説明

耐水性ポリビニルアルコール系繊維よりなる農業用シート

【目的】 耐水性PVA系繊維からなる農業用不織布シートであって高強力かつ作物育成性良好で加えて防霧性、防露性に優れしかも低価格のものを提供する。
【構成】 耐水性PVA系繊維から構成された不織布からなり、該不織布の目付が25〜70g/m2、該不織布表面の5〜50%を占める部分が不織布全体に渉って連続相を形成する熱圧着部により熱接着されかつ、タテ方向とヨコ方向の平均裂断長が3km以上であり、かつタテ方向とヨコ方向の平均引裂強力が0.8kg以上である防霧性、防露性に優れた農業用シート。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は耐水性ポリビニルアルコール(以下PVAと略記)系繊維からなる農業用シートに関するもので、従来困難とされていた耐水性PVA系繊維からなる不織布シートであって、熱圧着によって不織布を構成するPVA系繊維が接着されており、高引張強力、かつ高引裂強力であってしかも通常の農業用不織布が有すべき保温性、通気性といった性能、加えて防霧性、防露性に優れ、しかも低価格を目的としたものに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、高強力、保温、防霜、通気、透湿、透光、低価格を目的とした農業用シート、例えば“べたかけ用”、“ハウス内張りカーテン用”、“トンネル用”、としてポリエステルやポリオレフィンの長繊維不織布、すなわちスパンボンド不織布がポリオレフィンや塩ビ、酢ビのフィルム素材と競って広く利用される様になってきた。これはスパンボンド不織布が、上記フィルム素材に比らべ、引裂強力の様な機械的物性で優れると同時に、通気性に優れており、保温性、透光性においても実用上大きな支障とならない事すなわち作物生育性が実用を満たす事が判明してきたからである。しかし、これらスパンボンド不織布は素材ポリマーがポリエチレンテレフタレート(以下PETと略記)やポリプロピレン(以下PPと略記)の様に疎水性のものに限られているため、前記フィルム素材に比べると少しはよいものの、ハウス内張カーテン用として使用した場合、昼間高温多湿となった後夜間から朝方にハウス内が低温になると凝縮水が不織布全体に水滴となって付着滴下したり、又再び朝日を受けてハウス内温度が上がると蒸発水が内張りカーテン内で霧状になって各種作業を低下させるという欠点を有しており、いわゆる防霧、防露、防滴の性能が良いとはいえない。そのためか、PETスパンボンドの片面にPVAの様な親水性樹脂を付着させたものが、防露、防滴、性能を改良した農業用シートとして提案されている。この様なシートでは、狙いとする性能は改良されるものの、その一方では通気性が大幅に低下し透光性も確実に低下してしまう。さらに、PVA樹脂付着加工をするためにシート価格が大幅にアップしてしまうという問題がある。
【0003】それに対して、PVA繊維を素材とした、短繊維不織布も長繊維不織布も既に公知であるが、いづれの場合も不織布を構成するPVA繊維の接着にはアクリル系、メラミン系、PVA系等のポリマーがケミカルバインダーとして単独又は複合して使用されている。この場合の工程はウェットプロセスとなるため、又再度乾燥する工程が必須となり、そのため処理速度を高速化できず、生産性を上げる事ができず得られるものはコストアップが避け難い。それに対して特公平5−40055号公報で、難溶性PVA系繊維ウェブを該ウェブに対して水を付与した後、圧着面積がウェブの5〜40%となるように部分圧着する事によって不織布接着を行ない難溶性PVA系繊維不織布を得る方法が提案されている。この方法では、難溶性PVA繊維の熱圧着不織布が得られるものの、この場合水分を付与したウェブをエンボス処理する事は、エンボスロール温度を一定に保つ事が非常に難しく、またウェブ全体を瞬間的に均一に所定温度にする事が難しく結果として接着が不均一つまり部分的に不織布強力にムラが出やすいという問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記の如く、従来技術では、耐水性PVA系繊維から構成された不織布シートでありながら、熱圧着によって不織布を構成するPVA系繊維が接着されていて、高引張強力かつ高引裂強力であって保温性や通気性が良好であるため作物生育性が良好であり、その上防霧性、防露性の性能にも優れしかも価格的にも安い理想的な農業用不織布、すなわち農業用シートを得る事はできなかった。本発明は不織布製造面および繊維素材物性面の両方から鋭意研究した結果耐水性PVA系繊維から構成された不織布からなり、熱圧着によって接着されていて、高引張強力かつ高引裂強力であって作物生育性が良好であり、その上防霧性、防露性に優れ、しかも低価格の農業用シートを見出したものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は耐水性PVA系繊維から構成された不織布からなり、該不織布の目付が25〜70g/m2、該不織布表面の5〜50%を占める部分が不織布全体に渉って連続相を形成する熱圧着部より熱接着されかつ、タテ方向とヨコ方向の平均裂断長が3km以上であり、タテ方向とヨコ方向の平均引裂強力が0.8kg以上である防霧性、防露性に優れた農業用シートである。更には温度230℃以下、線圧10kg/cmまたは面圧10kg/cm2以下で熱圧着することにより圧着可能であることを特徴とする上記記載の農業用シートである。
【0006】本発明でいう耐水性PVA系繊維とは、海島構造を有する多成分繊維であって、融点220℃以上であるPVA系ポリマーが海成分であり、融点又は融着温度が210℃未満の耐水性ポリマーが島成分をなすものである。海成分のPVA系ポリマーの融点が220℃未満の場合には、PVA系繊維は耐水性が不十分となって実用に供することが可能な繊維とならない。PVA系繊維の親水性の性質により吸湿性に優れて空気中から凝縮する水分を素早く吸収して霧の発生や結露の発生を抑えるが、水に溶けたり、濡れた場合に大きく収縮する事なく耐水性にも優れたものとなるためには海成分PVA系ポリマーの融点が225℃以上あると更に好ましい。本発明の耐水性PVA系繊維からなる農業用シートはハウス内張カーテン用に使った場合、昼間高温多湿となった後、夜間から朝方にかけて外気及びハウス内が低温になると空中の過飽和の水分が凝縮してシート全体に水滴となって付着する“結露”やそれから“滴下”したり、再び朝日を受けてハウス内温度が上昇すると蒸発水が内張カーテン内で霧状になって各種作業性を低下させるといった問題がない。すなわち“防霧性”“防露性”に優れたものとなる。この原因は本発明シートを構成しているPVA系繊維が親水性に富むものであることにある。
【0007】海成分PVA系ポリマーの具体例をあげると、重合度500〜24,000で、ケン化度が99〜100モル%の高ケン化度PVAである。重合度が1500〜4000、ケン化度が99.5〜100モル%であると耐水性及び熱圧着性の点でさらに好ましい。またエチレン、アリルアルコール、イタコン酸、アクリル酸、無水マレイン酸とその開環物、アリールスルホン酸、ピバリン酸ビニルの如く炭素数が4以上の脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン及び上記イオン性基の一部また全量中和物などの変性ユニットにより変性したPVAも包含される。変性ユニットの量は1モル%未満、好ましくは0.5モル%以下である。変性ユニットの導入法は、共重合でも後反応でも特別な限定はない。変性ユニットの分布はランダムでも、ブロックでも限定はない。ブロック的に分布させると結晶化阻害効果が小さく、ランダムより多く変性しても高融点を保ちうる。高ケン化度の高融点PVA系ポリマーを連続相とすることにより高融点ポリマー単独繊維に近い性能を得ることができ、また繊維の最表層を高融点ポリマーとすることにより、繊維製造工程における硬着を防止することが可能となる。
【0008】島成分ポリマーは融点又は融着温度(これらを含めて融点と称す)が210℃未満であらねばならず、島成分のポリマーの融点が210℃以上であると熱圧着温度が高くなり過ぎ、熱接着時海成分のPVA系ポリマーの配向性・結晶性を破壊して熱圧着後不織布強力の著しい低下を生じるので好ましくない。従って島成分ポリマーの融点は200℃以下にあるとより好ましく、190℃以下であると更に好ましい。融点を持たない耐水性の非晶ポリマーであっても、その非晶性ポリマーチップを所定温度に加熱し、0.1kg/cm2の圧力を10分間印加した際チップ同志が融着する最低温度を融着温度とした時、融着温度が210℃未満の耐水性非晶ポリマーは本発明の耐水性ポリマーに包含され、島成分耐水性ポリマーとして有効に用いることができる。島成分耐水性ポリマーの融点、あるいは融着温度(以下この温度も融点という語に含めて使用する)が200℃以下であるとより好ましく、190℃以下であるとさらに好ましい。さらに海成分と島成分の融点差が15℃以上であると、熱圧着時の繊維寸法変化が小さくなるので好ましい。融点差が30℃以上であるとより好ましく、50℃以上であるとさらに好ましい。融点が210℃未満の耐水性ポリマーは低配向、低結晶性であるため、繊維のマトリックスである海成分に用いると、低強度、低耐熱性となるので不都合である。また低融点ポリマーが繊維最表面に存在すると繊維製造工程において硬着し易く、この点からも低融点ポリマーは島成分とすることが必要である。
【0009】本発明にいう融点210℃未満の耐水性ポリマーの具体例としては、エチレン/ビニルアルコールコポリマー(モル組成比=50/50〜20/80)、エチレン/酢ビコポリマー(モル組成比=92/8〜20/80)、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、炭素数3〜20の脂肪酸のビニルエステルで変性されたPVA、変性アクリル樹脂、ポリイソプレンなどの炭化水素系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーなどがあげられる。とりわけ、PVA系繊維への優れた熱接着性、性能再現性(安定性)、コストの点で、エチレン/ビニルアルコールコポリマー(モル組成比=50/50〜20/80)、エチレン/酢ビコポリマー(モル組成比=92/8〜20/80)のPVA系ポリマーが有用である。
【0010】海成分/島成分の重量比は98/2〜55/45の範囲が好ましい。海成分の高融点PVA系ポリマーが55%より少ないと高強度繊維が得られない。またこの高融点PVA系ポリマーが55%より少なくなり、低融点耐水性ポリマーが45%より多くなると、低融点耐水性ポリマーが海成分となる傾向になり、硬着の点で好ましくない。一方、低融点耐水性ポリマーが2%より少ないと、実用に耐える熱圧着性能を得ることができない。強度と熱圧着性のバランスより、海/島ブレンド比が95/5〜60/40であるとより好ましく、92/8〜70/30であるとさらに好ましい。
【0011】また島成分の低融点ポリマーは繊維の最表層に存在することは好ましくないが、最表層近くに存在することが好ましい。最表層近辺での海成分の最小厚み(島成分の低融点ポリマーの繊維最表面までの最近接距離)は、熱圧着時最表層の高融点PVA系ポリマーが破れ、島成分の低融点耐水性ポリマーが表面に押し出され接着力を得るために関係する。最表層より0.01〜2μの内側に島成分の少なくとも一部を存在させることが好ましい。島成分は繊維断面方向に均一に分布させてもよいが、表面側により集中して分布させることが好ましい。また島成分は繊維軸方向に連続であってもよいが、必ずしも連続である必要はなく、球状或いは断続した細長い棒状あるいはラグビーボール状であってもよい。
【0012】このような海島構造繊維は、例えば海成分ポリマーと島成分ポリマーをジメチルスルホキシド等の有機溶媒に溶解し、これを紡糸原液として、メタノールやエタノールやアセトン、あるいはこれらと該有機溶媒の混合液からなる凝固浴中に湿式紡糸あるいは乾湿式紡糸し、得られた紡糸原糸を湿延伸、乾燥、乾熱延伸し、さらに必要により熱処理することにより得られる。この様な耐水性PVA系繊維の製造は例えば本発明者等が既に提案している特願平6−68543号に記載の方法により製造される。
【0013】次に本発明の農業用シートを構成する不織布において重要な点として目付が25g/m2〜70g/m2である事がある。すなわち目付が25g/m2より小さくなると不織布引張及び引裂強力が小さくて、例えばハウス内張カーテンとして使用する場合、自動開閉機で開閉を繰り返す時などその張力によって破れてしまうとか、又保温効果や吸湿吸水性による防露、防滴効果が十分発揮されないという問題がある。一方、目付が70g/m2より大となると不織布の光透過性が不足となってしまうためか作物の生育性が劣り本発明の目的とする“ハウス内張カーテン用”“トンネル用”農業シートとしては不適となる。又経済性、すなわち不織布コストも高くなって不適当である。
【0014】又、次に本発明の農業用シートにおいて重要な点として、該不織布の表面の5〜50%を占める部分が不織布全体に渉って連続相を形成する熱圧着部により熱圧着されたものである事がある。熱圧着部が不連続、例えば「点状」、「四角状」、「円形状」のエンボス形状の場合(図1(c)参照)には本発明の効果は得られない。すなわち不織布へ引張や引裂の外力が加わった場合、熱圧着部へ応力が集中するため十分な強力を有する不織布とはならない。本発明においては、不織布を構成する繊維は長繊維、短繊維のいづれのタイプも含むものであるが、短繊維の場合、この様な傾向が大である。本発明のように熱圧着部が不織布全体に連続相を形成している場合には、各種外力が不織布全体に分散するため不織布を構成する繊維が長繊維でも短繊維のいづれであっても十分な強力が得られる。かかる熱圧着部は連続相を形成していればどの様な形態を有していてもよいが、好ましい連続相の形態としては、図1(a)、(b)のようなものが挙げられる。なお、これは連続相の形態を模式的に示したものであり、便宜上本発明で規定する熱圧着部の面積割合を有していない場合もある。また本発明の効果を損なわない程度であれば、部分的に不連続な熱圧着部を有していてもよい。さらに、熱圧着部の占める面積割合が5%未満の場合は、不織布強力発現の主体となる熱圧着部が少なすぎて十分な不織布強力が得られない。逆に熱圧着部が50%を越えて大きくなると不織布の通気性が低下して農業用シートとしてはフィルム素材と違って通気性に富む事から特別な換気操作がフィルム素材に比べてはるかに少なくて良いという特徴が失なわれてしまう。従って、本発明の農業用シートにおいては、不織布の表面の5〜50%を占める部分が不織布全体に渉って連続相を形成する熱圧着部によって熱圧着されていなければならない。
【0015】更に本発明の農業用不織布において肝要な点としてタテ方向とヨコ方向の平均裂断長は3km以上ありかつタテ方向とヨコ方向の平均引裂強力が0.8kg以上である事である。タテ方向とヨコ方向の平均裂断長が3km未満であるとかタテ方向とヨコ方向の平均引裂強力が0.8kgに満たない時には、実使用において不織布を展張したり、取外しする作業、とりわけハウス内で自動開閉器で繰返し開け閉めする作業中にかかる張力やカーテンを支える針金にひっかけた場合、不織布が簡単に破れを頻発する。この様なトラブルを防止するため不織布のタテ方向とヨコ方向の平均裂断長が3km以上でありかつタテ方向とヨコ方向の平均引裂強力は0.8kg以上でなければならない。このような平均裂断長および平均引裂強力を満足するためには、不織布を構成する繊維として高強力のものを用いる、不織布の目付を高める、繊維間の接着力を高める等の方法を用いればよい。
【0016】次に本発明の農業用シートにおいて大事な事として、該シートを構成する不織布は温度230℃以下、線圧10kg/cmまたは面圧10kg/cm2以下で熱圧着する事により圧着可能である事がある。本発明の農業用不織布が実用に供される場合、その多くは、“ハウス”や“トンネル”の大きさに合わせるために裁断、継ぎ合わせ等が行なわれる。この継ぎ合わせにおいて不織布が熱圧着性を有していない場合、ミシン縫製や化学接着を用いて加工しなければならない。これでは、加工速度、安全性、衛生性の点で熱圧着加工すなわちヒートシール加工に比らべて劣ったものとなってしまう。それに対して該農業用不織布が熱圧着する事ができれば、高速、安全、衛生的な工程で継ぎ加工が可能となる。就中、温度230℃以下、線圧10kg/cm、または面圧10kg/cm2以下で熱圧着できれば、該継ぎ加工が汎用のヒートシーラーで容易に実施できる。従って、本発明の農業用シートは温度230℃以下、線圧10kg/cmまたは面圧10kg/cm2以下で熱圧着可能である事が好ましく、より好ましくは温度200℃以下、線圧5kg/cmまたは面圧5kg/cm2以下、更に好ましく温度160℃以下、線圧3kg/cmまたは面圧3kg/cm2以下である。
【0017】次に本発明の耐水性PVA系繊維から構成された不織布からなる農業用シートの製造方法について記載する。すなわち、本発明の農業用シートを構成する耐水性PVA系繊維は、本発明者等が既に提案している特願平5−265022号に記載の方法によって短繊維不織布用の短繊維タイプすなわち“ステープル”が、又、同様に本発明者等が既に提案している特願平6−68543号に記載の方法によって長繊維不織布用の長繊維タイプすなわち“フィラメント束”が製造できる。
【0018】本発明のシートを構成する農業用不織布のうち短繊維不織布は上記“ステープル”を汎用のカードタイプのウエバーにより短繊維ウエブとした後下記する方法で熱エンボス接着する事により製造できる。又、本発明の農業用シートを構成する不織布のうち長繊維不織布は、上記“フィラメント束”を本発明者等が特開平5−125648号で提案した方法により開繊、交絡、捕集して、巾方向に目付変動率の小さい連続フィラメントウエブすなわち長繊維ウエブ化した後、やはり下記する方法で熱エンボス接着する事により製造できる。すなわち上記の様に得られた、短繊維タイプウエブも長繊維タイプウエブも、ロールの圧着部が連続相をなしかつ圧着部の占める面積割合が5〜50%のエンボスロールでロール温度150℃以上230℃以下線圧1kg/cmまたは面圧2kg/cm2以上、線圧100kg/cmまたは面圧200kg/cm2以下処理する事によって、それぞれ本発明の農業用長繊維不織布シート及び農業用短繊維不織布シートとなすことができる。
【0019】本発明によって得られる耐水性PVA系繊維からなる不織布シートは、熱圧着によって不織布を構成するPVA系繊維が接着されていて、高引張強力かつ高引裂強力であってしかも、農業用不織布として先ず具備すべき保温性、通気性といった性能の結果としての良好な作物生育性に加えてPVA系繊維の親水性に起因する防霧性、防露性に優れていてしかも低価格であるため、各種の農業用途に好適に使用する事ができる。
【0020】
【実施例】次に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例中%は特にことわらない限り重量にもとづく値である。実施例、比較例中の不織布の強度および伸度はインストロン引張試験機で試料つかみ幅を2.5cm、試料つかみ間隔10cm、引張速度5cm/分で測定した。引裂強力はシングルタング法で測定した。防霧性は、作製した各農業用不織布をハウス内にカーテン状に張って使う“ハウス内張りカーテン”として使用しその内でコマツナの栽培を行ない、その際のカーテン内の霧の発生状況により評価した。又防露性は同様の実使用時に農業用不織布シートへの水滴付着と落下状況を観察評価した。更に作製した各農業用不織布シートの作物生育性は上記実用栽培において、種からの発芽率及び作物の収穫量を調査し良否を判定した。実使用時の機械的物性は内張カーテンを1日3回づつ巻き上げおよび巻き降しをして、不織布の破れやほつれ、ももけ等の発生状況を観察して評価した。以上の防霧性、防露性、生育性、不織布の実用機械物性は良いものから不良のものまで◎、○、△、×の4段階評価した。◎、○は実用性ありで△、×は実用性なし。通気性はフラジール法(JIS L−1096 6.27A法)で測定した。透光率はJIS K7105 5.5により全光線透過率として測定した。
【0021】実施例1重合度2400、ケン化度99.8モル%で融点が235℃のPVAと重合度940、融着温度50℃以下のエチレン/酢ビ=32/68(モル比)コポリマー(以下EVACと略記)をPVA/EVAC=90/10の比で混合、湿式紡糸、乾熱延伸により、耐水性PVA系繊維1000d/500fのフィラメント束を得た。この時フィラメント束には撚りが入らぬよう巻取を行なった。得られた繊維の断面は、PVAが海成分、EVACが島成分となっており、島成分の多くが繊維表層部に分れて存在しており、島成分は繊維表面には露出していなかった。このフィラメント束を特開平5−125648号で本発明者等提案の方法により、開繊、捕集して目付45g/m2のPVA系長繊維ウエブを得、これを圧着部が図1(a)に示される「織目柄」と称す連続相をなす圧着部面積比20%のエンボスロールを用いてロール温度210℃、ロール線圧30kg/cm、処理速度40m/分の条件で熱接着してPVA系長繊維不織布を得た。不織布物性は表2に示す様に本発明を満足するものとなった。この不織布は160℃、線圧2kg/cmで熱圧着する事で、所定の巾、長さのハウス内張りカーテン用に加工する事ができた。得られたハウス内張りカーテンを無加温のハウス内で使用してコマツナの栽培を種播段階から収穫まで行なってその実用性能評価を行なった。結果は表3に示すが本発明を満足する農業用不織布は作物の生育性良好で、不織布の実用機械物性良好で、防霧性、防露性にも優れたものとなった。
【0022】実施例2実施例1においてPVAとEVACの比率を80/20に変更して得られた1000d/500fの耐水性PVA系繊維を100本集束して機械捲縮付与し51mm長切断してPVA系短繊維を得た。この繊維においてもPVAが海成分、EVACが島成分となっており、島成分の多くが繊維表層部に分れて存在しており、島成分は繊維表面に露出していなかった。これをランダムウエバーで処理して目付46g/m2のウエブを得、実施例1と同一条件でエンボス処理してPVA系短繊維不織布を得た。この不織布も実施例1と同様条件の熱圧着処理ハウス内張カーテンに加工し、同様の実用評価を行なった。結果は表2および3に示すが、実施例1と同様、農業用不織布として、作物の生育性良好、実用に耐える機械物性と防霧性、防露性に優れたものとなった。
【0023】実施例3実施例1において、不織布目付を65g/m2に又エンボス部圧着面積割合を30%に変更してPVA系長繊維不織布を得た。又実施例1と同じ方法で農業用不織布して実用評価した。本発明を満たす本実施例では表2および3に示す様に良好な実用結果がえられた。
【0024】実施例4実施例2において不織布目付だけを64g/m2に又エンボス部圧着面積割合を30%に変更してPVA系短繊維不織布を得た。又実施例1と同じ方法で農業用不織布として実用評価した。本発明を満たす本実施例では表2および3に示す様に良好な実用結果がえられた。
【0025】比較例1極限粘度=0.08のポリエチレンテレフタレート(以下PETと略記する)を溶融紡糸後、ローラープレート延伸して1000d/500fの無撚のPETフィラメント束を得た。これを用いて実施例1とエンボス温度235℃とする以外全く同じ方法で目付44g/m2のPET長繊維不織布を得た。この不織布を用いて実施例1と同様の農業用不織布としての実用評価を行なった。結果は表2および3に示すが、本発明を満たさない本比較例では防霧性、防露性不良となった。
【0026】実施例5実施例1と全く同様の条件で不織布目付だけを31g/m2へ変更したPVA系長繊維不織布を得た。又実施例1と同じ方法で農業用不織布として実用評価した。結果は表2および3に示す様に本発明を満たす本実施例では良好な実用結果が得られた。
【0027】比較例2実施例1と全く同様の条件で不織布目付だけを22g/m2へ変更したPVA系長繊維不織布を得た。又実施例1と同じ方法で農業用不織布として実用評価を行った。結果は、表2及び3に示す様に本発明を本発明を満たさない本比較例では、生育性と実用機械物性不良となった。
比較例3実施例1と全く同様の条件で不織布目付だけを77g/m2へ変更したPVA系長繊維不織布を得た。又実施例1と同じ方法で農業用不織布として実用評価した。表2および3に示す様に本発明を満たさない本比較例では光の透過性と通気性が小さいためか生育性不良となった。
【0028】実施例6実施例2と全く同様の条件で不織布目付だけを33g/m2へ変更したPVA系短繊維不織布を得た。又実施例2と同じ方法で農業用不織布として実用評価した。表2および3に示す様に本発明を満たす本実施例では良好な実用結果が得られた。
【0029】比較例4実施例2と全く同様の条件で不織布目付だけ21g/m2へ変更したPVA系短繊維不織布を得た。実施例2と同じ方法で農業用不織布として実用評価を行った。結果は表2及び3に示す様に本発明を満たさない本比較例では生育性と実用機械物性不良となった。
比較例5実施例2と全く同様の条件で不織布目付だけ80g/m2へ変更したPVA系短繊維不織布を得た。又実施例2と同じ方法で農業用不織布として実用評価した。表2および3に示す様に本発明を満たさない本比較例では生育性不良となった。
【0030】比較例6実施例1においてエンボス部圧着面積割合を3.5%に変更したPVA系長繊維不織布を得た。実施例1と同じ方法で農業用不織布として実用評価した。表2および3に示す様に本発明を満たさない本比較例では実用機械物性不良となった。
【0031】比較例7実施例1においてエンボス部圧着面積割合を55%に変更したPVA系長繊維不織布を得た。実施例1と同じ方法で農業用不織布として評価した。表2および3に示す様に本発明を満たさない本比較例ではタテヨコ平均引裂強力が小さく、通気度が小さいためか、生育性が不良で実用機械物性不良となった。
【0032】比較例8実施例1において、エンボスにおけるエンボスロールを「正四角柄」と称す不連続点状のエンボス点(1辺0.8mmの正方形、図1(c)参照)有し圧着部の面積割合が20%を用いる様条件変更してPVA系長繊維不織布を得た。実施例1と同じ方法で農業用不織布として実用評価した。表2および3に示す様に本発明を満たさない本比較例では、実用機械物性が不良となった。
【0033】
【表1】


【0034】
【表2】


【0035】
【表3】


【0036】
【発明の効果】本発明により、従来困難とされていた耐水性PVA系繊維からなる農業用不織布でありながら、熱圧着によって不織布を構成するPVA系繊維が接着されており、高引張強力、かつ高引裂強力であって、通常の農業用不織布素材が具備すべき保温性、通気性、透光性といった性能により発現する作物生育性が良好であると同時に加えて防霧性、防露性に優れ、しかも低価格であるというものが実現される。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(a)及び(b)は熱圧着部が連続相を有するエンボスローラーの具体例であり、図1(c)は熱圧着部が不連続なものの一例である。なお、斜線部は熱圧着部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 耐水性ポリビニルアルコール系繊維から構成された不織布からなり、該不織布の目付が25〜70g/m2、該不織布表面の5〜50%を占める部分が不織布全体に渉って連続相を形成する熱圧着部により熱接着され、かつタテ方向とヨコ方向の平均裂断長が3km以上でありかつタテ方向とヨコ方向の平均引裂強力が0.8kg以上である農業用シート。

【図1】
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