説明

脂肪族ポリウレア樹脂組成物および脂肪族ポリウレア樹脂

【課題】混合が容易で、物性が安定した脂肪族ポリウレア樹脂組成物および機械的強度、硬度が優れた脂肪族ポリウレア樹脂を提供する。
【解決手段】下記の(a)成分と(b)成分とからなる脂肪族ポリウレア樹脂組成物:
(a)1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート骨格を末端に有するイソシアネート化合物と水添ビスフェノールAとの反応生成物(a−1)5〜80質量%と脂肪族プレポリマー(a−2)とを少なくとも含む脂肪族ポリイソシアネート、(b)少なくとも第2級脂肪族ジアミン(b−1)を含む脂肪族ポリアミン。前記樹脂組成物を硬化反応させて得られる、JIS D 硬度が50〜80であり、かつ引張強度が15Mpa以上である脂肪族ポリウレア樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料、床材、防水材を始めとして広範囲な用途で利用可能な脂肪族ポリウレア樹脂組成物および脂肪族ポリウレア樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ポリウレア樹脂組成物は、室温下で高速硬化性であり、その硬化樹脂は機械的強度に優れており、また、芳香族ポリウレア樹脂の欠点である紫外線暴露による表面の黄変がないという特長を有するため、従来から各種塗料、床材、防水材等として広範囲な用途で利用されている。脂肪族ポリウレア樹脂組成物の製法としては、アミノ基を嵩高いアルキル基で置換した第2級の脂肪族ジアミンであるビス(N−アルキルアミノシクロヘキシル)メタン類を鎖延長剤として使用する方法が特許文献1に開示されている。この方法は第1級の脂肪族ポリアミンを用いた製法に比べて、高圧衝突混合スプレーによるスプレー性が改善されており、実用化されている。
【0003】
しかしながら、ポットライフが数秒〜数分であるため、第2級脂肪族ジアミンは、スプレー中に材料の温度変化に伴う粘度変動が発生すると混合不良が発生しやすく、その結果、特に塗料被膜の耐久性の目安となる引張強度が低下する場合があった。
この混合不良を防止するため、塗工には材料の細かな温度設定ができる専用の高圧衝突混合スプレー機の使用が推奨されており、適用可能な用途が限定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2759053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、混合が容易で、物性が安定した脂肪族ポリウレア樹脂組成物および機械的強度、硬度が優れた脂肪族ポリウレア樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、混合不良の発生原因が材料の粘度のみならず、材料の相溶性に依存することを見出し、前記課題を総合的に満足させる下記の本発明〔1〕〜〔7〕を完成した。
〔1〕下記の(a)成分と(b)成分とからなる脂肪族ポリウレア樹脂組成物:
(a)1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート骨格を末端に有するイソシアネート化合物と水添ビスフェノールAとの反応生成物(a−1)5〜80質量%と脂肪族プレポリマー(a−2)とを少なくとも含む脂肪族ポリイソシアネート、
(b)少なくとも第2級脂肪族ジアミン(b−1)を含む脂肪族ポリアミン。
〔2〕前記イソシアネート化合物が1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)単量体である、前記〔1〕に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
〔3〕前記第2級脂肪族ジアミン(b−1)が下記式(1)で表される化合物群から選ばれる少なくとも一種である、前記〔1〕または〔2〕に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物:
【0007】
【化1】

【0008】
(式(1)において、R1は、下記式群(2)に示される2価の置換基のいずれかである。
【0009】
【化2】

【0010】
(*は、結合部位を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す。またMeはメチル基を表す。)
また、R2及びR3は、各々独立に炭素数1〜10のアルキル基を表す。)。
〔4〕前記脂肪族プレポリマー(a−2)が、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6−XDI)及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(H12−MDI)から選ばれる少なくとも一種である脂肪族イソシアネート単量体とポリオールとの反応生成物である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
〔5〕前記脂肪族プレポリマー(a−2)が、IPDI単量体もしくはHDI単量体とポリオールとの反応生成物である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
〔6〕無溶剤であることを特徴とする前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
〔7〕前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物を硬化反応させて得られる樹脂であって、JIS D 硬度が50〜80であり、かつ引張強度が15Mpa以上である脂肪族ポリウレア樹脂。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、相溶性が良好、混合が容易で、粘度、ゲルタイム等の物性が安定した脂肪族ポリウレア樹脂組成物および機械的強度、硬度が優れた脂肪族ポリウレア樹脂を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔脂肪族ポリイソシアネート(a)〕
本発明の脂肪族ポリイソシアネート(a)は、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート骨格を末端に有するイソシアネート化合物と水添ビスフェノールAとの反応生成物(a−1)(以後「HBPA/HDI生成物」という場合がある。)と脂肪族プレポリマーとを少なくとも含む。
なお本発明において脂肪族とは、非環式脂肪族および環式脂肪族の両者を含むものを意味する。
【0013】
1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)骨格を末端に有するイソシアネート化合物としては、HDI単量体または、HDI変性体が挙げられる。HDI変性体は広く塗料用の架橋剤として使用されているHDIのイソシアヌレート体(3量体)、HDIのウレトジオン体(2量体)、HDIのアロハネート体、HDIのビューレット体から選ばれる少なくとも一種である。これらのHDI変性体は従来公知の方法でHDIを変性した後、残存するHDI単量体を薄膜蒸留等で除去したもので、通常HDI単量体の含有量は0.3質量%以下である。市販のHDIウレトジオン体としては約30質量%のイソシアヌレート体(3量体)が含まれている市販品が使用できる。好ましいHDI変性体はHDIのイソシアヌレート体、HDIのウレトジオン体、HDIのアロハネート体から選ばれる少なくとも一種である。
【0014】
HBPA/HDI生成物(反応生成物(a−1))は、HDI単量体もしくはHDI変性体と水添ビスフェノールAを不活性ガス雰囲気下で、必要により触媒の存在下、60〜100℃で反応させることによって製造することができる。HDI単量体もしくはHDI変性体と水添ビスフェノールAとの反応は、残存するイソシアネート単量体を減少させるため、NCO/OH当量比を1.5〜2.2/1.0とすることが好ましく、1.6〜2.0/1.0とすることがより好ましい。
【0015】
これらのHBPA/HDI生成物の中で、HDI単量体と水添ビスフェノールAとの生成物は、日本ポリウレタン工業社のコロネート2094として市販されている。
〔脂肪族プレポリマー(a−2)〕
本発明の脂肪族プレポリマー(a−2)は、脂肪族イソシアネート単量体とポリオールとの反応生成物である。
【0016】
脂肪族イソシアネート単量体としては、下記のものが挙げられる。HDI、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6−XDI)、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(H12−MDI)、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、2,5(6)−ジイソシアネートメチルビシクロ[2,2,1]ヘプタン等。好ましい脂肪族イソシアネート単量体はHDI、IPDI、H6−XDI、水素添H12−MDIであり、特に好ましい脂肪族イソシアネート単量体はHDIまたはIPDIである。
【0017】
ポリオールとしては、下記のものが挙げられる。エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン(TMP)、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類、ポリオキシエチレンポリオール(PEG)、ポリオキシプロピレンポリオール(PPG)、ポリオキシブチレンポリオール(PBG)等の平均分子量200〜10000のポリエーテルポリオール類、テトラヒドロフラン(THF)の開環重合によって得られるポリオキシテトラメチレングリコール(PTMEG)、THFとプロピレンオキサイド、3−メチルテトラヒドロフラン、ネオペンチルグリコール等とのカチオン共重合により製造される平均分子量500〜5000の共重合ポリエーテルポリオール、ポリエチレンアジペートグリコール、ポリエチレンプロピレンアジペートグリコール、ポリブチレンアジペートグリコール、ポリヘキサメチレンアジペートグリコール、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)、PCLとアジペート系ポリエステルポリオールとのエステル交換反応により製造される平均分子量500〜4000の共重合ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、変性ひまし油ポリオール等の平均分子量150〜5000の各種ポリオール。所望される性能及び性状に応じて前記ポリオールの2種以上を併用してもよい。
【0018】
好ましいポリオールは下記のものである。PPG、PBG、PTMEG、PCL、THFとプロピレンオキサイド、3−メチルテトラヒドロフラン、ネオペンチルグリコール等とのカチオン共重合により製造される低融点の共重合ポリエーテルポリオール、PCLとアジペート系ポリエステルポリオールのエステル交換反応により製造される共重合ポリエステルポリオール。
【0019】
本発明の脂肪族プレポリマー(a−2)は、脂肪族イソシアネート単量体とポリオールを不活性ガス雰囲気下で、必要により触媒の存在下、60〜100℃で反応させることによって製造することができる。脂肪族イソシアネート単量体とポリオールとの反応は、残存するイソシアネート単量体を減少させるためNCO/OH当量比を1.5〜2.2/1.0とすることが好ましく、1.6〜2.0/1.0とすることがより好ましい。2個のイソシアネート基の反応性が異なるIPDI単量体を使用して製造される脂肪族プレポリマーは、低粘度でイソシアネート単量体含量が少なく、良好な性能を示すので、好適に使用できる。また比較的低コストなHDIを使用して製造される脂肪族プレポリマーもまた好適に使用できる。
【0020】
また脂肪族イソシアネート単量体とポリオールとの反応を脂肪族イソシアネート単量体が大過剰の条件下で実施し、反応完了後に未反応のイソシアネート単量体を薄膜蒸留法等で除去する方法で脂肪族プレポリマーを製造することができる。
【0021】
本発明の特に好ましい脂肪族プレポリマー(a−2)としては、下記のものが挙げられる。分子量が200〜3000のPPG、PTMEG、PCL、THFとプロピレンオキサイド、3−メチルテトラヒドロフラン、ネオペンチルグリコール等とのカチオン共重合により製造される共重合ポリエーテルポリオール、PCLとアジペート系ポリエステルポリオールのエステル交換反応により製造される共重合ポリエステルポリオールから選ばれたポリオールを主成分とするポリオールとIPDIまたはHDIを反応させた物で、イソシアネート単量体が1重量%以下のもの。
【0022】
本発明の脂肪族ポリイソシアネート(a)を構成する各成分の含有量は以下の通りである。HBPA/HDI生成物の含有量は、5〜80質量%、好ましくは5〜50質量%である。HBPA/HDI生成物が5質量%未満では各成分の相溶性が十分ではなく、80質量%を超えると脂肪族ポリイソシアネート(a)の粘度が高くなりすぎてスプレーができなくなる場合がある。
【0023】
脂肪族プレポリマーの含有量は、特に限定されないが20〜95質量%であることが好ましい。含有量が95質量%を超えると、粘度が高くなりすぎてスプレーができなくなる場合がある。また20質量%未満では、物性、特に引張強度が著しく低下する場合がある。含有量は5〜60質量%であることがより好ましい。
【0024】
本発明の脂肪族ポリイソシアネート(a)は、HBPA/HDI生成物((a−1)成分)と脂肪族プレポリマー((a−2)成分)を必須成分とするが、任意成分として必要に応じてHDI変性体((a−3)成分)を使用することができる。
【0025】
脂肪族ポリイソシアネート(a)中におけるHDI変性体の含有量は0〜80重量%、好ましくは0〜50重量%である。HDI変性体の含有量80重量%を超えると物性が著しく低下する場合がある。
【0026】
本発明の脂肪族ポリイソシアネート(a)の25℃における粘度は、10,000mPa・s以下であることが好ましく、5,000mPa・s以下であることがより好ましい。
〔脂肪族ポリアミン(b)〕
本発明の脂肪族ポリアミン(b)は少なくとも第2級脂肪族ジアミン(b−1)を含む。第2級脂肪族ジアミン(b−1)は下記式(1)で表される化合物群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0027】
【化3】

【0028】
(式(1)において、R1は、下記式群(2)に示される2価の置換基のいずれかである。
【0029】
【化4】

【0030】
(*は、結合部位を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す。またMeはメチル基を表す。)
また、R2及びR3は、各々独立に炭素数1〜10のアルキル基を表す。)。
【0031】
好ましい第2級脂肪族ジアミン(b−1)としては、式(1)でR1がジシクロヘキシルメタンであり、R2及びR3がsec−ブチル基である化合物が挙げられる。この化合物としては、例えば、ドーフ・ケタル・ケミカル(Dorf Ketal Chemical)社のCL−1000が市販されている。
【0032】
また、脂肪族ポリアミン(b)としては、任意成分として必要に応じて、ポリオキシアルキレンポリアミン(b−2)を併用することができる。ポリオキシアルキレンポリアミン(b−2)としては炭素数が2〜6のオキシアルキレン連鎖からなるポリオキシアルキレンポリアミンで、第1級もしくは第2級のポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、ポリオキシテトラメチレンジアミン等が挙げられる。好ましいポリオキシアルキレンポリアミン(b−2)は平均分子量が200〜10000の第1級もしくは第2級のポリオキシプロピレンジアミンやポリオキシプロピレントリアミンである。具体的にはポリオキシアルキレンポリオールを還元アミノ化したハンツマン(Huntsman)社製のジェファーミンシリーズの下記製品が挙げられる。第1級のジアミンとしてD−230、D−400、D−2000、D−4000、第1級トリアミンとしてT−403,T−3000、T−5000、第2級のN−アルキルジアミンとしてXTJ−584,XTJ−585,XTJ−576、第2級のN−アルキルトリアミンとしてXTJ−586。
【0033】
脂肪族ポリアミン(b)中の第2級脂肪族ジアミン(b−1)の含有量は、脂肪族ポリイソシアネート(a)のイソシアネート含有率に連動して調整されるが、10〜80質量%であるのが好ましく、より好ましくは20〜70質量%である。残部をポリオキシアルキレンポリアミン(b−2)とするのが好ましい。
【0034】
又、脂肪族ポリアミン(b)の粘度は、脂肪族ポリイソシアネート(a)の粘度に比べて低く、25℃における粘度は、通常1,500mPa・s以下であり、特に好ましくは、100〜1,000mPa・sである。
〔添加剤〕
本発明のポリウレア樹脂組成物においては、必要により従来公知の可塑剤を使用することができる。具体的にはジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジノニルフタレート、ジオクチルアジペート、ジノニルアジペート、アクリルオリゴマー等が挙げられる。
【0035】
また本発明のポリウレア樹脂組成物においては、顔料や染料等の着色剤、体質顔料、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、脱水剤等の添加剤を必要に応じ添加することができる。添加剤は(a)成分および(b)成分いずれに添加してもよいが、通常は(b)成分に添加する。また添加剤はそれぞれ個別の(a)成分、(b)成分に添加してもよく、また脂肪族ポリアミン(b)や可塑剤と混練または溶解したマスターバッチとして別途添加してもよい。
【0036】
さらに本発明のポリウレア樹脂組成物においては、粘度調整など目的に応じて溶剤を加えても良い。溶剤としては(a)成分および(b)成分または前記添加剤に対して不活性であり、これらを均一に溶解または分散させることができれば特に限定されるものではない。しかしながら、塗膜成型時の安全性の観点から無溶剤であることが好ましい。
〔脂肪族ポリウレア樹脂〕
本発明の脂肪族ポリウレア樹脂は(a)成分および(b)成分を所定量混合して硬化反応させることによって製造される。その際の(a)成分と(b)成分の混合比は容積比率で(a)成分:(b)成分=1:10〜10:1の範囲で設定するのが好ましく、(a)成分と(b)成分の混合精度やスプレー機の汎用性より、容積比率で1:1またはその近傍が特に好ましい。
【0037】
容積比率設定においてNCO/NH2(当量比)は0.8〜1.4になるよう調整するのがよい。好ましい当量比は0.9〜1.2である。当量比が0.8〜1.4において物性が安定し、また水分との反応による発泡を防止できる。
【0038】
ゲルタイムについては特に制限はないが、25℃でスタティックミキサー混合・吐出した場合に10秒〜10分であるのが好ましく、更に好ましくは5分以下である。
【0039】
前記硬化反応は通常無触媒で実施されるが、必要により以下に示す公知の触媒を使用することができる。オレイン酸等の有機酸、オクテン酸錫、オレイン酸錫、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート等の錫系触媒、ネオデカン酸ビスマス等のビスマス系触媒やジルコンキレート等のジルコン系触媒等。
【0040】
本発明においては、(a)成分および(b)成分をスプレー装置により混合して硬化反応させることによって、好ましくは、対象物の表面にスプレーガンにより混合・吐出させることにより脂肪族ポリウレア樹脂の被膜を形成するのがよい。(a)成分および(b)成分は混合の定量性を確保するため、両液の粘度が同等になるよう20〜90℃の範囲で加温して行なうのがよい。
【0041】
(a)成分および(b)成分を混合・反応させるスプレー装置としては、調圧調温計量装置と混合装置を備えたスプレーガン及び加温のできるホットホースからなり、スプレーガンとしては2液を衝突混合させる方式のものやスタティックミキサー混合方式のものが好ましい。衝突スプレー装置としては、調圧調温計量装置と混合装置を備えたスプレーガン及び加温のできるホットホースからなり、スプレーガンとしては2液を衝突混合させる方式のものやスタティックミキサー混合方式のものが好ましい。特に好ましいスプレーガンは衝突混合方式のものである。具体例としてはガスマー(Gusmer)社製の調圧調温計量装置「H−2000」、ホットホース及び直接衝突させる混合装置を装着したスプレーガンからなるスプレーシステム、ヒガキマシナリーサービス社製の衝突混合型スプレーガンシステム「PF−1600」、「PF−800」等が挙げられる。
【0042】
本発明によれば、(a)成分および(b)成分を混合し、常温で硬化反応させることにより製造できる脂肪族ポリウレア樹脂であって、JIS D硬度が50〜80であり、かつ引張強度が15Mpa以上である脂肪族ポリウレア樹脂を得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明する。なお、「%」及び「部」はそれぞれ質量%及び質量部を示す。実施例及び比較例で使用した各種化合物(合成品及び市販品)及び各種評価条件は以下の通りである。
【0044】
〔脂肪族ポリイソシアネート(a)の原料〕
1.HBPA/HDI生成物(a−1)
(1)水添ビスフェノールA/HDI変性体の反応生成物:C−2094、日本ポリウレタン工業(株)製、NCO含有率16.1%。
2.HDI変性体(a−3)
(1)HDIのトリマー変性体:C−HXLV、日本ポリウレタン工業(株)製、NCO含有率23.2%。
(2)HDIのアロハネート変性体:C−2770、日本ポリウレタン工業(株)製、NCO含有率19.3%。
3.添加剤
(1)EFKA−2722:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製のシリコン含有の消泡剤。
4.脂肪族プレポリマー(a−2)
(1)HDIプレポリマー:C−2349、日本ポリウレタン工業(株)製、NCO含有率12.2%、粘度1,060mPa・s/25℃。
(2)IPDIプレポリマー:以下のように合成した。
713部の平均分子量1,000のポリオキシプロピレンポリオール(PPG)と287部のイソホロンジイソシアネート(IPDI)を85℃/10hで反応(NCO/OH=1.8)させてイソシアネート末端プレポリマーを得た。NCO含有率4.81%、粘度22,700mPa・s/25℃。
【0045】
〔脂肪族ポリアミン(b)の原料〕
1.第2級脂肪族ジアミン(b−1)
(1)ビス(4−sec−ブチルアミノシクロヘキシル)メタン:CL1000、ドルフ・ケタール・ケミカル社製。
2.ポリオキシアルキレンポリアミン(b−2)
(1)ポリオキシプロピレンジアミン:ジェファミンD−2000、ハンツマン社製、平均分子量2000。
(2)ポリオキシプロピレントリアミン:ジェファミンT−5000、ハンツマン社製、平均分子量5000。
【0046】
[(a)成分/(b)成分の混合条件]
スタティックミキサー/カートリッジシステム(アドバンテック・ティーワイ社、エレメント数21)を用いて、(a)成分と(b)成分を混合体積比1:1で供給し、専用ガン(手動)で押し出し、混合を行った(25℃)。
【0047】
[評価1:粘度の測定]
(a)成分と(b)成分を、それぞれ50mLのサンプル瓶(アズワン社:型式9−852−09)に50g装入し、芝浦システム株式会社製のビスメトロン粘度計VSA−1型、プローブ#3、回転数12rpmで粘度を測定した。
[評価2:ゲルタイムの測定]
スタティックミキサーを用いて前記混合条件で得られた組成物をガラス板上に押し出した。さらに組成物に外径7mm、長さ150mmのガラス棒を約1秒で付着、引き上げを行い、硬化状態の確認を行った。ガラス板上に押し出してから、組成物が糸状に持ち上がらなくなるまでの時間をゲルタイムとして測定した。
【0048】
[シートの製造]
ポリプロピレン板上に厚み2mmのスペーサを四方に配置して四角形の空間を形成し、その中に前記混合条件で得られた組成物を吐出し、直ちに上部より押さえて約2mmのシートを製造した。このシートを以下の評価3〜評価5に供した。
[評価3:相溶性の評価]
前記方法によって製造したシートの透明性を目視で確認し、透明なものを○、白濁するものを×と判定した。
[評価4:引張強度の評価]
25℃で7日間養生したシートを用いてJIS K6251に規定される3号型ダンベルを打ち抜き、上島製作所製ユニトロンTS−3013型試験機により測定した。
なおポリウレア樹脂の塗膜としての耐久性の観点から、引張強度は15.0Mpa以上で良好と判断した。
【0049】
[評価5:硬度の評価]
25℃で7日間養生したシートを5枚重ねにし、JIS K6253に規定されるJIS D硬度計(エラストロン社製、ゴム硬度計ESD型)により測定した。
[評価6:スプレー試験/表面平滑性の評価]
スプレー装置:ガスマー社製の調圧調温計量装置「H−2000」
スプレーする際には、(a)成分と(b)成分のそれぞれの粘度が100〜300mPa・sの範囲になるように材料温度を調整した。
テストピース:30cm×30cmのガラス板(厚さ3mm)を水平に置き、該ガラス板に厚さ約2mm程度スプレーを行い、硬化後に表面の凹凸状態を目視で確認した。凹凸がないもの、及び塗膜外観上の微細な凹凸があるものを○、塗膜の表面平滑性が著しく失われるほど凹凸のあるものを×と判定した。
【0050】
〔実施例1〕
(1)脂肪族ポリイソシアネート(a)の調製
攪拌機、温度計を取り付けた容積0.5Lの三つ口フラスコに窒素雰囲気下でIPDIプレポリマーを32.4部、C−2094を10.8部、C−2770を48.4部、C−HXLVを16.2部、EFKA−2722を0.1部仕込み、50℃で30分間攪拌し、均一混合した。ついで、減圧下で脱泡して脂肪族ポリイソシアネート(a)を得た。脂肪族ポリイソシアネート(a)の粘度は1,100mPa・s/25℃であった。
(2)脂肪族ポリアミン(b)の調製
攪拌機、温度計を取り付けた容積0.5Lの三つ口フラスコに窒素雰囲気下でCL1000を50.1部、ジェファミンT−5000を23.6部、ジェファミンD−2000を20.8部仕込み、室温で30分間攪拌し、均一混合した。脂肪族ポリアミン(b)の粘度は200mPa・s/25℃であった。
(3)樹脂組成物と樹脂の評価
前記の(a)成分と(b)成分を前記混合条件で混合し、また前記方法で泡の無い約2mmのシートを製造し、またスプレー試験を行い、各種評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0051】
〔実施例2〜5〕
表1に示す種類と量の各原料を用い、その他は実施例1と同様の操作により(a)成分及び(b)成分を調製した。各種評価結果を表1に示す。
〔比較例1〜3〕
表1に示す種類と量の各原料を用い、その他は実施例1と同様の操作により(a)成分及び(b)成分を調製した。各種評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
上記実施例1〜5の結果から、本発明の脂肪族ポリウレア樹脂組成物は、(a)成分及び(b)成分の混合が容易であり、手動でのスタティックミキサーのような低圧での混合においても、白濁することなく透明なシートを製造可能なことが分かる。またいずれの実施例においても引張強度は20Mpaを超えており、塗料の塗膜としては十分な強度を有している。さらにスプレー試験による塗膜の表面平滑性は良好であった。
【0054】
一方、比較例1〜2ではシートの一部または全体が白濁し、また引張強度も10Mpa未満であった。さらにスプレー試験では、塗膜の表面平滑性が悪く凹凸模様が発生した。また比較例3では(a)成分中のHBPA/HDI生成物が80質量%を超えており相溶性は良好だが、粘度が10000mPa・sを超えてしまい、スプレー試験を行うことができなかった。
【0055】
以上のように本発明の脂肪族ポリウレア樹脂組成物は相溶性に優れ、混合が容易で、粘度、ゲルタイムも良好で物性が安定している。またこの脂肪族ポリウレア樹脂組成物を硬化して得られる脂肪族ポリウレア樹脂は機械的強度に優れ、塗膜は強度と表面平滑性が良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)成分と(b)成分とからなる脂肪族ポリウレア樹脂組成物:
(a)1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート骨格を末端に有するイソシアネート化合物と水添ビスフェノールAとの反応生成物(a−1)5〜80質量%と脂肪族プレポリマー(a−2)とを少なくとも含む脂肪族ポリイソシアネート、
(b)少なくとも第2級脂肪族ジアミン(b−1)を含む脂肪族ポリアミン。
【請求項2】
前記イソシアネート化合物が1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)単量体である、請求項1に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
【請求項3】
前記第2級脂肪族ジアミン(b−1)が下記式(1)で表される化合物群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1または2に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物:
【化1】

(式(1)において、R1は、下記式群(2)に示される2価の置換基のいずれかである。
【化2】

(*は、結合部位を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す。またMeはメチル基を表す。)
また、R2及びR3は、各々独立に炭素数1〜10のアルキル基を表す。)。
【請求項4】
前記脂肪族プレポリマー(a−2)が、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6−XDI)及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(H12−MDI)から選ばれる少なくとも一種である脂肪族イソシアネート単量体とポリオールとの反応生成物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂肪族プレポリマー(a−2)が、IPDI単量体もしくはHDI単量体とポリオールとの反応生成物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
【請求項6】
無溶剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物を硬化反応させて得られる樹脂であって、JIS D 硬度が50〜80であり、かつ引張強度が15Mpa以上である脂肪族ポリウレア樹脂。

【公開番号】特開2011−173988(P2011−173988A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38782(P2010−38782)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】