膜式消音機器及び車両用吸気ダクト
【課題】従来の拡張室型や共鳴型とは異なる原理でダクト内を伝わる騒音を低減させることが可能な膜式消音器及び車両用吸気ダクトの提供を目的とする。
【解決手段】本発明の膜式消音器20は、吸気ダクト10に形成した1対のダクト貫通孔13,13に膜部材15を張って1対の送受波膜21A,21Bを形成し、それら1対の送受波膜21A,21Bの中心部の間をシーソー部材22で連絡した構造になっている。この構造により、一方の送受波膜21Aが騒音の音波を受けて所定周期で振動すると、それに従動して他方の送受波膜21Bが半周期分ずれた状態で振動し、一方の送受波膜21Aが受けた騒音の音波とは逆位相のキャンセル波が他方の送受波膜21Aから送波され、騒音を低減させることができる
【解決手段】本発明の膜式消音器20は、吸気ダクト10に形成した1対のダクト貫通孔13,13に膜部材15を張って1対の送受波膜21A,21Bを形成し、それら1対の送受波膜21A,21Bの中心部の間をシーソー部材22で連絡した構造になっている。この構造により、一方の送受波膜21Aが騒音の音波を受けて所定周期で振動すると、それに従動して他方の送受波膜21Bが半周期分ずれた状態で振動し、一方の送受波膜21Aが受けた騒音の音波とは逆位相のキャンセル波が他方の送受波膜21Aから送波され、騒音を低減させることができる
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダクト内を伝達する騒音を低減させるための膜式消音器及び膜式消音器付きの車両用吸気ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダクト用の消音器としては、ダクトの途中を太くした拡張室型(空洞型)や、ダクトの途中に、所謂、サイドブランチやレゾネータを接続してなる共鳴型のものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−163925号公報(図1〜図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の拡張室型や共鳴型とは異なる原理でダクト内を伝わる騒音を低減させることが可能な膜式消音器及び車両用吸気ダクトの提供を目的とする。
【0005】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る膜式消音器は、ダクト内を伝達する騒音を低減させるための膜式消音器であって、ダクトのダクト壁を貫通し、横並びに配置された1対の円形貫通孔と、1対の円形貫通孔を塞いだ状態に張られ、音波を受波して振動する1対の送受波膜と、1対の送受波膜の中心部の間を連絡すると共に、それら1対の送受波膜の中心部の間でダクトに対して回転可能に支持されて、1対の送受波膜の相互間で振動を伝達可能なシーソー部材と、送受波膜と一体に振動しかつ各送受波膜を貫通した磁束を発生する1対の磁石と、1対の磁石の磁束が貫通した1対の電磁コイルと、1対の電磁コイルの間を接続し、一方の磁石の振動により一方の電磁コイルに電磁誘導された誘導電流を他方の電磁コイルに通電して交流磁束を発生させ、他方の磁石を一方の磁石とは逆の位相で振動させる磁力を生じさせるコイル接続回路とを備えたところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明に係る車両用吸気ダクトは、車両のエンジンの吸気経路に配置され、中間部に請求項1に記載の膜式消音器を備えたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0007】
[請求項1及び2の発明]
請求項1及び2によれば、後述する実験結果の通り消音効果を得ることができる。その消音メカニズムは、以下の通りであると推測される。即ち、本発明の膜式消音器は、音波を受波して振動する1対の送受波膜を備えている。ここで、音波は所定周期で圧力が変化する波であるから、送受波膜が騒音の音波を受波すると、その騒音の周波数で送受波膜が内側に膨出した状態と外側に膨出した状態とを交互に繰り返すように振動する。そして、本発明では、1対の送受波膜の間をシーソー部材で連絡したことで、一方の送受波膜が騒音の音波を受けて所定周期で振動すると、それに従動して他方の送受波膜も同じ所定周期で振動しかつ、一方の送受波膜の膨出方向と他方の送受波膜の膨出方向は常に互いに逆向きになる。これにより、一方の送受波膜が受けた騒音の音波とは逆位相のキャンセル波が他方の送受波膜から送波されて、騒音を低減させることができる。
【0008】
また、後述する実験によれば、1対の電磁コイル及びコイル接続回路を備えていないものでも消音効果が得られたが、騒音の周波数が比較的低い場合には(特に、65〜75[Hz]の周波数領域では)、本発明の構成の方がより高い消音効果が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る膜式消音器付き吸気ダクトの斜視図
【図2】膜式消音器付き吸気ダクトを吹出口側から見た斜視図
【図3】膜式消音器付き吸気ダクトの側面図
【図4】膜式消音器付き吸気ダクトの拡大斜視図
【図5】膜式消音器の分解斜視図
【図6】下側のダクト構成体の斜視図
【図7】内側規制部材の斜視図
【図8】外面カバーのカバー本体を内面側から見た斜視図
【図9】カバー本体を外面側から見た斜視図
【図10】カバー蓋体の斜視図
【図11】(A)シーソー部材の側面図、(B)シーソー部材の平面図
【図12】膜部材の斜視図
【図13】膜式消音器の部分拡大断面図
【図14】1対の送受波膜に設けられた交流磁束発生部の概念図
【図15】膜式消音器の動作を示した模式図
【図16】本発明の実施品の斜視図
【図17】比較実験の結果を示した周波数と低減音量とのグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図15に基づいて説明する。図1〜図3には、本発明に係る車両用吸気ダクト10(以下、単に「ダクト10」という)が示されている。このダクト10は、一端部の吹出口10Bが車両のエンジン(図示せず)側に接続され、他端部の吸込口10Aから取り込んだ車両外の空気をエンジンへと案内する。ここで、ダクト10は、エンジンからの騒音を伝達する伝達管路にもなるので、その騒音を低減させるために、ダクト10の中間部には本発明に係る膜式消音器20が備えられている。なお、以下に説明するダクト10の構造は一例であって、これに限定するものではない。
【0011】
ダクト10は、例えば、扁平横長の吸込口10Aから、丸みを帯びた正方形の吹出口10Bに向かって徐々に流路の断面形状が変化した異形筒状をなしている。また、ダクト10は、略クランク状に湾曲しており、吸込口10Aが吹出口10Bよりも上方に配置されている。さらに、ダクト10は、上下方向で半割りにされた1対のダクト構成体11,12を、例えば溶着によって接合して構成されている。ダクト構成体11,12には、溶着に先立って両者を合体状態に保持するための係止構造が備えられている。具体的には、図6に示すように、下側のダクト構成体12には、上側のダクト構成体11に向かって突出した複数の係止爪12A,12Aが形成されており、上側のダクト構成体11には、それら複数の係止爪12A,12Aの矢尻状先端部が係止可能な複数の爪係止スリット(図示せず)が形成されている。
【0012】
ダクト10のうち、吸込口10Aから吹出口10Bに向かって斜め下方に延びた中間筒部10Cには、本発明に係る膜式消音器20が設けられている。詳細には、図6に示すように、中間筒部10Cのうち斜め下方を向いた平坦なダクト壁10Wには、1対のダクト貫通孔13,13が中間筒部10Cの軸方向(ダクト10内の音波伝達方向)に沿って並べて設けられている。ダクト貫通孔13,13は共に円形をなし、互いに同一の直径となっている。そして、それら1対のダクト貫通孔13,13をそれぞれ閉塞するように共通の膜部材15(図12参照)が張られて1対の送受波膜21A,21Bが形成され(図5参照)、それら1対の送受波膜21A,21Bの中心部の間がシーソー部材22によって連絡されて膜式消音器20の主要部が構成されている。なお、本実施形態では、騒音の伝達方向の上流側(ダクト10の吹出口10B側)に送受波膜21Aが配置され、下流側(ダクト10の吸込口10A側)に送受波膜21Bが配置されている。
【0013】
ダクト壁10Wの外面には、外面カバー30が取り付けられている。外面カバー30は、中間筒部10Cの軸方向に延びた扁平な直方体の箱形構造をなしている。外面カバー30は、1対の送受波膜21A,21B及びシーソー部材22を1対の送受波膜21A,21Bとの対向方向から覆うと共に、1対の送受波膜21A,21B及びシーソー部材22を四方から囲っている。
【0014】
また、外面カバー30は、その高さ方向の中間位置(本実施形態では、天井壁51寄り位置)で、図8及び図9に示すカバー本体31と、図10に示すカバー蓋体50とに2分割され、これらを合体状態に固定して構成されている。なお、カバー本体31とカバー蓋体50は同一の樹脂で構成されている。
【0015】
図5に示すように、カバー本体31は、ダクト壁10Wの外面に宛がわれた矩形板状の膜保持プレート32と、膜保持プレート32の外縁部から直角に起立した矩形枠状の本体枠壁36とを有した扁平容器状をなしている。
【0016】
図8に示すように、膜保持プレート32には1対のプレート貫通孔33,33が形成されている。これらプレート貫通孔33,33は共に円形をなしており、ダクト壁10Wに形成された1対のダクト貫通孔13,13と同一径かつ同一ピッチで、膜保持プレート32の長手方向に並べて配置されている。また、図9に示すように、膜保持プレート32のうち、ダクト壁10Wとの対向面には膜保持プレート32の外縁部に沿って等間隔に配置された複数(具体的には6つ)の位置決めボス34,34・・・が突出形成されている。なお、プレート貫通孔33とダクト貫通孔13とで本発明の「円形貫通孔」が構成されている。
【0017】
ダクト壁10Wと膜保持プレート32との間には、図12に示す長方形の膜部材15が配されており、その膜部材15のうち、1対のダクト貫通孔13,13及び1対のプレート貫通孔33,33から露出した部分が1対の送受波膜21A,21B(図5参照)になっている。図12に示すように、膜部材15の外縁寄り位置には、膜部材15の外縁部に沿って等間隔に配置された複数の位置決め孔15A,15A・・・が貫通形成されている。これら複数の位置決め孔15A,15A,・・・に、膜保持プレート32に備えた複数の位置決めボス34,34・・・を貫通させることで、膜部材15が膜保持プレート32に対して位置決めされる。さらに、その状態で、ダクト壁10Wの外面と膜保持プレート32の外面との間で膜部材15が挟まれて固定されている。
【0018】
膜部材15は、ゴム又は樹脂のシートであって、その材質の具体例としては、例えば、EPDM、TPU、TPO、PVC、PETが挙げられる。また、膜部材15の厚さは、例えば、0.1〜1.0[mm]程度である。
【0019】
図5に示すように、膜保持プレート32の内面からは1対のシーソー支持壁35,35が起立している。シーソー支持壁35,35は、1対のプレート貫通孔33,33で挟まれた中間壁部に設けられており、1対のプレート貫通孔33,33の中心軸33J,33J(図8参照)を含む基準平面(図示せず)を挟んで対向配置されている。また、1対のシーソー支持壁35,35の先端部には、それぞれ略U字形のシャフト支持凹部35M,35Mが形成されている。これらシャフト支持凹部35M,35Mは、基準平面と直交した回動中心線L11上に設けられている。
【0020】
なお、膜保持プレート32の内面のうち、1対のプレート貫通孔33,33で挟まれた中間壁部には、補強リブ32Rが設けられている。補強リブ32Rは、1対のシーソー支持壁35,35を貫通して延びかつ、両端部がコの字状に分岐してそれぞれ本体枠壁36における1対の長側壁に接続している。
【0021】
図11(A)に示すように、シーソー部材22は、例えば、全体が略コ字形状をなし、前記した基準平面内で延びた連絡部24と、その連絡部24の長手方向の両端部から膜部材15に向かって突出した端部脚部25,25と、連絡部24の中央部の両側面から突出した1対の回動中心シャフト23,23(図11(B)参照)とを備えている。
【0022】
各端部脚部25の先端部からは円形鍔部25Fが側方に張り出しており、その円形鍔部25Fの中心部からは膜係止ピン25Pが突出している。膜係止ピン25Pは、円形鍔部25Fと対向した係止鍔部25P1と、係止鍔部25P1と円形鍔部25Fとを連結した軸部25P2とから構成されている。係止鍔部25P1は、円形鍔部25Fより小径な円板状をなしており、円形鍔部25Fとは反対側の先端面がドーム状に膨出した球面となっている。そして、膜部材15に貫通形成された中心孔15C,15C(図12参照)を押し広げながら係止鍔部25P1,25P1を通過させることで、各中心孔15C,15Cに膜係止ピン25P,25Pが挿通され、係止鍔部25P1と円形鍔部25Fとの間に膜部材15における送受波膜21A,21Bの中心部(中心孔15C,15Cの周縁部)が挟まれて固定される(図13参照)。
【0023】
図11に示すように、1対の回動中心シャフト23,23は、前記した回動中心線L11を中心軸とした同心の丸棒状をなしている。そして、1対の回動中心シャフト23,23が、1対のシーソー支持壁35,35に形成されたシャフト支持凹部35M,35Mにそれぞれ受容されている(図5参照)。これにより、シーソー部材22が回動中心線L11を中心にして回動する。
【0024】
図9に示すように、カバー本体31の本体枠壁36は、膜保持プレート32よりも僅かにダクト壁10W側に突出している。また、本体枠壁36における四方の側壁には、ダクト壁10Wに向かって延びた係止片37,37がそれぞれ一つずつ形成されている。また、本体枠壁36における四隅のコーナー部からは、ダクト壁10Wに向かって突当片38,38が突出している。突当片38,38は、下端部が平坦面になった突片状をなしている。一方、係止片37,37は、突当片38,38よりも長く延び、その先端部の外面側には、三角形の係止突起37Aが備えられている。そして、ダクト壁10Wの外面に突当片38,38の先端面が突き当てられ、ダクト壁10Wに貫通形成された複数の係止スリット10Sに係止片37,37が挿入されて、各係止突起37Aがダクト壁10Wの内面に係止することでカバー本体31がダクト壁10Wの外面に固定されている。
【0025】
図6に示すように、ダクト壁10Wの外面からは、膜保持プレート32のプレート貫通孔33,33に向かって円環状凸部14,14が突出しており、それら円環状凸部14,14の内側にダクト貫通孔13,13が形成されている。これに対し、図9に示すように、膜保持プレート32におけるダクト壁10Wとの対向面には、1対の円環状凹部39,39が形成されており、それら円環状凹部39,39の内側にプレート貫通孔33,33が形成されている。そして、カバー本体31がダクト壁10Wの外面に固定されると、円環状凸部14,14の稜線部が、円環状凹部39,39に突き合わされて、それら円環状凸部14,14と円環状凹部39,39との間で膜部材15(1対の送受波膜21A,21Bの周縁部)が挟持される(図13参照)。
【0026】
図6及び図7に示すように、ダクト壁10Wにおけるダクト貫通孔13,13の内側には、内側規制部材16が設けられている。各内側規制部材16は、例えば、ダクト貫通孔13の内周面を8等分する位置からダクト貫通孔13の中心に向かって延びた複数の梁部16Cと、ダクト貫通孔13と同心円になって梁部16C群の先端部の間を連絡した第1環状部16Aと、梁部16C群の中間部の間を連絡した第2環状部16Bとからなり、全体として格子状(蜘蛛の巣状)をなしている。
【0027】
内側規制部材16は、ダクト貫通孔13,13の軸方向における中間に位置し、送受波膜21A,21Bの内面との間に隙間16Sを介して対向している。その隙間16Sは、音に起因した送受波膜21A,21Bの振動を許容する大きさになっている。即ち、音に起因した送受波膜21A,21Bの振動では、送受波膜21A,21Bは内側規制部材16と接触しないようになっている。これに対し、ダクト10内の負圧によって送受波膜21A,21Bがダクト10の内側に膨出変形したときには、送受波膜21A,21Bが内側規制部材16と当接するように前記隙間16Sが設定されている。
【0028】
内側規制部材16における第1環状部16Aの内径は、図13に示すように、膜部材15の中心孔15Cを貫通した係止鍔部25P1の外径より大きくなっている。これにより、送受波膜21A,21Bがダクト10の内側に膨出変形した場合に、係止鍔部25P1と内側規制部材16との干渉が回避されている。
【0029】
さらに、内側規制部材16のうちダクト10の内側を向いた内向面16Nは、ダクト10の内面10Nより外側にずれている。即ち、内側規制部材16が、ダクト10の内面10Nから内側に突出しないようになっていて、これにより、内側規制部材16によってダクト10内における吸気抵抗の増加が抑えられている。
【0030】
図10に示すように、外面カバー30におけるカバー蓋体50は、矩形板状の天井壁51と、天井壁51の外縁部からカバー本体31の本体枠壁36に向かって突出した矩形枠状の蓋体枠壁52とを有している。そして、カバー本体31とカバー蓋体50は、例えば、本体枠壁36と蓋体枠壁52との接合面同士を溶着(振動溶着)することで接合されている。つまり、外面カバー30のうち、1対の送受波膜21A,21B及びシーソー部材22を四方から囲む4つの側壁は、カバー本体31の本体枠壁36とカバー蓋体50の蓋体枠壁52とから構成されている。
【0031】
天井壁51の内面中央部からは、1対の抜止突片55,55が起立している。これら抜止突片55,55は、カバー本体31における1対のシーソー支持壁35,35と同様に、1対のプレート貫通孔33,33の中心軸33J,33J(図8参照)を含む基準平面(図示せず)を挟んで対向配置されている。そして、これら抜止突片55,55が、シャフト支持凹部35M,35Mの上面開口を横切った状態で1対のシーソー支持壁35,35の先端部に突き当てられており(図示せず)、これにより回動中心シャフト23,23がシャフト支持凹部35M,35Mに抜け止めされている。
【0032】
図3及び図4に示すように、上記した外面カバー30における四方の側壁には、それぞれ通気孔44,44が1つずつ形成されている。これら通気孔44,44は、4つの各側壁の横方向の一端寄り位置から他端寄り位置に亘って連続して延びた横長のスリットで構成されている。また、各通気孔44,44は、天井壁41からの距離が同じ距離となる位置に設けられている。さらに、本実施形態では、各通気孔44,44が天井壁51寄り位置に設けられ、カバー本体31とカバー蓋体50との合体面(分割面)が各通気孔44,44を横切っている。
【0033】
詳細には、カバー本体31の本体枠壁36における四隅のコーナー部には、カバー蓋体50に向かって段付き状に突出した本体側コーナー突片40,40が形成されており、隣接した本体側コーナー突片40,40で挟まれた中間部分が相対的に凹になって本体側凹部41,41が形成されている。本体側コーナー突片40,40の各先端面は平坦面でありかつ互いに面一になっている。
【0034】
これに対し、カバー蓋体50の蓋体枠壁52における四隅のコーナー部には、カバー本体31に向かって段付き状に突出した蓋体側コーナー突片53,53が形成されており、隣接した蓋体側コーナー突片53,53で挟まれた中間部分が相対的に凹になって蓋体側凹部54,54が形成されている。蓋体側コーナー突片53,53の各先端面は平坦面でありかつ互いに面一になっている。
【0035】
カバー本体31の四隅の本体側コーナー突片40,40と、カバー蓋体50の四隅の蓋体側コーナー突片53,53とを突き当ててそれらの先端面同士を溶着し、カバー本体31とカバー蓋体50とを固定すると、カバー本体31の四方の側壁に形成された本体側凹部41,41と、カバー蓋体50の四方の側壁に形成された蓋体側凹部54,54とが合併して、外面カバー30の四方の側壁にそれぞれ1つずつ通気孔44としての横長のスリットが形成される。
【0036】
ところで、図13及び図14に示すように、シーソー部材22の両端部に備えた係止鍔部25P1,25P1の先端面には、それぞれ円柱形をなした永久磁石70A,70B(具体的には、ネオジム磁石)が固定されている(図13には、一方の永久磁石70Aのみが示されている)。これら1対の永久磁石70A,70Bは、送受波膜21A,21Bの振動方向に磁極を向けて固定されており、各送受波膜21A,21Bを貫通した磁束を発生している。また、1対の永久磁石70A,70Bは、磁極の向きが一致するように配置されている。一例を挙げれば、例えば、係止鍔部25P1,25P1に近い側にS極、遠い側にN極が配されるように各永久磁石70A,70Bが固定されている。以下、永久磁石70A,70Bを区別する場合には、送受波膜21Aの中心に設けられた方を「第1の永久磁石70A」といい、送受波膜21Bの中心に設けられた方を「第2の永久磁石70B」という。
【0037】
ダクト10の内側、詳細には、ダクト貫通孔13,13の内側であって、送受波膜21A,21Bの内面と内側規制部材16,16との間に形成された隙間16S,16Sには、同一巻数の第1の電磁コイル75Aと第2の電磁コイル75B(本発明の「1対の電磁コイル」に相当する)がそれぞれ配置されている(図13参照。同図には第1の電磁コイル75Aのみが示されている)。図15に示すように、第1の電磁コイル75Aは第1の永久磁石70Aの周りに隙間を空けて巻回されており、第1の永久磁石70Aの磁束が第1の電磁コイル75Aを貫いている。同様に、第2の電磁コイル75Bは第2の永久磁石70Bの周りに隙間を空けて巻回されており、第2の永久磁石70Bの磁束が第2の電磁コイル75Bを貫いている。また、第1と第2の電磁コイル75A,75Bは電線75C,75C(本発明の「コイル接続回路」に相当する)によって接続されて閉じた通電回路75が構成されている(図14参照)。ここで、電線75C,75Cは、通電回路75内を循環する電流により、第1と第2の電磁コイル75A,75Bにおいて同じ向きの磁束が発生するように、第1と第2の電磁コイル75A,75Bを接続している。なお、本実施形態では、1本の電線の途中の二箇所を巻回して第1と第2の電磁コイル75A,75Bが形成され、その電線の両端部を接続することで通電回路75が構成されている。以下、第1の永久磁石70Aとその周囲の第1の電磁コイル75Aとを纏めて「第1の交流磁束発生部71」といい、第2の永久磁石70Bとその周囲の第2の電磁コイル75Bとを纏めて「第2の交流磁束発生部72」という。
【0038】
本実施形態の膜式消音器20及びこれを備えたダクト10の構成に関する説明は以上である。次に、本実施形態の作用効果について説明する。エンジンは、ダクト10を通して吸気を行って作動する。すると、そのエンジンによる吸気音が騒音となって、ダクト10内を吸気方向と逆向きに進み、その騒音を、膜式消音器20で低減させることができる。その消音メカニズムは、以下の通りである。
【0039】
即ち、音波は所定周期で圧力が変化する波であるから、一方の送受波膜21Aは、騒音の音波を受波すると、その騒音の周波数で内側に膨出した状態と外側に膨出した状態とを交互に繰り返すように振動する。ここで、送受波膜21A,21B同士の間はシーソー部材22で連絡されているので、一方の送受波膜21Aが騒音の音波を受けて所定周期で振動すると、それに従動して他方の送受波膜21Bも同じ所定周期で振動しかつ、一方の送受波膜21Aの膨出方向と他方の送受波膜21Bの膨出方向は常に互いに逆向きになる。
【0040】
また、各送受波膜21A,21Bに設けられた第1と第2の交流磁束発生部71,72の作用は、以下の通りであると推測される。即ち、例えば、ダクト10内の騒音伝達方向の上流側に配置された送受波膜21Aが騒音の音波を受波して振動すると、この送受波膜21Aと一体に第1の永久磁石70Aが振動する。第1の永久磁石70Aが振動すると電磁誘導作用によって第1の電磁コイル75Aに誘導電流が発生すると共に交流磁束が発生する。この交流磁束は、第1の永久磁石70Aの振動を妨げるように作用する。第1の電磁コイル75Aで発生した誘導電流は、電線75C,75Cを介して第2の電磁コイル75Bに通電されて、第2の電磁コイル75Bにおいても交流磁束が発生する。ここで、上記したように、通電回路75内を循環する電流により、第1と第2の電磁コイル75A,75Bにおいて同じ向きの磁束が発生するように第1と第2の電磁コイル75A,75Bが接続されているから、第1の電磁コイル75Aで発生する交流磁束の向きと、第2の電磁コイル75Bで発生する交流磁束の向きは常に同じとなる。
【0041】
そして、1対の永久磁石70A,70Bの磁極の向きが一致しているから、例えば、図15(B)に示すように、送受波膜21Aが音波を受波してダクト10の内側から外側に膨出したとき、第1の電磁コイル75Aは、第1の永久磁石70Aをダクト10の内側に引きつけるような磁束(第1の永久磁石70Aの振動を妨げるような磁束)を発生させ、第2の交流磁束発生部72は、第2の永久磁石70Bをダクト10の内側に引き込むような磁束を発生させる。即ち、第2の電磁コイル75Bは、第2の永久磁石70Bを第1の永久磁石70Aとは逆の位相で振動させるような磁力を発生する。このように、本実施形態によれば、一方の送受波膜21Aが受けた騒音の音波とは逆位相のキャンセル波が他方の送受波膜21Bから送波され、騒音を低減させることができる。
【0042】
また、本実施形態の膜式消音器20によれば、ダクト壁10Wの外面を1対の送受波膜21A,21B及びシーソー部材22と共に覆う外面カバー30を設けたので、シーソー部材22及び1対の送受波膜21A,21Bと他の部品、工具との当接が防がれ、膜式消音器20及びこれを備えたダクト10の取り扱いが容易になる。また、実使用状態において、異物(例えば、飛び石等)によるシーソー部材22の動作不良や1対の送受波膜21A,21Bの破損を防止することができる。
【0043】
ここで、例えば、走行中の車両の前面に例えばビニール袋のような異物が張り付き、ダクト10の吸引口が覆われると、ダクト10内の負圧が急激に上昇し、送受波膜21A,21Bが内側に引かれる。しかしながら、本実施形態の膜式消音器20では、送受波膜21A,21Bの内面に対して内側規制部材16,16が対向しているので、ダクト10内の負圧により撓んだ送受波膜21A,21Bが内側規制部材16,16に当接して、それら送受波膜21A,21Bの過度な変形が防止される。そして、ビニール袋が除去され、ダクト10内が通常の負圧状態に戻されると、送受波膜21A,21Bが内側規制部材16,16から離間して、騒音に対して振動可能な状態に戻る。これにより、膜式消音器20の消音性能の低下が防がれ、耐久性が向上する。また、内側規制部材16,16は、送受波膜21A,21Bに異物(例えば、メンテナンス時の工具等)が衝突することを防ぐので、この点においても膜式消音器20の消音性能の低下が防がれ、耐久性が向上する。
【0044】
さらに、次述する実験により、騒音が低周波(特に、65〜75[Hz]の周波数帯)である場合には、各送受波膜21A,21Bに対して交流磁束発生部71,72を設けることで、より高い消音効果が得られることが確認できた。
【0045】
[実施例]
以下、本発明の実施品1と、本発明の発明特定事項の一部を欠いた比較品1,2,3とを製作して行った消音効果の比較実験結果について述べる。実施品1は、図16に示すように、上記実施形態と同様のダクト10における中間筒部10Cに、上記実施形態と同様の膜式消音器20を備えた構造をなしている。その膜式消音器20における送受波膜21A,21Bの直径(即ち、ダクト貫通孔13,13及びプレート貫通孔33,33の直径)は共にφ60[mm]で、それら送受波膜21A,21Bの中心点間の距離は70[mm]になっている。また、送受波膜21A,21Bは、共に膜厚が0.3[mm]のEPDM(エチレンプロピレンゴム)で構成されている。永久磁石70A,70Bは、直径が共にφ5[mm]で、長さ5[mm]の円柱形である。電磁コイル75A,75Bは、線径0.7[mm]、コイル巻き径20[mm]、コイル巻数は3である。
【0046】
比較品1は、実施品1から膜式消音器20を排除したもの、即ち、単なるダクト10である。比較品2は、実施品1から通電回路75を排除した構造をなしており、その他の構成に関しては実施品1と同じである。
【0047】
(実験方法)
実験方法は、以下の通りである。即ち、図16に示すように、実施品1におけるダクト10の始端部の開口(吹出口10B)にスピーカー92を対向配置すると共に、ダクト10の始端部の開口と終端部の開口(吸込口10A)に始端マイク91Aと終端マイク91Bを配置する。そして、スピーカー92から出力する音の周波数を0〜200[Hz]の範囲で変更しながら、始端マイク91A及び終端マイク91Bにて拾音する。そして、周波数毎に始端マイク91Aによる拾音量から終端マイク91Bによる拾音量を差し引いた差分音量を求めて図17に示したグラフg1を作成する。また、同様の手順で、実施品1の代わりに比較品1を用いて図17のグラフh1を作成し、比較品2を用いて図17のグラフh2を作成する。
【0048】
(実験結果)
図17に示されているように、実施品1から通電回路75を排除したもの(比較品2:グラフh2)は、膜式消音器20を備えないもの(比較品1:グラフh1)に比べて60〜200[Hz]の周波数帯で消音効果が得られることが確認できた。また、実施品1(グラフg1)では、膜式消音器20を備えないもの(比較品1:グラフh1)に比べて65〜200[Hz]の周波数帯で消音効果が得られることが確認できた。
【0049】
さらに、実施品1(グラフg1)は、65〜75[Hz]の周波数帯において、比較品2(グラフh2)よりも大きな消音効果が得られることが確認できた。
【0050】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0051】
(1)前記実施形態では、ダクト10に本発明に係る膜式消音器20のみが備えられていたが、従来からの公知の膜式消音器と本発明に係る膜式消音器とを組み合わせてダクト内に設けてもよい。
【0052】
(2)前記実施形態では、膜式消音器20は車両用吸気ダクト10に備えられていたが、それ以外のダクトや、ダクト以外の部分に本発明に係る膜式消音器を設けてもよい。例えば、車両のエンジンルームの内壁に本発明に係る膜式消音器を設けてもよい。
【0053】
(3)前記実施形態では、1対の永久磁石70A,70Bの磁極の向きが一致するように配置しかつ、通電回路75内を循環する電流により、第1と第2の電磁コイル75A,75Bにおいて同じ向きの磁束が発生するように第1と第2の電磁コイル75A,75Bを接続した構成であったが、永久磁石70A,70Bの磁極の向きが互いに逆向きになるように配置しかつ、通電回路75内を循環する電流により、第1と第2の電磁コイル75A,75Bにおいて互いに逆向きの磁束が発生するように第1と第2の電磁コイル75A,75Bを接続した構成としてもよい。
【0054】
(4)前記実施形態では、シーソー部材22のうち送受波膜21A,21Bを貫通してダクト10の内側に配置された係止鍔部25P1,25P1に永久磁石70A,70Bが固定され、通電回路75(第1と第2の電磁コイル75A,75B)がダクト10の内側に固定配置されていたが、例えば、シーソー部材22の端部脚部25,25のうち送受波膜21A,21Bの外側部分に永久磁石70A,70Bを埋め込んでおき、通電回路75(第1と第2の電磁コイル75A,75B)をダクト10の外側に固定配置してもよい。
【0055】
(5)前記実施形態では、1対の送受波膜21A,21Bを共通の膜部材15から構成していたが、別々の膜部材によって構成してもよい。
【0056】
(6)前記実施形態では、外面カバー30の形状が直方体の箱形形状であったが、シーソー部材22及び送受波膜21A,21Bを外面から覆うことが可能な形状であればよい。また、通気孔44,44の形状は、上記実施形態のようなスリット状に限定するものではない。また、外面カバー30に通気孔44,44を設けずに密閉構造にしてもよい。さらに、外面カバー30を排除した構成としてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 車両用吸気ダクト
10W ダクト壁
20 膜式消音器
21A,21B 送受波膜
22 シーソー部材
70A,70B 永久磁石
75A,75B 電磁コイル
75C,75C 電線(コイル接続回路)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダクト内を伝達する騒音を低減させるための膜式消音器及び膜式消音器付きの車両用吸気ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダクト用の消音器としては、ダクトの途中を太くした拡張室型(空洞型)や、ダクトの途中に、所謂、サイドブランチやレゾネータを接続してなる共鳴型のものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−163925号公報(図1〜図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の拡張室型や共鳴型とは異なる原理でダクト内を伝わる騒音を低減させることが可能な膜式消音器及び車両用吸気ダクトの提供を目的とする。
【0005】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る膜式消音器は、ダクト内を伝達する騒音を低減させるための膜式消音器であって、ダクトのダクト壁を貫通し、横並びに配置された1対の円形貫通孔と、1対の円形貫通孔を塞いだ状態に張られ、音波を受波して振動する1対の送受波膜と、1対の送受波膜の中心部の間を連絡すると共に、それら1対の送受波膜の中心部の間でダクトに対して回転可能に支持されて、1対の送受波膜の相互間で振動を伝達可能なシーソー部材と、送受波膜と一体に振動しかつ各送受波膜を貫通した磁束を発生する1対の磁石と、1対の磁石の磁束が貫通した1対の電磁コイルと、1対の電磁コイルの間を接続し、一方の磁石の振動により一方の電磁コイルに電磁誘導された誘導電流を他方の電磁コイルに通電して交流磁束を発生させ、他方の磁石を一方の磁石とは逆の位相で振動させる磁力を生じさせるコイル接続回路とを備えたところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明に係る車両用吸気ダクトは、車両のエンジンの吸気経路に配置され、中間部に請求項1に記載の膜式消音器を備えたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0007】
[請求項1及び2の発明]
請求項1及び2によれば、後述する実験結果の通り消音効果を得ることができる。その消音メカニズムは、以下の通りであると推測される。即ち、本発明の膜式消音器は、音波を受波して振動する1対の送受波膜を備えている。ここで、音波は所定周期で圧力が変化する波であるから、送受波膜が騒音の音波を受波すると、その騒音の周波数で送受波膜が内側に膨出した状態と外側に膨出した状態とを交互に繰り返すように振動する。そして、本発明では、1対の送受波膜の間をシーソー部材で連絡したことで、一方の送受波膜が騒音の音波を受けて所定周期で振動すると、それに従動して他方の送受波膜も同じ所定周期で振動しかつ、一方の送受波膜の膨出方向と他方の送受波膜の膨出方向は常に互いに逆向きになる。これにより、一方の送受波膜が受けた騒音の音波とは逆位相のキャンセル波が他方の送受波膜から送波されて、騒音を低減させることができる。
【0008】
また、後述する実験によれば、1対の電磁コイル及びコイル接続回路を備えていないものでも消音効果が得られたが、騒音の周波数が比較的低い場合には(特に、65〜75[Hz]の周波数領域では)、本発明の構成の方がより高い消音効果が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る膜式消音器付き吸気ダクトの斜視図
【図2】膜式消音器付き吸気ダクトを吹出口側から見た斜視図
【図3】膜式消音器付き吸気ダクトの側面図
【図4】膜式消音器付き吸気ダクトの拡大斜視図
【図5】膜式消音器の分解斜視図
【図6】下側のダクト構成体の斜視図
【図7】内側規制部材の斜視図
【図8】外面カバーのカバー本体を内面側から見た斜視図
【図9】カバー本体を外面側から見た斜視図
【図10】カバー蓋体の斜視図
【図11】(A)シーソー部材の側面図、(B)シーソー部材の平面図
【図12】膜部材の斜視図
【図13】膜式消音器の部分拡大断面図
【図14】1対の送受波膜に設けられた交流磁束発生部の概念図
【図15】膜式消音器の動作を示した模式図
【図16】本発明の実施品の斜視図
【図17】比較実験の結果を示した周波数と低減音量とのグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図15に基づいて説明する。図1〜図3には、本発明に係る車両用吸気ダクト10(以下、単に「ダクト10」という)が示されている。このダクト10は、一端部の吹出口10Bが車両のエンジン(図示せず)側に接続され、他端部の吸込口10Aから取り込んだ車両外の空気をエンジンへと案内する。ここで、ダクト10は、エンジンからの騒音を伝達する伝達管路にもなるので、その騒音を低減させるために、ダクト10の中間部には本発明に係る膜式消音器20が備えられている。なお、以下に説明するダクト10の構造は一例であって、これに限定するものではない。
【0011】
ダクト10は、例えば、扁平横長の吸込口10Aから、丸みを帯びた正方形の吹出口10Bに向かって徐々に流路の断面形状が変化した異形筒状をなしている。また、ダクト10は、略クランク状に湾曲しており、吸込口10Aが吹出口10Bよりも上方に配置されている。さらに、ダクト10は、上下方向で半割りにされた1対のダクト構成体11,12を、例えば溶着によって接合して構成されている。ダクト構成体11,12には、溶着に先立って両者を合体状態に保持するための係止構造が備えられている。具体的には、図6に示すように、下側のダクト構成体12には、上側のダクト構成体11に向かって突出した複数の係止爪12A,12Aが形成されており、上側のダクト構成体11には、それら複数の係止爪12A,12Aの矢尻状先端部が係止可能な複数の爪係止スリット(図示せず)が形成されている。
【0012】
ダクト10のうち、吸込口10Aから吹出口10Bに向かって斜め下方に延びた中間筒部10Cには、本発明に係る膜式消音器20が設けられている。詳細には、図6に示すように、中間筒部10Cのうち斜め下方を向いた平坦なダクト壁10Wには、1対のダクト貫通孔13,13が中間筒部10Cの軸方向(ダクト10内の音波伝達方向)に沿って並べて設けられている。ダクト貫通孔13,13は共に円形をなし、互いに同一の直径となっている。そして、それら1対のダクト貫通孔13,13をそれぞれ閉塞するように共通の膜部材15(図12参照)が張られて1対の送受波膜21A,21Bが形成され(図5参照)、それら1対の送受波膜21A,21Bの中心部の間がシーソー部材22によって連絡されて膜式消音器20の主要部が構成されている。なお、本実施形態では、騒音の伝達方向の上流側(ダクト10の吹出口10B側)に送受波膜21Aが配置され、下流側(ダクト10の吸込口10A側)に送受波膜21Bが配置されている。
【0013】
ダクト壁10Wの外面には、外面カバー30が取り付けられている。外面カバー30は、中間筒部10Cの軸方向に延びた扁平な直方体の箱形構造をなしている。外面カバー30は、1対の送受波膜21A,21B及びシーソー部材22を1対の送受波膜21A,21Bとの対向方向から覆うと共に、1対の送受波膜21A,21B及びシーソー部材22を四方から囲っている。
【0014】
また、外面カバー30は、その高さ方向の中間位置(本実施形態では、天井壁51寄り位置)で、図8及び図9に示すカバー本体31と、図10に示すカバー蓋体50とに2分割され、これらを合体状態に固定して構成されている。なお、カバー本体31とカバー蓋体50は同一の樹脂で構成されている。
【0015】
図5に示すように、カバー本体31は、ダクト壁10Wの外面に宛がわれた矩形板状の膜保持プレート32と、膜保持プレート32の外縁部から直角に起立した矩形枠状の本体枠壁36とを有した扁平容器状をなしている。
【0016】
図8に示すように、膜保持プレート32には1対のプレート貫通孔33,33が形成されている。これらプレート貫通孔33,33は共に円形をなしており、ダクト壁10Wに形成された1対のダクト貫通孔13,13と同一径かつ同一ピッチで、膜保持プレート32の長手方向に並べて配置されている。また、図9に示すように、膜保持プレート32のうち、ダクト壁10Wとの対向面には膜保持プレート32の外縁部に沿って等間隔に配置された複数(具体的には6つ)の位置決めボス34,34・・・が突出形成されている。なお、プレート貫通孔33とダクト貫通孔13とで本発明の「円形貫通孔」が構成されている。
【0017】
ダクト壁10Wと膜保持プレート32との間には、図12に示す長方形の膜部材15が配されており、その膜部材15のうち、1対のダクト貫通孔13,13及び1対のプレート貫通孔33,33から露出した部分が1対の送受波膜21A,21B(図5参照)になっている。図12に示すように、膜部材15の外縁寄り位置には、膜部材15の外縁部に沿って等間隔に配置された複数の位置決め孔15A,15A・・・が貫通形成されている。これら複数の位置決め孔15A,15A,・・・に、膜保持プレート32に備えた複数の位置決めボス34,34・・・を貫通させることで、膜部材15が膜保持プレート32に対して位置決めされる。さらに、その状態で、ダクト壁10Wの外面と膜保持プレート32の外面との間で膜部材15が挟まれて固定されている。
【0018】
膜部材15は、ゴム又は樹脂のシートであって、その材質の具体例としては、例えば、EPDM、TPU、TPO、PVC、PETが挙げられる。また、膜部材15の厚さは、例えば、0.1〜1.0[mm]程度である。
【0019】
図5に示すように、膜保持プレート32の内面からは1対のシーソー支持壁35,35が起立している。シーソー支持壁35,35は、1対のプレート貫通孔33,33で挟まれた中間壁部に設けられており、1対のプレート貫通孔33,33の中心軸33J,33J(図8参照)を含む基準平面(図示せず)を挟んで対向配置されている。また、1対のシーソー支持壁35,35の先端部には、それぞれ略U字形のシャフト支持凹部35M,35Mが形成されている。これらシャフト支持凹部35M,35Mは、基準平面と直交した回動中心線L11上に設けられている。
【0020】
なお、膜保持プレート32の内面のうち、1対のプレート貫通孔33,33で挟まれた中間壁部には、補強リブ32Rが設けられている。補強リブ32Rは、1対のシーソー支持壁35,35を貫通して延びかつ、両端部がコの字状に分岐してそれぞれ本体枠壁36における1対の長側壁に接続している。
【0021】
図11(A)に示すように、シーソー部材22は、例えば、全体が略コ字形状をなし、前記した基準平面内で延びた連絡部24と、その連絡部24の長手方向の両端部から膜部材15に向かって突出した端部脚部25,25と、連絡部24の中央部の両側面から突出した1対の回動中心シャフト23,23(図11(B)参照)とを備えている。
【0022】
各端部脚部25の先端部からは円形鍔部25Fが側方に張り出しており、その円形鍔部25Fの中心部からは膜係止ピン25Pが突出している。膜係止ピン25Pは、円形鍔部25Fと対向した係止鍔部25P1と、係止鍔部25P1と円形鍔部25Fとを連結した軸部25P2とから構成されている。係止鍔部25P1は、円形鍔部25Fより小径な円板状をなしており、円形鍔部25Fとは反対側の先端面がドーム状に膨出した球面となっている。そして、膜部材15に貫通形成された中心孔15C,15C(図12参照)を押し広げながら係止鍔部25P1,25P1を通過させることで、各中心孔15C,15Cに膜係止ピン25P,25Pが挿通され、係止鍔部25P1と円形鍔部25Fとの間に膜部材15における送受波膜21A,21Bの中心部(中心孔15C,15Cの周縁部)が挟まれて固定される(図13参照)。
【0023】
図11に示すように、1対の回動中心シャフト23,23は、前記した回動中心線L11を中心軸とした同心の丸棒状をなしている。そして、1対の回動中心シャフト23,23が、1対のシーソー支持壁35,35に形成されたシャフト支持凹部35M,35Mにそれぞれ受容されている(図5参照)。これにより、シーソー部材22が回動中心線L11を中心にして回動する。
【0024】
図9に示すように、カバー本体31の本体枠壁36は、膜保持プレート32よりも僅かにダクト壁10W側に突出している。また、本体枠壁36における四方の側壁には、ダクト壁10Wに向かって延びた係止片37,37がそれぞれ一つずつ形成されている。また、本体枠壁36における四隅のコーナー部からは、ダクト壁10Wに向かって突当片38,38が突出している。突当片38,38は、下端部が平坦面になった突片状をなしている。一方、係止片37,37は、突当片38,38よりも長く延び、その先端部の外面側には、三角形の係止突起37Aが備えられている。そして、ダクト壁10Wの外面に突当片38,38の先端面が突き当てられ、ダクト壁10Wに貫通形成された複数の係止スリット10Sに係止片37,37が挿入されて、各係止突起37Aがダクト壁10Wの内面に係止することでカバー本体31がダクト壁10Wの外面に固定されている。
【0025】
図6に示すように、ダクト壁10Wの外面からは、膜保持プレート32のプレート貫通孔33,33に向かって円環状凸部14,14が突出しており、それら円環状凸部14,14の内側にダクト貫通孔13,13が形成されている。これに対し、図9に示すように、膜保持プレート32におけるダクト壁10Wとの対向面には、1対の円環状凹部39,39が形成されており、それら円環状凹部39,39の内側にプレート貫通孔33,33が形成されている。そして、カバー本体31がダクト壁10Wの外面に固定されると、円環状凸部14,14の稜線部が、円環状凹部39,39に突き合わされて、それら円環状凸部14,14と円環状凹部39,39との間で膜部材15(1対の送受波膜21A,21Bの周縁部)が挟持される(図13参照)。
【0026】
図6及び図7に示すように、ダクト壁10Wにおけるダクト貫通孔13,13の内側には、内側規制部材16が設けられている。各内側規制部材16は、例えば、ダクト貫通孔13の内周面を8等分する位置からダクト貫通孔13の中心に向かって延びた複数の梁部16Cと、ダクト貫通孔13と同心円になって梁部16C群の先端部の間を連絡した第1環状部16Aと、梁部16C群の中間部の間を連絡した第2環状部16Bとからなり、全体として格子状(蜘蛛の巣状)をなしている。
【0027】
内側規制部材16は、ダクト貫通孔13,13の軸方向における中間に位置し、送受波膜21A,21Bの内面との間に隙間16Sを介して対向している。その隙間16Sは、音に起因した送受波膜21A,21Bの振動を許容する大きさになっている。即ち、音に起因した送受波膜21A,21Bの振動では、送受波膜21A,21Bは内側規制部材16と接触しないようになっている。これに対し、ダクト10内の負圧によって送受波膜21A,21Bがダクト10の内側に膨出変形したときには、送受波膜21A,21Bが内側規制部材16と当接するように前記隙間16Sが設定されている。
【0028】
内側規制部材16における第1環状部16Aの内径は、図13に示すように、膜部材15の中心孔15Cを貫通した係止鍔部25P1の外径より大きくなっている。これにより、送受波膜21A,21Bがダクト10の内側に膨出変形した場合に、係止鍔部25P1と内側規制部材16との干渉が回避されている。
【0029】
さらに、内側規制部材16のうちダクト10の内側を向いた内向面16Nは、ダクト10の内面10Nより外側にずれている。即ち、内側規制部材16が、ダクト10の内面10Nから内側に突出しないようになっていて、これにより、内側規制部材16によってダクト10内における吸気抵抗の増加が抑えられている。
【0030】
図10に示すように、外面カバー30におけるカバー蓋体50は、矩形板状の天井壁51と、天井壁51の外縁部からカバー本体31の本体枠壁36に向かって突出した矩形枠状の蓋体枠壁52とを有している。そして、カバー本体31とカバー蓋体50は、例えば、本体枠壁36と蓋体枠壁52との接合面同士を溶着(振動溶着)することで接合されている。つまり、外面カバー30のうち、1対の送受波膜21A,21B及びシーソー部材22を四方から囲む4つの側壁は、カバー本体31の本体枠壁36とカバー蓋体50の蓋体枠壁52とから構成されている。
【0031】
天井壁51の内面中央部からは、1対の抜止突片55,55が起立している。これら抜止突片55,55は、カバー本体31における1対のシーソー支持壁35,35と同様に、1対のプレート貫通孔33,33の中心軸33J,33J(図8参照)を含む基準平面(図示せず)を挟んで対向配置されている。そして、これら抜止突片55,55が、シャフト支持凹部35M,35Mの上面開口を横切った状態で1対のシーソー支持壁35,35の先端部に突き当てられており(図示せず)、これにより回動中心シャフト23,23がシャフト支持凹部35M,35Mに抜け止めされている。
【0032】
図3及び図4に示すように、上記した外面カバー30における四方の側壁には、それぞれ通気孔44,44が1つずつ形成されている。これら通気孔44,44は、4つの各側壁の横方向の一端寄り位置から他端寄り位置に亘って連続して延びた横長のスリットで構成されている。また、各通気孔44,44は、天井壁41からの距離が同じ距離となる位置に設けられている。さらに、本実施形態では、各通気孔44,44が天井壁51寄り位置に設けられ、カバー本体31とカバー蓋体50との合体面(分割面)が各通気孔44,44を横切っている。
【0033】
詳細には、カバー本体31の本体枠壁36における四隅のコーナー部には、カバー蓋体50に向かって段付き状に突出した本体側コーナー突片40,40が形成されており、隣接した本体側コーナー突片40,40で挟まれた中間部分が相対的に凹になって本体側凹部41,41が形成されている。本体側コーナー突片40,40の各先端面は平坦面でありかつ互いに面一になっている。
【0034】
これに対し、カバー蓋体50の蓋体枠壁52における四隅のコーナー部には、カバー本体31に向かって段付き状に突出した蓋体側コーナー突片53,53が形成されており、隣接した蓋体側コーナー突片53,53で挟まれた中間部分が相対的に凹になって蓋体側凹部54,54が形成されている。蓋体側コーナー突片53,53の各先端面は平坦面でありかつ互いに面一になっている。
【0035】
カバー本体31の四隅の本体側コーナー突片40,40と、カバー蓋体50の四隅の蓋体側コーナー突片53,53とを突き当ててそれらの先端面同士を溶着し、カバー本体31とカバー蓋体50とを固定すると、カバー本体31の四方の側壁に形成された本体側凹部41,41と、カバー蓋体50の四方の側壁に形成された蓋体側凹部54,54とが合併して、外面カバー30の四方の側壁にそれぞれ1つずつ通気孔44としての横長のスリットが形成される。
【0036】
ところで、図13及び図14に示すように、シーソー部材22の両端部に備えた係止鍔部25P1,25P1の先端面には、それぞれ円柱形をなした永久磁石70A,70B(具体的には、ネオジム磁石)が固定されている(図13には、一方の永久磁石70Aのみが示されている)。これら1対の永久磁石70A,70Bは、送受波膜21A,21Bの振動方向に磁極を向けて固定されており、各送受波膜21A,21Bを貫通した磁束を発生している。また、1対の永久磁石70A,70Bは、磁極の向きが一致するように配置されている。一例を挙げれば、例えば、係止鍔部25P1,25P1に近い側にS極、遠い側にN極が配されるように各永久磁石70A,70Bが固定されている。以下、永久磁石70A,70Bを区別する場合には、送受波膜21Aの中心に設けられた方を「第1の永久磁石70A」といい、送受波膜21Bの中心に設けられた方を「第2の永久磁石70B」という。
【0037】
ダクト10の内側、詳細には、ダクト貫通孔13,13の内側であって、送受波膜21A,21Bの内面と内側規制部材16,16との間に形成された隙間16S,16Sには、同一巻数の第1の電磁コイル75Aと第2の電磁コイル75B(本発明の「1対の電磁コイル」に相当する)がそれぞれ配置されている(図13参照。同図には第1の電磁コイル75Aのみが示されている)。図15に示すように、第1の電磁コイル75Aは第1の永久磁石70Aの周りに隙間を空けて巻回されており、第1の永久磁石70Aの磁束が第1の電磁コイル75Aを貫いている。同様に、第2の電磁コイル75Bは第2の永久磁石70Bの周りに隙間を空けて巻回されており、第2の永久磁石70Bの磁束が第2の電磁コイル75Bを貫いている。また、第1と第2の電磁コイル75A,75Bは電線75C,75C(本発明の「コイル接続回路」に相当する)によって接続されて閉じた通電回路75が構成されている(図14参照)。ここで、電線75C,75Cは、通電回路75内を循環する電流により、第1と第2の電磁コイル75A,75Bにおいて同じ向きの磁束が発生するように、第1と第2の電磁コイル75A,75Bを接続している。なお、本実施形態では、1本の電線の途中の二箇所を巻回して第1と第2の電磁コイル75A,75Bが形成され、その電線の両端部を接続することで通電回路75が構成されている。以下、第1の永久磁石70Aとその周囲の第1の電磁コイル75Aとを纏めて「第1の交流磁束発生部71」といい、第2の永久磁石70Bとその周囲の第2の電磁コイル75Bとを纏めて「第2の交流磁束発生部72」という。
【0038】
本実施形態の膜式消音器20及びこれを備えたダクト10の構成に関する説明は以上である。次に、本実施形態の作用効果について説明する。エンジンは、ダクト10を通して吸気を行って作動する。すると、そのエンジンによる吸気音が騒音となって、ダクト10内を吸気方向と逆向きに進み、その騒音を、膜式消音器20で低減させることができる。その消音メカニズムは、以下の通りである。
【0039】
即ち、音波は所定周期で圧力が変化する波であるから、一方の送受波膜21Aは、騒音の音波を受波すると、その騒音の周波数で内側に膨出した状態と外側に膨出した状態とを交互に繰り返すように振動する。ここで、送受波膜21A,21B同士の間はシーソー部材22で連絡されているので、一方の送受波膜21Aが騒音の音波を受けて所定周期で振動すると、それに従動して他方の送受波膜21Bも同じ所定周期で振動しかつ、一方の送受波膜21Aの膨出方向と他方の送受波膜21Bの膨出方向は常に互いに逆向きになる。
【0040】
また、各送受波膜21A,21Bに設けられた第1と第2の交流磁束発生部71,72の作用は、以下の通りであると推測される。即ち、例えば、ダクト10内の騒音伝達方向の上流側に配置された送受波膜21Aが騒音の音波を受波して振動すると、この送受波膜21Aと一体に第1の永久磁石70Aが振動する。第1の永久磁石70Aが振動すると電磁誘導作用によって第1の電磁コイル75Aに誘導電流が発生すると共に交流磁束が発生する。この交流磁束は、第1の永久磁石70Aの振動を妨げるように作用する。第1の電磁コイル75Aで発生した誘導電流は、電線75C,75Cを介して第2の電磁コイル75Bに通電されて、第2の電磁コイル75Bにおいても交流磁束が発生する。ここで、上記したように、通電回路75内を循環する電流により、第1と第2の電磁コイル75A,75Bにおいて同じ向きの磁束が発生するように第1と第2の電磁コイル75A,75Bが接続されているから、第1の電磁コイル75Aで発生する交流磁束の向きと、第2の電磁コイル75Bで発生する交流磁束の向きは常に同じとなる。
【0041】
そして、1対の永久磁石70A,70Bの磁極の向きが一致しているから、例えば、図15(B)に示すように、送受波膜21Aが音波を受波してダクト10の内側から外側に膨出したとき、第1の電磁コイル75Aは、第1の永久磁石70Aをダクト10の内側に引きつけるような磁束(第1の永久磁石70Aの振動を妨げるような磁束)を発生させ、第2の交流磁束発生部72は、第2の永久磁石70Bをダクト10の内側に引き込むような磁束を発生させる。即ち、第2の電磁コイル75Bは、第2の永久磁石70Bを第1の永久磁石70Aとは逆の位相で振動させるような磁力を発生する。このように、本実施形態によれば、一方の送受波膜21Aが受けた騒音の音波とは逆位相のキャンセル波が他方の送受波膜21Bから送波され、騒音を低減させることができる。
【0042】
また、本実施形態の膜式消音器20によれば、ダクト壁10Wの外面を1対の送受波膜21A,21B及びシーソー部材22と共に覆う外面カバー30を設けたので、シーソー部材22及び1対の送受波膜21A,21Bと他の部品、工具との当接が防がれ、膜式消音器20及びこれを備えたダクト10の取り扱いが容易になる。また、実使用状態において、異物(例えば、飛び石等)によるシーソー部材22の動作不良や1対の送受波膜21A,21Bの破損を防止することができる。
【0043】
ここで、例えば、走行中の車両の前面に例えばビニール袋のような異物が張り付き、ダクト10の吸引口が覆われると、ダクト10内の負圧が急激に上昇し、送受波膜21A,21Bが内側に引かれる。しかしながら、本実施形態の膜式消音器20では、送受波膜21A,21Bの内面に対して内側規制部材16,16が対向しているので、ダクト10内の負圧により撓んだ送受波膜21A,21Bが内側規制部材16,16に当接して、それら送受波膜21A,21Bの過度な変形が防止される。そして、ビニール袋が除去され、ダクト10内が通常の負圧状態に戻されると、送受波膜21A,21Bが内側規制部材16,16から離間して、騒音に対して振動可能な状態に戻る。これにより、膜式消音器20の消音性能の低下が防がれ、耐久性が向上する。また、内側規制部材16,16は、送受波膜21A,21Bに異物(例えば、メンテナンス時の工具等)が衝突することを防ぐので、この点においても膜式消音器20の消音性能の低下が防がれ、耐久性が向上する。
【0044】
さらに、次述する実験により、騒音が低周波(特に、65〜75[Hz]の周波数帯)である場合には、各送受波膜21A,21Bに対して交流磁束発生部71,72を設けることで、より高い消音効果が得られることが確認できた。
【0045】
[実施例]
以下、本発明の実施品1と、本発明の発明特定事項の一部を欠いた比較品1,2,3とを製作して行った消音効果の比較実験結果について述べる。実施品1は、図16に示すように、上記実施形態と同様のダクト10における中間筒部10Cに、上記実施形態と同様の膜式消音器20を備えた構造をなしている。その膜式消音器20における送受波膜21A,21Bの直径(即ち、ダクト貫通孔13,13及びプレート貫通孔33,33の直径)は共にφ60[mm]で、それら送受波膜21A,21Bの中心点間の距離は70[mm]になっている。また、送受波膜21A,21Bは、共に膜厚が0.3[mm]のEPDM(エチレンプロピレンゴム)で構成されている。永久磁石70A,70Bは、直径が共にφ5[mm]で、長さ5[mm]の円柱形である。電磁コイル75A,75Bは、線径0.7[mm]、コイル巻き径20[mm]、コイル巻数は3である。
【0046】
比較品1は、実施品1から膜式消音器20を排除したもの、即ち、単なるダクト10である。比較品2は、実施品1から通電回路75を排除した構造をなしており、その他の構成に関しては実施品1と同じである。
【0047】
(実験方法)
実験方法は、以下の通りである。即ち、図16に示すように、実施品1におけるダクト10の始端部の開口(吹出口10B)にスピーカー92を対向配置すると共に、ダクト10の始端部の開口と終端部の開口(吸込口10A)に始端マイク91Aと終端マイク91Bを配置する。そして、スピーカー92から出力する音の周波数を0〜200[Hz]の範囲で変更しながら、始端マイク91A及び終端マイク91Bにて拾音する。そして、周波数毎に始端マイク91Aによる拾音量から終端マイク91Bによる拾音量を差し引いた差分音量を求めて図17に示したグラフg1を作成する。また、同様の手順で、実施品1の代わりに比較品1を用いて図17のグラフh1を作成し、比較品2を用いて図17のグラフh2を作成する。
【0048】
(実験結果)
図17に示されているように、実施品1から通電回路75を排除したもの(比較品2:グラフh2)は、膜式消音器20を備えないもの(比較品1:グラフh1)に比べて60〜200[Hz]の周波数帯で消音効果が得られることが確認できた。また、実施品1(グラフg1)では、膜式消音器20を備えないもの(比較品1:グラフh1)に比べて65〜200[Hz]の周波数帯で消音効果が得られることが確認できた。
【0049】
さらに、実施品1(グラフg1)は、65〜75[Hz]の周波数帯において、比較品2(グラフh2)よりも大きな消音効果が得られることが確認できた。
【0050】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0051】
(1)前記実施形態では、ダクト10に本発明に係る膜式消音器20のみが備えられていたが、従来からの公知の膜式消音器と本発明に係る膜式消音器とを組み合わせてダクト内に設けてもよい。
【0052】
(2)前記実施形態では、膜式消音器20は車両用吸気ダクト10に備えられていたが、それ以外のダクトや、ダクト以外の部分に本発明に係る膜式消音器を設けてもよい。例えば、車両のエンジンルームの内壁に本発明に係る膜式消音器を設けてもよい。
【0053】
(3)前記実施形態では、1対の永久磁石70A,70Bの磁極の向きが一致するように配置しかつ、通電回路75内を循環する電流により、第1と第2の電磁コイル75A,75Bにおいて同じ向きの磁束が発生するように第1と第2の電磁コイル75A,75Bを接続した構成であったが、永久磁石70A,70Bの磁極の向きが互いに逆向きになるように配置しかつ、通電回路75内を循環する電流により、第1と第2の電磁コイル75A,75Bにおいて互いに逆向きの磁束が発生するように第1と第2の電磁コイル75A,75Bを接続した構成としてもよい。
【0054】
(4)前記実施形態では、シーソー部材22のうち送受波膜21A,21Bを貫通してダクト10の内側に配置された係止鍔部25P1,25P1に永久磁石70A,70Bが固定され、通電回路75(第1と第2の電磁コイル75A,75B)がダクト10の内側に固定配置されていたが、例えば、シーソー部材22の端部脚部25,25のうち送受波膜21A,21Bの外側部分に永久磁石70A,70Bを埋め込んでおき、通電回路75(第1と第2の電磁コイル75A,75B)をダクト10の外側に固定配置してもよい。
【0055】
(5)前記実施形態では、1対の送受波膜21A,21Bを共通の膜部材15から構成していたが、別々の膜部材によって構成してもよい。
【0056】
(6)前記実施形態では、外面カバー30の形状が直方体の箱形形状であったが、シーソー部材22及び送受波膜21A,21Bを外面から覆うことが可能な形状であればよい。また、通気孔44,44の形状は、上記実施形態のようなスリット状に限定するものではない。また、外面カバー30に通気孔44,44を設けずに密閉構造にしてもよい。さらに、外面カバー30を排除した構成としてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 車両用吸気ダクト
10W ダクト壁
20 膜式消音器
21A,21B 送受波膜
22 シーソー部材
70A,70B 永久磁石
75A,75B 電磁コイル
75C,75C 電線(コイル接続回路)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダクト内を伝達する騒音を低減させるための膜式消音器であって、
前記ダクトのダクト壁を貫通し、横並びに配置された1対の円形貫通孔と、
前記1対の円形貫通孔を塞いだ状態に張られ、音波を受波して振動する1対の送受波膜と、
前記1対の送受波膜の中心部の間を連絡すると共に、それら1対の送受波膜の中心部の間で前記ダクトに対して回転可能に支持されて、前記1対の送受波膜の相互間で振動を伝達可能なシーソー部材と、
前記送受波膜と一体に振動しかつ各前記送受波膜を貫通した磁束を発生する1対の磁石と、
前記1対の磁石の磁束が貫通した1対の電磁コイルと、
前記1対の電磁コイルの間を接続し、一方の前記磁石の振動により一方の前記電磁コイルに電磁誘導された誘導電流を他方の前記電磁コイルに通電して交流磁束を発生させ、他方の前記磁石を前記一方の磁石とは逆の位相で振動させる磁力を生じさせるコイル接続回路とを備えたことを特徴とする膜式消音器。
【請求項2】
車両のエンジンの吸気経路に配置され、中間部に請求項1に記載の膜式消音器を備えたことを特徴とする車両用吸気ダクト。
【請求項1】
ダクト内を伝達する騒音を低減させるための膜式消音器であって、
前記ダクトのダクト壁を貫通し、横並びに配置された1対の円形貫通孔と、
前記1対の円形貫通孔を塞いだ状態に張られ、音波を受波して振動する1対の送受波膜と、
前記1対の送受波膜の中心部の間を連絡すると共に、それら1対の送受波膜の中心部の間で前記ダクトに対して回転可能に支持されて、前記1対の送受波膜の相互間で振動を伝達可能なシーソー部材と、
前記送受波膜と一体に振動しかつ各前記送受波膜を貫通した磁束を発生する1対の磁石と、
前記1対の磁石の磁束が貫通した1対の電磁コイルと、
前記1対の電磁コイルの間を接続し、一方の前記磁石の振動により一方の前記電磁コイルに電磁誘導された誘導電流を他方の前記電磁コイルに通電して交流磁束を発生させ、他方の前記磁石を前記一方の磁石とは逆の位相で振動させる磁力を生じさせるコイル接続回路とを備えたことを特徴とする膜式消音器。
【請求項2】
車両のエンジンの吸気経路に配置され、中間部に請求項1に記載の膜式消音器を備えたことを特徴とする車両用吸気ダクト。
【図13】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−104373(P2013−104373A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249577(P2011−249577)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
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