説明

胚性幹細胞をAQP−1発現細胞へ分化させるための方法

本発明は、ヒト胚性幹(ES)細胞を、AQP-Iを発現する細胞、特に腎上皮細胞へ分化させる方法に関する。開示される方法は、細胞外基質分子の存在下で腎特異的培地中においてヒトES細胞を培養することを含む。本方法に従って調製された細胞は、腎不全、ネフローゼ、ブライト病および糸球体炎などの腎臓関連障害を治療するために使用することができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2007年7月19日に出願された、米国仮特許出願第60/929,960号の恩典およびそれからの優先権を主張し、その内容は、参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、胚性幹細胞をAQP-1発現細胞へ分化させるための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
器官の失われた機能の交換を目指す再生医療における種々のアプローチは、十分な細胞の供給源の不足によって制限されている。従って、かなりの研究が、可能性のある細胞供給源としてヒト胚性幹(hES)細胞を探究することに注がれてきた。ヒト胚性幹(hES)細胞は、無限に自己再生することができ、多能性であり;即ち、これらの細胞は、それらが由来する生物においてみられる事実上あらゆるタイプの細胞へ分化することができる(2、3(非特許文献1、2))。従って、hES細胞は、種々の研究および医療目的における使用について種々の細胞型の供給物を提供し得る。
【0004】
1つのこのような使用は、腎疾患および腎機能の喪失の治療においてである。II型糖尿病の有病率が増加したため、末期腎疾患の罹患率が増加した。この有病率の増加に加え、治療についての選択肢が限られていることから、腎疾患は、重大な世界的な健康問題となった(2、4(非特許文献1、3))。
【0005】
腎臓の主な機能としては、代謝老廃物の排出、ならびに水、電解質および酸塩基平衡の調節が挙げられる。これらは、(i)糸球体において行われ、180 l/日の一次濾液体積が生成される、濾過プロセス、および(ii)続く尿細管系における再吸収プロセスによって主に達成される(5〜7(非特許文献4〜6))。濾過後、大部分の水および溶解物質は、代謝老廃物の減少した再吸収を伴ってまたは伴わずに、近位尿細管上皮上での輸送によって、毛細血管系へ戻る(5〜7(非特許文献4〜6))。大量の水再吸収は、アクアポリン-1(AQP-1)と呼ばれる特定の水輸送チャネルタンパク質によって可能にされ、これは、単層として腎近位尿細管構造体の内側を覆う上皮細胞の細胞膜上に局在している(8〜10(非特許文献7〜9))。
【0006】
人工装置が腎機能を模倣するように設計された。このような装置において、糸球体によって通常行われるサイズ選択的濾過プロセスは、カートリッジ中の中空ファイバーとして組み立てられる高分子膜によって行われ得、血液透析または血液濾過用の装置は、臨床応用において成功するとわかった。対照的に、腎再吸収機能を模倣する方法の開発は、腎細胞の特定の機能性に大きく依存するようである(11〜12(非特許文献10〜11))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Little, M.H. Regrow or repair: Potential regenerative therapies for the kidney. J Am Soc Nephrol 17, 2390-2401 (2006).
【非特許文献2】Wang, G. et al. Noggin and bFGF cooperate to maintain the pluripotency of human embryonic stem cells in the absence of feeder layers. Biochem Biophys Res Commun 330, 934-942 (2005).
【非特許文献3】Bruce, S.J. et al. In vitro differentiation of murine embryonic stem cells toward a renal lineage. Differentiation 75(5), 337-49 (2007).
【非特許文献4】Dantzler, W.H. Regulation of renal proximal and distal tubule transport: Sodium, chloride and organic anions. Comp Biochem Physiol A Mol Integr Physiol 136, 453-478 (2003).
【非特許文献5】Kriz, W., Kretzler, M., Provoost, A.P. & Shirato, I. Stability and leakiness: Opposing challenges to the glomerulus. Kidney Int 49, 1570-1574 (1996).
【非特許文献6】Murer, H., Hernando, N., Forster, I. & Biber, J. Proximal tubular phosphate reabsorption: Molecular mechanisms. Physiol Rev 80, 1373-1409 (2000).
【非特許文献7】Katsura, T. et al. Constitutive and regulated membrane expression of aquaporin 1 and aquaporin 2 water channels in stably transfected LLC-PK1 epithelial cells. Proc Natl Acad Sci U S A 92, 7212-7216 (1995).
【非特許文献8】Nielsen, S., Kwon, T.H., Frokiaer, J. & Agre, P. Regulation and dysregulation of aquaporins in water balance disorders. J Intern Med 261, 53-64 (2007).
【非特許文献9】Verkman, A.S. Roles of aquaporins in kidney revealed by transgenic mice. Semin Nephrol 26, 200-208 (2006).
【非特許文献10】Humes, H.D. et al. Initial clinical results of the bioartificial kidney containing human cells in ICU patients with acute renal failure. Kidney Int 66, 1578-1588 (2004).
【非特許文献11】Saito, A. et al. Present status and perspectives of bioartificial kidneys. J Artif Organs 9, 130-135 (2006).
【発明の概要】
【0008】
本発明は、腎上皮細胞と同様の様式で水を輸送し得る細胞をインビトロでヒト胚性幹(hES)細胞から調製するための方法を提供する。該方法は、アクアポリン1(AQP-1)発現細胞への分化を誘導する腎形成性分化条件を提供するために、細胞外基質分子の存在下で腎特異的成長培地中においてhES細胞を培養する工程を含む。
【0009】
従って、本方法は、バイオ人工装置、上皮組織を交換する細胞療法、および組織工学による、失われた腎機能の治療を含む療法のために切望される細胞供給源を提供する可能性を有する。
【0010】
一局面において、ヒト胚性幹(hES)細胞をAQP-1発現細胞へ分化させる方法が提供され、本方法は、AQP-1発現細胞へのhES細胞の分化を誘導するのに十分な条件下で、細胞外基質(ECM)分子の存在下で腎特異的培養培地中において未分化hES細胞を培養する工程を含む。
【0011】
異なる態様において、腎特異的培養培地は、腎上皮基礎培地または腎上皮成長培地を含み得、上皮成長因子を含み得る。ECM分子は、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンIVおよびマトリゲルマトリックスのうちの少なくとも1つを含み得る。骨形成タンパク質2が、細胞の培養前または培養中に腎特異的培養培地へ添加され得る。
【0012】
一態様において、前記方法は、培養前または培養中に約2.5〜約10 ng/mlの濃度で骨形成タンパク質2を腎特異的培養培地へ添加する工程を含み、ここで、培養は7〜10日間細胞を成長させることを含み、腎特異的培養培地は腎上皮成長培地を含み、ECM分子はマトリゲルマトリックスを含み、ここで、いったん分化すると、細胞は、AQP-1と、CK-18、β-カテニン、CD-326およびCD-133のうちの少なくとも1つとを発現する。
【0013】
別の局面において、細胞外基質分子の存在下で腎特異的培養培地中においてヒト胚性幹細胞の集団から直接分化した細胞の集団が提供され、これらの細胞の約2%〜約50%はAQP-1を発現する。細胞の集団は、本明細書に記載の方法によって調製してもよい。
【0014】
なお別の局面において、内腔を有する中空コアファイバーを含むバイオ人工尿細管補助装置であって、内腔が細胞外基質(ECM)分子および本明細書に記載の細胞の集団でコーティングされているバイオ人工尿細管補助装置が提供される。
【0015】
さらなる局面において、バイオ人工尿細管補助装置を調製する方法が提供され、本方法は、内腔を有する中空コアファイバーを含むバイオ人工尿細管補助装置を提供する工程、および内腔に本明細書に記載の細胞の集団を播種する工程を含み、ここで、細胞の集団を播種する前に、内腔は細胞外基質分子でコーティングされる。
【0016】
細胞外基質分子は、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンIVおよびマトリゲルマトリックスのうちの少なくとも1つを含み得る。細胞は、内腔をコーティングするコンフルエントな単層へと培養され得る。
【0017】
なおさらなる局面において、その必要がある被験体において腎臓関連障害を治療する方法が提供され、本方法は、有効量の本明細書に記載の細胞の集団を、被験体において、AQP-1発現細胞が必要とされる部位に移植する工程を含む。細胞は、直接移植され得るか、またはバイオ人工尿細管補助装置内に提供され得る。
【0018】
なおさらなる局面において、被験体において腎臓関連障害を治療する方法が提供され、本方法は、本明細書に記載のバイオ人工尿細管補助装置を、その必要がある被験体へ、外部から接続する工程を含む。
【0019】
腎臓関連障害は、腎不全、腎症、糖尿病性腎症、ネフローゼ、ブライト病、腎機能不全、糸球体炎、糸球体硬化症または腎炎を含み得る。
【0020】
本発明の他の局面および特徴は、添付の図面と併せて本発明の具体的な態様の以下の説明を検討すれば、当業者に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図面において、本発明の態様をほんの一例として説明する。
【図1】未分化hES細胞の培養。a、MEFフィーダー層上で、およびMEF由来の馴化培地を有するマトリゲル(商標)(MG)上で培養されたhES細胞。b、hES細胞の免疫染色によって、Oct3/4(赤色)の発現が示された。DAPIを使用して核(青色)を染色した。c、2つの培養条件におけるOct3/4、Sox2、CD9およびNanogなどの幹細胞特異的マーカーについてのRT-PCRによる遺伝子発現分析。
【図2】AQP-1発現上皮細胞へのhES細胞の分化。a、フィブロネクチン(FN)、ラミニン(Lam)、IV型コラーゲン(Col IV)およびマトリゲル(商標)(MG)上で10日間培養したhES細胞を、AQP-1(赤色)およびサイトケラチン-18(緑色)で免疫染色した。DAPIを使用して核(青色)を染色した。b、同一の培養条件下で継代培養したhES細胞を、DAPI(青色)と共にAQP-1(赤色)で免疫染色した。a〜c、細胞をマトリゲル(商標)上で培養した場合、および細胞を4種の選択したECM分子上で継代培養したいずれの場合にも、増加したAQP-1発現を見ることが出来た。d、二重染色実験によって、AQP-1(赤色)を発現する分化hES細胞は、サイトケラチン-18(緑色)で染色された上皮細胞であることが示された。e、分化hES細胞、特に、AQP-1発現細胞(緑色)は、HNuc(赤色)について陽性に染色され、このことは、それらがヒト起源であることを示している。
【図3】未分化(レーン6)および分化hES細胞(レーン1〜5)のタンパク質プロファイル。フィブロネクチン上(レーン1)、ラミニン上(レーン2)、コラーゲンIV上(レーン3)、マトリゲル(商標)上(レーン4)で成長させた細胞、フィブロネクチン上で継代培養した細胞(レーン5)、および未分化hES細胞(レーン6)から総タンパク質を抽出してSDS-PAGEへ供し、続いてPVDF膜上へ電気転写させた。AQP-1、CK-18、β-カテニン、Oct3/4およびGAPDHなどの抗体で、前記膜をプローブした。未分化hES細胞(レーン6)は、AQP-1およびβ-カテニンについて発現を示さず、サイトケラチン-18について弱い発現を示し、一方、Oct3/4の発現は維持された。対照的に、腎形成性培養条件下では、AQP-1、CK-18およびβ-カテニンのアップレギュレーションが観察された。この発現パターンは、細胞をマトリゲル(商標)上で培養した場合(レーン4)、およびフィブロネクチン上で継代培養した場合(レーン5)、より高い強度で見られた。これらの結果は、機能的な上皮表現型の選定を示している(n=6)。
【図4】hES細胞の接着、成長および細胞増殖についての個々の成分分析。a、REGMにおいて単一の因子を省くことの影響。FBSの非存在下では、ほとんどの細胞がマトリゲル(商標)表面へ接着しなかった。他の全ての条件は、細胞接着および成長へ導いた。b、細胞増殖に対する種々の因子の役割。インスリン、エピネフリン(epinep)およびトランスフェリン(TF)は、hES細胞増殖に重要であることが示された。EGF、ヒドロコルチゾン(HC)およびT3は、hES細胞増殖に対する影響はわずかであった。c、AQP-1発現に対するEGFおよびインスリンの役割。EGFが激減したREGM中でより少ないAQP-1発現細胞が観察され、一方、インスリンの非存在下においてAQP-1発現は有意に影響されなかった。
【図5】分化hES細胞におけるAQP-1およびCD受容体の発現に対するBMP-2の影響。a、BMP-2を含むREGM培養培地は、よりクローナ性のAQP-1発現が観察された無添加のREGMと比べて、分化した単一細胞におけるAQP-1の発現を増加させた。b、分化hES細胞(黒色のバー)は、CD56、CD133およびCD326の発現を示した。CD133およびCD326発現はまた、初代ヒト近位尿細管細胞(灰色のバー)でも観察され、このことは、それらのCD受容体発現プロファイルに関して分化hES細胞と同様の表現型を示している。
【図6】分化hES細胞のインビトロおよびインビボ機能評価。a、分化細胞を、SUPOR-800ポリスルホン膜上へ播種し、灌流バイオリアクター中で7〜10日間培養した。灌流培養後、分化したhES細胞の90%超が、AQP-1(赤色)およびサイトケラチン-18(緑色)発現を同時に示した(n=8)。b、カルセインがロードされた細胞での水輸送アッセイによって、いくつかの分化hES細胞(矢印でマークした)が、低張液への曝露後にそれらのカルセイン染色を失うことが示され、このことは、AQP-1発現チャネルの機能性を示している。c、SCIDマウスの腎被膜下での未分化hES細胞の注射によって、奇形腫瘍形成が誘導され、一方、分化細胞の注射は、腫瘍形成を示さなかった(注射領域を矢印で示した)。
【図7】メガリンの発現。この図は、メガリンの発現を表す蛍光染色を有する細胞の写真である。
【図8】AQP-2、AQP-3、AQP-4およびメガリンの発現。hES細胞と比較した場合の、本方法に従って分化した腎臓上皮様(RD-hES)細胞における発現を示す、AQP-2、AQP-3、AQP-4およびメガリンについてのPCR結果。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
造血細胞、神経細胞および心臓細胞へのhES細胞のインビトロ分化が観察され(1、13、14)、研究によって、異なる成長因子の存在を含む異なる培養条件が、特定の細胞型の形成および成長に好都合であることが示された(13、15、16)。しかし、ヒト腎上皮細胞へのhES細胞の指向性インビトロ分化の報告はなかった。
【0023】
最近、研究によって、腎臓前駆細胞へのマウス胚性幹(mES)の成功した指向性分化が報告された(4、17)。培養培地へのアクチビンA、レチノイン酸、骨形成タンパク質(BMP)7およびBMP4を含む因子の添加は、腎臓前駆細胞への分化を誘導することが示された。しかし、これらの研究において開示された方法は、mES細胞の分化に限定され、hES細胞の分化を教示しない。mESおよびhES細胞の分化ならびにこれらの細胞に対する細胞因子およびシグナルの影響には差異がある。例えば、細胞がインビトロで組織培養皿において成長する場合、白血病抑制因子(LIF)の存在はmES細胞を未分化状態のままにさせ、一方、hES細胞は、LIFの存在にもかかわらず多能性を失い、急速に分化する(3、18)。同様に、BMP4は、mES細胞の分化を抑制するが、hES細胞の分化を促進する(3)。mESおよびhES細胞はまた、ある特定の細胞表面マーカーが存在する分化の段階において相違し、このことは、初期マウス発生および初期ヒト発生におけるES細胞の分化間の基本的な種差を示唆している(19)。
【0024】
腎臓系統へのmESの分化を誘導する報告された方法では、胚様体(EB)形成による間接分化が使用された。しかし、このようなアプローチは、分化細胞の不均一集団、および腎臓前駆細胞の低収率を生じさせる。
【0025】
現在まで、直接分化プロトコルを使用してhES細胞に由来するアクアポリン1(AQP-1)陽性上皮細胞の公表された報告はない。上述したように、AQP-1は、腎近位尿細管構造体の内側を覆う腎上皮細胞の細胞膜上に局在する水輸送チャネルタンパク質である。AQP-1は、腎臓の水再吸収機能において役割を果たす。
【0026】
本方法は、腎特異的培養条件においてヒト胚性幹(hES)細胞を培養することによって、水輸送機能性を有する腎上皮様細胞へ分化するように、ヒト胚性幹(hES)細胞をインビトロで誘導できるという知見に基づく。本方法は、hES細胞をAQP-1発現細胞へ分化させる方法を提供する。本方法によって調製された分化hES細胞は、AQP-1発現を喪失することなく、灌流バイオリアクター中で7日間培養され得る。該方法は、腎形成性分化条件を提供するために、細胞外基質(ECM)分子の存在下で腎特異的培養培地中においてhES細胞を培養する工程を含む。本方法によって調製された細胞はまた、ヒト近位尿細管細胞において見られるのと同様のCD受容体発現プロファイルを示し得る。従って、本方法は、機能的な腎上皮様細胞の作製のための分化プロトコルを提供する。
【0027】
細胞の集団を分化させるために使用される場合、本方法は、集団中の細胞の約2%またはそれ以上、場合によっては約2%〜約50%を、AQP-1を発現する腎上皮様細胞へ分化させる。従って、細胞の集団を分化させるために使用される場合、本明細書に記載される方法は、hES細胞の全部ではないが一部を腎上皮様細胞へ分化させ得る。
【0028】
腎特異的培養培地へ添加されると、上皮成長因子(EGF)および/または骨形成タンパク質-2(BMP-2)は、それらの因子の一方または両方を含まない腎特異的培養培地の使用と比較した場合、腎上皮様細胞へのhES細胞の分化を増加させることがわかった。同様に、細胞の集団の複数回の継代または継代培養は、水輸送機能性を有する腎上皮様細胞へ分化する細胞の割合を増加させ得る。
【0029】
本方法は、胚様体(EB)を形成することのない、腎上皮様細胞へのhES細胞の直接分化を可能にする。EBは、胚に相当する分化を促進することができ、従って、外胚葉、中胚葉、および内胚葉の3つ全ての胚葉に由来する細胞を含有し得る、細胞の集合体である。間接分化において、ES細胞は、先ず、EBを形成するために集合し、次いで、EBは、腎臓前駆細胞への分化を促進するための条件へ曝露される。EBの形成は多数の細胞型の形成へ至るので、EBを使用する間接分化は、分化細胞の不均一集団、および腎臓前駆細胞の低収率を生じさせる。hES細胞分化プロトコルにおいて胚様体の形成を省くことは、骨形成性細胞への分化の効率を改善することがわかった(20)。従って、いかなる特定の理論にも限定されないが、本方法は、比較的一様の細胞環境および分化細胞のより均一な集団を可能にするようであり、従って、EBの形成を必要とする方法と比べて腎上皮様細胞のより高い収率を提供する可能性が高い。
【0030】
本明細書において使用される場合、用語「腎上皮様細胞」は、hES細胞から直接分化し、CK-18、β-カテニン、AQP-1、AQP-2、AQP-4およびメガリンの1つまたは複数を含む腎上皮細胞タンパク質マーカーを発現する、細胞を指す。腎上皮細胞タンパク質マーカーには、ヒト腎上皮細胞において発現し、ヒト胚性幹細胞において発現しないかまたはより少ない程度に発現する、細胞タンパク質が含まれる。このようなマーカーは、ある特定の細胞がhES細胞から分化し腎上皮様細胞になったことの表示として使用され得る。
【0031】
「水輸送機能性」は、AQP-1を発現し、従って、水再吸収に関与する腎上皮細胞と機能的に同様の様式で水を取り込むことができる、細胞のまたは細胞を含む細胞集団の特徴を指す。従って、水輸送機能性を有する細胞は、AQP-1を発現し、腎再吸収プロセスにおけるように水を取り込むように機能することができるか、機能する能力を有するか、または機能し得る。
【0032】
従って、ヒト胚性幹細胞をAQP-1発現細胞へ分化させる方法を提供する。該方法は、細胞外基質(ECM)分子の存在下で腎特異的培養培地中においてhES細胞を培養する工程を含む。
【0033】
本方法において使用されるhES細胞は、未分化hES細胞である。
【0034】
本明細書において使用される場合、用語「細胞(cell)」は、ヒト胚性幹細胞を参照する場合、単一の細胞ならびに複数の細胞または細胞の集団を指すように意図される。同様に、用語「細胞(cells)」もまた、文脈が許容する場合、単一の細胞を指すように意図される。細胞は、バッチ培養または組織培養皿中において成長した細胞であり得る。未分化hES細胞は、当技術分野において公知であるように、典型的に初めは胚盤胞から得られるが、未分化状態に維持しつつ予め増殖させてもよい。
【0035】
一般的に、細胞を未分化状態に維持するようにhES細胞を培養する方法は、公知であり、従って、hES細胞は、本方法における使用前に、フィーダー細胞を用いてまたは用いずに、hES細胞についての公知の方法を使用して未分化状態に維持してもよい。一態様において、未分化hES細胞は、フィーダー細胞層、例えば、マウス胚性線維芽細胞(MEF)フィーダー層上でhES細胞を培養することによって維持される。別の態様では、該方法において使用されるhES細胞は、フィーダーフリー培養由来であり得る。例えば、hES細胞は、先ず、フィーダー細胞、例えば、MEFと共に培養され、次いで、例えばマトリゲル(商標)を含む細胞外基質上で、フィーダー細胞の非存在下で培養され得る。一態様において、使用されるhES細胞は、先ず、MEFの層上で培養され、次いで、続いて、線維芽細胞を含まない未分化hES細胞を得るために、MEFフィーダー層から回収された馴化培地を使用してマトリゲル(商標)層上において培養される。
【0036】
分化を誘導するために、未分化hES細胞は、腎特異的培養培地中で培養される。腎特異的培養培地は、腎細胞の成長をサポートするように設計された任意の成長培地であり得、これは、hESの接着、成長および増殖を維持し、かつ、分化しAQP-1を発現するようにhES細胞を誘導するために必要とされる栄養素および因子を含有する。腎特異的成長培地は、腎細胞集団の増殖を可能にするための基本因子を含有してもよく、また、ウシ胎仔血清(FCS)、成長因子、例えば、上皮成長因子(EGF)および塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、インスリン、ヒドロコルチゾン、エピネフリン、およびトリヨードサイロニン(T3)を含む追加の因子を補ってもよい。腎特異的培養培地は、公知であり、市販されており、これには、腎上皮基礎培地(REBM)および腎上皮成長培地(REGM、Cambrex, USAから入手可能)が挙げられる。
【0037】
腎特異的培養培地には、EGF、例えば、約0.05%〜約2.0%EGF、約0.05%〜約1.0%EGF、約0.075%〜約0.5%EGF、または約0.1%〜約0.25%を補ってもよい。腎特異的培養培地にはまた、BMP-2、例えば、約0.5〜約50 ng/ml BMP-2、約1〜約25 ng/ml BMP-2、または約2.5〜約10 ng/ml BMP-2を補ってもよい。
【0038】
一態様において、REGMが腎特異的成長培地として使用される。REGMは、約0.25%FCS、約0.1%EGF、約0.1%インスリン、約0.1%ヒドロコルチゾン、約0.1%エピネフリン、および約0.1%トリヨードサイロニンが補われたREBMを含む。
【0039】
いかなる特定の理論にも限定されないが、REGMから異なる因子を省くことの影響の観察に基づいて、FCSは、hES細胞接着のために必要とされ得る。さらに、インスリン、エピネフリンおよびトランスフェリンは、hES細胞増殖において役割を果たし得、EGFは、腎上皮様細胞へのhES細胞の分化を誘導することにおいて役割を果たし得る。従って、腎特異的培養培地は、一態様において、FCS、インスリン、エピネフリン、トランスフェリンおよびEGFを含む。別の態様において、腎特異的培養培地はEGFを含む。
【0040】
AQP-1発現細胞へ分化するように未分化hES細胞を誘導するために、腎特異的培養培地に加えて、細胞外基質(ECM)分子が成長条件に含まれる。一態様において、上皮基底膜を模倣するためにECM分子でコーティングされた培養表面上に、hES細胞を播種する。ECM分子は、腎特異的培養培地中におけるhES細胞の成長をサポートする任意のECM分子またはECM分子の混合物であり得る。例えば、ECM分子は、フィブロネクチン、ラミニン、IV型コラーゲンまたはマトリゲル(商標)(BD Biosciences)であり得る。マトリゲル(商標)マトリックスは、EHSマウス肉腫から抽出された可溶化(solubulized)基底膜調製物であり、種々の基底膜成分および結合した成長因子を含み、これらは、上皮組織の確立を促進することが公知であり(22)、これらには、ラミニン、コラーゲンIV、へパラン硫酸プロテオグリカンおよびエンタクチンが含まれる。
【0041】
AQP-1の発現を含むhES細胞の少なくとも一部の分化を誘導するに十分な時間および温度および成長条件下で、ECM分子の存在下で、hES細胞を腎特異的培養培地中で成長させる。
【0042】
例えば、前記細胞は、2〜10%CO2、または5%CO2にて、37℃で、30日間まで、例えば、5〜15日間または7〜10日間、培養され得る。
【0043】
上述したように、本方法が細胞培養物などの細胞集団について行われる場合、集団または培養物内の全ての細胞が、必ずしもAQP-1発現細胞へ分化しない。従って、集団または培養物内の一部の細胞は、同一の集団または培養物内の他の細胞が分化しAQP-1を発現するように誘導される一方で、分化せずにそれらのhES性質を保持する場合がある。
【0044】
従って、本方法は、培養物集団中の約2%以上の細胞が少なくともAQP-1を含む腎上皮マーカーを発現する程度まで、AQP-1発現細胞へのhES細胞の分化を生じさせ得、これらはまた、CK-18、β-カテニン、AQP-2、AQP-4およびメガリンの1つまたは複数を発現し得る。例えば、細胞集団の、約2%以上、約5%以上、約10%以上、約15%以上、約20%以上、または約25%以上が、腎上皮細胞マーカーを発現し得る。他の態様において、細胞の約2%〜約50%、約5%〜約50%、約10%〜約50%、約15%〜約50%、約20%〜約50%、または約25%〜約50%が、AQP-1および場合によっては他の腎上皮マーカーを発現する細胞へ分化し得る。
【0045】
AQP-1発現細胞への分化の程度は、下記の実施例において記載されるように、特定のマーカータンパク質の発現を確認するための、免疫組織化学技術、ウエスタンブロット技術およびPCR技術などを含む、標準方法を使用して、当業者によって容易に測定され得る。さらに、本発明の方法によって調製された分化細胞集団と初代ヒト近位尿細管細胞との類似性は、CD-326およびCD-133を含むCD受容体発現プロファイルによって実証され得る。さらに、水を輸送する細胞の能力は、カルセインなどの蛍光マーカーを使用して、低張液への曝露の前後に蛍光についてアッセイすることを含む、下記の実施例において記載される方法を使用して測定され得る。
【0046】
ECM分子上で腎特異的成長培地中において、1または複数の追加の成長期間の間、hES細胞を継代培養することは、腎上皮様細胞へのhES細胞の分化の程度を増加させ得る。例えば、細胞を、最初の培養培地から取り出して、任意で洗浄し、次いで、追加の培養期間の間、例えば、5〜30日間、5〜15日間、または7〜10日間、ECM分子と共に新鮮な腎特異的成長培地中に置いてもよい。細胞は、複数回、例えば、1、2、3、4回、継代または継代培養され得、これは、AQP-1を発現するように分化した培養物中の細胞の数を増加させ得る。
【0047】
骨形成タンパク質2(BMP-2)は、単一細胞中におけるAQP-1発現レベルのスイッチを入れるのに関与し得る。従って、BMP-2は、得られるAQP-1陽性細胞の数を増加させるために、任意で培養培地へ添加され得る。例えば、約1.0〜約20 ng/mlまたは約2.5〜約10 ng/mlのBMP-2が、培養培地中に含まれ得る。BMP-2は、分化方法の開始時に、例えば、培養培地へ細胞を添加する前に、培養培地へ添加されてもよく、またはBMP-2は、分化方法のより後の段階で、例えば、細胞が継代培養され得る任意の時点で、添加されてもよい。
【0048】
本方法は、指向性分化によるhES細胞からのAQP-1発現細胞のインビトロ作製を、好都合に提供する。作製された細胞は、失われた腎機能を治療することを含む、細胞療法において使用され得る。特に、本発明のAQP-1発現細胞は、腎臓上皮細胞の水吸着機能に必須である水輸送機能性を実証する。さらに、本発明の腎上皮様細胞は、灌流バイオリアクター中での7日間の培養後に水輸送チャネルタンパク質アクアポリン-1(AQP-1)の高度な発現を維持することができる可能性があり、このことは、BTADにおける有用性を示している。理解されるように、灌流培養モデルは、基底側および管腔側を有することによって上皮バリアを模倣する。
【0049】
従って、本方法は、AQP-1発現細胞、またはAQP-1発現細胞の集団を調製するために使用され得る。上述したように、前記細胞または細胞の集団は、CK-18、β-カテニン、CD-326およびCD-133を含む他の上皮マーカーを発現し得る。細胞の集団について、細胞集団の約2%以上、約5%以上、約10%以上、約15%以上、約20%以上、または約25%以上が、AQP-1および他の腎上皮細胞マーカーを発現し得る。他の態様において、細胞の約2%〜約50%、約5%〜約50%、約10%〜約50%、約15%〜約50%、約20%〜約50%、または約25%〜約50%が、AQP-1および他の腎上皮マーカーを発現するように分化し得る。
【0050】
本明細書で記載する細胞は、水輸送機能性を有する細胞を提供するためにインビボまたはインビトロで使用され得、再生療法および生物工学などの再生戦略において有用であり得る。再生療法は、病変した組織または器官を修復または交換するための細胞の使用を含む。例えば、腎様細胞は、病変した腎臓へ送達され、そこで、それらが組み込まれて、損傷組織の機能に置き換わる(2)。生物工学は、新たに置き換わる器官を作製するための他の因子およびマトリックスと組み合わせた器官特異的細胞の使用を含む、別の再生戦略である(2)。
【0051】
胚性幹細胞が細胞療法戦略のための細胞供給源を潜在的に提供し得ることが、以前から認識されていた(17、23〜25)。しかし、本方法より前には、hES細胞からの腎様細胞の指向性インビトロ作製は公知でなく、細胞療法戦略におけるhES由来の細胞の機能性は、初めは仮定的であった(2、12、26)。従って、腎疾患の治療は、主に臓器移植または遺伝子治療に集中してきた(26)。
【0052】
以前の研究によって、腎再吸収機能は、腎臓ドナーの臓器から単離されてポリスルホン中空ファイバーシステム上に播種されたヒト近位尿細管上皮細胞によって首尾よく行われ得ることが示された(11)。このアプローチは、細胞療法の適用における同種異系細胞供給源の使用を可能にするためのポリスルホン膜上の免疫保護バリアを用いて、第I/II相臨床試験で首尾よく実証された(11、23)。しかし、このアプローチは、腎臓ドナー臓器の不足によって制限されている。臓器は、一般的に、利用可能である場合は移植され、従って、少数の場合においてのみ、ドナー臓器が、バイオ人工尿細管補助装置のための細胞供給源として使用される。
【0053】
それらの水輸送機能性に起因して、本方法に従って調製されたAQP-1発現細胞は、失われた腎機能を交換するための戦略において、バイオ人工尿細管補助装置内に使用され得る細胞の、容易に得られる供給源を提供する。従って、本発明のAQP-1発現分化細胞を組み込んだ、失われた腎機能の治療のための装置および方法も、本明細書において企図される。
【0054】
本発明は、hES細胞からインビトロで作製されたAQP-1発現細胞を含有するバイオ人工尿細管補助装置を提供し、該装置は、失われた腎臓機能の治療のために使用され得る。
【0055】
一般的に、バイオ人工尿細管補助装置は、内腔を有する中空コアファイバーとして設計される。典型的に、内腔は、少なくとも一部は多孔質表面または膜を有する管状または平面状のベッドによって形成されている。細胞を多孔質表面または膜上に播種し、かつ該表面上に接着させて集団へと増殖させる。表面は、典型的に、2面(細胞を含まない面、および播種された細胞を含む面)が流体へ曝露される。このような装置は、当技術分野において公知であり(Ingenta)、バイオリアクターシステム中へ組み込まれ得るか、または透析装置の様式におけるように患者へ接続され得る。
【0056】
例えば、このような装置において、膜表面を有する中空ファイバー血液濾過カートリッジは、細胞成長のための足場として使用され得る。中空ファイバーの内腔は、好適なECM分子でコーティングされ得、細胞が、上述のように腎特異的培養培地の存在下で管腔の内側へ添加され得る。
【0057】
従って、装置の調製方法が提供され、該方法は、細胞を中空ファイバー装置の内腔へ播種する前または後のいずれかにおいて、上述のようにhES細胞をAQP-1発現細胞へ分化させる工程を含み、該内腔は、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンIVおよびマトリゲルマトリックスの1つまたは複数を含むECM分子でコーティングされている。
【0058】
従って、細胞集団が中空ファイバーの内部表面上で成長して、バイオ人工尿細管補助装置内に、コンフルエントな単層を含む、腎上皮様細胞の単層、または細胞の一部が上述のようにAQP-1を発現するように分化している集団の単層を提供し得る。
【0059】
分化前のhES細胞が、装置内へ播種され、播種後に分化し得る。または、細胞は、装置内へ播種される前に、腎特異的培養培地中において分化し得る。
【0060】
上述したように、細胞は、いったん中空ファイバー装置の内側へ播種されると、コンフルエンスまでを含んで、増殖し得る。増殖は、上述のように、腎特異的培養培地を使用して、細胞集団の成長および増加についての好適な条件下で細胞を成長させることによって行われ得る。
【0061】
このような装置内に本明細書に記載の細胞を配置することによって、人工免疫学的バリアによって血液循環から隔離しながら、該細胞を臨床応用に使用することができ、そのため免疫拒絶または他の免疫合併症の危険性ならびに未分化幹細胞で生じ得る可能性のある癌形成の危険性が低下される。
【0062】
上述のバイオ人工尿細管補助装置は、腎臓関連障害を有する被験体を治療するために使用され得る。バイオ人工尿細管補助装置内の細胞は、腎臓限外濾過液内の物質を再吸収するように作用し得、従って、健康な腎臓の濾過および再吸収機能を模倣する。
【0063】
従って、被験体における腎臓関連障害を治療する方法も本明細書で提供される。該方法は、本発明のバイオ人工尿細管補助装置を、その必要がある被験体へ接続する工程を含む。
【0064】
腎臓関連障害を治療することは、臨床結果を含む、有利なまたは所望の結果を得るためのアプローチを指す。有利なまたは所望の結果には、以下が含まれ得るが、これらに限定されない:1つまたは複数の症状または状態の緩和または改善、障害または疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化、障害または疾患の進展の防止、障害または疾患の広大の防止、障害または疾患進行の遅延または減速、障害または疾患発症の遅延または減速、障害または疾患状態の改善または軽減、および寛解(部分的であるかまたは全体的であるかにかかわらない)。「治療すること」はまた、被験体の生存を、治療がない場合に予想されるものよりも長くすることを意味し得る。「治療すること」はまた、障害または疾患の進行を抑制すること、障害または疾患の進行を一時的に減速させることを意味し得るが、より好ましくは、それは、障害または疾患の進行を永久的に停止させることを含む。
【0065】
被験体は、腎臓関連障害を有するかまたは腎臓関連障害についての治療を必要とする任意の被験体であり得る。腎臓関連障害は、腎臓変性または腎不全を引き起こし得るか、生じさせ得るか、またはこれらに関連し得る、任意の疾患、障害または状態を指し、これらとしては、腎症、糖尿病性腎症、ネフローゼ、ブライト病、腎機能不全、糸球体炎、糸球体硬化症、または腎炎が挙げられる。
【0066】
上述したように、このような装置およびこのような装置の使用は、当技術分野において公知である。一般的に、前記装置は、通常の透析装置または血液濾過装置と同様の様式で使用される。前記装置は、被験体へ外部から接続され、被験体の血液または体液が、該装置を通ってくみ出され、膜の反対側の面上に播種された細胞を有する膜を通り、次いで最後に再び被験体中へ戻される。前記細胞は、被験体由来の血液または体液が装置を通過する際に、水を輸送することができる。
【0067】
その必要がある被験体内に本発明の細胞または装置を移植する工程を含む、被験体における腎臓関連障害を治療する方法もまた、本明細書で提供される。
【0068】
移植可能な装置は、例えば、米国特許第6,150,164号および第6,942,879号に記載されているように、公知である。
【0069】
細胞または装置は、標準的な外科的方法または注射方法を使用して移植され得る。細胞または装置は、腎臓関連障害の治療的処置を提供するために被験体における好適な部位に、例えば、腎近位尿細管構造体を含む、腎上皮細胞が必要とされる部位に、移植され得る。
【0070】
バイオ人工尿細管補助装置内の細胞を含めて、水輸送機能性を有するAQP-1発現細胞の有効量が、被験体へ投与される。用語「有効量」は、本明細書において使用される場合、所望の結果を達成するために、例えば、腎臓関連障害を治療するために必要な投与量および期間での、有効な量を意味する。
【0071】
投与される細胞の総数は、腎臓関連障害の重篤度およびタイプ、投与様式、ならびに被験体の年齢および健康状態を含む、いくつかの因子に応じて、変化する。
【0072】
AQP-1発現細胞は、薬物療法、透析治療および手術を含む、他の治療または療法と組み合わせて、腎臓関連障害を治療するために投与され得ることが理解される。
【0073】
本方法、細胞集団、装置および使用を下記の非限定的な実施例によってさらに例証する。
【0074】
実施例
実施例1
この実施例では、ヒト胚性幹(hES)を、異なる細胞外基質(ECM)成分を有する種々の培養表面上に播種し、腎上皮成長培地(REGM)中で培養した。この方法を、hESを腎上皮様細胞へ分化させるために適用した。REGM中において10日間培養した後、免疫組織化学およびウエスタンブロッティングによって、上皮表現型を示すAQP-1およびCK-18の発現が明らかになった。フローサイトメトリーによって、分化細胞は、ヒト腎近位尿細管中において見られるものと同様のCD受容体発現プロファイルを有することが示された。さらに、分化細胞は、機能的水輸送を示し、AQP-1発現を失うことなく灌流バイオリアクター中で7日間培養することができた。従って、この方法は、失われた腎機能を置き換えるための戦略において潜在的に使用され得る機能的腎上皮様細胞を作製するための分化プロトコルを提供する。
【0075】
材料および方法
hES細胞培養および分化:HUES-7細胞株(Howard Hughes Medical Institute, USAから得た)を、20%の血清代替物(Invitrogen、カタログ番号10828028)、1%のGlutaMax(Invitrogen、カタログ番号35050061)、1%の非必須アミノ酸溶液(Invitrogen、カタログ番号11140-050)、1%のペニシリン-ストレプトマイシン(Invitrogen、カタログ番号15070-063)、0.004%の塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)(Invitrogen、カタログ番号13526029)、および0.1%の2-メルカプトエタノール(Invitrogen、カタログ番号21985023)を補ったノックアウトDMEM(Invitrogen, USA、カタログ番号10829018)中、ネオマイシン耐性初代マウス線維芽細胞、FVB株(カタログ番号PMEF-N, CHEMICON International, USA)上において、37℃、5%のCO2で培養した。初代マウス線維芽細胞を、ゼラチン0.1%(Sigma, USA)でコーティングされたT75フラスコ上に平板培養した。培養培地を毎日交換し、7〜10日間培養した。MEFの培養培地由来の馴化培養培地を回収し、10 ng/mlのbFGFと共にhES細胞で使用した。線維芽細胞層上で培養したhES細胞を、トリプシン処理し(0.05%のトリプシン、Invitrogen, USA)、かき集め、100-μmメッシュで濾過した。濾過した細胞を、MEFの培養培地由来の馴化培養培地を含有する、マトリゲル(商標)マトリックス(BD Biosciences, Germany)でコーティングされた(ノックアウトDMEM中に1:20希釈)培養フラスコ上で培養した。hES細胞を2回継代培養し、線維芽細胞を含まない培養条件を得た(3、18、21)。RT-PCR分析(図1c)によって検出された、Oct3/4(図1b)、Sox2、CD9およびNanogの発現によって、hES細胞の未分化状態が確認された。
【0076】
増殖させた後、細胞を種々のECM分子コーティング上に播種し、REGM(Cambrex, USA)を使用して7〜10日間培養した。ECMコーティングを以下のように調製した;フィブロネクチン(Invitrogen、カタログ番号33016015)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に50 μg/ml、天然マウスラミニン(Invitrogen、カタログ番号33016015)、1.3 mg/ml、PBS中に1:15希釈、およびコラーゲンIV(BD Biosciences、カタログ番号354233))、0.05 M HCl中に1:9希釈。溶液を、各々、細胞培養フラスコの表面へ1時間曝露し、次いで除去した。培養培地を一日おきに交換した。2 mlのトリプシン溶液(Cambrex、カタログ番号cc-5012)を1〜2分間使用し、続いて2 mlのトリプシン中和溶液(Cambrex、カタログ番号cc-5002)を添加することによって、継代培養を行った。細胞を500×gで5分間遠心分離した。培養培地を一日おきに交換した。ヒト近位尿細管細胞を、REGM(Cambrex, USA)中、フィブロネクチンでコーティングされた培養フラスコ上で培養した。ある特定の実験については、BCP-2を、2.5から10 ng/mlへ濃度を増加させて、REGMへ添加した。
【0077】
RNA単離および2段階RT-PCR:NucleoSpin RNA II単離キット(Macherey-Nagel, Germany)を使用して、製造業者のプロトコルに従って、総RNAを細胞から単離した。1μgの総RNAを、High-capacity cDNAアーカイブキット(Applied Biosystems, USA)を使用してcDNAへ逆転写した。簡潔に言うと、50μlの総RNAを、RTバッファー、dNTP混合物、ランダムヘキサマーおよびMultiscribeRT(5 U/μl)を含有する2Xマスターミックスと混合した。反応混合物を、サーマルサイクラー(PTC-200, MJ Research, USA)中で、25℃で10分間、続いて37℃で2時間、インキュベートした。1μlの各cDNAを、Platinum PCR Supermix(Invitrogen, USA)を用いるPCR反応に使用した。反応条件は、95℃で3分間、94℃で30秒間、55℃で1分間、72℃で1分間、45サイクル増幅であった。PCRについてのプライマーを、Primer Express 3.0ソフトウェア(Applied Biosystems, USA)およびGenbankからのそれぞれのヒト配列を使用して設計した。プライマーは下記の通りであった:

全てのプライマーは、5'→3'方向で示されている:PCR産物を、アガロースゲル上で分離し、臭化エチジウムを使用して視覚化した。
【0078】
免疫組織化学:細胞を氷冷エタノール中で10分間固定した。PBSで3回リンスした後、サンプルを、PBS、10%のFCS、および1%のウシ血清アルブミン(BSA)を含有するブロッキング溶液と共に30分間インキュベートした。AQP-1、β-カテニン、Oct3/4(全てSigma, USA製)、Ms X Hu Nuclei(HNuc, Chemicon International, USA)、およびサイトケラチン-18(CK-18, Zymed Technologies, USA)に対する抗体を、1:100の比で希釈し、室温で2時間インキュベートした。3回洗浄した後、試料を、BSAを1%含有するPBS中に1:200で希釈した適切な二次抗体と共に45分間インキュベートした。DAPIを核染色のためにSigma-Aldrich (Germany)から得た。次いで、試料を、IX71 Olympus顕微鏡を使用して分析した。画像をデジタルカメラで撮影し、Photoshop 5.5(Adobe Systems, San Jose, CA, USA)を使用して処理した;細胞カウントを視覚的に行った。AQP-1陽性細胞のパーセンテージを、AQP-1陽性/DAPI陽性細胞とAQP-1陰性/DAPI陽性細胞との比率から得た。
【0079】
ウエスタンブロッティング:細胞を、SDS-Laemmliバッファー中に溶解し、超音波処理した。15μgの総タンパク質を、各レーンにロードし、SDS-PAGEにおいてそれらの分子量に従って分離した。タンパク質を、15 Vで30分間、セミドライウエスタンブロット装置(BIO-RAD, USA)を使用してポリフッ化ビニリデン(polyvinylidine fluoride)(PVDF)膜(Millipore, Bedford, USA)へ転写した。残りの結合部位を、室温で1時間、5%の脱脂粉乳および0.02%のTweenを含有するPBSでブロックした。前記膜を、4℃で一晩、AQP-1、β-カテニン、Oct3/4、GAPDH(全てSanta Cruz Biotechnology, USA製)およびサイトケラチン-18(CK-18, Zymed Technologies, USA)のいずれかについてインキュベートした。3回の洗浄工程後、前記膜を、45分間、アルカリホスフェート(alkaline phosphate)結合二次抗体(Dianova, Germany)と共にインキュベートした。ブロットを、BCIP/NBTキット(Zymed Technologies, USA)で発色させた。免疫ブロットを、Scan Jet 6200 Cスキャナー(Hewlett Packard, Greely, USA)を使用して記録した。見かけの分子量の評価を、SDS-PAGE標準によって行い、これらを、各実験(n=6)において並行して実行した。
【0080】
フローサイトメトリー:100万個の細胞を、0.5%のBSAおよび2 mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含有するPBS 80μl中に懸濁させた。20μlのFcRブロッキング試薬を添加した。続いて、10μlのフィコエリトリン(PE)結合抗体CD31、CD45、CD56、CD133およびCD326(全てMiltenyi Biotec, Germanyから得た)を、10分間添加した。コントロール実験を、抗体投与およびアイソタイプコントロールなしに行った。バッファー添加および300×gで10分間の遠心分離によって、細胞を3回洗浄した。分析を、LSR II3-レーザーFACS分析器(BD Biosciences, USA)を使用して行った。
【0081】
カルセインを使用する水輸送アッセイ:細胞を、アッセイの前に少なくとも24時間、組織培養皿中において単層で培養した。細胞をPBS(カルシウムおよびマグネシウム塩を含まない)で3回、各々1分間、洗浄した。細胞に、10分間、PBS中1.6μMの最終濃度でカルセイン-AM(Invitrogen, USA)をロードし、続いて、PBSでの3回の洗浄工程を、各1分間、行った。次いで、CCDカメラを備えた蛍光顕微鏡セットアップにおいて、細胞をライブ画像化した。培地を低張(水中0.06%NaCl)液へ変更した。経時的画像を、10分間、10秒間隔で撮影した。Metamorphソフトウェア(Molecular Devices, USA)を、蛍光強度を測定するために使用した。
【0082】
バイオリアクターセットアップおよびインビボ実験:0.8 μmの細孔径を有するSUPOR-800ポリスルホン膜(Pall Corporation, USA)を、REGM中に1:20希釈されたマトリゲル(商標)で1時間コーティングした。続いて、分化hES細胞を、前記膜上へ播種し、37℃で5%のCO2下で24時間、REGM中で培養した。次いで、細胞を有する膜を、入口および出口を有するバイオリアクター中に配置した。REGMを、0.1 ml/分の流量で、接着したhES細胞を有する前記膜上へ注ぎ、ガス透過性シリコーンチューブを介して培養培地を再循環させた。前記システムを37℃で5%のCO2下に維持し、シリコーンチューブはガス交換を可能にした(27)。細胞を有する膜を、7〜10日の灌流培養後、さらなる分析へ供した。
【0083】
動物実験を、承認されたIACUCアプリケーション番号060160およびNUS-IRBリファレンスコード06-052に従って行った。SCIDマウスを麻酔し、100万個の細胞を腎被膜下に注射した。6週間後、腎臓を取り出し、パラフィン包埋した。ミクロトームを使用して6-μm切片を切断し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0084】
結果
Howard Hughes Medical Institute(USA)から得たHUES-7細胞株を、マウス胚性線維芽細胞(MEF)フィーダー層上で、胚状態に維持した(図1a)(16)。MEFフィーダー層から回収した馴化培地を使用して、ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中に希釈されたマトリゲル(商標)でコーティングされた表面上に、hES細胞を2回継代培養し(図1aおよびb)、線維芽細胞を含まない培養条件を得た(17〜19)。Oct3/4(図1b)、Sox2、CD9およびNanog(図1c)の発現によって、両方の条件下での未分化状態が確認された。
【0085】
分化を開始させるために、前記細胞を、10日間、腎上皮成長培地(REGM)中で培養した。REGMは、いくつかの因子、例えば、0.25%のウシ胎仔血清(FCS)、各々0.1%の濃度の上皮成長因子(EGF)、インスリン、ヒドロコルチゾン、エピネフリン、およびT3が補われた腎上皮基礎培地(REBM)を含む。上皮基底膜を模倣するために、フィブロネクチン、ラミニン、IV型コラーゲンおよびマトリゲル(商標)などの異なるECM成分を有する種々の培養表面を試験した。
【0086】
10%のFCSを含有するDMEM培養培地での最初の実験によって、hES細胞がほんのわずかしか接着しないことが明らかとなった。しかし、REGMは、適用した全てのECMコーティングにおいて、顕著な細胞接着および細胞拡散を生じさせた。REGM中で10日間培養した後、AQP-1抗体を用いる免疫組織化学によって、フィブロネクチン、ラミニンおよびコラーゲンIVについては同様の発現パターンが示され(陽性細胞の5〜10%)、一方、マトリゲル(商標)はAQP-1のより高い陽性発現を生じさせることが示された(陽性細胞の22%(図2a))。同一のECM上でのhES細胞の継代培養によって、4つ全てのECMコーティングにおいてAQP-1陽性細胞がさらに増加した(図2b)。AQP-1発現細胞のパーセンテージを図2cに要約する。REGM培養培地は、hES細胞におけるAQP-1発現および細胞拡散を顕著に促進した。さらに、REGM中での培養および同一のECM上でのhESの継代培養は、それぞれのECMタイプとは無関係に、AQP-1発現細胞の数を増加させた。CK-18抗体での二重染色によって、全てのAQP-1発現細胞がCK-18を発現することが明らかとなり(図2d)、このことは、それらの上皮表現型を示している(28)。同時に、全てのAQP-1陽性細胞が、ヒト核因子(hNuc)について陽性であり、このことは、それらがヒト起源であることを示している(図2d)。免疫組織化学において得られた結果を確認するために、ウエスタンブロットを、免疫組織化学について使用したものと同一のサンプルおよび抗体を用いて行った(図3)。マトリゲル(商標)上で10日間培養し、細胞を同一のECMコーティング上で継代培養した場合、ウエスタンブロットによって、REGM中におけるAQP-1の発現の上昇が確認された。同様の結果が、2つの上皮関連タンパク質、CK-18およびβ-カテニンについて見られた。未分化hES細胞集団については、バンドは見られなかったか、または非常に弱いバンドが見られた。さらに、前記分化条件下で、幹細胞特異的マーカーであるOct3/4の発現が、上皮表現型への腎臓マーカーのアップレギュレーションと相関して、減少した。
【0087】
REGMは、種々の因子を含有する複合培養培地である。細胞接着および成長に影響を与える影響因子を評価するために、REGMから1つずつ因子を省いた(図4)。10日間培養した後、ウシ胎仔血清(FBS)が、マトリゲル(商標)コーティングを用いる場合でさえ、hES細胞接着に必須であることが観察された。さらに、これらの因子は、異なる程度に細胞増殖に影響を与えた。特に、インスリンは、細胞増殖に対して顕著な影響を示した。インスリンを細胞成長のための培地へ添加しなかった場合、細胞カウントの90%超の減少が観察された。エピネフリンおよびトランスフェリンが培地へ補われなかった場合、細胞カウントの約45%および約30%の減少が見られた(図4aおよびb)。AQP-1発現に対するREGM培養培地中の種々の因子の役割も調べた。種々の培養条件下で、異なる濃度でのAQP-1発現が検出された。EGFを除外した場合、AQP-1陽性である細胞はごく僅かしかなく、一方、インスリンが培地に存在しない場合、多くの細胞がAQP-1発現を示した(図4c)。
【0088】
胚発生の間、心臓、骨格および平滑筋細胞に加えて、腎臓および誘導尿細管細胞が、中胚葉から生じることが、公知である(29〜31)。BMP-2は、中胚葉特殊化についての形成因子として作用することが示されており、これはまた、BMP-2が胚性幹細胞を心筋細胞型へと指向させ得るという事実によっても理解される(31)。従って、BMP-2がAQP-1陽性細胞へのhES細胞の分化に対して影響を有するかどうかを調べた(図5a)。BMP-2(2.5〜10 ng/mlの範囲)で処理すると、AQP-1陽性細胞数の増加が観察された。細胞をBMP-2なしで分化させた場合、よりクローナル性の増殖パターンが見られ、一方、BMP-2は、より散在性の発現パターンを誘導し、このことは、AQP-1発現は、AQP-1発現細胞のクローナル性増殖によって、および、単一細胞におけるAQP-1発現のスイッチをいれることによって、引き起こされ得ることを示している。
【0089】
初代ヒト近位尿細管細胞とREGM分化hES細胞とのさらなる類似性を評価するために、両方の細胞型(BMP-2を添加せずに、REGM中、マトリゲル(商標)上で分化させた)のCD受容体発現を、フローサイトメトリーを使用して分析した。ヒト近位尿細管細胞は、上皮細胞について典型的である多量のCD326を発現することがわかった(32)。さらに、この細胞型の部分母集団はまた、CD133を発現した。CD133がヒト腎皮質細胞という小さな集団において発現されることから、これは重要なことであり、かつこれらの細胞は、腎尿細管構造へ再生することができ、腎成体幹細胞として分類されることが示されている(33、34)。CD326およびCD133陽性細胞の非常に類似した分布が、マトリゲル(商標)上でREGMを用いて分化したhES細胞について観察され、このことは、両方の細胞型が共通の発現プロファイルを共有することを示している(図5b)。しかし、本分化プロトコルは、神経細胞によって通常発現される(35)CD56の陽性細胞の発現を誘導し、このことは、分化細胞のプールの存在を示している。
【0090】
これらの細胞が近位尿細管に類似した機能的特性を示すかどうかを測定するために、種々のインビトロおよびインビボ実験を、特異的タンパク質プロファイルの実験に加えて行った(図6)。実験の第1セットにおいて、未分化hES細胞を、マトリゲル(商標)でコーティングされた多孔質高分子膜上に播種し、これを灌流バイオリアクター中へ配置し、0.1 ml/分の流量でREGM培養培地を注ぎ、該培養培地を再循環させた(27)。7日後、hES細胞を有する膜を、表現型発現について免疫組織化学的に調べた。細胞のコンフルエントな単層が多孔質膜を完全に覆い、二重免疫染色によって、細胞の90%超が、サイトケラチン-18およびAQP-1の同時発現について陽性であることが示された(図6a)。これらの結果によって、前記細胞は、高度のAQP-1発現を伴って灌流培養条件を生き延び得ることが示され、このことは、バイオ人工腎臓の適用(BTAD)におけるそれらの潜在的使用を示している。それらの水輸送に関するAQP-1発現細胞の機能性を測定するために、先ず、細胞に等張液(300 mosM)中のカルセインをロードし、次いで、細胞を低張液(30 mosM)へ曝露した(8)。分化細胞中のカルセインは、低張液によって洗い出され、一方、他の細胞は、それらのカルセイン染色を保持し、このことは、これらの細胞の一部が、機能的水輸送を示したことを示している(図6b)。さらに、未分化hES細胞および分化細胞を、SCIDマウスの腎被膜下へ注射した。6週間後、組織学的検査によって、未分化細胞が注射されたマウス中における奇形腫形成が明らかとなり、一方、分化細胞が注射されたものは、腫瘍形成を示さなかった(図6c)。後者の場合、注射領域は、膨張した尿細管によって特徴付けられ、これは、異形成変化を示し、これらは、注射手順によって誘発される可能性が高い(細胞注射剤なしで注射針を挿入したコントロール実験においても見られた(データは示さず))。
【0091】
他の細胞マーカーの発現を比較した。図7は、分化細胞中のメガリンの蛍光染色を示す。図8は、分化した(RD-hES)および未分化の(hES)細胞についてのAQP-2、AQP-3およびAQP-4についてのPCR産物を示す。
【0092】
本明細書において引用される全ての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願が参照により組み込まれるように具体的かつ個々に示されるかのように、参照により本明細書に組み込まれる。刊行物の引用は、出願日前のその開示についてであり、本発明が、先行発明のために、このような刊行物に先立つ権利がないという了承と解釈されるべきでない。
【0093】
本明細書において与えられる濃度は、パーセンテージによって与えられる場合、重量/重量(w/w)、重量/体積(w/v)、および体積/体積(v/v)パーセンテージを含む。
【0094】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」は、文脈がそうではないように明確に規定しない限り、複数形参照を含む。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、用語「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含む(comprises)」およびこれらの用語の他の形態は、非限定的な内包的な意味で意図され、即ち、他の要素または成分を除外することなく特定の記載された要素または成分を含むように意図される。そうではないように定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術および科学用語は、本発明が属する技術の当業者に一般的に理解されるのと同一の意味を有する。
【0095】
前述の発明は、理解の明瞭性を目的として例証および例によって多少詳細に説明されたが、添付の特許請求の範囲の精神または範囲を逸脱することなしに、ある特定の変更および修飾がそれに対してなされ得ることが、本発明の教示を考慮して当業者に容易に明らかである。
【0096】
参考文献




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト胚性幹(hES)細胞をAQP-1発現細胞へ分化させる方法であって、
AQP-1発現細胞へのhES細胞の分化を誘導するのに十分な条件下で、細胞外基質(ECM)分子の存在下で腎特異的培養培地中において未分化hES細胞を培養する工程
を含む、方法。
【請求項2】
腎特異的培養培地が、腎上皮基礎培地または腎上皮成長培地を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ECM分子が、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンIVおよびマトリゲルマトリックスのうちの少なくとも1つを含む、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
腎特異的培養培地が上皮成長因子を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記培養する工程の前または間に腎特異的培養培地へ骨形成タンパク質2を添加する工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記培養する工程の前または間に約2.5〜約10 ng/mlの濃度で骨形成タンパク質2を腎特異的培養培地へ添加する工程をさらに含む方法であって、培養する工程が7〜10日間細胞を成長させる工程を含み、腎特異的培養培地が腎上皮成長培地を含み、ECM分子がマトリゲルマトリックスを含み、かついったん分化すると、細胞がAQP-1と、CK-18、β-カテニン、CD-326およびCD-133のうちの少なくとも1つとを発現する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
腎特異的培養培地中でかつ細胞外基質分子の存在下でヒト胚性幹細胞の集団から直接分化した細胞の集団であって、これらの細胞の約2%〜約50%がAQP-1を発現する、細胞の集団。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項記載の方法によって調製された、請求項7記載の細胞の集団。
【請求項9】
内腔を有する中空コアファイバーを含むバイオ人工尿細管補助装置であって、内腔が細胞外基質(ECM)分子および請求項7または8記載の細胞の集団でコーティングされている、バイオ人工尿細管補助装置。
【請求項10】
内腔を有する中空コアファイバーを含むバイオ人工尿細管補助装置を提供する工程、および内腔に請求項7または8記載の細胞の集団を播種する工程を含む、バイオ人工尿細管補助装置を調製する方法であって、細胞の集団を播種する前に、内腔が細胞外基質分子でコーティングされる、方法。
【請求項11】
内腔が、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンIVおよびマトリゲルマトリックスのうちの少なくとも1つを含む細胞外基質分子でコーティングされる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
細胞の集団が、内腔をコーティングするコンフルエントな単層へと培養される、請求項10または請求項11記載の方法。
【請求項13】
その必要がある被験体における腎臓関連障害を治療する方法であって、有効量の請求項7または8記載の細胞の集団を、被験体における、AQP-1発現細胞が必要とされる部位に移植する工程を含む、方法。
【請求項14】
細胞の集団が、請求項9記載のバイオ人工尿細管補助装置内に提供される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
被験体における腎臓関連障害を治療する方法であって、請求項9記載のバイオ人工尿細管補助装置を、その必要がある被験体へ、外部から接続する工程を含む、方法。
【請求項16】
腎臓関連障害が、腎不全、腎症、糖尿病性腎症、ネフローゼ、ブライト病、腎機能不全、糸球体炎、糸球体硬化症または腎炎を含む、請求項13〜15のいずれか一項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−533488(P2010−533488A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516953(P2010−516953)
【出願日】平成20年7月21日(2008.7.21)
【国際出願番号】PCT/SG2008/000263
【国際公開番号】WO2009/011663
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(508305029)エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (36)
【Fターム(参考)】