説明

結晶糖質、その製造方法ならびに用途

【課題】D−グルコースおよびD−フラクトースからなる結晶糖質、その製造方法、およびそれら糖質を含んでなる飲食物などを提供する。
【解決手段】D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とする液糖から生成された結晶糖質であって、該糖質結晶がD−グルコースおよびD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質および/またはD−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている結晶糖質であることを特徴とする結晶糖質およびその製造方法。
【効果】D−グルコースおよびD−フラクトースを含有する液糖から特別な製造装置を必要とすることなく希少糖などを含有する結晶状の糖質を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とする液糖から生成された、D−グルコースおよびD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質および/またはD−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている結晶である結晶糖質、および複数の糖を含む液糖からこれらの結晶糖質を製造する方法ならびに結晶糖質の用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、実用化されている糖の混合物のなかでも、「異性化糖」と呼ばれるD−グルコースとD−フラクトースからなる液糖は、飲食品などの製造において、もっとも利用頻度の高い液糖である。異性化糖には、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、高果糖液糖などがあるが、これらは現在のところ、グルコースイソメラーゼによりD−グルコース(ブドウ糖)をD−フラクトース(果糖)へ変換する異性化反応でしか工業的に実用化されていないために異性化糖と総称されている。
【0003】
この異性化糖を工業的に得るには、異性化酵素であるグルコースイソメラーゼをブドウ糖液に添加して60℃程度で反応させることによりブドウ糖の一部を果糖に変化させたのち、水分を蒸散させて濃縮し、クロマトグラフィーによる分離精製をおこなうなどして果糖純度を高め、果糖濃度が50%未満のブドウ糖果糖液糖、果糖濃度が50%以上90%未満の果糖ブドウ糖液糖、果糖濃度が90%以上の高果糖液糖などを製造することができる。
【0004】
ブドウ糖(D−グルコース)と果糖(D−フラクトース)の混合糖液である異性化糖は、結晶化が非常に難しいことから、液体の状態で利用されている。これは、一般に、複数の糖が存在する液糖を結晶状態にすることが極めて困難であり、液体の状態で利用するほかないからである。
【0005】
一方、D−フラクトースやD−グルコースの結晶を単独で製造することは次の文献に記載されているように、いくつかの方法が提案されている。
D−フラクトースの結晶化技術に関しては、例えば、D−フラクトースとD−グルコースを含む水溶性シロップを59〜61℃から52〜58℃まで冷却して、約40〜80ミクロンのサイズを有する純粋フラクトース種結晶を重量が5〜9%となる比率で、2〜4時間かけて前記シロップへ添加し、これを0.7〜0.9℃/時間の降温速度で約54〜48℃まで制御徐冷し、無水エタノールを6〜10時間かけて、前記シロップ中の水に対するアルコールの重量比率が1.0〜2.0となるまで添加し、0.4〜0.8℃/時間の降温速度で、約54℃〜48℃から約30〜25℃まで制御徐冷を施し、さらに1時間かけて温度を安定化させる結晶化工程を有する結晶質フラクトースの製造方法(特許文献1)が提案されている。
【0006】
また、熱い濃縮フラクトース溶液にフラクトース結晶を播種した後にその溶液を固体化することによる結晶フラクトースの製造方法(特許文献2)、デキストロースの一部がフラクトースに異性化され、得られたデキストロース/フラクトース流は高フラクトース流を生産するため分別化され、高フラクトース流中におけるフラクトースの一部は晶出され、結晶化後に残留する母液は液相甘味料を生産するためデキストロース含有流とブレンドされることよりなる無水結晶フラクトースとフラクトースおよびデキストロースからなるシロップとの同時生産プロセス(特許文献3)などが提案されている。
さらに、D−グルコース単独での結晶化に関する技術としては、例えば、(1)加水分解(液化・糖化)工程、(2)精製・濃縮工程、(3)イオン交換クロマト分画工程、(4)定温結晶化工程の各工程を経て澱粉から調製したマスキットを分蜜せずに乾燥・造粒して成形の含水結晶ぶどう糖粒を得る含水結晶ぶどう糖粒の製造方法が提案されている(特許文献4)。
【0007】
一方、D−フラクトースと他の単糖類を含有する糖の混合物を結晶化した例としては、D−プシコースとD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質を、D−プシコースとD−フラクトースを含有する水または水エタノール混合溶液から製造する方法(特許文献5参照)が例外的に見出されるにすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−537326号公報
【特許文献2】特開2002−520030号公報
【特許文献3】特開平6−277099号公報
【特許文献4】特開平8−242900号公報
【特許文献5】特開2001−11090号公報
【特許文献6】国際公開番号WO2010/113785号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】『ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー(Jounal of thE. AmE.rican ChE.mical SociE.ty)』、第78巻、2514頁(1956年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これまで、飲食品などの製造において最大の甘味料として用いられてきた異性化糖は液状であるため、主に飲料用の甘味料として用いられその用途は限定されていた。一般に、物質は、純粋な単一物は結晶化し易く、不純物を含むものは結晶化し難いことはよく知られている。特に異性化糖のように、D−グルコースとD−フラクトースが同量程度に混在している場合は、これを固体状態にすることは不可能であると一般には考えられていた。糖の混合物が固体状態(結晶)になる例としては、D−フラクトースとD−プシコースの複合結晶(上記特許文献5)が例外的に提案されているに過ぎない。
【0011】
特に、D−フラクトースは単独での結晶化速度が遅いことが知られ、結晶化するには複雑な工程を必要としており、D−フラクトースとD−グルコースが多量に混在する異性化糖においては、固体状態にならないのが常識とされている。しかも、ブドウ糖果糖液糖としては、液体状態であることを大きな特徴として広く甘味料として用いられてきた。しかし、この液体状態であることの欠点は多く、輸送がしにくいこと、容器からの液だれにより使用しづらいこと、微生物などに汚染されやすく長期保存ができないこと、飲食品などの製造過程で固体状態の原材料しか添加使用できない場面においては利用できないことなど、液体状態であることの欠点が多いことが利用範囲を限定していた。
【0012】
さらに、D−フラクトースおよびD−グルコースは、それぞれ溶液中では徐々に甘味の少ないα型およびβ型に移行し、甘味が損なわれるという欠点がある。すなわち、D−フラクトースおよびD−グルコースは、溶液状態では甘味料としての甘さが損なわれていたのである。
【0013】
本発明は、これら異性化糖の問題を解決するものであり、主にD-グルコース、D-フラクトースなどを含有する液糖、例えば、異性化糖から、簡便な方法により結晶状態あるいは固体状態の糖質を生成せしめるという、これまで困難であるとされてきた複数の糖からなる固形状糖質、すなわち複合体結晶糖質および/またはD−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている粒状結晶、ならびにその製造方法を提供し、異性化糖の用途を拡大することを目的とするものである。すなわち、本発明は、当業界において常識とされていた技術事項をブレイクスルーする画期的なものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の(1)ないし(14)の結晶糖質を要旨とする。
(1)D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とする液糖から生成された結晶糖質であって、該糖質結晶がD−グルコースおよびD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質および/またはD−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている結晶であることを特徴とする結晶糖質。
(2)上記の液糖が、D−グルコースとD−フラクトースとの組成比が1:1ないし7:1である上記(1)に記載の結晶糖質。
(3)上記の液糖が、D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とし、D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上含有する上記(1)に記載の結晶糖質。
(4)D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類が、少なくともD-プシコースおよびD-アロースを含む単糖類であり、多糖類がデキストリンおよび/またはオリゴ糖である上記(3)に記載の結晶糖質。
(5)上記の液糖が、グルコースとフラクトースを主組成とする異性化糖である上記(1)に記載の結晶糖質。
(6)上記の液糖が、D-グルコースおよび/またはD-フラクトースを原料糖とし、全糖質含量に対してD-プシコースが0.5〜17.0%およびD-アロースが0.2〜10.0%となるように変換した混合糖である上記(1)に記載の結晶糖質。
(7)上記結晶糖質のD−グルコースとD−フラクトースの組成比が1.2:1ないし8:1である上記(1)に記載の結晶糖質。
(8)複合体結晶糖質が、D−グルコースとD−フラクトースの組成比が3:2ないし4:1である上記(1)に記載の結晶糖質。
(9)複合体結晶糖質が、X線回折法で回折角(2θ)が、9.09°、12.50°、19.77°、20.00°、21.82°、22.73°を示す、上記(1)に記載の結晶糖質。
(10)複合体結晶糖質が、D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とする液糖を冷却して、D−グルコース及びD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質の種結晶を入れるか、あるいは入れないで、液糖中に結晶体を生成せしめ、遠心分離により得た結晶である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の結晶糖質。
(11)複合体結晶糖質が、D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とする液糖を冷却して、D−グルコース及びD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質の種結晶を入れるか、あるいは入れないで、液糖中に結晶体を生成せしめ、全体をシャーベット状態になるまで固化して得たペーストである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の結晶糖質。
(12)複合体結晶糖質が、D−グルコース及びD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質であって、混在するD−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上を抱き込んだ結晶である、上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の結晶糖質。
(13)D−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている結晶が、D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とする液糖に結晶D−グルコースからなる種結晶を添加して、D−グルコース1水和物の結晶の集合体を作ることでD−フラクトースを抱き込んで液糖全体を結晶化することにより得た結晶である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の結晶糖質。
(14)D−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている粒状結晶が、D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とする液糖に結晶D−グルコースからなる種結晶を添加して、D−グルコース1水和物の結晶の集合体を作ることでD−フラクトースとともに混在するD−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上を抱き込んで液糖全体を結晶化するにより得た粒状結晶である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の結晶糖質。
【0015】
また、本発明は以下の(15)ないし(20)の結晶糖質の製造方法を要旨とする。
(15)原料のD−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とする液糖に対し、(A)D−グルコースおよびD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質からなる種結晶を添加することにより、または、種結晶を添加しないで冷却することにより、D−グルコースおよびD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質を生成させる、あるいは、(B)結晶D−グルコースからなる種結晶を添加してD−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている粒状結晶を生成させる、ことを特徴とする結晶糖質の製造方法。
(16)上記原料の液糖が、D−グルコースとD−フラクトースとの組成比が1:1ないし7:1である上記(15)に記載の結晶糖質の製造方法。
(17)上記原料の液糖が、D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とし、D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上含有する上記(15)に記載の結晶糖質の製造方法。
(18)D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類が、少なくともD-プシコースおよびD-アロースを含む単糖類であり、多糖類がデキストリンおよび/またはオリゴ糖である上記(17)に記載の結晶糖質の製造方法。
(19)上記原料の液糖が、グルコースとフラクトースを主組成とする異性化糖である上記(15)に記載の結晶糖質の製造方法。
(20)上記原料の液糖が、D-グルコースおよび/またはD-フラクトースを原料糖とし、全糖質含量に対してD-プシコースが0.5〜17.0%およびD-アロースが0.2〜10.0%となるように変換した混合糖である上記(15)に記載の結晶糖質の製造方法。
【0016】
また、本発明は以下の(21)の甘味料および飲食物を要旨とする。
(21)上記(1)ないし(14)のいずれかに記載の結晶糖質を含有することを特徴とする甘味料および飲食物。
【0017】
また、本発明は以下の(22)の医薬品、医薬部外品または化粧品を要旨とする。
(22)上記(1)ないし(14)のいずれかに記載の結晶糖質を含有することを特徴とする医薬品、医薬部外品または化粧品。
【0018】
また、本発明は以下の(23)のD−フラクトースの含量の多い果糖ブドウ糖液糖を製造する方法を要旨とする。
(23)異性化糖、その組成がD−グルコースがD−フラクトースよりも多いブドウ糖果糖液糖から、上記(8)に記載の複合体結晶を析出させそれを遠心分離により除去することにより、D−フラクトースの含量の多い果糖ブドウ糖液糖を製造する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明は以下の効果を奏するものである。
(1)HFCS(High FructosE. Corn Syrup)としてデンプンからアミラーゼおよびD−キシロースイソメラーゼ(グルコースイソメラーゼ)によって作られ、安価な甘味料として用いられてきた異性化糖(液糖)を、HFCC(High FructosE. Corn Crystal)とも言える全く新しい個体状の甘味料へと変身させることができる。
(2)本発明の方法により、異性化糖をさらにアルカリにより異性化することで得られる希少糖含有異性化糖(液糖)についても、同様に固体状糖質に変化させることができる。
(3)液体状態であることを大きな特徴として広く甘味料として用いられてきた異性化糖は、液体状態であることによる欠点が多く、例えば、輸送しづらい、液だれにより使いづらい、汚染されやすい、用途が限定されるなど利用範囲が限定されていたことが解消される。
(4)D−フラクトースおよびD−グルコースは、それぞれ溶液中では徐々に甘味の少ないα型およびβ型に移行し、甘味が損なわれるという欠点がある。すなわち、D−フラクトースおよびD−グルコースは、溶液状態では甘味料としての甘さが損なわれており、結晶化させることによって甘さの損失を抑制することを可能とする。
(5)一般に、砂糖は最も甘いコンフォメーションであるβ-D−フラクトースとα-D−グルコースが結合した結晶体であるが、Brix70の本結晶糖質は、その砂糖に近い甘味度であることから、甘さの強いコンフォメーションで結晶化している。
(6)これまで粉体としての利用ができなかった液状糖である異性化糖を、粉体である結晶糖として用途を開発することが可能となった。
(7)これまでぶどう糖果糖液糖から疑似移動相クロマトで果糖を分離し、それをぶどう糖果糖液糖に添加するというコストの高い方法を用いて果糖ぶどう糖液糖を製造していたが、本方法によれば、結晶糖質の製造と同時に果糖ぶどう糖液糖の製造が可能となる。
以上の事項は、これまでも広く用いられてきた異性化糖の利用範囲をさらに飛躍的に拡大することを意味し、新しい甘味料としての産業的意義は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の結晶化の方法と生成する結晶の種類を説明する図面である。
【図2】従来の異性化糖の製造法の概要を示す。
【図3】従来の異性化糖の製造法の概要と図1の結晶Bの製造工程を結合したラインを示す。 異性化糖から、ブドウ糖:果糖 3:1 の結晶化のラインである。このラインでは、1)「低温で」明確な3:1のもので、2)針状結晶、3)長時間で全体が低温でシャーベットになる。
【図4】従来の異性化糖の製造法の概要と図1の結晶A,C,D,Eの製造工程を結合したラインを示す。このラインは、1)D−グルコース添加による方法により、2)室温でも全体を粒状として結晶化・固化することができる。
【図5】本発明の複合体結晶糖質の顕微鏡写真を示す。
【図6】実施例1の種結晶を添加10分後の写真を示す。
【図7】実施例1の種結晶を添加1時間後の写真を示す。
【図8】実施例1の種結晶を添加2時間後の写真を示す。
【図9】実施例1の種結晶を添加5時間後の写真を示す。
【図10】希少糖を含有する本発明の複合体結晶糖質(図1の結晶E)の実態顕微鏡写真を示す。
【図11】D−グルコース結晶の実態顕微鏡写真を示す。
【図12】D−フラクトース結晶の実態顕微鏡写真を示す。
【図13】本発明の複合体結晶糖質(図1の結晶B)のHPLCパターンを示す。
【図14】結晶のX線回折法で得た主な回折角(2θ)を示す。(1)D−グルコース結晶、(2)D−フラクトース結晶、(3)本発明の結晶糖質(図1の結晶E)。
【図15】各糖の示差走査熱測定のチャートを示す。(1)本発明の希少糖含有複合体結晶糖質(図1の結晶E)、(2)D−グルコース1水和物、(3)D−グルコース、(4)D−フラクトースのそれぞれの示差走査熱量測定(DSC)。
【図16】異性化糖のHPLCチャートを示す。
【図17】結晶分離後の液糖のHPLCチャートを示す(図1の異性化糖G<F)。
【図18】原料液糖(異性化糖:グルコース=3:7)からの結晶の糖組成比を分析した結果を示すHPLCパターンである。
【図19】原料液糖(異性化糖:グルコース=5:5)からの結晶の糖組成比を分析した結果を示すHPLCパターンである。
【図20】原料液糖(異性化糖:グルコース=7:3)からの結晶の糖組成比を分析した結果を示すHPLCパターンである。
【図21】原料液糖(異性化糖液:70%グルコース液=5:5)から経時的に結晶を取り出して組成分析をした結果を示すHPLCパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[原料糖液]
本発明は、D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とする液糖から製造された結晶糖質である。原料のD−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とする液糖としては、D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とする液状の糖であって、その含有比率などは適宜選定して使用される。好ましくは、D−グルコースとD−フラクトースとの組成比が1:1ないし7:1である液糖を使用することができる。これは、果糖の多い異性化糖も利用できることを意味している。
【0022】
D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とする原料液糖中には、D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類や多糖類その他の物質を共存させて結晶糖質中に含ませることができる。
すなわち、D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とし、D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上含有する液糖を用いることができる。D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類は、少なくともD-プシコースおよびD-アロースを含む単糖類であり、これらの生理活性を有する物質を含有する結晶糖質を食品に応用することにより有用な機能を食品に付与することができる。多糖類はデキストリンおよび/またはオリゴ糖である。
【0023】
より具体的には、グルコースとフラクトースを主組成とする異性化糖あるいはこの異性化糖をアルカリ異性化した希少糖含有異性化糖である。原料としては入手可能性などの観点からみて、市販されているブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、希少糖含有異性化糖などを主原料として用いることが好ましく、異性化糖にD−グルコース溶液、D−フラクトース溶液などにより組成を調整して原料糖液として用いられる。また、D−グルコースおよびD−フラクトース、希少糖などの単糖類やデキストリンなどの多糖類を適宜混合して調製して使用してもよい。
また、希少糖含有異性化糖とは、D-グルコースおよび/またはD-フラクトースを原料糖とし、全糖質含量に対しD-プシコースが0.5〜17.0%およびD-アロースが0.2〜10.0%になるように変換した混合糖である。単糖類は少なくともD-プシコースおよびD-アロースを含むが、その他にD−ソルボース、D−タガトース、D−マンノースを含んでいても良いがそれらに限定されることはない。希少糖含有異性化糖は異性化糖と比べてD−フラクトースの量が少ないこと、他の希少糖が多く混在することで相違がある。希少糖含有異性化糖液糖とD−グルコースとの比および希少糖含有異性化糖の組成から、D−グルコースとD−フラクトースの比を計算することができる。
【0024】
以下に、D−グルコースおよびD−フラクトースを含有する原料液糖の一例として異性化糖について説明する。
異性化糖とはD−グルコースおよびD−フラクトースを含有する液糖を総称するものであるが、例えば、通常、異性化糖と称されている、でん粉をアミラーゼなどの酵素または酸により加水分解して得られた主にブドウ糖からなる糖液を、グルコースイソメラーゼまたはアルカリにより異性化したブドウ糖または果糖を主成分とする液状の糖を含むものである。この異性化糖には、固形分に対する果糖含有率が50%未満の「ブドウ糖果糖液糖」、50%以上90%未満の「果糖ブドウ糖液糖」、90%以上の「高果糖液糖」、および、ブドウ糖果糖液糖にブドウ糖果糖液糖の量を超えない量の砂糖を加えた「砂糖混合果糖ブドウ糖液糖」があり、JAS規格にしたがって分類されている。
異性化糖は、砂糖より甘みが口中に残りにくく、低温下で甘味度を増すので、清涼飲料や冷菓などに多く使われ、価格も安い(果糖分55%の果糖ブドウ糖液糖は砂糖の7割程度)ことから、缶詰、パン、みりん風調味料など、コスト低減目的で砂糖の一部代替として使われている。固形化や粉末化するのが難しく、液体でしか流通されていないので、一般消費者にとっては使いづらく、家庭向けにはほとんど販売されていない。
【0025】
この異性化糖を原料にして、D−プシコースやD−アロースといった「希少糖」とよばれる糖を含有させた「希少糖含有異性化糖」を製造する方法が開発されている(特許文献6)。目的とするヘキソースを所定量含む糖組成物の製造方法であって、原料糖としてのヘキソースもしくはヘキソースを含む混合物からなる原料糖液を、塩基性イオン交換樹脂、アルカリ、およびカルシウム塩からなる群から選ばれる一種以上が存在する系で処理することにより、原料糖としてのヘキソースを目的とするヘキソースに変換する平衡反応である異性化反応を生じさせ、目的とするヘキソースを所定量含む原料糖とは異なる糖組成の混合糖とすることを特徴とする製造方法である。
当該方法によって得られた希少糖含有異性化糖は、甘味剤、抗肥満剤、摂食抑制剤、インスリン抵抗性改善剤、低カロリー甘味料としての利用が試みられており、機能性をもった糖質として、注目を浴びつつある。この希少糖含有異性化糖は、D−グルコースとD−フラクトースのほかに、D−プシコースやD−アロースなどの複数の希少糖を含むので、「純粋な単一物は結晶化し易く、不純物を含むものは結晶化し難い」ということからしても、非常に結晶し難いことは明白である。
【0026】
[結晶化の方法]
本発明では異性化糖、希少糖含有異性化糖を中心とした糖液を以下の方法で結晶化した。図1に示す以下の2つの方法に分類できる。
I:低温での結晶化法
I-(1)種結晶を入れ(あるいは入れずに)数日間約5℃で放置し、結晶を分離できる状況まで結晶化を行い、遠心分離によって結晶を分離する方法(生成する結晶の種類:結晶B)。
I-(2)種結晶を入れ(あるいは入れずに)長期間約5℃で放置する方法で、糖質溶液全体を固化結晶化しシャーベット状態とする方法(生成する結晶の種類:結晶C.D)。
II:D−グルコースを添加する方法
D−グルコースを糖溶液に添加し、種をいれ(あるいは入れずに)室温あるいはそれ以下で放置する方法で、糖溶液全体を固化結晶化する方法(生成する結晶の種類:結晶A,E.)。
これらの結晶化法を目的とする結晶に合うように選択することが重要である。
【0027】
本発明においては、例えば、図2で示される従来製造されていた異性化糖(ぶどう糖:果糖の比(G:F)が約55:45)を使用して複合体結晶糖質が製造できる。図2、ならびに、図3および図4の前段の製造ラインに示す従来の異性化糖の代表的製造例は、原料でんぷんをアミラーゼにより分解しD−グルコースとする工程、D−グルコースをイソメラーゼによりD−フラクトースとする工程からなり、生成した平衡混合物である液状の異性化糖を得る。この異性化糖は、「ぶどう糖果糖液糖」に分類され、ぶどう糖:果糖の比(G:F)が約55:45であり、通常はそのまま市販製品となる。さらに、甘味度が高い果糖の度を上げるために、クロマト分離を行った果糖をぶどう糖果糖液糖に添加して果糖ぶどう糖液糖を生産している。果糖の濃度を上げることはコスト高の要因となっている。これまで果糖ぶどう糖液糖の製造には、ぶどう糖果糖液糖から疑似移動相クロマトで果糖を分離し、それをぶどう糖果糖液糖に添加するというコストの高い方法を用いていたが、本発明の複合体結晶糖質の製造方法(図3)によればこの過程を経ることなく遠心分離により結晶体と分離された液糖として果糖ぶどう糖液糖の製造が可能となった。
【0028】
本発明による複合体結晶糖質の製造の代表的例を図3で説明する。ぶどう糖:果糖の比(G:F)は約55:45である異性化液糖を製造する工程までは図2、ならびに、図3および図4の前段の製造ラインに示す従来の異性化糖の代表的製造法と同じであるが、複合体結晶糖質からなる種結晶を添加混合して、あるいは添加することなく、結晶を成長させた後、結晶と母液の液糖(残液)に固液分離する工程が付加される。分離後の結晶と液糖はほぼ50%ずつ生産され、収率は高くロスとなる糖は少ない。生成した結晶は、ぶどう糖果糖に属する糖濃度比を有し、ぶどう糖:果糖の比(G:F)は約75:25である(図1の結晶B)。この結晶は果糖含有量の少ないマイルドな甘味を持った新たな食感を有した異性化糖結晶である。また、分離後の液糖は、果糖ぶどう糖液糖に属する糖濃度を有し、ぶどう糖:果糖の比(G:F)は約30:60であり果糖の含有割合が増加している。本発明によりクロマト分離工程を必要としないで果糖濃度を増加させることができる。複合体結晶糖質として製造されるD−グルコースとD−フラクトースの組成比は3:2ないし4:1の範囲である。
【0029】
[結晶糖質]
本発明の結晶糖質は、D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とする液糖から生成された結晶糖質であって、該糖質結晶がD−グルコースおよびD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質および/またはD−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている結晶であることを特徴とする結晶糖質(図1の結晶A,B,C,D,E)である。本発明の結晶糖質は、複合体結晶糖質(図1の結晶B,C,D)および/またはD−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている結晶(図1の結晶A,E)として、以下(1)〜(5)の原料液糖から得られる。
(1)D−グルコースとD−フラクトースとの組成比が1:1ないし7:1である液糖から得られる(図1の結晶A,B,C,D,E)。
(2)D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とし、D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上含有する液糖から得られる(図1の結晶A,B,C,D,E)。
(3)D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類が、少なくともD-プシコースおよびD-アロースを含む単糖類であり、多糖類がデキストリンおよび/またはオリゴ糖である液糖から得られる(図1の結晶D,E)。
(4)グルコースとフラクトースを主組成とする異性化糖である液糖から得られる(図1の結晶A,B,C)。
(5)D-グルコースおよび/またはD-フラクトースを原料糖とし、全糖質含量に対してD-プシコースが0.5〜17.0%およびD-アロースが0.2〜10.0%になるように変換した混合糖(希少糖含有異性化糖)である液糖から得られる(図1の結晶D,E)
【0030】
図1に基づいて、生成する結晶について説明する。
(1)生成する結晶糖質のD−グルコースとD−フラクトースの組成比は、1:1ないし8:1である(図1の結晶A,B,C,D,E)
(2)D−グルコースとD−フラクトースの組成比が3:2ないし4:1の複合体結晶糖質である(図1の結晶B)。
(3)X線回折法で回折角(2θ)が、9.09°、12.50°、19.77°、20.00°、21.82°、22.73°を示す複合体結晶糖質である(図14,図1の結晶D)
(4)D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とする液糖を冷却して、D−グルコース及びD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質の種結晶を入れるか、あるいは入れないで、液糖中に結晶体を生成せしめ、遠心分離により得た複合体結晶糖質である(図13,図1の結晶B)
(5)D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とする液糖を冷却して、D−グルコース及びD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質の種結晶を入れるか、あるいは入れないで、液糖中に結晶体を生成せしめ、全体をシャーベット状態になるまで固化して得た複合体結晶糖質のペーストである(図1の結晶C,D)。
(6)D−グルコース及びD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質であって、混在するD−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上を抱き込んだ結晶である(図1の結晶C,D)。
(7)D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とする液糖に結晶D−グルコースからなる種結晶を添加して、D−グルコース1水和物の結晶の集合体を作ることでD−フラクトースを抱き込んで液糖全体を結晶化するにより得た結晶である(図1の結晶A,E)
(14)D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とする液糖に結晶D−グルコースからなる種結晶を添加して、D−グルコース1水和物の結晶の集合体を作ることでD−フラクトースとともに混在するD−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上を抱き込んで液糖全体を結晶化するにより得た結晶である(結晶A,E)。
【0031】
上記のI-(1)の低温での結晶化法で結晶を得た。異性化糖(ブドウ糖果糖液糖)を冷蔵庫約5℃結晶化した複合体結晶糖質である結晶(図1の結晶B)は、図5に示すように白色針状結晶状を呈している。
また、IIのD−グルコースを添加する方法で結晶した。希少糖含有異性化糖にD−グルコースを添加する方法で結晶を得た(図6〜9参照)。この場合は図10に示すような実態顕微鏡写真で示す粒状の形を呈している。約0.1mmの大きさの粒状結晶として生成していることがわかる。このような実体顕微鏡による結晶写真や後述するX線回折パターン(図14)などから、本発明の結晶糖質はD−グルコース(図11)やD−フラクトース(図12)と同様に結晶として存在することが確認された(図1の結晶E)。
【0032】
[結晶の性質]
D−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている粒状結晶は、粒状結晶を構成する個々の成分とは異なるX線解析パターンを示し、そのD−グルコース:D−フラクトースの比は、1:1ないし8:1の範囲にあるが、原料液糖の組成に応じてその比率が異なる結晶が生成する。粒状結晶が含有するD−グルコースの割合は、原料糖液のD−グルコース濃度に応じて上昇し、分離した母液よりもその値が高くなる傾向が認められた。また、結晶D−グルコースを種結晶とすることにより、液糖全体を結晶化させて固化することができる。この場合には、生成した結晶糖液と母液を分離する必要はなくなることとなる(図1の結晶E)。
【0033】
[生成した結晶糖質のX線解析]
試料:希少糖含有異性化糖液糖 Brix 70 にD−グルコース Brix 70 を等量加え室温で結晶化させたもの(実施例1および2、図1の結晶E)
図14(3)に示すX線回折パターンが得られた。対照として分析した、D−グルコース結晶粉末のX線回折パターンを図14(1)に、D−フラクトース結晶粉末のX線回折パターンを図14(2)に示す。
【0034】
[生成した結晶の示差走査熱解析]
X線解析をした試料と同一のもの、および、その成分であるD−グルコース結晶およびD−フラクトース結晶の示差走査パターンを図15(1)から(4)に示した。図15(1)は希少糖含有結晶糖質の示差走査熱測定結果である。図15(2)はD−グルコース1水和物、図15(3)はD−グルコース、図15(4)はD−フラクトースの測定結果である。
【0035】
[結晶糖質の製造]
本発明の特徴の一つは、IIのD−グルコースを添加することによって、糖溶液の組成を調製して室温において結晶を得ることである(図4参照)。
この方法によって、異性化糖あるいは希少糖含有異性化糖の何れを用いても、簡便に結晶糖質を製造することができる。これまで粉体としての利用が困難であった異性化糖を結晶状態の糖とすることが可能である。
本発明の結晶糖質の製造方法は、原料のD−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とする液糖に対し、(1)D−グルコースおよびD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質からなる種結晶を添加することにより、または、種結晶を添加しないで冷却することにより、D−グルコースおよびD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質を生成させる、あるいは、(2)結晶D−グルコースからなる種結晶を添加してD−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている粒状結晶を生成させる、ことを特徴とする(図1の結晶A,B,C,D,E)。
上記の製造方法において、原料の液糖が、D−グルコースとD−フラクトースとの組成比が1:1ないし7:1であることを特徴とする(図1の結晶A,B,C,D,E)。
上記の製造方法において、原料の液糖が、D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とし、D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上含有することを特徴とする(図1の結晶A,B,C,D,E)。
上記の製造方法において、D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類が、少なくともD-プシコースおよびD-アロースを含む単糖類であり、多糖類がデキストリンおよび/またはオリゴ糖であることを特徴とする(図1の結晶D,E)。
上記の製造方法において、上記原料の液糖が、グルコースとフラクトースを主組成とする異性化糖であることを特徴とする(図1の結晶A,B,C)。
上記の製造方法において、上記原料の液糖が、グルコースとフラクトースを主組成とする異性化糖であることを特徴とする(図1の結晶A,B,C)。
上記の製造方法において、上記原料の液糖が、D-グルコースおよび/またはD-フラクトースを原料糖とし、全糖質含量に対してD-プシコースが0.5〜17.0%およびD-アロースが0.2〜10.0%になるように変換した混合糖であることを特徴とする(図1の結晶D,E)。
【0036】
複合体結晶糖質(図1の結晶B)の組成に関しては、例えば、糖組成がD−グルコース:D−フラクトース=43:51である原料糖から生成した複合体結晶糖質をHPLCにより分析した結果、結晶の糖組成は、D−グルコース:D−フラクトースの比が原料とは異なり75:25であること、すなわち、D−グルコース:D−フラクトース=3:1であることが判明した(図13)。この結果は得られた結晶は原料の糖組成とは相違し、原料の全てを抱き込んだ全体の固化体ではないことを示している。複合体結晶糖質の組成は、D−グルコース:D−フラクトースが3:2ないし4:1の範囲であることがわかった。
【0037】
[種結晶]
本発明で使用する種結晶は、D−グルコースおよびD−フラクトースを含有する液糖の結晶化により得た結晶である。その結晶を得る方法としては、例えば、まず、Brix60〜80の異性化糖あるいは希少糖含有異性化糖(いずれも液糖状態)を低温(5℃)下で長期保存した際に見られる白濁物を得、これをさらにBrix70の同液糖中に移し、継続して結晶化させて分離するという方法がある。なお、種結晶を添加しない場合においても、96時間以上の時間をかけることで同一の結晶を得ることは可能である。また、本発明で使用される種結晶はD−グルコース結晶であってもよい。異性化糖に結晶D−グルコースを種結晶として添加すると、原料液糖の組成に応じたD−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている粒状結晶が生成するので、結晶と母液を分離することにより結晶糖質が得られる。このとき、原料液糖と種結晶の混合物を長期間、例えば1〜2日以上放置することにより、または、低温化に長時間保持することにより、原料糖液は全体が結晶化して固体状となる。種結晶は、液糖の0.05〜10質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0038】
[結晶糖質の製造]
異性化糖あるいは希少糖含有異性化糖(原料液糖)100質量部に対し、種結晶約0.05〜10質量部と、必要により、Brix70のD−グルコース溶液を加えて、原料液糖のD−グルコースとD−フラクトースの最終組成比が1:1ないし7:1となるように調整し、均一に種結晶が分散した液糖を調製する。異性化糖から結晶物を得ようとした場合、通常、液糖が凍らない低温で少なくとも一週間程度保存することが好ましいが、上記方法によれば、原料液糖、D−グルコース溶液、および種結晶の混合液糖の調製をはじめると同時に結晶物の析出が始まり、これを室温下で1〜2日程度放置するだけで、全体が固形状の糖質となる。この点は、本発明が製造工程上もっとも有用な点であり、特別な設備や時間を必要とすることなく、非常に簡便に、液糖から固形状糖質を製造する方法として、産業上利用できる価値の高いものである。この全体が固形状の糖質を遠心分離機などにより固液分離することにより複合体結晶糖質および/または粒状結晶が得られる。
【0039】
原料となる液糖のD−グルコース:D−フラクトースを1:1ないし7:1に調整することにより、同比が1.2:1ないし8:1の結晶糖質が得られる。例えば、D−グルコース:D−フラクトースが3.4:1の液糖からは同比が4.2:1の複合体結晶糖液が得られ。6.5:1の液糖からは7.3:1の結晶が得られる。すなわち、D−グルコースおよびD―フラクトースを含む液糖から結晶糖質の製造開始時点において、意図的にD−グルコースとD−フラクトースの組成比をこの組成比に調整しておくことで、結晶糖質および結晶分離後の母液の組成をあらかじめ設定することもできる。
こうして製造された結晶糖質は、原料液糖の組成とは異なるD−グルコース:D−フラクトース比をしている。結晶を分離して得た液糖は、原料液糖とその外観において特に相違するものではないが、結晶糖質として除去された分だけ組成は変化している。また、別の観点からすれば、本方法を用いて液糖から生成させる結晶糖質の量やその組成を制御することにより、結晶分離後の液糖組成を変化させることも可能となるので、結晶分離後の液糖組成を変化させた新たな糖組成物を作製することができる。
【0040】
[生成した結晶の甘み]
製造の際に、原料液糖およびD−グルコース溶液の混合液糖をBrix70前後に調整した際にもっとも甘味質が良好となり、驚くべきことに、Brix80以上の場合よりも、甘味が強く感じられることを、本発明を完成させる過程で発見した。これは、複合体結晶糖質および/または粒状結晶が、Brix70の時には、糖質が一部の水を内側に取り囲んだ規則的な配列をなす結晶状態にあることが理由として考えられ、Brix70前後の場合に、もっとも甘味質の良い結晶状体の糖質が得られるといえる。すなわち、本発明で得られる複合体結晶糖質および/または粒状結晶は、結晶構造を有するため甘みが減少することはない。このことは、甘味質が全く異なった新規の甘味料となっており予備的な官能評価により実証されている。
【0041】
この現象は、D−フラクトースおよびD−グルコースは、それぞれ溶液中では徐々に甘味の少ないα型およびβ型に移行し、甘味が損なわれることに基づくものと推定される。D−フラクトースおよびD−グルコースは、溶液状態では甘味料としての甘さが損なわれており、結晶化させることによって甘さの損失を抑制することになる。このことは、砂糖は最も甘いコンフォメーションであるβ-D−フラクトースとα-D−グルコースが結合した結晶体であるが、本発明のBrix70の複合体結晶糖質および/または粒状結晶は、その砂糖に近い甘味度であることから、甘さの強いコンフォメーションであるβ-D−フラクトースとα-D−グルコースの形で結晶化しているものとすることにより説明できる。グルコースは、80℃以上の高温かつ高Brixで結晶化させるとβ型に、それよりも低温かつ低Brixで結晶化させるとα型になので、本発明の結晶物は、室温かつやや低いBrix(Brix70)の条件で結晶化させているためにα型となっており強い甘さを保っていると推定される。
本発明の複合体結晶糖質は、特に、甘味タブレット、菓子のアイシング、ウイスキーボンボンの糖の殻、蜂蜜様スプレッド、テーブルシュガーなど、そのままの固形状態で用いることのできる用途においては、全く新しい味質を提供することができる。
【0042】
[生成した結晶糖質の用途など]
このようにして得られる本発明の結晶糖質は取り扱いが容易であり、その包装、輸送、貯蔵など管理に要する物的、人的経費が大幅に削減できる。また、複合結晶体の粉末を使用した、粉末混合甘味料、固形混合甘味料、チョコレート、チューインガム、即席ジュース、即席スープ、顆粒、錠剤などの製造が容易にまた有利に実施できる。さらに、本発明の結晶糖質は、糖質の持つ性質、例えば、甘味性、ボディー付与性、照り付与性、保湿性、他糖の晶出防止、適度な粘性などの性質を兼備しているので、広く、飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0043】
本発明の複合体結晶糖質および/または粒状結晶は、甘味料として利用する場合は、例えば、粉飴、グルコース、マルトース、異性化糖、スクロース、トレハロース、蜂蜜、メープルシュガー、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、マルチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α−グリコシルステビオシド、ラカンカ甘味物、グリチルリチン、L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような他の甘味料の一種または二種以上の適量と混合して使用してもよく、またデキストリン、澱粉、乳糖などのような増量剤と混合して使用することもできる。
【0044】
本発明の複合体結晶糖質および/または粒状結晶は、そのままで、または必要に応じて増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して顆粒、球状、錠剤、棒状、板状、立方体などに成形して使用することも随意である。本発明の結晶法の成形の特徴として、温度の変化を必要としないなどから、金属の鋳物の原理を利用して希望する形の鋳型を作り、それに糖液を流し込んで結晶化することで、通常では作ることが不可能な形の糖の形を容易に作ることが可能である。その甘味は、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味など、各種の物質の他の呈味とよく調和し、普通一般の飲食物の甘味付、呈味改良に、また品質改良などに有利に利用できる。例えば、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、フリカケ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼き肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなど各種調味料への甘味料として、また、呈味改良剤、品質改良剤などとして有利に利用できる。
【0045】
食品としての利用は、例えば、せんべい、あられ、おこし、餅類、まんじゅう、ういろう、餡類、羊羹、水羊羹、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンデーなどの各種洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓子、果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペーストなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖菓などの果実、野菜の加工食品類、パン類、麺類、米飯類、人造肉などの穀類加工食品類、福神漬、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物類、たくあん漬の素、白菜漬の素などの漬物の素類、ハム、ソーセージなどの畜産製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、カマボコ、チクワ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢コンブ、さきするめ、ふぐのみりん干しなどの各種珍味類、のり、山菜、するめ、小魚、貝などで製造される佃煮類、煮豆、ポテトサラダ、コンブ巻などの惣菜食品、乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜の瓶詰め、缶詰類、合成酒、果実酒、洋酒、リキュールなどの酒類、コーヒー、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックスなどのプレミックス粉類、即席ジュース、即席コーヒー、即席汁粉、即席スープなど即席飲食品などの各種飲食物への甘味料として、また、呈味改良剤、品質改良剤などとして有利に利用できる。
【0046】
家禽、その他蜜蜂、蚕、魚などの飼育動物のための飼料、餌料などの嗜好性を向上させる目的で使用することもできる。また、作物、野菜、花卉、観葉植物、庭園の草木、芝、果樹などの植物活性化剤として、水耕栽培などに利用する植物活性化剤として、さらに、生長点培養、微生物・細胞培養の培地栄養物や浸透圧調整剤などとして有利に利用できる。その他、タバコ、練り歯磨き、口紅、リップクリーム、内服液、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香錠、うがい薬など各種固形状、ペースト状、液状の嗜好物、化粧品、医薬品などへの呈味改良剤、矯味剤として、さらに品質改良剤などとして有利に利用できる。
【0047】
以上述べたような飲食品、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品などの各種組成物に本発明の糖質を含有せしめる方法は、その製品が完成するまでの工程で本発明の糖質を含有せしめればよく、例えば、混和、混捏、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、晶析、固化などの公知の方法が適宜選ばれる。
【0048】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
希少糖含有異性化糖(株式会社レアスウィート製、商品名「レアシュガースウィート」)を原料として、D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とし、各種希少糖含有する複合体結晶糖質(図1の結晶E)を製造した。原料希少糖含有異性化糖(Brix70の液糖)および試薬のD−グルコース(ブドウ糖)を水に溶解したBrix70のブドウ糖溶液を調製した。これらを原料として用いた。
【0050】
ブドウ糖溶液133gを希少糖含有異性化糖133gと室温で混合した。これをプラスティクの容器に入れ、種結晶を約0.5g添加し均一に撹拌し結晶化を室温にて開始した。
【0051】
結晶化の過程を種結晶添加10分後(図6)、1時間後(図7)、2時間後(図8)、5時間後(図9)に示した。結晶化の速度は種結晶の添加量などによって変化するが、一般の糖質の結晶化と比較すると室温で比較的速い速度で進行した。種の添加1時間後には全体に結晶が見られ、5時間後にはほぼ全体が結晶化した。5時間の時点では容器を傾けても溶液が流れることなく、図9のように全体が白くなり固化した。
【0052】
この結晶化の過程は通常の糖の結晶化と比較すると大きく異なっている。すなわち通常の希少糖、例えばD−プシコースなどの結晶化は、過飽和状態に希少糖を溶解し種結晶を添加後、撹拌しながら温度を徐々にさげることで純粋な糖結晶を析出させる。温度の差による溶解度の差を利用して結晶化するのである。したがって糖溶液全体を結晶化・固化することはできない。その後生じた結晶を遠心分離により結晶化していない液(蜜)と分離することで結晶を得る。
本発明のように、室温も変化せず、撹拌もしない条件で糖液全体を固化結晶化する方法とは、結晶化の原理が全く異なることが理解できる。
【実施例2】
【0053】
特許文献6の製法により製造した希少糖含有異性化糖(株式会社レアスウィート製、商品名「レアシュガースウィート」)を原料として、D−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている粒状結晶を作製した。
原料液糖の糖組成(全糖質固形分に対する質量%):
(1)Brix70の希少糖含有異性化糖
グルコース41.6%
フラクトース33.0%
マンノース+ソルボース+アロース+タガトース+プシコース19.4%
デキストリン4.2%
unknown1.9%
(2)Brix70のグルコース
グルコース100%(全糖質固形分に対する%)
結晶化するのに、(1):(2)=1:1で混合する。
【0054】
希少糖含有異性化糖(Brix70.0)100gに対し、60℃まで加熱したBrix70のD−グルコース溶液100gを添加・混合し、室温に冷めたところで種結晶(商品名「レアシュガースウィート」とBrix70のD−グルコース溶液を等量混合し、数日間室温に放置して結晶化させておいたもの)1.0gを加え、数日間室温に放置して結晶化させて得た(図1の結晶E)。
【0055】
[生成した結晶糖質のX線解析]
生成した結晶糖質(図1の結晶E)を、ガラス皿上で粉砕した後、40℃で24時間真空乾燥し、その乾燥物を乳鉢中で粉砕した。このようにして調製した粉末を、非特許文献1に報告されている方法に準じて、CuKα線を用いた粉末X線回折法で解析した。測定は、島津社製粉末X線回折装置XRD−6100を用いて行った。ターゲットはCu、35 kV * 30 mA、2θ領域を5°から80°の範囲でスキャンし、スキャン速度は毎分0.5°で、0.004°間隔で測定を行った。その結果、図14(3)に示すX線回折パターンが得られた。対照として分析した、D−グルコース結晶粉末のX線回折パターンを図14(1)に、D−フラクトース結晶粉末のX線回折パターンを図14(2)に示す。
【0056】
図14(3)に示す粉末X線回折パターンの結果から明らかなように、上記で得た固状物からは結晶に由来するX線回折パターンを得た。横軸(2θ)がずれているが、これは本質ではなく、装置の問題だと思われる。しかし、この装置のずれ以上に、グルコース(図14(1))と異なっているピークは、次の通りである。本発明の結晶糖質:2θ=9.09度付近、12.50度付近、19.77度付近、20.00度付近、21.82度付近、22.73度付近。
【0057】
図14の各パターンを対比することにより明らかなように、本発明の結晶糖質のX線回折パターンには、D−グルコース結晶およびD−フラクトース結晶のX線回折パターンのいずれとも異なっているピークが存在すること、D−グルコースとD−フラクトースに存在するピークが存在しないものが認められる。これら事実は、この結晶性糖質がD−グルコース結晶およびD−フラクトース結晶のいずれとも異なり、D−グルコースおよびD−フラクトースを含有する本発明の新規な結晶糖質であることを意味していると考えられる。
【0058】
希少糖含有異性化糖結晶の絶対構造はこのX線構造解析では明確にすることはできないが、希少糖含有異性化糖結晶には、D−グルコースとは大きくピークがずれている箇所があること、D−フラクトースに存在するピークが見られないことなどから、単なるD−グルコースとD−フラクトースの両結晶の混合物ではないことを示していることから、D−グルコースの超分子構造、あるいはD−グルコース結晶と希少糖含有異性化糖結晶との複合体などが考えられる。いずれにしても生成した希少糖含有異性化糖結晶は、これまでには存在しない構造であり、単なるD−グルコースの結晶とD−フラクトースの結晶の混合物ではないことは明確である。
【0059】
[生成した結晶の示差走査熱解析]
X線解析をした試料と同一のもの(図1の結晶E)、および、その成分であるD−グルコース結晶およびD−フラクトース結晶の示差走査パターンを図12(1)から(4)に示した。
理学電機製の超高感度示差走査熱量計(DSC 8240D)を用い、以下のようにして粉末の示差走査熱測定を行った。まず、測定用試料を粉末試料用アルミパンに入れ(約3〜4mg程度)、これを電子天秤で精秤してからアルミパンを密封し,装置中にセットした。次に、昇温速度を2 K/minに設定して,30℃から160度まで温度上昇させたときに観測される熱流を記録した。測定試料が融解や相転移などの熱の出入りを伴う状態変化を起こせば,熱流対温度のグラフ上に熱流のピークが生じる。ピーク面積を求めれば,対応する状態変化に伴うエンタルピー変化量が得られる。
【0060】
図15(1)は希少糖含有結晶糖質の示差走査熱測定結果である。図15(2)はD−グルコース1水和物、図15(3)はD−グルコース、図15(4)はD−フラクトースの測定結果である。
図15(1)の希少糖含有結晶糖質は、80℃付近まで徐々に吸熱した後に一定となり、140℃以上まで昇温すると複数の吸熱ピークが観測された。140℃以上での複雑なピークは試料の熱分解に由来するものと思われる。
【0061】
図15(1)の希少糖含有結晶糖質の結果を、他の結果と比較して考察すると以下のような二つの可能性があると考えられる。
第一に、希少糖含有結晶糖質にはかなりの量のD−グルコース一水和物結晶が含まれている可能性があると考えることができる。このことは80℃までは両者の挙動は類似していることから推測できる。ただし、希少糖含有結晶糖質では30℃付近から吸熱がはじまっておりD−グルコース一水和物結晶よりも吸熱ピークが広がっている。これは溶媒が粉末中に残存しており、この溶媒中に少しずつ固体粉末が溶解するためと考えられる。希少糖含有結晶糖質中にはD−フルクトースも含まれているはずであるが、純粋なフルクトースの融解に対応するピーク(100−120℃)は観測されない。この原因は、80℃まで温度を上げると(溶媒が残存しているため)濃厚な溶液状態となり,フルクトースはこの時点で全てこの溶液中に溶解してしまい,固体状態のフルクトースは存在しなくなるためと解釈できる。
第二に、希少糖含有結晶糖質はD−グルコース−フルクトースの完全に複合結晶を形成していて、純粋なD−グルコース(あるいはD−グルコース一水和物)、純粋なD−フルクトースとは異なる結晶であると考えられる。したがって,両者に対応する吸熱ピークは観測されない。
示差走査熱量計によるこれらの実験結果は、本発明の希少糖含有結晶糖質の構造を明確に示すことはできないが、複合体結晶、D−グルコース1水和物結晶のいずれの構造であるにしても、単純なD−グルコースおよびD−フラクトースの両結晶の混合物ではないことを示している。
【実施例3】
【0062】
異性化糖の一形態である「ブドウ糖果糖液糖」を原料として、D−グルコース及びD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質(図1の結晶B)を製造した。
原料異性化糖として、日本食品化工株式会社製、日食フジフラクトF-100ブドウ糖果糖液糖(JAS品)を用いた。この液糖は、およそ42%のD−フラクトースと55%のD−グルコースを含有し、糖濃度はBrix70.1であった。種結晶には、異性化糖をBrix60〜80の濃度のシラップ状態で冷蔵庫に長期間保っていた多数の試料の中で白濁しているってものを発見し、それをBrix70の条件で継続して結晶を保存したものを分離して使用した(図1の結晶B)。
【0063】
原料の異性化糖130mL(全糖量は91.1g)を500mL容のプラスティックビーカーに入れ、上記の種結晶を少量添加し4℃で4日間放置したところ、1日目には結晶の増大が認められ、3日後にはほぼ全体が白くなった。4日間放置し白濁したペースト状の異性化糖を得た(図1の結晶B)。
【0064】
次に、結晶および糖液の組成および生成量を検討するために両者を分離した。
小型遠心機(KOKUSAN H−112)によって、結晶と蜜とに分離した。得られた結晶は57.0gであり、蜜は72mL(Brix60.2)であった。結晶は水分を含んでいた。そこで、得られた結晶57.0gをステンレスバットに広げ、エクアールシー株式会社製マックドライDXU−1001(MCU−1001)中に入れ2日間乾燥し、乾燥粉末44.1gを得た。
用いた原料中の糖質は91.1gであり、乾燥結晶粉末として41.1gが得られた。従って原料からの収率は45.1%であった。分離された蜜には糖質43.3gが含まれていた。したがって、これらから異性化糖中の糖質91.1gは、結晶粉末として44.1g、蜜として43.3gが得られたことになる。この結晶化およびその分離過程で失われる糖質は3.7gであり、全体の約4%であった(図1の結晶B)。
【0065】
上記過程で得た結晶は図5の顕微鏡写真に示すごとく約30μの針状をしていた。乾燥後の結晶は白色の外観を示す(図1の結晶B)。
次に、原料の異性化糖、分離した結晶および密をHPLC分析によりそれぞれのD−グルコース、D−フラクトースの含有量を計測したところ、生成した結晶はD−グルコースおよびD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質であることが判明した。なお、HPLCによる糖の分析には、HITACHI GL−C611 のカラムを用い、カラム温度60℃移動相は10−4 NaOH、流速1ml/minとし検出はRI検出器を用いた。
(1)原料糖液の糖組成は、D−グルコース:D−フラクトースが43:51であることがHPLCの結果判明した(図面省略)。
(2)結晶の糖組成は、D−グルコース:D−フラクトースの比が原料とは異なり75:25(3:1)であることがHPLCの結果判明した(図16)。この結果は得られた結晶は原料の糖組成とは相違し、原料の全てを抱き込んだ全体の固化体ではないことを示している(図1の結晶B)。
(3)結晶から分離した蜜の糖組成は、D−グルコース:D−フラクトースの比が32:60であり、原料の糖組成と比較してD−フラクトースの濃度が上昇していた。すなわち、現在市販されている果糖ブドウ糖液糖の規格の組成となっていた(図1の結晶Bを取った蜜、図17)。
このように、本実施例により、原料液糖(ぶどう糖果糖糖液)から(1)D−グルコース、D−フラクトースを含む複合結晶体(図1の結晶B)および(2)原料液糖よりもD−フラクトースの含有量が増加した果糖ブドウ糖液糖の混合固形状糖質が製造できることが明らかとなった(図1の結晶Bの蜜)。
【実施例4】
【0066】
本実施例では、実施例3で判明したD−グルコースとD−フラクトースの約3:1の複合結晶体が、結晶化の過程において、一定の糖組成の結晶として連続的に析出していることを確認した(図1の結晶B)。
実施例3と同一条件、すなわち原液としてブドウ糖果糖液糖(含有糖量として90.4g、濃度Brix 70.1)を用い、ブドウ糖果糖結晶の種を入れて4℃に放置した。1日後、全ての結晶が析出していない状態で遠心分離によって結晶を得た後、これをドライマック中で乾燥して結晶を34g得た。
蜜としてBrix.70.0濃度のものを53mL得た。蜜中には糖として、49gを含んでいることとなる。この蜜を4℃で続いて保存したところ、遠心分離後には透明であったが2日目には結晶がさらに析出を続けた。
得られた結晶を乾燥してHPLC分析を行ったところ、糖の組成は前の実験と同様のD−グルコース:Dフラクトースが約75:25であった。
以上の実験結果から、D−グルコースとDフラクトースの混合溶液から新しい結晶が析出する過程の途中で採取した結晶の組成は同一であり、結晶化工程で常に一定の糖組成の結晶を生産し続けていることが判明した(図1の結晶B)。
【実施例5】
【0067】
実験A
Brix70の異性化糖液と70%グルコース液の混合比を変えて(すなわち、原料液糖中のD−グルコース(G)とD−フラクトース(F)の組成比を変えて)、結晶の糖組成比を分析した。
1.異性化糖液:グルコース液=3:7
2.異性化糖液:グルコース液=5:5
3.異性化糖液:グルコース液=7:3
実験Aにおいて、どの混合比においても、結晶化時間は5時間程度とした。
混合糖液300gに対して、0.25gの種(試薬グルコース粉末)を添加した。種結晶添加して均一に撹拌し、約5時間後に原料液糖から結晶を分離してそのG:Fを測定した。同様に、結晶を分離した後の母液を測定した。原料、結晶、母液の各糖組成比の分析結果をHPLCパターンで図18〜20に示す。
チャート中に記載したデキストリンは、原料の市販異性化糖中にもともと含まれている二糖以上のものを合わせて「デキストリン」として記載した。数値%は、全糖質固形分に対して占める割合である。
図18は、原料液糖組成(G:F=6.5:1)、生成結晶組成(G:F=7.3:1)、生成母液組成(G:F=5.7:1)を示した。図19は、原料液糖組成(G:F=3.35:1)、生成結晶組成(G:F=4.2:1)、生成母液組成(G:F=3.0:1)を示した。図20は、原料液糖組成(G:F=2.1:1)、生成結晶組成(G:F=3.3:1)、生成母液組成(G:F=2.0:1)を示した。
以上の試験の結果、原料液糖の糖組成に対応して生成する結晶糖質のG/F比が変化すること、デキストリンが結晶糖質中に包含されることが判明した。
【実施例6】
【0068】
実験B
異性化糖液:70%グルコース液=5:5で混合、経時的に結晶を取り出して組成分析をした。混合糖液と種の割合は、実験A同様300:0.25である。
8時間毎に2回、結晶を分取し、結晶を取り出す度に、残りの母液に種を上記と同じ割合で再度添加し、結晶化させた。さらに15時間後の結晶についても同様に、残りの母液に種を上記と同じ割合で再度添加し、結晶化させた。
結晶の糖組成比の分析結果をHPLCパターンで図21に示す。チャート中に記載したデキストリンは、市販異性化糖中にもともと含まれている二糖以上のものを合わせて「デキストリン」として記載した。数値%は、全糖質固形分に対して占める割合である。
図21は、原料液糖組成(G:F=3.35:1)、8時間後生成結晶組成(G:F=5.3:1)、生成母液組成(G:F=3.6:1)を示した。さらに8時間後は、生成結晶組成(G:F=4.6:1)、生成母液組成(G:F=3.3:1)、さらに15時間後は、生成結晶組成(G:F=4.3:1)、生成母液組成(G:F=3.0:1)を示した。
このように結晶化に長時間かけることによりD−フラクトース含有量が高くなった結晶糖質が生成することが判明した。
【実施例7】
【0069】
(チョコレートコーティングキャンディー菓子)
異性化糖(日本食品化工株式会社製、商品名「日食フジフラクトF-100ブドウ糖果糖液糖」(JAS品)(Brix70.1。D−グルコース:D−フラクトース=55:42)あるいは希少糖含有異性化糖(株式会社レアスウィート製、商品名「レアシュガースウィート」(Brix70.0。D−グルコース:D−フラクトース:希少糖(D-プシコース、D-アロース、D−ソルボース、D−タガトース、D−マンノース)=42:33:20)100gに対し、60℃まで加熱したBrix70のD−グルコース溶液(D−グルコース70質量%含有)100gを添加・混合し、室温に冷めたところで種結晶(レアシュガースウィートとBrix70のD−グルコース溶液を等量混合し、数日間室温に放置して結晶化させておいたものであって、D−グルコース:D−フラクトース:希少糖(D-プシコース、D-アロース、D−ソルボース、D−タガトース、D−マンノース=71:16:10のものに1.0gとラム酒2.0gをさらに添加、混合した。ステンレスパッドに敷き詰めた殺菌コーンスターチにくぼみをつけておき、このくぼみの中へ前記混合糖液を流し込み、一晩室温に放置することで、異性化糖あるいは希少糖含有異性化糖からなるキャンディー状の結晶糖質を得た。得られたこれらのキャンディーの水分は、いずれも20.1%であった。
【0070】
次に、製菓用チョコレート(不二製油社製、商品名「Cocoa65」)を鱗片状に削って45℃の湯せんで溶かし、上記2種類の複合体結晶糖質からなるキャンディーにからめて冷まし、チョコレートコーティングキャンディー菓子を得た。
得られたチョコレートコーティングキャンディー菓子は、ウィスキーボンボンの砂糖殻のようなジャリジャリ感とは異なるソフトな食感と口どけで、甘味もスッキリとしていて非常に美味しく、しかも、室温に長期間放置してもチョコレートコーティング内部のキャンディーからの水分の染み出しがない、安定性の高いものであった。
【実施例8】
【0071】
(コーティングレーズン菓子)
焼き菓子やドライフルーツ類の上掛けに利用される「アイシング」として、実施例7の方法に従い、殺菌コーンスターチへ流し込む直前の2種類の混合糖液を調製した。それぞれのアイシング中に、全体が浸漬されるようにレーズンを投入し、10分間静置したのち、浸漬したレーズンをパッド上に取り出して一晩放置した。このようにして得られたコーティングレーズン菓子は、砂糖コーディングされた一般的なコーティング菓子とは異なり、ジャリジャリ感がなく、しっとりとしたなめらかな食感で口どけがよく、すっきりとした甘味をもつ、非常に美味しい菓子であった。また、いずれのコーティング菓子も、長期間室温放置後もコーティングが溶け出す様子はみられなかった。
【実施例9】
【0072】
(チョコレート)
下記の表1の配合に従い、チョコレートを作製した。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に記載の「複合体結晶糖質A」および「複合結晶糖質B」は、それぞれ、異性化糖(日本食品化工株式会社製、商品名「日食フジフラクトF-100ブドウ糖果糖液糖」(JAS品))あるいは希少糖含有異性化糖(株式会社レアスウィート製、商品名「レアシュガースウィート」)100gに対し、60℃まで加熱したBrix70のD−グルコース溶液100gを添加・混合し、室温に冷めたところで、さらに種結晶(実施例7に同じ)1.0gを添加・混合し、室温で二晩放置して固形状としたものである。「チョコレート生地」は市販チョコレート(不二製油社製、商品名「Cocoa65」)を45℃の湯せんで溶かして調製したものである。
【0075】
通常、チョコレート生地のコンチング工程において、含水結晶の糖を用いると、結晶水を放出してチョコレートの品質に著しい悪影響を及ぼす。すなわち、水分がチョコレート生地の油分と混じり合わない、成型後に水分が染み出す、あるいは蒸発してチョコレートに空洞ができるなどの欠点が認められる。実際、比較例として異性化糖液糖を用いたチョコレートを作製しようとしたところ、水分がチョコレート生地の油分と混じり合わずに分離し、チョコレート自体を作製することができなかった。
【0076】
一方、本発明品である複合体結晶糖質の場合、何れもチョコレート生地の熱でいったん溶けだして外見上は液糖となるが、そのままチョコレート油分と分離することなく、チョコレートを作製することができた。このことからも、本発明品である複合体結晶糖質のもつ結晶水は、かなり安定な形態で糖質中に取り込まれており、遊離しにくいものと考えられる。この性質は、本実施例のような水分が悪影響を及ぼす食品において特に有用であるといえる。また、本実施例においては、食感、味質、口どけの全てにおいて良好であった。
【0077】
このように、本発明の方法によれば、Brix70のグルコース溶液を60〜80℃程度に温めることのできる設備さえあれば、それ以外の特別な装置や特別な技術は一切必要とせず、原料となる異性化糖や希少糖含有異性化糖の液糖を入手するだけで、ごく簡便に固形状糖質、すなわち、複合体結晶糖質を得ることができると同時に、これを利用した各種食品製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
従来、D−グルコースとD−フラクトースとを主成分とする混合液糖、例えば、異性化液糖は結晶化することがないことを利用し、ブドウ糖果糖液糖および果糖の比率を上げた果糖ブドウ糖液糖などとして飲料用の甘味料として広く利用されている。このように、これまで異性化糖は液状のものとして利用してきたことから、誰もが異性化糖は固形状態(結晶)にすることはできないと考えていた。異性化糖が固体状態(結晶)を含むものとして得られると、これまでの用途範囲を非常に広くできると期待されてはいたが、従来結晶化を実現することはできなかった。
本発明者は、例えば、異性化糖液糖を、固体結晶を含む状態へと変換することに成功したものであり、本発明によりこれまでも広く用いられてきた異性化糖の利用範囲を飛躍的に拡大する可能性を示し、新しい甘味料の提供としての産業的意義は極めて高いといえる。すなわち、異性化糖を固体状態で提供できることは、HFCS(High FructosE. Corn Syrup)として、安価な甘味料として用いられてきたものを、HFCC(High FructosE. Corn Crystal)とも言える全く新しい甘味料へと変身させることになる。
【0079】
また、原料液糖を、複数の糖を含んでいて固形化できないとされていた液糖、例えば、希少糖含有異性化糖とすることで、異性化糖がこれまで有していなかった抗肥満、摂食抑制、インスリン抵抗性改善、低カロリーといった機能が付与された固形状糖質を提供できる。さらに希少糖含有異性化糖を原料液糖とした場合、その新規な甘味質の面からも、これまでにない、新規な飲食品物を提供できるという、産業上の利用可能性は非常に高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とする液糖から生成された結晶糖質であって、該糖質結晶がD−グルコースおよびD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質および/またはD−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている結晶であることを特徴とする結晶糖質。
【請求項2】
上記の液糖が、D−グルコースとD−フラクトースとの組成比が1:1ないし7:1である請求項1に記載の結晶糖質。
【請求項3】
上記の液糖が、D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とし、D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上含有する請求項1に記載の結晶糖質。
【請求項4】
D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類が、少なくともD-プシコースおよびD-アロースを含む単糖類であり、多糖類がデキストリンおよび/またはオリゴ糖である請求項3に記載の結晶糖質。
【請求項5】
上記の液糖が、D−グルコースとD−フラクトースを主組成とする異性化糖である請求項1に記載の結晶糖質。
【請求項6】
上記の液糖が、D-グルコースおよび/またはD-フラクトースを原料糖とし、全糖質含量に対してD-プシコースが0.5〜17.0%およびD-アロースが0.2〜10.0%となるように変換した混合糖である請求項1に記載の結晶糖質。
【請求項7】
上記結晶糖質のD−グルコースとD−フラクトースの組成比が1:1ないし8:1である請求項1に記載の結晶糖質。
【請求項8】
複合体結晶糖質が、D−グルコースとD−フラクトースの組成比が3:2ないし4:1である請求項1に記載の結晶糖質。
【請求項9】
複合体結晶糖質が、X線回折法で回折角(2θ)が、9.09°、12.50°、19.77°、20.00°、21.82°、22.73°を示す、請求項1に記載の結晶糖質。
【請求項10】
複合体結晶糖質が、D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とする液糖を冷却して、D−グルコース及びD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質の種結晶を入れるか、あるいは入れないで、液糖中に結晶体を生成せしめ、遠心分離により得た結晶である請求項1ないし6のいずれかに記載の結晶糖質。
【請求項11】
複合体結晶糖質が、D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とする液糖を冷却して、D−グルコース及びD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質の種結晶を入れるか、あるいは入れないで、液糖中に結晶体を生成せしめ、全体をシャーベット状態になるまで固化して得たペーストである請求項1ないし6のいずれかに記載の結晶糖質。
【請求項12】
複合体結晶糖質が、D−グルコース及びD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質であって、混在するD−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上を抱き込んだ結晶である、請求項1ないし6のいずれかに記載の結晶糖質。
【請求項13】
D−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている結晶が、D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とする液糖に結晶D−グルコースからなる種結晶を添加して、D−グルコース1水和物の結晶の集合体を作ることでD−フラクトースを抱き込んで液糖全体を結晶化することにより得られた結晶である請求項1ないし6のいずれかに記載の結晶糖質。
【請求項14】
D−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている粒状結晶が、D−グルコース及びD−フラクトースを主成分とする液糖に結晶D−グルコースからなる種結晶を添加して、D−グルコース1水和物の結晶の集合体を作ることでD−フラクトースとともに混在するD−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上を抱き込んで液糖全体を結晶化するにより得た結晶である請求項1ないし6のいずれかに記載の結晶糖質。
【請求項15】
原料のD−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とする液糖に対し、(A)D−グルコースおよびD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質からなる種結晶を添加することにより、または、種結晶を添加しないで冷却することにより、D−グルコースおよびD−フラクトースを含有する複合体結晶糖質を生成させる、あるいは、(B)結晶D−グルコースからなる種結晶を添加してD−フラクトースがD−グルコース1水和物結晶の集合体に取り込まれている結晶を生成させる、ことを特徴とする結晶糖質の製造方法。
【請求項16】
上記原料の液糖が、D−グルコースとD−フラクトースとの組成比が1:1ないし7:1である請求項15に記載の結晶糖質の製造方法。
【請求項17】
上記原料の液糖が、D−グルコースおよびD−フラクトースを主成分とし、D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類および/または多糖類を1種またはそれ以上含有する請求項15に記載の結晶糖質の製造方法。
【請求項18】
D−グルコースおよびD−フラクトース以外の単糖類が、少なくともD-プシコースおよびD-アロースを含む単糖類であり、多糖類がデキストリンおよび/またはオリゴ糖である請求項17に記載の結晶糖質の製造方法。
【請求項19】
上記原料の液糖が、グルコースとフラクトースを主組成とする異性化糖である請求項15に記載の結晶糖質の製造方法。
【請求項20】
上記原料の液糖が、D-グルコースおよび/またはD-フラクトースを原料糖とし、全糖質含量に対してD-プシコースが0.5〜17.0%およびD-アロースが0.2〜10.0%となるように変換した混合糖である請求項15に記載の結晶糖質の製造方法。
【請求項21】
請求項1ないし14のいずれかに記載の結晶糖質を含有することを特徴とする甘味料および飲食物。
【請求項22】
請求項1ないし14のいずれかに記載の結晶糖質を含有することを特徴とする医薬品、医薬部外品または化粧品。
【請求項23】
異性化糖、その組成がD−グルコースがD−フラクトースよりも多いブドウ糖果糖液糖から、請求項8に記載の複合体結晶を析出させそれを遠心分離により除去することにより、D−フラクトースの含量の多い果糖ブドウ糖液糖を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−232908(P2012−232908A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101387(P2011−101387)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【出願人】(506388060)株式会社希少糖生産技術研究所 (18)
【Fターム(参考)】