説明

繊維防臭剤、繊維防臭組成物、および繊維防臭方法

【課題】イソ吉草酸やカプロン酸等のヒトの不快な体臭成分の生成を抑制し、その効果を持続的に示す繊維防臭剤を提供する。
【解決手段】皮膚常在菌による低級脂肪酸の生成を抑制する効果を有する植物抽出物を有効成分として含ませて繊維防臭剤を構成する。前記植物抽出物の供給源である植物が、カキ葉、セイヨウオトギリソウ、セイヨウサンザシ、ボダイジュ、ローズマリー、スイカズラ、スギナから選ばれる少なくとも1種類の植物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソ吉草酸やカプロン酸等のヒトの不快な体臭成分の生成を抑制する植物抽出物を有効成分として含む繊維防臭剤、繊維防臭組成物、および繊維防臭方法に関し、より詳しくは、皮膚常在菌の体臭発生経路を阻害する植物抽出物を含むことで体臭抑制効果を持続的に示す繊維防臭剤、この繊維防臭剤を含有する繊維防臭組成物、および皮膚常在菌による低級脂肪酸の生成を抑制する効果を有する植物抽出物を用いた繊維防臭方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、汗臭などの体臭を防止する方法としては、消臭技術やマスキング技術が主流である(例えば、特許文献1参照)。また、近年では、体臭の原因物質を作り出す原因菌を殺菌する殺菌技術により、体臭の発生を抑制する方法が実用化されてきている。しかしながら、前記消臭技術やマスキング技術は効果の程度や持続性の点において満足のいくレベルではない。また、殺菌を行っても臭気発生に関与する酵素が皮膚上に残存するため、殺菌によるデオドラント技術も前記殺菌技術と同様に満足のいく防臭効果が得られているとは言いがたい。さらに、前記殺菌技術は、臭い発生菌以外の皮膚常在菌をも殺菌するため、皮膚のバリア機能を低下させる懸念がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
そこで、近年明らかとなった、皮膚常在菌の代謝により低級脂肪酸などの体臭の原因物質が生成するという知見から、その皮膚常在菌の代謝経路に関与する酵素を阻害することによって、体臭の原因物質の生成を抑制し、体臭の発生を抑制することが検討されている。
【0004】
具体的には、皮膚常在菌の一種であるコリネバクテリア等による身体の悪臭を発生させる微生物に対する不活性化剤として、例えば、(Z)−3,4,5,6,6−ペンタメチルヘプタ−3−エン−2−オン、 ジエチル−シクロヘキサ−2−エン−1−オンとジメチル−シクロヘキサ−2−エン−1−オンの混合物、シトロネロールなどの香料成分の使用が検討され、臭気生成菌を殺菌することなく低級脂肪酸の生成を抑制できることが報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、ヒトの体臭の原因臭といわれる低級脂肪酸の皮膚常在菌による生成を抑制するエステル分解抑制剤として、例えば、ベンズアルデヒド、ベンジルベンゾエート、シンナミックアルデヒド、エチルバニリンなどの香気成分の使用が検討され、皮膚常在菌を殺菌することなく不快な体臭の発生を抑制できることが報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
さらに、体臭の原因物質である低級脂肪酸の一つであり、汗臭の主たる臭気物質(例えば、非特許文献2参照)と考えられているイソ吉草酸の生成経路に関与するロイシン脱水素酵素の阻害剤として、例えば、ミズキ、ハコネウツギ、シシアクチ、アデク、カンレンボク、エゾミソハギなどの植物抽出物やオイゲノールの使用が検討され、これらのロイシン脱水素酵素阻害剤の消臭効果と高い安全性が報告されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
以上のように、皮膚常在菌を殺菌することなく体臭の発生を抑制する安全性の高い香気成分や香料成分、低級脂肪酸の生成経路を阻害することにより消臭作用を示す安全性の高い植物抽出物の使用が提案されている。
【0008】
一方、低級脂肪酸の生成経路を阻害することによって体臭の発生を抑制する効果を繊維に対して付与することができる繊維防臭剤というものはほとんど認められない。
【0009】
【特許文献1】特開2004−65312号公報
【特許文献2】特表2002−519368号公報
【特許文献3】特開2002−87973号公報
【特許文献4】特開2000−191511号公報
【非特許文献1】武田 克之,「皮膚防御機能の温故知新−アクネス菌,エピデルミディス菌の常在細菌としての役割−」,日本香粧品科学会誌,2003年,第27巻,第1号,p.29−32
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記コリネバクテリアを含む悪臭を発生させる微生物に対する不活性化剤は、香料成分であることから、揮発性が高く、滞留性が低いため、体臭抑制の点、持続性の点で満足できる効果が得られていない。従って、この不活性剤を繊維防臭剤として利用しても優れた効果を発揮できるとは考えられない。
【0011】
また、前記エステル分解抑制剤では、体臭の主たる臭気物質である低級脂肪酸の生成抑制が不十分であるため、体臭の抑制の点で満足できる効果が得られていない。従って、このエステル分解抑制剤を繊維防臭剤として利用しても優れた効果を発揮できるとは考えられない。
【0012】
さらに、前記ロイシン脱水素酵素の阻害剤では、イソ吉草酸の生成抑制が不十分であるため、体臭の抑制の点で満足できる効果が得られていない。従って、このロイシン脱水素酵素の阻害剤を繊維防臭剤として利用しても優れた効果を発揮できるとは考えられない。
【0013】
本発明は、前記に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、イソ吉草酸やカプロン酸等のヒトの不快な体臭成分の生成を抑制し、その効果を持続的に示す繊維防臭剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するために、様々な植物抽出物の低級脂肪酸生成抑制作用について鋭意研究を進めた結果、特定の植物抽出物に、主な体臭の原因物質である低級脂肪酸の生成自体を高度に、また、持続的に抑制する効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の繊維防臭剤は、低級脂肪酸の生成を抑制する効果を有する植物抽出物を有効成分として含む繊維防臭剤である。前記植物抽出物として、カキ、セイヨウオトギリソウ、セイヨウサンザシ、ボダイジュ、ローズマリー、スイカズラ、スギナから選ばれる少なくとも1種類の植物抽出物を配合することで、低級脂肪酸の生成を抑制し、不快な体臭の発生を抑制できる繊維防臭剤を提供することを特徴とする。また、本発明の繊維防臭剤は、皮膚常在菌に対して殺菌作用を示さないことが好ましい。
【0016】
なお、本発明でいう「繊維防臭剤」とは、皮膚常在菌による低級脂肪酸の生成を抑制する効果を有し、目的組成物に添加することにより、体臭を抑制する効果を付与した繊維防臭組成物を調整するための薬剤をいう。本発明の繊維防臭剤を含有する繊維防臭組成物を用いて繊維、衣料等を処理することによって、持続的に体臭を抑制することができる繊維、衣料等を得ることができる。
【0017】
また、本発明は、以上のような植物または植物由来物の抽出物を用いた繊維処理方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、イソ吉草酸やカプロン酸等のヒトの不快な体臭成分の生成を効果的に抑制できる有効成分を含有する、安全性の高い繊維防臭剤および繊維防臭組成物を提供することができる。
【0019】
さらに、本発明により、ヒトの不快な体臭成分の生成を効果的に抑制できる繊維防臭処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明の繊維防臭剤は、皮膚常在菌による低級脂肪酸の生成を抑制する効果を有する植物抽出物を有効成分として含むことを特徴とする。
【0021】
前記低級脂肪酸は体臭の主たる原因物質であり、皮膚常在菌の代謝により生成することが知られている。したがって、皮膚常在菌の代謝による低級脂肪酸の生成を抑制できる植物抽出物を有効成分として含有する本発明の繊維防臭剤は、繊維から発せられる体臭由来の不快な臭気を効果的に抑制することができる。
【0022】
皮膚常在菌における低級脂肪酸生成に係わる代謝経路としては、エステル分解による代謝経路やロイシン脱水素の代謝経路が知られているが、その他の代謝経路については未知である。不快な体臭を効果的に抑制できる繊維防臭剤としては、このような既知の代謝経路に対する阻害作用の有無に拘わらず、体臭の主たる原因物質である低級脂肪酸生成抑制効果を有することが重要である。
【0023】
本発明の繊維防臭剤に含有される植物抽出物の低級脂肪酸生成抑制率は、プロピオニバクテリウム アクネス(Propionibacterium acnes)を用いた低級脂肪酸生成系で75〜100%であること、またはコリネバクテリウム キセロシス(Corynebacterium xerosis)を用いたイソ吉草酸生成系において90〜100%であることが好ましい。本発明の繊維防臭剤に含有される植物抽出物がいかなる代謝経路を遮断するのか、あるいは、いかなる作用機序によるのかは明確ではないが、体臭の主たる原因物質である低級脂肪酸自体の高度な生成抑制効果を有する。
【0024】
前記プロピオニバクテリウム アクネス(Propionibacterium acnes)を用いた低級脂肪酸生成系とは、後述の実施例1〜5において示すように、トリカプロインに、プロピオニバクテリウム アクネス(Propionibacterium acnes)を1×108個/mL接種し、37℃で6時間培養して低級脂肪酸を生成させる反応系のことをいう。本発明の繊維防臭剤に含有される植物抽出物は、この系で75〜100%という高度の低級脂肪酸生成抑制効果を示すことが好ましい。
【0025】
前記コリネバクテリウム キセロシス(Corynebacterium xerosis)を用いたイソ吉草酸生成系とは、後述の実施例6〜8において示すように、健常男子より採取し、直ちにフィルター滅菌を行った汗5mlに、コリネバクテリウム キセロシス(Corynebacterium xerosis)を約8LOG CFU/ml接種し、37℃で6時間培養してイソ吉草酸を生成させる反応系のことをいう。本発明の繊維防臭剤に含有される植物抽出物は、この系で90〜100%という高度のイソ吉草酸生成抑制効果を示すことが好ましい。
【0026】
本発明の繊維防臭剤に含有される植物抽出物のうち、上述したプロピオニバクテリウム アクネス(Propionibacterium acnes)を用いた低級脂肪酸生成系において75〜100%の低級脂肪酸生成抑制率を示すものとして、好ましくはカキ、セイヨウオトギリソウ、セイヨウサンザシ、ボダイジュ、ローズマリーから選ばれる少なくとも1種類の植物抽出物が挙げられる。前記植物抽出物の抽出に用いられる植物はその用部に特に限定はないが、有効性を発揮させる点から、カキは葉、セイヨウオトギリソウは地上部、セイヨウサンザシは花、葉又は果実、ボダイジュは花又は葉、ローズマリーは葉又は花及び葉、スイカズラは花蕾、スギナは地上部を用いることが好適である。
【0027】
本発明の繊維防臭剤に含有される前記植物抽出物のうち、上述したコリネバクテリウム キセロシス(Corynebacterium xerosis)を用いたイソ吉草酸生成系において90〜100%の低級脂肪酸生成抑制率を示すものとして、好ましくはセイヨウオトギリソウ、スイカズラ、スギナから選ばれる少なくとも1種類の植物抽出物が挙げられる。前記植物抽出物の抽出に用いられる植物はその用部に特に限定はないが、有効性を発揮させる点から、セイヨウオトギリソウは地上部、スイカズラは花蕾、スギナは地上部を用いることが好適である。
【0028】
前記植物抽出物としては、前記用部を生のまま、あるいは乾燥した後に適当な大きさに切断したり、粉砕加工したりしたものを抽出して得た抽出エキス、あるいはさらに分離精製した成分を用いることができる。抽出エキスは、常法により、溶媒抽出することによって得ることができる。抽出溶媒が使用上無害なものであれば抽出液を繊維防臭剤としてそのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液にして用いてもよい。また、前記植物抽出物を濃縮エキスとしたり、凍結乾燥などにより乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したりしてもよい。また、必要に応じてゼラチン類、寒天、アルギン酸ナトリウムなどの有機物やケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウムなどの無機物で担持、抱合して用いることもできる。
【0029】
前記植物抽出物を得るために用いる抽出溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、酢酸エチル、アセトン、モノテルペン類などの一般に用いられる有機溶媒、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類及び水などを挙げることができ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。これらの溶媒の中では、抽出効率の点から、特にエタノール、水、1,3−ブチレングリコール、モノテルペン類及びこれらの混合溶剤が望ましい。
【0030】
なお、前記抽出処理は、冷浸、温浸、加熱環流、パーコレーション法などの常法によって行うことができる。溶媒抽出の他に、水蒸気蒸留、炭酸ガスを超臨界状態にして行う超臨界抽出によって得たエキスも同様に利用できる。超臨界抽出では、抽出助剤としてヘキサン、エタノールなどを用いることもできる。
【0031】
また、前記抽出物の分離精製は、抽出物を活性炭処理、液液分配、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどで行うことができる。その他の抽出条件としては、抽出温度、抽出pHなどが挙げられるが、極端な高温または低温や極端な酸性またはアルカリ性でなければ特に制限はない。
【0032】
本発明の繊維防臭剤に含有されるカキ、セイヨウオトギリソウ、セイヨウサンザシ、ボダイジュ、ローズマリー、スイカズラ、スギナから選ばれる少なくとも1種類の植物抽出物は、配合量を調整し、低級脂肪酸の発生経路を阻害することにより、繊維から発せられる体臭由来の不快な臭気を効果的に抑制することができる。
【0033】
本発明の繊維防臭剤は、皮膚常在菌に対して殺菌作用を示さないことが好ましい。本発明の繊維防臭剤中の前記植物抽出物の配合率を適切に調整することにより、皮膚常在菌に対して殺菌作用を示さずに、低級脂肪酸自体の高度な生成抑制効果を有し、体臭の抑制効果を示すようにすることができる。本発明の繊維防臭剤中に前記植物抽出物を固形物換算で0.1質量%以下配合するのが好ましく、0.05質量%以下配合するのがより好ましい。
【0034】
本発明の繊維防臭組成物は、前記繊維防臭剤を含有することを特徴とする。本発明の繊維防臭組成物における前記植物抽出物の具体的な配合量は、繊維防臭組成物の剤型などに応じて適宜選定されるが、一般的に組成物中に固形物換算で0.0001〜5.0質量%(以下、単に「%」という。)配合するのがよく、好ましくは0.0001〜0.5%配合するのがよい。配合量が0.0001%未満であると本発明の効果を発揮できず、5.0%以上であると繊維への着色等の不具合が生じる恐れがあるためである。
【0035】
本発明の繊維防臭組成物は、繊維の種類に応じ、公知の配合成分を添加することができる。例えば、界面活性剤、油分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、防腐剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収・散乱剤、ビタミン類、水等を必要に応じて適宜配合することができる。また、本発明の繊維防臭組成物には、前記有効成分に加えて、一般に用いられている消臭剤、保存剤、酸化防止剤などをあわせて配合することができる。
【0036】
本発明の繊維防臭組成物は、繊維または衣料に防臭効果を付与することができるため、繊維処理用または衣料処理用組成物として好適である。
【0037】
本発明の繊維処理方法は、上述した低級脂肪酸生成抑制効果を有する、植物抽出物を用いる。前記植物抽出物を繊維に付加する方法としては、一般的に行われている方法であればいかなる方法も用いることができる。繊維処理方法としては、例えば、繊維に前記植物抽出物を含浸させ、その後乾燥させるなどして行なうことができる。また、原糸への練りこみ、紡績工程における処理、染色時や染色後の付加処理、または布帛状態となった後にアクリル、ラテックス等の有機系バインダーやシリカ、スメクタイトといった無機系バインダーを用いて繊維に付加する方法なども挙げることができる。本発明の繊維処理方法に供される繊維としては、例えば、絹、綿レーヨン、ナイロン等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
[調製例]
抽出エキスの調製:カキは葉、セイヨウオトギリソウは地上部、セイヨウサンザシは花、葉又は果実、ボダイジュは花又は葉、ローズマリーは葉又は花及び葉、スイカズラは花蕾、スギナは地上部をそれぞれ乾燥、粉砕して粗粉末とし、各10gを100%エタノール100mLに浸漬し、室温で5日間抽出した。次いで、抽出後の粗粉末をろ別して得られた抽出液を減圧濃縮し、抽出エキスを得た。
【0040】
[実験例1〜5:低級脂肪酸生成抑制試験]
0.2%トリカプロイン−0.05Mリン酸緩衝液pH6.0(SIGMA社製)2.5mLに、前記調製例に従って得た各種植物抽出物を最終濃度が250μg/mLとなるように添加した。その後、Propionibacterium acnes(ATCC)を約1×108個/mL接種し、37℃で6時間、嫌気状態で培養した。培養終了後、生菌数を測定し、培養液に10%硫酸を0.5mL、ジエチルエーテルを3mL加え、エーテル層に抽出されたカプロン酸量をガスクロマトグラフィーにより測定した。次いで、後述する植物抽出物を含まない比較例2をコントロールとして、カプロン酸の生成抑制率(%)を算出した。その算出結果および殺菌作用を調べた結果を下記「表1」に示す。尚、ここでいう殺菌作用とは、変法GAM寒天培地に、被験物質を添加したものに皮膚常在菌(Propionibacterium acnes)を接種し、37℃、6時間嫌気状態で培養後、コントロールに対して生菌数を1/100以下に減少させる作用をいう。
【0041】
【表1】

【0042】
[比較例1および2]
比較例1として、0.2%トリカプロイン−0.05Mリン酸緩衝液pH6.0(SIGMA社製)2.5mLに、前記調製例に従って得たゲンチアナ抽出物を最終濃度が250μg/mLとなるように添加し、実施例1〜5と同様にして試験した。比較例2として、植物抽出物を含まないコントロール(0.2%トリカプロイン−0.05Mリン酸緩衝液pH6.0(SIGMA社製)のみ)を実施例1〜5と同様にして試験した。これらの結果を下記「表2」に示した。
【0043】
【表2】

【0044】
前記「表1」に示した結果のように、カキ葉、セイヨウオトギリソウ、セイヨウサンザシ、ボダイジュ、ローズマリー抽出物には、カプロン酸の発生を抑制する効果が認められた。また、各実施例において、殺菌作用が認められなかったことより、本作用は臭気発生経路を抑制した結果、生じたものと考えられた。
【0045】
[実験例6〜8:イソ吉草酸の生成抑制試験]
健常男子より採取し、直ちにフィルター滅菌を行った汗5mLに、調製例1に従って得た各種植物抽出物を最終濃度が250μg/mLになるように添加した。その後、Corynebacterium xerosis(財団法人 発酵研究所)を約8Log CFU/mL接種し、37℃で6時間培養した。培養終了後、生菌数を測定し、フィルター処理により菌を除去した培養液2mLに、10%硫酸を0.5mL、ジエチルエーテルを3mL加え、エーテル層に抽出されたイソ吉草酸量をガスクロマトグラフィーにより測定した。次いで、後述する植物抽出物を含まない比較例6をコントロールとして、イソ吉草酸の生成抑制率(%)を算出した。その算出結果および殺菌作用を調べた結果を下記「表3」に示す。尚、ここでいう殺菌作用とは、Tween80を0.1%含むSCD培地に、被験物質を添加したものに皮膚常在菌(Corynebacterium xerosis)を接種し、37℃、6時間培養後に、コントロールに対して生菌数を1/100以下に減少させる作用をいう。
【0046】
[比較例3および4]
比較例3として、ジオウ(Rehmannia glutinosa)抽出物を添加した以外は実施例6〜8と同様にして試験した。比較例4として、植物抽出物を含まないコントロール(フィルター滅菌を行った汗のみ)を実施例6〜8と同様にして試験し、その結果を下記「表3」に示した。
【0047】
【表3】

【0048】
前記「表3」に示した結果のように、スイカズラ、セイヨウオトギリソウ、スギナの各抽出物には、イソ吉草酸の発生を抑制する効果が認められた。また、各実施例において、殺菌作用が認められなかったことより、本作用は臭気発生経路を抑制した結果、生じたものと考えられた。
【0049】
[実施例9〜15:肌シャツ防臭試験]
以下の方法にて繊維防臭組成物を調製した。水563gにアルミノケイ酸塩「ライオナイトSF」(商品名、ライオン株式会社製)140gと、カチオン界面活性剤(ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド)7gとを添加し、室温で1時間攪拌した。その後、下記「表4」の実施例9〜15に示すように、カキ葉、セイヨウオトギリソウ、セイヨウサンザシ、ボダイジュ、ローズマリー、スイカズラ、スギナの各抽出物をそれぞれ10g、もしくは混合して10g加え、さらに1時間攪拌し、前記植物抽出物の分散液を調製した。
【0050】
次に、この分散液6%と、「ボンコートAB885」(商品名、大日本インキ(株)製アクリル樹脂)1.5%と、水92.5%とを混合し、繊維防臭組成物を調製した。この繊維防臭組成物に、市販の肌シャツを浸漬し、ローラーで脱水した後、乾燥し、評価用の肌シャツを作製した。
【0051】
次に、成人男子20名を5名ずつ4群に分け、それぞれの群に実施例9〜15で作製した肌シャツを午前9時に着用させた。被験者は午前と午後にそれぞれエルゴメーターにて30分間の運動負荷を与えた。同日の午後5時に各肌シャツを回収し、37℃にて1時間保温した後、肌シャツの臭気を専門判定者によって評価した。臭気の判定基準を以下に示す。評価点は各群5名の平均値で表し、その結果を下記「表4」に示した。
【0052】
<臭気強度>
0:無臭
1:やっと感知できるにおい
2:何のにおいかわかる弱いにおい
3:楽に感知できるにおい
4:強いにおい
5:強烈なにおい
【0053】
[比較例5および6:肌シャツ防臭試験]
比較例5として塩化ベンザルコニウム10gのみ、比較例6として水10gのみを共通組成に加えた以外は実施例9〜15と同様にして試験し、その結果を下記「表4」に示した。
【0054】
【表4】

【0055】
前記「表4」に示した結果のように、カキ葉、セイヨウオトギリソウ、セイヨウサンザシ、ボダイジュ、ローズマリー、スイカズラ、スギナの各抽出物には、肌シャツの臭気を抑制する効果が認められた。
【0056】
更に、洗剤「トップ」(商品名、ライオン(株)製)を使用し、JIS L0217103法に準じ。前記評価用肌シャツを洗濯した。10回洗濯後の実施例9〜15の肌シャツに関し、上述と同様にして肌シャツ臭気判定試験を実施したところ、いずれの肌シャツの臭気強度も3.1以下であり、防臭効果が持続していた。
【0057】
[実施例16]
実施例9〜15で調製した方法に準じ、セイヨウオトギリソウ抽出物、ローズマリー抽出物、カキ葉抽出物をそれぞれ3gずつ添加した繊維防臭組成物を調製した。調整した繊維防臭組成物にレーヨン不織布を浸漬した後、脱水乾燥し、防臭繊維を調製した。この防臭繊維を用いて肌シャツを作製し、実施例9〜15と同様にして臭気強度を評価した結果、臭気強度は3.1以下であった。
【0058】
[実施例17]
前記実施例9〜15で調製した方法に準じ、セイヨウオトギリソウ抽出物、セイヨウサンザシ抽出物、ボダイジュ抽出物、スイカズラ抽出物、スギナ抽出物を各2gずつ添加した繊維防臭組成物を調製した。本繊維防臭組成物にナイロン繊維布を浸漬した後、脱水乾燥し、防臭繊維を調製した。この防臭繊維を用いて肌シャツを作製し、実施例9〜15と同様にして臭気強度を評価した結果、臭気強度は3.1以下であった。
【0059】
[実施例18:製品処方例]
[処方例1]
下記の方法にて、繊維防臭効果を有する衣料用柔軟仕上げ剤を調製した。アーカード2HT−75(ライオンアクゾ社製)15部、ポリエーテル変性シリコーンKF6016(信越化学工業社製)5部、塩化カルシウム(トクヤマ社製)0.3部、エチレングリコール(三菱化学社製)1部、C.I.Direct Blue 86(住友化学工業社製)0.001部、イソチアゾロン(ローム・アンド・ハース社製)0.0001部、特開2003−105668号公報記載の表8〜17記載の香料組成物C 0.5部、セイヨウオトギリソウ抽出物0.1部、セイヨウサンザシ抽出物0.1部、ローズマリー抽出物0.1部、スイカズラ抽出物0.1部、水残部からなる組成を特許第2628512号公報に記載されている方法に準じて調製した。このようにして調整した衣料用柔軟仕上げ剤を用い、衣料に対して繊維防臭処理を行なったところ、その衣料において防臭効果が認められた。
【0060】
[処方例2]
下記の方法にての繊維防臭効果を有する衣料用柔軟仕上げ剤を調製した。カチオン性界面活性剤(特開2003−12471号公報実施例1に記載のカチオン性界面活性剤)15部、ジメチルシリコーンBY22−050A(東レ・ダウコーニング社製)3部、塩化カルシウム(トクヤマ社製)0.3部、エチレングリコール(三菱化学社製)1部、C.I.Acid Red 138(日本化薬社製)0.001部、イソチアゾロン(ローム・アンド・ハース社製)0.0001部、特開2003−105668号公報記載の表8〜17記載の香料組成物A 0.5部、セイヨウオトギリソウ抽出物0.2部、セイヨウサンザシ抽出物0.1部、スイカズラ抽出物0.1部、水残部からなる組成を特許第2628512号公報に記載されている方法に準じて調製した。このようにして調整した衣料用柔軟仕上げ剤を用い、衣料に対して繊維防臭処理を行なったところ、その衣料において防臭効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明の繊維防臭剤は、ヒトの不快な体臭の有力成分である低級脂肪酸を抑制する、植物の抽出物を有効成分として含有する。従って、ヒトの不快な体臭を持続的に抑制する繊維防臭組成物の製造に適し、さらに防臭効果が付与された繊維または衣料の製造に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚常在菌による低級脂肪酸の生成を抑制する効果を有する植物抽出物を有効成分として含むことを特徴とする繊維防臭剤。
【請求項2】
前記植物抽出物の低級脂肪酸生成抑制率が、プロピオニバクテリウム アクネス(Propionibacterium acnes)を用いたカプロン酸生成系において、75〜100%であることを特徴とする請求項1に記載の繊維防臭剤。
【請求項3】
前記植物抽出物の供給源である植物が、カキ、セイヨウオトギリソウ、セイヨウサンザシ、ボダイジュ、ローズマリーから選ばれる少なくとも1種類の植物であることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維防臭剤。
【請求項4】
前記植物抽出物の低級脂肪酸生成抑制率が、コリネバクテリウム キセロシス(Corynebacterium xerosis)を用いたイソ吉草酸生成系において、90〜100%であることを特徴とする請求項1に記載の繊維防臭剤。
【請求項5】
前記植物抽出物の供給源である植物が、スイカズラ、セイヨウオトギリソウ、スギナから選ばれる少なくとも1種類の植物であることを特徴とする請求項1または4に記載の繊維防臭剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維防臭剤を含有することを特徴とする繊維防臭組成物。
【請求項7】
皮膚常在菌による低級脂肪酸の生成を抑制する効果を有する植物抽出物を用いた繊維防臭方法。
【請求項8】
前記植物抽出物を繊維に含浸させることによって、繊維に低級脂肪酸の生成を抑制する効果を付与することを特徴とする請求項7に記載の繊維防臭方法。