説明

能動的塞栓形成のための微小球

【課題】生物適合性、膨潤可能、実質的に親水性、非毒性、かつ実質的に球形であり、塞栓形成薬剤療法に使用される生物活性治療因子を効率的に送達できるポリマー材料担体を含む、注射可能な組成物の提供。
【解決手段】(a)ビニルアルコールポリマー、ポリ(乳酸)、ポリアクリルアミド、ポリ(無水物)、多糖類、シリコーン、またはそれらの混合物を含む、生物適合性および疎水性ポリマー、および(b)抗新生物剤を含む、能動的塞栓形成に適した実質的に球形の微小球。更に本注射可能組成物を使用する、特に新脈管形成および非新脈管形成依存型疾患の治療のための塞栓形成遺伝子療法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の詳細な説明)
1.発明の分野
本発明は、癌および他の様々な血管形成依存性疾患を含む疾患を治療するための組成物および方法に関し、特に、担体としての微小球と組み合わせた生物活性治療因子を含む組成物(該微小球は該因子で被覆されるか、または該因子を含む)、およびこのような組成物を能動的塞栓形成治療のために使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.発明の背景
2.1.血管形成依存性疾患
血管形成依存性疾患(すなわち、血管成長を必要とするかまたは誘導する疾患)は、医療的治療法が求められている全疾患の有意な割合を占める。例えば、癌は、依然として米国において二番目の主要な死亡原因であり、合計死亡率の5分の1以上の原因である。簡単にいうと、癌は、最も典型的には1つまたは複数の腫瘍を形成する、細胞集合の制御されない部分を特徴とする。このような腫瘍はまた、血液循環により、継続した腫瘍成長を可能にする様々な要因を提供する脈管構造の内部成長(ingrowth)を特徴とする。昔に比べて癌は全般的に診断し易くなったが、多くの形態はたとえ初期に検出されたとしても未だに不治である。
【0003】
例えば様々な外科的処置など、癌を治療するために現在様々な方法が利用されている。しかし、手術のみで治療される場合、多くの患者(特に、乳癌、脳癌、結腸癌および肝癌などの特定の種類の癌を患う患者)は、癌の再発に直面することになる。従って、多くの癌は、手術に加えて、細胞障害性化学療法薬剤(例えば、ビンクリスチン、ドキソルビシン、タキソール(taxol)、ビンブラスチン、シスプラチン、メトトレキセート、5-FUなど)での治療、および/または放射線治療の組合せでも治療される。しかし、このアプローチの問題の1つは、放射線療法および化学療法の薬剤が正常組織に対して毒性であり、生命を脅かす副作用を生じることが多いことである。さらに、これらのアプローチは、極端に高い失敗(failure) /寛容(remission)率を有することが多い。
【0004】
外科的、化学的および放射線療法に加えて、他の研究者は個体自体の免疫系を利用して、癌性細胞を排除することを試みてきた。例えば、一部の研究者は、免疫系を刺激して腫瘍細胞を破壊するために、細菌またはウイルス成分をアジュバントとして使用することを示唆してきた。("Principles of Cancer Biotherapy," Oldham(編), Raven Press, New York, 1987を全般的に参照のこと)。このような薬剤は、動物腫瘍モデルにおいてアジュバントおよび非特異的刺激薬として全般的に有用であったが、ヒトにおいて一般的に有効であるかはまだ証明されていない。
【0005】
本方法のさらなる限界は、局所再発および局所疾患抑制が依然として悪性腫瘍の治療において主な課題であることである。特に、現説明時で(米国において)年間合計630,000人の患者が、(離れたところに転移的な広がりは見とめられない)局所疾患を患っている。これは、悪性腫瘍(これは、in situの非黒色腫皮膚癌または癌腫を含まない)を患うと診断される全患者の64%を占める。これらの患者の大部分にとって、疾患の手術的切除が最も治癒の見込みがあり、確かに428,000人が初期治療後に治癒する――428,000。残念ながら、202,000(すなわち局所疾患を患う全患者の32%)は、初期治療後に再発する。再発する患者のうち、疾患の局所再発により再発する人数は、年間で133,000患者(すなわち、局所疾患を患う全患者の21%)に達する。疾患の遠隔転移により再発する人数は、年間で68,000患者(すなわち、局所疾患を患う全患者の11%)である。年間にさらに約102,100患者が、疾患の局所成長を抑制できないことが直接の原因となって死亡している。患者が直面している問題である癌の例として、乳癌および肝癌がある。
【0006】
乳癌
上記問題は、米国において年間約186,000人の女性を冒す疾患であり、死亡率が50年間変わらないままである乳癌について特に顕著である。根治的乳房切除、非定型的乳房切除、または腫瘍摘除による疾患の手術的切除は、未だにこの疾患の治療の要である。残念ながら、腫瘍摘除のみで治療された患者の39%が疾患を再発し、驚くべきことに、切除周縁において腫瘍がないと組織学的に見とめられた者の25%も同様である。これらの局所再発の90%もが前回の切除部位の2cm以内で生じる。
【0007】
肝癌
1999年には、原発性肝癌により百二十万人を超える人々が死亡し、その大部分がアジアであった。原発性肝癌とは、初期癌性細胞が、身体の他の癌部位から肝臓まで移動してきたものではなく、肝臓で形成された肝癌を指す。肝臓の炎症を生じるウイルス性疾患である特定の型の肝炎(C型肝炎を含む)を患う患者は、原発性肝癌の恐れが極めて高いことが知られている。現在4百万人を超える人々がC型肝炎陽性であることが予測されているため、原発性肝癌の発生数は米国において劇的に増加するものと予想される。
【0008】
原発性肝癌の70%を超えるものは手術不可能であり、放射線または化学療法により治療されている。現在可能な治療オプションとしては以下のものが挙げられる。
【0009】
化学療法:化学療法は、急速に分裂する癌細胞を殺すことにより癌を抑制することを狙う。しかし、身体中の多数の非癌性細胞(骨髄細胞など)もまた急速に分裂するため、意図されずに化学療法により殺されやすい。従って、癌を根絶するのに十分な用量は、非癌性細胞の破壊により生命を脅かす副作用を生じることが多い。
【0010】
開発中の化学塞栓形成および様々な治療:例えば、前皮膚エタノール注射は、3〜4cmを下回る限定された小さい腫瘍にしか作用しない痛みを伴う処置である。
【0011】
移植:移植も可能な治療法であるが、高価で、器官の入手性により限界があり、それでもなお腫瘍の再発を生じ得る。また、侵襲性手術に伴う再発の危険(recurring dangers)がある。
【0012】
さらに、化学療法はまた、ヒトの身体の自然の抗腫瘍防御力を損なうかもしれない。
【0013】
子宮筋腫
非癌性腫瘍の関連する例として、平滑筋腫としても知られる子宮筋腫が挙げられる。これらは、特定の種類の筋繊維および繊維性結合組織からなる非癌性腫瘍である。子宮筋腫の原因は未知である。子宮筋腫を患う患者のほとんどは、初めは症状がなく、異常出血、頻尿、痛み、膨潤、および受胎能の問題に患者が直面するまでは治療されないままである。米国では約25百万人の女性が子宮筋腫を患っており、このうち毎年約5.5百万人の女性が治療を求めるのに足りる症状を現している。これまで、子宮筋腫を患っている女性には実行可能な治療オプションがほとんどなかった(子宮摘出、筋腫摘出、ならびに医療管理および「経過観察」が挙げられる)。子宮筋腫を治療するのに現在利用可能な治療法は、以下の重大な欠点を有している:すなわち、出産適齢期の女性の一時的または永久的な受精能の欠損、長期にわたる回復期間、早期閉経をもたらし得る有害な精神的影響、高い費用(投薬、外科処置、頻繁なおよび長期の入院期間の費用が挙げられる)、侵襲性外科処置およびホルモン療法による不快感および副作用、ならびに/または筋腫の再発の恐れである。
【0014】
この結果、とりわけ乳癌、肝癌、膵臓癌、および子宮筋腫を患う患者のための一様に効果的な治療プログラムが有意に必要とされている。
【0015】
受動的塞栓形成
成果は限定されているが、腫瘍を治療するために試みられてきた方法の1つとして受動的塞栓形成がある。簡単にいうと、腫瘍に栄養を供給する血管を、血管に塞栓材料を注射することにより意図的に遮断する。この点で、自己由来物質(脂肪、血餅、および剪断された筋肉の小片)、ならびに人工的材料(羊毛、綿、スチールボール、プラスチックまたはガラスビーズ、タンタル粉末、シリコン化合物、放射性粒子、滅菌吸収性ゼラチンスポンジ(Sterispon、Gelfoam)、酸化セルロース(Oxycel)、スチールコイル、アルコール、凍結乾燥ヒト硬膜(Lyodura)、微小繊維コラーゲン(Avitene)、コラーゲン原繊維(Tachotop)、ポリビニルアルコールスポンジ(PVA;Ivalon)、バリウム含浸シリコン球(Biss)、および着脱可能バルーン)を含む様々な材料が試みられてきた。腫瘍転移の大きさは、このような方法を利用して一時的に小さくし得るが、一般的に腫瘍は、腫瘍へ向けて新しい血管を成長させる応答を示す。
【0016】
癌腫瘍形成に関連する問題は、身体経路(胆管、気管、食道、脈管構造、および尿道など)を通る物質の流れを阻害する癌性閉塞の発達である。1つの装置であるステントは、腫瘍または他の物質により遮断されている経路を開口したまま保持するために開発されてきた。一般的なステントの代表的な例として、Wallステント(Wallstent)、Streckerステント、Gianturcoステント、およびPalmazステントが挙げられる。しかし、ステントの主要な問題は、ステントの間隙を通る腫瘍または炎症性物質の内部成長を防げられないことである。この物質がステントの内部に達し、ステント内腔を損なった(compromise)場合、ステントが挿入された身体経路を閉塞し得る。さらに、身体中でのステントの存在は、反応性または炎症性組織(例えば、血管、繊維芽細胞、白血球)をステントチュリーン(tureen)に侵入させて、ステントの部分的または完全な閉塞をもたらすかもしれない。
【0017】
2.2 治療的または能動的塞栓形成
腫瘍付近への細胞障害性薬剤の投与は、正常組織送達に対する腫瘍組織送達の比率を高くする。このような局所投与は、薬剤を、血液供給を介して腫瘍に、または特定の腫瘍が局在する体腔に直接送達することにより達成できる。局所的薬剤灌流は、標的組織に対するピーク薬剤濃度を高めるいう利点があるが、灌流される器官を通る血液の初回通過時のみに曝露が限定される。初回通過により摂取されなかった薬剤部分は、全身に循環し、その後正常組織に摂取される。
【0018】
治療的血管閉塞(塞栓形成)は、特定の病理学的症状をin situで治療するために使用される技術である。これは、通常、画像による制御下で、微粒子閉塞剤(塞栓)を循環器系に位置させることができるカテーテルを用いて実施される。これはまた、様々な突起(processes)(腫瘍、脈管奇形、出血性突起など)の管に作用できる。とりわけ腫瘍の場合に、脈管閉塞は、痛みを抑制し、塞栓形成後の外科的介入における失血を制御し、さらには腫瘍壊死を生じて手術を回避できる。
血管奇形の場合、正常組織への血流を正常化し、手術を助け、出血の危険性を制限する。出血性突起において、脈管閉塞は流れを少なくし、これにより動脈開口部(arterial opening)の瘢痕化を促進する。
【0019】
さらに、治療される病理学的症状に応じて、塞栓形成は、一時的な目的のためにも、永久的な目的のためにも実施できる。
【0020】
先行技術において、異なる種類の塞栓が知られている。特に液体剤(アクリル接着剤、ゲル、粘性懸濁液など)、または粒子剤(種々のポリマー、硬膜、ゼラチンスポンジ、球体、バルーン、らせん体など)が挙げられる。公知の液体塞栓の主な不都合な点は、組織に対するそれらの毒性(これは壊死現象を生じ得る)、およびカテーテルを挿しこむ危険にある。液体塞栓のもう一つの限界は、受動的にしか作用できないこと、および薬剤送達のために使用できないことである。
【0021】
標的部位への薬剤の局所分布および標的部位からの損失抑制の二重の機能は微小球で達成することができる。このような微小球は、局所動脈を介して導入された場合、組織の脈管構造内にトラップされ、そこで薬剤充填を放出する。このような二重作用は、能動的塞栓形成と称される。微小球は、固体組成物でも多孔性組成物のいずれでもよく、分散薬剤分子を溶液形態または固体形態のいずれかで含有するように作られ得る(ZimmerおよびKreuter, 1995)。微小球は、単一の求心性動脈血液供給により供給される器官(例えば、肝臓)内に局在する腫瘍を治療する特定の用途を有する(Chenら 1994)。微小球は、標的器官にある腫瘍が治療を必要とする唯一の領域である場合に最も有用である。
【0022】
塞栓形成薬剤利用療法のための微小球の使用に関連した研究は公知であるが、遺伝子療法において使用される微小球について行われてきた研究は比較的少ない。例えば、ガラスビーズは、静電引力を介した、異種混合物からのDNAの選択的抽出においてよく使用される。ヒドロキシアパタイト(hydroxyapetite)も核酸の精製のために利用され(Kumazawaら 1992)、ヒドロキシアパタイト球が超音波誘導を介した肝腫瘍への直接移植によるドキソルビシンの持続的放出のために使用されてきたが(Kuniedaら 1993)、他の研究は、この特定のマトリックスが実際には哺乳動物組織への曝すのに不適切であることを明らかにしている(Dassら, 1997a, 1997b)。DNAも、ジエチルアミノエチル(DEAE)官能基を表面に有するPDB微小球上に保持される(Katzら, 1990;Maaら, 1990)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、遺伝子送達用の微小球のさらなる開発が必要であることが証明されている。主に望まれる長所は、血流により抗癌剤を腫瘍脈管構造に特異的に標的化させる能力である。さらに、栄養供給および老廃物除去の同時途絶を伴う腫瘍血液供給の妨害は、おそらく、腫瘍細胞の破壊のために最も望ましい結果である。
【課題を解決するための手段】
【0024】
3. 発明の要旨
一実施形態では、本発明は、薬剤、ワクチン、ポリヌクレオチド、および診断剤または造影剤(imaging agent)を、これらの作用物質用の担体として様々な種類のポリマー材料を用いて、哺乳動物に送達するための組成物および方法を提供する。好適な実施形態では、本発明は、上記作用物質の送達のための微粒子、特に微小球を提供する。最も好適な実施形態では、本発明は、トランスフェクション薬剤を利用してポリヌクレオチドを送達するための微粒子を提供する。
【0025】
より具体的には、好適な実施形態では、本発明において使用するポリマー材料担体は、本発明の生物活性治療因子およびトランスフェクション薬剤を「担持」できるか、またはそれらと会合できるあらゆる粒子を包含する。好適なポリマー材料は、塞栓し、かつ生物活性治療因子を放出するのに十分な大きさの、実質的に球体、実質的に親水性、不活性、イオン性かつ架橋されたポリマーに基づく。好適な実施形態では、生物活性治療因子は、トランスフェクション薬剤と物理的に連結させており、微粒子にも連結している。
【0026】
一実施形態では、本発明は、生物活性治療組成物、ならびにこのような組成物を癌およびその他の様々な血管形成依存性疾患(前癌性障害を含む)の治療のために利用する方法および装置を提供する。本発明の一態様では、(a)生物活性治療因子、(b)ポリマー材料担体、および(c)トランスフェクション薬剤を含む組成物が提供される。
【0027】
本発明の別の好適な態様では、(a)生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチド、(b)ポリマー材料担体、および(c)トランスフェクション薬剤を含む組成物が提供される。
【0028】
本発明の別の好適な態様では、(a)生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチド、(b)ポリマー材料担体、および(c)リポポリアミントランスフェクション薬剤を含む組成物が提供される。
【0029】
本発明の範囲において、様々な種類の分子を生物活性治療因子として利用でき、例えば、抗血管形成因子、抗新生物剤、ペプチド、ペプチド類似体、抗体およびそのフラグメント、ワクチン、酵素、核酸、天然または合成のいずれかに由来するRNAおよびDNA(組換えRNAおよびDNA、ならびにアンチセンスRNAおよびDNAを含む);ハンマーヘッドRNA、リボザイム、アンチジーン(antigene)核酸、一本鎖および二本鎖の両方のRNAおよびDNA、ならびにそれらの類似体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
本発明のポリマー材料としては、アクリルポリマー、ビニルアルコールポリマー、アクリレート(acrylate)ポリマー、ポリ(乳酸)、ポリアクリルアミド、ポリ(無水物)、多糖類、シリコーン、またはそれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されない。より好ましくは、ポリマー材料は、ポリアクリルアミドおよびその誘導体、ポリアクリレートおよびその誘導体、ならびにポリアリルおよびポリビニル化合物など、アクリルファミリーの実質的に親水性の架橋コポリマーである。これらのポリマーは全て架橋し、安定かつ非再吸収性である。
【0031】
本明細書に開示する本発明の様々な実施形態では、生物活性治療因子は、トランスフェクション薬剤と物理的に会合し、生物活性治療因子-トランスフェクション薬剤複合体はポリマー担体と物理的に会合している。生物活性治療因子は、液体吸着クロマトグラフィーにおいて周知の会合力(イオン交換、疎水性、分子認識またはそれらの組合せなどの会合力が挙げられるがこれらに限定されない)により吸着されることが好ましい。1つの好適な実施形態では、本発明のポリマー担体と混合または接触させる前に、生物活性治療因子をトランスフェクション薬剤と会合させて複合体を形成する。
【0032】
本発明の一態様では、選択された生物活性治療因子をトランスフェクション薬剤と混合して、生物活性治療因子と、高い疎水性など特定の性質を複合体に与えるトランスフェクト剤との複合体を形成する。
【0033】
本発明の別の態様では、ポリマー材料担体を、十分量のトランスフェクト可能生物活性治療因子と共に混合する。生物活性治療因子とポリマー材料担体との物理的会合は、塩(塩化ナトリウムが挙げられるがこれに限定されない)、または造影剤(バリウムもしくはヨウ化物を含む塩など)の添加により増強され得るイオンおよび疎水性会合により生じる。
【0034】
本明細書に開示する本発明の様々な実施形態では、いったん適切な部位に送達されると、塞栓材料の表面に吸着した生物活性治療因子-トランスフェクション薬剤複合体は次第に脱離し、様々なメカニズム(例えば、自然発生的エンドサイトーシス、受容体仲介型エンドサイトーシス、エンドソーム分解(endosomolysis)、および細胞膜脱安定化、またはそれらの組合せが挙げられるがこれらに限定されない)により周囲の細胞に送達される。生物活性治療因子の脱離は、塞栓材料と生物活性治療因子との間の吸着力を後者が完全に脱離するまで弱める作用をする生物学的液体の天然成分により誘導される。生物活性治療因子の脱離は、in vivoで加水分解可能な結合(エステルまたはオシジック(osidic)結合が挙げられるがこれらに限定されない)の使用によりモジュレートされてもよい。他の様々な実施形態では、生物活性因子の脱離は、生物活性治療因子と会合したペプチドを使用することによってもモジュレートされ得る(ペプチド結合は細胞タンパク質分解酵素で切断可能である)。
【0035】
本発明の別の態様では、血管を塞栓するための方法であって、それを必要とする患者の管に、治療有効量の生物活性治療因子を投与して、血管が効果的に塞がれるようにすることを含む方法を提供する。一実施形態では、生物活性治療因子は、腫瘍を成長させる血管に同時にまたは順次送達される。
【0036】
本発明の別の態様では、腫瘍形成/血管形成依存性疾患における血管を塞栓するための方法であって、それを必要とする患者に、生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドを含む治療有効量の組成物を投与することを含み、該ポリヌクレオチドはトランスフェクション薬剤と会合し、該ポリヌクレオチド-トランスフェクション薬剤はポリマー材料担体とさらに会合して、血管が有効に塞がれる、上記方法を提供する。
【0037】
本発明の別のより好適な態様では、腫瘍形成性/血管形成依存性疾患における血管を塞栓するための方法であって、それを必要とする患者に、生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドを含む治療有効量の組成物を投与することを含み、該ポリヌクレオチドはリポポリアミントランスフェクション薬剤と会合しており、該ポリヌクレオチド-トランスフェクション薬剤は実質的に親水性の微小球とさらに会合して、血管が有効に塞がれる、上記方法を提供する。
【0038】
本発明の別の態様では、腫瘍形成性/血管形成依存性疾患における血管を塞栓するための方法であって、それを必要とする患者に、生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドを含むウイルスベクターまたはウイルス様粒子を含む治療有効量の組成物を投与することを含み、該ウイルスベクターまたはウイルス様粒子はトランスフェクション薬剤と会合し、該会合したウイルスベクター-トランスフェクション薬剤は実質的に親水性の微小球とさらに会合して、血管が有効に塞がれる、方法を提供する。
【0039】
本発明の別の態様では、非腫瘍形成性/血管形成依存性疾患における血管を塞栓するための方法であって、それを必要とする患者に、生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドを含むウイルスベクターまたはウイルス様粒子を含む治療有効量の組成物を投与することを含み、該ウイルスベクターまたはウイルス様粒子はリポポリアミントランスフェクション薬剤と会合し、該会合したウイルスベクター-トランスフェクション薬剤は実質的に親水性の微小球とさらに会合して、血管が有効に塞がれる、上記方法を提供する。
【0040】
本発明のさらに別の態様では、非腫瘍形成性/血管形成依存性疾患を患う患者における血管形成を阻害するための方法であって、それを必要とする非腫瘍形成性/血管形成依存性疾患を患う患者に、生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドと共に治療有効量の薬剤を投与することを含み、該ポリヌクレオチドはトランスフェクション薬剤と会合しており、該会合したポリヌクレオチド-トランスフェクション薬剤はポリマー材料担体とさらに会合して、新しい血管の形成が阻害される、上記方法を提供する。本発明の別の態様では、このような薬剤は、ポリマー材料担体に組み込まれて、同時に投与される生物活性治療因子の導入を妨害しないようにしてもよい。
【0041】
本発明のさらに別の態様では、非腫瘍形成性/非血管形成依存性疾患を患う患者を治療するための方法であって、それを必要とする患者に、トランスフェクション薬剤と会合した生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドと共に治療有効量の薬剤を投与することを含み、該薬剤はポリマー材料担体に含まれて同時に投与されるポリマー材料担体と会合した生物活性治療因子の導入を妨害しないようにして、非腫瘍形成性/非血管形成依存性疾患の症状が緩和されるようにする、上記方法を提供する。
【0042】
別の好適な実施形態では、本発明の組成物は、(a)生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチド、(b)ポリマー材料担体、および(c)リポポリアミントランスフェクション薬剤を、新しい血管の形成を阻害する軽d族(lighter d group)遷移金属(例えば、バナジウム種、モリブデン種、タングステン種、チタニウム種、ニオビウム種、またはタンタル種)と共に含む。
【0043】
別の好適な実施形態では、本発明の組成物は、(a)生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチド、(b)陽イオン架橋微粒子、および(c)リポポリアミントランスフェクション薬剤を、トランスフェクション増強剤と共に含む。
【0044】
別の好適な実施形態では、ポリヌクレオチドおよびトランスフェクション薬剤と会合した実質的に親水性のポリマー材料を疾患を患う哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物宿主へのポリヌクレオチド送達方法を提供する。後者の方法の実施形態としては、前記ポリヌクレオチドおよびトランスフェクション薬剤と会合した実質的に親水性のポリマー材料の投与が、遺伝子療法のためのものである実施形態、前記ポリマー材料微小球が投与部位にある管を塞栓するのに十分な大きさである実施形態、および前記ポリマー材料が投与部位にある管を塞栓するのに十分な大きさではないが、腫瘍に留まるには十分な大きさである実施形態が提供される。
【0045】
別の実施形態では、血管形成依存性疾患を患う哺乳動物に、抗血管形成物質を発現可能な生物活性治療因子に会合した実質的に親水性のポリマー材料を投与することを含む哺乳動物宿主における能動的塞栓形成のための方法であって、該生物活性治療因子はトランスフェクション薬剤と会合している、上記方法を提供する。
【0046】
本発明の別の態様では、上記のトランスフェクション薬剤に会合したポリマー材料担体/生物活性治療因子を、切除後の腫瘍の切除周縁に投与して、該部位における癌の局所再発および血管形成を阻害することを含む、腫瘍切除部位を治療する方法を提供する。
【0047】
別の態様では、生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドと共に薬剤を含む治療有効量の組成物を管に送達して、血管を有効に塞ぐことを含む、非腫瘍形成/血管形成依存性疾患において血管を塞栓する方法を提供する。
【0048】
本発明の別の態様では、生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドと共に薬剤を含む治療有効量の組成物を管に送達して、血管を有効に塞ぎかつ生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドが細胞に送達されて発現されることを含む、腫瘍形成/血管形成依存性疾患において血管を塞栓する方法を提供する。
【0049】
本発明の別の態様では、疾患を患う哺乳動物に、生物活性治療因子に会合した実質的に親水性のポリマー材料を投与することを含む、哺乳動物宿主における能動的塞栓形成のための方法であって、該生物活性治療因子はトランスフェクション薬剤と会合している、上記方法を提供する。
【0050】
本発明の別の態様では、遺伝子材料に連結したトランスフェクション薬剤に連結した、血管を塞栓可能なポリマー材料を含む、能動的塞栓形成に適した微粒子を提供する。
【0051】
別の態様では、器官(例えば眼が挙げられるがこれに限定されない)の血管新生疾患を治療する方法であって、それを必要とする患者に、治療有効量の生物活性治療因子を例えば眼に投与して、新しい血管の形成を阻害することを含む、上記方法を提供する。
【0052】
本発明は、癌、および他の非腫瘍形成/血管形成依存性疾患を治療するのに適した組成物および方法を提供し、さらにその他の関連する利点を提供する。このような癌としては、肝癌、子宮癌、腎臓癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌、頭部および頸部の腫瘍、乳房の腫瘍、カポージ肉腫、ならびに表在性形態の膀胱癌が挙げられるがこれらに限定されない。しかし、癌に加えて、血管の異常成長の特徴を有する多数の他の非腫瘍形成/血管形成依存性疾患も、本発明の生物活性治療因子または組成物により治療され得る。このような非腫瘍形成/血管形成依存性疾患の代表的な例としては、過形成性瘢痕およびケロイド、増殖性糖尿病網膜症、慢性関節リウマチ、動静脈奇形、アテローム硬化性斑、遅延型創傷治癒、血友病性関節、偽関節骨折、Osier-Weber症候群、乾癬、化膿性肉芽腫、硬皮症、トラコーマ(tracoma)、月経過多、ならびに脈管接着が挙げられるがこれらに限定されない。
【0053】
本発明の別の実施形態では、(a)塞栓形成に適した微小球の懸濁液、および(b)細胞に遺伝子材料を送達するのに適したトランスフェクション薬剤を含む、塞栓形成遺伝子療法を行うキットを提供する。本発明の別の実施形態では、ポリマー材料が一方のバイアルに含まれ、生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドに会合したトランスフェクション薬剤が他方のバイアルに含まれ、両方のバイアルの内容物を混合して医薬的組成物を形成する、キットを提供する。本発明のさらに別の実施形態では、ポリマー材料が1つのバイアルに含まれ、トランスフェクション薬剤が別のバイアルに含まれ、生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドがさらに別のバイアルに含まれ、3つのバイアル全ての内容物を混合して医薬的組成物を形成する、キットを提供する。本発明の別の実施形態では、(a)塞栓形成に適した微小球の懸濁液、および(b)遺伝子材料を細胞に送達するのに適したトランスフェクション薬剤の成分が1つのバイアルに入った、キットを提供する。
【0054】
本発明の上記および他の態様は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照することにより明らかになるであろう。さらに、様々な参考文献を以下に記載するが、これらは参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0055】
4. 発明の詳細な説明
定義:
本明細書で使用する「実質的に球形」とは、最も低い外部表面積を表す体積として画定される完全な球形に近い形状を全般的に意味する。具体的には、本発明でいう「実質的に球形」とは、粒子の任意の断面を見た際に、平均長手直径および平均短手直径の差が20%未満であることを意味する。本発明の微小球の表面は、1000倍におよぶ拡大で滑らかに見える。本発明の微小球は、粒子に加えて、本明細書に記載および定義する他の物質を含んでいてもよい。
【0056】
本明細書で使用する、本発明における「細胞接着プロモーター」とは、微小球中に存在または微小球と会合して、微小球表面への細胞の接着性を促進または増強する任意の物質を意味する。これらの物質は、共有結合を介してまたは相互貫入ポリマーの様式で、微小球の表面に会合するタンパク質であることが多い。
【0057】
本明細書で使用する、本発明における「治療剤」とは、血管形成依存性疾患の進行に対する治療的効果、または血管形成依存性疾患に対する生物学的もしくは生理学的応答を提供する任意の物質を指す。治療剤の例としては、血管形成依存性疾患に伴う炎症の影響を予防または減少させる抗炎症剤がある。
【0058】
本明細書で使用する、本発明における「化学修飾」とは、微小球の生成過程の途中、または微小球を様々な剤もしくは組織と混合もしくは接触させて、身体に注射後に腫瘍塞栓形成に加えて他の機能も行える能力を微小球が有する、微小球の化学性質および特徴の変化を意味する。
【0059】
本明細書で使用する、「安定化物質」または「安定化化合物」とは、本明細書に記載する組成物、プロドラッグ、標的化リガンド、および/または他の生物活性治療因子(例えば、混合物、懸濁液、エマルジョン、分散液、小胞などが挙げられる)の安定性を改善できる任意の物質を指す。「安定化物質」の定義には、特定の本発明生物活性治療因子およびプロドラッグが含まれる。「安定化物質」の定義にはまた、特定の本発明トランスフェクション薬剤も含まれる。改善された安定性には、例えば、比較的平衡な条件の維持が伴い、例えば、破壊、分解、劣化などに対する組成物の高い耐性が例示され得る。例えば、トランスフェクション薬剤中のダングリング陽イオン頭(dangling cationic head)は、C12GluPhCnN+およびC14GluPhCnN+などの化合物に見とめられるようにトランスフェクション効率を低下させるが、最短のスペーサーを有するDOTB/DOSCなどの化合物は、最も高い表面電荷密度および最良のトランスフェクション効率をもたらす。
【0060】
生物活性治療因子、プロドラッグおよび/または他の生物活性剤を有する微小球が関与する好適な実施形態の場合、安定化化合物は、微小球を形成するかまたは微小球を安定化させるかして、いずれの場合も特定の生物活性治療因子、プロドラッグおよび/または生物活性剤の微小球から放出を、その放出が所望になるまで抑制または実質的(完全の場合も含む)に防ぐことができる。生物活性治療因子、プロドラッグおよび/または生物活性剤の微小球からの放出を防ぐ意味において使用する「実質的に」という用語は、約50%を上回るものが放出が所望になるまで表面に会合したままであるかまたは微小球に含まれたままであることを意味し、好ましくは約60%を上回る、より好ましくは約70%を上回る、さらに好ましくは約80%を上回る、さらにより好ましくは約90%を上回るものが、放出が所望になるまで表面に会合したままであるか、あるいはまた治療薬剤形の場合には微小球に含まれたままであることを意味する。特に好適な実施形態では、約95%を上回る生物活性治療因子、プロドラッグおよび/または生物活性剤が、放出が所望になるまで、表面上に会合したままか、あるいはまた治療薬剤形の場合には微小球に含まれたままである。生物活性治療因子、プロドラッグおよび/または生物活性剤はまた、放出が所望になるまで、完全に表面に会合したままであるか微小球に含まれたまま(すなわち、約100%が表面に会合したままであるか微小球に含まれたまま)であり得る。
【0061】
安定化物質の例としては、例えば、脂質、タンパク質、ポリマー、炭水化物、および界面活性剤が挙げられる。得られる混合物、懸濁液、エマルジョンなどは、所望であれば、生物活性治療因子もしくは生物活性剤の周りに壁(すなわち、フィルム、膜など)を含んでいてもよいし、または実質的に壁または膜を欠いていてもよい。安定化物質は、所望であれば、小滴を形成してもよい。安定化物質はまた、塩および/または糖を含んでいてもよい。特定の実施形態では、安定化物質は、実質的(完全も含む)に架橋されていてもよい。安定化物質は、中性、正または負の電荷を有し得る。
【0062】
本明細書で使用する「架橋」、「架橋された」および「架橋する」とは、1つ以上の架橋による、2つ以上の安定化物質(脂質、タンパク質、ポリマー、炭水化物、界面活性剤安定化物質)、生物活性治療因子、および/または生物活性剤の連結を全般的に指す。架橋は、1つ以上のエレメント、基または化合物から構成されていてもよく、一般的に第1の安定化物質分子の原子を第2の安定化物質分子の原子に結合させる。架橋の橋は、共有会合および/または非共有会合を伴う。様々なエレメント、基、および/または化合物のいずれも、架橋における橋を形成することができ、安定化物質は自然にまたは合成的手段により架橋され得る。例えば、架橋は、ケラチン、インスリンおよび他のタンパク質におけるように、システイン残基のジスルフィド結合により結合したペプチド鎖から作られた物質において自然に生じ得る。あるいはまた、架橋は、例えば、安定化物質などの化合物と、例えば熱、高エネルギー放射線などに曝露されることにより反応し得る架橋剤として作用し得る化学物質とを組み合わせるなどの適切な化学修飾によりもたらし得る。例として、ジスルフィド結合を形成する硫黄による架橋、有機過酸化物を用いた架橋、高エネルギー放射線にょる非飽和物質の架橋、カルバミン酸ジメチルオールでの架橋などが挙げられる。所望であれば、安定化化合物、生物活性治療因子、および/または生物活性剤を実質的に架橋させてもよい。
【0063】
本明細書で使用する「実質的に」という用語は、約50%を上回る安定化化合物が架橋を含むことを意味する。所望であれば、約60%、70%、80%、90%、95%を上回る、さらには100%の安定化化合物がそのような架橋を含む。あるいはまた、安定化物質は、架橋されてなくてもよく(すなわち、約50%を上回る安定化化合物が架橋を欠く)、所望であれば、約60%、70%、80%、90%、95%を上回る、さらには100%の安定化化合物が架橋を欠く。
【0064】
本明細書で使用する「会合」とは、本発明の生物活性治療剤、トランスフェクション薬剤、および微小球の間の付着を指す。このような会合は、生物活性治療剤およびトランスフェクション薬剤である場合、複合体の形成を生じても生じなくてもよい。このような会合は、限定することなしに、共有会合、非共有会合、イオン相互作用、静電相互作用、ファン・デル・ワールス力、水素結合、親水相互作用、および疎水相互作用(それぞれ、本明細書でさらに以下において定義する)を含むことを意図する。
【0065】
本明細書で使用する「共有会合」とは、2つの原子の結合軌道において電子の共有を伴う分子間会合または結合を指す。
【0066】
本明細書で使用する「非共有会合」とは、共有結合を伴わない2つ以上の別々の分子の分子間会合を指す。分子間相互作用は、例えば、関与する分子の極性、およびもし存在すれば関与する分子の電荷(正または負)など様々な要因に依存する。非共有会合は、イオン相互作用、双極子-双極子相互作用、ファン・デル・ワールス力、およびその組合せから選択される。
【0067】
本明細書で使用する「イオン相互作用」または「静電相互作用」とは、2つ以上の分子(それぞれ正または負に荷電されている)の分子間相互作用を指す。従って、例えば、「イオン相互作用」または「静電相互作用」とは、第1の正に荷電された分子と、第2の負に荷電された分子との間の引力を指す。イオンまたは静電相互作用としては、例えば遺伝子材料などの負に荷電された安定化物質と、例えば陽イオン脂質などの正に荷電された脂質(例えばラウリルトリメチルアンモニウムブロミド)との間の引力が挙げられる。
【0068】
本明細書で使用する「ファン・デル・ワールス力」とは、量子力学による非極性分子の間の引力を指す。ファン・デル・ワールス力は、一般的に、隣接する分子により誘導され、電子分布の変化を伴う一時的な双極子モーメントを伴う。
【0069】
本明細書で使用する「水素結合」とは、電気的陰性原子(例えば、酸素、硫黄または窒素)に共有結合した水素原子と、他の電気的陰性原子との間で生じ得る引力、または架橋を指す。水素結合は、第1の分子中の水素原子と、第2の分子中の電気的陰性原子との間で生じ得る(分子間水素結合)。また、水素結合は、両方とも単一の分子に含まれる水素原子と電気的陰性原子との間で生じ得る(分子内水素結合)。
【0070】
本明細書で使用する「親水相互作用」は、水と実質的に結合、水を吸収および/または水に溶解し得る分子または分子の部分を指す。これは、可逆ゲルの膨潤および/または形成を生じ得る。
【0071】
本明細書で使用する「疎水相互作用」は、水と実質的に結合しない、水を吸収しない、および/または水に溶解しない分子または分子の部分を指す。
【0072】
開示を明確にするために、限定するものではないが、本発明の詳細な説明を以下の副節に分ける。
【0073】
本発明は、癌および様々な他の血管形成依存性疾患を治療するのに有用な、塞栓形成遺伝子療法の安全かつ効果的な方法を提供する。従って、このような塞栓形成遺伝子療法の方法は、医師および/または執刀医(インターベンショナルX線技師が挙げられるがこれに限定されない)にとって有益である。本発明の方法および組成物は、手術の前、途中または後で執刀医により使用され得る。
【0074】
簡単に言うと、遺伝子療法において、遺伝子はDNAまたはRNAの分子として患者の細胞に送達される。遺伝子は、目的の遺伝子、および標的細胞において遺伝子の高レベルの発現を指令するプロモーター/エンハンサーエレメントを含む核酸の発現構築物-カセットの一部を形成する。DNAは、細胞中の酵素により、RNAメッセンジャー分子に転写され、これは遺伝子配列をタンパク質産物に翻訳するための鋳型を形成する。次いで、このタンパク質は、標的細胞または周りの組織に機能を発揮して、細胞欠損を補正するか、または腫瘍細胞などの細胞を殺す。
【0075】
従って、遺伝子および細胞療法は、遺伝子情報を細胞または害された器官に導入することにより、欠損または異常(突然変異、異常発現など)を補正すること、または治療的な目的のタンパク質の発現を確実にすることからなる。この遺伝子情報は、器官から抽出された細胞にin vitroで導入してから改変した細胞を身体に再導入するか、またはin vivoで適切な組織に直接導入し得る。この遺伝子情報を送達するための様々な技術は記載されており、その中には、DNAおよびDEAE-デキストランの複合体(Paganoら, J. Virol. 1(1967)891)、DNAおよび核タンパク質の複合体(Kanedaら, Science 243 (1989)375)、DNAおよび脂質の複合体(Felgnerら, PNAS 84(1987) 7413)、DNAおよびポリリシンの複合体、リポソームの使用(Fraleyら, J. Biol. Chem. 255 (1980) 10431) などが関与する様々なトランスフェクション技術がある。
【0076】
塞栓形成は、血液が流れる管の部分的または完全な閉塞である。治療的塞栓形成は、動脈または静脈を閉塞して、動静脈奇形などの機能障害を補正するか、充実性腫瘍/癌成長への必須要素の供給を止める目的で血流を止める処置である。
最も一般的には、治療的塞栓形成は、塞栓物質が置かれる場所で活性分子が担持および/または送達されない点で、「受動的」な処置である。
【0077】
本発明は、トランスフェクト可能遺伝子材料の局所送達と、血流の減少とを協同で行う(両方とも癌細胞の減少または排除という同じ目的をもって作用する)「能動的」な塞栓形成に関する。
【0078】
本発明の一態様では、(a)生物活性治療因子、(b)微小球担体、および(c)トランスフェクション薬剤を含む組成物を提供する。好適な実施形態では、本発明は、(a)生物活性治療因子、(b)微小球担体、および(c)トランスフェクション薬剤を含む注射可能組成物を、癌およびその他の様々な血管形成依存性疾患の治療を必要とする哺乳動物に投与することによる、遺伝子療法の方法を提供する。
【0079】
別の好適な実施形態では、本発明は、(a)生物活性治療因子、(b)微小球担体、および(c)トランスフェクション薬剤を含む注射可能組成物を、癌およびその他の様々な血管形成依存性疾患の治療を必要とする哺乳動物に投与することによる、遺伝子療法の方法であって、該注射可能組成物を、適切なゲージの針を介して腫瘍または病んだ組織に直接投与する、方法を提供する。
【0080】
さらに別の好適な実施形態では、本発明は、(a)生物活性治療因子、(b)微小球担体、および(c)トランスフェクション薬剤を含む注射可能組成物を、癌およびその他の様々な血管形成依存性疾患の治療を必要とする哺乳動物に投与することによる、遺伝子療法の方法であって、該注射可能組成物を、脈管系に注射することにより腫瘍または病んだ組織に送達する、方法を提供する。
【0081】
本発明の別の態様では、例えばタキソール、ドキソルビシン、シスプラチン、パクリタキセルなど(これらに限定されない)の抗新形成薬を含む組成物を、切除後に腫瘍の切除周縁に投与して、該部位における癌の局所再発および血管の形成を阻害することを含む、腫瘍切除部位を治療する方法を提供する。
【0082】
本発明のポリマー担体または好ましくは微小球は、化学的に修飾されて、治療的効果、血管新生効果、抗血管新生効果、可視化特性、またはそれらの組合せを含むようにできる。一実施形態では、微小球が、架橋したポリマーからなる粒子を含むために構造内に様々な特性を有する化学物質を含むことができるという事実、および表面共有結合に関連した特有の特徴を有するという事実により、本発明の微小球の化学修飾が可能になる。本発明の微小球の化学修飾はまた、投与後の微小球と隣接する細胞および組織との間の相互作用を介しても生じ得る。
【0083】
本発明の方法は以下の利点を有する:すなわち、(1)注射される物質は元々注射された組織から移動しにくいため、患者に対して投与を繰り返したりまたは有害な影響を与えることなく、意図する遺伝子療法を達成できる、(2)注射される物質は、生化学的にまたは免疫系もしくはリンパ系を介して消化、移動または排除されにくいので、本方法はより効果的かつ長く持続する、(3)物質は、18〜26ゲージの針または30ゲージ以下の針を介して注射されるのに十分な大きさであるため、本方法はより正確、有効、かつ患者に対する侵害性が低い、(4)注射される粒子は可塑性があるが脆くはなく、壊れることなく注射し易いため、簡単かつ安全な注射が得られる、ならびに(5)注射される粒子は、形が不揃いではなく、互いと凝集せず、同じく簡単かつ正確な注射が得られる。これらの利点は、単独でも組み合わさっても、治療効果を向上し、患者にとって安全、より好都合かつ快適である。
【0084】
4.1 ポリマー材料
4.1.1 微粒子
本発明のポリヌクレオチドまたは他の遺伝子材料を送達するために、ポリヌクレオチドまたは他の遺伝子材料、およびトランスフェクション薬剤と会合できかつ活性部位を標的化できる任意のポリマー材料を使用してもよい。好適な実施形態では、この材料は、ポリヌクレオチドまたは他の遺伝子材料を担持して、塞栓する。本発明では、微粒子、最も好ましくは微小球を使用することが好ましい。
【0085】
幅広い種類のポリマー担体が本発明において利用でき、その代表的な例としては、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)(40%架橋)、ポリ(D,L-乳酸)オリゴマーおよびポリマー、ポリ(L-乳酸)オリゴマーおよびポリマー、ポリ(グリコール酸)、乳酸およびグリコール酸のコポリマー、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(バレロラクトン)、ポリ(無水物)、ポリ(カプロラクトン)またはポリ(乳酸)とポリエチレングリコールとのコポリマー、多糖類、シリコーン、ならびにそれらの配合物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0086】
4.1.2 微小球
本発明の薬剤送達の態様のために好ましいポリマー材料は微小球である。薬剤送達の実施形態では、トランスフェクション剤の使用は任意である。
【0087】
本発明で使用するマイクロビーズまたは微小球(本明細書においては集合的に微小球と称する)は、生物適合性で、親水性で、かつ実質的に球形で、非毒性のポリマーである。微小球は、18ゲージ以下の針を介して注射可能であり、免疫系またはリンパ系により排除されない。ポリマーは、細胞接着を促進する剤により被覆されることが好ましい。生細胞を微小球に付着させて、周囲組織と連結する層状細胞を形成して、ビーズの長期安定性を向上させてもよい。
【0088】
本発明の微小球は、弾性体、好ましくはアクリルポリマー、ビニルアルコールポリマー、アクリル酸ポリマー、多糖類、シリコーン、またはそれらの混合物からなる群より選択される弾性体を含む。より好ましくは、この用途に有用な親水性コポリマーは、ポリアクリルアミドおよびその誘導体、ポリアクリレートおよびその誘導体、ならびにポリアリル化合物およびポリビニル化合物のようなアクリルファミリーのものである。別の実施形態では、本発明の微小球は、酢酸ポリビニルと陽イオン疎水性ポリマーとを組合せたものをベースにしてもよい。これらのポリマーは全て架橋することによって安定かつ非再吸収性とすることができ、そして、その構造内に特定の性質(化学走化性効果、細胞または組織への細胞接着の促進など)を示す他の化学物質を含むことができる。
【0089】
好ましくは注射により身体の様々な位置に移植されることが意図される本発明の微小球は、細胞接着のための適切な物質を含み、干渉の前または途中での放射線による位置測定を容易にするために放射線不透過性分子または他のマーキング剤をさらに含む、非再吸収性親水性ポリマーからなる。
【0090】
本発明において使用する微小球は、組織および細胞に対して非毒性であり、生物適合性があり、かつそれらが促進する細胞成長により移植部位における様々な細胞および組織に対して接着性を有する。さらに、これらの微小球は、非再吸収性かつ非生物分解性であるため、安定性、耐久性を有し、所望の部位に移植された後はその全体的な形状および位置を維持する。代替的な実施形態では、本発明の微小球は、再吸収性を有するため、生物分解性である。このような再吸収性かつ生物分解性の微小球は、例えば、限定するものではないが、多糖類および多糖類誘導体に基づく。
【0091】
一般的に、本発明において使用する微小球は、いかなる形状を有してもよいが、実質的に球形の微小球が好ましい。本発明に使用する微小球は、約10μm〜約2000μmの直径を有し得る。表面に細胞が接着した本発明に使用する微小球は、40μm〜1000μmにわたる直径を有することが好ましい。
【0092】
本発明の弾性微小球は、18ゲージ以下の針を介して注射可能であり、マクロファージ、または免疫系もしくはリンパ系の他のエレメントにより排除されることが好ましい。このような場合、微小球の好ましい平均直径は約40μm〜約400μmであり、より好ましくは約50〜200μmである。最も好適な実施形態では、注射可能な微小球の平均直径は約70μm〜約120μmである。
【0093】
本発明の別の態様では、本発明に使用する微小球のサブセットは、種々のポリマーを含む、非毒性で、生物適合性で、膨潤性で、親水性であって、かつ実質的に球形の粒子をベースにしている。膨潤性の微小球は、水吸収性の高い架橋ポリマーであるため、特定の条件下で水溶性媒体と接触すると膨潤できる。当業者に理解されるように、架橋ポリマーの膨潤の程度は、一般的にポリマー材料の特性および架橋の程度に依存する。微小球が懸濁されるかまたは接触する溶剤の特性(塩濃度およびイオン濃度、ならびにpHレベルなど)もまた膨潤の程度に影響する。
【0094】
特定の架橋された膨潤性ポリマーの大きさおよび膨潤の程度を注意深く制御することにより、これらの微小球を使用して塞栓形成および遺伝子送達を達成することができる。本発明によれば、高い水吸収能力を有するポリマー材料をまず選択する。架橋の程度を制御することにより、これらのポリマーの膨潤性をさらに操作する。架橋度の制御は、当業者に知られているように、化学的にまたは照射により達成できる。
【0095】
より重要なことには、上記ポリマーを含む微小球の膨潤は、微小球を懸する溶剤を制御することによりさらに制御できる。これは、本明細書に開示するように2段階で達成できる。まず、注射前の微小球の大きさを、使用する具体的な微小球に応じて適切な溶剤、塩濃度、およびpHレベルを用いて注意深く制御する。注射前の微小球は、元の大きさのままであってもよいし、該溶剤との接触により一定の程度まで膨潤してもよい。注射前膨潤を制御することで、微小球が30ゲージ以下の針を介して容易に注射されるようにする。第二に、注射後、注射部位の組織と接触する場合に、微小球は、所定の大きさへとさらに膨潤してもよいし、注射前の大きさを保ったままでもよい。いずれの大きさでも微小球は注射部位に固定され、所望の塞栓形成遺伝子療法効果を得ることができる。注射前膨潤の程度、従って注射後の膨潤は、使用する特定の微小球、ならびに治療される皮膚欠損の性質および位置により決定される。
【0096】
本発明で使用する微小球は、膨潤前に約10〜約400μmの直径を有する。膨潤前は、微小球の直径は、好ましくは約10〜約200μmであり、最も好ましくは約10〜約120μmである。注射および膨潤後、微小球は、約40μmを上回る、好ましくは約50μmを上回る、より好ましくは約70μmを上回る平均直径を有する。本発明の微小球は、元の大きさの約15倍まで膨潤可能である。注射後の微小球の完全に膨潤した大きさは、上記議論した様々な手段により制御されて、組織に潜在的な損傷を生じることなく注射部位に固定されるようにする。さらに、注射後の微小球の完全に膨潤した大きさは、注射部位の生理学的条件、微小球の元の大きさ、使用する溶剤、微小球の注射前の膨潤などの要因に基づいて予め決まっている。従って、状況に必要な特定の塞栓療法(embolotherapy)遺伝子療法に応じて、具体的な注射計画が設計できる。微小球のこれらの大きさおよび特性は、30ゲージ以下の針を介して微小球を容易に注射でき、同時に、該微小球は、注射部位に固定され、マクロファージまたは免疫系の他のエレメントにより消化または排除されないほどに十分に大きいという点で有利である。
【0097】
本発明の微小球の可能な改変としては、微小球を、細胞接着を促進する薬剤で処理した、生物適合性で、非毒性で、非再吸収性のポリマー粒子、膜、繊維、または他の固体物質に置き換えることが挙げられる。本発明はまた、米国特許第5,925,683号(その内容全体を参照により本明細書に援用する)に開示される液体のゲル化性溶液であり得る塞栓材料の使用を包含する。本発明はまた、注射後にin situで架橋して、固体の細胞接着促進充填剤を構成する可溶性直鎖状ポリマーも含む。予め調製されるか、または適切なカテーテルの使用を介して適所で生成される空の微小球(微粒気泡)の調製および/または注射も、本発明に包含される。
【0098】
本発明で使用する微小球または他の固体物質は、可塑性を有するため、変形したままではなく注射用器具および小さいカテーテルに容易に入りかつそれを通ることができるが、微小球はまた、移植プロセスの途中または後に生じる筋肉収縮応力に対して耐性である。微小球はまた、熱安定性であり、これは、容易かつ簡便な滅菌、および冷凍保存を可能にする。
【0099】
また、本発明で使用する微小球または他の固体物質は、懸濁液中で安定であり、これは、微小球または他の固体物質を、懸濁液中で処方および保存し、異なる液体と注射することを可能にする。より具体的には、微小球の親水性によって、凝集を形成したり、保存容器および移植用器具(例えば、カテーテル、シリンジ、針など)の壁面へ付着することなく、特に無菌かつ発熱性の(発熱物質は含有しない)注射可用溶液の形態で、懸濁液に入れることが可能となる。
【0100】
一実施形態では、本発明の好適な微小球は、親水性かつ陽イオン性である。微小球は、中性親和性モノマー、二官能性モノマー、陽イオン電荷を有する1つ以上のモノマー、および任意に微小球を検出可能にする官能化モノマーのコポリマーを含むことが好ましい。微小球はまた、1つ以上の細胞接着プロモーター、およびマーキング剤を含んでもよい。コポリマーは、コポリマー形態で、約25〜約98重量%の中性親水性アクリルモノマー、約2〜約50重量%の二官能性モノマー、および陽イオン電荷を有する約0〜約50重量%の1つ以上のモノマーを含む親水性アクリルコポリマーであることが好ましい。例として、仏国特許第2,378,808号(参照により本明細書に援用する)に記載されるコポリマーを本発明に従って使用して、基礎(base)微小球コポリマーを調製できる。親水性アクリルモノマーとしては、アクリルアミドおよびその誘導体、メタクリルアミド及びその誘導体、またはヒドロキシメチルメタクリレートが使用できる。二官能性モノマーの例としては、N,N'-メチレン-ビス-アクリルアミド、N',N'-ジアリルタルチアミド(diallyltartiamide)、またはグリオキサール-ビス-アクリルアミドが挙げられるがこれらに限定されない。さらに、陽イオン電荷を有するモノマーとしては、第三級または第四級アミン基、好ましくはジエチルアミノエチルアクリルアミド、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム、またはアクリルアミドエチルトリエチルアンモニウムを担持するものが挙げられるがこれらに限定されない。特に好適な実施形態では、約25〜約98重量%のメタクリルアミド、約2〜約50重量%のN,N-メチレン-ビス-アクリルアミドを含むコポリマーを使用する。
【0101】
本発明の別の関連する態様では、塞栓材料の疎水性またはイオン特性は、必要であるならば、例えば炭化水素鎖および/または親水性イオン化可能化学基を(これらに限定されない)を導入することにより、改変できる。塞栓材料のこのような改変により、生物活性治療因子とトランスフェクト剤との間の吸着強度が、生物活性治療因子の送達のための時間の長さをモジュレートするのに十分な程度にまで高まる。生物活性治療因子とトランスフェクト剤との間の吸着強度のこのような改変はまた、塞栓材料と会合する生物活性治療因子の絶対量を制御するためにも使用できる。
【0102】
本発明の特に有利な一実施形態では、接着剤を網状にすることにより、微小球の安定性を高めることが可能である。例えば、ゼラチンの場合、ゼラチンアミンに作用する二官能性化学剤から網状化剤(reticulating agent)を選択できる(例えば、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、グリオキサールなど)。
【0103】
本発明の別の実施形態では、微小球を光線下でおよび身体中で可視化する。例えば、微小球を、それらの合成後にマーキングすることも可能である。これは、例えば、蛍光マーカー誘導体(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)などを含む)の連結により行うことができる。官能化モノマーは、通常、モノマーとマーカー(これは、シバクロンブルー、またはプロシオンレッドHE-3Bなどの化学染料であり得る)との化学結合により得ることができ、微小球の直接可視化を可能にする(Boschetti, J. Biochem-Biophys. Meth., 19:21-36 (1989))。このような種類のマーキングに有用な官能化モノマーの例としては、N-アクリロイルヘキサメチレンシバクロンブルー、またはN-アクリロイルヘキサメチレンプロシオンレッドHE-3B;磁気共鳴造影剤(エルビウム、ガドリニウムまたは磁鉄鉱);バリウム塩またはヨウ素塩などの造影剤(例えば、Boschettiら(Bull. Soc. Chim., No. 4 France, (1986))に記載される条件下で調整され得るアシルアミノ-e-プロピオン-アミド)-3-トリヨード-2,4,6-安息香酸が挙げられる)が挙げられる。バリウム塩または磁鉄鉱塩の場合、出発モノマー溶液に粉末の形態で直接に導入できる。
【0104】
当該分野で周知の様々な種類の細胞接着プロモーターが本発明で使用できる。
特に、細胞接着プロモーターは、コラーゲン、ゼラチン、グルコサミノグリカン、フィブロネクチン、レクチン、ポリカチオン(ポリリシン、キトサンなど)、または他の天然もしくは合成の生物学的細胞接着剤から選択できる。
【0105】
細胞接着プロモーターは、確立した微小球1 mlにつき約0.1〜1 gの量で、微小球または他の固体基質に存在することが好ましい。
【0106】
微小球は、懸濁重合、点滴(drop-by-drop)重合、またはその他の当業者に公知の方法により調製する。選択される微小球調製の様式は、通常、微小球直径および化学組成など、得られる微小球の所望の特徴に依存する。本発明の微小球は、当該分野で記載されている標準的な重合方法により作製され得る(例えば、参照により本明細書に援用される、Microspheres, Microencapsulation and Liposomes, John Wiley & Sons, Arshady R.編, vol. 2, p171-189 (1999)に掲載のE. Boschetti, Microspheres for Biochromatography and Biomedical Applications. Part I, Preparation of Microbeadsを参照)。微小球は、コラーゲン(ゼラチンは変性コラーゲンである)などの接着剤を含むモノマーの水溶液から出発して調製する。次いで、溶液を、非水性で相溶性の溶剤と混合して、小滴の懸濁液を作り、これを、適切な触媒によるモノマーの重合により固体ゲルに変える。次いで、微小球を濾過または遠心分離により回収し、洗浄する。
【0107】
アフィニティークロマトグラフィーで周知の「リガンド固定化」という用語で称される化学結合手順により、細胞接着プロモーターまたはマーキング剤を微小球に導入する。別の導入方法は、微小球を構成するゲル網目構造に拡散させ、次いで、沈着または化学架橋により拡散分子を適所に捕捉するものである。
【0108】
本発明の微小球はまた、仏国特許第2,378,808号、米国特許第5,648,100号、同第5,635,215号および同第5,648,100号(それぞれ参照により本明細書に援用される)のような、当該分野において記載される標準的な重合方法により得ることができる。一般的に、溶液中でのモノマーの重合は、重合反応開始剤の存在下で、約0℃〜約100℃、および約40℃〜約60℃の温度において実施する。
【0109】
重合開始剤は、酸化還元系から都合よく選択される。とりわけ、アルカリ金属過硫酸塩と、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンまたはジメチルアミノプロピオニトリル、過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物、さらには2,2'-アゾ-ビス-イソブチロニトリルとの組合せを使用することが可能である。使用する開始剤の量は、当業者により、求められるモノマーの量および重合率に適応するようにされる。重合は、塊状でまたはエマルジョン中で実施できる。
【0110】
塊状重合の場合、種々の溶解成分および開始剤を含む水溶液を、均質媒体中で重合させる。これにより、水溶ゲルの塊を得て、次いでこれを、例えばスクリーンの網目を通すことにより微小球に分離することができる。
【0111】
エマルジョンまたは懸濁液重合は、好ましい調製方法である。なぜなら、所望の大きさの微小が直接得られるからである。これは、以下のように実施できる。
種々の溶解成分(例えば、種々のモノマー、細胞接着剤)を含む水溶液を、水に混和しない液体有機相と共に、任意に乳化剤の存在下で攪拌混合する。攪拌速度を調節して、有機相中に水相エマルジョンを得て、所望の直径を有する小滴を形成する。次いで、開始剤の添加により重合を開始する。これは、発熱反応を伴い、その進展は反応媒体の温度を測定することにより追跡できる。
【0112】
有機相植物油または鉱油として、特定の石油蒸留物、塩素化炭化水素、またはこれらの種々の溶液の混合物が使用できる。さらに、重合開始剤がいくつかの成分(酸化還元系)を含む場合、乳化前にそれらの1つを水相に添加することができる。
【0113】
このようにして得た微小球をその後、冷却、デカンテーション、および濾過により回収できる。次いで、これらを大きさの種類により分け、洗浄して、微量の二次産物を除去する。
【0114】
重合段階に続いて、細胞接着剤を網状化する段階を行うことができ、また、合成後の連結により微小球を識別可能にする場合にはマーキング剤の段階を行うことができる。
【0115】
4.2 生物活性治療因子
本発明の生物活性治療因子は、以下のうちの少なくとも1つを含む:すなわち、抗新生物剤、抗新脈管形成剤、ホルモン、ステロイド、ビタミン、ペプチド、ペプチド類似体、抗体もしくはそれらのフラグメント、抗有糸分裂因子、ワクチン、酵素、抗アレルゲン性剤、循環剤、抗結核剤、抗ウイルス剤、抗狭心症剤、抗細菌剤、抗真菌剤、抗炎症剤、抗原生動物剤、抗リウマチ剤、麻酔薬、強心配糖体剤、鎮静薬、局所麻酔薬、抗ヒスタミン剤、放射線感受性剤、全身麻酔薬、またはそれらの組合せである。
【0116】
4.3 遺伝子療法に使用する生物活性治療因子
ポリヌクレオチドを利用した塞栓療法遺伝子療法においては、ポリヌクレオチドは本発明の任意の生物活性治療因子をコードし得る。この場合該ポリヌクレオチドは本発明のトランスフェクション剤に会合している。本発明の生物活性治療因子をコードする遺伝物質としては、例えば、核酸、ポリヌクレオチド、天然起源または合成起源のRNAおよびDNA(組換えRNAおよびDNA、ならびにアンチセンスRNAおよびDNAを含む);ハンマーヘッドRNA、リボザイム、アンチジーン核酸、一本鎖および二本鎖の両方のRNAおよびDNA、ならびにその類似体(ホスホロチオエートおよびホスホロジチオエートオリゴデオキシヌクレオチドのようなもの)が挙げられるがこれらに限定されない。使用できる遺伝物質の種類としては、例えば、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、欠陥ウイルスまたは「ヘルパー」ウイルスなどの発現ベクターに担持された遺伝子、ならびに遺伝物質を担持するウイルス様粒子が挙げられる。このようなポリヌクレオチドは、例えば組織特異的エンハンサー、核局所化シグナルなど(これらに限定されない)の他のエレメントと組み合わせて使用することもできる。
【0117】
さらに、遺伝物質は、例えばタンパク質または他のポリマーと組合せてもよい。例えば、一実施形態では、本発明は、ポリマー材料担体、生物活性治療因子およびトランスフェクション剤と併用する標的化のためのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の使用も提供する。本発明の微小球を用いて適用することができる遺伝子治療薬の例としては、HLA遺伝子の少なくとも一部をコードするDNA、ジストロフィンの少なくとも一部をコードするDNA、嚢胞性線維症膜貫通調節因子(CFTR)の少なくとも一部をコードするDNA、IL-2の少なくとも一部をコードするDNA、TNFの少なくとも一部をコードするDNA、Rasの少なくとも一部をコードするDNAに結合可能なアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。特定のタンパク質をコードするDNAを、多くの異なる種類の疾患の治療のために使用し得る。例えば、腫瘍壊死因子および/またはインターロイキン-2を与えて進行癌を治療してもよい;HDL受容体を与えて肝臓疾患を治療してもよい;チミジンキナーゼを与えて子宮癌、脳腫瘍またはHIV感染を治療してもよい;HLA-B7を与えて悪性黒色腫を治療してもよい;インターロイキン-2を与えて神経芽細胞腫、悪性黒色腫または腎臓癌を治療してもよい;インターロイキン-4を与えて癌を治療してもよい;HIV envを与えてHIV感染を治療してもよい;アンチセンスras/p53を与えて肺癌を治療してもよい;アデノシンデアミナーゼを与えてADA欠乏症を治療してもよい;ならびに第VIII因子を与えて血友病Bを治療してもよい。例えば、Science 258, 744-746を参照のこと。
【0118】
4.4 薬剤療法に使用するための生物活性治療因子
本発明の薬剤を利用した塞栓療法態様では、生物活性治療因子は、本発明の微小球と会合した以下の薬剤を1つ以上含む。
【0119】
抗新生物剤としては、例えば、白金化合物(例えば、スピロプラチン、シスプラチンおよびカルボプラチン)、アドリアマイシン、マイトマイシンc、アンサマイトシン、ブレオマイシン、硫酸ブレオマイシン、シトシンアラビノシド、アラビノシルアデニン、メルカプトポリリシン、ビンクリスチン、ブスルファン、クロラムブシル、メルファラン(例えば、PAM、L-PAMまたはフェニルアラニン・マスタード)、メルカプトプリン、ミトタン、塩酸プロカルバジン、ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、タクソール、マイトマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)、アミノグルテチミド、エストラムスチンリン酸ナトリウム、フルタミド、酢酸ロイプロリド、酢酸メゲストロール、クエン酸タモキシフェン、テストラクトン、トリロスタン、アムサクリン(m-AMSA)、アスパラギナーゼ(L-アスパラギナーゼ)、エルウィナ(Erwina)アスパラギナーゼ、エトポシド(VP-16)、インターフェロンα-2a、インターフェロンα-2b、テニポシド(VM-26)、硫酸ビンブラスチン(VLB)、硫酸ビンクリスチン、メトトレキセート、およびカルゼレシン(carzelesin)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0120】
血液製剤としては、例えば、エリスロポエチン、非経口鉄剤、ヘミン、ならびにヘマトポルフィリンおよびその誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0121】
生物学的反応調節剤としては、例えば、ムラミールジペプチド、ムラミールトリペプチド、リンホカイン(例えばリポ多糖類、マクロファージ活性因子などの細菌エンドトキシン)、細菌(マイコバクテリア、コリネバクテリアなど)のサブユニット、合成ジペプチド、N-アセチル-ムラミール-L-アラニル-D-イソグルタミン、およびプロスタグランジンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0122】
抗真菌剤としては、例えば、ケトコナゾール、ナイスタチン、グリセオフルビン、フルシトシン(5-fc)、ミコナゾール、アンホテリシンB、リシン、およびβラクタム抗生物質(例えば、スルファゼシン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0123】
ホルモンおよびステロイドとしては、例えば、成長ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム、コルチゾン、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンシピオネート、ヒドロコルチゾンリン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾンコハク酸ナトリウム、プレドニソン、プレドニソロン、酢酸プレドニソロン、プレドニソロンリン酸ナトリウム、プレドニソロンテブテート、プレドニソロンピバレート、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンヘキサアセトニド、トリアムシノロンジアセテート、メチルプレドニソロン、酢酸メチルプレドニソロン、メチルプレドニソロンコハク酸ナトリウム、フルニソリド、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ベクロメタゾンリン酸ナトリウム、ベタメタゾン、ヴェタメタゾン(vetamethasone)リン酸二ナトリウム、ヴェタメタゾンリン酸ナトリウム、酢酸ベタメタゾン、ベタメタゾンリン酸二ナトリウム、酢酸クロロプレドニソン、コルチコステロン、デソキシコルチコステロン、酢酸デソキシコルチコステロン、デソキシコルチコステロンピバレート、デソキシメタゾン、エストラジオール、フルドロコルチゾン、酢酸フルドロコルチゾン、酢酸ジクロリゾン、フルオロヒドロコルチゾン、フルオロメトロン、フルプレドニソロン、パラメタゾン、酢酸パラメタゾン、アンドロステロン、フルオキシメステロン、アルドステロン、メタンドロステノロン、メチルアンドロステンジオール、メチルテストステロン、ノルエタンドロロン、テストステロン、エナント酸テストステロン、プロピオン酸テストステロン、エキレニン、エキリン、安息香酸エストラジオール、ジプロピオン酸エストラジオール、エストリオール、エストロン、安息香酸エストロン、アセトキシプレグネノロン、酢酸アナゲストン、酢酸クロルマジノン、酢酸フルロゲストン、ヒドロキシメチルプロゲステロン、酢酸ヒドロキシメチルプロゲステロン、ヒドロキシプロゲステロン、酢酸ヒドロキシプロゲステロン、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メレンゲストロール、ノルメチステロン(normethisterone)、プレグネノロン、プロゲステロン、エチニルエストラジオール、メストラノール、ジメチステロン、エチステロン、エチノジオールジアセテート、ノルエチンドロン、酢酸ノルエチンドロン、ノルエチステロン、フルオシノロンアセトニド、フルランドレノロン、フルニソリド、ヒドロコルチゾンコハク酸ナトリウム、メチルプレドニソロンコハク酸ナトリウム、プレドニソロンリン酸ナトリウム、トリアムシノロンアセトニド、ヒドロキシジオンナトリウムスピロノラクトン(hydroxydione sodium spironolactone)、オキサンドロロン、オキシメトロン、プロメトロン、テストステロンシピオネート、フェニル酢酸テストステロン、エストラジオールシピオネート、およびノルエチノドレルが挙げられるがこれらに限定されない。
【0124】
ビタミンとしては、例えば、シアノコバラミンネイノン酸(neinoic acid)、レチノイドおよびその誘導体(パルミチン酸レチノールなど)、αトコフェロール、ナフトキノン、コルカルシフェロール、葉酸、ならびにテトラヒドロ葉酸塩が挙げられるがこれらに限定されない。
【0125】
ペプチドおよびペプチド類似体としては、例えば、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ、組織プラスミノゲン活性化因子(t-PA)、グルタチオン、インスリン、ドーパミン、RGD、AGD、RGE、KGD、KGEもしくはKQAGDV(GPIIBIIIa受容体に対して親和性を有するペプチド)を含むペプチドリガンド、アヘンペプチド (opiate peptides)、エンケファリン、エンドルフィンおよびそれらの類似体、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、コルチコトロピン放出因子(CRF)、コレシストキニンおよびそれらの類似体、ブラジキニンおよびそれらの類似体およびプロモーターおよびインヒビター、エラスチン、バソプレシン、ペプシン、グルカゴン、P物質、インテグリン、カプトプリル、エナラプリル、リジノプリル、および他のACEインヒビター、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、オキシトシン、カルシトニン、IgGまたはそのフラグメント、IgAまたはそのフラグメント、IgMまたはそのフラグメント、エフェクター細胞プロテアーゼ受容体(全てのサブタイプ)に対するリガンド、トロンビン、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、t-PAおよび全ての活性断片または類似体、プロテインキナーゼCおよびその結合リガンド、インターフェロン(αインターフェロン、βインターフェロン、γインターフェロン)、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)、神経成長因子(NGF)、血小板由来成長因子、リンホトキシン、上皮成長因子、繊維芽細胞成長因子、脈管内皮細胞成長因子、エリスロポエチン、形質転換成長因子、オンコスタチンM、インターロイキン(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11および12)、金属タンパク質キナーゼリガンド、コラゲナーゼ、ならびにアゴニストおよびアンタゴニストが挙げられるがこれらに限定されない。
【0126】
本明細書で使用する抗体としては、例えば、実質的に精製された抗体またはそのフラグメント(非ヒト抗体またはそのフラグメントを含む)が挙げられるがこれらに限定されない。様々な実施形態において、本発明の実質的に精製された抗体、またはそのフラグメントは、ヒト抗体、非ヒト抗体、キメラ抗体、および/またはヒト化抗体であり得る。このような非ヒト抗体は、ヤギ、マウス、ヒツジ、ウマ、ニワトリ、ウサギ、またはラット抗体であり得る。あるいはまた、本発明の非ヒト抗体は、キメラ抗体、および/またはヒト化抗体であり得る。完全ヒト抗体は、ヒト患者の治療処置のために特に望ましい。キメラ抗体は、各部分が、異なる動物種に由来する分子であり、例えば、マウスmAb由来の可変領域とヒト免疫グロブリンの定常領域とを有するものなどがある(Cabillyら、米国特許第4,816,567号;およびBossら、米国特許第4,816,397号、これらの内容全体を参照により本明細書に援用する)。さらに、本発明の範囲内にあると考えられる非ヒト抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり得る。本発明のいずれの抗体も、治療的部分または検出可能物質とコンジュゲートできる。本発明の抗体にコンジュゲートし得る検出可能物質の限定しない例は、酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、および放射線物質である。
【0127】
本発明は、ポリマー材料担体、生物活性治療因子およびトランスフェクション剤と組合わせた標的化のためのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の使用を提供する。このような抗体は、本発明の方法において有用であり、ポリマー材料、およびトランスフェクション剤に連結した生物活性治療因子を活性部位に標的化送達することを可能にする。本明細書で使用する「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、特定のエピトープと免疫反応可能な抗原結合部位を1種類のみ含む抗体分子の集合を指す。ポリクローナル抗体は、上述したように、本発明のポリペプチドを免疫原として適切な被検体を免疫化することにより調製できる。好ましいポリクローナル抗体組成物は、例えば、本発明の組成物で治療される腫瘍の癌細胞の表面にある受容体の1つ以上のポリペプチドに対する抗体について選択したものである。
【0128】
抗有糸分裂因子としては、例えば、エストラムスチン、およびそのリン酸化誘導体、リン酸エストラムスチン、ドキソルビシン、アンフェチニル(amphethinile)、コンブレタススタチンA4、およびコルヒチンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0129】
ワクチンとしては、例えば、肺炎球菌ワクチン、灰白髄炎ウイルスワクチン、炭疽ワクチン、結核(BCG)ワクチン、A型肝炎ワクチン、コレラワクチン、髄膜炎菌A、C、Yワクチン、W135ワクチン、ペストワクチン、狂犬病(ヒト二倍体)ワクチン、黄熱ワクチン、日本脳炎ワクチン、腸チフス(フェノールおよび熱による不活性化した)ワクチン、B型肝炎ワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン、百日咳ワクチン、B型インフルエンザ菌ワクチン、ポリオワクチン、麻疹ワクチン、おたふく風邪ワクチン、風疹ワクチン、水痘ワクチン、肺炎連鎖球菌Ty(生変異型細菌)ワクチン、Vi(Vi莢膜多糖)ワクチン、DT(トキソイド)ワクチン、Td(トキソイド)ワクチン、aP(不活性細菌抗原/無細胞(DtaP))ワクチン、Hib(細菌多糖−タンパク質コンジュゲート)ワクチン、B型肝炎ウイルス(不活性血清由来ウイルス抗原/組換え抗原)ワクチン、インフルエンザワクチン、ロタウイルスワクチン、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)ワクチン、ヒトアストロウイルスワクチン、ロタウイルスワクチン、ヒトAおよびB型インフルエンザウイルスワクチン、A型肝炎ウイルスワクチン、生弱毒化パラインフルエンザウイルス3型ワクチン、エンテロウイルスワクチン、レトロウイルスワクチン、およびピコルナウイルスワクチンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0130】
本発明の組成物および方法での治療が可能な疾患としては、例えば、肝臓、腎臓に関連する腫瘍、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、ユーイング肉腫、妊娠栄養膜癌腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、拡散大細胞型リンパ腫、濾胞性混合(mixed)リンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫、横紋筋肉腫、精巣癌、ウィルムス腫瘍、肛門癌、膀胱癌、乳癌、慢性リンパ球白血病、慢性骨髄性白血病、毛様細胞性白血病、頭部および頸部の癌腫、肺(小細胞)癌、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、濾胞性リンパ腫、卵巣癌、脳腫瘍(星状細胞腫)、頸癌、結腸直腸癌、肝細胞癌、カポージ肉腫、肺(非小細胞)癌、黒色腫、膵臓癌、前立腺癌、軟組織肉腫、乳癌、結腸直腸癌(第III期)、骨原性肉腫、卵巣癌(第III期)、精巣癌、またはそれらの組合せが挙げられるがこれらに限定されない。
【0131】
酵素としては、例えば、アルカリホスファターゼ、シクロオキシゲナーゼI型、ならびにアゴニストおよびアンタゴニストが挙げられるがこれらに限定されない。
【0132】
抗アレルゲン性剤としては、例えばアメレキサノックス(amelexanox)が挙げられるがこれに限定されない。
【0133】
抗凝集剤としては、例えば、フェンプロクモン(phenprocoumon)、およびヘパリンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0134】
循環剤としては、例えば、プロプラノロールが挙げられるがこれに限定されない。
【0135】
抗結核剤としては、例えば、パラアミノサリチル酸、イソニアジド、硫酸カプレオマイシン、シクロセリン、塩酸エタンブトール、エチオナミド、ピラジンアミド、リファンピン、および硫酸ストレプトマイシンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0136】
抗ウイルス剤としては、例えば、アシクロビル、アマンタジン、アジドチミジン(AZTまたはジドブジン)、リバビリン、およびビダラビン一水和物(アデニンアラビノシド、ara-A)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0137】
抗狭心症剤としては、例えば、ジルチアゼム、ニフェジピン、ベラパミル、四硝酸エリトリトール、二硝酸イソソルビド、ニトログリセリン(三硝酸グリセリン)、および四硝酸ペンタエリトリトールが挙げられるがこれらに限定されない。
【0138】
抗生物質としては、例えば、ダプソーン、クロラムフェニコール、ネオマイシン、セファクロール、セファドロキシル、セファレキシン、セフラジンエリスロマイシン、クリンダマイシン、リンコマイシン、アモキシシリン、アンピシリン、バカンピシリン、カルベニシリン、ジクロキサシリン、シクラシリン、ピクロキサシリン(picloxacillin)、ヘタシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、チカルシリン、リファンピン、およびテトラサイクリンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0139】
抗炎症剤および鎮痛剤としては、例えば、ジフルニサル、イブプロフェン、インドメタシン、メクロフェナム酸塩、メフェナム酸、ナプロキセン、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、トルメチン、アスピリン、およびサルチル酸塩が挙げられるがこれらに限定されない。
【0140】
抗原生動物剤としては、例えば、クロロキン、メトロニダゾル、ヒドロキシクロロキン、キニーネ、およびメグルミンアンチモネートが挙げられるがこれらに限定されない。
【0141】
抗リウマチ剤としては、例えば、ペニシラミンが挙げられるがこれに限定されない。
【0142】
麻酔薬としては、例えば、アヘン安息香チンキおよびアヘン誘導体(コデイン、ヘロイン、メタドン、モルヒネおよびアヘンなど)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0143】
強心配糖体剤としては、例えば、デスラノシド、ジギトキシン、ジゴキシン、ジギタリン、およびジギタリスが挙げられるがこれらに限定されない。
【0144】
神経筋遮断剤としては、例えば、アトラクリウムメシレート、ガラミントリエチオダイド、臭化ヘキサフルオレニウム、ヨウ化メトクリン、臭化パンクロニウム、塩化サクシニルコリン(塩化スキサメトニウム)、塩化ツボクラリン、および臭化ベクロニウムが挙げられるがこれらに限定されない。
【0145】
鎮静剤(催眠薬)としては、例えば、アモバルビタール、アモバルビタールナトリウム、アプロバルビタール、ブタバルビタールナトリウム、抱水クロラール、エトクロルビノール、エチナメート、塩酸フルラゼパム、グルテチミド、塩酸メトトリメプラジン、メチプリロン、塩酸ミダゾラムパラアルデヒド、ペントバルビタール、ペントバルビタールナトリウム、フェノバルビタールナトリウム、セコバルビタールナトリウム、タルブタール、テマゼパム、およびトリアゾラムが挙げられるがこれらに限定されない。
【0146】
局所麻酔薬としては、例えば、塩酸ブピバカイン、塩酸クロロプロカイン、塩酸エチドカイン、塩酸リドカイン、塩酸メピバカイン、塩酸プロカイン、および塩酸テトラカインが挙げられるがこれらに限定されない。
【0147】
全身麻酔薬としては、例えば、ドロペリドール、エトミデート、ドロペリドールを伴うクエン酸フェンタニール、塩酸ケタミン、メトヘキシタールナトリウム、およびチオペンタールナトリウムが挙げられるがこれらに限定されない。
【0148】
放射性粒子または放射性イオンとしては、例えば、ストロンチウム、レニウム、イットリウム、テクネチウム、およびコバルトが挙げられるがこれらに限定されない。
【0149】
生物活性治療因子は、抗腫瘍剤、ホルモン、ステロイド、抗真菌剤、ペプチド、またはペプチド類似体であることが好ましい。生物活性剤は、デキサメタゾン、アムホテリシンB、アドリアマイシン、マイトマイシンc、タキソール、ドキソルビシン、または組織プラスミノゲン活性化因子(t-PA)であることがより好ましい。本発明で使用する生物活性治療因子は、低濃度で高い活性を有するものであることが好ましい。本発明の標的化する態様により、治療のために適用する用量を低くすることが可能となる。なぜなら、治療部位における有効濃度が身体中で希釈されずに維持されるからである。本発明の生物活性治療因子を患者に投与する量は、例えば、使用する特定の生物活性治療因子、生物活性治療因子を投与する方法、患者の年齢、性別、体重および身体状態に依存する。一般的に、低い用量で治療を開始し、その後、状況下で所望の効果が得られるまで少しずつ増加する。さらに、当業者は、Montvale, N.J. 07645-1742にあるMedical Economics Companyから出版されているPhysician's Desk Referenceなどの参考文献に依って、特定の生物活性治療因子の適切な量を決定することができ、さらにこのことから、本発明の方法を用いた組合せ治療薬剤および遺伝子療法の場合に患者に投与できる本発明の対応するプロドラッグの適切な量を決定することができる。本発明によりプロドラッグを、例えば、患者における症状(すなわち、疾患状態、疾病、障害など)を治療する目的で患者(例えば、患者の部位)に送達する。プロドラッグは、上述したように使用するか、またはエマルジョンなどの他の実施形態に取り入れてもよい。
【0150】
4.5 ポリヌクレオチド送達のためのトランスフェクション剤
核酸、ポリヌクレオチド、天然起源または合成起源のRNAおよびDNA(組換えRNAおよびDNA、ならびにアンチセンスRNAおよびDNAを含む);ハンマーヘッドRNA、リボザイム、アンチジーン核酸、一本鎖および二本鎖のRNAおよびDNA、ならびにそれらの類似体を含む遺伝物質を、例えば組織特異的エンハンサーおよび核局在化シグナルなどの(これらに限定されない)他のエレメントと組み合わせてまたはそれらと組み合わせずに、従来の形質転換技術またはトランスフェクション技術を介して真核生物細胞に導入できる。本明細書で使用する「形質転換」および「トランスフェクション」という用語は、外来核酸を宿主細胞に導入するための様々な当該技術分野で認められている技術を指すことを意図し、例えば、リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈法、DEAE-デキストラン仲介型トランスフェクション、リポフェクション、またはエレクトロポーレーションが挙げられるがこれらに限定されない。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするのに適切な方法は、Sambrookら(前掲)、および他の研究マニュアルに見出し得る。
【0151】
哺乳動物細胞の安定したトランスフェクションに関しては、使用する発現ベクターおよびトランスフェクション技術によっては、ごく一部の細胞のゲノムにしか外来DNAが組み込まれないことが知られている。これらの組込み体を同定および選択するために、通常、選択マーカー(例えば、抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子を、目的の遺伝子と共に宿主細胞に導入する。好ましい選択マーカーとしては、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキセートのような薬剤に対する耐性を付与するものが挙げられる。導入した核酸により安定的にトランスフェクトされた細胞は、薬剤選択により同定できる(例えば、選択マーカー遺伝子を取り入れた細胞は生存し、他の細胞は死ぬ)。
【0152】
本発明の生物活性治療組成物の効率的なin vivo導入を実現するために、様々なトランスフェクション剤が採用される。リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈法、DEAE-デキストラン仲介型トランスフェクションなどの本発明の方法で使用するのに適したトランスフェクション剤の代表的な例としては、第四級アンモニウム両親媒性物質DOTMA(GIBCO-BRLによりリポフェクチンとして商品化されている臭化(ジオレオイルオキシプロピル)トリメチルアンモニウム)(Felgnerら, (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 7413-7417;Maloneら (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 6077-6081);トリメチルアンモニウムのペンダントヘッドを有する親油性グルタミン酸ジエステル(Itoら (1990) Biochem. Biophys. Acta 1023, 124-132);陽イオン脂質ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS、Transfectam, Promega)およびジパルミトイルホスファチジルエタノールアミルスペルミン(DPPES)などの代謝可能な元の脂質(J.P. Behr (1986) Tetrahedron Lett. 27, 5861-5864;J.P. Behr (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 6982-6986);代謝可能な第四級アンモニウム塩(DOTB、メチル硫酸N-(1-[2,3-ジオレオイルオキシ]プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTAP)(Boehringer Mannheim)、ポリエチレンイミン(PEI)、ジオレオイルエステル、ChoTB、ChoSC、DOSC)(Leventisら (1990) Biochim. Inter. 22, 235-241);3β[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)/3β[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロールDC-Cholの1対1の混合物(Gaoら, (1991) Biochim. Biophys. Acta 1065, 8-14)、スペルミン、スペルミジン、リポポリアミン(Behrら, Bioconjugate Chem, 1994, 5:382-389)、親油性ポリリシン(LPLL)(Zhouら, (1991) Biochim. Biophys. Acta 939, 8-18)、過剰ホスファチジルコリン/コレステロールを伴う水酸化[[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)クレゾキシ]エトキシ]エチル]ジメチルベンジルアンモニウム(水酸化DEBDA)(Ballasら, (1988) Biochim. Biophys. Acta 939, 8-18)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)/DOPE混合物(Pinnaduwageら, (1989) Biochim. Biophys. Acta 985, 33-37)、DOPE、CTAB、DEBDA、臭化ジドデシルアンモニウム(DDAB)とグルタミン酸との親油性ジエステル(TMAG)、ホスファチジルエタノールアミンと混合されたステアリルアミン(Roseら, (1991) Biotechnique 10, 520-525)、DDAB/DOPE(TransfectACE、GIBCO BRL)、ならびにオリゴガラクトース担持脂質(Remyら、出版予定)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0153】
様々なトランスフェクションエンハンサー剤を使用して、生物活性治療因子の細胞への導入効率を高めることも、本発明に包含される。適切なトランスフェクションエンハンサー剤としては、例えば、DEAE-デキストラン、ポリブレン、リソソーム崩壊ペプチド(Ohmori N Iら, Biochem Biophys Res Commun 1997 Jun 27; 235(3):726-9)、コンドロイタン(chondroitan)に基づいたプロテオグリカン、硫化プロテオグリカン、ポリエチレンイミン、ポリリシン(Pollerd HらJ Biol Chem, 1998 273 (13):7507-11)、インテグリン結合ペプチドCYGGRGDTP、線状デキストランノナサッカリド(nonasaccharide)、グリセロール、オリゴヌクレオチドの3'末端ヌクレオシド結合に係留したコレステリル基(Letsinger, R.L. 1989 Proc Natl Acad Sci USA 86: (17):6553-6)、リソホスファチド、リソホスファチジルコリン、リソホスファチジルエタノールアミン、および1-オレオイルリソホスファチジルコリンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0154】
適切なトランスフェクション剤の好適な例としては、1992年12月15日にBehrらに付与された米国特許第5,171,678号、1995年12月19日にBehrらに付与された米国特許第5,476,962号、および1997年4月1日にBehrらに付与された米国特許第5,616,745号(これらの開示全体を参照により本明細書に援用する)に開示されるリポポリアミンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0155】
本発明の特に好適なトランスフェクション剤は、1992年12月15日にBehrらに付与された米国特許第5,171,678号、1995年12月19日にBehrらに付与された米国特許第5,476,962号、および1997年4月1日にBehrらに付与された米国特許第5,616,745号に開示される一般式(I)のリポポリアミンを含む。
【0156】
一般式(I)のリポポリアミンは、真核生物細胞のトランスフェクションのためのベクターとして特に有用である。一般式(I)のリポポリアミンは、水に分散されると、イオン媒体において不安定であって、陽イオン部分を介してプラスミドまたはオリゴヌクレオチドDNAと強力に会合する単層状ナノ粒子を形成し、後者を密集化して脂質層で包む性質を有する。核酸に対して過剰量の陽イオン電荷を使用することにより、脂質/DNA複合体を細胞膜上に吸着して、細胞がDNAを摂取し易くしてもよい。
【0157】
一般式(I)のかかるリポポリアミンは、さらに、従来の方法(リン酸カルシウム共沈法またはデキストラン技術)の適用ではトランスフェクトできなかった脆弱な細胞(例として、中間下垂体細胞または前方下垂体細胞、クロム親和細胞、末梢ニューロンまたは中枢ニューロンが挙げられるがこれらに限定されない)をトランスフェクトすることができる。
【0158】
4.6 組換え発現ベクター
本発明の別の態様は、塞栓形成を伴うまたは伴わないベクターの送達に関する。発現ベクターは、本発明の生物活性治療因子またはポリペプチド(もしくはその一部)をコードする核酸を含むことが好ましい。本明細書で使用する「ベクター」という用語は、連結した別の核酸を輸送できる核酸分子を指す。1つの種類のベクターは「プラスミド」であり、これは、追加のDNAセグメントをライゲートできる環状の二本鎖DNAループを指す。別の種類のベクターは、追加のDNAセグメントをウイルスゲノムにライゲートできるウイルスベクターである。ウイルスベクターの具体的な例としては、本発明の微小球およびトランスフェクション剤を用いた遺伝子療法のためのアデノウイルスおよびレトロウイルスベクターが挙げられるがこれらに限定されない。微粒子に連結したトランスフェクション剤に物理的に連結した、生物活性治療因子を含むウイルス様粒子の使用も本発明に含まれる。このようなウイルス様粒子は、ジスルフィド架橋形成を介してインテグリン結合ペプチドCYGGRGDTPにコンジュゲートしたポリエチレンイミン(PEI)を用いて設計され得る。このようなPEI/RGD含有ペプチド/複合体は、大きさなどの構成的な特性、および中心保護コア(centrally protected core)、ならびにインテグリン仲介型細胞侵入および酸誘発型エンドソーム逃散(escape)などの「初期特性」がアデノウイルスと共通する(Erbacherら, 刊行予定)。
【0159】
特定のベクターは、導入される宿主細胞中で自律複製が可能である(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクター、およびエピソーム哺乳動物ベクター)。その他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれて、宿主ゲノムと共に複製される。さらに、特定のベクター、発現ベクターは、作用可能に連結した遺伝子の発現を指示することができる。一般的に、組換えDNA技術において利用する発現ベクターは、プラスミド(ベクター)の形態であることが多い。しかし、本発明は、等価の機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)などの他の発現ベクターの形態も含むことを意図する。
【0160】
本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞中での核酸の発現に適した形態の本発明の核酸を含む。これは、組換え発現ベクターが、発現される核酸配列に作用可能に連結した、発現のために使用する宿主細胞に基づいて選択される1つ以上の調節配列を含むことを意味する。組換え発現ベクターでは、「作用可能に連結」とは、(例えば、in vitro転写/翻訳系、またはベクターが宿主細胞に導入される場合には宿主細胞において)該ヌクレオチド配列の発現が可能なように、目的のヌクレオチド配列が調節配列に連結されることを意味することを意図する。「調節配列」という用語は、プロモーター、エンハンサー、および他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むことを意図する。このような調節配列は、例えば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。調節配列としては、多くの種類の宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的発現を指示するもの、および特定の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を指示するもの(例えば、組織特異的調節配列)が含まれる。当業者には、発現ベクターの設計が、形質転換する宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどの要因に依存し得ることが理解されるであろう。本発明の発現ベクターは、宿主細胞に導入されて、本明細書に記載する核酸にコードされるタンパク質またはペプチド(融合タンパク質および融合ペプチドを含む)を生成できる。
【0161】
本発明の組換え発現ベクターは、原核生物(例えば、大腸菌)または真核生物(例えば、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを使用)、酵母細胞もしくは哺乳動物細胞)における本発明のポリペプチドの発現のために設計できる。適切な宿主細胞は、Goeddel(前掲)においてさらに議論されている。あるいはまた、組換え発現ベクターは、例えばT7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを用いて、in vitroで転写および翻訳され得る。
【0162】
別の実施形態では、本発明の核酸は、哺乳動物発現ベクターを用いて、哺乳動物細胞において発現される。哺乳動物発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed (1987) Nature 329:840)およびpMT2PC(Kaufmanら (1987) EMBO J. 6:187-195)が挙げられる。哺乳動物細胞で使用する場合、発現ベクターの制御機能は、ウイルス調節配列により提供されることが多い。例えば、よく使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス、およびシミアンウイルス40由来のものである。原核生物細胞および真核生物細胞の両方に適切な他の発現系については、Sambrookら(前掲)の第16章および第17章を参照のこと。
【0163】
別の実施形態では、組換え哺乳動物発現ベクターは、特定の細胞型において優先的に核酸の発現を指示することができる(例えば、組織特異的調節エレメントを核酸を発現するために使用する)。組織特異的調節エレメントは当該分野で公知である。適切な組織特異的プロモーターの限定しない例として、アルブミンプロモーター(肝臓特異的;Pinkertら (1987) Genes Dev. 1:268-277)、リンパ特異的プロモーター(CalameおよびEaton (1988) Adv. Immunol. 43:235-275)、特にT細胞受容体のプロモーター(WinotoおよびBaltimore (1989) EMBO J. 8:729-733)および免疫グロブリン(Banerjiら (1983) Cel 33:729-740;QueenおよびBaltimore (1983) Cell 33:741-748)のプロモーター、ニューロン特異的プロモーター(例えば、神経フィラメントプロモーター;ByrneおよびRuddle (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:5473-5477)、膵臓特異的プロモーター(Edlundら (1985) Science 230:912-916)、前立腺特異的プロモーターおよび/またはエンハンサー(米国特許第5,830,686号および同第5,871,726号、それらの内容全体を参照により本明細書に援用する)、ならびに乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター;米国特許第4,873,316号および欧州特許出願公報第264,166号)が挙げられる。例えば、マウスホックスプロモーター(KesselおよびGruss (1990) Science 249:374-379)およびαフェトプロテインプロモーター(CampesおよびTilghman (1989) Genes Dev. 3:537-546)などの発生段階に伴って調節されるプロモーターも包含される。
【0164】
本発明は、発現ベクターにアンチセンス方向でクローニングされる本発明のDNA分子を含む組換え発現ベクターをさらに提供する。つまり、DNA分子は、所与のポリペプチドをコードするmRNAにアンチセンスであるRNA分子の発現が(DNA分子の転写により)可能なように調節配列に作用可能に連結される。
【0165】
様々な細胞型におけるアンチセンスRNA分子の連続した発現を指示する、アンチセンス方向でクローニングされた核酸に作用可能に連結された調節配列(例えば、ウイルスプロモーターおよび/もしくはエンハンサー)を選択するか、またはアンチセンスRNAの構成的発現、組織特異的発現もしくは細胞型特異的発現を指示する調節配列を選択できる。アンチセンス発現ベクターは、組換えプラスミド、ファージミド、または弱毒化ウイルスの形態であり得、その中でアンチセンス核酸は高効率調節領域の制御下で生成され、その活性はベクターが導入される細胞型によって決定され得る。アンチセンス遺伝子を用いた遺伝子発現の調節に関する議論については、Weintraubら(Reviews-Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986)を参照のこと。
【0166】
本発明の一態様では、DNA鋳型上の毒素遺伝子に組織特異的エンハンサーおよび/またはプロモーターを供給することで、癌細胞において該遺伝子の発現を集中させることにより、様々な癌を治療できる。例えば、毒素遺伝子としては、ジフテリア毒素遺伝子が挙げられるがこれに限定されない。ジフテリア毒素の細胞内発現は、細胞を殺すことが知られている。特定のプロモーターの使用は、膵臓癌のために膵臓特異的プロモーターを用いるなど、組織特異的であり得る。従って、膵臓細胞に送達される機能するジフテリア毒素遺伝子は、理論上、膵臓全体を根絶する。この戦略は、膵臓癌の治療のために使用できる。組織特異的エンハンサーは、ジフテリア毒素の発現が膵臓細胞においてのみ生じることを確実にする。組織特異的エンハンサーの制御下で、ジフテリア毒素遺伝子を含むDNA/リポポリアミン/微小球複合体を、膵臓に栄養を補給しているカニューレ挿入動脈に直接導入する。特定の投薬スケジュールに合わせて、膵臓組織を根絶するのに必要な期間だけ注入を行い得る。ジフテリア毒素以外の他の致死遺伝子(例えば、リシンまたはコブラ毒因子またはエンテロトキシンをコードする遺伝子など)も、同様の効果で使用できる。
【0167】
別の具体的な例は、前立腺特異的抗原プロモーター/エンハンサーを使用して、本発明の生物活性治療因子を前立腺癌の治療が必要な患者の前立腺に向けさせることである。例えば、特定の癌の癌性特性を抑制する、p53遺伝子、網膜芽腫遺伝子(およびこの遺伝子ファミリーの他のメンバー)など(これらに限定されない)の遺伝子の導入により、特定の癌を治療することもできる。
【0168】
4.7 アデノウイルス仲介型遺伝子導入
遺伝子療法の目的で、欠失を有するアデノウイルスが適切なビヒクルとして提案されてきた。アデノウイルスは、非エンベロープDNAウイルスである。アデノウイルス由来の遺伝子導入ベクター(いわゆるアデノウイルスベクター)は、このような目的のための遺伝子導入に特に有用となる多数の特徴を有している。例えば、アデノウイルスの生物学は詳細に解析されている。アデノウイルスはヒトの重大な病理に関連しておらず、該ウイルスはそのDNAを非常に効率的に宿主細胞に導入し、該ウイルスは幅広い種類の細胞を感染させることができ、広範な宿主範囲を有し、該ウイルスは比較的容易に大量生産でき、該ウイルスは、特にウイルスゲノムの初期領域(early-region)1(E1)における欠失により複製をできなくすることが可能である。
【0169】
アデノウイルスゲノムは、各DNA鎖の5'側末端に共有結合した55 kDa末端タンパク質を有する、約36,000塩基対の線状二本鎖DNA分子である。Ad DNAは、正確な長さは血清型に依存する約100塩基対の同一の逆方向末端反復配列(ITR)を含む。ウイルス複製起点は、ITR内のゲノム端に正確に位置する。DNA合成は、2段階で生じる。まず、鎖が転置(displacement)し、娘二本鎖分子および転置した親鎖を生成することにより複製が進行する。転置した鎖は一本鎖であり、いわゆる「パンハンドル(panhandle)」中間体を形成し、これは複製の開始および娘二本鎖分子の生成を可能にする。あるいはまた、ゲノムの両端から同時に複製が進行して、パンハンドル構造を形成する必要がないようにする。
【0170】
増殖性(productive)感染サイクルの間、ウイルス遺伝子は、2つの段階(ウイルスDNA複製までの期間である前期、およびウイルスDNA複製の開始と同時に始まる後期)で発現される。前期の間は、領域E1、E2、E3およびE4によりコードされる前期遺伝子生成物のみが発現され、これらは、ウイルス構造タンパク質の合成のための細胞を調製する多数の機能を行う(Berk, 1986)。後期の間、前期遺伝子生成物に加えて後期ウイルス遺伝子生成物が発現され、宿主細胞のDNA合成およびタンパク質合成が中断される。結果的に、宿主細胞はウイルスDNAおよびウイルスの構造タンパク質の生成に専念するようになる(Tooze, 1981)。
【0171】
構造および特性が多少異なる様々なアデノウイルス血清型がある。これらの血清型のうち、本発明の範囲内においては、2または5型ヒトアデノウイルス(Ad2もしくはAd5)、または動物由来源のアデノウイルスの使用が好ましい(その開示全体を参照により本明細書に援用する特許出願公報WO94/26914号を参照)。本発明の範囲内において使用できる動物由来源のアデノウイルスでは、イヌ、ウシ、マウス(例:Mav1、Beardら, Virology 75 (1990) 81)、ヒツジ、ブタ、トリ、あるいはまたサル(例:SAV)由来のアデノウイルスが考えられる。動物由来のアデノウイルスは、好ましくはイヌアデノウイルス、より好ましくはCAV-2アデノウイルス[例えば、ManhattanまたはA26/61株(ATCC VR-800)]である。好ましくは、ヒト、イヌまたは混合した起源のアデノウイルスを本発明の方法に使用し得る。
【0172】
本発明の方法において使用する組換え欠失アデノウイルスは、当業者に公知の任意の技術により調製できる(Levreroら, Gene 101 (1991) 195, 欧州特許第185 573号;Graham, EMBO J. 3(1984) 2917)。特に、アデノウイルスと、目的の遺伝子を含むカセットを特に担持するプラスミドとの相同組換えにより調製できる。相同組換えは、アデノウイルスおよびプラスミドの適切な細胞系への同時トランスフェクションの後に生じる。好ましくは使用する細胞系は、(i)上記エレメントにより形質転換可能であるべきであり、かつ、(ii)アデノウイルスゲノムの欠失部分を補充できる配列を、組換えの危険性を回避するために好ましくは組み込まれた形態で含むべきである。細胞系の例として、特にAd5アデノウイルスのゲノムの左側部分(12%)がゲノムに組み込まれたヒト胚腎臓系293(Grahamら, J. Gen. Virol. 36 (1977) 59)が挙げられる。アデノウイルスに由来するベクターを構築する戦略は、国際特許出願公報WO94/26914号および仏国特許第2,707,664号にも記載されている(それぞれの内容全体を参照により本明細書に援用する)。
【0173】
4.8 レトロウイルス粒子仲介型遺伝子導入
レトロウイルスベクターは、高い感染効率、および標的細胞染色体におけるウイルス伝染型情報の安定した同線上(co-linear)組込みなどレトロウイルス複製サイクルの特徴を利用する哺乳動物のための遺伝子導入ビヒクルである。レトロウイルスベクターは、基礎的研究、バイオテクノロジーおよび遺伝子療法における重要なツールとなりつつある。
【0174】
現在使用されているほとんどのレトロウイルスベクターは、マウス白血病ウイルス(MLV)に由来している。MLVは、様々な細胞型においてよく立証されている転写パターン、および比較的単純なモジュール(modular)遺伝子構造により、特にベクターとして適している。
【0175】
レトロウイルス構造:レトロウイルスは、エンベロープ化ウイルスに属する。
二重脂質エンベロープは宿主細胞膜から誘導され、ウイルス表面タンパク質(SU)および膜貫通タンパク質(TM)の挿入により改変される。マトリックスタンパク質(MA)は、内部コアを囲む外膜の直下に位置する。コアは、キャプシドタンパク質(CA)からなる。キャプシドの内部には、5'側端において水素結合を介して互いと付着した2コピーのレトロウイルスゲノムが存在する。ウイルスコア粒子は、ウイルス酵素:逆転写酵素(RT)、プロテアーゼ(PR)およびインテグラーゼ(IN)、ならびにウイルスゲノムに結合したヌクレオキャプシドタンパク質(NC)も含む。ウイルスにコードされたこれらのタンパク質の他、ビリオンは、宿主のtRNA集合に由来する多数のtRNA分子も含む。
【0176】
マウス白血病ウイルス(MLV)は、単純レトロウイルスに属する。レトロウイルスは、特徴的なゲノムマップを有する:3つの構造遺伝子gag、polおよびenvを挟む2つの長末端反復配列(LTR)。LTRは、3つの領域に細分化され得る:細胞転写機構に認識されるエンハンサーエレメントおよびプロモーターエレメントを含むU3領域、逆転写の間に役割を果たし、さらにポリアデニル化シグナルを含むR領域、ならびに逆転写およびレトロウイルスゲノムのパッケージングに重要な配列を含むU5領域。さらにLTRは、組込みプロセスの間重要となる逆方向反復配列であるシスエレメントを含む。
【0177】
組み込まれたプロウイルスは、gag-およびgag-polポリプロテイン(polyprotein)をコードする完全長mRNA、ならびにエンベロープ糖タンパク質をコードするスプライシングされたmRNAの2つのmRNA転写産物を生じる。完全長mRNAは、ゲノムRNAとしても作用し、LTR部分の既に記載した成分の他に、3つの重要なシスエレメントを5'側非翻訳配列に含む。U5領域の下流に位置するプライマー結合部位(PBS)は、プライマーtRNA分子の3'側端に相補的な18ヌクレオチドからなる。5'側非翻訳領域には、PBSとgagオープンリーディングフレームの開始部位との間に、パッケージングシグナル(Ψ)が位置している。5'側非翻訳領域は、ビリオン中の2つのウイルスゲノムの二量体化に関与する二量体連結ドメインをさらに含む。
U3領域のすぐ上流には、別の重要なシスエレメントであるポリプリン領域 (PP)があり、これはAおよびG残基の配列からなる。このエレメントは、逆転写の間、プラス鎖DNA合成を開始する部位として役割を果たす。
【0178】
レトロウイルスのライフサイクル:宿主細胞質へのウイルス粒子侵入を説明するのに2つの異なるメカニズムが提案されている。MLVを含むほとんどのレトロウイルスは、エンベロープに包まれたウイルス粒子全体がエンドソーム体に取り込まれるプロセスである受容体仲介型エンドサイトーシスを介して、宿主細胞に侵入すると考えられている。エコトロピックマウス白血病ウイルスに対する受容体分子はクローニングされ、陽イオンアミノ酸輸送体であることが特定されている。
【0179】
ウイルスコア粒子が宿主細胞の細胞質に侵入した後、組み込まれた二本鎖DNAプロウイルスをもたらす全ての酵素的機能は、先の宿主細胞中で合成されて、ビリオンに輸送されるウイルスタンパク質により行われる。コア粒子の侵入後のウイルスタンパク質の宿命は明確でないが、逆転写酵素、インテグラーゼおよびキャプシドタンパク質はRNAゲノムと共に残り、核タンパク質を形成し、この中で逆転写が生じる。最近、マトリックスタンパク質も、核タンパク質複合体と関連することが分かった。
【0180】
逆転写に続いて、核タンパク質複合体は、宿主細胞核に移動する。核局在化に関与するメカニズムは不明であるが、ラウス肉腫ウイルス(RSV)から得た証拠から、RSV INタンパク質が哺乳動物細胞で生成された場合に核に局在化することから、INタンパク質が重要であることが示唆されている。核への核タンパク質複合体の侵入は、有糸分裂を必要とする。これはおそらく、核タンパク質複合体が核エンベロープを貫通することができないためである。一旦核に入ると、INタンパク質によって組込みが仲介される。INタンパク質は、LTRの末端部にある保存された逆方向反復配列を認識し、両方の鎖の3'側ヒドロキシ末端から2塩基を除去する。INタンパク質はまた、宿主DNAにおける切断を触媒し、プロウイルスDNAと宿主DNAとの連結を仲介する。組込みの特異性に関して、共通する宿主DNA標的配列は見とめられていないが、DNアーゼI-過剰反応(hypersensitive)部位付近に組み込む傾向があることが報告されている。
【0181】
単純レトロウイルス(MLVを含む)については、転写および翻訳は宿主細胞の機構により行われる。複雑なウイルス(HIVおよびHTLVを含む)は、転写調節に関与する転写促進タンパク質をコードする。MLV粒子の構築は、宿主の膜にて行われ、該プロセスは出芽プロセスと同時に起こる。哺乳動物BおよびC型ウイルス(それぞれMMTVおよびHTLV)において、ウイルスコア粒子は宿主細胞の細胞質中で構築される。ウイルスゲノムRNAのキャプシド被包は、シス作用キャプシド被包シグナルと、Gag-またはGag-Pol前駆体タンパク質のNC部分との結合により仲介される。
【0182】
出芽後、Gag-およびGag-Polポリプロテインは、ウイルスプロテーゼ(PR)により切断される。ウイルスタンパク質の成熟により、ビリオンの形態に全体的な変化が生じる。ウイルス粒子の出芽後のウイルスポリプロテインのタンパク質分解切断に加えて、ゲノムRNAは成熟プロセスを経て、コンパクトな二量体ゲノムを生じる。
【0183】
レトロウイルスベクター:レトロウイルスプラスミドベクターの起源とすることができるレトロウイルスとしては、モロニーマウス白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、ラウス肉腫ウイルスなどのレトロウイルス、ハーベイ(Harvey)肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、アデノウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、および乳腺癌ウイルスが挙げられるがこれらに限定されない。一実施形態では、レトロウイルスプラスミドベクターは、モロニーマウス白血病ウイルスに由来する。
【0184】
ベクターは、1つ以上のプロモーターを含む。採用し得る適切なプロモーターとしては、レトロウイルスLTR;SV40プロモーター;およびMillerら, Biotechniques, Vol. 7, No. 9,980-990(1989)に記載のヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、またはその他の任意のプロモーター(例えば、ヒストン、pol III、およびβアクチンプロモーターを含む(これらに限定されない)、真核生物細胞プロモーターなどの細胞プロモーター)が挙げられるがこれらに限定されない。使用できるその他のウイルスプロモーターとしては、アデノウイルスプロモーター、チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、およびB19パルボウイルスプロモーターが挙げられるがこれらに限定されない。適切なプロモーターの選択は、本明細書に含まれる教示から当業者には明らかであろう。
【0185】
目的の生物活性治療因子をコードする核酸配列を、適切なプロモーターの制御下におく。使用できる適切なプロモーターとしては、アデノウイルス主要後期プロモーターなどのアデノウイルスプロモーター、またはサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターなどの異種プロモーター;呼吸器合胞体ウイルス(RSV)プロモーター;MMTプロモーターなどの誘導性プロモーター;メタロチオネインプロモーター;熱ショックプロモーター;アルブミンプロモーター;ApoAIプロモーター;ヒトグロブリンプロモーター;単純ヘルペスチミジンキナーゼプロモーターなどのウイルスチミジンキナーゼプロモーター;レトロウイルスLTR(上述した改変レトロウイルスLTRを含む);βアクチンプロモーター;およびヒト成長ホルモンプロモーターが挙げられるがこれらに限定されない。プロモーターはまた、目的の生物活性治療因子をコードする遺伝子を制御する天然型プロモーターであってもよい。
【0186】
レトロウイルスプラスミドベクターを使用して、パッケージング細胞系を形質導入して、プロデューサー細胞系を形成する。トランスフェクトされ得るパッケージング細胞の例としては、PE501、PA317ψ-2、ψ-AM、PA12、T19-14X、VT-19-17-H2、ψCRE、ψCRIP、GP+E-86、GP+envAm12、およびMiller, Human Gene Therapy, Vol. 1, 5-14頁 (1990)(その全体を参照により本明細書に援用する)に記載されるDNA細胞系が挙げられるがこれらに限定されない。ベクターは、当該分野で公知の任意の手段により、パッケージング細胞を形質導入し得る。このような手段としては、エレクトロポーレーション、リポソームの使用、およびCaPO4沈降が挙げられるがこれらに限定されない。
【0187】
プロデューサー細胞系は、目的の生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチド配列を含む感染性レトロウイルスベクター粒子を生成する。次いでこのようなレトロウイルスベクター粒子を用いて、真核生物細胞をin vitroまたはin vivoのいずれかで形質導入してもよい。形質導入された真核生物細胞は、目的の生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチド配列を発現する。形質導入され得る真核生物細胞としては、胚幹細胞、胚癌細胞、造血幹細胞、肝細胞、繊維芽細胞、筋芽細胞、ケラチノサイト、内皮細胞、および気管支上皮細胞が挙げられるがこれらに限定されない。
【0188】
一実施形態では、目的の生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチド配列を含むレトロウイルスプラスミドベクターを、上述したように脂質に結合させて、その後宿主に投与してもよい。好適な一実施形態では、レトロウイルスプラスミドベクターを、本発明のリポポリアミントランスフェクション剤と会合させて、複合体を形成し、塞栓形成遺伝子療法を必要とする患者に投与する前にこれを本発明の微小球と混合してもよい。
【0189】
4.9 アンチセンス遺伝子療法
本発明は、さらに、塞栓形成を伴うまたは伴わない、アンチセンス核酸分子の送達を包含する。アンチセンス核酸分子は、本発明のポリペプチドをコードするセンス核酸に相補的(例えば、二本鎖cDNA分子のコード鎖に相補的、またはmRNA配列に相補的)な分子である。従って、アンチセンス核酸は、センス核酸に水素結合できる。アンチセンス核酸は、コード鎖全体、またはその一部のみ(例えば、タンパク質コード領域(すなわちオープンリーディングフレーム)の全体または一部)に相補的であり得る。アンチセンス核酸分子は、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のコード鎖の非コード領域の全体または一部に対してアンチセンスであり得る。非コード領域(「5'側および3'側非翻訳領域」)は、コード領域を挟む5'側および3'側配列であり、アミノ酸に翻訳されない。
【0190】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45または50ヌクレオチドの長さを有する。本発明のアンチセンス核酸は、当該分野で公知の手順により、化学合成および酵素ライゲーション反応を用いて構築できる。
【0191】
例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然型ヌクレオチド、または分子の生物学的安定性を高めるように、もしくはアンチセンスとセンス核酸とで形成される二本鎖の物理的安定性を高めるように設計された様々に改変されたヌクレオチドを用いて(例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドが使用できる)、化学的に合成することができる。
【0192】
アンチセンス核酸を生成するために使用できる改変型ヌクレオチドの例としては、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β-D-ガラクトシルキュェオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルキューオシン、5'-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン、プソイドウラシル、キュェオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、5-メチル-2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6-ジアミノプリンが挙げられる。
【0193】
あるいはまた、アンチセンス核酸は、核酸がアンチセンス方向でサブクローニングされた(すなわち、挿入された核酸から転写されるRNAが、以下の副節にさらに記載する目的の標的核酸に対してアンチセンス方向になる)発現ベクターを用いて生物学的に生成できる。
【0194】
本発明のアンチセンス核酸分子は、典型的に、被検体に投与されるか、またはin situで生成されて、選択された本発明のポリペプチドをコードする細胞mRNAおよび/またはゲノムDNAとハイブリダイズまたは結合して(例えば、転写および/または翻訳を阻害することにより)発現を阻害する。ハイブリダイゼーションは、従来のヌクレオチド相補性により安定した二本鎖を形成するか、または、例えば、DNA二本鎖と結合するアンチセンス核酸分子の場合には、二重らせんの主溝における特異的な相互作用を介して行われ得る。本発明のアンチセンス核酸分子の投与経路の例としては、特定の組織部位での、アンチセンス核酸分子/リポポリアミントランスフェクション剤複合体/微小球の直接注射が挙げられる。
【0195】
あるいはまた、アンチセンス核酸分子は、標的選択細胞への送達のために改変された後に、本発明の微小球およびトランスフェクション剤を用いて全身投与できる。例えば、全身投与のためには、アンチセンス分子を、選択された細胞表面上で発現される受容体または抗原に特異的に結合できるように(例えば、アンチセンス核酸分子を、細胞表面受容体または抗原に結合するペプチドまたは抗体に連結させることにより)改変できる。このようなペプチドまたは抗体は、本発明の微小球およびトランスフェクション剤で得ることができる向上された送達を増強する役割を果たすことができる。アンチセンス核酸分子はまた、上述したベクターを用いて細胞に送達できる。アンチセンス分子の十分な細胞内濃度を得るために、アンチセンス核酸分子が強力なpol IIまたはpol IIIプロモーターの制御下におかれるベクター構築物が好ましい。本発明のアンチセンス核酸分子は、αアノマー核酸分子であり得る。
【0196】
αアノマー核酸分子は、相補的RNAと共に、通常のβユニットとは反対に鎖が互いに対して平行に走っている特異的な二本鎖ハイブリッドを形成する(Gaultierら (1987) Nucleic Acids Res. 15:6625-6641)。アンチセンス核酸分子はまた、2'-o-メチルリボヌクレオチド(Inoueら (1987) Nucleic Acids Res. 15:6131-6148)、またはキメラRNA-DNA類似体(Inoueら (1987) FEBS Lett. 215:327-330)を含むことができる。
【0197】
本発明は、さらにリボザイムも包含する。リボザイムは、相補的領域を有するmRNAなどの一本鎖核酸を切断できる、リボヌクレアーゼ活性を有する触媒RNA分子である。従って、リボザイム(例えば、ハンマーヘッドリボザイム(HaselhoffおよびGerlach (1988) Nature 334:585-591に記載))を使用して、mRNA転写産物を触媒的に切断して、mRNAによりコードされるタンパク質の翻訳を阻害できる。
本発明のポリペプチドをコードする核酸分子に対して特異性を有するリボザイムは、目的の標的遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて設計できる。例えば、Cechら米国特許第4,987,071号;およびCechら米国特許第5,116,742号においては、活性部位のヌクレオチド配列と切断されるヌクレオチド配列とが相補的であるテトラヒメナL-19 IVS RNAの誘導体を構築できる。あるいはまた、本発明の生物活性治療因子をコードするmRNAを使用して、特異的リボヌクレアーゼ活性を有する触媒RNAを、RNA分子のプールから選択できる。例えば、BartelおよびSzostak (1993) Science 261:1411-1418を参照のこと。
【0198】
本発明はまた、三重らせん構造を形成する核酸分子を包含する。例えば、ポリペプチドをコードする遺伝子の調節領域(例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサー)に相補的なヌクレオチド配列を標的化して、標的細胞において遺伝子の転写を防ぐ三重らせん構造を形成することにより、本発明の生物活性治療因子の発現は阻害され得る。Helene (1991) Anticancer Drug Des. 6(6):569-84;Helene (1992) Ann. N.Y. Acad. Sci. 660:27-36;およびMaher (1992) Bioassays 14(12):807-15を全般的に参照のこと。
【0199】
様々な実施形態では、例えば分子の安定性、ハイブリダイゼーションまたは溶解性を向上するために、本発明の核酸分子は、塩基部分、糖部分またはリン酸骨格において改変され得る。例えば、核酸のデオキシリボースリン酸骨格を改変して、ペプチド核酸を生成できる(Hyrupら (1996) Bioorganic and Medicinal Chemistry 4(1):5-23を参照)。本明細書で使用する「ペプチド核酸」または「PNA」という用語は、デオキシリボースリン酸骨格がプソイドペプチド骨格により置換され、4つの天然核酸塩基のみが保持された核酸模倣体(例えばDNA模倣体)を指す。PNAの中立(neutral)骨格は、低いイオン強度条件下においてDNAおよびRNAに対する特異的なハイブリダイゼーションを可能にすることが示されてきた。PNAオリゴマーの合成は、Hyrupら (1996)(前掲);Perry-O'Keefeら (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:14670-675に記載される標準的固相ペプチド合成プロトコールを用いて行うことができる。
【0200】
PNAは、本発明の治療的および診断的用途において使用できる。例えば、PNAは、(例えば、転写もしくは翻訳の停止を誘導するか、複製を阻害することにより)遺伝子発現の配列特異的モジュレーションのためのアンチセンスまたはアンチジーン剤として使用できる。PNAはまた、例えばPNA特異的(directed)PCRクランピング法による例えば遺伝子中の単一塩基対突然変異の分析において;他の酵素(例えばS1ヌクレアーゼ)と組み合わせて使用される場合には人工的制限酵素として(Hyrup (1996)、前掲);またはDNA配列およびハイブリダイゼーション用のプローブもしくはプライマーとして(Hyrup(1996)、前掲;Perry-O'Keefeら (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:14670-675)使用できる。
【0201】
別の実施形態では、親油性もしくは他のヘルパー基(group)をPNAに付着させることにより、PNA-DNAキメラの形成により、または最も好ましくはリポポリアミンをトランスフェクション剤として使用して、PNAを本発明の微小球と会合させる前に複合体化させることにより、例えばPNAの安定性または細胞摂取を向上させるためにPNAを改変できる。例えば、PNA-DNAキメラは、PNAおよびDNAの有利な特性を組み合わせて生成できる。このようなキメラは、PNA部分が高い結合親和性および特異性を提供しながら、DNA認識酵素(例えばRNアーゼHおよびDNAポリメラーゼ)がDNA部分と相互作用することを可能にする。PNA-DNAキメラは、塩基の積み重ね、核酸塩基間の結合数、および方向を基準に選択された適切な長さのリンカーを用いて連結できる(Hyrup (1996)、前掲)。PNA-DNAキメラの合成は、Hyrup (1996)(前掲)、およびFinnら (1996) Nucleic Acids Res. 24(17):3357-63に記載されるように行うことができる。例えば、標準的ホスホロアミダイト結合化学および改変型ヌクレオシド類似体を使用して、固相支持体上でDNA鎖を合成できる。5'-(4-メトキシトリチル)アミノ-5'-デオキシ-チミジンホスホロアミダイトなどの化合物を、PNAとDNAの5'側端との連結部として使用できる(Magら(1989) Nucleic Acids Res. 17:5973-88)。次いで、PNAモノマーを、段階的に連結して、5'PNAセグメントおよび3'DNAセグメントを有するキメラ分子を生成する(Finnら (1996) Nucleic Acids Res. 24(17):3357-63)。あるいはまた、キメラ分子は、5'DNAセグメントおよび3'PNAセグメントで合成できる(Peterserら (1975) Bioorganic Med. Chem. Lett. 5:1119-11124)。
【0202】
別の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、(例えば、宿主細胞受容体をin vivoで標的化するために)ペプチド、または細胞膜(例えば、Letsingerら (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:6553-6556;Lemaitreら (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:648-652;PCT公報WO 88/09810を参照)もしくは血液脳関門(例えば、PCT公報WO89/10134号を参照)を通る輸送を容易にする剤など他の付随基(appended group)を含むことができる。さらに、オリゴヌクレオチドを、ハイブリダイゼーション誘発型切断剤(例えば、Krolら (1988) Bio/Techniques 6:958-976を参照)、もしくは挿入剤(例えば、Zon (1988) Pharm. Res. 5:539-549を参照)で改変できる。この目的のために、オリゴヌクレオチドを、本発明のリポリアミントランスフェクション剤および微小球と会合させる前または後に、別の分子(例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発型架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーション誘発型切断剤など)とコンジュゲートさせてもよい。
【0203】
4.10 薬剤送達および遺伝子療法のための能動的塞栓形成
本発明の一態様は、微小球を用いた、哺乳動物への、薬剤、ワクチン、および診断薬、または造影剤の投与である。勿論、この実施形態は、トランスフェクション剤の使用を必ずしも必要としない。しかし、このような剤は、微小球および生物活性剤と会合する(すなわち、リンカーとして作用する)能力、またはエンドサイトーシスを改善する能力のために選択できる。
【0204】
本発明の一態様では、血管に治療有効量の生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物を送達して、血管を有効に閉塞するステップを含む、血管を塞栓するための方法を提供する。血管を閉塞するために適した治療有効量は、上記開示に基づき容易に決定できる。特に好適な実施形態では、生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物は、腫瘍に栄養を与える血管に送達される。
【0205】
簡単に言うと、器官または領域への血液供給を減少または止めることが望ましい臨床的状況(例えば、出血、腫瘍発達)は多数ある。以下にさらに詳細に記載するように、これは、本発明の生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物を、選択的に位置された針またはカテーテルを介して、所望の血管に注射することにより達成され得る。組成物は、脈管構造に留められるまで血流を介して進み、そして物理的(または化学的)に血管を閉塞する。選択された領域への血流の減少または停止は、梗塞(酸素および栄養の不充分な供給による細胞死)、または損傷した管からの出血の減少をもたらす。
【0206】
塞栓形成療法における使用のために、本発明の生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物は、非毒性、トロンボゲン形成性、管カテーテルを通して容易に注射可能、放射線不透過性、効果が迅速および持続的、滅菌性、かつ処置時に異なる形状または大きさで容易に入手可能であることが好ましい。さらに、組成物は、ゆっくりとした(理想的には、数週間から数ヶ月の期間にわたり)、生物活性治療因子の放出をもたらすことが好ましい。特に好ましい生物活性治療因子組成物は、脈管系に注射された後に15〜200μmの予想大きさを有する。これらは、溶液中または注射後に、大きい粒子に凝集しないことが好ましい。
さらに、好ましい組成物は、使用前の保存期間中に物理的な特性が変化しない。
【0207】
本発明の塞栓形成療法は、新生物の取扱いを助けるために、少なくとも3つの主要な手段で利用され得る:すなわち、(1)腫瘍(通常は良性)の絶対的治療;(2)手術前塞栓形成;および(3)待機塞栓形成。簡単に言うと、良性腫瘍は、塞栓形成療法のみで上手く治療される場合があり得る。このような腫瘍の例としては、脈管由来源の単純腫瘍(例えば、血管腫)、甲状腺腫などの内分泌腫瘍、および良性骨腫瘍が挙げられる。
【0208】
他の腫瘍(例えば、腎腺癌)については、手術前塞栓形成を、外科的切除の数時間または数日前に採用して、手術中の出血の減少、手術時間の短縮、および腫瘍の外科的な操作による生存可能な悪性細胞の散布の危険性を低下し得る。例えば鼻咽頭腫瘍、頸静脈グロムス腫瘍、髄膜腫、非クロム親和性傍神経節腫、および迷走神経腫を含む多くの腫瘍は、手術前に上手く塞栓され得る。
【0209】
塞栓形成はまた、手術不可能な悪性腫瘍の主要な治療様式としても利用されて、進行した疾患を患う患者の生存期間を延長し得る。塞栓形成は、出血、静脈閉塞、および気管圧縮などの不快な症状を緩和することにより、悪性腫瘍を患う患者の生活の質を有意に改善し得る。しかし、待機腫瘍塞栓形成から得られる最大の利点は、類癌腫および他の内分泌新生物(例えばインスリノーマおよびグルカゴノーマ)からの転移はゆっくりと成長するかもしれないがそれらが生成する内分泌性症状により多大な苦痛を生じ得る悪性内分泌性腫瘍の体液性影響を患う患者において、見とめられ得る。
【0210】
一般的に、本発明の生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物を利用する塞栓形成療法は、典型的に、部位とは関係なく同じように行われる。
簡単に言うと、X線写真を撮る際に放射線不透過性造影剤を、動脈または静脈に挿入されたカテーテルを介して注射することにより、塞栓される領域の血管造影撮影をまず行う。カテーテルは、経皮的にまたは手術により挿入され得る。次いで、カテーテルを介して、本発明の生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物を、流れがやむのが見とめられるまで還流させることにより血管を塞栓する。閉塞は、血管造影撮影を繰り返すことにより確認できる。
【0211】
塞栓形成療法は、一般的に、治療される腫瘍の間隙、または脈管塊にわたり、生物活性治療因子を含む組成物の分布を生じる。動脈内腔を塞ぐ塞栓粒子の物理的なバルクは、血液供給の閉塞をもたらす。この効果に加えて、生物活性治療因子の存在は、腫瘍または脈管塊に供給する新しい血管の形成を防いで、血液供給を中断させる除活効果を向上させる。
【0212】
従って、本発明の生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物を利用して、様々な種類の腫瘍が塞栓され得ることが明らかであろう。簡単に言うと、腫瘍は、典型的に2つのクラス(良性および悪性)に分類される。良性腫瘍においては、細胞は、分化特徴を維持したままであり、全く非制御的には分裂しない。さらに、腫瘍は、局所に留まり、非転移性である。悪性腫瘍においては、細胞は未分化となり、身体の成長およびホルモンシグナルに応答せず、非制御的に増殖する;腫瘍は侵襲性であり、遠隔部位に広がること(転移)ができる。
【0213】
本発明の一態様では、肝臓の転移(二次腫瘍)が、塞栓形成療法を利用して治療され得る。簡単に言うと、大腿動脈または上腕動脈を介してカテーテルを挿入し、X線透視下で動脈系を通るように導くことにより肝臓の動脈まで進入させる。
カテーテルは、正常な構造に供給する動脈分枝(branches)はできるだけ多く危害を加えずに、腫瘍に供給している血管の完全な遮断が可能になるのに必要なだけ肝臓の動脈樹系(tree)へ進入させる。理想的には、これは、肝臓の動脈の分節的な分枝であるが、胃十二指腸動脈の起点から離れた肝臓の動脈全体、または複数の別々の動脈が、腫瘍の程度および個々の血液供給に応じて遮断される必要がある。所望のカテーテル位置が達成できれば、動脈カテーテルを介して抗脈管形成治療組成物を、遮断される動脈における流れがやむまで(好ましくは5分間の観察の後も)注射することにより、動脈が塞栓される。動脈の閉塞は、カテーテルを介して放射線不透過性造影剤を注射し、X線透視もしくはX線フィルムにより、先に造影剤で充填された管がそれ以上閉塞されないことを明示することにより確認され得る。同じ処置を、閉塞される供給動脈それぞれに対して繰り返してもよい。
【0214】
本発明の別の態様では、能動的治療塞栓形成療法を手術中に使用して、腫瘍または脈管塊または癌性器官を除去してもよい。さらに、本発明の別の態様は、転移を予防または緩和するための能動的治療塞栓形成療法の使用に関する。
【0215】
上記したように、良性および悪性腫瘍の両方を、本発明の抗脈管形成治療組成物を利用して塞栓し得る。良性肝臓腫瘍の代表的な例としては、肝細胞腺腫、海綿状血管腫、および限局性結節性過形成が挙げられる。さらに稀で臨床的発現がない他の良性腫瘍も治療され得る。これらとしては、胆管腺腫、胆管嚢胞腺腫、繊維腫、脂肪腫、平滑筋腫、中皮腫、奇形腫、粘液腫、および結節性再生過形成が挙げられる。
【0216】
悪性肝腫瘍は、一般的に、2つのカテゴリー(一次および二次)に細分化される。一次腫瘍は、それらが見とめられる組織から直接生じる。従って、一次肝腫瘍は、肝臓組織を構成する細胞(肝細胞および胆管細胞など)から元々誘導される。
動脈塞栓形成により治療され得る一次肝臓悪性腫瘍の代表的な例としては、肝細胞癌、胆管癌、血管肉腫、嚢胞腺癌、扁平上皮癌、および胚芽腫が挙げられる。
【0217】
二次腫瘍、すなわち転移は、身体の別の場所に由来するが、その後離れた器官に広がった腫瘍である。転移の一般的な経路は、隣接構造への直接成長、脈管系およびリンパ系を介しての広がり、ならびに組織平面および体腔(body space)に沿った追尾(腹膜液、脳脊髄液など)である。二次肝腫瘍は、癌患者における最も一般的な死亡原因の一つであり、肝臓腫瘍の最もよくある形態である。実質的にあらゆる悪性腫瘍が肝臓に転移し得るが、肝臓に最も広がりやすい腫瘍としてはおそらく、胃癌、結腸癌および膵臓癌;黒色腫;肺、口腔咽頭部および膀胱の腫瘍;ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫;乳房、卵巣および前立腺の腫瘍が挙げられる。上記した一次腫瘍はそれぞれ、動脈塞栓形成により治療され得る多数の異なる腫瘍型を有する(例えば、卵巣癌は32を超える異なる型(これに限定されない)を有すると報告されている)。
【0218】
上述したように、本発明の生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物を利用した塞栓形成療法は、血管を閉塞することが望ましい様々な他の臨床的状況にも適用され得る。本発明の一態様では、動静脈奇形は、上記生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物の1つを投与することにより治療され得る。簡単にいうと、動静脈奇形(脈管奇形)とは、動脈および静脈の間で少なくとも1つ(最も典型的には多数)の異常連絡が起きて、主に血管からなる局所的腫瘍様塊を生じる疾患群を指す。このような疾患は、先天性または後天性のどちらでもあり得る。
【0219】
本発明の一実施形態では、大腿動脈または上腕動脈を介してカテーテルを挿入し、X線透視下で供給動脈に進入させることにより、動静脈奇形が治療され得る。カテーテルは、正常な構造に供給する動脈分枝はできるだけ多く危害を加えずに、脈管奇形に供給している血管の完全な遮断が可能になるのに必要なだけ進入させることが好ましい(これは、単一の動脈であることが理想的であるが、脈管奇形の程度およびその血液供給に応じて複数の別々の動脈が遮断される必要がある場合が最も多い)。所望のカテーテル位置が達成できれば、本発明の生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物を利用して、それぞれの動脈が塞栓され得る。
【0220】
本発明の別の態様では、塞栓形成は、過剰な出血の症状を治療するために行われ得る。例えば、月経過多(月経による過剰な出血)は、子宮動脈の塞栓形成により容易に治療され得る。簡単に言うと、子宮動脈は、内腸骨動脈の両側の分枝である。本発明の一実施形態では、大腿動脈または上腕動脈を介してカテーテルを挿入し、蛍光透視下で動脈系を通るように導いてそれぞれの子宮動脈に進入させてもよい。カテーテルは、子宮動脈から発生し、正常な構造に供給する動脈分枝はできるだけ多く危害を加えずに、子宮へ延びる血管の完全な遮断が可能になるのに必要なだけ進入させることが好ましい。それぞれの側で単一の動脈が塞栓され得ることが理想的であるが、個々の血液供給に応じて複数の別々の動脈が遮断される必要がある場合がある。所望のカテーテル位置が達成できれば、上述したように生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物を投与して、それぞれの動脈が塞栓され得る。
【0221】
同様に、動脈塞栓形成は、他の様々な症状(例えば、急性出血、脈管異常、中枢神経系障害、および脾機能亢進が挙げられるがこれらに限定されない)において達成され得る。
【0222】
4.10.1 遺伝子療法を伴う能動的塞栓形成
上述したように、本発明の生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物を利用する塞栓形成療法はまた、血管を閉塞するのと同時に、必要とする患者に遺伝子療法を実施することが望ましいその他の様々な臨床的状況にも適用され得る。
【0223】
本発明の好適な一態様では、(a)生物活性治療因子、(b)ポリマー担体、および(c)トランスフェクション剤を含む組成物が提供される。
【0224】
本発明の別の好適な態様では、(a)生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチド、(b)ポリマー担体、および(c)トランスフェクション剤を含む組成物が提供される。
【0225】
本発明の最も好適な態様では、(a)生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチド、(b)陽イオン架橋微小球、および(c)リポポリアミントランスフェクション剤を含む組成物が提供される。
【0226】
この本発明の最も好適な態様では、(a)生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチド、(b)陽イオン架橋微小球、および(c)リポポリアミントランスフェクション剤を含む組成物が提供されるが、該ポリヌクレオチドは天然型または合成型由来源のRNAおよびDNA(組換えRNAおよびDNA、ならびにアンチセンスRNAおよびDNAを含む);ハンマーヘッドRNA、リボザイム、アンチジーン核酸、一本鎖および二本鎖のRNAおよびDNA、ならびにその類似体を含み;該生物活性治療因子は、抗新生物剤、ホルモンおよびステロイド、ビタミン、ペプチドおよびペプチド類似体、抗体またはそのフラグメント、ワクチン、酵素、抗アレルゲン剤、循環剤、抗結節剤、抗ウイルス剤、抗狭心症剤、抗原生生物剤、抗リウマチ剤、麻酔薬、強心配糖体剤、鎮静薬、局所麻酔薬、ならびに全身麻酔薬を含み;該陽イオン架橋微小球は、塞栓および生物活性治療因子の放出のために十分な大きさの、非毒性、生物互換性、膨潤可能または膨潤不可能、実質的に球形、親水性、かつ不活性のイオン架橋ポリマーに基づき、好ましくは該陽イオン架橋微小球は、アクリル酸ナトリウムポリマー、アクリルアミドおよびアクリルアミド誘導体ポリマー、アクリル酸ナトリウムおよびビニルアルコールコポリマー、酢酸ビニルおよびアクリル酸エステルのコポリマーの鹸化物(saponification products)、酢酸ビニルおよびアクリル酸エステルコポリマー、酢酸ビニルおよびマレイン酸メチルコポリマー、イソブチレン-無水マレイン酸架橋コポリマー、デンプン-アクリロニトリルグラフトコポリマーおよびその鹸化物、架橋ポリアクリル酸ナトリウムポリマー、ならびに架橋酸化ポリエチレンからなる群より選択されるポリマーであり;適切なトランスフェクション剤の好ましい例としては、リポポリアミンおよびポリエチレンイミン(PEI)が挙げられるがこれらに限定されない。本発明の特に好適なトランスフェクション剤は、1992年12月15日にBehrらに発行された米国特許第5,171,678号、1995年12月19日にBehrらに発行された米国特許第5,476,962号、および1997年4月1日にBehrらに発行された米国特許第5,616,745号(それぞれの内容全体が参照により本明細書に援用される)に開示される一般式(I)のリポポリアミンを含む。
【0227】
本明細書に開示する本発明の好適および最も好適な実施形態では、生物活性治療因子は、トランスフェクション剤と物理的に会合して複合体を形成し、次いで生物活性治療因子/トランスフェクション剤複合体をポリマー担体と物理的に会合させる。生物活性治療因子は、イオン交換、疎水性、分子識別またはその組合せなど(これらに限定されない)の会合力(association force)を含む液体吸着クロマトグラフィーにおいて周知の会合力により吸着させることが好ましい。選択された生物活性治療因子をトランスフェクト剤と混合し、トランスフェクト剤は、生物活性治療因子/トランスフェクト剤に、高い疎水性などの特定の特性を付与する。塞栓形成材料(例えば、Embosphere(登録商標))を含む微小球は、十分な量のトランスフェクト可能生物活性治療因子と共に混合され、トランスフェクト可能生物活性治療因子と塞栓材料との物理的会合は、イオンおよび疎水性会合によるものであり、これは、例えば塩化ナトリウムなど(これに限定されない)の塩の添加によりさらに増強できる。
【0228】
本明細書に開示する本発明の好適および最も好適な実施形態では、塞栓材料の表面に吸着または会合する生物活性治療因子/トランスフェクション剤複合体は、次第に脱着し、例えば自発的エンドサイトーシス、受容体仲介型エンドサイトーシス、エンドソーム分解、および細胞膜脱安定化またはそれらの組合せなど(これらに限定されない)を含む様々なメカニズムにより周囲の細胞に送達される。生物活性治療因子の脱着は、塞栓材料と生物活性治療因子との間の吸着力を、後者の完全な脱着が得られるまで弱める機能のある生物学的液体の天然成分により誘導される。
【0229】
本発明の別の態様では、腫瘍形成性/新脈管形成依存型疾患において血管を塞栓する方法であって、必要とする患者の管に、トランスフェクション剤と会合し、さらに微小球と会合した生物活性因子をコードするポリヌクレオチドを含む治療有効量の組成物を送達して、血管が有効に閉塞されて、腫瘍形成性/新脈管形成依存型疾患が緩和されることを含む、方法を提供する。
【0230】
4.11 診断画像法
上記議論したように、本発明の生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物は、診断画像法、治療画像法、および治療薬送達と共に使用され得る(例えば、超音波(US)、磁気共鳴画像法(I)、核磁気共鳴法(NMR)、コンピュータ連動断層撮影法(CT)、電子スピン共鳴(ESR)、核医学画像法、光学画像法、組織弾性画像法、超音波、高周波(RF)、およびマイクロ波レーザによる薬剤送達などが挙げられる)。本発明の送達ビヒクルおよび安定化物質を、診断および治療画像法のための造影剤としての効果を高める作用し得る従来の造影剤を含む様々な造影剤と組み合わせて使用してもよい。
【0231】
本発明の安定化物質と組み合わせて使用するのに適切な造影剤の例としては、例えば、安定ニトロキシドなどの安定したフリーラジカル、ならびに所望であれば塩形態であるか、または錯化剤(その親油性誘導体を含む)もしくはタンパク質の巨大分子に共有結合もしくは非共有結合している遷移元素、ランタニド元素およびアクチナイド元素を含む化合物が挙げられる。好ましい遷移元素、ランタニド元素およびアクチナイド元素としては、例えば、Gd(III)、Mn(II)、Cu(II)、Cr(III)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Er(II)、Ni(II)、Eu(III)およびDy(III)が挙げられる。元素は、より好ましくはGd(III)、Mn(II)、Cu(II)、Fe(II)、Fe(III)、Eu(III)およびDy(III)であり、最も好ましくはMn(II)およびGd(III)であり得る。上記元素は、マンガン塩(例えば、塩化マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン)などの無機塩、ならびにグルコン酸マンガンおよびマンガンヒドロキシルアパタイト(manganese hydroxylapatite)などの有機塩を含む塩の形態であってもよい。他の塩の例としては、硫化鉄、および第二鉄塩(塩化第二鉄など)などの鉄の塩が挙げられる。
【0232】
上記元素はまた、例えば、錯化剤(その親油性誘導体を含む)またはタンパク質の巨大分子と、共有会合または非共有会合を介して結合し得る。好ましい錯化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N',N',N'''-4酢酸(DOTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N',N''-3酢酸(DOTA)、3,6,9-トリアザ-12-オキサ-3,6,9-トリカルボキシメチレン-10-カルボキシ-13-フェニルトリデカンオイック酸(B-19036)、ヒドロキシベンジルエチレンジアミン二酢酸(HBED)、N,N'-ビス(ピリドキシル-5-ホスフェート)エチレンジアミン、N,N'-ジアセタート(DPDP)、1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N',N''-三酢酸(NOTA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N',N'',N'''-四酢酸(TETA)、クリプタンド(大環状複合体)、およびデスフェリオキサミンが挙げられる。錯化剤は、より好ましくはEDTA、DTPA、DOTA、DO3Aおよびクリプタンドであり、最も好ましくはDTPAである。好ましい親油性複合体としては、錯化剤EDTA、DOTAのアルキル化誘導体、例えば、N,N'-ビス-(カルボキシデシルアミドメチル-N-2,3-ジヒドロキシプロピル)エチレンジアミン-N,N'-ジアセタート(EDTA-DDP);N,N'-ビス-(カルボキシオクタデシルアミドメチル-N-2,3-ジヒドロキシプロピル)エチレンジアミン-N,N'-ジアセタート(EDTA-ODP);およびN,N'-ビス-(カルボキシ-ラウリルアミドメチル-N-2,3-ジヒドロキシプロピル)エチレンジアミン-N,N'-ジアセタート(EDTA-LDP)(米国特許第5,312,617号(開示全体が参照により本明細書に援用される)に記載のものを含む)が挙げられる。好ましいタンパク質の巨大分子としては、例えば、アルブミン、コラーゲン、ポリアルギニン、ポリリシン、ポリヒスチジン、γグロブリンおよびβグロブリンが挙げられ、アルブミン、ポリアルギニン、ポリリシンおよびポリヒスチジンがより好ましい。従って、適切な複合体は、Mn(II)-DTPA、Mn(II)-EDTA、Mn(II)-DOTA、Mn(II)-DO3A、Mn(II)-クリプタンド、Gd(III)-DTPA、Gd(III)-DOTA、Gd(III)-DO3A、Gd(III)-クリプタンド、Cr(III)-EDTA、Cu(II)-EDTA、または鉄-デスフェリオキサミン、より好ましくはMn(II)-DTPAまたはGd(III)-DTPAが挙げられる。
【0233】
ニトロキシドは、ニトロキシド分子中の不対電子の存在により、MRI上のT1およびT2両方の緩和率を高める常磁性造影剤である。当業者に知られているように、所与の化合物のMRI造影剤としての常磁性効果は、少なくとも部分的に、常磁性核または常磁性分子中の不対電子の数、具体的には不対電子の数の二乗に関係し得る。例えば、ガドリニウムは7つの不対電子を有するが、ニトロキシド分子は1つの不対電子を有する。従って、ガドリニウムは通常、ニトロキシドよりはるかに強力なMRI造影剤である。しかし、造影剤の有効性を評価するために重要な別のパラメータである有効相関時間は、潜在的な高い緩和性をニトロキシドに付与する。例えば常磁性造影剤を大きい分子に付着させることにより転がり(tumbling)速度を遅くする場合、さらにゆっくりと転がり、より効果的にエネルギーを伝達して、水陽子の緩和を加速させる。しかし、ガドリニウムにおいては、電子スピン緩和時間は速く、ゆっくりとした回転相関時間が緩和性を高めることができる程度を限定する。しかし、ニトロキシドについては、電子スピン相関時間がより都合がよく、これらの分子の回転相関時間をゆっくりとさせることにより、緩和性におけるとても大きな高まりが得られ得る。特定の動作理論に束縛されることを意図するものではないが、ニトロキシドは微小球の周辺を被覆するように設計され得るため(例えばそのアルキル誘導体を生成することにより)、得られる相対時間は最適化され得ると検討される。さらに、得られる本発明の造影媒体は、緩和性を最大にする幾何学的構造体である磁性球と見なされ得る。
【0234】
本発明の組成物において使用するのに適した超常磁性造影剤としては、磁区をもつ金属酸化物および金属硫化物、強磁性またはフェリ磁性化合物(純鉄など)、酸化鉄磁性体(磁鉄鉱など)、γ-Fe2O3、Fe3O4など、マンガンフェライト、コバルトフェライト、ならびにニッケルフェライトが挙げられる。次いで、MR全身画像法を採用して、身体を、例えば血栓症について高速スクリーニングし、所望であれば血栓崩壊のために超音波を適用してもよい。
【0235】
上述した常磁性および超常磁性造影剤などの造影剤を、微小球および/または安定化物質の中の成分として採用してもよい。小胞に関しては、造影剤は、小胞の内腔に取り込まれるか、微小球と共に溶液として投与されるか、任意の追加の安定化物質と合併されるか、または小胞の表面もしくは膜を被覆し得る。本発明の組成物において1つまたは複数の常磁性および/または超常磁性剤の混合物を使用してもよい。常磁性および超常磁性剤は、所望であれば別々に同時投与されてもよい。
【0236】
所望であれば、常磁性および超常磁性剤は、組成物に取り込まれるアルキル化誘導体または他の誘導体、特に微小球の脂質壁として送達され得る。特に、ニトロキシド2,2,5,5-テトラメチル-1-ピロリジニルオキシ、フリーラジカル、および2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ、フリーラジカルは、例えばアセチルオキシ連結を含む様々な連結を介してメチル基に占有されていない環の位置において長鎖脂肪酸を有する付加物を形成できる。このような付加物は、本発明の生物活性治療因子/トランスフェクション剤/微小球組成物へ非常に取り込まれ易い。
【0237】
本発明の安定化物質および/または微小球、特に微小球は、上述した超常磁性剤の有効な担体として作用するだけではなく、感受性造影剤の効果を改善し得る。超常磁性造影剤としては、金属酸化物、特に酸化鉄(ただし酸化マンガンを含む)、酸化鉄としては磁区をもつ様々な量のマンガン、コバルトおよびニッケルが挙げられる。これらの剤はナノ小球またはマイクロ小球であり、非常に高い体積磁化率および横緩和率を有する。より大きい粒子、例えば約100 nmの直径を有する粒子は、R1緩和性と比べてはるかに高いR2緩和性を有する。小さい粒子、例えば約10〜約15 nmの直径を有する粒子は、幾分か低いR2緩和性を有するが、はるかにバランスの取れたR1およびR2値を有する。より小さい粒子、例えば約3〜5 nmの直径を有する単結晶酸化鉄粒子は、低いR2緩和性を有するが、おそらく最もバランスが取れたR1およびR2緩和率を有する。フェリチンも、非常に高い緩和率の超常磁性鉄のコアをカプセル化するために作られ得る。
【0238】
酸化鉄は、単純に、安定化物質および/または微小球に取り入れられてもよい。脂質から作られる微小球の場合、好ましくは酸化鉄は、例えば微小球の表面に吸着されるか、微小球の内部に取り込まれることにより、微小球の壁に取り入れられ得る。
【0239】
4.12 製薬剤形
医薬剤形:ポリヌクレオチド塩:本明細書に記載する生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドの製薬上許容可能な塩の投与が、本発明の範囲内に含まれる。このような塩は、有機塩基および無機塩基を含む製薬上許容可能な非毒性塩基から調製され得る。無機塩基から誘導される塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。
製薬上許容可能な有機非毒性塩基から誘導される塩としては、第一級、第二級および第三級アミン、塩基アミノ酸などが挙げられる。製薬的な塩の有益な議論については、S.M. Bergeら, Journal of Pharmaceutical Sciences 66:1-19(1977)(その開示は参照により本明細書に援用される)を参照のこと。
【0240】
注射に適した微粒子にコンジュゲートした本発明の適切なトランスフェクション剤と混合または会合される生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドは、アンプルまたはマルチ用量容器に入れられたユニット用量形態で調製され得る。ポリヌクレオチドは、油性または好ましくは水性ビヒクル中で懸濁液、溶液またはエマルジョンなどの形態で存在し得る。あるいはまた、ポリヌクレオチド塩は、送達時に適切なビヒクル(発熱物質が含まれていない滅菌水など)で再構築される凍結乾燥形態であり得る。液体形態、および再構築される凍結乾燥形態の両方とも、注射溶液のpHを適切に調節する量の剤、好ましくは緩衝液を含む。非経口使用の場合、特に剤形が静脈内投与される場合、溶質の全体濃度を制御して、製剤を等張性、低張性、または弱い高張性とするべきである。糖などの非イオン物質は、張性を調節するために好ましく、スクロースが特に好ましい。これらの形態はいずれも、デンプンもしくは糖、グリセロールもしくは食塩水などの適切な処方(formulatory)剤をさらに含み得る。液体または固体に関わらず、ユニット用量当たり、組成物は0.1%〜99%のポリヌクレオチド物質を含み得る。
【0241】
微粒子にコンジュゲートした本発明の適切なトランスフェクション剤と混合または会合した生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドが使用前にパッケージングされるユニット用量アンプルまたはマルチ用量容器は、微粒子にコンジュゲートした本発明の適切なトランスフェクション剤と混合または会合した生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチド、または微粒子にコンジュゲートした本発明の適切なトランスフェクション剤と混合または会合した生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドを含有する溶液が、製薬上有効な用量で、または有効用量で複数封入された密閉された容器を含み得る。微粒子にコンジュゲートした本発明の適切なトランスフェクション剤と混合または会合した生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドは、滅菌剤形としてパッケージングされ、密封された容器は、使用するまで剤形の滅菌性を持続するように設計される。
【0242】
微粒子にコンジュゲートした本発明の適切なトランスフェクション剤と混合または会合した生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドがパッケージングされる容器はラベルを付けられ、ラベルは、政府機関(例えば食品医薬品局)により規定された形式の、微粒子にコンジュゲートした本発明の適切なトランスフェクション剤と混合または会合した生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドのヒトへの投与のための製造、使用または販売について連邦法に基づく該機関の認可を反映した注意書きを有する。連邦法は、ヒトの治療における製薬剤の使用について連邦政府の機関による認可を要件とする。施行の責任は、このような認可を保証するための適切な規制(詳細は米国食品医薬品法第301〜392条)を発行する食品医薬品局の責任である。動物の組織から作製される製品を含む生物学的物質についての規制は、米国公衆衛生福祉法(42U.S.C)第262条に規定されている。海外のほとんどの国において同様の認可が必要とされる。規制は、国により異なるが、個々の手順は当業者に周知である。
【0243】
投与の用量および経路:投与する用量は、治療される被検体の状態および大きさ、ならびに治療の頻度および投与経路に大幅に依存する。用量および頻度を含む、継続した療法のための投薬計画は、初回応答および臨床的判断により導かれ得る。組織の間隙空間への非経口注射経路が好ましいが、例えば、鼻、喉、気管支組織、または肺の粘膜などへの特定の投与においてはエーロゾル剤形の吸入などの他の非経口経路が望ましいかもしれない。好適なプロトコールでは、水性担体中で微粒子にコンジュゲートした本発明の適切なトランスフェクション剤と混合または会合した生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドを含む剤形を、1部位当たり10μl〜1部位当たり約1 mlの量で、組織に注射する。剤形中の、生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドの濃度は、約0.1μg/ml〜約20 mg/mlである。
【0244】
細胞中へのポリヌクレオチドおよびペプチドのトランスフェクションのために好ましい剤形は、トランスフェクション促進有効量のリソホスファチドと共にまたはそれ無しに、本発明の陽イオンリポポリアミントランスフェクション剤を含む。リソホスファチドは、中性または陰性の頭基を有し得る。リソホスファチジルコリンおよびリソホスファチジルエタノールアミンが好ましく、1-オレオイルリソホスファチジルコリンが特に好ましい。リソホスファチド脂質は、0.5のリソ脂質対陽イオン脂質のモル比で、有利に剤形中に存在する。本発明の新規陽イオン脂質から選択された陽イオン脂質のリソ形態DOTMAまたはDOTAPも、トランスフェクションの有効性を高めるために使用できる。これらのリソ形態は、本発明の微小球剤形中の合計陽イオン脂質の約1/3におよぶ有効量で有利に存在する。
【0245】
本発明の別の態様によれば、本発明の陽イオン脂質を含む微小球組成物であって、該陽イオン脂質は、生物活性治療因子組成物と会合するトランスフェクション剤として取り入れられる、微小球組成物が提供される。微小球組成物の脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンまたはコレステロールからなる群より選択される中性脂質種をさらに含み得る。これらの微小球剤形中での陽イオン対中性脂質種の好ましいモル比は、約9/1〜1/9である;約5/5のモル比が特に好ましい。微小球剤形は、リソホスファチジルコリン、リソホスファチジルエタノールアミン、または陽イオン脂質種のリソ形態からなる群より選択されるリソ脂質をさらに含み得る。
【0246】
本発明のさらに別の態様によれば、本明細書に開示する陽イオンまたは両親媒性脂質の1つにより生物活性治療因子にコンジュゲートした微小球を、薬理学的に有効量の追加の治療剤(治療薬など)と共に含む医薬製品が提供される。これらの組成物に存在する陽イオンまたは両親媒性脂質は、生物活性治療因子および/または追加の活性治療剤の両方の細胞内送達を容易にする。製品は、局所、経腸、非経口用の使用のために提供される。医薬製品の1つにおいては、追加の治療剤は、限定するものではないが、例えばステロイドである;別のものにおいては、治療剤は、限定するものではないが、例えば非ステロイド抗炎症剤である。
【0247】
本発明の他の医薬製品では、追加の治療剤は、抗ウイルスヌクレオシド類似体、または好ましくは抗ウイルスヌクレオシド類似体の脂質誘導体(ホスファチジル誘導体、またはジホスフェートジグリセリド誘導体)である。抗ウイルスヌクレオシドは、ジデオキシヌクレオシド、ジデヒドロヌクレオシド、ヌクレオシドのハロゲン化もしくはアジド誘導体、または非環式ヌクレオシドであり得る。好適な実施形態では、抗ウイルスヌクレオシドの脂質誘導体は、(3'-アジド-3'-デオキシ)チミジン-5'-ジホスホ-3-ジアシルグリセロール(AZTジホスフェートジグリセリド)、およびジデオキシチミジンジホスフェートジグリセリドである。特に好適な実施形態では、抗ウイルスヌクレオシドの脂質誘導体は、アシクロビルもしくはガンシクロビルジホスフェートジグリセリド、または1-(2-デオキシ-2'-フルオロ-1-.β.-D-アラビノフラノシル)-5-ヨードシトシン(FIAC)もしくは1(2'-デオキシ-2'-フルオロ-1-.β.-D-アラビノフラノシル)5-ヨードウラシル(FIAU)のジホスフェートジグリセリド誘導体である。
【0248】
4.13 キット
本発明はさらに、本発明の上記組成物の成分を1つまたは複数充填された1つまたは複数の容器を含む、製薬パックおよびキットに関する。このような容器には、製薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関により規定された形式の、ヒト投与についての製品の製造、使用または販売についての該機関の認可を反映した注意書きが付随していてもよい。本明細書に記載するアッセイまたは方法のいずれの試薬も、キットの成分として含まれていてもよい。
【0249】
1つのキット形式では、本発明の市販ビーズまたは微粒子は、本発明のトランスフェクション剤および生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドと共に、液体生理学的適合溶液中に存在し、該3つの成分が全て1つのバイアルに存在する。別のキット形式では、本発明の市販微粒子が1つのバイアルに入って入手可能であり得る。本発明のトランスフェクション剤に会合した生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドは、別のバイアルに存在して、その後、微粒子をポリヌクレオチド/トランスフェクション剤複合体と混合してもよい。最後に、別のキット形式では、本発明の市販ビーズまたは微粒子は、1つのバイアルに入って、液体生理学的適合溶液中に存在する。市販トランスフェクション剤は、別のバイアルに存在してもよい。本発明の生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドは、さらに別のバイアルに存在してもよい。その後、別々のバイアルから得た3つの成分を組み合わせて、本発明のトランスフェクション剤に会合した生物活性治療因子をコードする微粒子ポリヌクレオチドを形成してもよい。
【0250】
さらに別のキット形式では、本発明のビーズまたは微粒子は、トランスフェクション増強剤と組み合わせられたトランスフェクション剤に会合した生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドと共に、液体生理学的適合溶液中に存在する。さらに別のキット形式では、本発明のビーズまたは微粒子は、生物活性治療剤を吸収するためのエンハンサーと組み合わせられたトランスフェクション剤に会合した生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチドと共に、液体生理学的適合溶液中に存在する。
【0251】
以下の実施例は、例示のために提示するものであり、限定するものではない。
【実施例】
【0252】
5. 実施例
実施例1
100 mlの脱ミネラル水を含むビーカーに、58 gの塩化ナトリウムおよび27gの酢酸ナトリウムを溶解する。400 mlのグリセロールを加えて、pHを5.9〜6.1に調節する。次いで、90 gのN-トリス-ヒドロキシ-メチルメチルアクリルアミド、35 mgのジエチルアミノエチルアクリル-アミド、および10 gのN,N-メチレン-ビス-アクリルアミドを添加する。60〜70℃で加熱し、100 moの熱い300 mg/mlゼラチン溶液を添加する。熱湯を添加して、混合物の合計容量を980 mlに調節し、次いで、20 mlの70 mg/ml過硫酸アンモニウム溶液、および4 mlのN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンを添加する。
【0253】
この溶液を、50〜70℃で攪拌しながらパラフィン油に注ぐ。数分後、温度を上げて、アクリルモノマーの重合反応を現す。次いで、微小球を、静注により回収し、注意深く洗浄し、スクリーニングし、オートクレーブにおいて緩衝化媒体中で滅菌する。
【0254】
スクリーニング検定後のこれらの微小球は、著しい陽イオン電荷および有効接着剤(ゼラチンまたは変性コラーゲン)を含む塞栓形成に望ましい特徴を有する。
【0255】
実施例2
ジエチルアミノエチルアクリルアミドの代わりにトリエチルアミノエチルアクリルアミドを使用して、実施例1の手順に従う。微小球の回収後、25%グルタルアルデヒド溶液(全微小球の100 ml)により、ゼラチンを網状にする。この処置は、4℃にて一晩攪拌して実施する。その後、脱ミネラル水で洗浄する。
【0256】
実施例3および4
10 gのN-トリス-ヒドロキシメチルメチルアクリルアミドを、10 gのアクリル酸に置き換えて、実施例1および2の手順に従う。得られる微小球は、塩およびイオン濃度、ならびにpHレベルにより制御可能な高い膨潤性を有する。これらの微小球は、扱い時にユーザーが直接見るのに有利に有用である。
【0257】
実施例5および6
N-トリス-ヒドロキシメチルメチルアクリルアミドを、10 gのN-アクリロイルヘキサメチレンプロシオンレッドRed HE-3Bに置き換えて、実施例1および2の手順に従う。得られる微小球は、アクリル染料をポリマー格子に取り入れたため、強力な赤の色合いを有する。これらの微小球は、扱い時にユーザーが直接見るのに有利に有用である。
【0258】
実施例7および8
実施例1〜4で得られた100 mlの微小球を、0.1 Mホウ酸塩緩衝液(pH 8)で洗浄し、50 mlの5 mg/mlローダミンイソチオシアネート溶液に懸濁する。次いで、懸濁液を少なくとも15時間攪拌し、その後、無色上清になるまで中性緩衝液で洗浄する。
【0259】
次いで、これらの蛍光赤着色微小球を検定し、滅菌すれば、塞栓形成遺伝子療法に使用できる。
【0260】
実施例9および10
10 gのN-トリス-ヒドロキシメチルメチルアクリルアミドを、X線に対して不透過性の10 gのモノマーである(アクリルアミド-3-プロピオンアミド)-3-トリヨード-2,4,6-安息香酸に置き換えて、実施例1〜4の手順に従う。
【0261】
得られる微小球は、X線を吸収する特性を有するため、塞栓形成遺伝子療法で使用した後のin vivoでの追跡において特に有益である。
【0262】
実施例11〜14
出発モノマー溶液に、5 gの放射線不透過性/可溶性鎖状ポリマーであるアクリルアミド-3-トリヨード-2,4,6-ポリ安息香酸(実施例11および12)、または(アクリルアミノ-3-プロピオンアミド)-3-トリヨード-2,4,6-ポリ安息香酸(実施例13および14)を添加して、実施例1〜2の手順に従った。
【0263】
100,000ダルトンを超える分子量を有するこれらのポリマーは、ポリマー格子に閉じ込められ、主張する使用用途のための微小球の全般的な特性を妨害すること無く、塞栓形成遺伝子療法のin vivo追跡に有用な放射線不透過性を得ることを可能にする。
【0264】
実施例15および16
出発モノマー溶液に、200 gの硫酸バリウム粉末を添加して、実施例1〜2の手順に従った。得られる微小球は、可視光線およびX線の両方に対して不透過である。
【0265】
実施例17および18
出発モノマー溶液に、50 gの磁鉄鉱(Fe3O4)を添加して、実施例1〜2の手順に従った。
【0266】
得られる微小球は、磁気共鳴画像法(MRI)イメージにおいて検出される特性を有する。
【0267】
実施例21塞栓形成遺伝子療法において使用するための注射可能懸濁液の調製
本発明のさらなる実施形態は、上述した実施例1〜20のいずれかの微小球を使用し、該微小球をさらに、p53遺伝子をコードする、Transfectam(登録商標)(Biosphere Medical)などのトランスフェクション剤と会合したポリヌクレオチドと、適切なプロモーターの制御下で混合することを含む。このような微小球/P53遺伝子/Transfectam(登録商標)組成物は、細動脈の塞栓形成および回復、ならびにその後の様々な癌(例えば、肝癌、腎臓癌および膵臓癌)の除去のために有用である。
【0268】
実施例22
塞栓形成遺伝子療法および抗新脈管形成療法の組合せにおいて使用するための注射可能懸濁液の調製
本発明のさらなる実施形態は、上述した実施例1〜20のいずれかの微小球を使用し、該微小球をさらに、Transfectam(登録商標)(Biosphere Medical)などのトランスフェクション剤と会合したポリヌクレオチドに(適切なプロモーターの制御下で)コードされる抗新脈管形成剤と混合することを含む。このような微小球/抗新脈管形成剤/Transfectam(登録商標)組成物は、癌の細動脈の塞栓形成およびその後の新脈管形成の予防による回復の組合せ、ならびにその後の様々な癌(例えば、前立腺癌)の除去のために有用である。
【0269】
上述した本発明の実施形態は、あくまで例示のものとして意図されており、当業者は、本明細書に記載する具体的な処置に対する多数の等価物を認識するか、または常套的な実験のみを使用して確認することができる。このような等価物は全て、本発明の範囲内にあると考慮され、請求の範囲により網羅される。
【0270】
本明細書に記載される全ての参考文献の内容が、参照により援用される。他の実施形態は請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) ビニルアルコールポリマー、ポリ(乳酸)、ポリアクリルアミド、ポリ(無水物)、多糖類、シリコーン、またはそれらの混合物を含む、生物適合性および疎水性ポリマー、および
(b) 抗新生物剤
を含む、能動的塞栓形成に適した実質的に球形の微小球。
【請求項2】
前記ポリマーが、ビニルアルコールポリマー、ポリアクリルアミド、またはこれらの混合物を含む、請求項1に記載の微小球。
【請求項3】
前記ポリマーが、アクリル酸ナトリウムおよびビニルアルコールコポリマーである、請求項1または2に記載の微小球。
【請求項4】
(a) アクリル酸ナトリウムポリマー、アクリル酸ナトリウムおよびビニルアルコールコポリマー、酢酸ビニルおよびアクリル酸エステルコポリマー、架橋ポリアクリル酸ナトリウムポリマー、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される生物適合性および疎水性のポリマー、および
(b) 抗新生物剤
を含む、能動的塞栓形成に適した実質的に球形の微小球。
【請求項5】
前記ポリマーが架橋されている、請求項1〜4のいずれかに記載の微小球。
【請求項6】
前記抗新生物剤が、白金化合物、アドリアマイシン、マイトマイシンC、アンサマイトシン、ブレオマイシン、シトシンアラビノシド、アラビノシルアデニン、メルカプトポリリシン、ビンクリスチン、ブスルファン、クロラムブシル、メルファラン、メルカプトプリン、ミトタン、プロカルバジン、ダクチノマイシン、塩酸ダウノルビシン、ドキソルビシン、プリカマイシン、アミノグルテチミド、エストラムスチン、フルタミド、ロイプロリド、メゲストロール、タモキシフェン、テストラクトン、トリロスタン、アムサクリン、アスパラギナーゼ、エルウィナアスパラギナーゼ、エトポシド、インターフェロンα-2a、インターフェロンα-2b、テニポシド、ビンブラスチン、メトトレキセート、カルゼレシン、組織プラスミノゲン活性化因子、デキサメタゾン及びパクリタキセルから成る群から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の微小球。
【請求項7】
前記抗新生物剤が、パクリタキセル、シスプラチン、マイトマイシンC、タモキシフェン、またはドキソルビシンである、請求項1〜6のいずれかに記載の微小球。
【請求項8】
さらに、造影剤(imaging agent)、造影剤(contrast agent)、蛍光マーカー誘導体、化学染料、または磁気共鳴造影剤を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の微小球。
【請求項9】
前記ポリマーが架橋剤を0.5重量%〜20重量%含む、請求項1〜8のいずれかに記載の微小球。
【請求項10】
前記微小球の直径が10μm〜200μmの範囲内である、請求項1〜9のいずれかに記載の微小球。
【請求項11】
前記微小球が膨潤可能な、請求項1〜10のいずれかに記載の微小球。
【請求項12】
前記抗新生物剤が前記微小球上に被覆され、かつ、該薬剤が、該微小球と会合した該薬剤の全量の50%を上回る量から選択される量でその放出まで該微小球の表面に維持されている、請求項1〜11のいずれかに記載の微小球。
【請求項13】
前記抗新生物剤がドキソルビシンである、請求項1〜12のいずれかに記載の微小球。
【請求項14】
前記ポリマーが、アクリル酸ナトリウムおよびビニルアルコールコポリマーであり、前記抗新生物剤がドキソルビシンである、請求項1〜13のいずれかに記載の微小球。

【公開番号】特開2013−82743(P2013−82743A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−6883(P2013−6883)
【出願日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【分割の表示】特願2001−570242(P2001−570242)の分割
【原出願日】平成13年3月23日(2001.3.23)
【出願人】(501210456)バイオスフィアー メディカル,インク. (2)
【Fターム(参考)】