細胞融合装置及び細胞融合方法
【課題】細胞融合を行う細胞を融合容器内の微細孔に固定したまま細胞融合液の置換を行い、簡便かつ迅速に融合再生確率を高めるような細胞の処理を可能にする細胞融合装置及び、細胞融合方法を提供する。
【解決手段】細胞融合液導入口及び排出口を備え、細胞融合領域に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、絶縁体が前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器と、電源切替え機構を有する電源と、3以上の細胞融合液を切替えて導入する細胞融合液導入切替え手段と、を備えた細胞融合装置細胞融合装置及びそれを用いた細胞融合方法。
【解決手段】細胞融合液導入口及び排出口を備え、細胞融合領域に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、絶縁体が前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器と、電源切替え機構を有する電源と、3以上の細胞融合液を切替えて導入する細胞融合液導入切替え手段と、を備えた細胞融合装置細胞融合装置及びそれを用いた細胞融合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞融合を効率的に行うための細胞融合装置とそれを用いた細胞融合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な細胞融合技術としては化学的細胞融合法であるポリエチレングリコール法(PEG法)と電気的細胞融合法が知られている。PEG法では(i)ポリエチレングリコール(PEG)は細胞に対して強い毒性を持っている、(ii)細胞融合するにあたりPEGの重合度、添加量などの最適な諸条件を見出すのに手間がかかる、(iii)細胞融合に際して高度な技術が要求され、特定の技術に習熟した人にしか使えない、(iv)2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の制御が困難なため融合再生確率が極めて低い、等の解決すべき課題があった。ここで、融合再生確率とは、生成した融合細胞の数を融合容器に導入した脾臓細胞数で除した値である。
【0003】
一方、電気的細胞融合法は、高度な技術が不要で、簡単に効率よく細胞融合させることができ、細胞に与える毒性がほとんどなく、高活性をもったままの状態で細胞融合させることができるという利点があり、電気的細胞融合の条件など、細胞融合時の諸条件の設定が容易なため、PEG法に比べ融合再生確率が高いことが知られている。電気的細胞融合法は、1981年西ドイツのZimmermannが確立したものであり、その原理は次の通りである。すなわち、平行電極間に交流電圧を印加し、そこに細胞を導入すると、細胞は電流密度の高い方へ引き寄せられ数珠状にならぶ。なお、細胞が数珠状にならんだ状態を一般にパールチェーンと呼ぶ。この状態で数μsec〜数十μsec単位の直流パルス電圧(以下、同じ意味として融合電圧とも称する)を電極間に印加することにより細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層により構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われ、その結果、細胞融合が起こる。
【0004】
上記の電気的細胞融合法には、主に微小電極法と平行電極法が用いられている。このうち微小電極法は、2細胞一対の細胞融合を顕微鏡で見ながらマイクロマニュピレーターで細胞を拾い集めては直流パルス電圧を印加する方法であり、極めて融合確率が高く、微小電極法に用いる電極の例も報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながらこの方法は手間のかかる方法であり、その操作は熟練を要す上、大量の細胞を扱う上では実用的とはいえなかった。また平行電極法は、誘電泳動により複数の細胞を数珠状に配列形成させた後、直流パルス電圧を印加することによって細胞融合させる方法であり、その取り扱いは簡単であるが、数珠状になった複数の細胞が細胞融合するためPEG法と同様に2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の確実な制御が難しいという課題があった。
【0005】
また、上記化学的細胞融合法及び電気的細胞融合法の両者とも、2種類の細胞を同一成分の細胞融合液内で非特異的に混合して細胞融合を行うため、融合操作中に細胞融合液の成分を目的に応じてコントロールすることは極めて困難であった。従って、融合再生確率を高めるための幾つかの試みは、常に細胞融合とは別の細胞前処理操作を必要とし、また、細胞融合後の煩雑な洗浄操作を伴うため、操作が煩雑な上、必要以上に細胞の処理時間が長くなり細胞の活性が低下したり、細胞を損失したりするなどの課題があった。
【0006】
例えば、融合再生確率を高める方法として、電気的細胞融合法に用いる細胞融合液中のCa濃度を高めることで融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。一般的に、Caには細胞膜修復作用があるといわれており、Ca濃度を高めて細胞融合する事で融合再生確率が向上する可能性がある。しかしながら、実際には、従来の電気的細胞融合法では2種類の細胞を同一の成分の溶液の中で混合状態として細胞融合を行うため、融合再生確率を高めるのに効果的なCa濃度のコントロールが難しく、Ca濃度を高めた場合、Caの細胞膜修復作用により融合再生確率が向上する効果もあるが、細胞融合前に細胞同士が凝集を起こし、細胞融合に関与できない細胞が増大するため、結果として融合再生確率が低下してしまうという課題があった。
【0007】
また別の融合再生確率を高める方法として、細胞融合前にシアル酸分解酵素で細胞を処理することで細胞膜上のシアル酸を分解し、細胞を正の電荷に帯電させることによって細胞融合させる細胞同士の密着度を高め、融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかしこの場合、シアル酸分解反応中に細胞の死滅が起きる他、シアル酸分解処理を行った細胞同士が凝集することで、細胞融合に寄与する細胞数が減少し、結果として融合再生確率が低下してしまうという課題があった。
【0008】
また別の融合再生確率を高める方法として、細胞融合前にプロテアーゼなどの酵素で細胞を処理することで細胞膜上のタンパクを分解し、融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、非特許文献3参照)。しかしこの場合も、酵素処理の過程において細胞の凝集や死滅、あるいは細胞の容器への付着が発生し、細胞融合時に処理可能な細胞数が著しく減少するため、結果として融合再生確率が低下してしまうという課題があった。また、細胞融合前または細胞融合後にこれらの酵素成分を除去する煩雑な細胞洗浄操作が必要であった。
【0009】
また別の融合再生確率を高める方法として、細胞を浸透圧より低張の糖溶液に懸濁して融合電圧を印加することで、従来よりも融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、非特許文献4参照)。この場合、低張の糖溶液に細胞を浸す時間が長く、また細胞融合後もしばらく低張の糖溶液中で細胞を放置しなければならないために、細胞融合時あるいは細胞融合後に死滅する細胞が多くなり、結果として融合再生確率が低下してしまうという課題があった。
【0010】
さらにまた融合再生確率を高める別の方法として、電気的細胞融合法に用いる細胞融合液中にポリエチレングリコールなどの融合促進作用のあると考えられている添加剤を添加して融合電圧を印加することで、従来よりも融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、特許文献2、非特許文献5参照)。この場合、加えた添加剤が細胞にとって有害な成分であれば、処理中に細胞の死滅が起きるため、結果として融合再生確率が低下してしまうという課題があった。また、細胞融合後にはこれらの細胞にとって有害な成分を除くための煩雑な細胞洗浄操作が必要であった。
【0011】
以上のように従来のPEG法、電気的細胞融合法では、融合再生確率を高めるための細胞の前処理や細胞融合後の融合促進剤の除去操作自体がそれぞれ細胞の死滅を引き起こし、結果として得られる融合細胞が少なくなり、よって融合再生確率がむしろ悪くなるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平7−40914号公報
【特許文献2】特開昭60−9490号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Ohnishi, K., Chiba, J., Goto, Y., Tokunaga, T., 「Improvement in the basic technology of electrofusion for generation of antibody−producing hybridomas.」 J. Immunol. Methods., 100巻, p.181−189, 1987年
【非特許文献2】Igarashi, M., Bando, Y. 「Enhanced efficiency of cell hybridization by neuraminidase treatment.」 J. Immunol. Methods., 135巻, p.91−93, 1990年
【非特許文献3】Ohno−Shosaku, T., Okada, Y. 「Facilitation of electrofusion of mouse lymphoma cells by the proteolytic action of proteases.」 Biochem. Biophys. Res. Commun., 120巻, p.138−143, 1984年
【非特許文献4】Schmitt, J. J., Zimmermann, U., Gessner, P. 「Electrofusion of osmotically treated cells. High and reproducible yields of hybridoma cells.」 Naturwissenschaften, 76巻, p.122−123, 1989年
【非特許文献5】Stoicheva, NG., Hui, SW. 「Electrically induced fusion of mammalian cells in the presence of polyethylene glycol.」 J. Membr. Biol., 141巻, p.177−182, 1994年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、かかる従来の実状に鑑みて提案されたものであり、細胞融合を行う細胞を融合容器内の微細孔に固定したまま細胞融合液の置換を行い、簡便かつ迅速に融合再生確率を高めるような細胞の処理を可能にする細胞融合装置及び細胞融合方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記課題を解決する手段として、細胞融合液導入口及び細胞融合液排出口を備え、細胞融合領域に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、前記絶縁体が前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器と、電源と、3以上の細胞融合液を切替えて導入する細胞融合液導入切替え手段と、を備えた細胞融合装置であって、前記電源が前記一対の電極に交流電圧を印加する交流電源と直流パルス電圧を印加する直流パルス電源とを切替えて接続する電源切替え機構を有する、細胞融合装置を用いること、前記細胞融合装置を用いて第1の細胞と第2の細胞とを細胞融合領域において融合する際、前記細胞融合領域に前記第1の細胞が入った細胞融合液を導入し、前記交流電圧を印加して前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域に前記第2の細胞が入った細胞融合液を導入し、前記交流電圧を印加して前記第1の細胞に前記第2の細胞を前記微細孔において接触させ、前記微細孔に直流パルス電圧を印加して、前記第1の細胞と前記第2の細胞とを細胞融合させる方法であって、前記細胞融合液導入切替え手段を用いて細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する時期を、前記第2の細胞の導入前、前記細胞融合の前および前記細胞融合の後、の少なくとも一の時期とする、細胞融合方法を用いることにより、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の細胞融合装置は、細胞融合液導入口及び細胞融合液排出口を備え、細胞融合領域に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、前記絶縁体が前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器と、電源と、3以上の細胞融合液を切替えて導入する細胞融合液導入切替え手段と、を備えた細胞融合装置であって、前記電源が前記一対の電極に交流電圧を印加する交流電源と直流パルス電圧を印加する直流パルス電源とを切替えて接続する電源切替え機構を有する。
【0017】
また本発明の細胞融合方法は、上記細胞融合装置を用いて第1の細胞と第2の細胞とを細胞融合領域において融合する際、細胞融合領域に第1の細胞が入った細胞融合液を導入し、交流電圧を印加して微細孔内に第1の細胞を固定した後、細胞融合領域に第2の細胞が入った細胞融合液を導入し、交流電圧を印加して第1の細胞に第2の細胞を微細孔において接触させ、微細孔に直流パルス電圧を印加して、第1の細胞と第2の細胞とを細胞融合させる方法であって、細胞融合液導入切替え手段を用いて細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する時期を、第2の細胞の導入前、細胞融合の前および細胞融合の後、の少なくとも一の時期とする、細胞融合方法である。
【0018】
また本発明の細胞融合方法は、細胞融合処理液が入った細胞融合液が2以上であって、前記2以上の細胞融合処理液が入った細胞融合液が全て同じまたは一部異なるまたは全て異なる、のいずれかの細胞融合処理液が入った細胞融合液である細胞融合方法である。
【0019】
また本発明の細胞融合方法は、上記の特定の成分が酵素であり、さらに当該酵素がシアル酸分解酵素またはプロテアーゼである細胞融合方法である。
【0020】
また本発明の細胞融合方法は、上記の特定の成分がカルシウムイオンである細胞融合方法である。
【0021】
また、本発明の細胞融合方法は、上記の添加剤が融合再生確率を高める添加剤である細胞融合方法であり、これらの添加剤として、カルシウム塩、マグネシウム塩、アミノ酸、ウシ血清アルブミン(BSA)、糖、フィコール、カルモジュリン、セリシン、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、サイトカイン、リポポリサッカライド、ポリエチレングリコール、コレステロール、カテキン、血清、ホルモン、動物細胞培養用培地由来の成分の内、少なくともいずれか一つを含む添加剤である、細胞融合方法である。
【0022】
以下に、図を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0023】
本発明の細胞融合装置は、細胞融合液導入口及び細胞融合液排出口を備え、細胞融合領域に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、前記絶縁体が前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器と、電源と、3以上の細胞融合液を切替えて導入する細胞融合液導入切替え手段と、を備えた細胞融合装置であって、前記電源が前記一対の電極に交流電圧を印加する交流電源と直流パルス電圧を印加する直流パルス電源とを切替えて接続する電源切替え機構を有する。
【0024】
まず、本発明の特徴を説明するために、本発明の細胞融合装置を用いた基本的な細胞融合方法の概略、すなわち2つの細胞を細胞融合領域に導入して細胞融合する方法を図1〜図3を用いて説明する。なお説明は、本発明の基本動作を簡単に説明するために、細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する工程は省略しており、本発明特有の細胞融合方法である、細胞融合液導入切替え手段を用いて細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する時期を、第2の細胞の導入前、細胞融合の前および細胞融合の後、の少なくとも一の時期とする方法についても説明は後述する。
【0025】
本発明の細胞融合方法の手順を図1、図2、図3の順に示す。
【0026】
図1に示すように、最初に第1の細胞(18)の入った細胞融合液を細胞融合領域(1)に入れ、電源切替え機構(7)を交流電源(5)に接続する。このとき第1の細胞は、絶縁体(8)に形成された微細孔(9)に向かって移動し固定される。この第1の細胞が微細孔に向かって動くときに作用する力を誘電泳動力(10)という。図1に示すように誘電泳動力とは、電極間に特定の周波数の交流電圧を印加したとき、上部電極(14)と微細孔(9)で覆われた下部電極(15)のように、電気力線(12)の集中部位があると、その電気力線の集中部位(12)の方向(すなわち、微細孔の方向)に向かって細胞等の誘電体粒子を動かす力である。一般に誘電泳動力は、誘電体粒子の体積、誘電体粒子の誘電率と溶液の誘電率の差、印加電圧の2乗に比例する。
【0027】
次に、交流電圧を印加したまま誘電泳動力を作用させ続けて微細孔に第1の細胞を固定したまま、第2の細胞(22)の入った細胞融合液を細胞融合領域に入れる。このとき、図2に示すように第2の細胞は誘電泳動力により第1の細胞の上に固定される。次に図3に示すように、電源切替え機構を直流パルス電源(6)に切替えて直流パルス電圧を印加すると、第1の細胞及び第2の細胞の接触点で細胞膜に変化(可逆的破壊と推定される)が起こり、第1の細胞と第2の細胞との細胞融合が生じて融合細胞(32)が生成される。このようにすることで、微細孔の位置で第1の細胞と第2の細胞を接触させ、従来の電気的細胞融合法より高い融合再生確率で細胞融合させることができる。この場合、理想的には、1つの第1の細胞に対し1つの第2の細胞が接触して融合した方が高い融合再生確率を得られる。すなわち、1つの微細孔に1つの第1の細胞が固定され、更にその上に1つの第2の細胞が固定された方が高い融合再生確率を得ることができる。
【0028】
次に、本発明の細胞融合装置の構成について、図を用いて詳しく説明する。
【0029】
図4は本発明の細胞融合装置の概念図を示した図である。本発明の細胞融合装置は、細胞融合容器(13)と電源(4)、細胞融合液導入切替え手段(17)で構成されている。また電源(4)は、上記の一対の電極に交流電圧を印加する交流電源(5)と直流パルス電圧を印加する直流パルス電源(6)とを切替えて接続する電源切替え機構(7)で構成されている。
【0030】
細胞融合容器は、図4に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置することで細胞融合領域(1)を確保し、微細孔(9)を形成した絶縁体(8)を下部電極の細胞融合領域側に配置した構造を有する。
【0031】
上部電極と下部電極の材質は導電部材であって化学的に安定な部材であれば特に制限はなく、白金、金、銅などの金属やステンレスなどの合金及び、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明導電性材料を成膜したガラス基板などでもよいが、細胞融合を観察するには、ITOなどの透明導電性材料を成膜したガラス基板を電極として用いることが好ましい。
【0032】
上部電極と下部電極の面積等の寸法には特に制限はないが、取り扱いやすいサイズとして、例えば、縦70mm×横40mm×厚さ1mm程度のサイズが好ましい。細胞融合容器の上部電極と下部電極には導電線(3)を介して電源(4)が接続されている。電源(4)は交流電圧を上部電極と下部電極の電極間に印加する交流電源(5)と、細胞融合させるための直流パルス電圧を上部電極と下部電極の電極間に印加する直流パルス電源(6)から構成されており、交流電源と直流パルス電源は、電源切替え機構(7)により適宜切替えて使用することができる。
【0033】
スペーサーは、上部電極と下部電極が直接接触しないように設けられ、かつ細胞融合容器に細胞融合液を入れておくスペースを確保するための細胞融合領域を形成する貫通孔を有しているものであり、その材質は絶縁材料であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等が挙げられる。またスペーサーには、細胞融合容器に細胞を導入、排出するため、細胞を導入する導入流路(29)及びそれに連通する導入口(19)と、細胞を排出する排出流路(30)及びそれに連通する排出口(20)が設けられている。
【0034】
図4に示す細胞融合容器の導入口には、細胞融合液導入流路(2)を介して細胞融合液導入切替え手段(17)が接続され、細胞融合液導入切替え手段に、シリンジA(34)、シリンジB(35)、シリンジC(36)、シリンジD(37)、シリンジE(38)が接続されている。細胞融合液導入切替え手段は、シリンジA、シリンジB、シリンジCのうちどれか一つのシリンジを選んで、シリンジを細胞融合液導入流路に接続することができればよく、一般的なバルブ(21)で構成されている。バルブは図4に示すようにそれぞれのシリンジ毎に取り付けても良い。図4示す例では、例えばシリンジAに第1の細胞が入った細胞融合液、シリンジBに第2の細胞が入った細胞融合液、シリンジCに細胞融合処理液が入った細胞融合液を入れることができる。このような構成にすることで、3以上の細胞融合液を切替えて導入することが可能となり、細胞融合液導入切替え手段を用いて細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する時期を、第2の細胞の導入前、細胞融合の前および細胞融合の後、の少なくとも一の時期とすることが可能となる。なお、どれか一つのシリンジを選んでシリンジを細胞融合液導入流路に接続することができればシリンジの数に特に制限はなく、使用する細胞の数、細胞融合処理液が入った細胞融合液の数に応じて適宜設置すればよい。
【0035】
細胞融合させる2種の細胞としては、例えばモノクローナル抗体を製造するために用いられる抗体産生細胞とミエローマ細胞との組合せなどであれば良い。
【0036】
絶縁体(8)には微細孔(9)が形成されている。絶縁体(8)の材質は、例えばガラス、セラミック、樹脂等の絶縁材料であれば特に制限はないが、貫通した微細孔を形成させる必要があることから、樹脂等の比較的加工が容易な材料が好ましい。樹脂に貫通した微細孔を形成する手段としては、形成する微細孔の位置にレーザーを照射する方法や、微細孔の位置に貫通孔を形成するためのピンを有する金型を用いて成形する方法などの既知の方法を用いればよい。また、絶縁体にUV硬化性樹脂などを用いる場合は、微細孔に相当するパターンを描画した露光用フォトマスクを用いて一般的なフォトリソグラフィー(露光)とエッチング(現像)により貫通した微細孔を形成することができる。絶縁体に複数の微細孔を形成する場合は、絶縁体にUV硬化性樹脂を用いて、一般的なフォトリソグラフィーとエッチングによる方法で微細孔を形成することが好ましい。
【0037】
微細孔の形状や大きさには特に制限はないが、本発明の細胞融合装置を用いた場合、1つの微細孔に1つの細胞を固定した方がより高い融合再生確率を得ることが可能となることから、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞の直径(細胞により異なるが、1μm〜数十μm程度)より小さいか、もしくは、細胞の直径の1〜2倍程度の範囲でありかつ微細孔の深さが微細孔に固定する細胞の直径の以下であることが好ましい。この理由を図を用いてさらに詳しく説明する。
【0038】
図6に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する2つの細胞の直径より大きい場合は、微細孔に第1の細胞及び第2の細胞が複数入ってしまい、第1の細胞と第2の細胞の1対1での細胞融合ができなくなり、融合再生確率が低くなってしまう。しかしながら、図7に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する2つの細胞の直径より小さい場合は、第1の細胞と第2の細胞の1対1での細胞融合が可能であり、融合再生確率が高くなる。また、図8に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が第1の細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径より大きい場合は第2の細胞が微細孔に固定された第1の細胞と接触することができずに細胞融合させることができない。しかしながら、図9に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が第1の細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径の以下である場合は1つの第2の細胞と微細孔に固定された1つの第1の細胞が確実に接触するので高い融合再生確率を得ることができる。
【0039】
また、さらに好ましい態様としては、第2の細胞の直径が第1の細胞の直径より大きいことが好ましく、細胞を導入する際は直径の小さい細胞を第1の細胞として最初に導入し、直径の大きい細胞を第2の細胞として次に導入することが好ましく、この場合、微細孔の直径は、第2の細胞の直径よりも小さくかつ、第1の細胞の直径よりも大きいことが好ましい。この理由を以下に述べる。
【0040】
微細孔では電気力線の集中が生じるため、微細孔付近の電界強度は、図10に示すように微細孔内の電極面の電界強度が最も高く、絶縁膜面からもう一方の電極に向けて次第に電界強度が弱くなる。図10は、一方の電極に任意の膜厚の絶縁膜に任意の直径と深さを有する微細孔を1個配置し、電極間に任意の電圧を印加した場合の電界強度を有限要素法を用いて計算した。縦軸が電界強度を最大の電界強度で正規化した値であり、横軸は電極間の位置である。横軸の原点に絶縁膜を配置した電極が存在している。絶縁膜面は図中の点線で示した位置に相当し、横軸の原点から点線までの範囲が絶縁膜厚に相当する。計算によれば、絶縁膜の材質や厚み、微細孔の大きさや深さにあまり大きく依存せず、図10に示すように微細孔内の電極面の電界強度は、絶縁膜面の電界強度より約20%程度高い結果となる。
【0041】
一般に電気的細胞融合法は、前述したように、細胞融合させるための直流パルス電圧を印加することで細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層から構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われることで細胞融合させる。ここで、一般に細胞の直径が小さいほど細胞膜の可逆的乱れを生じさせる直流パルス電圧は高くなる。従って、直径の小さい細胞を第1の細胞として微細孔に入れ、直径の大きい細胞を第2の細胞として微細孔に固定された第1の細胞の上から固定すれば、印加する直流パルス電圧は同じでも、図10に示すように、微細孔内の電界強度が微細孔表面の電界強度より高いために、微細孔内に固定された直径の小さい第1の細胞には、より高い電圧が印加され、微細孔表面に固定された直径の大きい第2の細胞には第1の細胞に印加される電圧よりも20%程度低い電圧が印加される。このようにすることで、直径の異なる細胞を細胞融合させる場合の細胞膜の可逆的乱れを生じさせる電圧の違いをある程度キャンセルすることが可能となる。
【0042】
以上のように本発明の細胞融合装置を用いた細胞融合方法は、第1の細胞の直径が第2の細胞の直径よりも小さいことが好ましく、さらには、微細孔の直径が、細胞融合させる直径の異なる2細胞のうち、直径の大きい細胞の直径以下、直径の小さい細胞の直径以上であることが好ましい。このようにすることで、微細孔より直径の小さい細胞を微細孔に確実に固定することが可能となり、その後、微細孔より直径の大きい細胞を導入することで、2細胞一対での接触および細胞融合を効率的に行うことが可能となる。しかしながら、本質的には第1の細胞の直径が第2の細胞の直径と等しいか大きくてもよい。
【0043】
また、本発明の細胞融合方法は、第1の細胞と第2の細胞が微細孔表面の近傍で細胞融合することが好ましいが、本質的には微細孔の中で第1の細胞と第2の細胞を細胞融合してもよく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能である。
【0044】
また後述するように、微細孔に固定した第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げるため、第2の細胞の数を第1の細胞の数より多くし細胞融合領域に過剰に導入した場合でも、図10に示すように、電界強度は微細孔近傍で最も高く、微細孔から離れるに従って弱くなっていくため、直流パルス電圧を適切に調整することで、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみの細胞膜が可逆的乱れを生じ細胞融合する。従って、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみを選択的に細胞融合させることが可能となる。
【0045】
本発明の細胞融合装置は、1つの微細孔に1つの細胞を固定した方がより高い融合再生確率を得ることが可能となることから、前記した絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されていること、すなわち図4に示すように、複数の微細孔が絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることが好ましい。ここでアレイ状とは、微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。微細孔をアレイ状に配置することで、電極間に印加した電圧によって生じる電界がすべての微細孔にほぼ均等に生じるため、微細孔に細胞が固定される確率も各微細孔で等しくなり、1つの微細孔に1つの細胞を固定できる確率が高くなる。
【0046】
また、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、アレイ状に形成した微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当となることがある。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。従ってより具体的には、微細孔の隣合う間隔が、微細孔に固定する細胞の直径の0.5〜6倍の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1〜2倍程度であることがより好ましい。
【0047】
本発明における微細孔の形状は、円状に限定されるものではなく、三角状や四角状などの多角状であっても良い。三角状や四角状などの多角状の場合は角の部分で電気力線の集中の度合いが強められるため、誘電泳動力は円状の微細孔より強くなり細胞が微細孔に固定される確率が高くなるというメリットがある。ただし、微細孔をアレイ状に配置した場合は、前後左右の微細孔からの誘電泳動力が等しく作用する方が、1つに微細孔に1つの細胞を固定できる確率が高くなるので、微細孔の形状は点対称であることが好ましく、さらには正方形であることがより好ましい。 図5は、図4の細胞融合容器のXX’断面図を示した概略図である。上部電極(14)、スペーサー(16)、絶縁体(8)、下部電極(15)を図5のように貼り合わせる手段としては、それぞれを接着剤で貼り合わせたり、加圧した状態で過熱して融着させる方法や、スペーサーを表面粘着性のあるPDMS(poly−dimethylsiloxane)やシリコンシートのような樹脂を用いて作製することで圧着することにより貼り合わせる方法など、既知の方法を用いればよい。このようにすることで図5に示した細胞融合領域(1)を形成することができる。
【0048】
第2の細胞を入れるときは、微細孔に入った第1の細胞よりも微細孔に固定されにくくなるので、第1の細胞の数よりも第2の細胞の数を多く入れることで、第1の細胞と第2の細胞を確実に接触させることができる。ここで、第1の細胞の数が微細孔の数より多いと微細孔に固定されない細胞が存在し結果として細胞融合に関与する細胞の割合が少なくなるので、第1の細胞の数は微細孔の数と同数かそれ以下が好ましい。第2の細胞の数が第1の細胞の数より少ないと、第2の細胞と接触できない第1の細胞が存在し結果として細胞融合する2細胞1組の組み合わせが少なくなることがある。一方、第2の細胞の数があまり多すぎると、現実的に細胞を導入できなくなることがあることから、第2の細胞の数は第1の細胞数と同数〜4倍程度の数が好ましい。
【0049】
本発明の細胞融合装置に用いる交流電源は、例えば、ピーク電圧が1V〜20V程度、周波数100kHz〜3MHz程度の正弦波、矩形波、三角波、台形波等の交流電圧を出力できる交流電源であれば特に制限はなく、また直流パルス電源は、50V〜1000V、パルス幅10μsec〜50μsec程度の直流パルス電圧を出力できる直流パルス電源であれば特に制限は無い。
【0050】
本発明の細胞融合装置を用いた場合、1つの微細孔に1つの細胞を固定した方がより高い融合再生確率を得ることが可能となるが、1つの微細孔につき1つの細胞を固定するための交流電圧の波形としては、矩形波であることが好ましい。その理由として、図12〜図15に示すように、交流電圧の波形が正弦波(図12)、三角波(図13)、台形波(図14)に比べて、矩形波(図15)は瞬時に設定したピーク電圧(31)に到達するため、細胞が微細孔に速やかに動くため、細胞が重なって微細孔に入る確率が低くなり、従って、1つの微細孔につき1つの細胞を固定する確率が高くなる。また、細胞は電気的にコンデンサーと見なすことができ、矩形波のピーク電圧が変化しない間は、微細孔に入った細胞には電流が流れにくくなるため、電気力線が生じにくく、細胞の入った微細孔には誘電泳動力が発生しにくくなるため、一度微細孔に細胞が入ると、別の細胞がその微細孔に入る確率が低くなり、電気力線が生じ誘電泳動力が発生している空の微細孔に、順次、細胞が入っていくためである。
【0051】
本発明の細胞融合装置に用いる交流電圧の波形は、直流成分を有しないことが好ましい。これは、直流成分により発生した静電気力により細胞が特定の方向に偏った力を受けて移動するため誘電泳動力により細胞を微細孔に固定することが困難になること、また細胞を含有する懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じて発熱が起こり、それにより細胞が熱運動を起こすため、誘電泳動力により細胞の動きを制御することができなくなり細胞を微細孔に引き寄せることが困難となるためである。
【0052】
次に、本発明の細胞融合方法について説明する。
【0053】
本発明の細胞融合方法は、前記細胞融合装置を用いた細胞融合方法であって、前記細胞融合液導入切替え手段を用いて、前記細胞融合領域に第1の細胞が入った細胞融合液を導入し、前記交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域に第2の細胞が入った細胞融合液を導入して、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を前記微細孔の位置において接触させ、前記電源切替え機構を用いて、前記直流パルス電圧を印加して細胞融合する細胞融合方法であって、細胞融合液導入切替え手段を用いて細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する時期を、第2の細胞の導入前、細胞融合の前および細胞融合の後、の少なくとも一の時期とする細胞融合方法である。また本発明の細胞融合方法は、前記細胞融合処理液が入った細胞融合液が2以上であって、前記2以上の細胞融合処理液が入った細胞融合液が全て同じまたは一部異なるまたは全て異なる、のいずれかの細胞融合処理液が入った細胞融合液であっても良い。
【0054】
このような細胞融合方法により、細胞融合させるべきそれぞれの細胞を目的に応じた成分の溶液に懸濁した状態で順次導入し2細胞一対の細胞融合を行い、さらには、それぞれの細胞を導入する前後あるいは細胞融合の前後で、細胞融合に必要な成分を導入したり、細胞融合に不要な成分を除去するための細胞融合処理液の入った細胞融合液を導入することはじめて可能となる。またそれぞれの細胞は、交流電圧により微細孔部に固定されるため、細胞融合液の置換を行うことが可能であり、また細胞融合液の置換に伴う細胞の損失も極めて低く抑えることが、はじめて可能になる。
【0055】
本発明の発明者らが、特願2006−160744として出願した細胞融合方法は、以下の(1)のプロセスである。また、本発明を実施する際の、具体的な細胞融合液や細胞融合液の導入および融合電圧印加の順序については、例えば以下の(2)から(8)のプロセスが挙げられる。本発明では、(2)〜(8)のプロセスの例にのみ限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでも無い。また、第1の細胞融合液と第2の細胞融合液の成分は同じ成分であってもよいし異なる成分であってもよい。
【0056】
プロセス(1):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、融合電圧を印加して細胞融合する。
【0057】
プロセス(2):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換し、融合電圧を印加して細胞融合する。
【0058】
プロセス(3):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換してから、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、融合電圧を印加して細胞融合する。
【0059】
プロセス(4):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換し、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、再び特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換し、融合電圧を印加して細胞融合する。
【0060】
プロセス(5):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させて融合電圧を印加し細胞融合した後、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換する。
【0061】
プロセス(6):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換し、融合電圧を印加して細胞融合し、その後、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換する。
【0062】
プロセス(7):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換してから、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、融合電圧を印加し細胞融合し、その後、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換する。
【0063】
プロセス(8):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換してから、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、再び特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換してから、融合電圧を印加し細胞融合し、再び特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換する。
【0064】
上記プロセス(1)は既に説明したように、本発明の発明者らが、特願2006−160744で既に出願した細胞融合方法の最も基本的なプロセスであるあり、2細胞一対での細胞融合をより効率的により確実に実施できる標準の形態である。
【0065】
上記プロセス(2)〜(8)は、プロセス(1)に任意に細胞融合領域の細胞融合液の置換工程を加えたものである。具体的には、プロセス(2)は2種類の細胞を導入後に、プロセス(3)は第1の細胞を導入後に、プロセス(4)は第1の細胞の導入後および第2の細胞の導入後に、それぞれ細胞融合液の置換工程を加えたものである。さらに、プロセス(5)はプロセス(1)の融合電圧印加後に、プロセス(6)はプロセス(2)の融合電圧印加後に、プロセス(7)はプロセス(3)の融合電圧印加後に、プロセス(8)はプロセス(4)の融合電圧印加後に、細胞融合液の置換工程をそれぞれ加えたものである。ここで、細胞融合液の置換回数は目的に応じて何回でも繰り返すことができ、複数回置換を繰り返す場合は、その都度異なる成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を用いることも可能である。また、特定の細胞融合液で置換を行う際には、細胞を交流電圧により微細孔部に固定しておくことが望ましいが、交流電圧を印加しない状態でも細胞融合液の送液をゆっくりと行うことで、微細孔から細胞を脱離させずに、細胞融合領域の細胞融合液の置換が可能である。
【0066】
また、上記のような細胞融合液の置換を行う事で、本発明の細胞融合方法は、細胞融合処理液が入った細胞融合液により、細胞融合領域の細胞融合液中の特定の成分を除去してもよい。
【0067】
また、本発明の細胞融合方法は、細胞融合処理液が入った細胞融合液を特定の成分を含ませた細胞融合液とし、細胞融合液を置換することで、細胞融合領域の細胞融合液中に前記特定の成分を導入してもよい。ここで、前記特定の成分は、例えば細胞表面を改質するシアル酸分解酵素またはプロテアーゼのような酵素であってもよく、細胞膜修復作用があるカルシウムイオン等であってもよいし、細胞融合を行う細胞の種類に応じて、融合再生確率を高める添加剤であってもよい。
【0068】
一般に、融合再生確率を高める添加剤としては、カルシウム塩やマグネシウム塩などの無機塩、アミノ酸、ウシ血清アルブミン(BSA)、糖、フィコール、カルモジュリン、セリシン、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、サイトカイン、その他のタンパク質、リポポリサッカライド、ポリエチレングリコール、コレステロール、カテキン、血清、ホルモン、動物細胞培養用培地由来の成分などがある。これらの成分をどのような組み合わせで、どのような濃度で用いても上記の本発明プロセスが適用可能である。
【0069】
以下に本発明の細胞融合方法を適用した例とその効果についてさらに詳細に説明する。
【0070】
第1の例として、従来の電気的細胞融合法では2種類の細胞を同一の成分の溶液の中で混合状態で細胞融合を行うため、融合再生確率を高めるのに効果的なCa濃度のコントロールは困難であった(例えば、上記した非特許文献1参照)。つまり、Ca濃度を高めた場合、Caの細胞膜修復作用により融合再生確率を向上させる効果はあるが、細胞融合前に細胞同士が凝集を起こし、細胞融合に関与できない細胞が増大するため、結果として融合再生確率が低下するという課題があった。
【0071】
これに対し本発明の細胞融合方法においては、上記したプロセス(1)またはプロセス(5)またはプロセス(6)を適用することで、細胞融合させるそれぞれの細胞を別々の成分の細胞融合液に懸濁して、個々に細胞融合領域に導入できるため、このような課題を克服することがはじめて可能となる。
【0072】
以下に第1の例においてプロセス(1)を適用した具体例を示す。プロセス(1)においては、最初に細胞融合領域に導入する第1の細胞は、低いCa濃度の細胞融合液に細胞を懸濁したものを用いることで細胞の凝集を防ぎ、交流電圧を印加することで1つの微細孔に1つの細胞を固定することができる。次に、細胞融合領域に導入する第2の細胞は、融合電圧印加時の電圧降下を生じない範囲で高いCa濃度の成分の細胞融合液に懸濁する。この高いCa濃度の成分の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、交流電圧を印加して第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させ、融合電圧を印加して細胞融合する。このように、第2の細胞を懸濁した細胞融合液のみ高いCa濃度の成分の細胞融合液を用いることで、第1の細胞の凝集を防止し、かつ細胞融合後の細胞膜修復効果が高まり、融合再生確率を高めることができる。なお、微細孔に固定した第1の細胞に対して2細胞一対を効率よく形成させるため、第2の細胞は過剰に用いることができ、第2の細胞自体の凝集は問題とはならない。
【0073】
次に、第1の例においてプロセス(5)を適用した具体例を示す。プロセス(5)においては、最初に細胞融合領域に導入する第1の細胞は、低いCa濃度の細胞融合液に細胞を懸濁したものを用いることで細胞の凝集を防ぎ、交流電圧を印加することで1つの微細孔に1つの細胞を固定することができる。次に、細胞融合領域に導入する第2の細胞は、融合電圧印加時の電圧降下を生じない範囲で高いCa濃度の成分の細胞融合液に懸濁する。この高いCa濃度の成分の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、交流電圧を印加して第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させ、融合電圧を印加して細胞融合する。さらに細胞融合後、融合細胞を培養するための培地を細胞融合領域に速やかに導入し、細胞融合領域の細胞融合液を培地に置換する。このように、第2の細胞を懸濁した細胞融合液のみ高いCa濃度の成分の細胞融合液を用いることで、第1の細胞の凝集を防止し、かつ細胞融合後の細胞膜修復効果が高まり、融合再生確率を高めることができる。また、細胞融合後、細胞融合領域の細胞融合液を、融合細胞を培養するための培地に速やかに置換することにより、融合細胞の活性の低下を防止でき、融合再生確率をさらに高めることができる。
【0074】
また、以下に第1の例においてプロセス(6)を適用した具体例を示す。この例では、高いCa濃度の成分の細胞融合液に第2の細胞を懸濁したときに著しく凝集が生じるときに、その凝集を防ぐことが可能となる。プロセス(6)においては、最初に細胞融合領域に導入する第1の細胞は、低いCa濃度の細胞融合液に細胞を懸濁したものを用いることで細胞の凝集を防ぎ、交流電圧を印加することで1つの微細孔に1つの細胞を固定することができる。次に、細胞融合領域に導入する第2の細胞は、同様に低いCa濃度の成分の細胞融合液に懸濁し、第2の細胞を細胞融合領域に導入し、交流電圧を印加して第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させる。その後、融合電圧を印加する前に、細胞融合領域に高いCa濃度の細胞融合液を導入し細胞融合液の置換を行う。次に融合電圧を印加して細胞融合を行う。最後に、融合細胞を培養するための培地を細胞融合領域に速やかに導入し、細胞融合領域の細胞融合液を培地に置換する。このように、第1の細胞と第2の細胞は低いCa濃度の細胞融合液に懸濁することで細胞の凝集を防止することが可能となり、第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させた後、高いCa濃度の成分の細胞融合液を導入し細胞融合液を置換することで、細胞融合後の細胞膜修復効果が高まり、融合再生確率を高めることができる。また、細胞融合後、細胞融合領域の細胞融合液を、融合細胞を培養するための培地に速やかに置換することにより、融合細胞の活性の低下を防止でき、融合再生確率をさらに高めることができる。
【0075】
第2の例として、細胞融合前にシアル酸分解酵素で細胞を処理することで細胞膜上のシアル酸を分解し、細胞を正の電荷に帯電させることによって細胞融合させる細胞同士の密着度を高め、融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら一般に、従来の電気的細胞融合法では細胞融合領域に細胞を導入する前にシアル酸分解酵素で酵素処理を行う必要があり、酵素処理を行っている間に細胞が死滅したり、細胞の活性が低下したり、細胞の損失が生じるほか、シアル酸分解処理を行った細胞同士が凝集することで、細胞融合に寄与する細胞数が減少し、結果として融合再生確率が低下するという課題があった。しかし本発明の細胞融合方法では、細胞融合液の置換が逐次可能であることから、前述したプロセス(3)またはプロセス(4)を適用する事で、細胞融合領域内で細胞融合前に細胞のシアル酸分解処理を簡便に行い、そのまま続けて細胞融合を行うことが可能である。
【0076】
以下に第2の例においてプロセス(3)を適用した具体例を示す。プロセス(3)においては、まず第1の細胞を通常の電気的細胞融合法の細胞融合液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSA(牛血清アルブミン)を添加した細胞融合液)に懸濁して導入し、交流電圧を用いて第1の細胞を微細孔に固定した後、交流電圧を印加した状態でシアル酸分解酵素を含む通常の電気的細胞融合用の細胞融合液で置換を行い、第1の細胞のシアル酸分解処理を行うことができる。この場合、第1の細胞は微細孔に固定されているため、シアル酸分解酵素での処理中には細胞凝集は起きず、従ってシアル酸分解処理による細胞融合前の細胞の損失を極力避けることができる。次に第2の細胞を細胞融合領域に導入する。この場合も第2の細胞を懸濁する細胞融合液として、シアル酸分解酵素を含む通常の電気的細胞融合用の細胞融合液を用いることで、細胞融合領域での第2の細胞のシアル酸分解酵素処理を行うことが可能である。次に交流電圧により第2の細胞を第1の細胞に微細孔にて接触させた後、融合電圧を印加することで、速やかに2細胞の細胞融合を行うことが可能である。
【0077】
また以下に第2の例においてプロセス(4)を適用した具体例を示す。プロセス(4)においては、まず第1の細胞を通常の電気的細胞融合法の細胞融合液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁して導入し、交流電圧を用いて第1の細胞を微細孔に固定した後、シアル酸分解酵素を含む無血清培地を導入してシアル酸分解処理を行う。この場合、第1の細胞は微細孔に固定されているため、シアル酸分解酵素での処理中には細胞凝集は起きず、従ってシアル酸分解処理による細胞融合前の細胞の損失を極力避けることができる。次に第2の細胞を細胞融合領域に導入する。この場合も第2の細胞を懸濁する細胞融合液として、シアル酸分解酵素を含む無血清培地を用いることで、細胞融合領域での第2の細胞のシアル酸分解酵素処理を行うことが可能である。しかしながら、本具体例で用いた無血清培地は、通常の電気的細胞融合用の細胞融合液よりも細胞の活性を維持するためには有利であるが、培地に含まれている塩分などの成分の影響で、融合電圧印加時の電圧降下が顕著になり、融合再生確率が低下してしまう。そこで、交流電圧により第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させた後、融合電圧印加前に通常の電気的細胞融合用の細胞融合液を2〜3回、細胞融合領域に導入し細胞融合液の置換をしてから融合電圧を印加し細胞融合を行うことができる。このようにする事で、培地に含まれていた塩分などの成分を除去し、融合電圧印加時の電圧降下を防ぎ、かつ細胞の活性を維持することが可能となり、融合再生確率の高い細胞融合を行うことが可能となる。
【0078】
第3の例として、細胞融合前にプロテアーゼなどの酵素で細胞を処理することで細胞膜上のタンパクを分解し、融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、上記した非特許文献3参照)。しかしながら一般に、従来の電気的細胞融合法では細胞融合領域に細胞を導入する前にプロテアーゼを用いて酵素処理を行う必要があり、酵素処理を行っている間に細胞が死滅したり、細胞の活性が低下したり、あるいは、細胞の容器への付着が発生したり細胞同士の凝集が生じることで細胞が損失し、結果として融合再生確率が低下するという問題があった。しかし本発明の細胞融合方法では、前述したプロセス(8)を適用する事で、細胞融合領域で細胞融合前に細胞のプロテアーゼ処理を簡便に行い、そのまま続けて細胞融合を行い、さらにプロテアーゼを除去することが可能である。
【0079】
以下に第3の例においてプロセス(8)を適用した具体例を示す。プロセス(8)においては、まず第1の細胞を通常の電気的細胞融合用の細胞融合液に懸濁して細胞融合領域に導入し、交流電圧を用いて微細孔に第1の細胞を固定した後、交流電圧を印加した状態でプロテアーゼを含む通常の電気的細胞融合用の細胞融合液で細胞融合液の置換を行い、第1の細胞のプロテアーゼ処理を行うことができる。この場合、第1の細胞は微細孔に固定されているので、プロテアーゼ処理中に細胞同士の凝集は起きることがなく、細胞融合前の細胞の損失を避けることができる。次に交流電圧を印加した状態で第2の細胞を通常の電気的細胞融合用の細胞融合液に懸濁して細胞融合領域に導入する。次に、交流電圧により第2の細胞を第1の細胞に接触させた後、交流電圧を印加した状態でプロテアーゼを含む通常の電気的細胞融合用の細胞融合液で細胞融合液の置換を行い、第2の細胞のプロテアーゼ処理を行うことができる。しかしながら、プロテアーゼは細胞毒性があるため、従来の電気的細胞融合法では融合前または融合後に煩雑な細胞洗浄操作を繰り返すことで除去する必要があったが、本発明の細胞融合方法では細胞融合領域の細胞融合液を置換することで、プロテアーゼの除去が簡便に行える。すなわち、第1の細胞と第2の細胞のプロテアーゼ処理を行った後、融合電圧の印加前に、通常の電気的細胞融合用の細胞融合液を2〜3回、細胞融合領域に導入し細胞融合液の置換を行うことで、プロテアーゼを除去することができ、その後、融合電圧を印加し2細胞の融合を行う。このようにする事で、細胞融合時に細胞毒性を有するプロテアーゼが融合細胞内に入る事を防止することができ、融合細胞の活性を維持することができる。またさらに、細胞融合後、細胞融合領域の細胞融合液を、融合細胞を培養するための培地に速やかに置換することにより、融合細胞の活性の低下を防止でき、融合細胞をそのまま培地に移して増殖させることができるので、融合再生確率をさらに高めることができる。
【0080】
第4の例として、2種の細胞の細胞融合において、細胞を浸透圧より低張の糖溶液に懸濁して融合電圧を印加することで、従来よりも融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、非特許文献4参照)。この場合従来の電気的細胞融合法では、低張の糖溶液で細胞を処理する時間が長く、また融合後もしばらく低張の糖溶液中で細胞を放置しなければならないために、細胞融合時あるいは細胞融合後に細胞が破裂して死滅する細胞が多くなり、結果として融合再生確率が低下してしまうという問題点があった。しかし本発明の細胞融合方法では、前述したプロセス(6)またはプロセス(7)を適用することで、細胞融合領域の細胞融合液の置換が逐次可能であるため、細胞融合の直前に極めて短時間で細胞の低張液処理を行い、細胞の損失を防ぐことが可能である。
【0081】
以下に第4の例においてプロセス(6)を適用した具体例を示す。プロセス(6)においては、第1の細胞を細胞と等張の糖溶液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁した状態で細胞融合領域に導入し、交流電圧により微細孔に第1の細胞を固定した後、第2の細胞を細胞と等張の糖溶液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁した状態で細胞融合領域に導入し、交流電圧により第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させた後、低張の糖溶液(例えば、200mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)を数回導入して細胞融合液の置換を行い、その後、融合電圧を印加することで、細胞を融合前に低張液処理する効果を得られる。この場合、従来の電気的細胞融合法のように、はじめから細胞を低張の糖溶液に浸しておく必要がないため、浸透圧低下による細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能である。さらに、融合電圧印加直後に、再び細胞融合領域を等張の糖溶液で置換することで、融合後の静置処理中の融合細胞の破裂による損失を極力防ぐことができる。なお、置換を行う溶液の糖濃度は、融合すべき細胞の種類に適した任意の組成を用いることができることはいうまでもない。
【0082】
また、以下に第4の例においてプロセス(7)を適用した具体例を示す。プロセス(7)においては、第1の細胞を細胞と等張の糖溶液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁した状態で細胞融合領域に導入し、交流電圧により微細孔に第1の細胞を固定する。次に低張の糖溶液(例えば、200mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)を数回導入して細胞融合液の置換を行う。次に、第2の細胞を細胞と等張の糖溶液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁した状態で細胞融合領域に導入し、交流電圧により第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させた後、融合電圧を印加する。このように、第1の細胞導入後に低張の糖溶液で置換する事で、第1の細胞のみ低張の糖溶液で処理することが可能である。この場合、半径の小さい第1の細胞の大きさを第2の細胞と融合しやすい大きさに調整する事で、融合再生確率を高めることが可能となる。さらに、融合電圧印加直後に、再び細胞融合領域を等張の糖溶液で置換することで、融合後の静置処理中の融合細胞の破裂による損失を極力防ぐことができる。なお、置換を行う溶液の糖濃度は、融合すべき細胞の種類に適した任意の組成を用いることができることはいうまでもない。
【0083】
第5の例として、2種の細胞の細胞融合において、細胞融合液中にポリエチレングリコールなどの融合促進作用のある添加剤を添加して融合電圧を印加することで、従来よりも融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、特許文献2、非特許文献5参照)。この場合、従来の電気的細胞融合法では、加えた添加剤がポリエチレングリコールなどの細胞にとって有害な成分であれば、細胞融合処理中に細胞の死滅が起きる他、融合後にはこれらの成分を除くための煩雑な細胞洗浄操作が必要であり、このため細胞の死滅、細胞の活性の低下、細胞の損失が生じ、結果として融合再生確率が低下するという課題があった。しかし本発明の細胞融合方法では細胞融合液の導入が逐次に可能であるため、前述したプロセス(2)またはプロセス(6)を適用する事で、これら添加剤を含む細胞融合液が細胞に与えるダメージを最小限に抑え、また、速やかにこれらの成分を細胞融合の前後に除去することが可能である。
【0084】
以下に第5の例においてプロセス(2)を適用した具体例を示す。プロセス(2)においては、まず第1の細胞を通常の電気的細胞融合法の細胞融合液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁して導入し、交流電圧を用いて第1の細胞を微細孔に固定する。次に、第2の細胞を通常の電気的細胞融合法の細胞融合液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁して導入し、交流電圧を用いて第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させる。その後、融合促進作用のある添加剤(例えばポリエチレングリコール)を含む通常の電気的細胞融合法の細胞融合液を数回導入して細胞融合液の置換を行い、融合電圧を印加することで、融合促進作用のある添加剤を添加して細胞融合する事ができる。この場合、添加剤が細胞にとって有害である場合でも、融合直前に短時間でこれらの成分を細胞に作用させることができるため、細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能である。
【0085】
以下に第5の例においてプロセス(6)を適用した具体例を示す。プロセス(6)においては、まず第1の細胞を通常の電気的細胞融合法の細胞融合液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁して導入し、交流電圧を用いて第1の細胞を微細孔に固定する。次に、第2の細胞を通常の電気的細胞融合法の細胞融合液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁して導入し、交流電圧を用いて第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させる。その後、融合促進作用のある添加剤(例えばポリエチレングリコール)を含む通常の電気的細胞融合法の細胞融合液を数回導入して細胞融合液の置換を行い、融合電圧を印加することで、融合促進作用のある添加剤を添加して細胞融合する事ができる。この場合、添加剤が細胞にとって有害である場合でも、融合直前に短時間でこれらの成分を細胞に作用させることができるため、細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能である。さらに、融合電圧の印加後に、通常の電気的細胞融合用の細胞融合液を2〜3回、細胞融合領域に導入し細胞融合液の置換を行うことで、添加剤の成分を速やかに除去し、融合細胞をそのまま培地に移して増殖させることが可能である。このようにする事で、従来の電気的細胞融合法では細胞毒性のある物質を添加剤として用いた場合、細胞融合後に煩雑な細胞洗浄操作を繰り返すことでこれらを除く必要があったが、本発明の細胞融合方法では、細胞融合領域の細胞融合液を置換することで、これらの成分の除去を簡便に行うことが可能となる。
【0086】
また本発明の細胞融合方法では、特定の成分を含ませた組成の異なる複数の細胞処理液の入った細胞融合液を、第2の細胞の導入前、融合電圧の印加による細胞融合の前および細胞融合の後、の少なくとも一つの時期に、望む回数だけ置換可能であることから、例えば、前述した説明にあるように、第1から第5の例による効果を任意に組み合わせることも可能である。以下に、互いに異なる効果を有する細胞処理を組み合わせてプロセス(2)を適用した具体例を示す。この例では、第1の細胞と第2の細胞をプロテアーゼ処理した後に、細胞を浸透圧より低張の糖溶液に懸濁して融合電圧を印加することで、第3の例および第4の例に示した効果を組み合わせ、融合再生確率をより効果的に高めることが可能である。
【0087】
プロセス(2)に複数の細胞処理効果を適用した具体例:まず第1の細胞を通常の電気的細胞融合用の細胞融合液に懸濁して細胞融合領域に導入し、交流電圧を用いて微細孔に第1の細胞を固定した後、交流電圧を印加した状態で第2の細胞を通常の電気的細胞融合用の細胞融合液に懸濁して細胞融合領域に導入する。次に、交流電圧により第2の細胞を第1の細胞に接触させた後、プロテアーゼを含む通常の電気的細胞融合用の細胞融合液で細胞融合液の置換を行い、第1の細胞と第2の細胞のプロテアーゼ処理を同時に行うことができる。この場合、第1の細胞は微細孔に固定されているので、プロテアーゼ処理中に細胞同士の凝集は起きることがなく、細胞融合前の細胞の損失を避けることができる。また、微細孔に固定した第1の細胞に対して2細胞一対を効率よく形成させるため、第2の細胞は過剰に用いることができ、第2の細胞自体の凝集は問題とはならない。次に、通常の電気的細胞融合用の細胞融合液を2〜3回、細胞融合領域に導入し細胞融合液の置換を行うことで、細胞毒性をもつプロテアーゼを除去することができ、融合細胞の活性を維持することができる。またさらに続いて、低張の糖溶液(例えば、200mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)を数回導入して細胞融合液の置換を行い、その後、融合電圧を印加することで、細胞を融合前に低張液処理する効果を得られる。この場合、従来の電気的細胞融合法のように、はじめから細胞を低張の糖溶液に浸しておく必要がないため、浸透圧低下による細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能である。
【0088】
このように、本発明の細胞融合方法では、細胞融合領域の細胞融合液を、異なる組成の細胞融合液を用いて任意の順序で望む回数だけ置換可能であることから、融合再生確率を高めるような複数の細胞処理を短時間で同時に実施することが可能となる。この場合、3つ以上の細胞処理工程を組み合わせることも当然可能であり、先に示したプロセス(2)から(8)のいずれにおいても複数の細胞処理が適用可能である。
【発明の効果】
【0089】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の細胞オ融合装置によれば、微細孔にて2細胞一対での細胞融合を確実に行うことができるうえ、2種類の細胞の入った細胞融合液以外に、細胞融合処理液の入った細胞融合液を少なくとも1種類以上、導入することが可能となり、細胞を細胞融合領域にいれ、微細孔に固定したままの状態、細胞融合領域内の細胞融合液の成分を変え、より高い融合再生確率を得られる細胞融合条件に変更する事が可能となる。
(2)本発明の細胞融合方法によれば、細胞融合の工程の任意のタイミングで、細胞融合液の成分を変更することが可能となり、より高い融合再生確率を得られる細胞融合条件に変更する事が可能となる。
(3)本発明の細胞融合方法によれば、融合再生確率を高める効果はあるものの、長時間細胞に接していると、細胞が死滅したり、細胞の活性が落ちたり、細胞が凝集したりするような成分を簡便かつ迅速に除去することが可能となり、細胞の損失を防止し、より高い融合再生確率を得ることができる。
(4)本発明の細胞融合方法によれば、細胞融合の工程の任意のタイミングで、融合再生確率を高める効果のある成分を簡便かつ迅速に導入することが可能となり、より高い融合再生確率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明における基本的な細胞融合方法の概念を示す第1の図である。
【図2】本発明における基本的な細胞融合方法の概念を示す第2の図である。
【図3】本発明における基本的な細胞融合方法の概念を示す第3の図である。
【図4】本発明における細胞融合装置の概念図及び、実施例1に用いた細胞融合装置の概念図である。
【図5】図4に示したXX’断面図である。
【図6】微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する2つの細胞の直径より大きい場合を示す概念図である。
【図7】微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する2つの細胞の直径より小さい場合を示す概念図である。
【図8】微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が第1の細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径より大きい場合を示す概念図である。
【図9】微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が第1の細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径の以下である場合を示す概念図である。
【図10】微細孔近傍の電界強度を示した図であり、横軸(X軸)は電極面からの距離(単位は任意)を示し、縦軸(Y軸)は電界強度(単位は任意)を示す。
【図11】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法の概略図である。
【図12】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、正弦波の代表的な波形を示した図であり、横軸(X軸)は時間を示し、縦軸(Y軸)は電圧を示す。
【図13】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、三角波の代表的な波形を示した図であり、横軸(X軸)は時間を示し、縦軸(Y軸)は電圧を示す。
【図14】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、台形波の代表的な波形を示した図であり、横軸(X軸)は時間を示し、縦軸(Y軸)は電圧を示す。
【図15】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波の代表的な波形を示した図であり、横軸(X軸)は時間を示し、縦軸(Y軸)は電圧を示す。
【実施例】
【0091】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【0092】
(実施例1)
図4に実施例1に用いた細胞融合装置の概念図を示す。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。細胞融合容器は、図4に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお後述するように、微細孔は、下部電極(15)上に配置した絶縁膜に一般的なフォトリソグラフィーとエッチングにより形成した。
【0093】
上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また図4に示すように、スペーサーには、細胞融合容器に細胞を導入、排出するため、細胞を導入する導入流路(29)及びそれに連通する導入口(19)と、細胞を排出する排出流路(30)及びそれに連通する排出口(20)を設けた。さらに図4に示すように、導入口には、細胞融合液導入流路(2)を介して容量1mLのシリンジA(34)、容量1mLのシリンジB(35)、容量10mLのシリンジC(36)を、細胞融合液導入切替え手段としてのバルブ(21)をそれぞれ介して接続した。
【0094】
また、複数の微細孔を有する絶縁体(8)は、図11に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで作製した。
【0095】
まずはじめにITO(23)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(24)のITO成膜面にレジスト(25)を2.5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、45分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(80℃、15分)を行った。レジストにはキシレン系のネガタイプレジストを用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ7μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(33)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい2.5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(115℃、30分)を行いレジストを固めた。
【0096】
このようにして作製した上部電極(14)、スペーサー(16)、微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を図5のように積層し圧着した。図5は、図4に示した細胞融合容器のAA’断面図である。スペーサーであるシリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、細胞を含有した細胞融合液を漏れなく細胞融合容器の中に入れることができた。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。
【0097】
電極間に電圧を印加する電源は、交流電源(5)として信号発生器(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)、直流パルス電源(6)として細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を導電線(3)を介して接続し、交流電源と直流パルス電源は電源切替え機構(7)により電極への接続を切替えられるようにした。
【0098】
前述した細胞融合装置を用いて、マウスの脾臓細胞(直径約6μm)とマウスのミエローマ細胞(直径約10μm)を用いて細胞融合を行った。ミエローマ細胞は細胞融合する前にシアル酸分解酵素で処理したものを用い、マウスの脾臓細胞は、細胞融合領域に導入し微細孔に固定した後、細胞融合領域でシアル酸分解酵素処理した後、細胞融合し融合再生確率を確認した。
【0099】
まず、マウスから脾臓細胞を取り出した。密閉瓶中にキムタオルを入れ、セボフルラン(丸石製薬製)を用いてマウスを安楽死させた。70%消毒用エタノールをマウスに十分散布した後、クリーンベンチ内の解剖台に注射針で固定した。次にピンセットで外皮を摘み上げ解剖用ハサミで切り込みを入れ、まず外皮を切り取った。次に新しい別のハサミを用いて内皮を切り開き、脾臓を露出させ、ピンセットを用いて脾臓を体外に引き出しながら、ハサミで脾臓をマウスの体から切断した。50mL遠心チューブに10mLの10%FBS(ウシ血清)を含む動物細胞培養用の培地(以下、培地Aと称する)を入れておき、その中に脾臓を移して揺り動かし、表面を洗った。次に脾臓をφ9cmスミロン製シャーレの蓋の上に移し、2本のピンセットを用いて、摘出した脾臓の周りに付着した脂肪を除いた。φ9cmスミロン製シャーレ中に10mLの培地Aを入れ、40mLメッシュのセルストレーナ(Falcon製)中で脾臓を4〜5の小片になるように新しいハサミで切断し、5mLテルモシリンジの尾部の平坦部を用いて脾臓を十分すり潰した。セルストレーナとテルモシリンジの尾部に付着した脾臓細胞は培地Aで洗い流した。シャーレ中の脾臓細胞の入った懸濁液は50mL遠心チューブに移し、シャーレを培地Aで2回洗浄し、洗浄液も遠心チューブ内で混合した。脾臓細胞の入った懸濁液を1500rpm、室温で5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、脾臓細胞のペレットを解きほぐした。次に1mLのFBS中に解きほぐした脾臓細胞を懸濁した後、赤血球破砕液(SIGMA製)を9mL加えてよく混合し、室温で3分間静置し、赤血球の破砕を行った。再び脾臓細胞の入った懸濁液を1500rpm、室温で5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、細胞ペレットを解きほぐした後、20mLの培地Aに懸濁した(この状態の懸濁液を以下、脾臓細胞抽出液と称する)。セルストレーナを用いて、50mL遠心チューブ中に脾臓細胞抽出液を入れろ過し、この脾臓細胞が入った懸濁液の内、10mLを1500rpm、室温で5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、脾臓細胞のペレットを解きほぐした。すぐに10mLの無血清動物細胞培養用の培地(以下、培地Bと称する)に解きほぐした脾臓細胞を懸濁させた後、1500rpm、室温で5分間遠心分離し、上清をアスピレータで吸引した後、脾臓細胞のペレットを解きほぐし、培地Bで脾臓細胞を洗浄した。
【0100】
次に300mMのマンニトール、0.1mMのCaCl2、0.1mMのMgCl2、0.1mg/mLのBSAの入った20mLの細胞融合液(以下、細胞融合液Aと称する)に脾臓細胞を懸濁させた後、1500rpm、室温で5分間遠心分離し、上清をアスピレータで吸引した後、脾臓細胞のペレットを解きほぐし、細胞融合液Aで脾臓細胞を洗浄した。再び少量の細胞融合液Aに脾臓細胞を懸濁し、セルストレーナを用いて50mLファルコンチューブ内にろ過を行い、細胞融合液Aで希釈して、脾臓細胞の最終濃度を0.9×106個/mLに調整した脾臓細胞の入った細胞融合液を準備した。なお、300mMのマンニトールを主成分とする細胞融合液は、細胞の浸透圧とほぼ等張である。
【0101】
また、ミエローマ細胞は常に1×106個/mL以下の濃度になるように、φ15cm浮遊培養用シャーレ中培地Aに懸濁し、37℃、5%のCO2インキュベーター内で継代したものを用いた。細胞融合の前日、ミエローマ細胞の濃度が2.0×105個/mLとなるように培地Aにミエローマ細胞を懸濁し、φ15cm浮遊培養用シャーレ中、培地Aの液量40mLをミエローマ培養液とし、3枚培養を行った。ミエローマ培養液をシャーレから遠心チューブに移し、1000rpmで5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、ミエローマの細胞ペレットを解きほぐした。すぐに40mLの培地Bを各チューブに分散するように加えてミエローマ細胞を懸濁させ、1本のチューブにまとめた後、再び1000rpm、室温で5分間遠心分離し、上清をアスピレータで吸引してミエローマ細胞のペレットを解きほぐした。0.2U/mLのシアル酸分解酵素(Sigma製)を含む10mLの培地Bにミエローマ細胞を再懸濁し、37℃で1時間処理した。次に1000pmで5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、ミエローマ細胞のペレットを解きほぐした。すぐに50mLの培地Bを各チューブに分散するように加えてミエローマ細胞を懸濁させ、1本のチューブにまとめた後、再び1000rpm、室温で5分間遠心分離し、上清をアスピレータで吸引してミエローマ細胞のペレットを解きほぐした。20mLの培地Bにミエローマ細胞を再懸濁し、1000rpm、室温で5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、ミエローマ細胞のペレットを解きほぐした。
【0102】
次に、40mLの細胞融合液Aにミエローマ細胞を再懸濁し、1000rpm、室温で5分間遠心分離し、上清をアスピレータで吸引し、ミエローマ細胞のペレットを解きほぐした。再び少量の細胞融合液Aにミエローマ細胞を懸濁し、セルストレーナを用いて50mLファルコンチューブ内にろ過を行い、細胞融合液Aで希釈して、最終濃度を3.7×106個/mLに調整したシアル酸分解酵素で処理したミエローマ細胞の入った細胞融合液を準備した。
【0103】
上記、脾臓細胞の入った細胞融合液を細胞融合装置のシリンジAに入れ、シアル酸分解酵素で処理したミエローマ細胞の入った細胞融合液をシリンジBに入れ、0.2U/mLのシアル酸分解酵素を含む動物細胞培養培地をシリンジCに入れ、細胞融合溶液AをシリンジDに入れた。
【0104】
まずはじめに、上記脾臓細胞の入った細胞融合液を600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約40万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約40万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、シリンジCを用いて、0.2U/mLのシアル酸分解酵素を含む動物細胞培養培地600μLを3回に分けて細胞融合領域に導入し、交流電源を切断して電圧を印加せずに室温で45分間静置した。これにより、細胞融合領域内で脾臓細胞をシアル酸分解酵素で処理することができた。
【0105】
次に、シリンジDを用いて細胞融合液Aを細胞融合領域に2〜3回導入し、細胞融合領域に入っていたシアル酸分解酵素を含む動物細胞培養培地を細胞融合液Aで置換した。
【0106】
次に、上記シアル酸分解酵素で処理したミエローマ細胞の入った細胞融合液を600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約200万個)をシリンジBを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4〜5倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0107】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である(以上を融合方法Aと称する)。
【0108】
次に同じ仕様の別の細胞融合容器を用い、別の融合プロセスにて細胞融合を行った。上記脾臓細胞の入った細胞融合液を600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約40万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約40万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記シアル酸分解酵素で処理したミエローマ細胞の入った細胞融合液を600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約200万個)をシリンジBを用いて細胞融合領域に導入した。次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Bと称する)。
【0109】
細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、融合方法Aでは96個の融合細胞、融合方法Bでは54個の融合細胞を確認することができ、細胞融合容器に導入したマウスの脾臓細胞数約40万個に対してそれぞれ融合方法Aでは2.4/10000、融合方法Bでは1.8/10000の融合再生確率を得られた。融合方法Aの融合再生確率は、比較例1に示した通常の電気的細胞融合法における融合再生確率0.2/10000の12倍、比較例2の通常の電気的細胞融合法において細胞をシアル酸分解酵素で処理した場合の融合再生確率0.25/10000の約10倍であり、非常に高い融合再生確率を得ることができた。また、融合方法Aの融合再生確率は融合方法Bの融合再生確率に比べて1.3倍であり、融合領域内の微細孔に脾臓細胞を固定したままでシアル酸分解酵素処理を行い、そのまま溶液置換して融合することでより良好な融合再生確率を得ることができた。
【0110】
(比較例1)
比較例1として、通常の電気的細胞融合法を行った。電気的細胞融合法を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0111】
細胞は、実施例1に用いたマウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いた。脾臓細胞とミエローマ細胞を4:1で混合し、実施例1で用いた細胞融合液Aに懸濁させ、1.7×107個/mLの密度になるように細胞融合液を調整した。
【0112】
上記細胞融合液40μL(脾臓細胞数約60万個、ミエローマ細胞数約15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、ピーク電圧10V、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、12個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.2/10000の融合再生確率を得られた。
【0113】
(比較例2)
比較例2として、通常の電気的細胞融合法において、細胞をシアル酸分解酵素で処理する細胞融合を行った。電気的細胞融合法を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0114】
細胞は、実施例1に用いたマウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いた。脾臓細胞とミエローマ細胞を4:1で混合し、実施例1で用いた細胞融合液Aに懸濁させ、さらに実施例1で用いた0.2U/mLのシアル酸分解酵素を含む動物細胞培養培地を適量加え1.7×107個/mLの密度になるように細胞融合液を調整し、室温で45分間静置した。なお、45分静置後、細胞融合液中の細胞の状態を確認したところ、細胞の凝集体が数多く見られた。
【0115】
上記細胞融合液40μL(脾臓細胞数約60万個、ミエローマ細胞数約15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、ピーク電圧10V、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、15個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.25/10000の融合再生確率を得られた。
【0116】
(実施例2)
実施例1で使用した細胞融合装置を用いて、マウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いて細胞融合を行った。実施例1で用いた300mMのマンニトールを主成分とする細胞融合液A、および浸透圧より低張の200mMのマンニトール、0.1mMのCaCl2、0.1mMのMgCl2、0.1mg/mLのBSAの入った細胞融合液Bにそれぞれ懸濁させた脾臓細胞とミエローマ細胞を用い、細胞融合を行った。
【0117】
脾臓細胞は細胞融合液Aまたは細胞融合液Bに懸濁して最終濃度を0.8×106個/mLに調整した。また、ミエローマ細胞は細胞融合液Aに懸濁して最終濃度を6.7×106個/mLに調整した。
【0118】
上記、脾臓細胞の入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジA、脾臓細胞の入った細胞融合液Bを細胞融合装置のシリンジB,ミエローマ細胞の入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジC、ミエローマ細胞の入った細胞融合液Bを細胞融合装置のシリンジD、に入れた。また、細胞融合液BをシリンジEに入れた。
【0119】
まずはじめに、上記脾臓細胞の入った細胞融合液Aを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約40万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約40万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞の入った細胞融合液Aを600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約350万個)をシリンジCを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4〜5倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。次に、引き続き、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、シリンジEを用いて600μLの細胞融合液Bを2回、細胞融合領域に導入し、細胞融合領域の細胞融合液を置換した(以上を融合方法Cと称する)。
【0120】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った。
【0121】
次に同じ仕様の別の細胞融合容器を用い、別の融合プロセスにて細胞融合を行った。上記脾臓細胞の入った細胞融合液Bを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約40万個)をシリンジBを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約40万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞の入った細胞融合液Bを600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジDを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4〜5倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0122】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Dと称する)。
【0123】
細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、融合方法Cでは304個、融合方法Dでは220個の融合細胞を確認することができ、融合容器に導入したマウスの脾臓細胞数約40万個に対して融合方法Cでは7.6/10000、融合方法Dでは5.5/10000の融合再生確率を得られた。融合方法Cの融合再生確率は、比較例3の通常の電気的細胞融合法において、はじめから細胞の浸透圧よりも低張の200mMのマンニトールを主成分とした細胞融合液Bを用いて細胞融合した場合の融合再生確率0.23/10000の約33倍であり、非常に高い融合再生確率を得ることができた。また、融合方法Cの融合再生確率は融合方法Dの融合再生確率に比べて1.4倍であり、融合領域内の微細孔に脾臓細胞を固定したまま、融合直前に浸透圧より低張の糖溶液で置換して融合を行うことで、より良好な融合再生確率を得ることができた。
【0124】
(比較例3)
比較例3として、通常の電気的細胞融合法において、はじめから細胞の浸透圧よりも低張の200mMのマンニトールを主成分とした細胞融合液Bを用いて細胞融合を行った。電気的細胞融合法を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0125】
細胞は、実施例2に用いたマウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いた。脾臓細胞とミエローマ細胞を4:1で混合し、実施例2で用いた細胞融合液Bに懸濁させ1.7×107個/mLの密度になるように細胞融合液を調整した。なお、調整後、細胞融合液中の細胞の状態を確認したところ、死滅した細胞が数多く見られた。
【0126】
上記細胞融合液40μL(脾臓細胞数約60万個、ミエローマ細胞数約15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、ピーク電圧10V、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、15個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.23/10000の融合再生確率を得られた。
【0127】
(実施例3)
実施例3では実施例1で使用した細胞融合装置を用い、マウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いて細胞融合を行った。ただし細胞融合容器は、微細孔間隔を20μmピッチとし、スペーサーをくりぬいた部分の微細孔数が100万個のものを用いた。脾臓細胞はセルバンカー中−80℃で凍結していたものを37℃にて解凍し、実施例1で用いた300mMのマンニトールを主成分とする細胞融合液A、および浸透圧より高張の500mMのマンニトール、0.1mMのCaCl2、0.1mMのMgCl2、0.1mg/mLのBSAの入った細胞融合液Cにそれぞれ懸濁させたものを用意した。また、ミエローマ細胞は細胞融合液Aに懸濁させたものを用いて細胞融合を行った。
【0128】
脾臓細胞は細胞融合液Aまたは細胞融合液Bに懸濁して最終濃度を1.7×106個/mLに調整した。また、ミエローマ細胞は細胞融合液Aに懸濁して最終濃度を6.7×106個/mLに調整した。
【0129】
上記、脾臓細胞の入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジA、脾臓細胞の入った細胞融合液Bを細胞融合装置のシリンジB,ミエローマ細胞の入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジCに入れた。
【0130】
まずはじめに、上記脾臓細胞の入った細胞融合液を600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約100万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約100万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞の入った細胞融合液を600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジCを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4〜5倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0131】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Eと称する)。
【0132】
次に同じ仕様の別の細胞融合容器を用い、別の融合プロセスにて細胞融合を行った。上記脾臓細胞の入った細胞融合液Cを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約100万個)をシリンジBを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約100万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞の入った細胞融合液Aを600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジCを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4〜5倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0133】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Fと称する)。
【0134】
細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、融合方法Eでは1794個、融合方法Fでは2293個の融合細胞を確認することができ、細胞融合容器に導入したマウスの脾臓細胞数約100万個に対してそれぞれ融合方法Eでは17.9/10000、融合方法Fでは22.9/10000の融合再生確率を得られた。融合方法Fの融合再生確率は、比較例4の通常の電気的細胞融合法において、はじめから凍結解凍した脾臓細胞を浸透圧と等張の300mMのマンニトールを主成分とした細胞融合液Aを用いて細胞融合した場合の融合再生確率0.16/10000の143.1倍であり、非常に高い融合再生確率を得ることができた。また、融合方法Fの融合再生確率は融合方法Eの融合再生確率の1.3倍であり、凍結解凍した脾臓細胞を浸透圧より高張の細胞融合液Bにあらかじめ懸濁してから細胞融合領域に導入し、最終的に細胞融合液Aに懸濁したミエローマを導入することで、細胞融合領域の細胞融合液の組成を細胞と等張の糖溶液として融合を行うことで、より良好な融合再生確率を得ることができた。
【0135】
(比較例4)
比較例4として、通常の電気的細胞融合法において、凍結解凍した脾臓細胞を細胞融合液に懸濁させたものを用いて細胞融合を行った。電気的細胞融合法を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0136】
細胞は、実施例3に用いた細胞融合液Aに懸濁したマウスの脾臓細胞Aと細胞融合液Aに懸濁させたマウスのミエローマ細胞を用いた。脾臓細胞とミエローマ細胞を4:1で混合し、実施例1で用いた細胞融合液Aに懸濁させ1.7×107個/mLの密度になるように細胞融合液を調整した。なお、調整後、細胞融合液中の細胞の状態を確認したところ、死滅した細胞が数多く見られた。
【0137】
上記細胞融合液40μL(脾臓細胞数約60万個、ミエローマ細胞数約15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、ピーク電圧10V、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、10個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.16/10000の融合再生確率を得られた。
【0138】
(実施例4)
実施例3で使用した細胞融合装置を用いて、マウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いて細胞融合を行った。脾臓細胞はマウスより抽出後、実施例1に示したように脾臓細胞抽出液を培地Bで1回、細胞融合液Aで1回洗浄を行い、細胞融合液Aに懸濁させて調製したもの(以下、脾臓細胞Aと称する)と、脾臓細胞抽出液を1500rpm、室温で5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、脾臓細胞のペレットを解きほぐし、すぐに細胞融合液Aに懸濁させて調製したもの(以下、脾臓細胞Bと称する)を用意した。また、ミエローマ細胞は実施例1に示したように、培地Bで1回、細胞融合液Aで1回洗浄を行い、細胞融合液Aに懸濁させて調製したものを用いて細胞融合を行った。
【0139】
脾臓細胞A及び、脾臓細胞Bは細胞融合液Aに懸濁して最終濃度を0.8×106個/mLに調整した。また、ミエローマ細胞は細胞融合液Aに懸濁して最終濃度を6.7×106個/mLに調整した。
【0140】
上記、脾臓細胞Aの入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジA、脾臓細胞Bの入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジB,ミエローマ細胞の入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジCに入れた。
【0141】
まずはじめに、上記脾臓細胞Aの入った細胞融合液Aを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約50万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約100万個の微細孔の内、約半分の50万個の微細孔に対し、ほぼ1つの微細孔に1個ずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞の入った細胞融合液を600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジCを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約8〜10倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0142】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Gと称する)。
【0143】
次に同じ仕様の別の細胞融合容器を用い、別の融合プロセスにて細胞融合を行った。上記脾臓細胞Bの入った細胞融合液Aを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約50万個)をシリンジBを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約100万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞の入った細胞融合液Aを600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジCを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約8〜10倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0144】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Hと称する)。
【0145】
細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、融合方法Gでは1825個、融合方法Hでは1603個の融合細胞を確認することができ、細胞融合容器に導入したマウスの脾臓細胞数約50万個に対してそれぞれ融合方法Gでは36.5/10000、融合方法Hでは32.1/10000の融合再生確率を得られた。融合方法Bの融合再生確率は、比較例5の通常の電気的細胞融合法において、培地Bおよび細胞融合溶液Aで洗浄操作を行わない脾臓細胞と洗浄操作を行ったミエローマ細胞を混合して用いて細胞融合した場合の融合再生確率0.30/10000の107.0倍であり、非常に高い融合再生確率を得ることができた。また、融合方法Hの融合再生確率は融合方法Gの融合再生確率の0.88倍であり、洗浄操作を行わない脾臓細胞を用いた場合でも、洗浄操作を行ったミエローマを細胞融合液Aに懸濁して導入して融合することで、煩雑な細胞洗浄操作を省き、なおかつ良好な融合再生確率を得ることができた。
【0146】
(比較例5)
比較例5として、通常の電気的細胞融合法において、細胞洗浄操作を省略した脾臓細胞と洗浄操作を行ったミエローマ細胞を用いて細胞融合を行った。電気的細胞融合法を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0147】
細胞は、実施例4に用いたマウスの脾臓細胞Bとマウスのミエローマ細胞を用いた。脾臓細胞とミエローマ細胞を4:1で混合し、実施例1で用いた細胞融合液Aに懸濁させ1.7×107個/mLの密度になるように細胞融合液を調整した。
【0148】
上記細胞融合液40μL(脾臓細胞数約60万個、ミエローマ細胞数約15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、ピーク電圧10V、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、18個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.30/10000の融合再生確率を得られた。
【0149】
(実施例5)
実施例3で使用した細胞融合装置を用いて、マウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いて細胞融合を行った。脾臓細胞はマウスより抽出後、実施例1に示したように脾臓細胞抽出液を1500rpm、室温で5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、脾臓細胞のペレットを解きほぐし、すぐに細胞融合液Aに懸濁させて調製したものを用意した。またミエローマ細胞は、実施例1で用いたミエローマ培養液を、培地Bで1回、細胞融合液Aで1回洗浄を行い、細胞融合液Aに懸濁させて調製したもの(以下、ミエローマ細胞Aと称する)と、ミエローマ培養液の上清をアスピレータで吸引し、ミエローマ細胞のペレットを解きほぐし、すぐに細胞融合液Aに懸濁させて調製したもの(以下、ミエローマ細胞Bと称する)を用意した。
【0150】
脾臓細胞は細胞融合液Aに懸濁して最終濃度を1.6×106個/mLに調整した。また、ミエローマ細胞A及びミエローマ細胞Bは、細胞融合液Aに懸濁して最終濃度を6.5×106個/mLに調整した。
【0151】
上記、脾臓細胞の入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジA、ミエローマ細胞Aの入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジB,ミエローマ細胞Bの入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジCに入れた。また、脾臓細胞、ミエローマ細胞も入っていない細胞融合液AをシリンジDに入れた。
【0152】
まずはじめに、上記脾臓細胞の入った細胞融合液Aを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約100万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約100万個の微細孔に対し、ほぼ1つの微細孔に1個ずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。
【0153】
続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞Aの入った細胞融合液を600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジBを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0154】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Iと称する)。
【0155】
次に同じ仕様の別の細胞融合容器を用い、別の融合プロセスにて細胞融合を行った。上記脾臓細胞の入った細胞融合液Aを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約100万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約100万個の微細孔に対し、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞Bの入った細胞融合液Aを600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジCを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。次に、シリンジDを用いて細胞融合液Aを細胞融合領域に2〜3回導入し、細胞融合領域に入った脾臓細胞とミエローマ細胞を細胞融合液Aで洗浄した。
【0156】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Jと称する)。
【0157】
細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、融合方法Iでは1312個、融合方法Jでは3417個の融合細胞を確認することができ、細胞融合容器に導入したマウスの脾臓細胞数約100万個に対してそれぞれ融合方法Iでは13.1/10000、融合方法Jでは34.2/10000の融合再生確率を得られた。融合方法Jの融合再生確率は融合方法Iの融合再生確率の2.6倍であり、洗浄操作を行わない脾臓細胞と洗浄操作を行わないミエローマ細胞を用いた場合、脾臓細胞とミエローマ細胞を細胞融合領域に導入し微細孔に固定後、細胞融合領域に細胞融合液Aを導入することで脾臓細胞とミエローマ細胞を短時間に容易に洗浄することができ、良好な融合再生確率を得る事ができた。これは、細胞融合領域に入れる各細胞の調整段階での煩雑な細胞洗浄操作を省く事により、細胞活性が維持されたため、良好な融合再生確率を得る事ができたと考えられる。
【符号の説明】
【0158】
1:細胞融合領域
2:細胞融合液導入流路
3:導電線
4:電源
5:交流電源
6:直流パルス電源
7:電源切替え機構
8:絶縁体
9:微細孔
10:誘電泳動力
11:電気力線の集中部位
12:電気力線
13:細胞融合容器
14:上部電極
15:下部電極
16:スペーサー
17:細胞融合液導入切替え手段
18:第1の細胞
19:導入口
20:排出口
21:バルブ
22:第2の細胞
23:ITO
24:パイレックス(登録商標)ガラス
25:レジスト
26:露光用フォトマスク
27:露光
28:現像液
29:導入流路
30:排出流路
31:ピーク電圧
32:融合細胞
33:現像液
34:シリンジA
35:シリンジB
36:シリンジC
37:シリンジD
38:シリンジE
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞融合を効率的に行うための細胞融合装置とそれを用いた細胞融合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な細胞融合技術としては化学的細胞融合法であるポリエチレングリコール法(PEG法)と電気的細胞融合法が知られている。PEG法では(i)ポリエチレングリコール(PEG)は細胞に対して強い毒性を持っている、(ii)細胞融合するにあたりPEGの重合度、添加量などの最適な諸条件を見出すのに手間がかかる、(iii)細胞融合に際して高度な技術が要求され、特定の技術に習熟した人にしか使えない、(iv)2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の制御が困難なため融合再生確率が極めて低い、等の解決すべき課題があった。ここで、融合再生確率とは、生成した融合細胞の数を融合容器に導入した脾臓細胞数で除した値である。
【0003】
一方、電気的細胞融合法は、高度な技術が不要で、簡単に効率よく細胞融合させることができ、細胞に与える毒性がほとんどなく、高活性をもったままの状態で細胞融合させることができるという利点があり、電気的細胞融合の条件など、細胞融合時の諸条件の設定が容易なため、PEG法に比べ融合再生確率が高いことが知られている。電気的細胞融合法は、1981年西ドイツのZimmermannが確立したものであり、その原理は次の通りである。すなわち、平行電極間に交流電圧を印加し、そこに細胞を導入すると、細胞は電流密度の高い方へ引き寄せられ数珠状にならぶ。なお、細胞が数珠状にならんだ状態を一般にパールチェーンと呼ぶ。この状態で数μsec〜数十μsec単位の直流パルス電圧(以下、同じ意味として融合電圧とも称する)を電極間に印加することにより細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層により構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われ、その結果、細胞融合が起こる。
【0004】
上記の電気的細胞融合法には、主に微小電極法と平行電極法が用いられている。このうち微小電極法は、2細胞一対の細胞融合を顕微鏡で見ながらマイクロマニュピレーターで細胞を拾い集めては直流パルス電圧を印加する方法であり、極めて融合確率が高く、微小電極法に用いる電極の例も報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながらこの方法は手間のかかる方法であり、その操作は熟練を要す上、大量の細胞を扱う上では実用的とはいえなかった。また平行電極法は、誘電泳動により複数の細胞を数珠状に配列形成させた後、直流パルス電圧を印加することによって細胞融合させる方法であり、その取り扱いは簡単であるが、数珠状になった複数の細胞が細胞融合するためPEG法と同様に2細胞の接触は偶発的であり、2細胞一対での細胞融合の確実な制御が難しいという課題があった。
【0005】
また、上記化学的細胞融合法及び電気的細胞融合法の両者とも、2種類の細胞を同一成分の細胞融合液内で非特異的に混合して細胞融合を行うため、融合操作中に細胞融合液の成分を目的に応じてコントロールすることは極めて困難であった。従って、融合再生確率を高めるための幾つかの試みは、常に細胞融合とは別の細胞前処理操作を必要とし、また、細胞融合後の煩雑な洗浄操作を伴うため、操作が煩雑な上、必要以上に細胞の処理時間が長くなり細胞の活性が低下したり、細胞を損失したりするなどの課題があった。
【0006】
例えば、融合再生確率を高める方法として、電気的細胞融合法に用いる細胞融合液中のCa濃度を高めることで融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。一般的に、Caには細胞膜修復作用があるといわれており、Ca濃度を高めて細胞融合する事で融合再生確率が向上する可能性がある。しかしながら、実際には、従来の電気的細胞融合法では2種類の細胞を同一の成分の溶液の中で混合状態として細胞融合を行うため、融合再生確率を高めるのに効果的なCa濃度のコントロールが難しく、Ca濃度を高めた場合、Caの細胞膜修復作用により融合再生確率が向上する効果もあるが、細胞融合前に細胞同士が凝集を起こし、細胞融合に関与できない細胞が増大するため、結果として融合再生確率が低下してしまうという課題があった。
【0007】
また別の融合再生確率を高める方法として、細胞融合前にシアル酸分解酵素で細胞を処理することで細胞膜上のシアル酸を分解し、細胞を正の電荷に帯電させることによって細胞融合させる細胞同士の密着度を高め、融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかしこの場合、シアル酸分解反応中に細胞の死滅が起きる他、シアル酸分解処理を行った細胞同士が凝集することで、細胞融合に寄与する細胞数が減少し、結果として融合再生確率が低下してしまうという課題があった。
【0008】
また別の融合再生確率を高める方法として、細胞融合前にプロテアーゼなどの酵素で細胞を処理することで細胞膜上のタンパクを分解し、融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、非特許文献3参照)。しかしこの場合も、酵素処理の過程において細胞の凝集や死滅、あるいは細胞の容器への付着が発生し、細胞融合時に処理可能な細胞数が著しく減少するため、結果として融合再生確率が低下してしまうという課題があった。また、細胞融合前または細胞融合後にこれらの酵素成分を除去する煩雑な細胞洗浄操作が必要であった。
【0009】
また別の融合再生確率を高める方法として、細胞を浸透圧より低張の糖溶液に懸濁して融合電圧を印加することで、従来よりも融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、非特許文献4参照)。この場合、低張の糖溶液に細胞を浸す時間が長く、また細胞融合後もしばらく低張の糖溶液中で細胞を放置しなければならないために、細胞融合時あるいは細胞融合後に死滅する細胞が多くなり、結果として融合再生確率が低下してしまうという課題があった。
【0010】
さらにまた融合再生確率を高める別の方法として、電気的細胞融合法に用いる細胞融合液中にポリエチレングリコールなどの融合促進作用のあると考えられている添加剤を添加して融合電圧を印加することで、従来よりも融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、特許文献2、非特許文献5参照)。この場合、加えた添加剤が細胞にとって有害な成分であれば、処理中に細胞の死滅が起きるため、結果として融合再生確率が低下してしまうという課題があった。また、細胞融合後にはこれらの細胞にとって有害な成分を除くための煩雑な細胞洗浄操作が必要であった。
【0011】
以上のように従来のPEG法、電気的細胞融合法では、融合再生確率を高めるための細胞の前処理や細胞融合後の融合促進剤の除去操作自体がそれぞれ細胞の死滅を引き起こし、結果として得られる融合細胞が少なくなり、よって融合再生確率がむしろ悪くなるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平7−40914号公報
【特許文献2】特開昭60−9490号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Ohnishi, K., Chiba, J., Goto, Y., Tokunaga, T., 「Improvement in the basic technology of electrofusion for generation of antibody−producing hybridomas.」 J. Immunol. Methods., 100巻, p.181−189, 1987年
【非特許文献2】Igarashi, M., Bando, Y. 「Enhanced efficiency of cell hybridization by neuraminidase treatment.」 J. Immunol. Methods., 135巻, p.91−93, 1990年
【非特許文献3】Ohno−Shosaku, T., Okada, Y. 「Facilitation of electrofusion of mouse lymphoma cells by the proteolytic action of proteases.」 Biochem. Biophys. Res. Commun., 120巻, p.138−143, 1984年
【非特許文献4】Schmitt, J. J., Zimmermann, U., Gessner, P. 「Electrofusion of osmotically treated cells. High and reproducible yields of hybridoma cells.」 Naturwissenschaften, 76巻, p.122−123, 1989年
【非特許文献5】Stoicheva, NG., Hui, SW. 「Electrically induced fusion of mammalian cells in the presence of polyethylene glycol.」 J. Membr. Biol., 141巻, p.177−182, 1994年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、かかる従来の実状に鑑みて提案されたものであり、細胞融合を行う細胞を融合容器内の微細孔に固定したまま細胞融合液の置換を行い、簡便かつ迅速に融合再生確率を高めるような細胞の処理を可能にする細胞融合装置及び細胞融合方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記課題を解決する手段として、細胞融合液導入口及び細胞融合液排出口を備え、細胞融合領域に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、前記絶縁体が前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器と、電源と、3以上の細胞融合液を切替えて導入する細胞融合液導入切替え手段と、を備えた細胞融合装置であって、前記電源が前記一対の電極に交流電圧を印加する交流電源と直流パルス電圧を印加する直流パルス電源とを切替えて接続する電源切替え機構を有する、細胞融合装置を用いること、前記細胞融合装置を用いて第1の細胞と第2の細胞とを細胞融合領域において融合する際、前記細胞融合領域に前記第1の細胞が入った細胞融合液を導入し、前記交流電圧を印加して前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域に前記第2の細胞が入った細胞融合液を導入し、前記交流電圧を印加して前記第1の細胞に前記第2の細胞を前記微細孔において接触させ、前記微細孔に直流パルス電圧を印加して、前記第1の細胞と前記第2の細胞とを細胞融合させる方法であって、前記細胞融合液導入切替え手段を用いて細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する時期を、前記第2の細胞の導入前、前記細胞融合の前および前記細胞融合の後、の少なくとも一の時期とする、細胞融合方法を用いることにより、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の細胞融合装置は、細胞融合液導入口及び細胞融合液排出口を備え、細胞融合領域に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、前記絶縁体が前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器と、電源と、3以上の細胞融合液を切替えて導入する細胞融合液導入切替え手段と、を備えた細胞融合装置であって、前記電源が前記一対の電極に交流電圧を印加する交流電源と直流パルス電圧を印加する直流パルス電源とを切替えて接続する電源切替え機構を有する。
【0017】
また本発明の細胞融合方法は、上記細胞融合装置を用いて第1の細胞と第2の細胞とを細胞融合領域において融合する際、細胞融合領域に第1の細胞が入った細胞融合液を導入し、交流電圧を印加して微細孔内に第1の細胞を固定した後、細胞融合領域に第2の細胞が入った細胞融合液を導入し、交流電圧を印加して第1の細胞に第2の細胞を微細孔において接触させ、微細孔に直流パルス電圧を印加して、第1の細胞と第2の細胞とを細胞融合させる方法であって、細胞融合液導入切替え手段を用いて細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する時期を、第2の細胞の導入前、細胞融合の前および細胞融合の後、の少なくとも一の時期とする、細胞融合方法である。
【0018】
また本発明の細胞融合方法は、細胞融合処理液が入った細胞融合液が2以上であって、前記2以上の細胞融合処理液が入った細胞融合液が全て同じまたは一部異なるまたは全て異なる、のいずれかの細胞融合処理液が入った細胞融合液である細胞融合方法である。
【0019】
また本発明の細胞融合方法は、上記の特定の成分が酵素であり、さらに当該酵素がシアル酸分解酵素またはプロテアーゼである細胞融合方法である。
【0020】
また本発明の細胞融合方法は、上記の特定の成分がカルシウムイオンである細胞融合方法である。
【0021】
また、本発明の細胞融合方法は、上記の添加剤が融合再生確率を高める添加剤である細胞融合方法であり、これらの添加剤として、カルシウム塩、マグネシウム塩、アミノ酸、ウシ血清アルブミン(BSA)、糖、フィコール、カルモジュリン、セリシン、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、サイトカイン、リポポリサッカライド、ポリエチレングリコール、コレステロール、カテキン、血清、ホルモン、動物細胞培養用培地由来の成分の内、少なくともいずれか一つを含む添加剤である、細胞融合方法である。
【0022】
以下に、図を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0023】
本発明の細胞融合装置は、細胞融合液導入口及び細胞融合液排出口を備え、細胞融合領域に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、前記絶縁体が前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器と、電源と、3以上の細胞融合液を切替えて導入する細胞融合液導入切替え手段と、を備えた細胞融合装置であって、前記電源が前記一対の電極に交流電圧を印加する交流電源と直流パルス電圧を印加する直流パルス電源とを切替えて接続する電源切替え機構を有する。
【0024】
まず、本発明の特徴を説明するために、本発明の細胞融合装置を用いた基本的な細胞融合方法の概略、すなわち2つの細胞を細胞融合領域に導入して細胞融合する方法を図1〜図3を用いて説明する。なお説明は、本発明の基本動作を簡単に説明するために、細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する工程は省略しており、本発明特有の細胞融合方法である、細胞融合液導入切替え手段を用いて細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する時期を、第2の細胞の導入前、細胞融合の前および細胞融合の後、の少なくとも一の時期とする方法についても説明は後述する。
【0025】
本発明の細胞融合方法の手順を図1、図2、図3の順に示す。
【0026】
図1に示すように、最初に第1の細胞(18)の入った細胞融合液を細胞融合領域(1)に入れ、電源切替え機構(7)を交流電源(5)に接続する。このとき第1の細胞は、絶縁体(8)に形成された微細孔(9)に向かって移動し固定される。この第1の細胞が微細孔に向かって動くときに作用する力を誘電泳動力(10)という。図1に示すように誘電泳動力とは、電極間に特定の周波数の交流電圧を印加したとき、上部電極(14)と微細孔(9)で覆われた下部電極(15)のように、電気力線(12)の集中部位があると、その電気力線の集中部位(12)の方向(すなわち、微細孔の方向)に向かって細胞等の誘電体粒子を動かす力である。一般に誘電泳動力は、誘電体粒子の体積、誘電体粒子の誘電率と溶液の誘電率の差、印加電圧の2乗に比例する。
【0027】
次に、交流電圧を印加したまま誘電泳動力を作用させ続けて微細孔に第1の細胞を固定したまま、第2の細胞(22)の入った細胞融合液を細胞融合領域に入れる。このとき、図2に示すように第2の細胞は誘電泳動力により第1の細胞の上に固定される。次に図3に示すように、電源切替え機構を直流パルス電源(6)に切替えて直流パルス電圧を印加すると、第1の細胞及び第2の細胞の接触点で細胞膜に変化(可逆的破壊と推定される)が起こり、第1の細胞と第2の細胞との細胞融合が生じて融合細胞(32)が生成される。このようにすることで、微細孔の位置で第1の細胞と第2の細胞を接触させ、従来の電気的細胞融合法より高い融合再生確率で細胞融合させることができる。この場合、理想的には、1つの第1の細胞に対し1つの第2の細胞が接触して融合した方が高い融合再生確率を得られる。すなわち、1つの微細孔に1つの第1の細胞が固定され、更にその上に1つの第2の細胞が固定された方が高い融合再生確率を得ることができる。
【0028】
次に、本発明の細胞融合装置の構成について、図を用いて詳しく説明する。
【0029】
図4は本発明の細胞融合装置の概念図を示した図である。本発明の細胞融合装置は、細胞融合容器(13)と電源(4)、細胞融合液導入切替え手段(17)で構成されている。また電源(4)は、上記の一対の電極に交流電圧を印加する交流電源(5)と直流パルス電圧を印加する直流パルス電源(6)とを切替えて接続する電源切替え機構(7)で構成されている。
【0030】
細胞融合容器は、図4に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置することで細胞融合領域(1)を確保し、微細孔(9)を形成した絶縁体(8)を下部電極の細胞融合領域側に配置した構造を有する。
【0031】
上部電極と下部電極の材質は導電部材であって化学的に安定な部材であれば特に制限はなく、白金、金、銅などの金属やステンレスなどの合金及び、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明導電性材料を成膜したガラス基板などでもよいが、細胞融合を観察するには、ITOなどの透明導電性材料を成膜したガラス基板を電極として用いることが好ましい。
【0032】
上部電極と下部電極の面積等の寸法には特に制限はないが、取り扱いやすいサイズとして、例えば、縦70mm×横40mm×厚さ1mm程度のサイズが好ましい。細胞融合容器の上部電極と下部電極には導電線(3)を介して電源(4)が接続されている。電源(4)は交流電圧を上部電極と下部電極の電極間に印加する交流電源(5)と、細胞融合させるための直流パルス電圧を上部電極と下部電極の電極間に印加する直流パルス電源(6)から構成されており、交流電源と直流パルス電源は、電源切替え機構(7)により適宜切替えて使用することができる。
【0033】
スペーサーは、上部電極と下部電極が直接接触しないように設けられ、かつ細胞融合容器に細胞融合液を入れておくスペースを確保するための細胞融合領域を形成する貫通孔を有しているものであり、その材質は絶縁材料であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等が挙げられる。またスペーサーには、細胞融合容器に細胞を導入、排出するため、細胞を導入する導入流路(29)及びそれに連通する導入口(19)と、細胞を排出する排出流路(30)及びそれに連通する排出口(20)が設けられている。
【0034】
図4に示す細胞融合容器の導入口には、細胞融合液導入流路(2)を介して細胞融合液導入切替え手段(17)が接続され、細胞融合液導入切替え手段に、シリンジA(34)、シリンジB(35)、シリンジC(36)、シリンジD(37)、シリンジE(38)が接続されている。細胞融合液導入切替え手段は、シリンジA、シリンジB、シリンジCのうちどれか一つのシリンジを選んで、シリンジを細胞融合液導入流路に接続することができればよく、一般的なバルブ(21)で構成されている。バルブは図4に示すようにそれぞれのシリンジ毎に取り付けても良い。図4示す例では、例えばシリンジAに第1の細胞が入った細胞融合液、シリンジBに第2の細胞が入った細胞融合液、シリンジCに細胞融合処理液が入った細胞融合液を入れることができる。このような構成にすることで、3以上の細胞融合液を切替えて導入することが可能となり、細胞融合液導入切替え手段を用いて細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する時期を、第2の細胞の導入前、細胞融合の前および細胞融合の後、の少なくとも一の時期とすることが可能となる。なお、どれか一つのシリンジを選んでシリンジを細胞融合液導入流路に接続することができればシリンジの数に特に制限はなく、使用する細胞の数、細胞融合処理液が入った細胞融合液の数に応じて適宜設置すればよい。
【0035】
細胞融合させる2種の細胞としては、例えばモノクローナル抗体を製造するために用いられる抗体産生細胞とミエローマ細胞との組合せなどであれば良い。
【0036】
絶縁体(8)には微細孔(9)が形成されている。絶縁体(8)の材質は、例えばガラス、セラミック、樹脂等の絶縁材料であれば特に制限はないが、貫通した微細孔を形成させる必要があることから、樹脂等の比較的加工が容易な材料が好ましい。樹脂に貫通した微細孔を形成する手段としては、形成する微細孔の位置にレーザーを照射する方法や、微細孔の位置に貫通孔を形成するためのピンを有する金型を用いて成形する方法などの既知の方法を用いればよい。また、絶縁体にUV硬化性樹脂などを用いる場合は、微細孔に相当するパターンを描画した露光用フォトマスクを用いて一般的なフォトリソグラフィー(露光)とエッチング(現像)により貫通した微細孔を形成することができる。絶縁体に複数の微細孔を形成する場合は、絶縁体にUV硬化性樹脂を用いて、一般的なフォトリソグラフィーとエッチングによる方法で微細孔を形成することが好ましい。
【0037】
微細孔の形状や大きさには特に制限はないが、本発明の細胞融合装置を用いた場合、1つの微細孔に1つの細胞を固定した方がより高い融合再生確率を得ることが可能となることから、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する細胞の直径(細胞により異なるが、1μm〜数十μm程度)より小さいか、もしくは、細胞の直径の1〜2倍程度の範囲でありかつ微細孔の深さが微細孔に固定する細胞の直径の以下であることが好ましい。この理由を図を用いてさらに詳しく説明する。
【0038】
図6に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する2つの細胞の直径より大きい場合は、微細孔に第1の細胞及び第2の細胞が複数入ってしまい、第1の細胞と第2の細胞の1対1での細胞融合ができなくなり、融合再生確率が低くなってしまう。しかしながら、図7に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する2つの細胞の直径より小さい場合は、第1の細胞と第2の細胞の1対1での細胞融合が可能であり、融合再生確率が高くなる。また、図8に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が第1の細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径より大きい場合は第2の細胞が微細孔に固定された第1の細胞と接触することができずに細胞融合させることができない。しかしながら、図9に示すように、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が第1の細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径の以下である場合は1つの第2の細胞と微細孔に固定された1つの第1の細胞が確実に接触するので高い融合再生確率を得ることができる。
【0039】
また、さらに好ましい態様としては、第2の細胞の直径が第1の細胞の直径より大きいことが好ましく、細胞を導入する際は直径の小さい細胞を第1の細胞として最初に導入し、直径の大きい細胞を第2の細胞として次に導入することが好ましく、この場合、微細孔の直径は、第2の細胞の直径よりも小さくかつ、第1の細胞の直径よりも大きいことが好ましい。この理由を以下に述べる。
【0040】
微細孔では電気力線の集中が生じるため、微細孔付近の電界強度は、図10に示すように微細孔内の電極面の電界強度が最も高く、絶縁膜面からもう一方の電極に向けて次第に電界強度が弱くなる。図10は、一方の電極に任意の膜厚の絶縁膜に任意の直径と深さを有する微細孔を1個配置し、電極間に任意の電圧を印加した場合の電界強度を有限要素法を用いて計算した。縦軸が電界強度を最大の電界強度で正規化した値であり、横軸は電極間の位置である。横軸の原点に絶縁膜を配置した電極が存在している。絶縁膜面は図中の点線で示した位置に相当し、横軸の原点から点線までの範囲が絶縁膜厚に相当する。計算によれば、絶縁膜の材質や厚み、微細孔の大きさや深さにあまり大きく依存せず、図10に示すように微細孔内の電極面の電界強度は、絶縁膜面の電界強度より約20%程度高い結果となる。
【0041】
一般に電気的細胞融合法は、前述したように、細胞融合させるための直流パルス電圧を印加することで細胞膜の電気伝導度が瞬間的に低下し、脂質二重層から構成される細胞膜の可逆的乱れとその再構成が行われることで細胞融合させる。ここで、一般に細胞の直径が小さいほど細胞膜の可逆的乱れを生じさせる直流パルス電圧は高くなる。従って、直径の小さい細胞を第1の細胞として微細孔に入れ、直径の大きい細胞を第2の細胞として微細孔に固定された第1の細胞の上から固定すれば、印加する直流パルス電圧は同じでも、図10に示すように、微細孔内の電界強度が微細孔表面の電界強度より高いために、微細孔内に固定された直径の小さい第1の細胞には、より高い電圧が印加され、微細孔表面に固定された直径の大きい第2の細胞には第1の細胞に印加される電圧よりも20%程度低い電圧が印加される。このようにすることで、直径の異なる細胞を細胞融合させる場合の細胞膜の可逆的乱れを生じさせる電圧の違いをある程度キャンセルすることが可能となる。
【0042】
以上のように本発明の細胞融合装置を用いた細胞融合方法は、第1の細胞の直径が第2の細胞の直径よりも小さいことが好ましく、さらには、微細孔の直径が、細胞融合させる直径の異なる2細胞のうち、直径の大きい細胞の直径以下、直径の小さい細胞の直径以上であることが好ましい。このようにすることで、微細孔より直径の小さい細胞を微細孔に確実に固定することが可能となり、その後、微細孔より直径の大きい細胞を導入することで、2細胞一対での接触および細胞融合を効率的に行うことが可能となる。しかしながら、本質的には第1の細胞の直径が第2の細胞の直径と等しいか大きくてもよい。
【0043】
また、本発明の細胞融合方法は、第1の細胞と第2の細胞が微細孔表面の近傍で細胞融合することが好ましいが、本質的には微細孔の中で第1の細胞と第2の細胞を細胞融合してもよく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能である。
【0044】
また後述するように、微細孔に固定した第1の細胞と第2の細胞の接触確率を上げるため、第2の細胞の数を第1の細胞の数より多くし細胞融合領域に過剰に導入した場合でも、図10に示すように、電界強度は微細孔近傍で最も高く、微細孔から離れるに従って弱くなっていくため、直流パルス電圧を適切に調整することで、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみの細胞膜が可逆的乱れを生じ細胞融合する。従って、微細孔近傍で接触した第1の細胞と第2の細胞のみを選択的に細胞融合させることが可能となる。
【0045】
本発明の細胞融合装置は、1つの微細孔に1つの細胞を固定した方がより高い融合再生確率を得ることが可能となることから、前記した絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されていること、すなわち図4に示すように、複数の微細孔が絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることが好ましい。ここでアレイ状とは、微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。微細孔をアレイ状に配置することで、電極間に印加した電圧によって生じる電界がすべての微細孔にほぼ均等に生じるため、微細孔に細胞が固定される確率も各微細孔で等しくなり、1つの微細孔に1つの細胞を固定できる確率が高くなる。
【0046】
また、1つの微細孔に1つの細胞を固定するためには、アレイ状に形成した微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当となることがある。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の細胞が固定される確率が高くなり結果として細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に細胞が残されてしまい、細胞の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。従ってより具体的には、微細孔の隣合う間隔が、微細孔に固定する細胞の直径の0.5〜6倍の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する細胞の直径の1〜2倍程度であることがより好ましい。
【0047】
本発明における微細孔の形状は、円状に限定されるものではなく、三角状や四角状などの多角状であっても良い。三角状や四角状などの多角状の場合は角の部分で電気力線の集中の度合いが強められるため、誘電泳動力は円状の微細孔より強くなり細胞が微細孔に固定される確率が高くなるというメリットがある。ただし、微細孔をアレイ状に配置した場合は、前後左右の微細孔からの誘電泳動力が等しく作用する方が、1つに微細孔に1つの細胞を固定できる確率が高くなるので、微細孔の形状は点対称であることが好ましく、さらには正方形であることがより好ましい。 図5は、図4の細胞融合容器のXX’断面図を示した概略図である。上部電極(14)、スペーサー(16)、絶縁体(8)、下部電極(15)を図5のように貼り合わせる手段としては、それぞれを接着剤で貼り合わせたり、加圧した状態で過熱して融着させる方法や、スペーサーを表面粘着性のあるPDMS(poly−dimethylsiloxane)やシリコンシートのような樹脂を用いて作製することで圧着することにより貼り合わせる方法など、既知の方法を用いればよい。このようにすることで図5に示した細胞融合領域(1)を形成することができる。
【0048】
第2の細胞を入れるときは、微細孔に入った第1の細胞よりも微細孔に固定されにくくなるので、第1の細胞の数よりも第2の細胞の数を多く入れることで、第1の細胞と第2の細胞を確実に接触させることができる。ここで、第1の細胞の数が微細孔の数より多いと微細孔に固定されない細胞が存在し結果として細胞融合に関与する細胞の割合が少なくなるので、第1の細胞の数は微細孔の数と同数かそれ以下が好ましい。第2の細胞の数が第1の細胞の数より少ないと、第2の細胞と接触できない第1の細胞が存在し結果として細胞融合する2細胞1組の組み合わせが少なくなることがある。一方、第2の細胞の数があまり多すぎると、現実的に細胞を導入できなくなることがあることから、第2の細胞の数は第1の細胞数と同数〜4倍程度の数が好ましい。
【0049】
本発明の細胞融合装置に用いる交流電源は、例えば、ピーク電圧が1V〜20V程度、周波数100kHz〜3MHz程度の正弦波、矩形波、三角波、台形波等の交流電圧を出力できる交流電源であれば特に制限はなく、また直流パルス電源は、50V〜1000V、パルス幅10μsec〜50μsec程度の直流パルス電圧を出力できる直流パルス電源であれば特に制限は無い。
【0050】
本発明の細胞融合装置を用いた場合、1つの微細孔に1つの細胞を固定した方がより高い融合再生確率を得ることが可能となるが、1つの微細孔につき1つの細胞を固定するための交流電圧の波形としては、矩形波であることが好ましい。その理由として、図12〜図15に示すように、交流電圧の波形が正弦波(図12)、三角波(図13)、台形波(図14)に比べて、矩形波(図15)は瞬時に設定したピーク電圧(31)に到達するため、細胞が微細孔に速やかに動くため、細胞が重なって微細孔に入る確率が低くなり、従って、1つの微細孔につき1つの細胞を固定する確率が高くなる。また、細胞は電気的にコンデンサーと見なすことができ、矩形波のピーク電圧が変化しない間は、微細孔に入った細胞には電流が流れにくくなるため、電気力線が生じにくく、細胞の入った微細孔には誘電泳動力が発生しにくくなるため、一度微細孔に細胞が入ると、別の細胞がその微細孔に入る確率が低くなり、電気力線が生じ誘電泳動力が発生している空の微細孔に、順次、細胞が入っていくためである。
【0051】
本発明の細胞融合装置に用いる交流電圧の波形は、直流成分を有しないことが好ましい。これは、直流成分により発生した静電気力により細胞が特定の方向に偏った力を受けて移動するため誘電泳動力により細胞を微細孔に固定することが困難になること、また細胞を含有する懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じて発熱が起こり、それにより細胞が熱運動を起こすため、誘電泳動力により細胞の動きを制御することができなくなり細胞を微細孔に引き寄せることが困難となるためである。
【0052】
次に、本発明の細胞融合方法について説明する。
【0053】
本発明の細胞融合方法は、前記細胞融合装置を用いた細胞融合方法であって、前記細胞融合液導入切替え手段を用いて、前記細胞融合領域に第1の細胞が入った細胞融合液を導入し、前記交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域に第2の細胞が入った細胞融合液を導入して、前記交流電圧を印加することで前記第1の細胞に前記第2の細胞を前記微細孔の位置において接触させ、前記電源切替え機構を用いて、前記直流パルス電圧を印加して細胞融合する細胞融合方法であって、細胞融合液導入切替え手段を用いて細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する時期を、第2の細胞の導入前、細胞融合の前および細胞融合の後、の少なくとも一の時期とする細胞融合方法である。また本発明の細胞融合方法は、前記細胞融合処理液が入った細胞融合液が2以上であって、前記2以上の細胞融合処理液が入った細胞融合液が全て同じまたは一部異なるまたは全て異なる、のいずれかの細胞融合処理液が入った細胞融合液であっても良い。
【0054】
このような細胞融合方法により、細胞融合させるべきそれぞれの細胞を目的に応じた成分の溶液に懸濁した状態で順次導入し2細胞一対の細胞融合を行い、さらには、それぞれの細胞を導入する前後あるいは細胞融合の前後で、細胞融合に必要な成分を導入したり、細胞融合に不要な成分を除去するための細胞融合処理液の入った細胞融合液を導入することはじめて可能となる。またそれぞれの細胞は、交流電圧により微細孔部に固定されるため、細胞融合液の置換を行うことが可能であり、また細胞融合液の置換に伴う細胞の損失も極めて低く抑えることが、はじめて可能になる。
【0055】
本発明の発明者らが、特願2006−160744として出願した細胞融合方法は、以下の(1)のプロセスである。また、本発明を実施する際の、具体的な細胞融合液や細胞融合液の導入および融合電圧印加の順序については、例えば以下の(2)から(8)のプロセスが挙げられる。本発明では、(2)〜(8)のプロセスの例にのみ限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでも無い。また、第1の細胞融合液と第2の細胞融合液の成分は同じ成分であってもよいし異なる成分であってもよい。
【0056】
プロセス(1):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、融合電圧を印加して細胞融合する。
【0057】
プロセス(2):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換し、融合電圧を印加して細胞融合する。
【0058】
プロセス(3):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換してから、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、融合電圧を印加して細胞融合する。
【0059】
プロセス(4):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換し、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、再び特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換し、融合電圧を印加して細胞融合する。
【0060】
プロセス(5):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させて融合電圧を印加し細胞融合した後、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換する。
【0061】
プロセス(6):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換し、融合電圧を印加して細胞融合し、その後、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換する。
【0062】
プロセス(7):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換してから、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、融合電圧を印加し細胞融合し、その後、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換する。
【0063】
プロセス(8):第1の細胞融合液に懸濁した第1の細胞を細胞融合領域に導入し、特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換してから、続いて第2の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、微細孔にて2細胞一対で接触させた後、再び特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換してから、融合電圧を印加し細胞融合し、再び特定の成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を細胞融合領域に導入することで細胞融合液を置換する。
【0064】
上記プロセス(1)は既に説明したように、本発明の発明者らが、特願2006−160744で既に出願した細胞融合方法の最も基本的なプロセスであるあり、2細胞一対での細胞融合をより効率的により確実に実施できる標準の形態である。
【0065】
上記プロセス(2)〜(8)は、プロセス(1)に任意に細胞融合領域の細胞融合液の置換工程を加えたものである。具体的には、プロセス(2)は2種類の細胞を導入後に、プロセス(3)は第1の細胞を導入後に、プロセス(4)は第1の細胞の導入後および第2の細胞の導入後に、それぞれ細胞融合液の置換工程を加えたものである。さらに、プロセス(5)はプロセス(1)の融合電圧印加後に、プロセス(6)はプロセス(2)の融合電圧印加後に、プロセス(7)はプロセス(3)の融合電圧印加後に、プロセス(8)はプロセス(4)の融合電圧印加後に、細胞融合液の置換工程をそれぞれ加えたものである。ここで、細胞融合液の置換回数は目的に応じて何回でも繰り返すことができ、複数回置換を繰り返す場合は、その都度異なる成分を含む細胞融合処理液の入った細胞融合液を用いることも可能である。また、特定の細胞融合液で置換を行う際には、細胞を交流電圧により微細孔部に固定しておくことが望ましいが、交流電圧を印加しない状態でも細胞融合液の送液をゆっくりと行うことで、微細孔から細胞を脱離させずに、細胞融合領域の細胞融合液の置換が可能である。
【0066】
また、上記のような細胞融合液の置換を行う事で、本発明の細胞融合方法は、細胞融合処理液が入った細胞融合液により、細胞融合領域の細胞融合液中の特定の成分を除去してもよい。
【0067】
また、本発明の細胞融合方法は、細胞融合処理液が入った細胞融合液を特定の成分を含ませた細胞融合液とし、細胞融合液を置換することで、細胞融合領域の細胞融合液中に前記特定の成分を導入してもよい。ここで、前記特定の成分は、例えば細胞表面を改質するシアル酸分解酵素またはプロテアーゼのような酵素であってもよく、細胞膜修復作用があるカルシウムイオン等であってもよいし、細胞融合を行う細胞の種類に応じて、融合再生確率を高める添加剤であってもよい。
【0068】
一般に、融合再生確率を高める添加剤としては、カルシウム塩やマグネシウム塩などの無機塩、アミノ酸、ウシ血清アルブミン(BSA)、糖、フィコール、カルモジュリン、セリシン、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、サイトカイン、その他のタンパク質、リポポリサッカライド、ポリエチレングリコール、コレステロール、カテキン、血清、ホルモン、動物細胞培養用培地由来の成分などがある。これらの成分をどのような組み合わせで、どのような濃度で用いても上記の本発明プロセスが適用可能である。
【0069】
以下に本発明の細胞融合方法を適用した例とその効果についてさらに詳細に説明する。
【0070】
第1の例として、従来の電気的細胞融合法では2種類の細胞を同一の成分の溶液の中で混合状態で細胞融合を行うため、融合再生確率を高めるのに効果的なCa濃度のコントロールは困難であった(例えば、上記した非特許文献1参照)。つまり、Ca濃度を高めた場合、Caの細胞膜修復作用により融合再生確率を向上させる効果はあるが、細胞融合前に細胞同士が凝集を起こし、細胞融合に関与できない細胞が増大するため、結果として融合再生確率が低下するという課題があった。
【0071】
これに対し本発明の細胞融合方法においては、上記したプロセス(1)またはプロセス(5)またはプロセス(6)を適用することで、細胞融合させるそれぞれの細胞を別々の成分の細胞融合液に懸濁して、個々に細胞融合領域に導入できるため、このような課題を克服することがはじめて可能となる。
【0072】
以下に第1の例においてプロセス(1)を適用した具体例を示す。プロセス(1)においては、最初に細胞融合領域に導入する第1の細胞は、低いCa濃度の細胞融合液に細胞を懸濁したものを用いることで細胞の凝集を防ぎ、交流電圧を印加することで1つの微細孔に1つの細胞を固定することができる。次に、細胞融合領域に導入する第2の細胞は、融合電圧印加時の電圧降下を生じない範囲で高いCa濃度の成分の細胞融合液に懸濁する。この高いCa濃度の成分の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、交流電圧を印加して第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させ、融合電圧を印加して細胞融合する。このように、第2の細胞を懸濁した細胞融合液のみ高いCa濃度の成分の細胞融合液を用いることで、第1の細胞の凝集を防止し、かつ細胞融合後の細胞膜修復効果が高まり、融合再生確率を高めることができる。なお、微細孔に固定した第1の細胞に対して2細胞一対を効率よく形成させるため、第2の細胞は過剰に用いることができ、第2の細胞自体の凝集は問題とはならない。
【0073】
次に、第1の例においてプロセス(5)を適用した具体例を示す。プロセス(5)においては、最初に細胞融合領域に導入する第1の細胞は、低いCa濃度の細胞融合液に細胞を懸濁したものを用いることで細胞の凝集を防ぎ、交流電圧を印加することで1つの微細孔に1つの細胞を固定することができる。次に、細胞融合領域に導入する第2の細胞は、融合電圧印加時の電圧降下を生じない範囲で高いCa濃度の成分の細胞融合液に懸濁する。この高いCa濃度の成分の細胞融合液に懸濁した第2の細胞を細胞融合領域に導入し、交流電圧を印加して第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させ、融合電圧を印加して細胞融合する。さらに細胞融合後、融合細胞を培養するための培地を細胞融合領域に速やかに導入し、細胞融合領域の細胞融合液を培地に置換する。このように、第2の細胞を懸濁した細胞融合液のみ高いCa濃度の成分の細胞融合液を用いることで、第1の細胞の凝集を防止し、かつ細胞融合後の細胞膜修復効果が高まり、融合再生確率を高めることができる。また、細胞融合後、細胞融合領域の細胞融合液を、融合細胞を培養するための培地に速やかに置換することにより、融合細胞の活性の低下を防止でき、融合再生確率をさらに高めることができる。
【0074】
また、以下に第1の例においてプロセス(6)を適用した具体例を示す。この例では、高いCa濃度の成分の細胞融合液に第2の細胞を懸濁したときに著しく凝集が生じるときに、その凝集を防ぐことが可能となる。プロセス(6)においては、最初に細胞融合領域に導入する第1の細胞は、低いCa濃度の細胞融合液に細胞を懸濁したものを用いることで細胞の凝集を防ぎ、交流電圧を印加することで1つの微細孔に1つの細胞を固定することができる。次に、細胞融合領域に導入する第2の細胞は、同様に低いCa濃度の成分の細胞融合液に懸濁し、第2の細胞を細胞融合領域に導入し、交流電圧を印加して第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させる。その後、融合電圧を印加する前に、細胞融合領域に高いCa濃度の細胞融合液を導入し細胞融合液の置換を行う。次に融合電圧を印加して細胞融合を行う。最後に、融合細胞を培養するための培地を細胞融合領域に速やかに導入し、細胞融合領域の細胞融合液を培地に置換する。このように、第1の細胞と第2の細胞は低いCa濃度の細胞融合液に懸濁することで細胞の凝集を防止することが可能となり、第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させた後、高いCa濃度の成分の細胞融合液を導入し細胞融合液を置換することで、細胞融合後の細胞膜修復効果が高まり、融合再生確率を高めることができる。また、細胞融合後、細胞融合領域の細胞融合液を、融合細胞を培養するための培地に速やかに置換することにより、融合細胞の活性の低下を防止でき、融合再生確率をさらに高めることができる。
【0075】
第2の例として、細胞融合前にシアル酸分解酵素で細胞を処理することで細胞膜上のシアル酸を分解し、細胞を正の電荷に帯電させることによって細胞融合させる細胞同士の密着度を高め、融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら一般に、従来の電気的細胞融合法では細胞融合領域に細胞を導入する前にシアル酸分解酵素で酵素処理を行う必要があり、酵素処理を行っている間に細胞が死滅したり、細胞の活性が低下したり、細胞の損失が生じるほか、シアル酸分解処理を行った細胞同士が凝集することで、細胞融合に寄与する細胞数が減少し、結果として融合再生確率が低下するという課題があった。しかし本発明の細胞融合方法では、細胞融合液の置換が逐次可能であることから、前述したプロセス(3)またはプロセス(4)を適用する事で、細胞融合領域内で細胞融合前に細胞のシアル酸分解処理を簡便に行い、そのまま続けて細胞融合を行うことが可能である。
【0076】
以下に第2の例においてプロセス(3)を適用した具体例を示す。プロセス(3)においては、まず第1の細胞を通常の電気的細胞融合法の細胞融合液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSA(牛血清アルブミン)を添加した細胞融合液)に懸濁して導入し、交流電圧を用いて第1の細胞を微細孔に固定した後、交流電圧を印加した状態でシアル酸分解酵素を含む通常の電気的細胞融合用の細胞融合液で置換を行い、第1の細胞のシアル酸分解処理を行うことができる。この場合、第1の細胞は微細孔に固定されているため、シアル酸分解酵素での処理中には細胞凝集は起きず、従ってシアル酸分解処理による細胞融合前の細胞の損失を極力避けることができる。次に第2の細胞を細胞融合領域に導入する。この場合も第2の細胞を懸濁する細胞融合液として、シアル酸分解酵素を含む通常の電気的細胞融合用の細胞融合液を用いることで、細胞融合領域での第2の細胞のシアル酸分解酵素処理を行うことが可能である。次に交流電圧により第2の細胞を第1の細胞に微細孔にて接触させた後、融合電圧を印加することで、速やかに2細胞の細胞融合を行うことが可能である。
【0077】
また以下に第2の例においてプロセス(4)を適用した具体例を示す。プロセス(4)においては、まず第1の細胞を通常の電気的細胞融合法の細胞融合液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁して導入し、交流電圧を用いて第1の細胞を微細孔に固定した後、シアル酸分解酵素を含む無血清培地を導入してシアル酸分解処理を行う。この場合、第1の細胞は微細孔に固定されているため、シアル酸分解酵素での処理中には細胞凝集は起きず、従ってシアル酸分解処理による細胞融合前の細胞の損失を極力避けることができる。次に第2の細胞を細胞融合領域に導入する。この場合も第2の細胞を懸濁する細胞融合液として、シアル酸分解酵素を含む無血清培地を用いることで、細胞融合領域での第2の細胞のシアル酸分解酵素処理を行うことが可能である。しかしながら、本具体例で用いた無血清培地は、通常の電気的細胞融合用の細胞融合液よりも細胞の活性を維持するためには有利であるが、培地に含まれている塩分などの成分の影響で、融合電圧印加時の電圧降下が顕著になり、融合再生確率が低下してしまう。そこで、交流電圧により第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させた後、融合電圧印加前に通常の電気的細胞融合用の細胞融合液を2〜3回、細胞融合領域に導入し細胞融合液の置換をしてから融合電圧を印加し細胞融合を行うことができる。このようにする事で、培地に含まれていた塩分などの成分を除去し、融合電圧印加時の電圧降下を防ぎ、かつ細胞の活性を維持することが可能となり、融合再生確率の高い細胞融合を行うことが可能となる。
【0078】
第3の例として、細胞融合前にプロテアーゼなどの酵素で細胞を処理することで細胞膜上のタンパクを分解し、融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、上記した非特許文献3参照)。しかしながら一般に、従来の電気的細胞融合法では細胞融合領域に細胞を導入する前にプロテアーゼを用いて酵素処理を行う必要があり、酵素処理を行っている間に細胞が死滅したり、細胞の活性が低下したり、あるいは、細胞の容器への付着が発生したり細胞同士の凝集が生じることで細胞が損失し、結果として融合再生確率が低下するという問題があった。しかし本発明の細胞融合方法では、前述したプロセス(8)を適用する事で、細胞融合領域で細胞融合前に細胞のプロテアーゼ処理を簡便に行い、そのまま続けて細胞融合を行い、さらにプロテアーゼを除去することが可能である。
【0079】
以下に第3の例においてプロセス(8)を適用した具体例を示す。プロセス(8)においては、まず第1の細胞を通常の電気的細胞融合用の細胞融合液に懸濁して細胞融合領域に導入し、交流電圧を用いて微細孔に第1の細胞を固定した後、交流電圧を印加した状態でプロテアーゼを含む通常の電気的細胞融合用の細胞融合液で細胞融合液の置換を行い、第1の細胞のプロテアーゼ処理を行うことができる。この場合、第1の細胞は微細孔に固定されているので、プロテアーゼ処理中に細胞同士の凝集は起きることがなく、細胞融合前の細胞の損失を避けることができる。次に交流電圧を印加した状態で第2の細胞を通常の電気的細胞融合用の細胞融合液に懸濁して細胞融合領域に導入する。次に、交流電圧により第2の細胞を第1の細胞に接触させた後、交流電圧を印加した状態でプロテアーゼを含む通常の電気的細胞融合用の細胞融合液で細胞融合液の置換を行い、第2の細胞のプロテアーゼ処理を行うことができる。しかしながら、プロテアーゼは細胞毒性があるため、従来の電気的細胞融合法では融合前または融合後に煩雑な細胞洗浄操作を繰り返すことで除去する必要があったが、本発明の細胞融合方法では細胞融合領域の細胞融合液を置換することで、プロテアーゼの除去が簡便に行える。すなわち、第1の細胞と第2の細胞のプロテアーゼ処理を行った後、融合電圧の印加前に、通常の電気的細胞融合用の細胞融合液を2〜3回、細胞融合領域に導入し細胞融合液の置換を行うことで、プロテアーゼを除去することができ、その後、融合電圧を印加し2細胞の融合を行う。このようにする事で、細胞融合時に細胞毒性を有するプロテアーゼが融合細胞内に入る事を防止することができ、融合細胞の活性を維持することができる。またさらに、細胞融合後、細胞融合領域の細胞融合液を、融合細胞を培養するための培地に速やかに置換することにより、融合細胞の活性の低下を防止でき、融合細胞をそのまま培地に移して増殖させることができるので、融合再生確率をさらに高めることができる。
【0080】
第4の例として、2種の細胞の細胞融合において、細胞を浸透圧より低張の糖溶液に懸濁して融合電圧を印加することで、従来よりも融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、非特許文献4参照)。この場合従来の電気的細胞融合法では、低張の糖溶液で細胞を処理する時間が長く、また融合後もしばらく低張の糖溶液中で細胞を放置しなければならないために、細胞融合時あるいは細胞融合後に細胞が破裂して死滅する細胞が多くなり、結果として融合再生確率が低下してしまうという問題点があった。しかし本発明の細胞融合方法では、前述したプロセス(6)またはプロセス(7)を適用することで、細胞融合領域の細胞融合液の置換が逐次可能であるため、細胞融合の直前に極めて短時間で細胞の低張液処理を行い、細胞の損失を防ぐことが可能である。
【0081】
以下に第4の例においてプロセス(6)を適用した具体例を示す。プロセス(6)においては、第1の細胞を細胞と等張の糖溶液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁した状態で細胞融合領域に導入し、交流電圧により微細孔に第1の細胞を固定した後、第2の細胞を細胞と等張の糖溶液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁した状態で細胞融合領域に導入し、交流電圧により第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させた後、低張の糖溶液(例えば、200mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)を数回導入して細胞融合液の置換を行い、その後、融合電圧を印加することで、細胞を融合前に低張液処理する効果を得られる。この場合、従来の電気的細胞融合法のように、はじめから細胞を低張の糖溶液に浸しておく必要がないため、浸透圧低下による細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能である。さらに、融合電圧印加直後に、再び細胞融合領域を等張の糖溶液で置換することで、融合後の静置処理中の融合細胞の破裂による損失を極力防ぐことができる。なお、置換を行う溶液の糖濃度は、融合すべき細胞の種類に適した任意の組成を用いることができることはいうまでもない。
【0082】
また、以下に第4の例においてプロセス(7)を適用した具体例を示す。プロセス(7)においては、第1の細胞を細胞と等張の糖溶液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁した状態で細胞融合領域に導入し、交流電圧により微細孔に第1の細胞を固定する。次に低張の糖溶液(例えば、200mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)を数回導入して細胞融合液の置換を行う。次に、第2の細胞を細胞と等張の糖溶液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁した状態で細胞融合領域に導入し、交流電圧により第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させた後、融合電圧を印加する。このように、第1の細胞導入後に低張の糖溶液で置換する事で、第1の細胞のみ低張の糖溶液で処理することが可能である。この場合、半径の小さい第1の細胞の大きさを第2の細胞と融合しやすい大きさに調整する事で、融合再生確率を高めることが可能となる。さらに、融合電圧印加直後に、再び細胞融合領域を等張の糖溶液で置換することで、融合後の静置処理中の融合細胞の破裂による損失を極力防ぐことができる。なお、置換を行う溶液の糖濃度は、融合すべき細胞の種類に適した任意の組成を用いることができることはいうまでもない。
【0083】
第5の例として、2種の細胞の細胞融合において、細胞融合液中にポリエチレングリコールなどの融合促進作用のある添加剤を添加して融合電圧を印加することで、従来よりも融合再生確率を向上させた事例が報告されている(例えば、特許文献2、非特許文献5参照)。この場合、従来の電気的細胞融合法では、加えた添加剤がポリエチレングリコールなどの細胞にとって有害な成分であれば、細胞融合処理中に細胞の死滅が起きる他、融合後にはこれらの成分を除くための煩雑な細胞洗浄操作が必要であり、このため細胞の死滅、細胞の活性の低下、細胞の損失が生じ、結果として融合再生確率が低下するという課題があった。しかし本発明の細胞融合方法では細胞融合液の導入が逐次に可能であるため、前述したプロセス(2)またはプロセス(6)を適用する事で、これら添加剤を含む細胞融合液が細胞に与えるダメージを最小限に抑え、また、速やかにこれらの成分を細胞融合の前後に除去することが可能である。
【0084】
以下に第5の例においてプロセス(2)を適用した具体例を示す。プロセス(2)においては、まず第1の細胞を通常の電気的細胞融合法の細胞融合液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁して導入し、交流電圧を用いて第1の細胞を微細孔に固定する。次に、第2の細胞を通常の電気的細胞融合法の細胞融合液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁して導入し、交流電圧を用いて第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させる。その後、融合促進作用のある添加剤(例えばポリエチレングリコール)を含む通常の電気的細胞融合法の細胞融合液を数回導入して細胞融合液の置換を行い、融合電圧を印加することで、融合促進作用のある添加剤を添加して細胞融合する事ができる。この場合、添加剤が細胞にとって有害である場合でも、融合直前に短時間でこれらの成分を細胞に作用させることができるため、細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能である。
【0085】
以下に第5の例においてプロセス(6)を適用した具体例を示す。プロセス(6)においては、まず第1の細胞を通常の電気的細胞融合法の細胞融合液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁して導入し、交流電圧を用いて第1の細胞を微細孔に固定する。次に、第2の細胞を通常の電気的細胞融合法の細胞融合液(例えば、300mMのマンニトール水溶液に0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)に懸濁して導入し、交流電圧を用いて第1の細胞と第2の細胞を微細孔にて接触させる。その後、融合促進作用のある添加剤(例えばポリエチレングリコール)を含む通常の電気的細胞融合法の細胞融合液を数回導入して細胞融合液の置換を行い、融合電圧を印加することで、融合促進作用のある添加剤を添加して細胞融合する事ができる。この場合、添加剤が細胞にとって有害である場合でも、融合直前に短時間でこれらの成分を細胞に作用させることができるため、細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能である。さらに、融合電圧の印加後に、通常の電気的細胞融合用の細胞融合液を2〜3回、細胞融合領域に導入し細胞融合液の置換を行うことで、添加剤の成分を速やかに除去し、融合細胞をそのまま培地に移して増殖させることが可能である。このようにする事で、従来の電気的細胞融合法では細胞毒性のある物質を添加剤として用いた場合、細胞融合後に煩雑な細胞洗浄操作を繰り返すことでこれらを除く必要があったが、本発明の細胞融合方法では、細胞融合領域の細胞融合液を置換することで、これらの成分の除去を簡便に行うことが可能となる。
【0086】
また本発明の細胞融合方法では、特定の成分を含ませた組成の異なる複数の細胞処理液の入った細胞融合液を、第2の細胞の導入前、融合電圧の印加による細胞融合の前および細胞融合の後、の少なくとも一つの時期に、望む回数だけ置換可能であることから、例えば、前述した説明にあるように、第1から第5の例による効果を任意に組み合わせることも可能である。以下に、互いに異なる効果を有する細胞処理を組み合わせてプロセス(2)を適用した具体例を示す。この例では、第1の細胞と第2の細胞をプロテアーゼ処理した後に、細胞を浸透圧より低張の糖溶液に懸濁して融合電圧を印加することで、第3の例および第4の例に示した効果を組み合わせ、融合再生確率をより効果的に高めることが可能である。
【0087】
プロセス(2)に複数の細胞処理効果を適用した具体例:まず第1の細胞を通常の電気的細胞融合用の細胞融合液に懸濁して細胞融合領域に導入し、交流電圧を用いて微細孔に第1の細胞を固定した後、交流電圧を印加した状態で第2の細胞を通常の電気的細胞融合用の細胞融合液に懸濁して細胞融合領域に導入する。次に、交流電圧により第2の細胞を第1の細胞に接触させた後、プロテアーゼを含む通常の電気的細胞融合用の細胞融合液で細胞融合液の置換を行い、第1の細胞と第2の細胞のプロテアーゼ処理を同時に行うことができる。この場合、第1の細胞は微細孔に固定されているので、プロテアーゼ処理中に細胞同士の凝集は起きることがなく、細胞融合前の細胞の損失を避けることができる。また、微細孔に固定した第1の細胞に対して2細胞一対を効率よく形成させるため、第2の細胞は過剰に用いることができ、第2の細胞自体の凝集は問題とはならない。次に、通常の電気的細胞融合用の細胞融合液を2〜3回、細胞融合領域に導入し細胞融合液の置換を行うことで、細胞毒性をもつプロテアーゼを除去することができ、融合細胞の活性を維持することができる。またさらに続いて、低張の糖溶液(例えば、200mMのマンニトール水溶液に、0.1mMのCaCl2、0.2mMのMgCl2、1mg/mLのBSAを添加した細胞融合液)を数回導入して細胞融合液の置換を行い、その後、融合電圧を印加することで、細胞を融合前に低張液処理する効果を得られる。この場合、従来の電気的細胞融合法のように、はじめから細胞を低張の糖溶液に浸しておく必要がないため、浸透圧低下による細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能である。
【0088】
このように、本発明の細胞融合方法では、細胞融合領域の細胞融合液を、異なる組成の細胞融合液を用いて任意の順序で望む回数だけ置換可能であることから、融合再生確率を高めるような複数の細胞処理を短時間で同時に実施することが可能となる。この場合、3つ以上の細胞処理工程を組み合わせることも当然可能であり、先に示したプロセス(2)から(8)のいずれにおいても複数の細胞処理が適用可能である。
【発明の効果】
【0089】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の細胞オ融合装置によれば、微細孔にて2細胞一対での細胞融合を確実に行うことができるうえ、2種類の細胞の入った細胞融合液以外に、細胞融合処理液の入った細胞融合液を少なくとも1種類以上、導入することが可能となり、細胞を細胞融合領域にいれ、微細孔に固定したままの状態、細胞融合領域内の細胞融合液の成分を変え、より高い融合再生確率を得られる細胞融合条件に変更する事が可能となる。
(2)本発明の細胞融合方法によれば、細胞融合の工程の任意のタイミングで、細胞融合液の成分を変更することが可能となり、より高い融合再生確率を得られる細胞融合条件に変更する事が可能となる。
(3)本発明の細胞融合方法によれば、融合再生確率を高める効果はあるものの、長時間細胞に接していると、細胞が死滅したり、細胞の活性が落ちたり、細胞が凝集したりするような成分を簡便かつ迅速に除去することが可能となり、細胞の損失を防止し、より高い融合再生確率を得ることができる。
(4)本発明の細胞融合方法によれば、細胞融合の工程の任意のタイミングで、融合再生確率を高める効果のある成分を簡便かつ迅速に導入することが可能となり、より高い融合再生確率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明における基本的な細胞融合方法の概念を示す第1の図である。
【図2】本発明における基本的な細胞融合方法の概念を示す第2の図である。
【図3】本発明における基本的な細胞融合方法の概念を示す第3の図である。
【図4】本発明における細胞融合装置の概念図及び、実施例1に用いた細胞融合装置の概念図である。
【図5】図4に示したXX’断面図である。
【図6】微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する2つの細胞の直径より大きい場合を示す概念図である。
【図7】微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、微細孔に固定する2つの細胞の直径より小さい場合を示す概念図である。
【図8】微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が第1の細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径より大きい場合を示す概念図である。
【図9】微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が第1の細胞より1〜2倍程度大きくかつ微細孔の深さが微細孔に固定した第1の細胞の直径の以下である場合を示す概念図である。
【図10】微細孔近傍の電界強度を示した図であり、横軸(X軸)は電極面からの距離(単位は任意)を示し、縦軸(Y軸)は電界強度(単位は任意)を示す。
【図11】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法の概略図である。
【図12】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、正弦波の代表的な波形を示した図であり、横軸(X軸)は時間を示し、縦軸(Y軸)は電圧を示す。
【図13】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、三角波の代表的な波形を示した図であり、横軸(X軸)は時間を示し、縦軸(Y軸)は電圧を示す。
【図14】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、台形波の代表的な波形を示した図であり、横軸(X軸)は時間を示し、縦軸(Y軸)は電圧を示す。
【図15】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波の代表的な波形を示した図であり、横軸(X軸)は時間を示し、縦軸(Y軸)は電圧を示す。
【実施例】
【0091】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【0092】
(実施例1)
図4に実施例1に用いた細胞融合装置の概念図を示す。細胞融合装置は大きく分けて、細胞融合容器(13)と電源(4)から構成される。細胞融合容器は、図4に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお後述するように、微細孔は、下部電極(15)上に配置した絶縁膜に一般的なフォトリソグラフィーとエッチングにより形成した。
【0093】
上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また図4に示すように、スペーサーには、細胞融合容器に細胞を導入、排出するため、細胞を導入する導入流路(29)及びそれに連通する導入口(19)と、細胞を排出する排出流路(30)及びそれに連通する排出口(20)を設けた。さらに図4に示すように、導入口には、細胞融合液導入流路(2)を介して容量1mLのシリンジA(34)、容量1mLのシリンジB(35)、容量10mLのシリンジC(36)を、細胞融合液導入切替え手段としてのバルブ(21)をそれぞれ介して接続した。
【0094】
また、複数の微細孔を有する絶縁体(8)は、図11に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで作製した。
【0095】
まずはじめにITO(23)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(24)のITO成膜面にレジスト(25)を2.5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、45分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(80℃、15分)を行った。レジストにはキシレン系のネガタイプレジストを用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ7μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(33)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい2.5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(115℃、30分)を行いレジストを固めた。
【0096】
このようにして作製した上部電極(14)、スペーサー(16)、微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を図5のように積層し圧着した。図5は、図4に示した細胞融合容器のAA’断面図である。スペーサーであるシリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、細胞を含有した細胞融合液を漏れなく細胞融合容器の中に入れることができた。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。
【0097】
電極間に電圧を印加する電源は、交流電源(5)として信号発生器(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)、直流パルス電源(6)として細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を導電線(3)を介して接続し、交流電源と直流パルス電源は電源切替え機構(7)により電極への接続を切替えられるようにした。
【0098】
前述した細胞融合装置を用いて、マウスの脾臓細胞(直径約6μm)とマウスのミエローマ細胞(直径約10μm)を用いて細胞融合を行った。ミエローマ細胞は細胞融合する前にシアル酸分解酵素で処理したものを用い、マウスの脾臓細胞は、細胞融合領域に導入し微細孔に固定した後、細胞融合領域でシアル酸分解酵素処理した後、細胞融合し融合再生確率を確認した。
【0099】
まず、マウスから脾臓細胞を取り出した。密閉瓶中にキムタオルを入れ、セボフルラン(丸石製薬製)を用いてマウスを安楽死させた。70%消毒用エタノールをマウスに十分散布した後、クリーンベンチ内の解剖台に注射針で固定した。次にピンセットで外皮を摘み上げ解剖用ハサミで切り込みを入れ、まず外皮を切り取った。次に新しい別のハサミを用いて内皮を切り開き、脾臓を露出させ、ピンセットを用いて脾臓を体外に引き出しながら、ハサミで脾臓をマウスの体から切断した。50mL遠心チューブに10mLの10%FBS(ウシ血清)を含む動物細胞培養用の培地(以下、培地Aと称する)を入れておき、その中に脾臓を移して揺り動かし、表面を洗った。次に脾臓をφ9cmスミロン製シャーレの蓋の上に移し、2本のピンセットを用いて、摘出した脾臓の周りに付着した脂肪を除いた。φ9cmスミロン製シャーレ中に10mLの培地Aを入れ、40mLメッシュのセルストレーナ(Falcon製)中で脾臓を4〜5の小片になるように新しいハサミで切断し、5mLテルモシリンジの尾部の平坦部を用いて脾臓を十分すり潰した。セルストレーナとテルモシリンジの尾部に付着した脾臓細胞は培地Aで洗い流した。シャーレ中の脾臓細胞の入った懸濁液は50mL遠心チューブに移し、シャーレを培地Aで2回洗浄し、洗浄液も遠心チューブ内で混合した。脾臓細胞の入った懸濁液を1500rpm、室温で5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、脾臓細胞のペレットを解きほぐした。次に1mLのFBS中に解きほぐした脾臓細胞を懸濁した後、赤血球破砕液(SIGMA製)を9mL加えてよく混合し、室温で3分間静置し、赤血球の破砕を行った。再び脾臓細胞の入った懸濁液を1500rpm、室温で5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、細胞ペレットを解きほぐした後、20mLの培地Aに懸濁した(この状態の懸濁液を以下、脾臓細胞抽出液と称する)。セルストレーナを用いて、50mL遠心チューブ中に脾臓細胞抽出液を入れろ過し、この脾臓細胞が入った懸濁液の内、10mLを1500rpm、室温で5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、脾臓細胞のペレットを解きほぐした。すぐに10mLの無血清動物細胞培養用の培地(以下、培地Bと称する)に解きほぐした脾臓細胞を懸濁させた後、1500rpm、室温で5分間遠心分離し、上清をアスピレータで吸引した後、脾臓細胞のペレットを解きほぐし、培地Bで脾臓細胞を洗浄した。
【0100】
次に300mMのマンニトール、0.1mMのCaCl2、0.1mMのMgCl2、0.1mg/mLのBSAの入った20mLの細胞融合液(以下、細胞融合液Aと称する)に脾臓細胞を懸濁させた後、1500rpm、室温で5分間遠心分離し、上清をアスピレータで吸引した後、脾臓細胞のペレットを解きほぐし、細胞融合液Aで脾臓細胞を洗浄した。再び少量の細胞融合液Aに脾臓細胞を懸濁し、セルストレーナを用いて50mLファルコンチューブ内にろ過を行い、細胞融合液Aで希釈して、脾臓細胞の最終濃度を0.9×106個/mLに調整した脾臓細胞の入った細胞融合液を準備した。なお、300mMのマンニトールを主成分とする細胞融合液は、細胞の浸透圧とほぼ等張である。
【0101】
また、ミエローマ細胞は常に1×106個/mL以下の濃度になるように、φ15cm浮遊培養用シャーレ中培地Aに懸濁し、37℃、5%のCO2インキュベーター内で継代したものを用いた。細胞融合の前日、ミエローマ細胞の濃度が2.0×105個/mLとなるように培地Aにミエローマ細胞を懸濁し、φ15cm浮遊培養用シャーレ中、培地Aの液量40mLをミエローマ培養液とし、3枚培養を行った。ミエローマ培養液をシャーレから遠心チューブに移し、1000rpmで5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、ミエローマの細胞ペレットを解きほぐした。すぐに40mLの培地Bを各チューブに分散するように加えてミエローマ細胞を懸濁させ、1本のチューブにまとめた後、再び1000rpm、室温で5分間遠心分離し、上清をアスピレータで吸引してミエローマ細胞のペレットを解きほぐした。0.2U/mLのシアル酸分解酵素(Sigma製)を含む10mLの培地Bにミエローマ細胞を再懸濁し、37℃で1時間処理した。次に1000pmで5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、ミエローマ細胞のペレットを解きほぐした。すぐに50mLの培地Bを各チューブに分散するように加えてミエローマ細胞を懸濁させ、1本のチューブにまとめた後、再び1000rpm、室温で5分間遠心分離し、上清をアスピレータで吸引してミエローマ細胞のペレットを解きほぐした。20mLの培地Bにミエローマ細胞を再懸濁し、1000rpm、室温で5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、ミエローマ細胞のペレットを解きほぐした。
【0102】
次に、40mLの細胞融合液Aにミエローマ細胞を再懸濁し、1000rpm、室温で5分間遠心分離し、上清をアスピレータで吸引し、ミエローマ細胞のペレットを解きほぐした。再び少量の細胞融合液Aにミエローマ細胞を懸濁し、セルストレーナを用いて50mLファルコンチューブ内にろ過を行い、細胞融合液Aで希釈して、最終濃度を3.7×106個/mLに調整したシアル酸分解酵素で処理したミエローマ細胞の入った細胞融合液を準備した。
【0103】
上記、脾臓細胞の入った細胞融合液を細胞融合装置のシリンジAに入れ、シアル酸分解酵素で処理したミエローマ細胞の入った細胞融合液をシリンジBに入れ、0.2U/mLのシアル酸分解酵素を含む動物細胞培養培地をシリンジCに入れ、細胞融合溶液AをシリンジDに入れた。
【0104】
まずはじめに、上記脾臓細胞の入った細胞融合液を600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約40万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約40万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、シリンジCを用いて、0.2U/mLのシアル酸分解酵素を含む動物細胞培養培地600μLを3回に分けて細胞融合領域に導入し、交流電源を切断して電圧を印加せずに室温で45分間静置した。これにより、細胞融合領域内で脾臓細胞をシアル酸分解酵素で処理することができた。
【0105】
次に、シリンジDを用いて細胞融合液Aを細胞融合領域に2〜3回導入し、細胞融合領域に入っていたシアル酸分解酵素を含む動物細胞培養培地を細胞融合液Aで置換した。
【0106】
次に、上記シアル酸分解酵素で処理したミエローマ細胞の入った細胞融合液を600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約200万個)をシリンジBを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4〜5倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0107】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地(H:ヒポキサンチン(hypoxanthine)、A:アミノプテリン(aminopterine)、T:チミジン(thymidine)を成分とする培地)に入れ、融合細胞の培養を行った。なお、HAT培地は、融合細胞のみを選択的に増殖させる培地である(以上を融合方法Aと称する)。
【0108】
次に同じ仕様の別の細胞融合容器を用い、別の融合プロセスにて細胞融合を行った。上記脾臓細胞の入った細胞融合液を600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約40万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約40万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記シアル酸分解酵素で処理したミエローマ細胞の入った細胞融合液を600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約200万個)をシリンジBを用いて細胞融合領域に導入した。次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Bと称する)。
【0109】
細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、融合方法Aでは96個の融合細胞、融合方法Bでは54個の融合細胞を確認することができ、細胞融合容器に導入したマウスの脾臓細胞数約40万個に対してそれぞれ融合方法Aでは2.4/10000、融合方法Bでは1.8/10000の融合再生確率を得られた。融合方法Aの融合再生確率は、比較例1に示した通常の電気的細胞融合法における融合再生確率0.2/10000の12倍、比較例2の通常の電気的細胞融合法において細胞をシアル酸分解酵素で処理した場合の融合再生確率0.25/10000の約10倍であり、非常に高い融合再生確率を得ることができた。また、融合方法Aの融合再生確率は融合方法Bの融合再生確率に比べて1.3倍であり、融合領域内の微細孔に脾臓細胞を固定したままでシアル酸分解酵素処理を行い、そのまま溶液置換して融合することでより良好な融合再生確率を得ることができた。
【0110】
(比較例1)
比較例1として、通常の電気的細胞融合法を行った。電気的細胞融合法を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0111】
細胞は、実施例1に用いたマウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いた。脾臓細胞とミエローマ細胞を4:1で混合し、実施例1で用いた細胞融合液Aに懸濁させ、1.7×107個/mLの密度になるように細胞融合液を調整した。
【0112】
上記細胞融合液40μL(脾臓細胞数約60万個、ミエローマ細胞数約15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、ピーク電圧10V、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、12個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.2/10000の融合再生確率を得られた。
【0113】
(比較例2)
比較例2として、通常の電気的細胞融合法において、細胞をシアル酸分解酵素で処理する細胞融合を行った。電気的細胞融合法を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0114】
細胞は、実施例1に用いたマウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いた。脾臓細胞とミエローマ細胞を4:1で混合し、実施例1で用いた細胞融合液Aに懸濁させ、さらに実施例1で用いた0.2U/mLのシアル酸分解酵素を含む動物細胞培養培地を適量加え1.7×107個/mLの密度になるように細胞融合液を調整し、室温で45分間静置した。なお、45分静置後、細胞融合液中の細胞の状態を確認したところ、細胞の凝集体が数多く見られた。
【0115】
上記細胞融合液40μL(脾臓細胞数約60万個、ミエローマ細胞数約15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、ピーク電圧10V、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、15個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.25/10000の融合再生確率を得られた。
【0116】
(実施例2)
実施例1で使用した細胞融合装置を用いて、マウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いて細胞融合を行った。実施例1で用いた300mMのマンニトールを主成分とする細胞融合液A、および浸透圧より低張の200mMのマンニトール、0.1mMのCaCl2、0.1mMのMgCl2、0.1mg/mLのBSAの入った細胞融合液Bにそれぞれ懸濁させた脾臓細胞とミエローマ細胞を用い、細胞融合を行った。
【0117】
脾臓細胞は細胞融合液Aまたは細胞融合液Bに懸濁して最終濃度を0.8×106個/mLに調整した。また、ミエローマ細胞は細胞融合液Aに懸濁して最終濃度を6.7×106個/mLに調整した。
【0118】
上記、脾臓細胞の入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジA、脾臓細胞の入った細胞融合液Bを細胞融合装置のシリンジB,ミエローマ細胞の入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジC、ミエローマ細胞の入った細胞融合液Bを細胞融合装置のシリンジD、に入れた。また、細胞融合液BをシリンジEに入れた。
【0119】
まずはじめに、上記脾臓細胞の入った細胞融合液Aを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約40万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約40万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞の入った細胞融合液Aを600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約350万個)をシリンジCを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4〜5倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。次に、引き続き、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、シリンジEを用いて600μLの細胞融合液Bを2回、細胞融合領域に導入し、細胞融合領域の細胞融合液を置換した(以上を融合方法Cと称する)。
【0120】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った。
【0121】
次に同じ仕様の別の細胞融合容器を用い、別の融合プロセスにて細胞融合を行った。上記脾臓細胞の入った細胞融合液Bを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約40万個)をシリンジBを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約40万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞の入った細胞融合液Bを600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジDを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4〜5倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0122】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧80V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Dと称する)。
【0123】
細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、融合方法Cでは304個、融合方法Dでは220個の融合細胞を確認することができ、融合容器に導入したマウスの脾臓細胞数約40万個に対して融合方法Cでは7.6/10000、融合方法Dでは5.5/10000の融合再生確率を得られた。融合方法Cの融合再生確率は、比較例3の通常の電気的細胞融合法において、はじめから細胞の浸透圧よりも低張の200mMのマンニトールを主成分とした細胞融合液Bを用いて細胞融合した場合の融合再生確率0.23/10000の約33倍であり、非常に高い融合再生確率を得ることができた。また、融合方法Cの融合再生確率は融合方法Dの融合再生確率に比べて1.4倍であり、融合領域内の微細孔に脾臓細胞を固定したまま、融合直前に浸透圧より低張の糖溶液で置換して融合を行うことで、より良好な融合再生確率を得ることができた。
【0124】
(比較例3)
比較例3として、通常の電気的細胞融合法において、はじめから細胞の浸透圧よりも低張の200mMのマンニトールを主成分とした細胞融合液Bを用いて細胞融合を行った。電気的細胞融合法を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0125】
細胞は、実施例2に用いたマウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いた。脾臓細胞とミエローマ細胞を4:1で混合し、実施例2で用いた細胞融合液Bに懸濁させ1.7×107個/mLの密度になるように細胞融合液を調整した。なお、調整後、細胞融合液中の細胞の状態を確認したところ、死滅した細胞が数多く見られた。
【0126】
上記細胞融合液40μL(脾臓細胞数約60万個、ミエローマ細胞数約15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、ピーク電圧10V、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、15個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.23/10000の融合再生確率を得られた。
【0127】
(実施例3)
実施例3では実施例1で使用した細胞融合装置を用い、マウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いて細胞融合を行った。ただし細胞融合容器は、微細孔間隔を20μmピッチとし、スペーサーをくりぬいた部分の微細孔数が100万個のものを用いた。脾臓細胞はセルバンカー中−80℃で凍結していたものを37℃にて解凍し、実施例1で用いた300mMのマンニトールを主成分とする細胞融合液A、および浸透圧より高張の500mMのマンニトール、0.1mMのCaCl2、0.1mMのMgCl2、0.1mg/mLのBSAの入った細胞融合液Cにそれぞれ懸濁させたものを用意した。また、ミエローマ細胞は細胞融合液Aに懸濁させたものを用いて細胞融合を行った。
【0128】
脾臓細胞は細胞融合液Aまたは細胞融合液Bに懸濁して最終濃度を1.7×106個/mLに調整した。また、ミエローマ細胞は細胞融合液Aに懸濁して最終濃度を6.7×106個/mLに調整した。
【0129】
上記、脾臓細胞の入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジA、脾臓細胞の入った細胞融合液Bを細胞融合装置のシリンジB,ミエローマ細胞の入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジCに入れた。
【0130】
まずはじめに、上記脾臓細胞の入った細胞融合液を600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約100万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約100万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞の入った細胞融合液を600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジCを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4〜5倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0131】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Eと称する)。
【0132】
次に同じ仕様の別の細胞融合容器を用い、別の融合プロセスにて細胞融合を行った。上記脾臓細胞の入った細胞融合液Cを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約100万個)をシリンジBを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約100万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞の入った細胞融合液Aを600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジCを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4〜5倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0133】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Fと称する)。
【0134】
細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、融合方法Eでは1794個、融合方法Fでは2293個の融合細胞を確認することができ、細胞融合容器に導入したマウスの脾臓細胞数約100万個に対してそれぞれ融合方法Eでは17.9/10000、融合方法Fでは22.9/10000の融合再生確率を得られた。融合方法Fの融合再生確率は、比較例4の通常の電気的細胞融合法において、はじめから凍結解凍した脾臓細胞を浸透圧と等張の300mMのマンニトールを主成分とした細胞融合液Aを用いて細胞融合した場合の融合再生確率0.16/10000の143.1倍であり、非常に高い融合再生確率を得ることができた。また、融合方法Fの融合再生確率は融合方法Eの融合再生確率の1.3倍であり、凍結解凍した脾臓細胞を浸透圧より高張の細胞融合液Bにあらかじめ懸濁してから細胞融合領域に導入し、最終的に細胞融合液Aに懸濁したミエローマを導入することで、細胞融合領域の細胞融合液の組成を細胞と等張の糖溶液として融合を行うことで、より良好な融合再生確率を得ることができた。
【0135】
(比較例4)
比較例4として、通常の電気的細胞融合法において、凍結解凍した脾臓細胞を細胞融合液に懸濁させたものを用いて細胞融合を行った。電気的細胞融合法を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0136】
細胞は、実施例3に用いた細胞融合液Aに懸濁したマウスの脾臓細胞Aと細胞融合液Aに懸濁させたマウスのミエローマ細胞を用いた。脾臓細胞とミエローマ細胞を4:1で混合し、実施例1で用いた細胞融合液Aに懸濁させ1.7×107個/mLの密度になるように細胞融合液を調整した。なお、調整後、細胞融合液中の細胞の状態を確認したところ、死滅した細胞が数多く見られた。
【0137】
上記細胞融合液40μL(脾臓細胞数約60万個、ミエローマ細胞数約15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、ピーク電圧10V、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、10個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.16/10000の融合再生確率を得られた。
【0138】
(実施例4)
実施例3で使用した細胞融合装置を用いて、マウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いて細胞融合を行った。脾臓細胞はマウスより抽出後、実施例1に示したように脾臓細胞抽出液を培地Bで1回、細胞融合液Aで1回洗浄を行い、細胞融合液Aに懸濁させて調製したもの(以下、脾臓細胞Aと称する)と、脾臓細胞抽出液を1500rpm、室温で5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、脾臓細胞のペレットを解きほぐし、すぐに細胞融合液Aに懸濁させて調製したもの(以下、脾臓細胞Bと称する)を用意した。また、ミエローマ細胞は実施例1に示したように、培地Bで1回、細胞融合液Aで1回洗浄を行い、細胞融合液Aに懸濁させて調製したものを用いて細胞融合を行った。
【0139】
脾臓細胞A及び、脾臓細胞Bは細胞融合液Aに懸濁して最終濃度を0.8×106個/mLに調整した。また、ミエローマ細胞は細胞融合液Aに懸濁して最終濃度を6.7×106個/mLに調整した。
【0140】
上記、脾臓細胞Aの入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジA、脾臓細胞Bの入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジB,ミエローマ細胞の入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジCに入れた。
【0141】
まずはじめに、上記脾臓細胞Aの入った細胞融合液Aを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約50万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約100万個の微細孔の内、約半分の50万個の微細孔に対し、ほぼ1つの微細孔に1個ずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞の入った細胞融合液を600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジCを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約8〜10倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0142】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Gと称する)。
【0143】
次に同じ仕様の別の細胞融合容器を用い、別の融合プロセスにて細胞融合を行った。上記脾臓細胞Bの入った細胞融合液Aを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約50万個)をシリンジBを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約100万個の微細孔に、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞の入った細胞融合液Aを600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジCを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約8〜10倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0144】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Hと称する)。
【0145】
細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、融合方法Gでは1825個、融合方法Hでは1603個の融合細胞を確認することができ、細胞融合容器に導入したマウスの脾臓細胞数約50万個に対してそれぞれ融合方法Gでは36.5/10000、融合方法Hでは32.1/10000の融合再生確率を得られた。融合方法Bの融合再生確率は、比較例5の通常の電気的細胞融合法において、培地Bおよび細胞融合溶液Aで洗浄操作を行わない脾臓細胞と洗浄操作を行ったミエローマ細胞を混合して用いて細胞融合した場合の融合再生確率0.30/10000の107.0倍であり、非常に高い融合再生確率を得ることができた。また、融合方法Hの融合再生確率は融合方法Gの融合再生確率の0.88倍であり、洗浄操作を行わない脾臓細胞を用いた場合でも、洗浄操作を行ったミエローマを細胞融合液Aに懸濁して導入して融合することで、煩雑な細胞洗浄操作を省き、なおかつ良好な融合再生確率を得ることができた。
【0146】
(比較例5)
比較例5として、通常の電気的細胞融合法において、細胞洗浄操作を省略した脾臓細胞と洗浄操作を行ったミエローマ細胞を用いて細胞融合を行った。電気的細胞融合法を行う電極には、電極間1mmの金製のワイヤー電極(ネッパジーン株式会社製、MSゴールドワイヤー電極)を用い、この電極に細胞融合用電源(ネッパジーン製、LF101)を接続した。
【0147】
細胞は、実施例4に用いたマウスの脾臓細胞Bとマウスのミエローマ細胞を用いた。脾臓細胞とミエローマ細胞を4:1で混合し、実施例1で用いた細胞融合液Aに懸濁させ1.7×107個/mLの密度になるように細胞融合液を調整した。
【0148】
上記細胞融合液40μL(脾臓細胞数約60万個、ミエローマ細胞数約15万個)を電極間に注入し、細胞融合用電源を用いて、ピーク電圧10V、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、細胞融合を行うため、電圧値200V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加した。10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れた。細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、18個の融合細胞を確認することができ、全マウス抗体産生細胞60万個に対して0.30/10000の融合再生確率を得られた。
【0149】
(実施例5)
実施例3で使用した細胞融合装置を用いて、マウスの脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞を用いて細胞融合を行った。脾臓細胞はマウスより抽出後、実施例1に示したように脾臓細胞抽出液を1500rpm、室温で5分間遠心分離後、上清をアスピレータで吸引し、脾臓細胞のペレットを解きほぐし、すぐに細胞融合液Aに懸濁させて調製したものを用意した。またミエローマ細胞は、実施例1で用いたミエローマ培養液を、培地Bで1回、細胞融合液Aで1回洗浄を行い、細胞融合液Aに懸濁させて調製したもの(以下、ミエローマ細胞Aと称する)と、ミエローマ培養液の上清をアスピレータで吸引し、ミエローマ細胞のペレットを解きほぐし、すぐに細胞融合液Aに懸濁させて調製したもの(以下、ミエローマ細胞Bと称する)を用意した。
【0150】
脾臓細胞は細胞融合液Aに懸濁して最終濃度を1.6×106個/mLに調整した。また、ミエローマ細胞A及びミエローマ細胞Bは、細胞融合液Aに懸濁して最終濃度を6.5×106個/mLに調整した。
【0151】
上記、脾臓細胞の入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジA、ミエローマ細胞Aの入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジB,ミエローマ細胞Bの入った細胞融合液Aを細胞融合装置のシリンジCに入れた。また、脾臓細胞、ミエローマ細胞も入っていない細胞融合液AをシリンジDに入れた。
【0152】
まずはじめに、上記脾臓細胞の入った細胞融合液Aを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約100万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約100万個の微細孔に対し、ほぼ1つの微細孔に1個ずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。
【0153】
続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞Aの入った細胞融合液を600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジBを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。
【0154】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Iと称する)。
【0155】
次に同じ仕様の別の細胞融合容器を用い、別の融合プロセスにて細胞融合を行った。上記脾臓細胞の入った細胞融合液Aを600μL(損失分も考慮すると脾臓細胞数は約100万個)をシリンジAを用いて細胞融合領域に導入し、細胞融合領域内で脾臓細胞を十分に沈降させた。次に、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加し、約100万個の微細孔に対し、ほぼ1つの微細孔に1つずつ、脾臓細胞をアレイ状に固定した。続いて、交流電源によりピーク電圧5V、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したまま、上記ミエローマ細胞Bの入った細胞融合液Aを600μL(細胞の損失分も考慮すると、ミエローマ細胞数は約400万個)をシリンジCを用いて細胞融合領域に導入した。この場合、脾臓細胞の数の約4倍多いミエローマ細胞を細胞融合領域に導入したので、微細孔に固定された脾臓細胞の上に、少なくとも1つのミエローマ細胞が接触した状態になっているものと推定される。次に、シリンジDを用いて細胞融合液Aを細胞融合領域に2〜3回導入し、細胞融合領域に入った脾臓細胞とミエローマ細胞を細胞融合液Aで洗浄した。
【0156】
次に、電源切替え機構により電源を直流パルス電源(ネッパジーン株式会社製、LF101)に切替えて、電極間に電圧100V、パルス幅30μsの直流パルス電圧を印加し細胞融合を行い、そのまま10分静置したあと細胞融合容器内の細胞懸濁液をHAT培地に入れ、融合細胞の培養を行った(以上を融合方法Jと称する)。
【0157】
細胞懸濁液を入れたHAT培地をCO2インキュベータに入れて細胞培養を行い6日後に融合細胞をカウントした結果、融合方法Iでは1312個、融合方法Jでは3417個の融合細胞を確認することができ、細胞融合容器に導入したマウスの脾臓細胞数約100万個に対してそれぞれ融合方法Iでは13.1/10000、融合方法Jでは34.2/10000の融合再生確率を得られた。融合方法Jの融合再生確率は融合方法Iの融合再生確率の2.6倍であり、洗浄操作を行わない脾臓細胞と洗浄操作を行わないミエローマ細胞を用いた場合、脾臓細胞とミエローマ細胞を細胞融合領域に導入し微細孔に固定後、細胞融合領域に細胞融合液Aを導入することで脾臓細胞とミエローマ細胞を短時間に容易に洗浄することができ、良好な融合再生確率を得る事ができた。これは、細胞融合領域に入れる各細胞の調整段階での煩雑な細胞洗浄操作を省く事により、細胞活性が維持されたため、良好な融合再生確率を得る事ができたと考えられる。
【符号の説明】
【0158】
1:細胞融合領域
2:細胞融合液導入流路
3:導電線
4:電源
5:交流電源
6:直流パルス電源
7:電源切替え機構
8:絶縁体
9:微細孔
10:誘電泳動力
11:電気力線の集中部位
12:電気力線
13:細胞融合容器
14:上部電極
15:下部電極
16:スペーサー
17:細胞融合液導入切替え手段
18:第1の細胞
19:導入口
20:排出口
21:バルブ
22:第2の細胞
23:ITO
24:パイレックス(登録商標)ガラス
25:レジスト
26:露光用フォトマスク
27:露光
28:現像液
29:導入流路
30:排出流路
31:ピーク電圧
32:融合細胞
33:現像液
34:シリンジA
35:シリンジB
36:シリンジC
37:シリンジD
38:シリンジE
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞融合液導入口及び細胞融合液排出口を備え、細胞融合領域に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、前記絶縁体が前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器と、電源と、3以上の細胞融合液を切替えて導入する細胞融合液導入切替え手段と、を備えた細胞融合装置であって、前記電源が前記一対の電極に交流電圧を印加する交流電源と直流パルス電圧を印加する直流パルス電源とを切替えて接続する電源切替え機構を有する、細胞融合装置。
【請求項2】
前記細胞融合装置を用いて第1の細胞と第2の細胞とを細胞融合領域において融合する際、前記細胞融合領域に前記第1の細胞が入った細胞融合液を導入し、前記交流電圧を印加して前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域に前記第2の細胞が入った細胞融合液を導入し、前記交流電圧を印加して前記第1の細胞に前記第2の細胞を前記微細孔において接触させ、前記微細孔に直流パルス電圧を印加して、前記第1の細胞と前記第2の細胞とを細胞融合させる方法であって、前記細胞融合液導入切替え手段を用いて細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する時期を、前記第2の細胞の導入前、前記細胞融合の前および前記細胞融合の後、の少なくとも一の時期とする、細胞融合方法。
【請求項3】
前記細胞融合処理液が入った細胞融合液が2以上であって、前記2以上の細胞融合処理液が入った細胞融合液が全て同じまたは一部異なるまたは全て異なる、のいずれかの細胞融合処理液が入った細胞融合液である、請求項2に記載の細胞融合方法。
【請求項4】
前記細胞融合処理液が入った細胞融合液により、前記細胞融合領域の細胞融合液中の特定の成分を除去する、請求項2または請求項3に記載の細胞融合方法。
【請求項5】
前記細胞融合処理液が入った細胞融合液が特定の成分を含む溶液であり、前記細胞融合処理液が入った細胞融合液の導入により、前記細胞融合領域の細胞融合液中に前記特定の成分を導入する、請求項2〜4のいずれかに記載の細胞融合方法。
【請求項6】
前記特定の成分が酵素である、請求項4または請求項5に記載の細胞融合方法。
【請求項7】
前記酵素が、シアル酸分解酵素またはプロテアーゼである、請求項6に記載の細胞融合方法。
【請求項8】
前記特定の成分がカルシウムイオンである、請求項4〜7のいずれかに記載の細胞融合方法。
【請求項9】
前記特定の成分が融合再生確率を高める添加剤である、請求項4〜8のいずれかに記載の細胞融合方法。
【請求項1】
細胞融合液導入口及び細胞融合液排出口を備え、細胞融合領域に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなり、前記絶縁体が前記電極の内いずれか一方の電極の細胞融合領域側の電極面上に配置されている細胞融合容器と、電源と、3以上の細胞融合液を切替えて導入する細胞融合液導入切替え手段と、を備えた細胞融合装置であって、前記電源が前記一対の電極に交流電圧を印加する交流電源と直流パルス電圧を印加する直流パルス電源とを切替えて接続する電源切替え機構を有する、細胞融合装置。
【請求項2】
前記細胞融合装置を用いて第1の細胞と第2の細胞とを細胞融合領域において融合する際、前記細胞融合領域に前記第1の細胞が入った細胞融合液を導入し、前記交流電圧を印加して前記微細孔内に前記第1の細胞を固定した後、前記細胞融合領域に前記第2の細胞が入った細胞融合液を導入し、前記交流電圧を印加して前記第1の細胞に前記第2の細胞を前記微細孔において接触させ、前記微細孔に直流パルス電圧を印加して、前記第1の細胞と前記第2の細胞とを細胞融合させる方法であって、前記細胞融合液導入切替え手段を用いて細胞融合処理液が入った細胞融合液を導入する時期を、前記第2の細胞の導入前、前記細胞融合の前および前記細胞融合の後、の少なくとも一の時期とする、細胞融合方法。
【請求項3】
前記細胞融合処理液が入った細胞融合液が2以上であって、前記2以上の細胞融合処理液が入った細胞融合液が全て同じまたは一部異なるまたは全て異なる、のいずれかの細胞融合処理液が入った細胞融合液である、請求項2に記載の細胞融合方法。
【請求項4】
前記細胞融合処理液が入った細胞融合液により、前記細胞融合領域の細胞融合液中の特定の成分を除去する、請求項2または請求項3に記載の細胞融合方法。
【請求項5】
前記細胞融合処理液が入った細胞融合液が特定の成分を含む溶液であり、前記細胞融合処理液が入った細胞融合液の導入により、前記細胞融合領域の細胞融合液中に前記特定の成分を導入する、請求項2〜4のいずれかに記載の細胞融合方法。
【請求項6】
前記特定の成分が酵素である、請求項4または請求項5に記載の細胞融合方法。
【請求項7】
前記酵素が、シアル酸分解酵素またはプロテアーゼである、請求項6に記載の細胞融合方法。
【請求項8】
前記特定の成分がカルシウムイオンである、請求項4〜7のいずれかに記載の細胞融合方法。
【請求項9】
前記特定の成分が融合再生確率を高める添加剤である、請求項4〜8のいずれかに記載の細胞融合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
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【図15】
【公開番号】特開2009−273458(P2009−273458A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67479(P2009−67479)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
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