説明

結晶性シリカゾルおよびその製造方法

【課題】平均粒子径が小さく(1μm以下程度)、結晶性を備える、研磨剤(特に仕上げ研磨用の研磨剤)として好ましく利用できる結晶性シリカゾルの提供。
【解決手段】結晶性を備え、平均粒子径が1μm以下であり、粒度分布の標準偏差が10nm以上であるシリカ微粒子を含み、pHが8.7〜10.6である、結晶性シリカゾル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性シリカゾルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリカゾルは様々な用途に用いられ、様々な態様のものが提案されている。例えば特許文献1には、表面がシリカおよびアルミナで処理された球状シリカ微粒子が水系分散媒に分散してなる固形分濃度5〜50重量%のシリカゾルであって、a)球状シリカ微粒子の平均粒子径が20〜110nm、b)粒子径が800nm以上の粗大粒子の個数が該球状シリカ微粒子濃度1重量%当り3000個/ml以下、c)pHの範囲がpH1〜4またはpH8〜11およびd)無機陰イオンの含有量が20ppm以下の各条件を満たすものであることを特徴とする研磨用シリカゾルが記載されている。そして、このような研磨用シリカゾルは、基体表面を平坦に研磨する効果に優れ、かつ基体表面のスクラッチおよびエッチピットを抑制することが可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−12969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来提案されているシリカゾルは、全て非晶質のシリカ微粒子が分散媒に分散してなるものであった。上記の特許文献1に記載のシリカゾルも非晶質のシリカ微粒子のコロイドである。これに対して、結晶性を備えるシリカ粒子を含む溶液も提案されていたが、その全ては、シリカ粒子の粒径が大きく(μmオーダー)、ゾルまたはコロイドといえるものではなかった。
すなわち、従来、結晶性を備え、平均粒子径が小さい(1μm以下程度)シリカ微粒子が分散媒に分散してなるシリカゾルは存在しなかった。
【0005】
このような結晶性シリカゾルを得ることができれば、粒径が小さく、かつ粒子が硬く、さらに耐熱性に優れると考えられるので、従来にはない用途に利用することができる。例えば、シリコンウエハーや半導体デバイス基板等の表面の仕上げ研磨用の研磨剤として利用することが考えられる。従来の結晶性を備えるシリカ粒子を含む溶液は、粒径が大きいため、仕上げ研磨用の研磨剤として利用することはできなかった。また、従来の粒径が小さい非晶質シリカゾルは、粒子が柔らかく研磨性が低いため、同様に、研磨剤として利用することはできなかった。
【0006】
本発明は、結晶性を備え、平均粒子径が小さい(1μm以下程度)シリカ微粒子が分散媒に分散してなるシリカゾル、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(i)〜(xiii)である。
(i)下記(1)〜(3)の工程を備える結晶性シリカゾルの製造方法。
(1)焼成工程:非晶質シリカ粒子と水に可溶な塩とを含む混合物を焼成して、実質的に結晶性シリカ粒子と前記水に可溶な塩とからなる焼成体を得る工程。
(2)水洗工程:前記焼成体を水洗し、実質的に前記結晶性シリカ粒子からなる水洗後シリカを得る工程。
(3)湿式分散混和工程:前記水洗後シリカをアルカリ性溶液中で分散混和し、結晶性シリカゾルを得る工程。
(ii)前記水に可溶な塩が、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl、NaSO、KSO、CaSOおよびMgSOからなる群から選ばれる少なくとも1つである、上記(i)に記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
(iii)前記(3)湿式分散混和工程において、結晶性シリカゾルのpHが8.7〜10.6となる前記アルカリ性溶液を用いる、上記(i)または(ii)に記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
(iv)前記非晶質シリカ粒子および前記結晶性シリカゾルの平均粒子径が1μm以下である、上記(i)〜(iii)のいずれかに記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
(v)前記結晶性シリカゾルと前記非晶質シリカ粒子との平均粒子径の比(結晶性シリカゾル/非晶質シリカ粒子)が9以下である、上記(i)〜(iv)のいずれかに記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
(vi)前記非晶質シリカ粒子が、分散媒中に陽イオンを含まない非晶質シリカゾルから得たものである、上記(i)〜(v)のいずれかに記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
(vii)前記混合物に含まれる前記非晶質シリカ粒子と前記水に可溶な塩とのモル比(非晶質シリカ粒子/水に可溶な塩)が10以下である、上記(i)〜(vi)のいずれかに記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
(viii)前記(1)焼成工程において、前記混合物を700℃以上の温度で焼成する、上記(i)〜(vii)のいずれかに記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
(ix)前記(3)湿式粉砕工程において用いる水洗後シリカの表面積(m2)をS、アルカリ性溶液のアルカリ濃度(mol/l)をCとした場合に次の式(I)が成立する、上記(i)〜(viii)のいずれかに記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
式(I):C=0.076/1100×S+α
ここで、αは−0.03〜+0.03である。
(x)結晶性を備え、平均粒子径が1μm以下であり、粒度分布の標準偏差が10nm以上であるシリカ微粒子を含み、pHが8.7〜10.6である、結晶性シリカゾル。
(xi)研磨剤として用いる、上記(x)に記載の結晶性シリカゾル。
(xii)研磨剤として用いてSiO2膜を研磨した場合に、研磨速度が110nm/分以上となり、スクラッチ数が30個/cm2以下となる、上記(x)または(xi)に記載の結晶性シリカゾル。
(xiii)上記(i)〜(ix)のいずれかに記載の製造方法によって得られる、上記(x)〜(xii)のいずれかに記載の結晶性シリカゾル。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、結晶性を備え、平均粒子径が小さい(1μm以下程度)シリカ微粒子が分散媒に分散してなるシリカゾル、およびその製造方法を提供することができる。
このような結晶性シリカゾルは、研磨剤(特に仕上げ研磨用の研磨剤)として好ましく用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の結晶性シリカゾルについて説明する。
本発明の結晶性シリカゾルは、結晶性を備え、平均粒子径が1μm以下であり、粒度分布の標準偏差が10nm以上であるシリカ微粒子を含み、pHが8.7〜10.6のものである。
分散媒は特に限定されないが、水系であることが好ましく、水であることがより好ましい。
固形分濃度も特に限定されないが、5〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、20〜40質量%であることがさらに好ましい。
【0010】
本発明の結晶性シリカゾルに含まれるシリカ微粒子は結晶性を備えるので、本発明の結晶性シリカゾルを乾燥等してシリカ微粒子のみを分離し、X線回折に供すると、クリストバライトやトリジマイト等の結晶性シリカを含むことを示すピークが表れる。
【0011】
本発明の結晶性シリカゾルに含まれるシリカ微粒子の平均粒子径は1μm以下であり、700nm以下であることが好ましく、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがさらに好ましい。また、平均粒子径は10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましい。
なお、本発明において平均粒子径は、すべてメジアン径を意味するものとする。
このように本発明の結晶性シリカゾルは、結晶性を有するのでシリカ微粒子が硬く、かつシリカ微粒子の平均粒子径が小さいので、シリコンウエハーや半導体デバイス基板等の表面の仕上げ研磨用の研磨剤として好ましく利用することができる。従来の結晶性を備えるシリカ粒子を含む溶液は、粒径が大きいため、仕上げ研磨用の研磨剤として利用することはできなかった。また、従来の粒径が小さい非晶質シリカゾルは、非晶質であるために粒子が柔らかく、研磨性が低いため、同様に研磨剤として利用することはできなかった。
【0012】
本発明の結晶性シリカゾルに含まれるシリカ微粒子の粒度分布の標準偏差(SD)は10nm以上であり、15nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、29nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがより好ましく、31nm以上であることがより好ましく、32nm以上であることがさらに好ましい。また、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、70nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることがさらに好ましい。
標準偏差が大きい、すなわち、大小様々な径の粒子が含まれており粒子径に偏りがないと、研磨剤として用いた場合に研磨速度が速くなることを本発明者は見出した。同じ平均粒子径であっても標準偏差が小さい、すなわち、粒子径が均一であると研磨速度が遅く、研磨の持続性も劣ることを本発明者は見出した。
【0013】
上記のように、本発明の結晶性シリカゾルに含まれるシリカ微粒子の平均粒子径は1μm以下であり、標準偏差が10nm以上であるが、さらに粒度分布における最大値が3,000nmであることが好ましく、2,000nmであることがより好ましく、1,000nmであることがより好ましく、700nmであることがより好ましく、500nmであることがより好ましく、300nmであることがさらに好ましい。また、さらに最小値が10nmであることが好ましく、20nmであることがより好ましく、50nmであることがさらに好ましい。
粒度分布における最大値および最小値が上記であると、本発明の結晶性シリカゾルを研磨剤として用いた場合に、研磨速度が速くなる傾向がある。
【0014】
なお、本発明においては、動的光散乱法によって求めた粒度分布に基づいて、平均粒子径、標準偏差(SD)、粒度分布における最大値、最小値を求めるものとする。
【0015】
本発明の結晶性シリカゾルに含まれるシリカ微粒子の形状は特に限定されず、用途によって様々な形状であってよい。本発明の結晶性シリカゾルを研磨剤として用いる場合、シリカ微粒子は球状であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の結晶性シリカゾルは、pHが8.7〜10.6であり、8.8〜10.6であることが好ましく、9.2〜10.5であることがより好ましい。
このようなpHであると、シリカ微粒子が安定して分散した状態を維持できる。pHが低すぎるとシリカ微粒子が凝集する傾向がある。pHが高すぎるとシリカ微粒子が溶解する可能性がある。
このようなpHとするために、本発明の結晶性シリカゾルは、NaOH等の従来公知の安定剤を含むことができる。
【0017】
本発明の結晶性シリカゾルは、研磨剤として好ましく用いることができる。特に、シリコンウエハーや半導体デバイス基板等の表面の仕上げ研磨用の研磨剤として好ましく利用することができる。
また、本発明の結晶性シリカゾルは耐熱性が高いので、耐火物の結合材として用いることができると考えられる。例えば、本発明の結晶性シリカゾルを結合材として用いて製造した鋳型は、耐熱性が高いので、融点が高い金属等を鋳込むことができる。例えば、チタン合金を鋳込む場合、チタン合金の融点が高いので、非晶質シリカコロイドを結合材として用いた鋳型を用いて鋳込むことはできない。通常、チタン合金を鋳込む場合、結合材としてジルコニアコロイドを用いた鋳型が利用されるが、ジルコニアコロイドは高価であるので、廉価なシリカゾル(本発明の結晶性シリカゾル)を用いることができれば、コスト面で有利になり好ましい。
【0018】
また、本発明の結晶性シリカゾルは、研磨剤として用いてSiO2膜を研磨した場合に、研磨速度が110nm/分以上となり、スクラッチ数が30個/cm2以下となるものであることが好ましい。
例えば、平均粒子径が500nm以下であり、粒度分布における標準偏差が30〜60nmであり、pHが8.7〜10.6であり、分散媒が水であり、固形分濃度が5〜60質量%である本発明の結晶性シリカゾルは、研磨剤として用いてSiO2膜を研磨した場合に、研磨速度が110nm/分以上となり、スクラッチ数が30個/cm2以下となる。
研磨速度は、115nm/分以上であることが好ましく、120nm/分以上であることがより好ましく、125nm/分以上であることがより好ましく、130nm/分以上であることがさらに好ましい。
スクラッチ数は、20個/cm2以下であることが好ましく、15個/cm2以下であることがより好ましく、10個/cm2以下であることがより好ましく、8個/cm2以下であることがさらに好ましい。
【0019】
なお、本発明において、研磨速度は、次に示す方法によってSiO2膜を研磨した場合のものを意味するものとする。
テスト用基板として、蒸着法で主面に1μmの厚さのSiO2膜を形成したシリコ−ン製の29mm角の基板を用意する。そして、本発明の結晶性シリカゾルを研磨剤とし、研磨機(例えばナノファクタ社製、NF300)を用いてテスト用基板におけるSiO2膜を研磨する。ここで、研磨条件は、研磨荷重:350g/cm2、研磨時間:30秒、スラリー流量:70ml/minとし、研磨パッドとしては、圧縮率1%、アスカーC硬度95、ショアD硬度60のもの(例えばロデールニッタ社製、IC1000)を用い、研磨パッド回転速度:30rpmとする。
そして、研磨前後におけるテスト用基板の質量変化量から算出されるSiO2膜の厚さの変化量(nm)と、研磨時間(30秒)とから、研磨速度(nm/分)を求める。
【0020】
また、本発明において、スクラッチ数は、次に示す方法によってSiO2膜を研磨した場合のものを意味するものとする。
テスト用基板として、蒸着法で主面に1μmの厚さの金属銅膜を形成したシリコ−ン製の30mm角の基板を用意する。そして、上記の研磨速度の測定の場合と同じように、本発明の結晶性シリカゾルを研磨剤とし、研磨機(例えばナノファクタ社製、NF300)を用いてテスト用基板における金属銅膜を研磨する。ここで、研磨条件および用いる研磨パッドも、上記の研磨速度の測定の場合と同じとする。
そして、研磨後のテスト基板の金属銅膜の表面中心付近の10mm角を金属顕微鏡で30視野に分けて、倍率200倍で観察し、スクラッチ(線状痕)の個数を数えて合計した値をスクラッチ数とする。
【0021】
このような本発明の結晶性シリカゾルの製造方法は特に限定されないものの、次に説明する本発明の結晶性シリカゾルの製造方法によって製造することが好ましい。
【0022】
次に、本発明の結晶性シリカゾルの製造方法について説明する。
本発明の結晶性シリカゾルの製造方法は、下記(1)〜(3)の工程を備える結晶性シリカゾルの製造方法である。
(1)焼成工程:非晶質シリカ粒子と水に可溶な塩とを含む混合物を焼成して、実質的に結晶性シリカ粒子と前記水に可溶な塩とからなる焼成体を得る工程。
(2)水洗工程:前記焼成体を水洗し、実質的に前記結晶性シリカ粒子からなる水洗後シリカを得る工程。
(3)湿式分散混和工程:前記水洗後シリカをアルカリ性溶液中で分散混和し、結晶性シリカゾルを得る工程。
このような製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0023】
<(1)焼成工程>
本発明の製造方法における焼成工程について説明する。
本発明の製造方法における焼成工程では、非晶質シリカ粒子と水に可溶な塩とを含む混合物を焼成する。
【0024】
ここで、非晶質シリカ粒子は、X線回折に供した場合に結晶性が認められないシリカを意味する。
非晶質シリカ粒子の平均粒子径ならびに粒度分布における標準偏差、最大値および最小値は特に限定されないものの、平均粒子径は1μm以下であることが好ましく、700nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。また、平均粒子径は10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、40nm以上であることがさらに好ましい。
また、標準偏差(SD)は10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、25nm以上であることがより好ましく、27nm以上であることがさらに好ましい。また、70nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。
また、粒度分布における最大値が3,000nmであることが好ましく、2,000nmであることがより好ましく、1,000nmであることがより好ましく、900nmであることがより好ましく、700nmであることがより好ましく、300nmであることがさらに好ましい。また、最小値が10nmであることが好ましく、50nmであることがより好ましく、100nmであることがさらに好ましい。
【0025】
前記非晶質シリカ粒子は、非晶質シリカゾルから得たものであることが好ましい。例えば分散媒が水である非晶質シリカゾルを乾燥させ、水分を蒸発させて得ることができる。
ここで、非晶質シリカゾルは安定剤として分散媒中にNaOH等を含んでいる場合がある。この場合、Na等の陽イオンを除去してから、水に可溶な塩と混合して混合物とする必要がある。Na等の陽イオンを含んだ状態の混合物を焼成すると、非晶質シリカ粒子同士が融着する場合があるからである。
分散媒中の陽イオンを除去する方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法を用いることができる。例えば、陽イオン交換樹脂を用いて非晶質シリカゾルに含まれる陽イオンを除去することができる。
【0026】
本発明の製造方法における焼成工程では、このような非晶質シリカ粒子と水に可溶な塩とを混合して混合物を得て、その後、焼成する。
水に可溶な塩は、混合物の焼成において、非晶質シリカ粒子同士が融着するのを防止または抑制する機能を発揮する。
水に可溶な塩は、このような機能を備える塩であれば特に限定されない。例えば、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl、NaSO、KSO、CaSO、MgSOが挙げられる。また、2以上の種類の水に可溶な塩を同時に(例えば混合して)用いることもできる。
水に可溶な塩は、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl、NaSO、KSO、CaSOおよびMgSOからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、NaCl、KCl、CaCl2およびMgClからなる群から選ばれる少なくとも1つであることがより好ましく、NaClであることがさらに好ましい。また、水に可溶な塩はNaCl等の塩化物の塩であると、酸解離定数が大きく溶解しやすいので好ましい。
【0027】
このような非晶質シリカ粒子と水に可溶な塩とを混合して混合物を得る。混合物は非晶質シリカ粒子および水に可溶な塩以外のものを含んでもよいが、その他のものを含まず、実質的に非晶質シリカ粒子および水に可溶な塩からなる(すなわち、原料や製造過程から混入する意図しない不純物を含むことは有り得る)ことが好ましい。
【0028】
混合物は、粉体の非晶質シリカ粒子と、粉体の水に可溶な塩とを混合して得てもよいが、分散媒として水を含む非晶質シリカゾルに水に可溶な塩を溶解させ、その後、水を乾燥させることで混合物を得ることが好ましい。ここで、非晶質シリカゾルがNa等の陽イオンを含む場合は、含有する陽イオンを、陽イオン交換樹脂等を用いて除去した後、水に可溶な塩を溶解させ、その後、水を乾燥させて混合物を得る。
【0029】
また、混合物に含まれる前記非晶質シリカ粒子と前記水に可溶な塩とのドライベースでのモル比(非晶質シリカ粒子/水に可溶な塩)が10以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましく、4以下であることがより好ましく、2以下であることがより好ましく、1程度であることがさらに好ましい。
このモル比が高すぎると、非晶質シリカ粒子に対して水に可溶な塩が不足して、焼成体に含まれる結晶性シリカ粒子同士が融着する可能性がある。
非晶質シリカ粒子に対して水に可溶な塩が多く、このモル比(非晶質シリカ粒子/水に可溶な塩)が小さくなり過ぎると、次の水洗工程における水洗が煩雑になる可能性がある。よって、このモル比は0.1以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましい。
【0030】
次に、このようにして得た前記混合物を焼成する。
ここで焼成は、前記混合物に含まれる非晶質シリカゾルが結晶性シリカゾルに変わる条件で行えばよく、温度、圧力等は特に限定されない。
例えば常圧下であれば、700℃以上、好ましくは870℃以上、より好ましくは900℃以上1400℃以下で、数分〜数時間、好ましくは1分〜10時間、より好ましくは10分〜2時間、さらに好ましくは1時間程度、焼成することで、非晶質シリカゾルを結晶性シリカゾルへ変化させて、実質的に結晶性シリカ粒子と水に可溶な塩とからなる焼成体を得ることができる。
また、数GPa(例えば3.5〜10GPa)の圧力下では、500〜800℃において前記混合物を焼成することで、非晶質シリカゾルを結晶性シリカゾルへ変化させて、実質的に結晶性シリカ粒子と水に可溶な塩とからなる焼成体を得ることができる。
【0031】
このようにして実質的に結晶性シリカ粒子と水に可溶な塩とからなる焼成体を得ることができる。
焼成体は、実質的に結晶性シリカ粒子と水に可溶な塩とからなるものであれば、意図せずに原料や製造過程において混入した不純物等を含んでもよい。
【0032】
<(2)水洗工程>
本発明の製造方法における水洗工程について説明する。
本発明の製造方法における水洗工程では、前記焼成体を水洗し、実質的に結晶性シリカ粒子からなる水洗後シリカを得る。
前記焼成体は、実質的に結晶性シリカ粒子と水に可溶な塩とからなるので、水洗すれば水に可溶な塩は洗い流されて、実質的に結晶性シリカ粒子からなる水洗後シリカを容易に得ることができる。
【0033】
前記焼成体の水洗方法は特に限定されず、できるだけ水に可溶な塩が残存しないように、十分量の水を用いて水洗すればよい。
【0034】
このような水洗工程によって、実質的に結晶性シリカ粒子からなる水洗後シリカを得る。水洗後シリカは、実質的に結晶性シリカ粒子からなるものであれば、原料や製造過程から混入する意図しない不純物を含んでもよい。
【0035】
<(3)湿式分散混和工程>
本発明の製造方法における湿式分散混和工程について説明する。
本発明の製造方法における湿式分散混和工程では、前記水洗後シリカをアルカリ性溶液中で分散混和し、結晶性シリカゾルを得る。
【0036】
上記の水洗工程によって得られた水洗後シリカは、それに含まれる結晶性シリカ粒子同士が付いていて、少なくとも部分的に凝集しており、これを分散媒中に入れても分散し難い。そこで、結晶性シリカ粒子同士を離すための操作が必要となる。
また、前記水洗後シリカを単に粉砕または破砕するのではなく、本発明ではアルカリ性溶液中で、前記水洗後シリカを粉砕または解砕する。そうすると、アルカリ性溶液中において結晶性シリカ粒子が分散して、本発明の結晶性シリカゾルが得られる。
これに対して、アルカリ性でない溶液中で前記水洗後シリカを粉砕した場合、結晶性シリカ粒子は分散せず、逆に凝集する傾向がある。
このようになる理由は明らかではないが、pHが高い液体中で分散混和すると、結晶性シリカ粒子における分散混和または解砕によって新しく生じた破面のゼータ電位を高めることができ、それによって結晶性シリカ粒子の凝集を抑制できると、本発明者は推定している。pHが低い溶液中で前記水洗後シリカを分散混和または破砕すると、分散混和または破砕によって新しく生じた破面のゼータ電位は高くならないので凝集してしまうと推定される。
【0037】
前記水洗後シリカを湿式分散混和する際に用いるアルカリ性溶液の種類は特に限定されず、例えば従来公知のアルカリ性の水溶液を用いることができる。例えばNaOH、KOH、アンモニア、4級アミン(水酸化テトラメチルアンモニウム等)を含む水溶液を用いることができる。
【0038】
また、湿式分散混和を始める際に用いるアルカリ性溶液の濃度、pH等は特に限定されないものの、湿式分散混和を行った後に得られる結晶性シリカゾルのpHが8.7〜10.6となるように調整したものが好ましい。結晶性シリカゾルのpHがこのような範囲にあると、分散性が長期に安定する。
すなわち、本発明の製造方法では、前記水洗後シリカをアルカリ性溶液中で分散混和することで、分散混和時における結晶性シリカ粒子の凝集を抑制し、加えて、得られる結晶性シリカゾルの長期安定性をも確保することができる。
【0039】
湿式分散混和を行って得た結晶性シリカゾルのpHを8.7〜10.6とするためには、湿式粉砕を開始する際に、pHがより高い(例えばpH12程度の)アルカリ性溶液を用いることが好ましい。pHが高いアルカリ性溶液に前記水洗後シリカを入れて分散混和すると、分散混和が進行するにつれて徐々にpHが下がる傾向がある。
湿式分散混和を行って得た結晶性シリカゾルのpHを8.7〜10.6とするために、湿式分散混和を開始する際のアルカリ性溶液のpHは、10.0〜13.0であることが好ましく、10.5〜12.0であることがより好ましく、11.0〜11.8であることがさらに好ましい。
湿式粉砕を開始する際のアルカリ性溶液のpHがこのような範囲にあると、湿式粉砕時における結晶性シリカ粒子の凝集をより抑制することもできる。
【0040】
また、湿式分散混和を行って得た結晶性シリカゾルのpHは、湿式分散混和を行う前の水洗後シリカの表面積に着目して調整できることを、本発明者は見出した。
具体的には、水洗後シリカの表面積が1200m2の場合は、アルカリ濃度が0.083モル濃度(mol/l)のアルカリ性溶液を用意し、このアルカリ性溶液中で水洗後シリカを粉砕すると、pHが8.7〜10.6の結晶性シリカゾルが得られ、また、水洗後シリカの表面積が100m2の場合は、アルカリ濃度が0.007モル濃度(mol/l)のアルカリ性溶液を用意し、このアルカリ性溶液中で水洗後シリカを分散混和すると、pHが8.7〜10.6の結晶性シリカゾルが得られ、さらに、ここでいう表面積とモル濃度とはほぼ正比例の関係にあって、表面積(m2)を「S」、アルカリ性溶液のアルカリ濃度(mol/l)を「C」として、次の式(I)が成立することを、本発明者は見出した。
【0041】
式(I):C=0.076/1100×S+α
ここで、αは−0.03〜+0.03であり、好ましくは−0.02〜+0.02、より好ましくは−0.01〜+0.01、より好ましくは−0.008〜+0.008、さらに好ましくは−0.004〜+0.004である。
【0042】
ここで水洗後シリカの表面積は、非晶質シリカ粒子の表面積とほぼ等しい。
したがって、水洗後シリカまたは非晶質シリカ粒子の表面積(S)を求め、上記の式(I)に当てはめれば、必要なアルカリ性溶液のアルカリ濃度(C)を容易に求めることができる。
【0043】
前記水洗後シリカをアルカリ性溶液中で分散混和する際の分散混和方法は、特に限定されず、例えば従来公知の湿式分散混和方法を適用することができる。ただし、前述のように、前記水洗後シリカは、それに含まれる結晶性シリカ粒子同士が比較的弱い力で付いている状態であり、この結晶性シリカ粒子同士を離すことができればよいので、これを実現できる分散混和方法または解砕方法であることが好ましい。これに対して、結晶性シリカ粒子自体を粉砕する方法であってもよく、この粉砕と分散混和とを同時に行う湿式分散混和方法であってもよい。
例えば従来公知のボールミルを用いた湿式分散混和方法が挙げられる。中でも、直径が1mm以下の石英や酸化ジルコニウム等からなるメディアを用いるボールミルによって、好ましく湿式分散混和を行うことができる。
【0044】
また、湿式分散混和は、前記結晶性シリカゾルと前記非晶質シリカ粒子との平均粒子径の比(結晶性シリカゾル/非晶質シリカ粒子)が9以下となるように行うことが好ましい。この比は、7以下であることがより好ましく、5以下であることがより好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。また、この比は、0.5以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましい。
【0045】
上記のような(1)焼成工程、(2)水洗工程および(3)湿式分散混和工程を備える本発明の製造方法によって、本発明の結晶性シリカゾルを得ることができる。
【実施例】
【0046】
<実施例1>
原料となる非晶質のシリカゾル(カタロイドSI−80P(登録商標):SiO2濃度=40質量%、平均粒子径=80nm、表面積=34m2/g、日揮触媒化成社製)100gに純水100gを添加し、さらに陽イオン交換樹脂を20g投入した後に混合して、含まれる陽イオン(Na等)を取り除いた。十分に混合した後、pHは2.5であった。その後、陽イオン交換樹脂を取り除いて、陽イオンが除去されたシリカゾル[1]を得た。
【0047】
次に、得られたシリカゾル[1]へ粉末状のNaClを40g添加し、混合した後、120℃で15時間乾燥して、非晶質シリカ粒子とNaClとの混合物[2]を得た。
次に、混合物[2]を電気炉を用いて1200℃で1時間、焼成し、焼成体[3]を得た。
次に、焼成体[3]を純水で十分に洗浄してNaClを除去した後、乾燥し、結晶性シリカ粒子のみからなる水洗後シリカ[4]を35g得た。
【0048】
次に、水洗後シリカ[4]の全量(35g、S=1190m2)を0.8質量%苛性ソーダ水溶液60g(0.083mol/l)へ添加し、混合して混合液[5]を得た。この時の混合液[5]のpHは11.8であった。
次に、混合液[5]に直径が0.15mmの石英メディア(MRCユニテック株式会社製、高純度シリカビーズ015)42gを加えて、これを湿式粉砕機(カンペ株式会社製、バッチ式卓上サンドミル)に供して2時間、分散混和した。これによって、混合液[5]に含まれる固形分(水洗後シリカ[4])を分散混和することができた。その後、石英メディアを目開き44μmのステンレス製フィルターを用いて分離・除去した後、さらに純水80gを添加して撹拌し、固形分含有量が20質量%のシリカゾル[6]173gが得られた。
試験条件等を第1表に示す。
【0049】
次に、シリカゾル[6]の物性を測定したところ、pHは9.8であり、平均粒子径は218nmであり、粒度分布における標準偏差(SD)は40nmであった。なお、粒度分布は、シリカゾル[6]0.15gに純水19.85gを混合して調製した固形分含有量0.15%の試料を、長さ1cm、幅1cm、高さ5cmの石英セルに入れて、動的光散乱法による超微粒子粒度分析装置(大塚電子株式会社製、型式ELS−Z2)を用いて測定した粒子群の粒度分布とする。また、平均粒子径(メジアン径)は、この測定結果をキュムラント解析して算出された値とする。
また、シリカゾル[6]を100℃で乾燥して水分を蒸発させ、シリカ微粒子のみを得た。そして、密度を測定したところ2.33g/cm3であった。また、乾燥後のシリカ微粒子の結晶形をX線回折法によって測定したところ、クリストバライトからなるものであることがわかった。
シリカゾル[6]の物性について、第2表に示す。
【0050】
次に、シリカゾル[6]の研磨特性を評価する試験を行った。
初めに、研磨速度を測定した。具体的には、ナノファクタ社製、NF300を用いて、29mm角のテスト用基板(SiO2膜を形成した基板)を研磨し、そのSiO2膜の研磨速度(nm/分)を測定した。ここで、研磨条件は、研磨荷重:350g/cm2、研磨時間:30秒、スラリー流量:70ml/min、研磨パッド:ロデールニッタ社製IC1000、研磨パッド回転速度:30rpmとした。なお、スラリーとして、シリカゾル[6]のシリカ濃度を20質量%に調整したものを用いた。
次に、研磨後のスクラッチ数を測定した。ここでは、テスト基板として、30mm角基板の主面に蒸着法で1μmの厚さの金属銅膜を形成したものを用いた。研磨条件は、上記の研磨速度の測定の際と同様とした。そして、研磨後のテスト基板の表面中心付近の10mm角を金属顕微鏡で30視野に分けて、倍率200倍で観察し、スクラッチ(線状痕)の個数を数えて合計した。
研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0051】
<実施例2>
実施例1では混合物[2]を1200℃で焼成したが、これを900℃で焼成したこと以外は、全て実施例1と同様の操作を行い、同様の評価を行った。このような実施例2における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6]の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0052】
<実施例3>
実施例1では、原料となる非晶質のシリカゾルとして、カタロイドSI−80Pを用いたが、これに変えて、カタロイドSI−50(登録商標)(SiO2濃度=48質量%、平均粒子径=25nm、表面積=109m2/g、日揮触媒化成社製)を用いた。
また、実施例1では、水洗後シリカ[4]を0.8質量%苛性ソーダ水溶液60gへ添加したが、この代わりに、水洗後シリカ[4]を0.8質量%苛性ソーダ水溶液190g(0.26mol/l)へ添加して混合液[5]を得た。ここで得られた混合液[5]のpHは11.8であった。
そして、これら以外は、全て実施例1と同様の操作を行い、同様の評価を行った。このような実施例3における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6]の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0053】
<実施例4>
実施例1では混合物[2]を1200℃で1時間、焼成したが、これを1200℃で0.16時間としたこと以外は、全て実施例1と同様の操作を行い、同様の評価を行った。このような実施例4における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6]の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0054】
<実施例5>
実施例1では、シリカゾル[1]へ粉末状のNaClを40g添加したが、この代わりに、40質量%NaOH水溶液:68gと、30質量%HCl水溶液:83gとを、シリカゾル[1]へ添加した。また、実施例1では、サンドミルによる湿式粉砕を2時間行ったが、この粉砕時間を3時間とした。
そして、これ以外は、全て実施例1と同様の操作を行い、同様の評価を行った。このような実施例5における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6]の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0055】
<実施例6>
実施例1では、水洗後シリカ[4]を0.8質量%苛性ソーダ水溶液60gへ添加したが、この代わりに、水洗後シリカ[4]を0.8質量%水酸化カリウム水溶液84gへ添加して混合液[5]を得た。ここで得られた混合液[5]のpHは11.8であった。
そして、これ以外は、全て実施例1と同様の操作を行い、同様の評価を行った。このような実施例6における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6]の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0056】
<実施例7>
実施例1では、水洗後シリカ[4]を0.8質量%苛性ソーダ水溶液60gへ添加したが、この代わりに、水洗後シリカ[4]を0.8質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液137gへ添加して混合液[5]を得た。ここで得られた混合液[5]のpHは11.0であった。
そして、これ以外は、全て実施例1と同様の操作を行い、同様の評価を行った。このような実施例7における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6]の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0057】
<実施例8>
実施例1では、直径が0.15mmの石英メディアを用いて湿式粉砕したが、直径が0.05mmのZrO2製のメディアを用いて湿式粉砕した。
そして、これ以外は、全て実施例1と同様の操作を行い、同様の評価を行った。このような実施例8における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6]の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0058】
<比較例1>
実施例1では混合物[2]を1200℃で焼成したが、これを300℃で焼成したこと以外は、全て実施例1と同様の操作を行い、同様の評価を行った。このような比較例1における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6]の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0059】
<比較例2>
実施例1では、陽イオン交換樹脂を用いて、陽イオンが除去されたシリカゾル[1]を得たが、陽イオン交換樹脂を用いず、陽イオンが除去されていないシリカゾルを用いた。
そして、これ以外は、全て実施例1と同様の操作を行い、同様の評価を行った。このような比較例2における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6]の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0060】
<比較例3>
実施例1では、シリカゾル[1]へ粉末状のNaClを40g添加したが、NaClの添加量を2gとした。
そして、これ以外は、全て実施例1と同様の操作を行い、同様の評価を行った。このような比較例3における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6]の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0061】
<比較例4>
実施例1では、水洗後シリカ[4]を0.8質量%苛性ソーダ水溶液60gへ添加したが、この苛性ソーダを用いなかった。すなわち、水洗後シリカ[4]を純水60gへ添加したものを混合液[5]とし、これを湿式粉砕した。
そして、これ以外は、全て実施例1と同様の操作を行い、同様の評価を行った。このような比較例4における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6]の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0062】
<比較例5>
実施例1では、水洗後シリカ[4]を0.8質量%苛性ソーダ水溶液60gへ添加して混合液[5]を得た後、これを湿式粉砕し、シリカゾル[6]を得たが、苛性ソーダを用いず、さらに湿式粉砕も行わず、水洗後シリカ[4]そのものを純水に添加したものをシリカゾル[6]とした。
そして、これ以外は、全て実施例1と同様の操作を行い、同様の評価を行った。このような比較例5における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6]の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0063】
<比較例6>
実施例1において、原料として用いた非晶質のシリカゾルに何の操作も加えず、実施例1と同様の評価を行った。このような比較例6における試験条件等を第1表に示す。また、得られたシリカゾル[6](比較例6では原料のシリカゾルそのもの)の物性ならびに研磨速度およびスクラッチ数を第2表に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
本発明の範囲内である実施例1〜8のシリカゾル[6]は、クリストバライトまたはトリジマイトの結晶形を有しており、いずれも結晶性を備えていることを確認できた。
また、実施例1〜8のシリカゾル[6]の研磨速度は130nm/分以上であり、スクラッチ数は8個/cm2以下であった。すなわち、研磨速度が速く、スクラッチ数も少なく、研磨特性が良好であることが確認できた。
【0067】
これに対して、比較例1では焼成温度が300℃と低くかったため、シリカゾル[6]は結晶性を有さなかった。そして、研磨速度は105nm/分と遅くなった。
【0068】
比較例2ではシリカゾル[6]の平均粒子径が750nmと非常に大きくなった。これは、陽イオン交換樹脂を用いなかったため、焼成によって水洗後シリカ[4]が固化してしまい、湿式粉砕を行っても混合液[5]に含まれる固形分が分散混和または粉砕されなかったためと考えられる。また、研磨速度が65nm/分と非常に遅くなり、スクラッチ数も89個/cm2と非常に多くなった。
【0069】
比較例3ではシリカゾル[6]の平均粒子径が1500nmと非常に大きくなった。これは、NaClの添加量が2gと少なかったため、焼成によって水洗後シリカ[4]が固化してしまい、湿式粉砕を行っても混合液[5]に含まれる固形分が分散混和または粉砕されなかったためと考えられる。また、研磨速度が70nm/分と非常に遅くなり、スクラッチ数も100個/cm2と非常に多くなった。
【0070】
比較例4および比較例5では、シリカゾル[6]の平均粒子径が非常に大きくなり、測定できなかった。この原因は、比較例4においては、湿式分散混和において苛性ソーダを用いなかったためと考えられ、比較例5においては、湿式分散混和そのものを行わなかったためと考えられる。比較例4では湿式分散混和後のシリカゾル[6]のpHは4.0となり、シリカゾルが凝集したと考えられる。また、比較例4および比較例5では、研磨速度が58nm/分および70nm/分と非常に遅くなり、スクラッチ数も131個/cm2および101個/cm2と非常に多くなった。
【0071】
比較例6は、原料のシリカゾルに何の操作も行っていないので、結晶性を有さない。また、研磨速度は100nm/分と非常に遅くなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)の工程を備える結晶性シリカゾルの製造方法。
(1)焼成工程:非晶質シリカ粒子と水に可溶な塩とを含む混合物を焼成して、実質的に結晶性シリカ粒子と前記水に可溶な塩とからなる焼成体を得る工程。
(2)水洗工程:前記焼成体を水洗し、実質的に前記結晶性シリカ粒子からなる水洗後シリカを得る工程。
(3)湿式分散混和工程:前記水洗後シリカをアルカリ性溶液中で分散混和し、結晶性シリカゾルを得る工程。
【請求項2】
前記水に可溶な塩が、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl、NaSO、KSO、CaSOおよびMgSOからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
【請求項3】
前記(3)湿式分散混和工程において、結晶性シリカゾルのpHが8.7〜10.6となる前記アルカリ性溶液を用いる、請求項1または2に記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
【請求項4】
前記非晶質シリカ粒子および前記結晶性シリカゾルの平均粒子径が1μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
【請求項5】
前記結晶性シリカゾルと前記非晶質シリカ粒子との平均粒子径の比(結晶性シリカゾル/非晶質シリカ粒子)が9以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
【請求項6】
前記非晶質シリカ粒子が、分散媒中に陽イオンを含まない非晶質シリカゾルから得たものである、請求項1〜5のいずれかに記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
【請求項7】
前記混合物に含まれる前記非晶質シリカ粒子と前記水に可溶な塩とのモル比(非晶質シリカ粒子/水に可溶な塩)が10以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
【請求項8】
前記(1)焼成工程において、前記混合物を700℃以上の温度で焼成する、請求項1〜7のいずれかに記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
【請求項9】
前記(3)湿式粉砕工程において用いる水洗後シリカの表面積(m2)をS、アルカリ性溶液のアルカリ濃度(mol/l)をCとした場合に次の式(I)が成立する、請求項1〜8のいずれかに記載の結晶性シリカゾルの製造方法。
式(I):C=0.076/1100×S+α
ここで、αは−0.03〜+0.03である。
【請求項10】
結晶性を備え、平均粒子径が1μm以下であり、粒度分布の標準偏差が10nm以上であるシリカ微粒子を含み、pHが8.7〜10.6である、結晶性シリカゾル。
【請求項11】
研磨剤として用いる、請求項10に記載の結晶性シリカゾル。
【請求項12】
研磨剤として用いてSiO2膜を研磨した場合に、研磨速度が110nm/分以上となり、スクラッチ数が30個/cm2以下となる、請求項10または11に記載の結晶性シリカゾル。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法によって得られる、請求項10〜12のいずれかに記載の結晶性シリカゾル。

【公開番号】特開2012−116734(P2012−116734A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270453(P2010−270453)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】