説明

繊維製品の形態安定化処理方法およびそれに用いる装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、繊維製品の形態安定化処理方法およびそれに用いる装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から、繊維製品の寸法安定性を向上させるために、その仕上工程において蒸気による熱セット処理が行われているが、最近、綿製品や羊毛製品等、しわが付いたり形崩れしやすい繊維製品に対し、単に寸法安定性を向上させるだけでなく、着用・洗濯によってシワが付きにくく形崩れしないように、積極的に特殊な形態安定化処理を施して、繊維の形状を予め固定(記憶)させることが行われている。
【0003】上記形態安定化処理としては、ホルマリン系樹脂やアンモニア等の薬品を繊維に付与し、繊維の分子配列に架橋を形成して繊維の形状を保持する方法がよく知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のように薬品を用いた処理では、最終製品に薬品が残留しやすいため、残留薬品濃度をできるだけ低減して安全基準をクリアすることが要求され、その管理に多大な労力を要する。また、薬品使用時の作業環境の安全性や余剰薬品の回収・処理等についても問題となる。このため、薬品を使用することなく、水分と熱,圧力といった物理的,機械的な手段のみで形態安定化処理を行う技術の確立が強く望まれているが、これに応えうる技術は未だ提案されていないのが実情である。
【0005】本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、形態安定化処理が要求されるセルローズ系繊維等の繊維製品に対し、薬品を用いず、蒸気を一定の条件下で供給するだけで優れた形態安定性を付与することのできる形態安定化処理方法およびそれに用いる装置の提供をその目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明は、密閉容器内にセルローズ系繊維および動物系繊維の少なくとも一方を主体とする繊維製品を装填して形態安定化処理を行う方法であって、上記密閉容器内に装填された繊維製品に対し、密閉容器内に設けられた水分付与手段により、水分を付与する工程と、上記密閉容器内の空気を排出して減圧する工程と、減圧された上記密閉容器内に、過熱蒸気を供給する工程と、上記密閉容器内に供給された過熱蒸気によって繊維製品を所定温度で所定時間熱セットする工程からなる繊維製品の形態安定化処理方法を第1の要旨とし、セルローズ系繊維および動物系繊維の少なくとも一方を主体とする繊維製品に対し形態安定化処理を行う際に用いる装置であって、上記繊維製品が装填される密閉容器と、上記密閉容器内に設けられ上記繊維製品に対し水分を付与する手段と、上記密閉容器内を所定の真空度に減圧する減圧手段と、上記密閉容器内に過熱蒸気を供給する蒸気供給手段と、上記密閉容器内を所定圧力に制御する圧力制御手段と、上記過熱蒸気が、所定温度で所定時間維持されるよう制御する処理制御手段とを備えた繊維製品の形態安定化処理装置を第2の要旨とする。
【0007】
【発明の実施の形態】つぎに、本発明の実施の形態を説明する。
【0008】まず、本発明が対象とする繊維は、従来から、形態安定化が要求されている繊維であり、具体的には、綿,レーヨン,麻等のセルローズ系繊維および羊毛,絹等の動物性繊維である。そして、これらの繊維のみからなる繊維製品だけでなく、これらの繊維と他の繊維とを併用した合繊混紡繊維製品も含む。
【0009】また、本発明が対象とする繊維製品の形態は、どのようなものであっても差し支えはないが、なかでも、繊維間に比較的隙間があいていて水を付与しやすい形態のもの、例えばかせ状の糸や環状生地,ワイシャツ等の形状に仕立てられた最終製品等が好適である。
【0010】さらに、本発明が対象とする密閉容器としては、上記各種の繊維製品の形態に応じて適宜のものが選択されるのであり、特に限定されない。例えば横型密閉容器であっても竪型密閉容器であっても差し支えはない。そして、繊維製品の装填方法や装填態様についても、適宜に設定される。
【0011】そして、本発明における処理時の態様は、上記繊維製品の形態に応じて適宜設定されるが、なかでも、かせ状の糸や環状生地,最終製品等を、フリーの状態で吊り下げた状態で処理することが好ましい態様である。
【0012】つぎに、本発明に用いる処理装置の一例を図1に示す。
【0013】図において、1は横型の密閉容器で、内側に繊維製品2(図では所定間隔で並ぶさお2aに掛けられた環状布帛)が装填されるようになっている。3は真空ポンプで、真空配管4および連通配管5を介して密閉容器1内に連通している。6は蒸気供給配管で、減圧弁7,流量計8,圧力計9,温度計10,熱交換器50を備え、上記連通配管5を介して密閉容器1内に連通している。上記熱交換器50には、熱媒体供給配管51から高圧蒸気等の熱媒体が導入されるようになっている。
【0014】また、上記密閉容器1内の天井部近傍には、装填された繊維製品2に対し均等に水の噴霧を行うよう所定間隔で並ぶスプレーノズル61が設けられており、給水配管60から水が供給されるようになっている。
【0015】そして、上記密閉容器1には、圧力計12,安全弁13,攪拌装置14が設けられているとともに、底部側に、所定間隔で3個の温度計15が設けられている。なお、上記密閉容器1の底部中央には、密閉容器1内の空気を排出するための排出配管22が連通されている。
【0016】上記装置を用い、例えばつぎのようにして形態安定化処理を行うことができる。すなわち、まず、図1に示すように、密閉容器1内に繊維製品2を装填したのち、上記給水配管60から水をスプレーノズル61に供給して、装填状態の繊維製品2に対し、上方から水を噴霧することにより、水分を付与する。これは、過熱蒸気による熱セット前に、繊維製品を一定の含水状態にしておくことにより、過熱蒸気による熱セット時に、繊維と水分との間に分子結合を生じさせ、その作用により、繊維分子内の歪応力を緩和しながら再結晶化させ、繊維内を形態安定化に最適な条件に導いて、水分の過不足がない状態で均一に処理を行うようにしたものである。
【0017】上記繊維製品2に対する水分の付与率は適宜に設定されるが、通常10〜20重量%に設定することが好適である。水分が上記範囲よりも少ないと、過熱蒸気による処理時に水分が不足して形態安定化が不充分になる傾向がみられ、逆に水分が上記範囲よりも多いと、処理後の工程において脱液,乾燥工程が必要となり、手間がかかるからである。
【0018】つぎに、真空ポンプ3を作動させるとともに真空配管4の開閉弁23を開けて密閉容器1内を減圧して密閉容器1内の空気を排出する。このように密閉容器1内の空気を排出するのは、次工程において蒸気が繊維製品2の内部まで浸透しやすくするとともに空気酸化による繊維製品の変色および強伸度の低下を防止するためである。
【0019】つぎに、上記真空配管4を閉じ、蒸気供給配管6の開閉弁24および連通配管5の開閉弁25を開くとともに、熱交換器50による加熱を行い、密閉容器1内に過熱蒸気を供給する。このとき、上記過熱蒸気は、通常、温度120〜200℃、圧力2.0〜16.0kg/cm2 に設定することが好適である。すなわち、上記温度が120℃よりも低いと、繊維製品2に対する形態安定化効果が不充分になるのであり、200℃を超えると、繊維製品2が熱による損傷を受けて繊維の伸度,強度が損なわれるからである。なお、上記圧力は、過熱蒸気の温度により必然的に決まるものである。
【0020】なお、上記過熱蒸気の温度を所定範囲内に制御するために、熱交換器50の出口側で温度を計測して温度制御手段53に伝送し、そのデータに基づいて、熱媒体供給配管51に設けられた開閉弁52の開度を制御するようにしている。また、上記過熱蒸気を密閉容器1内において一定圧力,一定温度に保つために、密閉容器1内の圧力は常時計測され、その値に基づいて、圧力制御手段40によって開閉弁24の開度を制御するようにしている。
【0021】また、密閉容器1内で過熱蒸気を繊維製品2と均一に接触させるために、密閉容器1内の3個所において、温度計15により経時的に温度を計測し、必要に応じて攪拌装置14による蒸気攪拌動作を与えるようにしている。
【0022】このようにして、繊維製品2に対し、過熱蒸気による熱処理を所定時間行うことにより、優れた形態安定性を付与することができる。なお、上記処理時間は、繊維製品2の種類,形態,ボリューム等にもよるが、通常2〜20分に設定される。
【0023】このようにして繊維製品2に対する処理が完了し、繊維製品2は密閉容器1から取り出される。
【0024】なお、上記装置では、過熱蒸気を密閉容器1内に導入して単に繊維製品2と接触させるようにしているが、図2に示すように、前記排出配管22と連通配管5とを、ブロア32を備えた配管33で接続し、ブロア32を作動させることにより、密閉容器1内に導入された過熱蒸気を、密閉容器1の底部側から排出配管22を介して取り出して密閉容器1の天井側から送入することを繰り返し、繊維製品2に過熱蒸気を強制貫流させるようにしてもよい。なお、この装置の他の部分は、図1の装置と同じであり、同一部分に同一番号を付してその説明を省略する。
【0025】さらに、図3に示すように、図2に示す蒸気強制循環のための配管33を利用し、この配管33に設けられたブロア32の気体吸入側に、配管56を介して空気を供給し、この空気を、ブロア32の気体送出側に設けた熱交換器55によって加熱することにより、熱風供給を行うことができるようにしてもよい。この熱風を利用して、過熱蒸気による熱セットに先立って、繊維製品2の予備加熱を行うようにしてもよいし、あるいは熱セット後に、繊維製品2が濡れている場合に繊維製品2の乾燥を引き続き行うようにしてもよい。
【0026】なお、上記密閉容器1の内壁、特に天井部やスプレーノズル61の配管周囲に結露が生じやすく、水滴が落下して繊維製品2に過剰な水分が供給されるおそれがある。そこで、これを防止するために、図1〜図3R>3の装置において、密閉容器1の上面部に熱媒体加熱装置を設け、密閉容器1の天井部周辺を高温に保って結露が生じないようにしてもよい。
【0027】
【発明の効果】以上のように、本発明は、密閉容器内に装填された繊維製品に、その装填状態のまま、一定の水分を付与した上で、この密閉容器内を減圧し繊維製品内の空気を排除することにより、次工程において蒸気が繊維製品内部まで浸透しやすくするとともに空気酸化による繊維製品の変色および脆化を防止し、つぎに過熱蒸気を供給して、所定温度,所定時間だけ熱セットするようにしたものである。この方法によれば、繊維製品に含まれた水分と過熱蒸気の作用により、優れた形態安定化を実現することができるため、従来のように薬品を用いる必要がなく、最終製品への薬品残留等の問題を回避することができる。そして、本発明の装置によれば、上記方法を簡単かつ効率よく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の装置の一実施例の構成図である。
【図2】本発明の装置の他の実施例の構成図である。
【図3】本発明の装置のさらに他の実施例の部分的な構成図である。
【符号の説明】
1 密閉容器
2 繊維製品
3 真空ポンプ
4 真空配管
6 蒸気供給配管
14 攪拌装置
40 圧力制御手段
60 給水配管
61 スプレーノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】 密閉容器内にセルローズ系繊維および動物系繊維の少なくとも一方を主体とする繊維製品を装填して形態安定化処理を行う方法であって、上記密閉容器内に装填された繊維製品に対し、密閉容器内に設けられた水分付与手段により、水分を付与する工程と、上記密閉容器内の空気を排出して減圧する工程と、減圧された上記密閉容器内に、過熱蒸気を供給する工程と、上記密閉容器内に供給された過熱蒸気によって繊維製品を所定温度で所定時間熱セットする工程からなることを特徴とする繊維製品の形態安定化処理方法。

【請求項2】 上記繊維製品が、かせ状の糸,環状生地
および所定形状に仕立てられた最終製品のいずれかである請求項1記載の繊維製品の形態安定化処理方法。
【請求項3】 上記繊維製品に付与される水分が、繊維
製品の10〜20重量%に設定されている請求項1または2記載の繊維製品の形態安定化処理方法。
【請求項4】 上記過熱蒸気を、繊維製品に対して強制貫流させながら循環させるようにした請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維製品の形態安定化処理方法。
【請求項5】 セルローズ系繊維および動物系繊維の少なくとも一方を主体とする繊維製品に対し形態安定化処理を行う際に用いる装置であって、上記繊維製品が装填される密閉容器と、上記密閉容器内に設けられ上記繊維製品に対し水分を付与する手段と、上記密閉容器内を所定の真空度に減圧する減圧手段と、上記密閉容器内に過熱蒸気を供給する蒸気供給手段と、上記密閉容器内を所定圧力に制御する圧力制御手段と、上記過熱蒸気が、所定温度で所定時間維持されるよう制御する処理制御手段とを備えたことを特徴とする繊維製品の形態安定化処理装置。

【請求項6】 上記繊維製品が、かせ状の糸,環状生地
および所定形状に仕立てられた最終製品のいずれかである請求項5記載の繊維製品の形態安定化処理装置。
【請求項7】 上記繊維製品に付与される水分が、繊維
製品の10〜20重量%に設定されている請求項5または6記載の繊維製品の形態安定化処理装置。
【請求項8】 上記密閉容器内に、蒸気攪拌用のファンが設けられている請求項5〜7のいずれか一項に記載の繊維製品の形態安定化処理装置。
【請求項9】 上記密閉容器外に、蒸気を強制循環させるブロアが設けられている請求項5〜8のいずれか一項記載の繊維製品の形態安定化処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】第2724293号
【登録日】平成9年(1997)11月28日
【発行日】平成10年(1998)3月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−181487
【出願日】平成7年(1995)7月18日
【公開番号】特開平9−31831
【公開日】平成9年(1997)2月4日
【出願人】(000152480)株式会社日阪製作所 (60)
【参考文献】
【文献】特開 平9−31830(JP,A)
【文献】特開 平9−3767(JP,A)
【文献】特開 平9−3766(JP,A)