説明

繊維巻取装置

【課題】ガイド部での繊維擦れを防いで、繊維を巻き付けた成形品の強度の向上を図る。
【解決手段】繊維Wを巻いたボビン21を回転支承するクリールスタンド10と、クリールスタンド10から供給される繊維Wを巻き取る巻取部と、クリールスタンド10と巻取部70とを結ぶ経路60の途中に設けられ、ボビン21からの前記繊維の引き出し方向を規定するガイド部61とを備えるFW装置において、クリールスタンド10は、ボビンの位置を軸心方向に変化させる往復機構11bとモータ11cとを備え、モータ11cに対して、前記位置を定めるための制御信号T1を出力する制御部80を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリールスタンドに設けられたボビンから繊維を巻き取る繊維巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池システムに用いられる高圧水素タンクの開発が進んでおり、その一つとして、フィラメントワインディング(Filament Winding:以下、単に「FW」と呼ぶ)法により強化繊維をタンクの外郭に巻き付ける方法がある。
【0003】
この方法を採用した装置として、繊維を巻いたボビンと、ボビンから繊維を送り出すクリールスタンドと、クリールスタンドから送り出された繊維をマンドレルに巻き付けるFW装置部とを備えるFW装置が提案されている(例えば特許文献1)。このFW装置によれば、ボビンから繰り出された繊維は、ガイド部によって規制されて、FW装置部の方向に送られる。
【0004】
しかしながら、前記従来の技術では、ボビンから繊維を繰り出す際に、その繰り出し位置(繊維の巻回部から繊維が離れる位置)がボビンの軸心方向に振れることから、繊維のつながるガイド部において繊維に対して無駄な張力を発生させる。このために、ガイド部で繊維擦れが発生し、繊維の強度を低下させることになり、成形品であるタンクの強度を低下させる問題を発生した。
【0005】
【特許文献1】特開2007−313697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、ガイド部での繊維擦れを防いで、繊維を巻き付けた成形品の強度の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1] 繊維を巻いたボビンを回転支承するクリールスタンドと、
前記クリールスタンドから離れて設けられ、前記クリールスタンドから供給される前記繊維を巻き取る巻取部と、
前記クリールスタンドと前記巻取部とを結ぶ前記繊維の経路の途中に設けられ、前記ボビンからの前記繊維の引き出し方向を規定するガイド部と
を備える繊維巻取装置において、
前記クリールスタンドは、前記ボビンの位置を軸心方向に変化させるボビン駆動部を備え、
前記ボビン駆動部に対して、前記位置を定めるための制御指令を出力する制御部
を備えることを特徴とする繊維巻取装置。
【0009】
適用例1に記載の繊維巻取装置によれば、制御部は、ボビン駆動部に対して制御指令を出力することで、ボビン駆動部によりボビンの位置を軸心方向に変化させることができる。このために、ボビンから繊維を繰り出す際には、ボビンの位置を軸心方向に変化させることで、その繰り出し位置の調整を図ることができる。したがって、ガイド部において繊維に対して無駄な張力が発生することを防止することができる。この結果、ガイド部での繊維擦れを防いで、繊維を巻き付けた成形品の強度の向上を図ることができる。
【0010】
[適用例2] 適用例1に記載の繊維巻取装置であって、前記ボビンにおける前記繊維の繰り出し位置の振れを検知する繊維振れ検知部を備え、前記制御部は、前記繊維振れ検知部により検知された振れに基づいて、前記ボビンの目標位置を演算する目標位置演算部を備える、繊維巻取装置。
【0011】
適用例2の構成によれば、ボビンにおける繊維の繰り出し位置の振れの大きさに応じて、ボビンの軸心方向の位置を決定することができることから、ガイド部において繊維に対して無駄な張力が発生することを確実に防止することができる。この結果、より繊維擦れを防いで、成形品の強度の向上をより図ることができる。
【0012】
[適用例3] 適用例2に記載の繊維巻取装置であって、前記繊維振れ検知部は、前記ガイド部に設けられ、前記ガイド部において前記繊維に作用する張力を検出する構成である、繊維巻取装置。
【0013】
適用例3に記載の繊維巻取装置によれば、ガイド部において繊維に作用する張力を検出することで、ボビンにおける繊維の繰り出し位置の振れを高精度に検知することが可能となる。
【0014】
[適用例4] 適用例1ないし3のいずれかに記載の繊維巻取装置であって、前記クリールスタンドは、前記ボビンを複数備え、前記巻取部は、前記各ボビンからの各繊維を並べて巻取る構成であり、前記ガイド部は、前記ボビン毎に複数備えられ、前記ボビン駆動部は、前記ボビン毎に複数備えられ、前記制御部は、前記ボビン駆動部毎に、対応するボビンの位置を定めるための制御指令を出力する構成である、繊維巻取装置。
【0015】
適用例4に記載の繊維巻取装置によれば、クリールスタンドに備えられた複数のボビンのそれぞれから繊維を繰り出す際に、各ボビンの位置を軸心方向に変化させることで、その繰り出し位置の調整をボビン毎に個別に行うことができる。したがって、各ガイド部での繊維擦れを防いで、各ボビンからの繊維を巻き付けた成形品の強度の向上を図ることができる。
【0016】
[適用例5] 適用例1ないし4のいずれかに記載の繊維巻取装置であって、前記繊維は、予め樹脂を浸透させたプリプレグである、繊維巻取装置。
【0017】
適用例5に記載の繊維巻取装置によれば、最初から樹脂が含浸されているプリプレグであっても、ボビンから繊維を安定して繰り出すことができることから、プリプレグを採用することが容易である。
【0018】
本発明は、上記適用例以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、本発明の繊維巻取装置をフィラメントワインディング装置とした形態等で実現することが可能である。また、例えば、上記各適用例において、巻取部により繊維を巻き取った結果、繊維が巻き付けられる成形品は、高圧水素タンクとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
【0020】
A.実施例のハードウェア構成:
図1は、本発明の一実施例における繊維巻取装置としてのFW装置1の概略構成を示す説明図である。図示するように、本実施例のFW装置1は、クリールスタンド10と、クリールスタンド10から離れて設けられる巻取部70と、クリールスタンド10と巻取部70とを結ぶ経路部60と、制御部80とを備える。
【0021】
クリールスタンド10は、4つのボビン支持台11、12、13、14を備える。各ボビン支持台11〜14は、所定の間隔をあけて床等に固設されている。各ボビン支持台11〜14は、繊維Wを巻いたボビン21、22、23、24を回転支承している。ここで、繊維Wは、例えば、炭素繊維に熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグである。なお、炭素繊維に換えて、適当な強度を有するフィラメントワインディングに適した他の材料とすることもできる。また、エポキシ樹脂に換えて、適当な接合強度を有するフィラメントワインディングに適した材料とすることもできる。
【0022】
各ボビン21、22、23、24からは、巻取部70の働きにより繊維Wがそれぞれ引き出され、各繊維Wは経路部60を介して巻取部70へ導かれる。
【0023】
経路部60は、ガイド部61,62,63,64といくつかのローラ66等を備える。ガイド部61〜64は、経路部60の上流側に設けられ、かつボビン21〜24毎に設けられている。これにより、ガイド部61〜64は、各ボビン21〜24からの繊維Wの引き出し方向を規定している。ローラ66は、テンションを与えるためのテンションローラ、繊維Wの幅を拡げるための拡幅ローラ等の種々のタイプのものが必要に応じて用意されている。
【0024】
巻取部70は、アイクチガイド72と、ライナーMがセットされる回転駆動装置74とを備える。ライナーMは、タンク製品の形状を形作るための中空円筒形のマンドレルである。回転駆動装置74は、ライナーMをその長軸周りに回転駆動させる。アイクチガイド72は、ライナーMの長軸方向に往復動して、経路部60から供給された繊維WをライナーMに向かって供給する。アイクチガイド72の往復動と回転駆動装置74によるライナー20の回転とにより、繊維WがライナーMに緊密に巻き付けられることになる。詳細には、各ボビン21〜24からの繊維Wが並べてライナーMに巻き付けられる。
【0025】
なお、上記の構成に換えて、回転駆動装置は、回転駆動に加えて、ライナーMをその長軸方向に往復動可能な構成とすることで、アイクチガイド72の往復動、回転駆動装置によるライナー20の回転、および回転駆動装置によりライナー20の往復動とにより、繊維WがライナーMに緊密に巻き付けられる構成としてもよい。
【0026】
巻取部70により繊維WをライナーMに巻き付けていくことで、繊維Wは、引っ張られる形で、各ボビン21〜24から引き出され、経路部60を介して巻取部70に至る。なお、本実施例では、ボビン21〜24や、経路部60に備えられるガイド部61〜64等は、それぞれ4つずつ設けられており、4本の繊維Wが、並べて送られ、ライナーMに並べて巻き付けられることになる。こうして、成形品である高圧タンクが製造される。この高圧タンクは、燃料電池システム用の高圧水素タンクとして用いられる。
【0027】
図2は、上記4つのうちの1つの組であるボビン21とガイド部61の周辺を示す説明図である。ガイド部61は、ボビン21の上方の所定の位置に、図示しないアームにより固設されている。ガイド部61は、いわゆる回転ローラであり、周面の周方向にV字状の溝61aが形成されている。この溝61aに繊維Wが掛けられている。かかる構成により、ガイド部61は、ボビン21からの繊維Wの引き出し方向を規定して、次の工程であるローラ66にその引き出した繊維Wを送る。
【0028】
同様に、図1に示すように、ガイド部62は、ボビン22からの繊維Wの引き出し方向を規定して、次の工程であるローラ66にその引き出した繊維Wを送る。ガイド部63は、ボビン23からの繊維Wの引き出し方向を規定して、次の工程であるローラ66にその引き出した繊維Wを送る。ガイド部64は、ボビン24からの繊維Wの引き出し方向を規定して、次の工程であるローラ66にその引き出した繊維Wを送る。
【0029】
図2に戻り、前述したように、ボビン21は、ボビン支持台11により回転支承されているが、詳しくは、次の構成によって取り付けられている。ボビン支持台11は、支持軸11aが水平方向に突出しており、この支持軸11aに、図示しない軸受を介して回転可能にボビン21が取り付けられている。その取り付けは、ボビン21の軸心方向Hと、支持軸11aの突出方向とが一致するようになされている。同様に、残りのボビン22、23、24についても、支持軸、軸受により、ボビン支持台12、13、14に回転支承されている。
【0030】
ボビン支持台11には、往復機構11bとモータ11cとが内蔵されている。往復機構11bは、モータ11cの駆動力を受けて、支持軸11aを突出方向、すなわち上記軸心方向Hに往復動させる。往復機構11bは、例えば、ラック・アンド・ピニオン機構により構成される。支持軸11aを突出方向に往復動させることで、ボビン21の位置を軸心方向Hに変化させることができる。なお、往復機構11bの構成は、ラック・アンド・ピニオン機構に限る必要はなく、クランク機構、スコッチ・ヨーク機構等の他の構成に換えることができる。
【0031】
モータ11cは、制御部80と電気的に接続されており、制御部80からの制御指令(制御信号)T1に従って制御される。同様に、各ボビン支持台12、13、14は、図示しない支持軸、往復機構、およびモータ(図示せず)を備えており、各モータは制御部80と電気的に接続されており(図1参照)、制御部80からの制御信号T2〜T4に従って制御される。この結果、制御部80は、各ボビン21〜14位置を軸心方向Hに、個別に変化させることができる。
【0032】
図2に戻り、ガイド部61のV字状の溝61aには、張力センサ61bが埋設されている。張力センサ61bは、接触している繊維Wに作用する張力の値(大きさ)と張力の方向とを検出するものである。具体的には、繊維Wから受ける圧力の大きさと方向を検出することで上記検出を行うものである。なお、張力センサ61bは、接触している繊維Wに作用する張力の大きさと方向を検出することができるものであれば、いずれの構成に換えることもできる。
【0033】
張力センサ61bは、制御部80と電気的に接続され、制御部80に検出信号S1を送信する。同様に、ガイド部62、63、64はそれぞれ張力センサ(図示せず)を備えており、各張力センサ(図示せず)は、制御部80と電気的に接続され、制御部に検出信号S2〜S4を送信する(図1参照)。
【0034】
制御部80は、内部にCPU、RAM、ROMを備えるマイクロコンピュータとして構成されており、ROMに記憶されたコンピュータプログラムをRAMに展開して実行することで、ガイド部61に備えられた張力センサ61bからの検出信号S1を受けて、ボビン支持台11に設けられたモータ11cに制御信号T1を出力し、ボビン21の軸心方向の位置を制御する。同様に、制御部80は、ガイド部62に備えられた張力センサからの検出信号S2を受けて、ボビン支持台12に設けられたモータに制御信号T2を出力し、ボビン22の軸心方向の位置を制御する。同様に、制御部80は、ガイド部63に備えられた張力センサからの検出信号S3を受けて、ボビン支持台13に設けられたモータに制御信号T3を出力し、ボビン23の軸心方向の位置を制御する。同様に、制御部80は、ガイド部64に備えられた張力センサからの検出信号S4を受けて、ボビン支持台14に設けられたモータに制御信号T4を出力し、ボビン24の軸心方向の位置を制御する。
【0035】
B.実施例のソフトウェア構成:
図3は、制御部80により実行されるボビン位置制御処理を示すフローチャートである。このボビン位置制御処理は、前述した各ボビン21〜24の軸心方向の位置の制御を行うためのものである。このボビン位置制御処理は、制御部80のCPUにより所定時間毎に繰り返し実行される。
【0036】
図3に示すように、処理が開始されると、CPUは、各ガイド部61〜64に備えられる各張力センサ61bから検出信号S1〜S4を受け取り(ステップS110)、各検出信号S1〜S4に基づいて、各ガイド部61〜64にかかる繊維Wに作用する張力についてのH方向成分Sh1〜Sh4を算出する(ステップS120)。ここで、「H方向成分」とは、前述したボビンの軸心方向Hである。ステップS110で得られる検出信号S1〜S4は、張力の大きさと方向とを示すものであることから、ステップS120では、その張力の大きさと方向とから、張力についてのH方向成分、すなわちH方向の大きさを算出する。
【0037】
続いて、CPUは、ステップS120で算出した張力についてのH方向成分Sh1〜Sh4に基づいて、各ボビン21〜24の軸心方向Hの目標位置P1〜P4を算出する(ステップS130)。具体的には、CPUは、ROMに予め用意したマップに張力のH方向成分Sh1〜Sh4を照らし合わせることで、そのH方向成分Sh1〜Sh4に対応した各目標位置P1〜P4を算出する。
【0038】
図4は、張力のH方向成分Shとボビン21〜24の軸心方向Hの目標位置Pとの対応関係を示すグラフである。ここで、軸心方向Hにおいて、ボビン21〜24から各ボビン支持台11〜14へ向かう方向をマイナス方向、ボビン21〜24から各ボビン支持台11〜14と反対側へ向かう方向をプラス方向と定めるものとする。目標位置Pが値0であるとき、ボビン21〜24の軸心方向Hの位置は基準位置にあるものとする。ここでいう「基準位置」とは、ボビン21〜24における軸心方向の中心が、H方向においてガイド部61〜64の位置と同一となる位置である。目標位置Pは、この基準位置よりもプラス方向にあるときに正の値をとり、この基準位置よりもマイナス方向にあるときに負の値をとる。張力のH方向成分Shは、プラス方向の張力であるときには正の値をとり、マイナス方向の張力であるときには負の値をとる。図4に示すように、張力のH方向成分Shが値0であるときにボビンの軸心方向Hの目標位置Pは値0となり、H方向成分Shの増加に比例して目標位置Pは減少する。
【0039】
ステップS130では、詳細には、図4に示す関係を示すマップを用いることで、ステップS120で算出した張力についてのH方向成分Sh1と対応するボビン21の軸心方向Hの目標位置P1を算出し、前記張力についてのH方向成分Sh2と対応するボビン22の軸心方向Hの目標位置P2を算出し、前記張力についてのH方向成分Sh3と対応するボビン23の軸心方向Hの目標位置P3を算出し、前記張力についてのH方向成分Sh4と対応するボビン24の軸心方向Hの目標位置P4を算出する。
【0040】
ステップS130の実行後、CPUは、ステップS130で得られた目標位置P1〜P4を示す制御信号T1〜T4を、各ボビン支持台12、13、14に備えられる各モータ11cに出力する(ステップS140)。前記制御信号T1〜T4の入力を受けた各モータ11cは各往復機構11bを作動させて、前記目標位置P1〜P4にボビン21〜24の位置を変化させる。ステップS140の実行後、「リターン」に抜けて、このボビン位置制御処理を一旦終了する。
【0041】
以上のように構成されたボビン位置制御処理によれば、各ガイド部61〜64にかけられた繊維Wに作用する張力のH方向成分Sh1〜Sh4に応じて、各ボビン21〜24の軸心方向の位置が制御される。すなわち、張力のH方向成分Sh1〜Sh4がプラスのときには、ボビン21〜24は軸心方向Hのマイナス方向に移動し、張力のH方向成分Sh1〜Sh4がマイナスのときには、ボビン21〜24は軸心方向Hのプラス方向に移動し、かつ、H方向成分Sh1〜Sh4の絶対値が大きいほど、移動量がより大きくなるように制御される。
【0042】
C.作用、効果:
図5は、本実施例のFW装置1の作用を説明するための説明図である。図5(a)は従来例についてのものであり、図5(b)は本実施例についてのものである。従来例では、図5(a)に示すように、ガイド部A1は、本実施例のガイド部61と同様に、1点に固定されている。こうした場合に、ボビンA2から繊維A3を繰り出すときに、その繰り出し位置(巻回部から繊維A3が離れる位置)は、例えばA4の位置、A5の位置というようにボビンA2の軸心方向に振れる。このために、ガイド部A1において繊維A3に対して無駄な張力を発生させる。このために、ガイド部A1で繊維擦れが発生し、繊維A3の強度を低下させる。
【0043】
一方、本実施例では、前述したように、ガイド部61にかけられた繊維Wに作用する張力のH方向成分Sh1に応じて、各ボビン21〜24の軸心方向の位置が制御されることから、図5(b)に示すように、張力のH方向成分Sh1がプラスのときには、ボビン21は実線に示すように軸心方向Hのマイナス方向に移動し、張力のH方向成分Sh1がマイナスのときには、ボビン21′は2点鎖線に示すように軸心方向Hのプラス方向に移動する。このために、ボビン21から繊維Wを繰り出す際には、その繰り出し位置を前述した基準位置SPと一致するように調整することができる。したがって、ガイド部61において繊維Wに対して無駄な張力が発生することを防止することができる。同様に、残りのボビン22〜24から繊維を繰り出す際にも、その繰り出し位置をボビン毎の基準位置と一致するように調整することができる。これらの結果、ガイド部61〜64での繊維擦れを防いで、繊維を巻き付けた成形品の強度の向上を図ることができる。
【0044】
また、本実施例のFW装置1では、前述したように、ボビン21〜24における繊維Wの繰り出し位置が一箇所に定められることで、ボビン21〜24から繊維を安定して供給することができる。このために、ライナーMに繊維を巻き付ける際に、狙った軌跡で繊維を巻き付けることができ、成形品の品質を安定したものとすることができる。
【0045】
さらに、繊維としてプリプレグを用いた場合、最初から樹脂が含浸しているために、ボビンから繊維が安定して離れ難いという問題があった。これに対して本実施例のFW装置1では、前述したように、ボビン21〜24から繊維を安定して繰り出すことができることから、プリプレグを採用することが容易である。
【0046】
従来、高速で高圧タンクを生産する場合、成形品の品質低下が著しかったが、本実施例では、上述した数々の効果を奏することから、高速で高圧タンクを生産しても、成形品の品質を低下させることがない。
【0047】
D.他の実施形態:
なお、この発明は上記の実施例や変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能であり、例えば次のような他の実施形態も可能である。
【0048】
(1)上記実施例では、ガイド部61〜64は、V字溝を有する回転ローラにより構成されているが、これに換えて、U字溝等の他の形状の溝を有する回転ローラとしてもよい。また、必ずしも回転ローラである必要はなく、ガイド部を単なる丸棒として、丸棒に繊維を掛ける構成としてもよい。
【0049】
(2)上記実施例では、張力センサ61bは、繊維Wから受ける圧力の大きさと方向を検出するものであったが、これに換えて、予め定めた方向、すなわちH方向の圧力を直接検出するものとしてもよい。この場合には、図3のフローチャートのステップS120の処理が不要となり、張力センサの検出結果をそのままステップS130で用いることができる。
【0050】
(3)張力センサ61bは、ボビンにおける前記繊維の繰り出し位置の振れを検知する繊維振れ検知部を構成するが、繊維振れ検知部は他の構成に換えることができる。例えば、上記(1)におけるU字溝にあっては、そのU字溝における繊維の変位置を読み取るエンコーダを繊維振れ検知部としてもよい。また、上記(1)における丸棒にあっても、繊維振れ検知部をエンコーダにより構成することができる。また、繊維振れ検知部は、ガイド部に設ける構成に換えて、他の位置に設ける構成としてもよい。例えば、前記U字溝における繊維の変位置は、ガイド部の外側に設けた光センサにより読み取る構成とすることができる。
【0051】
(4)上記実施例では、繊維Wは、予め樹脂を含浸させたプリプレグとしていたが、これに換えて、繊維Wは、樹脂が含浸されていないものとし、FW装置の経路の途中で樹脂を含浸させる構成としてもよい。また、プリプレグは、炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させた構成としたが、これに限る必要もなく、ガラス繊維に樹脂を含浸させた構成等、他の構成のプリプレグに換えることもできる。
【0052】
(5)上記実施例のFW装置1で製造される成形品は、燃料電池システムに用いられる高圧水素タンクであったが、他の用途の高圧タンクに換えてもよい。また、高圧タンクに限る必要もなく、フィラメントワインディングに適した他のものとしてもよい。
【0053】
(6)上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆にソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【0054】
(7)上記実施例のFW装置は、複数のボビンを備え、各ボビンから供給される繊維Wを巻取部により並べて巻き取る構成としたが、これに換えて、ボビンは一つだけとして、そのボビンから供給される単一の繊維を巻き取る構成としてもよい。なお、上記実施例のボビンの数は4つとして複数としていたが、2、3、5等、4以外の数としても勿論よい。
【0055】
(8)上記実施例では、繊維振れ検知部としての張力センサ61bの検出信号S1に基づいてボビンの位置を変更する構成としていたが、必ずしもその変更は張力センサ61bの検出信号S1に基づくものではなく、例えば、操作者から手作業で入力した情報に基づくものとしてもよい。すなわち、制御部は、操作者により操作される入力部から上記情報を入力し、その情報に基づいてボビンの位置を軸心方向に変更させる構成としてもよい。上記入力する情報としては、例えば、繊維振れの全体的なずれを目視により検知してボビンの目標位置を定めた情報等が該当する。
【0056】
(9)上記実施例では、本発明の繊維巻取装置をFW装置として実現しているが、必ずしもFW装置である必要はなく、本発明を構成する各構成要件を備える装置であればいずれの装置とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施例における繊維巻取装置としてのFW装置1の概略構成を示す説明図である。
【図2】ボビン21とガイド部61の周辺を示す説明図である。
【図3】制御部80により実行されるボビン位置制御処理を示すフローチャートである。
【図4】張力のH方向成分Shとボビン21〜24の軸心方向Hの目標位置Pとの対応関係を示すグラフである。
【図5】実施例のFW装置1の作用を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1…FW(フィラメントワインディング)装置
10…クリールスタンド
11…ボビン支持台
11a…支持軸
11b…往復機構
11c…モータ
12…ボビン支持台
13…ボビン支持台
14…ボビン支持台
20…ライナー
21、22、23、24…ボビン
60…経路部
61…ガイド部
61a…溝
61b…張力センサ
62…ガイド部
63…ガイド部
64…ガイド部
66…ローラ
70…巻取部
72…アイクチガイド
74…回転駆動装置
80…制御部
W…繊維
M…ライナー
H…軸心方向
S1、S2,S3,S4…検出信号
T1、T2、T3、T4…制御信号
P1、P2、P3、P4…目標位置
SP…基準位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を巻いたボビンを回転支承するクリールスタンドと、
前記クリールスタンドから離れて設けられ、前記クリールスタンドから供給される前記繊維を巻き取る巻取部と、
前記クリールスタンドと前記巻取部とを結ぶ前記繊維の経路の途中に設けられ、前記ボビンからの前記繊維の引き出し方向を規定するガイド部と
を備える繊維巻取装置において、
前記クリールスタンドは、前記ボビンの位置を軸心方向に変化させるボビン駆動部を備え、
前記ボビン駆動部に対して、前記位置を定めるための制御指令を出力する制御部
を備えることを特徴とする繊維巻取装置。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維巻取装置であって、
前記ボビンにおける前記繊維の繰り出し位置の振れを検知する繊維振れ検知部を備え、
前記制御部は、
前記繊維振れ検知部により検知された振れに基づいて、前記ボビンの目標位置を演算する目標位置演算部を備える、繊維巻取装置。
【請求項3】
請求項2に記載の繊維巻取装置であって、
前記繊維振れ検知部は、
前記ガイド部に設けられ、前記ガイド部において前記繊維に作用する張力を検出する構成である、繊維巻取装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の繊維巻取装置であって、
前記クリールスタンドは、前記ボビンを複数備え、
前記巻取部は、前記各ボビンからの各繊維を並べて巻取る構成であり、
前記ガイド部は、前記ボビン毎に複数備えられ、
前記ボビン駆動部は、前記ボビン毎に複数備えられ、
前記制御部は、
前記ボビン駆動部毎に、対応するボビンの位置を定めるための制御指令を出力する構成である、繊維巻取装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の繊維巻取装置であって、
前記繊維は、予め樹脂を浸透させたプリプレグである、繊維巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−126297(P2010−126297A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302324(P2008−302324)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】