説明

自動車の前部構造

【課題】歩行者の保護の改善およびエネルギー吸収能力の改善が可能な自動車の前部構造を提供する。
【解決手段】車両横断方向に延びる下側バンパー3と、下側バンパー3の上方に配置される上側バンパー2とを有する自動車の前部構造であって、下側バンパー3および上側バンパー2がいずれの場合も2つのクラッシュボックス5を介して車両構造に支持される前部構造において、下側バンパー3を閉鎖型中空プロファイルとして供し、かつ関連するクラッシュボックス5を介して自動車の車体前端、特に荷物室凹部4に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段による、いずれの場合も車両横断方向に延びる下側バンパーと、前記下側バンパーの上方に配置される上側バンパーとを有する自動車の前部構造に関する。本発明は、また、前記タイプの前部構造を取り付けた自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、前表面を有するフォーム層を上側バンパーの前側に設けて、歩行者との衝突時に前記歩行者の足に作用する力を制限する、自動車の一般的な前部構造が開示されている。ここで、下側バンパーは、上側バンパーの前面部とほぼ同じ位置にまたはその前に配置され、2つのバンパーの外側端部は、自動車の長手方向ビームに固定されている。ここで、2つのバンパーと自動車の長手方向ビームとの間にはエネルギーを吸収するクラッシュボックスが配置され、そのクラッシュボックスは、上側バンパーに対してよりも下側バンパーに対してより前方に延出する。このようにして、歩行者との衝突時に歩行者の足にかかる力が所定の限界値未満のみとなるように設計される、衝撃を緩和する前部構造を創出しようとされている。さらに、前部構造は、高エネルギー衝撃時、すなわち、別の自動車または固定障害物に対する衝撃時のエネルギー吸収を可能とする必要があり、自動車の長さを長くすることなく双方の要求が可能な限り満たされる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第1 451 041B1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、冒頭部で述べたタイプの前部構造に対する改良された実施形態を特定する課題に関し、その実施形態によって、第1に歩行者の保護の改善および第2にエネルギー吸収能力の改善が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題は、本発明に従って独立請求項の主題によって解決される。有利な実施形態は従属請求項の主題である。
【0006】
本発明は、上側および下側バンパーを有する自動車の前部構造における、下側バンパーを閉鎖型中空プロファイル(断面)として設計しかついわゆるクラッシュボックスを介して両バンパーを自動車の車体上に支持するという一般概念に基づく。ここで、上側バンパーおよび下側バンパーの双方とも車両横断方向に延び、かついずれの場合も2つのクラッシュボックスを介して車両構造、例えば車体または車体フレームに支持される。本発明による下側バンパーの閉鎖型中空プロファイルとしての設計の結果、前記下側バンパーは、開放型中空プロファイル(断面)よりもかなり高い断面係数を有し、まず、そこに別の構成部品、例えばトリムパネル部品などを固定することが可能となり、次に前記設計の中空プロファイル(断面)によって歩行者保護の改善が可能となる。ここで、特に、少なくとも下側バンパーが自動車の荷物室凹部に支持されるようにしてもよい。
【0007】
本発明による解決法の有利な一改良形態では、少なくとも2つの実質的に垂直に延びる補強要素(固定要素)が設けられ、それらはいずれの場合も上側バンパーと下側バンパーとの間に延在する。ここで、少なくとも2つの補強要素はいわゆる接続要素を構成し、それらにより、自動車の障害物に対する衝撃時または歩行者の自動車に対する衝撃時に、一方のバンパーから他方のバンパーへ力を伝えることが可能となり、それにより、衝撃エネルギーを吸収しかつ歩行者の衝撃を緩和する解決法を提供する。ここで、2つの補強要素を同様に、例えば、それらの各長手方向端部が上側バンパーおよび下側バンパーに接続される、具体的には溶接される、中空プロファイル(断面)として供してもよい。ここで、構造条件に依存して、補強要素を垂直方向に対して斜めに配置することも可能である。特に、補強要素を空気力学的に有利に配置することができる。ここで、補強要素はプラスチック製であってもよい。さらに、補強要素を、後から組み立てることができるように、上側バンパーまたは下側バンパーにクリップ留めできるように設計にしてもよい。
【0008】
本発明による解決法の別の有利な実施形態では、エネルギーを吸収する衝撃要素、特にフォーム(a foam)が、少なくともバンパーにクリップ留めされる(設けられる)。それゆえ、前記タイプの衝撃要素を、手で迅速にかつ極めて単純に、具体的には前記クリップ接続によって上側バンパーに固定でき、自動車製造中の複雑でそれゆえ高価な組み立てステップを回避することが可能となる。
【0009】
下側バンパーを、トリムパネル(トリム、トリムボード)のキャリア(支持部)として供することが好都合である。下側バンパーを閉鎖型中空プロファイルとして設計されるため、前記下側バンパーを、その高い断面係数によって別の構成部品用のキャリアとして同時に使用することができる。自動車の前部領域では、前記タイプの構成部品は、例えばトリムパネル、フロントエプロンおよび/またはスポイラなどであってよい。通常、従来のバンパーがそのようなキャリア機能を果たすことはできない。なぜなら、そのような従来のバンパーは、キャリア要素として必要な剛性を持たないことが多いからである。ここで、下側バンパーとトリムパネル自体との間に、エネルギーを吸収する別の衝撃要素を配置可能であることは自明であり、その結果、歩行者の衝撃時にその結果として起こる怪我をさらに小さくすることができる。ここで、別の衝撃要素の下側バンパーへの固定を、上側バンパーに使用したものと同じように、例えばクリップによって行ってもよい。
【0010】
本発明の別の重要な特徴および利点は、従属請求項、図面、および図面を基にした図面に関連する説明から明らかとなる。
【0011】
上述の特徴および以下説明する特徴を、それぞれ特定された組み合わせにおいてだけではなく、本発明の範囲を逸脱することなく、他の組み合わせにおいてもまたは個別にも使用できることは自明である。
【0012】
本発明の好ましい例示的な一実施形態を図面に示し、以下の記載においてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】自動車の本発明による前部構造の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面に対応して、自動車(図示せず)の本発明による前部構造1は、2つのバンパー2および3、具体的には上側バンパー2および下側バンパー3を有する。ここで、2つのバンパー2および3は車両横断方向に、および走行方向において自動車の荷物室凹部4の前に延びる。2つのバンパー2および3は、いずれの場合も、自動車の障害物に対する衝撃時または歩行者の自動車に対する衝撃時に、エネルギーを吸収して変形することが可能な少なくとも2つのクラッシュボックス5を介して車体前端に接続される。本発明によれば、下側バンパー3を閉鎖型中空プロファイルとして具現化するので、比較的高い断面係数を有する。そのような高い断面係数によって、第1に変形時にエネルギーの吸収が高くなり、第2に、下側バンパー3を別の要素(図示せず)、例えばトリムパネルまたはフロントエプロンおよび/またはスポイラなどのためのキャリア要素としての使用を可能にする。
【0015】
図面から分かるように、2つのバンパー2と3との間には、2つの実質的に垂直に延びる補強要素6および6’が設けられ、それら補強要素6および6’によって、衝突時に下側バンパー3から上側バンパー2へのまたはその逆の力の伝達が可能となる。ここで、一般的に、自動車と衝突した歩行者に対する事故の被害の激しさを低減させるために、下側バンパー3は特に足をサポートする役割を果たす。
【0016】
2つの補強要素6および6’は、それらの長手方向端部でそれぞれ上側バンパー2および下側バンパー3に、具体的にはねじで締めされるかまたは溶接されて固定式に接続される。上側バンパー2および下側バンパー3を車体に取り付けた後に、2つの補強要素6、6’をまず挿入するかまたは取り付け、そのために、具体的には、補強要素6および6’と、関連するバンパー2および3との間をクリップで接続し、組み立て費の削減を可能とすることが考えられることは自明である。
【0017】
さらに、少なくとも2つの補強要素6、6’を空気力学的に好ましいように配置して、本発明による補強要素6、6’によって自動車の空気抵抗が悪影響を受けないようにすることができる。歩行者の衝撃の被害をさらに小さくできるように、例えば、上側バンパー2および/または下側バンパー3に、エネルギーを吸収する衝撃要素(図示せず)を配置する、具体的にはクリップ留めすることが可能である。前記タイプの衝撃要素を、例えば容易に塑性変形可能なフォーム(a foam)で形成してもよい。ここで、特に、前記衝撃要素がバンパー3と前記バンパー3に担持されるトリムパネルとの間の中間空間を埋め、それにより、トリムパネル要素、例えばフロントエプロンを補強することも考えられる。
【0018】
図面を考慮すると、クラッシュボックス5が全て、車両横断方向に延在するプレート7に配置されて、上側バンパー2および下側バンパー3の双方ともプレート7を介して自動車の車体に接続されることが分かる。さらに、特に上側バンパー2が側方車体長手方向ビーム8に接続されていることが分かる。ここで、車両横断方向に延在しかつ例えば同様に金属板製であってもよいプレート7は、好ましくは荷物室4の前端の壁を形成する。
【0019】
本発明による前部構造1を備えることにより、第1に歩行者の衝撃に対して好ましい力を特に効果的に導入でき、この力の導入により、歩行者に対する衝撃の被害の激しさを低減させることができ、第2に、下側バンパー3に閉鎖型中空プロファイルを使用することにより、別の構成部品、例えばトリムパネル要素などを前記下側バンパー3に固定するための固定手段を生み出すことが可能である。補強要素6および6’によって2つのバンパー2および3を、力を伝達させるように互いに接続することが可能となり、それにより第2の荷重面を実現することが可能となる。さらに、下側バンパー3に中空プロファイルを使用することにより、下側バンパーはトリムパネルまたは別の構成部品のキャリアとしての役目を果たしてもよく、その結果、前記下側バンパー3の機能性が高くなり得る。
【符号の説明】
【0020】
1 前部構造
2 上側バンパー
3 下側バンパー
4 荷物室凹部
5 クラッシュボックス
6、6’ 補強要素
7 プレート
8 車両長手方向ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両横断方向に延びる下側バンパー(3)と、前記下側バンパー(3)の上方に配置される上側バンパー(2)とを有する自動車の前部構造(1)であって、前記下側バンパー(3)および上側バンパー(2)が、いずれの場合も2つのクラッシュボックス(5)を介して車両構造(1)に支持される、前部構造(1)において、
前記下側バンパー(3)が閉鎖型中空プロファイルとして供され、かつ関連する前記クラッシュボックス(5)を介して前記自動車の車体前端、特に荷物室凹部(4)に支持されることを特徴とする前部構造(1)。
【請求項2】
前記上側バンパー(2)と前記下側バンパー(3)との間に延在する少なくとも2つの実質的に垂直に延びる補強要素(6、6’)が設けられることを特徴とする請求項1に記載の前部構造。
【請求項3】
少なくとも前記上側バンパー(2)に、エネルギーを吸収する衝撃要素、特にフォームが留められることを特徴とする請求項1または2に記載の前部構造。
【請求項4】
前記下側バンパー(3)が、トリムパネルのキャリアとして供されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の前部構造。
【請求項5】
前記トリムパネルと前記下側バンパー(3)との間に、エネルギーを吸収する別の衝撃要素が配置されることを特徴とする請求項4に記載の前部構造。
【請求項6】
前記前部構造(1)の前側には、車両横断方向に延在するプレート(7)が設けられ、当該プレート(7)に、前記上側バンパー(2)および前記下側バンパー(3)の双方が固定されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の前部構造。
【請求項7】
前記プレート(7)が前記自動車の荷物室凹部(4)の前側の壁を形成することを特徴とする請求項6に記載の前部構造。
【請求項8】
前記上側バンパー(2)がいずれの場合も車両長手方向ビーム(8)の長手方向端部側に前記プレート(7)を介して配置されることを特徴とする請求項6または7に記載の前部構造。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の少なくとも1つの前部構造(1)を有する自動車。

【図1】
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【公開番号】特開2010−52729(P2010−52729A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182315(P2009−182315)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】