説明

翼面仕上げ方法及び翼部品

【課題】翼部品M1の翼面S1の仕上げの生産性を向上させつつ、仕上げ用エンドミル30の耐久性を維持すること。
【解決手段】翼部品M1の翼面S1における前縁部S1a及び後縁部S1tの仕上げと腹部S1v及び背部S1bの仕上げを別工程に分けた上で、素材W1の翼面相当部位P1の腹部P1v及び背部P1bにそれぞれ仕上げ加工を施して、仕上げ用エンドミル30を素材W1の翼面相当部位P1から離反させること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗加工済みの素材の翼面相当部位に仕上げ加工を施して、素材の翼面相当部位を翼部材の翼面に仕上げるための翼面仕上げ方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガスタービンのコンプレッサ又はタービンに用いられる翼部材は、単体の翼部品と、一体翼車(ブリスク)の翼車構成部材とに分けることができる。そして、翼部材としての翼部品及び翼車構成部材の翼面は、通常、次のように、粗加工済みの素材の翼面相当部位に仕上げ加工を施すことによって仕上げられている。
【0003】
図5(a)(b)に示すように、仕上げ用エンドミル10の先端を素材W1の翼面相当部位P1に対向させた状態で、仕上げ用エンドミル10をその軸心10c周りに回転させつつ、仕上げ用エンドミル10にその軸方向の切込み送りを与えて、仕上げ用エンドミル10を素材W1の翼面相当部位P1の外周方向に沿って素材W1に対して相対的に送り移動させることにより、仕上げ用エンドミル10の先端の肩部によって素材W1の翼面相当部位P1に仕上げ加工を施す。更に、仕上げ用エンドミル10に素材W1の翼面相当部位P1のスパン方向(長手方向)のピッチ送りを与えながら、仕上げ用エンドミル10の先端の肩部によって素材W1の翼面相当部位P1に複数回繰り返して仕上げ加工を施す。これにより、素材W1の翼面相当部位P1を翼部材としての翼部品M1の翼面S1に仕上げることができる。
【0004】
同様に、図6(a)(b)に示すように、仕上げ用エンドミル20の先端を素材W2の翼面相当部位P2の基端側に指向させた状態で、仕上げ用エンドミル20をその軸心20c周りに回転させつつ、仕上げ用エンドミル20にその径方向の切込み送りを与えて、仕上げ用エンドミル20を素材W2の翼面相当部位P2の外周方向に沿って素材W2に対して相対的に送り移動させることにより、仕上げ用エンドミル20の先端の肩部によって素材W2の翼面相当部位P2に仕上げ加工を施す。更に、仕上げ用エンドミル10に素材W2の翼面相当部位P2のスパン方向のピッチ送りを与えながら、仕上げ用エンドミル20の先端の肩部によって素材W2の翼面相当部位P2の外周部に複数回繰り返して仕上げ加工を施す。これにより、素材W2の翼面相当部位P2を翼部材としての翼車構成部材M2の翼面S2に仕上げることができる。
【0005】
なお、本発明に関連する先行技術として特許文献1及び特許文献2に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−233310号公報
【特許文献2】特許第4183058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、エンドミルの小径化によって素材とエンドミルとの接触長さを短くすることにより、エンドミルに過大な温度上昇が発生することを抑えつつ、エンドミルの切削速度を高める試み、換言すれば、高速切削技術を適用する試みがなされている。一方、翼部材M1(M2)の翼面S1(S2)の仕上げに生産性の向上のために高速切削技術を適用すると、小径の仕上げ用エンドミル10A(20A)の切削速度の高速化に伴い、仕上げ用エンドミル10A(20A)の相対送り移動速度が速くなり、素材W1(W2)の翼面相当部位P1(P2)の前縁部P1a(P2a)付近又は後縁部P1t(P2t)付近において、方向転換のための減速により仕上げ用エンドミル10A(20A)の相対速度が小さくなって、仕上げ用エンドミル10A(20A)の1刃当たりの相対送り量が低下する。そのため、仕上げ用エンドミル10A(20A)と素材W1(W2)との間の滑りによって仕上げ用エンドミル10A(20A)に大きな摩擦熱が発生し易く、仕上げ用エンドミル10A(20A)の耐久性の低下を招く。つまり、翼部材M1(M2)の翼面S1(S2)の仕上げの生産性を向上させつつ、仕上げ用エンドミル10A(20A)の耐久性を維持することは困難であるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成の翼面仕上げ方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、粗加工済みの素材の翼面相当部位に仕上げ加工を施して、前記素材の前記翼面相当部位を翼部材の翼面に仕上げるための翼面仕上げ方法において、仕上げ用エンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記仕上げ用エンドミルに切込み送りを与えて、前記仕上げ用エンドミルを前記素材の前記翼面相当部位の前縁部及び後縁部に沿って前記素材に対して相対的に送り移動させることにより、前記素材の前記翼面相当部位の前縁部及び後縁部に仕上げ加工を施して、前記素材の前記翼面相当部位の前縁部及び後縁部を前記翼部材の前記翼面の前縁部及び後縁部に仕上げる第1仕上げ工程と、前記仕上げ用エンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記仕上げ用エンドミルに切込み送りを与えて、前記仕上げ用エンドミルを前記素材の前記翼面相当部位の前縁部側又は後縁部側から腹部及び背部のうちの一方に沿って前記素材に対して相対的に送り移動させることにより、前記素材の前記翼面相当部位の前記一方のみに仕上げ加工を施して、前記仕上げ用エンドミルを前記素材の前記翼面相当部位から離反させる第2仕上げ工程と、前記第2仕上げ工程の終了後に、前記仕上げ用エンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記仕上げ用エンドミルに切込み送りを与えて、前記仕上げ用エンドミルを前記素材の前記翼面相当部位の後縁部側又は前縁部側から腹部及び背部のうちの他方に沿って前記素材に対して相対的に送り移動させることにより、前記素材の前記翼面相当部位の前記他方のみに仕上げ加工を施して、前記仕上げ用エンドミルを前記素材の前記翼面相当部位から離反させる第3仕上げ工程と、前記第3仕上げ工程の終了後に、前記仕上げ用エンドミルに前記素材の前記翼面相当部位のスパン方向のピッチ送りを与えながら、前記第2仕上げ工程と前記第3仕上げ工程を交互に繰り返して実行することにより、前記素材の前記翼面相当部位の腹部及び背部を前記翼部材の前記翼面の腹部及び背部に仕上げる第4仕上げ工程と、を備えたことを要旨とする。
【0010】
なお、前記素材の前記翼面相当部位のスパン方向とは、前記素材の前記翼面相当部位の先端から基端に向かう方向のことをいう。
【0011】
本発明の第1の特徴によると、前記翼部材の前記翼面における前縁部及び後縁部の仕上げと腹部及び背部の仕上げを別工程に分けた上で、前記素材の前記翼面相当部位の腹部及び背部にそれぞれ仕上げ加工を施して、前記仕上げ用エンドミルを前記素材の前記翼面相当部位から離反させているため、前記仕上げ用エンドミルの切削速度の高速化に伴って、前記仕上げ用エンドミルの相対送り移動速度が速くなっても、前記素材の前記翼面相当部位の前縁部付近及び後縁部付近において、前記仕上げ用エンドミルの方向転換のための減速を小さくして、前記仕上げ用エンドミルの1刃当たりの相対送り量の低下を抑えることができる。
【0012】
第2の特徴は、翼面が第1の特徴からなる翼面仕上げ方法によって仕上げたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記仕上げ用エンドミルの切削速度の高速化に伴って、前記仕上げ用エンドミルの相対送り移動速度が速くなっても、前記素材の前記翼面相当部位の前縁部付近又は後縁部付近における、前記仕上げ用エンドミルの1刃当たりの相対送り量の低下を抑えることができるため、前記翼部材の前記翼面の仕上げの生産性を向上させつつ、前記仕上げ用エンドミルと前記素材との間に大きな摩擦熱が発生することを抑えて、前記仕上げ用エンドミルの耐久性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)は、本発明の第1実施形態に係る翼面仕上げ方法における第1仕上げ工程を説明する模式図であって、翼面相当部位の前縁部及び後縁部に仕上げ加工を施している様子を示しており、図1(b)は、図1(a)におけるIB-IB線に沿った図である。
【図2】図2(a)は、本発明の第1実施形態に係る翼面仕上げ方法における第2仕上げ工程及び第3仕上げ工程を説明する模式図であって、翼面相当部位の腹部及び背部に仕上げ加工を施している様子を示しており、図2(b)は、図2(a)におけるIIB-IIB線に沿った図である。
【図3】図3(a)は、本発明の第2実施形態に係る翼面仕上げ方法における第1仕上げ工程を説明する模式図であって、翼面相当部位の前縁部及び後縁部に仕上げ加工を施している様子を示しており、図3(b)は、図3(a)におけるIIIB-IIIB線に沿った図である。
【図4】図4(a)は、本発明の第2実施形態に係る翼面仕上げ方法における第2仕上げ工程及び第3仕上げ工程を説明する模式図であって、翼面相当部位の腹部及び背部に仕上げ加工を施している様子を示しており、図4(b)は、図4(a)におけるIVB-IVB線に沿った図である。
【図5】図5(a)は、素材の翼面相当部位(前縁部及び後縁部を含む)を翼部品の翼面に仕上げる従来の手法を説明する模式図、図5(b)は、図5(a)におけるVB-VB線に沿った図である。
【図6】図6(a)は、素材の翼面相当部位(前縁部及び後縁部を含む)を翼車構成部材の翼面に仕上げる従来の手法を説明する模式図、図6(b)は、図6(a)におけるVIB-VIB線に沿った図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1及び図2を参照して説明する。
【0016】
図1及び図2に示すように、本発明の第1実施形態に係る翼面仕上げ方法は、マシニングセンタのワーク治具(図示省略)にセットされた粗加工済みの素材W1の翼面相当部位P1に仕上げ加工を施して、素材W1の翼面相当部位P1を翼部材としての翼部品M1の翼面S1に仕上げるための方法である。また、本発明の第1実施形態に係る翼面仕上げ方法にあっては、素材W1の翼面相当部位P1の先端から基端にかけて複数(第1実施形態にあっては3つ)の区間L1A,L1B,L1Cに区分し、複数の区間L1A,L1B,L1Cについて、第1仕上げ工程(1-1)と第2仕上げ工程(1-2)と第3仕上げ工程(1-3)と第4仕上げ工程(1-4)とからなる一連の工程を先端側から順次実行するようになっている。なお、図中には、区間L1Bについて、各工程を実行している様子を示している。
【0017】
本発明の第1実施形態に係る翼面仕上げ方法の実施には、マシニングセンタのスピンドル(図示省略)に装着されかつ仕上げ用エンドミル10(図6参照)の外径よりの小径の仕上げ用エンドミル30を用いている。ここで、仕上げ用エンドミル30は、マシニングセンタの回転モータ(図示省略)の駆動によって軸心30c周りに回転であって、送り移動軸方向及び送り回転軸方向に素材W1に対して相対的に送り移動制御及び送り回転制御されるようになっている。また、第1実施形態において、仕上げ用エンドミル30はラジアスエンドミルであるが、ボールエンドミルでも構わない。なお、第1実施形態において、送り移動軸方向とは、相互に直交するX軸方向、Y軸方向、Z軸方向のことであって、送り回転軸方向とは、Y軸方向に平行な軸心周りに回転する方向のA軸方向、X軸方向に平行な軸心周りに回転する方向のB軸方向のことである。
【0018】
続いて、本発明の第1実施形態に係る翼面仕上げ方法における各工程の具体的な内容について説明する。
【0019】
第1仕上げ工程(1-1)
図1(a)(b)に示すように、回転モータを駆動し、かつ仕上げ用エンドミル30を送り移動軸方向及び送り回転軸方向に素材W1に対して送り移動制御及び送り回転制御することにより、仕上げ用エンドミル30の軸心30cを素材W1の翼面相当部位P1のスパン方向に対して交差させた状態で、仕上げ用エンドミル30をその軸心30c周りに回転させつつ、仕上げ用エンドミル30にその径方向の切込み送りを与えて、仕上げ用エンドミル30を複数回繰り返して素材W1の翼面相当部位P1の前縁部P1aに沿って素材W1に対して相対的に送り移動させる。これにより、各区間L1A(L1B,L1C)毎に、仕上げ用エンドミル30の外周部(外周刃)によって素材W1の翼面相当部位P1の前縁部P1aに仕上げ加工を施して、素材W1の翼面相当部位P1の前縁部P1aを翼部品M1の翼面S1の前縁部S1aに仕上げることができる。
【0020】
同様に、図1(a)(b)に示すように、仕上げ用エンドミル30の軸心30cを素材W1の翼面相当部位P1のスパン方向に対して交差させた状態で、仕上げ用エンドミル30をその軸心30c周りに回転させつつ、仕上げ用エンドミル30にその径方向の切込み送りを与えて、仕上げ用エンドミル30を複数回繰り返して素材W1の翼面相当部位P1の後縁部P1tに沿って素材W1に対して相対的に送り移動させる。これにより、各区間L1A(L1B,L1C)毎に、仕上げ用エンドミル30の外周部によって素材W1の翼面相当部位P1の後縁部P1tに仕上げ加工を施して、素材W1の翼面相当部位P1の後縁部P1tを翼部品M1の翼面S1の後縁部S1tに仕上げることができる。
【0021】
第2仕上げ工程(1-2)
第1仕上げ工程(1-1)の終了後に、図2(a)(b)に示すように、回転モータを駆動し、かつ仕上げ用エンドミル30を送り移動軸方向及び送り回転軸方向に素材W1に対して送り移動制御及び送り回転制御することにより、仕上げ用エンドミル30の先端を素材W1の翼面相当部位P1に対向させた状態で、仕上げ用エンドミル30をその軸心30c周りに回転させつつ、仕上げ用エンドミル30にその軸方向の切込み送りを与えて、仕上げ用エンドミル30を素材W1の翼面相当部位P1の前縁部P1a側(又は後縁部P1t側)から腹部P1vに沿って素材W1に対して相対的に送り移動させる。これにより、各区間L1A(L1B,L1C)毎に、仕上げ用エンドミル30の先端の肩部によって素材W1の翼面相当部位P1の腹部P1vのみに仕上げ加工を施して、仕上げ用エンドミル30を素材W1の翼面相当部位P1から離反させることができる。
【0022】
第3仕上げ工程(1-3)
第2仕上げ工程(1-2)の終了後に、図2(a)(b)に示すように、回転モータを駆動し、かつ仕上げ用エンドミル30を送り移動軸方向及び送り回転軸方向に素材W1に対して送り移動制御及び送り回転制御することにより、仕上げ用エンドミル30の先端を素材W1の翼面相当部位P1に対向させた状態で、仕上げ用エンドミル30をその軸心30c周りに回転させつつ、仕上げ用エンドミル30にその軸方向の切込み送りを与えて、仕上げ用エンドミル30を素材W1の翼面相当部位P1の後縁部P1t側(又は前縁部P1a側)から背部P1bに沿って素材W1に対して相対的に送り移動させる。これにより、各区間L1A(L1B,L1C)毎に、仕上げ用エンドミル30の先端の肩部によって素材W1の翼面相当部位P1の背部P1bのみに仕上げ加工を施して、仕上げ用エンドミル30を素材W1の翼面相当部位P1から離反させることができる。
【0023】
第4仕上げ工程(1-4)
第3仕上げ工程(1-3)の終了後に、回転モータを駆動し、かつ仕上げ用エンドミル30を送り移動軸方向及び送り回転軸方向に素材W1に対して送り移動制御及び送り回転制御することにより、仕上げ用エンドミル30に素材W1の翼面相当部位P1のスパン方向(長手方向)のピッチ送りを与えながら、第2仕上げ工程(1-2)と第3仕上げ工程(1-3)の処理を交互に繰り返す。これにより、各区間L1A(L1B,L1C)毎に、素材W1の翼面相当部位P1の腹部P1v及び背部P1bを翼部品M1の翼面S1の腹部S1v及び背部S1bに仕上げることができる。
【0024】
なお、第2仕上げ工程(1-2)において素材W1の翼面相当部位P1の腹部P1vに仕上げ加工を施し、第3仕上げ工程(1-3)において素材W1の翼面相当部位P1の背部P1bに仕上げ加工を施す代わりに、第2仕上げ工程(1-2)において素材W1の翼面相当部位P1の背部P1bに仕上げ加工を施し、第3仕上げ工程(1-3)において素材W1の翼面相当部位P1の腹部P1vに仕上げ加工を施しても構わない。
【0025】
続いて、本発明の第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0026】
翼部品M1の翼面S1における前縁部S1a及び後縁部S1tの仕上げと腹部S1v及び背部S1bの仕上げを別工程に分けた上で、素材W1の翼面相当部位P1の腹部P1v及び背部P1bにそれぞれ仕上げ加工を施して、仕上げ用エンドミル30を素材W1の翼面相当部位P1から離反させているため、仕上げ用エンドミル30の切削速度の高速化に伴って、仕上げ用エンドミル30の相対送り移動速度が速くなっても、素材W1の翼面相当部位P1の前縁部P1a付近及び後縁部P2t付近において、仕上げ用エンドミル30の方向転換のための減速を小さくして、仕上げ用エンドミル30の1刃当たりの相対送り量の低下を抑えることができる。
【0027】
また、素材W1の翼面相当部位P1の先端から基端にかけて複数の区間L1A,L1B,L1Cに区分し、各区間L1A(L1B,L1C)毎に、第1仕上げ工程(1-1)と第2仕上げ工程(1-2)と第3仕上げ工程(1-3)と第4仕上げ工程(1-4)とからなる一連の工程を実行するようになっているため、素材W1の翼面相当部位P1の仕上げ加工を行う途中に、素材W1の翼面相当部位P1の剛性が急激に低下することを抑えることができる。
【0028】
従って、本発明の第1実施形態によれば、仕上げ用エンドミル30の切削速度の高速化に伴って、仕上げ用エンドミル30の相対送り移動速度が速くなっても、素材W1の翼面相当部位P1の前縁部P1a付近及び後縁部P1t付近における、仕上げ用エンドミル30の1刃当たりの相対送り量の低下を抑えることができるため、翼部品M1の翼面S1の仕上げの生産性を向上させつつ、仕上げ用エンドミル30と素材W1との間に大きな摩擦熱が発生することを抑えて、仕上げ用エンドミル30の耐久性を維持することができる。
【0029】
また、素材W1の翼面相当部位P1の仕上げ加工を行う途中に、素材W1の翼面相当部位P1の剛性が急激に低下することを抑えることができるため、素材W1のビビリを低減して、翼部品M1の翼面S1の仕上げ精度を向上させることができる。
【0030】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について図3及び図4を参照して説明する。
【0031】
図3及び図4に示すように、本発明の第2実施形態に係る翼面仕上げ方法は、マシニングセンタのワーク治具(図示省略)にセットされた粗加工済みの素材W2の翼面相当部位P2に仕上げ加工を施して、素材W2の翼面相当部位P2を翼部材としての翼車構成部材M2の翼面S2に仕上げるための方法である。また、本発明の第2実施形態に係る翼面仕上げ方法にあっては、素材W2の翼面相当部位P2の先端から基端にかけて複数(第2実施形態にあっては3つ)の区間L2A,L2B,L2Cに区分し、複数の区間L2A,L2B,L2Cについて、第1仕上げ工程(2-1)と第2仕上げ工程(2-2)と第3仕上げ工程(2-3)と第4仕上げ工程(2-4)とからなる一連の工程を先端側から順次実行するようになっている。なお、図中には、区間L2Bについて、各工程を実行している様子を示している。
【0032】
本発明の第2実施形態に係る翼面仕上げ方法の実施には、マシニングセンタのスピンドル(図示省略)に装着されかつ仕上げ用エンドミル20(図6参照)の外径よりの小径の仕上げ用エンドミル40を用いている。また、第2実施形態において、仕上げ用エンドミル40はラジアスエンドミルであるが、ボールエンドミルでも構わない。ここで、仕上げ用エンドミル40は、マシニングセンタの回転モータ(図示省略)の駆動によって軸心40c周りに回転であって、送り移動軸方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)及び送り回転軸方向(A軸方向、B軸方向)に素材W2に対して相対的に送り移動制御及び送り回転制御されるようになっている。
【0033】
続いて、本発明の第2実施形態に係る翼面仕上げ方法における各工程の具体的な内容について説明する。
【0034】
第1仕上げ工程(2-1)
図3(a)(b)に示すように、本発明の第1実施形態に係る翼面仕上げ方法における第1仕上げ工程(1-1)と同様に第1仕上げ工程(2-1)を実行することにより、素材W2の翼面相当部位P2の各区間L2A(L2B,L2C)毎に、仕上げ用エンドミル40の外周部(外周刃)によって素材W2の翼面相当部位P2の前縁部P2a及び後縁部P2tに仕上げ加工を施して、素材W2の翼面相当部位P2の前縁部P2a及び後縁部P2tを翼車構成部材M2の翼面S2の前縁部S2a及び後縁部S2tに仕上げることができる。
【0035】
第2仕上げ工程(2-2)
第1仕上げ工程(2-1)の終了後に、図4(a)(b)に示すように、回転モータを駆動し、かつ仕上げ用エンドミル40を送り移動軸方向及び送り回転軸方向に素材W2に対して送り移動制御及び送り回転制御することにより、仕上げ用エンドミル40の先端を素材W2の翼面相当部位P2の基端側に指向させた状態(換言すれば、仕上げ用エンドミル40を素材W2の翼面相当部位P2に沿わせた状態)、仕上げ用エンドミル40にその径方向の切込み送りを与えて、仕上げ用エンドミル40を素材W2の翼面相当部位P2の前縁部P2a側(又は後縁部P2t側)から腹部P2vに沿って素材W2に対して相対的に送り移動させる。これにより、素材W2の翼面相当部位P2の各区間L2A(L2B,L2C)毎に、仕上げ用エンドミル40の先端の肩部によって素材W2の翼面相当部位P2の腹部P2vのみに仕上げ加工を施して、仕上げ用エンドミル40を素材W2の翼面相当部位P2から離反させることができる。
【0036】
なお、仕上げ用エンドミル40の先端を素材W2の翼面相当部位P2の基端側に指向させた状態にさせておくのは、仕上げ用エンドミル40が仕上げ途中の翼面相当部位P2に隣接する別の翼面相当部位P2に干渉することを防止するためのである。
【0037】
第3仕上げ工程(1-3)
第2仕上げ工程(1-2)の終了後に、図4(a)(b)に示すように、回転モータを駆動し、かつ仕上げ用エンドミル40を送り移動軸方向及び送り回転軸方向に素材W2に対して送り移動制御及び送り回転制御することにより、仕上げ用エンドミル40の先端を素材W2の翼面相当部位P2の基端側に指向させた状態で、仕上げ用エンドミル40にその径方向の切込み送りを与えて、仕上げ用エンドミル40を素材W2の翼面相当部位P2の後縁部P2t側(又は前縁部P2a側)から背部P2bに沿って素材W2に対して相対的に送り移動させる。これにより、素材W2の翼面相当部位P2の各区間L2A(L2B,L2C)毎に、仕上げ用エンドミル40の先端の肩部によって素材W2の翼面相当部位P2の背部P2bのみに仕上げ加工を施して、仕上げ用エンドミル40を素材W2の翼面相当部位P2から離反させることができる。
【0038】
なお、第2仕上げ工程(2-2)において素材W2の翼面相当部位P2の腹部P2vに仕上げ加工を施し、第3仕上げ工程(1-3)において素材W2の翼面相当部位P2の背部P2bに仕上げ加工を施す代わりに、第2仕上げ工程(2-2)において素材W2の翼面相当部位P2の背部P2bに仕上げ加工を施し、第3仕上げ工程(1-3)において素材W2の翼面相当部位P2の腹部P2vに仕上げ加工を施しても構わない。
【0039】
第4仕上げ工程(2-4)
第3仕上げ工程(2-3)の終了後に、回転モータを駆動し、かつ仕上げ用エンドミル40を送り移動軸方向及び送り回転軸方向に素材W2に対して送り移動制御及び送り回転制御することにより、仕上げ用エンドミル40に素材W2のスパン方向のピッチ送りを与えながら、第2仕上げ工程(2-2)と第3仕上げ工程(2-3)の交互に繰り返して実行する。これにより、素材W2の翼面相当部位P2の各区間L2A(L2B,L2C)毎に、素材W2の翼面相当部位P2の腹部P2v及び背部P2bを翼車構成部材M2の翼面S2の腹部S2v及び背部S2bに仕上げることができる。
【0040】
続いて、本発明の第2実施形態の作用及び効果について説明する。
【0041】
翼車構成部材M2の翼面S2における前縁部S2a及び後縁部S2tの仕上げと腹部S2v及び背部S2bの仕上げを別工程に分けた上で、素材W2の翼面相当部位P2の腹部P2v及び背部P2bにそれぞれ仕上げ加工を施して、仕上げ用エンドミル40を素材W2の翼面相当部位P2から離反させているため、仕上げ用エンドミル40の切削速度の高速化に伴って、仕上げ用エンドミル40の相対送り移動速度が速くなっても、素材W2の翼面相当部位P2の前縁部P2a付近及び後縁部P2t付近において、仕上げ用エンドミル40の方向転換のための減速を小さくして、仕上げ用エンドミル40の1刃当たりの相対送り量の低下を抑えることができる。
【0042】
また、素材W2の翼面相当部位P2の先端から基端にかけて複数の区間L2A,L2B,L2Cに区分し、各区間L2A(L2B,L2C)毎に、第1仕上げ工程(1-1)と第2仕上げ工程(1-2)と第3仕上げ工程(1-3)と第4仕上げ工程(1-4)とからなる一連の工程を実行するようになっているため、素材W2の翼面相当部位P2の仕上げ加工を行う途中に、素材W2の翼面相当部位P2の剛性が急激に低下することを抑えることができる。
【0043】
従って、本発明の第2実施形態によれば、前述の本発明の第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0044】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、本発明の第1実施形態に係る翼面仕上げ方法によって仕上げられた翼部品M1、及び本発明の第2実施形態に係る翼面仕上げ方法によって仕上げられた翼車構成部材M2等の翼部材にも及ぶものである。
【符号の説明】
【0045】
10 仕上げ用エンドミル
10c 仕上げ用エンドミルの軸心
10A 小径の仕上げ用エンドミル
20 仕上げ用用エンドミル
20c 仕上げ用エンドミルの軸心
20A 小径の仕上げ用エンドミル
30 仕上げ用エンドミル
30c 仕上げ用エンドミルの軸心
40 仕上げ用エンドミル
40c 仕上げ用エンドミルの軸心
W1 素材
P1 翼面相当部位
P1a 翼面相当部位の前縁部
P1t 翼面相当部位の後縁部
P1b 翼面相当部位の背部
P1v 翼面相当部位の腹部
M1 翼部品
S1 翼面
S1a 翼面の前縁部
S1t 翼面の後縁部
S1b 翼面の背部
S1v 翼面の腹部
W2 素材
P2 翼面相当部位
P2a 翼面相当部位の前縁部
P2t 翼面相当部位の後縁部
P2b 翼面相当部位の背部
P2v 翼面相当部位の腹部
M2 翼車構成部材
S2 翼面
S2a 翼面の前縁部
S2t 翼面の後縁部
S2b 翼面の背部
S2v 翼面の腹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗加工済みの素材の翼面相当部位に仕上げ加工を施して、前記素材の前記翼面相当部位を翼部材の翼面に仕上げるための翼面仕上げ方法において、
仕上げ用エンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記仕上げ用エンドミルに切込み送りを与えて、前記仕上げ用エンドミルを前記素材の前記翼面相当部位の前縁部及び後縁部に沿って前記素材に対して相対的に送り移動させることにより、前記素材の前記翼面相当部位の前縁部及び後縁部に仕上げ加工を施して、前記素材の前記翼面相当部位の前縁部及び後縁部を前記翼部材の前記翼面の前縁部及び後縁部に仕上げる第1仕上げ工程と、
前記仕上げ用エンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記仕上げ用エンドミルに切込み送りを与えて、前記仕上げ用エンドミルを前記素材の前記翼面相当部位の前縁部側又は後縁部側から腹部及び背部のうちの一方に沿って前記素材に対して相対的に送り移動させることにより、前記素材の前記翼面相当部位の前記一方のみに仕上げ加工を施して、前記仕上げ用エンドミルを前記素材の前記翼面相当部位から離反させる第2仕上げ工程と、
前記第2仕上げ工程の終了後に、前記仕上げ用エンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記仕上げ用エンドミルに切込み送りを与えて、前記仕上げ用エンドミルを前記素材の前記翼面相当部位の後縁部側又は前縁部側から腹部及び背部のうちの他方に沿って前記素材に対して相対的に送り移動させることにより、前記素材の前記翼面相当部位の前記他方のみに仕上げ加工を施して、前記仕上げ用エンドミルを前記素材の前記翼面相当部位から離反させる第3仕上げ工程と、
前記第3仕上げ工程の終了後に、前記仕上げ用エンドミルに前記素材の前記翼面相当部位のスパン方向のピッチ送りを与えながら、前記第2仕上げ工程と前記第3仕上げ工程を交互に繰り返して実行することにより、前記素材の前記翼面相当部位の腹部及び背部を前記翼部材の前記翼面の腹部及び背部に仕上げる第4仕上げ工程と、を備えたことを特徴とする翼面仕上げ方法。
【請求項2】
前記素材の前記翼面相当部位の先端から基端にかけて複数の区間に区分し、複数の前記区間について、前記第1仕上げ工程と前記第2仕上げ工程と前記第3仕上げ工程と前記第4仕上げ工程とからなる一連の工程を実行することを特徴とする請求項1に記載の翼面仕上げ方法。
【請求項3】
翼面が請求項1又は請求項2に記載の翼面仕上げ方法によって仕上げたことを特徴とする翼部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−103290(P2013−103290A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247618(P2011−247618)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)