説明

自動車のジャッキ収納部構造

【課題】既存の部品構成で充分な強度を確保することができ、レイアウトの自由度についても改善可能な自動車のジャッキ収納部構造を提供する。
【解決手段】車載ジャッキを収納可能な自動車のジャッキ収納部構造100において、自動車のリヤホイールハウス126の後側の車両側面に備えられ後席用のシートベルトリトラクタが取り付けられるシートベルトリトラクタパネル(3RDリトラクタパネル124)と、シートベルトリトラクタパネルに接合される環状の部材であって車載ジャッキが挿通され固定されるジャッキブラケット134とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載ジャッキを収納可能な自動車のジャッキ収納部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の安全装置として、ウェビング、バックル、シートベルトリトラクタ等からなるシートベルト装置が普及している。シートベルト装置は、近年、後席でも装着が義務化されたように、すべての席において設置されている。後席のシートベルト装置のシートベルトリトラクタは、通常、強度が高く設定されたシートベルトリトラクタパネルに取り付けられる。ウェビングを装着した乗員が投げ出されるのを防ぐ場合などに、大きな引張力がかかるためである。
【0003】
また自動車には、標準装備として、車載ジャッキや工具(ホイールナットレンチ、ジャッキハンドル)、スペアタイヤ等が搭載されている。車載ジャッキや工具、スペアタイヤ等は車種によってその収納部が異なっていて、車載ジャッキや工具の場合、例えば、スペアタイヤと共にスペアタイヤハウスに収納されたり、後席下部に収納されたり、バックドア側の車両側面に収納されたりする。
【0004】
特許文献1には、バックドア側の車両側面に車載ジャッキや工具を収納する技術について開示されている。具体的には、特許文献1では、リヤピラーインナをホイールハウスインナ及びホイールハウスアウタの周縁フランジ間に挟んで一体に接合する。また、周縁フランジの後側部にリヤピラーインナの後端縁に至る延設部を形成し、この延設部にリヤピラーインナの後側下端部を接合する。また、トランクフロアサイドに接合して立設したフロアエクステンションプレート、およびトランクフロアサイドにこの延設部を接合する。そして、縦にした車載ジャッキを突っ張らせて収納可能なジャッキブラケットを、リヤピラーインナと延設部との接合部、および延設部とフロアエクステンションプレートとの接合部にボルト・ナット結合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平5−15172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術のように、従来、バックドア側の車両側面に車載ジャッキや工具を収納する場合、強度を得るためにジャッキブラケットを強度の高いバックピラー(リヤピラー)付近に接合せざるを得なかった。そのため、レイアウトの自由度が限られ、設計に制約を生じていた。その上、ジャッキブラケットをバックピラー付近に接合する場合、車両側面と車両後面とのコーナー部にジャッキブラケットを配置せざるを得ないことが多く、車載ジャッキを非使用時に覆うリッドをコーナー部に合わせた複雑な形状に作成しなければならず、その合わせが難しくなってしまう問題もあった。さらに、特許文献1に記載の技術のように、ジャッキブラケットをバックピラー付近に接合するとしても、充分な強度を確保するためには補強材の接合、部材の延長など種々の補強を施す必要があり、車両重量、コスト、組付労力の増大等の問題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、既存の部品構成を応用して充分な強度を確保し、レイアウトの自由度についても改善可能な自動車のジャッキ収納部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の代表的な構成は、車載ジャッキを収納可能な自動車のジャッキ収納部構造において、自動車のリヤホイールハウスの後側の車両側面に備えられ後席用のシートベルトリトラクタが取り付けられるシートベルトリトラクタパネルと、シートベルトリトラクタパネルに接合される環状の部材であって車載ジャッキが挿通され固定されるジャッキブラケットとを備えることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、ジャッキブラケットはシートベルトリトラクタパネルに接合される。シートベルトリトラクタパネルはウェビングを装着した乗員が投げ出されるのを防ぐ場合などに大きな引張力がかかることを想定して強度が高く設計されているため、これにジャッキブラケットを接合することで充分な強度を確保することができる。そればかりか、これらの接合はシートベルトリトラクタパネルの補強にもなり、高い相乗効果を得ることができる。これより、新たな補強材の接合、部材の延長などの補強を施すことなく、ジャッキブラケットをバックピラー付近以外へ接合することが可能となり、レイアウトの自由度の改善を図ることができる。また、車両側面と車両後面とのコーナー部にジャッキブラケットを配置しなければならない事態を回避でき、車載ジャッキを非使用時に覆うリッドが複雑な形状にならなくて済む。
【0010】
シートベルトリトラクタパネルの車外側に位置し少なくともシートベルトリトラクタパネルからリヤホイールハウスまでの間に広がっているクォータパネルをさらに備え、ジャッキブラケットは、前側にてリヤホイールハウス及びクォータパネルと接合されていて、後側にてシートベルトリトラクタパネル及びクォータパネルと接合されているとよい。これにより、ジャッキブラケットを高い強度で好適な位置に接合することができる。
【0011】
ジャッキブラケットは、前側に別体の押さえ部材を有し、押さえ部材を介してリヤホイールハウスに接合されていてもよい。これにより、押さえ部材が、車両前後方向への動き(首振り運動)を規制するようにジャッキブラケットの前側を押さえるので、ジャッキブラケットの接合部にかかる応力を緩和することができる。よって、ジャッキブラケットを高い強度で好適な位置に接合することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、既存の部品構成で充分な強度を確保することができ、レイアウトの自由度についても改善可能な自動車のジャッキ収納部構造を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる自動車のジャッキ収納部構造の実施形態である自動車を示す図である。
【図2】図1の自動車の車両右側面を車内側から見た図であり、バックドア付近を示す図である。
【図3】図2のジャッキブラケットを2通りの方向から見た図である。
【図4】図3(a)のA−A断面図である。
【図5】図3のジャッキブラケット、押さえ部材の接合の働きについて説明する図である。
【図6】図3のジャッキブラケットの使用態様図である。
【図7】図6の車載ジャッキを非使用時に覆うリッドを示す図である。
【図8】本発明の実施形態と比較される比較例としての自動車のジャッキ収納部構造を適用した自動車を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、本発明にかかる自動車のジャッキ収納部構造(以下「ジャッキ収納部構造100」と称する)の実施形態である自動車102を示す図である。図1(a)が自動車102の外観図であり、図1(b)が図1(a)の自動車102のシート構成を示す図である。なお図中、矢印Fwdで「車両前方」、矢印Rhで「車両右方」、矢印Upで「上方」を表す。
【0016】
図1(a)に示すように、自動車102は5ドアハッチバック車である。図1(b)に示すように、自動車102は3列シートの構成であり、運転席または助手席である1列目シート110、2列目シート112、3列目シート114を備える。かかるシートには、各席ごとにシートベルト装置が設置される。
【0017】
図2は、図1の自動車102の車両右側面104(図1では自動車102の裏側にあたり見えていない)を車内側から見た図であり、バックドア(図1では同じく見えていない)付近を示す図である。図2ではバックドアは図の右手に位置するが、図示省略している。図2に示すように、ジャッキ収納部構造100では、車両右側面104に、2列目シート112のシートベルト装置のシートベルトリトラクタが取り付けられる2NDシートベルトリトラクタパネル(以下「2NDリトラクタパネル122」と称する)、3列目シート114のシートベルト装置のシートベルトリトラクタが取り付けられる3RDシートベルトリトラクタパネル(以下「3RDリトラクタパネル124」と称する)が備えられる。
【0018】
3RDリトラクタパネル124は、リヤホイールの回転空間を形成するリヤホイールハウス126の後側に配置されている。クォータパネル128は、3RDリトラクタパネル124の車外側に位置し少なくともリヤホイールハウス126から3RDリトラクタパネル124までの間に広がっている。リヤホイールハウス126の後側から3RDリトラクタパネル124の前側にかけては、車載ジャッキ160が挿通される環状のジャッキブラケット134が車内側に備えられる。3RDリトラクタパネル124の後側は、バックドアの側部に接するリヤリンフォース130およびリヤインナーコンプ132と接合される。
【0019】
図3は、図2のジャッキブラケット134を2通りの方向から見た図である。図3(a)は車内側から車両右側面104に向かって見た図であり、図3(b)は図3(a)のジャッキブラケット134を斜め下方向から見た図である。図4は、図3(a)のA−A断面図である。
【0020】
図4に示すように、ジャッキブラケット134は接合部材134aとジャッキ収納部材134bとを接合して構成される。なお、本実施形態はかかる構成に限られず、例えばこれらを一体に形成してもよい。接合部材134aは、クォータパネル128の車内側に配置され、スポット溶接等で接合される。
【0021】
図3(a)に示すように、ジャッキブラケット134の後側すなわち接合部材134aおよびジャッキ収納部材134bの後側は、スポット溶接位置140、142にて、3RDリトラクタパネル124、クォータパネル128とスポット溶接される。また、ジャッキブラケット134の後側すなわち接合部材134aおよびジャッキ収納部材134bの後側は、スポット溶接位置144にて、クォータパネル128とスポット溶接される。
【0022】
図3(b)に示すように、ジャッキブラケット134の前側すなわち接合部材134aおよびジャッキ収納部材134bの前側は、スポット溶接位置146にて、水平断面「L」字状の押さえ部材136の一端と接合される。押さえ部材136の他端は、スポット溶接位置149にてクォータパネル128と接合される。さらに、押さえ部材136の他端は、スポット溶接位置148にて、リヤホイールハウス126(リヤホイールハウス126のフランジ)と接合される。すなわち、ジャッキブラケット134の前側は、押さえ部材136を介して、リヤホイールハウス126、クォータパネル128と接合される。
【0023】
図5は、ジャッキブラケット134、押さえ部材136の接合の働きについて説明する図である。図5(a)に示すように、3RDリトラクタパネル124は、ウェビングを装着した乗員が投げ出されるのを防ぐ場合などに大きな引張力150が上方向にかかることを想定して強度が高く設計される。具体的には、3RDリトラクタパネル124の板厚が厚く形成されたり、ハイテン材(高張力鋼)で形成されたりする。2NDリトラクタパネル122等、他のリトラクタパネルも同様である。
【0024】
ジャッキ収納部構造100では、スポット溶接位置140、142にて、強度が高く設計される3RDリトラクタパネル124にジャッキブラケット134を接合する。これにより、ジャッキブラケット134の充分な強度を確保することができる。そればかりか、これらを接合することは、大きな引張力150に対する3RDリトラクタパネル124の補強にもなり、高い相乗効果を得ることができる。なお、本実施形態はかかる構成に限られず、少なくともジャッキブラケット134の一部がリヤホイールハウス126の後側のリトラクタパネルに接合されていればよい。
【0025】
また図5(b)に示すように、ジャッキ収納部構造100では、水平断面「L」字状の押さえ部材136が、車両前後方向への首振り運動152を規制するようにジャッキブラケット134の前側を押さえる。これにより、ジャッキブラケット134の接合部(スポット溶接位置140、142、144、146、148、149等)にかかる応力を緩和することができる。なお、本実施形態はかかる構成に限られず、例えば押さえ部材136をジャッキブラケット134と一体に形成してリヤホイールハウス126、クォータパネル128と接合してもよい。
【0026】
上記より、ジャッキ収納部構造100によれば、新たな補強材を接合したり、既存部品を延長したり、クォータパネル128の板厚を上げたりといった補強を行うことなく、ジャッキブラケット134をバックピラー付近以外へ接合することが可能である。したがって、ジャッキブラケット134をバックピラー付近へ接合しなければならなかった従来技術に比較して、レイアウトの自由度の改善を図ることができる。
【0027】
図6は、ジャッキブラケット134の使用態様図である。図6に示すように、ジャッキブラケット134のジャッキ収納部材134bは、長手方向を垂直(縦)にした姿勢の車載ジャッキ160を収納する。詳細には車載ジャッキ160は、わずかにジャッキアップして車両前後方向(水平方向)に寸法を増大させジャッキ収納部材134bの対向する2つの面154、156間で突っ張らせることで固定される。なお、本実施形態ではジャッキブラケット134に車載ジャッキ160を収納するが、これにとらわれず、ジャッキブラケット134にホイールナットレンチ162やジャッキハンドル164等の工具を収納できるようにしてもよい。
【0028】
図8は、本発明の実施形態と比較される比較例としての自動車のジャッキ収納部構造(以下「ジャッキ収納部構造200」と称する)を適用した自動車202を示す図である。図8(a)が自動車202後部の斜視図であり、図8(b)が図8(a)のX矢視図である。
【0029】
図8(a)(b)に示すように、比較例にかかるジャッキ収納部構造200では、強度を得るためにジャッキブラケット234を強度の高いバックピラー付近に接合していて、ジャッキブラケット234が車両側面と車両後面とのコーナー部266に配置されている。これより、内装材としてのトリム268に嵌合し、車載ジャッキ160を非使用時に覆うリッド270をコーナー部266に合わせた複雑な形状に作成しなければならず、その合わせが難しくなってしまう。
【0030】
図7は、本実施形態のジャッキ収納部構造100において、車載ジャッキ160を非使用時に覆うリッド170を示す図である。これに対し、ジャッキ収納部構造100によれば、ジャッキブラケット134を3RDリトラクタパネル124に接合することで充分な強度を確保することができるので、バックピラー付近へのジャッキブラケット134の接合を回避できる。したがって、車両側面と車両後面とのコーナー部166にジャッキブラケット134を配置しなければならない事態を回避でき、内装材としてのトリム168に嵌合し、車載ジャッキ160を非使用時に覆うリッド170が複雑な形状にならなくて済む。すなわち、車載ジャッキ160の蓋であるリッド170を簡素化できる。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0032】
例えば、上記では3RDリトラクタパネル124にジャッキブラケット134を接合する構成について説明したが、2列目のシート用の2NDリトラクタパネルにジャッキブラケットを接合してもよい。この場合3列シート構成の自動車に限られず、2列シート構成の自動車であってもよい。すなわち、後席用(最後席用)のシートベルトリトラクタが取り付けられるリトラクタパネルにジャッキブラケットを接合するとよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、車載ジャッキを収納可能な自動車のジャッキ収納部構造として利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
100…ジャッキ収納部構造、102…自動車、104…車両右側面、110…1列目シート、112…2列目シート、114…3列目シート、122…2NDリトラクタパネル、124…3RDリトラクタパネル、126…リヤホイールハウス、128…クォータパネル、130…リヤリンフォース、132…リヤインナーコンプ、134…ジャッキブラケット、134a…接合部材、134b…ジャッキ収納部材、136…押さえ部材、140、142、144、146、148、149…スポット溶接位置、150…引張力、152…首振り運動、154、156…面、160…車載ジャッキ、162…ホイールナットレンチ、164…ジャッキハンドル、166…コーナー部、168…トリム、170…リッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載ジャッキを収納可能な自動車のジャッキ収納部構造において、
自動車のリヤホイールハウスの後側の車両側面に備えられ後席用のシートベルトリトラクタが取り付けられるシートベルトリトラクタパネルと、
前記シートベルトリトラクタパネルに接合される環状の部材であって車載ジャッキが挿通され固定されるジャッキブラケットとを備えることを特徴とする自動車のジャッキ収納部構造。
【請求項2】
前記シートベルトリトラクタパネルの車外側に位置し少なくとも該シートベルトリトラクタパネルから前記リヤホイールハウスまでの間に広がっているクォータパネルをさらに備え、
前記ジャッキブラケットは、前側にて前記リヤホイールハウス及び前記クォータパネルと接合されていて、後側にて前記シートベルトリトラクタパネル及び前記クォータパネルと接合されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車のジャッキ収納部構造。
【請求項3】
前記ジャッキブラケットは、前側に別体の押さえ部材を有し、該押さえ部材を介して前記リヤホイールハウスに接合されていることを特徴とする請求項2に記載の自動車のジャッキ収納部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−112148(P2013−112148A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259759(P2011−259759)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】