繭糸の繰糸方法
【課題】量産繭を使用して玉繭,古代種繭から繰製されるような太さ斑や節を有する生糸を得る。
また。繰糸工程と索緒・抄緒工程を同時に繰糸槽内で行なう事により索緒・抄緒工程のための装置部材等を必要としない繰糸法を得る。
【解決手段】整緒繭緒糸を集緒し繰り上げている繰糸槽内の繰糸湯を攪拌する手段を有する繰糸槽に、新繭,落緒繭等の未整緒繭を投入し、前記繰糸湯の攪拌による繭層への繰糸湯の衝撃、繭層同士接触,衝突を生じさせ、前記未整緒繭から粗緒或るいは正緒を生じさせ有緒繭とし、該緒を前記整緒繭緒糸に添緒し、前記攪拌による繭層の崩れにより節の発生等を生じた整緒繭と共に集緒し巻取ってなる索緒・接緒・繰糸を同時に行なう。
また。繰糸工程と索緒・抄緒工程を同時に繰糸槽内で行なう事により索緒・抄緒工程のための装置部材等を必要としない繰糸法を得る。
【解決手段】整緒繭緒糸を集緒し繰り上げている繰糸槽内の繰糸湯を攪拌する手段を有する繰糸槽に、新繭,落緒繭等の未整緒繭を投入し、前記繰糸湯の攪拌による繭層への繰糸湯の衝撃、繭層同士接触,衝突を生じさせ、前記未整緒繭から粗緒或るいは正緒を生じさせ有緒繭とし、該緒を前記整緒繭緒糸に添緒し、前記攪拌による繭層の崩れにより節の発生等を生じた整緒繭と共に集緒し巻取ってなる索緒・接緒・繰糸を同時に行なう。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太さに斑があり、複数の繭から引き出された繭糸が互いに交絡し、膨化或いは、繭層の崩れ等による節を生じた糸を、玉繭,古代種古代種繭等を使用することなく量産繭を使用して得ることの出来る繰糸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古代より古代種繭等の糸縷を繰り取り繰糸されていたが、これらは繭層が薄く小粒で解舒不良な繭が多く、結果的に太く不均一な太さの糸が、出来かつ、節も見られるために、その使用は減少の一途をたどって来た。然し、現在その独特な感触等により使用者が見直し、その生産が望まれるようになって来た。
然し、原料繭を集めるにも限度があり、また、量産繭を使用しては、古代種繭等を使用した従来品の製品に相当するが如き糸を作ることは難しかった。
【0003】
また、量産繭による糸は、その太さを均一にし、繰糸時に節の発生が少ない品種として改良されており、然も繰糸時には、繭層の崩れによる節の発生が少なくなるように、繰糸湯中において繰糸中の粒付繭同志が互いに強く接触しないように、或いは落繭,蛹膚等により繰糸中の粒付繭とは関係のない繭を適宜除去するような手段が講じられている。例えば繰糸槽内の粒付の中心に位置して繰糸湯の流出口を有する円錐状のキャップを設け、該キャップより槽糸槽内に繰糸湯を流出させることで、繰り上がり部に集中する粒付繭を拡散しその円の直径を大きくすると共に前記放出口から放出された繰糸湯の流れによって落繭或いは蛹膚は繰糸槽外の蛹襯収集槽に流し込む装置が知られている(特許文献1参照)。前記装置にあっては、キャップから流出する繰糸湯はあくまで粒付繭を拡散する目的であって、粒付繭同志強く当接しその繭層を傷めるようなものではなく、また水流も繰糸槽内で蛹襯収集槽に繭を移動する目的で流されるものであるから決して強い流れで繭を移動するものでもない。
【0004】
また、古代種繭,玉繭等から繰糸する際には繰糸湯中で索緒箒(小箒)などにより繭表面を軽く撫でる方法で索緒を行い、粗緒を集めた節糸、抄緒をへた生糸づくりなどが熟練工の人手によって行われてきた。そして、小箒による索緒は、効率が低いことから上繭による節糸づくりなどは極めて能率が悪く困難であった。
【0005】
上記した如く、古代種繭,玉繭等から作られる、節を有し太さ斑のある糸と同様の糸を、量産繭から作るには熟練工の問題,小箒による索緒の問題、節の発生の問題等、種々の障害が存在している。
【特許文献1】実公昭63−9587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて、量産繭を使用して玉繭や古代種繭から繰製されるような、太さ斑や節を有する生糸を得ることを目的とする。
また。繰糸工程と索緒・抄緒工程を同時に繰糸槽内で行なう事により索緒・抄緒工程のための装置部材等を必要としない繰糸法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の方法にあっては、繭糸の繰糸方法であって、整緒繭緒糸を集緒し繰り上げている繰糸槽内の繰糸湯を攪拌する手段を有する繰糸槽に、新繭,落緒繭等の未整緒繭を投入し、前記繰糸湯の攪拌による繭層への繰糸湯の衝撃、繭層同士接触,衝突を生じさせ、前記未整緒繭から粗緒或るいは正緒を生じさせ有緒繭とし、該緒を前記整緒繭緒糸に搦み付かせ、前記攪拌による繭層の崩れにより節の発生等を生じた整緒繭と共に集緒し巻取ってなる索緒・接緒・繰糸を同時に行なうことを特徴とする。
請求項2の方法にあっては、請求項1記載の繰糸方法において、索緒は、水槽内の湯を攪拌することにより繭層への水圧、繭層同士の接触衝突等により繭層を崩壊させ、或るいは、繭糸端を繭層から分離させ緒を出すことにより行うことを特徴とする。
請求項3の方法にあっては、請求項1記載の繰糸方法において、粗緒或るいは整緒が、攪拌されている繰糸湯中において繰り上げられている整緒繭緒糸に、前記湯の攪拌により纏い付き、節を発生させることを特徴とする。
請求項4の方法にあっては、請求項1記載の繰糸方法において、粗緒或るいは整緒が、攪拌されている繰糸湯中において繰り上げられている整緒繭緒糸に複雑に交絡し合い、繰り上げられた生糸糸条に膨大部を生じさせることを特徴とする。
請求項5の方法にあっては、請求項4記載の繰糸方法において、膨大部を大とするときは繰糸速度を小とし、膨大部を小とするときは繰糸速度を大とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法にあっては、繭は繰糸槽内において攪拌された繰糸湯に乗って流動させているために、繭同志或るいは繰糸槽内の各種部材との接触等により節の発生を促しており、この攪拌状態と繰糸速度により槽内で抱合した繭糸同志は或る位置では引き揃え状に密接し、或る位置では膨化した状態に絡み合うような状態となり、更には、一部繭糸を中心にその周囲に他繭糸が巻き付く状態となり、渦流の早さによって糸の節の多少、ヤング率、糸斑等を適宜に変更することが出来、量産繭を使用しても玉糸や古代繭の糸に近い多様な糸を繰製できる。
また、本発明の繰糸方法にあっては、繰糸槽内に繭を投入する際には、あらかじめ索緒抄緒等を行なわないので、索緒抄緒を行うための手段は全く必要なく、索緒抄緒機構を省略することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明方法を実施するための装置として繰糸層内に乱流或るいは渦流もしくはその両者の混った流れを作る必要がある。その流れを作る例を以下に記す。
第1の例として、槽底部中央に部分的な回転翼を設けたものにあっては、回転方向が一定だと回転翼の回転中心軸方向に延びる渦が作られ渦の壁面は双曲面に近かい形状となる。流体力学で言う自由渦である。
第2の例として、槽底部中央に設けた回転翼の直径が槽の直径に近く、水深が直径に比べて浅い場合は、流体力学で言う強制渦に近かい渦となり、槽内水面の形状は放物面となる。上記第1第2例の回転翼の使用により槽内に発生する渦流の状態が変化する。
第3の例として、上記において回転翼の回転方向を正逆繰り返すと、繰糸槽内に乱流を生じる。
第4の例として、槽全体を振動させることにより乱流を生じさせる。
第5の例として、槽外部からポンプ等により水流もしくは気流を流入することにより発生させても良い。
本発明方法を実施するための装置の一例として槽内に自由渦を発生させ繰糸をする装置の概略断面を図1に示す。
1は繰糸槽で、索緒槽を兼ね上方が開いた横断面方形の槽である。底部中央には攪拌用回転翼2を設け、その軸3は動力伝達機構4を介してモーター5に接続されている。6は集緒器、7は繰枠である。図示はしないが蛹襯等の収集手段、新繭の投入手段、繰糸湯注入手段等が設けられている。
【0010】
蛹襯等の収集手段には、繰糸槽1からオーパーフロした繰糸湯を受け、再度繰糸槽に返戻するリターン管路が設けられている。
繰糸槽1内に繰り上げる糸条8の目的繊度に応じた粒数の繭9を投入し、その繭糸10を集緒器6に通し、繰枠7を回転することにより繰糸槽1内の繭9からの繭糸10は集緒器6で集緒され繰枠7に巻き取られるが、この間繰糸槽1内の繰糸湯11は攪拌用回転翼2で攪拌されている。この回転翼2の回転により回転翼2上位の繰糸湯11は回転翼2の回転につれて同方向に回動を開始し、回転翼2の軸3を中心とする双曲面12を画くことになり、繰糸湯11中の繭9は前記双曲面2付近において旋回攪拌運動を行っている。
【0011】
上記の攪拌により、繰糸湯11内の繭9は隣接する繭同志或るいは回転翼や槽壁面との接触により繭層糸縷の崩落による粗緒或るいは整緒を生成し、生成された粗緒或るいは整緒は攪拌による繰り上げ中の繭糸との交絡により膨らみを糸条に加えつつ接緒され、節を発生させつつ繭糸10は巻き上げられ、更には集緒器6により集緒され繰枠7に巻き取られる。
繰糸槽内の繭が繰り上げられ繰糸可能繭が減少したときに新繭が投入されるが、未整緒繭であっても投入後繰糸湯中での攪拌により、また無緒繭であっても唯ちに索緒が行なはれ有緒繭となり繰糸可能となる。したがって、索緒抄緒手段を付与する必要が無い。
上記態様で繰糸速度を変え繰糸を行った場合の糸の特性を表1に示す。
【0012】
【表1】
【0013】
次に上記表1の各項の結果を説明する。
1.平均有緒繭粒数
高速になると減少する。
2.索緒効果
本方法による索緒効果は次の表2の場合に顕著に大きくなる。
【表2】
3.繊度(図2参照)
低速では、糸の絡みによる繊度の増加が大きく、高速になるほど繊度は細くなる。
4.繊度増加指数(図3参照)
繊度増加指数の定義は次の通りとする。
繊度増加指数=計測繊度/理論繊度(有緒繭粒数×繭糸単繊度(2.6))
5.繰糸張力(図4参照)
高速になると大きくなる。
6.ヤング率(図5参照)
低速では低く、高速になるとヤング率の増加が大きい。
一般に、ヤング率が低い糸は、伸ばし易く曲げやすいといえる。言い換えると柔らかいと言える。ヤング率が低くなる要因として、繰糸速度が遅い場合、糸にかかるストレスは小さくなり、ヤング率は小さくなる。反対に、繰糸速度が大きくなると繰糸張力が大きくなり、極端な場合は針金糸と言はれるように糸が硬くなりヤング率は大きくなる。
糸の形状面からすると、糸に繭糸クリンプが残っている場合や糸の絡みが多く、糸が引き揃っていない場合などは、計測初期の段階で弛みが出来、結果としてヤング率が低くなる。即ち、糸の配列形状もヤング率が低くなる要因となる。
本発明方法で作られた糸の場合、繰糸速度が低いとヤング率が低くなるのは、繰糸速度が低いほど、繰糸張力が小さいこと、また、繭糸クリンプの形状が残り、糸の絡みが多くなるなど、その形状も原因のひとつとなっている。高速繰糸になると、糸が引揃えられてくること、また繰糸張力が大きくなるため、ヤング率が大きくなる。
【0014】
糸むらと節(図6〜9参照)
全体に、対照区の生糸(図8)と比べると、回転による糸のよじれ(撚り)がはっきりみられる。これは精練・染色・製織などの後工程で糸のばらけやスレによる毛羽立防止に効果があるといえる。
低速(図6)では、糸も太く節も長いものが多い。渦の影響を大きく受け、絡みも大きい。高速(図7)になると、糸が細くなり、節も少なくなっている。即ち、節の出方も速度が遅い方が多く影響を受け、多く出る。そこで、繰糸中に一定時間小枠の巻き取りを停止すると、より積極的な膨大節ができる。
図8に示す対照区の生糸は、検定用自動繰糸機で、350デニールを目標に、150定粒で繰糸した生糸で、図から明らかなように、糸が引き揃っており、節がなくきれいな糸となっている。ヤング率も生糸の標準的な値を示している。
図9に示す玉糸は座繰りの糸で図からわかるように、糸むらがあるのが見受けられ、節も長いものが多く見受けられる。ヤング率は、座繰りの場合、高速で繰糸するが、繰糸湯温度が90℃前後と高いため、通常生糸よりは低い値となっている。
【0015】
次に繰糸速度と節の成立の関係を見た図を図10A及び図11Aに示す。前記各図にアルファベットで示す位置で作られた節の形状を、各図B,C・・・以下に示しており、それぞれ巻取速度とその速度で出来る糸の状態の対応を示している。
図1Oは繰糸速度を高低適宜の速度にアトランダムに瞬間的に変化させた、巻取速度と繰糸時間の関係を示すグラフで、作られた糸には最低速で繰糸された部位にアトランダムに節が作られている。巻取速度は、所定の低速から高速まで極めて短時間の間に上昇させ、所定時間定速繰糸を行った後に極めて短時間の間に速度を低下させ低速状態を維持する。すると高速から低速に速度を落とした際に、それまで加わっていた繰糸張力が減少するために繰糸槽内中央付近で引き上げられている繭糸が一瞬弛みそれらの糸が巻回し図10Cの如くこぶ状となる。繰糸速度を低速から高速とする場合はこのような節は出来ず図10Fに示す如く特に糸に変化はない。Eの如く上昇中の速度を途中で一定にしても図10Eに示す如く特に目立つ節は生じないことを明らかにしている。図10AのDの如く繰糸速度を瞬間的に0以下、即ち巻き取りを停止し逆に巻き戻した状態のときに図10Dの如き節が出来、極めて小範囲の所に巻き付が限定されこぶ状となっている。
上記手法により、繰糸速度の変化点を出すことでその場所に節の発生を見ることが出来るので、糸に太さむらと節の発生をコントロールするという意味合いにおいては、繰糸速度を変えたり、瞬間的に小枠を停止させたりすることにより実施できるが、図11Aに示す如く所定の一定時間ごとに繰糸速度を高速及び低速の2段階に切り替えて繰糸すれば一定間隔ごとに節を有する糸とすることが出来る。図11Bに示す位置の節は図10Cに示す位置の節と同様にして作られ、また、図11Cは図10Fと同様である。巻取速度を変更する際に乱数を使ってモーター制御すると、発生間隔が散らばり自然なむらや節の発生状態にすることが可能となる。また、これに派生して例えばクラッシックやワルツ、いやし系の曲を周波数変更し、それに基づいてモーターを制御し節の発生をコントロールする、などのことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明方法にあっては、繰糸湯中において繰り上げ中の繭を互いに接触させ、粗緒或いは節の発生を見ているので、玉繭等を使用せず量産繭で節糸や膨らみのある糸を作ることを可能にしているが、量産繭で緒の出にくい不良繭の利用に路を開くことも可能である。
また、本発明の索緒・抄緒の各機能は、それぞれ単独で他の繰糸機の索緒部及び接緒部として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明方法を実施するための装置の概略縦断正面図。
【図2】繊度と繰糸速度の関係を示すグラフ。
【図3】繊度増加指数と繰糸速度の関係を示すグラフ。
【図4】繰糸張力と繰糸速度の関係を示すグラフ。
【図5】ヤング率と繰糸速度の関係を示すグラフ。
【図6】低速繰糸した糸の節の形状と糸むら(セリプレン)の状態を示す。
【図7】高速繰糸した糸の節の形状と糸むら(セリプレン)の状態を示す。
【図8】対照区生糸の節の形状と糸むら(セリプレン)の状態を示す。
【図9】玉糸の形状と糸むら(セリプレン)の状態を示す。
【図10】Aは巻き取り速度の瞬間的変化の状態を時間の経過との関係で示したグラフ、B〜Fは前記巻取速度を変化させることにより作られた節の状態を示す拡大図。
【図11】Aは巻取速度を高低2値の一定値に限定して変化させた状態を時間の経過との関係で示したグラフで、B,Cは作られた節の状態を示す拡大図。
【符号の説明】
【0018】
1 繰糸槽
2 攪拌用回転翼
3 軸
4 動力伝達装置
5 モータ
6 集緒器
7 繰枠
8 糸条
9 繭
10 繭糸
11 繰糸湯
12 双曲面
【技術分野】
【0001】
本発明は、太さに斑があり、複数の繭から引き出された繭糸が互いに交絡し、膨化或いは、繭層の崩れ等による節を生じた糸を、玉繭,古代種古代種繭等を使用することなく量産繭を使用して得ることの出来る繰糸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古代より古代種繭等の糸縷を繰り取り繰糸されていたが、これらは繭層が薄く小粒で解舒不良な繭が多く、結果的に太く不均一な太さの糸が、出来かつ、節も見られるために、その使用は減少の一途をたどって来た。然し、現在その独特な感触等により使用者が見直し、その生産が望まれるようになって来た。
然し、原料繭を集めるにも限度があり、また、量産繭を使用しては、古代種繭等を使用した従来品の製品に相当するが如き糸を作ることは難しかった。
【0003】
また、量産繭による糸は、その太さを均一にし、繰糸時に節の発生が少ない品種として改良されており、然も繰糸時には、繭層の崩れによる節の発生が少なくなるように、繰糸湯中において繰糸中の粒付繭同志が互いに強く接触しないように、或いは落繭,蛹膚等により繰糸中の粒付繭とは関係のない繭を適宜除去するような手段が講じられている。例えば繰糸槽内の粒付の中心に位置して繰糸湯の流出口を有する円錐状のキャップを設け、該キャップより槽糸槽内に繰糸湯を流出させることで、繰り上がり部に集中する粒付繭を拡散しその円の直径を大きくすると共に前記放出口から放出された繰糸湯の流れによって落繭或いは蛹膚は繰糸槽外の蛹襯収集槽に流し込む装置が知られている(特許文献1参照)。前記装置にあっては、キャップから流出する繰糸湯はあくまで粒付繭を拡散する目的であって、粒付繭同志強く当接しその繭層を傷めるようなものではなく、また水流も繰糸槽内で蛹襯収集槽に繭を移動する目的で流されるものであるから決して強い流れで繭を移動するものでもない。
【0004】
また、古代種繭,玉繭等から繰糸する際には繰糸湯中で索緒箒(小箒)などにより繭表面を軽く撫でる方法で索緒を行い、粗緒を集めた節糸、抄緒をへた生糸づくりなどが熟練工の人手によって行われてきた。そして、小箒による索緒は、効率が低いことから上繭による節糸づくりなどは極めて能率が悪く困難であった。
【0005】
上記した如く、古代種繭,玉繭等から作られる、節を有し太さ斑のある糸と同様の糸を、量産繭から作るには熟練工の問題,小箒による索緒の問題、節の発生の問題等、種々の障害が存在している。
【特許文献1】実公昭63−9587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて、量産繭を使用して玉繭や古代種繭から繰製されるような、太さ斑や節を有する生糸を得ることを目的とする。
また。繰糸工程と索緒・抄緒工程を同時に繰糸槽内で行なう事により索緒・抄緒工程のための装置部材等を必要としない繰糸法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の方法にあっては、繭糸の繰糸方法であって、整緒繭緒糸を集緒し繰り上げている繰糸槽内の繰糸湯を攪拌する手段を有する繰糸槽に、新繭,落緒繭等の未整緒繭を投入し、前記繰糸湯の攪拌による繭層への繰糸湯の衝撃、繭層同士接触,衝突を生じさせ、前記未整緒繭から粗緒或るいは正緒を生じさせ有緒繭とし、該緒を前記整緒繭緒糸に搦み付かせ、前記攪拌による繭層の崩れにより節の発生等を生じた整緒繭と共に集緒し巻取ってなる索緒・接緒・繰糸を同時に行なうことを特徴とする。
請求項2の方法にあっては、請求項1記載の繰糸方法において、索緒は、水槽内の湯を攪拌することにより繭層への水圧、繭層同士の接触衝突等により繭層を崩壊させ、或るいは、繭糸端を繭層から分離させ緒を出すことにより行うことを特徴とする。
請求項3の方法にあっては、請求項1記載の繰糸方法において、粗緒或るいは整緒が、攪拌されている繰糸湯中において繰り上げられている整緒繭緒糸に、前記湯の攪拌により纏い付き、節を発生させることを特徴とする。
請求項4の方法にあっては、請求項1記載の繰糸方法において、粗緒或るいは整緒が、攪拌されている繰糸湯中において繰り上げられている整緒繭緒糸に複雑に交絡し合い、繰り上げられた生糸糸条に膨大部を生じさせることを特徴とする。
請求項5の方法にあっては、請求項4記載の繰糸方法において、膨大部を大とするときは繰糸速度を小とし、膨大部を小とするときは繰糸速度を大とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法にあっては、繭は繰糸槽内において攪拌された繰糸湯に乗って流動させているために、繭同志或るいは繰糸槽内の各種部材との接触等により節の発生を促しており、この攪拌状態と繰糸速度により槽内で抱合した繭糸同志は或る位置では引き揃え状に密接し、或る位置では膨化した状態に絡み合うような状態となり、更には、一部繭糸を中心にその周囲に他繭糸が巻き付く状態となり、渦流の早さによって糸の節の多少、ヤング率、糸斑等を適宜に変更することが出来、量産繭を使用しても玉糸や古代繭の糸に近い多様な糸を繰製できる。
また、本発明の繰糸方法にあっては、繰糸槽内に繭を投入する際には、あらかじめ索緒抄緒等を行なわないので、索緒抄緒を行うための手段は全く必要なく、索緒抄緒機構を省略することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明方法を実施するための装置として繰糸層内に乱流或るいは渦流もしくはその両者の混った流れを作る必要がある。その流れを作る例を以下に記す。
第1の例として、槽底部中央に部分的な回転翼を設けたものにあっては、回転方向が一定だと回転翼の回転中心軸方向に延びる渦が作られ渦の壁面は双曲面に近かい形状となる。流体力学で言う自由渦である。
第2の例として、槽底部中央に設けた回転翼の直径が槽の直径に近く、水深が直径に比べて浅い場合は、流体力学で言う強制渦に近かい渦となり、槽内水面の形状は放物面となる。上記第1第2例の回転翼の使用により槽内に発生する渦流の状態が変化する。
第3の例として、上記において回転翼の回転方向を正逆繰り返すと、繰糸槽内に乱流を生じる。
第4の例として、槽全体を振動させることにより乱流を生じさせる。
第5の例として、槽外部からポンプ等により水流もしくは気流を流入することにより発生させても良い。
本発明方法を実施するための装置の一例として槽内に自由渦を発生させ繰糸をする装置の概略断面を図1に示す。
1は繰糸槽で、索緒槽を兼ね上方が開いた横断面方形の槽である。底部中央には攪拌用回転翼2を設け、その軸3は動力伝達機構4を介してモーター5に接続されている。6は集緒器、7は繰枠である。図示はしないが蛹襯等の収集手段、新繭の投入手段、繰糸湯注入手段等が設けられている。
【0010】
蛹襯等の収集手段には、繰糸槽1からオーパーフロした繰糸湯を受け、再度繰糸槽に返戻するリターン管路が設けられている。
繰糸槽1内に繰り上げる糸条8の目的繊度に応じた粒数の繭9を投入し、その繭糸10を集緒器6に通し、繰枠7を回転することにより繰糸槽1内の繭9からの繭糸10は集緒器6で集緒され繰枠7に巻き取られるが、この間繰糸槽1内の繰糸湯11は攪拌用回転翼2で攪拌されている。この回転翼2の回転により回転翼2上位の繰糸湯11は回転翼2の回転につれて同方向に回動を開始し、回転翼2の軸3を中心とする双曲面12を画くことになり、繰糸湯11中の繭9は前記双曲面2付近において旋回攪拌運動を行っている。
【0011】
上記の攪拌により、繰糸湯11内の繭9は隣接する繭同志或るいは回転翼や槽壁面との接触により繭層糸縷の崩落による粗緒或るいは整緒を生成し、生成された粗緒或るいは整緒は攪拌による繰り上げ中の繭糸との交絡により膨らみを糸条に加えつつ接緒され、節を発生させつつ繭糸10は巻き上げられ、更には集緒器6により集緒され繰枠7に巻き取られる。
繰糸槽内の繭が繰り上げられ繰糸可能繭が減少したときに新繭が投入されるが、未整緒繭であっても投入後繰糸湯中での攪拌により、また無緒繭であっても唯ちに索緒が行なはれ有緒繭となり繰糸可能となる。したがって、索緒抄緒手段を付与する必要が無い。
上記態様で繰糸速度を変え繰糸を行った場合の糸の特性を表1に示す。
【0012】
【表1】
【0013】
次に上記表1の各項の結果を説明する。
1.平均有緒繭粒数
高速になると減少する。
2.索緒効果
本方法による索緒効果は次の表2の場合に顕著に大きくなる。
【表2】
3.繊度(図2参照)
低速では、糸の絡みによる繊度の増加が大きく、高速になるほど繊度は細くなる。
4.繊度増加指数(図3参照)
繊度増加指数の定義は次の通りとする。
繊度増加指数=計測繊度/理論繊度(有緒繭粒数×繭糸単繊度(2.6))
5.繰糸張力(図4参照)
高速になると大きくなる。
6.ヤング率(図5参照)
低速では低く、高速になるとヤング率の増加が大きい。
一般に、ヤング率が低い糸は、伸ばし易く曲げやすいといえる。言い換えると柔らかいと言える。ヤング率が低くなる要因として、繰糸速度が遅い場合、糸にかかるストレスは小さくなり、ヤング率は小さくなる。反対に、繰糸速度が大きくなると繰糸張力が大きくなり、極端な場合は針金糸と言はれるように糸が硬くなりヤング率は大きくなる。
糸の形状面からすると、糸に繭糸クリンプが残っている場合や糸の絡みが多く、糸が引き揃っていない場合などは、計測初期の段階で弛みが出来、結果としてヤング率が低くなる。即ち、糸の配列形状もヤング率が低くなる要因となる。
本発明方法で作られた糸の場合、繰糸速度が低いとヤング率が低くなるのは、繰糸速度が低いほど、繰糸張力が小さいこと、また、繭糸クリンプの形状が残り、糸の絡みが多くなるなど、その形状も原因のひとつとなっている。高速繰糸になると、糸が引揃えられてくること、また繰糸張力が大きくなるため、ヤング率が大きくなる。
【0014】
糸むらと節(図6〜9参照)
全体に、対照区の生糸(図8)と比べると、回転による糸のよじれ(撚り)がはっきりみられる。これは精練・染色・製織などの後工程で糸のばらけやスレによる毛羽立防止に効果があるといえる。
低速(図6)では、糸も太く節も長いものが多い。渦の影響を大きく受け、絡みも大きい。高速(図7)になると、糸が細くなり、節も少なくなっている。即ち、節の出方も速度が遅い方が多く影響を受け、多く出る。そこで、繰糸中に一定時間小枠の巻き取りを停止すると、より積極的な膨大節ができる。
図8に示す対照区の生糸は、検定用自動繰糸機で、350デニールを目標に、150定粒で繰糸した生糸で、図から明らかなように、糸が引き揃っており、節がなくきれいな糸となっている。ヤング率も生糸の標準的な値を示している。
図9に示す玉糸は座繰りの糸で図からわかるように、糸むらがあるのが見受けられ、節も長いものが多く見受けられる。ヤング率は、座繰りの場合、高速で繰糸するが、繰糸湯温度が90℃前後と高いため、通常生糸よりは低い値となっている。
【0015】
次に繰糸速度と節の成立の関係を見た図を図10A及び図11Aに示す。前記各図にアルファベットで示す位置で作られた節の形状を、各図B,C・・・以下に示しており、それぞれ巻取速度とその速度で出来る糸の状態の対応を示している。
図1Oは繰糸速度を高低適宜の速度にアトランダムに瞬間的に変化させた、巻取速度と繰糸時間の関係を示すグラフで、作られた糸には最低速で繰糸された部位にアトランダムに節が作られている。巻取速度は、所定の低速から高速まで極めて短時間の間に上昇させ、所定時間定速繰糸を行った後に極めて短時間の間に速度を低下させ低速状態を維持する。すると高速から低速に速度を落とした際に、それまで加わっていた繰糸張力が減少するために繰糸槽内中央付近で引き上げられている繭糸が一瞬弛みそれらの糸が巻回し図10Cの如くこぶ状となる。繰糸速度を低速から高速とする場合はこのような節は出来ず図10Fに示す如く特に糸に変化はない。Eの如く上昇中の速度を途中で一定にしても図10Eに示す如く特に目立つ節は生じないことを明らかにしている。図10AのDの如く繰糸速度を瞬間的に0以下、即ち巻き取りを停止し逆に巻き戻した状態のときに図10Dの如き節が出来、極めて小範囲の所に巻き付が限定されこぶ状となっている。
上記手法により、繰糸速度の変化点を出すことでその場所に節の発生を見ることが出来るので、糸に太さむらと節の発生をコントロールするという意味合いにおいては、繰糸速度を変えたり、瞬間的に小枠を停止させたりすることにより実施できるが、図11Aに示す如く所定の一定時間ごとに繰糸速度を高速及び低速の2段階に切り替えて繰糸すれば一定間隔ごとに節を有する糸とすることが出来る。図11Bに示す位置の節は図10Cに示す位置の節と同様にして作られ、また、図11Cは図10Fと同様である。巻取速度を変更する際に乱数を使ってモーター制御すると、発生間隔が散らばり自然なむらや節の発生状態にすることが可能となる。また、これに派生して例えばクラッシックやワルツ、いやし系の曲を周波数変更し、それに基づいてモーターを制御し節の発生をコントロールする、などのことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明方法にあっては、繰糸湯中において繰り上げ中の繭を互いに接触させ、粗緒或いは節の発生を見ているので、玉繭等を使用せず量産繭で節糸や膨らみのある糸を作ることを可能にしているが、量産繭で緒の出にくい不良繭の利用に路を開くことも可能である。
また、本発明の索緒・抄緒の各機能は、それぞれ単独で他の繰糸機の索緒部及び接緒部として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明方法を実施するための装置の概略縦断正面図。
【図2】繊度と繰糸速度の関係を示すグラフ。
【図3】繊度増加指数と繰糸速度の関係を示すグラフ。
【図4】繰糸張力と繰糸速度の関係を示すグラフ。
【図5】ヤング率と繰糸速度の関係を示すグラフ。
【図6】低速繰糸した糸の節の形状と糸むら(セリプレン)の状態を示す。
【図7】高速繰糸した糸の節の形状と糸むら(セリプレン)の状態を示す。
【図8】対照区生糸の節の形状と糸むら(セリプレン)の状態を示す。
【図9】玉糸の形状と糸むら(セリプレン)の状態を示す。
【図10】Aは巻き取り速度の瞬間的変化の状態を時間の経過との関係で示したグラフ、B〜Fは前記巻取速度を変化させることにより作られた節の状態を示す拡大図。
【図11】Aは巻取速度を高低2値の一定値に限定して変化させた状態を時間の経過との関係で示したグラフで、B,Cは作られた節の状態を示す拡大図。
【符号の説明】
【0018】
1 繰糸槽
2 攪拌用回転翼
3 軸
4 動力伝達装置
5 モータ
6 集緒器
7 繰枠
8 糸条
9 繭
10 繭糸
11 繰糸湯
12 双曲面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
整緒繭緒糸を集緒し繰り上げている繰糸槽内の繰糸湯を攪拌する手段を有する繰糸槽に、新繭,落緒繭等の未整緒繭を投入し、前記繰糸湯の攪拌による繭層への繰糸湯の衝撃、繭層同士接触,衝突を生じさせ、前記未整緒繭から粗緒或るいは正緒を生じさせ有緒繭とし、該緒を前記整緒繭緒糸に搦み付かせ、前記攪拌による繭層の崩れにより節の発生等を生じた整緒繭と共に集緒し巻取ってなる索緒・接緒・繰糸を同時に行なうことを特徴とする、繭糸の繰糸方法。
【請求項2】
索緒は、水槽内の湯を攪拌することにより繭層への水圧、繭層同士の接触衝突等により繭層を崩壊させ、或るいは、繭糸端を繭層から分離させ緒を出すことにより行うことを特徴とする請求項1記載の繭糸の繰糸方法。
【請求項3】
粗緒或るいは整緒が、攪拌されている繰糸湯中において繰り上げられている整緒繭緒糸に、前記湯の攪拌により纏い付き、節を発生させることを特徴とする請求項1記載の繭糸の繰糸方法。
【請求項4】
粗緒或るいは整緒が、攪拌されている繰糸湯中において繰り上げられている整緒繭緒糸に複雑に交絡し合い、繰り上げられた生糸糸条に膨大部を生じさせることを特徴とする請求項1記載の繭糸の繰糸方法。
【請求項5】
膨大部を大とするときは繰糸速度を小とし、膨大部を小とするときは繰糸速度を大とすることを特徴とする請求項4記載の繭糸の繰糸方法。
【請求項1】
整緒繭緒糸を集緒し繰り上げている繰糸槽内の繰糸湯を攪拌する手段を有する繰糸槽に、新繭,落緒繭等の未整緒繭を投入し、前記繰糸湯の攪拌による繭層への繰糸湯の衝撃、繭層同士接触,衝突を生じさせ、前記未整緒繭から粗緒或るいは正緒を生じさせ有緒繭とし、該緒を前記整緒繭緒糸に搦み付かせ、前記攪拌による繭層の崩れにより節の発生等を生じた整緒繭と共に集緒し巻取ってなる索緒・接緒・繰糸を同時に行なうことを特徴とする、繭糸の繰糸方法。
【請求項2】
索緒は、水槽内の湯を攪拌することにより繭層への水圧、繭層同士の接触衝突等により繭層を崩壊させ、或るいは、繭糸端を繭層から分離させ緒を出すことにより行うことを特徴とする請求項1記載の繭糸の繰糸方法。
【請求項3】
粗緒或るいは整緒が、攪拌されている繰糸湯中において繰り上げられている整緒繭緒糸に、前記湯の攪拌により纏い付き、節を発生させることを特徴とする請求項1記載の繭糸の繰糸方法。
【請求項4】
粗緒或るいは整緒が、攪拌されている繰糸湯中において繰り上げられている整緒繭緒糸に複雑に交絡し合い、繰り上げられた生糸糸条に膨大部を生じさせることを特徴とする請求項1記載の繭糸の繰糸方法。
【請求項5】
膨大部を大とするときは繰糸速度を小とし、膨大部を小とするときは繰糸速度を大とすることを特徴とする請求項4記載の繭糸の繰糸方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−107105(P2007−107105A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295812(P2005−295812)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(591006380)財団法人大日本蚕糸会 (4)
【出願人】(305050591)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(591006380)財団法人大日本蚕糸会 (4)
【出願人】(305050591)
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