説明

肝障害抑制剤

【課題】新規な肝障害抑制剤を提供する。
【解決手段】次式I:
【化1】


(式中、R及びRは各々独立に水素原子、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子、未置換または置換された炭素原子数1〜20のアルキル基、未置換または置換された炭素原子数1〜20のアルケニル基、未置換または置換された炭素原子数1〜20のアルコキシ基、未置換または置換された炭素原子数6〜20のアリール基、未置換または置換された炭素原子数7〜20のアルキルアリール基を表す)
で表されるレンチオニンもしくはその誘導体またはそれらの薬理学的に許容され得る塩を含有する肝障害抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝障害抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓疾患、特に慢性肝炎や肝硬変の治療においては、肝細胞の変性・壊死等の肝障害を抑制し、肝癌への進行を阻止することが特に重要である。肝臓疾患の治療薬として、肝機能改善薬、インターフェロン、抗ウイルス剤等、種々の薬剤が用いられているが、薬効、副作用の点で決定的な薬剤が得られていないのが現状である。このため、肝障害の予防や治療のための成分として、種々の植物材料の成分が提案されている。例えば、シイタケの菌糸体抽出物のエタノール水溶液のポリフェノール含有分画物からなる肝線維化抑制剤が提案されている(特許文献1)。また、肝障害を抑制する有効成分としてニンニクの成分であるジアリルスルフィド及びジアリルトリスルフィドが提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−239699号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T. Fukao, T. Hosono, S. Misawa, T. Seki, T. Ariga., The effects of allyl sulfides on the induction of phase II detoxification enzymes and liver injury by carbon tetrachloride, Food Chem Toxicol, 42, 743-9, 2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明においては、抽出物中の成分がポリフェノール、タンパク質及び糖類であることが記載されているが、有効成分が単一な化合物としては特定されていない。
また、非特許文献1におけるジアリルジスルフィド及びジアリルトリスルフィドは、服用後に呼気がいわゆるニンニク臭を生じるという不利益がある。
従って、副作用が少なく高い予防・治療効果を期待できる肝障害抑制剤の開発が望まれている。
本発明者らは、シイタケの有機溶媒抽出成分のうち、特にレンチオニンが、肝障害抑制作用、並びに第二相解毒酵素誘導作用を有することを見出して、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1に、本発明は、下記の肝障害抑制剤に関する。
(1)次式I:
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、R及びRは各々独立に水素原子、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子、未置換または置換された炭素原子数1〜20のアルキル基、未置換または置換された炭素原子数1〜20のアルケニル基、未置換または置換された炭素原子数1〜20のアルコキシ基、未置換または置換された炭素原子数6〜20のアリール基、未置換または置換された炭素原子数7〜20のアルキルアリール基を表す)
で表されるレンチオニンもしくはその誘導体またはそれらの薬理学的に許容され得る塩を含有する肝障害抑制剤。
(2)上記式I中、R及びRが水素原子を表すことを特徴とする(1)の肝障害抑制剤。
(3)シイタケのレンチオニン含有有機溶媒抽出物を含有することを特徴とする肝障害抑制剤。
(4)前記抽出物が、シイタケの子実体の抽出物である(3)の肝障害抑制剤。
(5)前記抽出物が、シイタケを破砕した後、3〜70℃の温度で1分間以上放置した後に、抽出されたものである(3)または(4)の肝障害抑制剤。
【0009】
また、本発明は、上記肝障害抑制剤のいずれかを含有する肝臓疾患の予防、改善及び/または治療のための組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の肝障害抑制剤及び組成物は、肝臓疾患の予防、改善及び治療に有効である。また、本発明の組成物は第二相解毒酵素の誘導により、化学物質等の解毒、酸化的ストレスに起因する疾病、例えば癌、炎症、老化、神経変性障害、白内障、網膜変性等の予防、改善及び治療、薬物の副作用の軽減等にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のシイタケのレンチオニン含有有機溶媒抽出物のGC−MS分析の結果を示す図である。
【図2】レンチオニン投与がアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)活性に及ぼす影響を示すグラフである。値は5匹のマウスの平均値±標準誤差であり、グラフ中の異なるアルファベットは、ダンカンの多重検定において有意差(p<0.05)があることを示す。
【図3】レンチオニン投与がアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性に及ぼす影響を示すグラフである。値は5匹のマウスの平均値±標準誤差であり、グラフ中の異なるアルファベットは、ダンカンの多重検定において有意差(p<0.05)があることを示す。
【図4】レンチオニン投与がシトクロムP450(CYP450)比含量に及ぼす影響を示すグラフである。値は5匹のマウスの平均値±標準誤差であり、グラフ中の異なるアルファベットは、ダンカンの多重検定において有意差(p<0.01)があることを示す。
【図5】レンチオニン投与がグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)活性に及ぼす影響を示すグラフである。値は5匹のマウスの平均値±標準誤差であり、グラフ中の異なるアルファベットは、ダンカンの多重検定において有意差(p<0.05)があることを示す。
【図6】レンチオニン投与がキノンレダクターゼ(QR)活性に及ぼす影響を示すグラフである。値は5匹のマウスの平均値±標準誤差であり、グラフ中の異なるアルファベットは、ダンカンの多重検定において有意差(p<0.01)があることを示す。
【図7】レンチオニン投与が過酸化脂質量(TBARS)に及ぼす影響を示すグラフである。値は5匹のマウスの平均値±標準誤差であり、グラフ中の異なるアルファベットは、ダンカンの多重検定において有意差(p<0.01)があることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、肝障害には、肝細胞障害、胆汁うっ滞、脂肪肝、肝線維化、肝細胞壊死等が含まれる。肝臓疾患は、急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝臓癌等を含む。さらに、肝臓疾患は、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性肝炎、自己免疫性肝炎等に分類される。
本発明の肝障害抑制剤並びに肝臓疾患の予防、改善及び/または治療のための組成物は、特に肝細胞が酸化的ストレスにより攻撃されることによる、肝細胞の変性、例えば脂肪肝及び肝線維化、並びに肝細胞壊死を防ぐ作用を有する。
【0013】
また、本発明において、レンチオニン及びシイタケのレンチオニン含有有機溶媒抽出物は、第二相解毒酵素を誘導することが見出された。従って、本発明の別の観点によれば、本発明は、レンチオニンもしくはその誘導体またはそれらの薬理学的に許容できる塩、またはシイタケのレンチオニン含有有機溶媒抽出物を含む第二相解毒酵素誘導剤をも提供する。誘導される第二相解毒酵素は、特にグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)及びキノンレダクターゼ(QR)である。第二相解毒酵素の誘導により、例えば化学物質等の解毒、酸化的ストレスに起因する疾病、例えば癌、炎症、老化、神経変性障害、白内障、網膜変性等の予防、改善及び/または治療、薬物の副作用の軽減の効果を期待することができる。従って、本発明は、レンチオニンもしくはその誘導体またはそれらの薬理学的に許容できる塩、またはシイタケのレンチオニン含有有機溶媒抽出物を含む、化学物質の解毒のための組成物、癌、炎症、老化、神経変性障害、白内障、網膜変性等の予防、改善及び/または治療のための組成物、副作用の軽減のための組成物にも関する。
【0014】
上記本発明の肝障害抑制剤、第二解毒酵素誘導剤及び組成物は、ヒト、並びにヒト以外の哺乳動物、例えばウシ、ウマ、ブタ等の家畜、イヌ、ネコ等の愛玩動物に用いることができる。
【0015】
(レンチオニンまたはその誘導体)
本発明において、レンチオニンは、化学合成により得られたものでも、抽出物またはその分画物、精製物中の成分として含有されているものでもよい。
レンチオニンは例えばChem. Pharm. Bull. 988-993 15 (1967)に記載の方法により合成することができる。
硫化ナトリウムの9水和物600g、硫黄120g、水2000mL中に硫化水素ガスを吹き込みpH8に調整した。次いで、塩化メチレン2000mLを加え、室温で2〜3時間攪拌した。塩化メチレン層を分離、水洗後、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。不溶物をろ過して除いた後、減圧濃縮して油状物80gを得た。これを室温で放置し結晶析出後、遠心分離しオイルを除去した。残渣をジオキサンにより再結晶し、レンチオニンの結晶12gを得た。
【0016】
式IにおいてR及びRが水素以外の置換基を表す化合物は、レンチオニンに常法により置換基を導入することにより、製造しうる。
【0017】
レンチオニンは、シイタケの香気成分として知られており、前駆物質であるレンチニン酸のγ−グルタミル基がγ―グルタミルトランスフェラーゼの作用により脱離してデスグルタミルレンチニン酸が生じ、これにC−Sリアーゼが作用することによりスルフェン酸またはチオスルフィネートが生じ、さらにチオスルフィネートの非酵素的開裂により生成する含イオウフラグメントが縮重合を繰り返すことにより生成する。なお、この時、レンチオニン以外に、1,2,4,6−テトラチエパン、1,2,4,5,7,8−ヘキサチオナン、1,2,4−トリチオラン、1,2,4,5−テトラチアン、1,2,4,5,7−ペンタチオカン、1,3,5−トリチアン、1,2,3,5−テトラチアン等の環状スルフィド類も生成し、これらの化合物についても、肝障害抑制効果及び第二相解毒酵素の誘導効果が期待される。なお、上記環状スルフィドは、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子、未置換または置換された炭素原子数1〜20のアルキル基、未置換または置換された炭素原子数1〜20のアルケニル基、未置換または置換された炭素原子数1〜20のアルコキシ基、未置換または置換された炭素原子数6から20のアリール基、未置換または置換された炭素原子数7から20のアルキルアリール基で置換されていてもよい。
【0018】
従って、本発明は、レンチオニン以外の上記環状スルフィドもしくはそれらの誘導体またはそれらの薬理学的に許容され得る塩を含有する肝障害抑制剤、肝臓疾患の予防、改善及び/または治療のための組成物、第二相解毒酵素誘導剤、化学物質の解毒のための組成物、癌、炎症、老化、神経変性障害、白内障、網膜変性等の予防、改善及び/または治療のための組成物、副作用の軽減のための組成物にも関する。
【0019】
これらの化合物のうち、1,2,4,6− テトラチエパンは、例えばPhosphorus and Sulfur and the Related Elements,15(1), 27-32; 1983, Phosphorus and Sulfur and the Related Elements, 8(2), 157-9; 1980等に記載の方法により合成することができる。
【0020】
本発明で使用されるレンチオニン、1,2,4,6−テトラチエパン、1,2,4,5,7,8−ヘキサチオナン、1,2,4−トリチオラン、1,2,4,5−テトラチアン、1,2,4,5,7−ペンタチオカン、1,3,5−トリチアン、1,2,3,5−テトラチアンもしくはその誘導体またはそれらの薬理学的に許容され得る塩(以下、レンチオニン等の化合物と記す)は、シクロデキストリン等により包接されていてもよい。包接は、例えばα-シクロデキストリン溶液1mlにレンチオニン等の化合物の溶液100μlを添加し、40℃で3時間インキュベートし、インキュベート終了後、1200×gで10分間遠心して分離することにより行うことができる。包接により、体内吸収性、バイオアベイラビリティ等を改善できるほか、徐放性等の性質を付与することもできる。
【0021】
(シイタケの有機溶媒抽出物)
本発明において、レンチオニンはシイタケの有機溶媒抽出物として含有されていてもよい。従って、本発明は、シイタケ、好ましくはシイタケの子実体の、レンチオニンを含有する抽出物、その分画物またはその精製物を含有する肝障害抑制剤にも関する。なお、本明細書において「シイタケの有機溶媒抽出物」の語は、有機溶媒抽出物の分画物及び精製物をも含む意味で使用される。
【0022】
そのような有機溶媒抽出物の製造において、原料となるシイタケは生のシイタケでも乾燥したシイタケでも良い。乾燥シイタケは、例えば天日乾燥または乾燥炉等による機械乾燥により製造されたものである。またシイタケは子実体または菌糸体、好ましくは子実体を用いる。
【0023】
抽出溶媒は、有機溶媒または有機溶媒と水との混合物、好ましくは有機溶媒である。有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、n−もしくはイソプロパノール、n−、イソ、第二もしくは第三ブタノール、n−、イソ、第二もしくは第三ペンタノール、n−、イソ、第二もしくは第三ヘキサノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素またはこれらの混合物が挙げられ、好ましくはメチレンクロライドまたはエタノールであるが、これらに限定されない。
【0024】
抽出温度は、好ましくは70℃以下、より好ましくは40℃以下、例えば5〜30℃である。70℃より高い温度で長時間加熱すると、抽出すべき成分が分解する場合があるからである。
【0025】
抽出方法は、有機溶媒または水と有機溶媒との混合物中での冷浸、温浸、還流冷却下での加熱等であり得る。抽出は、連続式で行ってもバッチ式で行ってもよく、例えば常温から溶媒の沸点の範囲の温度で、加圧、常圧または減圧下で行う。抽出時間は、抽出方法、抽出溶媒等に応じて、適宜決定し得る。例えば、5〜30℃での抽出の場合、1分間〜24時間、好ましくは15分間〜30分間である。
【0026】
抽出に先立って、シイタケの破砕、恒温処理等の前処理を行うのが好ましい。これは、シイタケに含まれるレンチニン酸から出発してレンチオニン等の含イオウ化合物を生成する酵素反応を効率良く進行させるためである。
【0027】
破砕は、例えばpH3〜12の緩衝液中、ホモジネーター等の機器を用いて破砕することにより行われる。
恒温処理は、例えば約3〜70℃、好ましくは15〜50℃、より好ましくは25〜40℃の温度に、1分間〜24時間、好ましくは10分間〜12時間、より好ましくは30分間〜3時間維持することにより行われる。
【0028】
上記シイタケの有機溶媒抽出物は、有機溶媒による抽出操作後、濾過、乾燥、分画などの処理を行うことによりさらに精製されたものであってもよい。濾過、乾燥、分画は当業者に周知の常法により行うことができる。
【0029】
また、本発明の肝障害抑制剤、並びに本発明の組成物に使用される抽出物は、抽出し、所望により精製した後、濃縮または乾固、または凍結乾燥し、所望によりさらに滅菌操作を行ったものであってもよい。濃縮または乾固は、常圧または減圧下、好ましくは150℃以下、より好ましくは30℃以下の温度で行う。150℃を超えると抽出すべき成分が分解する場合があるからである。
【0030】
本発明の肝障害抑制剤、並びに本発明の組成物の剤型は特に限定されないが、カプセル剤、顆粒剤、散剤、錠剤、液剤、浸剤、煎剤、トローチ剤、エキス剤(軟エキス剤、乾燥エキス剤)、流エキス剤、チンキ剤、点眼剤、点鼻液、軟膏、クリーム、ローション剤、注射剤、座薬、香料製剤、飲食品等であり得る。
【0031】
レンチオニン等の化合物の配合量は剤形により異なる。また、一日あたりの有効成分投与量は、患者の年齢、体重、性別、症状等によるが、例えば0.1〜10g、好ましくは1〜5gである。
レンチオニン等の化合物をシイタケの有機溶媒抽出物の形態で含有する場合、一日あたりの有効成分投与量は、患者の年齢、体重、性別、症状等によるが、有機溶媒抽出物の凍結乾燥重量として、例えば0.1〜15g、好ましくは1〜10gとなる量である。
【0032】
これらの製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤、希釈剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて製剤化される。
本発明の肝障害抑制剤及び組成物は、医薬の製剤技術分野で使用し得るとして知られている補助剤を含有し得る。
さらに、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば水、エタノール、プロピレングリコールやグリセリンなどの溶剤中で各種天然香料や合成香料と組み合わせて、もしくはレンチオニン単独で香料組成物としたり、香料製剤として、飲食品、飲食品用素材 (香料組成物等)に配合することもできる。
【0033】
固形の製剤は、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、糖衣錠等であり、有効成分としての本発明の化合物と、希釈剤(例えば乳糖、デキストロース、ショ糖、セルロース、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉等)、滑沢剤(例えばシリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレングリコール等)、結合剤(例えば澱粉類、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、離散剤(例えば澱粉、アルギン酸、アルギン酸塩等)、飽和剤、着色料、甘味料、湿潤剤(例えばレシチン、ポリソルベート、硫酸ラウリル塩等)等を含有することができる。これらは、既知の方法例えば混合、粒状化、錠剤化、糖衣化等の方法により製剤化することができる。
【0034】
液状の製剤は、例えばシロップ、溶液、乳濁液及び懸濁液の形態とすることができる。
懸濁液及び乳濁液は、担体として、例えば天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を含有することができる。
筋肉内注射用懸濁液又は溶液は、薬理学的に許容され得る担体として、例えば滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチル、グリコール類、例えばプロピレングリコール、及び必要に応じて適量のリドカイン塩酸塩を含有することができる。静脈注射もしくは注入用溶液は、担体として例えば滅菌水を含有することができるが、好ましくは滅菌等張食塩水溶液の形である。
本発明の上記組成物は、医薬組成物、サプリメント製剤等であり得る。また、本発明は、上記肝障害抑制剤、上記第二相解毒酵素誘導剤または上記組成物を含有する特定保健用食品等の飲食品をも提供し得る。
なお、本発明は、上記肝障害抑制剤またはこれを含有する組成物を投与することを含む肝臓疾患の予防、改善及び/または治療方法をも提供する。また、本発明は、上記第二相解毒酵素誘導剤またはこれを含有する組成物を投与することを含む、化学物質の解毒;癌、炎症、老化、神経変性障害、白内障、網膜変性等の予防、改善及び/または治療;または副作用の軽減のための方法をも提供する。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。しかしながら、これらは本発明を限定するものではない。
【0036】
実施例1:シイタケ抽出液の調製
生シイタケの子実体300gに500mlの0.2MTris−HCl緩衝液(pH3.0、5.0、7.0または9.0)を添加し、ホモジナイザー(マツバラ製)で3分間ホモジナイズした。その後、37℃で30分間インキュベートした。
これに、セライト50gを添加し、濾過した。濾液と残渣を各150mlのメチレンクロライドで5回抽出し、合わせた抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過した。濾液を濃縮し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーを通すことにより脂質を除去した。
得られた油状物質をGC−MSで分析した。pH9でインキュベートした場合のチャートを図1に示す。pH3.0、5.0、7.0及び9.0でインキュベートした場合に得られる成分を各々下記の表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例2:シイタケ抽出液の調製
乾燥シイタケの子実体50gを、900mlの0.2MTris−HCl緩衝液(pH9.0)中に、4℃で30分間浸漬した後、 ホモジナイザー(マツバラ製)で3分間ホモジナイズし、その後、37℃で3時間インキュベートした。
これに、セライト50gを添加し、濾過した。濾液と残渣を各150mlのメチレンクロライドで5回抽出し、合わせた抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過した。濾液を濃縮し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーを通すことにより脂質を除去した。
得られた油状物質をGC-MSで分析した。得られた成分を上記の表1に示す。
【0039】
試験例1:
ICR系SPFオスマウス(7週齢)を,環境への馴化のために普通食(CE−2)で1週間間予備飼育後,1群5匹で6群に分け実験群とした。各群のマウスを金網製個別ゲージにマウスを1匹ずつ入れ,12時間の明暗サイクルの飼育室で5日間飼育した。飼料としてCE−2を,飲料水として水道水を自由摂取させた。予備飼育後,オリーブオイルに溶解したレンチオニンを1日200μmol/ml/kg体重,無麻酔下で5日間経口胃内投与した。一方,コントロール群には,オリーブオイルを投与した。
本飼育5日目に,四塩化炭素(0.05ml/kg)を腹腔内投与し,急性肝障害を惹起させた。四塩化炭素投与後8時間目から絶食し,その16時間後に,ネンブタール麻酔下で,下大静脈から血液0.5mlを採取した。その後,生理食塩水により肝臓灌流を行い,脱血後に肝臓を摘出した。生理食塩水にて肝臓を洗浄後,緩衝液を肝臓重量の4倍量加えてホモジナイズした。得られたホモジネート溶液を10,000×g,4℃で15分間遠心分離し,沈殿を除去した。上清を105,000×g,4℃で,さらに60分間超遠心分離し,細胞質画分である上清と,ミクロソーム画分である沈殿を回収した。沈殿には緩衝液を1ml加え,以下の実験に使用した。
【0040】
1)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性の測定
ASTおよびALTは,肝障害に伴い値が上昇する肝障害パラメータである。採血した血液を遠心分離(150×g,4℃,15分間)後,得られた上清の血清画分に対して,トランスアミナーゼCII・テストワコーを用いて,ASTおよびALTの活性測定を行った。結果を各々図2及び図3のグラフに示す。
四塩化炭素の投与により,肝障害パラメータであるASTおよびALT活性が増加し,肝障害が誘発された。しかし,レンチオニンの経口投与により、ASTおよびALT活性が低下した。
【0041】
2)シトクロムP450(CYP450)比含量の測定
CYP450は,体内に入ってきた異物を水酸化し,排出されやすい水溶性の物質に変換するが,物質の中には,CYP450によって,発癌性が増すものもあり,CYP450量は,増加しない方が望ましいとされている。
CYP450の測定では,ダブルビーム型分光光度計を用い,510〜400nm間のスペクトルを測定し,試料セルと対照セルの差を求めた。対照セル,試料セルそれぞれに,緩衝液(pH7.4)で10倍希釈したミクロソーム画分0.8mlを加えて37℃で十分に保温後,510〜400nm間のスペクトルを記録した。次に,両セルに亜ニチオン酸ナトリウム2mgをゆっくり混合させながら添加し,ミクロソーム中ヘムタンパク質のヘム鉄部位を還元させた。さらに,試料セルには,一酸化炭素2mlを通じ,還元したヘムタンパクと一酸化炭素を結合させた。この溶液の510〜400nm間のスペクトルから一酸化炭素を通じる前のスペクトル値を差し引き,490〜450nm付近の吸光度差から,次式により,CYP450の含有量を求めた。
450nm−490nmの差吸光係数=91mM−1cm−1,分光光度計セル光路幅=1cmで、Lambert−Beerの法則により,CYP450量(nmol/mlミクロソーム溶液)は次式により求められる。
【0042】
【数1】

【0043】
この値を吸光度法(280nmにおける吸光度の測定)により求めた試料溶液中のタンパク質量(mg)で割ることで,CYP450比含量を算出した。結果を図4のグラフに示す。
四塩化炭素の投与により,第1相解毒酵素であるCYP450の活性が低下した。しかし,レンチオニンの投与により,CYP450活性は,その低下が抑制された。四塩化炭素未投与では,レンチオニンは,CYP450活性に影響を与えなかった。
【0044】
3)グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)活性の測定
GST活性は,外来異物であるジニトロクロロベンゼンをGSTが抱合反応することで生成するS−2,4−ジニトロフェニルグルタチオンの340nmにおける吸光度の増加から求めた。GSTは,発癌物質等の異物を抱合・無毒化するため,活性が高い方が望ましいとされている。
30mMグルタチオン(GSH)溶液60μlを緩衝液(pH 7.4)1.48mlと混合し,37℃で保温後,340nmにおける吸光度を測定し,これを初期値とした。次に,30mMジニトロクロロベンゼン60μlおよび100倍希釈したGSTを含む細胞質画分300μlを同時に加え,ジニトロクロロベンゼンをGSTに抱合させ,反応により生成したS−2,4−ジニトロフェニルグルタチオン(ジニトロクロロベンゼンのGSTによる抱合反応物)の340nmにおける吸光度を,1分間ごとに5分間測定した。Blankでは,細胞質画分の代わりに緩衝液を加えた。生成したS−2,4−ジニトロフェニルグルタチオンの吸光係数=9.6mM−1cm−1から,S−2,4−ジニトロフェニルグルタチオンを算出し,GST活性を求めた。結果を図5のグラフに示す。
第2相解毒酵素であるGST活性は,四塩化炭素の投与により,活性が低下したが,レンチオニンは,その活性低下を抑制した。さらに,四塩化炭素未投与でも,レンチオニンは,この第2相解毒酵素の活性を誘導した。
【0045】
4) キノンレダクターゼ(QR)活性の測定
QR活性は,酸化型ジクロロインドフィノールがQRにより還元・無毒化され,電子の移動により還元型ジクロロインドフェノールが生成する際の酸化型ジクロロインドフェノールの650nmにおける吸光度の減少から求めた。QRも,発癌物質等の異物を還元・無毒化するため,活性が高い方が望ましいとされている。
反応混合液800μlを25℃で保温し,600nmにおける吸光度を測定した(初期値)。ここに,100倍希釈したQRを含む細胞質画分150μlを加えた後,1分間ごとに5分間,600nmにおける吸光度の減少を測定した。Blankの値は,細胞質画分の代わりに,緩衝液を加えることで求めた。酸化型ジクロロインドフェノールの吸光係数=21mM−1cm−1を用いて,酸化型ジクロロインドフェノールの減少量を算出し,QRの活性を求めた。結果を図6のグラフに示す。
第2相解毒酵素であるQR活性は,四塩化炭素の投与により,活性が低下したが,レンチオニンは,その活性低下を抑制した。さらに,四塩化炭素未投与でも,レンチオニンは,この第2相解毒酵素の活性を誘導した。
【0046】
5)過酸化脂質量(TBARS)の測定
TBARSは,過酸化脂質の分解により生成するアルデヒドをチオバルビツール酸(TBA)と反応させることで アルデヒド−TBA付加体を形成させ,この付加体の535nmにおける吸収から,過酸化脂質由来のアルデヒド量を分光学的に測定する方法である。マロンジアルデヒド(MDA)を用いて検量線を求め,MDA相当量として,過酸化脂質量を表す方法である。
尿,血漿,組織ホモジネートといった試料では,バックグラウンドの吸収が高くなるケースがあるため,520nmの吸光度を測定し,その値を差し引くことで,MDA−TBA付加体を正確に定量できるとされている。
ホモジネート溶液0.5ml,MDA標準液(検量線用)0.5ml,あるいは生理食塩水(盲検用)0.5mlに1%リン酸0.3mlおよび0.67%TBA1.0mlを加えて速やかに攪拌後,95℃で45分間加熱した。反応後,速やかに室温まで冷却し,ブタノール4mlを加えて,ふたを閉じて激振した。遠心分離(2650×g,10分間)後,ブタノール層(上層)を取り,盲検を対照に,535nmと520nmにおける吸光度を測定し,その差(A535−520)を求めた。結果を図7のグラフに示す。
TBARS値は,四塩化炭素の投与により,増加したが,レンチオニンは,その増加を抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により、肝障害抑制剤、肝臓疾患の予防、改善及び治療に使用される組成物が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式I:
【化1】

(式中、R及びRは各々独立に水素原子、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子、未置換または置換された炭素原子数1〜20のアルキル基、未置換または置換された炭素原子数1〜20のアルケニル基、未置換または置換された炭素原子数1〜20のアルコキシ基、未置換または置換された炭素原子数6〜20のアリール基、未置換または置換された炭素原子数7〜20のアルキルアリール基を表す)
で表されるレンチオニンもしくはその誘導体またはそれらの薬理学的に許容され得る塩を含有する肝障害抑制剤。
【請求項2】
上記式I中、R及びRが水素原子を表すことを特徴とする請求項1記載の肝障害抑制剤。
【請求項3】
シイタケのレンチオニン含有有機溶媒抽出物を含有することを特徴とする肝障害抑制剤。
【請求項4】
前記抽出物が、シイタケの子実体の抽出物である請求項3記載の肝障害抑制剤。
【請求項5】
前記抽出物が、シイタケを破砕した後、3〜70℃の温度で1分間以上放置した後に、抽出されたものである請求項3または4に記載の肝障害抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の肝障害抑制剤を含有する肝臓疾患の予防、改善及び/または治療のための組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−103900(P2013−103900A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248123(P2011−248123)
【出願日】平成23年11月12日(2011.11.12)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】