説明

繊維強化樹脂管の製造方法

【課題】ロール原反の巻き終わり部の布の後端と、新しいロール原反の布の先端とを、容易に且つ強固に接着できるようにする。
【解決手段】 強化繊維で構成される帯状の布21をロール状に巻回したロール原反20を用い、前記ロール原反20から帯状の布21を引き出してその布21を芯材1の周囲に巻き付け、その布21に含浸させた樹脂を硬化させることにより管状部材を形成する繊維強化樹脂管の製造方法において、前記ロール原反20の布21が残り少なくなった際に、そのロール原反20の巻き終わり部の布21の後端21bと、別のロール原反20の布21の先端21aとに熱接着シート30を宛がい、その熱接着シート30を宛がった部分を加熱し且つ圧力を加えることにより、その熱接着シート30を介して布21同士を接合する繊維強化樹脂管の製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンテナカバー等の保護部材や、フィルム、シート類の巻取芯、あるいは、流体輸送管等の各種の繊維強化樹脂管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂管(以下、「FRP管」という)を成形する方法として、強化繊維を芯材の周囲に螺旋状に巻き付けて、その強化繊維に含浸させた樹脂を硬化させることにより管状の部材を連続成形するFW法(フィラメントワインディング成形法)がある。
【0003】
例えば、図6に示すものは、FW法を用いた連続成形による一般的なFRP管製造装置を示している。図に示すように、芯材1の周囲に複数のFRP層等が順次形成され、そのFRP層は、停止することなく連続的に軸方向に送り出される。そして、硬化炉11を通過した後、樹脂が硬化すれば、所定の長さに切断されFRP管となる。
【0004】
この例では、芯材1の周囲に紙2、樹脂フィルム3、不織布4等の帯状のシートが螺旋状に巻き付けられた後、さらに、管周方向繊維5、管軸方向繊維6等の強化繊維に樹脂を付着させて芯材1の外周面に巻き付け、それらの樹脂を硬化炉11で加熱硬化させている。
また、その強化繊維は、芯材1に直接巻き付けられる管周方向繊維5、及び、強化繊維供給装置10によって、管軸方向繊維6の先端部を管周方向繊維5上に間欠的に引き出して所定長さに切断し、切断した管軸方向繊維6を管周方向繊維5に格子状に重ねて帯状の布7にし、その強化繊維で形成された帯状の布7を、芯材1の周囲に巻き付ている。なお、図中の符号8は樹脂供給装置であり、符号9は、樹脂タンクである(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、FW法によるFRP管の製造方法の他の例として、例えば、図5(a)に示すものがある。
この手法は、TW法(テープワインディング成形法)とも呼ばれ、前記強化繊維供給装置10を用いることなく、予め帯状に形成された強化繊維の布7がロール状に巻回されたロール原反12を用いている。
【0006】
その布7の帯に樹脂を含浸させ、それを芯材1の周囲に巻き付け、樹脂を硬化させた後、芯材1を取り除いて円筒形状のFRP管を製造するものである。このTW法も、上記図6に示すような連続成形に適用可能である。
【0007】
また、強化繊維の布7の帯が芯材1の周囲に巻き付けられていき、そのロール原反12の布7が無くなった際には、図5(b)に示すように、その巻き終わり部の布7の後端と、新しいロール原反12の布7の先端とを、芯材1周りの周長に相当する長さ以上重ねる。その重ねた状態で樹脂槽13に溜めた樹脂Pに浸すことにより、その樹脂Pで新旧の布7同士を樹脂Pの粘性で接合し、その状態で、装置を止めることなく巻き付けを継続できるようになっている。
【0008】
なお、ロール原反12の巻き終わり部の布7の後端と、新しいロール原反12の布7の先端との接合に際し、ホットガンによる加熱接合や、高周波接合を用いた技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。また、接着用フィルムや接着剤を用いた技術も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−289117号公報
【特許文献2】特開2008−143087号公報(第7頁第2図〜第8頁第5図)
【特許文献3】特開平3−110108号公報(第5頁左上第3行〜右上第9行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図5(b)に示す手法によると、ロール原反12の巻き終わり部の布7の後端と、新しいロール原反12の布7の先端とを重ねた際に、樹脂Pの含浸が不充分であると、両者の間に僅かながら空気が介在し、その空気がFRP管の仕上がり状態で気泡となってしまい、その気泡がFRP管に剥離部を生じさせる原因となってしまうことがある。このため、布7のつなぎ目に気泡ができることは好ましくない。
【0011】
また、特許文献2のホットガンや高周波発生器を用いた接合によると、接着部位が布同士の重ね合わせ部全面に亘って連続的とならない。すなわち、点の集合からなるスポット的な接着部となるので、布の重ね合わせ部に空気の介在を完全には排除できない。
【0012】
この点、特許文献3の接着用フィルムや接着剤の技術によると、布同士の重ね合わせ部全面に亘って接着できるので、気泡の発生は抑えられやすい。しかし、接着用フィルムや接着剤による接合では、布同士の接着力が不足することがある。
【0013】
そこで、この発明は、ロール原反の巻き終わり部の布の後端と、新しいロール原反の布の先端とを、容易に且つ強固に接着できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明は、ロール原反の巻き終わり部の布の後端と、次に用いるべき別のロール原反の布の先端とに熱接着シートを宛がい、その熱接着シートを宛がった部分を布の外側から加熱し且つ圧力を加えることにより、その熱接着シートを介して布同士を接合するものである。
【0015】
熱接着シートであれば、接着部位が面的に連続するので、布の重ね合わせ部に空気の介在を排除できる。また、熱接着シートを加熱する際に圧力を加えることにより、両者間の接着力不足を解消し得る。
【0016】
具体的な構成は、強化繊維で構成される帯状の布をロール状に巻回したロール原反を用い、前記ロール原反から帯状の布を引き出してその布を芯材の周囲に巻き付け、その布に含浸させた樹脂を硬化させることにより管状部材を形成する繊維強化樹脂管の製造方法において、前記ロール原反の布が残り少なくなった際に、そのロール原反の巻き終わり部の布の後端と、別のロール原反の布の先端とに熱接着シートを宛がい、その熱接着シートを宛がった部分を加熱し且つ圧力を加えることにより、その熱接着シートを介して布同士を接合する繊維強化樹脂管の製造方法である。
【0017】
この熱接着シートを用いた布同士の接合に際し、芯材への布の巻回を一時的に止めてその接合作業を行うことも可能であるが、芯材への布の巻回を継続しながら接合を行うことも可能である。
すなわち、ロール原反の布が残り少なくなり、そのロール原反の布の巻き終わり部が近づいた際に、残っている布をすべてロール原反から引き出しておき、そして、芯材への巻き付けにより引き出した布が無くなってしまうまでの間に、引き出した布の後端と新しいロール原反の先端との接合作業を完了させるものである。
【0018】
この構成において、熱接着シートを宛がった部分、すなわち、布と熱接着シートとが重ね合わされた部分を加熱し且つ圧力を加えるに際し、その熱接着シートと布とを融着させている構成を採用することができる。
熱接着シートと布の素材とを融着させることができる素材としては、例えば、熱接着シートの母材としてポリエステル不織布を用いた場合に、布の素材として強化繊維を織ったものを採用する組合わせ等が挙げられる。
【0019】
また、これらの各構成において、前記熱接着シートを宛がった部分を加熱し且つ圧力を加えるに際し、前記熱接着シートの介在する部分を、表裏両側から夾むことができるフラットな対の板面を有し、その対の板面の少なくとも一方を加熱状態とし得る押圧手段を用いることができる。対の板面のうち一方のみが加熱状態とできるものであってもよいし、両方が加熱状態とできるものであってもよい。例えば、この押圧手段の一方の板面としては、電気アイロンの押圧面とすることができる。
【0020】
なお、この加熱状態とは、熱接着シートが布と布との間に所定の接合力を発揮し得る温度以上の温度を、また、前述の融着を期待するものである場合は、その熱接着シートと布の素材との関係で、両者に融着を生じさせる温度以上の温度を指す。
【発明の効果】
【0021】
この発明は、ロール原反の巻き終わり部の布の後端と、次に用いるべき別のロール原反の布の先端とに熱接着シートを宛がい、その熱接着シートを宛がった部分を加熱し且つ圧力を加えることにより、その熱接着シートを介して布同士を接合するようにしたので、接着部位が全面に亘って連続的となり、布同士の接合部への空気の介在を排除できる。また、熱接着シートを加熱する際に圧力を加えることにより、両者間の接着力不足を解消し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1a】一実施形態を示し、通常の作業状態を示す模式図
【図1b】一実施形態を示し、ロール原反の布の残りが少なくなってきた状態を示す模式図
【図1c】一実施形態を示し、残り少なくなってきたロール原反の布をすべて引き出した状態を示す模式図
【図1d】一実施形態を示し、新しい別のロール原反の布とを接合した状態を示す模式図
【図2】ロール原反の布と、別のロール原反との接合作業を行っている状態を示す模式図
【図3】ロール原反の布と、別のロール原反との接合部を示し、(a)は平面図、(b)は正面図
【図4】ロール原反の布と、別のロール原反との接合部の変形例を示す正面図
【図5】従来例の説明図で、(a)は、ロール原反から引き出された帯状の布が、樹脂槽に浸された後、芯材に巻き付けられる工程を示す模式図、(b)は、ロール原反の巻き終わり部の布を、別のロール原反の布の先端に接合する際の工程を示す模式図
【図6】フィラメントワインディング成形法による連続成形の一般的な例を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。この実施形態は、FW法の連続成形法による繊維強化樹脂管(FRP管)の成形方法に関するものである。
【0024】
この例では、図1aに示すように、強化繊維で構成される帯状の布21をロール状に巻回したロール原反20を複数用い、その各ロール原反20から引き出された布21を複数枚重ねて用いる。
【0025】
また、この例では、2つのロール原反20を同時に用いて、布21を2枚重ねて用いているが、用途に応じて、3つ以上のロール原反20を同時に用いて、3枚以上の布を重ねて用いてもよい。また、1枚の布21のみを単独で芯材1周囲に巻き付けるようにしてもよい。
【0026】
布21の芯材1周囲への巻き付けに際し、各ロール原反20から引き出された帯状の布21を、樹脂Pを収容した樹脂槽13に潜らせる。これにより、布21に樹脂が含浸された状態となる。その樹脂が含浸された布21を、芯材1の周囲に螺旋状に巻き付けていく。
【0027】
このとき、各ロール原反20は、支持台に回転可能に取付けられているから、布21を引っ張れば、ロール原反20の回転とともに、その引いた分だけ布21が引き出されるようになっている。芯材1に巻き付けられた紙が軸周り回転することにより、布21が前記紙の周りに巻き付けられながら、ロール原反20の布21が引っ張られる。
【0028】
芯材1の周囲に布21が巻き付けられた布21は、芯材1の軸方向に送り出される。そして、硬化炉11を通過させることでその樹脂が硬化する。最後に、硬化したFRP層と紙とが所定の長さに切断され、繊維強化樹脂管(FRP管)が成形される。これらの点は、従来例で説明した通りである。
【0029】
前記ロール原反20に巻回されている布21が残り少なくなった際に、図1bに矢印で示すように、残っている布21をロール原反20から引き出して弛ませ、それらの弛み部22を図中に示すように折り重ねておく。
【0030】
また、別の新しいロール原反20の布21を用意し、それを、支持台に回転可能に取付けておく。
【0031】
つぎに、図1cに示すように、そのロール原反20の巻き終わり部の布21の後端21bを、押圧手段40の架台の板面41上に載せる。
【0032】
この間も、布21の芯材1周囲への巻き付けは継続しており、引き出した布21は、徐々に芯材1へ巻き付けられて、弛み部22に折り重ねられた布は少なくなっていく。
【0033】
別の新しいロール原反20の布21の先端21aには、熱接着シート30が貼り付けられている。この例では、熱接着シート30は、その一端が新しいロール原反20の布21の先端21aに接着しており、他端がその布21の先端21aから張り出している。
なお、この実施形態では、熱接着シート30は、接着剤として「呉羽テック LNS0020(ポリアミド)」、母材として「ポリエステル不織布」を組合わせた構成を採用している。また、布21は、「クラボウ S−1 317.5mm×500m ガラス:NCR 目付:120g/m2 番手:600TEX」を用いている。
【0034】
この布21の先端21aを、押圧手段40の架台の板面41上に載せる。そして、その熱接着シート30の他端を、図1dに示すように、巻き終わり部の布21の後端21bに貼り付ける。布21の先端21aと後端21bとは、図3(a)(b)に示すように、隙間を有さないか、あるいはわずかな隙間を介在して対向した状態となり、この状態で熱接着シート30で固定された状態となる。
【0035】
その板面41上において、熱接着シート30の介在する部分を前記布21の上方から加熱し且つ両者が密着する方向へ圧力を加えることにより、その熱接着シート30を介して布21同士を接合する。
【0036】
この加熱、及び圧力の付加には、電気アイロン43を用いている。図2に示すように、電気アイロン43のフラットな押圧面43aを、架台の板面41上に載置された布21の表面に宛がって、その電気アイロン43を板面41に向かって押圧する。このとき、電気アイロン43は加熱状態であり、すなわち、通電により既に所定の温度に加熱されている。
この押圧により、熱接着シート30が所定の接着性能を発揮し、布21同士を接合することができる。
【0037】
このように、この製造方法では、弛み部22の布21が無くなってしまうまでの間に、引き出した布の後端と新しいロール原反の先端との接合作業を完了させるものである。弛み部22の布21が無くなれば、その後は、新しいロール原反20の布21が供給されていく。
【0038】
なお、ロール原反20の巻き終わり部の布21の後端21bと、別の新しいロール原反20の布21の先端21aとの接合部の変形例として、図4に示す手法も考えられる。
【0039】
この変形例では、ロール原反20の巻き終わり部の布21の後端21bと、別のロール原反20の布21の先端21aとを、所定の長さの範囲で重ね合わせ、その重ね合わせ部の布21と布21の間に、熱接着シート30を介在させている。
このように、熱接着シート30を用いて、どのように布21同士を接合するかは、FRP管に求められる仕様に応じて自由に選択できる。
【0040】
また、この実施形態では、押圧手段40の加熱及び押圧のツールとしてとして電気アイロン43を用いたが、熱接着シート30の介在する部分を加熱し、押圧し得る機能を有するものであれば、他の構成からなる押圧手段40を採用してもよい。
【0041】
特に、布21同士の接合部における熱接着シート30の介在する部分を加熱し且つ圧力を加えるに際し、その熱接着シート30の介在する部分を夾んで押圧することができるフラットな対の板面41,42を有し、その対の板面41,42の両方、又は一方を加熱状態とし得るものであることが望ましい。
【0042】
ただし、熱接着シート30と布21とに対する所定の押圧力が確保でき、且つ、熱接着シート30に対する所定の加熱が発揮でき得る限りにおいて、押圧手段40の構成は、フラットな対の板面41,42に限定されず、その他の加熱及び押圧のツール、例えば、対の板面41,42がそれぞれ凹凸を有する構成等を採用することも可能である。
【0043】
また、熱接着シート30の介在する部分を加熱し且つ圧力を加えるに際し、その熱接着シート30と布21とを融着させるように、その熱接着シート30や強化繊維の布21の素材を選定することも、接合力の強化に有効である。
【符号の説明】
【0044】
1 芯材
2 紙
3 樹脂フィルム
4 不織布
5 管周方向繊維
6 管軸方向繊維
7 布(格子状繊維)
8 樹脂供給装置
9 樹脂タンク
10 強化繊維供給装置
11 硬化炉
12,20 ロール原反
13 樹脂槽
21 布(格子状繊維)
21a 先端
21b 後端
30 熱接着シート
40 押圧手段
41,42 板面
43 アイロン
43a 押圧面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維で構成される帯状の布(21)をロール状に巻回したロール原反(20)を用い、前記ロール原反(20)から帯状の布(21)を引き出してその布(21)を芯材(1)の周囲に巻き付け、その布(21)に含浸させた樹脂を硬化させることにより管状部材を形成する繊維強化樹脂管の製造方法において、
前記ロール原反(20)の布(21)が残り少なくなった際に、そのロール原反(20)の巻き終わり部の布(21)の後端(21b)と、別のロール原反(20)の布(21)の先端(21a)とに熱接着シート(30)を宛がい、その熱接着シート(30)を宛がった部分を加熱し且つ圧力を加えることにより、その熱接着シート(30)を介して布(21)同士を接合する繊維強化樹脂管の製造方法。
【請求項2】
前記熱接着シート(30)を宛がった部分を加熱し且つ圧力を加えるに際し、その熱接着シート(30)と布(21)とを融着させていることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂管の製造方法。
【請求項3】
前記熱接着シート(30)を宛がった部分を加熱し且つ圧力を加えるに際し、前記熱接着シート(30)を宛がった部分を夾むことができるフラットな対の板面(41,42)を有し、その対の板面(41,42)の少なくとも一方を加熱状態とし得る押圧手段(40)を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂管の製造方法。
【請求項4】
前記押圧手段(40)の一方の板面(42)は、電気アイロン(43)の押圧面(43a)であることを特徴とする請求項3に記載の繊維強化樹脂管の製造方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−131537(P2011−131537A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294728(P2009−294728)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】