説明

自動分析装置

【課題】希釈や前処理時に、検体に応じた複数の温度制御が可能な自動分析装置を提供することにある。
【解決手段】検体前処理機構は、希釈ディスク100を備える。希釈ディスク100は、複数の希釈ディスクユニット110を備える。各ディスクユニット110は、温度制御部200により、個別に温度制御可能である。温度制御部200は、例えば、時系列的に温度を変化させる温度プログラムにより、ディスクユニット110の温度を制御する。複数のディスクユニット110は、各ディスクユニット110毎に脱着が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床検査用の自動分析装置に関し、親検体の希釈および前処理に好適な自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査用の自動分析装置では、検査にかかるランニングコストの削減を目的として、反応液量の低減が求められている。反応液量は分析で使用する検体量と比例するため、反応液量の低減には検体の微量化が必須である。しかし、現状の検体サンプリング技術では最小サンプリング量に限界があり、このため反応液量の大幅な低減は困難である。
【0003】
そこで検体の微量サンプリング技術として、一般に検体の希釈処理が行われる。自動分析装置において検体の希釈などの前処理を行う機能を有する前処理機構を有するものが知られている(例えば、特許文献1,特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−194004号公報
【特許文献2】特開平5−80059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載にものでは、検体の温度制御がなされておらず、今後温度管理による分析精度向上や分析応用範囲を拡大するためには、温度制御が必要である。
【0006】
一方、特許文献2記載のものでは、前処理専用の容器を利用して、検体または混合液の温度を一定に保つことが可能であるが、温度の管理単位は装置全体として単一の温度しか制御できない。
【0007】
また、温度一定状態に制御されている前処理機構に既に前処理検体が搭載されている状態において、次に新しい前処理検体を搭載した場合、新しい前処理検体との温度差によって、温度制御状態に乱れが生じ、温度制御に影響を与えることになり、既に架設してある前処理検体の温度に影響を与えるため、温度に対する影響を受けやすい前処理溶液の場合は精度が失われることになる。
【0008】
さらに、自動分析装置の応用範囲を拡大する制御として、温度プログラムによる前処理が期待される。温度プログラムとは時間推移に伴う温度制御が可能な機能である。温度プログラムによる温度制御が可能になれば、生化学検査だけでなく、遺伝子やDNAなど熱処理が必要な分野への検査項目の拡大が期待できるからである。しかし、特許文献2記載のものでは、温度制御を前処理機構全体で単一の制御となるため、装置全体で一括しての温度制御や、一度に大量の検体を同一条件で処理することは可能であるが、一つの温度プログラムを実行中は、他の温度プログラムの実行ができないものである。また、温度プログラム実行中の前処理検体の出し入れや、当該温度プログラムの前処理検体が全数前処理機構に架設完了する前の温度制御開始や、温度制御完了後に全数前処理検体を前処理機構から取り除くまでの間に次の温度プログラムの前処理検体架設や温度制御の開始が困難である。
【0009】
本発明の目的は、希釈や前処理時に、検体に応じた複数の温度制御が可能な自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、親検体の希釈や前処理を行う検体前処理機構を有する自動分析装置であって、前記検体前処理機構は、複数のディスクユニットを備え、各ディスクユニット毎に個別に温度制御可能である。
かかる構成により、希釈や前処理時に、検体に応じた複数の温度制御が可能となる。
【0011】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記検体前処理機構は、前記複数のディスクユニットと、各ディスクユニットを個別に温度制御する温度制御部とを備えるものである。
【0012】
(3)上記(2)において、好ましくは、前記温度制御部は、時系列的に温度を変化させる温度プログラムにより、前記ディスクユニットの温度を制御するようにしたものである。
【0013】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記複数のディスクユニットは、各ディスクユニット毎に脱着が可能である。
【0014】
(5)上記(1)において、好ましくは、前記複数のディスクユニットは、それぞれ、検体を搭載した検体容器や空容器を搭載可能である。
【0015】
(6)上記(1)において、好ましくは、前記複数のディスクユニットに保持される溶液を攪拌する攪拌機構を備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、希釈や前処理時に、検体に応じた複数の温度制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態による自動分析装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による自動分析装置に用いる希釈ディスクの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による自動分析装置に用いる希釈ディスクの温度制御部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1〜図3を用いて、本発明の一実施形態による自動分析装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による自動分析装置の全体構成について説明する。なお、ここでは、自動分析装置として、生化学自動分析装置を例にして説明する。
図1は、本発明の一実施形態による自動分析装置の全体構成を示すブロック図である。
【0019】
本実施形態の自動分析装置は、検体ディスク2,希釈ディスク100,反応ディスク6,試薬保冷庫5等を備えている。検体ディスク2には、試験管などに採取した複数の親検体1が設置されている。検体ディスク2は、一定方向(例えば、時計回り)に、所定角度ずつ回転可能である。希釈ディスク100には、複数の希釈セル8が配列されている。希釈ディスク100は、一定方向(例えば、時計回り)に、所定角度ずつ回転可能である。
【0020】
検体サンプリング機構7は、回動するアームの先端にノズルを備えている。ノズルは、アームを回動させることで、検体ディスク2の上部の位置と、希釈ディスク100の上部の位置に移動可能である。検体サンプリング機構7は、ノズルを用いて、検体ディスク2に設置された親検体1を所定量吸引して、希釈ディスク100上に配列された希釈セル8へ分注する。
【0021】
希釈液吐出機構9は、回動するアームの先端にノズルを備えている。ノズルは、アームを回動させることで、希釈ディスク100の上部の位置に移動可能である。ノズルの他端は希釈液ボトルに挿入されている。希釈液吐出機構9は、ノズルの他端から吸引した希釈液を、親検体1が分注された希釈セル8に吐出する。また、希釈ディスク100を前処理用として用いる場合には、希釈液吐出機構9と同様の前処理液吐出機構を備え、希釈セル8の内部に、前処理液を吐出する。希釈検体撹拌機構10は、回動するアームの先端に取り付けられたへらを有している。へらは回転可能である。検体撹拌機構10は、希釈セル8の内部にへらを挿入し、検体と希釈液を撹拌・混合する。
【0022】
反応ディスク6には、複数の反応セル12が配列されている。反応ディスク6は、一定間隔のサイクルで所定方向に所定角度ずつ回転動作する。希釈検体サンプリング機構11は、回動するアームの先端にノズルを備えている。ノズルは、アームを回動させることで、希釈ディスク100の上部の位置と、反応ディスク6の上部の位置とに移動可能である。希釈検体サンプリング機構11は、ノズルを用いて、希釈ディスク100の希釈セル8から所定量の希釈液若しくは前処理液を吸引し、反応ディスク6に配列された反応セル12に分注する。
【0023】
洗浄機構15は、回動するアームの先端にノズルを備えている。ノズルは、アームを回動させることで、希釈ディスク100の上部の位置に移動可能である。洗浄機構15は、ノズルの先端から希釈セル8の内部に洗浄液を吐出し、また、その洗浄液を吸引して、希釈セル8の内部を洗浄し、再使用する。
【0024】
試薬保冷庫5には、複数の試薬ボトル4が配列されている。試薬ボトル4には、複数の分析項目で用いる試薬が保持されている。なお、図示の例では、2つの試薬保冷庫5を備えている。試薬サンプリング機構13は、回動するアームの先端にノズルを備えている。ノズルは、アームを回動させることで、反応ディスク6の上部の位置と、試薬保冷庫5の試薬ボトル4の上部の位置に移動可能である。試薬サンプリング機構13は、試薬ボトル4から分析に必要な試薬を吸引し、反応ディスク6に配列された反応セル12に分注する。
【0025】
反応ディスク6は、一定間隔のサイクルで回転動作しながら反応液を反応させ、所定時間後、分光光度計14の位置に、反応セル12を位置づける。反応セル12の内部の反応済みの溶液の吸光度が、分光光度計14により測定される。測定データは、外部のコンピュータに取り込まれ、分析結果が出力される。
【0026】
次に、図2及び図3を用いて、本発明の一実施形態による自動分析装置に用いる希釈ディスク100の詳細構成について説明する。
図2は、本発明の一実施形態による自動分析装置に用いる希釈ディスクの構成を示すブロック図である。図3は、本発明の一実施形態による自動分析装置に用いる希釈ディスクの温度制御部の構成を示すブロック図である。
【0027】
希釈ディスク100は、複数の希釈ディスクユニット110を備える複合型希釈ディスクである。図示の例では、8個の希釈ディスクユニット110を備えている。各希釈ディスクユニット110は、それぞれ、温度センサ112と、加熱用のペルチェ素子114と、攪拌用の振動子116と、円筒形状の穴118を備えている。温度センサ112は、各希釈ディスクユニット110の温度を検出する。ペルチェ素子114は、各希釈ディスクユニット110を加熱する。穴118には、検体と、希釈液や前処理液が収納される。なお、穴118に直接検体等を収納するのではなく、穴に検体を搭載した検体容器や、空の容器を設置するようにしてもよいものである。
【0028】
温度制御ユニット200は、複数の希釈ディスクユニット110を個別に温度制御可能な複数の温度制御部210を備えている。温度制御部210の詳細については、図3を用いて説明する。
【0029】
温度制御部210は、A/D変換部212と、演算部214と、ヒータ電源部216とを備えている。A/D変換部212は、温度センサ112によって検出された各希釈ディスクユニット110の温度をディジタル信号に変換する。演算部214は、各希釈ディスクユニット110に取り付けられた温度センサ112から得られた温度測定値と、メインCPU300から設定された温度設定値TSとから、各希釈ディスクユニット110の調整すべき温度調整値を演算する。ヒータ電源部216は、演算部214の演算結果に基づいて、ペルチェ素子114を駆動して、各希釈ディスクユニット110を加熱する。この動作を繰り返すことによって、各希釈ディスクユニット110および各希釈ディスクユニット110に架設された検体を所望の温度に制御する。
【0030】
温度設定値TSの一例としては、図2に示すように、温度を所定の勾配で増加させた後、所定の勾配で低下させ、これを繰り返すような温度プログラムとすることができる。また、第1の希釈ディスクユニット110を所定の第1の温度(例えば、37℃;図2における実線)に保持する場合、第2の希釈ディスクユニット110は、第1の温度よりも高い第2の温度(図2における破線)に保持したり、第3の希釈ディスクユニット110は、第1の温度よりも低い第3の温度(図2における一点鎖線)に保持する事もできる。
【0031】
振動子116は、温度制御部200からの信号により、各希釈ディスクユニット110を振動させ、保持されている検体等を振動して攪拌する。なお、各希釈ディスクユニット110の信号攪拌は、個別に制御される。
【0032】
また、各希釈ディスクユニット110は、分離可能であり、個別に取り外し、また、取り付け可能である。複数個の希釈ディスクユニット110の内の一つを取り外した状態でも、他の希釈ディスクユニット110の動作は可能である。例えば、一つの希釈ディスクユニット110の不具合が生じた場合でも、その不具合の生じたユニット110だけを個別に取り外して、修理交換可能であり、その間、他の希釈ディスクユニット110の使用を停止しないで済むものである。一般に希釈ディスクユニット110の不具合により交換した場合では、自動分析装置を一旦停止した後、自動分析装置の再起動が必要となる。再起動には、1,2時間を要するのが一般的であり、本実施形態では、このようなシステムの停止を行うことなく、分析操作を継続することができる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態では、他検体架設による温度制御の乱れを、温度制御ブロック単位に制御することが可能となる。そのため従来の方式に比べ温度の安定性を向上させることができ、分析精度向上へ寄与可能である。
【0034】
また、ブロック毎に温度制御が可能となるため、前処理方法の自由度が従来に比べて拡大し、検体毎や分析項目毎などのきめ細やかな温度管理に寄与することができる。
【0035】
さらに、検体前処理の温度制御と検体架設の時間的効率において、自動分析装置に望まれるような、連続的な検体前処理の操作を多検体・多条件であっても実現することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…親検体
2…検体ディスク
4…試薬ボトル
5…試薬保冷庫
6…反応ディスク
7…親検体サンプリング機構
8…希釈セル
9…希釈液吐出機構
10…希釈検体撹拌機構
11…希釈検体サンプリング機構
12…反応セル
13…試薬サンプリング機構
14…分光光度計
15…希釈セル洗浄機構
100…希釈ディスク
110…希釈ディスクユニット
112…温度センサ
114…ペルチェ素子
116…振動子
200…温度制御ユニット
210…温度制御部
212…A/D変換部
214…温度制御値演算部
216…ヒータ電源部
300…メインCPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親検体の希釈や前処理を行う検体前処理機構を有する自動分析装置であって、
前記検体前処理機構は、複数のディスクユニットを備え、
各ディスクユニット毎に個別に温度制御可能であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記検体前処理機構は、前記複数のディスクユニットと、各ディスクユニットを個別に温度制御する温度制御部とを備えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項2記載の自動分析装置において、
前記温度制御部は、時系列的に温度を変化させる温度プログラムにより、前記ディスクユニットの温度を制御することを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記複数のディスクユニットは、各ディスクユニット毎に脱着が可能であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記複数のディスクユニットは、それぞれ、検体を搭載した検体容器や空容器を搭載可能であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記複数のディスクユニットに保持される溶液を攪拌する攪拌機構を備えることを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−232212(P2011−232212A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103528(P2010−103528)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】