説明

細胞濃縮装置

【課題】装置の小型化を図りつつ、細胞懸濁液から不純物を除去して、細胞を高濃度に濃縮することができる細胞濃縮装置を提供する。
【解決手段】細胞懸濁液A中の細胞よりも小さな物質を透過させる中空糸膜11と中空糸膜21を収容する外筒とを有する第1の中空糸モジュール10および第2の中空糸モジュール20と、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部と第2の中空糸モジュール20の中空糸膜21の内部とを接続するチューブ36と、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に細胞懸濁液Aを供給するポンプP1と、第1の中空糸モジュール10内の細胞懸濁液Aを加圧して、第1の中空糸モジュール10から第2の中空糸モジュール20にチューブ36を介して細胞懸濁液Aを移動させるポンプP2とを備え、第2の中空糸モジュール20が、第1の中空糸モジュール10よりも小さな膜容積を有する細胞濃縮装置1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞濃縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、脂肪の中に含まれる幹細胞を用いた細胞治療が期待されている。この要望に対して、従来、透析装置を用いて血液から細胞治療に用いる細胞(単球)の濃縮を行う血管新生療法用細胞の分離回収システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、中空糸膜を透過させることで血液中の白血球を除去する中空糸膜型白血球除去フィルタ装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−336080号公報
【特許文献2】特開平9−122231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、細胞治療において細胞を局所に注入する場合は、細胞の容量が少ないことが要求されるが、特許文献1に開示されている分離回収システムでは濃縮率が不十分なため、さらに遠心分離等の濃縮工程が必要となり、細胞塊の発生、装置が大型化するといった問題が生ずる。
【0005】
一方、特許文献2に開示されている中空糸膜型白血球除去フィルタ装置では、中空糸膜フィルタによる濃縮率が不十分であるため、結局、遠心分離等の濃縮工程が必要となり、細胞塊の発生、装置が大型化するといった問題が生ずる。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、装置の小型化を図りつつ、細胞を高濃度に濃縮することができる細胞濃縮装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、細胞懸濁液中の細胞よりも小さな物質を透過させる中空糸膜と該中空糸膜を収容する外筒とを有する第1の中空糸モジュールおよび第2の中空糸モジュールと、前記第1の中空糸モジュールの中空糸膜の内部と前記第2の中空糸モジュールの中空糸膜の内部とを接続する配管と、前記第1の中空糸モジュールの中空糸膜の内部に前記細胞懸濁液を供給する細胞懸濁液供給手段と、前記第1の中空糸モジュール内の前記細胞懸濁液を加圧して、前記第1の中空糸モジュールから前記第2の中空糸モジュールに前記配管を介して前記細胞懸濁液を移動させる加圧手段とを備え、前記第2の中空糸モジュールが、前記第1の中空糸モジュールよりも小さな膜容積を有する細胞濃縮装置を採用する。
【0008】
本発明によれば、細胞懸濁液供給手段により、第1の中空糸モジュールの中空糸膜の内部に細胞懸濁液が供給されることで、細胞懸濁液中の細胞が中空糸膜の内部に残存する一方で、細胞懸濁液中の赤血球や酵素が水とともに中空糸膜の外部に排出される。これにより、細胞懸濁液中の細胞の洗浄が行われる。そして、第1の中空糸モジュール内の細胞懸濁液が、加圧手段により加圧されることで、配管を介して第2の中空糸モジュールに移動させられる。第2の中空糸モジュールでは、細胞懸濁液中の細胞が中空糸膜の内部に残存する一方で、細胞懸濁液中の水等が中空糸膜の外部に排出される。ここで、第2の中空糸モジュールは、第1の中空糸モジュールよりも小さな膜容積を有しているため、第2の中空糸モジュールの中空糸膜の内部に残存する細胞懸濁液が濃縮される。
【0009】
以上のように、本発明によれば、細胞懸濁液を洗浄して細胞治療に必要のない赤血球や酵素を除去するとともに、遠心分離機等の設備を設けることなく、細胞懸濁液を高濃度に濃縮することができる。
【0010】
上記発明において、前記第1の中空糸モジュールの中空糸膜の内部に洗浄液を供給する洗浄液供給手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、第1の中空糸モジュールの中空糸膜内の細胞懸濁液を洗浄液により洗浄して、赤血球や酵素等の不純物を除去することができ、最終的に得られる濃縮された細胞懸濁液中の細胞の純度を高めることができる。
【0011】
上記発明において、前記第1の中空糸モジュールの中空糸膜と外筒との間に洗浄液を供給する洗浄液供給手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、第1の中空糸モジュールの中空糸膜と外筒との間の圧力を高めて、加圧手段による第1の中空糸モジュールから第2の中空糸モジュールへの細胞懸濁液の移動を補助することができる。
【0012】
上記発明において、前記洗浄液供給手段が、洗浄液を拍動させて供給することとしてもよい。
このようにすることで、第1の中空糸モジュールの中空糸膜の孔に細胞等が付着してしまった場合にも、洗浄液を拍動させることにより、孔から細胞等を剥離させることができる。これにより、細胞懸濁液の洗浄性を高めるとともに、最終的に得られる細胞(細胞懸濁液)の収率を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、装置の小型化を図りつつ、細胞を高濃度に濃縮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞濃縮装置の全体構成図である。
【図2】図1の細胞濃縮装置における細胞懸濁液の供給動作を示す図である。
【図3】図1の細胞濃縮装置における細胞懸濁液の洗浄動作を示す図である。
【図4】図1の細胞濃縮装置における細胞懸濁液の洗浄動作(逆洗)を示す図である。
【図5】図1の細胞濃縮装置における細胞懸濁液の濃縮動作を示す図である。
【図6】図1の細胞濃縮装置における細胞懸濁液の廃液動作を示す図である。
【図7】図1の細胞濃縮装置における細胞懸濁液の回収動作を示す図である。
【図8】図1の変形例に係る細胞濃縮装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る細胞濃縮装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞濃縮装置1は、図1に示されるように、細胞懸濁液Aを収容する細胞懸濁液容器5と、洗浄液Bを収容する洗浄液容器6と、廃液C(図2参照)を収容する廃液容器7と、複数の中空糸を有する第1の中空糸モジュール10および第2の中空糸モジュール20と、これらを接続するチューブ31〜37とを備えている。
【0016】
細胞懸濁液容器5は、細胞懸濁液Aを収容する容器であり、容器の上部には、細胞懸濁液Aの増減に伴って容器内に外気を出し入れするベントノズル15と、ベントノズル15に設けられたベントフィルタ16とを備えている。ここで、細胞懸濁液Aとは、例えば脂肪組織等の生体組織を消化酵素液と混合して攪拌することにより、脂肪組織を構成する脂肪由来細胞等が単離されて浮遊した懸濁液のことである。
【0017】
第1の中空糸モジュール10は、細胞懸濁液A中の細胞よりも小さな物質を透過させる複数の中空糸膜11と、これら中空糸膜11を収容する外筒12とを有している。なお、図において、第1の中空糸モジュール10を模式的に示しているため、外筒12内には1本の中空糸膜11しか図示していないが、外筒12内には複数の中空糸膜11が収容されている。
【0018】
中空糸膜11は、ストロー状の形状を有し、内部が中空に形成された膜であり、表面に細胞懸濁液A中の細胞よりも小さな孔を多数有している。このような構成を有することで、中空糸膜11の内部に細胞懸濁液Aを通過させることにより、中空糸膜11の内部に細胞懸濁液A中の細胞を残存させ、中空糸膜11の外部に細胞懸濁液A中の赤血球や酵素を水とともに排出するようになっている。これにより、細胞懸濁液A中の細胞と赤血球や酵素等の不要物との分離、すなわち、細胞懸濁液Aの洗浄を行うことができる。
【0019】
中空糸膜11の孔径は、赤血球(φ約7.8μm)を通し、脂肪由来幹細胞(φ約10μm以上)を通さないものが望ましいため、8〜10μmが最適である。中空糸の素材としては、生体適合性を勘案し、例えば、ポリエチレンテレフタラート、セルロース、セルローストリアセテート、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレンが好ましい。
外筒12は、例えば円筒形のケーシングであり、内部に複数の中空糸膜11を収容するようになっている。
【0020】
細胞懸濁液容器5と第1の中空糸モジュール10とは、チューブ31により接続されている。チューブ31は、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に接続されており、その途中位置には、ポンプ(細胞懸濁液供給手段)P1が設けられている。ポンプP1は、例えばチューブポンプであり、ローラ(図示略)によりチューブ31を圧迫して押し潰し、この圧迫位置を吐出方向へ移動することによって、チューブ31内の細胞懸濁液Aを押し出し搬送するようになっている。これにより、ポンプP1は、細胞懸濁液容器5内の細胞懸濁液Aを、チューブ31を介して、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に供給するようになっている。
【0021】
洗浄液容器6と第1の中空糸モジュール10とは、チューブ33により接続されている。チューブ33は、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の外部(中空糸膜11と外筒12との間)に接続されており、その途中位置には、バルブV1が設けられている。このバルブV1を開くことで、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の外部に洗浄液Bを供給することができる。
【0022】
チューブ31におけるポンプP1と第1の中空糸モジュール10との間には、チューブ32が接続されている。チューブ32は、他端側が洗浄液容器6に接続されており、その途中位置には、ポンプ(加圧手段、洗浄液供給手段)P2が設けられている。ポンプP2は、ポンプP1と同様の構成を有しており、チューブ32内の洗浄液Bを押し出し搬送するようになっている。これにより、ポンプP2は、洗浄液容器6内の洗浄液Bを、チューブ31,32を介して、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に供給するようになっている。
【0023】
廃液容器7は、第1の中空糸モジュール10および第2の中空糸モジュール20からの廃液Cを収容する容器であり、容器の上部には、廃液Cの増減に伴って容器内に外気を出し入れするベントノズル17と、ベントノズル17に設けられたベントフィルタ18とを備えている。
【0024】
第1の中空糸モジュール10と廃液容器7とは、チューブ34により接続されている。チューブ34は、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の外部(中空糸膜11と外筒12との間)に接続されており、その途中位置には、バルブV2が設けられている。このバルブV2を開くことで、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の外部の廃液Cを廃液容器7に排出することができる。
【0025】
第2の中空糸モジュール20と廃液容器7とは、チューブ35により接続されている。チューブ35は、第2の中空糸モジュール20の中空糸膜21の外部(中空糸膜21と外筒22との間)に接続されており、その途中位置には、バルブV5が設けられている。このバルブV5を開くことで、第2の中空糸モジュール20の中空糸膜21の外部の廃液Cを廃液容器7に排出することができる。
【0026】
第2の中空糸モジュール20は、第1の中空糸モジュール10と同様に、細胞懸濁液A中の細胞よりも小さな物質を透過させる複数の中空糸膜22と、これら中空糸膜22を収容する外筒22とを有している。なお、図において、第2の中空糸モジュール20を模式的に示しているため、外筒22内には1本の中空糸膜22しか図示していないが、外筒22内には複数の中空糸膜22が収容されている。
【0027】
ここで、第2の中空糸モジュール20は、第1の中空糸モジュール10よりも小さな膜容積を有している。すなわち、第2の中空糸モジュール20の中空糸膜22は、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜12よりも、その内容積が小さく構成されている。これにより、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜12内から、第2の中空糸モジュール20の中空糸膜22内へ、細胞懸濁液Aを移動させることで、細胞懸濁液Aの濃縮を行うことができる。
【0028】
第1の中空糸モジュール10と第2の中空糸モジュール20とは、チューブ(配管)36により接続されている。チューブ36は、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部と、第2の中空糸モジュール20の中空糸膜22の内部とを接続しており、その途中位置には、バルブV3が設けられている。このバルブV3を開き、ポンプP2を作動させて、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に洗浄液Bを押し込むことにより、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜12内から、第2の中空糸モジュール20の中空糸膜22内へ、細胞懸濁液Aを移動させることができる。
【0029】
第2の中空糸モジュール20の他端側には、チューブ37が接続されている。チューブ37は、一端が第2の中空糸モジュール20の中空糸膜22の内部に接続され、他端にはルアーキャップ38が設けられ、その途中位置には、バルブV4が設けられている。このバルブV4を開き、ルアーキャップ38を外して、シリンジ等によりチューブ37内を吸引することにより、第2の中空糸モジュール20の中空糸膜22内部の細胞懸濁液Aを回収できるようになっている。
【0030】
上記構成を有する細胞濃縮装置1の動作について、具体的な数値を例示して以下に説明する。
前提条件として、375mlの細胞懸濁液Aから赤血球を除去し、3mlに濃縮することを目標とする。また、第1の中空糸モジュール10の容積は、中空糸膜11の外側が50ml,中空糸膜11の内側が50mlとし、中空糸膜11の表面積は1.5mとする。また、第2の中空糸モジュール20の容積は、中空糸膜21の外側が1.5ml,中空糸膜11の内側が1.5mlとし、中空糸膜21の表面積は0.1mとする。なお、第1の中空糸モジュール10,第2の中空糸モジュール20ともに、中空糸膜の孔径は、前述のように8〜10μmとする。また、ポンプP1,P2ともに、能力は100ml/minとする。
【0031】
まず、図2に示すように、ポンプP1を作動させ、細胞懸濁液容器5内の細胞懸濁液Aを、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に供給する。この際、バルブV1、V3は閉じ、ポンプP2は停止させておく。これにより、細胞懸濁液A中の細胞が中空糸膜11の内部に残存する一方で、細胞懸濁液A中の赤血球や酵素が水とともに中空糸膜11の外部に排出される。具体的には、例えば125mlの細胞懸濁液Aを第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に供給することで、中空糸膜11の内部に50mlの細胞懸濁液Aを残存させ、50mlの水および不純物(赤血球、酵素)を中空糸膜11の外部に排出する。そして、この状態においてバルブV2を開くことで、中空糸膜11の外部に排出された25mLの細胞懸濁液A中の不純物が水とともに、廃液容器7に廃液Cとして排出される。
【0032】
次に、図3に示すように、ポンプP2を作動させ、洗浄液容器6内の洗浄液Bを、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に供給する。具体的には、ポンプP2(能力100ml/min)を40秒間作動させることで、約67mlの洗浄液Bを、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に供給する。この際、バルブV3は閉じ、ポンプP1は停止させておく。
【0033】
これにより、細胞懸濁液A中の細胞が中空糸膜11の内部に残存する一方で、細胞懸濁液A中の赤血球や酵素が洗浄液Bとともに中空糸膜11の外部に排出される。そして、バルブV2を開くことで、中空糸膜11の外部に排出された細胞懸濁液A中の赤血球や酵素が、洗浄液Bとともに廃液容器7に廃液Cとして排出される。これにより、中空糸膜11の内部の細胞懸濁液Aの洗浄が行われる。
【0034】
また、図4に示すように、ポンプP1を逆回転させることにより、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部の細胞懸濁液Aを、細胞懸濁液容器5内に一時的に戻すこととしてもよい。具体的には、ポンプP1(能力100ml/min)を20秒間作動させることで、約33mlの細胞懸濁液Aを、細胞懸濁液容器5内に一時的に戻す。また、この場合には、バルブV1を開くことで、洗浄液容器6内の洗浄液Bが、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の外部に供給され、中空糸膜11の孔を通過して中空糸膜11の内部に入り込む。
【0035】
その後、図2に示すように、再度ポンプP1を作動させ、細胞懸濁液容器5内の細胞懸濁液Aを、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に戻す。これらの動作を繰り返すことで、中空糸膜11の孔に付着した細胞を剥がしたり、細胞懸濁液A中の不純物(赤血球、酵素)を除去することができ、細胞懸濁液Aの洗浄効率を向上することができる。
【0036】
次に、図5に示すように、ポンプP2を作動させ、洗浄液容器6内の洗浄液Bを、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に供給する。この際、バルブV1,V2,V4を閉じるとともに、バルブV3は開いておく。これにより、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11内部の細胞懸濁液Aが、ポンプP2により加圧され、チューブ36を介して第2の中空糸モジュール20の中空糸膜21の内部に移動させられる。
【0037】
第2の中空糸モジュール20では、第1の中空糸モジュール10と同様に、細胞懸濁液A中の細胞が中空糸膜21の内部に残存する一方で、細胞懸濁液A中の水等が中空糸膜21の外部に排出される。ここで、第2の中空糸モジュール20は、第1の中空糸モジュール10よりも小さな膜容積を有しているため、第2の中空糸モジュール20の中空糸膜21の内部に残存する細胞懸濁液Aが濃縮される。具体的には、第1の中空糸モジュール10から送られる50mlの細胞懸濁液Aのうち、中空糸膜21の内部に1.5mlの細胞懸濁液Aを残存させ、1.5mlの水等を中空糸膜21の外部に排出する。そして、この状態において、バルブV5を開くことで、中空糸膜21の外部に排出された46mLの水等が、廃液容器7に廃液Cとして排出される。
【0038】
次に、図6に示すように、バルブV2を開くことで、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の外部に残った細胞懸濁液A中の赤血球や酵素が、洗浄液Bとともに廃液Cとして廃液容器7に排出される。
【0039】
次に、図7に示すように、ルアーキャップ38を外して、シリンジ30をチューブ37の開口端に接続する。そして、バルブV4を開き、シリンジ30により吸引することで、第2の中空糸モジュール20の中空糸膜22内部において濃縮された1.5mlの細胞懸濁液Aが回収される。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る細胞濃縮装置1によれば、ポンプP1により、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に細胞懸濁液Aが供給されることで、細胞懸濁液A中の細胞が中空糸膜11の内部に残存する一方で、細胞懸濁液A中の赤血球や酵素が水とともに中空糸膜11の外部に排出される。これにより、細胞懸濁液A中の細胞の洗浄が行われる。そして、第1の中空糸モジュール10内の細胞懸濁液Aが、ポンプP2により加圧されることで、チューブ36を介して第2の中空糸モジュール20に移動させられる。
【0041】
第2の中空糸モジュール20では、細胞懸濁液A中の細胞が中空糸膜21の内部に残存する一方で、細胞懸濁液A中の水等が中空糸膜21の外部に排出される。ここで、第2の中空糸モジュール20は、第1の中空糸モジュール10よりも小さな膜容積を有しているため、第2の中空糸モジュール20の中空糸膜21の内部に残存する細胞懸濁液Aが濃縮される。
【0042】
このように、本実施形態に係る細胞濃縮装置1によれば、細胞懸濁液Aを洗浄して細胞治療に必要のない赤血球や酵素を除去するとともに、遠心分離機等の設備を設けることなく、細胞懸濁液Aを高濃度に濃縮することができる。
【0043】
また、ポンプP2により、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部に洗浄液Bを供給することで、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11内の細胞懸濁液Aを洗浄液Bにより洗浄して、赤血球や酵素等の不純物を除去することができ、最終的に得られる濃縮された細胞懸濁液A中の細胞の純度を高めることができる。
【0044】
なお、チューブ33にポンプ(洗浄液供給手段)を設け、第1の中空糸モジュール10から第2の中空糸モジュール20へ細胞懸濁液Aを移動させる際に、このポンプにより、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11と外筒12との間に洗浄液Bを供給しておいてもよい。
【0045】
このようにすることで、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11と外筒12との間の圧力を高めて、中空糸膜11の外部に細胞懸濁液Aが漏れてしまうことを防止し、ポンプP2による第1の中空糸モジュール10から第2の中空糸モジュール20への細胞懸濁液Aの移動を補助することができる。
【0046】
また、上記のポンプが、洗浄液Bを拍動させて供給することとしてもよい。
このようにすることで、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の孔に細胞等が付着してしまった場合にも、洗浄液Bを拍動させて供給することにより、中空糸膜11の孔から細胞等を剥離させることができる。これにより、細胞懸濁液Aの洗浄性を高めるとともに、最終的に得られる細胞(細胞懸濁液A)の収率を高めることができる。
【0047】
[変形例]
また、本実施形態に係る細胞濃縮装置1の変形例として、図8に示すように、第1の中空糸モジュール10を傾けて配置し、第1の中空糸モジュール10の下方位置にチューブ31を接続するとともに、第1の中空糸モジュール10の上方位置にチューブ34を接続してもよい。
【0048】
本変形例に係る細胞濃縮装置2によれば、第1の中空糸モジュール10の中空糸膜11の内部において、細胞懸濁液A中の比重の大きな細胞が、中空糸膜11内の下方に沈降する。すなわち、細胞懸濁液A中の細胞と洗浄液B等の不純物とを、重力および中空糸膜11により分離させることができ、細胞懸濁液Aの洗浄性を向上することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1,2 細胞濃縮装置
5 細胞懸濁液容器
6 洗浄液容器
7 廃液容器
10 第1の中空糸モジュール
11 中空糸膜
12 外筒
20 第2の中空糸モジュール
21 中空糸膜
22 外筒
31〜37 チューブ
A 細胞懸濁液
B 洗浄液
C 廃液
P1 ポンプ(細胞懸濁液供給手段)
P2 ポンプ(加圧手段、洗浄液供給手段)
V1〜V5 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液中の細胞よりも小さな物質を透過させる中空糸膜と該中空糸膜を収容する外筒とを有する第1の中空糸モジュールおよび第2の中空糸モジュールと、
前記第1の中空糸モジュールの中空糸膜の内部と前記第2の中空糸モジュールの中空糸膜の内部とを接続する配管と、
前記第1の中空糸モジュールの中空糸膜の内部に前記細胞懸濁液を供給する細胞懸濁液供給手段と、
前記第1の中空糸モジュール内の前記細胞懸濁液を加圧して、前記第1の中空糸モジュールから前記第2の中空糸モジュールに前記配管を介して前記細胞懸濁液を移動させる加圧手段とを備え、
前記第2の中空糸モジュールが、前記第1の中空糸モジュールよりも小さな膜容積を有する細胞濃縮装置。
【請求項2】
前記第1の中空糸モジュールの中空糸膜の内部に洗浄液を供給する洗浄液供給手段を備える請求項1に記載の細胞濃縮装置。
【請求項3】
前記第1の中空糸モジュールの中空糸膜と外筒との間に洗浄液を供給する洗浄液供給手段を備える請求項1に記載の細胞濃縮装置。
【請求項4】
前記洗浄液供給手段が、洗浄液を拍動させて供給する請求項3に記載の細胞濃縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−35004(P2012−35004A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180296(P2010−180296)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】