説明

脂環式多価カルボン酸及びその無水物の製造方法

【課題】脂環式多価カルボン酸を工業的に製造する有利な方法を提供する。
【解決手段】芳香族多価カルボン酸の芳香環を貴金属触媒及び極性溶媒の存在下で水素化する方法において、アルミナ、シリカ又はシリカ-アルミナを担体とする貴金属触媒を用い、貴金属触媒の使用量を貴金属として芳香族多価カルボン酸に対し0.05〜0.45重量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族多価カルボン酸から脂環式多価カルボン酸及びその無水物を製造する方法に関する。脂環式多価カルボン酸及びその酸無水物は、透明性、耐熱変色性、溶剤可溶性などの特性を有するポリイミドなどの原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、脂環式多価カルボン酸の製造方法としては、芳香族多価カルボン酸の芳香環を水素化する方法(特許文献1〜5、非特許文献1)、芳香族多価カルボン酸塩の芳香環を水素化し次いで酸析する方法(特許文献6、非特許文献2)、芳香族多価カルボン酸エステルの芳香環を水素化した後加水分解する方法(特許文献7〜10)が知られている。
【0003】
【特許文献1】特公昭36−522号公報
【特許文献2】米国特許第3,520,921号公報
【特許文献3】米国特許第5,412,108号公報
【特許文献4】特開2002−20346号公報
【特許文献5】特開2003−286222号公報
【特許文献6】米国特許第2,828,335号公報
【特許文献7】特開平1−96147号公報
【特許文献8】特開平7−215912号公報
【特許文献9】特開平8−325201号公報
【特許文献10】特開平8−325196号公報
【特許文献11】特開昭58−198439号公報
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry,1966,31,3438
【非特許文献2】Journal of Organic Chemistry,1963,28,1770
【0004】
従来の芳香族多価カルボン酸塩の芳香環を水素化する方法は、生成した脂環式多価カルボン酸塩を脂環式多価カルボン酸に変換するために酸析等の工程が必要であり、多量の廃水を処理する必要があることから経済的に不利であるうえ、無機塩が製品中に混入し、その除去が困難であるなどの問題をも有する。また、芳香族多価カルボン酸エステルの芳香環を水素化した後加水分解する方法は、反応工程が多段にわたり、また、反応装置が複雑となるため経済的に有利とは言えない。
【0005】
特許文献1には、パラジウムとルテニウムから選ばれた触媒と水性媒体の存在下、テレフタル酸を水素化するヘキサヒドロテレフタル酸の製造方法が開示されている。しかしながら、この方法は、原料のテレフタル酸の腐食性とあいまって、150℃以上の温度と3000psig(約20.7MPa-g)以上の圧力下で行うため、装置に高耐腐食性と高耐圧性を有する材質が要求され、工業的に一般に用いられるステンレス鋼が使用できないという問題を有する。
【0006】
特許文献2には、二酸化白金触媒と0.5〜4重量%の水を含む有機溶媒の存在下、120℃以下の温度でフタル酸を水素化するcis-ヘキサヒドロフタル酸の製造方法が開示されている。しかしながら、この方法は、高価な二酸化白金触媒を原料に対し白金として約1重量%も必要とするため、経済的に有利とは言えない。
【0007】
特許文献3には、940m2/g以上の表面積を有するカーボン担体に担持された遷移金属触媒と溶媒の存在下、トリメリット酸を水素化するシクロヘキサン-1,2,4-トリカルボン酸の製造方法が開示されており、触媒の好適な遷移金属担持量として0.5〜20重量%、触媒の好適な使用量としてトリメリット酸100重量部に対し0.5〜50重量部が記載されている。しかしながら、少量の遷移金属の使用で反応が十分に進行するか否かについては実施例が無く、また、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナを担体とした場合に、ごく少量の遷移金属の使用で反応が進行することを教えていない。
【0008】
特許文献4には、貴金属触媒とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の存在下、ベンゼンカルボン酸類を水素化するシクロヘキサンカルボン酸類の製造方法が開示されている。しかしながら、この方法は、150℃以上の温度下で行われており、原料のベンゼンカルボン酸類の腐食性とあいまって装置には非常に高い耐腐食性を有する材質が要求される。また、この方法は、製品であるシクロヘキサンカルボン酸類にアルカリ金属又はアルカリ土類金属の混入が避けられず、その除去が困難であるなどの問題をも有する。
【0009】
特許文献5には、芳香族多価カルボン酸100重量部に対し、ロジウム及び/又はパラジウムを0.5〜10重量部の割合で含む触媒の存在下、水素分圧1MPa以上で芳香族多価カルボン酸を水素化する脂環式多価カルボン酸の製造方法が開示されている。この水素化反応に用いられる貴金属触媒の貴金属担持量は通常10%以下であり、例えば貴金属の担持量が5%の触媒の場合、芳香族多価カルボン酸100重量部に対し貴金属を0.5〜10重量部の割合で含ませるには、貴金属触媒として10〜200重量部を必要とする。貴金属触媒自体が高価であることを勘案すれば、この方法が経済的に有利とは言えないことは明らかである。
【0010】
同様な例として、非特許文献1には、カーボン担持ロジウム触媒の存在下、水溶媒中でピロメリット酸を水素化するシクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸の合成方法が記載されている。この方法は、温度60℃、圧力2.7atmという比較的穏和な条件下で行われ、また水素吸収も1.5時間と短時間で完結しており、工業的に採用できる可能性を有してはいるものの、ピロメリット酸に対する触媒の使用量が約40重量%(ロジウムとして約2.0重量%)と多く、やはり経済的に不利である。また、非特許文献1には、アルミナ担持ロジウム触媒の存在下、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸の水素化を行った旨が記載されているが、アルミナを担体とした場合に、ごく少量の遷移金属の使用で水素化が進行することを教えるものではない。また、三価以上の芳香族多価カルボン酸の水素化を行った旨の記載も無い。
【0011】
特許文献11には、水溶媒中において110〜180℃でテレフタル酸を水素化するにあたり、装置の材質は注意深く選択する必要があるものの、ステンレス鋼、ハステロイ、ジルコニウム、不浸透性黒鉛が好ましく用いられることが記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、従来の脂環式多価カルボン酸の製造方法の問題点を解決し、経済性に優れた脂環式多価カルボン酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、芳香族多価カルボン酸の芳香環を貴金属触媒及び極性溶媒の存在下で水素化する方法において、担体としてアルミナ、シリカ又はシリカ−アルミナを用いることにより、従来方法では反応が十分に進行しなかった微量の貴金属使用量でも進行すること、更には穏和な反応温度でも反応が進行することを見出し、これによってステンレス鋼製反応装置を使用できる本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、芳香族多価カルボン酸の芳香環を貴金属触媒及び極性溶媒の存在下で水素化する方法において、アルミナ、シリカ又はシリカ−アルミナを担体とする貴金属触媒を使用し、貴金属触媒の使用量が、貴金属として芳香族多価カルボン酸に対し0.05〜0.45重量%であることを特徴とする脂環式多価カルボン酸の製造方法である。
【0015】
上記脂環式多価カルボン酸の製造方法において、次のいずれか1以上の要件を更に満足することはより好ましい製造条件を与える。1)芳香族多価カルボン酸が、三価以上の芳香族多価カルボン酸であること、2)三価以上の芳香族多価カルボン酸が、トリメリット酸、ピロメリット酸、ビフェニル-3,3',4,4'-テトラカルボン酸、ジフェニルエーテル-3,3',4,4'-テトラカルボン酸又はベンゾフェノン-3,3',4,4'-テトラカルボン酸であること、3)貴金属が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及び白金から選ばれた一種又は二種以上であること、4)担体の比表面積が、10〜500m2/gであること、5)水素化の反応温度が、25〜150℃であること。
【0016】
また、本発明は、三価以上の芳香族多価カルボン酸を、ロジウムを比表面積10〜500m2/gのアルミナに担持させた貴金属触媒及び水又は水と極性有機溶媒との混合物の存在下に、貴金属触媒の使用量が金属ロジウムとして芳香族多価カルボン酸に対し0.05〜0.45重量%、反応温度50〜120℃、水素圧力1〜10MPaの条件で水素化することを特徴とする脂環式多価カルボン酸の製造方法である。
【0017】
更に、本発明は、上記のいずれかに記載の方法で製造した脂環式多価カルボン酸を脱水閉環することを特徴とする脂環式多価カルボン酸無水物の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、煩雑な操作を要することなく、安価なステンレス鋼製装置を使用して生産性よく脂環式多価カルボン酸類を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の脂環式多価カルボン酸類の製造方法について詳細に説明する。
本発明は、原料として芳香族多価カルボン酸を使用する。かかる芳香族多価カルボン酸としては、フタル酸、トリメリット酸、3-メチルフタル酸、4-メチルフタル酸、3,4,5,6-テトラメチルフタル酸、3-メチルベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸、5-メチルベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸、6-メチルベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸、ビフェニル-3,3',4,4'-テトラカルボン酸、ジフェニルエーテル-3,3',4,4'-テトラカルボン酸、ベンゾフェノン-3,3',4,4'-テトラカルボン酸、ジフェニルメタン-3,3',4,4'-テトラカルボン酸、エチリデン-4,4'-ビス(1,2-ベンゼンジカルボン酸)、プロピリデン-4,4'-ビス(1,2-ベンゼンジカルボン酸)、ベンゼン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ピロメリット酸、3-メチルベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、3,6-ジメチルベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸などが挙げられる。
好ましくは、トリメリット酸、3-メチルベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸、5-メチルベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸、6-メチルベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸、ビフェニル-3,3',4,4'-テトラカルボン酸、ジフェニルエーテル-3,3',4,4'-テトラカルボン酸、ベンゾフェノン-3,3',4,4'-テトラカルボン酸、ジフェニルメタン-3,3',4,4'-テトラカルボン酸、エチリデン-4,4'-ビス(1,2-ベンゼンジカルボン酸)、プロピリデン-4,4'-ビス(1,2-ベンゼンジカルボン酸)、ベンゼン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ピロメリット酸、3-メチルベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、3,6-ジメチルベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸等の三価以上の芳香族多価カルボン酸である。
より好ましくは、トリメリット酸、ピロメリット酸、ビフェニル-3,3',4,4'-テトラカルボン酸、ジフェニルエーテル-3,3',4,4'-テトラカルボン酸、ベンゾフェノン-3,3',4,4'-テトラカルボン酸である。
【0020】
なお、溶媒として水又は水と有機溶媒の混合物を用いる場合、本発明で使用する原料は芳香族多価カルボン酸の無水物とすることもできる。これは、芳香族多価カルボン酸の無水物が、水素化反応の初期において加水分解されて対応する芳香族多価カルボン酸になるからである。
【0021】
本発明で使用する触媒は、アルミナ、シリカ又はシリカ−アルミナを担体とする貴金属触媒である。これらの担体のうち、アルミナ担体が良好な結果を与える。担体の比表面積は、10〜500m2/g、好ましくは30〜400m2/g、より好ましくは50〜300m2/gである。貴金属としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金などが挙げられ、好ましくはロジウム又はパラジウムである。貴金属の担持量としては、貴金属換算で0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%である。触媒の形態は、粉末状、粒状など任意の形状でよい。
【0022】
本発明における触媒の使用量は、貴金属として芳香族多価カルボン酸に対し0.05〜0.45重量%である。触媒の使用量が0.05重量%より少ないと反応速度が極端に遅くなり、水素化反応が十分に進行しない場合があるため好ましくない。
【0023】
本発明で使用する極性溶媒は、水素化反応条件下において原料である芳香族多価カルボン酸及び生成物である脂環式多価カルボン酸を少なくとも部分的に溶解させるものであって、水素化反応を阻害しないものであればよい。かかる極性溶媒としては、水又はエーテル類、アルコール類、エステル類等の極性有機溶媒及びそれらの混合物が挙げられ、好ましくは、水又は水と極性有機溶媒との混合物、より好ましくは水である。
【0024】
反応温度は、25〜150℃、好ましくは50〜120℃である。反応温度が25℃未満では反応速度が極端に遅くなり、一方、150℃を超えると脱炭酸などの望ましくない副反応が顕著になるとともに装置材質に対する腐食性が高くなる。反応温度は、生産効率や要求される製品純度などを考慮して、上記範囲内で適宜設定する。
【0025】
水素圧力は、0.1〜20MPa(ゲージ圧、以下同じ)、好ましくは0.5〜15MPa、より好ましくは1〜10MPaである。反応中に水素が消費されたら追加して上記圧力を保ち、水素消費が見られなくなったら水素化反応を終了する。水素圧力が0.1MPa未満では反応速度が極端に遅くなり、一方、20MPaを超えると特殊な装置が必要となる。水素圧力は、他の反応条件や生産効率などを考慮して、上記範囲内で適宜設定する。
【0026】
本発明の脂環式多価カルボン酸類の製造方法を実施するには、ステンレス鋼製反応装置を使用することでよく、反応温度が120℃以下であればステンレス鋼の腐食は実質的に生じない。
【0027】
水素化反応終了後は、触媒等の固形物をろ過分離し、更に溶媒を蒸留等により分離して目的の脂環式多価カルボン酸を得る。得られた脂環式多価カルボン酸は、必要に応じて再結晶や吸着等の手段により精製する。なお、ろ過分離された触媒は洗浄後又は必要により再生処理を施した後、再使用することができる。
【0028】
脂環式多価カルボン酸の無水物を目的とする場合は、上記のようにして得た脂環式多価カルボン酸を、常法により脱水して酸無水物とする。脱水して酸無水物とする方法としては、脂環式多価カルボン酸と無水酢酸を還流条件で反応させる方法などがある。
【実施例】
【0029】
実施例1
内容積200mlの電磁攪拌式オートクレーブ(材質SUS316)に、ピロメリット酸15.0g、蒸留水85.0g及び5%Rh-アルミナ粉末触媒(エヌ・イー ケムキャット株式会社製、担体アルミナの比表面積:90m2/g)1.2g(Rhとしてピロメリット酸に対し0.4重量%)を仕込み、系内を水素ガスで置換した後、60℃まで昇温し、水素ガスを導入して内圧を4MPaに保ちながら水素化を行った。水素吸収が停止するまでに要した時間は2.5時間であった。反応混合物を加熱下でろ過して触媒を除去し、無色透明のろ液を得た。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、原料のピロメリット酸は認められず、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸の純度は84.6%であった。次いで、水流アスピレータによる減圧下、油浴温度を100℃に設定したエバポレータを用いてろ液から水を留出させ、結晶が析出を始めた時点で停止し、室温まで冷却して結晶を析出させた。ろ別して得られた結晶を80℃、5mmHgで減圧乾燥し、白色結晶12.1gを得た。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸の純度は97.2%(収率76.6モル%)であった。
【0030】
実施例2
内容積1リットルの電磁攪拌式オートクレーブ(材質SUS316)に、ピロメリット酸120g、蒸留水480g及び5%Rh-アルミナ粉末触媒(エヌ・イー ケムキャット株式会社製、担体の比表面積:90m2/g)9.6g(Rhとしてピロメリット酸に対し0.4重量%)を仕込み、系内を水素ガスで置換した後、60℃まで昇温し、水素ガスを導入して内圧を4MPaに保ちながら水素化を行った。水素吸収が停止するまでに要した時間は1.5時間であった。反応混合物を加熱下でろ過して触媒を除去し、無色透明のろ液を得た。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、原料のピロメリット酸は認められず、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸の純度は83.7%であった。次いで、水流アスピレータによる減圧下、油浴温度を100℃に設定したエバポレータを用いてろ液から水を留出させ、結晶が析出を始めた時点で停止し、室温まで冷却して結晶を析出させた。ろ別して得られた結晶を80℃、5mmHgで減圧乾燥し、白色結晶94.8gを得た。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸の純度は96.1%(収率74.1モル%)であった。
【0031】
実施例3
触媒の使用量を0.75gとした以外は、実施例1と同様にしてピロメリット酸の水素化を行った。水素吸収が停止するまでに要した時間は4.5時間であった。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、原料のピロメリット酸は認められず、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸の純度は81.5%であった。
【0032】
実施例4
触媒として5%Rh-アルミナ粉末触媒(エヌ・イー ケムキャット株式会社製、担体アルミナの比表面積:140m2/g)を用いた以外は、実施例1と同様にしてピロメリット酸の水素化を行った。水素吸収が停止するまでに要した時間は2時間であった。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、原料のピロメリット酸は認められず、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸の純度は85.0%であった。
【0033】
実施例5
触媒として5%Rh-アルミナ粉末触媒(エヌ・イー ケムキャット株式会社製、担体アルミナの比表面積:300m2/g)を用いた以外は、実施例1と同様にしてピロメリット酸の水素化を行った。水素吸収が停止するまでに要した時間は3.5時間であった。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、原料のピロメリット酸は認められず、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸の純度は82.8%であった。
【0034】
比較例1
触媒を5%Rh-カーボン粉末触媒(エヌ・イー ケムキャット株式会社製、含水品)10g(dry換算、Rhとしてピロメリット酸に対し3.3重量%)とした以外は、実施例1と同様にしてピロメリット酸の水素化を行った。水素吸収率(実際の水素吸収量の理論水素吸収量に対する百分率)は1時間で46%に達したが、その後水素吸収速度が顕著に低下し水素吸収率52%の時点で反応の進行が認められなくなった。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、原料のピロメリット酸がおよそ50%残存していた。
【0035】
実施例6
実施例2で得たシクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸の白色結晶90g及び無水酢酸900gを、冷却管、温度計及び攪拌装置を備えた2リットルの3つ口フラスコに仕込み、150℃の油浴中で1時間還流させた。次いで、反応混合物を加熱下でろ過して不溶物を除去し、ろ液にトルエン450gを加え、室温まで冷却して結晶を析出させた。ろ別して得られた結晶をトルエンで洗浄した後、80℃、5mmHgで減圧乾燥し、白色結晶69.4gを得た。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物の純度は99.3%(収率92.5モル%)であった。なお、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物のピロメリット酸基準の収率は68.6モル%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族多価カルボン酸の芳香環を貴金属触媒及び極性溶媒の存在下で水素化する方法において、アルミナ、シリカ又はシリカ−アルミナを担体とする貴金属触媒を使用し、貴金属触媒の使用量が、貴金属として芳香族多価カルボン酸に対し0.05〜0.45重量%であることを特徴とする脂環式多価カルボン酸の製造方法。
【請求項2】
芳香族多価カルボン酸が、三価以上の芳香族多価カルボン酸である請求項1に記載の脂環式多価カルボン酸の製造方法。
【請求項3】
三価以上の芳香族多価カルボン酸が、トリメリット酸、ピロメリット酸、ビフェニル-3,3',4,4'-テトラカルボン酸、ジフェニルエーテル-3,3',4,4'-テトラカルボン酸又はベンゾフェノン-3,3',4,4'-テトラカルボン酸である請求項2に記載の脂環式多価カルボン酸の製造方法。
【請求項4】
貴金属が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及び白金から選ばれた一種又は二種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の脂環式多価カルボン酸の製造方法。
【請求項5】
担体の比表面積が、10〜500m2/gである請求項1〜4のいずれかに記載の脂環式多価カルボン酸の製造方法。
【請求項6】
水素化の反応温度が、25〜150℃である請求項1〜5のいずれかに記載の脂環式多価カルボン酸の製造方法。
【請求項7】
三価以上の芳香族多価カルボン酸を、ロジウムを比表面積10〜500m2/gのアルミナに担持させた貴金属触媒及び水又は水と極性有機溶媒との混合物の存在下に、貴金属触媒の使用量が金属ロジウムとして芳香族多価カルボン酸に対し0.05〜0.45重量%、反応温度50〜120℃、水素圧力1〜10MPaの条件で水素化することを特徴とする脂環式多価カルボン酸の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法で製造した脂環式多価カルボン酸を脱水閉環することを特徴とする脂環式多価カルボン酸無水物の製造方法。

【公開番号】特開2006−124313(P2006−124313A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313754(P2004−313754)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】