説明

耐油性に優れたポリフェニレンエーテル樹脂組成物

【課題】変性PPE樹脂の耐薬品性と離型性を改善し、さらに耐衝撃性、成形流動性、耐熱劣化性にも優れた難燃性も有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】(1)ポリフェニレンエーテルとスチレン系樹脂との組み合わせより成る樹脂成分と、(2)特定の構造を有するビニル芳香族炭化水素とブタジエン化合物のブロック共重合体を特定部分的に水素添加された水素添加ブロック共重合体A、(3)ビニル芳香族炭化水素ブロックが特定範囲量結合したビニル芳香族炭化水素とブタジエン化合物との水素添加ブロック共重合体B、および(4)リン酸エステル系難燃剤を含有してなる樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテルとスチレン系樹脂との組み合わせよりなる樹脂成分、および水素添加ブロック共重合体を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテルまたはこれとスチレン系樹脂とを基本成分とする混合樹脂(以下、変性PPE樹脂)は、ポリフェニレンエーテルとスチレン系樹脂との混合比率により、スチレン系樹脂単独からポリフェニレンエーテル単独までの範囲で任意の耐熱性を有し、電気特性、寸法安定性、耐衝撃性、耐酸性、耐アルカリ性、低吸水性、低比重等の優れた特性を有するため多くの用途に使われており、用途例としては、電気・電子関係部品、事務機器部品、各種外装材、工業用品などが挙げられる。また、変性PPE樹脂は、有害性が問題と言われているハロゲン系化合物および三酸化アンチモンを用いずに難燃化が可能であり、環境や安全衛生面にも優れている。変性PPE樹脂の難燃剤として用いられるリン酸エステル系難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのモノリン酸エステル、レゾルシノールやビスフェノールAなどの2官能フェノールおよび多官能フェノールを原料とした縮合リン酸エステルなどが挙げられる。その中で、縮合リン酸エステル系難燃剤を用いた樹脂組成物は、モノリン酸エステル系難燃剤を用いた樹脂組成物に比較して、耐熱性に優れ、射出成形時の発煙や金型への難燃剤の付着等の問題点が少なく、需要が拡大していると言われている。
【0003】
しかしながら、縮合リン酸エステル系難燃剤は、モノリン酸エステル難燃性に比べて、引張り強度、曲げ強度および弾性率などの物性に代表される剛性が向上する反面、樹脂本来の耐衝撃性を低下させる。また、難燃効果が劣るため、より多量に添加する必要がある。そのために樹脂本来の耐衝撃性をさらに低下させることから、多量のエラストマーを添加するなどの衝撃改善が必要であった。変性PPE樹脂の、耐衝撃性改良には、熱可塑性エラストマーを添加することが従来から知られているが、加工温度が高いことから熱安定性(熱劣化性)に優れたエラストマーが用いられることが多い。そのような観点から、不飽和結合をほとんど有しないため耐熱劣化性に優れる水素添加されたスチレン−共役ジエン化合物のブロック共重合体を配合する手段が、一般に用いられている。また、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体において、共役ジエン化合物重合体ブロックの二重結合部を部分的に水素添加したブロック共重合体を配合することも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、変性PPE樹脂は、各種用途部品の潤滑油あるいは接着剤などに含まれる炭化水素化合物に対しての耐薬品性が十分でなく、使用範囲を制限されることがある。また、変性PPE樹脂は、射出成形法により加工されることが多いが、その際しばしば金型からの成型品の型離れの悪さが問題となる。これらの耐薬品性、離型性の改良は、従来から求められていた課題である。このような耐薬品性や離型性の改善要求に対して、従来からポリオレフィン樹脂を配合するなどの手段が取られていたが、変性PPE樹脂との相溶性が劣るため、耐衝撃性が低下するなど十分ではなく、なお一層の改善が要望されていた。
【特許文献1】特公平4−68343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の変性PPE樹脂の特性を保持しながら、耐薬品性と離型性を改善し、さらに耐衝撃性、成形流動性、耐熱劣化性にも優れた難燃性も有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、ある特定のビニル結合量を有するビニル芳香族炭化水素とブタジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加率を特定の範囲に制御した水素添加ブロック共重合体Aとビニル芳香族炭化水素ブロックが特定範囲量結合したビニル芳香族炭化水素とブタジエン化合物との水素添加ブロック共重合体Bとを含有する変性PPE樹脂組成物が上記課題を効果的に解決することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち本発明は、
[1](1)ポリフェニレンエーテルまたはポリフェニレンエーテルとスチレン系樹脂との組み合わせより成る樹脂成分 70〜98.5重量部、
(2)少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1個のブタジエン化合物を主体とする重合体ブロックを有するブロック共重合体の水素添加ブロック共重合体であって、
(a)水素添加前のブロック共重合体のブタジエン化合物に基づくビニル結合量が10〜70%、
(b)ブタジエン化合物に基づく不飽和二重結合の全水素添加率が40〜90%、
(c)水素添加前ブロック共重合体のビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位含有量が10〜60重量%、
である水素添加ブロック共重合体A 1〜15重量部、
(3)少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1個のブタジエン化合物を主体とする重合体ブロックを有するブロック共重合体の水素添加ブロック共重合体であって、水素添加前ブロック共重合体のビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位含有量が60重量%超え〜90重量%未満である水素添加ブロック共重合体B 0.5〜15重量部、および、
(1)、(2)および(3)の合計量100重量部に対して、(4)リン酸エステル系難燃剤 0〜40重量部を含有してなることを特徴とする耐薬品性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物、
[2](3)水素添加ブロック共重合体Bが、ブタジエン化合物に基づく不飽和二重結合の全水素添加率が40〜90%、水素添加前ブロック共重合体のビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位含有量が60重量%超え〜85重量%未満、である上記1に記載の耐薬品性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、変性PPE樹脂の耐薬品性と離型性を改善し、さらに耐衝撃性、成形流動性、耐熱劣化性にも優れた難燃性も有するポリフェニレンエーテルをベースとした樹脂組成物であり、産業上、大いに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いられる(1)ポリフェニレンエーテルは、一般式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
及び/または一般式(II)
【0012】
【化2】

【0013】
(上記一般式(I)及び(II)において、R1、R2、R3、R4、R5、R6は各々独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜9のアリール基またはハロゲン原子を表す。但し、R5、R6は同時に水素ではない。)で表される繰り返し単位を有する単独重合体、あるいは共重合体である。
【0014】
ポリフェニレンエーテルの単独重合体の代表例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル等のホモポリマーが挙げられる。
【0015】
この中で、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが好ましく、特開昭63−301222号公報等に記載されている、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニットや2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニット等を部分構造として含んでいるポリフェニレンエーテルは特に好ましい。
ここでポリフェニレンエーテル共重合体とは、フェニレンエーテル構造を主単量単位とする共重合体である。その例としては、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体あるいは2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノール及びo−クレゾールとの共重合体等がある。
【0016】
実用上特に好ましいのは、30℃のクロロホルム溶液で測定したηsp/cが0.3〜0.7の範囲、好ましくは0.4〜0.6の範囲にあり、且つゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の分子量を基準とした重量平均分子量/数平均分子量の比が2.2〜5.0の範囲、好ましくは2.3〜3.5の範囲にあるポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルである。このようなポリフェニレンエーテルは、成形流動性の観点から特に好ましい。
本発明においてはポリフェニレンエーテルの一部又は全部を、不飽和カルボン酸又はその官能的誘導体で変性された官能化ポリフェニレンエーテル樹脂を用いることができる。この官能化ポリフェニレンエーテルは、特開平2−276823号公報、特開昭63−108059号公報、特開昭59−59724号公報等に記載されており、例えばラジカル開始剤の存在下または非存在下において、ポリフェニレンエーテルに不飽和カルボン酸やその官能的誘導体を溶融混練して反応させることによって製造される。あるいは、ポリフェニレンエーテルと不飽和カルボン酸やその官能的誘導体とをラジカル開始剤存在下または非存在下で有機溶剤に溶かし、溶液下で反応させることによって製造される。
【0017】
不飽和カルボン酸又はその官能的誘導体としては、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ハロゲン化マレイン酸、シス−4−シクロヘキセン1,2−ジカルボン酸、エンド−シス−ビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸などや、これらジカルボン酸の酸無水物、エステル、アミド、イミドなど、さらにはアクリル酸、メタクリル酸などや、これらモノカルボン酸のエステル、アミドなどが挙げられる。また、飽和カルボン酸であるが官能化ポリフェニレンエーテルを製造する際の反応温度でそれ自身が熱分解し、本発明で用いる官能的誘導体となり得る化合物も用いることができ、具体的にはリンゴ酸、クエン酸などが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0018】
本発明においてポリフェニレンエーテルと組み合わせて用いられるスチレン系樹脂とは、スチレン系化合物、スチレン系化合物と共重合可能な化合物をゴム質重合体存在または非存在下に重合して得られる重合体である。
スチレン系化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられ、最も好ましいのはスチレンである。また、スチレン系化合物と共重合可能な化合物としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物類;無水マレイン酸等の酸無水物等が挙げられ、スチレン系化合物とともに使用される。共重合可能な化合物の使用量は、スチレン系化合物との合計量に対して20重量%以下が好ましく、さらに好ましくは15重量%以下である。
【0019】
また、ゴム質重合体としては共役ジエン系ゴムあるいは共役ジエンと芳香族ビニル化合物との共重合体あるいはエチレン−プロピレン共重合体ゴム等が挙げられる。具体的には特に、ポリブタジェンおよびスチレン−ブタジェン共重合体が好ましい。また、ゴム質重合体としては、部分的に水素添加された不飽和度80〜20%のポリブタジエン、または1,4−シス結合を90%以上含有するポリブタジエンを用いることが好ましい。該スチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレンおよびゴム補強ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)およびゴム補強スチレン−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)、その他のスチレン系共重合体等が挙げられる。好ましいのは、ポリスチレンおよびゴム変性ポリスチレンである。
【0020】
本発明において、ポリフェニレンエーテルとスチレン系樹脂との重量比率は、所望の耐熱性と難燃性を考慮して、100/0〜1/99の範囲で任意に選ぶことができるが、一般的な成形材料としての範囲は、10/90〜90/10の範囲、最も実用的な範囲は、20/80〜80/20の範囲である。
本発明に使用される成分(2)および(3)の水素添加ブロック共重合体は、少なくとも1個好ましくは2個以上のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1個のブタジエン化合物を主体とする重合体ブロックを有するブロック共重合体の水素添加物である。ビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−ターシャルブチルスチレン等のアルキルスチレン、パラメトキシスチレン、ビニルナフタレン等のうちから1種、または2種以上が選ばれ、中でもスチレンが好ましい。
【0021】
本発明に使用される成分(2)および(3)の水素添加ブロック共重合体について、水素添加前のブロック共重合体の製造方法としては、例えば特公昭36−19286号公報、特公昭43−17979号公報、特公昭46−32415号公報、特公昭49−36957号公報、特公昭56−28925号公報、特開昭59−166518号公報などに記載された方法が挙げられる。これらの方法により、ブロック共重合体は下記一般式で表されるブロック共重合体として得られる。
(A−B)n、A−(B−A)n、B−(A−B)n
(上式において、Aはビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックであり、Bはブタジエン化合物を主体とする重合体である。AブロックとBブロックとの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はない。又、nは1以上、一般に1〜5の整数である。)
【0022】
あるいは一般式
[(B−A)nm+1−X、 [(A−B)nm+1−X、 [(B−A)n−B]m+1−X、 [(A−B)n−A]m+1−X、
(上式において、A,B,nは前記と同じであり、Xは例えば四塩化ケイ素、四塩化スズ、エポキシ化大豆油、2〜6官能のエポキシ基含有化合物、ポリハロゲン化炭化水素、カルボン酸エステル、ジビニルベンゼン等ポリビニル化合物などのカップリング剤の残基又は多官能有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。また、mは1以上、一般に1〜10の整数である。)
【0023】
尚、上記において、ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックとはビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位を50重量%以上、好ましくは70重量%以上含有するビニル芳香族炭化水素とブタジエン化合物との共重合体ブロック及びビニル芳香族炭化水素単独重合体ブロックを示し、ブタジエン化合物を主体とする重合体ブロックとはブタジエン化合物由来の単量体単位が50重量%を超える量で、好ましくは70重量%以上含有するブタジエン化合物とビニル芳香族炭化水素との共重合体ブロック及びブタジエン化合物単独重合体ブロックを示す。
共重合体ブロック中のビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位は均一に分布していても、又テーパー状に分布していてもよい。又、該共重合体部分には、ビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位が均一に分布している部分及びテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個共存していてもよい。本発明で使用する水素添加ブロック共重合体は、上記一般式で表されるブロック共重合体の水素添加物を任意の割合で併用できる。
【0024】
本発明において、水素添加前のブロック共重合体中のブタジエン化合物に基づくビニル結合量は、10〜70%、好ましくは15〜60%、更に好ましくは25〜50%である。ここに、ビニル結合量とは、ブロック共重合体中に1,2−結合、3,4−結合及び1,4−結合の結合様式で組み込まれているブタジエン化合物のうち、1,2−結合及び3,4−結合で組み込まれているものの割合である。ビニル結合量が10%未満又は70%を超える場合は、水素添加ブロック共重合体とポリフェニレンエーテルおよびスチレン系樹脂との親和性が劣るため好ましくない。ビニル結合量は、ビニル化剤としてジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル化合物、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の第3級アミンなどを用いてブロック共重合体の製造時に調整することができる。
【0025】
本発明で使用する水素添加ブロック共重合体は、上記のブロック共重合体を水素添加すること(水素添加反応)により得られる。水素添加反応に使用される触媒としては、(1)Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系触媒、(2)Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩などの遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型触媒、(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一触媒が知られている。水素添加反応の具体的な方法としては、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特公昭63−4841号公報、特公平1−37970号公報、特公平1−53851号公報、特公平2−9041号公報に記載された方法が挙げられ、炭化水素溶媒中で水素添加触媒の存在下に水素添加して、水素添加物を得ることができる。その際、ブロック共重合体の水素添加率は、反応温度、反応時間、水素供給量、触媒量等を調整することによりコントロールできる。
【0026】
本発明に使用される(2)水素添加ブロック共重合体Aは、ブタジエン化合物に基づく不飽和二重結合の全水素添加率が40〜90%、好ましくは45〜85%、更に好ましくは55〜80%の範囲である。全水素添加率が40%未満では熱安定性が劣り、90%以上では耐薬品性、流動性、耐衝撃性が劣る。
更に、本発明では、水素添加ブロック共重合体AおよびBにおいて、水素添加前のブタジエン化合物に基づくビニル結合部の水素添加率を90%以上、好ましくは95%以上にすべきである。ビニル結合部の水素添加率が90%未満の場合には、熱安定性が劣るため好ましくない。ここで、ビニル結合部の水素添加率とは、水素添加前のブロック共重合体中に組み込まれているブタジエン化合物に基づくビニル結合量に対する、水素添加されたビニル結合量の割合を云う。
【0027】
なお、ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素に基づく芳香族二重結合の水素添加率については特に制限はないが、水素添加率を50%以下、好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下にすることが好ましい。水素添加率は、赤外分光光度計や核磁気共鳴装置(NMR)等により知ることができる。
本発明に使用される(2)水素添加ブロック共重合体Aの水素添加前のブロック共重合体におけるビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位の含有量は10〜60重量%、好ましくは15〜55重量%、更に好ましくは20〜45重量%の範囲である。ビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位の含有量が10重量%未満または60重量%を越える場合には耐薬品性、耐衝撃性が劣る。
【0028】
本発明で用いられる(2)水素添加ブロック共重合体Aのメルトフローレイト(ASTM D1238準拠:230℃、2.16kg荷重)は、10g/10分以下、好ましくは2g/10分以下である。MFRが10g/10分を越える場合には、耐衝撃性が劣る。メルトフローレイトの下限は、0.1g/10分以下は測定精度がなく数値として表すのは難しいが、0.1g/10分以下のものも本発明では用いられる。
本発明に使用される(3)水素添加ブロック共重合体Bの水素添加前のブロック共重合体におけるビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位の含有量は60重量%超え〜90重量%未満、好ましくは60重量%超え〜85重量%未満、特に好ましくは65重量%超え〜75重量%未満である。ビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位の含有量が60重量%未満および90重量%を越える場合は、水素添加ブロック共重合体Aとの併用効果が発揮されがたく、耐薬品性、耐衝撃性改善効果が十分でない。また、本発明に使用される(3)水素添加ブロック共重合体Bは、ブタジエン化合物に基づく不飽和二重結合の全水素添加率が40%以上、好ましくは40〜90%の範囲、更に好ましくは50〜80%の範囲である。全水素添加率が40%未満では熱安定性が劣り、耐薬品性、流動性、耐衝撃性が劣る。
【0029】
また、実用的な水素添加ブロック共重合体AおよびBとしての分子量は、GPCによる測定において、ピーク分子量が標準ポリスチレン換算で4万〜30万、好ましくは5万〜25万、更に好ましくは6万〜20万である。
上記のようにして得られた水素添加ブロック共重合体の溶液から、通常の方法で脱溶剤することにより、本発明の水素添加ブロック共重合体を得ることができる。必要に応じ、金属類を脱灰する工程を採用することができる。また、必要に応じ、反応停止剤、酸化防止剤、中和剤、界面活性剤等を用いてもよい。
本発明で使用する水素添加ブロック共重合体は、窒素、酸素、ケイ素、リン、硫黄、スズから選ばれる極性基含有官能基が重合体に結合した官能化重合体や水素添加ブロック共重合体を無水マレイン酸などの変性剤で変性した官能化ブロック共重合体も含まれる。
【0030】
また、本発明の水素添加ブロック共重合体には、軟化剤あるいは加工助剤として公知のナフテン系、パラフィン系のプロセスオイル及びこれらの混合オイルを配合できる。
本発明においては、本発明の範囲外の水素添加または非水素添加のビニル芳香族炭化水素と共役ジエン化合物とのブロック共重合体を、50%未満の範囲で併用することが可能である。
(2)水素添加ブロック共重合体Aとが1重量部未満では耐薬品性、耐衝撃性などの本発明の特性が発揮できず、15重量部を超えると剛性などの機械強度が低下するため好ましくない。好ましくは、2〜10重量部の範囲で用いられる。
【0031】
本発明の組成物には必要により、無定形ポリオレフィン、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのポリオレフィン系又は低分子量のビニル芳香族系熱可塑性樹脂;天然ゴム;ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、イソプレン−イソブチレンゴム、ポリペンテナマーゴム、及び、本発明以外のスチレン−イソプレン系ブロック共重合体などの合成ゴムを添加しても良い。
本発明で必要に応じて用いられる成分(4)のリン酸エステル系難燃剤は、難燃性を向上するのに添加されるものであり、変性PPE樹脂の難燃剤として一般的に用いられる有機リン酸エステルであればいずれも用いることができる。より好ましいのは、次式(III)
【0032】
【化3】

【0033】
または次式(IV)
【0034】
【化4】

【0035】
(式中、Q1、Q2、Q3、Q4は、各々置換基であって各々独立に炭素数1から6のアルキル基を表し、R1、R2は各々置換基であってメチル基を表し、R3、R4は各々独立に水素原子またはメチル基を表す。nは1以上の平均値を有し、n1、n2は各々独立に0から2の整数を示し、m1、m2、m3、m4は各々独立に0から3の整数を示す。)で示される縮合リン酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするものである。
なお、上記式(III)および(IV)で示される縮合リン酸エステルは複数の分子鎖より成り、それぞれの分子の各々については、nは1以上の整数、好ましくは1〜3の整数であり、全体としてnは1以上の平均値を有する。
【0036】
この中で、好ましい縮合リン酸エステルは、式(III)におけるm1、m2、m3、m4、n1、n2がゼロであって、R3、R4がメチル基である縮合リン酸エステル、および式(III)におけるQ1、Q2、Q3、Q4、R3、R4がメチル基であり、n1、n2がゼロであり、m1、m2、m3、m4が1から3の整数の縮合リン酸エステルであって、nの範囲は1〜3、特にnが1であるリン酸エステルを50重量%以上含有するものが好ましい。
これらの難燃剤は、一般に市販されており、例えば大八化学(株)の商品名CR−741、CR733S、PX−200(登録商標)等を挙げることができる。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、(1)ポリフェニレンエーテルとスチレン系樹脂との組み合わせより成る樹脂成分 70〜98.5重量部、(2)水素添加ブロック共重合体A 1〜15重量部、(3)水素添加ブロック共重合体B 0.5〜15重量部、および、(1)、(2)、(3)の合計量100重量部に対して、(4)リン酸エステル系難燃剤 0〜40重量部を含有してなることを特徴とする耐薬品性樹脂組成物であり、(2)水素添加ブロック共重合体Aと(3)水素添加ブロック共重合体Bとを併用することにより優れた組成物特性を得ることができる。その併用比は9/1〜1/9の範囲、好ましくは8/2〜3/7の範囲、より好ましくは8/2〜5/5の範囲である。(2)水素添加ブロック共重合体Aは、好ましくは1〜10重量部の範囲、より好ましくは2〜8重量部の範囲で用いられ、1重量部未満では耐薬品性、耐衝撃性などの本発明の特性が発揮できず、15重量部を超えると剛性などの機械強度が低下するため好ましくない。(3)水素添加ブロック共重合体Bは、好ましくは1〜10重量部の範囲、より好ましくは2〜8重量部の範囲で用いられ、0.5重量部未満では水素添加ブロック共重合体Aとの併用効果が小さく耐薬品性、耐衝撃性などの本発明の特性が発揮できず、15重量部を超えると水素添加ブロック共重合体Aとの併用効果においてそれ以上の効果は期待できず経済的に不利である。(4)リン酸エステル系難燃剤は、必要な難燃性のレベルにより任意の添加量とすべきものであるが、40重量部以上では耐熱性、耐衝撃性が著しく劣るため好ましくなく、好ましくは1〜35重量部の範囲、より好ましくは3〜30重量部の範囲で用いられる。
【0038】
本発明組成物には必要に応じて、ドリップ 防止剤を含んでいてもよい。このドリップ防止剤とは、燃焼の際に、ドリップ(滴下)を抑制する働きのある添加剤であり、公知のものが使用できる。ドリップ防止剤は、ポリフェニレンエーテルとスチレン系樹脂(回収スチレン系樹脂、バージン材も含む)との合計100重量部に対し、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部の範囲で添加される。
本発明では、特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などに代表されるポリフェニレンエーテル系樹脂中でフィブリル構造を形成するものがドリップの抑制効果が高いので好適である。このようなドリップ防止剤が含まれる樹脂組成物は特に難燃性に優れている。このようなポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の中でも、分散性に優れたもの、たとえば水などの溶液にPTFEを乳化分散させたもの、またアクリル酸エステル系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂等でPTFEをカプセル化処理したものは、変性PPE樹脂からなる成形体に、よい表面外観を与えるので好ましい。
【0039】
水などの溶液にPTFEを乳化分散させたものの場合、特に制限はないが、PTFEが1μm以下の平均粒子径であるものが好ましく、特に0.5μm以下であることが好ましい。このようなPTFEとして市販されているものの具体例としては、テフロン(登録商標)30J(三井デュポンフルオロケミカル(株)製)、ポリフロンD−2C(登録商標)(ダイキン化学工業(株)製)、アフロンAD1(登録商標)(旭ICI(株)製)などが挙げられる。
また、このようなポリテトラフルオロエチレンは、公知の方法によって製造することもできる(米国特許第2393967号明細書参照)。具体的には、ペルオキシ二硫酸ナトリウム、カリウムまたはアンモニウムなどの遊離基触媒を使用して、水性の溶媒中において、0.7〜7MPaの圧力下で、0〜200℃好ましくは20〜100℃の温度条件のもと、テトラフルオロエチレンを重合させることによって、ポリテトラフルオロエチレンを白色の固体として得ることができる。このようなポリテトラフルオロエチレンは、分子量が10万以上、好ましくは20万〜300万程度のものが望ましい。
【0040】
ポリテトラフルオロエチレンが配合された樹脂組成物は、燃焼時のドリップが抑制される。さらに、ポリテトラフルオロエチレンとシリコーン樹脂とを併用すると、ポリテトラフルオロエチレンのみを添加したときに比べて、さらにドリップを抑制し、しかも燃焼時間を短くすることができる。
本発明組成物に対して、必要により、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの安定剤を添加して、組成物の熱安定性や耐光性を向上させることができる。
【0041】
酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,4−ビス〔(オクチルチオ)メチル〕−o−クレゾール、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルべンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−〔1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ぺンチルフェニル)]アクリレートなどのヒンダードフェノール系酸化防止剤;ジラウリルチオジプロビオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ラウリルチオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどのリン系酸化防止剤などを挙げることができる。また、紫外線吸収剤、光安定剤としては、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤や2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系紫外線吸収剤、あるいはヒンダードアミン系光安定剤などを挙げることができる。
【0042】
本発明の樹脂組成物には、射出成形時の金型からの離型性改良剤として、ポリオレフィン単独重合体あるいは共重合体を添加することができる。特にポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体などを添加して、更に向上することができる。
本発明の樹脂組成物には、ガラス繊維、ガラスフレーク、カオリンクレー、タルク等の無機充填剤やその他の繊維状補強剤等を配合し、流動性と耐熱性に優れた高強度複合体を得ることができる。
また、従来から知られた各種難燃剤、難燃助剤、チャー化促進剤、例えば赤燐、上記以外の有機および無機の各種リン化合物、メラミン、メロンなどの環状窒素化合物やその誘導体、ホスファゼン化合物、ハロゲン化合物、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の水酸化物、ホウ酸亜鉛化合物、スズ酸亜鉛化合物、三酸化アンチモン、酸化鉄などの金属酸化物、さらにはシリカ、シリカアルミナなどの無機ケイ素化合物、テトラフルオロエチレン系ポリマー、シリコーン化合物、フェノール化合物やフェノール樹脂類、多価アルコール類、糖類などを添加することもできる。
【0043】
更に、一般的に用いられる着色剤としての有機または無機の各種染顔料、滑剤としてのパラフィンワックス、マイクロクリスタンワックス、低分子量ポリエチレンワックス、などのワックス類、高級脂肪酸、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸のエステル、高級アルコール等、各種帯電防止剤、導電性カーボン、各種可塑剤なども添加できる。
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に規定するものではなく、押出機、加熱ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練製造することができる。その中でも押出機による混練りが、生産性の面で好ましい。混練り温度は、ベース樹脂の好ましい加工温度に従えばよく、目安としては200〜360℃の範囲、好ましくは240〜320℃の範囲である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例によって本発明を説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
実施例および比較例で用いた各成分は以下のものである。
(1−a)ポリフェニレンエーテル(PPE)
30℃のクロロホルム溶液で測定したηsp/cが0.51、重量平均分子量/数平均分子量が2.8のポリ−2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル。
(1−b)ゴム補強ポリスチレン(HIPS)
ゴム含量9重量%、30℃、トルエン溶液で測定したマトリックスポリスチレンのηsp/cが0.70、体積平均ゴム粒子径が1.5μmのゴム補強ポリスチレン。
(2)および(3)水素添加ブロック共重合体の調製
攪拌機及びジャケット付きの内容量100lのオートクレーブを洗浄、乾燥、窒素置換し、予め精製したスチレン20重量部を含むシクロヘキサン溶液を投入した。次いでn−ブチルリチウムとテトラメチルエチレンジアミンを添加し、70℃で1時間重合した後、予め精製したブタジエン60重量部を含むシクロヘキサン溶液を加えて1時間、さらにスチレン20重量部を含むシクロヘキサン溶液を加えて1時間重合した。
【0045】
得られたブロック共重合体溶液の一部をサンプリングし、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−トをブロック共重合体100重量部に対して0.3重量部添加し、その後溶媒を加熱除去した。得られたポリマーは、スチレン含量が40重量%、ポリプタジエン部の1,2ビニル結合量が20重量%であった。尚、スチレン含有量は赤外分析法(IR)を用いて測定した。また、ビニル結合量は赤外分析法(IR)を用いて測定し、ハンプトン法により算出した。
次に、残りのブロック共重合体溶液を用いて、ジ−p−トリスビス(1−シクロペンタジェニル)チタニウムとn−ブチルリチウムを水添触媒として、温度70℃で水素添加を行いポリマー1を得た。ポリマー1は、水素添加率が65%であった。尚、水素添加率は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定した。また、水素添加率は、供給する水素ガス量を流量計で測定し、目標水添率を達成した時点でガスの供給を止めることでコントロールした。
得られたポリマー1は、溶媒を加熱除去し裁断した後、230℃、2.16kg下(ASTM D1238準拠)にてメルトフローレイトを測定したところ、8g/10分であった。
さらに、ポリマー1と同様の操作により、スチレン/ブタジエンの重量比、n−ブチルリチウムとテトラメチルエチレンジアミンの添加量、および水素添加率をコントロールして、ポリマー2〜6を作成した。準備した各ポリマーのポリマー構造を表1に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
準備した各ポリマー試料の水素添加後のビニル結合含量は、ほとんど0%であった。
(4)リン酸エステル
ビスフェノールAのビスジフェニルホスフェートを主成分とする縮合リン酸エステル。大八化学(株)製、商品名 CR−741(登録商標)。
【0048】
実施例および比較例において、組成物の評価は以下の方法により実施した。
1.アイゾッド衝撃強度
ASTM D256に準拠し、1/4インチ厚みの射出成形試験片にて23℃にて測定した。
2.流動性
加熱筒260℃、金型温度60℃に設定された射出成形機を用い、長さ4インチ×幅1/2インチ×厚み1/16インチの形状の成形品金型にて射出成形を行う。その際に、完全充填される直前の射出圧力をゲージから読みとった。射出圧力が低いほど流動性が良いことを意味する。
3.耐薬品性
ASTM D638に基づいて射出成形された1/8インチ厚みの引っ張り試験用試験片の中央部約100mmを切り出し、試験片表面における歪みが約0.5%になるように作られた円弧形状治具に隙間がないように密着させて固定した。次いで、試験片表面全体にサラダ油(日清オイリオグループ株式会社製、日清サラダ油(登録商標))を含ませた綿ガーゼを乗せて23℃下で放置し、120時間後の状態を観察した。実視判定により、破断したものは×、クラックはあるが破断しなかったものは△、微細なクラックが見られたものは○、ほとんど変化が無かったものは◎とした。
【0049】
4.難燃性
UL−94 垂直燃焼試験に基づき、1/16インチ厚みの射出成形試験片を用いて測定し、10回接炎時の合計燃焼時間と燃焼時の滴下物の有無を評価した。
5.耐熱性(荷重たわみ温度)
ASTM D648に基づき、1.82MPa下にて測定した。
6.離型性
射出成形により1/16インチ厚みの試験片を成形した際に、試験片およびランナーの金型からの型離れのし易さの程度を目視判定した。離型が良いものは、やや良くないものは△、離型がひどく悪いものは×で表した。
7.層剥離性
ASTM D638に基づいて射出成形された1/8インチ厚みの引張り試験片を用い、試験片を表裏交互に180度繰り返し屈曲させて表面層の剥離を実視観察した。表層の密着性がなく剥離が激しいものは×、表層の密着性はあるが剥離したものは△、剥離の兆候が見られるが問題にならない程度と思われるものは○、殆ど剥離の兆候が見られないものは◎とした。
【0050】
[実施例1〜6、比較例1〜5]
各成分を表1に示す割合で配合した。上記組成物中には、その他に、安定剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトを0.3重量部配合した。これらの配合組成のものを、加熱シリンダーの最高温度を300℃に設定したスクリュー直径25mmの二軸押出機に供給して、スクリュー回転数300rpmで溶融混練りし、ストランドを冷却裁断して樹脂組成物ペレットを得た。次に、得られた樹脂組成物ペレットを、加熱筒260℃、金型温度60℃に設定された射出成形機により成形し、上記試験法により評価し、表2の結果を得た。
【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の樹脂組成物は耐薬品性、耐熱性、流動性、耐衝撃性、難燃性、電気特性に優れており、特に耐薬品性、流動性に優れていることから、電気・電子関係の内部および外部部品、事務機器関係の内部および外部部品、各種外装材・工業用品に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリフェニレンエーテルまたはポリフェニレンエーテルとスチレン系樹脂との組み合わせより成る樹脂成分 70〜98.5重量部、
(2)少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1個のブタジエン化合物を主体とする重合体ブロックを有するブロック共重合体の水素添加ブロック共重合体であって、
(a)水素添加前のブロック共重合体のブタジエン化合物に基づくビニル結合量が10〜70%、
(b)ブタジエン化合物に基づく不飽和二重結合の全水素添加率が40〜90%、
(c)水素添加前ブロック共重合体のビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位含有量が10〜60重量%、
である水素添加ブロック共重合体A 1〜15重量部、
(3)少なくとも1個のビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1個のブタジエン化合物を主体とする重合体ブロックを有するブロック共重合体の水素添加ブロック共重合体であって、水素添加前ブロック共重合体のビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位含有量が60重量%超え〜90重量%未満である水素添加ブロック共重合体B 0.5〜15重量部、
および、(1)、(2)および(3)の合計量100重量部に対して、(4)リン酸エステル系難燃剤 0〜40重量部を含有してなることを特徴とする耐薬品性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項2】
(3)水素添加ブロック共重合体Bが、ブタジエン化合物に基づく不飽和二重結合の全水素添加率が40〜90%、水素添加前ブロック共重合体のビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位含有量が60重量%超え〜85重量%未満、である請求項1記載の耐薬品性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−104276(P2006−104276A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−291020(P2004−291020)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】