織布
【課題】抗菌効果を十分に確保しつつも、肌触りや見栄えの良さを高めることができる織布を提供する。
【解決手段】少なくとも銅を含む銅含有線2と可紡性繊維3とが撚り合わされて形成された混合糸1を用いて織られた織布10であって、前記銅含有線2の直径は、100μm以下とされ、前記銅含有線2が前記可紡性繊維3に対して巻き付けられる撚り回数は、2回/cm以上とされ、前記混合糸1の占有率が、50%以上であることを特徴とする。
【解決手段】少なくとも銅を含む銅含有線2と可紡性繊維3とが撚り合わされて形成された混合糸1を用いて織られた織布10であって、前記銅含有線2の直径は、100μm以下とされ、前記銅含有線2が前記可紡性繊維3に対して巻き付けられる撚り回数は、2回/cm以上とされ、前記混合糸1の占有率が、50%以上であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば病院のリネン品・衣料品等に用いて有効な抗菌性に優れた織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、天然繊維や合成繊維などの可紡性繊維に銅を含んでなる、抗菌性を有する織布が知られている(例えば、下記特許文献1〜4参照)。
近年では、例えば病院のシーツ、枕カバー、タオル等のリネン品や診察衣、患者衣等の衣料品などに、この種の抗菌性を有する織布が用いられることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−206987号公報
【特許文献2】特開昭61−71056号公報
【特許文献3】特開2004−149945号公報
【特許文献4】特開2006−124900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の織布においては、下記の問題があった。
すなわち、例えば病院等で用いられる織布に対しては、菌を迅速に殺菌することへの要望があるが、単に可紡性繊維に銅を含ませたものでは、未だ所望の抗菌効果が得られているとは言えなかった。
また、この種の織布に対しては、肌触りや見栄えの良さを高めることへの要望があるが、前述の抗菌効果を確保するために織布中の銅の含有量を増やした場合に、織布が硬くなったりシワが出やすくなったりして、要望に応えることができなかった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、抗菌効果を十分に確保しつつも、肌触りや見栄えの良さを高めることができる織布を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち本発明は、少なくとも銅を含む銅含有線と可紡性繊維とが撚り合わされて形成された混合糸を用いて織られた織布であって、前記銅含有線の直径は、100μm以下とされ、前記銅含有線が前記可紡性繊維に対して巻き付けられる撚り回数は、2回/cm以上とされ、前記混合糸の占有率が、50%以上であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る織布によれば、銅含有線と可紡性繊維とが撚り合わされて形成された混合糸を用いて、織布が織られている。よって、この織布を、例えばリネン品や衣料品等に用いた場合に、銅による抗菌効果が得られつつ、可紡性繊維により弾性が付与され織布のごわつき等が抑えられるとともに、快適性を確保することができる。
【0008】
詳しくは、銅含有線の直径が100μm以下とされていることにより、混合糸に伸縮性をもたせることができ、一般の織機を用いて該混合糸を容易に織ることができる。また、この混合糸を織成してなる織布に所望の弾性を付与することができる。従って、織布の製造が容易であるとともに、該織布に肌触りや見栄えの良さを確保することができる。
【0009】
また、銅含有線が可紡性繊維に対して巻き付けられる撚り回数が2回/cm以上とされているので、該銅含有線の隣り合う露出部分同士の間隔が小さくされているとともに、露出面積が確保されて、菌に接触しやすくなっている。従って、織布に付着した菌をより迅速に殺菌することができる。
【0010】
そして、混合糸の占有率が、50%以上であることから、前述の抗菌効果を十分に確保することができる。すなわち、例えば、混合糸の占有率が50%未満とされた場合には、銅含有線の配置が粗雑になったり菌に対する銅の分量が足りなくなったりして、抗菌効果が十分に得られないことがある。一方、本発明によれば、銅含有線同士を互いに密に配置できるとともに、菌に対する銅の分量が確保されて、抗菌効果が向上する。
【0011】
また、本発明に係る織布において、隣り合う前記混合糸同士のピッチが、5mm以下であることとしてもよい。
【0012】
この場合、混合糸同士が密に配置されるとともに、これらの銅含有線同士の隙間が小さくなるので、菌の逃げ場が少なくなり、菌をより迅速に殺菌でき、抗菌効果が高められることになる。すなわち、例えば、隣り合う混合糸同士のピッチが5mmを超えて設定された場合には、混合糸同士の間に菌の逃げ場が形成されて、殺菌までに時間を要することがある。
尚、隣り合う混合糸同士のピッチは、1mm以下であることがより好ましい。
【0013】
また、本発明に係る織布において、前記銅含有線は、直線状に延びる前記可紡性繊維に対して、螺旋状に巻き付けられていることとしてもよい。
【0014】
この場合、織布が伸縮しやすくなり、かつ、この伸縮によって銅含有線が切れるようなことも防止されるので、織布の肌触りの良さや快適性が長期に亘り安定して高められる。
【0015】
また、本発明に係る織布において、布面から突出して面方向に沿う紋線が、互いに異なる向きに延在して複数形成され、前記紋線の長さが、3mm未満であることとしてもよい。
【0016】
この場合、紋線が互いに異なる向きに延在して複数形成されているので、菌の逃げる方向に規則性がなくなり、殺菌までの時間が短縮される。さらに、これら紋線の長さが3mm未満と短く設定されているので、菌が紋線に沿う凹溝等に沿って逃げにくくなり、抗菌効果がより高められている。すなわち、例えば、紋線の長さが3mm以上である場合には、これにともない紋線に沿う凹溝等の長さも長くなるので、菌がこの凹溝等に沿って逃げやすくなり、殺菌までに時間を要することがある。
【0017】
また、本発明に係る織布において、梨地織りにより織成されたこととしてもよい。
【0018】
この場合、前述した形状の紋線を簡便かつ確実に形成できる。従って、この織布は、高い抗菌効果が得られるとともに、製造が容易である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る織布によれば、抗菌効果を十分に確保しつつも、肌触りや見栄えの良さを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る織布において、(a)織布を構成する混合糸を示す拡大図、(b)混合糸を織成してなる織布を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る織布に用いられる混合糸の他の例を示す図である。
【図3】本発明に係る織布に用いられる混合糸の他の例を示す図である。
【図4】本発明に係る織布の他の例を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る織布を、(a)平織りで織成した状態を示す組織図、(b)綾織りで織成した状態を示す組織図である。
【図6】本発明に係る織布を、梨地織りで織成した状態を示す組織図である。
【図7】本発明に係る織布を、図6に示す梨地織り以外の梨地織りで織成した例を示す組織図である。
【図8】本発明に係る織布を、図6及び図7に示す梨地織り以外の梨地織りで織成した例を示す組織図である。
【図9】抗菌効果確認試験Aの結果を示す(a)グラフ、(b)表である。
【図10】抗菌効果確認試験Aの結果を示す(a)グラフ、(b)表である。
【図11】抗菌効果確認試験Bの結果を示す(a)グラフ、(b)表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。
本実施形態に係る織布10は、例えば病院のシーツ、枕カバー、タオル等のリネン品や診察衣、患者衣等の衣料品などに用いられるものである。
図1(a)(b)に示すように、この織布10は、少なくとも銅を含む銅含有線2と、天然繊維又は/及び合成繊維(化紡糸線)からなる可紡性繊維3とが撚り合わされて形成された混合糸1を用いて織られている。尚、以下の説明においては、繊維(線)同士を撚り合って糸とすることを「交撚する」、糸同士を織って織布とすることを「交織する」と言う場合がある。
【0022】
図1(a)において、混合糸1は、銅含有線2として純銅線を用いており、可紡性繊維3としてナイロン繊維の束(以下「ナイロン繊維」と省略)を用いている。詳しくは、純銅線2は、ナイロン繊維3を中心に該ナイロン繊維3回りにZ撚り(図1に符号2aで示すもの)及びS撚り(図1に符号2bで示すもの)されており(カバーリング)、これにより、純銅線2とナイロン繊維3とが交撚されてなる混合糸1が形成されている。
【0023】
ここで、純銅線2は、Z撚り2a及びS撚り2bのいずれか一方のみであっても構わないが、ナイロン繊維3の撚り線(束)の巻き方向に対して、純銅線2が解撚方向(逆方向)に巻かれている(撚られている)場合に、織布10がやわらかな肌触りとなるのでより好ましい。図示の例では、純銅線2は、直線状に延びるナイロン繊維3に対して、該ナイロン繊維3の外周面上に沿うように螺旋状に巻き付けられている。また、純銅線2としては、Z撚り2a及びS撚り2bのものが各1本ずつ配設されている。
なお、Z撚り及びS撚りのいずれか一方のみを銅含有線2とした構成であってもよい。この場合、Z撚り及びS撚りの他方は、特に限定されないが、例えば、銅以外の金属を含む金属線や合金線、可紡性繊維などであってもよい。
【0024】
純銅線2は、軟銅線からなり、その直径が8μm〜100μmの範囲内に設定されている。好ましくは、純銅線2の直径は、8μm〜50μmの範囲内に設定され、より望ましくは、8μm〜30μmの範囲内に設定される。
また、純銅線2がナイロン繊維3に対して巻き付けられる撚り回数は、2回/cm以上とされる。また好ましくは、前記撚り回数の上限は、15回/cm以下とされる。
【0025】
図1(b)に示されるものは、前述の混合糸1を縦糸(経糸)及び横糸(緯糸)に用いて、織機で交織した織布10である。図示の例では、混合糸1を平織りして織布10としている。織布10において隣り合う混合糸1同士(縦糸同士又は横糸同士)のピッチは、5mm以下とされている。尚、図1(b)においては、混合糸1の織成形態(組織)を説明するために、並行して隣り合う混合糸1同士の間に大きく隙間をあけて示しているが、実際には、織成後は前記隙間が略ゼロ〜混合糸1の直径程度となることから、本実施形態のように縦糸及び横糸のすべてに混合糸1を用いた場合、前記ピッチは縦横ともに該混合糸1の直径の1〜2倍程度とされる。
また、織布10における縦糸と横糸の比率は、0.8〜1.2:1の範囲内に設定されている。
【0026】
また、織布10において、混合糸1の全体に占める割合(占有率)は、50%以上とされている。尚、ここで言う混合糸1の占有率とは、織布10の織成に用いられた糸の全体積に対して混合糸1が占める体積の割合であり、例えば、織布10にすべて同一線径の糸を用いた場合には、これら糸全数に対して混合糸1が占める本数の割合が50%以上とされる。本実施形態の場合、混合糸1が、織布10の縦糸及び横糸のすべてに用いられているので、該混合糸1の占有率は略100%となっている。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係る織布10によれば、銅含有線である純銅線2と可紡性繊維であるナイロン繊維3とが撚り合わされて形成された混合糸1を用いて織成されている。よって、この織布10を、例えばリネン品や衣料品等に用いた場合に、銅による抗菌効果が得られつつ、可紡性繊維により弾性が付与されて織布10のごわつき等が抑えられるとともに、快適性を確保することができる。
尚、殺菌対象の菌としては、例えば、メチシリン耐性の黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌、緑膿菌、バシラス属に属する菌、その他細菌等が挙げられる。
【0028】
また、純銅線2の直径が100μm以下とされていることにより、混合糸1に伸縮性をもたせることができ、一般の織機を用いて該混合糸1を容易に織ることができる。また、この混合糸1を織成してなる織布10に所望の弾性を付与することができる。従って、織布10の製造が容易であるとともに、該織布10に肌触りや見栄えの良さを確保することができる。詳しくは、純銅線2の直径が100μmを超えて設定された場合には、一般の織機を用いて混合糸を織ることが難しくなり、また、作製された織布がごわついて快適性が確保できなくなる。またこの場合、織布に折り目(シワ)がつくと復元しにくくなる。
【0029】
また、純銅線2の直径が8μm以上とされていることにより、該純銅線2を簡便に製造できるとともに強度が確保される。すなわち、例えば、純銅線2の直径が8μm未満に設定された場合には、直径が小さいため技術的に製造が難しくなり、また混合糸1及び織布10の製造時や作製された織布10の使用時において、純銅線2が切断する虞がある。
【0030】
ここで、純銅線2の直径が8μm〜50μmの範囲内に設定された場合には、前述の効果とともに、下記の効果を奏する。すなわち、例えば、織布10を折り曲げて使用した場合であっても、純銅線2の塑性変形でシワが取れにくくなるようなことが防止される。詳しくは、純銅線2の直径が50μmを超えて設定された場合には、織布10を折り曲げて使用した際に、アイロン等を用いてシワを伸ばしきれなくなる(シワが取れにくくなる)虞がある。
【0031】
さらに、純銅線2の直径が8μm〜30μmの範囲内に設定された場合には、前述の効果とともに、下記の効果を奏する。すなわち、織布10に十分な弾性が付与されることとなり、該織布10を折り曲げて使用しても、シワがつきにくくなる。また、織布10がシワになった場合であっても、該シワをアイロン等により容易に取り除くことができる。また、織布10の柔軟性が確保されることから肌触りの良さが向上し、快適性が十分に高められる。詳しくは、純銅線2の直径が30μmを超えて設定された場合には、織布10の柔軟性が十分に確保できない虞がある。
【0032】
また、純銅線2が軟銅線からなるので、例えばハード線を用いた場合に比較して、混合糸1及び織布10の製造時や作製された織布10の使用時において、純銅線2がより切断しにくくなっている。また、織布10の肌触りが柔らかくなり、快適性が確保される。
【0033】
また、純銅線2がナイロン繊維3に対して巻き付けられる撚り回数は、0.5回/cm以上であれば製造上特に問題はないが、本実施形態のように、前記撚り回数が2回/cm以上とされていることにより、下記の効果を奏する。すなわち、ナイロン繊維3に巻き付いた1本の純銅線2において織布10の布面10a上で隣り合う露出部分同士の間隔が小さくされているとともに、混合糸1の単位長さあたりの純銅線2の露出面積が確保されて、菌に接触しやすくなる。これにより、織布10に付着した菌をより迅速に殺菌することができる。
尚、前記撚り回数が2回/cm未満に設定された場合には、銅の抗菌効果が十分に得られずに、殺菌までに時間を要することがある。
【0034】
また、前記撚り回数の上限としては、15回/cm以下が好ましい。これにより、銅の抗菌効果が十分に高められつつも、製造コストを削減でき、純銅線2の意図しない切断を防止して快適性を確保できる。すなわち、前記撚り回数が15回/cmを超えて設定された場合には、製造コストが嵩むこととなり、また、織布10の柔軟性が損なわれる虞がある。また、織布10の製造時や使用時において純銅線2に外力が加えられやすくなるとともに、該純銅線2が切断されやすくなる。純銅線2が切断されると、切れた純銅線2の端部が布面10aから突出して、織布10を使用する者の皮膚を刺激するとともに、不快感を与えることがある。
【0035】
そして、この織布10は、混合糸1の占有率が50%以上であることから、前述の抗菌効果を十分に確保することができる。すなわち、例えば、混合糸1の占有率が50%未満とされた場合には、純銅線2の配置が粗雑になったり菌に対する銅の分量が足りなくなったりして、抗菌効果が十分に得られないことがある。一方、本実施形態によれば、純銅線2同士を互いに密に配置できるとともに、菌に対する銅の分量が確保されて、抗菌効果が向上する。
【0036】
また、織布10において隣り合う混合糸1同士のピッチが5mm以下であるので、下記の効果を奏する。すなわち、混合糸1同士が密に配置されるとともに、これらの純銅線2同士の隙間が小さくなるので、菌の逃げ場が少なくなり、菌をより迅速に殺菌でき、抗菌効果が高められることになる。すなわち、例えば、隣り合う混合糸1同士のピッチが5mmを超えて設定された場合には、混合糸1同士の間に菌の逃げ場が形成されて、殺菌までに時間を要することがある。
尚、隣り合う混合糸1同士のピッチは、1mm以下であることがより好ましい。この場合、菌の逃げ場がより少なくなるとともに、混合糸1の純銅線2が菌に確実に接触して、殺菌に要する時間が大幅に短縮される。
【0037】
また、混合糸1は、直線状に延びるナイロン繊維3に対して、純銅線2が螺旋状に巻き付けられて形成されているので、該混合糸1で織成された織布10は伸縮しやすくなり、かつ、この伸縮によって純銅線2が切れるようなことも防止される。従って、織布10の肌触りの良さや快適性が長期に亘り安定して確保されることになる。
【0038】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
例えば、前述の実施形態では、混合糸1の銅含有線2として純銅線を用い、可紡性繊維3としてナイロン繊維を用いることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、銅含有線2は少なくとも銅を含んでいればよく、純銅以外の銅合金、銅アニール(酸化銅)、銅に他の金属をメッキしたもの等を用いてもよい。また、可紡性繊維3として、綿等の天然繊維やナイロン繊維以外のポリエステル繊維等からなる合成繊維を用いてもよい。
【0039】
また、前述の実施形態では、混合糸1は、直線状に延びるナイロン繊維3に対して、純銅線2が該ナイロン繊維3の外周面上に沿うように螺旋状に巻き付けられているとしたが、これに限定されるものではない。
図2及び図3は、本発明の織布10に用いられる混合糸1の他の例を示している。
図2に示す例では、直線状に延びる可紡性繊維3に対して、銅含有線2が該可紡性繊維3の外周面との間に隙間をあけて周回するように、螺旋状に巻き付けられている。この場合、混合糸1の伸縮性をより高めることができ、織布10の柔軟性が向上する。
【0040】
図2のような混合糸1を作製するには、例えば、まず、可紡性繊維3としてポリエステルからなるFTY(フィラメント・ツイステッド・ヤーン)の束を用い、このポリエステル製FTY3に水溶性ビニロン繊維(不図示)の束を沿わせた状態で、これらを中心として銅含有線2である純銅線を螺旋状に巻き付ける。
次いで、ポリエステル製FTY3、水溶性ビニロン繊維及び純銅線2からなる中間体を60℃程度の温水に浸して、水溶性ビニロン繊維のみを溶解させる。
これにより、ポリエステル製FTY3の外周面と純銅線2との間に隙間が形成されてなる混合糸1が作製される。
【0041】
また、図3に示す例では、混合糸1は、銅含有線2としての純銅線と、可紡性繊維3としてのポリエステル製FTYとが、略同一直径とされ螺旋状にそれぞれ延びているとともに、互いの外周面同士の間に隙間をあけるように撚り合わされて形成されている。この場合、混合糸1にさらなる柔軟性を付与することができる。
【0042】
図3のような混合糸1を作製するには、前述した水溶性ビニロン繊維を用いればよい。すなわち、水溶性ビニロン繊維を中心として純銅線2及び可紡性繊維3を螺旋状に巻き付けた後、前述のように該水溶性ビニロン繊維のみを溶解させることにより、図3に示される混合糸1が容易に作製可能である。
尚、前述のように純銅線2とポリエステル製FTY3との間に隙間をあけずに、互いの外周面同士を当接させた状態で、公知の撚り糸のように螺旋状に撚り合わせてもよい。この場合、水溶性ビニロン繊維は不要である。
【0043】
また、前述の実施形態では、混合糸1の銅含有線2として、Z撚り2aのもの及びS撚り2bのものが各1本ずつ配設されているとしたが、これに限定されるものではなく、Z撚り2aのもの及びS撚り2bのものが、それぞれ複数本ずつ配設されていてもよい。また、可紡性繊維3の形状や本数についても、前述の実施形態に限定されるものではない。
すなわち、混合糸1は、銅含有線2と可紡性繊維3とが撚り合わされて形成されていればよく、その形態や使用本数は限定されない。
【0044】
また、前述の実施形態では、織布10は、縦糸及び横糸のすべてに混合糸1を用いて織成されているとしたが、これに限定されるものではない。
図4に示される本発明の織布20は、混合糸1と綿糸(可紡性繊維)21とを織成して形成されている。綿糸21は、綿繊維の撚り線(束)からなり、図示の例では、縦糸及び横糸のそれぞれに、混合糸1と綿糸21とが交互に配列されている。この場合、織布20の抗菌性を確保しつつも、柔軟性や肌触りを高めることができる。尚、可紡性繊維21として、綿糸の代わりに合成繊維(の束)等を用いてもよい。また、混合糸1と綿糸21とが交互に配列されていなくてもよい。すなわち、織布20における混合糸1の使用本数と綿糸21の使用本数との比は、1:1に限定されるものではない。また、例えば、縦糸(横糸)のすべてに混合糸1を用い、横糸(縦糸)のすべてに綿糸21を用いて、これら混合糸1と綿糸21とを交織することにより織布20が形成されていてもよい。
【0045】
また、混合糸1を撚り合わせる前に、銅含有線2、可紡性繊維3及び銅以外の金属含有線4のいずれか1つ以上に対して、銅を含有する短繊維を付着させた後、これらを撚り合わせることとしてもよい。尚、前記短繊維としては、例えば直径が8μm〜100μm、長さが30mm〜150mmのものを用いることが好ましい。
【0046】
また、織布10、20は、平織りにより織成されているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、織布10、20は、例えば平織り以外の綾織り、朱子織り、梨地織り(アムンゼン)等により織成されていてもよい。
ここで、図5(a)(b)及び図6に示すものは、それぞれ平織り、綾織り、梨地織りの組織図(縦糸と横糸の織り方を表す図)である。図5(a)に示す平織りでは、織布10、20の布面10a、20aから突出して面方向に沿う紋線11が、縦糸及び横糸に対して傾斜する向き(図において2点鎖線で示される、右上から左下へ向かう方向及び左上から右下へ向かう方向)に沿って複数形成されている。また、図5(b)に示す綾織りでは、紋線11が、縦糸及び横糸に対して傾斜する向きのうち一方向(図において2点鎖線で示される、右上から左下へ向かう方向)に沿って複数形成されている。また、図6に示す梨地織りでは、紋線11は、互いに異なる向きに延在して複数形成されており、それぞれの紋線11の長さは、3mm未満と短く設定されている。
【0047】
図6のように、紋線11が互いに異なる向きに延在して複数形成されていることにより、菌の逃げる方向に規則性がなくなり、殺菌までの時間が短縮される。さらに、これら紋線11の長さが3mm未満と短く設定されていることにより、菌が紋線11に沿う凹溝等に沿って逃げにくくなり、抗菌効果がより高められる。すなわち、例えば、紋線の長さが3mm以上である場合には、これにともない紋線に沿う凹溝等の長さも長くなるので、菌がこの凹溝等に沿って逃げやすくなり、殺菌までに時間を要することがある。
また、このような紋線11は、織布10、20を梨地織りにより織成することで、簡便かつ確実に形成できる。従って、梨地織りで織られた織布10、20は、高い抗菌効果が得られるとともに、製造が容易である。
【0048】
尚、織布10、20が梨地織りにより織成される場合、その織り方(組織)は図6で説明したものに限定されない。ここで、図7(a)(b)及び図8に示される組織図は、前述した図6の梨地織り以外の梨地織りの例であり、図7(a)は8枚朱子を基礎としたもの、図7(b)は1/3破斜紋と6枚朱子を組み合わせたもの、図8は花崗朱子に似た構成のものである。これら図7(a)(b)及び図8に示される各梨地織りにおいても、紋線11が互いに異なる向きに延在して複数形成され、紋線11の長さが3mm未満とされていて、前述同様の効果を奏する。また、前述した図6、図7(a)(b)及び図8以外の、公知の梨地織りの構成を用いてもよい。
【0049】
尚、紋線11が表れないように織布10、20を織成してもよい。また、例えば、シワ模様を強調(楊柳織りシワ加工)することで、織布10、20の清涼感を高めることが可能である。
【0050】
また、織布10、20が、2重織り、3重織り、4重織り等の多重織りとされていてもよい。この場合、織布10、20の表面には使用者が触れることから、可紡性繊維3、21の占有率を大きく設定することにより、肌触りの良さを高めることが好ましい。また、織布10、20の裏面には使用者が触れないので、前記表面ほど肌触りの良さは要求されない。従って、混合糸1の占有率を高めることにより、抗菌効果を向上させることが好ましい。
【0051】
また、前述の実施形態では、織布10、20が、病院のシーツ、枕カバー、タオル等のリネン品や診察衣、患者衣等の衣料品などに用いられることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、織布10、20は、例えば、家庭用、工業用等の一般的な種々の布製品として用いられてもよい。
【0052】
その他、本発明の前述の実施形態及び他の例の構成要素を、適宜組み合わせても構わない。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前述の構成要素を周知の構成要素に置き換えることも可能である。
前述の実施形態において、銅含有線2として純銅線を用い、可紡性繊維3としてナイロン繊維の束(以下「ナイロン繊維」と省略)を用いた混合糸1を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、銅含有線2として純銅線を用い、可紡性繊維3として備長炭繊維(例えば直径80μm)を用いてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0054】
[抗菌効果確認試験A]
[実施例1]
本発明の実施例1として、図1(a)に示される混合糸1を用いて、図1(b)に示される織布10を作製した。
詳しくは、銅含有線2として純銅線(直径50μm)を用い、可紡性繊維3として水溶性ビニロン繊維(100デニール、直径91μm)とナイロンモノフィラメント(300デニール、直径80μm)を束にした糸を用いて、直線状の可紡性繊維3の外周面上に沿って銅含有線2を螺旋状に周回させるようにZ撚り2a及びS撚り2bし、湯洗によって水溶性ビニロン繊維を溶解して、混合糸1を形成した。尚、可紡性繊維3に対して、Z撚り2aの銅含有線2及びS撚り2bの銅含有線2を巻き付ける撚り回数は、それぞれ6回/cmとした。この混合糸1は、純銅線2が62wt%、可紡性繊維3が38wt%となっていた。
そして、このように形成された混合糸1を、縦糸及び横糸のすべてに用いて平織りすることにより、混合糸1の占有率が100%である織布10を作製した。尚、縦糸として隣り合う混合糸1同士のピッチ、及び、横糸として隣り合う混合糸1同士のピッチは、それぞれ0.15mmとした。
【0055】
そして、この織布10を用いて、JIS Z 2801に基づいて抗菌性試験を行い、抗菌効果を確認した。尚、前記JIS Z 2801では、「抗菌加工製品の抗菌効果は、製品上の24時間後の試験菌の生菌数が無加工製品上の生菌数の1%以下(抗菌活性値2.0以上)となることと定義」しているが、本発明の実施例においては、一般の抗菌加工製品よりも高い抗菌効果が得られることから、測定時間を下記のように設定した。すなわち、試験開始から0分、30分、60分、90分、180分経過後のバクテリア(黄色ブドウ球菌)数を測定して、抗菌効果を確認することとした。尚、実施例1の確認試験は、異なる日に2回行った。結果を図9(a)(b)及び図10(a)(b)に示す。
【0056】
[実施例2]
また、実施例2として、混合糸1及び可紡性繊維21を縦糸及び横糸に用いて、混合糸1の占有率が50%である織布20を作製した(図4参照)。尚、可紡性繊維21としては、綿糸(直径80μm)を用いた。また、縦糸として隣り合う混合糸1同士のピッチ、及び、横糸として隣り合う混合糸1同士のピッチは、それぞれ0.5mmとした。それ以外は実施例1と同じ条件として、確認試験を1回行った。結果を図9(a)(b)に示す。
【0057】
[実施例3]
また、実施例3として、混合糸1の占有率が66%である織布20を作製した。尚、縦糸として隣り合う混合糸1同士のピッチ、及び、横糸として隣り合う混合糸1同士のピッチは、それぞれ0.5mmとした。それ以外は実施例2と同じ条件として、確認試験を1回行った。結果を図10(a)(b)に示す。
【0058】
[比較例1]
一方、比較例1として、混合糸1の占有率が30%である織布を作製した。尚、縦糸として隣り合う混合糸1同士のピッチ、及び、横糸として隣り合う混合糸1同士のピッチは、それぞれ1mmとした。それ以外は実施例2と同じ条件として、確認試験を1回行った。結果を図9(a)(b)に示す。
【0059】
[比較例2]
また、比較例2として、混合糸1の占有率が3%である織布を作製した。尚、縦糸として隣り合う混合糸1同士のピッチ、及び、横糸として隣り合う混合糸1同士のピッチは、それぞれ5.5mmとした。それ以外は実施例2と同じ条件として、確認試験を1回行った。結果を図9(a)(b)に示す。
【0060】
[比較例3]
また、比較例3として、可紡性繊維21である30/2の綿糸(直径96μm)を、縦糸及び横糸のすべてに用いて平織りすることにより、織布を作製した(すなわち、前記混合糸1の占有率は0%)。そして、実施例1と同じ試験条件、測定方法で、抗菌効果確認を1回行った。結果を図9(a)(b)に示す。
【0061】
[比較例4]
また、比較例4として、シャーレに織布を入れずに、実施例1と同じ試験条件、測定方法で、抗菌効果確認を2回行った。結果を図9(a)(b)及び図10(a)(b)に示す。
【0062】
[評価]
図9及び図10に示す通り、織布10、20における混合糸1の占有率が、50%以上である実施例1〜3については、バクテリア数が0となるまでに180分を要するのみであり、良好な抗菌効果が得られることがわかった。特に、前記混合糸1の占有率が100%である実施例1については、バクテリア数が0となるまでに僅か90分を要するのみであり、優れた抗菌効果を奏することが確認された。
【0063】
一方、前記混合糸1の占有率が30%である比較例1においては、前記JIS Z 2801に規定される程度の抗菌効果は認められるものの、180分経過後においてもバクテリア数が600cfu/4cm2に及び、迅速な抗菌効果が得られなかった。また、前記混合糸1の占有率が3%で混合糸1同士のピッチが5mmを超える比較例2、及び、混合糸1を含まない比較例3、4については、180分経過時点での抗菌効果は殆んど認められなかった。
【0064】
[抗菌効果確認試験B]
[実施例4]
次に、実施例4として、混合糸1(純銅線2:直径50μm、可紡性繊維3:水溶性ビニロン繊維(100デニール、直径91μm)、撚り回数:6回/cm)同士を、平織りにより交織してなる織布10を用意した。すなわち、この織布10における混合糸1の占有率は100%である。そして、前記織布10を用いて、JIS Z 2801に基づいて抗菌性試験を行い、抗菌効果を確認した。尚、測定時間については、試験開始から0分、30分、60分、90分経過後のバクテリア数を測定して、抗菌効果を確認することとした。結果を図11(a)(b)に示す。
【0065】
[実施例5]
また、実施例5として、混合糸1(実施例4と同様のもの)同士を、梨地織り(アムンゼン)により交織してなる織布10を用意した。尚、織布10の外面には紋線11が互いに異なる向きに延在して複数形成され(図6参照)、それぞれの紋線11の長さは3mm未満に設定された。それ以外は実施例4と同じ条件として、確認試験を行った。
【0066】
[比較例5]
また、比較例5として、シャーレに中間体を入れずに、実施例4と同じ試験条件、測定方法で、殺菌確認を行った。
【0067】
[評価]
図11に示す通り、混合糸1同士を平織りしてなる織布10(実施例4)に対して、混合糸1同士を梨地織りしてなる織布10(実施例5)の抗菌効果が高められていることがわかった(図11における実施例4、5の30分経過時のバクテリア数を参照)。これは、実施例5においては、織布10の紋線11が、互いに異なる向きに延在して複数形成されていることから、紋線11に沿う凹溝等の形状が複雑となるとともに、バクテリアの逃げる方向に規則性がなくなり、殺菌までの時間が短縮されたものであり、さらに、これら紋線11の長さが3mm未満と短く設定されているので、菌が紋線11に沿う凹溝等に沿って逃げにくくなり、抗菌効果がより高められたものである。
【符号の説明】
【0068】
1 混合糸
2 純銅線(銅含有線)
3 ナイロン繊維(可紡性繊維)
10、20 織布
10a、20a 布面
11 紋線
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば病院のリネン品・衣料品等に用いて有効な抗菌性に優れた織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、天然繊維や合成繊維などの可紡性繊維に銅を含んでなる、抗菌性を有する織布が知られている(例えば、下記特許文献1〜4参照)。
近年では、例えば病院のシーツ、枕カバー、タオル等のリネン品や診察衣、患者衣等の衣料品などに、この種の抗菌性を有する織布が用いられることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−206987号公報
【特許文献2】特開昭61−71056号公報
【特許文献3】特開2004−149945号公報
【特許文献4】特開2006−124900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の織布においては、下記の問題があった。
すなわち、例えば病院等で用いられる織布に対しては、菌を迅速に殺菌することへの要望があるが、単に可紡性繊維に銅を含ませたものでは、未だ所望の抗菌効果が得られているとは言えなかった。
また、この種の織布に対しては、肌触りや見栄えの良さを高めることへの要望があるが、前述の抗菌効果を確保するために織布中の銅の含有量を増やした場合に、織布が硬くなったりシワが出やすくなったりして、要望に応えることができなかった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、抗菌効果を十分に確保しつつも、肌触りや見栄えの良さを高めることができる織布を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち本発明は、少なくとも銅を含む銅含有線と可紡性繊維とが撚り合わされて形成された混合糸を用いて織られた織布であって、前記銅含有線の直径は、100μm以下とされ、前記銅含有線が前記可紡性繊維に対して巻き付けられる撚り回数は、2回/cm以上とされ、前記混合糸の占有率が、50%以上であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る織布によれば、銅含有線と可紡性繊維とが撚り合わされて形成された混合糸を用いて、織布が織られている。よって、この織布を、例えばリネン品や衣料品等に用いた場合に、銅による抗菌効果が得られつつ、可紡性繊維により弾性が付与され織布のごわつき等が抑えられるとともに、快適性を確保することができる。
【0008】
詳しくは、銅含有線の直径が100μm以下とされていることにより、混合糸に伸縮性をもたせることができ、一般の織機を用いて該混合糸を容易に織ることができる。また、この混合糸を織成してなる織布に所望の弾性を付与することができる。従って、織布の製造が容易であるとともに、該織布に肌触りや見栄えの良さを確保することができる。
【0009】
また、銅含有線が可紡性繊維に対して巻き付けられる撚り回数が2回/cm以上とされているので、該銅含有線の隣り合う露出部分同士の間隔が小さくされているとともに、露出面積が確保されて、菌に接触しやすくなっている。従って、織布に付着した菌をより迅速に殺菌することができる。
【0010】
そして、混合糸の占有率が、50%以上であることから、前述の抗菌効果を十分に確保することができる。すなわち、例えば、混合糸の占有率が50%未満とされた場合には、銅含有線の配置が粗雑になったり菌に対する銅の分量が足りなくなったりして、抗菌効果が十分に得られないことがある。一方、本発明によれば、銅含有線同士を互いに密に配置できるとともに、菌に対する銅の分量が確保されて、抗菌効果が向上する。
【0011】
また、本発明に係る織布において、隣り合う前記混合糸同士のピッチが、5mm以下であることとしてもよい。
【0012】
この場合、混合糸同士が密に配置されるとともに、これらの銅含有線同士の隙間が小さくなるので、菌の逃げ場が少なくなり、菌をより迅速に殺菌でき、抗菌効果が高められることになる。すなわち、例えば、隣り合う混合糸同士のピッチが5mmを超えて設定された場合には、混合糸同士の間に菌の逃げ場が形成されて、殺菌までに時間を要することがある。
尚、隣り合う混合糸同士のピッチは、1mm以下であることがより好ましい。
【0013】
また、本発明に係る織布において、前記銅含有線は、直線状に延びる前記可紡性繊維に対して、螺旋状に巻き付けられていることとしてもよい。
【0014】
この場合、織布が伸縮しやすくなり、かつ、この伸縮によって銅含有線が切れるようなことも防止されるので、織布の肌触りの良さや快適性が長期に亘り安定して高められる。
【0015】
また、本発明に係る織布において、布面から突出して面方向に沿う紋線が、互いに異なる向きに延在して複数形成され、前記紋線の長さが、3mm未満であることとしてもよい。
【0016】
この場合、紋線が互いに異なる向きに延在して複数形成されているので、菌の逃げる方向に規則性がなくなり、殺菌までの時間が短縮される。さらに、これら紋線の長さが3mm未満と短く設定されているので、菌が紋線に沿う凹溝等に沿って逃げにくくなり、抗菌効果がより高められている。すなわち、例えば、紋線の長さが3mm以上である場合には、これにともない紋線に沿う凹溝等の長さも長くなるので、菌がこの凹溝等に沿って逃げやすくなり、殺菌までに時間を要することがある。
【0017】
また、本発明に係る織布において、梨地織りにより織成されたこととしてもよい。
【0018】
この場合、前述した形状の紋線を簡便かつ確実に形成できる。従って、この織布は、高い抗菌効果が得られるとともに、製造が容易である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る織布によれば、抗菌効果を十分に確保しつつも、肌触りや見栄えの良さを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る織布において、(a)織布を構成する混合糸を示す拡大図、(b)混合糸を織成してなる織布を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る織布に用いられる混合糸の他の例を示す図である。
【図3】本発明に係る織布に用いられる混合糸の他の例を示す図である。
【図4】本発明に係る織布の他の例を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る織布を、(a)平織りで織成した状態を示す組織図、(b)綾織りで織成した状態を示す組織図である。
【図6】本発明に係る織布を、梨地織りで織成した状態を示す組織図である。
【図7】本発明に係る織布を、図6に示す梨地織り以外の梨地織りで織成した例を示す組織図である。
【図8】本発明に係る織布を、図6及び図7に示す梨地織り以外の梨地織りで織成した例を示す組織図である。
【図9】抗菌効果確認試験Aの結果を示す(a)グラフ、(b)表である。
【図10】抗菌効果確認試験Aの結果を示す(a)グラフ、(b)表である。
【図11】抗菌効果確認試験Bの結果を示す(a)グラフ、(b)表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。
本実施形態に係る織布10は、例えば病院のシーツ、枕カバー、タオル等のリネン品や診察衣、患者衣等の衣料品などに用いられるものである。
図1(a)(b)に示すように、この織布10は、少なくとも銅を含む銅含有線2と、天然繊維又は/及び合成繊維(化紡糸線)からなる可紡性繊維3とが撚り合わされて形成された混合糸1を用いて織られている。尚、以下の説明においては、繊維(線)同士を撚り合って糸とすることを「交撚する」、糸同士を織って織布とすることを「交織する」と言う場合がある。
【0022】
図1(a)において、混合糸1は、銅含有線2として純銅線を用いており、可紡性繊維3としてナイロン繊維の束(以下「ナイロン繊維」と省略)を用いている。詳しくは、純銅線2は、ナイロン繊維3を中心に該ナイロン繊維3回りにZ撚り(図1に符号2aで示すもの)及びS撚り(図1に符号2bで示すもの)されており(カバーリング)、これにより、純銅線2とナイロン繊維3とが交撚されてなる混合糸1が形成されている。
【0023】
ここで、純銅線2は、Z撚り2a及びS撚り2bのいずれか一方のみであっても構わないが、ナイロン繊維3の撚り線(束)の巻き方向に対して、純銅線2が解撚方向(逆方向)に巻かれている(撚られている)場合に、織布10がやわらかな肌触りとなるのでより好ましい。図示の例では、純銅線2は、直線状に延びるナイロン繊維3に対して、該ナイロン繊維3の外周面上に沿うように螺旋状に巻き付けられている。また、純銅線2としては、Z撚り2a及びS撚り2bのものが各1本ずつ配設されている。
なお、Z撚り及びS撚りのいずれか一方のみを銅含有線2とした構成であってもよい。この場合、Z撚り及びS撚りの他方は、特に限定されないが、例えば、銅以外の金属を含む金属線や合金線、可紡性繊維などであってもよい。
【0024】
純銅線2は、軟銅線からなり、その直径が8μm〜100μmの範囲内に設定されている。好ましくは、純銅線2の直径は、8μm〜50μmの範囲内に設定され、より望ましくは、8μm〜30μmの範囲内に設定される。
また、純銅線2がナイロン繊維3に対して巻き付けられる撚り回数は、2回/cm以上とされる。また好ましくは、前記撚り回数の上限は、15回/cm以下とされる。
【0025】
図1(b)に示されるものは、前述の混合糸1を縦糸(経糸)及び横糸(緯糸)に用いて、織機で交織した織布10である。図示の例では、混合糸1を平織りして織布10としている。織布10において隣り合う混合糸1同士(縦糸同士又は横糸同士)のピッチは、5mm以下とされている。尚、図1(b)においては、混合糸1の織成形態(組織)を説明するために、並行して隣り合う混合糸1同士の間に大きく隙間をあけて示しているが、実際には、織成後は前記隙間が略ゼロ〜混合糸1の直径程度となることから、本実施形態のように縦糸及び横糸のすべてに混合糸1を用いた場合、前記ピッチは縦横ともに該混合糸1の直径の1〜2倍程度とされる。
また、織布10における縦糸と横糸の比率は、0.8〜1.2:1の範囲内に設定されている。
【0026】
また、織布10において、混合糸1の全体に占める割合(占有率)は、50%以上とされている。尚、ここで言う混合糸1の占有率とは、織布10の織成に用いられた糸の全体積に対して混合糸1が占める体積の割合であり、例えば、織布10にすべて同一線径の糸を用いた場合には、これら糸全数に対して混合糸1が占める本数の割合が50%以上とされる。本実施形態の場合、混合糸1が、織布10の縦糸及び横糸のすべてに用いられているので、該混合糸1の占有率は略100%となっている。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係る織布10によれば、銅含有線である純銅線2と可紡性繊維であるナイロン繊維3とが撚り合わされて形成された混合糸1を用いて織成されている。よって、この織布10を、例えばリネン品や衣料品等に用いた場合に、銅による抗菌効果が得られつつ、可紡性繊維により弾性が付与されて織布10のごわつき等が抑えられるとともに、快適性を確保することができる。
尚、殺菌対象の菌としては、例えば、メチシリン耐性の黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌、緑膿菌、バシラス属に属する菌、その他細菌等が挙げられる。
【0028】
また、純銅線2の直径が100μm以下とされていることにより、混合糸1に伸縮性をもたせることができ、一般の織機を用いて該混合糸1を容易に織ることができる。また、この混合糸1を織成してなる織布10に所望の弾性を付与することができる。従って、織布10の製造が容易であるとともに、該織布10に肌触りや見栄えの良さを確保することができる。詳しくは、純銅線2の直径が100μmを超えて設定された場合には、一般の織機を用いて混合糸を織ることが難しくなり、また、作製された織布がごわついて快適性が確保できなくなる。またこの場合、織布に折り目(シワ)がつくと復元しにくくなる。
【0029】
また、純銅線2の直径が8μm以上とされていることにより、該純銅線2を簡便に製造できるとともに強度が確保される。すなわち、例えば、純銅線2の直径が8μm未満に設定された場合には、直径が小さいため技術的に製造が難しくなり、また混合糸1及び織布10の製造時や作製された織布10の使用時において、純銅線2が切断する虞がある。
【0030】
ここで、純銅線2の直径が8μm〜50μmの範囲内に設定された場合には、前述の効果とともに、下記の効果を奏する。すなわち、例えば、織布10を折り曲げて使用した場合であっても、純銅線2の塑性変形でシワが取れにくくなるようなことが防止される。詳しくは、純銅線2の直径が50μmを超えて設定された場合には、織布10を折り曲げて使用した際に、アイロン等を用いてシワを伸ばしきれなくなる(シワが取れにくくなる)虞がある。
【0031】
さらに、純銅線2の直径が8μm〜30μmの範囲内に設定された場合には、前述の効果とともに、下記の効果を奏する。すなわち、織布10に十分な弾性が付与されることとなり、該織布10を折り曲げて使用しても、シワがつきにくくなる。また、織布10がシワになった場合であっても、該シワをアイロン等により容易に取り除くことができる。また、織布10の柔軟性が確保されることから肌触りの良さが向上し、快適性が十分に高められる。詳しくは、純銅線2の直径が30μmを超えて設定された場合には、織布10の柔軟性が十分に確保できない虞がある。
【0032】
また、純銅線2が軟銅線からなるので、例えばハード線を用いた場合に比較して、混合糸1及び織布10の製造時や作製された織布10の使用時において、純銅線2がより切断しにくくなっている。また、織布10の肌触りが柔らかくなり、快適性が確保される。
【0033】
また、純銅線2がナイロン繊維3に対して巻き付けられる撚り回数は、0.5回/cm以上であれば製造上特に問題はないが、本実施形態のように、前記撚り回数が2回/cm以上とされていることにより、下記の効果を奏する。すなわち、ナイロン繊維3に巻き付いた1本の純銅線2において織布10の布面10a上で隣り合う露出部分同士の間隔が小さくされているとともに、混合糸1の単位長さあたりの純銅線2の露出面積が確保されて、菌に接触しやすくなる。これにより、織布10に付着した菌をより迅速に殺菌することができる。
尚、前記撚り回数が2回/cm未満に設定された場合には、銅の抗菌効果が十分に得られずに、殺菌までに時間を要することがある。
【0034】
また、前記撚り回数の上限としては、15回/cm以下が好ましい。これにより、銅の抗菌効果が十分に高められつつも、製造コストを削減でき、純銅線2の意図しない切断を防止して快適性を確保できる。すなわち、前記撚り回数が15回/cmを超えて設定された場合には、製造コストが嵩むこととなり、また、織布10の柔軟性が損なわれる虞がある。また、織布10の製造時や使用時において純銅線2に外力が加えられやすくなるとともに、該純銅線2が切断されやすくなる。純銅線2が切断されると、切れた純銅線2の端部が布面10aから突出して、織布10を使用する者の皮膚を刺激するとともに、不快感を与えることがある。
【0035】
そして、この織布10は、混合糸1の占有率が50%以上であることから、前述の抗菌効果を十分に確保することができる。すなわち、例えば、混合糸1の占有率が50%未満とされた場合には、純銅線2の配置が粗雑になったり菌に対する銅の分量が足りなくなったりして、抗菌効果が十分に得られないことがある。一方、本実施形態によれば、純銅線2同士を互いに密に配置できるとともに、菌に対する銅の分量が確保されて、抗菌効果が向上する。
【0036】
また、織布10において隣り合う混合糸1同士のピッチが5mm以下であるので、下記の効果を奏する。すなわち、混合糸1同士が密に配置されるとともに、これらの純銅線2同士の隙間が小さくなるので、菌の逃げ場が少なくなり、菌をより迅速に殺菌でき、抗菌効果が高められることになる。すなわち、例えば、隣り合う混合糸1同士のピッチが5mmを超えて設定された場合には、混合糸1同士の間に菌の逃げ場が形成されて、殺菌までに時間を要することがある。
尚、隣り合う混合糸1同士のピッチは、1mm以下であることがより好ましい。この場合、菌の逃げ場がより少なくなるとともに、混合糸1の純銅線2が菌に確実に接触して、殺菌に要する時間が大幅に短縮される。
【0037】
また、混合糸1は、直線状に延びるナイロン繊維3に対して、純銅線2が螺旋状に巻き付けられて形成されているので、該混合糸1で織成された織布10は伸縮しやすくなり、かつ、この伸縮によって純銅線2が切れるようなことも防止される。従って、織布10の肌触りの良さや快適性が長期に亘り安定して確保されることになる。
【0038】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
例えば、前述の実施形態では、混合糸1の銅含有線2として純銅線を用い、可紡性繊維3としてナイロン繊維を用いることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、銅含有線2は少なくとも銅を含んでいればよく、純銅以外の銅合金、銅アニール(酸化銅)、銅に他の金属をメッキしたもの等を用いてもよい。また、可紡性繊維3として、綿等の天然繊維やナイロン繊維以外のポリエステル繊維等からなる合成繊維を用いてもよい。
【0039】
また、前述の実施形態では、混合糸1は、直線状に延びるナイロン繊維3に対して、純銅線2が該ナイロン繊維3の外周面上に沿うように螺旋状に巻き付けられているとしたが、これに限定されるものではない。
図2及び図3は、本発明の織布10に用いられる混合糸1の他の例を示している。
図2に示す例では、直線状に延びる可紡性繊維3に対して、銅含有線2が該可紡性繊維3の外周面との間に隙間をあけて周回するように、螺旋状に巻き付けられている。この場合、混合糸1の伸縮性をより高めることができ、織布10の柔軟性が向上する。
【0040】
図2のような混合糸1を作製するには、例えば、まず、可紡性繊維3としてポリエステルからなるFTY(フィラメント・ツイステッド・ヤーン)の束を用い、このポリエステル製FTY3に水溶性ビニロン繊維(不図示)の束を沿わせた状態で、これらを中心として銅含有線2である純銅線を螺旋状に巻き付ける。
次いで、ポリエステル製FTY3、水溶性ビニロン繊維及び純銅線2からなる中間体を60℃程度の温水に浸して、水溶性ビニロン繊維のみを溶解させる。
これにより、ポリエステル製FTY3の外周面と純銅線2との間に隙間が形成されてなる混合糸1が作製される。
【0041】
また、図3に示す例では、混合糸1は、銅含有線2としての純銅線と、可紡性繊維3としてのポリエステル製FTYとが、略同一直径とされ螺旋状にそれぞれ延びているとともに、互いの外周面同士の間に隙間をあけるように撚り合わされて形成されている。この場合、混合糸1にさらなる柔軟性を付与することができる。
【0042】
図3のような混合糸1を作製するには、前述した水溶性ビニロン繊維を用いればよい。すなわち、水溶性ビニロン繊維を中心として純銅線2及び可紡性繊維3を螺旋状に巻き付けた後、前述のように該水溶性ビニロン繊維のみを溶解させることにより、図3に示される混合糸1が容易に作製可能である。
尚、前述のように純銅線2とポリエステル製FTY3との間に隙間をあけずに、互いの外周面同士を当接させた状態で、公知の撚り糸のように螺旋状に撚り合わせてもよい。この場合、水溶性ビニロン繊維は不要である。
【0043】
また、前述の実施形態では、混合糸1の銅含有線2として、Z撚り2aのもの及びS撚り2bのものが各1本ずつ配設されているとしたが、これに限定されるものではなく、Z撚り2aのもの及びS撚り2bのものが、それぞれ複数本ずつ配設されていてもよい。また、可紡性繊維3の形状や本数についても、前述の実施形態に限定されるものではない。
すなわち、混合糸1は、銅含有線2と可紡性繊維3とが撚り合わされて形成されていればよく、その形態や使用本数は限定されない。
【0044】
また、前述の実施形態では、織布10は、縦糸及び横糸のすべてに混合糸1を用いて織成されているとしたが、これに限定されるものではない。
図4に示される本発明の織布20は、混合糸1と綿糸(可紡性繊維)21とを織成して形成されている。綿糸21は、綿繊維の撚り線(束)からなり、図示の例では、縦糸及び横糸のそれぞれに、混合糸1と綿糸21とが交互に配列されている。この場合、織布20の抗菌性を確保しつつも、柔軟性や肌触りを高めることができる。尚、可紡性繊維21として、綿糸の代わりに合成繊維(の束)等を用いてもよい。また、混合糸1と綿糸21とが交互に配列されていなくてもよい。すなわち、織布20における混合糸1の使用本数と綿糸21の使用本数との比は、1:1に限定されるものではない。また、例えば、縦糸(横糸)のすべてに混合糸1を用い、横糸(縦糸)のすべてに綿糸21を用いて、これら混合糸1と綿糸21とを交織することにより織布20が形成されていてもよい。
【0045】
また、混合糸1を撚り合わせる前に、銅含有線2、可紡性繊維3及び銅以外の金属含有線4のいずれか1つ以上に対して、銅を含有する短繊維を付着させた後、これらを撚り合わせることとしてもよい。尚、前記短繊維としては、例えば直径が8μm〜100μm、長さが30mm〜150mmのものを用いることが好ましい。
【0046】
また、織布10、20は、平織りにより織成されているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、織布10、20は、例えば平織り以外の綾織り、朱子織り、梨地織り(アムンゼン)等により織成されていてもよい。
ここで、図5(a)(b)及び図6に示すものは、それぞれ平織り、綾織り、梨地織りの組織図(縦糸と横糸の織り方を表す図)である。図5(a)に示す平織りでは、織布10、20の布面10a、20aから突出して面方向に沿う紋線11が、縦糸及び横糸に対して傾斜する向き(図において2点鎖線で示される、右上から左下へ向かう方向及び左上から右下へ向かう方向)に沿って複数形成されている。また、図5(b)に示す綾織りでは、紋線11が、縦糸及び横糸に対して傾斜する向きのうち一方向(図において2点鎖線で示される、右上から左下へ向かう方向)に沿って複数形成されている。また、図6に示す梨地織りでは、紋線11は、互いに異なる向きに延在して複数形成されており、それぞれの紋線11の長さは、3mm未満と短く設定されている。
【0047】
図6のように、紋線11が互いに異なる向きに延在して複数形成されていることにより、菌の逃げる方向に規則性がなくなり、殺菌までの時間が短縮される。さらに、これら紋線11の長さが3mm未満と短く設定されていることにより、菌が紋線11に沿う凹溝等に沿って逃げにくくなり、抗菌効果がより高められる。すなわち、例えば、紋線の長さが3mm以上である場合には、これにともない紋線に沿う凹溝等の長さも長くなるので、菌がこの凹溝等に沿って逃げやすくなり、殺菌までに時間を要することがある。
また、このような紋線11は、織布10、20を梨地織りにより織成することで、簡便かつ確実に形成できる。従って、梨地織りで織られた織布10、20は、高い抗菌効果が得られるとともに、製造が容易である。
【0048】
尚、織布10、20が梨地織りにより織成される場合、その織り方(組織)は図6で説明したものに限定されない。ここで、図7(a)(b)及び図8に示される組織図は、前述した図6の梨地織り以外の梨地織りの例であり、図7(a)は8枚朱子を基礎としたもの、図7(b)は1/3破斜紋と6枚朱子を組み合わせたもの、図8は花崗朱子に似た構成のものである。これら図7(a)(b)及び図8に示される各梨地織りにおいても、紋線11が互いに異なる向きに延在して複数形成され、紋線11の長さが3mm未満とされていて、前述同様の効果を奏する。また、前述した図6、図7(a)(b)及び図8以外の、公知の梨地織りの構成を用いてもよい。
【0049】
尚、紋線11が表れないように織布10、20を織成してもよい。また、例えば、シワ模様を強調(楊柳織りシワ加工)することで、織布10、20の清涼感を高めることが可能である。
【0050】
また、織布10、20が、2重織り、3重織り、4重織り等の多重織りとされていてもよい。この場合、織布10、20の表面には使用者が触れることから、可紡性繊維3、21の占有率を大きく設定することにより、肌触りの良さを高めることが好ましい。また、織布10、20の裏面には使用者が触れないので、前記表面ほど肌触りの良さは要求されない。従って、混合糸1の占有率を高めることにより、抗菌効果を向上させることが好ましい。
【0051】
また、前述の実施形態では、織布10、20が、病院のシーツ、枕カバー、タオル等のリネン品や診察衣、患者衣等の衣料品などに用いられることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、織布10、20は、例えば、家庭用、工業用等の一般的な種々の布製品として用いられてもよい。
【0052】
その他、本発明の前述の実施形態及び他の例の構成要素を、適宜組み合わせても構わない。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前述の構成要素を周知の構成要素に置き換えることも可能である。
前述の実施形態において、銅含有線2として純銅線を用い、可紡性繊維3としてナイロン繊維の束(以下「ナイロン繊維」と省略)を用いた混合糸1を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、銅含有線2として純銅線を用い、可紡性繊維3として備長炭繊維(例えば直径80μm)を用いてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0054】
[抗菌効果確認試験A]
[実施例1]
本発明の実施例1として、図1(a)に示される混合糸1を用いて、図1(b)に示される織布10を作製した。
詳しくは、銅含有線2として純銅線(直径50μm)を用い、可紡性繊維3として水溶性ビニロン繊維(100デニール、直径91μm)とナイロンモノフィラメント(300デニール、直径80μm)を束にした糸を用いて、直線状の可紡性繊維3の外周面上に沿って銅含有線2を螺旋状に周回させるようにZ撚り2a及びS撚り2bし、湯洗によって水溶性ビニロン繊維を溶解して、混合糸1を形成した。尚、可紡性繊維3に対して、Z撚り2aの銅含有線2及びS撚り2bの銅含有線2を巻き付ける撚り回数は、それぞれ6回/cmとした。この混合糸1は、純銅線2が62wt%、可紡性繊維3が38wt%となっていた。
そして、このように形成された混合糸1を、縦糸及び横糸のすべてに用いて平織りすることにより、混合糸1の占有率が100%である織布10を作製した。尚、縦糸として隣り合う混合糸1同士のピッチ、及び、横糸として隣り合う混合糸1同士のピッチは、それぞれ0.15mmとした。
【0055】
そして、この織布10を用いて、JIS Z 2801に基づいて抗菌性試験を行い、抗菌効果を確認した。尚、前記JIS Z 2801では、「抗菌加工製品の抗菌効果は、製品上の24時間後の試験菌の生菌数が無加工製品上の生菌数の1%以下(抗菌活性値2.0以上)となることと定義」しているが、本発明の実施例においては、一般の抗菌加工製品よりも高い抗菌効果が得られることから、測定時間を下記のように設定した。すなわち、試験開始から0分、30分、60分、90分、180分経過後のバクテリア(黄色ブドウ球菌)数を測定して、抗菌効果を確認することとした。尚、実施例1の確認試験は、異なる日に2回行った。結果を図9(a)(b)及び図10(a)(b)に示す。
【0056】
[実施例2]
また、実施例2として、混合糸1及び可紡性繊維21を縦糸及び横糸に用いて、混合糸1の占有率が50%である織布20を作製した(図4参照)。尚、可紡性繊維21としては、綿糸(直径80μm)を用いた。また、縦糸として隣り合う混合糸1同士のピッチ、及び、横糸として隣り合う混合糸1同士のピッチは、それぞれ0.5mmとした。それ以外は実施例1と同じ条件として、確認試験を1回行った。結果を図9(a)(b)に示す。
【0057】
[実施例3]
また、実施例3として、混合糸1の占有率が66%である織布20を作製した。尚、縦糸として隣り合う混合糸1同士のピッチ、及び、横糸として隣り合う混合糸1同士のピッチは、それぞれ0.5mmとした。それ以外は実施例2と同じ条件として、確認試験を1回行った。結果を図10(a)(b)に示す。
【0058】
[比較例1]
一方、比較例1として、混合糸1の占有率が30%である織布を作製した。尚、縦糸として隣り合う混合糸1同士のピッチ、及び、横糸として隣り合う混合糸1同士のピッチは、それぞれ1mmとした。それ以外は実施例2と同じ条件として、確認試験を1回行った。結果を図9(a)(b)に示す。
【0059】
[比較例2]
また、比較例2として、混合糸1の占有率が3%である織布を作製した。尚、縦糸として隣り合う混合糸1同士のピッチ、及び、横糸として隣り合う混合糸1同士のピッチは、それぞれ5.5mmとした。それ以外は実施例2と同じ条件として、確認試験を1回行った。結果を図9(a)(b)に示す。
【0060】
[比較例3]
また、比較例3として、可紡性繊維21である30/2の綿糸(直径96μm)を、縦糸及び横糸のすべてに用いて平織りすることにより、織布を作製した(すなわち、前記混合糸1の占有率は0%)。そして、実施例1と同じ試験条件、測定方法で、抗菌効果確認を1回行った。結果を図9(a)(b)に示す。
【0061】
[比較例4]
また、比較例4として、シャーレに織布を入れずに、実施例1と同じ試験条件、測定方法で、抗菌効果確認を2回行った。結果を図9(a)(b)及び図10(a)(b)に示す。
【0062】
[評価]
図9及び図10に示す通り、織布10、20における混合糸1の占有率が、50%以上である実施例1〜3については、バクテリア数が0となるまでに180分を要するのみであり、良好な抗菌効果が得られることがわかった。特に、前記混合糸1の占有率が100%である実施例1については、バクテリア数が0となるまでに僅か90分を要するのみであり、優れた抗菌効果を奏することが確認された。
【0063】
一方、前記混合糸1の占有率が30%である比較例1においては、前記JIS Z 2801に規定される程度の抗菌効果は認められるものの、180分経過後においてもバクテリア数が600cfu/4cm2に及び、迅速な抗菌効果が得られなかった。また、前記混合糸1の占有率が3%で混合糸1同士のピッチが5mmを超える比較例2、及び、混合糸1を含まない比較例3、4については、180分経過時点での抗菌効果は殆んど認められなかった。
【0064】
[抗菌効果確認試験B]
[実施例4]
次に、実施例4として、混合糸1(純銅線2:直径50μm、可紡性繊維3:水溶性ビニロン繊維(100デニール、直径91μm)、撚り回数:6回/cm)同士を、平織りにより交織してなる織布10を用意した。すなわち、この織布10における混合糸1の占有率は100%である。そして、前記織布10を用いて、JIS Z 2801に基づいて抗菌性試験を行い、抗菌効果を確認した。尚、測定時間については、試験開始から0分、30分、60分、90分経過後のバクテリア数を測定して、抗菌効果を確認することとした。結果を図11(a)(b)に示す。
【0065】
[実施例5]
また、実施例5として、混合糸1(実施例4と同様のもの)同士を、梨地織り(アムンゼン)により交織してなる織布10を用意した。尚、織布10の外面には紋線11が互いに異なる向きに延在して複数形成され(図6参照)、それぞれの紋線11の長さは3mm未満に設定された。それ以外は実施例4と同じ条件として、確認試験を行った。
【0066】
[比較例5]
また、比較例5として、シャーレに中間体を入れずに、実施例4と同じ試験条件、測定方法で、殺菌確認を行った。
【0067】
[評価]
図11に示す通り、混合糸1同士を平織りしてなる織布10(実施例4)に対して、混合糸1同士を梨地織りしてなる織布10(実施例5)の抗菌効果が高められていることがわかった(図11における実施例4、5の30分経過時のバクテリア数を参照)。これは、実施例5においては、織布10の紋線11が、互いに異なる向きに延在して複数形成されていることから、紋線11に沿う凹溝等の形状が複雑となるとともに、バクテリアの逃げる方向に規則性がなくなり、殺菌までの時間が短縮されたものであり、さらに、これら紋線11の長さが3mm未満と短く設定されているので、菌が紋線11に沿う凹溝等に沿って逃げにくくなり、抗菌効果がより高められたものである。
【符号の説明】
【0068】
1 混合糸
2 純銅線(銅含有線)
3 ナイロン繊維(可紡性繊維)
10、20 織布
10a、20a 布面
11 紋線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも銅を含む銅含有線と可紡性繊維とが撚り合わされて形成された混合糸を用いて織られた織布であって、
前記銅含有線の直径は、100μm以下とされ、
前記銅含有線が前記可紡性繊維に対して巻き付けられる撚り回数は、2回/cm以上とされ、
前記混合糸の占有率が、50%以上であることを特徴とする織布。
【請求項2】
請求項1に記載の織布であって、
隣り合う前記混合糸同士のピッチが、5mm以下であることを特徴とする織布。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の織布であって、
前記銅含有線は、直線状に延びる前記可紡性繊維に対して、螺旋状に巻き付けられていることを特徴とする織布。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の織布であって、
布面から突出して面方向に沿う紋線が、互いに異なる向きに延在して複数形成され、
前記紋線の長さが、3mm未満であることを特徴とする織布。
【請求項5】
請求項4に記載の織布であって、
梨地織りにより織成されたことを特徴とする織布。
【請求項1】
少なくとも銅を含む銅含有線と可紡性繊維とが撚り合わされて形成された混合糸を用いて織られた織布であって、
前記銅含有線の直径は、100μm以下とされ、
前記銅含有線が前記可紡性繊維に対して巻き付けられる撚り回数は、2回/cm以上とされ、
前記混合糸の占有率が、50%以上であることを特徴とする織布。
【請求項2】
請求項1に記載の織布であって、
隣り合う前記混合糸同士のピッチが、5mm以下であることを特徴とする織布。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の織布であって、
前記銅含有線は、直線状に延びる前記可紡性繊維に対して、螺旋状に巻き付けられていることを特徴とする織布。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の織布であって、
布面から突出して面方向に沿う紋線が、互いに異なる向きに延在して複数形成され、
前記紋線の長さが、3mm未満であることを特徴とする織布。
【請求項5】
請求項4に記載の織布であって、
梨地織りにより織成されたことを特徴とする織布。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−153994(P2012−153994A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12841(P2011−12841)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(503210441)松山毛織株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(503210441)松山毛織株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]