説明

耐汚染性に優れた塗装板及びその製造方法

【課題】 耐汚染性の向上した塗装板とその製造方法を提供すること。
【解決手段】 基板上に、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びホウ素から選ばれる1種以上の半金属元素もしくは金属のアルコキシド及び/又はそのような半金属元素もしくは金属のアルコキシドが加水分解して生じる部分重縮合物(A)を主体とする表層被膜と、(A)のアルコキシド及び/又はその部分縮合物と反応する官能基を持つバインダー樹脂(B)を主体とする下層被膜とを有する塗装板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐汚染性に優れた被膜を表層に有する塗装板とその製造方法に関する。汚れとしては、雨垂れによる汚染やその他屋外に放置することによるカーボン汚れの付着など、及び屋内での食品等による汚染が考えられ、本発明はそのような汚染に効果がある。
【0002】
本発明において耐汚染性に優れるとは、耐雨垂れ汚染(空気中の粉塵、カーボン等の付着)、耐食品汚染(カレー、からし、ジュース、タバコ(やに)等の付着)、耐熱油汚染(てんぷら油、食品油等の付着)、などに対して汚染され難いことを意味する。
【0003】
ここでの「塗装板」は、基板の少なくとも片面に塗膜を形成した板材料として定義され、基板としては、金属、紙、木材、合板等のほか、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を始めとする樹脂等の材料の板を使用することができる。
【背景技術】
【0004】
特許文献1には、オルガノシラン(式R1nSi(OR24-nで表される)及びその部分加水分解縮合物の一方又は両方と、特定のシリル基を有するウレタン樹脂との加水分解縮合反応物を基にした水性塗料組成物を塗布することにより、基材密着性、耐熱水性、耐アルカリ性、耐候性、耐汚染性等に優れた塗膜を形成することが開示されている。従来の塗料組成物の多くは有機溶剤系塗料であり環境上問題であったが、特許文献1の塗料は水性有機無機複合樹脂塗料である。
【0005】
特許文献2には、雨筋よごれの発生を防止するために水中でのオクタン接触角が102度以上である塗膜が記載されている。この塗膜は、(A)1〜3官能加水分解性シラン化合物の加水分解物、ケイ酸アルカリ塩又はコロイダルシリカであるケイ素化合物、(B)合成樹脂造膜成分、を含む表面処理剤の塗布により形成される。特許文献2の処理剤は、雨水による斑点汚れが発生し易い疎水性合成樹脂塗膜の表面に適用するのに好適である。
【0006】
特許文献3には、耐候性、耐水性、耐化学性、耐汚染性、耐傷付性に優れた塗膜を形成する上塗り塗料組成物が開示されている。この塗料組成物は、水酸基と反応できる官能基を有する硬化剤成分、環式化合物と水酸基の反応により得られ、末端に水酸基を有する樹脂成分、及びケイ素原子に直結した加水分解性アルコキシ基又はアリールオキシ基を有する化合物を含有する。
【0007】
特許文献4には、水の動的後退張力(Tr)が47dyn/cm以上である耐雨垂れ汚染性を有する外板塗膜が開示されている。この文献記載の塗膜は、アルコキシリル基を有する有機ポリマー及び有機ケイ素化合物の部分加水分解縮合物のうちの少なくとも1つと、フィルム形成性樹脂とを含む。
【0008】
特許文献5には、水の動的後退張力(Tr)が55dyn/cm以上である耐雨垂れ汚染性を有する外板塗膜が記載されている。この塗膜は、シラノール基とメトキシシリル基のモル比を規定したテトラメトキシシランの部分加水分解縮合物、フィルム形成性樹脂、及び粒径10〜100nmのオルガノシリカゾルを含む。
【0009】
特許文献6には、アルコキシシランの加水分解物とポリエステル樹脂とを含む液状配合物を金属表面に塗布し、乾燥することにより、耐候性、耐酸性、耐汚染性、耐擦傷性に優れた金属表面を得るコーティング方法が記載されている。
【0010】
特許文献1〜6に記載されている塗料はいずれも、耐汚染性の改善を狙ったもので、塗膜表面にある親水性のシラノール(SiOH)基の作用を利用して、表面に付着した汚染物質を雨水で洗い流すものである。特許文献1〜6における塗料は、いずれも造膜用樹脂(ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等)を含有している。
【0011】
食品等による汚染に対処する鋼板用塗料としては、例えば、特許文献7にポリエステル樹脂をイソシアネート系架橋剤で架橋させる塗料が記載され、特許文献8には、平均官能基数2.1〜2.6、数平均分子量8000〜22000、ガラス転移温度0〜30℃のポリエステル樹脂、メチル化メチロールメラミン樹脂、ブチル化メチロールメラミン樹脂、酸触媒、及びアミン化合物を必須成分とする塗装金属板用塗料組成物が記載されている。
【0012】
【特許文献1】特開2003−147266号公報
【特許文献2】特開平7−109435号公報
【特許文献3】特開2002−146295号公報
【特許文献4】特開平10−130581号公報
【特許文献5】特開平11−124518号公報
【特許文献6】特開平7−68217号公報
【特許文献7】特開昭63−301217号公報
【特許文献8】特開平8−100150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の耐汚染性塗料は、特許文献1〜6に記載されたように、有機シリケート化合物などの金属元素アルコキシド(ケイ素は一般に半金属に分類される元素であるが、ここでの説明においては、厳密を期して特に断らず単に「金属」という場合、それはケイ素を包含するものとする)を、造膜用バインダー(ポリエステル樹脂など)と混合して基板上に成膜するのが一般的である。
【0014】
このような耐汚染性塗料の問題点を以下に記す。
従来技術の耐汚染性塗料では、親水性を発現する有機金属化合物の加水分解物(シラノール等)が造膜用樹脂バインダー中に混合・埋没されてしまうために、良好な耐汚染性が得られない。
【0015】
SiOR基の加水分解・縮合反応によりSi−O−Si又はSi−O−C結合を生成させることによって硬化塗膜を形成する場合には、加水分解を受けて親水性のSiOH基を形成するSiOR基を塗膜中に残存させることが重要である。しかし、従来の塗料では、得られる塗膜の硬度を高めるために熱硬化を進めると、SiOR基が硬化反応で消費されるため、塗膜表面に充分な量のSiOR基が残留せず、加水分解反応によって得られる親水性のSiOH基の量が不充分となり、結果的に塗膜の親水性が保たれず、良好な耐汚染性を実現することができない。
【0016】
他方、塗膜表面の親水性を保つために、あえてSiOR基を塗膜中に残留させると、所望の塗膜硬度が得られないばかりか、塗膜内部でSiOR基の加水分解・縮合反応が経時的に起こり、その結果、塗膜クラックなどの欠陥が発生しかねない。
【0017】
金属アルコキシド(有機シリケート)化合物をバインダー樹脂へ固定し、加水分解を促進させる目的で、各種触媒が樹脂中に添加されるが、このように触媒を含む塗料は空気中で吸湿して硬化が始まるので、貯蔵安定性が極めて悪く、塗装作業性が悪化してしまう。
【0018】
使用する樹脂の改良、架橋剤配合の工夫により食品汚染に対処する特許文献7、8に記載された塗料も、益々厳しくなる需要家の要求を満たすのに十分ではない。
高価なフッ素系樹脂の使用が考えられるが、経済的に不利であるとともに、フッ素系樹脂は親油性を示すため、油汚れに対して弱いという問題がある。
【0019】
本発明は、上述の従来技術の諸問題を解決して、耐汚染性の向上した塗装板とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)基板上に、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びホウ素から選ばれる1種以上の半金属元素もしくは金属のアルコキシド及び/又は当該アルコキシドが加水分解して生じる部分重縮合物(A)を主体とする表層被膜と、(A)のアルコキシド及び/又はその部分縮合物と反応する官能基を持つバインダー樹脂(B)を主体とする下層被膜とを有することを特徴とする耐汚染性に優れた塗装板。
(2)表層被膜の被覆率が70〜100%であることを特徴とする、上記(1)に記載の耐汚染性に優れた塗装板。
(3)(A)のアルコキシド及び/又はその部分縮合物と反応する官能基を持つバインダー樹脂(B)がポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂及びウレタン樹脂から選ばれる1種以上であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の耐汚染性に優れた塗装板。
(4)バインダー樹脂(B)の(A)のアルコキシド及び/又はその部分縮合物と反応する官能基がメチロール基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基及びアルコキシル基から選ばれる1種以上であることを特徴とする、上記(3)に記載の耐汚染性に優れた塗装板。
(5)表層被膜の厚みが0.1〜5μm、下層被膜の厚みが0.5〜30μmであることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の耐汚染性に優れた塗装板。
(6)ケイ素、チタン、ジルコニウム及びホウ素から選ばれる1種以上の半金属元素もしくは金属のアルコキシド及び/又は当該アルコキシドが加水分解して生じる部分重縮合物(A)を主体とする表層被膜用の塗料と、(A)のアルコキシド及び/又はその部分縮合物と反応する官能基を持つバインダー樹脂(B)を主体とする下層被膜用の塗料を、基板上に塗布し、2つの塗料を同時に乾燥焼付けすることを特徴とする、上記(1)に記載の耐汚染性に優れた塗装板の製造方法。
(7)表層被膜用の塗料と下層被膜用の塗料を複層カーテン法により基板に同時に塗布することを特徴とする、上記(6)に記載の耐汚染性に優れた塗装板の製造方法。
(8)表層被膜用の塗料と下層被膜用の塗料を、スライドコータを使用する複層カーテン法により基板に同時に塗布することを特徴とする、上記(7)に記載の耐汚染性に優れた塗装板の製造方法。
(9)表層被膜の半金属元素もしくは金属のアルコキシド成分と触媒成分をスライドカーテンコーター上で混合させることを特徴とする、上記(8)に記載の耐汚染性に優れた塗装板の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の塗装板においては、ケイ素、ホウ素等の半金属元素もしくはチタン、ジルコニウム等の金属のアルコキシド及び/又はそのような半金属元素もしくは金属のアルコキシドが加水分解して生じる部分重縮合物(A)を主体とし、バインダー樹脂を含まないか、含むにしてもその量が少ない表層被膜が優れた耐汚染性を発現し、それに加えて、半金族又は金属アルコキシドの部分重縮合物自体の耐候性が良好なため、耐候性が向上するという付随効果も得られる。また、バインダー樹脂を主体とする下層被膜が表層被膜の密着性を確保する機能を果たす。そしてそれらの相乗効果として、本発明の塗装板は優れた耐汚染性を長期にわたり持続することができる。
【0022】
本発明の塗装板製造方法では、表層被膜用塗料と下層被膜用塗料の機能を分離し、双方をウェット状態で基板上に塗布してから、同時に乾燥焼付けするようにしていることから、表層被膜と下層被膜のそれぞれの機能を損なうことなしに、長期にわたり優れた耐汚染性を発揮する塗装板を得ることができる。特に、スライドコータを使用するような多層同時被覆を利用することができ、それにより2つの被膜用塗料を塗布の直前まで別々に保管できるため、塗料の保管が容易となり、塗布作業の効率が向上する。従来の耐汚染性塗装板を得るための塗装作業においては、有機シリケート等の金属アルコキシドと加水分解促進触媒(酢酸や塩酸等の酸や、アミン類、アルカリ金属の水酸化物等の塩基等)とバインダー樹脂を事前に1液に配合していたため、塗料の安定性が悪く、また経時劣化を起した塗料は廃棄されていた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の塗装板は、基板上に、表層被膜と下層被膜の複層構造の塗膜を有し、表層被膜は、ケイ素、ホウ素等の半金属元素もしくはチタン、ジルコニウム等の金属のアルコキシド及び/又はそのような半金属元素もしくは金属のアルコキシドが加水分解して生じる部分重縮合物(A)を主体とし、下層被膜は(A)のアルコキシド及び/又はその部分重縮合物と反応する官能基を持つバインダー樹脂(B)を主体とする。
【0024】
本発明に用いられる基板は特に限定されず、金属板、紙、木材、合板等のほか、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂板等を使用することができる。
【0025】
金属板としては、例えば鋼板、アルミニウム板、ステンレス鋼板、チタン板、銅板等が挙げられる。このうち鋼板の例として、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、亜鉛−鉄合金めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、クロムめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、錫めっき鋼板等が挙げられる。
【0026】
金属板には、必要に応じて前処理を施すことができる。前処理としては、水洗、湯洗、酸洗、アルカリ脱脂、研削、研磨、クロメート処理、リン酸亜鉛処理、複合酸化皮膜処理その他のノンクロメート型の処理等がある。これらを単独又は組み合わせて塗装前処理を行うことができる。塗装前処理の条件は適宜選択すればよい。
【0027】
本発明の塗装板における表層被膜は、半金属元素又は金属のアルコキシドとそのような半金属元素又は金属のアルコキシドの加水分解により得られる部分重縮合物の一方あるいは両方を主体とする塗料から形成される。すなわち、この塗料は、半金属元素又は金属のアルコキシド及びその部分重縮合物の一方あるいは両方を必須成分とし、必要に応じてその他の成分を含むことができる。
【0028】
半金属元素又は金属のアルコキシドは、一般式M(OR)nで表され、この式のMはケイ素、ホウ素等の半金属又はチタン、ジルコニウム等の金属を表し、Rは一般的にはアルキル基を表す。好ましいアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等である。nは金属元素や半金属元素の価数によって変化し、特に限定されるものではないが、2〜5程度のものが多い。また、(OR)の一部が、フェニル基などの他の基や、Fなどの元素で置き換えられた化合物も使用、併用することができる。
【0029】
金属のアルコキシドとしては、有機チタネート、有機ジルコネートが好適であり、半金属元素のアルコキシドとしては有機シリケート、有機ボロネートが好適であるが、どちらもこれらに限定されない。代表的な半金属元素のアルコキシドの例としては、シリコンテトラメトキシド、シリコンテトラエトキシド、シリコンテトラ−n−プロキシド、シリコンテトラ−sec−ブトキシド、ホウ素トリメトキシド、ホウ素トリエトキシド、ホウ素トリ−n−プロポキシド、ホウ素トリ−iso−ブトキシド、等を挙げることができる。代表的な金属アルコキシドの例は、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−iso−プロポキシド、チタンテトラ−tert−ブトキシド、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウム−n−ブトキシド、等である。
【0030】
単独のアルコキシド又はその部分重縮合物を使用してもよく、アルコキシド又はその部分重縮合物を混合して使用してもよい。
【0031】
上記以外の半金属元素又は金属のアルコキシドの使用も可能であり、例えば有機ボロネートなどは上述のアルコキシドの架橋剤として使用することができる。また耐熱性を向上するためにフェニルトリエトキシシランなどアルコキシ基の一部をフェニル基に置換したようなものを加えることもできる。また、フルオロトリエトキシシランなど、アルコキシ基の一部を他の元素に置き換えたものも使用できる。
【0032】
特に、有機ジルコネートは耐アルカリ性に優れるため、アルカリ性の汚染物に対して有効に作用する。有機ジルコネートは、耐汚染性を発現する塗料において今までほとんど利用されていない。その理由は、バインダー塗料中に配合した場合、塗膜表面に浮かないため、充分な親水性を発揮できなかったためと思われる。本発明では、バインダー樹脂を含む下層被膜の上に、バインダー樹脂を含まず、含むとしても従来よりもバインダー樹脂含有量の少ない、有機ジルコネート又はその部分重縮合物を有する上層塗膜が位置するため、従来のこの問題は解決する。
【0033】
本発明で使用する表層被膜用の塗料は、次の機構により表層被膜を形成する。
成膜の基本的な反応は、M(OR)n+n/2H2O→MOn/2+nROHで表される。水の存在下でアルコキシドが加水分解されてM−OHが生成し、これが重合することでMOn/2が形成されて、これが連続した皮膜を形成する。実際には、反応の条件によって複雑な挙動を示す。下層にM−OHと反応する官能基が含まれる場合には、この成膜の過程でこのM−OHとその官能基との反応が起こり、下層と表層とがより強固に密着し、耐久性が向上する。
【0034】
表層被膜用の塗料には、製膜性の向上や、塗布作業性(例えばカーテン塗布時の塗装カーテンの安定性)を向上させる目的で、固形分として少量のバインダー成分(A1)を添加してもよい。バインダーとして使用するのに好適な材料の例を挙げると、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、等である。
【0035】
表層被膜用塗料には、加水分解促進触媒(A2)として、各種アミン、アルカリ金属水酸化物等の塩基性物質を添加してもよい。加水分解促進触媒の添加量は、その触媒の種類、アルコキシド成分の含有量によって適宜選択すればよいが、一般的には塗料の固形分に対して0.05〜5質量%の範囲内が好適である。0.05質量%未満では触媒作用の発現に不足し、5質量%を超えると加水分解反応が急速となったり、皮膜としての性能、特に耐汚染性が低下することがあるので好ましくない。
【0036】
表層被膜用塗料には、更に、アルコキシシリル基の加水分解縮合反応を促進する触媒(A3)を配合してもよい。この触媒(A3)としては特に限定されず、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート等を挙げることができる。触媒(A3)の添加量は、得られる塗料組成物中、0.1〜10質量%が好ましい。0.1質量%未満であると、触媒の添加の効果を得ることができず、10質量%を超えると、加水分解縮合反応が早く起こりすぎて好ましくない。より好ましくは、1〜5質量%である。
【0037】
表層被膜用塗料には、有機溶剤(A4)を添加していてもよい。有機溶剤(A4)としては、貯蔵中のSiOR基の分解に配慮し、アルコール系有機溶剤あるいはグリコール誘導体などを使用するのが好ましい。2種以上の溶剤の混合物の使用も可能である。アルコール系有機溶剤として、例えば、ブタノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等を挙げることができる。グリコール誘導体としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等を挙げることができる。
【0038】
表層被膜の被覆率は70〜100%であることが好ましい。被覆率70%未満では、十分な耐汚染性の発現が困難である。
【0039】
本発明の塗装板における下層被膜は、表層被膜の塗料の必須成分(A)の半金属元素又は金属のアルコキシド、その部分重縮合物、又はその両方と反応することができる官能基を持つバインダー樹脂(B)を主体とする塗料から形成される。すなわち、この下層被膜用塗料は、そのような官能基を持つバインダー樹脂を必須成分とし、必要に応じてその他の成分を含むことができる。
【0040】
バインダー樹脂としては、ポリエステル、アクリル、フッ素、ウレタン樹脂等が好適である。2種以上のバインダー樹脂の混合物を使用することもできる。このバインダー樹脂は、(A)のアルコキシド、その部分重縮合物、又はその両方と反応することができる官能基として、メチロール基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基から選ばれる1種又は2種以上を含有する。
【0041】
下層被膜用の塗料には、必要に応じて、微粒子状の充填剤、顔料、その他の添加剤を添加してもよく、有機溶剤を添加してもよい。
【0042】
微粒子状の充填剤としては、例えば、SiO2、TiO2、Al23、Cr23、ZrO2、Al23・SiO2、3Al23・2SiO2、ケイ酸ジルコニア等の微粒子を使用することができる。顔料としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、各種焼成顔料、シアニンブルー、シアニングレー等の着色顔料や、炭酸カルシウム、クレー、硫酸バリウム等の体質顔料を使用することができる。このほかに、例えば、アルミニウム粉等の金属粉、シリカ、アルミナ等の艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、たれ防止剤、表面調整剤、粘度調整剤、分散剤、紫外線吸収剤、ワックス等の、通常の塗料において用いられる添加剤を使用することができる。同様に、有機溶剤も、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトンなどの、通常の塗料において用いられる一般的な溶剤を使用することができる。
【0043】
これまでの説明から明らかなように、本発明の塗装板においては、表層に半金属元素又は金属のアルコキシドが加水分解して生じる部分重縮合物を主体とし、SiOR基、TiOR基、ZrOR基などの親水性基を含有する塗料から形成した被膜を設ける。この塗料への表層被膜のバインダー樹脂の配合は最小限に留め、半金属元素又は金属のアルコキシドの種類や、製品の要求性能レベルに応じて、バインダー樹脂の配合がない場合もあり得る。これに応じて、表層被膜の半金属元素又は金属のアルコキシドの反応生成物が高濃度になるので、被覆率を70%まで低下させても所望の耐汚染性を維持できる。
【0044】
表層被膜の下層には、表層被膜の塗料の半金属元素又は金属のアルコキシドあるいはその部分重縮合物と反応する官能基を含むバインダー樹脂を主体とした塗料から形成した被膜を設ける。下層被膜用塗料のバインダー樹脂の反応性官能基は、上層被膜用塗料の半金属元素又は金属のアルコキシドあるいはその部分重縮合物と反応して、表層被膜との強固な結合を維持する。この反応は、上層及び下層用塗料の同時の加熱乾燥を行うことにより促進されて、更に強固な結合を形成する。従って、表層被膜用の塗料と下層被膜用の塗料は同時に加熱乾燥させるのが特に有利である。表層被膜と下層被膜の境界領域では相互拡散による混合が起こってもよい。
【0045】
半金属元素又は金属のアルコキシドあるいはその部分重縮合物を主体とした塗料から形成される表層の硬化被膜は、薄膜であっても優れた親水性を示し、上述の通り被覆率を70%まで低下させても所望の耐汚染性を維持できる。表層被膜の構成成分との反応性を備えた塗料から形成される下層被膜は、表層被膜との密着性に優れるため、表層の支持層としての役割を果たす。
【0046】
表層被膜の好適な厚みは平均厚みで0.1〜5μmである。0.1μmよりも薄い場合には、耐汚染性が十分確保できず、5μmよりも厚い場合には経済性に劣り、また加工性が低下する場合がある。表層被膜のより好ましい厚みは0.1〜1.0μmである。平均膜厚の測定には、公知の方法のいずれを用いてもよいが、簡便には、蛍光X線を用いて、膜厚を測定したいサンプルに含まれる半金属元素又は金属元素の強度を測定し、あらかじめ作成した検量線から、平均の膜厚を求めることができる。検量線は、あらかじめ重量法で測定した膜厚から求めることができる。蛍光X線法を用いずに、はじめから重量法で測定することも可能である。
【0047】
下層被膜の厚みは、加工性、耐食性、着色性などの性能から適宜決めればよいが、一般的に好適な膜厚は0.5〜30μmである。0.5μmよりも薄いと耐食性に劣り、30μmよりも厚いと経済性に劣るとともに、加工性が低下する場合がある。
【0048】
本発明の塗装板においては、バインダー樹脂を含まないか含んだとしてもその含有量が少ない表層被膜が耐汚染性の機能を果たし、バインダー樹脂を主体とする下層被膜が表層被膜の密着性を確保する機能を果たす。これらに加えて、表層被膜には意匠性(被膜の着色による)、耐候性、加工成形性などの機能を付与し、下層被膜にも、意匠性(着色等による)、加工成形性、耐候性、耐食性などの機能を付与することが可能であり、これらの機能の付加により更に高機能の塗装板を得ることができる。
【0049】
上述の通り、表層被膜用及び下層被膜用の塗料は同時に加熱乾燥させるのが特に有利であり、そのためには複数の被膜用塗料の塗膜をともにウェット状態で形成する必要がある。このようなともにウェット状態の複数の塗膜を形成できる限り、どのような塗布方法を用いてもよいが、例えば、スライドコーター、スロットダイ、押し出しダイ等を用いる複層カーテンによる塗布が好適である。このほかに、ウエットオンウェットで塗布する方法を利用することもできる。表層被覆用の塗料あるいは下層被覆用の塗料はそれぞれ1種類である必要はない。たとえば、下層被覆用の塗料の皮膜の上に最表層被覆用塗料との密着性を向上するために、もう一種の表層被覆用塗料によって皮膜を形成してもよいし、下層被覆用について、その最表層にのみ表層被覆と反応する官能基を含む塗装を行い、下層被覆の下部は表層被覆と反応する官能基を含まない塗装をするなどが例示できる。
【0050】
カーテン塗布の場合、半金属元素又は金属アルコキシドあるいはその部分重縮合物を主体とする表層被膜用塗料の薄膜を単層カーテンで塗布することは、安定した薄膜が形成できないため困難である。ところが、バインダー樹脂を主とする下層被膜用塗料の薄膜と同時に複層カーテンで塗布すると、表層被膜用塗料の膜が薄くなっても安定して塗布できる。
【0051】
多層同時塗布法を利用する場合には、層の境界部分で層混合させない方法と層混合させる方法があるが、必要な性能と使用される塗料の種類によっていずれを選択してもかまわない。ウエットオンウェットの塗布法においても、複数の層の境界に混合層が形成されるようにしてもよい。
【0052】
表層被膜用の塗膜層と下層被膜用の塗膜層を同時に加熱乾燥する方法は、特に限定されず、例えば熱風、誘導加熱などを利用することができ、複数の方法を併用してもよい。放射線硬化型の塗膜層の場合、放射線照射を併用することも可能である。生産性の観点から、強制加熱乾燥による焼付けほど好ましくはないが、塗膜層は自然乾燥させてもよい。
【0053】
加熱による場合、基板温度を40〜250℃まで上げるのが一般的である。バインダー樹脂成分として耐熱性のものを使用した場合には、更に高い温度に加熱してもよい。とは言え、半金属元素又は金属アルコキシド成分がセラミック化すると加水分解されにくくなるので、加熱温度は350℃以下であることが好ましい。
【0054】
必要に応じて、別の塗料を金属板上に塗布し、硬化乾燥させることにより追加被膜を、例えば耐食性向上のための下塗り層、密着性向上のための下地処理層として、形成した後に、本発明の下層被膜と表層被膜を形成してもよい。追加被膜用の塗料しては、種類は特に限定されないが、ポリエステル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系等を挙げることができる。選択した塗料をロールコーター、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、静電塗装機、ハケ、ブレードコーター、ダイコーター等で必要な膜厚になるように塗装し、次いで常温放置であるいは熱風炉、誘導加熱炉、近赤外線炉、遠赤外線炉又はエネルギー線硬化炉等で硬化乾燥することによって追加被膜層が得られる。
【0055】
追加被膜層には、必要に応じて公知の顔料や添加剤を加えることができる。膜厚は任意であるが、塗装金属板においては1〜30μm程度、特に3〜12μmの乾燥膜厚が一般的である。乾燥条件は塗料の種類と得たい性能に応じて適宜選択すればよいが、熱風炉や誘導加熱炉、近赤外線炉等で最高到達板温150〜240℃、到達時間10〜200秒程度の条件が一般的である。追加塗膜層はなくてもよいし、1層であっても、多層であっても差し支えない。
【0056】
次に、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
亜鉛付着量60g/m2(片面当たり)の溶融亜鉛めっき鋼板にE300N(日本パーカライジング社製)を使って標準条件でノンクロメート下地処理を施し、その上にプライマーPDN1(日本ペイント社製ポリエステル樹脂系プライマー塗料)を乾燥膜厚5μmとなるように塗装し、標準条件で焼き付けて、基板を作製した。
【0058】
この基板上に、スライドコーターを用いて、下記の下層被膜用塗料A−1〜A−4を表1に示した乾燥膜厚となるように、そして上層皮膜用塗料として下記の塗料B−1〜B−3を同じく表1に示した乾燥膜厚となるように塗布した。塗布後、最高到達板温が240℃となる条件で熱風乾燥炉で焼き付けた。
【0059】
・塗料A−1: FLC7000(日本ペイント社製ヒドロキシル基含有ポリエステル樹脂系塗料、架橋剤としてメチロール基含有メラミン樹脂を含む。ベージュ色)
・塗料A−2: FLC1520(日本ペイント社製ブロック化イソシアネート基含有ポリエステル樹脂系塗料)
・塗料A−3:エバクラッド3000(関西ペイント社製エポキシ樹脂系塗料、硬化剤としてカルボキシル基含有ポリエステル系樹脂を含む)
・塗料A−4:WS4000(三井武田ケミカル社製シラノール基含有ウレタン樹脂)にコロイダルシリカ(日産化学社製スノーテックスN)を固形分質量比で100/20添加した塗料)
【0060】
・塗料B−1: テトラエトキシシラン/ジメチルメトキシシラン/テトラメトキシジルコン=50/40/10(モル比)の重縮合物(重量平均分子量1500)
・塗料B−2: テトラエトキシシラン/ジメチルメトキシシラン=80/20(モル比)の重縮合物(重量平均分子量2000)
・塗料B−3: テトラメトキシシランの重縮合物(重量平均分子量2200)
【0061】
比較例として、上記の基板上に、次の塗料C−1、C−2を乾燥膜厚18μmとなるようにそれぞれ塗布して塗装被膜を形成した。
・塗料C−1:100質量部のFLC7000にテトラメトキシシランの重縮合物(重量平均分子量2200)を10質量部添加
・塗料C−2: FLC7000をそのまま使用
【0062】
形成した塗装被膜の被覆率を次の方法により測定した。X線マイクロアナリシス(EPMA)法を用いて評価面のマッピングを行い、あるしきい値を設けてそのしきい値よりも元素濃度の濃い領域を被覆されているとし、被覆率を求めた。
【0063】
被覆率の具体的な測定方法は次のとおりであった。
被覆率の測定には、電子プローブ微小分析(Electron Probe Micro Analysis(EPMA))による半金属元素又は金属元素の面分析を用い、膜厚が十分に厚く、被覆率がほぼ100%と考えられるサンプル中の当該半金属元素又は金属元素の強度分布と、測定対象のサンプル中の当該半金属元素又は金属元素の強度分布とを対比させて求めた。具体的には、サンプル表面の1mm角の領域について、EPMAのビーム径2μmで縦横各500点の升目状に、各測点の積分時間30msec、加速電圧10kVの条件で測定し、各点の測定強度を50カウント毎に分別して、各カウント数範囲の頻度を求めた(この作業は、EPMAを使用するComputer−aided Micro Analysisによって簡便に行うことができる)。まず、サンプルと同じ基板に当該表面被覆を十分な厚みに形成した。ここでいう十分な厚みとは、下地となる基板の被覆面の中心線平均粗さRaの2倍以上の平均厚み以上で、かつ2μm以上の平均厚みのことを言う。Raの2倍以上の平均厚みがあり、塗液のはじきなどの欠陥を生じていないことを、塗布直後の目視、あるいは塗布乾燥後のSEM観察等で確認すれば、被覆率はほぼ100%と考えてよい。また、EPMAの検出深さから、厚みが2μm以上あれば当該皮膜中の元素からの情報を主に捕らえていると考えてよい。厚みが2μm未満では、下地からの情報による誤差が大きくなる。この十分厚い当該表面被覆層を前述の条件でEPMA分析し、カウント数の範囲を50カウント毎に分別して各カウント数範囲の頻度を求めた。この頻度のメジアン値を、当該表面被覆層2μm(EPMAの測定深さを2μmとする)に対応するカウント数とした。次に、測定したいサンプルについて同じ条件でEPMA測定を行い、同様に50カウント毎の強度の頻度を求めた。サンプルの被覆率を求めるには、当該表面被覆層の厚みが0.1μm以上ある場所を被覆されていると考え、膜厚0.1μm以上値を示すカウント数範囲について、その頻度の合計の全体測定点数に対する割合を%で求め、これを被覆率と定義した。膜厚は、カウント数に比例するので、前に求めた2μm相当の膜厚のサンプルのカウント数の1/20のカウント数を0.1μmに相当するカウント数と考えて計算した。なお、カウント数範囲は50カウントあるので、この中心値をその範囲のカウント数とした。
【0064】
耐雨垂れ汚染性を次のように調べた。製造したプレコート鋼板を幅110mm長さ245mmに切断し、長さ方向が垂直になるように配置して長さ方向の上から100mmのところで評価面が上になるように折り曲げ(曲げRは10mm)、長さ方向の下部が垂直となるように屋外暴露用の架台に設置した。そのまま6ヶ月間暴露試験を行い、垂直面の雨だれのつき方を目視観察し、次の基準により評価した。
◎: 雨だれの筋なし
○: 雨だれの筋わずか
△: 雨だれの筋が明確に認識できる
×: 雨だれの筋が20mはなれた場所からも認識できる
【0065】
耐からし汚染性の評価は次のように行った。製造したプレコート鋼板を50mm角に切断し、評価面の約30mmΦの面積にエスビー食品社の和風ねりからしを塗りつけ、20℃で24時間放置した。放置後、水洗いし、からし塗りつけ部分の色を測定して、試験前との色差(△E)を求め、下記の基準で評価した。
◎: △E≦1.0
○: 1.0<△E≦2.0
△: 2.0<△E≦3.0
×: △E>3.0
【0066】
耐マジックインキ汚染性の評価は次のように行った。製造したプレコート鋼板を50mm角に切断し、評価面に赤色のマジックインキ(登録商標)で3本の線を描き、20℃の雰囲気中に24時間放置後、線をエタノールで拭き取った。インキの色残りを目視で判定し、下記の基準で評価した。
◎: 跡残りなし
○: わずかに色残り
△: 色残りあり
×: ほとんど消えない
【0067】
加工性の評価を次のように行った。製造したプレコート鋼板を、評価面が表側になるように折り曲げ加工し、曲げ加工部の塗膜の亀裂の発生状況を10倍のルーペで観察した。折り曲げの際に、同じ鋼板をT枚間に挟んで折り曲げ、亀裂の入らない最小の板枚数Tを求めた。例えば、0Tは板を挟まずに折り曲げても塗膜に亀裂が入らないことを意味し、2Tは板を2枚挟んで折り曲げても塗膜に亀裂が入らないが、板を1枚挟んで曲げると塗膜に亀裂が入ることを表す。
【0068】
JIS G 3312の方法で、塗膜に傷がつかない鉛筆硬度を求めた。
【0069】
評価結果を表1に示す。
実施例1〜3は、本発明のテトラエトキシシラン/ジメチルメトキシシラン/テトラメトキシジルコンのモル比50/40/10の重縮合物を表層とし、下層には架橋剤としてメチロール基含有メラミン樹脂を含むヒドロキシル基含有ポリエステル樹脂系塗料を、被覆率を変化させて塗布した。その結果表層被覆率の低下に伴って耐汚染性が悪くなる傾向が見られた。
実施例4〜5は、表層樹脂の種類を、テトラエトキシシラン/ジメチルメトキシシランのモル比80/20の重縮合物とテトラメトキシシランの重縮合物に変えた例であるが、表面被覆率を95%と高めに調節したため耐汚染性、加工性、鉛筆硬度ともに優れた成績を修めた。
実施例6〜8は、下層樹脂の種類を、ブロック化イソシアネート基含有ポリエステル樹脂系塗料と、硬化剤としてカルボキシル基含有ポリエステル樹脂を含むエポキシ樹脂系塗料とコロイダルシリカを配合したシラノール基含有ウレタン樹脂系塗料に変えた例であるが、耐汚染性はいずれも良好であった一方で、下層樹脂の特性から加工性に差が認められた。
実施例9〜14は、表層及び下層の膜厚を変化させてその影響を調べたものであるが、表層の膜厚が薄くなり被覆率が低下すると耐汚染性が低下することが分かる。
比較例1は、バインダー樹脂(ヒドロキシル基含有ポリエステル樹脂)にテトラメトキシシランの重縮合物を混合させたものを塗布したものであり、耐汚染性は本発明の実施例の多くのものほど良好ではないながらも必ずしも不足するとは言えない(用途により許容可能)であるものの、加工性が低下している。それに対し、実施例7は、加工性が比較例1のそれと同程度であるが、いずれの汚染物質に対しても優れた耐汚染性を示している。実施例9と11は、表層の膜厚が薄く、耐汚染性が比較例1のものと同程度であるが、加工性に優れている。アルコキシド成分を含有せずバインダー樹脂のみを塗布した比較例2は、すべての汚染物質に対して耐汚染性を示さなかった。
【0070】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の塗装板は、プレコートメタル(PCM)として各種用途に適応可能である。例えば、建築用材として、屋根、外壁、内装材、各種エクステリア、トンネル内装材、ガードレールなどに適用可能であり、各種機械部品の外装材、各種容器(缶、箱)、各種家電製品(冷蔵庫、洗濯機、空調設備)、調理器具、輸送機器(自動車、オートバイ)等にも適用可能である。
また、本発明の塗装板は、プレコートメタルに限らず、各種の汚れに対する耐汚染性を求められる紙、木材、合板、樹脂等の材料の基板に塗装を施した塗装板への応用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びホウ素から選ばれる1種以上の半金属元素もしくは金属のアルコキシド及び/又は当該アルコキシドが加水分解して生じる部分重縮合物(A)を主体とする表層被膜と、(A)のアルコキシド及び/又はその部分縮合物と反応する官能基を持つバインダー樹脂(B)を主体とする下層被膜とを有することを特徴とする耐汚染性に優れた塗装板。
【請求項2】
表層被膜の被覆率が70〜100%であることを特徴とする、請求項1に記載の耐汚染性に優れた塗装板。
【請求項3】
(A)のアルコキシド及び/又はその部分縮合物と反応する官能基を持つバインダー樹脂(B)がポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂及びウレタン樹脂から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の耐汚染性に優れた塗装板。
【請求項4】
バインダー樹脂(B)の(A)のアルコキシド及び/又はその部分縮合物と反応する官能基がメチロール基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基及びアルコキシル基から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項3に記載の耐汚染性に優れた塗装板。
【請求項5】
表層被膜の厚みが0.1〜5μm、下層被膜の厚みが0.5〜30μmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の耐汚染性に優れた塗装板。
【請求項6】
ケイ素、チタン、ジルコニウム及びホウ素から選ばれる1種以上の半金属元素もしくは金属のアルコキシド及び/又は当該アルコキシドが加水分解して生じる部分重縮合物(A)を主体とする表層被膜用の塗料と、(A)のアルコキシド及び/又はその部分縮合物と反応する官能基を持つバインダー樹脂(B)を主体とする下層被膜用の塗料を、基板上に塗布し、2つの塗料を同時に乾燥焼付けすることを特徴とする、請求項1に記載の耐汚染性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項7】
表層被膜用の塗料と下層被膜用の塗料を複層カーテン法により基板に同時に塗布することを特徴とする、請求項6に記載の耐汚染性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項8】
表層被膜用の塗料と下層被膜用の塗料を、スライドコータを使用する複層カーテン法により基板に同時に塗布することを特徴とする、請求項7に記載の耐汚染性に優れた塗装板の製造方法。
【請求項9】
表層被膜の半金属元素もしくは金属のアルコキシド成分と触媒成分をスライドカーテンコーター上で混合させることを特徴とする、請求項8に記載の耐汚染性に優れた塗装板の製造方法。

【公開番号】特開2006−82414(P2006−82414A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269845(P2004−269845)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】