説明

経口投与用組成物のマーキング方法

【課題】 本発明は、医薬品や食品のような経口投与用組成物等の品質を損なわずに優れた識別性を有する経口投与用組成物を得ることができ、かつ、生産性にも優れたマーキング方法の提供する。
【解決手段】 本発明に係るマーキング方法は、経口投与用組成物へのマーキング方法であって、変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる工程と、前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように、波長が200nm〜1100nmであり、平均出力が0.1W〜50Wであるレーザー光を、前記経口投与用組成物の表面に走査させる工程とを含む。本発明で用いる変色誘起酸化物は、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品や食品等の経口投与用組成物の表面に、識別性マークを施す方法に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤やカプセル剤等の経口投与用医薬組成物は、医薬品の調剤行為や服薬ミスを未然に防止するため、包装容器だけでなく、製剤それ自体にも識別性が要求されている。しかし、錠剤やカプセルの形状、色調だけでは識別性には限界があるため、さらに錠剤やカプセル剤の表面にマークを施し識別性を高めている。例えば、フィルムコート錠やカプセル剤の表面に、直接、ゴムローラーを用いて文字等を印刷する転写式印刷、もしくはインクをドット印刷するインクジェット印刷である。あるいは、裸錠の場合は、凹凸を施した打錠杵で製錠することにより刻印する方法が古くから行われてきた。
【0003】
しかしながら、これらの古典的方法、例えば、転写式印刷法では、錠剤やカプセルの表面状態や、印字する場所の雰囲気等の影響を受けやすく、明瞭な印字を安定して施すためには管理が非常に煩雑である。また、インクジェット印刷法では、インク液の乾燥が不十分であると、錠剤の汚れや印字のにじみ等を生じ、外観品質にも影響を与える場合がある。さらに、刻印法では、錠剤やカプセル剤が球面を有している場合が多いため、錠剤表面での印字できる範囲、あるいは印刷できる文字数や大きさ、もしくは図形形状には限りがあり、識別性のための情報量は必ずしも十分ではなかった。同様に、刻印法では、製品ごとに専用の杵を用意しなければならない。くわえて、刻印の形状によっては、スティッキング現象が生じやすく刻印部が欠損したり、また、製錠後の工程においても、刻印部が摩損し、外観検査での不良率の上昇等の原因となる場合もある。あるいは、流通過程で欠損し、識別性の低下のみならず品質にも影響を与える可能性もあった。
【0004】
そこで、印刷法や刻印法に代替する方法として、パターンマスクを介して出力の小さなレーザー光を照射することにより錠剤及びカプセル剤にマーキングする方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、水中で速やかに崩壊しやすい錠剤表面の一部をレーザーで蒸発させることにより食刻する方法、さらに、その食刻部をインクジェット法によりインクで印刷する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-122688号公報
【特許文献2】特表2000-512303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように、パターンマスクを用いて陰影を付与する場合は、パターンマスク周縁部、つまり、レーザー光の照射部位と非照射部位の境界部のコントラストが不明瞭になりやすく、特にマーキング部位が球面を有する錠剤やカプセルの場合は顕著であった。また、製品毎にパターンマスクを予め加工しなければならず、しかも、その加工にあたっては、精度の高い加工技術が必要である。さらに、マーク形状や大きさ等にも限界があり、十分な情報量を付加してマーキングすることができない。
【0007】
一方で、特許文献2のように、レーザー光を利用して錠剤表面を削る方法では、フィルムコート錠や糖衣錠等の本来の防湿や遮光、もしくは苦味マスキング等の機能を損なうことになる。また、コーティングがされていない錠剤の場合は、食刻に伴う薬物の含量低下の懸念があり、あるいは食刻部が錠剤欠損の引き金になる可能性もある。さらに、食刻部位は必ずしも鮮明ではないため、さらにインクで印刷する必要があり、結局、古典的な印刷法と同様の問題点が生じている。
【0008】
そこで、従来のマーキング方法とは異なり、医薬品や食品のような経口投与用組成物等の品質を損なわずに優れた識別性を有する経口投与用組成物を得ることができ、かつ、生産性にも優れたマーキング方法の開発が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる背景のもと、本発明者は経口投与用組成物へのマーキング方法について鋭意検討した結果、特定の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面に、所定のレーザー光を照射することにより、前記特定の変色誘起酸化物を凝集させることに起因した変色が生じるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第一の態様では、
[1] 経口投与用組成物へのマーキング方法であって、変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる工程と、前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように、波長が200nm〜1100nmであり、平均出力が0.1W〜50Wであるレーザー光を、前記経口投与用組成物の表面に走査させる工程と、を含むマーキング方法、
[2] 前記走査工程が、20mm/sec〜20000mm/secで実行される、前項[1]に記載のマーキング方法、
[3] 前記走査工程が、単位面積当たりのエネルギーが、390〜21000mJ/cm2で実行される、前項[1]又は[2]に記載のマーキング方法、
[4] 前記レーザー光が、固体レーザーの波長、前記固体レーザーからの第二高調波の波長、第三高調波の波長及び第四高調波の波長から選択される光である、前項[1]ないし[3]に記載のマーキング方法、
[5] 前記変色誘起酸化物が、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種である、前項[1]ないし[4]のうち何れか一項に記載のマーキング方法、
[6] 前記経口投与用組成物が、10〜500Nの硬度を有する、前項[1]ないし[5]のうち何れか一項に記載のマーキング方法、
[7] 前記経口投与用組成物が、成型物である、前項[1]ないし[6]のうち何れか一項に記載のマーキング方法、
[8] 前記経口投与用組成物が、被覆層を有する、前項[1]ないし[6]のうち何れか一項に記載のマーキング方法、
[9] 前記被覆層を有する組成物が、フィルムコート錠である、前項[8]に記載のマーキング方法、
[10] 前記酸化チタンの配合量が、前記成型物又は前記被覆層100質量部に対して、0.01質量部〜20質量部である、前項[7]ないし[9]のうち何れか一項に記載のマーキング方法、
[11] 前記黄色三二酸化鉄又は前記三二酸化鉄の配合量が、前記成型物又は前記被覆層100質量部に対して、0.001質量部〜5質量部である、前項[7]ないし[9]のうち何れか一項に記載のマーキング方法、
を提供する。
【0011】
また、本発明の第二の態様では、
[12] マークを施された経口投与用組成物の製造方法であって、変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる工程と、前記経口投与用組成物の表面に、前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように、波長が200nm〜1100nmであり、平均出力が0.1W〜50Wであるレーザー光を、前記経口投与用組成物の表面に走査させる工程と、を含む製造方法、
[13] 前記走査工程は、20mm/sec〜20000mm/secで実行される、前項[12]に記載の製造方法、
[14] 前記走査工程が、単位面積当たりのエネルギーが、390〜21000mJ/cm2で実行される、前項[12]又は[13]に記載の製造方法、
[15] 前記レーザー光が、固体レーザーの波長、前記固体レーザーからの第二高調波の波長、第三高調波の波長及び第四高調波の波長から選択される光である、前項[12]ないし[14]に記載の製造方法、
[16] 前記変色誘起酸化物が、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種である、前項[12]ないし[15]のうち何れか一項に記載の製造方法、
[17] 前記経口投与用組成物が、10〜500Nの硬度を有する、前項[12]ないし[16]のうち何れか一項に記載の製造方法、
[18] 前記経口投与用組成物が、成型物である、前項[12]ないし[17]のうち何れか一項に記載の製造方法、
[19] 前記経口投与用組成物が、被覆層を有する、前項[12]ないし[17]のうち何れか一項に記載の製造方法、
[20] 前記被覆層を有する組成物が、フィルムコート錠である、前項[19]に記載の製造方法、
[21] 前記酸化チタンの配合量が、前記成型物又は前記被覆層100質量部に対して、0.01質量部〜20質量部である、前項[18]ないし[20]のうち何れか一項に記載の製造方法、
[22] 前記黄色三二酸化鉄又は前記三二酸化鉄の配合量が、前記成型物又は前記被覆層100質量部に対して、0.001質量部〜5質量部である、前項[18]ないし[20]のうち何れか一項に記載の製造方法、
を提供する。
【0012】
さらに、本発明の第三の態様では、
[23] 前項[12]ないし[22]の何れか一項に記載の製造方法により製造された、マークが施された経口投与用組成物、
[24] 前記経口投与用組成物が、錠剤又はカプセル剤である、前項[23]に記載の経口投与用組成物、
を提供する。
【0013】
さらにまた、本発明は、
(1)酸化チタン及び/又は黄色三二酸化鉄を経口投与用組成物に分散させ、波長が200nm〜1100nmであるレーザー光を平均出力0.1W〜50Wで走査することにより経口投与用組成物に識別性マークを施す方法、
(2)経口投与用組成物が成型物である前項(1)に記載の識別性マークを施す方法、
(3)経口投与組成物が被覆層を有する前項(1)に記載の識別性マークを施す方法、
(4)酸化チタンの配合量が、成型物または被覆層100質量部に対して0.01質量部〜10質量部である前項(2)または前項(3)に記載の経口投与用組成物に識別性マークを施す方法、
(5)黄色三二酸化鉄の配合量が、成型物または被覆層100質量部に対して0.001質量部〜5質量部である前項(2)または前項(3)に記載の経口投与用組成物に識別性マークを施す方法、
(6)酸化チタン及び/または黄色三二酸化鉄を経口投与用組成物に分散させる工程及び、前記組成物に波長が200〜1100nmであるレーザー光を平均出力0.1W〜50Wで走査して識別性マークを施す工程を含む経口投与用組成物の製造方法、
(7)経口投与用組成物が成型物である前項(6)に記載の製造方法、
(8)経口投与組成物が被覆層を有する前項(6)に記載の製造方法、
(9)酸化チタンの配合量が、成型物または被覆層100質量部に対して0.01質量部〜10質量部である前項(7)または前項(8)に記載の経口投与用組成物の製造方法、
(10)黄色三二酸化鉄の配合量が、成型物または被覆層100質量部に対して0.001質量部〜5質量部である前項(7)または前項(8)に記載の経口投与用組成物の製造方法、
(11)前項(6)〜前項(10)のいずれか一項に記載の製造方法により識別性マークが施された経口投与用組成物、
(12)経口投与用組成物がカプセル剤または錠剤である前項(11)に記載の経口投与組成物、
を提供する。
【0014】
本発明に係る製造方法の好ましい態様としては、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた被覆層を有する経口投与用組成物を得る工程と、前記被覆層の表面に、波長が200〜1100nmであるレーザー光を平均出力0.1W〜50Wで走査して識別性マークを施す工程と、を含む経口投与用組成物の製造方法である。被覆層は、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の何れかを含んでいればよく、特に限定されるものではない。被覆層の具体例として、カプセル被膜層、フィルムコート層、糖衣層等が挙げられる。本発明の好ましい態様としての経口投与組成物の剤形としては、フィルムコート錠、糖衣錠、硬カプセル剤、軟カプセル剤である。外層を被覆層とする有核錠等の形態でもよい。
【0015】
また、本発明に係る製造方法の別の好ましい態様としては、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた成型物を得る工程と、前記成型物の表面に、波長が200〜1100nmであるレーザー光を平均出力0.1W〜50Wで走査して識別性マークを施す工程とを含む経口投与用組成物の製造方法である。成型物の具体例としては、裸錠、口腔内速崩壊性錠剤、トローチ剤、又は有核錠等の経口投与用組成物が挙げられる。もちろんこれらの剤形では、医薬品だけでなく、食品として用いることができる。また、成型物に識別性マークを施した後、透明なフィルムコートを施して被覆層を有する経口投与用組成物とすることもできる。
【0016】
なお、本発明に用いる用語「変色誘起酸化物」とは、レーザー光の照射を受けて、その粒子が凝集するため、変色を誘起する酸化物をいう。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、レーザー照射された酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄は、分解等の化学変化を生じておらず、安全性が高く、また、特別な溶媒も必要とせず、クリーンな状態で製造できるため、食品や医薬品等の経口投与用組成物の製造方法として提供できる。しかも、本発明によれば、医薬品や食品等の経口投与用組成物の通常の製造ラインにおいて生産性を低下させることもなく製造できる。
【0018】
また、本発明によれば、経口投与用組成物中に酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を均一に分散させることにより、前記組成物の表面の形状や粗さの影響をほとんど受けることなく、前記組成物中の任意の場所に、鮮明なマーキングを施すことができる。したがって、錠剤やカプセル剤などの球面を持つ経口投与用組成物や、表面が凸凹した菓子等の食品に好適である。くわえて、錠剤表面はほとんど食刻されないため、被覆層を有するフィルム錠剤やカプセル剤の製造方法に適し、商品性及び品質性を向上させることができる。
【0019】
さらに、本発明によれば、ガルバノミラー等でレーザー光を精密に制御することができるため、識別性のあるマークのデザインの自由度を高め、それらのデザインを±10μmの精度で組成物にマーキングすることができる。したがって、デザイン性の高い経口投与用組成物、あるいはミニタブレットのような直径が2〜3ミリメートルの経口投与用組成物へ、識別性マークを施す方法を提供することができる。また、マーキングデザインの情報がコンピューター等で信号入力されるため、デザインの設計変更が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るマーキング方法を実施するための一の装置の概略図である。
【図2】本発明に用いる経口投与用組成物の一の製造方法を示す工程図である。
【図3】本発明による酸化チタンを含有させた成型物のレーザー照射前のTEM写真を示す。
【図4】本発明による酸化チタンを含有させた成型物のレーザー照射後のTEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0022】
(マーキング方法)
図1は、本発明に係るマーキング方法を実施するための一の装置の概略図を示す。本発明に係るマーキング方法を実施する装置を図1に例示するが、これに限定されるものではない。例えば、CADデザインの情報を制御装置にインプットすると、その情報がレーザー発振器及びガルバノミラーにもたらされる。続いて、発振器からレーザー光が照射され、ガルバノミラー等を介してレンズで集光され、目的とする経口投与用組成物の表面に照射される。本発明に用いる経口投与用組成物では、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させており、本発明によるレーザー照射によって、分散された酸化チタン等が一部凝集し変色する作用を見出したものである。本発明に用いる組成物中においては、他の金属酸化物では得られない効果である。本発明においては、後述する経口投与用組成物の他の成分への影響もなく、さらに前記組成物の外観品質を劣化させることもなく、識別性あるマークを施すことができるマーキング方法である。なお、本発明に係るマーキング方法では、照射状態を観察しながら、制御装置に入力した情報を直ぐに変更できるため、デザインの修正も容易である。
【0023】
(レーザー)
本発明に係るマーキング方法に用いるレーザーは、特に限定されるものではなく、レーザー媒質(レーザー発振の元)が、固体、液体、気体の各状態でレーザー発振できるものを使用することができるが、好ましくは固体レーザーである。固体レーザーとしては、YLFレーザー、YAGレーザー、YVO4レーザー等が挙げられるが、特に、基本・第2・第3・第4・第5高調波YVO4レーザー発振器が好ましい。具体的には、第2高調波発振器として、Coherent社 Prismaシリーズ(モデル名:532-12-V)、第3高調波発振器としてYVO4 Laser DS20H-355(Photonics Industries International, Inc)や、第4高調波発振器として、AVIA266-3000(COHERENT社)を利用することができる。
【0024】
(レーザー波長)
また、本発明に用いるレーザーは、その波長が200〜1100nmを有するものを用いることができ、好ましくは1060〜1064nm、527〜532nm、351〜355nm、263〜266nm又は210〜216nmの波長であり、より好ましくは527〜532nm、351〜355nm又は263〜266nmの波長である。
【0025】
(レーザー出力)
本発明において、レーザーを走査する際の平均出力は、対象とする経口投与用組成物の表面がほとんど食刻されない範囲で使用することができる。例えば、その平均出力は、0.1W〜50Wであり、好ましくは1W〜35Wであり、より好ましくは5W〜25Wである。単位時間あたりのレーザー照射エネルギーが強すぎると、アブレーションにより錠剤表面で食刻が発生し、変色部分まで剥がれてしまう。また、出力が弱いと変色が十分ではない。
【0026】
(レーザー走査方式)
レーザーを、経口投与用組成物の表面に照射する際のレーザーの走査方式としては、特に限定されるものではないが、例えば、電気信号に応じてミラーの回転角を変えることができる偏向器を用いたガルバノミラー型、共振周波数の正弦波で駆動させて用いる共振型の偏向器であるレゾナントスキャン型、複数のミラーを利用するポリゴンミラー型等が挙げられ、好ましくはガルバノミラー型である。スキャニング速度は、特に限定されるものではないが、20mm/sec〜20000mm/secであり、好ましくは60mm/sec〜8000mm/secであり、より好ましくは80mm/sec〜8000mm/secである。例えば、その下限値は、レーザー出力が0.3Wの場合20mm/sec以上である。8mm/secでは食刻が生じ、2mm/secではレーザー照射部が焼焦げる場合がある。また、レーザー出力が5Wの場合で例示すれば、下限値は80mm/sec以上であり、好ましくは100mm/sec以上である。なお、スキャニング速度が60mm/sec以下では、食刻現象が生じたり、又はレーザー照射部が焼焦げることがある。なお、スキャニング速度は、高いほどマークの識別性に影響を与えることなく生産性を上げることができる。したがって、例えば、レーザー出力5Wでは、スキャニング速度は、80mm/sec〜10000mm/secであり、好ましくは90mm/sec〜10000mm/secであり、より好ましくは100mm/sec〜10000mm/secである。また、レーザー出力が8Wの場合には、スキャニング速度は、250mm/sec〜20000mm/secであり、好ましくは500mm/sec〜15000mm/secであり、より好ましくは1000mm/sec〜10000mm/secである。
【0027】
(単位面積当たりのエネルギー)
本発明において、レーザーを経口投与用組成物の表面に走査して照射する際、単位面積当たりのとしてはレーザーのエネルギーは、マーキングの可否及び経口投与用組成物の食刻の有無の観点から、390〜21000mJ/cm2であり、好ましくは400〜20000mJ/cm2であり、より好ましくは450〜18000mJ/cm2である。単位面積当たりのエネルギーが390mJ/cm2より低い場合には、マークを施すことができないのに対し、該エネルギーが21000mJ/cm2より大きい場合には、食刻が生じるため、好ましくない。本発明において、速崩壊性錠や腸溶性皮膜を有する経口投与用組成物では、前記範囲のエネルギーで照射することが好ましい。
【0028】
(製造方法)
図2は、本発明に用いる経口投与用組成物の製造方法を示すフロー図である。なお、本発明に係る製造方法は、図2にて経口投与用医薬組成物を例として説明するが、本発明に係る製造方法は、かかる経口投与用医薬組成物に限定されるものではない。例えば、裸錠の場合は、各成分を混合し、必要に応じて造粒したのち、圧縮成型して成型物とした後、レーザー照射するものである。その後、経口投与用組成物は、文字検査機、金属検査機などの検査を経て搬送用ドラムに排出されるか、あるいは包装容器に充填することができる。したがって、経口投与用組成物に、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物が添加された後であれば、レーザー照射するタイミングは特に限定されるものではなく、食品や医薬品の製造工程において自由に組み込むことができる。例えば、包装充填前の搬送ライン上を移動中の錠剤に対して、レーザー照射することができるため、いわゆる連続生産にも利用できる。または、その搬送ラインの途中で、一定数量の錠剤が納まる平型パン内に錠剤を自動的に敷き詰めた後、静止してから照射してもよい。あるいは、レーザー発振器を有する自動マーキング装置を利用してバッチ処理することもできる。具体的には、マーキング装置の錠剤ホッパーに装填された錠剤等が、そのホッパーから順次、検査部に供給される。続いて、その検査部では、錠剤の表裏面を、外観検査機を用いて、汚れや欠け、割れの有無を確認した後、レーザー照射位置に1錠もしくは複数の錠剤を移動させてマーキングすることができる。
【0029】
(マーク)
本発明によるマークとは、識別性のあるマークであることが好ましい。マークの記載内容によって、他の医薬品との識別性を確保するために医薬品に表示されたものであるが、特に限定されるものではなく、使用者の設計要求に応じて自由に選択され得るものである。本発明に係るマーキング方法によって付されたマークは、従来の方法に比べてマークの設計自由度が高いことが特徴である。マークのデザインは、特に限定されるものではなく、文字、数字、図形、記号などを単独であるいは組合せて使用することができる。例えば、商品名、商品の略号、販売会社の社章やロゴマーク、あるいは医薬品に使用される各種コード、例えば、日本標準商品分類番号、薬効分類番号、薬価基準収載医薬品コード、統一商品コード等を用いることができる。
【0030】
(変色誘起酸化物)
本発明に用いられる変色誘起酸化物は、マーキングするために使用される金属酸化物であって、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を用いることができる。本発明に用いる酸化チタンは、特に限定されるものではなく、ルチル型、アナターゼ型またはそれらの混合物、あるいはシリカ等を内包する加工又は改質した酸化チタンも含まれる。例えば、日本薬局方収載の製品、例えば、商品名 酸化チタン(川津産業)を使用することができる。
本発明に用いる黄色三二酸化鉄は、天然に存在する顔料であり、医薬品添加物規格2003(以下、「薬添規」とする)にも収載され、着色剤として使用されている。例えば、黄色三二酸化鉄は日本カラコン株式会社の商品名 黄色酸化鉄カラコンや純正化学株式会社の商品名 黄色三二酸化鉄を使用できる。黄色三二酸化鉄は黄色から帯褐黄色の粉末であり、水にほとんど溶けない。
本発明に用いる三二酸化鉄は、天然に存在する顔料であり、薬添規に収載され、着色剤として使用されている。例えば、純正化学株式会社の商品名 三二酸化鉄を使用できる。三二酸化鉄は赤色から赤褐色又は暗赤紫色の粉末であり、水にほとんど溶けない。
本発明に用いられる変色誘起酸化物は、経口投与用組成物の剤形の関係なく、経口投与用組成物の表面に分散させることが好ましい。
【0031】
本発明に用いる酸化チタンの配合量は特に限定されるものではないが、例えば、成型物又は被覆層100質量部に対して、0.01〜20質量部であり、好ましくは0.05〜15質量部であり、より好ましくは0.5〜10質量部であり、さらに好ましくは2〜4質量部である。本発明に用いる黄色三二酸化鉄の配合量は特に限定されるものではないが、例えば、成型物又は被覆層100質量部に対して、0.001〜5質量部であり、好ましくは0.01〜2質量部であり、より好ましくは0.05〜1質量部であり、さらに好ましくは0.1〜0.5質量部である。本発明に用いる三二酸化鉄の配合量は特に限定されるものではないが、例えば、成型物又は被覆層100質量部に対して、0.001〜5質量部であり、好ましくは0.01〜2質量部であり、より好ましくは0.05〜1質量部であり、さらに好ましくは0.1〜0.5質量部である。また、これらの成分は、レーザー照射する前に被覆層や成型物において、少なくともマーキングを施す部位では均一に分散されて存在している。
【0032】
本発明に係るレーザーマーキング方法が対象とする対象物は、経口投与用組成物であれば特に限定されるものではないが、対象物としての経口投与用組成物の硬度は、好ましくは10〜500Nであり、より好ましくは20〜400Nであり、さらに好ましくは20〜300Nである。ここで、対象物としての硬度は、木屋式硬度計(株式会社藤原製作所:043019−E)により測定できる。
【0033】
(成型物)
本発明に用いる経口投与用組成物の一の態様としての成型物は、薬物、矯味剤または後記する他の添加剤とともに、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物とを含む混合物を用いて成型されたものである。ここで、成型物とは、粉末状のものとは異なり、一定の形状を有していてものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、V型混合機(株式会社徳寿工作所、不二パウダル株式会社、株式会社ダルトン)、タンブラー混合機(株式会社ダルトン、ダイコー精機株式会社)又は高速攪拌混合機(岡田精工株式会社、株式会社奈良機械、株式会社パウレック)等で得られた薬物を含む粉末状又は顆粒状の混合物を、単発打錠機、ロータリー式打錠機、有核打錠機など打錠機で圧縮成型し、又はモールド成型機を利用して、水等の溶媒に分散させた懸濁液やスラリーをモールドに充填し、その溶媒を乾燥させることにより成型することができる。具体的には、本発明に用いる経口投与用組成物の一の態様としての成型物は、当業者には容易に理解できる、いわゆる裸錠、口腔内速崩壊性錠剤、トローチ剤、チュアブル剤、丸剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明に用いる経口投与用組成物の別の態様としての成型物は、当業者には容易に理解できる、ラムネ菓子、ガム、飴、口中清涼食品などの食品が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの成型物は、識別性マークを施した後に、識別性を損なうものでないように、透明性のあるコート層を設けてもよい。
【0034】
(被覆層)
本発明に用いる経口投与用組成物の一の態様としての被覆層は、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物が、少なくともマーキング部位では均一に分散している。さらに、本発明に用いる経口投与用組成物の一の態様としての被覆層は、レーザーを照射する際にレーザー光のエネルギーが届く範疇に位置していれば、特に限定されるものではないが、好ましくはレーザー照射時には経口投与用組成物中において最外層に位置する。例えば、カプセル被膜層、フィルムコート層、糖衣層等が挙げられる。また、マーキング後に、その識別性を損なわない程度に透明性を有する層でコーティングすることも可能である。本発明に用いる経口投与用組成物の一の態様としての被覆層もしくは被覆層を有する組成物の製造方法は、公知の方法を単独または組み合わせることができる。カプセル被膜層の場合は、ロータリーダイ法や滴下法等のソフトカプセル剤の製造法おいてカプセル被膜層を製造することができ、硬カプセル剤は、経口投与用組成物の製造とは別に予め製造することもできる。また、フィルムコート層や糖衣層等の場合は、被覆造粒法、フィルムコーティング法、糖衣コーティング法、圧縮コーティング法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
(被覆層を有する経口投与用組成物)
本発明に用いる被覆層を有する経口投与用組成物は、好ましくは、薬物、矯味成分を含む核を、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物が分散した被覆層で被覆された組成物であり、その被覆層の表面にマークが施された経口投与用組成物である。医薬品の剤形としては、フィルムコート錠、糖衣錠、丸剤等が挙げられ、フィルムコート錠が好ましい。もちろん、チョコレートや口中清涼剤等の被覆層を有する食品でもよい。ここで、核の形態も特に限定されるものではない。例えば、薬物や矯味成分等と、必要に応じて、他の賦形剤や結合剤等とを均一に混合したのち、湿式造粒法や乾式造粒法等により造粒し顆粒状としたり、糖核やセルロース核等のノンパレルに層状に薬物を含む層を被覆して顆粒状とすることができる。さらに、これらの顆粒を圧縮成型して、錠状の核とすることができる。あるいは、丸剤のように、層を複数重ねて得られる丸剤様の核とすることもできる。
【0036】
(カプセル剤)
本発明に用いる被覆層を有する経口投与用組成物としては、カプセル剤も挙げられる。薬物、食用油脂、香料等を含む内容物を、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含むカプセル被膜層に充填し、さらに、そのカプセル被膜層に識別性マークが施されたカプセル剤である。このカプセル剤は、硬カプセル剤及び軟カプセル剤の何れにも限定されるものではない。ここで薬物等を含む内容物は、それらの単独でもよいが、必要に応じて、その他の添加物と混合することにより、粉末状、顆粒状またはそれらを成型したもの、あるいは液状またはスラリー状としたものを用いることができる。また、カプセル被膜層は、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含む限り、ゼラチンカプセル、寒天カプセル、HPMCカプセル,プルランカプセル、スターチカプセル等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。カプセルを充填する場合には、通常用いられるロータリーダイ式カプセル充填機、シームレスカプセル充填機、ハードカプセル充填機(クリオカプス)等を用いることができる。
【0037】
(薬物)
本発明において、薬物とは、治療薬、診断薬、医薬部外品、特定健康食品や保健食品などの有効成分を含む。治療薬は、合成化合物、タンパク質およびペプチドなどの生物由来薬物を含む医薬であってもよく、診断薬は、X線造影剤またはその他の診断に使用される薬物である。本発明に用いる薬物の種類は、特に限定されないが、例えば、抗腫瘍薬、抗生物質、抗炎症薬、鎮痛薬、骨粗しょう症薬、抗高脂血症薬、抗菌薬、鎮静薬、精神安定薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、消化器系疾患治療薬、アレルギー性疾患治療薬、高血圧治療薬、動脈硬化治療薬、糖尿病治療薬、ホルモン薬、脂溶性ビタミン薬、生薬などが挙げられる。また、医薬部外品などの有効成分は、作用が緩和なものであり、アミノ酸、ビタミン類、ポリフェノールなどが挙げられる。本発明の経口投与用組成物に含まれる薬物や有効成分は、1種類でも2種以上を含むことができる。
【0038】
(他の添加剤)
本発明に用いる他の添加剤は、薬理学的に許容される物質である。添加剤の具体例としては、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、コーティング剤、可塑剤、懸濁剤又は乳化剤、着香剤、矯味剤、糖衣剤、流動化剤、着色剤、溶剤等が挙げられる。賦形剤の具体例としては、D−マンニト-ル、乳糖、白糖、トウモロコシデンプン、結晶セルロース、無水リン酸水素カルシウム、沈降炭酸カルシウムなどが挙げられる。結合剤の具体例としては、ポビドン、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルファー化デンプンなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。滑沢剤の具体例としては、硬化油、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウムなどが挙げられ、崩壊剤の具体例としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、コーティング剤の具体例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウムなどのセルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、メタクリル酸コポリマーLなどのアクリル酸系高分子、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどの合成高分子物質、ゼラチン、アラビアゴムなどの天然系高分子物質等が挙げられる。可塑剤の具体例としては、アジピン酸ジオクチル、クエン酸トリエチル、トリアセチン、グリセリン、濃グリセリン、プロピレングリコールなどが挙げられ、懸濁剤または乳化剤の具体例として、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合物などが挙げられ、着香剤の具体例として、メントール、はっか油、オレンジ油などが挙げられ、矯味剤の具体例として、食用植物、果物類、種子類、茶葉類の抽出物、もしくはそれらの風味を有する香料成分が挙げられ、糖衣剤の具体例としては、白糖、乳糖、水アメ、沈降炭酸カルシウム、アラビアゴム、カルナウバロウなどが挙げられ、流動化剤の具体例として、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸カルシウム、タルク、トウモロコシデンプンなどが挙げられ、着色剤の具体例としては、食用黄色4号、食用黄色5号、食用赤色2号、食用赤色102号、食用青色1号、食用青色2号(インジゴカルミン)、食用黄色4号、アルミニウムレーキなどのタール系色素、三二酸化鉄(ベンガラ)、タルク、リボフラビンなどが挙げられ、溶剤の具体例としては、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、プロピレングリコール、落花生油、ひまし油、ゴマ油、グリセリン、ポリエチレングリコールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、医薬品経口投与用組成物中の添加物は、日本薬局方、医薬品添加物規格2003(薬添規)、日本薬局方外医薬品規格1997(局外規)、食品添加物公定書等の公定書に適合したもの、または試薬を使用した。当業者は、以下に示す実施例に様々の変更を加えて本発明を実施することができ、かかる変更は本願の特許請求の範囲に包含される。
【0040】
(実施例1)錠剤
乳糖80g、コーンスターチ20g、ステアリン酸マグネシウム0.5g、酸化チタン1g又は黄色三二酸化鉄0.2gを混合し、打錠機またはオートグラフ材料試験機で圧縮成型して錠剤を得た。
表1に示すレーザー装置(Photonics Industries International, Inc.)を用いて、10cm×10cmのパン上に敷き詰めた錠剤100錠にレーザーを表1に示した条件で照射した。その結果、酸化チタン又は黄色三二酸化鉄を含有する場合、視認性が優れたマークを有する錠剤を得た。一方で、その表面は、食刻されていなかった。
【0041】
(実施例2)錠剤
乳糖80g、コーンスターチ20g、ステアリン酸マグネシウム0.5g、酸化チタン0.01g又は黄色三二酸化鉄0.006gを混合し、打錠機またはオートグラフ材料試験機で圧縮成型して錠剤を得た。これらのサンプルに、表1に示すレーザー装置及び照射条件でマーキングした。その結果、変色が観測され、視認性が若干劣るマーキングが得られた。
【0042】
【表1】

【0043】
(比較例1〜10)
酸化チタン及び黄色三二酸化鉄の代わりに、表2に示した添加剤(0.2g)を配合した裸錠を実施例1と同様の方法で調製した。また、実施例1と同様の条件で、レーザー光を走査した。
その結果、これらの成分を配合した裸錠では、変色しなかった。そのため、比較例1〜10にて用いた添加剤は、経口投与用組成物の変色誘起剤として効果が得られないことが確認された。
【0044】
【表2】

【0045】
(実施例3)ソフトカプセル剤
ゼラチン100質量部に対して、濃グリセリン20質量部、D−ソルビトール10質量部及び酸化チタン1質量部を含むゼラチン被膜層を有するソフトカプセル剤をロータリーダイ法で調製した。このソフトカプセル剤(白色)に、表1に示すレーザー装置及び照射条件で、ソフトカプセル剤の長径軸方向に、E268の文字をマーキングした。その結果、灰色で視認性に優れたマーキングを施したソフトカプセル剤を得ることができた。一方、炭酸レーザー(キーエンス社製ML−G9300シリーズ;1060nm)を用いて、同じ文字をマーキングすることを試みたが、ソフトカプセル剤の表面に発泡現象による白色の文字を描くことができたが、白地に白文字では視認性は悪かった。
【0046】
(実施例4)糖衣錠
糖衣コーティング装置を用いて、1錠あたり約55mgの糖衣層;沈降炭酸カルシウム2mg、タルク8mg、酸化チタン4.8mg、含水二酸化ケイ素1mg、ポビドン0.4mg、アラビアゴム末1.6mg、トウモロコシデンプン1.4mg、マクロゴール 6000 0.2mg、精製白糖36mgを素錠に施し、紡錘型の糖衣錠(直径7.15mm、厚さ3.95mm)を得た。また、この糖衣コーティングの際に、コーティングが終了するまで一定時間毎にサンプリングし、糖衣層の厚さが異なる白色糖衣錠を得た(完全に糖衣層が施されたものを含め8種類のサンプル)。これらのサンプルに、表1に示すレーザー装置及び照射条件で、糖衣錠の端から端まで錠剤の中心点を通るように、中心線をマーキングした。その結果、糖衣層の厚さに関係なく、濃灰色の中心線を描くことができた。また、錠剤の中央部、錠剤の端部での色調に違いは認められなかった。
【0047】
(実施例5)口腔内速崩壊性錠剤
錠剤(主成分として、D−マンニトール(日局))重量100質量部に対して0.18質量部の黄色三二酸化鉄を含む円筒型の口腔内速崩壊性錠剤に、表1に示すレーザー装置及び照射条件で、錠剤の平表面の端から端まで錠剤の中心点を通るように、中心線をマーキングした。同様に、表3に示すレーザー装置及び照射条件でレーザー照射した。その結果、どちらのレーザーでも、濃灰色の中心線をマーキングすることができた。表1のレーザー照射よりも表3のレーザー照射の方が、濃い灰色を示した。また、どちらの照射でも錠剤表面の食刻は認められなかった。
【0048】
【表3】

【0049】
(実施例6〜実施例8)
実施例5に準じて、錠剤重量100質量部に対して0.04質量部(実施例6)、0.08質量部(実施例7)及び0.18質量部(実施例8)の黄色三二酸化鉄を含む円筒型の口腔内速崩壊性錠剤に、表4に示すレーザー装置及び照射条件で、錠剤の平表面の端から端まで錠剤の中心点を通るように、中心線をマーキングした。錠剤表面には食刻は認められず、黄色の錠剤に灰色のマークを有する口腔内崩壊性錠剤が得られた。
【0050】
【表4】

【0051】
(実施例9)
乳糖80g、コーンスターチ20g、ステアリン酸マグネシウム0.5g、酸化チタン0.006gを混合し、打錠機またはオートグラフ材料試験機で圧縮成型して錠剤を得た。表1に示すレーザー装置及び条件で照射した結果、視認性が認められる錠剤を得た。一方で、その表面は、食刻されていなかった。
【0052】
(実施例10及び実施例11)
実施例5に準じて、錠剤重量100質量部に対して0.025質量部(実施例10)及び0.18質量部(実施例11)の三ニ酸化鉄を含む円筒型の口腔内速崩壊性錠剤に、表1に示すレーザー装置及び照射条件で、錠剤の平表面の端から端まで錠剤の中心点を通るように、中心線をマーキングした。錠剤表面には食刻は認められず、赤色の錠剤に水色のマークを有する口腔内崩壊性錠剤が得られた。
【0053】
(比較例11)
黄色三二酸化鉄、酸化チタン又は三二酸化鉄を含まず、その他の組成成分は実施例5の口腔内速崩壊性錠剤と同一にした口腔内速崩壊性錠剤に、実施例5と同様の方法でレーザー照射した。その結果、マーキングを施すことはできなかったし、食刻も起こらなかった。
【0054】
(実施例12)フィルムコート錠
自動フィルムコーティング装置を用いて、コーティング層(主成分として、ヒドロキシプロピルメチルセルローステレフタレート(日局))100質量部あたり、酸化チタン3.4質量部及び黄色三二酸化鉄0.4質量部を含むコーティング層を素錠に施し、曲面及び円柱部を有するフィルム錠を得た。この錠剤に、表1に示すレーザー装置及び照射条件で、フィルム錠の曲部の周囲部に円を描くように11文字をマーキングした。全ての文字で認識性が高く、円周の端部でも十分にマーキングできることが確認できた。
【0055】
(実施例13)フィルムコート錠
自動フィルムコーティング装置を用いて、コーティング層(主成分として、ヒドロキシプロピルメチルセルローステレフタレート(日局))100質量部あたり、酸化チタン4質量部を含むコーティング層を素錠に施し、曲面及び円柱部を有するフィルム錠を得た。この錠剤に、表1に示すレーザー装置及び照射条件で、フィルム錠の曲面に3段書きの文字をマーキングした。同様に、YVO4レーザーの基本波長1064nm(キーエンス社:MD−V9600)のレーザー装置でマーキングした。その結果、前者の装置では、濃灰色の文字をマーキングすることができた。後者は、微淡灰色であり、前者と比較すると識別性が若干劣ることが確認された。
【0056】
(実施例14)
実施例12及び13に準じて、コーティング層100質量部あたり、三二酸化鉄0.6質量部及び酸化チタン12.9質量部を含むコーティング層を素錠に施し、曲面及び円柱部を有するフィルム錠を得た。この錠剤に、表1に示すレーザー装置及び照射条件で、フィルム錠の曲面に3段書きの文字をマーキングした。その結果、濃灰色の文字をマーキングすることができた。
【0057】
(実施例15)糖衣錠
糖衣コーティング装置を用いて、1錠あたり約40mgの糖衣層;プルラン0.3mg、沈降炭酸カルシウム1.4mg、タルク5.7mg、酸化チタン3.9mg、ポリビニルピロリドン0.6mg、トウモロコシデンプン1.0mg、マクロゴール 6000 0.2mg、無水ケイ酸水加物0.7mg、精製白糖26mgを素錠に施し、紡錘型の糖衣錠(直径6.2mm、厚さ3.4mm)。を得た。これらのサンプルに、表4に示すレーザー装置及び照射条件で、糖衣錠の端から端まで錠剤の中心点を通るように、中心線をマーキングした。その結果、変色は見られ、視認性が若干劣るマーキングが得られた。
【0058】
(実施例16)フィルムコート錠
自動フィルムコーティング装置を用いて、コーティング層(主成分として、ヒドロキシプロピルメチルセルローステレフタレート(日局))100質量部あたり、酸化チタン3.4質量部及び黄色三二酸化鉄0.4質量部を含むコーティング層を素錠に施し、曲面及び円柱部を有するフィルム錠を得た。この錠剤に、表4に示すレーザー装置及び照射条件で、フィルム錠の曲部の周囲部に円を描くように11文字をマーキングした。全ての文字で認識性が高く、円周の端部でも十分にマーキングできることが確認できた。
【0059】
次に、レーザー光が照射された変色部の解析を、以下のように実施した。変色部解析用試料は、実施例13と同様の条件にて作製したフィルム錠を用い、表1に示すレーザー装置及び照射条件で、レーザー照射を行った。なお、本解析では、レーザーの走査速度は、1000mm/secで行った。
【0060】
図3は、透過型電子顕微鏡(以下、単に「TEM」という;日本電子製JEM−2000FX;加速電圧:200kV)にて、レーザー照射前のフィルム錠の黄色部を観測した結果を示すTEM写真である。図3に示すように、黒色で表示されている酸化チタンは、小さい粒子であることが観測された。なお、黒色部が酸化チタンであることは、X線光電子分光(装置:ESCA5400MC(Perkin Elmer社製);X線源:単色化Al-Kα線(15kV-500W);Pass Energy:89.45eV(ワイドスキャン), 35.75eV(高分解能);分解能(step size):1.0eV(ワイドスキャン), 0.1eV(高分解能);検出スリット:1.1mmφ)と、X線回折(XRD)(装置:RAD-C(理学電機製);X線:CuKα線(グラファイトモノクロメータ使用),50kV 200mA;測定:θ-2θスキャン,10≦2θ≦70°;連続スキャン,スキャンスピード=4.8°/min)の結果から確認した。
【0061】
一方、図4は、レーザー照射後の灰色部を観測した結果を示すTEM写真である。図4に示す結果から明らかなように、酸化チタンの粒子は凝集し、レーザー照射前の粒子サイズとは全く異なり、大きな粒(黒色にて表示)が形成されていることが確認された。具体的には、レーザー照射後には、500nm程度の球状の粒子に凝集していることが示された。凝集後の粒子のサイズが、可視光の波長と同程度にあり、可視光の光を散乱するようになるため、灰色が観測されたものと推測される。
【0062】
以上の結果から、本発明に用いた酸化チタンは、レーザー照射により、その粒子が凝集し、大きな粒子となり、凝集した粒子による反射光の波長が変化したことにより、変色したものと推定される。本発明に用いた黄色三二酸化鉄や三ニ酸化鉄も同様に、レーザー照射により、その粒子が凝集し、大きな粒子となり、凝集した粒子による反射光の波長が変化したことにより、変色したものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、経口投与用組成物中に酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を均一に分散させることにより、前記組成物の表面の形状や粗さの影響をほとんど受けることなく、前記組成物中の任意の場所に特定のレーザー光を照射することにより、鮮明なマーキングを施すことができる。したがって、錠剤やカプセル剤などの球面を持つ傾向投与用組成物や、表面が凸凹した菓子等の食品に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経口投与用組成物へのマーキング方法であって、
変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる工程と、
前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように、波長が200nm〜1100nmであり、平均出力が0.1W〜50Wであるレーザー光を、前記経口投与用組成物の表面に走査させる工程と、
を含むマーキング方法。
【請求項2】
前記走査工程が、20mm/sec〜20000mm/secで実行される、請求項1に記載のマーキング方法。
【請求項3】
前記走査工程が、単位面積当たりのエネルギーが、390〜21000mJ/cm2で実行される、請求項1又は2に記載のマーキング方法。
【請求項4】
前記レーザー光が、固体レーザーの波長、前記固体レーザーからの第二高調波の波長、第三高調波の波長及び第四高調波の波長から選択される少なくとも1種の光である、請求項1ないし3のうち何れか一項に記載のマーキング方法。
【請求項5】
前記変色誘起酸化物が、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1ないし4のうち何れか一項に記載のマーキング方法。
【請求項6】
前記経口投与用組成物が、10〜500Nの硬度を有する、請求項1ないし5のうち何れか一項の記載のマーキング方法。
【請求項7】
前記経口投与用組成物が、成型物である、請求項1ないし6のうち何れか一項に記載のマーキング方法。
【請求項8】
前記経口投与用組成物が、被覆層を有する、請求項1ないし6のうち何れか一項に記載のマーキング方法。
【請求項9】
前記被覆層を有する組成物が、フィルムコート錠である、請求項8に記載のマーキング方法。
【請求項10】
前記酸化チタンの配合量が、前記成型物又は前記被覆層100質量部に対して、0.01質量部〜20質量部である、請求項7ないし9のうち何れか一項に記載のマーキング方法。
【請求項11】
前記黄色三二酸化鉄又は前記三二酸化鉄の配合量が、前記成型物又は前記被覆層100質量部に対して、0.001質量部〜5質量部である、請求項7ないし9のうち何れか一項に記載のマーキング方法。
【請求項12】
マークを施された経口投与用組成物の製造方法であって、
変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる工程と、
前記経口投与用組成物の表面に、前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように、波長が200nm〜1100nmであり、平均出力が0.1W〜50Wであるレーザー光を、前記経口投与用組成物の表面に走査させる工程と、
を含む製造方法。
【請求項13】
前記走査工程は、20mm/sec〜20000mm/secで実行される、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記走査工程が、単位面積当たりのエネルギーが、390〜21000mJ/cm2で実行される、請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記レーザー光が、固体レーザーの波長、前記固体レーザーからの第二高調波の波長、第三高調波の波長及び第四高調波の波長から選択される少なくとも1種の光である、請求項12ないし14のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記変色誘起酸化物が、酸化チタン、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項12ないし15のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記経口投与用組成物が、10〜500Nの硬度を有する、請求項12ないし16のうち何れか一項の記載の製造方法。
【請求項18】
前記経口投与用組成物が、成型物である、請求項12ないし17のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項19】
前記経口投与用組成物が、被覆層を有する、請求項12ないし17のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記被覆層を有する組成物が、フィルムコート錠である、請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記酸化チタンの配合量が、前記成型物又は前記被覆層100質量部に対して、0.01質量部〜20質量部である、請求項18ないし20のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項22】
前記黄色三二酸化鉄又は前記三二酸化鉄の配合量が、前記成型物又は前記被覆層100質量部に対して、0.001質量部〜5質量部である、請求項18ないし20のうち何れか一項に記載の製造方法。
【請求項23】
請求項12ないし22の何れか一項に記載の製造方法により製造された、マークが施された経口投与用組成物。
【請求項24】
前記経口投与用組成物が、錠剤又はカプセル剤である、請求項23に記載の経口投与用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−126735(P2012−126735A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−62645(P2012−62645)
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【分割の表示】特願2007−517849(P2007−517849)の分割
【原出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】