説明

脂肪組織由来細胞の調製方法

【課題】脂肪組織からの細胞の調製方法、または、脂肪組織由来細胞から膵内分泌細胞を得る方法を提供する。
【解決手段】下記工程を含む、脂肪組織から細胞を調製する方法。ならびに該方法により得られる細胞;(a)脂肪組織を切断し、(b)切断された脂肪組織から赤血球を除去し、(c)得られた細胞をEDTA処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪組織由来細胞から膵内分泌細胞を得る方法およびそれにより得ることのできる膵内分泌細胞、かかる膵内分泌細胞を用いた膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病の治療または予防方法、膵内分泌細胞への分化を促進または抑制する物質をスクリーニングする方法、ならびにそのためのキットなどに関する。また本発明は、脂肪組織からの細胞の調製方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病はインスリンの絶対的あるいは相対的作用不足により高血糖を生じる疾患群である。高血糖の持続は神経障害、網膜障害、腎障害、さらには動脈硬化性疾患を惹起するため、その予防治療は今日の医学にとって重要な標的の一つである。糖尿病は、その発症機序により1型糖尿病と2型糖尿病に二分される。1型糖尿病は膵β細胞が自己免疫により破壊され消滅する疾患であり、インスリンの絶対的不足が特徴である。従って、インスリン療法が一般的であるが、一部ブリットル(Brittle)型などコントロールが難しいタイプも存在する。2型糖尿病は、インスリンの相対的作用不足を特徴とし、いわゆる代謝症候群に合併する。従って、その治療法は、主にインスリン作用を妨げているインスリン抵抗性を改善する薬剤、および膵β細胞からのインスリン分泌を亢進させる薬剤の投与である。しかしながら、欧米における2型糖尿病患者においてはインスリン抵抗性が主要な病態であるのに対して、本邦における2型糖尿病患者においてはさらに膵β細胞の疲弊、枯渇、消滅も認められるとされる。従って、本邦では1型糖尿病においても2型糖尿病においてもインスリンを補充する治療は欠くべかざるものである。
【0003】
最近になって、膵島移植が施行されるようになり、一部の症例でインスリンからの離脱、あるいはインスリンからの離脱には至らないまでもインスリンコントロールの改善が認められている(非特許文献1、2および3)。しかし、膵島移植には死体由来あるいは生体由来いずれにせよドナーが必要であるため、その医療資源は限られている。この問題点をクリアするために、膵島を再生する試みが開始された。そして近年、ES細胞からの膵島の再生に成功したとの報告がなされている(非特許文献4)。しかし、これらの細胞由来のインスリン分泌細胞の移植は、膵島移植と同様にHLA不適合の問題が有ることに加え、倫理的問題、あるいは異種動物由来のウイルスまたは抗原が存在する可能性もある。また、確立されているES細胞の種類・量にも限界が有り、インスリン分泌細胞の移植を必要としている患者に行きわたらせるのは困難である。
【0004】
自己由来の体性幹細胞を用いて得られたインスリン分泌細胞であれば、HLA不適合の問題を考慮する必要はなく、また倫理的問題よりも医学的・社会的利益が大きいと考えられる。しかし、体性幹細胞から膵島の再生に成功したとの報告はなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shapiro AM et al., N Engl J Med. 2000 Jul 27; 343(4): 289-90
【非特許文献2】Ryan EA et al., Diabetes. 2005 Jul; 54(7): 2060-9
【非特許文献3】Matsumoto S et al., Lancet. 2005 May 7-13; 365(9471): 1603-1604
【非特許文献4】Segev H et al., Stem Cells 2004; 22: 265-274
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決課題は、上述のような問題のない、糖尿病治療を提供することである。具体的には、脂肪組織由来細胞から膵内分泌細胞を得る方法およびそれにより得ることのできる膵内分泌細胞、膵内分泌細胞への分化を促進または抑制する物質をスクリーニングする方法、ならびにそのためのキットなどを提供することにある。また、脂肪組織からの細胞の調製方法を提供することも本発明の解決課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、脂肪組織からEDTA処理にて得られた細胞から未分化細胞を得て、該未分化細胞を膵前駆細胞、膵内分泌前駆細胞、前膵内分泌細胞へと分化させ、最終的に膵内分泌細胞を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、脂肪組織由来細胞から膵内分泌細胞を得る方法およびそれにより得ることのできる膵内分泌細胞、かかる膵内分泌細胞を用いた膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病の治療または予防方法、膵内分泌細胞への分化を促進または抑制する物質をスクリーニングする方法、ならびにそのためのキットなどが提供される。それゆえ本発明の好ましい態様によれば、同一種、あるいは同一個体由来の組織や細胞から膵内分泌細胞が得られるので、上で述べた種々の問題点を解決することができる。さらに本発明により、脂肪組織から細胞を調製するための新たな方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、脂肪組織由来細胞を浮遊化させた状態で培養し、形成されたアディポスフェアの顕微鏡像である。スケールバーは502μmである。
【図2】図2は、アディポスフェアから誘導された膵前駆細胞の顕微鏡像である。スケールバーは502μmである。
【図3】図3は、得られた膵島の顕微鏡像である。スケールバーは100μmである。
【図4】図4は、ステージI〜VIの細胞由来のRNAを用いたRT−PCRの結果を示す電気泳動像である。
【図5a】図5aは、膵島に含まれるC−ペプチド陽性細胞を免疫染色により示す顕微鏡像である。
【図5b】図5bは、膵島におけるC−ペプチド陽性細胞の存在を示す模式図である。
【図6a】図6aは、膵島に含まれるインスリン陽性細胞を免疫染色により示す顕微鏡像である。
【図6b】図6bは、膵島におけるインスリン陽性細胞の存在を示す模式図である。
【図7a】図7aは、膵島に含まれるC−ペプチド陽性細胞およびインスリン陽性細胞を免疫染色により示す顕微鏡像である。C−ペプチドとインスリンが共存する細胞の一部を矢頭で示す。
【図7b】図7bは、膵島におけるC−ペプチド陽性細胞の存在を左下斜線により、インスリン陽性細胞の存在を右下斜線により示す模式図である。両方の斜線が重なっている部分がC−ペプチドとインスリンが共存する細胞である。
【図8a】図8aは、膵島に含まれるグルカゴン陽性細胞を免疫染色により示す顕微鏡像である。
【図8b】図8bは、膵島におけるグルカゴン陽性細胞の存在を示す模式図である。
【図9a】図9aは、膵島に含まれるインスリン陽性細胞を免疫染色により示す顕微鏡像である。
【図9b】図9bは、膵島におけるインスリン陽性細胞の存在を示す模式図である。
【図10a】図10aは、膵島に含まれるグルカゴン陽性細胞およびインスリン陽性細胞を免疫染色により示す顕微鏡像である。
【図10b】図10bは、膵島におけるグルカゴン陽性細胞の存在を左下斜線により、インスリン陽性細胞の存在を右下斜線により示す模式図である。
【図11a】図11aは、膵島に含まれるソマトスタチン陽性細胞を免疫染色により示す顕微鏡像である。
【図11b】図11bは、膵島におけるソマトスタチン陽性細胞の存在を示す模式図である。
【図12a】図12aは、膵島に含まれるインスリン陽性細胞を免疫染色により示す顕微鏡像である。
【図12b】図12bは、膵島におけるインスリン陽性細胞の存在を示す模式図である。
【図13a】図13aは、膵島に含まれるソマトスタチン陽性細胞およびインスリン陽性細胞を免疫染色により示す顕微鏡像である。ソマトスタチンとインスリンが共存する細胞の一部を矢頭で示す。
【図13b】図13bは、膵島におけるソマトスタチン陽性細胞の存在を左下斜線により、インスリン陽性細胞の存在を右下斜線により示す模式図である。両方の斜線が重なっている部分がソマトスタチンとインスリンが共存する細胞である。
【図14】図14は、得られた膵島によるインスリン分泌量を示すグラフである。3.3mM グルコース下での分泌量を黒色で、16.7mM グルコース下での分泌量を白色で表す。
【図15】図15は、16.7mM グルコース下でのC−ペプチド分泌量を示すグラフである。
【図16】図16は、3.3mM グルコース下でのインスリン分泌指数を示すグラフである。
【図17】図17は、インスリン分泌促進物質が膵島のインスリン分泌を促進することを示すグラフである。3.3mM グルコース下での分泌量を黒色で、16.7mM グルコース下での分泌量を白色で表す。
【図18】図18は、膵島の移植による血糖値の低下を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、1の態様において、脂肪組織由来細胞を培養することを特徴とする、脂肪組織由来細胞から膵内分泌細胞を得る方法に関するものである。本発明は、遺伝子組換えを行うことなく、培養液の組成をはじめとする培養条件の操作を主体として膵内分泌細胞を得ることができる点で非常に優れている。脂肪組織由来細胞とは、内臓脂肪組織または皮下脂肪組織から得られる細胞または細胞集団、あるいは間葉系幹細胞、ES細胞の様な幹細胞から分化誘導された生体内の脂肪組織に含まれる細胞に類似した細胞または細胞集団をいう。通常には、脂肪組織由来細胞とは、脂肪組織由来幹細胞、脂肪組織由来間質細胞、脂肪前駆細胞またはこれらに類似する細胞のいずれか、あるいはこれら全てまたは一部からなる混合物を含む細胞集団をいう。脂肪組織由来細胞は、当業者に公知の手段・方法により脂肪組織などから得ることができる。さらに、得られた脂肪組織由来細胞を、当業者に公知の手段・方法を用いて増殖させ、例えば、形質を安定させてもよい。脂肪組織由来細胞を、デキサメサゾンおよびアスコルビン酸を含む培地、例えば、60% DMEM(低グルコース)、40% MCDB201、ITS(10.0ng/L インスリン、5.5mg/L トランスフェリン、 6.7mg 亜セレン酸ナトリウム)、10ng/mL EGF、1nM デキサメサゾン、0.1mM アスコルビン酸、および5% FCSを含む培地中、フィブロネクチンコートディッシュなどの培養器にて培養することにより、脂肪組織由来細胞を増殖させてもよい。
【0011】
脂肪組織由来細胞が由来する動物種は、特に限定されず、好ましくは、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、サルなどを含む哺乳類、より好ましくは、ヒトである。疾病を治療または予防すべき動物種と同一の動物種、あるいは同一個体の脂肪組織由来細胞を用いることがより好ましい。脂肪組織は生体内に十分量存在し、比較的容易に得られるため、例えば、死体などの限られた材料から膵島を得る方法などと比較して、本発明は非常に優れている。例えば、自己由来の脂肪組織由来細胞を用いて本発明の上記方法を行い、得られた膵内分泌細胞を自己移植することで、拒絶反応を危惧することなく、糖尿病を治療することなどが可能になる。
【0012】
膵内分泌細胞とは、インスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、ソマトスタチン分泌細胞、膵ペプチド分泌細胞などの膵島を構成する内分泌細胞、およびそれに類似する機能・形態を有する細胞をいう。本発明において、膵内分泌細胞は膵島を形成しているものであってもよい。
【0013】
本発明の、脂肪組織由来細胞からの膵内分泌細胞の取得方法は、重要な工程として、脂肪組織由来細胞から未分化細胞を得る工程(下記工程(a))を含むことが好ましい。未分化細胞とは、多種多様な細胞、例えば、膵前駆細胞、肝前駆細胞、心筋前駆細胞などに分化することのできる細胞をいう。未分化細胞を得る工程は、得られた未分化細胞を増殖させる工程をさらに含んでいてもよい。未分化細胞を増殖させることで、膵内分泌細胞への分化効率を増大させ、得られる膵内分泌細胞の数を増加させることなどが可能である。未分化細胞を得る工程は、例えば、ソーティング、MACS、ロゼッタ形成法などの抗原抗体反応による方法、密度勾配法、形態的に選別する方法、単一細胞クローン化などの既知の方法を用いて行われてもよいし、脂肪組織由来細胞を浮遊化させた状態で培養し、アディポスフェアを形成させることにより行われてもよい。すでに分化した細胞を死滅させ、かつ未分化細胞を生存・増殖させることが可能であるため、脂肪組織由来細胞を浮遊化させた状態で培養し、アディポスフェアを形成させることが好ましい。ここで、アディポスフェアとは、未分化細胞を主成分として含む球状体であると定義する。アディポスフェアの形成と次の膵前駆細胞への分化は、連続してまたは同時に生じ得るので、アディポスフェアは未分化細胞の他に膵前駆細胞を含んでいてもよい。
【0014】
上述の脂肪組織由来細胞の浮遊化状態での培養は、培養容器や他の細胞との接着あるいは凝集を防止あるいは抑制して遊離した状態に置いて、細胞を培養することを意味する。細胞の浮遊化は種々の公知の手段・方法で行うことができる。例えば、細胞の接着を防止あるいは抑制するように処理された、あるいは細胞の接着を防止あるいは抑制するような材料で作られた培養容器または装置を用いて細胞を浮遊化状態においてもよい。培養容器または装置としては、シリコン処理された培養容器(例えば、シリコン化フラスコ)または低接着性培養ディッシュ(例えば、ハイドロセル(CellSeed))のごとき低接着性培養容器などがある。あるいはハンギング・ドロップ培養法を用いて細胞を浮遊化させた状態で培養してもよい。また、浮遊化の開始時点において、あるいは浮遊化を継続させるために、適宜、公知の手段・方法を併用してもよい。かかる手段・方法の例としては、トリプシン/EDTA、コラゲナーゼ、Cell Dissociation Buffer(GIBCO Invitrogen)などの酵素またはキレート剤により細胞を遊離させること、スクレーバーなどを用いて物理的に細胞を掻き取ること、あるいは細胞回収用温度応答性培養器材(例えば、レプセル(CellSeed))にて細胞を培養後、例えば、20℃で30分間インキュベーションして細胞を剥離させる方法などがある。脂肪組織由来細胞を浮遊化させた状態で培養することにより、上記アディポスフェアが形成される。
【0015】
本発明の、脂肪組織由来細胞からの膵内分泌細胞の取得方法はまた、重要な工程として、前膵内分泌細胞を膵内分泌細胞に分化させる工程(下記工程(e))をさらに含むことが好ましい。
【0016】
さらに本発明の上記方法は、
(a)脂肪組織由来細胞から未分化細胞を得て、
(b)該未分化細胞を膵前駆細胞に分化させ、
(c)該膵前駆細胞を膵内分泌前駆細胞に分化させ、
(d)該膵内分泌前駆細胞を前膵内分泌細胞に分化させ、次に、
(e)該前膵内分泌細胞を膵内分泌細胞に分化させる、
工程を含むものであってもよい。
【0017】
膵前駆細胞は、未分化細胞から得ることのできる細胞であって、膵内分泌前駆細胞および膵外分泌前駆細胞などへの分化能を有する細胞である。未分化細胞からの膵前駆細胞の誘導は、当業者に公知の手段・方法を用いて未分化細胞を培養することにより、行うことができる。例えば、未分化細胞を、DMEM/F−12(1:1)、ITS(10mg/L インスリン、6.7mg/L トランスフェリン、および5.5mg/L セレニウム)、1mM グルタミン、および5μg/mL ヒトフィブロネクチンを含む培地中、プラスチック培養プレートにて培養することにより、膵前駆細胞を誘導してもよい。
【0018】
膵内分泌前駆細胞は、膵前駆細胞から得ることのできる細胞であって、前膵内分泌細胞への分化能を有する細胞である。膵前駆細胞から膵内分泌前駆細胞への分化は、膵前駆細胞を、当業者に公知の手段・方法を用いて培養することにより、行うことができる。例えば、膵前駆細胞を、DMEM/F−12(1:1)、N2(GIBCO Invitrogen)およびB27(GIBCO Invitrogen)、1mM グルタミン、および10ng/mL bFGFを含む培地中、0.1% ゼラチンコートプラスチック組織培養プレートにて培養することにより、膵前駆細胞を膵内分泌前駆細胞に分化させてもよい。
【0019】
前膵内分泌細胞は、膵内分泌前駆細胞から得ることのできる細胞であって、膵内分泌細胞であるインスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、ソマトスタチン分泌細胞、膵ペプチド分泌細胞などにそれぞれコミットしている細胞をいい、詳細には、インスリン遺伝子、グルカゴン遺伝子、ソマトスタチン遺伝子、または膵ペプチド遺伝子の発現は見られないが、例えば、Pdx−1、Islet−1、Pax4、Pax6などの転写因子、ネスチンなどの発現が見られる細胞である。かかる前膵内分泌細胞は、本発明の方法における膵内分泌前駆細胞から膵内分泌細胞への分化過程で得ることのできる細胞である。膵内分泌前駆細胞から前膵内分泌細胞への分化は、膵内分泌前駆細胞を、当業者に公知の手段・方法を用いて培養することにより、行うことができる。例えば、膵内分泌前駆細胞を、エキセンディン4を含む培地、例えば、DMEM(グルコース不含)/F−12(1:1)、N2およびB27、1mM グルタミン、10mM ニコチンアミド、および10nM エキセンディン4を含む培地中で培養することにより、膵内分泌前駆細胞を前膵内分泌細胞に分化させてもよい。
【0020】
前膵内分泌細胞の膵内分泌細胞への分化は、当業者に公知の手段・方法により行うことができる。例えば、DMEM(グルコース不含)/F−12(1:1)、N2およびB27、1mM グルタミン、10mM ニコチンアミド、および10nM エキセンディン4を含む培地中、低接着培養ディッシュにて前膵内分泌細胞を培養することにより、膵内分泌細胞に分化させてもよい。
【0021】
上述の通り、得られた膵内分泌細胞は膵島を形成していてもよい。膵島は、前膵内分泌細胞を膵内分泌細胞に分化させる際、あるいは前膵内分泌細胞を膵内分泌細胞に分化させた後、例えば、細胞を浮遊化させた状態で培養することにより形成される。
【0022】
本発明は、もう1つの態様において、上記方法により得ることのできる膵内分泌細胞に関するものである。例えば、糖尿病またはその素因を有する対象または該対象と同種のものの脂肪組織から採取した細胞を用いて上記方法を行い、得られた膵内分泌細胞を該対象に移植することで、糖尿病を治療または予防することなどが可能である。本発明のこの態様の膵内分泌細胞は、上述の通り膵島を形成しているものであってもよい。
【0023】
本発明のなお別の態様は、上記培養方法により得ることのできる膵内分泌細胞を対象に投与することを特徴とする、膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病の治療または予防方法に関するものである。膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病とは、膵内分泌細胞の機能低下のみならず機能不全により生じる疾病を含み、例えば、糖尿病およびそれにより惹起される疾病、膵癌術後糖尿病、高脂血症、膵嚢胞症、慢性膵炎、および急性膵炎後遺症などである。糖尿病により惹起される疾病とは、高血糖の持続により惹起される疾病を含み、例えば、神経障害、網膜障害、腎障害、動脈硬化性疾患、心筋梗塞等冠動脈疾患、脳血管障害等である。拒絶反応等の点から、好ましくは、同一種、あるいは自己の脂肪組織由来細胞から得ることのできる膵内分泌細胞が用いられる。投与の手段・方法は、種々の因子に応じて適宜選択され得る。例えば、対象の門脈に膵内分泌細胞を注入してもよいし、腎被膜下に移植してもよいし、あるいは皮下・筋肉内などに移植してもよい。膵内分泌細胞の投与量、投与回数等は、例えば、対象の状態、疾病の重篤度等の種々の因子に応じて適宜選択される。
【0024】
本発明は、別の態様において、脂肪組織由来細胞を培養して膵内分泌細胞を得る際に、候補物質を培地に添加することを特徴とし、膵内分泌細胞への分化が、候補物質不含系における分化と比較して促進されている場合に、該候補物質が膵内分泌細胞への分化を促進する物質であることを示す、膵内分泌細胞への分化を促進する物質をスクリーニングする方法に関するものである。
【0025】
候補物質としては種々のものがあり、例えば、GLP−1、エキセンディン4のアナログ、それらの誘導体、または変異体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
脂肪組織由来細胞から膵内分泌細胞を得る際の候補物質の培地への添加は、いずれの段階において1回または複数回行われてもよい。例えば、脂肪組織由来細胞から未分化細胞を得る際、未分化細胞を膵前駆細胞に分化させる際、膵前駆細胞を膵内分泌前駆細胞に分化させる際、膵内分泌前駆細胞を前膵内分泌細胞に分化させる際、および/または前膵内分泌細胞を膵内分泌細胞に分化させる際に、候補物質を培地に添加してもよい。
【0027】
膵内分泌細胞への分化は、例えば、顕微鏡観察により誘導された膵内分泌細胞の数を計測すること、培養上清中に分泌されたインスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチドを例えば、ELISAを用いて定量すること、インスリン遺伝子、グルカゴン遺伝子、ソマトスタチン遺伝子、膵ペプチド遺伝子の発現を定量的PCRにより測定すること、あるいは膵内分泌細胞への分化に伴い発現が減少または増加することが分かっているマーカー物質、例えば、IAPP、Pdx−1、Islet−1、Nkx6.1、PC1/3、およびPC2などを定量的PCRまたはELISAなどにより測定することなどにより、調べることができる。あるいは、未分化細胞から膵前駆細胞への分化、膵前駆細胞から膵内分泌前駆細胞への分化、膵内分泌前駆細胞から前膵内分泌細胞への分化、前膵内分泌細胞から膵内分泌細胞への分化を調べることにより間接的に行ってもよい。未分化細胞から膵前駆細胞への分化、膵前駆細胞から膵内分泌前駆細胞への分化、膵内分泌前駆細胞から前膵内分泌細胞への分化、前膵内分泌細胞から膵内分泌細胞への分化を調べる手段・方法を、当業者は適宜選択し、用いることができる。
【0028】
従って、本発明は、さらなる態様において、上記スクリーニング方法により得ることのできる、膵内分泌細胞への分化を促進する物質に関するものである。かかる物質を本発明の脂肪組織由来細胞から膵内分泌細胞を得る方法に用いて、得られる膵内分泌細胞数を増加させてもよいし、膵内分泌細胞への分化速度を増大させてもよい。また、かかる物質を、膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病の治療または予防に用いてもよい。
【0029】
本発明のさらに別の態様は、膵内分泌細胞への分化を抑制する物質のスクリーニング方法である。すなわち、上記スクリーニング方法において、候補物質の存在下において、膵内分泌細胞への分化の抑制が見られる場合は、候補物質は膵内分泌細胞への分化を抑制する物質であることが示される。候補物質としては、種々のものがあり、例えば、ステロイドホルモンのアナログ、誘導体、または変異体等が挙げられるが、これらに限定されない。かかるスクリーニング方法により得ることのできる物質は、例えば、膵機能亢進症、インスリノーマなどの膵内分泌細胞の機能亢進により生じる疾病の治療または予防に適していると考えられる。
【0030】
従って、本発明は、さらなる態様において、上記スクリーニング方法により得ることのできる、膵内分泌細胞への分化を抑制する物質に関するものである。
【0031】
本発明は、なおさらに別の態様において、膵内分泌細胞への分化を促進または抑制する物質をスクリーニングするための上記方法に用いられるキットに関するものである。本発明のキットは、脂肪組織からの細胞取得手段、培地、培養容器、並びに膵内分泌細胞への分化を調べる手段等を含んでいてもよい。通常には、取扱説明書をキットに添付する。かかるキットを用いて、上記スクリーニングを迅速かつ容易に行うことができる。
【0032】
本発明は、もう1つの態様において、脂肪組織由来細胞を培養して得られた膵内分泌細胞を候補物質を含む培地中で培養し、膵内分泌細胞から分泌される物質の量が、候補物質不含系における量と比較して、変化している場合に、該候補物質が膵内分泌細胞の活性を上昇させる物質であることを示す、膵内分泌細胞の活性を上昇させる物質をスクリーニングする方法に関するものである。膵内分泌細胞の活性とは、膵内分泌細胞のインスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチドなどを産生・分泌する作用、および膵内分泌細胞の糖反応性、詳細には、糖濃度に応じてインスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチドなどの分泌量を調節する作用などをいう。膵内分泌細胞から分泌される物質とは、インスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチドなどをいい、かかる物質の量が変化しているとは、該物質が膵内分泌細胞の活性の上昇に伴い増大するものであるときは、増大していることを、逆に該物質が膵内分泌細胞の活性の低下に伴い減少するものであるときは、減少していることをいう。
【0033】
膵内分泌細胞の活性の上昇は、例えば、培養上清中に分泌されたインスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチドをELISAなどを用いて定量すること、インスリン遺伝子、グルカゴン遺伝子、ソマトスタチン遺伝子、膵ペプチド遺伝子の発現を定量的PCRにより測定することなどにより、調べることができる。候補物質としては種々のものがあり、例えば、テオフィリン、IBMX、トルブタミド、カルバコールのアナログ、その誘導体、または変異体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
従って、本発明は、さらなる態様において、上記スクリーニング方法により得ることのできる、膵内分泌細胞の活性を上昇させる物質に関するものである。かかる物質を、膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病の治療または予防に用いてもよい。
【0035】
本発明のさらに別の態様は、膵内分泌細胞の活性を低下させる物質のスクリーニング方法である。すなわち、上記スクリーニング方法において、候補物質の存在下において、膵内分泌細胞の活性の低下が見られる場合は、候補物質は膵内分泌細胞の活性を低下させる物質であることが示される。候補物質としては、種々のものがあり、例えば、ニフェジピンのようなCa遮断薬、あるいはそのアナログ、誘導体、または変異体等が挙げられるが、これらに限定されない。かかるスクリーニング方法により得ることのできる物質は、例えば、膵機能亢進症、インスリノーマなどの膵内分泌細胞の機能亢進により生じる疾病の治療または予防に適していると考えられる。
【0036】
従って、本発明は、さらなる態様において、上記スクリーニング方法により得ることのできる、膵内分泌細胞の活性を低下させる物質に関するものである。
【0037】
本発明は、なおさらに別の態様において、膵内分泌細胞の活性を上昇または低下させる物質をスクリーニングするための上記方法に用いられるキットに関するものである。本発明のキットは、膵内分泌細胞を培養するための培地、培養容器、並びに膵内分泌細胞の活性を調べる手段等を含んでいてもよい。通常には、取扱説明書をキットに添付する。かかるキットを用いて、上記スクリーニングを迅速かつ容易に行うことができる。
【0038】
本発明は、もう1つの態様において、脂肪組織由来細胞を培養することを特徴とする、脂肪組織由来細胞から膵島を得る方法に関するものである。本発明は、遺伝子組換えを行うことなく、培養液の組成をはじめとする培養条件の操作を主体として膵島を得ることができる点で非常に優れている。
【0039】
膵島とは、生体内の膵島、およびそれに類似する機能・形態を有する細胞塊をいい、例えば、インスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、ソマトスタチン分泌細胞、膵ペプチド分泌細胞などの膵内分泌細胞、およびそれに類似する機能を有する細胞などを含む。従って、本発明のこの態様の方法は、膵島に含まれる膵内分泌細胞、および膵内分泌細胞を構成するインスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、ソマトスタチン分泌細胞、膵ペプチド分泌細胞などを得ることを包含する。本発明の膵島は、個々の細胞と比べ、十分な量のインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチドなどを産生・分泌できる点で非常に優れているだけでなく、既知の膵島移植方法を用いて容易に生体内に移植することができる。
【0040】
本発明の、脂肪組織由来細胞からの膵島の取得方法は、重要な工程として、脂肪組織由来細胞から未分化細胞を得る工程(下記工程(a))を含むことが好ましい。
【0041】
本発明の、脂肪組織由来細胞からの膵内分泌細胞の取得方法はまた、重要な工程として、前膵内分泌細胞から膵島を形成させる工程(下記工程(e))をさらに含むことが好ましい。
【0042】
さらに本発明の上記方法は、
(a)脂肪組織由来細胞から未分化細胞を得て、
(b)該未分化細胞を膵前駆細胞に分化させ、
(c)該膵前駆細胞を膵内分泌前駆細胞に分化させ、
(d)該膵内分泌前駆細胞を前膵内分泌細胞に分化させ、次に、
(e)該前膵内分泌細胞から膵島を形成させる、
工程を含むものであってもよい。
【0043】
脂肪組織由来細胞から未分化細胞を得る工程、未分化細胞を膵前駆細胞に分化させる工程、膵前駆細胞を膵内分泌前駆細胞に分化させる工程、膵内分泌前駆細胞を前膵内分泌細胞に分化させる工程については、上述の通りである。
【0044】
前膵内分泌細胞からの膵島の形成は、当業者に公知の手段・方法により行うことができるが、好ましくは、前膵内分泌細胞を浮遊化させた状態で培養し、膵島を形成させるものである。かかる浮遊化は、上述の通りである。例えば、DMEM(グルコース不含)/F−12(1:1)、N2およびB27、1mM グルタミン、10mM ニコチンアミド、および10nM エキセンディン4を含む培地中、低接着培養ディッシュにて前膵内分泌細胞を培養することにより、膵島を形成させてもよい。また、前膵内分泌細胞を膵内分泌細胞に分化させ、該膵内分泌細胞から膵島を形成させてもよい。
【0045】
本発明は、別の態様において、上記方法により得ることのできる膵島に関するものである。例えば、糖尿病またはその素因を有する対象、あるいは該対象と同種のものの脂肪組織から採取した細胞を用いて上記方法を行い、得られた膵島を該対象に移植することで、糖尿病を治療または予防することなどが可能である。本発明のこの態様の膵島は、上述の通り膵内分泌細胞を含むものであるので、本発明のこの態様はまた、上記方法により得ることのできる膵島に含まれる膵内分泌細胞、詳細には、インスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、ソマトスタチン分泌細胞、膵ペプチド分泌細胞などに関するものである。
【0046】
本発明のなお別の態様は、上記培養方法により得ることのできる膵島を対象に投与することを特徴とする、膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病の治療または予防方法に関するものである。上記培養方法により得ることのできる膵島は膵内分泌細胞を含むものであるので、膵島を対象に投与するとは、膵内分泌細胞、および膵内分泌細胞を構成するインスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、ソマトスタチン分泌細胞、膵ペプチド分泌細胞などを対象に投与することを含む。拒絶反応等の点から、本発明のこの態様において、好ましくは、同一種、あるいは自己の脂肪組織由来細胞から得ることのできる膵島が用いられる。投与の手段・方法は、種々の因子に応じて適宜選択され得る。例えば、対象の門脈に膵島を注入してもよいし、腎被膜下に移植してもよいし、あるいは皮下筋肉内などに移植してもよい。膵島の投与量、投与回数等は、例えば、対象の状態、疾病の重篤度等の種々の因子に応じて適宜選択される。
【0047】
本発明は、別の態様において、脂肪組織由来細胞を培養して膵島を得る際に、候補物質を培地に添加することを特徴とし、膵島の形成が、候補物質不含系における形成と比較して促進されている場合に、該候補物質が膵島の形成を促進する物質であることを示す、膵島の形成を促進する物質をスクリーニングする方法に関するものである。
【0048】
候補物質としては種々のものがあり、例えば、GLP−1、エキセンディン4のアナログ、それらの誘導体、または変異体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
脂肪組織由来細胞から膵島を得る際の候補物質の培地への添加は、いずれの段階において1回または複数回行われてもよい。例えば、未分化細胞を膵前駆細胞に分化させる際、膵前駆細胞を膵内分泌前駆細胞に分化させる際、膵内分泌前駆細胞を前膵内分泌細胞に分化させる際、および/または前膵内分泌細胞から膵島を形成させる際に、候補物質を培地に添加してもよい。
【0050】
膵島の形成は、例えば、顕微鏡観察により形成された膵島の数を計測すること、培養上清中に分泌されたインスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチドを例えば、ELISAを用いて定量すること、インスリン遺伝子、グルカゴン遺伝子、ソマトスタチン遺伝子、膵ペプチド遺伝子の発現を定量的PCRにより測定すること、あるいは膵島の形成に伴い発現が減少または増加することが分かっているマーカー物質、例えば、IAPP、Pdx−1、Islet−1、Nkx6.1、PC1/3、およびPC2などを定量的PCRまたはELISAなどにより測定することなどにより、調べることができる。あるいは、未分化細胞から膵前駆細胞への分化、膵前駆細胞から膵内分泌前駆細胞への分化、膵内分泌前駆細胞から前膵内分泌細胞への分化、前膵内分泌細胞からの膵島の形成を調べることにより間接的に行ってもよい。未分化細胞から膵前駆細胞への分化、膵前駆細胞から膵内分泌前駆細胞への分化、膵内分泌前駆細胞から前膵内分泌細胞への分化、前膵内分泌細胞からの膵島の形成を調べる手段・方法を、当業者は適宜選択し、用いることができる。
【0051】
従って、本発明は、さらなる態様において、上記スクリーニング方法により得ることのできる膵島の形成を促進する物質に関するものである。かかる物質を本発明の脂肪組織由来細胞から膵島を得る方法に用いて、得られる膵島を増加させてもよいし、膵島の形成速度を増大させてもよい。また、かかる物質を膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病の治療または予防に用いてもよい。
【0052】
本発明のさらに別の態様は、膵島の形成を抑制する物質のスクリーニング方法である。すなわち、上記スクリーニング方法において、候補物質の存在下において、膵島の形成の抑制が見られる場合は、候補物質は膵島の形成を抑制する物質であることが示される。候補物質としては、種々のものがあり、例えば、ステロイドホルモンのアナログ、誘導体、または変異体等が挙げられるが、これらに限定されない。かかるスクリーニング方法により得ることのできる物質は、例えば、膵機能亢進症、インスリノーマなどの膵内分泌細胞の機能亢進により生じる疾病の治療または予防に適していると考えられる。
【0053】
従って、本発明は、さらなる態様において、上記スクリーニング方法により得ることのできる、膵島の形成を抑制する物質に関するものである。
【0054】
本発明は、なおさらに別の態様において、膵島の形成を促進または抑制する物質をスクリーニングするための上記方法に用いられるキットに関するものである。本発明のキットは、脂肪組織からの細胞取得手段、培地、培養容器、並びに膵島の形成を調べる手段等を含んでいてもよい。通常には、取扱説明書をキットに添付する。かかるキットを用いて、上記スクリーニングを迅速かつ容易に行うことができる。
【0055】
本発明は、もう1つの態様において、脂肪組織由来細胞を培養して得られた膵島を候補物質を含む培地中で培養し、膵島から分泌される物質の量が、候補物質不含系における量と比較して、変化している場合に、該候補物質が膵島の活性を上昇させる物質であることを示す、膵島の活性を上昇させる物質をスクリーニングする方法に関するものである。膵島の活性とは、膵内分泌細胞、インスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、ソマトスタチン分泌細胞、膵ペプチド分泌細胞などの活性を含み、インスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチドなどを産生・分泌する作用、および糖反応性、詳細には、糖濃度に応じてインスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチドなどの分泌量を調節する作用などをいう。膵島から分泌される物質とは、インスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチドなどをいい、かかる物質の量が変化しているとは、該物質が膵島の活性の上昇に伴い増大するものであるときは、増大していることを、逆に該物質が膵島の活性の低下に伴い減少するものであるときは、減少していることをいう。
【0056】
膵島の活性の上昇は、例えば、培養上清中に分泌されたインスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチドをELISAなどを用いて定量すること、インスリン遺伝子、グルカゴン遺伝子、ソマトスタチン遺伝子、膵ペプチド遺伝子の発現を定量的PCRにより測定することなどにより、調べることができる。候補物質としては種々のものがあり、例えば、テオフィリン、IBMX、トルブタミド、カルバコールのアナログ、その誘導体、または変異体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
従って、本発明は、さらなる態様において、上記スクリーニング方法により得ることのできる、膵島の活性を上昇させる物質に関するものである。かかる物質を、膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病の治療または予防に用いてもよい。
【0058】
本発明のさらに別の態様は、膵島の活性を低下させる物質のスクリーニング方法である。すなわち、上記スクリーニング方法において、候補物質の存在下において、膵島の活性の低下が見られる場合は、候補物質は膵島の活性を低下させる物質であることが示される。候補物質としては、種々のものがあり、例えば、ニフェジピンのごときCa遮断薬、あるいはそのアナログ、誘導体、または変異体等が挙げられるが、これらに限定されない。かかるスクリーニング方法により得ることのできる物質は、例えば、膵機能亢進症、インスリノーマなどの膵内分泌細胞の機能亢進により生じる疾病の治療または予防に適していると考えられる。
【0059】
従って、本発明は、さらなる態様において、上記スクリーニング方法により得ることのできる、膵島の活性を低下させる物質に関するものである。
【0060】
本発明は、なおさらに別の態様において、膵島の活性を上昇または低下させる物質をスクリーニングするための上記方法に用いられるキットに関するものである。本発明のキットは、膵島を培養するための培地、培養容器、並びに膵島の活性を調べる手段等を含んでいてもよい。通常には、取扱説明書をキットに添付する。かかるキットを用いて、上記スクリーニングを迅速かつ容易に行うことができる。
【0061】
本発明は、もう1つの態様において、脂肪組織由来細胞を培養することを特徴とする、脂肪組織由来細胞から未分化細胞を得る方法に関するものである。好ましくは、脂肪組織由来細胞を浮遊化させた状態で培養し、アディポスフェアを形成させることにより、上記方法は行われる。
【0062】
本発明は、さらなる態様において、上記方法により得ることのできる、未分化細胞に関するものである。
【0063】
本発明は、なおさらなる態様において、上記培養方法により得ることのできる未分化細胞を対象に投与することを特徴とする、膵臓、肝臓、または心臓の機能低下により生じる疾病の治療または予防方法に関するものである。膵臓、肝臓、または心臓の機能低下により生じる疾病とは、膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病、例えば、慢性膵炎、嚢胞膵などの膵外分泌細胞の機能低下により生じる疾病、肝硬変、肝癌などの肝細胞の機能低下により生じる疾患、心筋細胞の機能低下により生じる疾患などである。
【0064】
本発明は、もう1つの態様において、脂肪組織由来細胞を培養することを特徴とする、脂肪組織由来細胞から膵前駆細胞を得る方法に関するものである。かかる方法は、好ましくは、脂肪組織由来細胞から未分化細胞を得て、次に、未分化細胞を膵前駆細胞に分化させる工程を含むものである。この方法により得ることのできる膵前駆細胞は、上述の方法を用いて、膵内分泌前駆細胞へ分化させることができ、かつ当業者に既知の手段・方法、例えば、Skoudy A et al., Biochem J. 2004 May 1; 379 (Pt 3): 749-56に記載の方法を用いて、膵外分泌前駆細胞へ分化させることが可能である。得られた膵前駆細胞は、例えば、CK18、CK19、アミラーゼ、トリプシンなどのマーカー物質により、確認することもできる。
【0065】
本発明は、さらにもう1つの態様において、上記方法により得ることのできる膵前駆細胞に関するものである。膵前駆細胞は、膵内分泌前駆細胞のみならず、膵外分泌前駆細胞への分化能も有する細胞であるので、膵前駆細胞は、膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病のみならず、例えば、慢性膵炎のごとき膵外分泌機能不全症、嚢胞膵などの広範な疾病の治療または予防に用いることができると考えられる。
【0066】
本発明は、なおさらにもう1つの態様において、上記方法により得ることのできる膵前駆細胞を対象に移植することを特徴とする、膵臓の機能低下により生じる疾病の治療または予防方法に関する。膵臓の機能低下により生じる疾病とは、膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病、膵外分泌細胞の機能低下により生じる疾病などを含む。ここで、膵外分泌細胞の機能低下により生じる疾病とは、膵外分泌細胞の機能不全により生じる疾病を含み、例えば、慢性膵炎、膵嚢胞症などである。膵前駆細胞の投与量、投与方法、投与経路、投与回数等は、対象の状態等の種々の条件に応じて適宜選択され得る。
【0067】
本発明は、さらなる態様において、脂肪組織由来細胞を培養して膵前駆細胞を得る際に、候補物質を培地に添加することを特徴とし、膵前駆細胞への分化が、候補物質不含系における分化と比較して促進または抑制されている場合に、該候補物質が膵前駆細胞への分化を促進または抑制する物質であることを示す、膵前駆細胞への分化を促進または抑制する物質をスクリーニングする方法に関するものである。候補物質の添加は上記の通りである。膵前駆細胞への分化の促進または抑制は、種々の手段・方法により測定され得る。例えば、膵前駆細胞の数を計測することにより測定されてもよいし、あるいは膵前駆細胞が発現する遺伝子、産生するタンパク質を測定することにより測定されてもよい。
【0068】
本発明は、さらなる態様において、上記スクリーニング方法により得ることのできる、膵前駆細胞への分化を促進または抑制する物質に関するものである。
【0069】
本発明は、なおさらなる態様において、膵前駆細胞への分化を促進または抑制する物質をスクリーニングするための上記方法に用いられるキットに関するものである。キットの構成要素については上述の通りである。
【0070】
本発明は、さらなる態様において、脂肪組織由来細胞を培養することを特徴とする、脂肪組織由来細胞から膵内分泌前駆細胞を得る方法に関するものである。かかる方法は、好ましくは、脂肪組織由来細胞から未分化細胞を得て、該未分化細胞を膵前駆細胞に分化させ、次に、該膵前駆細胞を膵内分泌前駆細胞に分化させる工程を含むものである。この方法により得られる膵内分泌前駆細胞は、前膵内分泌細胞、さらにはインスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、ソマトスタチン分泌細胞、膵ペプチド分泌細胞などの膵内分泌細胞に分化させることが可能である。
【0071】
本発明は、さらなる態様において、上記方法により得ることのできる、膵内分泌前駆細胞に関するものである。膵内分泌前駆細胞は、前膵内分泌細胞、インスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、ソマトスタチン分泌細胞、膵ペプチド分泌細胞などの膵内分泌細胞に分化させることができるので、膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病の治療または予防に用いることができる。
【0072】
本発明は、なおさらなる態様において、上記方法により得ることのできる、膵内分泌前駆細胞を対象に投与することを特徴とする、膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病の治療または予防方法に関するものである。膵内分泌前駆細胞の投与量、投与回数、投与方法等は、例えば、対象の状態等の種々の因子に応じて適宜選択される。
【0073】
本発明は、さらなる態様において、脂肪組織由来細胞を培養して膵内分泌前駆細胞を得る際に、候補物質を培地に添加することを特徴とし、膵内分泌前駆細胞への分化が、候補物質不含系における分化と比較して促進または抑制されている場合に、該候補物質が膵内分泌前駆細胞への分化を促進または抑制する物質であることを示す、膵内分泌前駆細胞への分化を促進または抑制する物質をスクリーニングする方法に関するものである。候補物質の添加は上述の通りである。膵内分泌前駆細胞への分化の促進または抑制は、種々の手段・方法により測定され得る。例えば、未分化細胞から膵前駆細胞への分化、または膵前駆細胞から膵内分泌前駆細胞への分化を調べることにより、あるいは膵内分泌前駆細胞が発現する遺伝子、産生するタンパク質を測定することにより測定されてもよい。
【0074】
本発明は、さらなる態様において、上記スクリーニング方法により得ることのできる、膵内分泌前駆細胞への分化を促進または抑制する物質に関するものである。
【0075】
本発明は、なおさらなる態様において、膵内分泌前駆細胞への分化を促進または抑制する物質をスクリーニングするための上記方法に用いられるキットに関するものである。キットの構成要素については上述の通りである。
【0076】
本発明は、もう1つの態様において、脂肪組織由来細胞を培養することを特徴とする、脂肪組織由来細胞から前膵内分泌細胞を得る方法に関するものである。かかる方法は、好ましくは、脂肪組織由来細胞から未分化細胞を得て、該未分化細胞を膵前駆細胞に分化させ、該膵前駆細胞を膵内分泌前駆細胞に分化させ、次に該膵内分泌前駆細胞を前膵内分泌細胞に分化させる工程を含むものである。
【0077】
本発明は、さらなる態様において、上記方法により得ることのできる、前膵内分泌細胞に関するものである。かかる前膵内分泌細胞は、インスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、ソマトスタチン分泌細胞、膵ペプチド分泌細胞に分化することができるので、膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病の治療または予防に用いることができる。
【0078】
本発明は、なおさらなる態様において、上記方法により得ることのできる、前膵内分泌細胞を対象に投与することを特徴とする、膵内分泌細胞の機能低下により生じる疾病の治療または予防方法に関するものである。前膵内分泌細胞の投与量、投与回数、投与方法等は、例えば、対象の状態等の種々の因子に応じて適宜選択される。
【0079】
本発明は、さらなる態様において、脂肪組織由来細胞を培養して前膵内分泌細胞を得る際に、候補物質を培地に添加することを特徴とし、前膵内分泌細胞への分化が、候補物質不含系における分化と比較して促進または抑制されている場合に、該候補物質が前膵内分泌細胞への分化を促進または抑制する物質であることを示す、前膵内分泌細胞への分化を促進または抑制する物質をスクリーニングする方法に関するものである。候補物質の添加は上述の通りである。前膵内分泌細胞への分化の促進または抑制は、前膵内分泌細胞が発現する、例えば、Pdx−1やIslet−1などの遺伝子の発現を測定することにより直接的に、あるいは未分化細胞からの膵前駆細胞の誘導、膵前駆細胞からの膵内分泌前駆細胞の誘導を調べることなどにより間接的に測定されてもよい。
【0080】
本発明は、さらなる態様において、上記スクリーニング方法により得ることのできる、前膵内分泌細胞への分化を促進または抑制する物質に関するものである。
【0081】
本発明は、なおさらなる態様において、前膵内分泌細胞への分化を促進または抑制する物質をスクリーニングするための上記方法に用いられるキットに関するものである。キットの構成要素については上述の通りである。
【0082】
本発明は、もう1つの態様において、
下記工程:
(a)脂肪組織を切断し、
(b)切断された脂肪組織から赤血球を除去し、次いで、
(c)得られた細胞をEDTA処理する
を含む、脂肪組織から細胞を調製する方法、ならびに該方法により得られる細胞に関するものである。
【0083】
以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0084】
脂肪組織由来細胞の単離および培養
ヒト脂肪組織を刻み、0.075% コラゲナーゼ(Sigma Chemical Co.)含有ハンクス平衡緩衝塩溶液(HBSS)中、37℃のウォーターバスにて振盪しながら1時間消化した。切断物をCell Strainer(BD Biosciences)を用いて濾過し、濾液を800gにて10分間遠心した。切断物を赤血球溶解バッファーで処理した。次に、得られた細胞を、10% ウシ胎児血清(Hyclone)を含むDMEMを用いて播種した。12時間(この期間で複製は生じない(Djian P et al., J Clin Invest. 1983: 72: 1200-1208参照)後、付着している脂肪組織由来細胞を洗浄し、EDTA処理し、60% DMEM(低グルコース)、40% MCDB201、ITS(10.0ng/L インスリン、5.5mg/L トランスフェリン、 6.7mg 亜セレン酸ナトリウム)、10ng/mL EGF、1nM デキサメサゾン、0.1mM アスコルビン酸、および5% FCS(Hyclone)を含む培地I中、ヒトフィブロネクチンコートディッシュに40,000細胞/cmの密度で再度播種した。細胞を3〜5代継代培養し、実験に適した脂肪組織由来細胞とした(ステージI)。
【0085】
脂肪組織由来細胞からの膵島の形成、および膵内分泌細胞への分化
脂肪組織由来細胞をトリプシン/EDTA(ナカライテスク)で処理して解離させ、単一化した細胞を、80% ノックアウトD−MEM(GIBCO Invitrogen)、20% ウシ胎児血清、1mM グルタミン(GIBCO Invitrogen)、および1% 非必須アミノ酸(GIBCO Invitrogen)を含む培地II中、低接着培養ディッシュ(Hydro Cell;セルシード)に播種した。細胞は自己凝集し、24時間以内にアディポスフェアを形成した。生じたアディポスフェア(図1参照)を3日毎に培地を交換しながら7日間培養した(ステージII)。
【0086】
7日目のアディポスフェア(平均約1,000個の細胞からなる)を、6ウェルプラスチック培養プレート(岩城)に300個/ウェルの密度で播種し、DMEM/F−12(1:1)(GIBCO Invitrogen)、ITS(10mg/L インスリン、6.7mg/L トランスフェリン、および5.5mg/L セレニウム(全てGIBCO Invitrogen))、1mM グルタミン、および5μg/mL ヒトフィブロネクチン(Roche Diagnostics)を含む培地III中でさらに1週間増殖させ、膵前駆細胞(図2参照)を得た(ステージIII)。
【0087】
1週間後、膵前駆細胞をトリプシン/EDTAにより単一細胞に解離させ、DMEM/F−12(1:1)、N2およびB27(共にGIBCO Invitrogen;製造元の指示に従い添加)、1mM グルタミン、および10ng/mL bFGF(GIBCO Invitrogen)を含む培地IV中、0.1% ゼラチンコートプラスチック組織培養プレート(BD Bioscience)に200,000個/mLの密度で播種し、7日間培養し、膵内分泌前駆細胞を得た(ステージIV)。かかる膵内分泌細胞は継代により増殖させることができるものであった。
【0088】
得られた膵内分泌前駆細胞を、DMEM(グルコース不含)/F−12(1:1)、N2およびB27、1mM グルタミン、10mM ニコチンアミド(Sigma Chemical Co.)、および10nM エキセンディン4(Sigma Chemical Co.)を含む培地V中で7日間培養し、前膵内分泌細胞を得た(ステージV)。
【0089】
7日後、得られた前膵内分泌細胞を解離させ、低接着培養ディッシュにアプライし、培地Vでの懸濁液中で3〜7日間増殖させ、膵内分泌細胞を含む膵島(図3参照)を形成させた(ステージVI)。
【0090】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)
トータルRNAを、ステージI〜VIの細胞から、Mag-Extractorキット(TOYOBO)を用いて製造元の推奨プロトコールに従い、単離した。トータルRNA 500ngをDNase処理し、Superscript III逆転写酵素RNase H(−)(Invitrogen)を用いて、cDNAを合成した。インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、IAPP、PDx−1、Islet−1、Nkx6.1、PC1/3、PC2、およびGAPDHについて、KOD-plus(TOYOBO)を用いて、以下の条件でRT−PCRを行った:94℃で2分間変性、次に94℃で15秒間の変性、前以て決定しておいた温度で30秒間のアニーリング、68℃で30秒間の伸長を40サイクル。アニーリング温度、およびプライマー配列を表1に示す。得られた増幅産物を2% アガロースゲルにて電気泳動した。結果を図4に示す。ステージVIの細胞において、インスリンが発現していること、分化に伴い、膵島由来ホルモンであるグルカゴン、ソマトスタチン、および転写因子であるIAPP、Pdx−1、Islet−1、Nkx6.1の発現が増加していること、およびステージVIの細胞において、インスリンタンパク質の変換酵素であるPC1/3およびPC2が発現していることが確認でき、脂肪組織由来細胞から膵島および膵内分泌細胞が得られたことが分かった。
【0091】
【表1】

【0092】
免疫染色によるインスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ソマトスタチンの膵島における局在の確認
上記方法により得られた膵島を4% パラホルムアルデヒドにて24時間固定した。PBSにて洗浄した後、OTC compoundに包埋し、凍結させた。7μmに薄切し、スライドグラスに貼り付けて風乾させた。作成したスライドグラスをPBSにて洗浄し、Block One(ナカライテスク社製)にて60分ブロッキングし、PBSにて洗浄後モルモット抗インスリン抗体、テキサスレッド標識抗モルモットIgG抗体、ついでウサギ抗C−ペプチド抗体、最後にFITC標識抗ウサギIgG抗体と反応させた。同様に、モルモット抗インスリン抗体、テキサスレッド標識抗モルモットIgG抗体と反応させた後、ウサギ抗グルカゴン抗体、次にFITC標識抗ウサギIgG抗体、あるいはウサギ抗ソマトスタチン抗体、次にFITC標識抗ウサギ抗体と反応させた。洗浄後蛍光顕微鏡にて観察した。結果を図5〜13に示す。インスリン染色陽性細胞は、主に膵島内部に存在し、生体内の膵島と同様であることが確認できた。また、膵島において、インスリンとC−ペプチドが共存していることが分かった。これにより、インスリンは細胞内にて生合成されたものであることが分かった。グルカゴン染色陽性細胞は、膵島を覆うように外側に存在し、生体内の膵島と同様であることが確認できた。さらに、インスリンとソマトスタチンが共存する細胞と共存しない細胞が存在することが確認できた(共存する細胞を図11a、12a、13aにおいて矢頭で示す)。これは、インスリン分泌細胞が分化する過程で一過性にインスリンとソマトスタチンを共に発現するためであるといえる。
【0093】
ELISAによるインスリン分泌量、およびC−ペプチド分泌量の定量
上記方法により得られた膵島を、RPMI 1640(11879-020;GIBCO Invitrogen)を用いて3回洗浄し、0.5% ウシ血清アルブミン、および3.3mM グルコース含有RPMI1640と共に1時間、プレインキュベーションした。次に、膵島を、3.3mMまたは16.7mM グルコースを含むRPMI 1640中で2時間インキュベーションした。対照として、10mM テオフィリンを含むRPMI 1640を用いた。培養上清中のインスリンおよびC−ペプチドレベルをELISAキット(Mercodia)を用いて測定した。結果を図14、15および16に示す。インスリン分泌を促進する物質として知られているテオフィリンを含まない培地にて培養した膵島は、テオフィリンを含む培地にてインキュベーションした膵島と同等のインスリン分泌量、およびC−ペプチド分泌量を示し、脂肪組織由来細胞から得られた膵島が十分量のインスリン分泌能指数を有することが確認できた。
【0094】
上述の通り膵島を、3.3mMまたは16.7mM グルコース、および100μM テオフィリン、100μM IBMX、10μM トルブタミド、100μM カルバコール、または50μM ニフェジピンを含むRPMI 1640中で2時間インキュベーションし、インスリン分泌量を測定した。結果を図17に示す。インスリン分泌を促進することが知られているテオフィリン、IBMX、トルブタミド、カルバコールによりインスリン分泌が促進されることが確認できた。インスリン分泌を抑制することが知られているニフェジピンにより糖反応性インスリン分泌が抑制されることが確認できた。
【0095】
インスリン分泌細胞の移植
NOD/SCIDマウス(8週齢、雄性、6匹)に50mg/kg ストレプトゾトシン(STZ)を1日1回、5日間(Day−11〜−7)連続して腹腔内投与し、膵ランゲルハンス島を破壊した。Day0にて500個のインスリン分泌細胞塊を左腎被膜下に移植した。Day−11、Day0、およびDay14における血糖値を測定した。結果を図18に示す。インスリン分泌細胞塊を移植することにより血糖値を低減できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明により、脂肪組織由来細胞から膵内分泌細胞を得る方法およびそれにより得ることのできる膵内分泌細胞、膵内分泌細胞への分化を促進または抑制する物質をスクリーニングする方法およびそのためのキットなどが提供されるので、医薬品等の分野、例えば、糖尿病並びにそれにより惹起される種々の疾病の予防薬、治療薬、または診断薬の開発、製造分野等において利用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0097】
SEQ ID NO: 1: PCR forward primer to amplify insulin mRNA
SEQ ID NO: 2: PCR reverse primer to amplify insulin mRNA
SEQ ID NO: 3: PCR forward primer to amplify Glucagon mRNA
SEQ ID NO: 4: PCR reverse primer to amplify Glucagon mRNA
SEQ ID NO: 5: PCR forward primer to amplify Somtatostatin mRNA
SEQ ID NO: 6: PCR reverse primer to amplify Somatostatin mRNA
SEQ ID NO: 7: PCR forward primer to amplify IAPP mRNA
SEQ ID NO: 8: PCR reverse primer to amplify IAPP mRNA
SEQ ID NO: 9: PCR forward primer to amplify Pdx-1 mRNA
SEQ ID NO: 10: PCR reverse primer to ampify Pdx-1 mRNA
SEQ ID NO: 11: PCR forward primer to amplify Islet-1 mRNA
SEQ ID NO: 12: PCR reverse primer to amplify Islet-1 mRNA
SEQ ID NO: 13: PCR forward primer to amplify Nkx6.1 mRNA
SEQ ID NO: 14: PCR reverse primer to amplify Nkx6.1 mRNA
SEQ ID NO: 15: PCR forward primer to amplify PC1/3 mRNA
SEQ ID NO: 16: PCR reverse primer to amplify PC1/3 mRNA
SEQ ID NO: 17: PCR forward primer to amplify PC2 mRNA
SEQ ID NO: 18: PCR reverse primer to amplify PC2 mRNA
SEQ ID NO: 19: PCR forward primer to amplify GAPDH mRNA
SEQ ID NO: 20: PCR reverse primer to amplify GAPDH mRNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織から細胞を調製する方法であって、下記工程:
(a)脂肪組織を切断し、
(b)切断された脂肪組織から赤血球を除去し、次いで、
(c)得られた細胞をEDTA処理する
を含む方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法により得られる脂肪組織由来細胞。

【図15】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11a】
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【図11b】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13a】
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【図13b】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−172586(P2011−172586A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96351(P2011−96351)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【分割の表示】特願2007−538655(P2007−538655)の分割
【原出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】