説明

脱酸素塗剤、脱酸素剤含有塗膜及び積層体

【課題】所望の基材上に容易に塗工することができ、得られた塗膜は接着性よく基材上に積層される脱酸素塗剤を提供する。
【解決手段】有機系脱酸素剤、ポリアミド樹脂、吸湿材料および/または遷移金属化合物、酸性化合物、及び水性媒体を含む脱酸素塗剤であり、前記ポリアミド樹脂が、ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、アミン価が酸価より高くかつ1mgKOH/g以上であるダイマー酸系ポリアミド樹脂であることを特徴とする脱酸素塗剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機系脱酸素剤と、特定のポリアミド樹脂と、吸湿材料および/または遷移金属化合物と、酸性化合物と、水性媒体とを含有する脱酸素塗剤、また有機系脱酸素剤と、特定のアミド樹脂と、吸湿材料および/または遷移金属化合物とを含有する脱酸素剤含有塗膜、さらにはこの脱酸素剤含有塗膜が積層された積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品や医療・医薬品、電気・電子部品の包装材料には、脱酸素機能を付与することが必要不可欠となっている。脱酸素機能を付与するための材料には大別して、金属系脱酸素剤と有機系脱酸素剤があるが、金属系脱酸素剤は、異物の検出調査に使用される金属探知機に反応するという問題がある。
【0003】
有機系脱酸素剤にはそのような問題はなく、特にアスコルビン酸は酸素を還元するその性質から、脱酸素材料の主成分として汎用されている。
有機系脱酸素剤を脱酸素材料の成分として使用する形態は様々であるが、一般的には、樹脂材料中に練り込んで使用する方法(特許文献1)や、高分子鎖にアスコルビン酸セグメントを導入する方法(特許文献2)、有機系脱酸素剤を含む溶液を多孔質材料に含浸させて使用する方法(特許文献3)、有機系脱酸素剤を含む溶液を吸水性樹脂に含浸させて使用する方法(特許文献4)が挙げられ、アスコルビン酸を含む溶液を支持体上に載せて表面を被覆する方法(特許文献5)も提案されている。
【0004】
しかしながら、樹脂材料中に練り込んで使用する方法(特許文献1)は、所望の包装用基材上に脱酸素層を積層できるというメリットがあるが、練り込み時に有機系脱酸素剤が熱分解することが懸念される。また、脱酸素層の接着性が乏しいため、基材との間に接着層を介する必要があるという問題があった。
【0005】
また、高分子鎖にアスコルビン酸セグメントを導入する方法(特許文献2)は、上記の問題を解決するものであるが、アスコルビン酸セグメントを高分子鎖に導入するという工程が必要となるという煩雑さに加え、得られた高分子を直接、所望の包装用基材上に積層するには接着性の面で問題があった。
【0006】
有機系脱酸素剤を含む溶液を多孔質材料に含浸させて使用する方法(特許文献3)は、基材が多孔質材料に限定されるため、使用できる用途が限定されるという問題があった。また、脱酸素反応に伴う有機系脱酸素剤の分解反応が製造後速やかに進行するため保存安定性に乏しいという問題があった。
【0007】
有機系脱酸素剤を含む溶液を吸水性樹脂に含浸させて使用する方法(特許文献4)は、必要材料を包装材に充填密封し、酸素吸収剤包装体として使用するものである。構成材料の1つである吸水性樹脂は水溶性樹脂を部分架橋して水不溶性にしたゲルであるため、基材との密着性に乏しく所望の基材上に積層することは困難であった。
【0008】
そして、アスコルビン酸を含む溶液を支持体上に載せて表面を被覆する方法(特許文献5)は、インキ状ないしクリーム状の脱酸素剤を、吸湿性を有する基材上に載せて、水分を含んだ状態を保ったまま、被覆材で覆う技術である。そのため、基材は吸湿性を有するものに限定され、さらに表面を被覆しなければならないという問題があり、また、脱酸素反応に伴う有機系脱酸素剤の分解反応が製造後速やかに進行するため保存安定性に乏しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−136479公報
【特許文献2】特開平9−328521号公報
【特許文献3】特開昭62−14939号公報
【特許文献4】特開平3−86238号公報
【特許文献5】特開平10−353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記のような問題点を解決するものであって、所望の基材上に容易に塗工することができ、得られた塗膜は接着性よく基材上に積層される脱酸素塗剤を提供しようとするものであり、また、所望の基材上に接着性よく積層され、保存安定性にも優れた脱酸素剤含有塗膜を提供しようとするものであり、さらには基材上に接着性よく有機系脱酸素剤を含有する塗膜が積層された積層体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、有機系脱酸素剤、特定組成のポリアミド樹脂、吸湿材料および/または遷移金属化合物、酸性化合物、及び水性媒体を含有する脱酸素塗剤は、塗工性に優れ、また、得られる塗膜は、脱酸素機能、保存安定性にも優れることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
〔1〕有機系脱酸素剤、ポリアミド樹脂、吸湿材料および/または遷移金属化合物、酸性化合物、及び水性媒体を含む脱酸素塗剤であり、前記ポリアミド樹脂が、ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、アミン価が酸価より高くかつ1mgKOH/g以上であるダイマー酸系ポリアミド樹脂であることを特徴とする脱酸素塗剤。
〔2〕有機系脱酸素剤が、アスコルビン酸、カテコール、エリソルビン酸、ピロガロール、ヒドロキノン、還元性糖類、タンニン酸のうちの少なくとも1種類を含むことを特徴とする〔1〕記載の脱酸素塗剤。
〔3〕吸湿材料が、活性炭粒子、無機粒子、吸湿性樹脂のうちの少なくとも1種類を含むことを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載の脱酸素塗剤。
〔4〕遷移金属化合物が鉄、銅、マンガン、バナジウム、クロム、コバルト、ニッケル、亜鉛のうちの少なくとも1種類の金属の化合物を含むことを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の脱酸素塗剤。
〔5〕酸性化合物が有機酸であることを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の脱酸素塗剤。
〔6〕pHが2〜6であることを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の脱酸素塗剤。
〔7〕有機系脱酸素剤、ポリアミド樹脂、さらに吸湿材料および/または遷移金属化合物を含有する脱酸素剤含有塗膜であり、前記ポリアミド樹脂が、ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、アミン価が酸価より高くかつ1mgKOH/g以上であるダイマー酸系ポリアミド樹脂であることを特徴とする脱酸素剤含有塗膜。
〔8〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の脱酸素塗剤を塗工することにより得られるものであることを特徴とする脱酸素剤含有塗膜。
〔9〕基材上に〔7〕又は〔8〕記載の脱酸素剤含有塗膜が積層されてなることを特徴とする積層体。
〔10〕上記〔9〕記載の積層体の脱酸素剤含有塗膜上にシーラント層が積層されてなることを特徴とする積層体。
〔11〕基材がバリア性を有するものであることを特徴とする〔9〕又は〔10〕記載の積層体。
〔12〕脱酸素剤含有塗膜の少なくとも上下どちらかに吸湿層が積層されてなることを特徴とする〔9〕〜〔11〕のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0013】
本発明の脱酸素塗剤は、有機系脱酸素剤、特定組成のポリアミド樹脂、吸湿材料および/または遷移金属化合物、酸性化合物、及び水性媒体を含有するものであるため、各種基材に塗工することが可能であり、各種基材に均一な塗膜を形成することができ、作業性に優れるものである。そして、水系であるため、環境保全性にも優れている。
【0014】
本発明の脱酸素剤含有塗膜は、脱酸素機能を有し、保存安定性にも優れる。このため、本発明の積層体は、基材として種々の材料を用いることが可能であり、脱酸素機能に優れ、大気中で長期間保存することができる。そして、本発明の積層体を製袋等することにより、食品、医療・医薬品、電気・電子部品等の包装材料等として好適に使用することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の脱酸素塗剤(以下、塗剤と略することがある)は、有機系脱酸素剤、特定組成のポリアミド樹脂(以下、ポリアミド樹脂Aと称することがある)、吸湿材料および/または遷移金属化合物、酸性化合物、及び水性媒体を含むものである。詳しくは、本発明の脱酸素塗剤は、水性媒体中にポリアミド樹脂Aが分散しており、かつ水性媒体中に有機系脱酸素剤と酸性化合物とが溶解した水性塗剤である。なお吸湿材料と遷移金属化合物は、水性媒体中に、分散している場合と溶解している場合がある。
【0016】
本発明の脱酸素剤含有塗膜(以下、塗膜と略することもある)は、有機系脱酸素剤、ポリアミド樹脂A、吸湿材料および/または遷移金属化合物を含有するものである。そして、本発明の脱酸素剤含有塗膜は、本発明の脱酸素塗剤を塗工することにより得られるものであることが好ましい。つまり、本発明の脱酸素塗剤を塗工し、塗工後、乾燥することにより、酸性化合物及び水性媒体を除去したものとすることが好ましい。
【0017】
本発明の脱酸素塗剤や脱酸素剤含有塗膜に含有されている有機系脱酸素剤としては、アスコルビン酸、カテコール、エリソルビン酸、ピロガロール、ヒドロキノン、還元性糖類、タンニン酸などが挙げられる。これらは一種のみ用いても、複数種併用してもよい。中でも、アスコルビン酸、カテコール、ピロガロール、タンニン酸が好ましく、特に、価格、効果の面からアスコルビン酸が好ましい。
【0018】
なお、一般的な有機系脱酸素剤にはアスコルビン酸ナトリウムなどの有機酸塩も知られているが、本発明においては安定な脱酸素塗剤が得られないことから、このような有機酸塩は用いないことが好ましい。
【0019】
本発明の脱酸素塗剤や脱酸素剤含有塗膜に含有されているポリアミド樹脂Aは、ダイマー酸を所定量含むと共に、アミン価が酸価より高くかつアミン価が所定の範囲を満足するダイマー酸系ポリアミド樹脂である。
【0020】
本発明におけるダイマー酸系ポリアミド樹脂は、主鎖にアミド結合を有するものであり、主にダイマー酸を含むジカルボン酸成分とジアミン成分を用いた脱水縮合反応によって得られるものである。ダイマー酸とは、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られるものであり、水素添加して不飽和度を低下させたものも含まれる。
【0021】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂として広く使用されているナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などの樹脂に比べて、大きな炭化水素グループを有するために柔軟性を有している。ダイマー酸としては、例えば市販されているハリダイマーシリーズ(ハリマ化成社製)、プリポールシリーズ(クローダジャパン社製)、ツノダイムシリーズ(築野食品工業社製)などを用いることができる。
【0022】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂を構成する全ジカルボン酸成分のうち、ダイマー酸の含有割合は50モル%以上であることが必要であり、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。ダイマー酸の含有割合が50モル%未満であると、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の特性や効果を奏することが困難となる場合がある。
【0023】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂におけるダイマー酸以外の他のジカルボン酸成分としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ノナンジカルボン酸、フマル酸などが挙げられる。他のジカルボン酸成分の含有割合は、ジカルボン酸成分全体の50モル%未満であり、30モル%以下であることが好ましい。ダイマー酸以外の他のジカルボン酸成分を含有することにより、樹脂の軟化点や接着性などの制御が容易となる。
また、ダイマー酸製造時の副生物であるモノマー酸(単量体、炭素数18)やトリマー酸(三量体、炭素数54)、さらには炭素数20〜54などの他の重合脂肪酸なども、ポリアミド樹脂Aを構成する一成分として用いてよく、その使用量としては、ダイマー酸の使用量に対し25質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
また、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を構成するジアミン成分としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、m−キシレンジアミン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピペラジンなどが挙げられ、中でもエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、m−キシレンジアミン、ピペラジンが好ましい。
【0025】
本発明においてダイマー酸系ポリアミド樹脂は、アミン価が酸価より高くかつアミン価が所定の範囲を満足することが必要である。これは、アミン価が酸価よりも低くなると、得られる水性分散体の酸性域における安定性が大幅に低下するからである。
【0026】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂のアミン価は、1mgKOH/g以上であることが必要である。アミン価が1mgKOH/g未満であると、得られる水性分散体の安定性が大幅に低下する。アミン価の上限としては、特に限定されるものでないが、実用上50mgKOH/gまでとするのが好ましい。アミン価が50mgKOH/gを超えると、得られる塗膜の耐薬品性が低下する傾向にある。さらに、実用面に加え本発明の効果などを考慮すると、アミン価は、3〜25mgKOH/gであることが好ましく、5〜20mgKOH/gであることがより好ましい。
【0027】
一方、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の酸価は、40mgKOH/g以下であることが好ましく、10mgKOH/g以下であることがより好ましく、2mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。酸価が40mgKOH/gを超えると、得られる塗膜の耐薬品性が低下する傾向にある。
【0028】
なお、アミン価とは、樹脂1g中のアミン成分とモル当量となる水酸化カリウムのミリグラム数で表されるものである。一方、酸価とは、樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数で定義されるものである。いずれも、JIS K2501に記載の方法で測定される。
【0029】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂は、所定量のアミン価を有することにより、水性媒体中に分散する能力を備えることになる。本発明の塗剤では、後述するように酸性化合物を用いるが、この酸性化合物でポリアミド樹脂中のアミノ基の一部又は全てを中和することで、アミノカチオンが生成する。そして、生成したアミノカチオン間の静電気的反発力によって、水性媒体中でのポリアミド樹脂粒子間の凝集を防ぐことができる。凝集を防ぐことにより、本発明の脱酸素塗剤は、ポリアミド樹脂が均一に分散された、酸性域で安定なカチオン性水性塗剤となる。ここで、ポリアミド樹脂が均一に分散された水性塗剤とは、外観上、水性媒体中に沈殿、相分離あるいは皮張りといった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない状態にあるものをいう。
【0030】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂の重合度、酸価及びアミン価を所望の範囲とすることは、樹脂を重合する際のジカルボン酸成分とジアミン成分との仕込み比を調整することにより可能である。
【0031】
また、本発明におけるダイマー酸系ポリアミド樹脂の軟化点は、70〜250℃であることが好ましく、80〜240℃であることがより好ましく、80〜200℃であることがさらに好ましい。軟化点が70℃未満であると、得られる塗膜の強度が低くなる傾向にあり、また室温におけるタック感が高くなる傾向にある。一方、軟化点が250℃を超えると、樹脂を水性媒体中に分散させるのが困難となる傾向にある。
【0032】
ポリアミド樹脂Aは、良好な密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性などを有しているが、最も特徴的な性質は水分散性に優れるところであり、後述する水性分散化方法によって、酸性域で安定なカチオン性水性分散体とすることができるものである。
【0033】
本発明の脱酸素塗剤や脱酸素剤含有塗膜は、上記したような有機系脱酸素剤とポリアミド樹脂Aとに加えて、吸湿材料および/または遷移金属化合物を含有する。
【0034】
本発明の脱酸素塗剤や脱酸素剤含有塗膜に含有される吸湿材料とは水分を吸着、保持することができる材料を意味する。この吸湿材料は、脱酸素反応の活性化剤として作用するため、含まない場合と比べて穏やかな条件下で脱酸素反応を進行させることが可能になる。具体的な吸湿材料としては、活性炭粒子、無機粒子、吸湿性樹脂が挙げられる。これらは単体で使用してもよいし、2種類以上の材料を混合して用いてもよい。特に、活性炭粒子は少量で効果を発現するので効果的であり好ましい。
【0035】
本発明の脱酸素塗剤や脱酸素剤含有塗膜に含有されている活性炭粒子とは微細な孔を持つ多孔性炭素の粒子を意味する。粒子サイズは特に限定されるものではないが、塗剤中の分散安定性や、塗工ムラの抑制の点から、メジアン径が50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。
製造原料は特に限定されるものではなく、石炭やヤシ殻、大鋸屑などが挙げられる。またその製造方法も特に限定されるものではなく、ガス賦活法や薬品賦活法を用いることができる。
活性炭粒子は市販品を用いてもよく、例えば、日本エンバイロケミカルズ社製「白鷺」やクラレケミカル社製「クラレコール」、三菱化学カルゴン社製「ダイヤホープ」、「カルゴン」などを例示することができる。
ここで、活性炭粒子のメジアン径は、微粒物質の粒子径を測定するために一般的に使用されている動的光散乱法によって測定される。
【0036】
本発明の脱酸素塗剤や脱酸素剤含有塗膜に含有されている無機粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニアなどの酸性領域で安定な金属酸化物の微粒子が挙げられる。これらは一種のみ用いても、複数種併用してもよい。中でも、価格、効果の面からシリカ、アルミナが好ましい。
粒子サイズは特に限定されるものではないが、塗剤中の分散安定性や、塗工ムラの抑制の点から、メジアン径が10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以下であることが特に好ましい。塗剤に加える際の形状も特に限定されるものではないが、混合安定性や取り扱いやすさの面からゾルの形状であることが好ましい。
無機粒子は市販品を用いてもよく、例えば、シリカとしては東ソー・シリカ社製「NIPGEL」、シリカゾルとしては日産化学社製「スノーテックス」、アルミナゾルとしては日産化学社製「アルミナゾル」などを例示することができる。
ここで、無機粒子のメジアン径は、微粒物質の粒子径を測定するために一般的に使用されている動的光散乱法によって測定される。
【0037】
本発明の脱酸素塗剤や脱酸素剤含有塗膜に含有されている吸湿性樹脂とは温度20℃、湿度65%における飽和吸湿率が15%を超える樹脂を意味する。飽和吸湿率は20%を超えることが好ましく、30%を超えることがより好ましく、40%を超えることが特に好ましい。吸湿性樹脂は、本発明の脱酸素塗剤中において、溶解していても、分散していてもかまわない。分散している場合の樹脂粒子サイズは特に限定されるものではないが、塗剤中の分散安定性や、塗工ムラの抑制の点から、メジアン径が50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。
樹脂種は特に限定されるものではなく、アクリル系樹脂やポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、ポリエチレンオキシド系樹脂、デンプン系、セルロース系が挙げられる。またその製造方法も特に限定されるものではない。
ここで、樹脂粒子のメジアン径は、微粒物質の粒子径を測定するために一般的に使用されている動的光散乱法によって測定される。
【0038】
本発明の脱酸素塗剤や脱酸素剤含有塗膜に含有されている遷移金属化合物とは、遷移金属イオンと無機酸もしくは有機酸との塩化合物、又は有機化合物との錯化合物であり、水和物、無水和物のいずれの化合物をも用いることができる。遷移金属としては、鉄、銅、マンガン、バナジウム、クロム、コバルト、ニッケル、亜鉛等を挙げることができる。遷移金属化合物は、単体で用いても複数の混合物でもよい。具体的には、塩化鉄、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、ステアリン酸鉄、クエン酸銅、ステアリン酸銅、塩化銅等が挙げられる。なお安全性の観点からはクエン酸鉄が好ましい。
【0039】
上記吸湿材料と遷移金属化合物とは、それぞれ単独で使用してもよく、また併用してもよい。吸湿材料と遷移金属化合物とを併用することにより、塗膜の脱酸素能を一層向上させることができる。また遷移金属化合物と活性炭以外の吸湿材料とを併用すると任意の外観(色)を有する塗剤を調製することができる。すなわち、活性炭粒子は、塗膜の脱酸素能を向上させる点で非常に有効な吸湿材料であるが、これを使用すると塗膜の外観を黒色にし易く、塗膜の外観(色)を調整し難くなる。しかしながら、脱酸素能の向上効果に多少劣る吸湿材料であっても、遷移金属化合物を併用することでこれを補完できるから、塗膜の外観を黒色にし難い吸湿材料を使用さえすれば、外観と共に脱酸素能の向上が期待できるようになる。
【0040】
本発明の脱酸素塗剤には、上記した特定組成のポリアミド樹脂Aと、有機系脱酸素剤と、吸湿材料および/または遷移金属化合物とが含有されているが、ポリアミド樹脂Aと有機系脱酸素剤と吸湿材料の総濃度(固形分濃度)は1〜40質量%が好ましく、中でも3〜35質量%が好ましく、5〜25質量%がさらに好ましい。固形分濃度が1質量%未満では、基材に塗工する際に十分な厚さの塗膜を形成しにくくなり、一方、40質量%を超えると、ポリアミド樹脂Aや吸湿材料の水性媒体中での分散性が低下することがある。
【0041】
また、本発明の脱酸素塗剤や脱酸素剤含有塗膜に含有されている有機系脱酸素剤とポリアミド樹脂Aと吸湿材料および/または遷移金属化合物の質量比は特に限定されるものではないが、塗膜にした際の基材への接着性と脱酸素塗剤の脱酸素効果を考慮すると、ポリアミド樹脂Aと有機系脱酸素剤の質量比(ポリアミド樹脂A/有機系脱酸素剤)が1/99〜99/1であることが好ましく、中でも5/95〜90/10であることが好ましく、さらには10/90〜80/20であることが好ましい。
吸湿材料の含有量は、塗膜にした際の基材への接着性と脱酸素塗剤の脱酸素効果を考慮すると、総固形分の0.1〜35質量%であることが好ましく、0.5〜30質量%であることがさらに好ましく、1〜25質量%であることが特に好ましい。0.1質量%未満では添加効果が得られず、35質量%を超えると基材への接着性が低下する場合がある。
遷移金属化合物の含有量は、有機系脱酸素剤の0.1〜50質量%であることが好ましく、0.5〜30質量%であることがより好ましく、1〜10質量%であることが特に好ましい。0.1質量%未満では効果が得がたく、50質量%を超えると液の安定性が低下する場合がある。
【0042】
本発明の脱酸素塗剤は、上記したような有機系脱酸素剤、ポリアミド樹脂A、吸湿材料および/または遷移金属化合物に加えて、酸性化合物を水性媒体中に含有する脱酸素塗剤である。なお、本発明の脱酸素塗剤における水性媒体とは、水、または水と有機溶媒との混合液をいうものである。
【0043】
本発明では、この酸性化合物を含有していることにより、前述したようにポリアミド樹脂A中のアミノ基の一部または全てを中和することができる。そして、アミノ基の中和によってポリアミド樹脂Aにアミノカチオンが生成し、生成したアミノカチオン間の静電気的反発力によって、水性媒体中でのポリアミド樹脂A粒子間の凝集を防ぐことができる。本発明の脱酸素塗剤は、ポリアミド樹脂Aが均一に分散された、酸性域で安定なカチオン性水性塗剤である。
【0044】
従来、ポリアミド樹脂を水性媒体中に均一に分散させる方法としては、末端にカルボキシル基などを有するポリアミド樹脂と塩基性化合物(具体的には、アンモニアや、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンなどの有機アミン化合物)を含有させて、ポリアミド樹脂を塩基性化合物で中和する方法もある。このとき、中和によってカルボキシルアニオンが生成し、生成したカルボキシルアニオン間の静電気的反発力によって、水性媒体中でのポリアミド樹脂粒子間の凝集を防ぐことができ、分散安定性を付与することができる。
【0045】
このようなカルボキシル基を有するポリアミド樹脂を用いた場合、ポリアミド樹脂の分散安定性を維持するためには、ポリアミド樹脂が水性媒体中に分散した水性分散体を塩基性領域に維持する必要があるが、塩基性領域の水性分散体中に、アスコルビン酸などの有機系脱酸素剤を添加すると、水性分散体の安定性が低下してポリアミド樹脂が凝集したり、有機系脱酸素剤の分解が著しく促進されるという問題が生じる。したがって、有機系脱酸素剤を含有する脱酸素塗剤は、中性から酸性領域に維持されていることが好ましい。
【0046】
そこで、本発明の塗剤においては、上記したようにポリアミド樹脂Aとともに酸性化合物を用いることにより、ポリアミド樹脂Aが水性媒体中に均一に分散された酸性域で安定なカチオン性水性分散体とすることができるので、有機系脱酸素剤を安定して、換言すると、分解が著しく促進されることなく、含有させることが可能となる。
【0047】
本発明における酸性化合物は、酸解離定数(pKa)が8以下であることが好ましく、−9〜7がより好ましく、−5〜6がさらに好ましく、0〜5が特に好ましい。酸解離定数(pKa)が8を超えると、アミノ基が中和されにくくなり、ポリアミド樹脂Aの水性分散化が困難となる傾向がある。しかし、低すぎる場合も、腐食性が強いため、水性分散化の設備や水性分散体を利用するための設備を傷めることがある。また、有機系脱酸素剤の分解を著しく促進することも懸念される。
【0048】
酸解離定数(pKa)が8以下である酸性化合物の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、乳酸などの有機酸;塩酸、硫酸、リン酸、硝酸などの無機酸が挙げられ、これらの中でも、比較的腐食性が低く、かつアミノ基の中和に優れる有機酸が好ましく、中でもギ酸、酢酸がさらに好ましい。
【0049】
また、酸性化合物は、本発明の脱酸素剤含有塗膜中には含有されていないことが好ましい。本発明の脱酸素剤含有塗膜中に酸性化合物が含有されていると、基材との接着性が低下したり、耐水性が低下する場合がある。このため、酸性化合物は揮発性であることが好ましく、具体的には、沸点が20〜250℃であることが好ましく、30〜200℃がより好ましく、50〜150℃がさらに好ましく、50〜120℃が特に好ましい。
酸性化合物が不揮発性であったり、沸点が高すぎると、本発明の脱酸素剤含有塗膜中に酸性化合物が残留しやすくなる。また沸点が低すぎると、水性分散化する際に揮発する割合が多くなり、ポリアミド樹脂A中のアミノ基が十分に中和されない場合がある。
【0050】
本発明の脱酸素塗剤は、pHが2〜6であることが好ましい。塗剤のpHが6を超えると塗剤の保存安定性が乏しくなる場合がある。一方、pHが2未満では酸性化合物の添加量が多くなり、コストアップの原因となったり、塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、有機系脱酸素剤の分解が著しく促進される場合がある。
【0051】
脱酸素塗剤のpHをこの範囲内のものとするには、酸性化合物の含有量を調整することにより可能である。酸性化合物の含有量はポリアミド樹脂Aの種類や、ポリアミド樹脂Aと有機系脱酸素剤との比率、吸湿材料および/または遷移金属化合物の含有量、塗剤中のポリアミド樹脂Aと有機系脱酸素剤と吸湿材料および/または遷移金属化合物の総濃度(固形分濃度)によっても異なるが、ポリアミド樹脂Aのアミノ基のモル数に対して0.5〜5倍当量モルが好ましく、0.8〜3倍当量モルがより好ましく、1〜2.5倍当量モルがさらに好ましい。
【0052】
本発明の脱酸素塗剤は、不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有していないことが好ましい。不揮発性水性分散化助剤を含有していると、塗剤を塗工して得られる塗膜中に残存し、塗膜を可塑化したり親水化したりする。このため、塗膜の基材への接着性や耐水性、耐溶剤性などが低下する。また、不揮発性助剤が塗膜表面にブリードアウトすることで脱酸素機能を低下させることも懸念される。
【0053】
ここで「不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しない」とは、不揮発性水性分散化助剤を積極的に脱酸素塗剤中に添加しないことであり、ポリアミド樹脂A100質量部に対して不揮発性水性分散化助剤の含有量が0.1質量部未満であることを言い、好ましくはこの含有量がゼロである。また、不揮発性とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0054】
「不揮発性水性分散化助剤」とは、ポリアミド樹脂Aの水性分散化において、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される不揮発性の薬剤や化合物をいうものであり、具体的には、乳化剤が挙げられる。乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、カチオン性乳化剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩などの第四級アンモニウム塩類やアルキルアミン塩類などが挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0055】
本発明において、水性媒体とは、水、または水と有機溶媒との混合液をいう。水性媒体が有機溶媒を含むことで基材への塗工性を向上させることができる。
【0056】
本発明の脱酸素塗剤中の有機溶媒の含有量は、ポリアミド樹脂Aと有機系脱酸素剤との比率、吸湿材料および/または遷移金属化合物の含有量、ポリアミド樹脂Aと有機系脱酸素剤と吸湿材料および/または遷移金属化合物の総濃度(固形分濃度)、pH、有機溶媒の種類、用途により種々調整されるものであるが、塗剤中の1〜97質量%であることが好ましく、5〜95質量%であることがより好ましく、10〜90質量%であることがさらに好ましく、20〜80質量%であることが特に好ましい。有機溶媒含有量が97質量%を超えた場合には、塗剤の保存安定性が低下する場合があり、1質量%未満の場合では、塗工性向上効果が乏しくなりやすい。
【0057】
また、後述するポリアミド樹脂Aの水性分散化に際して、有機溶媒を添加することで、アミノ基の含有量が少なくても、また不揮発性水性分散化助剤を実質的に添加しなくても、ポリアミド樹脂Aの水性媒体への分散化を促進し、ポリアミド樹脂Aの粒子径を小さくすることができる。
【0058】
なお、ポリアミド樹脂Aの水性分散化に際しては、水性媒体中の有機溶媒の含有量は、50質量%以下が好ましく、1〜40質量%であることがより好ましく、2〜35質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。有機溶媒の含有量が50質量%を超える場合には、水性分散化の促進効果が変らないかもしくは低下する傾向にある。
【0059】
有機溶媒は、脱酸素塗剤の保存安定性を良好とするためには、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上であることが好ましく、100g/L以上であることがより好ましく、600g/L以上であることがさらに好ましく、20℃における水と任意の割合で溶解するものが特に好ましい。
【0060】
また、有機溶媒の沸点は30〜250℃であることが好ましく、50〜200℃であることがより好ましい。有機溶媒の沸点が30℃未満の場合は、脱酸素塗剤調製時や保存中、塗工中に揮発する割合が多くなり、添加効果が十分に高まらない場合がある。また、後述するポリアミド樹脂Aの水性分散化においても、揮発する割合が多くなり、分散効率が十分に高まらない場合がある。沸点が250℃を超える場合は、塗剤から得られる塗膜に残留しやすく、基材への接着性や耐水性や耐溶剤性が低下する傾向にある。
【0061】
20℃における水に対する溶解性が50g/L以上でかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体;さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられる。なお、これら有機溶媒は2種以上を混合して使用してもよい。
【0062】
上記の中でも、価格、取り扱いの点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0063】
また、本発明の脱酸素塗剤には、その特性が損なわれない範囲で、ポリアミド樹脂A以外の樹脂、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤などの添加物を添加してもよい。
【0064】
中でも架橋剤を添加することで、得られる塗膜の硬度を上げることができる。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤;アミノ基、アクリル酸エステルやカルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物;多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、具体的には、ヒドラジド化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤、有機過酸化物等が好ましい。また、これらの架橋剤を2種類以上併用してもよい。
【0065】
次に、本発明の脱酸素塗剤の製造方法について述べる。
上記したような有機系脱酸素剤、ポリアミド樹脂A、吸湿材料および/または遷移金属化合物、酸性化合物、水性媒体を含む脱酸素塗剤を得るための方法としては、ポリアミド樹脂Aの分散安定性の観点から、ポリアミド樹脂Aの水性分散体を予め調製しておき、有機系脱酸素剤や吸湿材料および/または遷移金属化合物と混合して得る方法が最も好ましい。このようにすれば、ポリアミド樹脂水性分散体の有する優れた分散、保存安定性が維持され、必要時に有機系脱酸素剤や吸湿材料および/または遷移金属化合物と混合することで、有機系脱酸素剤の機能維持が容易になる。以下、この方法について詳述する。
【0066】
まず、ポリアミド樹脂Aの水性分散体の製造方法について説明する。
ポリアミド樹脂Aの水性分散体を得るための水性分散化方法としては、密閉可能な容器中で、酸性化合物、水性媒体とともに加熱、攪拌する方法が好ましい。容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入された酸性化合物と、水性媒体と、樹脂粉末ないしは粒状物との混合物を適度に撹拌できるものであればよい。そのような装置としては、固/液撹拌装置や乳化機を使用することができ、耐圧性であることが好ましい。撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されないが、樹脂が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でも十分水性化が達成され、高速撹拌(例えば1000rpm以上)は必須ではない。このため、簡便な装置でも水性分散体の製造が可能である。
【0067】
前記のような容器に、ポリアミド樹脂A、酸性化合物、水性媒体(水と有機溶媒)を投入し、次いで、槽内の温度を70〜280℃、好ましくは100〜250℃の温度に保ちつつ、好ましくは5〜180分間攪拌を続けることによりポリアミド樹脂Aを十分に分散化させることができる。その後、好ましくは攪拌下で40℃以下に冷却することにより、水性分散体を得ることができる。槽内の温度が70℃未満の場合は、ポリアミド樹脂Aの分散効果が低く、280℃を超えても水性分散化の効果はそれ以上向上しない。
【0068】
なお、樹脂の分散を促進させる目的で、トルエンやシクロヘキサンなどの炭化水素系有機溶剤を、水性媒体を構成する成分の全体に対し、10質量%以下の範囲で配合してもよい。炭化水素系有機溶剤の配合量が10質量%を超えると、製造工程において水との分離が著しくなり、均一な水性分散体が得られない場合がある。
【0069】
この方法によれば、不揮発性水性化助剤を実質的に添加しなくとも、ポリアミド樹脂Aが良好に分散された水性分散体とすることができる。
【0070】
上述の方法により得られる水性分散体は、きわめて良好に分散しており、未分散樹脂がほとんどまたは全く残存しないものである。しかしながら、容器内の異物や少量の未分散樹脂を除くために、水性分散体を払い出す際は、濾過工程を設けてもよい。濾過方法は限定されないが、例えば、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(例えば空気圧0.5MPa)する方法が挙げられる。このような濾過工程を設けることで、未分散樹脂が存在した場合であっても除去できるため、以降の工程で水性分散体の使用は問題ないものとなる。
【0071】
上記のようにして、ポリアミド樹脂Aが水性媒体中に均一に分散された水性分散体が調製される。
【0072】
なお、水性分散体中のポリアミド樹脂Aの数平均粒子径は、1000nm以下であることが好ましく、中でも500nm以下であることが好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、90nm以下が特に好ましく、80nm以下が最も好ましい。数平均粒子径が1000nmを超える場合は、水性分散体の保存安定性が低下したり、塗工した際の造膜性が不均一となる傾向がある。
【0073】
さらに、水性分散体中のポリアミド樹脂Aの体積平均粒子径は、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、90nm以下が特に好ましい。ポリアミド樹脂Aの体積平均粒子径が1000nmを超える場合は、水性分散体の保存安定性が低下したり、塗工した際の造膜性が不均一となる傾向がある。
【0074】
また、ポリアミド樹脂Aの水性分散体中に含まれる有機溶媒は、その一部をストリッピングと呼ばれる脱溶剤操作で水性分散体から除くことができる。このようなストリッピングによって有機溶媒の含有量は、必要に応じて0.1質量%以下まで低減することが可能である。有機溶媒の含有量が0.1質量%以下となっても、水性分散体の性能面での影響は生じない。ストリッピングの方法としては、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶媒を留去する方法を挙げることができる。
【0075】
水性分散体中に含まれるポリアミド樹脂Aの固形分濃度としては、脱酸素塗剤とした際の混合安定性や塗工性、塗工した際の厚みを良好に保持つために、水性分散体の2〜60質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましく、10〜45質量%がさらに好ましい。
【0076】
上述のようにして得られたポリアミド樹脂Aの水性分散体と有機系脱酸素剤や吸湿材料および/または遷移金属化合物を混合することにより、本発明の脱酸素塗剤を得ることができる。混合する際には、公知の装置を使用することが可能である。必ずしも特殊な混合装置を必要とはせず、一般的な撹拌羽根による撹拌で十分であるが、ホモジナイザーやホモミキサー、ペイントシェーカー、遊星式撹拌装置等を使用してもよい。また、本発明の脱酸素塗剤は分散安定性を維持するために、水性分散体のpHが2〜6になるようにpH調整を行うことが好ましい。
【0077】
また、本発明の脱酸素塗剤中のポリアミド樹脂Aや有機系脱酸素剤、吸湿材料および/または遷移金属化合物の総濃度(固形分濃度)を調整する方法としては、例えば、塗剤中の水性媒体を留去する方法や、水や前記した有機溶媒などにより希釈する方法が挙げられ、容易に総濃度の調整が可能である。
【0078】
次に、本発明の塗膜、積層体について説明する。
本発明の脱酸素塗剤は、造膜性(塗膜形成性)に優れており、塗工し、乾燥させることにより容易に塗膜を形成することができる。さらに樹脂材料、紙、合成紙、布帛、金属材料、ガラス材料等の多種多様な基材に対しての接着性に優れているので、これらの材料を基材として用いることができる。
本発明の積層体は、基材上に本発明の脱酸素剤含有塗膜が積層されてなるものである。そして、基材上の脱酸素剤含有塗膜は、本発明の脱酸素塗剤を塗工することにより得られたものであることが好ましい。
【0079】
本発明の積層体における脱酸素剤含有塗膜の厚さは、形態や要求される性能によって適宜選択することができるものであるが、0.05〜1000μmが好ましく、0.1〜100μmがより好ましく、0.2〜50μmが特に好ましい。
【0080】
基材に用いることができる紙としては、和紙、クラフト紙、ライナー紙、アート紙、コート紙、カートン紙、グラシン紙、セミグラシン紙等を挙げることができる。
【0081】
基材に用いることのできる合成紙としては、その構造は特に限定されず、単層構造であっても多層構造であってもよい。多層構造としては、例えば基材層と表面層の2層構造、基材層の表裏面に表面層が存在する3層構造、基材層と表面層の間に他の樹脂フィルム層が存在する多層構造を例示することができる。また、各層は無機や有機のフィラーを含有していてもよい。また、微細なボイドを多数有する微多孔性合成紙も使用することができる。
【0082】
基材に用いることのできる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)などのポリエステル樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン6、ポリ−m−キシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリルニトリル樹脂、ポリイミド樹脂、これらの樹脂の複層体(例えば、ナイロン6/MXD6ナイロン/ナイロン6、ナイロン6/エチレン−ビニルアルコール共重合体/ナイロン6)や混合体等が挙げられる。
【0083】
これらの樹脂材料からなる基材としては、射出成形等により板状に成形したもの、溶融してシート状に延伸したもの、シートをさらに延伸してフィルム状としたもの、樹脂材料またはその原料を含む溶液を塗工、乾燥してフィルム状にしたもの等が挙げられる。これらの樹脂中には公知の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤などを含んでいてもよい。また、その他の材料と積層する場合の接着性を向上させるために、樹脂材料からなる基材の表面にコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等が施されていてもよい。さらには、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよい。
【0084】
基材に用いることのできる布帛としては、上述した合成樹脂からなる繊維や、木綿、絹、麻などの天然繊維を用いた織編物や不織布等が挙げられる。
【0085】
基材に用いることのできる金属材料としては、アルミ箔や銅箔などの金属箔やアルミ板や銅板などの金属板などが挙げられ、ガラス材料の例としてはガラス板やガラス繊維からなる布帛などが挙げられる。
【0086】
基材上に本発明の脱酸素剤含有塗膜を設ける方法としては、本発明の脱酸素塗剤を基材上に塗工後、脱酸素塗剤から水性媒体等を除去する方法、剥離紙上に本発明の脱酸素塗剤を塗工して水性媒体等を除去して得られた塗膜を基材上に転写する方法が挙げられる。中でも、前者の方法が簡便で好ましい。
【0087】
本発明の脱酸素塗剤は造膜性に優れているので、塗工する際には、公知の成膜方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、はけ塗り法等を採用することができ、各種の基材表面に均一に塗工することができる。塗工後は必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥又は乾燥と焼き付けのための加熱処理を行い、水性媒体等を除去する。これにより、均一な塗膜が基材表面に良好に接着した(密着した)積層体を得ることができる。
【0088】
乾燥又は乾燥と焼き付けのための加熱処理を行う際には、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間は、塗剤や基材の特性や種類等により適宜選択されるものであるが、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、30〜250℃が好ましく、60〜200℃がより好ましく、80〜180℃が特に好ましく、加熱時間としては、1秒〜20分が好ましく、5秒〜15分がより好ましく、5秒〜10分が特に好ましい。なお、前記したように、本発明の脱酸素塗剤中に架橋剤を添加した場合は、架橋反応を十分進行させるために、加熱温度および時間は架橋剤の種類によって適宜選定することが望ましい。
【0089】
本発明の脱酸素剤含有塗膜は、ポリアミド樹脂Aを含有するため、ヒートシール性を有する。したがって、本発明の積層体として、基材に樹脂フィルムやシート、合成紙、金属箔を使用した場合には、脱酸素剤含有塗膜同士を重ね合わせて加熱処理することにより、包体とすることもできる。このような包体としては、三方シール袋、四方シール袋、ガセット包装袋、ピロー包装袋などが挙げられる。
【0090】
さらに、本発明の積層体は、脱酸素剤含有塗膜上にシーラント層が積層されていることが好ましい。シーラント層とは、常温では粘着性を示さず、かつヒートシール性を有するものである。シーラント層を設けることにより、さらにヒートシール性を向上させることができ、上記したような包体とする場合に好適である。
【0091】
シーラント層を設ける方法は特に限定されないが、後述するシーラント樹脂をシート又はフィルム状とし、本発明の積層体の塗膜面に載置し、熱によって貼り合わせる方法(熱ラミネート、ドライラミネート)や、本発明の積層体の塗膜面に溶融させたシーラント樹脂を押し出して貼り合わせる方法(押出ラミネート法)などが挙げられる。
【0092】
本発明の脱酸素剤含有塗膜は、ポリアミド樹脂Aを含有するため、優れたラミネート適性を有するので、いずれのラミネート法も用いることができるが、最も経済的な方法である押出ラミネート法が、本発明の脱酸素塗剤の性能を発揮できる最適な方法である。
【0093】
シーラント層の厚みは10〜50μmの範囲が好ましく、20〜40μmの範囲がより好ましい。シーラント層が50μmを超えると脱酸素反応に時間がかかる場合があり、一方、シーラント層の厚みが10μm未満であると、シーラント層を設ける効果に乏しくなる。
【0094】
シーラント層を形成する樹脂としては、公知のシーラント樹脂が使用できる。具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)や高密度ポリエチレン(HDPE)などのポリエチレン、酸変性ポリエチレン、ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、アイオノマー等のポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル等のアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂等が挙げられ、中でも低温ヒートシール性に優れるポリエチレン系樹脂が好ましく、安価であることからポリエチレンが特に好ましい。
【0095】
また、シーラント層を有する積層体において、シーラント層にポリプロピレン樹脂製チャックを設けて、チャック付き包装袋とすることもできる。
【0096】
さらに、本発明の積層体は、基材がバリア性を有するものであることが好ましい。基材がバリア性を有することで、例えば、包体とした場合に、外部から酸素が混入することを抑制することができる。
【0097】
バリア性を有する基材としては、アルミニウム箔などの軟質金属箔や、塩化ビニリデン系樹脂、変性PVA、エチレンビニルアルコール共重合体、MXDナイロンなどのようなバリア性を有する樹脂材料から形成された基材や、バリア性を有していない材料から形成された基材上にバリア層を積層した基材が挙げられる。
【0098】
バリア層としては、アルミニウム箔などの軟質金属箔や、アルミニウム蒸着、シリカ蒸着、アルミナ蒸着、シリカアルミナ2元蒸着などの蒸着層、また、上述のバリア性を有する樹脂材料からなる層などが挙げられる。
【0099】
バリア性を有する基材のバリア性は、包装する内容物や保存期間など用途によって適宜選択すればよいが、酸素透過度が、100ml/m・day・MPa(20℃、90%RH)以下であることが好ましく、20ml/m・day・MPa以下がより好ましく、10ml/m・day・MPa以下がさらに好ましく、1ml/m・day・MPa以下が特に好ましい。水蒸気透過度は100g/m・day(40℃、90%RH)以下であることが好ましく、20g/m・day以下がより好ましく、10g/m・day以下がさらに好ましく、1g/m・day以下が特に好ましい。
【0100】
バリア性を有する基材としては、バリア性を有していない材料から形成された基材上にバリア層を積層した基材が好ましく、バリア層としては、バリア性の点から、アルミニウム箔、アルミニウム、シリカ、アルミナ等の蒸着層が好ましく、安価である点からアルミニウム箔がより好ましい。アルミニウム箔の厚みは特に限定されないが、経済的な面から3〜50μmの範囲が好ましい。
【0101】
アルミニウム、シリカ、アルミナ等の蒸着層を積層した基材としては、市販の蒸着フィルムを使用することが簡便であり、このような蒸着フィルムとしては、例えば、大日本印刷社製の「IBシリーズ」、凸版印刷社製の「GL、GXシリーズ」、東レフィルム加工社製の「バリアロックス」、「VM−PET」、「YM−CPP」、「VM−OPP」、三菱樹脂社製の「テックバリア」、東セロ社製の「メタライン」、尾池工業社製の「MOS」、「テトライト」、「ビーブライト」などを用いることができる。なお、蒸着層の上に保護コート層を設けてもよい。
【0102】
また、バリア性を有する基材としては、バリア性の樹脂を含む塗剤を基材にコーティングしたものや、前記樹脂を共押し出し法により基材上に積層したものがあるが、市販のバリアフィルムを用いることが簡便であるため好ましい。
【0103】
市販のバリアフィルムとしては、クラレ社製の「クラリスタ」、「エバール」、呉羽化学工業社製の「ベセーラ」、三菱樹脂社製の「スーパーニール」、興人社製の「コーバリア」、ユニチカ社製の「セービックス」、「エンブロンM」、「エンブロンE」、「エンブレムDC」、「エンブレットDC」、「NV」、東セロ社製の「K−OP」、「A−OP」、ダイセル社製の「セネシ」などが挙げられる。
【0104】
バリア性を有する基材上に本発明の塗膜を積層する方法としては、本発明の脱酸素塗剤を前記したバリア性を有する基材上に塗工した後、乾燥させて水性媒体等を除去する方法、剥離紙等の上に本発明の脱酸素塗剤を塗工した後、乾燥させて水性媒体等を除去して得た塗膜を、バリア性を有する基材上に転写する方法が挙げられるが、前者の方法が簡便で好ましい。
【0105】
また、バリア性を有する基材を用い、シーラント層をも有する本発明の積層体を得る方法としては、例えば、本発明の脱酸素塗剤を、バリア性を有する基材上に塗工し、乾燥により水性媒体等を除去して塗膜を形成し、次いでインラインで樹脂を溶融押出(押出ラミネート)することによってシーラント層を積層する方法が簡便であり、特に好ましい方法である。
【0106】
さらに、本発明の積層体は、脱酸素剤含有塗膜の少なくとも上下いずれかに吸湿層が積層されていることが好ましい。吸湿層とは、上述した吸湿材料を含む層である。このような吸湿層を設けることにより、袋状などの形態にした際に、袋内の水分捕捉を促進することで、水分を嫌う内包物の劣化を抑制することができ、さらに捕捉した水分により脱酸素反応をさらに向上させることができるので好適である。
【0107】
吸湿層の厚さは、形態や要求される性能によって適宜選択することができるものであるが、0.05〜1000μmが好ましく、0.1〜100μmがより好ましく、0.2〜50μmが特に好ましい。
【0108】
吸湿層は、上述した吸湿材料を含む層であればよく、特に限定されるものではないが、吸湿材料を保持するための樹脂成分を含むことが好ましい。樹脂の種類も特に限定されるものではなく、ポリエステル系樹脂やポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などを使用することができる。また、吸湿層における吸湿材料の含有量も特に限定されるものではない。
【0109】
吸湿層を設ける方法は特に限定されないが、上述した吸湿材料を含む樹脂をシート又はフィルム状とし、熱によって積層する方法や、上述した吸湿材料を含む溶融樹脂を押し出して積層する方法、上述した吸湿材料と樹脂成分を含む塗剤を塗工して積層する方法などが挙げられる。
【0110】
なお、本発明の積層体においては、上記したような効果を損なわない範囲であれば、他の機能を付与できる層、具体的には、印刷層や帯電防止層、紫外線吸収層、接着層、粘着層などが積層されていてもよい。
【0111】
本発明の脱酸素剤含有塗膜は、水分が近接することにより、脱酸素機能を発現する。このため、水分が近接しない状態であれば、特別な環境下に保つ必要なく大気中で長期間保存することが可能であり、長期保存後の使用も問題ない。
【0112】
また、塗膜上にシーラント層が積層されている積層体であっても、脱酸素反応が進むので、袋製化が可能であり、液体を封入することもできる。
【0113】
本発明の積層体を使用し、脱酸素機能を発現させる際には、近接させる水分として、気体または液体の水分を用いることが好ましく、使用範囲の広さから液体が最も好ましい。その液性としては、中性よりも酸性または塩基性であることが好ましい。
【0114】
液体を近接させる場合、水分を直接積層体の塗膜もしくはシーラント層に接触させてもよいし、吸水性を有する材料に水分を吸着させ、その材料を塗膜もしくはシーラント層に接触させてもよい。本発明の積層体を包材として使用する場合などは、水分を直接積層体に接触させる方法として、内容物に由来する水分を使用することもできる。つまり、積層体を包材とし、包材中に液体や水分を保有する物品を封入すると脱酸素機能が発現しはじめる。
【0115】
また吸水性を有する材料に水分を吸着させる場合は、吸水性を有する材料として、植物由来、動物由来、石油由来、鉱物由来いずれの材料も使用できる。形状も、シート状、糸状、綿状、ゲル状、粘土状など脱酸素層と接触できる形状であればあらゆる形状が使用できる。具体的には、紙、不織布、織編物、活性炭シートなどが挙げられる。
【0116】
なお、活性炭シートとは、活性炭(多孔質の炭素を主成分とする物質)をシート状にしたものである。活性炭および活性炭シートの製法は特に限定されるものではなく、市販品を使用することもできる。例えばユニチカ社製「活性炭繊維シート」、味の素ファインテクノ社製「AFT活性炭シート」、クラレケミカル社製「クラシート」などを例示することができる。
【実施例】
【0117】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値については以下の方法で測定または評価した。
【0118】
1.ポリアミド樹脂の特性
(1)酸価、アミン価
JIS K 2501に記載の方法により測定した。
(2)軟化点温度
樹脂10mgをサンプルとし、顕微鏡用加熱(冷却)装置ヒートステージ(リンカム社製、Heating−Freezing ATAGE TH−600型)を備えた顕微鏡を用いて、昇温速度20℃/分の条件で測定を行い、樹脂が溶融した温度を軟化点とした。
(3)溶融粘度
ブルックフィールド溶融粘度計DV−II+PRO型にて、樹脂温度200℃、ずり速度1.25/秒で測定した。溶融開始後、約25分間回転させ、粘度がほぼ経過時間で安定した時点での溶融粘度の値を読み取った。
【0119】
2.ポリアミド樹脂の水性分散体の特性
(1)外観
水性分散体の色調を目視観察で評価した。
(2)水性分散体中のポリアミド樹脂の平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、300メッシュ濾過後の水性分散体中のポリアミド樹脂の数平均粒子径(nm)を求めた。粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50、媒体の屈折率は1.33とした。
(3)固形分濃度
得られた水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度(質量%)を求めた。
(4)pH
pHメータ(堀場製作所社製、F−52)を用い、温度20℃におけるpHを測定した。
【0120】
3.塗剤の特性
(1)外観
塗剤の色調を目視観察で評価した。
(2)固形分濃度
得られた塗剤を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度(質量%)を求めた。
(3)pH
pHメータ(堀場製作所社製、F−52)を用い、温度20℃におけるpHを測定した。
【0121】
4.塗膜及び積層体の特性
(1)脱酸素能
サンプル袋中の酸素濃度変化で評価した。
〈実施例1〜25、30〜34、比較例1〜4、6、8の積層体〉
得られた積層体から10cm角のサンプルを2枚切り取り、下記に示す濾紙(「挟み込み材」と総称する)を2枚の積層体の塗膜面が接するようにして間に挟み込んだものを脱酸素材料とした。脱酸素材料をポリエステル、アルミニウム、ポリエチレンの順に積層された三層フィルムで形成された袋(アズワン社製『ラミジップ』)に封入し、袋内の空気を除いた後、挿入口部分をヒートシールすることで該袋を密封した。その後セプタムを介してシリンジにより5mlの空気を注入してサンプル袋を調製した。
〈実施例26〜29、比較例7の積層体〉
得られた積層体から14cm角のサンプルを2枚切り取り、下記に示す挟み込み材を2枚の積層体のシーラント層が接するようにして間に挟み込み、空気が入らないように密着させた状態で、四方をシール幅20mmでヒートシールして密封した。その後セプタムを介してシリンジにより5mlの空気を注入してサンプル袋を調製した。
上記で調製したサンプル袋を40℃の恒温環境下で5日間保存後、サンプル袋内の酸素濃度を酸素濃度測定計(PBI Dansensor社製 CheckPoint O/CO)を用いて測定した。なお、本装置により測定した空気中の酸素濃度は21.0%であった。
挟み込み材(9.5cm角):
a:水を含む濾紙(ADVANTEC社製、No.1)
b:水を含まない濾紙(ADVANTEC社製、No.1)
【0122】
(2)接着性
基材として、延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ユニチカ社製、厚み25μm)、アルミニウム箔(Al)(三菱アルミニウム社製、厚み15μm)を用いた。各基材に得られた脱酸素塗剤をワイヤーバーで塗工した後、120℃で1分間、乾燥させ、厚さ1μmの塗膜を有する積層体を得た。
得られた積層体を室温で1日放置した後、塗膜面にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を次の基準で目視評価した。
○:全く剥がれなし。
△:一部が剥がれた。
×:殆どが剥がれた。
【0123】
(3)ラミネート強度
積層体から幅15mmの試験片を採取し、引張り試験機(インテスコ社製 精密万能材料試験機2020型)を用い、T型剥離により試験片の端部から基材(アルミ箔)とシーラント層の間を剥離して強度を測定した。測定は20℃、65%RHの雰囲気中、引張り速度200mm/分で行った。
【0124】
活性炭粒子として下記の活性炭を使用した。
活性炭A:日本エンバイロケミカルズ社製「白鷺A」、メジアン径:53μm
活性炭F:日本エンバイロケミカルズ社製「白鷺FPG−1」、メジアン径:10μm
【0125】
無機粒子として下記の無機材料を使用した。
シリカゾル:日産化学社製「スノーテックス O」、pH:4、メジアン径:10nm、固形分濃度:20質量%
アルミナゾル:日産化学社製「アルミナゾル−520」、pH:4、メジアン径:15nm、固形分濃度:20質量%
シリカ:東ソー・シリカ社製「NIPGEL CX−400」、メジアン径:3.7μm
【0126】
遷移金属化合物として下記の化合物を使用した。
塩化鉄:ナカライテスク社製「塩化鉄(III)六水和物」
クエン酸鉄:ナカライテスク社製「クエン酸鉄(III)n水和物」
クエン酸銅:ナカライテスク社製「クエン酸銅(II)」
【0127】
ポリアミド樹脂としては以下のP−1〜P−8を用いた。
なお、P−1〜P−8製造時には、ダイマー酸原料として、築野食品工業社製「ツノダイム395(商品名)」(ダイマー酸を94質量%、モノマー酸を3質量%、トリマー酸を3質量%含有)を用いた。
【0128】
(ポリアミド樹脂P−1)
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分として、ピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.3mgKOH/g、アミン価が15.5mgKOH/g、軟化点が135℃、230℃における溶融粘度が4500mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0129】
(ポリアミド樹脂P−2)
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分として、ピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.3mgKOH/g、アミン価が3.0mgKOH/g、軟化点が145℃、230℃における溶融粘度が4500mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0130】
(ポリアミド樹脂P−3)
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分として、ピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.1mgKOH/g、アミン価が29.0mgKOH/g、軟化点が138℃、230℃における溶融粘度が3900mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0131】
(ポリアミド樹脂P−4)
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分として、ピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.4mgKOH/g、アミン価が48.0mgKOH/g、軟化点が140℃、230℃における溶融粘度が3800mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0132】
(ポリアミド樹脂P−5)
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分として、ピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.2mgKOH/g、アミン価が60.0mgKOH/g、軟化点が133℃、230℃における溶融粘度が4400mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0133】
(ポリアミド樹脂P−6)
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分として、ピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.2mgKOH/g、アミン価が0.5mgKOH/g、軟化点が135℃、230℃における溶融粘度が4200mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0134】
(ポリアミド樹脂P−7)
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を45モル%、アゼライン酸を55モル%含有し、ジアミン成分として、ピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.2mgKOH/g、アミン価が15.2mgKOH/g、軟化点が130℃、230℃における溶融粘度が4000mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0135】
(ポリアミド樹脂P−8)
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分として、ピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が10.0mgKOH/g、アミン価が0.1mgKOH/g、軟化点が135℃、230℃における溶融粘度が4200mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0136】
ポリアミド樹脂水性分散体を下記のようにして調製した。
(ポリアミド樹脂水性分散体E−1Aの調製)
撹拌機及びヒーターを備えた密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、上記P−1を75g、酸性化合物としてギ酸(和光純薬社製、pKa=3.75)を1.9g(ポリアミド樹脂のアミノ基のモル数に対して2倍当量モル)、親水性有機溶媒としてテトラヒドロフラン(和光純薬社製、以下THF)を93.8g、及び蒸留水を204.3g仕込んだ後、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を300rpmにして撹拌混合した。このとき、撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を120℃とし、さらに60分間撹拌した。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、150gの蒸留水を追加した後、1Lナスフラスコに移し、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、THF及び水を合計して約150g留去(脱溶剤)した。その後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過し、褐色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−1Aを得た。
【0137】
(ポリアミド樹脂水性分散体E−1Bの調製)
ギ酸1.9gに代えて酢酸(和光純薬社製、pKa=4.76)2.5g(ポリアミド樹脂のアミノ基のモル数に対して2倍当量モル)を用いた以外はE−1Aと同様の操作を行って、乳白黄色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−1Bを得た。
【0138】
(ポリアミド樹脂水性分散体E−2〜E−5、E−7の調製)
ポリアミド樹脂P−1に代えてそれぞれP−2〜P−5、P−7を用いた以外は、E−1Aと同様の操作を行って、乳白色や褐色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−2〜E−5、E−7を得た。
【0139】
(ポリアミド樹脂水性分散体E−6、E−8Bの調製試み)
ポリアミド樹脂P−1に代えてそれぞれP−6、P−8を用いる以外、E−1Aと同様の方法にてポリアミド樹脂水性分散体を調製しようと試みた。しかし樹脂塊が残り、水性分散体は得られなかった。
【0140】
(ポリアミド樹脂水性分散体E−8Aの調製)
撹拌機及びヒーターを備えた密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、P−8を75g、イソプロパノール(和光純薬社製、以下IPA)を37.5g、THFを37.5g、N,N−ジメチルエタノールアミン(和光純薬社製、以下DMEA)を7.5g、蒸留水を217.8g仕込んだ。そして、回転速度300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、120℃で60分間加熱攪拌した。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、150gの蒸留水を追加した後、1Lナスフラスコに移し、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、IPA、THF及び水を合計して150gを留去(脱溶剤)した。続いて、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過し、乳白黄色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−8Aを得た。
【0141】
E−1〜E−5、E−7、E−8Aで得られた水性分散体の特性値を表1に示した。
【0142】
【表1】

【0143】
実施例1
有機系脱酸素剤としてアスコルビン酸を用い、ポリアミド樹脂水性分散体E−1Aに、ポリアミド樹脂固形分75質量部に対してアスコルビン酸が25質量部になるよう添加した。さらに、IPAと蒸留水を加えてアスコルビン酸を溶解した後、活性炭Aを添加し、混合、撹拌することによって、脱酸素塗剤を得た。各成分は表2に示した比率になるよう混合した。
そして、基材として、PETフィルム(ユニチカ社製、厚さ100μm)を用い、コロナ処理面に得られた脱酸素塗剤をワイヤーバーで塗工した後、120℃で1分間、乾燥させ、厚さ10μmの塗膜を有する積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0144】
実施例2
ポリアミド樹脂水性分散体としてE−1Bを用いた以外は、実施例1と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0145】
実施例3〜5
有機系脱酸素剤のアスコルビン酸を、タンニン酸(実施例3)、ピロカテコール(実施例4)、ピロガロール(実施例5)に変更した以外は、実施例1と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0146】
実施例6
活性炭Aの添加量を総固形分の33質量%になるように変更した以外は、実施例1と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0147】
実施例7
活性炭Aを、活性炭Fに変更した以外は、実施例1と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0148】
実施例8、9
吸湿材料の活性炭Aを、遷移金属化合物の塩化鉄(実施例8)、クエン酸鉄(実施例9)に変更し、それぞれアスコルビン酸に対して5質量%添加した以外は、実施例1と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0149】
実施例10
ポリオレフィン樹脂水性分散体として、E−1Bを用いた以外は、実施例8と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0150】
実施例11
有機系脱酸素剤のアスコルビン酸を、タンニン酸に変更した以外は、実施例8と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0151】
実施例12
塩化鉄の添加量をアスコルビン酸に対して3質量%になるように変更した以外は、実施例8と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0152】
実施例13〜15
活性炭Aを、アルミナゾル(実施例13)、シリカゾル(実施例14)、シリカ(実施例15)に変更した以外は、実施例1と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0153】
実施例16〜18
アスコルビン酸に対して塩化鉄(実施例16)、クエン酸鉄(実施例17)、クエン酸銅(実施例18)をそれぞれ5質量%添加した以外は、実施例15と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材bを使用した。
【0154】
実施例19
アスコルビン酸に対して塩化鉄を5質量%添加した以外は、実施例1と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材bを使用した。
【0155】
実施例20
アスコルビン酸の添加量を変更し、ポリアミド樹脂の固形分10質量部に対してアスコルビン酸が90質量部になるようにした以外は、実施例1と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0156】
実施例21〜23
実施例1で得られた脱酸素塗剤を用い、塗膜の厚さを4μm、7μm、15μmとした以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定において、挟み込み材bを使用した。
【0157】
実施例24
実施例6で得られた積層体の脱酸素能の測定において、挟み込み材bを使用した。
【0158】
実施例25
実施例8で得られた積層体の脱酸素能の測定において、挟み込み材bを使用した。
【0159】
実施例26
基材として、厚さ12μmの二軸延伸ポリエステル樹脂フィルム(ユニチカ社製「エンブレットPET−12」)を用い、グラビアコート機を用いてポリエステル樹脂フィルムのコロナ処理面に二液硬化型のポリウレタン系接着剤(東洋モートン社製)を乾燥後の塗工量が5g/m2になるように塗工、乾燥させて、バリア層として厚さ7μmのアルミニウム箔を貼り合わせたバリア層を有する基材を得た。
次いで、バリア層のアルミニウム箔面に、実施例1で得られた脱酸素塗剤をワイヤーバーで塗工した後、120℃で1分間、乾燥させ、厚さ7μmの塗膜を形成させた。
次いで、押出機を備えたラミネート装置を用いて、塗膜上にシーラント樹脂としてLDPE(住友化学社製L211)を溶融押出して、厚さ30μmのシーラント層が形成された積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定において、挟み込み材aを使用した。
【0160】
実施例27
実施例26で得られた積層体の脱酸素能の測定において、挟み込み材bを使用した。
【0161】
実施例28
実施例3で得られた脱酸素塗剤を使用した以外は、実施例26と同様にして積層体を得、脱酸素能を測定した。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定において、挟み込み材aを使用した。
【0162】
実施例29
実施例28で得られた積層体の脱酸素能の測定において、挟み込み材bを使用した。
【0163】
実施例30
吸湿材料としてアルミナゾルを用い、ポリアミド樹脂水性分散体E−1Aに、ポリアミド樹脂固形分70質量部に対してアルミナゾル固形分が30質量部になるよう添加した。さらに、IPA(有機溶媒)と蒸留水を、IPAの総含有量が塗剤の20質量%で、かつ、総固形分が30質量%になるよう添加した後、混合、撹拌することによって、吸湿塗剤を得た。
そして、基材として、PETフィルム(ユニチカ社製、厚さ100μm)を用い、コロナ処理面に得られた吸湿塗剤をワイヤーバーで塗工した後、120℃で1分間、乾燥させ、厚さ5μmの吸湿層を積層した。
吸湿層の上に、実施例1で使用した脱酸素塗剤を用い、実施例1と同様にして脱酸素塗膜を形成し、積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材bを使用した。
【0164】
実施例31〜34
ポリアミド樹脂水性分散体として、E−2〜E−5をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0165】
比較例1
ポリアミド樹脂水性分散体E−1Aに活性炭A、IPA、蒸留水を添加、混合して塗剤を調製した。各成分は表2に示した比率になるよう混合した。そして、実施例1と同様にして積層体を得、脱酸素能を測定した。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定において、挟み込み材aを使用した。
【0166】
比較例2
実施例8において、アスコルビン酸を添加しなかった以外は実施例8と同様にして塗剤を得た。そして、実施例1と同様にして積層体を得、脱酸素能を測定した。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定において、挟み込み材aを使用した。
【0167】
比較例3
実施例19において、アスコルビン酸を添加しなかった以外は実施例19と同様にして塗剤を得た。そして、実施例1と同様にして積層体を得、脱酸素能を測定した。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定において、挟み込み材aを使用した。
【0168】
比較例4
活性炭Aを混合しなかった以外は、実施例1と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0169】
比較例5
ポリアミド樹脂水性分散体E−8Aを用い、アスコルビン酸をポリアミド樹脂固形分75質量部に対して25質量部になるようにした以外は、実施例1と同様にして脱酸素塗剤を得ようとしたが、凝集し、塗剤を得ることができなかった。
【0170】
比較例6
有機系脱酸素剤としてアスコルビン酸を用い、PVA(日本酢ビ・ポバール社製「VC−10」、重合度:1,000)の8質量%水溶液に、PVA樹脂固形分75質量部に対してアスコルビン酸が25質量部になるよう添加した。さらに、蒸留水を加えてアスコルビン酸を溶解した後、活性炭Aを添加し、混合、撹拌することによって、脱酸素塗剤を得た。各成分は表2に示した比率になるよう混合した。
得られた脱酸素塗剤を使用した以外は、実施例1と同様にして積層体を得、脱酸素能を測定した。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定において、挟み込み材aを使用した。
【0171】
比較例7
比較例6で調製した脱酸素塗剤を用いた以外は、実施例26と同様にして積層体を得、脱酸素能を測定した。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定において、挟み込み材bを使用した。
【0172】
比較例8
ポリアミド樹脂水性分散体として、E−7を用いた以外は、実施例1と同様に行い、脱酸素塗剤を得た。また、実施例1と同様にして積層体を得た。
なお、得られた積層体の脱酸素能の測定時には、挟み込み材aを使用した。
【0173】
実施例1〜34、比較例1〜8で得られた塗剤及び塗膜、積層体の特性値及び評価を表2に示す。
【0174】
【表2】

【0175】
実施例1〜20、31〜34より明らかなように、本発明の脱酸素塗剤から得られた塗膜、積層体は、各種基材に対する接着性を有し、脱酸素能にも優れていた。
そして、実施例6より明らかなように、活性化剤である活性炭含有量を増やすと脱酸素能は向上したが、接着性はやや低下した。実施例16〜19より明らかなように、吸湿材料と遷移金属化合物を併用することで脱酸素能は向上した。実施例20より明らかなように、脱酸素剤の添加量を増やすことで脱酸素能は向上したが、接着性はやや低下した。また、実施例21〜23より明らかなように、塗膜厚みが厚いほど脱酸素能は向上した。さらに、実施例16〜19、21〜25より明らかなように、特に水を含むシートと接触させなくても良好に脱酸素できた。また、実施例26〜29より明らかなように、塗膜上にシーラント層を有する積層体であっても、良好な脱酸素能を有し、またラミネート強度に優れていた。実施例30から明らかなように、吸湿層を設けることで、特に水を含むシートと接触させなくても効率的に脱酸素できた。実施例34では、ダイマー酸系ポリアミド樹脂のアミン価が50mgKOHを超えていたため、表中には明示しないが、塗膜の耐薬品性が他の実施例のものと比べてやや劣り、脱酸素能評価試験後の塗膜がやや脆くなっていた。
【0176】
一方、比較例1〜3の塗剤は、脱酸素剤を含まないものであったため、得られた積層体は脱酸素能を示さなかった。比較例4の塗剤は、吸湿材料および/または遷移金属化合物を含まないものであったため、脱酸素性に乏しいものであった。比較例5では、ポリアミド樹脂水性分散体として、酸価がアミン価より高いポリアミド樹脂と、塩基性化合物と、水性媒体とからなるアニオン性の水性分散体を用いたため、アスコルビン酸を添加すると水性分散体が凝集し、塗剤を得ることができなかった。比較例6では、樹脂にPVAを用いたため、基材との接着性に乏しいものになった。また比較例7では、樹脂にPVAを用いたため、ラミネート強度に乏しいものになった。比較例8は、樹脂における全ジカルボン酸成分のうち、ダイマー酸の含有割合が50モル%に満たなかったため、塗膜は柔軟性に乏しく、接着性評価の際に、塗膜にクラックが生じ、塗膜剥がれが確認されるサンプルがあった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機系脱酸素剤、ポリアミド樹脂、吸湿材料および/または遷移金属化合物、酸性化合物、及び水性媒体を含む脱酸素塗剤であり、前記ポリアミド樹脂が、ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、アミン価が酸価より高くかつ1mgKOH/g以上であるダイマー酸系ポリアミド樹脂であることを特徴とする脱酸素塗剤。
【請求項2】
有機系脱酸素剤が、アスコルビン酸、カテコール、エリソルビン酸、ピロガロール、ヒドロキノン、還元性糖類、タンニン酸のうちの少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項1記載の脱酸素塗剤。
【請求項3】
吸湿材料が、活性炭粒子、無機粒子、吸湿性樹脂のうちの少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の脱酸素塗剤。
【請求項4】
遷移金属化合物が鉄、銅、マンガン、バナジウム、クロム、コバルト、ニッケル、亜鉛のうちの少なくとも1種類の金属の化合物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の脱酸素塗剤。
【請求項5】
酸性化合物が有機酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の脱酸素塗剤。
【請求項6】
pHが2〜6であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の脱酸素塗剤。
【請求項7】
有機系脱酸素剤、ポリアミド樹脂、さらに吸湿材料および/または遷移金属化合物を含有する脱酸素剤含有塗膜であり、前記ポリアミド樹脂が、ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、アミン価が酸価より高くかつ1mgKOH/g以上であるダイマー酸系ポリアミド樹脂であることを特徴とする脱酸素剤含有塗膜。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の脱酸素塗剤を塗工することにより得られるものであることを特徴とする脱酸素剤含有塗膜。
【請求項9】
基材上に請求項7又は8記載の脱酸素剤含有塗膜が積層されてなることを特徴とする積層体。
【請求項10】
請求項9記載の積層体の脱酸素剤含有塗膜上にシーラント層が積層されてなることを特徴とする積層体。
【請求項11】
基材がバリア性を有するものであることを特徴とする請求項9又は10記載の積層体。
【請求項12】
脱酸素剤含有塗膜の少なくとも上下どちらかに吸湿層が積層されてなることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の積層体。



【公開番号】特開2012−197411(P2012−197411A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203998(P2011−203998)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】