説明

航空機用ガスタービンエンジンのブレードの製造方法

【課題】厚みがあって中心線回りの捩れの大きい翼形状であっても成形が容易に行うことができる航空機用ガスタービンエンジンのブレード及び大量生産に適した製造方法を提供する。
【解決手段】強化繊維を含み、かつ複数の熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材プリプレグを、平面上に厚さ方向に積層して積層体を形成する積層工程と、前記積層体を加熱及び加圧して平板形状に成形する第一成形工程と、平板形状に成形された前記積層体を再度加熱および加圧して3次元曲面形状の翼片に成形する第二成形工程と、複数の前記翼片を重ね合わせたうえで、加熱及び加圧して一体化し、3次元翼面形状を得る第三成形工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用ガスタービンエンジンのブレード及びその製造方法に関する。
本願は、2008年3月28日に日本国に出願された特願2008−088628号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来の航空機用ガスタービンエンジンの複合材料製ファンブレードには、熱硬化性樹脂をマトリックスとするプリプレグが使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
このような複合材料からなるファンブレードを製造する際には、まず、層状に複数分割された平面状のプリプレグを、レーザ光による指示によって、得られる曲面形状の厚さ方向に直接積層して翼面形状とする。そして、これをオートクレーブ内にて加熱・加圧して一体に成形している。
【0003】
一方、航空機用ガスタービンエンジン静翼のように比較的中心線回りの捩れが小さい翼の場合には、シート状の熱可塑性樹脂をマトリックスとするプリプレグを積層した状態で一対の金型内に収めて加熱・加圧することによって、翼面形状に一体成形している(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,375,978号公報
【特許文献2】特開2003−254298号公報
【特許文献3】米国特許第6,843,565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、熱硬化性複合材を用いているので、適切な品質を得るためには、所望の翼面形状となるよう金型面上にプリプレグを直接積層する必要がある。航空機用ガスタービンエンジンのファンブレードのように比較的厚い部品の場合は積層数が膨大である上に、3次元曲面形状を形作るためには、さらに各層を面内で細かく分割する必要がある。この面内で分割されたプリプレグを3次元曲面上の正しい位置に積層するためには、レーザ等による補助が必要であり、非常に煩雑な作業になる。(例えば、特許文献3参照。)
【0006】
以上の理由により、上記特許文献1に記載の方法は、膨大な作業時間を要してコストがかかってしまう。また、熱硬化性複合材料は、使用期限や保管温度範囲が厳しく材料管理がわずらわしい。また各層の面内でプリプレグを分割するためその境目では強化繊維の不連続が生じてしまう。
【0007】
一方、特許文献2に記載の方法では、熱可塑性樹脂をマトリックスとするプリプレグ複合材を用いて一体に成形できるものの、ファンブレードのように比較的厚く中心線回りの捩れの大きい翼の場合には、プリプレグを平面状に積層した積層体を金型内に収める際に繊維蛇行や空隙部が生じやすい。そのため、適切な形状に成形することが困難である。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、厚みがあって中心線回りの捩れの大きい翼形状であっても成形を容易に行うことができる航空機用ガスタービンエンジンのブレード及び大量生産に適した製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
第1の発明に係る航空機用ガスタービンエンジンのブレードは、中心線回りに45度以上、かつ70度以下の角度で捩れた3次元翼面形状を有する航空機用ガスタービンエンジンのブレードであって、前記ブレードは、強化繊維を含み、厚さ方向に積層されたうえで一体成形された複数の複合材プリプレグを備え、前記強化繊維は、前記複合材プリプレグの各層内で途切れることなく連続している。
【0010】
この発明は、前記複合材プリプレグを所望の位置に所望の枚数にて積層することによって、翼片の厚さを調節することができる。また、前記強化繊維が前記複合材プリプレグの各層内で途切れることなく連続していることによって、前記強化繊維が前記各層内で途切れて部品の強度が低下することを防ぐことができる。
【0011】
また、前記複合材プリプレグが熱可塑性樹脂をマトリックスとしても良い。
また、前記複合材プリプレグの間に熱可塑性樹脂フィルムを配置しても良い。
熱可塑性樹脂フィルムを前記プリプレグの間に配置することによって、層間剥離の発生を抑制することができる。
【0012】
この発明は、熱可塑性複合材が一度硬化しても再溶融可能なので、第一成形工程の加熱・加圧後であっても、第二成形工程及び第三成形工程の加熱・加圧が可能となり、翼片間に境界面のない一体化した航空機用ガスタービンエンジンのブレードを好適に得ることができる。
【0013】
第2の発明に係る航空機用ガスタービンエンジンのブレードの製造方法は、強化繊維を含み、かつ複数の熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材プリプレグを、平面上に厚さ方向に積層して積層体を形成する積層工程と、前記積層体を加熱及び加圧して平板形状に成形する第一成形工程と、平板形状に成形された前記積層体を再度加熱および加圧して3次元曲面形状の翼片に成形する第二成形工程と、複数の前記翼片を重ね合わせたうえで、加熱及び加圧して一体化し、3次元翼面形状を得る第三成形工程と、を備えている。
【0014】
この発明は、成形する工程が第一成形工程、第二成形工程および第三成形工程と3つに分かれている。第一成形工程では、前記積層体は、平板形状に成形されるため、その前工程である積層工程では、平面状の前記複合材プリプレグは、平面上に積層すればよく、複雑な3次元曲面形状への積層の必要や、各層を面内で細かく分割する必要がない。また、平面状の前記複合材プリプレグによる積層作業の方が、3次元曲面形状に成形された翼片の積層作業よりも容易なので、翼面形状の成形誤差をより小さくすることができる。
したがって積層作業が容易にかつ迅速に行うことができるし、各層内での前記強化繊維の不連続も生じない。すなわち、前記強化繊維は、前記複合材プリプレグの各層内で途切れることなく連続している。またファンブレードのように比較的厚い部品でも第二成形工程までは比較的薄い翼片に分割されているので、3次元形状を与えることが容易かつ高精度に行うことができる。さらに分割された各翼片は第二成形工程までは平行して実施することが可能なので大量生産に適している。
【0015】
また、本発明に係る航空機用ガスタービンエンジンのブレードの製造方法は、第二成形工程において、前記複数の翼片が、航空機用ガスタービンエンジンのブレードを厚さ方向に複数分割したときに形成される3次元曲面形状にそれぞれ成形されても良い。
【0016】
この発明は、第二成形工程および第三成形工程における最終製品形状の成形作業を容易に行うことができる。
【0017】
また、本発明に係る航空機用ガスタービンエンジンのブレードの製造方法は、前記製造方法であって、前記積層工程では、前記翼片の厚みに対応した位置に前記翼片の厚みに対応した枚数の前記複合材プリプレグを積層して積層体を形成しても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、厚みがあって中心線回りの捩れ大きい翼形状であっても成形を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るファンブレードを示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るファンブレードを示す正面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るファンブレードを示す平面図である。
【図4】図1のA−A断面図である。
【図5】図1のB−B断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るファンブレードの製造方法を示すフロー図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るファンブレードの製造方法において、積層体を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るファンブレードの製造方法において、積層体から翼片を成形する状態を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るファンブレードの製造方法において、翼片を積層してファンブレードを成形する状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る一実施形態について、図1から図9を参照して説明する。
本実施形態に係るファンブレード(航空機用ガスタービンエンジンのブレード)1は、図1から図5に示すように、図示しないディスクと係合される基部2と、基部2から延びる翼部3とを備えている。翼部3は、前縁3aから後縁3bにかけて所定の翼型に湾曲しており、中心線C回りに凡そ60度の角度で捩れた3次元翼面形状を有している。
このファンブレード1は、後述するように、複数のプリプレグ(複合材プリプレグ)10A〜10Lが平面上に積層されて平板形状に成形された後、3次元曲面形状に変形成形された翼片12A〜12Dが、さらに一体に成形されてなる。
【0021】
次に、本実施形態にかかるファンブレード1の製造方法の詳細について説明する。
本実施形態にかかるファンブレード1の製造方法は、中心線C回りに45度以上、かつ70度以下の角度で捩れた3次元翼面形状を有するものに特に好適な方法である。
この製造方法は、図6から図9に示すように、複数のプリプレグ10A〜10Lを平面上に厚さ方向Dに積層して積層体11を形成する積層工程(S01)と、積層体11を加熱及び加圧して平板形状に成形する第一成形工程(S02)と、平板形状に成形された前記積層体11を加熱および加圧して3次元曲面形状の翼片12A〜12Dに変形させる第二成形工程(S03)と、形成された複数の翼片12A〜12Dを重ね合わせて加熱及び加圧して一体化する第三成形工程(S04)と、を備えている。
【0022】
積層工程(S01)、第一成形工程(S02)及び第二成形工程(S03)では、同様の内容にて翼片12A〜12Dを成形するので、これらの工程については、特に明記しない限り翼片12Aについて説明する。
【0023】
積層工程(S01)では、平面状のプリプレグ10A〜10Lを厚さ方向Dに積層する。ここで、プリプレグ10A〜10Lには、例えば、所定の配向度とされた炭素繊維(強化繊維)入りの熱可塑性マトリックス樹脂シートが使用される。プリプレグ10A〜10Lは、図7に示すように、それぞれ異なる大きさとなっている。そして、成形される翼片12Aの厚みに対応して、所望の位置に所望の大きさのプリプレグが所望の枚数分積層されて、積層体11が形成される。
【0024】
第一成形工程(S02)では、前記積層体11を不図示の金型内に設置し、前記金型を所定の温度に加熱し、かつ所定の圧力で加圧する。このとき、プリプレグ10A〜10Lが軟化し、境界面の溶融によって、積層体11が一体化されて平板状部品が形成される。
【0025】
第二成形工程(S03)では、前記平板状部品を、3次元形状をもつ不図示の金型内に設置し、前記金型を所定の温度に加熱し、かつ所定の圧力で加圧する。このとき、平板状部品内の各層が軟化し、層内の繊維の移動と層間のずれによって、図8に示すように、3次元曲面形状の翼片12Aが形成される。他の翼片12B,12C,12Dも同様の工程を経て形成される。
【0026】
ここで、各翼片12A〜12Dは、ファンブレード1を厚さ方向に複数分割したときに形成される3次元曲面形状にそれぞれ成形される。そのため、積層工程(S01)における、プリプレグ10A〜10Lの大きさや積層位置、枚数は、翼片によって異なっている。また、第二成形工程(S03)にて使用する前記金型も、それぞれ得られる3次元曲面形状に合わせたものとなっている。こうして得られた翼片12A〜12Dの3次元曲面形状は、中心線C回りに略60度の角度で捩れた3次元曲面形状となっている。
【0027】
第三成形工程(S04)では、それぞれ所定の3次元曲面形状に成形された翼片12A〜12Dを重ね合わせて図示しない金型内に配置する。このとき、翼片12A〜12Dを積層することによって、所望の3次元翼面形状が得られるように積層順番を間違えないように注意する。
次に、この金型を所定の温度に加熱し、かつ所定の圧力で加圧する。このとき、翼片12A〜12Dが軟化し、かつ境界面にて溶融することによって、図9に示すような一体のファンブレード1が得られる。
【0028】
このファンブレード1及びこの製造方法によれば、成形する工程が第一成形工程(S02)、第二成形工程(S03)および第三成形工程(S04)と3つに分かれている。第一成形工程(S02)では、前記積層体11は平板形状に成形されるため、その前工程である積層工程(S01)では平面上に積層すればよく、複雑な3次元曲面形状への積層の必要や、各層を面内で細かく分割する必要はない。
したがって積層作業が容易にかつ迅速に行うことができる。
【0029】
またファンブレードのように比較的厚い部品でも第二成形工程(S03)までは比較的薄い翼片に分割されているので、3次元形状を与えることが容易かつ高精度に行うことができる。その結果、厚みや大きさがあり、捩れの大きいファンブレード1であっても成形を容易に行うことができる。
【0030】
特に、翼片12A〜12Dが、ファンブレード1を厚さ方向に複数分割したときに形成される3次元曲面形状にそれぞれ成形されるので、第三成形工程(S04)における各翼片の成形作業を容易に行うことができる。
【0031】
また、積層工程(S01)では、翼片12Aの厚みに対応してプリプレグ10A〜10Lを所望の位置に所望の数にて積層するので、翼片12Aの厚さをプリプレグ10A〜10Lによって好適に調節することができる。
【0032】
また、プリプレグ10A〜10Lが、炭素繊維入りの熱可塑性マトリックス樹脂シートなので、一度硬化しても再溶融可能なことから、第一成形工程(S02)による加熱・加圧後であっても、第二成形工程(S03)及び第三成形工程(S04)の加熱・加圧が可能となり、翼片12A〜12D間に境界面のない一体化したファンブレード1を好適に得ることができる。
【0033】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0034】
例えば、プリプレグや翼片の大きさや枚数は、本実施形態のものに限定されることはなく、ファンブレードの厚さや大きさ、形状に応じて適宜決められる。また、ファンブレードの捩れも60度に限定される必要はない。
さらに、本発明によるファンブレードの用途は、航空機用ガスタービンエンジンに限定されず、その他のガスタービンエンジンのブレードにも適用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、厚みがあって中心線回りの捩れ大きい翼形状であっても成形を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0036】
1……ファンブレード(ブレード)、10A〜10L……シート材、11……積層体(平板)、12A〜12D……翼片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維を含み、かつ複数の熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材プリプレグを、平面上に厚さ方向に積層して積層体を形成する積層工程と、
前記積層体を加熱及び加圧して平板形状に成形する第一成形工程と、
平板形状に成形された前記積層体を再度加熱および加圧して3次元曲面形状の翼片に成形する第二成形工程と、
複数の前記翼片を重ね合わせたうえで、加熱及び加圧して一体化し、3次元翼面形状を得る第三成形工程と、
を備えているガスタービンエンジンのブレードの製造方法。
【請求項2】
前記複数の翼片は、ガスタービンエンジンのブレードを厚さ方向に複数分割したときに形成される3次元曲面形状にそれぞれ成形される請求項1に記載のガスタービンエンジンのブレードの製造方法。
【請求項3】
前記積層工程では、前記翼片の厚みに対応した位置に前記翼片の厚みに対応した枚数の前記複合材プリプレグを積層して積層体を形成する請求項2に記載のガスタービンエンジンのブレードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−78950(P2013−78950A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−248753(P2012−248753)
【出願日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【分割の表示】特願2010−505861(P2010−505861)の分割
【原出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【Fターム(参考)】