説明

自動外部精度管理システム及び方法

【課題】検体検査における外部精度管理を通信により自動的に実施されるシステム及び方法を提供する。
【解決手段】試薬を用いて患者検体測定を行う分析機の自動外部精度管理システムであって、複数の施設内に配置された分析機により定期的かつ自動的にコントロール測定データーを取得し、通信手段を用いて中央のデータバンクに伝送し、計算手段により該測定データーを予め中央データバンク内に格納されているシステム全体の平均値と比較し、偏差値を計算し、偏差値の大きさによりランク付けした評価を出す自動外部精度管理システム、及び自動外部精度管理方法。本発明のシステム及び方法は、検査業務の省力化を促進することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体分析機器の外部精度管理システム及び方法に関するものである。詳細には、本発明は、検体検査における外部精度管理を通信により自動的に実施されるシステム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に検体検査の精度管理には内部精度管理と外部精度管理があり、コントロール血清等を用いた測定により実施されている。
【0003】
内部精度管理は施設内でのデーター管理であり、分析機により定期的かつ自動的に測定データーを取得し、施設内で得られた測定データーを管理しかつ施設内で得られた測定データーによって分析機の精度を管理するものである。
【0004】
これに対し、外部精度管理は、施設内で得られた測定データーを他施設で得られた測定データーと比較することにより、測定データーの位置づけを客観的に認識して分析機の精度向上を図るものである。
【0005】
外部精度管理は近年の保険診療報酬改定に伴い新設された検体管理加算においてもその実施が認定基準として挙げられる他、検体測定値の標準化や患者データーの精度向上に寄与している。
【0006】
外部精度管理は一般に外部の各種団体及び企業が実施している。
【0007】
外部精度管理が実施される方法は様々であるが、そのデーター報告は郵送又は電子メールでの送信が行われている。
【0008】
すなわち、各施設内に配置された分析機によって取得されたコントロール測定データーを郵送又は電子メールにより中央のデーター処理施設に送信し、中央のデーター処理施設にてデーターの蓄積及び管理を行う。このような集中的なデーター管理は各施設間の誤差を小さくし、データーの測定精度向上に寄与している。
【0009】
しかしながら、このような集中的なデーター管理は伝送された測定データーの中央データーバンクへの再入力を必要とし、データーの蓄積及び管理に膨大な手間と時間を要する。また、分析機が配置されている各施設もコントロールデーターを分析及び送信するために専門の技術者を配置する必要がある。さらに、データーの入力は通常、人手によって行われているので、人為的な入力ミスが発生しやすい。
【0010】
また、従来のこのような集中的なデーター管理は、各施設内に配置されている分析機でコントロールデーターを測定し、測定データーを中央処理施設に送信し、中央処理施設で計算し、その結果を各施設に返信するまでに最低でも数日の時間を必要とする。したがって、中央処理施設の分析によって分析機の測定精度が所定の範囲から外れていることが判明した場合、その間に行われた検体測定は不正確なものとなり、それらの検体測定を再度行わなくてはならない。
【0011】
さらに、各施設内の分析機のコントロールデーターの分析及び送信は基本的に各施設の担当技術者に委ねられているので、担当技術者が何らかの理由によって分析及び送信を行わなかった場合に、分析機の測定精度は不明確なままとなってしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の問題を解決するためのものであり、電話回線経由等でコントロールデーターを自動的に送信及び取得する自動外部精度管理システムを提供することにより検査業務の省力化を促進する。
【0013】
本発明のもう1つの目的はコントロールデーターの測定、他の分析機のデーターとの比較、結果の返信を迅速に行い、測定装置の不良または容認できない程度の精度のずれ、及び精度が不明確な状態での検体検査測定を防止することである。
【0014】
さらに、本発明のもう1つの目的は、複数の施設に配置された複数の分析機からの測定データーを集中管理することにより、複数の分析機のコントロールデーター測定の効率及び精度を大幅に向上させることである。
【0015】
また検査業務の省力化と検体管理加算等の経済効果により中小規模病院での検査導入を促進し患者へのサービス向上を目的とする。
【0016】
さらに、直接システムからの送信のため入力ミス等の問題を軽減する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、上述した課題を解決すべく鋭意検討したところ、施設に設置された分析機から、定期的にコントロール測定データーを読み取り、累積平均データーと比較することにより前記課題を達成できることを見出した。
【0018】
また、本発明はデーターを電話回線等を介して遠隔的に収集し、複数の病院や診療所に配置された複数の測定機器の測定データーを一括管理することにより、効率及び精度を大幅に改善することを可能にした。
【0019】
かくして本発明によれば、以下の1〜8の発明が提供される。
1.試薬を用いて患者検体測定を行う分析機の自動外部精度管理システムであって、複数の施設内に配置された分析機により定期的かつ自動的にコントロール測定データーを取得し、通信手段を用いて中央のデータバンクに伝送し、計算手段により該測定データーを予め中央データバンク内に格納されているシステム全体の平均値と比較し、偏差値を計算し、偏差値の大きさによりランク付けした評価を出す自動外部精度管理システム。
2.更に、前記偏差値が所定の範囲内である場合に、前記測定データーを前記中央データバンクに蓄積しかつ前記計算機がシステム全体の平均値を再計算し前記中央データバンクに再格納し、前記偏差値が前記所定の範囲外にある場合に、該測定データーをシステム全体の平均値を再計算するために算入しない上記1に記載の自動外部精度管理システム。
3.前記通信手段が、電話回線、インターネット、イントラネット、又はエクストラネット等に接続可能なパソコン又はPDAである上記1又は2に記載の自動外部精度管理システム。
4.前記ランク付けした評価が標準偏差値である上記1〜3のいずれか一に記載の自動外部精度管理システム。
5.同一コントロールを用いて測定を行い、得られた測定データーを通信手段を用いて中央のデータバンクに伝送しかつ蓄積する上記1〜4のいずれか一に記載の自動外部精度管理システム。
6.自動分析機が生化学自動分析機である上記1〜5のいずれか一に記載の自動外部精度管理システム。
7.試薬を用いて患者検体測定を行う生化学自動分析機の自動外部精度管理方法のおいて、
複数の施設内に配置された分析機が該分析機のコントロール測定データーを取得し、通信手段を介して中央サーバーに送信するステップ、
前記中央サーバーが、前記測定データーを予め中央データバンク内に格納されている全ての分析機の測定データーの平均値と比較し、該測定データーの偏差値を出力するステップ、及び、
偏差値の大きさによりランク付けした評価を出すステップ
からなる自動外部精度管理方法。
8.更に、前記偏差値が所定の範囲内である場合に、前記中央サーバーが前記測定データーを前記中央データバンクに蓄積しかつシステム全体の平均値を再計算し前記中央データバンクに再格納するステップ、
前記偏差値が前記所定の範囲外にある場合に、前記中央サーバーが前記測定データーを前記中央データバンクに蓄積せずかつシステム全体の平均値に算入ステップ
を含む上記7に記載の自動外部精度管理方法。
【発明の効果】
【0020】
自動的にコントロールデーターの送信が行えるため、業務の省力化が図れまた、データー提示の際のミスが削減される。
【0021】
また、本発明の自動外部精度管理システムは迅速にコントロールデーターの測定、送信、計算、判定、及び結果の返信を行うことを可能にするので、分析機の精度が所定の範囲外にある状態で検体測定が行われることを防止する。
【0022】
さらに、本発明の自動外部精度管理システムは、各施設内の分析機から所定の時間間隔で自動的にコントロールデーターを取得することを可能にするので、専門の技術者を必要とせず、また、人為的な理由によるデーターの未測定及び測定ミスを防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の自動外部精度管理システムの概念図である。分析機1は、病院や診療所内に設置される。検査医又は検査技師は、患者から採取した血液等の被検物である検査試料を分析機1に掛けて測定する。分析機1は、例えば生化学分析機であり、測定する対象は、例えばコレステロール値、尿酸値、血糖値等である。
【0024】
検査医又は検査技師は、定期的に検査値が一定の被検物質であるコントロール(または、対照標準)を分析機1にかけて測定を行い、コントロール測定データーを分析機内または分析機に接続されている記憶手段に記憶する。好まれる実施例として、測定されたコントロール測定データーは通常の検体検査とは別のデーター保管場所(例えば、別のディレクトリー)に記憶される。測定は、好ましい実施例において、24時間毎に行われ、測定が行われる度にコントロール測定データーが記憶手段に蓄積されていく。
【0025】
得られた測定データーは通信手段2を用いて直接、中央のデーターバンク3に伝送されてもよいし、又は、付加的な通信手段2を介して試薬会社や装置の販売者等のサービス技術者に伝送され、次いでサービス技術者から通信手段2を介して中央のデーターバンク3に伝送されてもよい。中央のデーターバンク3は、伝送されて来た測定データーを蓄積する。
【0026】
データーの送信は病院等の各施設内に配置された通信手段2によって自動的かつ定期的に実施されてもよいし、または、中央処理施設内に配置された中央サーバー4が定期的に各分析機1に送信命令を発することによって伝送を着手してもよい。
【0027】
中央サーバー4が分析機1からコントロール測定データーを読み取る場合、コントロール測定データーは、検体検査とは別にしたデーター保管場所から読み取ってもよく、又は検体検査と一緒のデーター保管場所から、IDによって識別されたコントロール測定データーを認識して読み取ってもよい。
【0028】
好適な実施例において、通信手段2は電話回線、インターネット、イントラネット、又はエクストラネット等に接続可能なパソコン又はPDA等によって構成される。
【0029】
また、中央のデーターバンク3及び中央サーバー4は試薬会社や試薬会社と契約した精度管理業務運営会社に配置された、電話回線、インターネット、イントラネット、又はエクストラネット等に接続可能なメインフレームまたはパソコン及びファイルサーバー等であってもよい。
【0030】
中央サーバーまたは中央サーバー内に配置された計算機4はデーターバンク3に予め蓄積された測定データーを読み取り、システムが管理する全ての分析機1の平均値等を求め、データーバンク3に格納する。計算機4は新しい分析データーがデーターバンク3に蓄積されるたびに平均値を求め、常に最新の平均値をデーターバンク3に保持する。
【0031】
分析機から新たにコントロール測定データーを受信すると、計算機4は受信したコントロール測定データーとデーターバンク3に格納されている最新の平均値とを比較し、偏差値を計算し、偏差値の大きさによりランク付けした評価を出す。
【0032】
本発明の実施例では、測定データーの偏差値が所定の範囲内(例えば、98%内)である場合に、計算機4は分析機のコントロール測定データーが正常値であると決定し、その測定データーをデーターバンク3に蓄積するとともに新たに平均値を計算し、データーバンク3に格納する。
【0033】
逆に、測定データーの偏差値が所定の範囲から外れている場合に、計算機4は分析機のコントロール測定データーが正常値からずれていると判断し、前記測定データーを前記中央データバンクに蓄積せずかつシステム全体の平均値に算入しない。こうすることにより、システム全体の平均値の信頼性を維持することができる。
【0034】
また、ランク付けした評価は、必要に応じてA・B・C等のランクに分け、その情報を分析機1が配置されている施設に返信する。
【0035】
ここで、注意しなければいけないことは、上述のランク付け方法は1つの例として説明されたものであり、用途によっては他の計算方法が使用されてもよい。例えば、特定の分析機の測定データーが平均値から比較的大きく外れている場合であっても、その分析機の蓄積データーが常に一定の方向に、一定の大きさで偏っている場合には、それらの測定データーは正常値として判断されてもよい。
【0036】
得られた評価は、各施設へ郵送により送付されてもよいし、または、各施設の検査技師が通信手段2等によって中央サーバー4にアクセスすることによって検索されてもよい。また、特定の分析機1の精度が所定の範囲から大きく外れていると判断された場合、中央サーバー4は直接、分析機1が配置されている施設の通信手段2またはユーザー端末5にアクセスし、各施設の検査技師に対して警告を発してもよい。好まれる実施例において、ユーザー端末5は電話回線、インターネット、イントラネット、又はエクストラネット等に接続可能なパソコン、PDA、又は携帯電話である。また、異常評価は各施設の検査技師だけでなく、試薬・機器会社の担当者にも警告されてもよい。
【0037】
異常評価が出た場合、検査技師は分析機や該当検査試薬のチェックを行い対応する。その際、試薬・機器会社の担当者が協力してもよい。
【0038】
病院内の分析機1は、本発明の自動精度管理システムによって適正な分析が維持されているから、測定データーによる誤りが生じることが少なく、測定データーは信頼性の高いものになる。
【0039】
本システムにより検体検査測定を中小規模の病院が独自に実施することが容易となり、また、それらの実施により、検査医又は検査技師は検体から採取した検査試料の検査結果を即時に入手し得ることから、早期診断及び早期治療を行うことが可能である。
【0040】
本発明において用いるコントロールは、通常人血清であるが、これ以外のものを用いることができる。
【0041】
本発明において、検体としては、人から採取した血液、尿等を挙げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の分析機の自動精度管理システム及び方法は、病院や診療所において用いることができる。特に、中小規模の病院や診療所において、測定機器の導入を検討している所で好適に用いることができる。すなわち、本発明は精度管理に対する煩雑さを伴わない為検査技師による測定機器の管理を軽減することを可能にする。従来これらの測定機器を維持することが不可能であった中小規模の病院や診療所がこれらの測定機器を保持することを可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の自動外部精度管理システム及び自動外部精度管理方法を実施するためのシステムを示す略図である。
【符号の説明】
【0044】
1 分析機
2 通信手段
3 データーバンク
4 計算機又は中央サーバー
5 ユーザー端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬を用いて患者検体測定を行う分析機の自動外部精度管理システムであって、複数の施設内に配置された分析機により定期的かつ自動的にコントロール測定データーを取得し、通信手段を用いて中央のデータバンクに伝送し、計算手段により該測定データーを予め中央データバンク内に格納されているシステム全体の平均値と比較し、偏差値を計算し、偏差値の大きさによりランク付けした評価を出す自動外部精度管理システム。
【請求項2】
更に、前記偏差値が所定の範囲内である場合に、前記測定データーを前記中央データバンクに蓄積しかつ前記計算機がシステム全体の平均値を再計算し前記中央データバンクに再格納し、前記偏差値が前記所定の範囲外にある場合に、該測定データーをシステム全体の平均値を再計算するために算入しない請求項1に記載の自動外部精度管理システム。
【請求項3】
前記通信手段が、電話回線、インターネット、イントラネット、又はエクストラネット等に接続可能なパソコン又はPDAである請求項1又は2に記載の自動外部精度管理システム。
【請求項4】
前記ランク付けした評価が標準偏差値である請求項1〜3のいずれか一に記載の自動外部精度管理システム。
【請求項5】
同一コントロールを用いて測定を行い、得られた測定データーを通信手段を用いて中央のデータバンクに伝送しかつ蓄積する請求項1〜4のいずれか一に記載の自動外部精度管理システム。
【請求項6】
自動分析機が生化学自動分析機である請求項1〜5のいずれか一に記載の自動外部精度管理システム。
【請求項7】
試薬を用いて患者検体測定を行う生化学自動分析機の自動外部精度管理方法おいて、
複数の施設内に配置された分析機が該分析機のコントロール測定データーを取得し、通信手段を介して中央サーバーに送信するステップ、
前記中央サーバーが、前記測定データーを予め中央データバンク内に格納されている全ての分析機の測定データーの平均値と比較し、該測定データーの偏差値を出力するステップ、及び、
偏差値の大きさによりランク付けした評価を出すステップ
からなる自動外部精度管理方法。
【請求項8】
更に、前記偏差値が所定の範囲内である場合に、前記中央サーバーが前記測定データーを前記中央データバンクに蓄積しかつシステム全体の平均値を再計算し前記中央データバンクに再格納するステップ、
前記偏差値が前記所定の範囲外にある場合に、前記中央サーバーが前記測定データーを前記中央データバンクに蓄積せずかつシステム全体の平均値に算入しないステップ
を含む請求項7に記載の自動外部精度管理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−64568(P2006−64568A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248348(P2004−248348)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)
【Fターム(参考)】