説明

肝機能改善剤

【課題】優れた肝機能改善剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分とする肝機能改善剤を提供する。上記焙煎植物繊維物質は、好ましくは脱脂大豆または脱脂ぬかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、種々の栄養物の代謝および貯蔵、胆汁の分泌、解毒などを行う重要な臓器である。一般に、細胞内のミトコンドリア中でエネルギー代謝が行われると、反応副産物として活性酸素が生じることが知られているが、この活性酸素は、肝臓において最も多く生成され、その量は体内全体の約70%を占める。
【0003】
活性酸素は、白血球の殺菌作用、すなわち食細胞が捕食した異物を分解する作用などの面で、生体にとって極めて重要な役割を果たす。しかし一方で、過剰に生産されると、細胞を損傷するなどの生体に悪影響を及ぼす性質を有している。したがって、過剰な活性酸素は、体内で合成される抗酸化物質である、スーパーオキシドディスムターゼ(superoxide dismutase、SOD)により不均化されることによってバランスが保たれている。特に肝細胞中においてはミトコンドリアのマトリクスに局在するMnSOD(SOD2)により主に不均化される。
【0004】
しかし、加齢によるSODの発現量の減少、あるいはストレス、飲酒、喫煙、脂肪が多い食事などによる活性酸素の大量の発生などによりこれらのバランスが崩れる場合がある。過剰な活性酸素により肝細胞が損傷を受けた場合、肝機能は低下する。したがって、このような肝細胞の損傷を防止するために、抗酸化物質を外部から摂取することが望ましい。
【0005】
肝細胞の損傷を防止する抗酸化物質としては、一般には脂溶性抗酸化物質が用いられる。水溶性抗酸化物質では、脂で構成される細胞膜を通過することができないため肝臓に到達することができないからである(例えば、非特許文献1)。脂溶性抗酸化物質としては、例えば、β−カロテン、ビタミンE、ゴマ由来のリグナン(セサモリンなど)などが挙げられる。しかし、これらの脂溶性抗酸化物質のみでは、製品化する際に使用形態が限られるという問題がある。
【0006】
他方、活性酸素による肝機能低下を改善する水溶性の物質として、特許文献1には、脱脂大豆を水抽出して得た脱脂豆乳に、pH4.5になるまで塩酸を加えて得られる沈殿画分(大豆蛋白)が、肝臓内におけるSOD、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどの抗酸化酵素の合成を促進することが記載されている。
【0007】
しかし、これ以外にも、活性酸素による肝機能の低下を十分改善し得る、水溶性の物質が望まれている。
【特許文献1】特開2003−321381号公報
【非特許文献1】発掘!あるある大事典2第71回「若返りの化学1」、2005年8月21日放映、[online]、[平成18年7月5日検索]、インターネット<URL:http://www.ktv.co.jp/ARUARU/search2/aru71/71 2.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた肝機能改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、優れた肝機能改善効果を有する物質について鋭意検討を行ったところ、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物が、水溶性であるにもかかわらず、優れた肝機能改善効果が得られることを見出して本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の肝機能改善剤は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分とする。
【0011】
ある実施態様においては、上記焙煎植物繊維物質は、焙煎脱脂大豆または焙煎脱脂ぬかである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の肝機能改善剤は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分とする。この抽出物は、水溶性であるにもかかわらず、細胞内に到達し、そして細胞内に存在するSOD2の発現を促進することによって、生体内で優れた肝機能の改善効果、あるいは肝機能障害の予防効果を発揮する。本発明の肝機能改善剤は、水溶液状の肝機能改善剤を調製できる点で特に有用であり、食品、医薬品などとして利用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の肝機能改善剤は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分とする。本発明においては、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物が、水溶性抗酸化物質であるにもかかわらず、細胞内に到達し、そして細胞内に存在するSOD2の発現を促進することによって、優れた肝機能改善効果を有することを見出した点に特徴がある。本発明は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物の新たな用途を提供するものである。
【0014】
(焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物)
本発明に用いられる「焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物」(以下、単に有機溶媒抽出物という場合がある)は、植物繊維物質の焙煎物を熱水で抽出し、濾過し、必要に応じて濃縮および乾燥することによって得られる「焙煎植物繊維物質熱水抽出エキス」(以下、単に抽出エキスという場合がある)を、さらに有機溶媒で抽出することによって得られる。
【0015】
原料の植物繊維物質としては、大豆、ぬか、ふすま、小麦、米、茶葉などが挙げられる。これらの植物繊維物質は予め脱脂しておくことが好ましい。好ましくは脱脂大豆および脱脂ぬかである。
【0016】
上記焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスは、例えば、以下のようにして調製される。まず、脱脂大豆、脱脂ぬかなどを約170℃〜約230℃にて約5分間〜約1時間焙煎する(浅炒り)。次いで、得られた焙煎物に対して約10倍量〜約20倍量の水を加えて約5分間〜約80分間沸騰させた後、濾過して濾液(抽出エキス)を回収する。抽出エキスとしては、この濾液をさらに、例えば質量比で約0.1倍量〜約0.3倍量になるまで濃縮した濃縮液、あるいはこれらの濾液および濃縮液をスプレードライなどを用いて水分含量が約4質量%以下になるまで乾燥した乾燥物も好適に用いることができる。
【0017】
次いで、抽出エキスを、さらに有機溶媒で抽出する。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール類、ベンゼン、クロロホルム、n−ヘキサン、および四塩化炭素が挙げられる。好ましくは、メタノール、エタノールなどの低級アルコール類である。有機溶媒は、単独で用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
有機溶媒による抽出は、例えば、上記抽出エキス(例えば、スプレードライ品)に、抽出エキスの約5倍量〜約10倍量の95%エタノールを加えて約30分間〜約3時間、好ましくは約2時間沸騰させながら行われる。その後、濾過して濾液を回収することによって焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物が得られる。上記濾液中のエタノールを減圧下で除去した後、再度エタノールを加えて、固形分濃度を調整した濃縮物を有機溶媒抽出物として用いてもよい。なお、上記有機溶媒による抽出は複数回行ってもよい。
【0019】
(肝機能改善剤)
本発明の肝機能改善剤は、上記焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分として含有し、必要に応じて、その他の成分を含有し得る。焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物の含有量は特に制限されない。上記抽出物をそのまま肝機能改善剤として用いてもよい。本発明の肝機能改善剤は、食品、医薬品などとして利用される。
【0020】
本発明の肝機能改善剤を医薬品形態に調製する場合、有効成分(有機溶媒抽出物)を医薬品中に1質量%以上含有することが好ましい。その他の成分としては、例えば、賦形剤、充填剤、希釈剤、着色剤、保存料、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤、溶解補助剤、医薬品成分化合物などが挙げられる。この肝機能改善剤は、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤などの当業者が通常用いる経口投与用の医薬製剤に調製され、ヒトまたは動物に経口投与される。これらの医薬製剤の調製は、例えば、以下のようにして行われる。
【0021】
錠剤は、例えば、有効成分である有機溶媒抽出物と、賦形剤(ゼラチン、デンプン、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、滑石、アラビアゴムなど)とを混合して成形される。
【0022】
カプセル剤は、例えば、有効成分である有機溶媒抽出物と、不活性な充填剤または希釈剤(蒸留水、生理食塩水など)との混合物をカプセル(硬ゼラチンカプセル、軟カプセルなど)に充填して調製される。
【0023】
液剤は、例えば、有効成分である有機溶媒抽出物を、上記希釈剤に希釈して調製される。
【0024】
本発明の肝機能改善剤を医薬品形態に調製する場合、該医薬品の投与量に特に制限はない。患者の年齢、疾患の程度などに応じて適宜設定される。好ましくは、有効成分の1日あたりの摂取量が、約500〜約2000mgとなるように投与することが好ましい。
【0025】
本発明の肝機能改善剤を食品形態に調製する場合、有効成分(有機溶媒抽出物)を食品中に約0.1〜約30質量%含有することが好ましく、約1質量%前後含有することがより好ましい。その他の成分としては、当業者が通常食品に用いられる成分が挙げられる。この肝機能改善剤は、調味料などのように食品添加剤としてそのまま調理済食品などに利用される、あるいは種々の加工食品および食品原料に配合して利用され得る。上記食品形態としては、特に限定されず、例えば、麺類、パン類などの澱粉加工品;各種食用油、マヨネーズなどの油脂加工品;豆腐、味噌などの大豆加工品;ハムなどの食肉加工品;水酸製品;乳製品;野菜および果実加工品;菓子類;飲料類;これらの調理品などが挙げられる。
【0026】
本発明の肝機能改善剤は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分とする。この抽出物は、水溶性抗酸化物質であるにもかかわらず、細胞内に到達し、そして細胞内に存在するSOD2の発現を促進することによって、生体内で優れた肝機能の改善効果、あるいは肝機能障害の予防効果を発揮する。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明がこの実施例に制限されないことはいうまでもない。
【0028】
(実施例1:焙煎脱脂ぬか熱水抽出エキスのエタノール抽出物の肝機能改善効果)
(1)焙煎脱脂ぬか熱水抽出エキスのエタノール抽出物の調製
脱脂ぬか100質量部を、ロータリー回転させながら約170℃にて40分間焙煎(浅炒り)した。得られた焙煎物を、該焙煎物の10倍量の水中に入れた後、加熱して約40分間沸騰させた(全加熱時間60分間〜90分間)。その後、濾過して濾物を除去し、脱脂ぬか熱水抽出エキスを得た。この抽出エキスを質量比で0.2倍量になるまで減圧下で濃縮し、次いでスプレードライを用いて乾燥させた。得られた粉末の水分含量は4質量%以下であった。
【0029】
次いで、得られた乾燥物を、該乾燥物の10倍量の95%エタノールを用いて60〜65℃にて2時間抽出した。その後、濾過して濾物を除去し、さらに減圧下で濃縮した。このようにして焙煎脱脂ぬか熱水抽出エキスのエタノール抽出物を得た(これを単に脱脂ぬか抽出物という)。この脱脂ぬか抽出物の固形分含量および窒素含量について3回測定して平均値を算出したところ、固形分含量が76.5質量%であり、窒素含量が1.1%であった。なお、固形分含量は、蒸発皿を用いて100℃にて4時間乾燥して測定した。
【0030】
(2)肝臓中のSOD2発現量の検出
実施例1で得られた脱脂ぬか抽出物を投与した場合における肝臓中のSOD2の発現量を以下のようにして測定した。なお、SOD2とは、細胞中のミトコンドリア内に存在するMnSODである。
【0031】
まず、6週齢のラットに、実施例1で得られた脱脂ぬか抽出物を、固形分量で1質量%含む水溶液を3週間自由摂取させた。次いで、上記水溶液の代わりに、実施例1で得られた脱脂ぬか抽出物を、固形分量で0.7質量%含むエタノール水溶液(エタノール20質量%含有)を用いて、さらに3週間自由摂取させた。
【0032】
摂取期間終了後、ラットから肝臓を摘出し、この肝臓をホモジナイズした後、12000rpmにて30分間遠心分離して上清を得た。この上清を、SDS−PAGE電気泳動に供して上清中の各タンパク質を分離し、さらにポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した。その後、Anti MnSOD Super Novus Pack(Novus Biologicals社製)を用いてSOD2を発光検出した。結果を図1に示す。
【0033】
(実施例2:焙煎脱脂大豆熱水抽出エキスのエタノール抽出物の肝機能改善効果)
脱脂ぬかの代わりに、脱脂大豆を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、焙煎脱脂大豆熱水抽出エキスのエタノール抽出物を得た(これを単に脱脂大豆抽出物という)。この脱脂大豆抽出物の固形分含量は76.5質量%、窒素含量は1.52%であった。さらにこの脱脂大豆抽出物を用いて肝臓中のSOD2の発現量を実施例1と同様にして測定した。結果を図1に示す。
【0034】
(比較例1および2)
ラットに水を6週間自由摂取させた後の肝臓中のSOD2の発現量を、実施例1と同様の方法で測定した(比較例1)。また、ラットに水を3週間自由摂取させ、さらに、エタノール20質量%水溶液を3週間自由摂取させた後の肝臓中のSOD2の発現量を、実施例1と同様の方法で測定した(比較例2)。これらの結果をそれぞれ図1に示す。
【0035】
図1の結果から明らかなように、脱脂ぬか抽出物または脱脂大豆抽出物を投与した場合、水またはエタノール20質量%水溶液を投与した場合に比べて、SOD2が多く発現されていた。このことは、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物が、細胞内に到達し、そして細胞中のSOD2の発現量を促進させることを示し、これにより、肝機能の改善効果あるいは肝機能障害の予防効果が発揮されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の肝機能改善剤は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分とする。この抽出物は、水溶性抗酸化物質であるにもかかわらず、細胞内に到達し、そして細胞内に存在するSOD2の発現を促進することによって、生体内で優れた肝機能の改善効果、あるいは肝機能障害の予防効果を発揮する。本発明の肝機能改善剤は、水溶液状の肝機能改善剤を調製できる点で特に有用であり、食品、医薬品などとして利用される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】SOD2の発現量を示すバンドの写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分とする、肝機能改善剤。
【請求項2】
前記焙煎植物繊維物質が、焙煎脱脂大豆または焙煎脱脂ぬかである、請求項1に記載の肝機能改善剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−115087(P2008−115087A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297662(P2006−297662)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】