説明

組成探査方法および燃料電池用電極触媒の組成探査方法

【課題】組成探査、特に燃料電池用電極触媒の組成探査を容易かつ短時間で行うことができる方法を提供すること。
【解決手段】本発明の組成探査方法は、第1の材料と第2の材料との組成比の異なるそれぞれの混合前駆体溶液を、受け面9の異なる複数の箇所に、インクジェット方式によりヘッド1の小孔6から吐出させることにより付着させる。次に、混合前駆体溶液に試薬を供給し、当該試薬の量を検出することにより行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成探査方法および燃料電池用電極触媒の組成探査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式は、圧電素子により振動する振動板を振動させてインク室(空間)の容積を変動させ、インク室内に供給された液体(インク等)を前記振動板と反対側にある小孔から吐出させる方式であり、プリンター等の印字装置、その他種々の装置に広く応用されている。
このインクジェット方式では、小孔から吐出される液体の吐出量が安定し、高精度であること、小孔から吐出される液滴の着弾位置精度が高いこと、小孔の目詰まりが生じにくいことなどが要求される。
【0003】
ところで、現在使用されているインクジェットプリンターにおいては、用いられるインクは、顔料(溶質)を溶媒に溶解したものであるが、この溶媒としては、水系の溶媒が用いられている。
しかしながら、それらは印刷用であるため、多くの他の成分(界面活性剤、浸透剤、潤滑剤等)を含む。それらは溶媒を揮発させた後、不純物として残り、溶質が機能性物質の場合には、その物性に悪影響を与える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的の1つとしては、組成探査、特に燃料電池用電極触媒の組成探査を容易かつ短時間で行うことができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記(1)〜(19)の本発明により達成される。
(1) 物質の組成を探査する物質組成探査方法であって、
第1の材料と第2の材料との組成比の異なるそれぞれの混合前駆体溶液を、受け面の異なる複数の箇所に、インクジェット方式によりヘッドの小孔から吐出させることにより付着させる工程を有することを特徴とする組成探査方法。
【0006】
(2) 触媒の組成を探査する触媒組成探査方法であって、
第1の溶質と第1の溶媒とを有する第1の液体と、第2の溶質と第2の溶媒とを有する第2の液体とを用意する第1の工程と、
前記第1の液体と前記第2の液体とをそれぞれインクジェット方式によりヘッドの小孔から吐出させ、受け面に前記第1の液体と前記第2の液体との液滴数の組み合わせを変え、前記第1の液体と前記第2の液体とを混合させて得られるそれぞれの混合前駆体溶液を異なる複数の箇所に付着させる第2の工程とを有することを特徴とする組成探査方法。
【0007】
(3) 前記混合前駆体溶液の溶媒は、水と多価アルコールと単価アルコールとを含む上記(1)または(2)に記載の組成探査方法。
(4) 前記多価アルコールは、1分子中の水酸基の数が2〜5のものである上記(3)に記載の組成探査方法。
(5) 前記多価アルコールは、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエタノールアミンよりなる群から選択される少なくとも1種である上記(3)または(4)に記載の組成探査方法。
【0008】
(6) 前記単価アルコールは、1分子中の炭素が1〜6のものである上記(3)ないし(5)のいずれかに記載の組成探査方法。
(7) 前記単価アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アリルアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコールモノアセタートよりなる群から選択される少なくとも1種である上記(3)ないし(6)のいずれかに記載の組成探査方法。
【0009】
(8) 前記混合前駆体溶液の前記多価アルコールの含有量は、5〜50wt%である上記(3)ないし(7)のいずれかに記載の組成探査方法。
(9) 前記混合前駆体溶液の前記単価アルコールの含有量は、15〜70wt%である上記(3)ないし(8)のいずれかに記載の組成探査方法。
(10) 常温での前記第1の液体または前記第2の液体における粘度が3〜10cpsである上記(2)ないし(9)のいずれかに記載の組成探査方法。
【0010】
(11) 前記混合前駆体溶液は、有機材料、金属錯体または微粒子のいずれかを含む機能性材料である上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の組成探査方法。
(12) 前記金属錯体は、金属塩化物、金属硫化物または金属シアン化物である上記(11)に記載の組成探査方法。
(13) 前記金属錯体は、金、白金、ルテニウム、鉄または亜鉛のうちいずれかの塩化物である上記(11)に記載の組成探査方法。
【0011】
(14) 前記混合前駆体溶液の溶質には、塩化白金と塩化ルテニウムとを含む上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の組成探査方法。
(15) 前記受け面に付着した前記混合前駆体溶液に試薬を供給し、当該試薬の量を検出する工程をさらに含む上記(1)ないし(14)のいずれかに記載の組成探査方法。
(16) 燃料電池用電極触媒の組成を探査する組成探査方法であって、
白金塩化物を、水と、多価アルコールと、単価アルコールとを含む溶媒に溶解させて燃料電池用電極触媒の前駆体溶液Aを調製するとともに、ルテニウム塩化物を、水と、多価アルコールと、単価アルコールとを含む溶媒に溶解させて燃料電池用電極触媒の前駆体溶液Bを調製する第1の工程と、
前記前駆体溶液Aと前記前駆体溶液Bとを、受け面に前記前駆体溶液AおよびBの液滴数の組み合わせを変え、両前駆体溶液を混合させて得られるそれぞれの混合前駆体溶液をそれぞれ異なる複数の箇所に付着させる第2の工程とを有することを特徴とする燃料電池用電極触媒の組成探査方法。
【0012】
(17) 前記第2の工程における前記受け面に前記前駆体溶液Aと前記前駆体溶液Bとを付着させる工程は、インクジェット方式によりヘッドの小孔から吐出させることにより行われる上記(16)に記載の燃料電池用電極触媒の組成探査方法。
(18) 前記受け面に付着した前記混合前駆体溶液に触媒活性を検出し得る試薬を供給し、当該試薬の量を検出する工程をさらに含む上記(16)または(17)に記載の燃料電池用電極触媒の組成探査方法。
(19) 前記受け面に付着した各混合前駆体溶液に対して、熱分解処理を施して組成の異なる複数の燃料電池用電極触媒を得る工程を有する上記(16)ないし(18)のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒の組成探査方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に用いられる溶媒を用いて液体を調整することにより、インクジェット方式により小孔から吐出したとき、安定した吐出を可能とし、液滴の着弾位置精度が高く、小孔の目詰まりが生じにくい液体を得ることができる。
したがって、当該液体を用いることにより、物質の組成探査、触媒の組成探査、特に燃料電池用電極触媒の組成探査を容易かつ短時間に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に用いられる溶媒およびインクジェット用組成物の構成例について詳細に説明する。
本発明に用いられるの溶媒は、インクジェット方式によりヘッドの小孔から吐出される液体の溶媒として用いられるものである。
インクジェット方式による液体の吐出は、例えば図1に示すような構成のヘッド1を用いて行なわれる。
【0015】
ヘッド1は、基部(インク室基板)2と、基部2の一方の面側に接合された振動板3と、振動板3に接合された圧電素子4と、基部2の多方の面側に接合されたノズル板5とを有している。基部2の内部には、基部2の側壁と振動板3とノズル板5とで画成されるインク室(キャビティ)7が形成されている。
ノズル板5には、インク室7に連通する小孔(ノズル)6が形成されている。
【0016】
圧電素子4は、一対の電極(下部電極41、上部電極42)間に、強誘電体材料で構成される圧電体層43が介挿された構造である。
インク室7内に液体8が満たされた状態で、圧電素子4を作動して振動板3を振動させると、インク室7の容積が減少してインク室7内の液体8が小孔6から吐出する。
小孔6から例えば0.1〜5mm程度離間した位置には、受け面9が設けられており、小孔6から吐出した液滴80は、受け面9に衝突し、付着(着弾)する。
【0017】
小孔6の形状は、例えば円形であり、小孔6の直径は、例えば20〜40μm程度である。
小孔6から吐出される液滴80の1滴の量は、例えば2〜40pL程度である。
小孔6から吐出される液滴80の速度(初速度)は、例えば3〜10m/秒程度である。
【0018】
また、ヘッド1には、複数のインク室7と、これに対応して圧電素子4とを併設して、異なる種類の液体8を、同時にまたは交互に吐出するようにしてもよい。
本発明に用いられる溶媒(以下、単に「溶媒」と言う。)は、このようなインクジェット方式によりヘッド1の小孔6から吐出される液体8(液滴80)の溶媒として用いられる。以下、溶媒の組成、特性について詳述する。
溶媒は、水を主成分とし、多価アルコールと、単価アルコールとを含むものである。
【0019】
多価アルコールは、溶媒に適度な粘度を与え、また液体8の素早い乾燥を抑制する機能を有する。一方、単価アルコールは、溶媒の表面張力を低下させ、小孔6からの安定した吐出を可能とするとともに、小孔6の目詰まりを防止する機能を有する。
多価アルコールとしては、1分子中の水酸基の数が2〜5のものが好ましく、2または3のものがより好ましい。
【0020】
具体的には、多価アルコールは、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエタノールアミンのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いるのが好ましい。このようなものは、入手が容易で、また、高粘度、高沸点(低蒸気圧)という利点がある。
このような多価アルコールの溶媒中の含有量は、特に限定されないが、5〜50wt%程度であるのが好ましく、10〜30wt%程度であるのがより好ましい。多価アルコールの含有量が多すぎると、単価アルコールの含有量によっては、溶媒の粘度が増大し、インク室7へのインク供給が追いつかず、小孔6からの液体8の吐出が不可能となる場合がある。また、多価アルコールの含有量が少なすぎると、液体8が乾き易くなり、小孔6に目詰まりが生じる場合がある。
【0021】
単価アルコールとしては、1分子中の炭素数が1〜6のものが好ましく、1〜4のものがより好ましい。
具体的には、単価アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アリルアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコールモノアセタートのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いるのが好ましい。このようなものは、入手が容易で、また、低表面張力という利点がある。
【0022】
このような単価アルコールの溶媒中の含有量は、特に限定されないが、15〜70wt%程度であるのが好ましく、30〜50wt%程度であるのがより好ましい。単価アルコールの含有量が多すぎると、多価アルコールの含有量によっては、液体8が乾き易くなり、小孔6に目詰まりが生じる場合がある。また、単価アルコールの含有量が少なすぎると、溶媒の表面張力が十分に低下せず、粘度が高くなる傾向を示すので、小孔6からの液体8の吐出が不可能となる場合がある。
【0023】
このような溶媒(液体)の粘度は、特に限定されないが、通常は、常温での粘度が3〜10cpsであるのが好ましく、4〜8cpsであるのがより好ましい。粘度がこのような範囲であれば、小孔6からの液体の吐出をより安定的に行うことができる。
また、溶媒の表面張力は、特に限定されないが、通常は、20〜40mN/m程度であるのが好ましく、25〜35mN/m程度であるのがより好ましい。
【0024】
また、上記組成の溶媒は、溶質が、多くの無機化合物に見られるような溶解時に大きな粘度上昇を伴わないものである場合、組み合わされる溶質の種類(組成)にかかわらず、安定した液体8が得られるという特性を有する。特に、組み合わされる溶質の量(溶解量)の増減に対し、液体8の粘度の変動が少ないという優れた特性を有する。このような特性は、後述するように、溶媒を物質の組成探査、触媒の組成探査、燃料電池用電極触媒の組成探査に用いる場合に、液体の物理的条件を一定にすることができ、有利である。
【0025】
本発明に用いられる溶媒に溶質を溶解(または分散)して液体(溶液または分散液)8を調整する場合、その溶質は、液体8の種類、用途、仕様等に応じて適宜決定される。例えば、液体8が印刷用インクである場合には、溶質は顔料(染料)であり、液体8が機能性材料インクである場合には、溶質は有機材料、金属錯体、微粒子等の機能性材料である。
【0026】
本発明に用いられる溶媒と組み合わされる溶質として、特に好ましい例を以下に説明する。
溶質としては、水溶性無機化合物、特に無機化合物の水和物が好ましい。このものは、水系溶媒に極めてよく溶け、溶解量に依存して液体8の粘度が変動することも特に少ない。
【0027】
また、溶質としては、金属錯体が好ましい。このものも、水系溶媒に極めてよく溶け、溶解量に依存して液体8の粘度が変動することも特に少ない。金属錯体としては、有機物を配位子としたもの等種々のものが挙げられるが、特に、金属塩化物、金属硫化物、金属シアン化物等がより好ましく、金属塩化物がさらに好ましい。金属塩化物は、各種金属化合物(例えば合金等)を得る際の前駆体として極めて有用である。この金属塩化物としては、例えば、金、白金等の貴金属の塩化物、ルテニウム、鉄、亜鉛等の遷移金属の塩化物が挙げられる。
【0028】
本発明に用いられる溶媒を用いて調製された液体8は、例えば物質の組成探査に用いることができる。触媒、特に燃料電池用電極触媒の組成探査に用いるのが好ましい。この場合には、液体8は、触媒の前駆体溶液である。
以上のような各種溶質を、本発明に用いられる溶媒に溶解(または分散)して、インクジェット用組成物が得られる。
【0029】
さて、本発明の物質の組成探査方法、特に触媒の組成探査方法について以下に詳細に説明する。ここでは、触媒の組成探査方法の例として、燃料電池用電極触媒の組成探査について説明する。
例えば、PtとRuとを含むダイレクトメタノール型の燃料電池用電極触媒の好適な組成比を探査する場合を一例に説明する。
【0030】
まず、Ptの前駆体溶液として、例えば塩化白金酸(HPtCl・6HO)を溶解した液体Aと、Ruの前駆体溶液として、例えば塩化ルテニウム(RuCl・nHO)を溶解した液体Bとを用意する。
次に、前述したようなヘッド1から、液体Aと液体Bとを吐出して、これらの液滴aと液滴bとを、例えばカーボンペーパーの表面(受け面9)に付着させる。
【0031】
このとき、液滴aと液滴bとを同一のポイントに付着させる操作を、複数のポイントに対して繰り返し行い、各ポイントにおいて、塩化白金酸と塩化ルテニウムとの量比(モル比)が異なるように付着させる。
次に、各ポイントにおける液滴aと液滴bとの混合液(混合前駆体溶液)に対して、所定の処理(例えば、熱分解等)を施す。これにより、各ポイントにおいて、PtとRuとを含む組成比の異なる触媒が得られる。これらの触媒は、メタノールの分解を促進する機能を有する。
【0032】
次に、各ポイントの触媒に対して、それぞれ、触媒活性を検出し得る試薬を供給する。この試薬には、例えば、メタノールと、還元により蛍光消失が観察される蛍光物質とを含むものを用いることができる。この試薬の供給により、触媒は、メタノールを分解して水素イオンを発生させ、この水素イオンにより前記蛍光物質が還元され、蛍光物質の蛍光消失が観察される。
【0033】
この蛍光消失の程度は、触媒活性が高い触媒において顕著である。したがって、この蛍光消失の程度を検出することにより、触媒活性のより高い組成比の触媒を見極めることができる。
このようなインクジェット方式を用いれば、前述したような複数のポイントを、容易かつ短時間で作成することができるので、その結果、前述したような燃料電池用電極触媒の組成探査を容易かつ短時間で行うことができる。
【0034】
また、前述したように、本発明に用いられる溶媒は、溶質の量(溶解量)の増減に対し、液体8の粘度の変動が少ないという特性を有しており、そのため、溶質の量にかかわらず高精度に着弾位置を制御でき、さらに、1滴の液滴80の量(吐出量)をほぼ均一(一定)にすることができるという特性を有していることから、このような燃料電池用電極触媒の組成探査に用いると有利である。なお、液体8の吐出量をほぼ一定にすることができるため、仮に液体8に不純物が含まれるような場合であっても、各液滴80間での不純物の含有量もほぼ一定とすることができる。
なお、本発明に用いられる溶媒の利用方法は、これに限定されないことは言うまでもない。また、本発明に用いられるインクジェット用組成物に用いられる溶質も、前述した物質に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の燃料電池用電極触媒の組成探査方法に関し、インクジェット方式で前駆体溶液を受け面に付着させる際の溶媒の効果を実証するための試験を行った。具体的実施例について説明する。
(実施例1〜5)
表1に示す組成の溶媒を作製した。
この溶媒に溶質A(塩化白金酸:HPtCl・6HO)を十分に溶解して液体を調整した。なお、この液体(溶液)は、ダイレクトメタノール型燃料電池用電極触媒として使用されるPtの前駆体溶液である。
各物質の含有量は、表1に示す通りである。
【0036】
(実施例6〜10)
表1に示す組成の溶媒を作製した。
この溶媒に溶質B(塩化ルテニウムの水和物:RuCl・nHO)を十分に溶解して液体を調整した。なお、この液体(溶液)は、ダイレクトメタノール型燃料電池用電極触媒として使用されるRuの前駆体溶液である。
各物質の含有量は、表1に示す通りである。
【0037】
(比較例1)
表1に示す組成(単価アルコールを含まない)の溶媒を用いた以外は実施例1と同様にして液体を得た。
(比較例2)
表1に示す組成(単価アルコールを含まない)の溶媒を用いた以外は実施例6と同様にして液体を得た。
【0038】
(比較例3)
表1に示す組成(多価アルコールを含まない)の溶媒を用いた以外は実施例1と同様にして液体を得た。
(比較例4)
表1に示す組成(多価アルコールを含まない)の溶媒を用いた以外は実施例6と同様にして液体を得た。
【0039】
実施例1〜10および比較例1〜4の各液体を、それぞれ、図1に示す構造のヘッドのインク室に充填し、圧電素子を作動させて円形の小孔(ノズル)より液体を吐出させ、受け面(カーボンペーパーの表面)に付着させた。
ここで、小孔と受け面の離間距離は、1.5mm、小孔の直径は、25μm、小孔から吐出される液滴1滴の量は、平均20pL、小孔から吐出される液滴の初速度は、平均7m/秒であった。
【0040】
実施例1〜10および比較例1〜4について、液滴の着弾位置精度、吐出量の経時変化および小孔の目詰まり状況を調べ、以下のように4段階で評価した。
なお、液滴の着弾位置の精度は、各実施例および各比較例において、それぞれ、50箇所について調べた。
また、吐出量の変動は、各実施例および各比較例において、それぞれ、液滴の吐出を繰り返し行い、1万発毎の平均値を求めて、経時的変化を調べた。
その結果を表1に示す。
【0041】
・液滴の着弾位置精度
◎:目標位置からのズレなし
○:目標位置からのズレが僅かにあり
△:目標位置からのズレが生じたものあり
×:目標位置からのズレが顕著
【0042】
・吐出量の変動(経時変化)
◎:最大値と最小値の差が0.25%以内
○:最大値と最小値の差が0.5%以内
△:最大値と最小値の差が1%以内
×:最大値と最小値の差が2%以内
【0043】
・小孔の目詰まり状況
◎:10万回以上の吐出でも目詰まりなし
○:5万回以上の吐出でも目詰まりなし
△:3万回程度の吐出で目詰まり発生
×:1万回程度で目詰まりにより吐出不能となる
【0044】
【表1】

【0045】
表1から明らかなように、実施例1〜10の各液体は、いずれも、液滴の着弾位置精度が高く、吐出量の変動もほとんどなく安定した吐出が可能であり、ヘッドの小孔の目詰まりも生じないことが確認された。
これに対し、単価アルコールを含まない比較例1および比較例2の液体は、いずれも、小孔からの吐出が困難であり、液滴の着弾位置精度および吐出量の変動について調査不能であった。
【0046】
また、多価アルコールを含まない比較例3および比較例4の液体は、いずれも、液滴の着弾位置精度が低く、極めて早期に小孔の目詰まりを生じ、小孔からの吐出が困難となり、吐出量の変動について調査不能であった。
また、溶質として、酢酸ニッケル、硝酸銀、酢酸銅(金属錯体)を用いて、前記と同様にして液体を得て、これらについて前記と同様の評価を行った。
その結果、いずれの溶質を用いた場合も、前記と同様の効果が確認された。
【0047】
また、多価アルコールおよび単価アルコールの種類を適宜選択し、これらの含有量を適宜設定することにより、前記効果がより向上する。
このように、本発明に用いられる溶媒を用いて調製された液体をインクジェット方式により小孔から吐出したとき、安定した吐出が可能となり、液滴の着弾位置精度が高く、小孔の目詰まりが生じない。特に、溶質が水溶性の溶質であるので、その種類や組成にかかわらず、前記溶媒は、前記特性を発揮し、また、揮発させた際に、残渣が残らない。
したがって、燃料電池用電極触媒の組成探査を容易かつ短時間に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】インクジェット方式を説明するための断面側面図である。
【符号の説明】
【0049】
1……ヘッド 2……基部 3……振動板 4……圧電素子 41……下部電極 42……上部電極 43……圧電体層 5……ノズル板 6……小孔 7……インク室 8……液体 80……液滴 9……受け面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の組成を探査する物質組成探査方法であって、
第1の材料と第2の材料との組成比の異なるそれぞれの混合前駆体溶液を、受け面の異なる複数の箇所に、インクジェット方式によりヘッドの小孔から吐出させることにより付着させる工程を有することを特徴とする組成探査方法。
【請求項2】
触媒の組成を探査する触媒組成探査方法であって、
第1の溶質と第1の溶媒とを有する第1の液体と、第2の溶質と第2の溶媒とを有する第2の液体とを用意する第1の工程と、
前記第1の液体と前記第2の液体とをそれぞれインクジェット方式によりヘッドの小孔から吐出させ、受け面に前記第1の液体と前記第2の液体との液滴数の組み合わせを変え、前記第1の液体と前記第2の液体とを混合させて得られるそれぞれの混合前駆体溶液を異なる複数の箇所に付着させる第2の工程とを有することを特徴とする組成探査方法。
【請求項3】
前記混合前駆体溶液の溶媒は、水と多価アルコールと単価アルコールとを含む請求項1または2に記載の組成探査方法。
【請求項4】
前記多価アルコールは、1分子中の水酸基の数が2〜5のものである請求項3に記載の組成探査方法。
【請求項5】
前記多価アルコールは、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエタノールアミンよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項3または4に記載の組成探査方法。
【請求項6】
前記単価アルコールは、1分子中の炭素が1〜6のものである請求項3ないし5のいずれかに記載の組成探査方法。
【請求項7】
前記単価アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アリルアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコールモノアセタートよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項3ないし6のいずれかに記載の組成探査方法。
【請求項8】
前記混合前駆体溶液の前記多価アルコールの含有量は、5〜50wt%である請求項3ないし7のいずれかに記載の組成探査方法。
【請求項9】
前記混合前駆体溶液の前記単価アルコールの含有量は、15〜70wt%である請求項3ないし8のいずれかに記載の組成探査方法。
【請求項10】
常温での前記第1の液体または前記第2の液体における粘度が3〜10cpsである請求項2ないし9のいずれかに記載の組成探査方法。
【請求項11】
前記混合前駆体溶液は、有機材料、金属錯体または微粒子のいずれかを含む機能性材料である請求項1ないし10のいずれかに記載の組成探査方法。
【請求項12】
前記金属錯体は、金属塩化物、金属硫化物または金属シアン化物である請求項11に記載の組成探査方法。
【請求項13】
前記金属錯体は、金、白金、ルテニウム、鉄または亜鉛のうちいずれかの塩化物である請求項11に記載の組成探査方法。
【請求項14】
前記混合前駆体溶液の溶質には、塩化白金と塩化ルテニウムとを含む請求項1ないし11のいずれかに記載の組成探査方法。
【請求項15】
前記受け面に付着した前記混合前駆体溶液に試薬を供給し、当該試薬の量を検出する工程をさらに含む請求項1ないし14のいずれかに記載の組成探査方法。
【請求項16】
燃料電池用電極触媒の組成を探査する組成探査方法であって、
白金塩化物を、水と、多価アルコールと、単価アルコールとを含む溶媒に溶解させて燃料電池用電極触媒の前駆体溶液Aを調製するとともに、ルテニウム塩化物を、水と、多価アルコールと、単価アルコールとを含む溶媒に溶解させて燃料電池用電極触媒の前駆体溶液Bを調製する第1の工程と、
前記前駆体溶液Aと前記前駆体溶液Bとを、受け面に前記前駆体溶液AおよびBの液滴数の組み合わせを変え、両前駆体溶液を混合させて得られるそれぞれの混合前駆体溶液をそれぞれ異なる複数の箇所に付着させる第2の工程とを有することを特徴とする燃料電池用電極触媒の組成探査方法。
【請求項17】
前記第2の工程における前記受け面に前記前駆体溶液Aと前記前駆体溶液Bとを付着させる工程は、インクジェット方式によりヘッドの小孔から吐出させることにより行われる請求項16に記載の燃料電池用電極触媒の組成探査方法。
【請求項18】
前記受け面に付着した前記混合前駆体溶液に触媒活性を検出し得る試薬を供給し、当該試薬の量を検出する工程をさらに含む請求項16または17に記載の燃料電池用電極触媒の組成探査方法。
【請求項19】
前記受け面に付着した各混合前駆体溶液に対して、熱分解処理を施して組成の異なる複数の燃料電池用電極触媒を得る工程を有する請求項16ないし18のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒の組成探査方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−183266(P2007−183266A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348679(P2006−348679)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【分割の表示】特願2002−50219(P2002−50219)の分割
【原出願日】平成14年2月26日(2002.2.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】