説明

自動分析装置

【課題】血液,尿などの生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置において、初回の検査時に、測定レンジオーバーなどの原因により、同じサンプルを再度分析する必要が発生する場合がある。一方、再検査は初回分析後10数分経過しているため、自動分析装置がおかれた環境の温度,湿度によっては、試料が濃縮し、本来の値とは異なる測定値が得られる可能性があった。
【解決手段】初回の検査で測定レンジオーバーなどの原因により、再検時の再分注前に、試料を攪拌し、濃縮した表層部と下層部の試料の濃度むらを解消する。これにより、再検査であっても真の値に近い測定結果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液,尿等の生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液,尿等の生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置には、予め設定された濃度範囲に対して出力された濃度が範囲を外れた場合に、同じ検体を自動的に再測定する「自動再検」機能を有するものがある。
【0003】
「自動再検」機能を利用する場合、最初の測定の結果が出るまでは、検体を装置内に保持する必要がある。近年の自動分析装置は、1つの分析を完了するのに10分を要するものが主流であるため、初回の前処理済み検体の分注から、分析,結果出力,再検判定,再検依頼を経て、再検のために前処理済み検体が再分注されるまで、約13分程度を要する。この間、前処理済み検体は、温湿度制御されていない環境下で、検体容器内に保持されることになる。その結果、前処理済み検体の表面から水分が蒸発し、濃縮する可能性があり、再検査までの経過時間によっては、再検査の測定結果が本来の値と異なるおそれがあった。
【0004】
特許文献1には、再検査が必要な測定項目の他に、別の測定項目の分析を同一の検体に対して行い、別の測定項目での初回検査での測定値と再検査時での測定値の変化に基づき、再検査が必要な測定項目での再検査時の測定値を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−151860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の技術では、再検査が必要な測定項目の他に別の測定項目の分析を行う必要があり、その分の検体,試薬が必要であるという問題点がある。本発明の目的は、再検査時においても、検体の濃縮の影響を受けず、初回検査時と同等の分析結果が得られる自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
検体を所定量分取するために分注ノズルを検体に浸漬するが、分注ノズルの検体への浸漬量が多いと、ノズルの外表面に検体が付着し、ノズルを介して別の検体と混じりあうコンタミネーションが発生する可能性がある。そのため、検体の液面位置を検知し、液面からわずか下の位置にノズル先端を停止して所定量の検体を吸引する動作を行うのが現在の自動分析装置の標準である。検体の吸引により液面が下がるので、液面の低下にあわせてノズルを下降させる。
【0008】
すなわち、検体の分取時は、液面直下の検体を吸引していることになる。一方、検体の濃縮は液面近傍の水分が蒸発するために発生し、検体容器底部付近の検体では濃縮の度合いは非常に少ないと思われる。
【0009】
従い、再検査時の検体の濃縮影響を低減するためには、再検時の再分注直前に攪拌機構を用いて検体を攪拌し、表層部と下層部の濃度差を解消し、表層部の濃縮影響を低減すれば良い。
【発明の効果】
【0010】
再検査と初回検査での測定値のばらつきをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係わる自動分析装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係わる自動分析装置の自動再検フローの概要である。
【図3】本発明の効果を示すデータである。
【図4】本発明の実施形態に係わる自動分析装置の前処理済み検体の液量に応じた攪拌条件を決定するフローである。
【図5】本発明の実施形態に係わる自動分析装置の前処理済み検体の液量に応じた攪拌条件設定画面である。
【図6】本発明の実施形態に係わる自動分析装置の前処理液の種類に応じた攪拌条件を決定するフローである。
【図7】本発明の実施形態に係わる自動分析装置の前処理液の種類に応じた攪拌条件設定画面である。
【図8】本発明の実施形態に係わる自動分析装置の検体の種類に応じた攪拌条件を決定するフローである。
【図9】本発明の実施形態に係わる自動分析装置の検体の種類に応じた攪拌条件設定画面である。
【図10】本発明の実施形態に係わる自動分析装置の前処理された時点から自動再検による再分注までの待ち時間に応じた攪拌条件を決定するフローである。
【図11】本発明の実施形態に係わる自動分析装置の前処理された時点から自動再検による再分注までの待ち時間応じた攪拌条件設定画面である。
【図12】本発明の実施形態に係わる自動分析装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0014】
まず、自動分析装置の概要について、図1を用いて説明する。
【0015】
自動分析装置は、検体架設部,前処理部,反応部に分けられる。検体架設部では、検体容器1に分取された血清や尿等の検体がサンプルディスク2に架設され、元検体分注機構7によって検体容器1から前処理容器8へ検体が分注される。前処理容器8は、前処理部にある前処理ディスク3の円周上に配置されており、元検体分注機構7によって検体が分注された前処理容器8は、前処理ディスク3が回転することにより前処理液分注位置まで移動し、前処理液分注機構9によって前処理液が吐出される。さらに前処理ディスク3が回転することにより、前処理液が吐出された前処理容器8は攪拌位置まで移動し、前処理済み検体攪拌機構10の攪拌棒が回転することにより攪拌される。攪拌された前処理済み検体は、前処理ディスク3の回転により、前処理済み検体分注位置まで移動し、前処理済み検体分注機構11によって反応容器12へ吐出される。反応容器12は、反応部にある反応ディスク6の円周上に配置されており、反応ディスク6が回転することにより、前処理済み検体が分注された反応容器12は試薬添加位置まで移動し、試薬ディスク5にセットされた試薬容器4から試薬分注機構13によって試薬が添加される。試薬が添加された反応容器12は、反応ディスク6が回転することにより、攪拌位置まで移動し、反応容器用攪拌機構16が回転することにより攪拌される。反応液が入った反応容器12は、反応ディスク6の回転により光度計14の光軸上を一定間隔で通過し、その都度、吸光度が測定される。測定された吸光度から、反応液中の目的成分の濃度が算出され、結果が出力される。なお、使用後の前処理容器8および反応容器12は、前処理容器用洗浄機構15および反応容器用洗浄機構17によって洗浄され、次の測定に使用される。
【0016】
次に、自動分析装置の自動再検のフローについて、図2を用いて説明する。
【0017】
自動分析装置には、1回目の測定で出力された濃度値が予め設定された濃度範囲から外れた場合、検体量を増加または減少させて、自動的に再検する機能がある。このとき、再検で使用される検体は、前処理容器8に保持されている前処理済み検体である。1回目の測定のために前処理済み検体を前処理容器8から反応容器12へ分注してから、2回目の測定のために分注されるまでの時間は、反応時間,結果出力,再検要否の判断,再検依頼等を要するため、通常約13分かかる。この間、前処理済み検体は、温湿度制御されていない前処理容器8に保持されており、また前処理ディスク3が回転するため、前処理済み検体の液表面から水分が蒸発しやすい環境下にある。その結果、表層部は蒸発の影響が大きく、中層部から下層部にかけては、蒸発の影響が少ない状態となる。一方、前処理済み検体分注機構11は、液面から数ミリ下降した位置で前処理済み検体を吸引するため、表層部の蒸発影響を回避できず、再検の結果は偽高値となるおそれがある。そこで、蒸発の影響を低減するために、攪拌条件を決定した上で、再分注前に、前処理ディスク3を回転することで、再検される前処理済み検体が保持された前処理容器8を攪拌位置まで移動し、前処理済み検体攪拌機構10の攪拌棒が回転することにより前処理済み検体を攪拌する。これにより、前処理済み検体の表層部と下層部での濃度むらが解消され、蒸発の影響が低減される。
【0018】
図3に、自動再検の際、再分注前に攪拌を行う場合と行わない場合で、濃縮の影響を調査した結果を示す。初回結果に対して、自動再検時に攪拌しない場合、濃縮率の平均は2.1%となる。一方攪拌を行う場合、濃縮率の平均は0.2%となり、蒸発の影響が低減される。
【0019】
次に、再検時、前処理容器8内に保持された前処理済み検体の容量に応じて、攪拌条件を決定するためのフローについて、図4を用いて説明する。初回測定の結果、再検が必要と判断された場合、初期量と初回で消費された量を差し引きすることで、前処理容器8内に保持されている前処理済み検体量が算出される。算出された液量と、図5の攪拌条件設定画面で設定された攪拌条件を照合し、攪拌条件が決定される。その後、決定された攪拌条件で、前処理容器内に保持された前処理済み検体が攪拌され、前処理済み検体分注機構11によって反応容器12へ分注される。これにより、前処理容器8内に保持された前処理済み検体の容量に適した攪拌条件で攪拌を行うことができる。
【0020】
次に、再検時、前処理液の種類に応じて、攪拌条件を決定するためのフローについて、図6を用いて説明する。初回測定の結果、再検が必要と判断された場合、当該検体の前処理液の種類が検索される。前処理液の種類と、図7の攪拌条件設定画面で設定された攪拌条件を照合し、攪拌条件が決定される。その後、決定された攪拌条件で、前処理容器8内に保持された前処理済み検体が攪拌され、前処理済み検体分注機構11によって反応容器12へ分注される。これにより、前処理容器8内に保持された検体の前処理液の種類に適した攪拌条件で攪拌を行うことができる。
【0021】
次に、再検時、検体の種類に応じて、攪拌条件を決定するためのフローについて、図8を用いて説明する。初回測定の結果、再検が必要と判断された場合、当該検体の種類が検索される。検体の種類と、図9の攪拌条件設定画面で設定された攪拌条件を照合し、攪拌条件が決定される。その後、決定された攪拌条件で、前処理容器8内に保持された前処理済み検体が攪拌され、前処理済み検体分注機構11によって反応容器12へ分注される。これにより、前処理容器内に保持された検体の種類に適した攪拌条件で攪拌を行うことができる。
【0022】
次に、再検時、前処理された時点から自動再検による再分注までの待ち時間に応じて、攪拌条件を決定するためのフローについて、図10を用いて説明する。初回測定の結果、再検が必要と判断された場合、当該検体の前処理された時点から自動再検による再分注時間までの待ち時間が検索される。検体の種類と、図11の攪拌条件設定画面で設定された攪拌条件を照合し、攪拌条件が決定される。その後、決定された攪拌条件で、前処理容器8内に保持された前処理済み検体が攪拌され、前処理済み検体分注機構11によって反応容器12へ分注される。これにより、前処理容器内に保持された検体の前処理された時点から自動再検による再分注までの待ち時間に適した攪拌条件で攪拌を行うことができる。
【0023】
上記実施例では、前処理済み検体攪拌機構10の攪拌手段として攪拌棒を示したが、超音波攪拌,振動攪拌,空気攪拌でも良い。
【実施例2】
【0024】
以下、本発明の実施例について図12を用いて説明する。
【0025】
検体容器1に分取された血清や尿等の検体は、サンプルディスク2に架設される。分析を開始すると元検体分注機構7によって検体容器1から前処理容器8へ検体が分注される。前処理容器8へ分注された検体は、前処理液分注機構9による前処理液吐出,前処理済み検体攪拌機構10による攪拌,前処理済み検体分注機構11による反応容器12への分注,試薬分注機構13による試薬添加,反応容器用攪拌機構16による攪拌,光度計14による吸光度測定を経て、目的成分の濃度が算出される。
【0026】
初回の元検体分注機構7による分注から再検判定を経て元検体分注機構7により再分注されるまでの約13分間、検体容器1はサンプルディスク2に保持される。そのため、検体容器1内の検体の表層部が蒸発し、再検結果が偽高値となるおそれがある。そこで、蒸発の影響を低減するために、再分注前にサンプルディスク2を回転することで、検体容器1を攪拌位置まで移動し、検体容器用攪拌機構18の攪拌棒が回転することにより、検体を攪拌する。これにより、検体の表層部と下層部での濃度むらが解消され、蒸発の影響が低減される。
【0027】
上記実施例では、検体容器用攪拌機構18の攪拌手段として攪拌棒を示したが、超音波攪拌,振動攪拌,空気攪拌でも良い。また装置構成として、検体容器1から前処理容器8を経由して反応容器12へ検体を分注する前処理部を有する自動分析装置を示したが、検体容器1から反応容器12へ検体を直接分注する自動分析装置でも良い。
【実施例3】
【0028】
まず、自動分析装置において、反応容器を用いて検体を希釈する機能の概要について、図1を用いて説明する。前処理済み検体分注機構11によって前処理済み検体が吐出された反応容器12は、反応ディスク6の回転により、試薬分注位置まで移動する。次に、試薬分注機構13が、装置内に保持されているイオン交換水または試薬ディスク5にセットされている希釈液を反応容器12に添加する。反応ディスク6の回転により、反応容器12は、攪拌位置まで移動し、反応容器用攪拌機構16により攪拌される。希釈された前処理済み検体は、前処理済み検体分注機構11により吸引され、別の反応容器12に吐出される。その後、試薬添加,攪拌,吸光度測定を経て、目的成分の濃度が算出される。
【0029】
初回測定時、希釈された前処理済み検体は直ちに別の反応容器12に分注される。初回の分注から再検判定を経て再分注されるまでの約13分間、反応容器12は37℃の反応槽内に保持される。そのため、希釈された前処理済み検体の表層部が蒸発し、再検結果が偽高値となるおそれがある。そこで、蒸発の影響を低減するために、再分注前に反応ディスク6を回転することで、希釈された前処理済み検体が保持された反応容器12を攪拌位置まで移動し、反応容器用攪拌機構16の攪拌棒が回転することにより、希釈された前処理済み検体を攪拌する。これにより、希釈された前処理済み検体の表層部と下層部での濃度むらが解消され、蒸発の影響が低減される。
【0030】
上記実施例では、反応容器用攪拌機構16の攪拌手段として攪拌棒を示したが、超音波攪拌,振動攪拌,空気攪拌でも良い。また装置構成として、検体容器1から前処理容器8を経由して反応容器12へ検体を分注する前処理部を有する自動分析装置を示したが、検体容器1から反応容器12へ検体を直接分注する自動分析装置でも良い。
【符号の説明】
【0031】
1 検体容器
2 サンプルディスク
3 前処理ディスク
4 試薬容器
5 試薬ディスク
6 反応ディスク
7 元検体分注機構
8 前処理容器
9 前処理液分注機構
10 前処理済み検体攪拌機構
11 前処理済み検体分注機構
12 反応容器
13 試薬分注機構
14 光度計
15 前処理容器用洗浄機構
16 反応容器用攪拌機構
17 反応容器用洗浄機
18 検体容器用攪拌機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収容する試料容器と、
該試料容器中の試料を攪拌する攪拌機構と、
前記試料容器中に収容された試料を再検査する際、試料分注前に、前記攪拌機構が該試料容器中の試料を攪拌するよう制御する制御機構と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記試料容器は、前処理後の試料を収容する容器であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項2記載の自動分析装置において、
前記試料容器は、ディスクの円周上に配置されていることを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
試料を収容する試料容器と、
該試料容器中の試料を所定量吐出される反応容器と、
該反応容器中の試料を攪拌する攪拌機構と、
前記反応容器中に収容された試料を再検査する際、試料分注前に、前記攪拌機構が該反応容器中の試料を攪拌するよう制御する制御機構と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項1または4記載の自動分析装置において、
前記制御機構は、前記試料容器中の試料量に基づいて、前記攪拌条件を変えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項1または4記載の自動分析装置において、
前記制御機構は、初回検査時と再検査時との経過時間に応じて、攪拌条件を変えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の自動分析装置において、
前記攪拌条件を設定する設定機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項8】
請求項2または3記載の自動分析装置において、
前記制御機構は、前記前処理に用いた前処理液の種類に応じて、前記攪拌条件を変えることを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−249755(P2010−249755A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101525(P2009−101525)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】