説明

組織評価方法

【課題】組織切片における特定の生体物質をその細胞形態に依存しないドット状の蛍光として表現することで、対象となる組織切片における特定の生体物質の発現レベルを容易に、効率的に、高精度に評価可能とする。
【解決手段】本発明に係る組織評価方法は、蛍光物質を内包した球状粒子に生体物質認識部位が結合された染色試薬を用いて組織切片を染色する工程と、上記組織切片に励起光を照射して、前記組織切片に自家蛍光させるとともに、前記球状粒子にドット状の蛍光を発生させる染色工程と、前記自家蛍光、及び/又は、前記ドット状の蛍光を拡大結像する結像工程と、前記拡大結像された像の中から前記ドット状の蛍光を検出して前記生体物質認識部位に対応する生体物質の発現レベルを評価する評価工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫組織化学の組織評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病理診断では、まず採取した組織を固定するために脱水し、パラフィンによるブロック化といった処理を行った後、2〜8μmの厚さの薄片に切り、パラフィンを取り除き、染色して顕微鏡観察を行う。病理医は、この顕微鏡像の中で、細胞の核の大きさや形の変化、組織としてのパターンの変化等の形態学的な情報、染色情報をもとに診断を行っている。画像のデジタル化技術の発達に伴い、病理診断の分野においても、顕微鏡やデジタルカメラ等を用いてデジタルカラー画像として入力された病理画像から、病理医が病理診断を行う際に必要となる情報を抽出・計測して表示する自動化された病理診断支援装置が普及してきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、病理画像から細胞核領域及び細胞質領域をそれぞれ特定する核・細胞質分布推定手段と、病理画像から腺腔領域(細胞組織を殆ど含まない領域)を特定する腺腔分布抽出手段と、癌細胞が存在するか否かを判定する癌部位推定手段と、癌の進行度を判定する進行度判定手段と、癌細胞の分布図や進行度等を表示する画像表示手段と、を有する病理診断支援装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、正常部位と癌部位をそれぞれ選択的に染色するような2種類の染料で病理標本を染色し、更にスペクトル画像からランベルト・ベールの法則を用いて染色濃度を評価し、癌細胞の有無を判定する癌細胞の検出方法が開示されている。
【0005】
しかし、いずれの評価法を用いた場合でも、組織染色方法は従来の色素染色法(例えばヘマトキシリン−エオジン染色;以下、HE染色)、酵素を用いた色素染色法(例えばDAB染色)であり、その染色濃度は温度、時間等の環境条件により大きく左右され、病理診断支援装置の正確な定量測定性能を生かし切れていない。
【0006】
また、色素に代わる標識試薬として定量性能が高い蛍光色素が組織染色の研究に用いられているが(非特許文献1参照)、その発光輝度は組織の発する自家蛍光と比較して暗く、極微量のバイオマーカーを発光レベルによって自動判別することはできない。
【0007】
また、乳癌の新しい薬物療法として、HER2(human epidermal growth factor receptor type 2)の抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン)を用いる抗体療法が注目されている。この薬剤の適応を決めるためには、乳癌組織におけるHER2過剰発現の有無を確かめる必要がある。
【0008】
HER2は、ヒト上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)遺伝子と類似の構造を有する癌遺伝子として発見された。HER2遺伝子のコードするHER2タンパクは、細胞膜を貫通する受容体型糖タンパクであり、細胞外、膜貫通、細胞内の3ドメインから構成されている。増殖因子が結合すると、チロシン残基のリン酸化により活性化され、シグナル伝達経路を介して細胞の増殖や悪性化に関与するとされている。肺癌、大腸癌、胃癌、膀胱癌等でもHER2過剰発現がみられる。乳癌では、HER2タンパク過剰発現の原因の90%がHER2遺伝子の増幅とされている。その他、転写異常、転写後のタンパク合成異常等も原因と考えられている。
【0009】
HER2は乳癌の予後因子であるとされており、特にリンパ節転移陽性例では、HER2陽性例の予後が有意に不良であることが知られている。HER2は、トラスツズマブの適応を決める重要な因子として、また、アンスラサイクリン系、タキサン系等の抗癌剤の効果予測因子として注目されている。
【0010】
トラスツズマブは、遺伝子組み換えしたHER2のモノクローナル抗体であり、再発乳癌の治療薬として使用されている。ジェネンティック社は、トラスツズマブの副作用を軽減するために、IgGの大部分をヒト由来にして、HER2レセプターと結合する一部だけをマウス由来にした。トラスツズマブの主な作用はHER2レセプターに結合して癌細胞の増殖を抑制することであるが、その他にNK細胞や単球を介して癌細胞を破壊する作用もあるといわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−286666号公報
【特許文献2】特表2001−525580号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「病理と臨床 Vol.25 2007年臨時増刊号 診断に役立つ免疫組織化学」文光堂 2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年、抗体医薬を中心とした分子標的薬治療の広がりに伴い、分子標的薬をより効率的に使用するため、正確な診断法の必要性が高まってきている。病理診断においても、より正確に疾病の診断を行うため、極微量のバイオマーカーを組織切片上で定量的に検出することが求められている。
【0014】
一般的に、HER2タンパクの過剰発現は免疫組織化学的方法(IHC法)で検査され、HER2遺伝子の過剰発現はFISH法で検査されている。HER検査のガイドラインによると、まず簡便なIHC法で陽性、陰性、境界領域を選別し、陽性の場合にはトラスツズマブの投与を決定する。IHC法で境界領域のものについては、さらにFISH法で陽性、陰性を選別する。
IHC法とFISH法を比べると、IHC法は簡便だが、精度が低いという問題があった。一方、FISH法は精度が高いが、作業が煩雑でありコストが高い。つまり、IHC法でFISH法と同様の精度を出せる手法の開発が望まれている。
【0015】
また、上述した従来の病理診断の方法は、特定の色相に染色された不定形な細胞形態の視認を必要としている。従って、測定環境(温湿度等)等により微妙な色相の変化を生じ易い状況下では診断結果にバラツキを生じ易く、また、属人性の高い診断ともなっており、診断の標準化が困難になっている。今後の検査の増加が見込まれる状況下、属人性が低く、自動化可能な手法の開発が望まれている。
【0016】
本発明は、上記の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、組織切片における特定の生体物質をその細胞形態に依存しないドット状の蛍光として表現することで、対象となる組織切片における特定の生体物質の発現レベルを容易に、効率的に、高精度に評価可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明の組織評価方法は、
蛍光物質を内包した球状粒子に生体物質認識部位が結合された染色試薬を用いて組織切片を染色する染色工程と、
上記組織切片に励起光を照射して、前記組織切片に自家蛍光させるとともに、前記球状粒子にドット状の蛍光を発生させる照射工程と、
前記自家蛍光、及び/又は、前記ドット状の蛍光を拡大結像する結像工程と、
前記拡大結像された像の中から前記ドット状の蛍光を検出して前記生体物質認識部位に対応する生体物質の発現レベルを評価する評価工程と、
を含む。
【0018】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記染色工程は、前記蛍光物質を内包した球形粒子に前記生体物質認識部位が結合された染色試薬及びHE(ヘマトキシリン−エオジン)染色試薬を用いて前記組織切片を同時染色する。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、
前記組織切片の自家蛍光と前記球状粒子のドット状の蛍光の発光量差が
前記球状粒子蛍光≧1.1×自家蛍光
である。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明において、
前記結像工程は、2次元方向に複数の撮像素子が配列された撮像面に前記自家蛍光、及び/又は、前記ドット状の蛍光を拡大結像してその画像を取得し、
前記球状粒子の径及び/又は前記ドット状の蛍光の拡大倍率は、前記ドット状の蛍光が前記撮像面において2以上の撮像素子に跨って結像されるように設定される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、組織切片における特定の生体物質の発現レベルの評価が、励起光を照射された組織切片上でドット状の蛍光の有無、或いはドット状の蛍光の個数(面積)を確認するという極めてシンプルな作業ですむようになる。従って、属人性が低く、容易に効率的に、高精度に、組織切片における特定の生体物質の発現レベルを評価することが可能となる。また、病変部位に依存せず、同一の観察形態となるので、病理診断に必要な作業の自動化、標準化にとって好ましい。
また、本発明は、広く用いられているHE染色と同時に適用することができる。この場合、自家蛍光(バックグラウンド)とは、励起光を照射した際の組織自身の発光およびヘマトキシリン・エオジン染色によるヘマトキシリン・エオジン色素の発光を含み、当該バックグラウンドのなかに埋没することのない発光量を生体物質の発現レベルを示す蛍光に確保することによって、生体物質の発現を検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】生体物質認識部位が結合した蛍光物質を内包するナノ粒子の作製手順を示す図である。
【図2】ピントが合った状態で1つの蛍光物質単体及び1つの蛍光物質内包ナノ粒子を観察したときに(a)顕微鏡結像面に到達する発光量の大きさと、(b)顕微鏡結像平面から観察される像を顕微鏡設置カメラにより取得した画像と、(c)顕微鏡設置カメラの1画素と、を模式的に示す図である。
【図3】ピントがずれた状態で1つの蛍光物質単体及び1つの蛍光物質内包ナノ粒子を観察したときに(a)顕微鏡結像面に到達する発光量の大きさと、(b)顕微鏡結像平面から観察される像を顕微鏡設置カメラにより取得した画像と、を模式的に示す図である。
【図4】(a)複数の蛍光物質内包ナノ粒子の一部が顕微鏡結像面からみて重なったときの組織切片のz方向断面と、(b)ピントが合った状態で図4の(a)の組織切片を顕微鏡で観察したときに顕微鏡結像面に到達する発光量の大きさと、(c)顕微鏡結像平面から観察される像を顕微鏡設置カメラにより取得した画像と、を模式的に示す図である。
【図5】(a)複数の蛍光物質内包ナノ粒子の一部が顕微鏡結像面からみて重なったときの組織切片のz方向断面と、(b)ピントがずれた状態で図5(a)の組織切片を顕微鏡で観察したときに顕微鏡結像面に到達する発光量の大きさと、(c)顕微鏡結像面から観察される像を顕微鏡設置カメラにより取得した画像と、を模式的に示す図である。
【図6】(a)複数の蛍光物質内包ナノ粒子が顕微鏡結像面からみて並んで配置されているときの組織切片のz方向断面と、(b)ピントが合った状態で図6の(a)の組織切片を顕微鏡で観察したときに顕微鏡結像面に到達する蛍光物質内包ナノ粒子の蛍光量の大きさと、(c)顕微鏡結像平面から観察される像を顕微鏡設置カメラにより取得した画像と、を模式的に示す図である。
【図7】(a)複数の蛍光物質内包ナノ粒子が顕微鏡結像面からみて並んで配置されているときの組織切片のz方向断面と、(b)ピントがずれた状態で図7の(a)の組織切片を顕微鏡で観察したときに顕微鏡結像面に到達する発光量の大きさと、(c)顕微鏡結像面から観察される像を顕微鏡設置カメラにより取得した画像と、を模式的に示す図である。
【図8】エオジンの励起、発光波長と蛍光強度との関係を示す図である。
【図9】標識材料Aを用いた場合に顕微鏡設置カメラから取得した顕微鏡画像を示す図である。
【図10】標識材料Aを用いた場合の輝点数とFISHスコアとの関係を示す図である。
【図11】標識材料Bを用いた場合の輝点数とFISHスコアとの関係を示す図である。
【図12】標識材料Cを用いた場合の輝点数とFISHスコアとの関係を示す図である。
【図13】標識材料Dを用いた場合の輝点数とFISHスコアとの関係を示す図である。
【図14】各標識材料A〜Dについて、各視野の顕微鏡画像から計測された輝点数とFISHスコアとの相関係数の2乗値を示す図である。
【図15】標識材料dを用いた場合に顕微鏡設置カメラから取得した画像である。
【図16】標識材料eを用いた場合に顕微鏡設置カメラから取得した画像である。
【図17】標識材料aを用いた場合に顕微鏡設置カメラから取得した画像である。
【図18】標識材料bを用いた場合に顕微鏡設置カメラから取得した画像である。
【図19】標識材料cを用いた場合に顕微鏡設置カメラから取得した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための第1及び第2の実施の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0024】
本発明に係る第1及び第2の実施の形態では、生体物質認識部位が結合した蛍光物質を内包したナノ粒子(蛍光物質内包ナノ粒子と略記する)を蛍光標識材料として用いる。生体物質認識部位が結合した蛍光物質内包ナノ粒子は、詳細は後述するが、概略として、図1に示す手順で作成されるものである。まず、蛍光物質を集積化して合成することにより蛍光物質内包ナノ粒子が作製される(S1、S2)。次いで、蛍光物質内包ナノ粒子に生体親和性が付与され(S3)、目的とする(特定の)生体物質と特異的に結合及び/又は反応する生体物質認識部位と結合され、生体物質の認識機能(分子認識機能)が付与される(S4)。
第1の実施の形態では、観察対象の組織切片に対し、生体物質認識部位が結合した蛍光物質内包ナノ粒子を用いて染色し、染色された組織切片に励起光を照射して、組織切片に、組織の自家蛍光と、生体物質認識部位が結合した蛍光物質内包ナノ粒子によるドット状の蛍光を発生させる。そして、この蛍光を顕微鏡により拡大結像し、拡大結像された像の中からドット状の蛍光を検出して生体物質確認部位に対応する生体物質の発現レベルを評価する。
第2の実施の形態では、観察対象の組織切片に対し、生体物質認識部位が結合した蛍光物質内包ナノ粒子を用いた染色、及びHE染色を行い、染色された組織切片に励起光を照射して、組織切片に、組織の自家蛍光及びエオジンの自家蛍光と、生体物質認識部位が結合した蛍光物質内包ナノ粒子によるドット状の蛍光を発生させる。そして、この蛍光を顕微鏡により拡大結像し、拡大結像された像の中からドット状の蛍光を検出して生体物質確認部位に対応する生体物質の発現レベルを評価する。
なお、上記ドット状の蛍光を輝点ドットと呼ぶ。また、第2の実施の形態における染色を同時染色と呼ぶ。
【0025】
ここで、各実施の形態を説明する前に、図2〜図7を参照して、第1及び第2の実施の形態に共通する、顕微鏡の励起光照射による蛍光物質内包ナノ粒子の発光と、その発光が顕微鏡観察面(結像面)に結像された像とその像を顕微鏡カメラで取得したときの画素(撮像素子)との関係を説明する。
ここで、各実施の形態において、顕微鏡はカールツアイス社製正立顕微鏡Axio Imager M2を用いている。この顕微鏡付属のカメラ(顕微鏡設置カメラ)は画素サイズ6.4μm×6.4μmである。また、蛍光物質内包ナノ粒子は直径約100〜150nmである。
【0026】
図2は、ピントが合った状態で1つの蛍光物質単体及び1つの蛍光物質内包ナノ粒子を観察したときに(a)顕微鏡結像面に到達する発光量の大きさと、(b)顕微鏡結像平面から観察される像を顕微鏡設置カメラにより取得した画像と、(c)顕微鏡設置カメラの1画素と、を模式的に示す図である。
なお、図2〜図7において、顕微鏡結像面をxy平面とし、これと直交する方向をz方向として示している。また、蛍光物質単体と蛍光物質内包ナノ粒子の蛍光の発光強度は図中のパターンの濃度(濃いほうが強度が多い)により示されている。また、TH1は、「同時染色時の自家蛍光の発光量+その10%」の発光量である。
蛍光物質内包ナノ粒子は、図1に示すように複数の蛍光物質が集積した球状(ラグビーボール形状を含む)粒子であり、直径約100〜150nmである。この蛍光物質内包ナノ粒子から発せられた蛍光は、発光量が強いため、図2の(a)に示すように、より大きな径(直径1〜2.1μm)に拡散する。この拡散した径は、図2の(b)に示すように、顕微鏡の拡大倍率に応じて20倍〜40倍に拡大結像され、顕微鏡設置カメラにより顕微鏡画像として取得される。この拡大結像された像の直径は約20〜40μmであり、この像が観察者に視認される輝点ドットである。上述のように、顕微鏡設置カメラの1画素は6.4μm×6.4μmであるから、顕微鏡設置カメラの撮像面に結像される蛍光物質内包ナノ粒子の像(輝点ドット)は複数画素(約3〜7画素)に跨ることになる。
【0027】
図3は、全体的にピントがずれた状態で1つの蛍光物質単体及び1つの蛍光物質内包ナノ粒子を観察したときに(a)顕微鏡結像面に到達する発光量の大きさと、(b)顕微鏡結像平面から観察される像を顕微鏡設置カメラにより取得した画像と、を模式的に示す図である。図3に示すように、ピントがずれた場合、顕微鏡画像から観察される画像は蛍光物質単体、蛍光物質内包ナノ粒子とも周辺がぼけるので、顕微鏡結像面に到達する発光量は小さくなるが、それぞれの領域は大きくなり、従って、ピントがずれた場合でも、顕微鏡設置カメラの撮像面に結像される蛍光物質内包ナノ粒子の像(輝点ドット)は複数画素に跨ることになる。
【0028】
図4は、(a)複数の蛍光物質内包ナノ粒子の一部が顕微鏡結像面からみて重なったときの組織切片のz方向断面と、(b)ピントが合った状態で図4の(a)の組織切片を顕微鏡で観察したときに顕微鏡結像面に到達する発光量の大きさと、(c)顕微鏡結像平面から観察される像を顕微鏡設置カメラにより取得した画像と、を模式的に示す図である。図4に示すように、複数の蛍光物質内包ナノ粒子の一部が顕微鏡結像面からみて重なると、複数の蛍光物質内包ナノ粒子の蛍光が重なって、蛍光物質内包ナノ粒子の蛍光は、1つの蛍光物質内包ナノ粒子より大きい楕円状(実際にはサイズが非常に小さいのでドットに見える)の蛍光となる。よって、顕微鏡設置カメラの撮像面に結像される蛍光物質内包ナノ粒子の像(輝点ドット)は、複数画素に跨ることになる。
【0029】
図5は、(a)複数の蛍光物質内包ナノ粒子の一部が顕微鏡結像面からみて重なったときの組織切片のz方向断面と、(b)ピントがずれた状態で図5の(a)の組織切片を顕微鏡で観察したときに顕微鏡結像面に到達する発光量の大きさと、(c)顕微鏡結像面から観察される像を顕微鏡設置カメラにより取得した画像と、を模式的に示す図である。図5に示すように、ピントがずれた場合、蛍光物質内包ナノ粒子の周辺がぼけるので、顕微鏡結像面に到達する発光量は小さくなるが、領域としては大きくなる。従って、ピントがずれた場合でも、顕微鏡設置カメラの撮像面に結像される蛍光物質内包ナノ粒子の像(輝点ドット)は複数画素に跨ることになる。
【0030】
図6は、(a)複数の蛍光物質内包ナノ粒子が顕微鏡結像面からみて並んで配置されているときの組織切片のz方向断面と、(b)ピントが合った状態で図6の(a)の組織切片を顕微鏡で観察したときに顕微鏡結像面に到達する蛍光物質内包ナノ粒子の蛍光量の大きさと、(c)顕微鏡結像平面から観察される像を顕微鏡設置カメラにより取得した画像と、を模式的に示す図である。図6に示すように、複数の蛍光物質内包ナノ粒子が顕微鏡結像面からみて並んで配置されている場合、複数の輝点ドットが並んで見える。よって、顕微鏡設置カメラの撮像面に結像される蛍光物質内包ナノ粒子の像(輝点ドット)は、複数画素に跨ることになる。
【0031】
図7は、(a)複数の蛍光物質内包ナノ粒子が顕微鏡結像面からみて並んで配置されているときの組織切片のz方向断面と、(b)ピントがずれた状態で図7の(a)の組織切片を顕微鏡で観察したときに顕微鏡結像面に到達する発光量の大きさと、(c)顕微鏡結像面から観察される像を顕微鏡設置カメラにより取得した画像と、を模式的に示す図である。図7に示すように、ピントがずれた場合、蛍光物質内包ナノ粒子の周辺がぼけるので、顕微鏡結像面に到達する発光量は小さくなるが、領域としては大きくなる。従って、ピントがずれた場合でも、顕微鏡設置カメラの撮像面に結像される蛍光物質内包ナノ粒子の像(輝点ドット)は複数画素に跨ることになる。
【0032】
以上より、蛍光物質内包ナノ粒子が組織に吸着される位置や観察者によるピント調整状況によっては円形や楕円形状の両方の輝点が存在することとなるが、1個の輝点ドットは、少なくとも1画素以上の領域で表される。従って、顕微鏡設置カメラで取得した細胞切片の顕微鏡画像に、例えば二値化処理等を施すこと等により、顕微鏡画像から蛍光物質内包ナノ粒子を表す輝点ドットを自動検出することが可能である。また、目視により認識できることはいうまでもない。ただし、後述するように、自家蛍光と蛍光物質内包ナノ粒子の蛍光の光量差が所定以上であり、観察者が両者を区別して認識可能であることが必要である。
なお、デジタルカメラの個々の画素には、常に高出力を発する異常画素が存在することが知られている。この異常画素の影響(当該画素を輝点ドットと判別してしまう)を防止するには、1つの輝点ドットが少なくともx(y)方向、或いはx及びy方向に複数の画素に跨って結像されるように構成することが好ましい。ピントの影響等も考慮すると、画素サイズ6.4μm×6.4μmの場合には、顕微鏡の拡大倍率20倍に於いては、蛍光物質内包ナノ粒子の直径は100μm以上に設定することが好ましい。
【0033】
本願発明者等の実験確認では、HE染色を同時に行う方式(第2の実施の形態の方式)の場合、組織の自家蛍光とエオジンの自家蛍光(バックグラウンド)に対し、10%(1.1倍)以上の発光量差を蛍光物質内包ナノ粒子の蛍光(即ち、輝点ドット)が有していれば、8ビット(0〜255階調)、12ビット(0〜4095階調)の何れの処理系においても、顕微鏡画像から輝点ドットの自動検出処理が可能であった。HE染色を同時に行わない場合においては、組織の自家蛍光に対し、10%(1.1倍)以上の発光量差を蛍光物質内包ナノ粒子が有していれば、8ビット(0〜255階調)、12ビット(0〜4095階調)の何れの処理系においても輝点ドットの自動検出処理が可能であった。ただし、絶対発光量が少ないと自動検出が可能であっても目視は困難(視認時間を要する)になりがちである。自動検出処理の安定性や瞬時の視認性を考慮すると、自家蛍光と輝点ドットの間には、1.5倍以上、より好ましくは2倍以上の光量差が望まれる。
【0034】
図8に、エオジンの励起波長、発光波長と蛍光強度の関係を示す。
エオジンは蛍光物質であり、この蛍光は組織や細胞の形態の視認性向上に寄与するものである。しかし、エオジンの励起光吸収や蛍光の蛍光(発光)強度が大きくなるにつれて、蛍光物質内包ナノ粒子からの蛍光の視認性が落ちてしまう。そこで、HE染色を同時に行う同時染色の場合、励起光波長としては、エオジン自体の過度の発光を抑制し、蛍光物質内包ナノ粒子からの蛍光の視認性を上げる(エオジンの蛍光を含む自家蛍光と蛍光物質内包ナノ粒子からの蛍光の発光差を確保して両者を区別して認識可能とする)ために、エオジン自体が励起光を吸収しない又は励起光吸収し難い(従って、励起光によるエオジンの蛍光発光量が少ない)波長を選定することが好ましい。ここで、図8に示すように、励起光波長が560nm以上でエオジンの励起光の吸収はほとんどゼロに近くなる。一方、エオジンの蛍光がみられる限界(上限)は630nm付近である。従って、観察工程における励起光波長は560〜630nmの範囲のものを選択することが好ましい。また、前記蛍光物質としては当該励起光により580〜690nmの範囲、より好ましくは600〜630nmの範囲にピークを有する蛍光を発するものを用いることが好ましい。この範囲にピークを有する蛍光物質であれば、上記範囲の励起光を選択したときに、エオジンの蛍光を含む自家蛍光と蛍光物質内包ナノ粒子からの蛍光の発光差を確保して両者を区別して認識可能とする(両者の光量差10%(1.1倍)以上)を確保できるからである。
なお、HE染色を同時に行わない場合においては、組織の自家蛍光が微弱なため励起光の波長の範囲は、一般的な200nm〜700nmの範囲で特に限定せずとも自家蛍光と蛍光物質内包ナノ粒子からの蛍光の発光差を確保して両者を区別して認識可能とする(両者の光量差10%(1.1倍)以上)を確保することができる。
【0035】
なお、病理切片に励起光が照射されたとき、組織固有の自家発光(A)に対し、HE染色のエオジン色素起因の自家蛍光(B)は、
B≧30×A
であると言われている。
また、HE染色濃度自体が各施設により異なるので、
B≧50×A
となるケースも出てくる。
輝点ドットのバックグラウンドとなる自家蛍光の発光量Cは
C=A+B
であり、輝点ドットはCに対して埋没することのないような発光量が求められる。即ち、エオジンの発光量は、個人、臓器、組織切片中の細胞部位等によって大きくことなるが、上記条件(組織細胞固有の自家蛍光+エオジン自家蛍光の1.1倍以上)を満たすためには、蛍光物質内包ナノ粒子の一粒子あたり、CdSe−Qdotのおよそ30倍以上の発光量が必要となる。
【0036】
−第1の実施の形態−
以下、本発明に係る第1の実施の形態について説明する。
〔蛍光物質〕
第1の実施の形態で用いられる蛍光物質としては、蛍光有機色素及び量子ドット(半導体粒子)を挙げることができる。200〜700nmの範囲内の波長の紫外〜近赤外光により励起されたときに、400〜1100nmの範囲内の波長の可視〜近赤外光の発光を示すことが好ましい。
【0037】
蛍光有機色素としては、フルオレセイン系色素分子、ローダミン系色素分子、Alexa Fluor(インビトロジェン社製)系色素分子、BODIPY(インビトロジェン社製)系色素分子、カスケード系色素分子、クマリン系色素分子、エオジン系色素分子、NBD系色素分子、ピレン系色素分子、Texas Red系色素分子、シアニン系色素分子等を挙げることができる。
【0038】
具体的には、5−カルボキシ−フルオレセイン、6−カルボキシ−フルオレセイン、5,6−ジカルボキシ−フルオレセイン、6−カルボキシ−2’,4,4’,5’,7,7’−ヘキサクロロフルオレセイン、6−カルボキシ−2’,4,7,7’−テトラクロロフルオレセイン、6−カルボキシ−4’,5’−ジクロロ−2’,7’−ジメトキシフルオレセイン、ナフトフルオレセイン、5−カルボキシ−ローダミン、6−カルボキシ−ローダミン、5,6−ジカルボキシ−ローダミン、ローダミン 6G、テトラメチルローダミン、X−ローダミン、及びAlexa Fluor 350、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 500、Alexa Fluor 514、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 610、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 635、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750、BODIPY FL、BODIPY TMR、BODIPY 493/503、BODIPY 530/550、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY 576/589、BODIPY 581/591、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665(以上インビトロジェン社製)、メトキシクマリン、エオジン、NBD、ピレン、Cy5、Cy5.5、Cy7等を挙げることができる。単独でも複数種を混合したものを用いてもよい。
【0039】
量子ドットとしては、II−VI族化合物、III−V族化合物、又はIV族元素を成分として含有する量子ドット(それぞれ、「II−VI族量子ドット」、「III−V族量子ドット」、「IV族量子ドット」ともいう。)のいずれかを用いることができる。単独でも複数種を混合したものを用いてもよい。
【0040】
具体的には、CdSe、CdS、CdTe、ZnSe、ZnS、ZnTe、InP、InN、InAs、InGaP、GaP、GaAs、Si、Geが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
上記量子ドットをコアとし、その上にシェルを設けた量子ドットを用いることもできる。以下、本明細書中シェルを有する量子ドットの表記法として、コアがCdSe、シェルがZnSの場合、CdSe/ZnSと表記する。例えば、CdSe/ZnS、CdS/ZnS、InP/ZnS、InGaP/ZnS、Si/SiO2、Si/ZnS、Ge/GeO2、Ge/ZnS等を用いることができるが、これらに限定されない。
量子ドットは必要に応じて、有機ポリマー等により表面処理が施されているものを用いてもよい。例えば、表面カルボキシ基を有するCdSe/ZnS(インビトロジェン社製)、表面アミノ基を有するCdSe/ZnS(インビトロジェン社製)等が挙げられる。
【0042】
〔蛍光物質内包ナノ粒子〕
本実施の形態において蛍光物質内包ナノ粒子とは、蛍光物質がナノ粒子内部に分散されたものをいい、蛍光物質とナノ粒子自体とが化学的に結合していても、結合していなくてもよい。
ナノ粒子を構成する素材は特に限定されるものではなく、ポリスチレン、ポリ乳酸、シリカ等を挙げることができる。
【0043】
本実施の形態で用いられる蛍光物質内包ナノ粒子は、公知の方法により作製することが可能である。例えば、蛍光有機色素を内包したシリカナノ粒子は、ラングミュア 8巻 2921ページ(1992)に記載されているFITC内包シリカ粒子の合成を参考に合成することができる。FITCの代わりに所望の蛍光有機色素を用いることで種々の蛍光有機色素内包シリカナノ粒子を合成することができる。
【0044】
量子ドットを内包したシリカナノ粒子は、ニュー・ジャーナル・オブ・ケミストリー 33巻 561ページ(2009)に記載されているCdTe内包シリカナノ粒子の合成を参考に合成することができる。
【0045】
蛍光有機色素を内包したポリスチレンナノ粒子は、米国特許4326008(1982)に記載されている重合性官能基をもつ有機色素を用いた共重合法や、米国特許5326692(1992)に記載されているポリスチレンナノ粒子への蛍光有機色素の含浸法を用いて作製することができる。
【0046】
量子ドットを内包したポリマーナノ粒子は、ネイチャー・バイオテクノロジー19巻631ページ(2001)に記載されているポリスチレンナノ粒子への量子ドットの含浸法を用いて作製することができる。
【0047】
本実施の形態で用いられる蛍光物質内包ナノ粒子の平均粒径は特に限定されないが、30〜800nm程度のものを用いることができる。また、粒径のばらつきを示す変動係数(=(標準偏差/平均値)×100%)は特に限定されないが、20%以下のものを用いることが好ましい。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数の粒子について断面積を計測し、各計測値を円の面積としたときの円の直径を粒径として求めた。本願においては、1000個の粒子の粒径の算術平均を平均粒径とした。変動係数も、1000個の粒子の粒径分布から算出した値とした。
【0048】
〔生体物質認識部位と蛍光物質内包ナノ粒子との結合〕
本実施の形態に係る生体物質認識部位とは、目的とする生体物質と特異的に結合及び/又は反応する部位である。例えば、ヌクレオチド鎖、タンパク質、抗体等が挙げられる。したがって、そのような目的とする生体物質に結合する物質としては、前記タンパク質を抗原として認識する抗体やそれに特異的に結合する他のタンパク質等、および前記核酸にハイブリタイズする塩基配列を有する核酸等が挙げられる。具体的には、細胞表面に存在するタンパク質であるHER2に特異的に結合する抗HER2抗体、細胞核に存在するエストロゲン受容体(ER)に特異的に結合する抗ER抗体、細胞骨格を形成するアクチンに特異的に結合する抗アクチン抗体等があげられる。中でも抗HER2抗体及び抗ER抗体を蛍光物質内包ナノ粒子に結合させたものは、乳癌の投薬選定に用いることができ、好ましい。
【0049】
生体物質認識部位と蛍光物質内包ナノ粒子の結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着及び化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合等の結合力の強い結合が好ましい。
【0050】
また、生体物質認識部位と蛍光物質内包ナノ粒子の間を連結する有機分子があってもよい。例えば、生体物質との非特異的吸着を抑制するため、ポリエチレングリコール鎖を用いることができ、Thermo Scientific社製SM(PEG)12を用いることができる。
【0051】
蛍光物質内包シリカナノ粒子へ生体物質認識部位を結合させる場合、蛍光物質が蛍光有機色素の場合でも、量子ドットの場合でも同様の手順を適用することができる。例えば、無機物と有機物を結合させるために広く用いられている化合物であるシランカップリング剤を用いることができる。このシランカップリング剤は、分子の一端に加水分解でシラノール基を与えるアルコキシシリル基を有し、他端に、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、アルデヒド基等の官能基を有する化合物であり、上記シラノール基の酸素原子を介して無機物と結合する。具体的には、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ポリエチレングリコール鎖をもつシランカップリング剤(例えば、Gelest社製PEG−silane no.SIM6492.7)等が挙げられる。シランカップリング剤を用いる場合、二種以上を併用してもよい。
【0052】
蛍光有機色素内包シリカナノ粒子とシランカップリング剤との反応手順は、公知の手法を用いることができる。例えば、得られた蛍光有機色素内包シリカナノ粒子を純水中に分散させ、アミノプロピルトリエトキシシランを添加し、室温で12時間反応させる。反応終了後、遠心分離又はろ過により表面がアミノプロピル基で修飾された蛍光有機色素内包シリカナノ粒子を得ることができる。続いてアミノ基と抗体中のカルボキシル基とを反応させることで、アミド結合を介し抗体を蛍光有機色素内包シリカナノ粒子と結合させることができる。必要に応じて、EDC(1−Ethyl−3−[3−Dimethylaminopropyl]carbodiimide Hydrochloride:Pierce(登録商標)社製)のような縮合剤を用いることもできる。
【0053】
必要により、有機分子で修飾された蛍光有機色素内包シリカナノ粒子と直接結合しうる部位と、分子標的物質と結合しうる部位とを有するリンカー化合物を用いることができる。具体例として、アミノ基と選択的に反応する部位とメルカプト基と選択的に反応する部位の両方をもつsulfo−SMCC(Sulfosuccinimidyl 4[N−maleimidomethyl]−cyclohexane−1−carboxylate:Pierce社製)を用いると、アミノプロピルトリエトキシシランで修飾した蛍光有機色素内包シリカナノ粒子のアミノ基と、抗体中のメルカプト基を結合させることで、抗体結合した蛍光有機色素内包シリカナノ粒子ができる。
【0054】
蛍光物質内包ポリスチレンナノ粒子へ生体物質認識部位を結合させる場合、蛍光物質が蛍光有機色素の場合でも、量子ドットの場合でも同様の手順を適用することができる。すなわち、アミノ基等の官能基をもつポリスチレンナノ粒子へ蛍光有機色素、量子ドットを含浸することにより、官能基もつ蛍光物質内包ポリスチレンナノ粒子を得ることができ、以降EDC又はsulfo−SMCCを用いることで、抗体結合した蛍光物質内包ポリスチレンナノ粒子ができる。
【0055】
特定抗原を認識する抗体としては、M.アクチン,M.S.アクチン,S.M.アクチン,ACTH,Alk-1,α1-アンチキモトリプシン,α1-アンチトリプシン,AFP,bcl-2,bcl-6,β-カテニン,BCA 225,CA19-9,CA125,カルシトニン,カルレチニン,CD1a,CD3,CD4,CD5,CD8,CD10,CD15,CD20,CD21,CD23,CD30,CD31,CD34,CD43,CD45,CD45R,CD56,CD57,CD61,CD68,CD79a,"CD99, MIC2",CD138,クロモグラニン,c-KIT,c-MET,コラーゲン タイプIV,Cox-2,サイクリンD1,ケラチン,サイトケラチン(高分子量),パンケラチン,パンケラチン,サイトケラチン 5/6,サイトケラチン 7,サイトケラチン 8,サイトケラチン8/18,サイトケラチン 14,サイトケラチン 19,サイトケラチン 20,CMV,E-カドヘリン,EGFR,ER,EMA,EBV,第VIII因子関連抗原,ファッシン,FSH,ガレクチン-3,ガストリン,GFAP,グルカゴン,グリコフォリン A,グランザイム B,hCG,hGH,ヘリコバクターピロリ,HBc 抗原,HBs 抗原,ヘパトサイト特異抗原,HER2,HSV -I,HSV -II,HHV-8,IgA,IgG,IgM,IGF-1R,インヒビン,インスリン,カッパ L鎖,Ki67,ラムダ L鎖,LH,リゾチーム,マクロファージ,メランA,MLH-1,MSH-2,ミエロパーオキシダーゼ,ミオゲニン,ミオグロビン,ミオシン,ニューロフィラメント,NSE,p27 (Kip1),p53,p53,P63,PAX 5,PLAP,ニューモシスティス カリニ,ポドプラニン(D2-40),PGR,プロラクチン,PSA,前立腺酸性フォスファターゼ,Renal Cell Carcinoma,S100,ソマトスタチン,スペクトリン,シナプトフィジン,TAG-72,TdT,サイログロブリン,TSH,TTF-1,TRAcP,トリプターゼ,ビリン,ビメンチン,WT1,Zap-70が挙げられる。
【0056】
〔染色方法〕
以下、第1の実施の形態の染色方法について述べる。第1の実施の形態の染色方法は病理切片組織に限定せず、細胞染色にも適用可能である。
また、第1の実施の形態の染色方法が適用できる切片の作製法は特に限定されず、公知の方法により作製されたものを用いることができる。
【0057】
1)脱パラフィン工程
キシレンを入れた容器に病理切片を浸漬させ、パラフィンを除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また、必要により浸漬途中でキシレンを交換してもよい。
次いで、エタノールを入れた容器に病理切片を浸漬させ、キシレンを除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また、必要により浸漬途中でエタノールを交換してもよい。
次いで、水を入れた容器に病理切片を浸漬させ、エタノールを除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また、必要により浸漬途中で水を交換してもよい。
【0058】
2)賦活化処理
公知の方法にならい、目的とする生体物質の賦活化処理を行う。賦活化条件に特に定めはないが、賦活液としては、0.01Mクエン酸緩衝液(pH6.0)、1mMEDTA溶液(pH8.0)、5%尿素、0.1Mトリス塩酸緩衝液等を用いることができる。加熱機器は、オートクレーブ、マイクロウェーブ、圧力鍋、ウォーターバス等を用いることができる。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。温度は50−130℃、時間は5−30分で行うことができる。
次いで、PBS(Phosphate Buffered Saline:リン酸緩衝生理食塩水)を入れた容器
に、賦活化処理後の切片を浸漬させ、洗浄を行う。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また、必要により浸漬途中でPBSを交換してもよい。
【0059】
3)生体物質認識部位が結合された蛍光物質内包ナノ粒子を用いた染色
生体物質認識部位が結合された蛍光物質内包ナノ粒子のPBS分散液を病理切片に載せ、目的とする生体物質と反応させる。蛍光物質内包ナノ粒子と結合させる生体物質認識部位を変えることにより、さまざまな生体物質に対応した染色が可能となる。数種類の生体物質認識部位が結合された蛍光物質内包ナノ粒子を用いる場合には、それぞれの蛍光物質内包ナノ粒子PBS分散液を予め混合しておいてもよいし、別々に順次病理切片に載せてもよい。
温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。反応時間は、30分以上24時間以下であることが好ましい。
蛍光物質内包ナノ粒子による染色を行う前に、BSA含有PBS等、公知のブロッキング剤を滴下することが好ましい。
次いで、PBSを入れた容器に、染色後の切片を浸漬させ、未反応蛍光物質内包ナノ粒子の除去を行う。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は、3分以上30分以下であることが好ましい。また、必要により浸漬途中でPBSを交換してもよい。カバーガラスを切片に載せ、封入する。必要に応じて市販の封入剤を使用してもよい。
【0060】
4)蛍光顕微鏡下の観察
染色した病理切片に対し蛍光顕微鏡を用いて、広視野の顕微鏡画像から蛍光輝点の数又は発光輝度を計測する。用いた蛍光物質の吸収極大波長及び蛍光波長に対応した励起光源及び蛍光検出用光学フィルターを選択する。輝点数又は発光輝度の計測は、市販の画像解析ソフト、例えば、株式会社ジーオングストローム社製の全輝点自動計測ソフトG−Countを用いて行うことができる。
なお、顕微鏡を使用した画像解析自体は周知であり、例えば、特開平9−197290に開示される手法を用いることができる。
顕微鏡画像の視野は、3mm2以上であることが好ましく、30mm2以上であることがさらに好ましく、300mm2以上であることがさらに好ましい。
顕微鏡画像から計測された輝点数、及び/又は発光輝度に基づいて、目的とする生体物質の発現レベルを評価する。具体的には、輝点数が多いほど、生体物質の発現レベルが高いと評価することができる。また、発光輝度が高いほど、生体物質の発現レベルが高いと評価することができる。なお、目視による評価も可能である。
【実施例1】
【0061】
以下、実施例を挙げて第1の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0062】
〔蛍光物質内包ナノ粒子の合成〕
(合成例1:蛍光有機色素内包シリカ:Cy5内包シリカナノ粒子の合成)
下記工程(1)〜(5)の方法により、Cy5内包シリカナノ粒子(以下、ナノ粒子1という。)を作製した。
工程(1):Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)とテトラエトキシシラン400μL(1.796mmol)を混合した。
工程(2):エタノール40mLと14%アンモニア水10mLを混合した。
工程(3):工程(2)で作製した混合液を室温下で撹拌しているところに、工程(1)で調製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
工程(4):反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。
工程(5):エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を1回ずつ行った。
得られたナノ粒子1を走査型電子顕微鏡(SEM;日立(登録商標)社製S−800型)で観察したところ、平均粒径は110nm、変動係数は12%であった。
【0063】
(合成例2:量子ドット内包シリカ:発光波長655nmのCdSe/ZnS内包シリカナノ粒子の合成)
下記工程(1)〜(5)の方法により、CdSe/ZnS内包シリカナノ粒子(以下、ナノ粒子2という。)を作製した。
工程(1):CdSe/ZnSデカン分散液(インビトロジェン社Qdot655)10μLとテトラエトキシシラン40μLを混合した。
工程(2):エタノール4mLと14%アンモニア水1mLを混合した。
工程(3):工程(2)で作製した混合液を室温下で撹拌しているところに、工程(1)で作製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
工程(4):反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。
工程(5):エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を1回ずつ行った。
得られたナノ粒子2を走査型電子顕微鏡で観察したところ、平均粒径は130nm、変動係数は13%であった。
【0064】
〔蛍光物質内包シリカナノ粒子への抗体の結合〕
下記工程(1)〜(12)の方法により、蛍光物質内包シリカナノ粒子に対して抗体を結合させた。ここでは、ナノ粒子1を用いた例を示すが、ナノ粒子2についても同様である。
工程(1):1mgのナノ粒子1を純水5mLに分散させた。次いで、アミノプロピルトリエトキシシラン水分散液100μLを添加し、室温で12時間撹拌した。
工程(2):反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。
工程(3):エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を1回ずつ行った。
得られたアミノ基修飾したシリカナノ粒子のFT−IR測定を行ったところ、アミノ基に由来する吸収が観測でき、アミノ基修飾されたことが確認できた。
【0065】
工程(4):工程(3)で得られたアミノ基修飾したシリカナノ粒子を、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を2mM含有したPBSを用いて3nMに調整した。
工程(5):工程(4)で調整した溶液に、最終濃度10mMとなるようSM(PEG)12(サーモサイエンティフィック社製、succinimidyl−[(N−maleomidopropionamid)−dodecaethyleneglycol]ester)を混合し、1時間反応させた。
工程(6):反応混合液を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した
工程(7):EDTAを2mM含有したPBSを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による洗浄を3回行った。最後に500μLのPBSを用いて再分散させた。
【0066】
工程(8):抗HER2抗体100μgを100μLのPBSに溶解させたところに、1Mジチオスレイトール(DTT)を添加し、30分反応させた。
工程(9):反応混合物についてゲルろ過カラムにより過剰のDTTを除去し、還元化抗HER2抗体溶液を得た。
【0067】
工程(10):ナノ粒子1を出発原料として工程(7)で得られた粒子分散液と工程(9)で得られた還元化抗HER2抗体溶液とをPBS中で混合し、1時間反応させた。
工程(11):10mMメルカプトエタノール4μLを添加し、反応を停止させた。
工程(12):反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した後、EDTAを2mM含有したPBSを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による洗浄を3回行った。最後に500μLのPBSを用いて再分散させ、抗HER2抗体が結合された蛍光物質内包シリカナノ粒子を得た。
【0068】
ナノ粒子1を出発原料として得られた抗HER2抗体が結合された蛍光物質内包シリカナノ粒子を標識材料A、ナノ粒子2を出発原料として得られた抗HER2抗体が結合された蛍光物質内包シリカナノ粒子を標識材料Bとする。
【0069】
〔蛍光物質への抗体結合〕
比較例として、下記工程(1)〜(7)の方法により、Cy5に抗HER2抗体を結合させた。
工程(1):抗HER2抗体100μgを100μLのPBSに溶解させたところに、1Mジチオスレイトール(DTT)を添加し、30分反応させた。
工程(2):反応混合物についてゲルろ過カラムにより過剰のDTTを除去し、還元化抗HER2抗体溶液を得た。
工程(3):Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)を、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を2mM含有したPBSを用いて3nMに調整した。
工程(4):工程(3)で調整した溶液に、最終濃度10mMとなるようSM(PEG)12(サーモサイエンティフィック社製、succinimidyl−[(N−maleomidopropionamid)−dodecaethyleneglycol]ester)を混合し、1時間反応させた。
【0070】
工程(5):工程(4)で得られた反応混合物に、工程(2)で得られた還元化抗HER2抗体溶液をPBS中で混合し、1時間反応させた。
工程(6):10mMメルカプトエタノールμL4を添加し、反応を停止させた。
工程(7):ゲルろ過カラムにより過剰のメルカプトエタノールを除去し、Cy5結合した還元化抗HER2抗体溶液(標識材料D)を得た。
【0071】
Cy5の場合と同様にして、CdSeに抗HER2抗体を結合させたものを標識材料Cとする。
【0072】
〔蛍光物質内包ナノ粒子を用いた組織染色〕
下記工程(1)〜(10)の方法により、作製した抗体結合標識材料A〜Dを用い、予めFISHスコアを測定したヒト乳房組織の隣接切片を用いて免疫染色を行った。染色切片はコスモバイオ社製の組織アレイスライド(CB−A712)を用いた。FISHスコアで1〜9の24切片を用いた。
【0073】
工程(1):キシレンを入れた容器に病理切片を30分浸漬させた。途中3回キシレンを交換した。
工程(2):エタノールを入れた容器に病理切片を30分浸漬させた。途中3回エタノールを交換した。
工程(3):水を入れた容器に病理切片を30分浸漬させた。途中3回水を交換した。
工程(4):10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)に病理切片を30分浸漬させた。
工程(5):121度で10分オートクレーブ処理を行った。
工程(6):PBSを入れた容器に、オートクレーブ処理後の切片を30分浸漬させた。
工程(7):1%BSA含有PBSを組織に載せて、1時間放置した。
工程(8):1%BSA含有PBSで0.05nMに希釈した抗HER2抗体が結合された標識材料A〜Dを、各組織切片に載せて3時間放置した。
工程(9):PBSを入れた容器に、染色後の切片をそれぞれ30分浸漬させた。
工程(10):Merck Chemicals社製Aquatexを滴下後、カバーガラスを載せ封入した。
【0074】
〔実験結果〕
各標識材料A〜Dを用いて染色した組織切片について、視野(観察面積)を変えて複数の顕微鏡画像を取得し、画像解析ソフトにより、各顕微鏡画像から蛍光輝点の数を計測した。一例として、図9に、標識材料Aを用いた場合に顕微鏡設置カメラから取得した顕微鏡画像を示す。
なお、顕微鏡は、カールツアイス社製正立顕微鏡Axio Imager M2を用い、対物レンズを20倍に設定し、630〜670nmの波長を有する励起光を照射して、組織切片から発せられる蛍光を結像し、顕微鏡設置カメラ(モノクロ)により顕微鏡画像(画像データ)を取得し、画像解析ソフトにより輝点数を計測した。なお、上記カメラは画素サイズ6.4μm×6.4μm、縦画素数1040個、横画素数1388個(撮像領域8.9mm×6.7mm)を有している。
また、各標識材料A〜Dについて、各視野において、計測された輝点数とFISHスコアとの相関係数Rを算出した。FISHスコアは、HER2遺伝子の過剰発現レベルと対応しており、FISHスコアの値が大きいほど、HER2遺伝子の過剰発現レベルが高いことを示している。
【0075】
図10は、標識材料A(Cy5内包標識材料)を用いた場合の、複数の異なる視野(0.3mm2、3mm2、32mm2、324mm2)の顕微鏡画像から計測された輝点数と、FISHスコアとの関係を示す図である。図中に示すR2の値は、輝点数とFISHスコアとの相関係数の2乗値である。
【0076】
図11は、標識材料B(CdSe内包標識材料)を用いた場合の、複数の異なる視野(0.3mm2、3mm2、32mm2、324mm2)の顕微鏡画像から計測された輝点数と、FISHスコアとの関係を示す図である。
【0077】
図12は、標識材料C(CdSe)を用いた場合の、複数の異なる視野(0.3mm2、3mm2、32mm2、324mm2)の顕微鏡画像から計測された輝点数と、FISHス
コアとの関係を示す図である。
【0078】
図13は、標識材料D(Cy5)を用いた場合の、複数の異なる視野(0.3mm2、3mm2、32mm2、324mm2)の顕微鏡画像から計測された輝点数と、FISHスコ
アとの関係を示す図である。
【0079】
表1及び図14に、各標識材料A〜Dについて、各視野(観察面積)の顕微鏡画像から計測された輝点数とFISHスコアとの相関係数の2乗値(R2)を示す。
【0080】
【表1】

【0081】
標識材料Aを用いて組織切片を染色し、0.3mm2の視野の顕微鏡画像から輝点数を計測した場合には、輝点数とFISHスコアとの相関係数の2乗値(R2)は0.1241であり、輝点数とFISHスコアには、相関が見られなかった。0.3mm2の視野では、視野が狭すぎ、ばらつきが大きいためであると考えられる。
【0082】
標識材料Aを用いて組織切片を染色し、3mm2の視野の顕微鏡画像から輝点数を計測した場合には、輝点数とFISHスコアとの相関係数の2乗値(R2)は0.5387であった。この値は、相関係数Rに換算すると約0.734となり、輝点数とFISHスコアには、強い相関があるといえる。
【0083】
標識材料Aを用いて組織切片を染色し、32mm2の視野の顕微鏡画像から輝点数を計測した場合には、輝点数とFISHスコアとの相関係数の2乗値(R2)は0.9011であった。視野が32mm2の場合には、視野が3mm2の場合と比較して、さらに相関が強いといえる。
【0084】
標識材料Aを用いて組織切片を染色し、324mm2の視野の顕微鏡画像から輝点数を計測した場合には、輝点数とFISHスコアとの相関係数の2乗値(R2)は0.9887であった。視野が324mm2の場合には、視野が32mm2の場合と比較して、さらに相関が強いといえる。
【0085】
標識材料Bを用いた場合も同様に、3mm2以上の視野では、輝点数とFISHスコアには相関があり、視野が広いほど相関係数が大きくなることがわかった。
【0086】
また、標識材料A,Bを用いた場合の結果から、324mm2の視野では輝点数とFISHスコアとの相関係数の2乗値(R2)が十分1に近いことがわかった。
【0087】
一方、標識材料C又は標識材料Dを用いて組織切片を染色した場合には、輝点数とFISHスコアには、相関が見られなかった。
【0088】
また、観察対象となる組織切片の厚さ(通常は数μm)の上方、或いは下方部に顕微鏡のピントを若干ずらした場合であっても、上記の状況に大きな差異は見られなかった。
【0089】
以上の結果から、標識材料A,Bを用いて広視野で組織切片を観察した場合に、輝点数とFISHスコアとの相関が良好であり、輝点数に基づいてHER2の発現レベルを評価することが可能であることがわかった。すなわち、FISH法のような手間のかかる方法を用いなくても、3mm2以上の視野の画像から輝点数を計測することにより、特定の生体物質の発現レベルを評価することができ、FISH法に代わる方法として有効である。したがって、免疫組織化学画像を効率的に評価することができる。
【0090】
標識材料A,Bは、蛍光物質を内包した粒子を用いており、蛍光物質単体を用いた標識材料C,Dと比較して高輝度であるため、画像から輝点の1点1点を捉えやすく、輝点数を精度良く計測することができる。
このように、高輝度の蛍光標識材料を免疫組織化学の標識材料として用いることにより、汎用の蛍光顕微鏡システムにおいて、対物レンズが20倍程度の低倍率画像でも、標的分子と結合している標識材料が認識可能となる。
また、低倍率の蛍光画像を複数枚以上組み合わせることにより、組織切片上の大きな面積領域を観察可能となる。このことにより、従来見逃されていたような微量の生体物質の検出、及び、定量評価が可能となったと考えられる。
【0091】
なお、上記実施例では、蛍光輝点の数に基づいてHER2の発現レベルを評価する場合について説明したが、顕微鏡画像から蛍光輝点の発光輝度を計測し、発光輝度に基づいてHER2の発現レベルを評価することも可能である。
【0092】
−第2の実施の形態−
次に、本発明に係る第2の実施の形態について説明する。
第2の実施の形態においては、組織細胞の形態観察のため、生体物質認識部位が結合した蛍光物質内包ナノ粒子を用いた染色にHE染色を併用(同時染色)するケースを示す。
第2の実施の形態に係る蛍光物質、蛍光物質内包ナノ粒子、生体物質認識部位、生体物質認識部位と蛍光物質内包ナノ粒子との結合については、第1の実施の形態で説明したものと同様であるので説明を援用する。即ち、第2の実施の形態においても、第1の実施の形態で説明したような蛍光標識材料(生体物質認識部位が結合された蛍光物質内包ナノ粒子)を用いる。
【0093】
ここで、組織およびエオジンの自家蛍光は、たとえば350nmの励起波長を照射した場合はおよそ400〜600nmにわたる(約440nmにピークを有する)波長の蛍光を発し、490nmの励起波長を照射した場合はおよそ500〜650nmにわたる(約540nmにピークを有する)波長の蛍光を発する。したがって、同じ波長の励起光を照射したときに組織およびエオジンの自家蛍光と波長が重複する蛍光を発するものを、蛍光標識材料のための蛍光物質として選択することにより、共通のカットフィルタを用いて、同一視野において、それらの蛍光を観察することが可能である。この場合、蛍光物質内包ナノ粒子が発する蛍光は高輝度なので、組織等の自家蛍光(バックグラウンド)に埋もれることなく識別することができる。組織等の発する自家蛍光の強度および蛍光物質内包ナノ粒子が発する蛍光の強度は、それらの蛍光波長の重なり具合が好ましいものとなるような励起光の波長や蛍光物質を選択することにより、適切なバランスを有するものとなるよう調整することが好ましい。
本実施形態における蛍光物質は、励起光波長550〜700nmを照射した時、蛍光波長が580〜800nmとなる蛍光物質である。
好ましい蛍光物質は、励起光波長575〜620nmを照射した時、蛍光波長が580〜650nmとなる蛍光物質である。
より好ましい蛍光物質は、励起光波長575〜600nmを照射した時、蛍光波長が600〜650nmとなる蛍光物質である。
最も好ましい蛍光物質は、励起光波長580〜595nmを照射した時、蛍光波長が600〜620nmとなる蛍光物質である。
【0094】
第2の実施の形態における免疫組織化学法は、前述したような蛍光標識材料を用いて組織切片を染色する工程および必要に応じてHE染色を行う工程(「染色工程」と称する。)と、励起光を照射して所定の情報を得る工程(「観察工程」と称する。)とを含む。
【0095】
〔染色工程〕
第2の実施の形態の免疫組織化学法における染色工程は上述したような特定の蛍光標識材料を用いて組織切片の染色を行う。染色する対象は病理切片組織に限定されず、細胞染色にも適用可能である。第2の実施の形態における染色方法が適用できる切片の作製法は特に限定されるものではなく、公知の方法により作製された切片を用いることができる。たとえば、病理切片として汎用されているパラフィン包埋切片を用いる場合は、次のような手順で染色すればよい。
【0096】
1)脱パラフィン処理
脱パラフィン処理については、第1の実施の形態で説明したものと同様であるので説明を援用する。
【0097】
2)賦活化処理
賦活化処理については、第1の実施の形態で説明したものと同様であるので説明を援用する。
【0098】
3)蛍光標識材料による染色処理
生体物質認識部位および蛍光物質内包ナノ粒子を備えた蛍光標識材料のPBS分散液を調製し、病理切片に載せて、目的とする生体物質と反応させる。複数の生体物質を目的として染色する場合は、各生体物質に対応した生体物質認識部位および互いに異なる蛍光物質内包ナノ粒子を備えた蛍光標識材料のPBS分散液をそれぞれ調製し、それらを病理切片に載せて、それぞれ目的とする生体物質と反応させればよい。病理切片に載せる際には、それぞれの蛍光標識材料のPBS分散液をあらかじめ混合してもよいし、別々に順次載せてもよい。
【0099】
温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。反応時間は30分以上24時間以下であることが好ましい。なお、蛍光標識材料による染色を行う前に、BSA含有PBSなど公知のブロッキング剤を滴下することが好ましい。
【0100】
ついで、PBSを入れた容器に染色後の切片を浸漬させ、未反応蛍光物質内包ナノ粒子を除去する。温度は特に限定されるものではないが、室温で行うことができる。浸漬時間は3分以上30分以下であることが好ましい。必要により浸漬途中でPBSを交換してもよい。
【0101】
また、第2の実施の形態では、組織自体が発する自家蛍光を利用してそれらの形態観察を行うことができるため、その他の染色液等を用いる必要はないが、光学顕微鏡による組織観察において汎用されているHE(ヘマトキシリン−エオジン)染色をあわせて行う。ヘマトキシリンは青紫色の色素であり、細胞核、骨組織、軟骨組織の一部、漿液成分など(好塩基性の組織等)を染色する。エオジンは赤〜ピンク色の色素であり、細胞質、軟部組織の結合組織、赤血球、線維素、内分泌顆粒など(好酸性の組織等)を染色する。このうちエオジンは自家蛍光を発するので、本発明における所定の蛍光標識材料による染色とともにHE染色を行った場合は、励起光を照射した際に、組織等が発する自家蛍光とともに細胞質等を染色したエオジンが発する自家蛍光により、細胞または組織の形態に関する情報をより取得しやすくなる。
染色処理後、カバーガラスを切片に載せて封入する。必要に応じて市販の封入剤を使用してもよい。
【0102】
〔観察工程〕
観察工程は、上記工程により染色された組織切片に励起光を照射することにより、組織の自家蛍光及びエオジンの自家蛍光に基づく細胞または組織の形態情報(細胞形態情報)を取得し、かつ蛍光物質内包ナノ粒子による蛍光に基づく細胞または組織内の特定の生体物質の発現レベルを表す情報(第2の実施形態において抗原分子情報とよぶ)を取得する工程である。
【0103】
励起光は、組織および必要に応じて用いられるエオジンが所望の波長の自家蛍光を発し、かつ蛍光物質内包ナノ粒子中の蛍光物質が所望の波長の蛍光を発する、適切な波長を有するものであればよく、励起光の照射手段も特に限定されるものではない。たとえば、蛍光顕微鏡が備えるレーザ光源から、必要に応じて所定の波長を選択的に透過させるフィルターを用いて、適切な波長および出力の励起光を染色された組織切片に照射すればよい。
【0104】
細胞形態情報および抗原分子情報は、同一視野で取得する、すなわち、一枚の染色切片から得られる、組織の自家蛍光および蛍光標識材料が発する蛍光の両方が同一の視野に含まれるようにしつつも、それらを区別して認識し、それぞれに基づいて細胞形態情報および抗原分子情報を取得することが好適である。もちろん、必要であれば、たとえば組織の自家蛍光または蛍光標識材料が発する蛍光の一方を十分に低減しうる適切なフィルターを用いることにより、ある視野で細胞形態情報のみを取得するようにし、他の視野で抗原分子情報を取得するようにしてもよい。
【0105】
また、細胞形態情報および抗原分子情報は、迅速な観察が行えるよう(蛍光)顕微鏡の鏡筒から取得するようにしてもよいし、(蛍光)顕微鏡に設置されたカメラが撮影した画像を別途表示手段(モニタ等)に表示し、それを観察することにより取得するようにしてもよい。用いる蛍光物質によるが、顕微鏡の鏡筒からの目視により十分に抗原分子情報を取得することができなくても、カメラが撮影した画像から抗原分子情報を取得することが可能な場合もある。
【0106】
前記抗原分子情報を取得することとしては、たとえば、顕微鏡カメラから蛍光の輝点数または発光輝度を基に、一細胞あたりの標的抗原分子数もしくは標的抗原輝度を計測することが挙げられる。用いた蛍光物質の吸収極大波長および蛍光波長に対応した励起光源および蛍光検出用光学フィルターを選択すればよい。輝点数または発光輝度の計測には、市販の画像解析ソフト(例えば、株式会社ジーオングストローム社製全輝点自動計測ソフトG-Count)を用いることが好適であるが、計測手段は特に限定されるものではない。この計測結果より、目的とする生体物質(ここでは抗原)の発現レベルを評価することができる。具体的には、輝点数が多いほど、生体物質の発現レベルが高いと評価することができる。また、発光輝度が高いほど、生体物質の発現レベルが高いと評価することができる。なお、目視による評価も可能である。
【実施例2】
【0107】
以下、第2の実施の形態における実施例(実施例2)について説明する。
[合成例1]蛍光有機色素(Cy5)内包シリカナノ粒子の合成
下記工程(1)〜(4)の方法により、蛍光有機色素としてCy5を内包するシリカナノ粒子(以下「ナノ粒子A」と称する。)を作製した。
工程(1):Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)とテトラエトキシシラン400μL(1.796mmol)を混合した。
工程(2):エタノール40mLと14%アンモニア水10mLを混合した。
工程(3):工程(2)で調製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(1)で調製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
工程(4):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
得られたナノ粒子Aの1000個について走査型電子顕微鏡(SEM;日立社製S−800型)観察を行ったところ、平均粒径は110nm、変動係数は12%であった。
【0108】
[合成例2]量子ドット(CdSe/ZnS)内包シリカナノ粒子の合成
下記工程(1)〜(4)の方法により、量子ドットとしてCdSe/ZnSを内包するシリカナノ粒子(以下「ナノ粒子B」と称する。)を作製した。なお、CdSe/ZnSの発光波長のピークは655nmである。
工程(1):CdSe/ZnSデカン分散液(インビトロジェン社Qdot655)10μLとテトラエトキシシラン40μLを混合した。
工程(2):エタノール4mLと14%アンモニア水1mLを混合した。
工程(3):工程(2)で調製した混合液を室温下で撹拌しているところに、工程(1)で調製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
工程(4):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を1回ずつ行った。
得られたナノ粒子Bの1000個についてSEM観察を行ったところ、平均粒径は130nm、変動係数は13%であった。
【0109】
[合成例3]蛍光有機色素(テキサスレッド)内包シリカナノ粒子の合成
工程(1)の原料としてCy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(GEヘルスケア社製)の代わりにテキサスレッドスルホニルクロライドを用いたこと以外は合成例1と同様にして、蛍光有機色素としてテキサスレッドを内包するシリカナノ粒子(以下「ナノ粒子C」と称する。)を作製した。
得られたナノ粒子Cの1000個について走査型電子顕微鏡(SEM;日立社製S−800型)観察を行ったところ、平均粒径は108nm、変動係数は11%であった。
【0110】
[作製例1]ナノ粒子Aに抗HER2抗体を結合させた標識材料の作製
上記合成例1で作製したナノ粒子Aに、以下の手順により抗HER2抗体を結合させ、標識材料(「標識材料a」と称する。)を作製した。
工程(1):ナノ粒子A1mgを純水5mLに分散させた。アミノプロピルトリエトキシシラン水分散液100μLを添加し、室温で12時間撹拌した。
工程(2):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。
工程(3):エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を1回ずつ行った。生成物のFT−IR測定を行ったところ、アミノ基に由来する吸収が観測でき、ナノ粒子Aをアミノ基修飾できたことを確認できた。
工程(4):工程(3)で得られたアミノ基修飾したナノ粒子Aを、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を2mM含有したPBS(リン酸緩衝液生理的食塩水)を用いて3nMに調整した。
工程(5):工程(4)で調製した溶液に、最終濃度10mMとなるようSM(PEG)12(サーモサイエンティフィック社製、succinimidyl-[(N-maleomidopropionamid)-dodecaethyleneglycol]ester)を混合し、1時間反応させた。
工程(6):反応混合液を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した
工程(7):EDTAを2mM含有したPBSを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による洗浄を3回行った。最後に500μLPBSを用い再分散させた。
工程(8):抗HER2抗体を100μgを100μLのPBSに溶解させたところに、1Mジチオスレイトール(DTT)を添加し、30分反応させた。
工程(9):反応混合物についてゲルろ過カラムにより過剰のDTTを除去し、還元化抗HER2抗体溶液を得た。
工程(10):ナノ粒子Aを出発原料にして工程(7)で得られた粒子分散液と工程(9)で得られた還元化抗HER2抗体溶液とをPBS中で混合し、1時間反応させた。
工程(11):10mMメルカプトエタノール4μLを添加し、反応を停止させた。
工程(12):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した後EDTAを2mM含有したPBSを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による洗浄を3回行った。最後に500μLPBSを用い再分散させた抗HER2抗体が結合したナノ粒子A(標識材料a)を得た。
【0111】
[作製例2]ナノ粒子Bに抗HER2抗体を結合させた標識材料の作製
ナノ粒子Aの代わりにナノ粒子Bを用いたこと以外は作製例1と同様の手順により、ナノ粒子Bに抗HER2抗体を結合させた標識材料(「標識材料b」と称する。)を作製した。
【0112】
[作製例3]ナノ粒子Cに抗HER2抗体を結合させた標識材料の作製
ナノ粒子Aの代わりにナノ粒子Cを用いたこと以外は作製例1と同様の手順により、ナノ粒子Cに抗HER2抗体を結合させた標識材料(「標識材料c」と称する。)を作製した。
【0113】
[作製例4]蛍光有機色素(Cy5)に抗HER2抗体を結合させた標識材料の作製
Cy5に抗HER2抗体を結合させた標識材料(「標識材料d」と称する。)を以下の手順により作製した。
工程(1):抗HER2抗体100μgを100μLのPBSに溶解させたところに、1Mジチオスレイトール(DTT)を添加し、30分反応させた。
工程(2):反応混合物についてゲルろ過カラムにより過剰のDTTを除去し、還元化抗HER2抗体溶液を得た。
工程(3):Cy5のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(GEヘルスケア社製)1mg(0.00126mmol)を、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を2mM含有したPBS(リン酸緩衝液生理的食塩水)を用いて3nMに調整した。
工程(4):工程(3)で調製した溶液に、最終濃度10mMとなるようSM(PEG)12(サーモサイエンティフィック社製、succinimidyl-[(N-maleomidopropionamid)-dodecaethyleneglycol]ester)を混合し、1時間反応させた。
工程(5):工程(4)で得られた反応混合物に工程(2)で得られた還元化抗HER2抗体溶液をPBS中で混合し、1時間反応させた。
工程(6):10mMメルカプトエタノール4μLを添加し、反応を停止させた。
工程(7):ゲルろ過カラムにより過剰のメルカプトエタノールを除去し、Cy5で標識化した還元化抗HER2抗体(標識材料d)溶液を得た。
【0114】
[作製例5]量子ドット(CdSe/ZnS)に抗HER2抗体を結合させた標識材料
の作製
ライフテクノロジー社製Qdot Antibody Conjugation Kitのプロトコールに従って、量子ドット(CdSe/ZnS)に抗HER2抗体を結合させた標識材料(「標識材料e」と称する。)を作製した。具体的な手順は以下の通りである。抗HER2抗体を20mMジチオスレイトール(DTT)で還元処理を行い、ゲルろ過カラムにより過剰のDTTを除去することにより、還元化抗体溶液を得た。一方量子ドットはSMCCと反応後ゲルろ過カラムにより過剰のSMCCを除去することにより還元化抗体と反応可能なマレイミド化量子ドットを得た。得られた還元化抗体とマレイミド化量子ドットを混合1時間反応後100μMになるようメルカプトエタノールを加え反応を停止した。反応、反応停止後の溶液をゲル濾過する事で量子ドットを結合した抗HER2抗体を得た。
【0115】
<標識材料a〜eを用いた組織免疫染色および観察>
上記作製例で作製した標識材料a〜eを用い、下記の手順に従って、ヒト乳房組織の隣接切片の免疫染色を行った。この隣接切片は、コスモバイオ社製の組織アレイスライド(CB-A712)から選ばれた、あらかじめ測定したFISHスコアが1〜9までの24切片である。
1)キシレンを入れた容器に病理切片を30分浸漬させた。途中3回キシレンを交換した。
2)エタノールを入れた容器に病理切片を30分浸漬させた。途中3回エタノールを交換した。
3)水を入れた容器に、病理切片を30分浸漬させた。途中3回水を交換した。
4)10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)に病理切片を30分浸漬させた。
5)121度10分オートクレーブ処理を行った。
6)PBSを入れた容器に、オートクレーブ処理後の切片を30分浸漬させた。
7)1%BSA含有PBSを組織に載せて、1時間放置した。
8)1%BSA含有PBSで0.05nMに希釈した抗HER2抗体結合した標識材料a〜eを、各組織切片に載せて3時間放置した。
9)PBSを入れた容器に、染色後の切片をそれぞれ30分浸漬させた。
10)4%中性パラホルムアルデヒド溶液で10分間固定処理した後、HE染色を行った。
11)Merck Chemicals社製Aquatexを滴下後、カバーガラスを載せ封入した。
【0116】
上記手順により染色した切片について、カールツアイス社製正立顕微鏡Axio Imager M2を用いて、所定の波長を有する励起光を照射しながら、所定の波長を有する蛍光について、顕微鏡設置カメラからの顕微鏡画像の取得および顕微鏡鏡筒からの観察を行った。励起波長および観察した蛍光の発光波長は、蛍光物質として(単体か、蛍光物質内包ナノ粒子に内包されているかを問わない)Cy5を用いた場合はそれぞれ630nmおよび680nmであり、CdSe/ZnSを用いた場合はそれぞれ385nmおよび620nmであり、テキサスレッドを用いた場合はそれぞれ590nmおよび620nmである。蛍光標識からの蛍光の識別具合についての結果を表2に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
また、図15〜図19に、上記顕微鏡設置カメラから取得した画像を示す。
図15は、標識材料dを用いた場合に顕微鏡設置カメラから取得した画像である。
る。エオジン由来の微弱発光(自家蛍光)による細胞形態情報は観察できるが、抗原分子情報は細胞形態情報に埋もれて識別できない状態になっている。なお、顕微鏡鏡筒から観察した場合も同様の観察像となっている。
図16は、標識材料eを用いた場合に顕微鏡設置カメラから取得した画像である。エオジン由来の微弱発光(自家蛍光)による細胞形態情報は観察できるが、抗原分子
情報は細胞形態情報に埋もれて識別できない状態になっている。なお、顕微鏡鏡筒から観察した場合も同様の観察像となっている。
図17は、標識材料aを用いた場合に顕微鏡設置カメラから取得した画像である。輝点状に見える抗原分子情報とゆるやかにつながるエオジン由来の微弱発光(自家蛍光)による細胞形態情報が識別可能な状態となっている。なお、顕微鏡鏡筒からは抗原分子情報と細胞形態情報は識別することができなかった。
図18は、標識材料bを用いた場合に顕微鏡設置カメラから取得した画像である。輝点状に見える抗原分子情報とゆるやかにつながるエオジン由来の微弱発光(自家蛍光)による細胞形態情報が識別可能な状態となっている。なお、顕微鏡鏡筒から観察した場合も同様の観察像となっている。
図19は、標識材料cを用いた場合に顕微鏡設置カメラから取得した画像である。輝点状に見える抗原分子情報とゆるやかにつながるエオジン由来の微弱発光(自家蛍光)による細胞形態情報が識別可能な状態となっている。なお、顕微鏡鏡筒から観察した場合も同様の観察像となっている。
【0119】
顕微鏡設置カメラ(モノクロ)により顕微鏡に装填された1枚のスライド上の組織切片の顕微鏡画像を取得した場合、表2に示すように、標識材料a〜cを用いた場合に、バックグラウンド(組織の自家蛍光+エオジン蛍光)と蛍光物質内包ナノ粒子からの蛍光とは明確に識別可能となっている。従って、これらの蛍光標識材料を用いて取得した組織切片の顕微鏡画像を解析し、蛍光の輝点数または発光輝度を基に、一細胞あたりの標的抗原分子数もしくは標的抗原輝度を計測すれば、この計測結果より、目的とする生体物質(ここでは抗原)の発現レベルを評価することができる。具体的には、輝点数が多いほど、生体物質の発現レベルが高いと評価することができる。また、発光輝度が高いほど、生体物質の発現レベルが高いと評価することができる。なお、目視による評価も可能である。
【0120】
実施例2では、高輝度の蛍光物質内包ナノ粒子を免疫組織化学法の蛍光標識材料に用いることにより、同一切片、同一蛍光視野で、細胞等の形態情報(組織の自家蛍光+エオジンの自家蛍光)とともに抗原分子の発現レベルを反映した情報(蛍光物質内包ナノ粒子からの蛍光)を観察できるので、病理医の診断精度の向上、利便性向上を図ることができる。モノクロカメラを用いた場合でも、抗原分子に結合した蛍光物質内包ナノ粒子が発する高輝度の蛍光を、細胞等が発する自家蛍光から区別して認識することができる。また、光学フィルターを用いて励起光によるノイズカットすることも妨げられないので、高感度の測定を維持することができる。
【0121】
以上、第1の実施の形態及び第2の実施の形態について説明したが、本件発明においては、対象となる病変(がん)種に応じて生体物質認識部位は異ならしめる必要があるものの、病理切片を用いた目的とする生体物質の発現レベルの情報の観察は、輝点ドットの確認という共通事項となる。従って、病変種に拘わらず、病理切片観察が各施設内或いは施設を跨いだ標準化も可能となる。
【0122】
また、従来熟練と費用を費やすFISH法を含む3枚のスライドによる乳癌診断方法においては、本願発明の方法をFISH法に変わる方法として採用可能となり、コスト低減が図れる。
【0123】
また、HE染色したスライドの細胞形態情報と免疫染色(DAB)したスライドによる抗原分子情報という2枚のスライドに基づき病理診断を行う場合においても、後者のスライドによる抗原分子情報を本願発明による抗原分子情報に置換することが可能である。
【0124】
また、発展途上の病理医が、上述の3枚のスライドの情報を用いた診断に加えて、本願発明により染色したスライドの情報を追加して、輝点数の情報を教示データとすることで、自己の診断能向上を図るべく学習をすることができる。
【0125】
また、本願出願人が別途出願した特願2011−059172のように、1枚のスライドを用いて、HE染色と本願発明の染色を同時に行い、顕微鏡にスライドをセットした後、顕微鏡の光源(励起光)の波長を、まずは従来から見慣れたHE画像(カラー画像)を表示するように設定しておき、当該HE画像中の関心領域に視線を集中し、しかる後、光源波長を切り替えて、輝点ドットを発光させれば、視線を集中していた関心領域における輝点ドットの点在具合を一目で、短時間に視認判別することができる。
顕微鏡の一度に見ることのできる視野範囲が比較的狭い場合、病理切片上の診断対象領域を数回に分けて観察することとなるが、複数の視野のうち所定の視野に注目して、当該視野が顕微鏡の観察範囲となるように顕微鏡のスライド固定ステージを調整し、光源波長を切り替えても、上記と同様の効果が得られる。
【0126】
また、最初に顕微鏡のスライド固定ステージを順次x方向又はy方向に移動操作して、顕微鏡設置カメラにより各視野の撮影を繰り返し、撮影により得られた各視野の画像データから輝点ドット(数、或いは、数×輝度の積算値)を算出し、予め定められた法則、例えば、輝点ドットが多いほうから、或いは、少ないほうから、或いは、所定数の範囲にあるものから等に基づき、顕微鏡において対応する視野位置となるようにスライド固定ステージを調整して、顕微鏡の鏡筒より各視野の観察を行うことも可能である。つまり輝点ドット(数、或いは、数×輝度の積算値)という特徴量に応じて、細胞形態情報の観察すべき順番を可変制御することも可能である。
【0127】
なお、上記実施の形態における記述内容は、本発明の好適な一例であり、これに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光物質を内包した球状粒子に生体物質認識部位が結合された染色試薬を用いて組織切片を染色する染色工程と、
上記組織切片に励起光を照射して、前記組織切片に自家蛍光させるとともに、前記球状粒子にドット状の蛍光を発生させる照射工程と、
前記自家蛍光、及び/又は、前記ドット状の蛍光を拡大結像する結像工程と、
前記拡大結像された像の中から前記ドット状の蛍光を検出して前記生体物質認識部位に対応する生体物質の発現レベルを評価する評価工程と、
を含む組織評価方法。
【請求項2】
前記染色工程は、前記蛍光物質を内包した球形粒子に前記生体物質認識部位が結合された染色試薬及びHE(ヘマトキシリン−エオジン)染色試薬を用いて前記組織切片を同時染色する請求項1に記載の組織評価方法。
【請求項3】
前記組織切片の自家蛍光と前記球状粒子のドット状の蛍光の発光量差が
前記球状粒子蛍光≧1.1×自家蛍光
である請求項1又は2に記載の組織評価方法。
【請求項4】
前記結像工程は、2次元方向に複数の撮像素子が配列された撮像面に前記自家蛍光、及び/又は、前記ドット状の蛍光を拡大結像してその画像を取得し、
前記球状粒子の径及び/又は前記ドット状の蛍光の拡大倍率は、前記ドット状の蛍光が前記撮像面において2以上の撮像素子に跨って結像されるように設定される請求項1〜3の何れか一項に記載の組織評価方法。

【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−88296(P2013−88296A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229315(P2011−229315)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/超早期高精度診断システムの研究開発:病理画像等認識技術の研究開発/病理画像等認識自動化システムの研究開発(1粒子蛍光ナノイメージングによる超高精度がん組織診断システム)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】