節作用因子についての特異的標的となる。または、MaSCを潜在的作用因子に曝露させ、例えば示差的発現プロトコールを使用して遺伝物質の発現における変化を監視する。その目的は、最初にMaSC中の遺伝物質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする作用因子を見いだし、次にこれがMaSCの生存率、自己再生、増殖および/または分化に影響を及ぼすかどうかを決定することである。
【0055】
本発明による調節作用因子についてのスクリーニングは、任意の適切な方法によって達成できる。例えば、上述のように、本方法は、MaSCを試験化合物(すなわち、推定調節作用因子)に接触させる工程、およびポリヌクレオチド(これにはプロテオミクスが含まれる)によってコードされるタンパク質のレベルおよび/または機能的活性の調節、またはポリヌクレオチドによってコードされる発現産物のレベルの調節、またはタンパク質もしくは発現産物の下流細胞標的の活性もしくは発現の調節、または表面抗原プロファイルにおける変化(例えば、CD抗原プロファイルにおける変化)を含む多数の生理学的、生化学的、免疫学的もしくは遺伝学的変化についてスクリーニングする工程を含むことができる。そのような調節の検出は、ELISA、セルベースELISA、フィルター結合ELISA、阻害ELISA、ウエスタンブロット、免疫沈降法、スロットもしくはドットブロットアッセイ、免疫染色法、RIA、シンチレーション近接アッセイ、フルオレセインもしくはローダミンなどの蛍光物質の抗原結合分子コンジュゲートもしくは抗原コンジュゲートを使用する蛍光免疫アッセイ、オークターロニー二重免疫拡散分析、アビジン-ビオチンもしくはストレプトアビジン-ビオチン検出系を使用する免疫アッセイ、および逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を含む核酸検出アッセイを含むがそれらに限定されない技術を利用して達成できる。
【0056】
このため本発明は、MaSCの生存率、自己再生、増殖および/または分化を誘導させる、または阻害することのできる作用因子を同定できるスクリーニング法を提供する。さらに、本アッセイは、増加もしくは減少した遺伝子発現の存在またはタンパク質の産生を増加もしくは減少したmRNA発現(例えば、核酸プローブを用いて)、増加もしくは減少したタンパク質産物のレベル(例えば、抗原結合分子を用いて)または組み換え構築物中の標的分子関連遺伝子調節領域へ機能的に連結した増加もしくは減少したレポーター遺伝子(例、GFP、β-ガラクトシダーゼもしくはルシフェラーゼ)の発現レベルに基づいて検出することができる。
【0057】
そこで、例えば、MaSCは、特定標的培地中および培地に添加された試験化合物中で培養または維持することができる。化合物に十分な期間(例えば、1〜200時間)にわたり生理学的、生化学的、免疫化学的または形態学的変化を誘導または阻害させた後に、確立されたベースライン時からの何らかの変化は上述した当技術分野において周知の広範囲の肉眼的、顕微鏡的技術のいずれかを用いて検出することができる。核酸プローブおよび/または抗原結合分子を用いると、例えば遺伝子発現または表面抗原における変化を容易に検出できる。
【0058】
さらにまた別の態様では、固相支持体へ結合したアミノ酸の可能性のある全ての組み合わせからなるランダムペプチドライブラリーを使用すると、特定MaSC表面抗原(特定発達段階の指標である)へ結合できるペプチドを同定することができる。標的抗原は、任意の適切な技術によって精製する、組み換え発現させる、または合成することができる。そのような分子は、当業者であれば、便宜的に例えばSambrook, et al. (A Molecular Cloning- A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour, New York, USA, 1989、特に第16および第17章)ならびにAusubel et al., (「Current Protocols in Molecular Biology」 John Wiley & Sons Inc, 1994-1998、特に第10および16章)に記載されているような標準プロトコールを用いて調製することができる。または、本発明による標的抗原は、例えばNicholsonによって編集されBlackwell Scientific Publicationsによって発行された「Synthetic Vaccines」と題する刊行物に含まれているAtherton and Shephardによる「Peptide Synthesis」と題する第9章およびRoberge et al. (Science 269:202, 1995)に記載されたような液相合成法または固相合成法を用いて合成することができる。
【0059】
標的抗原と相互作用して複合体を形成するペプチド/固相支持体を同定および単離するためには、標的抗原の標識または「タグ付け」が必要になることがある。標的ポリペプチドは、アルカリホスファターゼおよびホースラディッシュペルオキシダーゼなどの酵素ならびにFITC、ローダミンおよびPEなどの蛍光レポーター分子を含む、任意の適切なレポーター分子へコンジュゲートさせることができる。任意の所与のレポーター分子と標的抗原とのコンジュゲーションは、当技術分野において日常的である技術を用いて実施できる。または、標的抗原発現ベクターは、それに対して市販されている抗原結合分子が存在するエピトープを含有するキメラ標的抗原を発現するように組み換えることができる。エピトープ特異的抗原結合分子は、酵素、蛍光色素または着色ビーズもしくは磁気ビーズを用いて標識することを含む当技術分野において周知の方法を用いてタグ付けすることができる。
【0060】
例えば、「タグ付け」標的抗原コンジュゲートは、標的抗原とライブラリー内のペプチド種との間での複合体形成を可能にするように30分間から1時間にわたり22℃でランダムペプチドライブラリーと一緒にインキュベートされる。このライブラリーは、次に任意の未結合標的抗原を取り除くために洗浄される。標的抗原がアルカリホスファターゼもしくはホースラディッシュペルオキシダーゼへコンジュゲートしている場合は、全ライブラリーがアルカリホスファターゼもしくはペルオキシダーゼのいずれかに対する基質、例えば各々5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート(BCIP)もしくは3,3’,4,4”-ジアミノベンジジン(DAB)を含有するペトリ皿内へ注入される。数分間にわたりインキュベートした後、ペプチド/固相-標的ポリペプチド複合体は変色するので、そこでマイクロマニピュレーターを備えた解剖顕微鏡下で物理的に容易に同定および単離することができる。蛍光タグ付け標的ポリペプチドが使用される場合は、複合体は蛍光活性化ソーティングによって単離できる。異種エピトープを有するキメラ標的ポリペプチドが使用された場合は、ペプチド/標的ポリペプチド複合体の検出は、標識されたエピトープ特異的抗原結合分子を用いることによって遂行できる。単離されると、固相支持体に結合したペプチドの同一性は、ペプチドシーケンシングによって決定できる。
【0061】
MaSC活性を調節できる作用因子の同定は、細胞置換療法またはインビボでのMaSC活性の調節を必要とする広範囲の疾患、状態および/または傷害の治療的治療において使用するための薬学的組成物の製造を可能にする。
【0062】
本明細書において「治療」との言及は、対象において存在する状態の重症度の減少を意味することがある。用語「治療」は、さらにまた対象における状態の発生を防止するための「予防的治療」を含むと解釈されたい。用語「治療」は、対象が完全回復まで治療されることを必ずしも意味していない。同様に、「予防的治療」は、対象が最終的にある状態に罹らないことを必ずしも意味していない。
【0063】
本明細書において使用する対象は、本発明の調節剤から恩典を得ることのできるヒト、非ヒト霊長類(例、ゴリラ、マカーク、マーモセット)、家畜動物(例、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、愛玩動物(例、イヌ、ネコ)、実験動物(例、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター)、捕獲野生動物(例、キツネ、シカ)、爬虫類または両生類(例、オオヒキガエル)、魚(例、ゼブラフィッシュ)または任意の他の生物(例、C.エレガンス)を意味する。
【0064】
その中にMaSCを導入する生物を含む、現在記載の調節剤から恩典の得られる生物のタイプに制限はない。
【0065】
本発明の最も好ましい対象は、ヒトである。
【0066】
対象は、それがヒトまたは非ヒト生物のどちらであるかとは無関係に、患者、個体、動物、宿主またはレシピエントと呼ぶことができる。
【0067】
本発明のMaSC調節剤は、薬学的組成物を形成するために、一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤と結合することができる。薬学的に許容される担体は、本発明の薬学的組成物を安定化させる、または吸収もしくはクリアランス速度を増加もしくは減少させるように機能する生理学的に許容される化合物を含有することができる。生理学的に許容される化合物は、例えばグルコース、スクロース、もしくはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸もしくはグルタチオンなどの抗酸化物質、キレート剤、低分子量タンパク質、ペプチドもしくはポリペプチドのクリアランスもしくは加水分解を減少させる組成物、または賦形剤もしくは他の安定剤および/または緩衝剤を含むことができる。リポソーム担体を含む、薬学的組成物を安定させる、またはその吸収を増加もしくは減少させるために界面活性剤を使用することもできる。ペプチドおよびポリペプチドのための薬学的に許容される担体および調製物は当業者には公知であり、科学文献および特許文献に詳述されている。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, Mack Publishing Company, Easton, PA, 1990(「Remington’s」)を参照。
【0068】
その他の生理学的に許容される化合物には、湿潤剤、乳化剤、分散剤または微生物の増殖もしくは作用を防止するために特に有用である保存剤が含まれる。様々な保存剤は周知であり、例えば、フェノールおよびアスコルビン酸が含まれる。当業者は、生理学的に許容される化合物を含む薬学的に許容される担体の選択は、例えば本発明の調節剤の投与経路およびその特定の物理化学的特性に依存することを理解するであろう。
【0069】
薬学的組成物の形状にある作用因子の投与は、当業者には公知の任意の便宜的手段によって実施することができる。投与経路には、呼吸器内、気管内、鼻咽頭内、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、皮内、筋肉内、眼内、クモ膜下、大脳内、鼻腔内、注入、経口、直腸内、パッチおよびインプラントが含まれるがそれらに限定されない。
【0070】
経口投与のためには、化合物は、カプセル剤、ピル剤、錠剤、トローチ剤、散剤、懸濁剤またはエマルジョンなどの固体または液体調製物に調製することができる。経口製剤である組成物を調製する際には、経口液体調製物(例えば、懸濁剤、エリキシル剤および液剤)の場合には例えば水、グリコール、油、アルコール、矯味剤、保存剤、着色剤、懸濁剤などの任意の通常の薬学的溶媒;または経口固体調製物(例えば、散剤、カプセル剤および錠剤)の場合には例えばデンプン、糖、希釈剤、顆粒化剤、潤滑剤、結合剤、錠剤崩壊剤などを使用できる。錠剤およびカプセル剤は、投与が容易であるために、固体薬学的担体が明白に使用される最も有益な経口製剤形を表している。所望であれば、錠剤は標準技術による糖コーティング錠または腸溶コーティング錠であってよい。活性物質は、同時に血液脳関門を通過させながら消化管を安定性に通過させるためにカプセル封入することができる。例えばInternational Patent Publication Number WO96/11698を参照。
【0071】
本発明の作用因子は、経口投与された場合は、消化から保護することができる。これは、核酸、ペプチドもしくはポリペプチドを、酸性および酵素性加水分解に対して耐性にするための組成物と複合体化する工程による、または核酸、ペプチドもしくはポリペプチドをリポソームなどの適切な耐性担体中にパッケージングする工程によるどちらかで遂行できる。化合物を消化から保護する手段は周知であり、例えば、Fix, Pharm Res 13:1760-1764, 1996;Samanen et al., J Pharm Pharmacol 48:119-135, 1996;治療薬を経口送達するための脂質組成物について記載しているU.S. Patent Number 5,391,377を参照(リポソームの送達については、以下でより詳細に考察する)。
【0072】
注射剤として使用するために適合する薬剤形には、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散剤および無菌注射剤溶液もしくは分散剤の即時調合調製物用の無菌散剤が含まれる、またはクリーム剤の形状もしくは局所適用のために適合する他の形状であってよい。それは正常および貯蔵条件下で安定性でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合液、および植物油を含有する溶媒または分散媒であってよい。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用、分散剤の場合は必要とされる粒径の維持および界面活性剤の使用によって維持できる。微生物の作用の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどの様々な抗菌剤および抗真菌剤によって実現することができる。多くの場合に、例えば、糖または塩化ナトリウムなどの等張性作用因子を含むことが好ましいであろう。注射用組成物の長期間の吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる作用因子を組成物中に使用することによって実現することができる。
【0073】
無菌注射溶液は、必要に応じて上記に列挙した様々な他の成分とともに適切な溶媒中に必要な量で組み込み、その後に濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散剤は様々な滅菌済み有効成分を、塩基性分散媒および上記に列挙した成分から必要な他の成分を含有する無菌ビヒクル内に組み込むことによって調製される。無菌注射溶液を調製するための無菌散剤の場合は、好ましい調製方法は、有効成分に以前に滅菌濾過された溶液からの任意の追加の所望の成分を加えた粉末を生成する真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0074】
非経口投与のためには、作用因子は薬学的担体に溶解し、液剤または懸濁剤のいずれかとして投与することができる。適合する担体の実例は、水、食塩液、デキストロース溶液、フルクトース溶液、エタノール、または動物、植物もしくは合成起源の油である。担体は、例えば、保存剤、懸濁化剤、可溶化剤、緩衝剤などの他の成分を含有することもできる。作用因子がクモ膜下投与される場合は、それらは脳脊髄液中に溶解させることもできる。
【0075】
経粘膜または経皮投与のためには、作用因子を送達するために、浸透しなければならない障壁に適切な浸透剤を使用できる。例えば経粘膜投与のためのそのような浸透剤は、一般に当技術分野において公知であり、胆汁塩およびフシジン酸誘導体である。さらに、浸透を促進するために界面活性剤を使用できる。経粘膜投与は、鼻腔用スプレーであってよい、または坐剤を使用できる。例えばSayani and Chien, Crit Rev Ther Drug Carrier Syst 13:85-184, 1996を参照。局所的経皮投与のためには、作用因子は軟膏、クリーム剤、軟膏、散剤およびゲル剤に調製される。経皮送達系には、パッチを含めることもできる。
【0076】
吸入のためには、本発明の作用因子は、乾燥粉末エーロゾル、液体送達系、エアジェットネブライザー、噴射剤システム(例えば、Patton, Nat Biotech 16:141-143, 1998参照;例えばDura Pharmaceuticals(カリフォルニア州サンディエゴ)、Aradigm(カリフォルニア州ヘイワード)、Aerogen(カリフォルニア州サンタクララ)、Inhale Therapeutic Systems(カリフォルニア州サンカルロス)などによる製剤および吸入送達システムを含む当技術分野において公知である任意のシステム)などを用いて送達できる。例えば、薬学的調製物は、エーロゾルまたはミストの形状で投与できる。エーロゾル投与のためには、本調製物は界面活性剤および噴射剤と一緒に細粒形で供給することができる。また別の局面では、本調製物を呼吸器組織へ送達するためのデバイスは、調製物が気化する吸入器である。その他の液体送達システムには、例えばエアジェットネブライザーが含まれる。
【0077】
持続性送達が可能な生分解性ミクロスフェアもしくはカプセルまたは他の生分解性ポリマー構造を本発明の調製物中に含むことができる(例、Putney and Burke, Nat Biotech 16:153-157, 1998)。
【0078】
本発明の医薬品を調製する際には、様々な調製修飾法を使用して薬物動態および生体内分布を変化させるために操作することができる。薬物動態および生体内分布を変化させるための多数の方法は当業者には公知である。そのような方法の例には、タンパク質、脂質(例えば、リポソーム、下記参照)、炭水化物、または合成ポリマー(上記で考察した)などの物質から構成される小胞内での本発明の組成物の保護が含まれる。薬物動態についての一般的考察については、例えば、Remington’s, Chapters 37-39を参照。
【0079】
1つの局面では、本発明の作用因子を含む薬学的調製物は、リポソームなどの脂質単層または二重層内に組み込まれる。例えば、U.S. Patent Numbers 6,110,490;6,096,716;5,283,185および5,279,833を参照。本発明は、本発明の水溶性調節剤が単層または二重層の表面に結合させられている調製物もさらに提供する。例えば、ペプチドはヒドラジド-PEG-(ジステアロイルホスファチジル)エタノールアミン含有リポソームに結合させることができる(例えば、Zalipsky et al., Bioconjug Chem 6:705-708, 1995を参照)。リポソームもしくは平面脂質膜などの任意の形状の脂質膜または例えば赤血球などの無傷細胞の細胞膜を使用できる。リポソーム調製物は、静脈内、経皮的(Vutla et al., J Pharm Sci 85:5-8, 1996)、経粘膜、または経口投与を含む任意の手段によって投与することができる。本発明は、本発明の核酸、ペプチドおよび/またはポリペプチドがミセルおよび/またはリポソーム内に組み込まれる薬学的調製物をさらに提供する(Suntres and Shek, J Pharm Pharmacol 46:23-28, 1994;Woodle et al., Pharm Res 9:260-265, 1992)。リポソームおよびリポソーム調製物は、標準方法によって調製することができ、当技術分野において周知でもある。例えばRemington’s;Akimaru et al., Cytokines Mol Ther 1:197-210, 1995;Alving et al., Immunol Rev 145:5-31, 1995;Szoka and Papahadjopoulos, Ann Rev Biophys Bioeng 9:467-508, 1980,U.S. Patent Numbers 4,235,871, 4,501,728 and 4,837,028を参照。
【0080】
本発明の薬学的組成物は、投与方法に依存して様々な単位製剤で投与することができる。典型的な調節性薬学的組成物の用量は、当業者には周知である。そのような用量は、典型的には実際上推奨量であり、特定の治療状況、患者の忍容性などに依存して調整される。これを遂行するために適切な調節剤の量は、「治療有効量」として規定されている。この使用のために有効な投与スケジュールおよび用量、すなわち「投与レジメン」は、疾患もしくは状態の段階、疾患もしくは状態の重症度、患者の全身健康状態、患者の物理的状態、年齢、薬学的調製物および活性物質の濃度などを含む様々な因子に依存するであろう。患者のための投与レジメンを計算する際には、投与様式もまた考慮に入れられる。投与レジメンは、薬物動態、すなわち薬学的組成物の吸収速度、生体内利用率、代謝、クリアランスなども考慮に入れなければならない。例えば、Remington’s;Egleton and Davis, Peptides 18:1431-1439, 1997;Langer, Science 249:1527-1533, 1990を参照。
【0081】
これらの方法によって、本発明によって規定された作用因子および/または薬学的組成物は、一つまたは複数の他の作用因子と同時投与することができる。「同時投与される」は、同一調製物または同一もしくは相違する経路による2種の相違する調製物中での同時投与、または同一もしくは相違する経路による連続投与を意味する。「連続的」投与は、2つのタイプの調節性作用因子および/または薬学的組成物の投与間の秒数、分数、時間数または日数での時間差を意味する。調節性作用因子および/または薬学的組成物の同時投与は、任意の順序で発生してよい。
【0082】
または、抗体もしくは細胞特異的リガンドまたは特異的核酸分子などのターゲッティング系の使用による、所定の細胞タイプへ活性物質をより特異的に送達するために、ターゲッティング療法を使用することができる。ターゲッティングは、例えばその作用因子が許容できないほど毒性である場合、さもなければ極めて高い用量を必要とする場合、さもなければ標的細胞に進入できない場合のように、様々な理由から望ましいことがある。
【0083】
作用因子を直接的に投与する代わりに、それらは上述したようなウイルスベクター内またはU.S. Patent Number 5,550,050 and International Patent Publication Numbers WO92/19195, WO94/25503, WO95/01203, WO95/05452, WO96/02286, WO96/02646, WO96/40871, WO96/40959 and WO97/12635に記載されているような細胞に基づく送達系内のように標的細胞内で生成することができる。ベクターは、標的細胞へターゲッティングすることができる。細胞に基づく送達系は、所望の標的部位で患者の身体内に植え込まれるように設計されており、標的作用因子に対するコーディング配列を含有している。または、作用因子は治療される細胞中で生成される、またはターゲッティングされる活性剤によって活性形へ転換するための先駆体形で投与することができる。例えば、European Patent Application Number 0 425 731 A and International Patent Publication Number WO90/07936を参照。
【0084】
当業者であれば、本明細書において記載の本発明は本明細書に具体的に記載した以外の変形および修飾を受ける可能性があることを理解するであろう。本発明は、そのような変形および修飾全てを含むことを理解されたい。本発明は、さらにまた本明細書において言及した、または指示した全ての工程、特徴、組成物および化合物、ならびに該工程または特徴の任意の2つ以上の一部および全ての組み合わせを含んでいる。
【0085】
以下では、本発明を非限定的実施例によって詳細に記載する。
【0086】
実施例1:一般的実験方法
乳腺細胞の調製
Alvi et al., Breast Cancer Res 5:R1-R8, 2003に記載されたインビボ乳腺上皮細胞移植アプローチを用いて、マウス乳腺上皮幹細胞の性質を評価した。乳腺上皮細胞精製のためのプロトコールを最適化し、図2に要約した。このプロトコールは、最初に8週齢マウス由来の第3、第4(目に見えるリンパ節を最初に除去した後)および第5乳腺を採取する工程を含んでいた。採取した乳腺はMcIllwain組織チョッパーを用いて機械的に分離し、次に解離培地(DME-HAM、5%(v/v)FCS、5μg/mLインスリン、500ng/mLのヒドロコルチゾン、10ng/mLのEGFおよび20ng/mLのコレラ毒素)中で300U/mLのコラゲナーゼおよび100U/mLのヒアルロニダーゼを用いて、20分毎に強力な粉砕を行ないながら37℃で1時間にわたり酵素により破壊した。生じた類器官懸濁液は、0.25%(w/v)トリプシン/1mM EGTAを用いて37℃で1〜2分間にわたり細胞-細胞相互作用を破壊し、5mg/mLのディスパーゼおよびDNAseを用いて37℃で5分間にわたり基底膜成分を破壊して凝集したDNAを分解させ、そして0.8%(w/v)NH4Cl/1mM EDTAを用いて室温で1〜2分間にわたり赤血球汚染を減少させることで連続的に処理した。生じた懸濁液を最後に40μmフィルターに通過させて任意の残留大細胞凝集物を除去し、血球計算器上で計数することによって非赤血球数を決定した。
【0087】
細胞懸濁液は次に、ある細胞表面分子に対して特異的な他の抗体を用いる免疫染色の前に、ラット免疫グロブリンおよび抗Fc受容体抗体を用いてブロッキングした。表現型に関して別個の細胞集団の同定およびFACS精製を可能にするために、これらの抗体を蛍光マーカーへコンジュゲートさせた。免疫染色細胞集団のフローサイトメトリー分析を次に実施し、対象となる細胞集団をFACSによって精製した。選別した後、精製した細胞は、2%(v/v)FCSおよび10%(w/v)トリパンブルーを備える平衡食塩液中での所望の濃度で再懸濁させることによって、移植のために調製した。
【0088】
上述した方法の軽度の代替法において、8週齢雌性マウスから乳腺を解剖して分析した。McIlwain組織チョッパー(The Mickle Laboratory Engineering Co. Ltd.、英国ギルドフォード)を用いて機械的に分離した後、組織は、300U/mlのコラゲナーゼ(Sigma、米国セントルイス)および100U/mlのヒアルロニダーゼ(Sigma)を含有する培養培地(CM)(5%(v/v)ウシ胎児血清(BCS)を補給した1mMグルタミン、5μg/mlのインスリン、500ng/mlのヒドロコルチゾン、10ng/mlのEGFおよび20ng/mlのコレラ毒素を含有するDME HAM)中に入れ、37℃で1時間消化した。生じた類器官懸濁液を連続的に、1〜2分間にわたり0.25%(w/v)トリプシン-EGTA、5分間にわたり5mg/mlのディスパーゼ(Roche Diagnostics、米国インディアナポリス)および0.1mg/mlのDNase(Worthington、米国レークウッド)、ならびに3分間にわたり0.8%(w/v)NH4Cl中へ再懸濁させ、その後に濾過および標識化した。
【0089】
細胞標識、フローサイトメトリーおよび細胞選別
37℃で6μg/mlのHoechst33342(Sigma)を用いてHoechst染色を実施した。ブロッキングは、ラットγグロブリン(Jackson Laboratories、米国ウエストグローブ)および抗CD16/CD32 FcγIII/II受容体抗体(BD Pharmingen、米国サンディエゴ)中で10分間にわたり実施した。抗体インキュベーションは4℃で25分間実施した。他に特に規定しない限りBD Pharmingenから購入したマウス抗原に対する抗体は、CD24-PE、ビオチン化およびAPCコンジュゲート化CD31、ビオチン化およびAPCコンジュゲート化CD45、ビオチン化TER119、Sca-1-FITCおよび-PE、CD29-FITC(Chemicon Europe、英国ハンプシャー)、ならびに抗乳汁(Nordic Immunological Laboratories、オランダ国ティルブルフ)を含有していた。ストレプトアビジン-APCはBD Pharmingenから購入した。蛍光色素コンジュゲート化二次抗体は、抗ウサギIg-Alexa594および-Alexa488(Molecular Probes、米国ユージーン)を含んでいた。細胞は、分析前に0.5μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma)中に再懸濁させた。データ分析は、WEASELソフトウエア(http://www.wehi.edu.au/cytometry/WEASELv2.htm1)を用いて単一の生細胞ゲート上で実施した。細胞選別は、FACSDiVa、FACStarまたはFACS Vantageセルソーター(Becton Dickinson、カリフォルニア州マウンテンビュー)上で実施した。選別した細胞集団の純度は、日常的に95%を超えていた。
【0090】
MFP移植技術
本調査において使用したMFP移植技術は、図3に要約した。これは、DeOme et al., Cancer Res 19:515-520, 1959によって開発され、後になって細胞懸濁液を移植するために適応させられた。同系の3週齢の雌性思春期前マウスの第4乳腺を「逆Y字」切開によって露出させ、乳頭とリンパ節との間の乳腺の上皮形成部分を焼灼および切除によって取り出した。残留している脱上皮形成間質組織であるMFPを皮下組織から解離させ、背部へ付着したまま残っている腹膜上に折り返した。最後に、30G注射針を用いるHamiltonシリンジを介して容量10μLの細胞懸濁液をMFP内へ注射した。MFP内に注射された細胞懸濁液の存在は、懸濁液中に存在するトリパンブルーに起因する青色気泡の出現によって確証された。注射の技術的な質を記録し、不適切な注射は、それから上皮増殖物が生じない限り、分析から除外した。移植から5週間後にマウスを致死させ、レシピエントMFPをホールマウントし、Carnoys溶液中で固定した。それらは次にヘマトキシリンを用いて染色し、顕微鏡下で評価した。乳管および小葉両方の要素を有する上皮増殖だけを陽性と見なした。
【0091】
マウス
FVB/NJ、C57BL/6、Rosa-2615(C57BL/6 戻し交配)、MMTV-Wnt-1(BALB/c 戻し交配)、およびMMTV-neu(FVB/NJ 戻し交配)マウスを動物施設で飼育かつ飼養した。
【0092】
乳腺脂肪パッドの移植および分析
選別した細胞は、0.04%(w/v)トリパンブルー(Sigma)および50%(v/v)ウシ胎児血清(FCS)を備えるPBS中に再懸濁させ、10μLの用量で、内因性上皮が取り除かれていた3週齢の雌性マウスの鼡径腺内へ注射した。移植前の細胞の視認は、10μLのTerasakiウエル内で実施した。5〜10週間後にレシピエント乳腺を評価のために切除した。野生型乳腺増殖物はヘマトキシリンを用いて染色した。LacZ+増殖物は、36〜48時間にわたるX-gal染色によって検出した。増殖物は、小葉および/または末梢芽状突起を備える、中心点から発生した乳管を含む上皮構造であると規定した。二次移植片については、一次レシピエント乳腺からのLacZ+細胞懸濁液をゲノムDNAのPCRによって同定した。
【0093】
インビトロアッセイ
コロニーアッセイのために、10,000/cm2の照射NIH-3T3細胞の存在下で、0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)を備えるCMを含有する24ウエルプレートのウエル内へ直接的に選別した。培地は、24時間後に血清無含有培地と交換し、5日後にコロニーをメタノール:アセトン(1:1)を用いて固定し、Giemsaを用いて染色し、そして計数した。三次元分析のためには、細胞を冷却した100%(w/v)マトリゲル中に再懸濁させ、ゲルを固化させ、その後に上述のように血清無含有培地で被覆した。1週間後に、培地は1mMグルタミン、5μg/mlのインスリン、500ng/mlのヒドロコルチゾンおよび5μg/mLのプロラクチンを含有するDME-HAMへ取り替え、細胞は2週間培養した後に4%(v/v)パラホルムアルデヒド中で固定し、70%(v/v)エタノール中で脱水し、さらに切片作製のためにパラフィン中に包埋した。
【0094】
免疫染色
冷凍切片は、OCT中に包埋した組織から調製した。100%(v/v)アセトン中で固定した後、切片を再水和し、PBS中の5%(v/v)BCSを用いてブロッキングした。パラフィン包埋切片を脱ろうし、PBS中で洗浄し、20分間にわたり10mMクエン酸バッファー中での沸騰および15分間にわたる150mMグリシンを用いた処理による抗原回収を供し、その後に上述のようにブロッキングした。一次抗体染色は4℃で一晩かけて実施し、他方二次抗体染色は室温で30分間実施し、室温で5分間にわたりDAPI染色した。切片は、Leica DMIRE2倒立顕微鏡に連結したLeica TCS4 SP2スペクトル共焦点スキャナー上でイメージングした。
【0095】
実施例2:限界希釈試験
細胞集団中での乳腺幹細胞の頻度を確立するために、乳腺再構築能についての限界希釈分析を実施した。限界希釈分析は、ある特性(本発明者らの場合には、インビボで乳腺上皮構造を形成する能力)を有する特異的集団内の細胞頻度を決定するための明確に確立された方法である。これは問題の細胞が懸濁液中の他の細胞とは無関係にこの特性を有することを推測させる。本発明者らの方法では、移植された細胞数を減少させると、移植された細胞数の対数と陽性増殖物の比率との間に線形関係が存在するように、漸進的により小さな比率の陽性増殖物を生成するはずである。本発明者らの再構築データの統計的解析は、L-Calcソフトウエア(Stem Cell Technologies、カナダ国バンクーバー)を用いて実施した。
【0096】
全細胞集団中の乳腺再構築性細胞頻度は、汎白血球マーカーCD45および赤血球マーカーTER119、ならびにヨウ化プロピジウム(PI)取り込みによって決定される生育不能細胞を用いて、不純造血細胞から最初に枯渇させた後に分析した。一晩または長期間の培養を受けていない新しく調製した細胞を用いると、生育性CD45loTER119lo細胞の再構築頻度はほぼ1/3000であることが見いだされた(図4)。FVBおよびC57Bl/6動物間で類似の再構築頻度が認められた。計算限界希釈率でCD45hiTER119hi細胞を備える対照移植片は、増殖物を生成しなかった。その後の全部の分析は、ゲーティングされた生育性CD45loTER119lo細胞集団に関する。
【0097】
実施例3:Hoechst33342を用いて染色した乳腺細胞調製物のフローサイトメトリー分析
本発明者らが新しく単離した乳腺上皮細胞集団中で、Ho染色流出アッセイを用いてSP細胞を同定した。抗体染色の前に、Ho染料を3mg/mLの濃度で細胞に加え、1時間にわたり37℃でインキュベートした。SP細胞の存在は、Hoechst染料の流出の原因となるBCRP1/ABCG2膜トランスポーターポンプを阻害することが証明されているベラパミルを用いた細胞の処理によって確証された。SP細胞は、本発明者らの乳腺細胞調製物中で約1%の細胞を占めていた(図5)。
【0098】
実施例4:SPおよびMP細胞の再構築性細胞頻度
SP細胞が主集団(MP)細胞に比較して乳腺再構築能について富裕であるかどうかを決定するために、限界希釈試験において様々な比率の精製SPおよびMP細胞をマウスの切除された脂肪パッド内に移植した。SP細胞は全ゲート細胞の1%以下しか含んでいないので、乳腺を再構成するためにはMP細胞の少なくとも100分の1のSP細胞が必要とされると予測されるであろう。乳腺増殖物を生じさせたのは、SP移植の25例中1例に過ぎなかった。これとは対照的に、比例的に同等のMP細胞が移植された場合は、25回中19回で増殖物が観察された。L-Calcソフトウエアを用いて、SPおよびMP内の再構築性細胞頻度は約1/3,000であると決定された。SP細胞中では、乳腺再構築能の富裕は観察されなかった。重要なことに、この観察に対する必然の結果は、全集団からのSP細胞の枯渇はMP内に残留している細胞の再構築能を危うくしないことであった(図6)。そこで、乳腺SP細胞は、乳腺幹細胞について富裕であるとは思われない。
【0099】
実施例5:多数の細胞表面マーカーのフローサイトメトリー分析
マウス乳腺上皮細胞中の他の数種の細胞表面マーカーの存在を試験した(図7)。以前に公表された研究(Welm et al., Dev Biol 245:42-56, 2002)とは対照的に、本発明者らは、本発明者らの調製物中の細胞の大多数がSca-1を発現することを見いだした。その後の分析は、CD31を用いた内皮細胞枯渇後のSca-1hi細胞の減少したパーセンテージを証明したが、それでもまだ予想より多かった(図11)。二次元分析は、CD29/β1-インテグリン、CD49f/α6-インテグリン、およびPNAの有意な共発現を証明した(データは示していない)。造血幹細胞において以前に記載されたローダミン123loまたはc-kithi集団は、検出されなかった(データは示していない)。
【0100】
実施例6:4つの別個の集団が存在する
細胞表面マーカーCD24/HSAおよびCD29/β1-インテグリンを用いたCD45loTer119loCD31lo細胞の染色によって4つの別個の集団が明らかになった(図8)。CD24hiCD29hi細胞は、大多数(87%)の乳腺細胞を含有していたCD24loCD29loに比較して、約0.8%のCD45loTer119loCD31lo細胞を含んでいた。CD24+CD29-およびCD24-CD29+細胞は、CD45loTer119loCD31lo細胞の各々8.1および3.7%を占めていた。
【0101】
実施例7:SPおよびMP細胞の再構築性細胞頻度
限界希釈法での4つの精製集団の移植は、CD24hiCD29hi亜集団内の再構築性細胞についての実質的富裕を明らかにした(図9)。例えば、1つの実験では、100個のCD24hiCD29hi細胞は3/11のレシピエント乳腺中での乳腺増殖物を十分に生じさせることができた(図10)。また別の実験では、60個のCD24hiCD29hi細胞が移植された2/7匹の動物が乳腺増殖物を発生したが、他方残り3つの集団では何も検出されなかった。図9に示した3回の独立実験から引き出されたデータを用いると、L-Calc分析は、CD24hiCD29hi集団の再構築性細胞頻度が1/278であることを指示した。上記の分析には含まれていないが、それでも所見を支持しているまた別の実験は、Ho色素流出能力によってCD24hiCD29hi細胞を分類した。この実験では、CD24hiCD29hi MP細胞が移植された3/4のMFPは増殖物を発生した。そこで乳腺上皮細胞の1%未満を占めるCD24hiCD29hi集団(CD45loTer119loCD31lo染色によって規定される)は、全集団と比較して再構築性細胞がほぼ10倍富裕であるので、本発明者らは、乳腺幹細胞を含有すると考える。
【0102】
実施例8:CD29、CD24およびSca-1を用いて三重染色したCD45loTERloCD31lo細胞のフローサイトメトリー分析
CD24hiCD29hi細胞は、Alexa594コンジュゲート化抗体を用いた三重染色を用いて、Sca-1発現についても評価した。Sca-1発現は、再構築性細胞について富裕であると思われるCD24hiCD29hi集団中では低い(しかしゼロではない)ことが見いだされ、Sca-1loであると見いだされた(図11)。さらにSca-1hiおよびSca-1lo細胞の再構築能を比較した2つの独立移植実験はScahi細胞に由来する増殖物を産生しなかったが、Sca-1lo細胞が移植された乳腺では増殖物が発生した(図12)。そこで、このデータは、Sca-1が乳腺上皮幹細胞について富裕であることを示すマーカーではないことを示唆している。
【0103】
実施例9:短期間培養
CD24およびCD29染色によって選別されたCD45loTer119loCD31lo細胞が短期間培養において増殖する能力は、200個の細胞をコラーゲン被覆プレート上にプレーティングし、BSA、5μg/mLのインスリン、500ng/mLのヒドロコルチゾン、10ng/mLのEGFおよび20ng/mLのコレラ毒素を含有するDME-HAM中で37℃および5% CO2/5% O2大気下で培養し、5日後にコロニー数を決定することによって評価した。興味深いことに、CD24+CD29+細胞は再現性で最大数のコロニーを発生させたが(図13)、これらは一般により大きくもあった。そこでコロニー形成は、これらの細胞の増強した乳腺再構築能と相関すると思われた。
【0104】
実施例10:Lin-CD29hiCD24+ MaSC
新しく単離した乳腺細胞懸濁液中において、MaSCおよびそれらの誘導体上で発現する細胞表面マーカーを同定した。乳腺は、上皮、内皮、間質および造血細胞を含む不均質な細胞タイプ混合物を含むので、これらの細胞を枯渇させるために内皮(CD31)および造血(CD45およびTER119)抗原に対する抗体を便宜的に使用した。実質的CD45+およびCD31+集団は、CD45-CD31-TER119-(Lin-)集団上でゲーティングすることによって除外した。造血幹細胞に対して使用した分析に類似する、限界希釈分析(Fazekas de St, J Immunol Methods 49:R11-23, 1982)を使用して規定された亜集団の細胞中で乳腺再構築「単位」(MRU)の頻度を決定した。Lin-細胞は、蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって単離し、レシピエントマウスの乳腺脂肪パッド(MFP)内へ減少数で移植した。不可欠の全上皮要素を含有する特徴的な増殖物のパーセンテージ(方法の項を参照)を注入された各細胞数について確定し、Lin-集団内のMRUの頻度は1/4,900であると計算された(表2)。5,000個の移植されたLin-細胞から発生した増殖物の例は、図1bに示した。これとは対照的に、Lin+ゲートからの3,000個の細胞の22片の移植片は3回の独立実験において増殖物を生成せず、これはMRUがこのサブセット内では富裕でないことを示している(図13b)。
【0105】
4つの別個のLin-亜集団は、神経幹細胞を富裕化させるために使用されており、ヒト乳房腫瘍上で発現するCD24(熱安定性抗原)、および2つの発現プロファイリング試験において幹細胞調節において関係付けられている皮膚における幹細胞マーカーであるCD29(β1-インテグリン)の発現に基づいて規定した(図13c)。これらの4つの集団におけるMRUの頻度は、FACSによる単離およびLin-集団におけるそれらの頻度に比例する数での乳腺脂肪パッド移植後に決定した。MRUはLin-CD29hiCD24+集団内でほぼ8倍に富裕化したが、他の3つのサブセットでは有意な富裕は見いだされなかった(表3)。CD49f(α6インテグリン)発現についての共染色によって、Lin-CD29hiCD24+ゲート内のCD49f++細胞の有意な富裕が明らかになった。興味深いことに、Lin-CD29hiCD24+集団は年齢に伴って増加したが、しかし一致はしなかった。このためこれらの細胞は、妊娠によって誘導されたより大きな乳腺上皮細胞集団とは別個であると思われ、最近では幹細胞様特性を有すると報告されている。
【0106】
精製法は、移植前の細胞の二重選別、計数および生育性の決定によって精緻化した。さらに、偏在的に発現したLacZ導入遺伝子(Friedrich and Sorinao, Genes Dev 5:1513-1523, 1991)を有するRosa 26マウスから野生型レシピエント内に移植された細胞は、採取した乳腺中でのLacZ(β-ガラクトシダーゼ)活性について染色することによってドナー起源の検証を可能にした。このより定量的方法を用いると、Lin-CD29hiCD24+集団において計算されたMRU頻度は1/64へ増加したが、他の集団については有意に変化しなかった(表4)。図13dは、これらの移植片の1つから入手されたLacZ-陽性(LacZ+)上皮増殖物を示している。細胞が移植中には不可避的に消失することを前提にすると、Lin-CD29hiCD24+集団内の実際MRU頻度は1/64より高い可能性が高い。
【0107】
Sca-1\Ly6A\Eの発現をLin-CD29hiCD24+亜集団において評価した。しかし、Sca-1、CD29およびCD24についての共染色によって、Lin-CD29hiCD24+ゲート内の有意なSca-1hi集団は明らかにならなかった(図13e、左のパネル)。この観察をインビボで確証するために、Sca-1発現およびサイズに基づいて分画した細胞を移植した(図13e、右のパネル)。MRU頻度はSca-1hiまたはサイズの大きな集団に比較してサイズの小さなSca-1lo集団内では少なくとも3倍高かった(表5)。Sca-1発現は、3日間にわたり培養した乳腺上皮細胞上では実質的に上昇することが見いだされた。
【0108】
全部ではないが数種のタイプの幹細胞は、膜トランスポータータンパク質の発現に起因して、Hoechst33342などの色素を排除する上昇した能力を有する。この能力を有する細胞には、造血細胞、神経細胞および筋原細胞が含まれるが、精原幹細胞は含まれない。乳腺では、上昇した色素流出を示すHoechst副集団(SP)内の細胞は、前駆細胞活性が富裕であると報告されている。しかし、Hoechst SPは、Hoechst、CD29およびCD24を用いた共染色によってLin-CD29hiCD24+ゲート内では枯渇していることが見いだされた。このため、インビボで副集団および主集団(MP)内のMRU頻度を決定することが可能であった(図1f)。MP細胞は確実に上皮増殖物を発生させたが、SPからは上皮増殖物は発生しなかった。MP細胞の計算MRU頻度は、Lin-集団のMRU頻度に類似して1/2,900であった。Lin-集団からのSP細胞の排除は、その内部でのMRU頻度を減少させなかった。そこでSP分画内にはMaSCの富裕はないが、一部の乳腺前駆細胞がその中に存在すると結論された。
【0109】
Lin-CD29hiCD24+集団が乳腺前駆細胞については富裕であるというまた別の証拠は、上皮細胞コロニーについての細胞培養アッセイから生じた。有意なコロニーを産生したのは2つのCD24+集団だけであり、Lin-CD29hiCD24+サブセットは、実質的に大きなコロニーとともに、2倍から3倍高い頻度を示した(図14a)。細胞の分化能力を評価するために、マトリゲル内でのLin-CD29hiCD24+およびLin-CD29loCD24+細胞の増殖を乳腺刺激性条件下で比較した。Lin-CD29loCD24+集団由来の細胞は、プロラクチン刺激後に乳汁タンパク質を産生する単細胞層状の、腺胞様構造しか形成しなかった(図14b、上の列)。このため、この集団は限定された分化能力を備える前駆細胞を含有する可能性がある。これとは対照的に、Lin-CD29hiCD24+細胞は、乳管形状および多細胞性球状体、ならびにLin-CD29loCD24+集団からのそれらへ時々は腺胞様の乳汁産生構造を含む形態学的に識別可能な構造の不均質混合物を形成した(図14b、下の列)。Lin-CD29hiCD24+細胞の拡大された範囲の分化ならびにそれらの増強されたコロニー形成能力は、この集団に乳腺前駆細胞が富裕であることを示している。これらの所見と適合して、高レベルのびまん性CD29発現は、高発現が主として規定外側領域に制限されている成熟乳管に比較して、幹細胞中で富裕であると推定された末梢芽状突起のキャップ細胞領域内で明白であった(図14c)。
【0110】
乳腺内での系譜発達の「共通前駆細胞モデル」を試験するために、Lin-CD29hiCD24+ MRUが単細胞を構築するかどうかを決定した。Rosa 26マウス由来のLin-CD29hiCD24+細胞は、二重選別後に計数し、Lin-CD29hiCD24+細胞が枯渇した野生型集団からの支持細胞(5×103)を用いて、または用いずに、1回分の注射用量当たり細胞1個の濃度で再懸濁させた。68回の注射から8個のLacZ+上皮増殖物が生成した(表3)。注目すべきことに、支持細胞は増殖物またはそのサイズの可能性に影響を及ぼさなかった。8個の増殖物は2つ以上の系譜限定前駆細胞から生じた可能性があるが、計算はこれが極めてありそうもないことを証明した。統計的分析に関連して、乳腺再構築性細胞頻度は、陰性結果の比率およびポアソン統計学に基づいて、R統計ソフトウエア(R Development Core Team, 2004, http://www.R-project.org)一般化線形モデル関数およびL-Calc限界希釈分析ソフトウエア(Stem Cell Technologies、カナダ国バンクーバー)を用いて計算した。細胞懸濁液からのアリコート中の乳腺再構築性細胞数の確率は、平行実験(26%は2回ずつ、1%は3回ずつ)において実験的に観察された比率でのポアソン分布中の細胞凝集物の存在を仮定して、シミュレーションプログラムおよびR統計ソフトウエアを用いて計算した。
【0111】
「単細胞懸濁液」移植片アッセイでは、8/68例の注射が全乳腺上皮細胞系統が発達するために必要とされる2種以上の細胞を含有している確率は、上記の仮定に基づき、そしてLin-CD29hiCD24+集団内ではMRUの1/3の頻度を保存的に推定することにより、0.01であると計算された。したがってこれらのアッセイからの増殖物は、単細胞から発生した可能性が極めて高い。
【0112】
自己再生アッセイでは、25個以下の細胞の各一次増殖物が1つより多い細胞から発生した確率は、計算された1/64のMRC頻度に基づき、そして1アリコート当たりの細胞数のポアソン分布を想定して、0.05であると計算された。二次増殖物の最小数は4であったので、一次移植片中に少なくとも4個のMRCが存在する機会は0.007未満であると計算された。そこで一次増殖物はクローン性である可能性が極めて高く、そこで自己再生が主として移植されたMaSC内で発生する可能性が極めて高い。
【0113】
単細胞が除去された脂肪パッドを完全に再構築できることを明確に証明するために、10μLのTerasakiウエル中で顕微鏡下で視認されていた個別の二重選別されたLin-CD29hiCD24+ Rosa細胞を移植した。2回の個別実験を含む70個の移植片から4個のLacZ+増殖物が生成され(表6および図15a)、そして以前に観察されたように、支持細胞の存在は何の影響も及ぼさなかった。脂肪パッドの実質的移植は明白であり、増殖物の組織学的切片作製は、筋上皮細胞および管腔上皮細胞両方から構成される正常乳管構造を明らかにした(図15b)。さらに、妊娠レシピエントに由来する乳腺切片の免疫蛍光染色は、乳管管腔内の乳汁タンパク質を明らかにした(図15c)。そこで、単一Lin-CD29hiCD24+細胞は全乳腺を再構成することができ、これはその高度の増殖性および多能分化能力を証明している。
【0114】
Lin-CD29hiCD24+乳腺再構築性細胞が自己再生できるかどうかを評価するために、Lin-CD29hiCD24+細胞の一次移植片に由来する上皮増殖物をフローサイトメトリーによって分析し、再移植した。一次移植片増殖物は野生型マウスと同一のCD29およびCD24プロファイルを含んでいたが(図15d)、他方非移植乳腺脂肪パッドからの細胞懸濁液はCD24-であり(図15d)、これはCD24+細胞がドナー由来であることを示していた。二次移植のために、26個の二重選別Lin-CD29hiCD24+ Rosa細胞より少数で発生し、このために単細胞に由来した可能性が極めて高い一次移植片を使用した。LacZ遺伝子についてのPCR分析によって検証した一次増殖物各々からの細胞は、少なくとも4例のレシピエント内でLacZ+増殖物を生成した(図15eおよび表3)。そこでLin-CD29hiCD24+乳腺再構築性細胞は、幹細胞の決定的な特徴である自己再生が可能である(Weissman, Cell 100:157-168, 2000)。
【0115】
この証拠は、乳ガンについての腫瘍幹細胞の存在を支持している(Al-Hajj et al, 2004、前記)。このため、マウスの乳腺腫瘍を発生する傾向のある2つの系統における幹細胞マーカーCD29およびCD24の発現について試験した。多重産雌性MMTV-Wnt-1マウスから採取した過形成性であるが前ガン状態の乳腺組織は、Lin-CD29hiCD24+亜集団の顕著な拡大(図16a)を証明し、上皮CD24+集団内のCD29hi細胞のパーセンテージは対照マウスに比較してトランスジェニックマウスでは2倍高かった(図16b)。これらの所見は、MMTV-Wnt-1発ガン遺伝子は、未分化前駆細胞もしくは幹細胞を標的とするので、異種腫瘍を発生させるという提案と適合する。さらに、Wntシグナリング経路は、造血幹細胞における役割と平行して、MaSCの自己再生を調節することができる。これとは対照的に、管腔上皮腫瘍のために死んだMMTV-neuマウスからの新生物発生前乳腺組織は、幹細胞富裕集団の拡大を示さなかった(図16a、b)。これらのデータは、MMTV-Wnt-1マウスにおける乳腺腫瘍が幹細胞集団から発生する、そして別個の内皮細胞タイプがMMTV-neu腫瘍原性モデルにおける形質転換の標的であるという仮説を支持している。
【0116】
本試験は、単一内皮幹細胞から全器官が再構成されるという最初の説明を提供しており、他の上皮組織からの幹細胞の単離と密接な関係を有するはずである。乳腺内で、幹細胞機能を支配する遺伝子の描写および系譜拘束は、正常な前駆細胞および乳ガン幹細胞の新規なマーカーの同定を最終的には可能にするはずである。
【0117】
当業者であれば、本明細書において記載の本発明は本明細書に詳細に記載した以外の変形および修飾を受ける可能性があることを理解するであろう。本発明は、そのような変形および修飾全てを含むことを理解されたい。本発明は、さらにまた本明細書において言及した、または指示した全ての工程、特徴、組成物および化合物、ならびに該工程または特徴の任意の2つ以上の一部および全ての組み合わせを含んでいる。
【0118】
(表2)LIN-乳腺細胞中のMRU頻度
Lin-ゲート由来の野生型細胞を(機械計数に基づく)指示した数で3週齢のレシピエントの除去されたMFP内へ注射し、MFPを表1に記載したとおりに分析した。データは7回の独立実験からのものである。*注射したMFP数当たりの増殖物の数として示した。
【0119】
(表3)CD29およびCD24発現によって規定されたLIN-乳腺細胞のサブセット内のMRU頻度
CD24およびCD29発現によって規定された4つのLin-サブセット由来の野生型細胞を(機械計数に基づく)指示した数で3週齢のレシピエントの除去されたMFP内へ注射し、MFPは表1に記載したとおりに分析した。データは6回の独立実験からのものである。*注射したMFP数当たりの増殖物の数として示した。†最高数の細胞が移植された1匹のマウスが1個の増殖物を発生したと仮定して計算された。
【0120】
(表4)CD29およびCD24発現に基づいて二重選別かつ視認されたLIN-乳腺細胞の相違するサブセット内のMRU頻度
Lin-CD29loCD24+、Lin-CD29hiCD24-およびLin-CD29hiCD24+集団からのLacZ+細胞を二重選別し、計数し、指示した数で3週齢のレシピエントの除去されたMFP内へ注射した。5〜8週間後に、レシピエントを処女として致死させ、それらのMFPを上皮増殖物の存在について試験した。各細胞集団についてのMRU頻度は、移植された細胞数として上述した範囲のメジアン値を用いて、L-calソフトウエアを用いて計算した。*注射したMFP数当たりの増殖物の数として示した。†最高数の細胞が移植された1匹のマウスが1個の増殖物を発生すると仮定して計算された。
【0121】
(表5)HOECHST33342除外および高SCA-1発現はLIN-乳腺細胞中でのMRU富裕サブセットを規定しない
R3、R4、R5(図1e)、MPまたはSP(図1f)ソーティングウインドウからの野生型細胞を指示した数で3週齢のレシピエントの除去されたMFP内へ注射し、MFPを表1に記載したとおりに分析した。データは各マーカーについての3回の独立実験からのものである。*注射したMFP数当たりの増殖物の数として示した。
【0122】
(表6)単一Lin-CD29HICD24+細胞からの増殖物
Rosa 26マウスから選別された単一LacZ+細胞を3週齢のレシピエントの除去されたMFP内へ注射し、そしてMFPを表4に記載したとおりに分析した。†細胞は、10μLあたり1個の細胞を含有する単細胞懸濁液、または単細胞がその中で視認されていた個々の10μLのアリコートのいずれかから採取した。これらの単細胞移植片アプローチの各々からのデータは2回の独立実験からプールした。*注射したMFP数当たりのLacZ+増殖物の数として示した。§指示された一次移植片由来のLacZ+増殖物からの細胞は、除去されたMFP内へ二次的に移植した。5回の独立実験からデータを示した。
【0123】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】乳腺上皮細胞の発達について提案されたモデルの略図である。
【図2】乳腺上皮細胞の調製についてのプロトコールの略図である。
【図3】インビボ移植試験のための方法の略図である。
【図4】限界希釈試験の結果の表形式での表示である。
【図5】Hoechst33342を用いて染色した乳腺細胞標本についてのフローサイトメトリー分析の結果のグラフ表示である。
【図6】SPおよびMP細胞の再構築性細胞頻度を示したグラフおよび表である。これらの表は生集団データを示している。ヒストグラムは、L-Calc分析の結果を示している。エラーバーは95%信頼区間を表す。
【図7】多数の細胞表面マーカーについてのフローサイトメトリー分析を示したグラフである。影の付いていない曲線は、アイソタイプ染色した対照を表している。
【図8】CD29-FITCおよびCD24-HSAを用いて共染色したCD45loTERloCD31lo細胞のフローサイトメトリー分析を示したグラフである。
【図9】SPおよびMP細胞の再構築性細胞頻度を示したグラフおよび表である。これらの表は生集団データを示している。ヒストグラムは、L-Calc分析の結果を示している。エラーバーは95%信頼区間を表す。
【図10】レシピエントMFPのホールマウント分析を示したグラフである。このグラフは、移植されたCD24loCD29lo細胞から発生した空MFP(右上)とは対照的に、移植されたCD24hiCD29hi細胞(左上、左下に拡大図)からの典型的な増殖物を示している。
【図11】CD29、CD24およびSca-1を用いて三重染色したCD45loTERloCD31lo細胞のフローサイトメトリー分析を示したグラフである。
【図12】相違するSca-1発現レベル(Sca-1lo対Sca-1hi)を備える細胞の再構築能を比較した、MFP移植実験の結果を示したグラフおよび表である。
【図13】CD24およびCD29染色によって選別された短期間培養で増殖するCD45loTer119loCD31lo細胞を示した写真および表である。
【図14】Lin-CD29hiCD24+集団におけるMRUの富裕を示している図である。a、乳腺細胞懸濁液中での造血(CD45、Lin(TER119)および内皮(CD31)系譜の細胞表面マーカーの発現(左のパネル);限界希釈移植片分析のためにLin-(右のパネル、R2ゲート)およびLin+(右のパネル、R1ゲート)細胞を選択するために使用したゲーティング戦略。b、5,000個のLin-細胞(左のパネル)および3,000個のLin+細胞(右のパネル)が移植された妊娠レシピエントMFPの典型的なヘマトキシリン染色ホールマウント。バー:750μm。c、Lin-集団におけるCD24およびCD29の発現(左のパネル);移植のためにCD29およびCD24によって規定された4つのLin-集団由来の細胞を精製するために使用したゲーティング戦略(右のパネル、表示したパーセンテージは典型的な数値である)。d、13個の可視化して二重選別したLin-CD29hiCD24+細胞の移植から発生したLacZ+の増殖物。バー:250μm。e、Lin-CD29hiCD24+集団内のSca-1の発現(左のパネル、点線はアイソタイプによる標識を示している);移植のためのSca-1発現およびサイズによって細胞を精製するために使用したゲーティング戦略(右のパネル、R3〜5ゲート)。f、全Lin-集団(中央のパネル)と比較したLin-CD29hiCD24+亜集団(左のパネル)におけるHoechst SP細胞の欠失;Hoechst染色(中央のパネル)によって細胞を精製するために使用されたゲーティング戦略;100mMのベラパミルの添加によって誘導したLin-集団におけるSP細胞の消失(右のパネル)。
【図15】Lin-CD29hiCD24+乳腺細胞の増加した前駆細胞能力についてのインビトロの証拠を示している図である。a、CD29およびCD24発現によって規定された4つのLin-細胞集団のコロニー形成能力(ヒストグラムは平均値±SEMを示している、n=5)。b、Lin-CD29loCD24+およびLin-CD29hiCD24+細胞のMatrigel培養によって生成した代表的構造(各々、上および下のパネル);ゲルの明視野画像(左のパネル;バー:100μm)、H&E染色切片(中央のパネル;バー:10μm)、および抗乳汁抗体を用いた標識(右のパネル、矢じりは乳汁産生構造を示している;矢印は非乳汁産生構造を示している;はめ込み図はアイソタイプ標識対照切片を示している:赤色、乳汁;青色、DAPI;バー:上、40μm、下20μm)が示されている。c、末梢芽状突起(左のパネル、矢印は頂帽細胞領域を示している;バー:40μm)およびより成熟した乳管構造(右のパネル;バー:16μm)におけるCD24およびCD29の発現。はめ込み図は、アイソタイプ標識対照切片を示している:赤色、CD24;緑色、CD29;青色、DAPI。
【図16】単一の自己再生性Lin-CD29hiCD24+細胞がMFPを再構築できることを示している図である。a、単一LacZ+ Lin-CD29hiCD24+細胞の移植から発生した上皮増殖物のホールマウント分析;移植の10および8.5週間後に採取された処女レシピエントMFP(各々左上および中央上のパネル;バー:250μm)、および移植10週間後に採取された妊娠レシピエント(右上のパネル;バー:250μm)について証明された増殖物の低倍率画像;処女乳管小葉構造(左下のパネル;バー:100μm)、TEB(中央下のパネル;バー:50μm)、および妊娠レシピエントにおいて発達中の小葉腺胞構造(右下のパネル;バー:100μm)の高倍率画像。b、ヌクレアファーストレッドを用いて染色した単細胞起源のLacZ+増殖物は、処女レシピエントでは乳管管腔(左のパネル、矢じり;バー:5μm)および筋上皮(左のパネル、矢印)細胞系譜ならびに特徴的な末梢芽状突起(中央のパネル;バー:10μm)を、そして妊娠レシピエントでは小葉腺胞上皮(右のパネル、矢印は乳汁産生と関連する脂質液滴を示している;バー:10μm)を示している。c、妊娠中期のレシピエントにおける単一LacZ+ Lin-CD29hiCD24+細胞から発生した乳管の抗乳汁抗体を用いた免疫蛍光染色;はめ込み図はアイソタイプ標識対照切片を示している:緑色、乳汁;青色、DAPI。d、Lin-CD29hiCD24+細胞が移植されたMFP(左のパネル)および移植されていない除去されたMFP(対照、右のパネル)から調製した細胞懸濁液のフローサイトメトリー分析。e、25個のLin-CD29hiCD24+細胞の一次増殖物由来の細胞の二次移植から発生したLacZ+増殖物を含有する、処女および妊娠レシピエントMFPの低倍率および高倍率画像(左および中央のパネル;バー:各々250および100μm);ヌクレアファーストレッドを用いて染色した妊娠レシピエントにおける二次LacZ+増殖物の切片(右のパネル;バー:20μm)。
【図17】Lin-CD29hiCD24+集団がMMTV-Wnt-1トランスジェニックマウスにおいて拡大しているのを示した図である。a、MMTV-Wnt-1およびMMTV-neuトランスジェニック乳腺由来の細胞懸濁液中でのCD24およびCD29発現についての代表的なフローサイトメトリー分析。肉眼的に正常な乳腺組織が4月齢の経産MMTV-Wnt-1マウスおよび6月齢のMMTV-neu処女マウスから採取した(n=3)。左のパネル:同一前ガン状態過形成乳腺由来のH&E染色切片。バー:40μm。b、年齢および経産数を適合させた対照(影の付いていないヒストグラム、n=2;各々38%および40%)と比較した、MMTV-Wnt-1(左側に影付きのヒストグラム、n=3;74%)およびMMTV-neu(右側に影付きのヒストグラム、n=3;43%)トランスジェニック乳腺のLin-CD24+(上皮)集団中のCD29hi細胞のパーセンテージを示したヒストグラムである。パーセンテージは平均値±SEMである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に均質なMaSC細胞集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきMaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なMaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法。
【請求項2】
細胞表面マーカーがCD45、Lin(TER119)、CD31、CD24およびCD29から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞表面マーカーの識別がCD45lo、Linlo、CD31lo、CD24hiおよびCD29hiであることを特徴とする細胞集団を生じさせる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
細胞が哺乳動物由来である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
哺乳動物がヒトである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物がマウスである、請求項4記載の方法。
【請求項7】
細胞選別方法が蛍光活性化セルソーティング(FACS)による、請求項1または2または3記載の方法。
【請求項8】
実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法。
【請求項9】
細胞が哺乳動物由来である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
哺乳動物がヒトである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物がマウスである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
細胞選別方法が蛍光活性化セルソーティング(FACS)による、請求項8または9または10または11記載の方法。
【請求項13】
単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法によって選択された実質的に均質なMaSC集団。
【請求項14】
MaSCが哺乳動物由来である、請求項13記載の均質な集団。
【請求項15】
哺乳動物がヒトである、請求項14記載の均質な集団。
【請求項16】
哺乳動物がマウスである、請求項14記載の均質な集団。
【請求項17】
生物における細胞置換療法のための方法であって、単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、およびCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCの実質的に均質な集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法によって単離されるCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCの実質的に均質な集団を生成する工程、ならびに該生物もしくは該MaSCを受け入れられる生物へMaSCの該均質な集団を導入する工程、を含む方法。
【請求項18】
MaSCの調節因子および一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤を含む薬学的組成物。
【請求項19】
MaSCの調節についてスクリーニングするための方法であって、該MaSCを推定調節因子と接触させる工程およびMaSCの増殖または発達の調節についてスクリーニングする工程を含む方法。
【請求項1】
実質的に均質なMaSC細胞集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきMaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なMaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法。
【請求項2】
細胞表面マーカーがCD45、Lin(TER119)、CD31、CD24およびCD29から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞表面マーカーの識別がCD45lo、Linlo、CD31lo、CD24hiおよびCD29hiであることを特徴とする細胞集団を生じさせる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
細胞が哺乳動物由来である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
哺乳動物がヒトである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物がマウスである、請求項4記載の方法。
【請求項7】
細胞選別方法が蛍光活性化セルソーティング(FACS)による、請求項1または2または3記載の方法。
【請求項8】
実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を生物学的サンプルから単離するための方法であって、単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために該生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法。
【請求項9】
細胞が哺乳動物由来である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
哺乳動物がヒトである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物がマウスである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
細胞選別方法が蛍光活性化セルソーティング(FACS)による、請求項8または9または10または11記載の方法。
【請求項13】
単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、および実質的に均質なCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSC集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法によって選択された実質的に均質なMaSC集団。
【請求項14】
MaSCが哺乳動物由来である、請求項13記載の均質な集団。
【請求項15】
哺乳動物がヒトである、請求項14記載の均質な集団。
【請求項16】
哺乳動物がマウスである、請求項14記載の均質な集団。
【請求項17】
生物における細胞置換療法のための方法であって、単離すべきCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCを含む不均質な細胞集団を提供するために生物学的サンプルに組織破壊手段を供する工程、およびCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCの実質的に均質な集団を単離するために該不均質な細胞集団に細胞表面マーカー識別手段を供する工程、を含む方法によって単離されるCD45loTER119loCD31loCD24hiCD29hi MaSCの実質的に均質な集団を生成する工程、ならびに該生物もしくは該MaSCを受け入れられる生物へMaSCの該均質な集団を導入する工程、を含む方法。
【請求項18】
MaSCの調節因子および一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤を含む薬学的組成物。
【請求項19】
MaSCの調節についてスクリーニングするための方法であって、該MaSCを推定調節因子と接触させる工程およびMaSCの増殖または発達の調節についてスクリーニングする工程を含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2007−536915(P2007−536915A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511777(P2007−511777)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000685
【国際公開番号】WO2005/108981
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(505098650)ザ ウォルター アンド エリザ ホール インスティテュート オブ メディカル リサーチ (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000685
【国際公開番号】WO2005/108981
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(505098650)ザ ウォルター アンド エリザ ホール インスティテュート オブ メディカル リサーチ (11)
【Fターム(参考)】
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