説明

船底塗膜剥離剤と剥離方法

【課題】船体に損傷を与えず、人体・環境への影響を最小限に抑え、船底塗膜を作業性良く剥離することが可能な船底塗膜剥離剤と剥離方法の提供。
【解決手段】アルコール系溶剤、水、無機系増粘剤を含有する船底塗膜剥離剤。および、エアレススプレーにより、その船底塗膜剥離剤を塗布し、一定時間放置後、高圧水により船底塗膜を剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船底塗膜を剥離する船底塗膜剥離剤と剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の満載喫水線から下の船底部は常に水と接触しているため、水中生物が付着しやすい。水中生物の付着は、船舶の運動性能の低下や船体の損傷を引き起こすため、船底部に船底塗料を塗装して、それを防止している。しかし、船底塗膜は経時的に劣化するため、一定期間毎に、船底塗料を再塗装する必要がある。その際、旧塗膜を完全に剥離してから、船底塗料を新たに塗装することが望ましいが、旧塗膜の剥離作業は非常に煩わしいため、旧塗膜を剥離することなく、その上から船底塗料を再塗装する場合が多い。これを繰り返すことにより、船底塗膜は厚くなり、水中生物が付着していなくても、船舶の運動性能は低下する。そこで、ある程度の膜厚になった段階で、船底塗膜を剥離する必要がある。
【0003】
旧塗膜の剥離に関して、従来、ディスクサンダー等による機械的方法や、塩素系溶剤等による化学的方法が用いられてきた。しかし、機械的方法の場合、船底塗膜は厚くて硬く、ディスクサンダーでは処理面積が小さいため、多大な労力を必要とした。また、機械的な力が加わるため、船体に損傷を与えやすく、さらに、発生した粉塵は人体・環境に影響を及ぼす問題があった。化学的方法の場合、使用する溶剤は揮発しやすく、揮発後に船底塗膜が再硬化するため、時間的な制約を大きく受けた。また、溶剤の溶解性が非常に強いため、船体に損傷を与えやすく、さらに、揮発した溶剤は人体・環境に影響を及ぼす問題があった。
【0004】
特許文献1には、船舶等の垂直面から水平面下側の表面に形成された塗装材を剥離する塗装材剥離剤及び塗装材剥離シートが提案されている。この剥離剤は、有機溶剤に可溶性有機高分子化合物とチクソトロピー剤を溶解又は分散させた溶液からなり、剪断速度1rpmの粘度(測定温度25℃)と剪断速度10rpmの粘度(測定温度25℃)の相対比が1.2〜13.0を示す。これを剥離シートにして、塗装材面に貼り付け、一定時間放置することにより、塗装材をきれいに剥離することが可能とある。しかし、この文献中には、剥離シートによる剥離方法の記載はあるが、剥離剤単体をスプレー等により塗布する方法は考慮されていないため、剥離対象面積が大きい場合には、剥離シートを貼り付けるための甚大な手間が必要となる。また、この剥離剤は水を含有しないため、引火性が高く、取扱いに注意が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−186560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、船体に損傷を与えず、人体・環境への影響を最小限に抑え、船底塗膜を作業性良く剥離することが可能な船底塗膜剥離剤と剥離方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、エアレススプレーによる塗布を可能にすることにより、作業性が良い船底塗膜剥離剤、また、主成分にアルコール系溶剤と水を使用することにより、船体に損傷を与えず、人体・環境への影響を最小限に抑えた船底塗膜剥離剤、さらに、水を含有させることにより、引火性を低減させた船底塗膜剥離剤を見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、次に関するものである。
[1]アルコール系溶剤、水、無機系増粘剤を含有する船底塗膜剥離剤。
[2]キレート剤を含有する[1]記載の船底塗膜剥離剤。
[3]非プロトン性極性溶媒を含有する[1]又は[2]記載の船底塗膜剥離剤。
[4]エアレススプレーにより、[1]〜[3]のいずれかに記載の船底塗膜剥離剤を塗布し、一定時間放置後、高圧水により船底塗膜を剥離する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、船体に損傷を与えず、人体・環境への影響を最小限に抑え、船底塗膜を作業性良く剥離することが可能な船底塗膜剥離剤と剥離方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を具体的に説明する。
本発明の船底塗膜剥離剤においては、船舶の満載喫水線から下の船底部に、船底塗料を塗装して形成された船底塗膜が剥離対象となる。船底塗料としては、自己研磨型、加水分解型、高硬度型の船底防汚塗料、また、防食塗料、さび止め塗料、プライマー、バインダーといった下塗塗料等が例示できるが、船底部に塗装される塗料であればいずれでもよい。また、対象となる船体の材質としては、FRP(繊維強化プラスチック)、アルミニウム合金、鋼鉄等が例示できる。
【0011】
本発明の船底塗膜剥離剤におけるアルコール系溶剤は、船底塗膜を膨潤・剥離させるために配合される。アルコール系溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、2−メチルベンジルアルコール、3−メチルベンジルアルコール、4−メチルベンジルアルコール、α−メチルベンジルアルコール、フェネチルアルコール等の芳香族アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のグリコールジエーテルが例示できる。これらの中から、少なくとも1種を含むものであり、2種以上併用してもよい。より好ましくは芳香族アルコール、芳香族アルコールとグリコールエーテルの併用、芳香族アルコールとグリコールジエーテルの併用であり、さらに好ましくはベンジルアルコール、ベンジルアルコールとグリコールエーテルの併用、ベンジルアルコールとグリコールジエーテルの併用である。
【0012】
アルコール系溶剤は、好ましくは、船底塗膜剥離剤全体の40〜96重量%配合される。これは、船底塗膜の膨潤・剥離性の観点から40重量%以上が好ましく、引火性の観点から96重量%以下が好ましいからである。より好ましくは50〜93重量%であり、さらに好ましくは60〜90重量%である。
【0013】
本発明の船底塗膜剥離剤における水は、引火性を低減させるために配合される。水としては、水道水、蒸留水、精製水、脱イオン水、純水、超純水等が例示でき、いずれでもよい。
【0014】
水は、好ましくは、船底塗膜剥離剤全体の3〜40重量%配合される。これは、引火性の観点から3重量%以上が好ましく、船底塗膜の膨潤・剥離性の観点から40重量%以下が好ましいからである。より好ましくは4〜30重量%であり、さらに好ましくは5〜20重量%である。
【0015】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、アルコール系溶剤と水が主成分であるため、船体に損傷を与えることなく、船底塗膜を剥離することが可能である。
【0016】
本発明の船底塗膜剥離剤における無機系増粘剤は、チキソトロピー性を付与させるために配合される。無機系増粘剤としては、天然品、合成品のいずれでもよく、シリカ、カオリン鉱物、サーペンチン、タルク、雲母、バーミキュライト、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイトを含む)、ベントナイト、セピオライト、有機クレー、有機ベントナイト等が例示できる。これらの中から、少なくとも1種を含むものであり、2種以上併用してもよい。より好ましくはシリカ、スメクタイト、ベントナイト、有機クレー、有機ベントナイトであり、さらに好ましくはシリカとスメクタイトの併用、シリカとベントナイトの併用、シリカと有機クレーの併用、シリカと有機ベントナイトの併用である。
【0017】
無機系増粘剤は、好ましくは、船底塗膜剥離剤全体の1〜20重量%配合される。これは、チキソトロピー性の観点から1重量%以上が好ましく、スプレー性の観点から20重量%以下が好ましいからである。より好ましくは2〜15重量%であり、さらに好ましくは3〜10重量%である。
【0018】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、無機系増粘剤と有機系増粘剤を併用することも可能である。有機系増粘剤としては、ポリアクリル酸又はその塩、アクリル酸・アクリル酸エステル共重合体又はその塩、アクリル酸・アクリルアミド共重合体又はその塩、オレフィン・マレイン酸共重合体又はその塩、スチレン・マレイン酸共重合体又はその塩、カルボキシメチルセルロース又はその塩等の陰イオン系増粘剤、ポリアクリルアミド、アルキルセルロース、ポリエチレンオキサイド、酸化ポリエチレン等の非イオン系増粘剤が例示できる。これらの中から、少なくとも1種を配合してもよく、2種以上併用してもよい。
【0019】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、キレート剤を配合してもよい。これは、船底塗膜の膨潤・剥離を促進させるためである。キレート剤としては、金属イオンに配位結合する元素(例えば、N、O、P、S)を1分子内に2個以上持つ化合物であり、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はその塩、ニトリロ三酢酸(NTA)又はその塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)又はその塩、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)又はその塩、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)又はその塩、1,3−プロパンジアミン四酢酸(PDTA)又はその塩、1,3−ジアミノ−2−プロパノール四酢酸(DPTA−OH)又はその塩、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)又はその塩、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)グリシン(DHEG)又はその塩、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)又はその塩、L−グルタミン酸二酢酸(CMGA)又はその塩、エチレンジアミンジコハク酸(EDDS)又はその塩、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)又はその塩、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)又はその塩、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)又はその塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)又はその塩、グルコン酸又はその塩、ポリアクリル酸又はその塩、スルホン酸共重合体又はその塩、カルボン酸共重合体又はその塩、ポリマレイン酸又はその塩等が例示できる。これらの中から、少なくとも1種を配合してもよく、2種以上併用してもよい。
【0020】
キレート剤は、船底塗膜剥離剤全体の0.1〜20重量%配合してもよい。これは、船底塗膜の膨潤・剥離性の観点から0.1重量%以上が好ましく、20重量%以下が好ましいからである。より好ましくは0.3〜15重量%であり、さらに好ましくは0.5〜10重量%である。
【0021】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、非プロトン性極性溶媒を配合してもよい。これは、船底塗膜の膨潤・剥離を促進させるためである。非プロトン性極性溶媒としては、アセトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン等が例示できる。これらの中から、少なくとも1種を配合してもよく、2種以上併用してもよい。
【0022】
非プロトン性極性溶媒は、船底塗膜剥離剤全体の0.1〜40重量%配合してもよい。これは、船底塗膜の膨潤・剥離性の観点から0.1重量%以上が好ましく、40重量%以下が好ましいからである。より好ましくは0.3〜30重量%であり、さらに好ましくは0.5〜20重量%である。
【0023】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、pH調整剤を配合してもよい。これは、船底塗膜剥離剤のpH値を調整するためである。pH調整剤の酸性成分としては、塩酸、リン酸等の無機酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸等の有機酸が例示できる。これらの中から、少なくとも1種を配合してもよく、2種以上併用してもよい。また、pH調整剤のアルカリ性成分としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ、モノエタノールアミン、モノイソプロパールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アルカリが例示できる。これらの中から、少なくとも1種を配合してもよく、2種以上併用してもよい。
【0024】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、乾燥防止剤を配合してもよい。これは、船底塗膜剥離剤の乾燥を防ぐためである。乾燥防止剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等が例示できる。これらの中から、少なくとも1種を配合してもよく、2種以上併用してもよい。
【0025】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、従来の剥離剤に配合される各種添加剤を配合してもよい。添加剤としては、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防錆剤、防腐剤、着色剤、香料等が例示できる。
【0026】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、船体への影響を考慮して、pH3〜12が好ましい。より好ましくはpH4〜11であり、さらに好ましくはpH6〜9である。
【0027】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、スプレー性を考慮して、粘度は100〜10000mPa・sが好ましい。より好ましくは300〜8000mPa・sであり、さらに好ましくは500〜6000mPa・sである。
【0028】
本発明の船底塗膜剥離方法においては、船底塗膜に本発明の船底塗膜剥離剤を接触させることができれば、いかなる方法でもよい。接触させる方法としては、ハケ、ローラー、コテバケ、エアスプレー、エアレススプレーの使用等が例示できる。これらの中で、エアレススプレーによる方法は、剥離対象面積が大きい場合に特に有効である。エアレススプレーは、液剤に圧力を加え、液剤を塗布する装置であり、時間あたりの液剤塗布量が多いため、作業性良く剥離作業を行うことができる利点がある。
【0029】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、エアレススプレーによる塗布が可能となる粘性を付与したものである。
【0030】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、チキソトロピー性を示すため、スプレー後の膜厚を自由に設定することができる。膜厚としては、船底塗膜の膨潤・剥離性の観点から50μm以上が好ましく、作業性の観点から5000μm以下が好ましい。より好ましくは75〜4000μmであり、さらに好ましくは100〜3000μmである。
【0031】
本発明の船底塗膜剥離方法においては、船底塗膜に本発明の船底塗膜剥離剤を接触させ、一定時間放置することにより、船底塗膜の膨潤・剥離が進行する。放置時間としては、船底塗膜の膨潤・剥離性の観点から1時間以上が好ましく、作業性の観点から32時間以下が好ましい。より好ましくは2〜28時間であり、さらに好ましくは3〜24時間である。
【0032】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、チキソトロピー性を示すため、放置時に液ダレすることなく、効率良く船底塗膜の膨潤・剥離が進行する。
【0033】
本発明の船底塗膜剥離方法においては、船底塗膜に本発明の船底塗膜剥離剤を接触させ、一定時間放置後、物理的な力を加えて、船底塗膜を剥離させる。剥離させる方法として、ウエス、スクレーパー、高圧水の使用等が例示できる。これらの中で、高圧水による方法は、剥離対象面積が大きい場合に特に有効である。高圧水は、高圧水発生装置で加圧され、ノズルから噴霧される水であり、時間あたりの処理面積が大きいため、作業性良く剥離作業を行うことができる利点がある。
【0034】
本発明の船底塗膜剥離剤においては、アルコール系溶剤と水が主成分であるため、高圧水で剥離を行っても、剥離塗膜は粘着性を示さず、船体周辺に再付着することはない。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0036】
[実施例1〜7]
アルコール系溶剤、水、無機系増粘剤、キレート剤、非プロトン性極性溶媒、pH調整剤を、表1の配合割合として、混合攪拌により船底塗膜剥離剤を作製した。
【0037】
使用した配合成分は、以下の通りである。
アルコール系溶剤1:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(協和発酵ケミカル株式会社製品、ブチセノール20)
アルコール系溶剤2:ジエチレングリコールモノエチルエーテル(株式会社日本触媒製品、シーホゾールDG)
アルコール系溶剤3:ベンジルアルコール(東京応化工業株式会社製品、ベンジルアルコール)
水:水道水
無機系増粘剤1:シリカ(株式会社トクヤマ製品、レオロシールQS−102)
無機系増粘剤2:スメクタイト(クニミネ工業株式会社製品、スメクトンSA)
無機系増粘剤3:有機クレー(ROCKWOOD社製品、GARAMITE1958)
キレート剤:ポリアクリル酸(有効成分40%)(東亞合成株式会社製品、アロンA−10SL)
非プロトン性極性溶媒:N−メチル−2−ピロリドン(三菱化学株式会社製品、N−メチル−2−ピロリドン)
pH調整剤:pH調整剤1とpH調整剤2を適量配合
pH調整剤1:リン酸(有効成分85%)(日本化学工業株式会社製品、リン酸85%)
pH調整剤2:モノイソプロパノールアミン(ダウ・ケミカル日本株式会社製品、モノイソプロパノールアミン)
【0038】
[比較例1〜3]
市販の船底塗膜剥離剤A(水系)、B(乳化系)、C(溶剤系)をそれぞれ比較例1、2、3とした。
【0039】
pHの測定には、pHメーター(株式会社堀場製作所製品、カスタニーLAB pHメーターF−12)とpH電極(株式会社堀場製作所製品、形式9611−10D)を使用した。測定温度は25℃に設定した。
【0040】
粘度の測定には、粘度計(東機産業株式会社製品、BLII形粘度計)を使用した。測定
条件は、ロータNo.4、回転速度60rpm、測定時間1分間とした。測定温度は25℃に設定した。
【0041】
サンドブラスト処理鋼板(寸法:100×300×3.2mm)に、エポキシ系塗料(中国塗料株式会社製品、バンノー500)を乾燥膜厚が150μm、エポキシ系バインダー塗料(中国塗料株式会社製品、バンノー500N)を乾燥膜厚が100μmとなるように、この順序で1日毎に塗装した。続いて、該エポキシ系バインダー塗膜の表面に、船底防汚塗料(中国塗料株式会社製品、ニューマリンゴールド)を1回の乾燥膜厚が300μmとなるように、塗装間隔1日で4回塗装し、23℃で7日間乾燥後、中国塗料株式会社(場所:広島県大竹市)の敷地内に設置されている屋外暴露試験台にて6ヶ月間暴露し、試験板を作製した。塗装には、エアスプレー(アネスト岩田株式会社製品、形式W−77−2G)を使用した。
【0042】
常温下、エアレススプレー(グラコ株式会社製品、型式253−958)により、膜厚が1500μmとなるように、垂直面の鋼板上(寸法:150×200cm)に剥離剤を塗布し、24時間放置した。この時のスプレー性を2段階で評価した(○:塗布可、×:塗布不可)。また、形状保持性を3段階で評価した(○:液ダレなし、△:僅かに液ダレあり、×:液ダレあり)。
【0043】
常温下、エアレススプレー(グラコ株式会社製品、型式253−958)により、膜厚が1500μmとなるように、作製した試験板に剥離剤を塗布し、16時間放置後、高圧水(ケルヒャージャパン株式会社製品、K2.010)により塗膜を剥離した。この時の剥離性を4段階で評価した(◎:容易に完全剥離、○:完全剥離、△:僅かに残存塗膜あり、×:剥離不可)。また、剥離塗膜の状態を2段階で評価した(○:粘着性なし、×:粘着性あり)。
【0044】
FRP板(TP技研株式会社製品、FRP片面ゲルコート板、寸法:25×50×2.0mm)又はアルミ板(日本タクト株式会社製品、A1050P、寸法:25×50×0.8mm)に薬さじで剥離剤1.0gを塗布し、均一に広げて、40℃恒温槽中で24時間放置後、剥離剤を水洗除去した。この時の材質影響を3段階で評価した(○:影響なし、△:僅かに影響あり、×:影響あり)。

【0045】
【表1】

【0046】
実施例1〜7の全てにおいて、エアレススプレーによる塗布が可能であった。実施例1と2は僅かに液ダレしたが、実施例1〜7の全てにおいて、形状保持性は良好であった。実施例1は残存塗膜が僅かにあったが、実施例2〜7は完全剥離が可能であった。特に、実施例6と7は容易に完全剥離した。実施例1〜7の全てにおいて、材質への影響はなかった。
【0047】
比較例1はエアレススプレーによる塗布が不可であった。比較例2は剥離塗膜に粘着性があり、FRPに対して僅かに影響があった。比較例3は僅かに液ダレがあり、また、放置時に溶剤が揮発したために塗膜の再硬化が起こり、剥離が不可であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により、船体の材質を損傷させることなく、船底塗膜を作業性良く剥離することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール系溶剤、水、無機系増粘剤を含有する船底塗膜剥離剤。
【請求項2】
キレート剤を含有する請求項1記載の船底塗膜剥離剤。
【請求項3】
非プロトン性極性溶媒を含有する請求項1又は2記載の船底塗膜剥離剤。
【請求項4】
エアレススプレーにより、請求項1〜3のいずれかに記載の船底塗膜剥離剤を塗布し、一定時間放置後、高圧水により船底塗膜を剥離する方法。

【公開番号】特開2013−91677(P2013−91677A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232731(P2011−232731)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(592007612)横浜油脂工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】